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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】無線装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/309 20150101AFI20240729BHJP
【FI】
H04B17/309
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023501706
(86)(22)【出願日】2021-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2021006839
(87)【国際公開番号】W WO2022180676
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001122
【氏名又は名称】株式会社日立国際電気
(74)【代理人】
【識別番号】100093104
【弁理士】
【氏名又は名称】船津 暢宏
(72)【発明者】
【氏名】西田 順一
【審査官】前田 典之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/092581(WO,A1)
【文献】特開2012-049768(JP,A)
【文献】特開2008-061268(JP,A)
【文献】特許第6647424(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/309
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの無線通信エリアにおいて複数の無線機が同時に同一周波数で電波を送信することで受信側に発生する混信を検出する無線装置であって、
受信信号に対して後続の高速フーリエ変換(FFT)処理の結果を最適化するために窓処理を行う窓処理部と、
前記窓処理部から出力された信号を高い周波数にレート変換して、特定数のサンプルを含むFFTフレームを、一定のサンプル数だけずらしながらオーバーラップさせて切り出し、前記FFTフレームを前記一定のサンプル数の時間毎に順次出力するレート変換部と、
前記レート変換部から出力されたFFTフレーム毎に、当該FFTフレームの信号を周波数とレベルの関係に高速フーリエ変換するFFT部と、
前記FFT部から出力されたキャリア周波数を含む帯域のピーク電力を検出し、検出したピークの数によって混信状態を前記一定のサンプル数の時間毎に判定して混信を検出する混信検出部と、を備える無線装置。
【請求項2】
NTPプロトコル又はGPSによる時刻情報を取得するインタフェース部を有する請求項1記載の無線装置。
【請求項3】
混信検出部によって混信が検出された場合に混信状態のデータを記憶する記憶装置が接続されている請求項1記載の無線装置。
【請求項4】
前記記憶装置から混信状態のデータを読み出して表示するコンピュータ装置が接続されている請求項3記載の無線装置。
【請求項5】
前記コンピュータ装置が、混信状態であることを示すデータを受信すると、危険度が小さいことを示す警告を表示すると共に計時を開始し、混信状態が特定の時間より長く継続した場合は危険度が大きいことを示す警報を表示する請求項4記載の無線装置。
【請求項6】
FFT処理の1フレームのサンプル数を増やすと共に、オーバーラップさせる回数を増やす請求項1記載の無線装置。
【請求項7】
複数の無線通信エリアに対応して、複数の周波数毎に窓処理部、FFT部及び混信検出部を備える請求項1記載の無線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば航空管制で用いられる無線装置に係り、特に混信の有無を迅速且つ高精度に検出することができる無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
[先行技術の説明]
無線通信では、複数の無線局が同時に同一周波数で送信を行うことで、受信局において混信が発生する。
例えば航空管制において、複数の航空機の無線局が同時送信することで混信が発生し、重大インシデントにつながりかねない事象が報告されている。
【0003】
航空管制の無線通信方式は、AM変調が採用されており、混信状態では受信側で音声のかぶりや異音が発生するため、航空管制官がそれらに基づいて混信の有無を判断している。
しかし、混信状態にある信号の相対レベル差が20dB以上ある場合には、強い信号に弱い信号が抑圧されて異音を認識できないことがあり、混信の検出が困難となっている。
更に、従来は、人間の聴覚及び経験に基づく判定であるため、検出見逃しが発生する恐れがあった。
【0004】
[関連技術]
尚、無線装置における混信の有無を検出する従来技術としては、特許第6647424号公報「無線機」(特許文献1)がある。
特許文献1には、ADCから出力された受信信号をベースバンド周波数に変換し、最適なサンプリングレートに変換し、窓処理を施してからFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)処理を行い、FFT処理の出力のピーク電力を検出し、検出したピーク数によって混信状態を検出する無線機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6647424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の無線装置では、航空管制官が耳で聴き分けて混信の有無を判定していたため、検出精度が低く、見逃がしが発生する恐れがあるという問題点があった。
また、従来の無線装置では、混信の程度に応じた危険度を報知できるものとはなっていないという問題点があった。
【0007】
尚、特許文献1には、FFTをオーバーラップ処理で行って、混信の検出に要する時間を短縮し、検出精度を向上させることは記載されていない。
【0008】
本発明は上記実状に鑑みて為されたもので、迅速且つ高精度に混信の有無を検出でき、更に混信の程度に応じた危険度を報知して、安全性を高めることができる無線装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、一つの無線通信エリアにおいて複数の無線機が同時に同一周波数で電波を送信することで受信側に発生する混信を検出する無線装置であって、受信信号に対して後続の高速フーリエ変換(FFT)処理の結果を最適化するために窓処理を行う窓処理部と、窓処理部から出力された信号を高い周波数にレート変換して、特定数のサンプルを含むFFTフレームを、一定のサンプル数だけずらしながらオーバーラップさせて切り出し、FFTフレームを一定のサンプル数の時間毎に順次出力するレート変換部と、レート変換部から出力されたFFTフレーム毎に、当該FFTフレームの信号を周波数とレベルの関係に高速フーリエ変換するFFT部と、FFT部から出力されたキャリア周波数を含む帯域のピーク電力を検出し、検出したピークの数によって混信状態を一定のサンプル数の時間毎に判定して混信を検出する混信検出部と、を備える。
【0010】
また、本発明は、上記無線装置において、NTPプロトコル又はGPSによる時刻情報を取得するインタフェース部を有する。
【0011】
また、本発明は、上記無線装置において、混信検出部によって混信が検出された場合に混信状態のデータを記憶する記憶装置が接続されている。
【0012】
また、本発明は、上記無線装置において、記憶装置から混信状態のデータを読み出して表示するコンピュータ装置が接続されている。
【0013】
また、本発明は、上記無線装置において、コンピュータ装置が、混信状態であることを示すデータを受信すると、危険度が小さいことを示す警告を表示すると共に計時を開始し、混信状態が特定の時間より長く継続した場合は危険度が大きいことを示す警報を表示する。
【0014】
また、本発明は、FFT処理の1フレームのサンプル数を増やすと共に、オーバーラップさせる回数を増やす上記無線装置としている。
【0015】
また、本発明は、上記無線装置において、複数の無線通信エリアに対応して、複数の周波数毎に窓処理部、FFT部及び混信検出部を備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一つの無線通信エリアにおいて複数の無線機が同時に同一周波数で電波を送信することで受信側に発生する混信を検出する無線装置であって、受信信号に対して後続の高速フーリエ変換(FFT)処理の結果を最適化するために窓処理を行う窓処理部と、窓処理部から出力された信号を高い周波数にレート変換して、特定数のサンプルを含むFFTフレームを、一定のサンプル数だけずらしながらオーバーラップさせて切り出し、FFTフレームを一定のサンプル数の時間毎に順次出力するレート変換部と、レート変換部から出力されたFFTフレーム毎に、当該FFTフレームの信号を周波数とレベルの関係に高速フーリエ変換するFFT部と、FFT部から出力されたキャリア周波数を含む帯域のピーク電力を検出し、検出したピークの数によって混信状態を一定のサンプル数の時間毎に判定して混信を検出する混信検出部と、を備える無線装置としているので、混信有無の検出に要する時間を短縮すると共にFFTポイント数を増やして検出精度を向上させることができ、迅速且つ高精度に混信の有無を判定することができる効果がある。
【0017】
また、本発明によれば、混信検出部によって混信が検出された場合に混信状態のデータを記憶する記憶装置が接続されている上記無線装置としているので、混信状態のデータを解析に利用することができる効果がある。
【0018】
また、本発明によれば、記憶装置から混信状態のデータを読み出して表示するコンピュータ装置が接続されている上記無線装置としているので、混信の状態を表示によって報知することができる効果がある。
【0019】
また、本発明によれば、コンピュータ装置が、混信状態であることを示すデータを受信すると、危険度が小さいことを示す警告を表示すると共に計時を開始し、混信状態が特定の時間より長く継続した場合は危険度が大きいことを示す警報を表示する上記無線装置としているので、混信の程度に応じた危険度を報知して、安全性を高めることができる効果がある。
【0020】
また、本発明によれば、FFT処理の1フレームのサンプル数を増やすと共に、オーバーラップさせる回数を増やす無線装置としているので、ノイズフロアを低減して更に検出精度を向上させることができる効果がある。
【0021】
また、本発明によれば、複数の無線通信エリアに対応して、複数の周波数毎に窓処理部、FFT部及び混信検出部を備える上記無線装置としているので、複数の無線通信エリアにおける混信の有無を検出することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本無線装置の構成例を示す説明図である。
図2】受信装置4の構成ブロック図である。
図3】混信検出装置における処理を示すフローチャートである。
図4】混信検出装置におけるオーバーラップ処理の概要を示す説明図である。
図5】混信検出時の波形例(1)を示す説明図である。
図6】混信検出時の波形例(2)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
[実施の形態の概要]
本発明の実施の形態に係る無線装置(本無線装置)は、複数の無線機が同一の周波数を用いて送信した際に受信側で発生する混信の有無を検出する混信検出装置を備え、混信検出装置において、窓処理部が、キャリア周波数を中心周波数とする受信信号に対して後続のFFT処理を最適に行うための窓処理を行い、レート変換部が、窓処理部からの出力信号を高い周波数でレート変換して、特定数のサンプルを含むフレームをオーバーラップさせつつ出力し、FFT部が、レート変換部から出力された信号をフレーム単位でFFT処理して周波数とレベルの関係を出力し、混信検出部が、FFT部から出力されたキャリアのピークを検出し、複数のピークが検出された場合に混信状態と判定するものであり、フレームをオーバーラップさせてFFT処理することにより、混信有無の検出に要する時間を短縮すると共にFFTポイント数を増やして検出精度を向上させることができ、迅速且つ高精度に混信の有無を判定することができるものである。
【0024】
また、本無線装置は、混信を検出すると、混信があることを示す警告を出力すると共に継続時間の計測を開始し、継続時間が一定時間以上になると危険度が大きいことを示す警報を出力するものであり、危険度をリアルタイムで報知することができ、注意を促すことができるものである。
【0025】
また、本無線装置は、複数の無線通信エリアに対応する周波数毎に上述した混信検出装置を備えたものとしており、複数の無線通信エリアにおける混信の有無を検出することができるものである。
【0026】
[本無線装置の構成例:図1
本無線装置の構成例について図1を用いて説明する。図1は、本無線装置の構成例を示す説明図である。
図1に示すように、本無線装置は、アンテナ1と、GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)アンテナ2と、高周波部3と、受信装置4と、ネットワーク装置5と、パソコン(パーソナルコンピュータ)6と、外部記憶装置7とを備えている。
【0027】
アンテナ1は、航空機に搭載された無線機(無線局)と無線信号の送受信を行う。
GPSアンテナ2は、複数のGPS衛星からのGPS信号を受信して、GPS受信信号を受信装置4に出力する。受信装置4では、GPS受信信号に基づいて位置情報及び時刻情報を取得する。
【0028】
高周波部3は、無線信号の送受信に伴う周波数変換や増幅を行う。具体的には、高周波部3は、アンテナ1からの無線信号を増幅してIF信号にダウンコンバートし、受信装置4に出力する。また、受信装置4からのIF信号を高周波信号に変換し、無線アンテナ1に出力する。
【0029】
受信装置4は、復調部を備え、受信した信号を復調して受信音声をスピーカに出力する。
また、本無線装置の受信装置4は、受信信号における混信の有無を検出する混信検出装置を備えており、入力された受信信号について混信の有無を検出して、その結果をパソコン6に出力する。混信検出装置については後述する。
【0030】
更に、受信装置4は、GPSアンテナ2からのGPS受信信号に基づいて時刻情報を取得するGPSインタフェース部を備えている。
そして、混信検出装置における検出結果に時刻情報を付して、後述するパソコン6や外部記憶装置7に出力する。
ここでは、GPS受信信号から時刻情報を取得するものとしているが、ネットワーク信号からNTP(Network Time Protocol)の時刻情報を取得するネットワークインタフェース部を備えたものとしてもよい。
【0031】
尚、本無線装置には、入力された送信音声を変調して高周波部3に出力する送信装置も設けられているが、ここでは図示を省略する。また、受信装置4を送受信装置として、送信及び受信に伴う変復調を行うように構成してもよい。
【0032】
ネットワーク装置5は、受信装置4をネットワークに接続するものであり、ここでは、ネットワーク装置5を介してパソコン6及び外部記憶装置7が接続されているが、更にインターネット等外部のネットワークに接続してもよい。
【0033】
パソコン6は、管制官等の操作者が操作する端末であり、受信装置4からの混信に関する情報(混信状態のデータ)に基づいて、混信の有無や、混信の程度を示す警告や警報を表示する。また、受信した音声を出力するスピーカや、送信音声を入力するマイクが設けられている。
【0034】
外部記憶装置7は、受信装置4から出力された混信に関する情報を記憶し、パソコン6からの要求があれば、記憶している情報を出力する。外部記憶装置7にデータを蓄積することにより、混信の状況を解析可能としている。
【0035】
[受信装置の構成:図2
次に、受信装置4の構成について図2を用いて説明する。図2は、受信装置4の構成ブロック図である。
受信装置4は、受信信号を復調して受信音声を出力すると共に、所定のキャリア周波数を中心とする狭い帯域の信号について混信の有無を検出するものである。
図2に示すように、受信装置4は、ADC(Analog Digital Converter)11と、周波数変換部12と、第1のレート変換部(レート変換部(1))13と、第2のレート変換部(レート変換部(2))14と、窓処理部15と、第3のレート変換部(レート変換部(3))16と、FFT部17と、混信検出部18と、電力検出部19と、復調部21と、DAC(Digital Analog Converter)22とを備えている。
これらの内、第2のレート変換部14と、窓処理部15と、第3のレート変換部16と、FFT部17と、混信検出部18と、電力検出部19とを含む部分が混信検出装置となる。
尚、ここでは、ADC11の前段に、所定のキャリア周波数を中心とする狭い帯域を通過させるバンドパスフィルタが設けられている。
【0036】
ADC11は、IF周波数のアナログ信号又は直交化されたベースバンド周波数のアナログ信号をデジタル信号に変換する。
周波数変換部12は、IF周波数のデジタル信号をベースバンド周波数に変換する。但し、直交化されたベースバンド周波数のデジタル信号が入力される場合には、周波数変換部12は省略可能である。
第1のレート変換部13は、ベースバンド周波数の信号を復調処理に最適なサンプリングレート(例えば1MHz)に変換する。
【0037】
復調部21は、第1のレート変換部13から出力された信号を適切なレベルに増幅又は減衰してから、AM復調する。
DAC22は、復調されたデジタル信号をアナログ信号に変換して、音声を出力する。
【0038】
第2のレート変換部14は、入力された信号を、更に、後段の窓処理に適したサンプリングレート(例えば24kHz)に変換する。
窓処理部15は、第2のレート変換部14から出力された信号について、後段のFFT結果を最適化するよう窓関数による処理を行う。
【0039】
第3のレート変換部16は、窓処理部15から出力された信号について、FFTの処理単位となるサンプル数を含むFFTフレームを、FFT処理に最適なサンプリングレート(例えば200MHz)に変換して出力する。
その際、第3のレート変換部16は、予め設定されたサンプル数をオーバーラップさせつつフレームを出力する。第3のレート変換部16は、請求項に記載したレート変換部に相当する。
【0040】
FFTフレームのサイズを固定とした場合、受信信号のサンプリング周波数を復調に必要な帯域よりも更に狭めることで、FFTの周波数分解能を向上させることが可能である。これは、送信機の周波数偏差により決定する。FFTの周波数分解能を無線機の送信周波数の揺らぎが識別できる程度にサンプリング周波数を調整し、FFT処理することで、周波数と受信レベルの関係を算出する。
【0041】
FFT部17は、入力されたFFTフレームを単位としてFFT処理を行って、周波数とレベルの関係に変換する。これにより、キャリア周波数における電力レベルのピークが検出される。
本無線装置のFFT部17は、オーバーラップされたFFTフレームについてそれぞれFFT処理結果を出力する。オーバーラップにより、同一のサンプルを含む複数のFFTフレームがFFT処理されることで、検出精度を向上させ、混信の見逃しを防ぐことができるものである。
【0042】
混信検出部18は、FFT部17からの周波数とレベルの関係に基づいて、電力のピークの数を検出して、混信の有無を検出する。具体的には、ピークが1つであれば混信なし、2つ以上であれば混信ありとして判定し、判定結果をパソコン6に出力する。
【0043】
その際、混信検出部18は、後述する電力検出部19からFFT処理結果におけるピーク電力の電力値(ピーク電力値)を入力し、ピーク電力値が予め設定されているしきい値未満の場合には、ピークとして検出しない。
【0044】
これは、ノイズフロアの微小なレベル増減をピークとして検出しないためであり、ある一定レベル以上のピーク電力のみをピークとして検出する。
ピークを検出するためのピーク電力値のしきい値は、電波の受信状況(電波状況)に応じて設定され、パソコン6等からの外部信号によって設定変更が可能である。
【0045】
電力検出部19は、FFT部17からの信号について電力を検出し、ピーク電力値を混信検出部18に出力する。
また、混信が発生すると、それぞれの変調波の電力差にもよるが、ビート(波形の揺れ)が発生するため、電力検出部19が、それに基づいて混信レベルを検出して出力するように構成してもよい。
具体的には、電力検出部19は、第1のレート変換部13から出力される信号を入力し、その電力値を検出して、ビートの変動量から、2つの変調波の電力差を検出し、混信レベルとしてパソコン6等に出力する。
そして、パソコン6の操作者が、混信検出部18からの混信有無判定結果と合わせて、混信の有無を最終判定してもよい。
【0046】
[混信検出の処理:図3
次に、図2に示した混信検出装置における処理について図3を用いて説明する。図3は、混信検出装置における処理を示すフローチャートである。尚、図3における処理番号(「S」に続く番号)は、図2における構成要素の符号と対応している。
図3に示すように、混信検出装置においては、キャリア周波数を中心として帯域制限された受信信号が入力されると、入力信号は、ADC11でデジタル信号に変換され(S11)、周波数変換部12でベースバンド周波数に変換される(S12)。
【0047】
そして、ベースバンド周波数の信号は第1のレート変換部13で復調に適したレートにレート変換(レート変換(1))され(S13)、第2のレート変換部14で窓処理に適したレートにレート変換(レート変換(2))され(S14)、窓処理部15で窓処理が施される(S15)。
【0048】
更に、窓処理が施された信号は、第3のレート変換部16においてFFTに適したレートにレート変換(レート変換(3))され(S16)、FFT部17においてフレーム単位でFFT処理されて、周波数とレベルの関係が出力される(S17)。
【0049】
そして、混信検出部18において、混信検出処理が行われる(S18)。
処理S18の混信検出処理では、混信検出部18は、FFT部17から出力されたFFT結果に基づいて所定のしきい値以上の電力値を有するピークの数を検出して、ピークの数が2つ以上であるか否かを判断する(S181)。
【0050】
処理S181において、ピークの数が2つ以上であれば、混信検出部18は、混信ありと判定して「混信あり」の結果をパソコン6及び外部記憶装置7に出力する(S182)。その際、混信検出部18は、GPS受信信号から取得した時刻情報を混信ありの検出結果に付して出力する。
また、処理181において、ピークの数が1つであれば、混信検出部18は、混信なしと判定して「混信なし」の結果に時刻情報を付してパソコン6及び外部記憶装置7に出力する(S183)。
このようにして、本無線装置の混信検出装置における処理が行われるものである。
【0051】
[オーバーラップ処理の概要:図4
次に、本無線装置の混信検出装置におけるFFTのオーバーラップ処理の概要について図4を用いて説明する。図4は、混信検出装置におけるオーバーラップ処理の概要を示す説明図である。
図4では、上段に示した受信信号をオーバーラップFFT処理する場合を示している。横軸は時間である。
上述したように、本無線装置では、第3のレート変換部16が、200MHzにレート変換して、所定のサンプル数を含むフレームを、特定サンプル数(ここでは1サンプル)だけずらして切り出して、オーバーラップさせながらFFT部17に出力し、FFT部17では入力されたフレームから順次FFT処理して結果を出力する。
図4では、フレーム(1)、フレーム(2)、フレーム(3)…を1サンプルずつずらしてオーバーラップさせているため、フレーム(1)についてFFT処理を行った結果の出力後、1サンプル時間ずつ遅れてフレーム(2)、フレーム(3)…のFFT処理結果が出力される。
【0052】
このように、本無線装置では、オーバーラップによって1サンプル時間毎にFFT処理を行うため、混信の有無の検出結果を従来よりも迅速に通知できるものである。
同様に、混信ありの状態から混信なしの状態に変化した場合にも、従来よりも迅速に通知することができるものである。
【0053】
また、同一サンプルについてオーバーラップされた回数分のFFT処理が行われるため、検出精度を大幅に向上させることができる。本無線装置では、信号間の相対レベル差が40dB以上ある場合でも混信を検出することができ、混信の見逃しを防ぐことができるものである。
【0054】
更に、FFT処理を行う1フレームのサンプル数を増やして、オーバーラップさせる回数を増やすことも可能であり、これにより、ノイズフロアを低減して更に検出精度を向上させることができるものである。
【0055】
[警告・警報の表示]
本無線装置では、混信を検出した場合に、パソコン6が警告や警報を出力して、操作者に報知する。
例えば、パソコン6の制御部は、受信装置の混信検出部18から「混信あり」が入力されると、表示部に「警告」のアラーム表示を出力する。警告は、危険度の比較的小さい混信状態を示す。
それと共に、パソコン6の制御部は、計時を開始し、計測時間が予め設定された特定時間を超えた場合には、「警報」のアラーム表示を出力する。警報は、危険度の大きい混信状態であることを示す。
パソコン6の制御部は、「混信なし」が入力されると、計測時間をリセットする。
【0056】
これにより、管制官等は、混信状態になっていることや、混信の程度がどの程度なのかをリアルタイムで知ることができ、航空機に対しても注意を喚起して重大インシデントを未然に防ぐことができるものである。
特に、混信状態にあることが一目で分かるため、耳で聴き分けるのに比べて見逃しを低減でき、更に、管制官の負荷も軽減できるものである。
【0057】
また、ここでは、リアルタイムで警告や警報を表示する例について説明したが、本無線装置では、受信装置4からの混信に関する情報(日時、受信状態、混信の有無、電力値のデータ、波形データ等)を外部記憶装置7に記憶しているため、パソコン6又は解析用の端末が外部記憶装置7からデータを読み出して、詳細な解析を行うことが可能である。
混信に関する情報は、請求項に記載した混信状態のデータに相当する。また、混信に関する情報として、混信していない状態における各種データを含んでもよい。
【0058】
例えば、混信検出結果が、「混信なし」から「混信あり」に変わったタイミングを混信開始日時とし、「混信あり」から「混信なし」に変わったタイミングを混信終了日時として、混信継続時間を算出することが可能である。
同様に、波形データに基づいて、ピークが2つ検出され始めたタイミングを混信開始とし、ピークが1本に戻ったタイミングを混信終了として、混信継続時間を求めることも可能である。
更に、パソコン6において、外部記憶装置7から読み出したデータに基づいて、混信の履歴を一覧表示し、混信発生の状況を一目で分かるようにしてもよい。
【0059】
[混信検出時の波形例:図5図6
次に、混信検出時の波形例について図5図6を用いて説明する。図5は、混信検出時の波形例(1)を示す説明図であり、図6は、混信検出時の波形例(2)を示す説明図である。図5(1)~図6(6)は一連の混信状態において検出された波形を時系列に表したものである。
【0060】
図5,6において、上段の図はFFT出力結果であり、横軸は周波数である。下段の図は観測周波数帯域であり、上段の図で受信信号が観測された帯域を示している。また、図5,6の各図における横軸のスケールは一致していない。
【0061】
図5(1)に示すように、航空機Aが送信中の場合、FFT結果は特定の周波数において電力のピーク(第1のピーク)が現れる。この状態はピークが1本であり、混信なしである。
【0062】
そして、図5(2)に示すように、航空機Bが同一周波数で送信を開始すると、航空機Bによる電力のピークが現れる。航空機Bの受信信号はまだそれほど強くなく、航空機Aの受信信号とはレベル差が大きいが、本無線装置では、FFT結果から第2のピークが検出され、波形にも第2のピークが現れるため、混信検出部18では、混信開始を迅速に検出でき、パソコン6に波形を表示すれば、波形からも容易に認識できるものである。
【0063】
混信がある場合には、送信側が同一周波数で送信していても、原振の揺れとドップラーシフトにより、受信側ではAM変調波のキャリア信号が複数確認できる。本無線装置では、このことを利用してキャリア信号のピーク電力を検出し、電力値がしきい値以上のピークが2つ以上あれば混信ありと判断する。
上述したように、リアルタイムの処理では、パソコン6の制御部は、この状態で混信時間の計時を開始すると共に、「混信あり」を示す警告を表示する。
【0064】
更に、図5(3)、図6(4)に示すように、航空機Bが近づくにつれて航空機Bによる第2のピークは大きくなり、混信状態が継続する。
そして、図6(5)に示すように、航空機Aからの送信が終了すると、第1のピークは小さくなって、混信が終了する。混信検出部18は、第1のピークの電力レベルが一定値未満となったら、混信終了を検出する。
パソコン6の制御部では、この時点で混信時間の計時を終了する。
図6(6)では、航空機Bが送信中であり、混信は発生していない。
【0065】
これらの波形データは、リアルタイムでパソコン6に表示可能であり、更に、外部記憶装置7にも記憶されるため、後日、データを読み出して解析に用いることができるものである。
【0066】
[複数周波数における混信を検出]
図2では、1つのキャリア周波数における混信の有無を検出する受信装置の例を示したが、RFダイレクトサンプリングを用いて、複数の周波数について混信の有無を検出する構成とすることも可能である。複数の周波数には、例えば、隣接するセクタで用いられているキャリア周波数がある。
【0067】
具体的には、受信装置を、複数の異なる周波数を通過させるフィルタと、各フィルタに対応するADCと、各ADCに対応する混信検出装置とを備えた構成とする。
そして、各ADCが各フィルタを通過した周波数をデジタル信号に変換し、対応する混信検出装置が、それぞれ入力された周波数についての混信の有無を検出して、パソコン6に出力する。パソコン6では、検出元の混信検出装置に応じて周波数を特定し、周波数を付して検出結果や警告及び警報を表示する。
各混信検出装置における動作は、上述した例と同様である。
これにより、本無線装置によって複数のセクタにまたがって、同時に混信の有無を検出することができ、広いエリアにおける航空管制の信頼性を向上させることができるものである。
【0068】
[実施の形態の効果]
本無線装置によれば、複数の無線機が同一の周波数を用いて送信した際に受信側で発生する混信の有無を検出する混信検出装置を備え、混信検出装置において、窓処理部15が、キャリア周波数を中心周波数とする受信信号に対して後続のFFT処理を最適に行うための窓処理を行い、レート変換部16が、窓処理部15からの出力信号を高い周波数でレート変換して、特定数のサンプルを含むフレームをオーバーラップさせつつ出力し、FFT部17が、レート変換部16から出力された信号をフレーム単位でFFT処理して周波数とレベルの関係を出力し、混信検出部18が、FFT部17から出力されたキャリアのピークを検出し、複数のピークが検出された場合に混信状態と判定するようにしているので、フレームをオーバーラップさせてFFT処理することにより、混信有無の検出に要する時間を短縮すると共にFFTポイント数を増やして検出精度を向上させることができ、迅速且つ高精度に混信の有無を判定することができる効果がある。
【0069】
また、本無線装置によれば、パソコン6の制御部が、混信検出部18から混信ありを示すデータが入力されると、混信状態であることを示す警告を出力すると共に継続時間の計測を開始し、継続時間が一定時間以上になると、危険度が大きいことを示す警報を出力するようにしており、危険度をリアルタイムで報知して、管制官等に注意を促すことができる効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、航空管制において迅速且つ高精度に混信の有無を検出でき、更に混信の程度に応じた危険度を報知して、安全性を高めることができる無線装置に適している。
【符号の説明】
【0071】
1…アンテナ、 2…GPSアンテナ、 3…高周波部、 4…受信装置、 5…ネットワーク装置、 6…パソコン、 7…外部記憶装置、 11…ADC、 12…周波数変換部、 13…第1のレート変換部、 14…第2のレート変換部、 15…窓処理部、 16…第3のレート変換部、 17…FFT部、 18…混信検出部、 19…電力検出部、 21…復調部、 22…DAC
図1
図2
図3
図4
図5
図6