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特許7528357リチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池用負極の製造方法
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  • 特許-リチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池用負極の製造方法 図1
  • 特許-リチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池用負極の製造方法 図2
  • 特許-リチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池用負極の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池用負極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20240729BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240729BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240729BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240729BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20240729BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20240729BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/133
H01M10/0525
H01M4/1393
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023503355
(86)(22)【出願日】2021-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2021034657
(87)【国際公開番号】W WO2022185584
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2021033765
(32)【優先日】2021-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505083999
【氏名又は名称】ビークルエナジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三木 健
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 修一
(72)【発明者】
【氏名】刀川 祐亮
【審査官】山下 裕久
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第2003-0033715(KR,A)
【文献】特開平6-325753(JP,A)
【文献】特開平6-349482(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0097237(US,A1)
【文献】国際公開第2019/159563(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13-62
H01M 10/05-0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
Li1+X (1)
(式中、
Xは、-0.15≦X≦0.15を満たし、
は、Mn及びAlからなる群から選択される少なくとも一つ、Ni、並びにCoを含む元素群を表す)
で表される正極活物質を含む正極合剤を有する正極と、
炭素系材料を含む負極活物質、酸化銅を含む負極添加剤、及びバインダーを含む負極合剤を有する負極と、
を備え、
前記負極合剤が、前記酸化銅を、前記負極活物質及び前記負極添加剤の総重量を基準として、0.5wt%以上かつ15wt%以下の濃度で含み、
前記負極添加剤が、前記負極活物質のメジアン径よりも小さく且つ1~10μmの範囲内であるメジアン径を有する、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記酸化銅が、CuOであり、
前記負極合剤が、前記酸化銅を、前記負極活物質及び前記負極添加剤の総重量を基準として、0.9wt%以上かつ15wt%以下の濃度で含む、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記酸化銅が、CuOであり、
前記負極合剤が、前記酸化銅を、前記負極活物質及び前記負極添加剤の総重量を基準として、0.5wt%以上かつ8.3wt%以下の濃度で含む、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記負極活物質及び前記負極添加剤が、いずれも粒子状であり、
前記負極活物質と前記負極添加剤が、互いに複合化されていない別個の粒子である、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項7】
炭素系材料を含む負極活物質、酸化銅を含む負極添加剤、及びバインダーの混合物を調製することと、
前記混合物を負極集電体に塗布することと、
を含み、
前記混合物が、前記酸化銅を、前記負極活物質及び前記負極添加剤の総重量を基準として、0.5wt%以上かつ15wt%以下の濃度で含み、
前記負極添加剤が、前記負極活物質のメジアン径よりも小さく且つ1~10μmの範囲内であるメジアン径を有する、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
【請求項8】
前記負極活物質と前記負極添加剤が、互いに複合化されていない別個の粒子である、請求項7に記載のリチウムイオン二次電池用負極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池、及びリチウムイオン二次電池用負極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車産業において、燃費規制及び環境規制が強化されている。これらの規制に準拠するため、電池を動力源とし二酸化炭素を排出しない電気自動車、及び水素を燃料源とする燃料電池車の技術開発が注目されている。しかしながら、電気自動車及び燃料電池車は、インフラ整備が不十分である等の様々な問題がある。そのため、内燃機関エンジンと電池の両方を動力源とし、二酸化炭素の排出量が少ないPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、及びHEV(Hybrid Electric Vehicle)が、燃費規制及び環境規制に対応するための有力候補となっている。
【0003】
PHEV又はHEVではリチウムイオン二次電池が用いられる。特許文献1には、リチウムイオン二次電池の高容量及び高出力化等を可能にする、六方晶系の層状構造を有するリチウムニッケルマンガンタングステン複合酸化物粒子を含む正極活物質が記載されている。特許文献2には、化学反応によって黒鉛粒子の表面に酸化銅を生成させることにより製造した酸化銅付着黒鉛複合体と結着材とからなる負極を有するリチウムイオン二次電池が記載され、このリチウムイオン二次電池が高い放電容量を有し得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-123494号公報
【文献】特開平8-45499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PHEV又はHEVにおいては、十分な放電容量を有するとともに、充電率(State of Charge、SOC)が低い領域において安定した出力を供給することができるリチウムイオン二次電池が求められる。低SOC領域において安定した出力を得るためには、低SOC領域におけるリチウムイオン二次電池の内部抵抗を低減することが要求される。しかし、本発明者らによれば、特許文献1に記載される正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池は、低SOC領域における内部抵抗が高い傾向がある。また、特許文献2には、低SOC領域における内部抵抗について何ら記載されていない。
【0006】
そこで、十分な放電容量を有するとともに、低SOC領域において低い内部抵抗を有するリチウムイオン二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に従えば、下記式(1):
Li1+X (1)
(式中、
Xは、-0.15≦X≦0.15を満たし、
は、Mn及びAlからなる群から選択される少なくとも一つ、Ni、並びにCoを含む元素群を表す)
で表される正極活物質を含む正極合剤を有する正極と、
炭素系材料を含む負極活物質、酸化銅を含む負極添加剤、及びバインダーを含む負極合剤を有する負極と、
を備え、
前記負極合剤が、前記酸化銅を、前記負極活物質及び前記負極添加剤の総重量を基準として、0.5wt%以上かつ15wt%以下の濃度で含む、リチウムイオン二次電池が、提供される。
【0008】
本発明の別の態様に従えば、
炭素系材料を含む負極活物質、酸化銅を含む負極添加剤、及びバインダーの混合物を調製することと、
前記混合物を負極集電体に塗布することと、
を含み、
前記混合物が、前記酸化銅を、前記負極活物質及び前記負極添加剤の総重量を基準として、0.5wt%以上かつ15wt%以下の濃度で含む、リチウムイオン二次電池用負極の製造方法が、提供される。
【0009】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2021-033765号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0010】
本開示のリチウムイオン二次電池は、十分な放電容量を有するとともに、低SOC領域において低い内部抵抗を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、リチウムイオン二次電池の外観斜視図である。
図2図2は、リチウムイオン二次電池の分解斜視図である。
図3図3は、捲回群の一部を展開した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面を参照して実施形態を説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができる。なお、以下の説明で参照する図面において、同一の部材又は同様の機能を有する部材には同一の符号を付し、繰り返しの説明を省略する場合がある。また、図面の寸法比率が説明の都合上実際の比率とは異なったり、部材の一部が図面から省略されたりする場合がある。また、本願において、記号「~」を用いて表される数値範囲は、記号「~」の前後に記載される数値のそれぞれを下限値及び上限値として含む。
【0013】
図1、2に示す実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、電池缶1及び電池蓋6を備える。電池缶1は、矩形の底面1dと、底面1dから立ち上がる相対的に面積の大きい一対の対向する幅広側面1bと相対的に面積の小さい一対の対向する幅狭側面1cとを含む側面と、幅広側面1b及び幅狭側面1cの上端で上方に向かって開放された開口部1aとを有する。なお、ここで、上方とは、図1、2のZ方向を意味する。
【0014】
電池缶1の開口部1aは、電池蓋6によって封止される。電池蓋6は略矩形平板状であって、電池缶1の開口部1aを塞ぐように溶接されて電池缶1を封止する。
【0015】
電池蓋6には、ガス排出弁10が一体的に設けられている。電池缶1内の圧力が上昇すると、ガス排出弁10が開裂して電池缶1の内部からガスが排出され、電池缶1内の圧力が減少する。これによって、リチウムイオン二次電池100の安全性が確保される。
【0016】
電池蓋6には、電池缶1内に電解液を注入するための注液口9が穿設される。注液口9は、電解液を電池缶1内に注入した後に注液栓11によって封止される。注液栓11は、レーザー溶接により電池蓋6に接合されて注液口9を封止し、リチウムイオン二次電池100を密閉する。
【0017】
電池蓋6には、さらに、正極側貫通孔46及び負極側貫通孔26が穿設される。
【0018】
電池蓋6の上方に、正極外部端子14及び負極外部端子12が設けられる。電池蓋6の下方であって電池缶1の内部に、正極集電板44及び負極集電板24が設けられる。
【0019】
正極外部端子14及び正極集電板44の形成素材としては、例えばアルミニウム合金が挙げられ、負極外部端子12及び負極集電板24の形成素材としては、例えば銅合金が挙げられる。
【0020】
正極外部端子14、負極外部端子12は、それぞれ、バスバー等が溶接接合される溶接接合部を有する。溶接接合部は、電池蓋6から上方に突出する直方体のブロック形状を有する。溶接接合部の下面は電池蓋6の表面に対向し、溶接接合部の上面は所定高さに位置し、電池蓋6と略平行である。
【0021】
正極集電板44は、電池蓋6の下面に対向する矩形板状の正極集電板基部41と、正極集電板基部41の側端から電池缶1の幅広側面1bに沿って底面1d側に向かって延出する正極側接続端部42を有する。同様に、負極集電板24は、電池蓋6の下面に対向する矩形板状の負極集電板基部21と、負極集電板基部21の側端から電池缶1の幅広側面1bに沿って底面1d側に向かって延出する負極側接続端部22を有する。正極集電板基部41及び負極集電板基部21には、正極側開口穴43及び負極側開口穴23がそれぞれ形成される。
【0022】
正極外部端子14、負極外部端子12の下面からそれぞれ突出するように、正極接続部14a、負極接続部12aが設けられる。正極接続部14a及び負極接続部12aは、それぞれ、正極外部端子14及び負極外部端子12と一体に形成される。
【0023】
正極接続部14aは、電池蓋6の正極側貫通孔46及び正極集電板基部41の正極側開口穴43に挿入可能な円柱形状を有する。同様に、負極接続部12aは、電池蓋6の負極側貫通孔26及び負極集電板基部21の負極側開口穴23に挿入可能な円柱形状を有する。正極接続部14aは、電池蓋6の正極側貫通孔46及び正極集電板基部41の正極側開口穴43を通って電池蓋6と正極集電板基部41を貫通する。正極外部端子14と正極集電板44は、正極接続部14aを介して電気的に接続されるとともに、電池蓋6に固定される。同様に、負極接続部12aは、電池蓋6の負極側貫通孔26及び負極集電板基部21の負極側開口穴23を通って電池蓋6と負極集電板基部21を貫通する。負極外部端子12と負極集電板24は、負極接続部12aを介して電気的に接続されるとともに、電池蓋6に固定される。
【0024】
正極外部端子14は、正極接続部14a及び正極集電板44を介して、後述する捲回群3に電気的に接続される。同様に、負極外部端子12は、負極接続部12a及び負極集電板24を介して、捲回群3に電気的に接続される。リチウムイオン二次電池100の充電時には、正極外部端子14、正極接続部14a及び正極集電板44、並びに負極外部端子12、負極接続部12a及び負極集電板24を介して、外部電源から捲回群3に電気が供給される。リチウムイオン二次電池100の放電時には、正極外部端子14、正極接続部14a及び正極集電板44、並びに負極外部端子12、負極接続部12a及び負極集電板24を介して、捲回群3から外部負荷に電気が供給される。
【0025】
正極集電板44、負極集電板24、正極外部端子14及び負極外部端子12を、それぞれ電池蓋6から電気的に絶縁するために、正極外部端子14及び負極外部端子12の各々と電池蓋6との間にガスケット5が設けられ、正極集電板44及び負極集電板24の各々と電池蓋6との間に絶縁板7が設けられる。絶縁板7及びガスケット5の素材としては、例えばポリブチレンテレフタレートやポリフェニレンサルファイド、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂等の絶縁性を有する樹脂材が挙げられる。
【0026】
電池缶1内には、電解液、及び捲回群3が収納される。
【0027】
電解液は、注液口9から電池缶1内に注入される。電解液としては、例えばエチレンカーボネート等の炭酸エステル系の有機溶媒中に6フッ化リン酸リチウム(LiPF)等のリチウム塩が溶解された非水電解液を用いることができる。
【0028】
図3に示すように、捲回群3は、負極電極32、正極電極34、及び二個のセパレータ33、35を有する。セパレータ35、負極電極32、セパレータ33及び正極電極34はこの順に重ねられ、扁平状に捲回される。セパレータ35が捲回群3の最外周に位置し、その内側に負極電極32が位置する。二個のセパレータ33、35は、正極電極34と負極電極32を電気的に絶縁する。
【0029】
捲回群3は、捲回軸に垂直な一対の対向する端面3a、3bと、一対の端面3a、3bの間の側面3cを有する。側面3cは、断面半円形状の互いに対向する一対の湾曲部と、これら一対の湾曲部の間に連続して形成される平面部とを有する。捲回群3は、側面3cの平面部と電池缶1の幅広側面1bが略平行になるように、電池缶1内に配置される。
【0030】
正極電極34は、正極集電体34aと、正極集電体34aの両面に形成された正極合剤層34bとを有する。
【0031】
正極集電体34aは、導電性が高く且つリチウムイオンと合金化しない任意の材料から形成される。正極集電体34aは、板状(シート状)の形状を有してよい。正極集電体34aとして、例えば、アルミニウム箔を用いることができる。正極集電体34aの一端には、正極合剤層34bで被覆されていない部分(以後、「正極集電体露出部」と称する)34cが設けられる。正極集電体露出部34cは、捲回群3の端面3a及びその近傍に設けられる。正極集電体露出部34cは、正極集電板44の正極側接続端部42に対向するともに電気的に接続される。
【0032】
正極合剤層34bは、下記式(1):
Li1+X (1)
(式中、
Xは、-0.15≦X≦0.15を満たし、
は、Mn及びAlからなる群から選択される少なくとも一つ、Ni、並びにCoを含む元素群を表す)
で表される正極活物質を含む。
【0033】
-0.15≦X≦0.15であることにより、正極活物質は、高い真密度及び高い可逆性を有する。
【0034】
が、Ni及びCoに加えて、Mn及びAlからなる群から選択される少なくとも一つを含むことにより、正極活物質は、高い熱安定性及び高電位状態における高い安定性を有する。それにより、リチウムイオン二次電池100は、高い安全性を有する。
【0035】
は、Zr、Ti、Cr、Fe、Cu、Zn、Ge、Sn、Mg、Ag、Ta、Nb、B、P、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも一つをさらに含んでもよい。MがZrを含む場合、低温時のリチウムイオン二次電池100の内部抵抗が低減する。Zrの含有量は、Ni、Co、Mn及びAlの総量に対して、0.1~2.0mol%、特に0.2~1.0mol%であってよい。また、Mを構成する全元素中のNi、Co、Mn及びAl以外の元素の割合は、10mol%以下、特に、3mol%以下であってよい。それにより、リチウムイオン二次電池100が十分な放電容量を有することができる。
【0036】
正極活物質中の各元素の量は、ICP(Inductive Coupled Plasma)法により測定することができる。
【0037】
正極合剤層34bは、バインダー及び導電剤をさらに含んでよい。
【0038】
バインダーとして、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化プロピレン、ポリフッ化クロロプレン、ブチルゴム、ニトリルゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、多硫化ゴム、ニトロセルロース、シアノエチルセルロース、各種ラテックス、アクリル系樹脂、又はこれらの混合物を用いることができる。
【0039】
導電剤として、炭素系材料を用いることができる。炭素系材料は、結晶性炭素、無定形炭素、又はこれらの混合物であってよい。結晶性炭素の例として、人造黒鉛、天然黒鉛(例えば鱗片状黒鉛)、又はこれらの混合物が挙げられる。無定形炭素の例として、カーボンブラック(例えばアセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、又はこれらの混合物)が挙げられる。
【0040】
正極電極34は、例えば以下のようにして形成することができる。正極活物質、並びに任意選択で導電剤及びバインダーを、溶媒(例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、水)中に分散させて、ペースト状又はスラリー状の混合物を調製する。この混合物を、正極集電体34aの表面に塗布し、乾燥させ、必要に応じてカレンダー処理を施して、正極合剤層34bを形成する。それにより正極電極34が得られる。
【0041】
負極電極32は、負極集電体32aと、負極集電体32aの両面に形成された負極合剤層32bとを有する。
【0042】
負極集電体32aは、導電性が高く且つリチウムイオンと合金化しない任意の材料から形成される。負極集電体32aの一端には、負極合剤層32bで被覆されない部分(以後、「負極集電体露出部」と称する)32cが設けられる。負極集電体露出部32cは、捲回群3の端面3b及びその近傍に設けられる。負極集電体露出部32cは、負極集電板24の負極側接続端部22に対向するともに電気的に接続される。
【0043】
負極合剤層32bは、負極活物質と、負極添加剤と、バインダーとを含む。
【0044】
負極活物質は、リチウムイオンを挿入及び脱離可能な炭素系材料を含む、又は実質的に炭素系材料からなる。そのような炭素系材料の例として、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)等の炭素材料、非晶質炭素で被覆した黒鉛、導電助剤としてのカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック)と黒鉛との混合物、該混合物を非晶質炭素で被覆することにより得られる複合体、黒鉛と難黒鉛化炭素又は易黒鉛化炭素との混合物、及びこれらの混合物が挙げられる。負極活物質は粒子状であってよい。粒子状負極活物質の形状は特に限定されず、例えば、球状、鱗片状、繊維状又はこれらを粉砕した形状を有してよい。
【0045】
負極添加剤は、酸化銅を含む、又は実質的に酸化銅からなる。酸化銅は、酸化銅(I)(CuO)、酸化銅(II)(CuO)、又はこれらの混合物であってよい。負極添加剤は粒子状であってよい。粒子状負極添加剤の形状は特に限定されず、例えば、球状、鱗片状、繊維状又はこれらを粉砕した形状を有してよい。粒子状負極添加剤は、酸化銅(I)(CuO)、酸化銅(II)(CuO)、若しくはこれらの混合物を含む粒子であってよく、又は実質的に酸化銅(I)(CuO)、酸化銅(II)(CuO)、又はこれらの混合物からなる粒子であってよい。これら各種の粒子状負極添加剤は、単独で又は組み合わせて用いてられてよい。
【0046】
負極合剤層32bにおいて、粒子状負極活物質と粒子状負極添加剤は、互いに複合化されていない別個の粒子として存在してよい。それにより、粒子状負極活物質同士を、高い電気抵抗を有する粒子状負極添加剤に阻害されずに、良好に電気的に接続することができ、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の上昇を抑制できる。また、粒子状負極活物質は、4~20μmのメジアン径を有してよい。粒子状負極添加剤は、粒子状負極活物質のメジアン径よりも小さいメジアン径を有してよく、1~10μmのメジアン径を有してよい。それにより、粒子状負極活物質同士を、高い電気抵抗を有する粒子状負極添加剤に阻害されずに、良好に電気的に接続することができるため、リチウムイオン二次電池の内部抵抗の上昇を抑制できる。粒子状負極活物質及び粒子状負極添加剤のメジアン径d50は、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定される体積基準粒度分布に基づいて求められる。
【0047】
負極合剤層32bは、酸化銅を、負極活物質及び負極添加剤の総重量を基準として、0.5wt%以上かつ15wt%以下の濃度で含む。それにより、後述する実施例で示すように、リチウムイオン二次電池が低い内部抵抗及び高い電池容量を有することができる。酸化銅がCuOである場合、負極合剤層32bは、酸化銅を、負極活物質及び負極添加剤の総重量を基準として、0.9wt%以上かつ15wt%以下の濃度で含んでよい。それにより、リチウムイオン二次電池が一層低い内部抵抗を有することができる。また、酸化銅がCuOである場合、負極合剤層32bは、酸化銅を、負極活物質及び負極添加剤の総重量を基準として、1.4wt%以上かつ12wt%以下の濃度で含んでよい。それにより、リチウムイオン二次電池が特に低い内部抵抗及び特に高い電池容量を有することができる。酸化銅がCuOである場合、負極合剤層32bは、酸化銅を、負極活物質及び負極添加剤の総重量を基準として、0.5wt%以上かつ8.3wt%以下、又は0.78wt%以上かつ6.7wt%以下の濃度で含んでよい。それにより、リチウムイオン二次電池が特に低い内部抵抗及び特に高い電池容量を有することができる。
【0048】
なお、CuOとCuOは、以下の式:
CuO+2Li+2e→2Cu+Li
CuO+2Li+2e→Cu+Li
で表されるように反応する。CuOとCuOの理論容量はそれぞれ、375mAh/g-CuO、674mAh/g-CuOであり、CuOは、CuOの約1.8倍の理論容量を有する。したがって、例えば、CuOの濃度が負極活物質及び負極添加剤の総重量を基準として0.9wt%、15wt%のときに得られる効果は、それぞれ、CuOの濃度が負極活物質及び負極添加剤の総重量を基準として0.5wt%、8.3wt%のときに得られる効果と同程度である。
【0049】
負極合剤層32bのバインダーとしては、正極合剤層34bのバインダーとして用いることができるものとして例示した材料と同様の材料を用いることができる。
【0050】
負極合剤層32bは、さらに、分散剤を有してよい。分散剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いることができる。
【0051】
負極電極32は、例えば以下のようにして形成することができる。まず、炭素系材料を含む負極活物質、酸化銅を含む負極添加剤、及びバインダー、並びに任意選択で分散剤を用意する。負極活物質と負極添加剤は、粒子状であってよい。粒子状負極活物質と粒子状負極添加剤は、互いに複合化されていない別個の粒子であってよい。負極活物質、負極添加剤及びバインダー、並びに任意選択で分散剤を、溶媒(例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、水)中に分散させて、ペースト状又はスラリー状の混合物を調製する。この混合物は、酸化銅を、負極活物質及び前記負極添加剤の総重量を基準として、0.5wt%以上かつ15wt%以下の濃度で含む。酸化銅がCuOである場合、混合物は、酸化銅を、負極活物質及び負極添加剤の総重量を基準として、0.9wt%以上かつ15wt%以下、又は1.4wt%以上かつ12wt%以下の濃度で含んでよい。酸化銅がCuOである場合、混合物は、酸化銅を、負極活物質及び負極添加剤の総重量を基準として、0.5wt%以上かつ8.3wt%以下、又は0.78wt%以上かつ6.7wt%以下の濃度で含んでよい。調製した混合物を、負極集電体32aの表面に塗布し、乾燥させ、必要に応じてカレンダー処理を施して、負極合剤層32bを形成する。それにより、負極電極32が得られる。
【0052】
セパレータ33、35は、正極電極34と負極電極32の間の短絡を防止する機能と、非水電解液を保持する機能を有する。セパレータ33、35として、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂製の多孔質シート、又はこれらの積層シート(例えば、PP/PE/PPの三層構成のシート)を用いることができる。
【0053】
セパレータ33、35の一方の面又は両面に、無機材料(例えばアルミナ粒子等)及びバインダーを含む層を設けてもよい。これにより、リチウムイオン二次電池100が異常な状態で使用された場合(例えば、過充電や圧壊等でリチウムイオン二次電池の温度が160℃以上に上昇した場合)でも、セパレータ33、35の溶融が防止され、絶縁機能を保持できる。そのため、リチウムイオン二次電池100の安全性が向上する。
【0054】
必要に応じて、捲回群3の最内周に軸芯を配置してもよい。軸芯としては、正極集電体、負極集電体、セパレータ33、35のいずれよりも曲げ剛性の高い樹脂シートを捲回したものを用いることができる。
【実施例
【0055】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
実施例1~5
正極活物質としてLi1.0Ni0.33Co0.33Mn0.33粉末を用意した。正極活物質中の元素比はICP分析により求めた。導電剤としてアセチレンブラック、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用意した。
【0057】
正極活物質、導電剤、及びバインダーを90:5:5の重量比で混合した。得られた混合物にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を加えて粘度を調整し、正極スラリーを得た。
【0058】
正極集電体として、厚さ15μmのアルミニウム箔を用意した。正極集電体の両面にスロットダイコーティング法により正極スラリーを塗布し、正極スラリーの層を形成した。次に、正極スラリーの層を乾燥及びプレスした。それにより、正極合剤層が正極集電体の両面に形成された正極電極を得た。
【0059】
負極活物質として非晶質炭素被覆を施した天然黒鉛粒子、負極添加剤として酸化銅(I)(CuO)粒子、バインダーとしてスチレンブタジエンゴム(SBR)、及び分散剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を用意した。レーザー回折式粒度分布測定装置により天然黒鉛粒子及びCuO粒子の体積基準粒度分布をそれぞれ測定し、各粒度分布におけるメジアン径d50を求めた。天然黒鉛粒子のメジアン径は10μm、CuO粒子のメジアン径は3μmであった。負極活物質、負極添加剤、バインダー及び分散剤を100-x:x:1:1の重量比で混合した。各実施例におけるxの値は、表1に示した通りであり、負極活物質及び負極添加剤の総重量を基準とする、負極添加剤(すなわち酸化銅)の重量パーセント濃度に対応する。得られた混合物にイオン交換水を加えて粘度を調整し、負極スラリーを得た。負極集電体として厚さ10μmの銅箔を用意した。負極集電体の両面に、スロットダイコーティング法により負極スラリーを塗布し、負極合剤層を形成した。そして、負極合剤層を乾燥及びプレスした。それにより、負極電極を得た。
【0060】
セパレータ、負極電極、別のセパレータ及び正極電極をこの順で重ね、捲回した。それにより、図3に示されるような捲回群を作製した。また、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)を1:2の体積比で混合し、得られた混合液にLiPFを溶解した。これにより、非水電解液として1.0mol/LのLiPF溶液を得た。捲回群と非水電解液を用いて、図1、2に示されるようなリチウムイオン二次電池を作製した。
【0061】
実施例6~8
負極添加剤として酸化銅(II)(CuO)粒子を用い、負極活物質、負極添加剤、バインダー及び分散剤を100-x:x:1:1(各実施例におけるxの値は表1に記載のとおり)の重量比で混合したこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。実施例1と同様にして求めたCuO粒子のメジアン径は3μmであった。
【0062】
比較例1
負極添加剤を用いず、負極活物質、バインダー及び分散剤を100:1:1の重量比で混合したこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0063】
比較例2、3
負極活物質、負極添加剤、バインダー及び分散剤を100-x:x:1:1(各比較例におけるxの値は表1に記載のとおり)の重量比で混合したこと以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を作製した。
【0064】
(1)電池容量の測定
上記実施例及び比較例で作製したリチウムイオン二次電池を、電池電圧が4.2Vになるまで、1CAの定電流で充電し、続いて、4.2Vの定電圧で充電した。充電は合計2.5時間行った。30分間休止した後、リチウムイオン二次電池を、0.02CAの定電流で電池電圧が2.9Vになるまで放電し、放電容量を求めた。この放電容量を電池容量とした。比較例1のリチウムイオン二次電池の電池容量を100として規格化した各実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池の電池容量を、表1中に示す。
【0065】
(2)直流抵抗(DCR)の測定
リチウムイオン二次電池を、電池電圧が4.2Vになるまで充電した。その後、電池容量の5%を放電した。2時間休止した後、リチウムイオン二次電池の開回路電圧(OCV)を測定した。同様にして電池容量の5%の放電とOCVの測定を繰り返し、SOCとOCVの関係を求めた。
【0066】
SOCとOCVの関係に基づき、リチウムイオン二次電池を、SOC0%からSOC20%まで、定電流-定電圧(CC-CV)方式で充電した。定電流充電中の充電電流は1CAとした。次に、-10℃の恒温槽中に5時間リチウムイオン二次電池を保持した。その後、リチウムイオン電池を5CAの定電流で10秒間放電し、放電による電圧降下値を測定した。さらに、同様の定電流放電を放電電流10CA及び15CAで行った。放電電流を横軸、電圧降下値を縦軸にプロットし、そのグラフの傾きをDCRとして求めた。求めたDCRは、SOCが20%以下である低SOC領域におけるDCRである。比較例1のリチウムイオン二次電池のDCRを100として規格化した各実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池のDCRを、表1中に示す。DCRの値が小さいほど、低SOC領域におけるリチウムイオン二次電池の内部抵抗が低減される。
【0067】
【表1】
【0068】
xが0.5~15の範囲内であった実施例1~8のリチウムイオン二次電池は、xがそれぞれ0、0.3である比較例1、2よりも低いDCRを示し、xが20である比較例3よりも高い電池容量を示した。
【0069】
負極添加剤としてCuO粒子を用いた実施例1~5の中では、xが0.9~15の範囲内であった実施例2~5のリチウムイオン二次電池がさらに低い(具体的には85以下の)DCRを示し、xが1.4~12の範囲内であった実施例3、4のリチウムイオン二次電池が特に低い(具体的には75以下の)DCR及び特に高い(具体的には80超の)電池容量を示した。
【0070】
負極添加剤としてCuO粒子を用いた実施例6~8は、xが0.5~8.3の範囲内であった。特にxが0.78~6.7の範囲内である実施例7、8のリチウムイオン二次電池は、特に低い(具体的には75以下の)DCR及び特に高い(具体的には80超の)電池容量を示した。
【0071】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【符号の説明】
【0072】
32 負極電極
32a 負極集電体
32b 負極合剤層
34 正極電極
34a 正極集電体
34b 正極合剤層
100 リチウムイオン二次電池
図1
図2
図3