(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】摺動部品
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20240729BHJP
F16C 17/04 20060101ALI20240729BHJP
【FI】
F16J15/34 G
F16J15/34 K
F16C17/04 A
(21)【出願番号】P 2023516357
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2022013242
(87)【国際公開番号】W WO2022224673
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2024-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2021073078
(32)【優先日】2021-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】福田 翔悟
(72)【発明者】
【氏名】井村 忠継
(72)【発明者】
【氏名】王 岩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓志
(72)【発明者】
【氏名】内田 健太
(72)【発明者】
【氏名】相澤 啓貴
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/002646(WO,A1)
【文献】特開2020-173020(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035860(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/020074(WO,A1)
【文献】特開平2-236067(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021688(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
F16C 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械の駆動時に相対回転する箇所に対向して配置される一対の摺動部品であって、
前記一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動面は、その外周縁部または内周縁部に形成され、周方向に延びる開口部と、前記開口部から延び、当該開口部側の周縁に開口する流体供給溝と、を有して
おり、
前記開口部内の周方向かつ軸方向に延びる面の周方向の曲率よりも前記摺動面の前記開口部側の周縁の曲率の方が大きい摺動部品。
【請求項2】
前記開口部および前記流体供給溝は、それぞれの深さが同じである請求項1に記載の摺動部品。
【請求項3】
前記摺動面よりも外径側または内径側には、前記一対の摺動部品によって環状の環状開口凹部が形成されており、
前記開口部は、前記環状開口凹部に連通している請求項1または2に記載の摺動部品。
【請求項4】
前記流体供給溝は、前記開口部における周方向端部から延びている請求項1ないし3のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項5】
前記流体供給溝および前記開口部は周方向に複数配置されている請求項1ないし4のいずれかに記載の摺動部品。
【請求項6】
複数の前記流体供給溝および複数の前記開口部は周方向に環状に連続する流体循環路を構成している請求項5に記載の摺動部品。
【請求項7】
前記流体循環路は、位相をずらして複数形成されている請求項6に記載の摺動部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転する摺動部品に関し、例えば自動車、一般産業機械、あるいはその他のシール分野の回転機械の回転軸を軸封する軸封装置に用いられる摺動部品、または自動車、一般産業機械、あるいはその他の軸受分野の回転機械の軸受に用いられる摺動部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、相対回転する一対の摺動部品の摺動面間には潤滑剤が塗布され、低摩擦化が図られている。例えば、ポンプやタービン等の回転機械の回転軸を軸封し、被密封流体の漏れを防止する軸封装置に用いられる摺動部品としては、メカニカルシール(例えば特許文献1参照)が知られている。
【0003】
メカニカルシールは、摺動部品としての静止密封環および回転密封環を備えている。メカニカルシールは、静止密封環および回転密封環における摺動面同士が互いに圧接されて、摺動可能に構成されており、摺動面間を密封することが可能となっている。このようなメカニカルシールは、密封性を保ちながら摺動面同士の摺動による摩耗を防ぐために、潤滑性を長期的に維持することが特に重要である。
【0004】
静止密封環および回転密封環は、被密封流体や漏れ側の流体が油等の液体であれば、液体を摺動面間に侵入させることにより液体を潤滑に用いることができる。これに対して、静止密封環および回転密封環は、被密封流体や漏れ側の流体が気体であると、静止密封環および回転密封環の相対回転により、摺動面間に塗布された潤滑剤を経時に伴い摺動面間から押し出してしまうため、良好な潤滑性を長期的に維持することができなくなる。そこで、このような環境で使用される静止密封環および回転密封環については、少量ずつ滴下される液体を摺動面間に供給することで、摺動面間の潤滑性を維持しようとする試みが広く行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-53423号公報(第4頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、摺動面の内径側と外径側のいずれか一方の縁部に滴下されるなどして供給された液体は、一対の摺動部品の相対回転時には摺動面間の極小の隙間から摺動面の径方向中央側に誘導され難いことに加え、一対の摺動部品の相対回転により液体がその内径側または外径側に弾き飛ばされやすいため、潤滑性の向上に有効に寄与しにくい。よって、一対の摺動部品同士は、長期に亘って高い潤滑性を維持することができないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、摺動面間に供給される液体を効率よく活用し、長期に亘って高い潤滑性を維持できる摺動部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の摺動部品は、
回転機械の駆動時に相対回転する箇所に対向して配置される一対の摺動部品であって、
前記一対の摺動部品の少なくとも一方の摺動面は、その外周縁部または内周縁部に形成され、周方向に延びる開口部と、前記開口部から延び、当該開口部側の周縁に開口する流体供給溝と、を有している。
これによれば、開口部は周方向に延び径方向に開口していて液体を取り込みやすくなっており、さらに開口部に取り込まれた液体は流体供給溝に導入され摺動面の径方向中央に移動する。これにより、摺動面間に液体が供給され摺動面同士の高い潤滑性を長期に亘って維持することができる。
【0009】
前記開口部および前記流体供給溝は、それぞれの深さが同じであってもよい。
これによれば、開口部から流体供給溝に液体を導きやすい。
【0010】
前記摺動面よりも外径側または内径側には、前記一対の摺動部品によって環状の環状開口凹部が形成されており、
前記開口部は、前記環状開口凹部に連通していてもよい。
これによれば、環状開口凹部は液体を確実に捕集することができる。そのため、環状開口凹部により開口部に液体が取り込まれやすくなっている。
【0011】
前記流体供給溝は、前記開口部における周方向端部から延びていてもよい。
これによれば、流体供給溝は、開口部における周方向端部に移動してきた液体を効率よく導入することができる。
【0012】
前記流体供給溝および前記開口部は周方向に複数配置されていてもよい。
これによれば、周方向に均一に液体を供給することができる。
【0013】
複数の前記流体供給溝および複数の前記開口部は周方向に環状に連続する流体循環路を構成していてもよい。
これによれば、流体供給溝を流れた液体が下流の開口部に取り込まれるため、流体循環路は液体を循環させて効率的に潤滑に寄与できる。
【0014】
前記流体循環路は、位相をずらして複数形成されていてもよい。
これによれば、摺動面間における全体的な潤滑性を高めることができる。また、一の流体循環路の流体供給溝と、他の流体循環路の流体供給溝とが交差している部分よりも開口部とは反対側に流体を効率的に貯留できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施例1における摺動部品を備えるメカニカルシールが使用される回転機械の構造を示す断面図である。
【
図2】メカニカルシールの静止密封環を摺動面側から見た図である。
【
図3】静止密封環の摺動面の一部を拡大して示す図である。
【
図4】(a)は、静止密封環と回転密封環との摺接状態を示す、
図2のA-A断面図であり、(b)は、静止密封環と回転密封環との摺接状態を示す、
図2のB-B断面図である。
【
図5】変形例1における静止密封環を摺動面側から見た図である。
【
図6】変形例2における静止密封環を摺動面側から見た図である。
【
図7】変形例3における静止密封環を摺動面側から見た図である。
【
図8】変形例4における静止密封環を摺動面側から見た図である。
【
図9】変形例5における静止密封環を摺動面側から見た図である。
【
図10】(a)は、変形例5における静止密封環と回転密封環との摺接状態を示す、
図9のC-C断面図であり、(b)は、変形例5における静止密封環と回転密封環との摺接状態を示す、
図9のD-D断面図である。
【
図11】本発明の実施例2における静止密封環を摺動面側から見た図である。
【
図12】実施例2における静止密封環の摺動面の一部を拡大して示す図である。
【
図13】本発明の実施例3における静止密封環を摺動面側から見た図である。
【
図14】実施例3における静止密封環と回転密封環との摺接状態を示す、
図13のE-E断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る摺動部品を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0017】
実施例1に係る摺動部品につき、
図1から
図4を参照して説明する。なお、説明の便宜上、図面において、摺動面に形成される溝等にドットを付している。
【0018】
本実施例における摺動部品は、例えば自動車、一般産業機械、あるいはその他のシール分野の回転機械の回転軸を軸封する軸封装置であるメカニカルシールMを構成する回転密封環3と静止密封環6である。
【0019】
図1を参照して、回転密封環3は、円環状に形成されている。また、回転密封環3は、回転軸1にスリーブ2を介して取り付けられており、回転軸1と一体的に回転可能となっている。
【0020】
静止密封環6は、円環状に形成されている。また、静止密封環6は、回転機械のハウジング4に固定されたシールカバー5に非回転状態かつ軸方向移動可能な状態で取り付けられている。
【0021】
静止密封環6の摺動面S6は、回転密封環3の摺動面S3に対向配置されている。また、静止密封環6は、付勢手段7の付勢力によって回転密封環3側に付勢されている。
【0022】
これらにより、回転密封環3および静止密封環6は、摺動面S3,S6同士で密接摺動するようになっている。
【0023】
また、本実施例のメカニカルシールMはいわゆるアウトサイド形式であって、回転密封環3と静止密封環6との互いの摺動面S3,S6により、被密封流体側としての内周側の被密封流体が漏れ側としての外周側へ流出するのを防止するものである。
【0024】
また、本実施例において、被密封流体はドライガス等の気体の高圧流体であり、外周側の流体は大気、ドライガス等の気体の低圧流体である。
【0025】
また、回転密封環3と静止密封環6の外周側には潤滑油等の液体としての潤滑剤Luが貯留されている。潤滑剤Luは、回転軸1の回転に伴って巻き上げられた後、滴下することを利用して、回転密封環3と静止密封環6との互いの摺動面S3,S6の外周縁に少量ずつ供給される。なお、潤滑剤Luの滴下方法は適宜変更されてもよい。
【0026】
回転密封環3および静止密封環6は、代表的にはSiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されるが、摺動材料にはメカニカルシール用摺動材料として使用されているものは適用可能である。SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボン等を焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC-TiC、SiC-TiNなどがあり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン、などが利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料なども適用できる。
【0027】
図2,
図4に示されるように、静止密封環6において回転密封環3の摺動面S3方向の軸方向端部には、外径側から内径側に向かって順に、外径側テーパ面63、外周面62(
図4参照)、摺動面S6、内径側テーパ面が形成されている。
【0028】
まず、静止密封環6の摺動面S6について詳しく説明する。
図2に示されるように、摺動面S6には、環状の流体循環路10が形成されている。なお、流体循環路10は、摺動面S6に、レーザ加工、エッチング、サンドブラスト等による微細加工を施すことにより形成することができる。
【0029】
流体循環路10は、4等配されている開口部11と、4等配されている流体供給溝12と、から構成されている。
【0030】
開口部11は、摺動面S6の外周縁部60に形成されている。
【0031】
より詳しくは、
図3に示されるように、開口部11は、外周縁60aよりも内径側の壁11aと、底面11eとで画成されている。壁11aは、底面11eから上方に延びランド14に直交している。底面11eはランド13,14に平行に延びている。開口部11は、断面段状(
図4(a)参照)をなし、対向する回転密封環3の摺動面S3方向と外周方向とに開口している。
【0032】
図2に示されるように、流体供給溝12は、直線状に延びて隣り合う開口部11,11と連通している。
【0033】
より詳しくは、
図3に示されるように、流体供給溝12は、内径側の壁12aと、底面12eと、外径側の壁12bとで画成されている。壁12a,12bは、底面12eから上方に延びランド13,14に直交している。底面12eはランド13,14に平行に延びている。流体供給溝12は、断面凹形状(
図4(b)参照)をなし、対向する回転密封環3の摺動面S3方向に開口し、隣り合う開口部11,11に連通している(
図2参照)。
【0034】
また、流体供給溝12の内径側の壁12aは、開口部11の内径側の壁11aと鈍角をなし連なっている。
【0035】
また、流体供給溝12の底面12eは、開口部11の底面11eと略同一平面を形成している。すなわち、
図4に示されるように、開口部11および流体供給溝12は略同一の深さDとなっている。
【0036】
また、
図2に戻って、流体供給溝12の外径側の壁12bは、外周縁60aと鋭角をなしている。
【0037】
また、摺動面S6は、ランド13,14を有しており、これらの上端面は同じ平面上に位置している。ランド13は、外周縁60aと流体供給溝12によって画成されており、本実施例では4つ設けられている。ランド14は、流体循環路10と内周縁61aによって画成されており、環状に途切れることなく繋がっている。
【0038】
また、
図4に示されるように、メカニカルシールMの組み立て使用状態において、回転密封環3と静止密封環6とにより、摺動面S6よりも外径側に環状の環状開口凹部15が形成されている。環状開口凹部15は、周方向に連続する断面視矩形状であり、外周方向に開口している。
【0039】
環状開口凹部15について詳しく説明する。環状開口凹部15は、回転密封環3のテーパ面30と、回転密封環3の摺動面S3と、静止密封環6の外周面62と、静止密封環6の外径側テーパ面63とで画成されている。
【0040】
回転密封環3のテーパ面30は、摺動面S3の外周縁から外径側に向かうほど静止密封環6から離間する方向に傾斜して延び、かつ周方向に延びている。
【0041】
静止密封環6の外周面62は、摺動面S6の外周縁60aに直交し、回転密封環3から離間する方向に延び、かつ周方向に延びている。静止密封環6の外径側テーパ面63は、外周面62から外径側に向かうほど回転密封環3から離間する方向に傾斜して延び、かつ周方向に延びている。摺動面S3の外周縁は、摺動面S6の外周縁60aよりも外径側に位置している。
【0042】
次に、回転機械の駆動時において供給される潤滑剤Luの流れを説明する。なお、
図2における白矢印は、相手の摺動部品である回転密封環3の相対的な回転方向を指す。すなわち、回転密封環3は反時計回り方向に回転しているものとする。
【0043】
図4を参照して、環状開口凹部15に滴下された潤滑剤Luは、回転密封環3のテーパ面30、摺動面S3および静止密封環6の外径側テーパ面63によって環状開口凹部15の底部側、すなわち静止密封環6の外周面62、外周縁60a側に導かれる。
【0044】
このように、回転密封環3と静止密封環6により環状開口凹部15が形成されているので、滴下された潤滑剤Luを確実に捕集することができる。
【0045】
また、潤滑剤Luは、小さな液塊であっても、環状開口凹部15内を周方向に移動しながら、他の潤滑剤Luと合流することで、大きな液塊となる。
【0046】
図3,
図4において点線矢印で示すように、回転密封環3と静止密封環6との相対回転時に、環状開口凹部15内に捕集された潤滑剤Luは、摺動面S6の開口部11に取り込まれる。
【0047】
図3に示されるように、開口部11に潤滑剤Luが取り込まれると、実線矢印で示すように、潤滑剤Luは内径側の壁11aに沿って、回転方向下流側の周方向下流端部11cに移動する。
【0048】
回転方向下流側の周方向下流端部11cには、流体供給溝12の上流端部12cが連通しており、流体供給溝12の外径側の壁12bが面している。外径側の壁12bは、回転密封環3の回転方向に延びる成分と、径方向に延びる成分とを備えて、径方向に傾斜して形成されている。
【0049】
これにより、
図3において実線矢印で示すように、流体供給溝12は、開口部11の周方向下流端部11cに移動してきた潤滑剤Luを効率よく導入することができる。
【0050】
また、開口部11および流体供給溝12は、略同一の深さDであるため、開口部11から流体供給溝12に潤滑剤Luを導きやすい。
【0051】
なお、開口部11および流体供給溝12はその深さDが十分に深い。回転密封環3の回転によって潤滑剤Luや被密封流体が追随移動しても、摺動面S3,S6同士を離間方向に付勢するような動圧がほとんどまたは全く発生しない。
【0052】
また、流体供給溝12は、潤滑剤Luの移動方向における下流端部12dが、下流側の開口部11における周方向上流端部11dに連通している。
【0053】
これにより、流体供給溝12は、導入した潤滑剤Luを壁12a,12bに沿って追随移動させることで、好適に下流側の開口部11に導入させることができる。
【0054】
このように、流体供給溝12に流入した潤滑剤Luは、回転密封環3と静止密封環6との相対回転に追随移動しつつ、一部は摺動面S3,S6間に供給される。具体的にはランド13と回転密封環3の摺動面S3の対向箇所の間および環状のランド14と回転密封環3の摺動面S3の対向箇所の間に供給される。
【0055】
特に、流体供給溝12は、その長尺方向中央が摺動面S6の径方向中央に位置していることから、潤滑剤Luを摺動面S6の径方向中央に供給することができる。ここで、本明細書において中央は間を意味するのであって、半分の位置を意味するのではない。
【0056】
また、摺動面S3,S6間に供給された潤滑剤Luの大部分は、回転密封環3の回転に伴って、回転方向下流側に位置する開口部11、流体供給溝12に回収される。
【0057】
一方、流体供給溝12から下流側の開口部11に取り込まれた潤滑剤Luは、上述と同様に、下流側の開口部11内を周方向に追随移動し、下流側の流体供給溝12に導入されることとなる。
【0058】
このように、潤滑剤Luは開口部11、流体供給溝12、開口部11、流体供給溝12、・・・、の順に流れる。これにより、流体循環路10は潤滑剤Luを効率的に潤滑に寄与させることができる。
【0059】
ここで、摺動面S3,S6同士の摺動による摩耗分等のコンタミが生じる場合がある。流体供給溝12は、下流側の開口部11を介して摺動面S3,S6よりも外径側に連通している。そのため、特に潤滑剤Luよりも比重の大きいコンタミは、回転密封環3と静止密封環6との相対回転時に、摺動面S3,S6よりも外径側に排出されやすい。一方、潤滑剤Luはコンタミに比べ、下流側の開口部11に沿って流れやすい。
【0060】
また、本実施例の流体循環路10は、線対称形状であるため、相手の摺動部品の回転方向が本説明とは反対方向である時計回り方向であっても潤滑剤Luを供給することができる。
【0061】
なお、上流、下流は、回転密封環3の回転方向を基準として説明の便宜上呼称したものである。相手の摺動部品の回転方向によってその位置が変わることは言うまでもない。
【0062】
以上説明したように、本実施例のメカニカルシールMは、摺動面S3,S6間に潤滑剤Luが供給され摺動面S3,S6同士の高い潤滑性を長期に亘って維持することができる。これは、摺動面S6の外周縁60aに供給された潤滑剤Luを、周方向に延び径方向に開口している開口部11に取り込みやすくなっており、さらに開口部11に取り込まれた潤滑剤Luは流体供給溝12に導入され摺動面S6の径方向中央に移動するからである。
【0063】
また、環状開口凹部15は滴下された潤滑剤Luを確実に捕集することができるため、環状開口凹部15から開口部11に潤滑剤Luが取り込まれやすくなっている。
【0064】
また、開口部11および流体供給溝12は、摺動面S6において4等配に配置されているため、摺動面S3,S6の周方向に均一に潤滑剤Luを供給することができる。
【0065】
なお、本実施例において流体供給溝12は、直線状に延びている構成として説明したが、これに限らず、変形例1として
図5に示される流体供給溝121のように湾曲していてもよく、変形例2として
図6に示される流体供給溝122のように蛇行していてもよい。すなわち、流体供給溝の形状は適宜変更されてもよい。これは、開口部についても同様に形状は適宜変更されてもよい。
【0066】
また、本実施例において流体供給溝12は、開口部11の周方向端部11c,11dに連通している構成として説明したが、これに限らず、変形例3として
図7に示される流体供給溝123のように、開口部11の周方向端部11c,11dよりも開口部11の長手方向中央に連通していてもよい。
【0067】
また、本実施例において流体供給溝12は、隣り合う開口部11,11に連通して、環状の流体循環路10を構成しているとして説明したが、これに限らず、変形例4として
図8に示される開口部111および流体供給溝124のように、流体供給溝124の上流側端部124cが回転方向上流側の開口部111にのみ連通して、流体供給溝124の下流側端部124dが外周縁60aに開口していてもよい。すなわち、流体循環路が形成されていなくともよい。
【0068】
また、本実施例において環状開口凹部15は、周方向に連続する断面視矩形状である構成として説明したが、これに限らず、環状開口凹部の断面形状は適宜変更されてもよく、環状開口凹部の断面形状が周方向に不連続であってもよい。
【0069】
例えば、変形例5として
図9,10を参照して説明する。環状開口凹部151は、
図10(a)に示されるように開口部11と径方向に重なり、開口部11に連通している箇所と、
図10(b)に示されるように開口部11と径方向に重ならず、開口部11に連通していない箇所とがある。
【0070】
まず、開口部11と径方向に重なっていない部分について説明する。
図10(b)を参照し、環状開口凹部151は、回転密封環3のテーパ面30と、回転密封環3の摺動面S3と、静止密封環6の外径側テーパ面64とで画成されて、断面視三角形状に形成されている。なお、説明の便宜上、回転密封環3の静止密封環6に対向する平端面を摺動面S3と称し、厳密には静止密封環6に摺接しない箇所を有している。
【0071】
静止密封環6の外径側テーパ面64は、摺動面S6の外周縁60aから外径側に向かうほど回転密封環3から離間する方向に傾斜して延びている。これにより、環状開口凹部151に滴下された潤滑剤Luは、外径側テーパ面64によって環状開口凹部151の底部側、すなわち静止密封環6の外周縁60a側に導かれる。
【0072】
また、環状開口凹部151は外径側テーパ面64により内径側に向かうほど軸方向に短くなっているので、環状開口凹部151内の潤滑剤Luが外径側の空間に排出されにくくなっている。これは、潤滑剤Luの表面張力が大きいほど顕著である。
【0073】
次いで、環状開口凹部151の開口部11と径方向に重なっている部分について説明する。
図10(a)を参照し、静止密封環6の外径側テーパ面64には軸方向に凹む凹み65が4箇所形成されており、該凹み65は開口部11に連通する連通路となっている。凹み65は、その底面が開口部11の底面11eと略同一平面状に連続しており、断面視矩形状に形成されている。これにより、開口部11は凹み65を通じて潤滑剤Luを取り込みやすくなっている。
【実施例2】
【0074】
次に、実施例2に係る摺動部品につき、
図11,
図12を参照して説明する。なお、前記実施例1に示される構成部分と同一構成部分に付いては同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0075】
図11に示されるように、静止密封環106の摺動面S106には、2つの流体循環路110が周方向に略45度ずれて形成されている。
【0076】
なお、流体循環路110単体の構成については、前記実施例1の流体循環路10と同一であるが、説明の便宜上、
図11,
図12において前記実施例1と同一角度で図示した流体循環路110を流体循環路110A、流体循環路110Aに対して周方向にずれている流体循環路110を流体循環路110Bとする。
【0077】
また、説明の便宜上必要に応じて、流体循環路110Aを構成する各開口部11、各流体供給溝12について、
図11における静止密封環106の12時位置から回転密封環3の回転方向順に、開口部11A1、流体供給溝12A2、開口部11A3、流体供給溝12A4、開口部11A5、流体供給溝12A6、開口部11A7、流体供給溝12A8と記載する場合もある。
【0078】
同様に、流体循環路110Bを構成する各開口部11、各流体供給溝12について、
図11における静止密封環106の12時位置から回転密封環3の回転方向順に、流体供給溝12B1、開口部11B2、流体供給溝12B3、開口部11B4、流体供給溝12B5、開口部11B6、流体供給溝12B7、開口部11B8と記載する場合もある。
【0079】
図12に示されるように、摺動面S106は、ランド113,114,115を有しており、これらの上端面は同じ平面上に位置している。
【0080】
ランド113は、外周縁60aと、流体供給溝12と、当該流体供給溝12に交差する流体供給溝12によって画成されている。
【0081】
ランド114は、流体供給溝12と、当該流体供給溝12に交差する流体供給溝12と、内周縁61aによって画成されている。
【0082】
ランド115は、開口部11と、当該開口部11に連通する2つの流体供給溝12と、当該2つの流体供給溝12に交差する流体供給溝12によって画成されている。
【0083】
流体循環路110A,110Bについて詳しく説明する。なお、本説明では、
図11における静止密封環106の12時位置から回転密封環3の回転方向順、すなわち下流方向順に説明する。
【0084】
流体循環路110Bの流体供給溝12B1の下流側は、流体循環路110Aの流体供給溝12A2の上流側と交差している。
【0085】
流体循環路110Aの流体供給溝12A2の下流側は、流体循環路110Bの流体供給溝12B3の上流側と交差している。流体供給溝12B3は流体供給溝12B1に隣接し下流側に配置されている。
【0086】
流体循環路110Bの流体供給溝12B3の下流側は、流体循環路110Aの流体供給溝12A4の上流側と交差している。
【0087】
流体循環路110Aの流体供給溝12A4の下流側は、流体循環路110Bの流体供給溝12B5の上流側と交差している。
【0088】
流体循環路110Bの流体供給溝12B5の下流側は、流体循環路110Aの流体供給溝12A6の上流側と交差している。
【0089】
流体循環路110Aの流体供給溝12A6の下流側は、流体循環路110Bの流体供給溝12B7の上流側と交差している。
【0090】
流体循環路110Bの流体供給溝12B7の下流側は、流体循環路110Aの流体供給溝12A8の上流側と交差している。
【0091】
流体循環路110Aの流体供給溝12A8の下流側は、流体循環路110Bの流体供給溝12B1の上流側と交差している。
【0092】
次に、開口部11A1,11B2、流体供給溝12A2,12B1を例示して、潤滑剤Luの流れについて、
図12を参照して説明する。潤滑剤Luは、回転密封環3の回転方向、すなわち周方向に追随移動しようとする。
【0093】
開口部11A1から流体供給溝12A2に導入された潤滑剤Luは、流体供給溝12A2,12B1が交差する部分で、流体供給溝12B1を移動する潤滑剤Luと合流し、流体供給溝12A2と開口部11B2に流れる。
【0094】
この合流により、流体供給溝12B1を流れる潤滑剤Luは流体供給溝12A2に導入されやすくなっている。このようにして、一度、交差部分よりも内径側に導かれた潤滑剤Luは外部に排出されにくく、摺動面S3,S106間における全体的な潤滑性を高めることができる。
【0095】
また、流体供給溝12A2,12B1の長尺方向中央は、流体供給溝12A2,12B1が交差している部分よりも内径側、すなわち開口部11とは反対側に位置している。
【0096】
すなわち、流体循環路110A,110Bは、開口部11とは反対側に潤滑剤Luを効率的に貯留できる。
【0097】
また、流体循環路110Aの流体供給溝12、および流体循環路110Bの流体供給溝12それぞれの長尺方向中央が連続して環状を成して形成されているので、潤滑剤Luを周方向に亘って均等に摺動面S3,S106間に供給できる。
【0098】
ここで、各流体供給溝12は、下流側の開口部11を介して摺動面S3,S106よりも外径側に連通している。特に潤滑剤Luよりも比重の大きいコンタミは、流体循環路110Aの流体供給溝12と流体循環路110Bの流体供給溝12とが交差している部分よりも内径側にとどまることなく、回転密封環3と静止密封環106との相対回転時に、摺動面S3,S106よりも外径側に排出されやすくなっている。
【実施例3】
【0099】
次に、実施例3に係る摺動部品につき、
図13,
図14を参照して説明する。なお、前記実施例1,2に示される構成部分と同一構成部分に付いては同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0100】
図14を参照して、実施例3において潤滑剤Luは、回転密封環203と静止密封環206との互いの摺動面S203,S206の内周縁に滴下される。
【0101】
図13,
図14に示されるように、静止密封環206において回転密封環203の摺動面S203方向の軸方向端部には、外径側から内径側に向かって順に、外径側テーパ面、摺動面S206、内周面262(
図14参照)、内径側テーパ面263が形成されている。
【0102】
まず、静止密封環206の摺動面S206について詳しく説明する。静止密封環206の摺動面S206には、流体循環路210が形成されている。流体循環路210は、4等配されている開口部211と、4等配されている流体供給溝212と、から構成されている。
【0103】
開口部211は、摺動面S206の内周縁部61に形成されている。また、開口部211は、直線状に延びている。
【0104】
流体供給溝212は、屈折されたC字状に延び、隣り合う開口部211,211に連通している。
【0105】
また、
図14に示されるように、メカニカルシールMの組み立て使用状態において、回転密封環203と静止密封環206とにより、摺動面S206よりも内周側に環状の環状開口凹部215が形成されている。環状開口凹部215は、周方向に連続する断面視矩形状であり、内周方向に開口している。
【0106】
環状開口凹部215について詳しく説明する。環状開口凹部215は、回転密封環203のテーパ面230と、回転密封環203の摺動面S203と、静止密封環206の内周面262と、静止密封環206の内径側テーパ面263とで画成されている。
【0107】
回転密封環203のテーパ面230は、摺動面S203の内周縁から内径側に向かうほど静止密封環206から離間する方向に傾斜して延び、かつ周方向に延びている。
【0108】
静止密封環206の内周面262は、摺動面S206の内周縁61aに直交し、回転密封環203から離間する方向に延び、かつ周方向に延びている。静止密封環206の内径側テーパ面263は、内周面262から内径側に向かうほど回転密封環203から離間する方向に傾斜して延び、かつ周方向に延びている。摺動面S203の内周縁は、摺動面S206の内周縁61aと径方向略同位置となっている。
【0109】
これにより、環状開口凹部215に滴下された潤滑剤Luは、回転密封環203のテーパ面230、摺動面S203および静止密封環206の内径側テーパ面263によって環状開口凹部215の底部側、すなわち静止密封環206の内周面262、内周縁61a側に導かれる。
【0110】
このように、回転密封環203と静止密封環206により環状開口凹部215が形成されているので、滴下された潤滑剤Luを確実に捕集することができる。
【0111】
また、本実施例のメカニカルシールMは、摺動面S203,S206間に潤滑剤Luが供給され摺動面S203,S206同士の高い潤滑性を長期に亘って維持することができる。これは、摺動面S206の内周縁61aに供給された潤滑剤Luを、周方向に延び径方向に開口している開口部211に取り込みやすくなっており、さらに開口部211に取り込まれた潤滑剤Luは流体供給溝212に導入され摺動面S206の径方向中央に移動するからである。
【0112】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0113】
例えば、前記各実施例では、メカニカルシールは、アウトサイド形式であると説明したが、これに限らず、被密封流体側としての外周側の被密封流体が漏れ側としての内周側へ流出するのを防止するいわゆるインサイド形式であってもよい。
【0114】
また、前記各実施例では、開口部および流体供給溝は、静止密封環に形成されている構成として説明したが、これに限らず、回転密封環に形成されていてもよく、回転密封環および静止密封環それぞれに形成されていてもよい。
【0115】
また、前記各実施例では、開口部および流体供給溝は、4等配または8等配されている構成として説明したが、これに限らず、これらの数は問わない。また周方向に等しく配置されることが好ましいが問わない。
【0116】
また、前記各実施例では、環状開口凹部が構成されているとして説明したが、これに限らず、環状開口凹部が構成されていなくともよい。
【0117】
また、前記各実施例では、周方向に連続する環状開口凹部が構成されている構成として説明したが、これに限らず、複数の開口凹部が形成されていてもよい。すなわち、周方向に不連続であってもよい。
【符号の説明】
【0118】
3 回転密封環(摺動部品)
6 静止密封環(摺動部品)
10 流体循環路
11 開口部
11c 周方向端部
11d 周方向端部
12 流体供給溝
15 環状開口凹部
60 外周縁部
60a 外周縁(開口部側の周縁)
61 内周縁部
111 開口部
121~124 流体供給溝
106 静止密封環(摺動部品)
110A,110B 流体循環路
203 回転密封環(摺動部品)
206 静止密封環(摺動部品)
210 流体循環路
211 開口部
212 流体供給溝
215 環状開口凹部
61a 内周縁(開口部側の周縁)
D 深さ
Lu 潤滑剤(流体)
M メカニカルシール
S3 摺動面
S6 摺動面
S106 摺動面
S203 摺動面
S206 摺動面