(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】ゴム製品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 27/12 20060101AFI20240729BHJP
C08K 5/3445 20060101ALI20240729BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20240729BHJP
C08K 5/19 20060101ALI20240729BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20240729BHJP
C08L 27/16 20060101ALI20240729BHJP
C09K 3/10 20060101ALI20240729BHJP
C08J 3/24 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K5/3445
C08K3/34
C08K5/19
C08K5/42
C08L27/16
C09K3/10 M
C08J3/24 Z CEW
(21)【出願番号】P 2023079467
(22)【出願日】2023-05-12
【審査請求日】2024-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】塩野 一郎
(72)【発明者】
【氏名】冨田 光博
(72)【発明者】
【氏名】伊東 隆男
(72)【発明者】
【氏名】本城 宏昌
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0033647(US,A1)
【文献】国際公開第2022/259642(WO,A1)
【文献】特開2019-085475(JP,A)
【文献】特表2016-516880(JP,A)
【文献】特開2008-129481(JP,A)
【文献】特開2018-072614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08J 3/00- 3/28
C09K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ゴムと、イオン液体と、前記フッ素ゴムに分散するとともに前記イオン液体を吸収可能なフィラーと、を含有する架橋ゴム組成物で形成されたゴム製品であって、
前記フィラーは、樹脂粉体、多孔質粉体のシリカ及び多孔質粉体のゼオライトのうちの1種又は2種以上を含み、
前記フッ素ゴム中の前記イオン液体の濃度よりも前記フィラー中の前記イオン液体の濃度の方が高いゴム製品。
【請求項2】
請求項1に記載されたゴム製品において、
前記架橋ゴム組成物の表層では、内部から表面に行くに従って前記イオン液体の濃度が高くなっているゴム製品。
【請求項3】
請求項1に記載されたゴム製品において、
前記フッ素ゴムが、ビニリデンフルオライドとヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとの共重合体を含むゴム製品。
【請求項4】
請求項1に記載されたゴム製品において、
前記イオン液体のカチオン成分が、イミダゾリウム系カチオン又は脂肪族アミン系カチオンを含むゴム製品。
【請求項5】
請求項1に記載されたゴム製品において、
前記イオン液体のアニオン成分が、ビスフルオロスルホニルイミド系アニオンを含むゴム製品。
【請求項6】
請求項1に記載されたゴム製品において、
前記フィラーが、前記樹脂粉体のフッ素樹脂粉体、フェノール樹脂粉体、ポリエーテルエーテルケトン樹脂粉体及びポリイミド樹脂粉体のうちの1種又は2種以上を含むゴム製品。
【請求項7】
請求項
6に記載されたゴム製品において、
前記フィラーが、
前記フッ素樹脂粉体のビニリデンフルオライドの重合体の粉体を含むゴム製品。
【請求項8】
請求項1に記載されたゴム製品において、
前記ゴム製品がシール材であるゴム製品。
【請求項9】
フィラーにイオン液体を吸収させ、前記イオン液体を吸収させたフィラーをフッ素ゴムと混練して未架橋ゴム組成物を調製し、前記未架橋ゴム組成物を架橋させるゴム製品の製造方法
であって、
前記フィラーは、樹脂粉体、多孔質粉体のシリカ及び多孔質粉体のゼオライトのうちの1種又は2種以上を含むゴム製品の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載されたゴム製品の製造方法において、
前記フィラーが、前記樹脂粉体のフッ素樹脂粉体、フェノール樹脂粉体、ポリエーテルエーテルケトン樹脂粉体及びポリイミド樹脂粉体のうちの1種又は2種以上を含むゴム製品の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載されたゴム製品の製造方法において、
前記フィラーが、前記フッ素樹脂粉体のビニリデンフルオライドの重合体の粉体を含むゴム製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム製品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム製品を形成する架橋ゴム組成物にイオン液体を含有させて電気特性を制御する技術が知られている。例えば、特許文献1には、フッ素ゴムにイオン液体を配合した架橋ゴム組成物で形成されたシール材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、フッ素ゴムにイオン液体を配合した場合、未架橋ゴム組成物を架橋させて架橋ゴム組成物を得る際にイオン液体による架橋阻害が生じるという問題がある。
【0005】
本発明の課題は、フッ素ゴムにイオン液体を配合した架橋ゴム組成物におけるイオン液体による架橋阻害が抑制されるゴム製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、フッ素ゴムと、イオン液体と、前記フッ素ゴムに分散するとともに前記イオン液体を吸収可能なフィラーとを含有する架橋ゴム組成物で形成されたゴム製品であって、前記フィラーは、樹脂粉体、多孔質粉体のシリカ及び多孔質粉体のゼオライトのうちの1種又は2種以上を含み、前記フッ素ゴム中の前記イオン液体の濃度よりも前記フィラー中の前記イオン液体の濃度の方が高い。
【0007】
本発明は、フィラーにイオン液体を吸収させ、前記イオン液体を吸収させたフィラーをフッ素ゴムと混練して未架橋ゴム組成物を調製し、前記未架橋ゴム組成物を架橋させるゴム製品の製造方法であって、前記フィラーは、樹脂粉体、多孔質粉体のシリカ及び多孔質粉体のゼオライトのうちの1種又は2種以上を含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フッ素ゴム中のイオン液体の濃度よりも、フッ素ゴムに分散したフィラー中のイオン液体の濃度の方が高いことにより、イオン液体による架橋阻害を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0010】
実施形態に係るゴム製品は、フッ素ゴムと、イオン液体と、フィラーとを含有する架橋ゴム組成物Xで形成されている。フッ素ゴムは、ベースゴムの主成分である。フィラーは、フッ素ゴムに分散している。また、フィラーは、イオン液体を吸収可能である。そして、フッ素ゴム中のイオン液体の濃度よりもフィラー中のイオン液体の濃度の方が高い。
【0011】
実施形態に係るゴム製品によれば、まず、イオン液体を含有していることにより、安定した帯電防止性能を得ることができる。これに加え、フッ素ゴム中のイオン液体の濃度よりも、フッ素ゴムに分散したフィラー中のイオン液体の濃度の方が高いことにより、イオン液体による架橋阻害を抑制することができる。これは、フィラーの周辺にイオン液体が局在することにより、直接の架橋主体であるフッ素ゴムへのイオン液体の影響が小さくなるためであると考えられる。架橋ゴム組成物Xにおけるイオン液体の分布状態については、エネルギー分散型X線分光法(EDS)により分析することができる。
【0012】
実施形態に係るゴム製品によれば、フィラーがイオン液体を吸収することにより、イオン液体のブリードアウトを抑制することができる。しかしながら、ゴム製品を形成する架橋ゴム組成物Xの表層では、安定した帯電防止性能を得る観点から、内部から表面に行くに従ってイオン液体の濃度が高くなっていることが好ましい。架橋ゴム組成物Xにおける表層の深さ方向のイオン液体の分布状態については、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)により分析することができる。
【0013】
ここで、フッ素ゴムとしては、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)の重合体(PTFE)、ビニリデンフルオライド(VDF)の重合体(PVDF)、ビニリデンフルオライド(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体(二元系FKM)、ビニリデンフルオライド(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体(三元系FKM)、テトラフルオロエチレン(TFE)とプロピレン(Pr)との共重合体(FEP)、ビニリデンフルオライド(VDF)とプロピレン(Pr)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体、エチレン(E)とテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体(ETFE)、エチレン(E)とテトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)とテトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体、テトラフルオロエチレン(TFE)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体(FFKM)、ビニリデンフルオライド(VDF)とパーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)との共重合体等が挙げられる。フッ素ゴムは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、イオン液体による架橋阻害に対する高い抑制効果を得る観点から、三元系FKMを含むことがより好ましい。
【0014】
本出願において「イオン液体」とは、カチオン成分及びアニオン成分で構成される塩であって、融点が100℃以下のものをいう。
【0015】
イオン液体のカチオン成分としては、例えば、イミダゾリウム系カチオン、ピリジニウム系カチオン、脂肪族アミン系カチオン、ピラゾリウム系カチオン等が挙げられる。イミダゾリウム系カチオンとしては、例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム、1-メチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム、1-オクチル-3-メチルイミダゾリウム、1-メチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-ブチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-ヘキシル-2,3-ジメチルイミダゾリウム、1-オクチル-2,3-ジメチルイミダゾリウム等が挙げられる。ピリジニウム系カチオンとしては、例えば、1-オクチル-4-メチル-ピリジニウム、1-メチル-ピリジニウム、1-ブチル-ピリジニウム、1-ヘキシル-ピリジニウム等が挙げられる。脂肪族アミン系カチオンとしては、例えばトリブチルメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0016】
アニオン成分としては、例えば、ビスフルオロスルホニルイミド系アニオン、フッ素化スルホン酸系アニオン、フッ素化カルボン酸系アニオン、チオシアネート系アニオン、ジシアナミド系アニオン、テトラシアノボレート系アニオン等が挙げられる。ビスフルオロスルホニルイミド系アニオンとしては、例えば、ビスフルオロスルホニルイミド、ビストリフルオロメタンスルホニルイミド、ビストリフルオロブタンスルホニルイミド等が挙げられる。フッ素化スルホン酸系アニオンとしては、例えば、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロボレート、トリフルオロメタンスルホネート等が挙げられる。フッ素化カルボン酸系アニオンとしては、例えばトリフルオロ酢酸等が挙げられる。
【0017】
イオン液体は、これらのカチオン成分の1種又は2種以上と、アニオン成分の1種又は2種以上を含むことが好ましい。イオン液体のカチオン成分は、イオン液体による架橋阻害に対する高い抑制効果を得る観点から、イミダゾリウム系カチオン又は脂肪族アミン系カチオンを含むことが好ましい。イオン液体のカチオン成分は、同様の観点から、イミダゾリウム系カチオンでは、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムを含むことが好ましく、脂肪族アミン系カチオンでは、トリブチルメチルアンモニウムを含むことが好ましい。イオン液体のアニオン成分は、同様の観点から、ビスフルオロスルホニルイミド系アニオンを含むことが好ましく、そのうち、ビストリフルオロメタンスルホニルイミドを含むことがより好ましい。
【0018】
架橋ゴム組成物Xにおけるイオン液体の含有量は、イオン液体による架橋阻害に対する高い抑制効果を得る観点から、フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上1質量部以下である。
【0019】
フィラーとしては、例えば、イオン液体を吸収可能な樹脂粉体、多孔質粉体等が挙げられる。イオン液体を吸収可能な樹脂粉体としては、例えば、フッ素樹脂粉体、フェノール樹脂粉体、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)粉体、ポリイミド樹脂(PI)粉体等が挙げられる。フッ素樹脂粉体としては、例えばポリビニリデンフルオライド樹脂(PVDF)粉体等が挙げられる。多孔質粉体としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、ゼオライト等が挙げられる。フィラーは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、イオン液体による架橋阻害に対する高い抑制効果を得る観点から、樹脂粉体を含むことがより好ましく、フッ素樹脂粉体を含むことが更に好ましく、PVDF粉体を含むことがより更に好ましい。市販のPVDF粉体としては、例えばアルケマ社製のカイナーシリーズ等が挙げられる。
【0020】
フィラーの密度は、イオン液体による架橋阻害に対する高い抑制効果を得る観点から、好ましくは1g/cm3以上3g/cm3以下、より好ましくは1.5g/cm3以上2g/cm3以下である。このフィラーの密度は、ISO1183に基づいて測定されるものである。
【0021】
架橋ゴム組成物Xにおけるフィラーの含有量は、イオン液体による架橋阻害に対する高い抑制効果を得る観点から、フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは1質量部以上15質量部以下、より好ましくは3質量部以上10質量部以下である。架橋ゴム組成物Xにおけるフィラーの含有量のイオン液体の含有量に対する比(フィラーの含有量/イオン液体の含有量)は、同様の観点から、好ましくは3以上20以下、より好ましくは5以上15以下である。
【0022】
架橋ゴム組成物Xの架橋系としては、パーオキサイド架橋系、ポリオール架橋系、アミン架橋系等が挙げられる。架橋ゴム組成物Xの架橋系は、イオン液体による架橋阻害に対する高い抑制効果を得る観点から、これらのうちのパーオキサイド架橋系が好ましい。パーオキサイド架橋系の場合、架橋ゴム組成物Xの架橋前の未架橋ゴム組成物X’には、架橋剤のパーオキサイドが配合される。
【0023】
架橋剤のパーオキサイドとしては、例えば、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、α,α-ビス(t-ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)-ヘキシン-3、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゼン、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t-ブチルパーオキシベンゾエイト等が挙げられる。架橋剤のパーオキサイドは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、イオン液体による架橋阻害に対する高い抑制効果を得る観点から、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンを含むことがより好ましい。
【0024】
未架橋ゴム組成物X’への架橋剤のパーオキサイドの配合量は、イオン液体による架橋阻害に対する高い抑制効果を得る観点から、フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上5質量部以下、より好ましくは1質量部以上3質量部以下である。
【0025】
架橋ゴム組成物Xは、架橋助剤により更に架橋度が高められていてもよい。架橋助剤としては、例えば、トリアリルシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリテート、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパギルテレフタレート、ジアリルフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、ビスマレイミド、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5-トリス(2,3,3-トリフルオロ-2-プロペニル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン)、トリス(ジアリルアミン)-S-トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N-ジアリルアクリルアミド、1,6-ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルフタルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌレート、2,4,6-トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5-ノルボルネン-2-メチレン)シアヌレート、トリアリルホスファイト等が挙げられる。架橋助剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、イオン液体による架橋阻害に対する高い抑制効果を得る観点から、トリアリルイソシアヌレートを含むことがより好ましい。未架橋ゴム組成物X’への架橋助剤の配合量は、同様の観点から、フッ素ゴム100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上10質量部以下、より好ましくは3質量部以上7質量部以下である。
【0026】
架橋ゴム組成物Xは、フッ素ゴム以外のベースゴムの成分としてシリコーンゴム等を含有していてもよい。また、架橋ゴム組成物Xは、加工助剤、可塑剤、加工助剤、加硫促進剤、老化防止剤等のゴム配合剤を含有していてもよい。
【0027】
架橋ゴム組成物Xの体積抵抗率は、好ましくは1.0×1012Ω・cm以下、より好ましくは1.0×1011Ω・cm以下である。この体積抵抗率は、JIS K6271-1:2015に基づいて測定されるものである。
【0028】
実施形態に係るゴム製品としては、具体的には、例えばOリングなどのシール材等が挙げられる。
【0029】
次に、実施形態に係るゴム製品の製造方法について説明する。
【0030】
実施形態に係るゴム製品の製造方法では、まず、フィラーとイオン液体とを混合し、フィラーにイオン液体を吸収させる。
【0031】
続いて、ゴム混練機を用いてフッ素ゴムを素練りし、そこにイオン液体を吸収させたフィラー及び架橋剤を含むゴム配合剤を投入する。これにより、イオン液体を吸収させたフィラー等をフッ素ゴムと混練して未架橋ゴム組成物X’を調製する。このとき、得られる未架橋ゴム組成物X’では、フィラーに吸収されたイオン液体の一部がフッ素ゴムに流出して拡散する。
【0032】
未架橋ゴム組成物X’の最大トルク値は、好ましくは0.5N・m以上、より好ましくは1N・m以上である。この最大トルク値は、キュラストメーター(登録商標)から得られる加硫曲線に基づいてJIS K6300-2:2001に準拠して求められるものである。
【0033】
そして、未架橋ゴム組成物X’を所定形状に成形するとともに、所定温度及び圧力に所定時間だけ保持して架橋させることにより、架橋ゴム組成物Xで形成された実施形態に係るゴム製品を得る。なお、得られたゴム製品に対し、所定温度雰囲気に所定時間だけ保持する二次架橋処理及び/又は放射線を照射する放射線架橋処理を施してもよい。
【実施例】
【0034】
(Oリング)
以下の実施例1及び2並びに比較例のOリングを作製した。それぞれを形成する架橋ゴム組成物の構成については表1に示す。
【0035】
<実施例1>
フッ素ゴムの三元系FKM(テクノフロンP459 SOLVAY社製)をベースゴムとした。まず、この三元系FKM100質量部に対して、5質量部のフィラーのPVDF粉体(カイナーMG15 アルケマ社製、密度:1.78g/cm3)と0.5質量部のイオン液体Aの1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム・ビストリフルオロメタンスルホニルイミド(BMI-N111 三菱マテリアル社製)とを混合し、PVDF粉体にイオン液体Aを吸収させた。続いて、三元系FKM100質量部に対し、イオン液体Aを吸収させたPVDF粉体とともに、1.5質量部の架橋剤の2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(パーヘキサ25B 日油社製)及び3質量部の架橋助剤のトリアリルイソシアヌレート(TAIC 日本化成社製)を配合して混練することにより未架橋ゴム組成物を調製した。そして、この未架橋ゴム組成物をプレス成形により架橋させることにより、架橋ゴム組成物で形成されたOリングを作製した。このOリングを実施例1とした。
【0036】
<実施例2>
イオン液体Aに代えて、イオン液体Bのトリブチルメチルアンモニウム・ビストリフルオロメタンスルホニルイミド(FC-4400 スリーエムジャパン社製)を用いたことを除いて実施例1と同一構成のOリングを作製し、それを実施例2とした。
【0037】
<比較例>
PVDF粉体を配合せず、三元系FKMに対して、イオン液体Bを直接配合したことを除いて実施例2と同一構成のOリングを作製し、それを比較例とした。
【0038】
【0039】
(試験方法及び結果)
<最大トルク値>
実施例1及び2並びに比較例のそれぞれのOリングを作製するのに用いた未架橋ゴム組成物について、キュラストメーターを用いて加硫曲線を得た。そして、その加硫曲線に基づいてJIS K6300-2:2001に準拠して最大トルク値を求めた。その結果を表2に示す。
【0040】
【0041】
表2によれば、PVDF粉体にイオン液体Aを吸収させた実施例1及びPVDF粉体にイオン液体Bを吸収させた実施例2では、最大トルク値が高いのに対し、PVDF粉体を用いていない比較例では、最大トルク値が非常に低いことが分かる。これは、比較例では、イオン液体による架橋阻害が生じたのに対し、実施例1及び2では、PVDF粉体にイオン液体を吸収させることにより、イオン液体による架橋阻害が抑制されたためであると考えられる。
【0042】
<SEM観察・EDS分析>
実施例1及び2並びに比較例のそれぞれのOリングについて、厚さ約1μmの薄膜状の架橋ゴム組成物の円形試料を切り出し、その中央部、表層部、及びそれらの中間部について、SEMにより観察するとともにEDSによる分析を行った。
【0043】
観察及び分析の結果によれば、実施例1及び2では、三元系FKMの海にPVDF粉体の島が分散した海-島構造が観察された。また、三元系FKMの海よりもPVDF粉体の島の方がO濃度及びS濃度が高いことが分析された。これは、イオン液体のアニオン成分であるビストリフルオロメタンスルホニルイミドに起因するものであり、イオン液体が局在しており、三元系FKM中のイオン液体の濃度よりもPVDF粉体中のイオン液体の濃度の方が高いことを意味する。さらに、三元系FKMの海よりもPVDF粉体の島の方がF濃度が低いことが分析された。これは、三元系FKMのF含有量が68質量%であるのに対し、PVDFのF含有量が59.4質量%であることと合致する。一方、比較例では、実施例1及び2のような海-島構造は観察されず、O濃度及びS濃度の局在も分析されなかった。
【0044】
<TOF-SIMS分析>
実施例1のOリングについて、TOF-SIMSによる架橋ゴム組成物の表層の深さ方向分析を行った。
【0045】
分析結果のデプスプロファイルによれば、架橋ゴム組成物の表面から深さ18nmまでの表層において、内部から表面に行くに従ってイオン液体の濃度が高くなっており、最大濃度差が10倍程度あることが分析された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、ゴム製品及びその製造方法の技術分野について有用である。
【要約】
【課題】フッ素ゴムにイオン液体を配合した架橋ゴム組成物におけるイオン液体による架橋阻害が抑制されるゴム製品を提供する。
【解決手段】ゴム製品は、フッ素ゴムと、イオン液体と、前記フッ素ゴムに分散するとともに前記イオン液体を吸収可能なフィラーとを含有する架橋ゴム組成物で形成されている。前記フッ素ゴム中の前記イオン液体の濃度よりも前記フィラー中の前記イオン液体の濃度の方が高い。
【選択図】なし