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  • 特許-超高張力二相鋼およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】超高張力二相鋼およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240729BHJP
   C22C 38/14 20060101ALI20240729BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
C22C38/00 301U
C22C38/14
C21D9/46 F
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022572701
(86)(22)【出願日】2021-05-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-28
(86)【国際出願番号】 CN2021095807
(87)【国際公開番号】W WO2021238916
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】202010459510.0
(32)【優先日】2020-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 偉
(72)【発明者】
【氏名】朱 曉 東
(72)【発明者】
【氏名】薛 鵬
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/062380(WO,A1)
【文献】特開2012-012642(JP,A)
【文献】特表2019-504195(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0085396(KR,A)
【文献】国際公開第2015/093043(WO,A1)
【文献】特開2010-229514(JP,A)
【文献】特開2014-005514(JP,A)
【文献】特開2014-008513(JP,A)
【文献】特開2020-111770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高張力二相鋼の鋼板であって、基体組織がフェライト+マルテンサイトであり、前記フェライトが前記マルテンサイト内で島状に均一分布し、前記マルテンサイトの相比例>90%であり、前記超高張力二相鋼における化学元素の質量パーセントが、
C:0.12-0.2%、Si:0.5-1.0%、Mn:2.5-3.0%、Al:0.02-0.05%、Nb:0.02-0.05%、Ti:0.02-0.05%、B:0.001%-0.003%であり、残りがFeとその他の避けられない不純物であり、CrおよびMoを含まない、鋼板
【請求項2】
前記避けられない不純物は、P、SとNを含み、その含有量が、以下の各項の少なくとも一つとする、請求項に記載の鋼板:P≦0.01%、S≦0.002%、N≦0.004%。
【請求項3】
各化学元素が、下記各項の少なくとも一つを満たす、請求項1または請求項2に記載の鋼板
C:0.14-0.18%、
Mn:2.5-2.8%。
【請求項4】
前記マルテンサイトは、整合分布のε炭化物を含有する、請求項1-3のいずれ一項に記載の鋼板
【請求項5】
記各項の少なくとも一つの特性を満たす、請求項1-3のいずれ一項に記載の鋼板:降伏強度≧900MPa、引張強度≧1300MPa、破断伸び率≧5%、初期水素含有量≦10ppm。
【請求項6】
記各項の少なくとも一つの特性を満たす、請求項1-3のいずれ一項に記載の鋼板:降伏強度≧930MPa、引張強度≧1320MPa、破断伸び率≧5.5%、初期水素含有量≦7ppm。
【請求項7】
前記超高張力二相鋼の降伏比が0.70-0.75である、請求項1-3のいずれ一項に記載の鋼板
【請求項8】
以下のステップを含む、請求項1-のいずれ一項に記載の鋼板の製造方法:
(1)製錬および連続鋳造;
(2)熱間圧延、熱間圧延では鋳造スラブを1220~1260℃の温度で均熱する;そして圧延を行い、仕上げ圧延温度を880~920℃とし、圧延の後に20~70℃/sの速度で冷却する;そして卷取を行い、卷取温度を600~650℃とし、卷取の後に保温処理を行う
(3)冷間圧延;
(4)焼鈍:3-10℃/sの加熱速度で昇温し、焼鈍均熱温度を800~850℃とし、焼鈍時間を40~200sとし、そして30~80℃/sの速度で260~320℃の焼き戻し温度まで急速に冷却し、急速冷却の開始温度を670~730℃とする;
(5)焼き戻し:焼き戻し温度を260~320℃とし、焼き戻し時間を100~400sとする;
(6)調質圧延
(7)電気めっき。
【請求項9】
ステップ(1)では、連続鋳造過程において、連続鋳造の引張速度を0.9-1.5m/minとする、請求項に記載の製造方法。
【請求項10】
ステップ(3)では、冷間圧延圧下率を45~65%とする、請求項に記載の製造方法。
【請求項11】
ステップ(6)では、調質圧延の圧下率≦0.3%とする;および/または、ステップ(7)では、両面で亜鉛電気めっきを行い、片面めっき層の重量を10-100g/mとする、請求項に記載の製造方法。
【請求項12】
ステップ(2)では、鋳造スラブを1220~1250℃の温度で均熱し、卷取温度を605~645℃とする;ステップ(4)では、焼鈍均熱温度を805~845℃とする;ステップ(5)では、焼き戻し温度を260~310℃とし、焼き戻し時間を100~300sとする、請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料およびその製造方法、特に二相鋼およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車工業において、軽量化や重量低減、安全性への需要から、より高い強度を有する鋼板への需求量が増えている。二相鋼は、生産コストが低く、製造性が高いと同時に、低い降伏強度、高い引張強度および高い初期加工硬化速度などの優れた性能を有し、自動車部品において広く利用されている。
【0003】
現在、市販で求められる強度レベルは、主に80キロや100キロ級であり、現在の最高強度レベルが1180DP番で、その引張強度が1200MPa以上であり、降伏強度が約850MPaであり、全伸び率が約10%である。冷間圧延二相鋼の生産には臨界領域連続焼鈍プロセスが採用され、その引張強度は焼鈍組織中のマルテンサイト分率で決められる。マルテンサイト分率が高ければ、引張強度も高くなるため、より高いマルテンサイト分率を形成するために、生産時には高い焼鈍温度が求められる。現在、商業生産される二相鋼の最高強度レベルは1180MPaであり、それがDP1180鋼である。
【0004】
中国特許文献(特許公開CN109504930A、開示日2019年3月22日、題名「引張強度が1300MPaを超える熱亜鉛めっき鋼板およびその生産方法」)は、引張強度が1300MPaを超える熱亜鉛めっき鋼板およびその生産方法を開示しており、前記熱亜鉛めっき鋼板基板の化学成分組成およびその質量パーセント含有量が、以下の通りである:C:0.1~0.2%、Mn:1.3~2.0%、S≦0.005%、P≦0.02%、Si:0.2~0.3%、Als:0.4~1.0%、Nb:0.01~0.03%、Ti:0.04~0.08%、B:0.001~0.004%、Mo:0.2~0.3%、Cr:0.05~0.10%、V:0.01~0.02%、残りがFeおよび避けられない不純物である。前記板スラブ加熱工程において、加熱温度が1200~1320℃、加熱時間が120~200minである;前記熱間圧延工程において、粗圧延を3~7パス行う;仕上げ圧延の入口温度が1020~1080℃であり、仕上げ圧延温度が820~880℃である;卷取温度が550~650℃である;前記生産方法は、板スラブの加熱、熱間圧延、酸圧延、連続熱亜鉛めっき、レべリングおよび不動態化工程を含む;前記連続熱亜鉛めっき工程において、均熱温度が760~840℃であり、保温時間が100~200sであり、徐冷温度が680~740℃であり、徐冷冷却速度が10~20℃/sであり、急冷温度が420~450℃であり、急冷冷却速度が35~65℃/sであり、亜鉛めっき温度が458~462℃であり、亜鉛めっき時間が5~15sである。
【0005】
中国特許文献(特許公開CN108486494A、開示日2018年9月4日、題名「バナジウム微合金化1300MPa級高張力熱間圧延鋼板および冷間圧延二相鋼板の生産方法」)は、以下の化学成分を有する、バナジウム微合金化1300MPa級高張力熱間圧延鋼板および冷間圧延二相鋼板の生産方法を開示した:0.10-0.30wt%C、1.50-4.50wt%Mn、0.00-0.120wt%Al、0.00-0.90wt%Si、0.05-0.50%V、P≦0.020wt%、S≦0.02wt%、Fe:残り。この高張力鋼は、ナノ炭化バナジウム粒子による析出強化とマルテンサイトによる相変態強化を結合することで、従来の二相鋼の強度を顕著に高め、同時に高い生産效率を保つことができる。
【0006】
中国特許文献(特許公開CN109628846A、開示日2019年4月16日、題名「1300MPa級自動車用超高強度冷間圧延鋼板およびその生産方法」)は、以下の化学成分を有する、熱成形鋼板および製造方法を開示した:C:0.1~0.2%、Mn:1.3~2.0%、S≦0.005%、P≦0.02%、Si:0.2~0.3%、Als:0.4~1.0%、Nb:0.01~0.03%、Ti:0.04~0.08%、B:0.001~0.004%、Mo:0.2~0.3%、Cr:0.05~0.10%、V:0.01~0.02%、Fe:残り。前記生産方法は、製鋼、連続鋳造、熱間圧延、酸圧延、連続焼鈍、テンパーテンションレベラ工程を含む;前記熱間圧延工程において、板スラブの加熱温度≧1200℃、粗圧延を3~7パス行い、粗圧延後の中間スラブの厚さが28~40mmであり、仕上げ圧延の入口温度が1020~1100℃であり、仕上げ圧延温度が820~900℃であり、卷取温度が550~650℃である;前記酸圧延工程において、酸洗いの後に冷間圧延を行い、冷間圧延圧下率≧45%;前記連続焼鈍工程において、均熱段階での保温温度が760~840℃であり、保温時間が60~225sである;過時効段階での保温温度が250~320℃であり、過時効段階での保温時間が300~1225sである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、従来の特許文献による製品において、引張強度レベルが1300MPa以上である主要製品は、主に亜鉛めっきが採用されており、そして一部の特許では高Siや高Alが含有されるため、表面品質および生産や製造には不利である。一部の特許技術には、Cr、Moなどの貴合金元素が多く含有されるため、生産コストが高い。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一つの目的は、超高張力二相鋼の提供である。この超高張力二相鋼は、合理的な化学元素の成分設計で、中Si低Alの設計の採用により、SiやAlなどの合金元素の使用が減少し、高Siによる表面品質および高Alによる板スラブ欠陥などの問題が避けられる。
【0009】
また、本発明の超高張力二相鋼において、CrやMoなどの貴合金元素が採用されていないため、合金コストが有効に抑えられ、同時に不純物元素Pの含有量、Sの含有量が低減するため、性能の向上や遅れ破壊の改善には有利である。この超高張力二相鋼は、降伏強度≧900MPa、好ましくは≧930MPa、引張強度≧1300MPa、好ましくは≧1320MPa、破断伸び率≧5%、好ましくは≧5.5%、初期水素含有量≦10ppm、好ましくは≦7ppm;プレストレスが引張強度の1倍以上である場合では、1mol/Lの塩酸に300時間浸しても、遅れ破壊が発生しなく、好ましくは、プレストレスが引張強度の1.2倍である場合でも、1mol/Lの塩酸に300時間浸しても、遅れ破壊が発生しないため、自動車安全構造件の製造に適用し、良好な汎用価値や展望を有する。
【0010】
上述の目的を実現するために、本発明は、基体組織がフェライト+マルテンサイトであり、フェライトとマルテンサイトが島状に均一分布し、超高張力二相鋼が、Feに加え、以下の質量パーセントで下記化学元素を含有する、超高張力二相鋼を提供する:
C:0.12-0.2%、Si:0.5-1.0%、Mn:2.5-3.0%、Al:0.02-0.05%、Nb:0.02-0.05%、Ti:0.02-0.05%、B:0.001%-0.003%。
【0011】
さらに、本発明による超高張力二相鋼において、各化学元素の質量パーセントは:
C:0.12-0.2%、Si:0.5-1.0%、Mn:2.5-3.0%、Al:0.02-0.05%、Nb:0.02-0.05%、Ti:0.02-0.05%、B:0.001%-0.003%、残りがFeおよびその他の避けられない不純物である。
【0012】
本発明による超高張力二相鋼において、各化学元素の設計原理は以下の通りである:
C:本発明による超高張力二相鋼において、Cは固溶強化元素であり、材料の高強度の基礎である。ただし、注意しなければならないが、鋼中にC含有量が高いほど、マルテンサイトが硬くなり、遅れ破壊の発生傾向が大きくなる。そのため、製品設計時に、できるだけ低炭素の設計にすべく、本発明による超高張力二相鋼において、Cの質量パーセントは、0.12-0.2%とする。
【0013】
好ましい実施形態では、Cの質量パーセントは、0.14-0.18%にしてもいい。
Si:本発明による超高張力二相鋼において、Siは鋼中で伸び率を高める効果を有する。Siは、鋼の組織に対しても大きな影響を有し、フェライトの純化や残りのオーステナイトの形成を促進できる。同時に、マルテンサイトの耐焼き戻し性能が高められ、FeCの析出および成長が抑制できるため、焼き戻し時に形成する析出物を主にε炭化物にすることができる。ただし、注意しなければならないが、鋼中でのSiの質量パーセントが0.5%未満であると、鋼の伸び率および耐焼き戻し性能に影響が出て、そしてSiの質量パーセントが1.0%を超えると、その他の冶金品質欠陥が出る場合がある。したがって、本発明による超高張力二相鋼において、Siの質量パーセントは、0.5-1.0%とする。
【0014】
Mn:本発明による超高張力二相鋼において、Mnはオーステナイトの焼入れ性を強烈に高める元素であり、より多くのマルテンサイトを形成することによって、鋼の強度を有効に高めることができる。したがって、本発明による超高張力二相鋼において、Mnの質量パーセントは、2.5-3.0%とする。
【0015】
好ましい実施形態では、Mnの質量パーセントは、2.5-2.8%にしてもいい。
Al:本発明による超高張力二相鋼において、Alは脱酸素元素であり、鋼中において脱酸素の効果や結晶粒微細化の効果を有する。したがって、本発明による超高張力二相鋼において、Alの質量パーセントは、0.02-0.05%とする。
【0016】
NbとTi:本発明による超高張力二相鋼において、NbとTiは炭素窒素化物の析出元素として、結晶粒を微細化させ、炭素窒素化物を析出させ、材料の強度を高めることができるため、単独添加もしくは混合添加されてもいい。ただし、注意しなければならないが、鋼中でのNbまたはTiの質量パーセント含有量が0.05%を超えると、強化効果が顕著でなくなる。したがって、本発明による超高張力二相鋼において、Nbの質量パーセントは、0.02-0.05%とし、Tiの質量パーセントは、0.02-0.05%とする。
【0017】
B:本発明による超高張力二相鋼において、Bは強焼入れ性元素であるため、適量のBは鋼の焼入れ性を高め、マルテンサイトの形成を促進することができる。したがって、本発明による超高張力二相鋼において、Bの質量パーセントは、0.001%-0.003%とする。
【0018】
さらに、本発明による超高張力二相鋼において、避けられない不純物は、P、SとNを含み、その含有量は、下記各項の少なくとも一つとする:P≦0.01%、S≦0.002%、N≦0.004%。
【0019】
上述技術案では、本発明による超高張力二相鋼において、P、SとNはいずれも鋼中における避けられない不純物元素であり、鋼中でのP、SとNの含有量が低ければ低いほど良い。SはMnS介在物を形成しやすく、穴広げ率に強く影響する;Pは鋼の靱性を低減し、遅れ破壊には不利である;鋼中のN含有量が高すぎると、板スラブの表面で割れ目が生じやすく、鋼の性能に大きく影響される。したがって、本発明による超高張力二相鋼において、Pの質量パーセントをP≦0.01%とし、Sの質量パーセントをS≦0.002%とし、Nの質量パーセントをN≦0.004%とする。
【0020】
さらに、本発明による超高張力二相鋼において、各化学元素の質量パーセント含有量は、下記各項の少なくとも一つを満たす:
C:0.14-0.18%、
Mn:2.5-2.8%。
【0021】
さらに、本発明による超高張力二相鋼において、前記マルテンサイトの相比例(体積比)>90%。
【0022】
さらに、本発明による超高張力二相鋼において、前記マルテンサイトは整合分布のε炭化物を含有する。
【0023】
さらに、本発明による超高張力二相鋼において、その性能が、下記各項の少なくとも一つを満たす:降伏強度≧900MPa、引張強度≧1300MPa、破断伸び率≧5%、初期水素含有量≦10ppm;プレストレスが引張強度の1.0倍以上である場合、1mol/Lの塩酸に300時間浸しても、遅れ破壊が発生しない。
【0024】
さらに、本発明による超高張力二相鋼において、その性能が、下記各項の少なくとも一つを満たす:降伏強度≧930MPa、引張強度≧1320MPa、破断伸び率≧5.5%、初期水素含有量≦7ppm;プレストレスが引張強度の1.2倍以上である場合、1mol/Lの塩酸に300時間浸しても、遅れ破壊が発生しない。
【0025】
好ましくは、本発明による超高張力二相鋼において、降伏強度≧930MPa、引張強度≧1320MPa、破断伸び率≧5.5%、初期水素含有量≦7ppm;プレストレスが引張強度の1.2倍以上である場合、1mol/Lの塩酸に300時間浸しても、遅れ破壊が発生しない。
【0026】
これに対し、本発明のもう一つ目的は、超高張力二相鋼の製造方法の提供である。この製造方法で得られる超高張力二相鋼は、降伏強度≧900MPa、引張強度≧1300MPa、破断伸び率≧5%、初期水素含有量≦10ppm;プレストレスが引張強度の1倍以上である場合、1mol/Lの塩酸に300時間を浸しても、遅れ破壊が発生しないため、自動車安全構造件の製造に有効に適用し、良好な汎用価値や展望を有する。
【0027】
上述の目的を実現するために、本発明は、以下のステップを含む上記超高張力二相鋼の製造方法を提供する:
(1)製錬および連続鋳造;
(2)熱間圧延;
(3)冷間圧延;
(4)焼鈍:3-10℃/sの加熱速度で昇温し、焼鈍均熱温度を800~850℃、好ましくは805~845℃とし、焼鈍時間を40~200sとし、その後30~80℃/sの速度で急速に冷却し、急速冷却の開始温度を670~730℃とする;
(5)焼き戻し:焼き戻し温度を260~320℃、好ましくは260~310℃とし、焼き戻し時間を100~400s、好ましくは100-300sとする;
(6)テンパー;
(7)亜鉛電気めっき。
【0028】
焼鈍は、高温均熱+中温焼き戻しという組み合わせ方式を採用する。高温均熱により、オーステナイト転化が多く発生するため、その後の急速冷却時にはより多くのマルテンサイトが得られ、最終的に焼き戻しの前により高い強度が確保される。中温焼き戻しにより、材料の降伏強度比が適切になり、同時により良い遅れ破壊の改善効果が得られる。好ましい実施形態では、本発明による超高張力二相鋼は、降伏強度比が0.70-0.75である。
【0029】
本発明による超高張力二相鋼の製造方法において、連続焼鈍の後に、中低温焼き戻し処理を採用し、関連のプロセスパラメータを制御することで、焼き戻し時に、マルテンサイトから均一、微細、分散的な整合型ε炭化物を析出させやすく、また中低温長時間焼き戻し方式は、鋼板中における過剰の水素を最大限に除去し、それを鋼板外に拡散させ、鋼板の初期状態での水素含有量を減少させることができる。マルテンサイトの硬度減少や鋼板内部での水素拡散に有利だけでなく、鋼の力学性能および遅れ破壊性能にもとても有利である。
【0030】
さらに、本発明による製造方法において、ステップ(1)では、連続鋳造過程における連続鋳造の引張速度を0.9-1.5m/minとする。
【0031】
上述技術案では、本発明による製造方法において、ステップ(1)では、急速冷却し、偏析をできるだけ低減させるため、連続鋳造は大水量二次冷却モードによって行ってもいい。
【0032】
さらに、本発明による製造方法において、ステップ(2)では、鋳造スラブを1220~1260℃、好ましくは1220~1250℃の温度で均熱する;その後、圧延を行い、仕上げ圧延温度を880~920℃とし、圧延の後に20~70℃/sの速度で冷却する;その後、卷取を行い、卷取温度を600~650℃、好ましくは605~645℃とし、卷取の後に保温処理を行う。好ましくは、卷取後に保温処理を行い、1-5時間保温する。
【0033】
本発明による超高張力二相鋼の製造方法において、上記ステップ(2)では、圧延負荷を安定に保つため、加熱温度を1220℃以上とし、また酸化燃焼損失の増大を防ぐため、加熱温度の上限を1260℃とする。したがって、最終的に、鋳造スラブを1220~1260℃の温度下で均熱する。
【0034】
さらに、本発明による製造方法において、ステップ(3)における冷間圧延圧下率を45~65%とする。
【0035】
上述技術案では、上記ステップ(3)において、冷間圧延圧下率を45~65%とする。冷間圧延の前に、酸洗いで鋼板表面における酸化鉄皮膜を除去してもいい。
【0036】
さらに、本発明による製造方法において、ステップ(6)におけるテンパー圧下率≦0.3%とする。
【0037】
本発明の上述技術案では、上記ステップ(6)において、鋼板のテンパー度を保つため、一定のテンパー量が必要とされるが、過大のテンパー量は鋼の降伏強度を大きく上昇させる場合がある。したがって、本発明による製造方法において、テンパー圧下率≦0.3%とする。
【0038】
本発明の上述技術案では、通常の亜鉛電気めっき法で上記ステップ(7)を実施してもいい。好ましくは、両面めっきを行い、片面のめっき層重量を10-100g/mとする。
【0039】
本発明による超高張力二相鋼およびその製造方法は、従来技術と比較して、以下の利点及び有益な効果を有する:
本発明による超高張力二相鋼は、合理的な成分設計が採用され、中Si低Alの設計が採用されるため、Si、Alなどの合金元素の使用が減少し、高Siによる表面品質および高Alによる板スラブ欠陥などの問題が防がれる。また、鋼中にはCr、Moなどの貴合金元素が含まれないため、合金含有量が少なく、製造性が良く、経済性が良好で、合金コストが有効に抑えられる。この超高張力二相鋼は、降伏強度≧900MPa、引張強度≧1300MPa、破断伸び率≧5%、初期水素含有量≦10ppm;プレストレスが引張強度の一倍以上である場合、1mol/Lの塩酸に300時間浸しても、遅れ破壊が発生しないため、自動車安全構造件の製造に適用し、良好な汎用価値や展望を有する。
【0040】
また、本発明による製造方法において、連続焼鈍の後に、中低温焼き戻し処理を採用し、関連のプロセスパラメータを制御することで、焼き戻し時に、マルテンサイトから均一、微細、分散的な整合型ε炭化物を析出させやすく、また中低温長時間焼き戻し方式は、鋼板中における過剰の水素を最大限に除去し、それを鋼板外に拡散させ、鋼板の初期状態での水素含有量を減少させることができる。マルテンサイトの硬度および鋼板内部の水素拡散に有利だけでなく、鋼の力学性能および遅れ破壊性能にもとても有利であり、作製される超高張力二相鋼は、優れた力学性能、優れた耐遅れ破壊性および低い初期水素含有量の特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は実施例1の冷間圧延焼鈍二相鋼の組織を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下では、具体的な実施例に基づき、本発明による超高張力二相鋼およびその製造方法をさらに詳しく説明するが、その説明は本発明の技術案を限定するものではない。
【0043】
実施例1-7および比較例1-14
表1は、実施例1-7の超高張力二相鋼および比較例1-14の鋼に対応する鋼種における各化学元素の質量パーセントを示す。
【0044】
【表1】
【0045】
本発明による実施例1-7の超高張力二相鋼および比較例1-14の鋼は、いずれも以下のステップで作製された:
(1)製錬と連続鋳造:連続鋳造過程において、連続鋳造の引張速度を0.9-1.5m/minとし、大水量二次冷却モードで急速冷却を行った;
(2)熱間圧延:鋳造スラブを1220~1260℃の温度で均熱した;その後圧延を行い、仕上げ圧延温度を880~920℃とし、圧延後に20~70℃/sの速度で冷却した;その後卷取を行い、卷取温度を600~650℃とし、卷取後に保温カバーで保温処理を行った;
(3)冷間圧延:冷間圧延圧下率を45~65%とした;
(4)焼鈍:3-10℃/sの加熱速度で昇温し、焼鈍均熱温度を800~850℃とし、焼鈍時間を40~200sとし、そして30~80℃/sの速度で急速に冷却し、急速冷却の開始温度を670~730℃とした;
(5)焼き戻し:焼き戻し温度を260~320℃とし、焼き戻し時間を100~400sとした;
(6)テンパー:テンパー圧下率≦0.3%とした;
(7)両面亜鉛電気めっき、片面のめっき層重量を10-100g/mとした。
【0046】
説明しなければならないが、実施例1-7の超高張力二相鋼の化学成分および関連のプロセスパラメータは、いずれも本発明の設計規範の制限要求を満たしている。比較例1-6の鋼の化学成分は、いずれも本発明に設計される要求のパラメータを満たさない;比較例7-14に対応するN鋼種の化学成分は、本発明の設計要求を満たすものの、関連のプロセスパラメータはいずれも本発明の設計規範のパラメータを満たさない。
【0047】
表2-1と表2-2は、実施例1-7の超高張力二相鋼および比較例1-14の鋼の具体的なプロセスパラメータを示す。
【0048】
【表2-1】
【0049】
【表2-2】
【0050】
実施例1-7の超高張力二相鋼および比較例1-14の鋼に対し各性能測定を行い、得られる測定結果を表3に示す。
【0051】
性能測定方法は、GB/T13239-2006金属材料低温引張試験方法に基づき、標準サンプルを作製し、引張試験機で静的引張を行い、得られた相応の応力-ひずみ曲線に対しデータ処理を行い、最終的に降伏強度、引張強度と破断伸び率パラメータを得た。
【0052】
水素含有量の測定方法:サンプルを一定の温度に加熱し、水素分析器で温度変化(上昇)に伴って放出される水素の濃度を測定し、鋼中の初期水素含有量を判断する。
【0053】
表3は、実施例1-7の超高張力二相鋼および比較例1-14の鋼の性能測定結果を示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表3からわかるように、本発明によれば、1300Mpa以上の強度を有する高張力鋼を製造できる。本発明の各実施例では、降伏強度がいずれも≧900MPa、引張強度がいずれも≧1300MPa、破断伸び率がいずれも≧5%、初期水素含有量がいずれも≦10ppm。各実施例の超高張力二相鋼は、いずれも超高強度および同レベルのほかの比較鋼種より明らかに優れた遅れ破壊性能を有し、プレストレスが引張強度の1.0倍以上である場合でも、1mol/Lの塩酸に300時間を浸しても遅れ破壊が発生しない。各実施例の超高張力二相鋼は、十分優れた性能を有するため、自動車安全構造件の製造に適用し、良好な汎用価値および展望を有する。
【0056】
説明しなければならないが、本発明の保護範囲中における従来技術の部分は、本願に提供される実施例に限定するものではなく、先行特許文献、先行開示出版物、先行開示応用などを含むがそれらに限らない本発明の技術案に矛盾しない技術案は、いずれも本発明の保護範囲に収まる。また、本願における各技術特徴の組み合わせ方式は、本願請求項に記載の組み合わせ方式もしくは具体的な実施例に記載の組み合わせ方式に限定するものではなく、本願に記載の全ての技術特徴は、お互いに矛盾しない限り、いかなる方式で自由に組み合わせもしくは結合してもいい。
【0057】
さらに、注意しなければならないが、以上に挙げられた実施例は、本発明の具体的な実施例でしかない。本発明は以上の実施例に限定されなく、当業者は、その類似変化や変形を、本発明の開示内容から直接得られ、もしくは容易に想到できるため、本発明の保護範囲に属すことは、言うまでもない。
図1