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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】ポリエーテルエーテルケトン
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/40 20060101AFI20240729BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20240729BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20240729BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240729BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240729BHJP
【FI】
C08G65/40
B29C64/153
B29C64/314
B33Y70/00
B33Y80/00
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2023502652
(86)(22)【出願日】2021-07-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-08-09
(86)【国際出願番号】 EP2021069492
(87)【国際公開番号】W WO2022013234
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】20186169.7
(32)【優先日】2020-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アダム モンドジク
(72)【発明者】
【氏名】マルコ ゲンスハイマー
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフガング ディークマン
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-011726(JP,A)
【文献】特開平01-198624(JP,A)
【文献】特開2010-006057(JP,A)
【文献】特表2020-522601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G65/00 -67/04
B29C64/153
B29C64/314
B33Y70/00
B33Y80/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】
[式中、
Arは、それぞれArの物質量に対して
a)1,4-フェニレン基75~98mol%と、
b)X,Y-ナフチレン基であって、ここで、X≠Yであり、かつXおよびYは互いに独立して1~10の整数値をとり、2,7-ナフチレン基は除外されるものとするX,Y-ナフチレン基2~25mol%と
を含み、すべてのAr基の合計は100mol%であり、
Arには、2,2’-ビスフェニルメタノン基、2,4’-ビスフェニルメタノン基、3,3’-ビスフェニルメタノン基、4,4’-ビスフェニルメタノン基およびそれらの混合物が含まれ、nは、10~10000である]のポリエーテルエーテルケトンコポリマー。
【請求項2】
Arは、
1,4-フェニレン基78~97mol%と、
X,Y-ナフチレン基3~22mol%と
を含むことを特徴とする、請求項1記載のポリエーテルエーテルケトンコポリマー。
【請求項3】
Ar基は、1,3-フェニレン基または1,2-フェニレン基をさらに含むことを特徴とする、請求項1または2記載のポリエーテルエーテルケトンコポリマー。
【請求項4】
前記コポリマーは、ハロゲニドおよびOHから選択される少なくとも1つの末端基を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載のポリエーテルエーテルケトンコポリマー。
【請求項5】
Arは、4,4’-ビスフェニルメタノン基であることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載のポリエーテルエーテルケトンコポリマー。
【請求項6】
前記コポリマーにおいて、DIN EN ISO 1133に準拠したMVR値(メルトボリュームレイト、380℃、5kg)が0.2mL/10min~800mL/10minであることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載のポリエーテルエーテルケトンコポリマー。
【請求項7】
前記コポリマーにおいて、20時間のオーブンエージング(溶融温度より20K低い、窒素雰囲気、1bar)後に、DIN EN ISO 1133に準拠して380℃で測定した前記メルトボリュームレイト(MVR)値の、前記オーブンエージング前の前記MVR値に対する低下は、最大で60%であることを特徴とする、請求項記載のポリエーテルエーテルケトンコポリマー。
【請求項8】
ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定されたポリスチレン換算重量平均分子量が、3000g/mol~350000g/molであることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載のポリエーテルエーテルケトンコポリマー。
【請求項9】
前記コポリマーは、DIN 53765に準拠して示差走査熱量測定法によって20K/minの昇温速度で測定された250℃~330℃の融点を有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載のポリエーテルエーテルケトンコポリマー。
【請求項10】
前記コポリマーは、粉末として存在し、レーザー回折により測定された重量平均粒度d50は、10μm~120μmであることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載のポリエーテルエーテルケトンコポリマー。
【請求項11】
前記コポリマーは、添加剤をさらに含み、前記添加剤は、流動助剤、顔、熱安定剤、フィラーおよび物から選択される、請求項1から10までのいずれか1項記載のポリエーテルエーテルケトンコポリマー。
【請求項12】
前記ナフチレン基は、1,5-ナフチレン基、2,3-ナフレン基および2,6-ナフレン基から選択されることを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載のポリエーテルエーテルケトンコポリマー。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項記載のポリエーテルエーテルケトンコポリマーの製造方法であって、フェノール誘導体とジハロゲンベンゾフェノン誘導体とを反応させ、
ビスフェノール誘導体は、それぞれビスフェノール誘導体の物質量に対して、
ヒドロキノン75~98mol%と、
X,Y-ジヒドロキシナフタレンであって、ここで、X≠Yであり、かつXおよびYは互いに独立して1~10の整数値をとり、2,7-ジヒドロキシナフタレンは除外されるものとするX,Y-ジヒドロキシナフタレン2~25mol%と
を含み、ビスフェノール誘導体の合計は100mol%であり、
前記ジハロゲンベンゾフェノン誘導体には、2,2’-ビスフェニルメタノンハロゲニド、2,4’-ビスフェニルメタノンハロゲニド、3,3’-ビスフェニルメタノンハロゲニド、4,4’-ビスフェニルメタノンハロゲニドおよびそれらの混合物が含まれることを特徴とする、方法。
【請求項14】
上記反応を、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属塩化物またはそれらの混合物の存在下で行う、請求項13記載の方法。
【請求項15】
粉末床溶融結合法で三次元物体を製造するための、式(I)
【化2】
[式中、
Arは、それぞれArの物質量に対して
a)1,4-フェニレン基40~98mol%と、
b)X,Y-ナフチレン基であって、ここで、X≠Yであり、かつXおよびYは互いに独立して1~10の整数値をとるものとするX,Y-ナフチレン基2~60mol%と
を含み、すべてのAr基の合計は100mol%であり、
Arには、2,2’-ビスフェニルメタノン基、2,4’-ビスフェニルメタノン基、3,3’-ビスフェニルメタノン基、4,4’-ビスフェニルメタノン基およびそれらの混合物が含まれ、nは、10~10000である]のポリエーテルエーテルケトンコポリマーの使用。
【請求項16】
Arは、
1,4-フェニレン基65~97mol%と、
X,Y-ナフチレン基3~35mol%と
を含むことを特徴とする、請求項15記載の使用。
【請求項17】
Ar基は、1,3-フェニレン基または1,2-フェニレン基をさらに含むことを特徴とする、請求項15または16記載の使用。
【請求項18】
前記コポリマーは、ハロゲニドおよびOHから選択される少なくとも1つの末端基を有することを特徴とする、請求項15から17までのいずれか1項記載の使用。
【請求項19】
Arは、4,4’-ビスフェニルメタノン基であることを特徴とする、請求項15から18までのいずれか1項記載の使用。
【請求項20】
前記コポリマーにおいて、DIN EN ISO 1133に準拠したMVR値(メルトボリュームレイト、380℃、5kg)が0.2mL/10min~800mL/10minであることを特徴とする、請求項15から19までのいずれか1項記載の使用。
【請求項21】
前記コポリマーにおいて、20時間のオーブンエージング(溶融温度より20K低い、窒素雰囲気、1bar)後に、DIN EN ISO 1133に準拠して380℃で測定した前記メルトボリュームレイト(MVR)値の、前記オーブンエージング前の前記MVR値に対する低下は、最大で60%であることを特徴とする、請求項20記載の使用。
【請求項22】
ゲル浸透クロマトグラフィーによって決定されたポリスチレン換算重量平均分子量が、3000g/mol~350000g/molであることを特徴とする、請求項15から21までのいずれか1項記載の使用。
【請求項23】
前記コポリマーは、DIN 53765に準拠して示差走査熱量測定法によって20K/minの昇温速度で測定された250℃~330℃の融点を有することを特徴とする、請求項15から22までのいずれか1項記載の使用。
【請求項24】
前記コポリマーは、粉末として存在し、レーザー回折により測定された重量平均粒度d50は、10μm~120μmであることを特徴とする、請求項15から23までのいずれか1項記載の使用。
【請求項25】
前記コポリマーは、添加剤をさらに含み、前記添加剤は、流動助剤、顔、熱安定剤、フィラーおよび物から選択される、請求項15から24までのいずれか1項記載の使用。
【請求項26】
前記ナフチレン基は、1,5-ナフチレン基、2,3-ナフレン基、2,6-ナフレン基および2,7-ナフチレン基から選択されることを特徴とする、請求項15から25までのいずれか1項記載の使用。
【請求項27】
式(I)
【化3】
[式中、
Arは、それぞれArの物質量に対して
a)1,4-フェニレン基75~98mol%と、
b)X,Y-ナフチレン基であって、ここで、X≠Yであり、かつXおよびYは互いに独立して1~10の整数値をとり、2,7-ナフチレン基は除外されるものとするX,Y-ナフチレン基2~25mol%と
を含み、すべてのAr基の合計は100mol%であり、
Arには、2,2’-ビスフェニルメタノン基、2,4’-ビスフェニルメタノン基、3,3’-ビスフェニルメタノン基、4,4’-ビスフェニルメタノン基およびそれらの混合物が含まれ、nは、10~10000である]のポリエーテルエーテルケトンコポリマーを含む、三次元物体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテルエーテルケトンコポリマー、その製造方法、その使用、および該コポリマーから得ることができる三次元物体に関する。
【0002】
付加製造、特に粉末床溶融結合法では、特に適切な溶融粘度範囲を有する材料が必要である。溶融粘度が低すぎると、溶融物が所定の成分境界を越えて周囲の粉末床に流れ込み、その結果、粉末の付着や輪郭の鮮明度の低下につながる。粘度が高すぎると、最悪の場合、溶融状態の短い時間範囲内に粉末粒子がほとんどまたは全く混ざらないため、低密度で機械的特性が不十分な部品が製造されるという結果を招く。
【0003】
造形プロセスの過程で、材料は、一般に融点より20K程度低い造形空間温度による比較的長時間の熱応力によって変化する。この変化は、高温ポリマーの場合にも特に酸素の存在下で発生する。高温ポリマーには、ポリアリールエーテルケトン、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)およびポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)が含まれる。熱応力時の反応機構としては、後重合、熱的または熱酸化的な架橋および鎖の切断が考えられる。この結果、例えば溶融粘度が変化する。アレニウス則によれば、高温になると老化反応が促進される。したがって、材料の変化を最小限に抑えるためには(ひいてはまた、材料のある程度のリサイクル性を保証し、プロセスの経済性を高めるためには)、a.)無酸素で作業し、かつb.)造形空間温度をできるだけ低く抑えること、すなわち、例えば低融点材料を使用することが合理的である。
【0004】
したがって、先行技術の欠点を示さないポリアリールエーテルケトンを提供することが課題であった。比較的低温での粉末床溶融結合法で加工可能なポリアリールエーテルケトンが提供されることが望ましく、その際、比較的良好な機械的特性が達成される。
【0005】
この課題は、式(I)
【化1】
のポリエーテルエーテルケトンコポリマーにより解決可能であった。
【0006】
ここで、Arは、1,4-フェニレン基を75~98mol%、好ましくは78~97mol%、特に好ましくは78~92mol%、X,Y-ナフチレン基を2~25mol%、好ましくは3~22mol%、特に好ましくは8~22mol%含み、ここで、X≠Yであり、かつXおよびYは互いに独立して1~10の整数値をとり、好ましくは互いに独立して1~8の整数値をとり、2,7-ナフチレン基は除外される。好ましいナフチレン基は、1,5-ナフチレン基、2,3-ナフタレン基および2,6-ナフタレン基から選択され、2,3-ナフチレン基および2,6-ナフタレン基が特に好ましく、2,3-ナフチレン基が非常に特に好ましい。これらの数値は、Arの物質量に対するものであり、すべてのAr基の合計は100mol%である。構成要素Arには、2,2’-ビスフェニルメタノン基、2,4’-ビスフェニルメタノン基、3,3’-ビスフェニルメタノン基、4,4’-ビスフェニルメタノン基およびそれらの混合物が含まれ、好ましくは4,4’-ビスフェニルメタノン基である。添え字nは、10~10000である。
【0007】
本発明の一実施形態において、Arは、1,3-フェニレン基または1,2-フェニレン基をさらに含む。化合物(I)は、1,3-フェニレン基と1,2-フェニレン基の双方を含んでいてもよい。
【0008】
式(I)の化合物は、粉末床溶融結合法での使用および加工が可能であるべきものである。この点では、該化合物が特定の粘性特性を示すことが重要である。したがって、本発明によるコポリマー(I)は、有利には、380℃における溶融粘度の指標としてのDIN EN ISO 1133に準拠したメルトボリュームレイト値(MVR)が0.2mL/10min~800mL/10minであり、ここで、5mL/10min~200mL/10minが好ましく、5mL/10min~120mL/10minが特に好ましく、10mL/10min~100mL/10minが非常に特に好ましい。荷重は5kgである。溶融粘度がこれらの範囲外であると、上記の欠点を招く。
【0009】
式(I)の化合物はさらに、比較的長時間の熱応力に耐え得るべきものである。これは例えば、コポリマーが窒素雰囲気下にDSC融点より20K低い温度で20時間にわたって溶融粘度の変化を受けるオーブンエージングによりシミュレート可能である。それに応じて、DIN EN ISO 1133に準拠して380℃で測定した本発明によるコポリマーの溶融粘度の、オーブンエージング前の溶融粘度に対する低下は、有利には最大で60%である。好ましくは、この低下は、最大で50%、特に好ましくは5%~45%である。言及されたパーセンテージは、360℃あるいは390℃での測定にも同様に適用される。荷重は5kgである。
【0010】
本発明によるコポリマーは好ましくは、3000g/mol~350000g/molのポリスチレン換算重量平均分子量を有する。好ましいポリスチレン換算重量平均分子量は、5000g/mol~300000g/molである。どちらの質量も、後述の方法に従ってゲル浸透クロマトグラフィーによって決定可能である。
【0011】
本発明によるコポリマーにより、公知のポリアリールエーテルケトンと比較して、造形空間温度を低下させることができる。コポリマーは好ましくは、250℃~330℃、好ましくは280℃~310℃の融点を有する(DIN 53765に準拠して示差走査熱量測定法DSCによって20K/minの昇温速度で測定)。
【0012】
本発明によるコポリマーを粉末床溶融結合法で加工するには、コポリマーが粉末の形態であることが必要である。有利には、重量平均粒度d50は、10μm~120μm、有利には40μm~90μm、好ましくは50μm~80μmである。d50値は、レーザー回折によって決定される。粉末は、粉砕のような慣用的な方法によって得ることができる。
【0013】
式(I)のポリエーテルエーテルケトンコポリマーは、添加剤を含むことができる。これらには、流動助剤、例えばSiOまたはAl、顔料、例えばTiOまたはカーボンブラック、熱安定剤、例えば有機リン化合物、例えばホスファイトまたはホスフィネート、難燃剤およびフィラー、例えばセラミックビーズ、ガラスビーズ、ガラス繊維または炭素繊維、ならびに鉱物、例えばマイカまたは長石が含まれる。流動助剤としてのSiOは通常は、一次粒子において5nm~100mmのd50を有する。フィラーとしてのガラスビーズは、10μm~800μmのd50値を有することができる。
【0014】
コポリマーは、様々な末端基を有することができる。ここでは、コポリマーが、ハロゲニド、好ましくはFまたはCl、およびOHから選択される少なくとも1つの末端基を有することが可能である。末端基は、ArあるいはArを含む過剰のモノマーにより得ることができる。例えば、一方のモノマー出発物質の他方のモノマー出発物質に対する過剰量は、最大で5mol%、好ましくは最大で3mol%であってよい。
【0015】
本発明によるコポリマーは、例えば粉末床溶融結合法における三次元物体の製造に使用することができる。
【0016】
本発明のさらなる主題は、本発明による式(I)のポリエーテルエーテルケトンコポリマーの製造方法である。本方法では、フェノール誘導体とジハロゲンベンゾフェノン誘導体とをモノマー出発物質として反応させる。フェノール誘導体は、それぞれフェノール誘導体の物質量に対して、75~98mol%、好ましくは78~97mol%、特に好ましくは78~92mol%のヒドロキノンと、2~25mol%、好ましくは3~22mol%、特に好ましくは8~22mol%のX,Y-ナフタレンジヒドロキシドとを含み、ここで、X≠Yであり、かつXおよびYは互いに独立して1~10の整数値をとり、ここで、2,7-ナフチレンジヒドロキシドは除外され、ビスフェノール誘導体の合計は100mol%である。有利には、XおよびYは互いに独立して1~8の整数値をとる。好ましいヒドロキシドは、1,5-ナフタレンジヒドロキシド、2,3-ナフタレンジヒドロキシドおよび2,6-ナフタレンジヒドロキシドから選択され、2,3-ナフタレンジヒドロキシドおよび2,6-ナフタレンジヒドロキシドが特に好ましく、2,3-ナフタレンジヒドロキシドが非常に特に好ましい。ジハロゲンベンゾフェノン誘導体には、2,2’-ビスフェニルメタノンハロゲニド、2,4’-ビスフェニルメタノンハロゲニド、3,3’-ビスフェニルメタノンハロゲニド、4,4’-ビスフェニルメタノンハロゲニドおよびそれらの混合物が含まれ、好ましくは4,4’-ビスフェニルメタノンハロゲニドである。好ましいハロゲニドは、FおよびClであり、特に好ましいのはジフルオロベンゾフェノン誘導体である。フェノール誘導体とジハロゲンベンゾフェノン誘導体とを等モル量で使用することができる。あるいはこれらの誘導体のうち一方を他方に対して最大で5mol%、好ましくは最大で3mol%過剰で使用することもできる。
【0017】
上記反応は有利には、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属塩化物またはそれらの混合物の存在下で行われ、アルカリ金属は好ましくは、リチウム、ナトリウムおよびカリウムから選択される。好ましくは炭酸塩が使用され、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムまたはそれらの混合物が特に好ましい。
【0018】
本発明のさらなる主題は、粉末床溶融結合法で三次元物体を製造するための、式(I)
【化2】
のポリエーテルエーテルケトンコポリマーの使用である。
【0019】
ここで、Arは、1,4-フェニレン基を40~98mol%、好ましくは65~97mol%、X,Y-ナフチレン基を2~60mol%、好ましくは3~35mol%含み、ここで、X≠Yであり、かつXおよびYは互いに独立して1~10の整数値をとり、好ましくは互いに独立して1~8の整数値をとる。さらにArは、1,4-フェニレン基を75~98mol%、好ましくは78~97mol%、特に好ましくは78~92mol%、X,Y-ナフチレン基を2~25mol%、好ましくは3~22mol%、特に好ましくは8~22mol%含むことができる。好ましいナフチレン基は、1,5-ナフチレン基、2,3-ナフタレン基、2,6-ナフタレン基および2,7-ナフチレン基から選択され、2,3-ナフチレン基、2,6-ナフタレン基および2,7-ナフチレン基が特に好ましく、2,3-ナフチレン基および2,7-ナフチレン基が特に好ましい。これらの数値は、Arの物質量に対するものであり、すべてのAr基の合計は100mol%である。構成要素Arには、2,2’-ビスフェニルメタノン基、2,4’-ビスフェニルメタノン基、3,3’-ビスフェニルメタノン基、4,4’-ビスフェニルメタノン基およびそれらの混合物が含まれ、好ましくは4,4’-ビスフェニルメタノン基である。添え字nは、10~10000である。
【0020】
使用の発明の一実施形態において、Arは、1,3-フェニレン基または1,2-フェニレン基をさらに含む。化合物(I)は、1,3-フェニレン基と1,2-フェニレン基の双方を含んでいてもよい。
【0021】
式(I)の化合物は、粉末床溶融結合法で使用される。この点では、該化合物が特定の粘性特性を示すことが重要である。したがって、本発明により使用されるコポリマー(I)は、有利には、380℃における溶融粘度の指標としてのDIN EN ISO 1133に準拠したメルトボリュームレイト値(MVR)が0.2mL/10min~800mL/10minであり、ここで、5mL/10min~200mL/10minが好ましく、5mL/10min~120mL/10minが特に好ましく、10mL/10min~100mL/10minが非常に特に好ましい。荷重は5kgである。溶融粘度がこれらの範囲外であると、上記の欠点を招く。
【0022】
使用される式(I)の化合物はさらに、比較的長時間の熱応力に耐え得るべきものである。これは例えば、コポリマーが窒素雰囲気下にDSC融点より20K低い温度で20時間にわたって溶融粘度の変化を受けるオーブンエージングによりシミュレート可能である。それに応じて、DIN EN ISO 1133に準拠して380℃で測定した本発明によるコポリマーの溶融粘度の、オーブンエージング前の溶融粘度に対する低下は、有利には最大で60%である。好ましくは、この低下は、最大で50%、特に好ましくは5%~45%である。言及されたパーセンテージは、360℃あるいは390℃での測定にも同様に適用される。荷重は5kgである。
【0023】
本発明により使用されるコポリマーは好ましくは、3000g/mol~350000g/molのポリスチレン換算重量平均分子量を有する。好ましいポリスチレン換算重量平均分子量は、5000g/mol~300000g/molである。どちらの質量も、後述の方法に従ってゲル浸透クロマトグラフィーによって決定可能である。
【0024】
本発明により使用されるコポリマーにより、公知のポリアリールエーテルケトンと比較して、造形空間温度を低下させることができる。コポリマーは好ましくは、250℃~330℃、好ましくは280℃~310℃の融点を有する(DIN 53765に準拠して示差走査熱量測定法DSCによって20K/minの昇温速度で測定)。
【0025】
本発明により使用されるコポリマーを粉末床溶融結合法で加工するには、コポリマーが粉末の形態であることが必要である。有利には、重量平均粒度d50は、10μm~120μm、有利には40μm~90μm、好ましくは50μm~80μmである。d50値は、レーザー回折によって決定される。粉末は、粉砕のような慣用的な方法によって得ることができる。
【0026】
使用される式(I)のポリエーテルエーテルケトンコポリマーは、添加剤を含むことができる。これらには、流動助剤、例えばSiOまたはAl、顔料、例えばTiOまたはカーボンブラック、熱安定剤、例えば有機リン化合物、例えばホスファイトまたはホスフィネート、難燃剤およびフィラー、例えばセラミックビーズ、ガラスビーズ、ガラス繊維または炭素繊維、ならびに鉱物、例えばマイカまたは長石が含まれる。流動助剤としてのSiOは通常は、一次粒子において5nm~100mmのd50を有する。フィラーとしてのガラスビーズは、10μm~800μmのd50値を有することができる。
【0027】
使用されるコポリマーは、様々な末端基を有することができる。ここでは、コポリマーが、ハロゲニド、好ましくはFまたはCl、およびOHから選択される少なくとも1つの末端基を有することが可能である。末端基は、ArあるいはArを含む過剰のモノマーにより得ることができる。例えば、一方のモノマー出発物質の他方のモノマー出発物質に対する過剰量は、最大で5mol%、好ましくは最大で3mol%であってよい。
【0028】
本発明のさらなる主題は、粉末床溶融結合法で三次元物体を製造するための使用に関して考慮されたポリエーテルエーテルケトンコポリマーを含む三次元物体である。
【0029】
実施例
A.測定方法
融点Tm
測定を、Perkin Elmer DSC 7装置でDIN 53765に準拠して示差走査熱量測定法により2回目昇温で実施した。昇温速度は20K/minであった。
【0030】
溶融粘度(メルトボリュームレイト、MVR)
測定を、DIN EN ISO 1133に準拠して、溶融温度360℃/380℃/390℃、荷重5kgで実施した。
【0031】
オーブンエージングを、窒素雰囲気(1bar)下で20時間行った。温度は、溶融温度より20K低かった。
【0032】
粒度
d50値を、Malvern Mastersizer 3000を用いたレーザー回折によって決定した。乾式測定で、20g~40gの粉末をAero S乾式分散装置により供給した。振動コンベヤの供給率は55%で、分散空気圧は3barであった。分散には、標準的なベンチュリーノズルを使用した。試料の測定時間は15秒(個々の測定数150000)、遮光設定は0.1%(下限)および5%(上限)であった。評価を、体積分布としてフラウンホーファー理論により行った。
【0033】
分子量
GPCによるMwの測定には、次のような試験構成を選択した:
【表1】
【0034】
試料の調製:試料を分析天秤で秤量し、4mLのジクロロ酢酸と混合した。試料を150℃で穏やかに振盪しながら3時間で完全に溶解させた。冷却した溶液を4倍量のクロロホルムに加え、測定前にポアサイズ1μmの単回使用型PTFEフィルターで濾過する。
【0035】
検量および評価:まず、検量線をポリスチレン標準物質によりカラムの組み合わせの分離領域で実施した。平均分子量およびその分布の計算を、ポリスチレン検量線に基づくストリップ法を用いてコンピュータ支援により実施する。
【0036】
B.コポリマーの製造
実施例1
撹拌機、トルクレコーダー、窒素導入口および窒素排出口を備えた2Lのスチール製反応器に、ジフェニルスルホン(670g、3.07mol)、ヒドロキノン(110.11g、1.00mol)、4,4’-ジフルオロベンゾフェノン(218.20g、1.00mol)および炭酸ナトリウム(117.65g、1.11mol)を装入した。反応器を密閉し、不活性化させた。この目的のために、反応器をまず3barの窒素で加圧し、その後、正圧を解除した。この手順を6回繰り返した。次に、内容物を窒素ブランケット下に5℃/minの昇温速度で150℃に加熱した。ジフェニルスルホンが溶融した後に撹拌機を始動させた。150℃の温度を50分間保持した。保持段階の後、1℃/minで320℃まで昇温させた。終了温度を、所定のトルク差に達するまで維持した。目標のトルク差に達した後、反応生成物を反応器からステンレス製の皿に排出した。反応生成物が冷えた後に粉砕し、アセトンおよび水で洗浄した。反応生成物をオーブンにて80℃で24時間乾燥させた。このプロセスにより、200~250gのポリマー粉末を得た。
【0037】
実施例2~4
実施例2~4における方法論的手順は、実施例1と一致していた。実施例1との相違点として、5~20mol%のヒドロキノンをX,Y-ナフチレンに置き換えた。
【0038】
各実施例のデータを以下の表にまとめる。いずれの場合も、Arは、4,4’-ビスフェニルメタノン基である。
【0039】
【表2】
【0040】
コポリマー2~4は、先行技術のPEEKポリマー(比較例1)よりも低い融点を有する。したがって、これらのコポリマーは、粉末床溶融結合法においてPEEKよりも低い温度で加工し、使用することができる。さらに、コポリマー2~4がエージング後に示すMVRの低下は、最大で56%である。したがって、これらは、比較的長時間の熱応力に耐えるものである。