(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】含油排水のろ過装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20240729BHJP
B01D 65/04 20060101ALI20240729BHJP
B01D 65/08 20060101ALI20240729BHJP
B01D 35/22 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
C02F1/44 F
B01D65/04
B01D65/08
B01D35/22
(21)【出願番号】P 2023039784
(22)【出願日】2023-03-14
(62)【分割の表示】P 2018229801の分割
【原出願日】2018-12-07
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】瀧口 佳介
(72)【発明者】
【氏名】余田 充
(72)【発明者】
【氏名】金井 修
(72)【発明者】
【氏名】笹島 康宏
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-089853(JP,A)
【文献】特開2003-093803(JP,A)
【文献】実開昭56-034505(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 17/00-022
B01D 35/22
B01D 61/00-22
B01D 65/00-10
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含油排水が導入される膜浸漬槽と、
前記膜浸漬槽に導入される含油排水に浸漬され、前記含油排水をろ過するろ過膜装置と、
前記膜浸漬槽に設けられ、前記膜浸漬槽に導入される前記含油排水を攪拌する攪拌機と、
前記膜浸漬槽に接続され、前記膜浸漬槽からの含油廃液を排出するためのドレンラインと、
前記ドレンラインに接続され、前記含油廃液を貯留する廃液貯槽と、
前記ドレンラインに設けられ、前記含油廃液を前記廃液貯槽に移送するドレンポンプと、
前記ドレンラインの前記ドレンポンプの下流から分岐して前記膜浸漬槽に接続され、前記含油廃液を循環させる循環ラインと、
を有するろ過装置。
【請求項2】
前記攪拌機は回転軸と前記回転軸に固定された攪拌翼とを有し、前記ろ過膜装置は各々が複数のろ過膜を備えた複数のろ過膜モジュールを有し、各ろ過膜モジュールは前記含油排水の液面と平行な平面において、前記攪拌機の前記回転軸の同心円上の互いに異なる位置を起点とし、前記同心円から離れる向きに延びる長軸を有する、請求項
1に記載のろ過装置。
【請求項3】
各ろ過膜モジュールの前記長軸の延長線は前記攪拌機の前記回転軸の中心を通る、請求項
2に記載のろ過装置。
【請求項4】
各ろ過膜モジュールの前記長軸の延長線は、前記同心円と同心で且つ前記同心円より径の小さい他の同心円に接する、請求項
2に記載のろ過装置。
【請求項5】
各ろ過膜モジュールは、前記長軸の上で互いに間隔をおいて、複数のサブモジュールに分割されている、請求項2から4のいずれか1項に記載のろ過装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は含油排水のろ過装置に関し、特に膜浸漬型のろ過装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
含油排水をろ過して減量化する技術が知られている。含油排水の一例として、船舶の排ガススクラバから排出されるスクラバ排水が挙げられる。排ガススクラバは、船舶に搭載されるディーゼルエンジンの排ガスに含まれる硫黄酸化物(SOx)を除去する装置である。排ガススクラバにはいくつかの種類があるが、その一つとして水洗浄式が知られている。水洗浄式の排ガススクラバでは、ディーゼルエンジンの排ガスに洗浄水を噴霧し、噴霧された洗浄水を排ガスと気液接触させ、SOxを吸収して除去する。スクラバ排水はSOxの他、排ガスに含まれている煤塵などの微細粒状体、油分、芳香族炭化水素等を含む。スクラバ排水は例えばろ過膜によって浄化することができる。
【0003】
含油排水は高粘度である場合があり、ろ過膜でろ過を行うと、膜面に油分と懸濁物質から構成される含油固形物(ケーキともいう)が付着することがある。含油固形物は徐々に圧密され膜閉塞が進行するため、膜面への含油固形物の付着を抑制することが望まれている。従来、含油排水のろ過にはモジュール型のろ過膜が使われることもあるが、膜モジュール内部及び膜モジュールと容器との間の空間が含油固形物で閉塞しやすく、安定的な運転ができない場合がある。このため、ろ過膜を浸漬槽に浸漬した膜浸漬型のろ過装置が含油排水のろ過に使用されることがある。特許文献1には、中空糸膜モジュールを浸漬させた浸漬槽の上流に、含油排水の油分を浮上分離させる分離層を設ける方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された方法は浸漬槽を用いるため、モジュール型のろ過膜と比べて含油固形物が付着する可能性は少ない。しかし、高粘度の含油排水を用いる場合、浸漬槽の壁面やろ過膜の膜面への含油固形物の付着を抑制することは依然として困難である。また、浸漬槽とは別に分離槽を設けるため、設置面積やコストの観点から改善の余地がある。
【0006】
本発明はコンパクトでかつ含油固形物が付着しにくい、含油排水のろ過装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の含油排水のろ過装置は、含油排水が導入される膜浸漬槽と、膜浸漬槽に導入される含油排水に浸漬され、含油排水をろ過するろ過膜装置と、膜浸漬槽に設けられ、膜浸漬槽に導入される含油排水を攪拌する攪拌機と、膜浸漬槽に接続され、膜浸漬槽からの含油廃液を排出するためのドレンラインと、ドレンラインに接続され、含油廃液を貯留する廃液貯槽と、ドレンラインに設けられ、含油廃液を廃液貯槽に移送するドレンポンプと、ドレンラインのドレンポンプの下流から分岐して膜浸漬槽に接続され、含油廃液を循環させる循環ラインと、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、膜浸漬槽に設けられた攪拌機によって膜浸漬槽に導入された含油排水が攪拌されるため、コンパクトでかつ含油固形物が付着しにくい、含油排水のろ過装置を提供することできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るろ過装置の概略構成図である。
【
図2】
図1に示すろ過装置の膜浸漬槽の上面図である。
【
図3】ろ過膜モジュールの側面図及び断面図である。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係るろ過装置の膜浸漬槽の上面図である。
【
図5】本発明の第3の実施形態に係るろ過装置の概略構成図である。
【
図6】セラミック膜の概略構造を示す斜視図である。
【
図7】本発明の第4の実施形態に係るろ過装置の概略構成図である。
【
図8】本発明の第4の実施形態に係るろ過装置の変形例の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明のいくつかの実施形態について説明する。本発明は含油排水をろ過するろ過装置に適用される。含油排水としては船舶の排ガススクラバ(図示せず)から排出されるスクラバ排水の他、食品工場から排出される油かすを含んだ廃液などが挙げられ、本発明は油分を含む液体に広く適用することができる。スクラバ排水は油分のほか懸濁物質(SS)も含んでいる。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るろ過装置1の概略構成図を示している。含油排水のろ過装置1は、含油排水が導入される膜浸漬槽2と、膜浸漬槽2に収容されたろ過膜装置3と、膜浸漬槽2に含油排水を供給する含油排水供給ライン4と、含油排水のろ過水を吸引する吸引手段5と、吸引されたろ過水を貯蔵するろ過水タンク6と、を有している。
【0012】
膜浸漬槽2は概ね円筒形状、すなわち含油排水の液面と平行な平面Pにおいて円形形状を有している。膜浸漬槽2はろ過膜装置3の設置スペースよりも十分に大きな容積を有し、膜浸漬槽2とろ過膜装置3との間の空間が含油固形物で閉塞されることが防止される。また、含油固形物の付着を抑えるため、膜浸漬槽2はステンレス鋼などの材料で形成し、及び/または内面にポリエチレンライニングを施すことが好ましい。膜浸漬槽2は、PE(ポリエチレン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)またはセラミックで形成することも好ましい。水流の複雑化のため、膜浸漬槽2の側面に凹凸、リブ、邪魔板(バッフル)などを設けてもよい。
【0013】
ろ過膜装置3は膜浸漬槽2に導入される含油排水に浸漬され、含油排水をろ過する。ろ過膜装置3は複数の中空糸膜フィルタ3Cを有し、複数の中空糸膜フィルタ3Cが共通の上部支持部7Aと下部支持部7Bとの間に設けられている。中空糸膜フィルタ3Cはケーシング等で覆われておらず、膜浸漬槽2の含油排水に対してむき出しの状態とされている。中空糸膜フィルタ3Cの外側から中空糸膜フィルタ3Cの側壁に接液する含油排水は中空糸膜フィルタ3Cの側壁でろ過され、油分等が側壁の外側に残存し、油分やSS(以下、油分等という)が除去または低減されたろ過水が中空糸膜フィルタ3Cの内側空間に侵入する。以下の説明において、中空糸膜フィルタ3Cの外側空間を1次側空間9、中空糸膜フィルタ3Cの内側空間を2次側空間10という。中空糸膜フィルタ3Cの材料としては親水性の高いものであれば限定されないが、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PES(ポリエーテルスルホン)、PAN(ポリアクリロニトリル)などが挙げられる。
図1は概念図であり、2本の中空糸膜フィルタ3Cだけを図示している。
【0014】
膜浸漬槽2の内部には、膜浸漬槽2に貯留される含油排水を攪拌する攪拌手段8が設けられている。攪拌手段8は、回転軸8Aと回転軸8Aに固定された複数の攪拌翼8Bとを有する攪拌機8である。回転軸8Aは上下方向、すなわち膜浸漬槽2の液面と垂直な方向に延びている。攪拌機8の回転軸8Aの中心は膜浸漬槽2の中心軸2A(
図2参照)と同心である。回転軸8Aはモータ8Cによって回転駆動され、攪拌翼8Bが膜浸漬槽2の内部の含油排水を攪拌する。これによって油分やSS(以下、油分等という)の沈降や浮上を防止し、ろ過効率を高めることができる。また、ろ過膜装置3の膜面及び膜浸漬槽2の側面への含油固形物の付着を防止することができる。攪拌機8の回転速度は、含油固形物付着防止の観点から、G値30~3000が望ましく、さらに経済性の観点から、100~2000がより望ましい。G値とは、攪拌におけるエネルギーの指標であり、次式で表
される。
G=(P/(V×μ))
0.5
P:攪拌エネルギー(W)
V:撹拌槽(膜浸漬槽2)容積(m
3)
μ:攪拌される液体の粘性係数(kg/(m・s))
図2は、膜浸漬槽2の上面図、すなわち含油排水の液面と平行な断面を示している。
図3(a)はろ過膜モジュール3Aの側面図を、
図3(b)は
図3(a)のA-A線に沿ったろ過膜モジュール3Aの断面図、すなわち含油排水の液面と平行な断面を示している。ろ過膜装置3は各々が複数の中空糸膜フィルタ3C(ろ過膜)を備えた複数のろ過膜モジュール3Aを有している。各ろ過膜モジュール3Aは吸引ライン5Aに接続されている(一部のみ図示)。複数のろ過膜モジュール3Aは含油排水の液面と平行な平面Pにおいて、長軸3Lを有する細長い形状を有している。複数のろ過膜モジュール3Aは攪拌機8の回転軸8Aの中心8Dから放射状に延びている。すなわち、各ろ過膜モジュール3Aの長軸3Lの延長線3Eは攪拌機8の回転軸8Aの中心8Dを通っている。複数のろ過膜モジュール3Aの長軸3Lは、攪拌機8の回転軸8Aの中心8Dと同心の同心円C1上の、周方向の互いに異なる位置を起点とし、同心円C1から離れる向きに延びている。本実施形態では8つのろ過膜モジュール3Aが45°間隔で回転対称に配列されている。しかし、ろ過膜モジュール3Aの数は8以外でもよく、同一間隔で配列されなくてもよい。また、全てのろ過膜モジュール3Aは一つの同心円C1を起点として径方向外側に延びているが、互いに異なる同心円C1を起点としてもよい。つまり、各ろ過膜モジュール3Aの回転軸8Aの中心8Dからの距離は互いに異なっていてもよい。
【0015】
図3(b)に示すように、各ろ過膜モジュール3Aは、長軸3Lに沿って互いに間隔Gをおいて、複数のサブモジュール3Bに分割されている。各サブモジュール3Bは複数の中空糸膜フィルタ3Cで構成されている。各サブモジュール3B内では複数の中空糸膜フィルタ3Cは密集配置されており、中空糸膜フィルタ3C同士の間隔は一定ではなく、中空糸膜フィルタ3C同士が接触していることもある。このため、各サブモジュール3B内部の流路形状を厳密に制御することは困難である。一方、サブモジュール3B間の間隔Gは調整可能であるため、含油排水がサブモジュール3Bの間の隙間を確実に通ることができ、サブモジュール3Bへの含油固形物の付着を抑制することができる。サブモジュール3Bの数、長手方向の長さ及び間隔は特に限定されず適宜設定することができ、間隔はサブモジュール3Bの幅以上あるのが好ましい。なお、サブモジュール3Bの間の隙間の流れを多くするには、攪拌翼8Bとろ過膜モジュール3Aが同一断面に存在しないほうが好ましい。また、膜浸漬槽2内の含油排水の流速の大きいところは含油固形物が付着しにくいことから、サブモジュール3Bの長さを長くし、あるいは間隔Gを狭くすることも可能である。なお、複数のサブモジュール3Bで一つのろ過膜モジュール3Aを構成する代わりに、各サブモジュール3Bを膜浸漬槽2内に分散配置することも可能である。しかし、ろ過膜装置3の膜浸漬槽2内の固定治具の構成、据付、交換などの手間を考慮すると、ろ過膜モジュール3Aの形態のほうがより好ましい。また、ろ過膜モジュール3Aの攪拌機8への接触を防止するために、ろ過膜モジュール3Aと撹拌機8との間に防護柵(図示せず)を設けることも可能である。防護柵は一般的には格子形状を有するが、攪拌機8の水流を妨げない形状であれば特に限定されない。
【0016】
吸引ライン5Aは各中空糸膜フィルタ3Cの2次側空間10と接続されている。吸引ライン5Aにはろ過水を2次側空間10に吸引するための吸引ポンプ5Bが設けられている。吸引ライン5Aと吸引ポンプ5Bはろ過水の吸引手段5を構成する。吸引フラックス(吸引によるろ過水の流束:単位面積あたりの流量)を高くすれば処理量が増加し、中空糸膜フィルタ3Cの数を減らすことができるが、膜面に付着した含油固形物が高粘度の油成分で圧密化され、吸引圧力が急上昇する場合がある。排ガススクラバから排出されるスクラバ排水の場合、吸引フラックスは0.1~1m/d程度が望ましい。図示は省略するが、水頭圧を利用してろ過水を吸引するようにしてもよい。例えば、吸引ライン5Aを上下方向に配置し、ろ過水が下向きに流れるようにすることでろ過水を2次側空間10に吸引するための駆動力を得ることができる。2次側空間10に吸引されたろ過水は、所定の水質基準を満たすことが確認された後、系外に排出することができる。ろ過水の一部は、吸引ライン5Aに接続されたろ過水タンク6に貯蔵され、逆洗水として利用される。ろ過水タンク6には逆洗ライン11が接続されている(
図1では吸引ライン5Aと区別するため、破線で表示している)。逆洗ライン11は中空糸膜フィルタ3Cと吸引ポンプ5Bとの間の位置で吸引ライン5Aに合流している。逆洗ライン11には逆洗水を圧送するための逆洗ポンプ12が設けられている。逆洗時にはろ過水タンク6に貯蔵されたろ過水が逆洗ライン11を通って中空糸膜フィルタ3Cの2次側空間10に供給され、中空糸膜フィルタ3Cの膜面に付着した油分等が剥離され、1次側空間9に放出される。ろ過装置1を船舶に設置する場合などユーティリティ水がある場合は、そのユーティリティ水を逆洗水として使用してもよい。図示は省略するが、吸引ライン5Aと逆洗ライン11を組み替え、吸引ライン5Aと逆洗ライン11を弁によって切り替えることで吸引ポンプ5Bと逆洗ポンプ12を共用化することもできる。
【0017】
膜浸漬槽2の底部には、内部の含油廃液を排出するためのドレンライン13が接続されている。ドレンライン13は膜浸漬槽2からの含油廃液を貯留する廃液貯槽14と接続され、ドレンライン13には含油廃液を廃液貯槽14に移送するドレンポンプ15が設けられている。さらに、ドレンライン13のドレンポンプ15の下流から分岐してドレンポンプ15の上流側の膜浸漬槽2に接続された循環ライン16が設けられている。含油廃液の水質によっては循環ライン16を省略してもよい。ドレンライン13からは高度に濃縮された含油廃液が排出されるため、循環ライン16で含油廃液を循環させることで、ドレンライン13が閉塞する可能性を低減させることができる。膜浸漬槽2からドレンライン13への含油廃液の取り出しは連続的に行ってもよいし、間歇的に行ってもよい。あるいは膜浸漬槽2内の含油排水のSS濃度、油濃度を測定し、これらの一方または双方が一定の基準値に達したときに含油廃液を取り出すようにしてもよい。廃液貯槽14には含油廃液を取り出すためのドレンライン17が設けられている。また、ドレンライン13には、薬品貯槽18から薬品供給ライン19を介して、界面活性剤などの薬剤を添加することができる。薬品供給ライン19には薬品供給ポンプ20が配置されている。含油廃液に界面活性剤を付加することで、含油廃液によってドレンライン13が閉塞する可能性をさらに低減させることができる。なお、廃液貯槽14、ドレンポンプ15、循環ライン16を省略し、ドレンライン13から排出された含油廃液を廃棄処分とすることもできる。さらに、ドレンライン13を省略し、膜浸漬槽2に貯留した含油廃液をポンプ(図示せず)で吸い出してもよい。
【0018】
ろ過装置1は以下のように作動する。排ガススクラバからの含油排水は含油排水供給ライン4によって膜浸漬槽2に供給される。吸引ポンプ5Bの吸引圧力によって含油排水は中空糸膜フィルタ3Cの1次側空間9から2次側空間10に移動し、油分等が中空糸膜フィルタ3Cに捕捉される。この間、攪拌機8により膜浸漬槽2内の含油排水が水平方向及び上下方向に攪拌される。攪拌によって発生する水流により、中空糸膜フィルタ3Cの膜表面にせん断力が作用する。このせん断力によって、膜表面への含油固形物の付着が防止されるとともに、付着した含油固形物の剥離が促進される。すなわち、本実施形態によれば、ろ過膜装置3が収容された膜浸漬槽2に含油排水を導入し、含油排水でろ過膜装置3が浸漬される。そして、膜浸漬槽2に導入された含油排水を膜浸漬槽2に設けられた攪拌機8で攪拌しながら、ろ過装置1で含油排水がろ過される。なお、含油固形物の剥離をさらに促進するため、モータ8Cの電動機にインバータ(図示せず)を設けて攪拌機8の回転速度を変更したり、切替装置を設けて(図示せず)攪拌機8の回転方向を変更させることもできる。また、膜浸漬槽2の底部に空気吹き出し部(図示せず)を設けてエアレーション操作を行ってもよい。
【0019】
一定時間吸引ポンプ5Bを作動させてろ過工程を行った後、吸引ポンプ5Bを停止し、不図示の弁を切り替えて、逆洗ライン11による短時間の逆洗(この逆洗を簡易逆洗という)を行うことが好ましい。ろ過と簡易逆洗をセットとして、これを繰り返し、かつ攪拌機8で含油排水を攪拌することで、中空糸膜フィルタ3Cの性能を維持しながらろ過工程を行うことができる。なお、簡易逆洗の際にも、攪拌機8で膜浸漬槽2内の含油排水を攪拌することで、逆洗の効果を高めることができる。
【0020】
上述のように、膜浸漬槽2は円形であり、攪拌機8が膜浸漬槽2の中心に設置されているため、矩形の膜浸漬槽のようにコーナー部に含油排水が滞留することがなく、膜浸漬槽2の全域で一定以上の流速が得られる。また、ろ過膜モジュール3Aは細長い形状のため、全体として一種のバッフル板として機能する。このため、水流が複雑化し、ろ過膜モジュール3A間の空間及び膜浸漬槽2の側壁の近傍にも水流が行き渡る。
【0021】
(第2の実施形態)
図4(a)は、本発明の第2の実施形態に係るろ過装置1の膜浸漬槽2の、
図2と同様の上面図を、
図4(b)は
図4(a)の部分拡大図を示している。本実施形態においても、複数のろ過膜モジュール3Aの長軸3Lは、攪拌機8の回転軸8Aの中心8Dと同心の同心円C1上の周方向に互いに異なる位置を起点とし、同心円C1から離れる向きに延びている。しかし、各ろ過膜モジュール3Aの長軸3Lの延長線3Eは、同心円C1と同心で且つ同心円C1より径の小さい他の同心円C2に接している。この結果、複数のろ過膜モジュール3Aは攪拌機8の回転軸8Aの周りに羽根車のように配置される。本実施形態では12個のろ過膜モジュール3Aが30°間隔で回転対称に配列されている。しかし、ろ過膜モジュール3Aの数は12以外でもよく、同一間隔で配列されなくてもよい。また、全てのろ過膜モジュール3Aは一つの同心円C1を起点として径方向外側に延びているが、互いに異なる同心円C1を起点としてもよい。つまり、各ろ過膜モジュール3Aの回転軸8Aの中心8Dからの距離は互いに異なっていてもよい。
【0022】
攪拌機8の回転軸8Aは
図4において時計回りに回転することが望ましい。より一般的には、攪拌機8の回転軸8Aは、各ろ過膜モジュール3Aの延長線3Eの他の同心円C2との接点Cにおいて、各ろ過膜モジュール3Aから接点Cへの延長線3Eの向きD1が攪拌機8によって誘起される流れの向きD2と一致する方向に回転することが望ましい。これによって、各ろ過膜モジュール3Aの径方向内側領域で、各ろ過膜モジュール3Aの径方向側面とほぼ垂直な方向からろ過膜モジュール3Aに水流が加わり、含油固形物の付着をより効果的に抑制することができる。本実施形態によればろ過膜モジュール3Aの充填効率が改善され、第1の実施形態と比べてより多くのろ過膜モジュール3Aを配置することができる。本実施形態のろ過膜モジュール3Aは、第1の実施形態のろ過膜モジュール3Aと同じ形状及び寸法を有しており、膜浸漬槽2の大きさも第1の実施形態と同様であるが、本実施形態では12個のろ過膜モジュール3Aを膜浸漬槽2に収容することができる。
【0023】
(第3の実施形態)
図5は、本発明の第3の実施形態に係るろ過装置1の概略構成図を示している。本実施形態は、ろ過膜装置3のろ過膜モジュール3Aとしてセラミック膜3Dが使用されている点で第1の実施形態と異なり、その他の構成は第1の実施形態と同じである。セラミック膜3Dは親水性の膜であることが好ましい。膜浸漬槽2には複数のセラミック膜3Dがむき出しで収容される。図示は省略するが、複数のセラミック膜3Dは
図2,4に示したのと同様の態様で膜浸漬槽2に配置される。
図6にセラミック膜3Dの概略構造を示す。セラミック膜3Dはセラミック製の平膜であり、内部に含油排水が流通する複数の流路41が形成されている。流路41はセラミック膜3Dの2次側空間10を形成する。流路41の両端はセラミック膜3Dの側面で開口しており、両端には集水管107A,107B(
図5参照)が接続されている。集水管107A,107Bは吸引ライン5Aに接続されている。含油排水は矢印43で示すようにセラミック膜3Dの外表面からセラミックの無数の細孔を通って内部に浸透し、矢印44で示すように流路41に排出される。粒径の大きな油分等はセラミック膜3Dの外表面にとどまり、粒径の小さな油分等はセラミックの細孔に捕捉され、流路41には油分等が十分に除去されたろ過水が集水される。図示は省略するが、第1の実施形態と同様に、セラミック膜3Dを長軸3Lに沿って互いに間隔をおいて、複数のサブモジュールに分割することも可能である。
【0024】
(第4の実施形態)
図7は、本発明の第4の実施形態に係るろ過装置1の概略構成図を示している。ろ過装置1は上部コンテナ21と下部コンテナ22とに分割収容されている。具体的には、上部コンテナ21には膜浸漬槽2とろ過水タンク6が収容され、下部コンテナ22には廃液貯槽14が収容されている。本実施形態では、廃液貯槽14の内部に含油廃液を攪拌するための2基の攪拌機23が設置されている。第1の実施形態と同様、ドレンライン13とドレンポンプ15と循環ライン16を設けてもよい。また、第1の実施形態と同様、薬品貯槽17と薬品供給ライン18と薬品供給ポンプ19を設けてもよい。下部コンテナ22は上部コンテナ21の下方、好ましくは直下に配置されており、ドレンライン13が上部コンテナ21と下部コンテナ22との間を延びている。下部コンテナ22を上部コンテナ21から離れたところに配置することも可能であり、その場合、ドレンライン13上に移送ポンプ(図示せず)を設けてもよい。
【0025】
例えば、ろ過装置1がコンテナ船に設置される場合、上部コンテナ21と下部コンテナ22はコンテナ船に搭載される一般的なコンテナと同じ大きさ及び形状とすることが好ましい。これによって、上部コンテナ21と下部コンテナ22の設置場所の制約が緩和される可能性がある。ろ過装置1はあらかじめ工場にて上部コンテナ21と下部コンテナ22とに分割して設置され、車両、貨物列車等で運搬される。上部コンテナ21と下部コンテナ22は船上で合体され、ドレンライン13で接続される。上部コンテナ21と下部コンテナ22の運送時にはコンテナ運搬用の一般的なトラック、トレーラ、貨車等を使用することができ、据付時には船舶が備えるコンテナ搭載用の揚重機を使用することができるため、運送や据付に関して特殊な設備や装置を必要としない。また、予め工場でプレハブ化されるため、船舶への据付工程が短縮される。
【0026】
図8は、第4の実施形態の変形例に係るろ過装置1の概略構成図を示している。
図8は上部コンテナ21のみを示しているが、下部コンテナ22は第4の実施形態と同様とすることができる。本変形例では、上部コンテナ21の上部空間に、ろ過膜装置3の膜浸漬槽2への設置及び膜浸漬槽2からの取り出しのための揚重機24が設けられている。揚重機24としては上部コンテナ21の天板に設けられたモノレール25上を走行可能なチェーンブロックまたはホイストを用いることが好ましいが、他の揚重機を使用することもできる。ろ過装置1を船舶に設置する場合、航行中または停泊中にろ過膜装置3の交換またはメンテナンスのため、ろ過膜装置3の膜浸漬槽2からの取り出し及び据付が必要となることがある。ろ過膜装置3は人力で取り扱うのが困難であるため何らかの揚重設備が必要となるが、船舶内でこのような設備を使用することは困難である場合がある。本実施形態では、上部コンテナ21の内部に揚重機24が設けられているため、メンテナンス性が改善されるとともに、設置場所の制約(例えば、船舶の揚重設備の近傍に配置する必要性)が緩和される。
【0027】
以上、本発明を実施形態によって説明したが、本発明はこれらに限定されない。例えば、本実施形態は含油排水をろ過するろ過装置を対象としているが、本発明は油分以外の高粘性物質を含む液体をろ過するろ過装置にも用いることができる。粘性の高い物質がろ過膜の膜面に付着すると本実施形態と同様、付着した物質による膜閉塞あるいは吸引圧力の増加が生じる。
【0028】
また、本実施形態においては、攪拌手段8としては攪拌機8が用いられるが、膜浸漬槽2に導入された含油排水を攪拌することができる限り、攪拌手段8は攪拌機8に限定されない。例えば、膜浸漬槽2の外部に設置された循環ラインと、循環ライン上に設けられた循環ポンプによって含油排水を攪拌することができる。あるいは、膜浸漬槽2の内部に循環ポンプを設置することもできる。または、膜浸漬槽2の底部に散気ノズルを設け、ブロワ等で散気ノズルに空気を供給し、含油排水を空気攪拌することもできる。もしくは、膜浸漬槽側面に設置した撹拌機により攪拌することができる。攪拌手段8はこれらの手段単独で、または組み合わせによって、あるいはこれらの手段と攪拌機8との組み合わせによって構成することもできる。
【0029】
また、本実施形態においては、膜浸漬槽2の断面形状は円形であるが、膜浸漬槽2の全域が攪拌手段8によって良好に攪拌される限り、円形以外の形状、例えば楕円形などであってもよい。攪拌機8は膜浸漬槽2の中央に配置する代わりに多少偏心して配置してもよいし、2以上の攪拌機8を設置することもできる。
【符号の説明】
【0030】
1 ろ過装置
2 膜浸漬槽
3 ろ過膜装置
3A ろ過膜モジュール
3B サブモジュール
3C 中空糸膜フィルタ
3D セラミック膜
5 吸引手段
5A 吸引ライン
5B 吸引ポンプ
6 ろ過水タンク
8 攪拌手段(攪拌機)
8A 回転軸
8B 攪拌翼
11 逆洗ライン
12 逆洗ポンプ
13 ドレンライン
14 廃液貯槽
15 ドレンポンプ
16 循環ライン
21 上部コンテナ
22 下部コンテナ
24 揚重機