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特許7528391有価金属含有量推定方法及び有価金属回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-26
(45)【発行日】2024-08-05
(54)【発明の名称】有価金属含有量推定方法及び有価金属回収方法
(51)【国際特許分類】
   F23G 7/00 20060101AFI20240729BHJP
   F23G 5/30 20060101ALI20240729BHJP
   F23G 5/50 20060101ALI20240729BHJP
   F23G 5/02 20060101ALI20240729BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20240729BHJP
【FI】
F23G7/00 D
F23G5/30 Z
F23G5/50 Q
F23G5/02 Z
B09B3/40
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024057655
(22)【出願日】2024-03-29
【審査請求日】2024-04-08
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】立見 友幸
(72)【発明者】
【氏名】藤田 淳
(72)【発明者】
【氏名】石井 豊
(72)【発明者】
【氏名】森茂 真菜
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-306907(JP,A)
【文献】特開2002-102838(JP,A)
【文献】特開2004-141867(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0318312(US,A1)
【文献】特開2003-114178(JP,A)
【文献】特開2005-308390(JP,A)
【文献】特開2004-290733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23G 7/00
F23G 5/50
F23G 5/30
F23G 5/02
B09B 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動媒体を収容する炉本体と、前記流動媒体を流動させるための流動化ガスを吹き付ける散気機構と、を備え、前記炉本体は前記流動媒体を支持する炉底板と、前記炉底板に隣接して設けられて前記流動媒体を排出可能な排出口とを有し、焼却対象を焼却処理又はガス化する流動床炉において、
前記散気機構を停止させて前記排出口から前記流動媒体の少なくとも一部を抜き出した状態で、前記炉底板に残存した前記流動媒体に含まれる有価金属の量を、前記焼却対象の焼却のための前処理情報に基づいて推定する有価金属含有量推定方法。
【請求項2】
前記前処理情報は、前記焼却対象の分別情報を含む請求項1に記載の有価金属含有量推定方法。
【請求項3】
前記分別情報は、選別の有無や選別の種類を含む請求項2に記載の有価金属含有量推定方法。
【請求項4】
前記焼却対象は、小型家電を含む請求項2に記載の有価金属含有量推定方法。
【請求項5】
前記有価金属の量は、前記前処理情報から得られた、前記小型家電の前記流動床炉への投入容易性を示す小型家電投入ポイントとの相関に基づく相関式にて表される請求項4に記載の有価金属含有量推定方法。
【請求項6】
前記相関式は、前記小型家電の種類毎の前記小型家電投入ポイントを用いて表される請求項5に記載の有価金属含有量推定方法。
【請求項7】
前記有価金属は金である請求項5に記載の有価金属含有量推定方法。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載の有価金属含有量推定方法により推定した推定値に応じて、前記有価金属の回収頻度又は回収方法を変更する有価金属の回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価金属含有量推定方法及び有価金属回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、流動床炉として、砂等の流動媒体が流動した状態で各種廃棄物を焼却処理する流動床式焼却炉や当該廃棄物をガス化する流動床式ガス化炉が知られている。これらの流動床炉には、流動媒体を炉底から抜き出して当該流動媒体から不燃物を分離した後に炉本体に戻す循環機構が設けられている。
【0003】
特許文献1に記載の流動床炉は、炉底に設けられた排出口(文献では、「抜出口」)から流動媒体を抜き出して回収するよう構成されている。流動床炉により焼却等される廃棄物には、金や銀等の貴金属或いは鉛や亜鉛等の重金属等、有価金属が微量に含まれている。流動床炉に収容された流動媒体のうち、排出口から抜き出されずに炉底板上に残存した流動媒体に、廃棄物由来の有価金属が高濃度に含まれていることが知られている。そこで、流動床炉では、炉底板を排出口に向けて傾斜させて重力により排出口から流動媒体を排出した後に、炉底板に残存した流動媒体から有価金属を回収する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2021-25699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有価金属の効率的な回収は、有価金属含有量の高い流動媒体の回収を行うことにより実現されるところ、流動媒体の有価金属含有量は、経験則によって推定されてきた。そのため、有価金属の回収を行ったことのない流動床炉においては有価金属含有量を推定できず、有価金属を効率よく回収するうえで改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、炉本体に収容される流動媒体に含まれる有価金属の量を推定する有価金属含有量推定方法と有価金属の回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る有価金属含有量推定方法の特徴構成は、流動媒体を収容する炉本体と、前記流動媒体を流動させるための流動化ガスを吹き付ける散気機構と、を備え、前記炉本体は前記流動媒体を支持する炉底板と、前記炉底板に隣接して設けられて前記流動媒体を排出可能な排出口とを有し、焼却対象を焼却処理又はガス化する流動床炉において、前記散気機構を停止させて前記排出口から前記流動媒体の少なくとも一部を抜き出した状態で、前記炉底板に残存した前記流動媒体に含まれる有価金属の量を、前記焼却対象の焼却のための前処理情報に基づいて推定する点にある。
【0008】
本構成によれば、焼却対象の焼却のための前処理情報に基づいて、流動床炉の炉本体に収容される流動媒体に含まれる有価金属の含有量を推定する。これにより、実際に焼却炉に投入された焼却対象の種類や量を調査しなくとも、既存の情報である前処理情報を用いて、簡易的に流動媒体に含まれる有価金属の量を推定可能である。
【0009】
他の構成特徴は、前記前処理情報が前記焼却対象の分別情報を含む点にある。
【0010】
本構成によれば、前処理情報に焼却対象の分別情報が含まれるので、分別情報を基に流動媒体に含まれる有価金属の含有量を推定することができる。焼却対象の分別方法により流動床式焼却炉に投入される焼却対象の種類や量が変化するため、流動媒体の有価金属含有量の推定精度を向上可能である。
【0011】
他の構成特徴は、前記分別情報が選別の有無や選別の種類を含む点にある。
【0012】
本構成によれば、分別情報に選別の有無や選別の種類が含まれるので、各自治体の行っている選別種類等を前処理情報に反映することができる。選別の有無や選別の種類により流動床炉に投入される焼却対象の種類や量が変化するため、流動媒体の有価金属含有量の推定精度を向上可能である。
【0013】
他の構成特徴は、前記焼却対象が小型家電を含む点にある。
【0014】
本構成によれば、金、銀、銅、レアメタルといった有価金属を含む小型家電が焼却対象に含まれるので、これらの焼却のための前処理情報に基づいて流動媒体の有価金属含有量を推定することにより、流動媒体の有価金属含有量の推定精度を向上可能である。
【0015】
他の構成特徴は、前記有価金属の量が、前記前処理情報から得られた、前記小型家電の前記流動床炉への投入容易性を示す小型家電投入ポイントとの相関に基づく相関式にて表される点にある。
【0016】
本構成によれば、前処理情報から得られた小型家電の流動床式焼却炉への投入容易性を示す小型家電投入ポイントとの相関に基づいて、流動媒体に含まれる有価金属の量を推定する。前処理情報を数値化して小型家電投入ポイントとすることにより、相関式を作成できるので、相関式に基づいて流動媒体の有価金属の含有量を推定可能である。
【0017】
他の構成特徴は、前記相関式が、前記小型家電の種類毎の前記小型家電投入ポイントを用いて表される点にある。
【0018】
小型家電は種類によって有価金属の含有量や前処理情報が異なる。本構成によれば、小型家電の種類毎の小型家電投入ポイントを用いて相関式を作成するので、流動媒体に含まれる有価金属の量の推定精度を向上できる。
【0019】
他の構成特徴は、前記有価金属が金である点にある。
【0020】
本構成によれば、流動媒体に含まれる金の含有量を推定することにより、経済的メリットに基づいて金の回収の実施可否を判断することが可能となる。
【0021】
また、本発明に係る有価金属回収方法の特徴構成は、有価金属含有量推定方法により推定した推定値に応じて、前記有価金属の回収頻度又は回収方法を変更する点にある。
【0022】
本構成によれば、有価金属含有量推定方法により推定した推定値に応じて、有価金属の回収頻度又は回収方法を変更する。これにより、有価金属の回収効率が最大となるタイミング又は方法で有価金属の回収を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施形態における流動床炉設備の構成を模式的に示す図である。
図2】流動床炉における炉底版の構成を示す部分断面図である。
図3】流動床炉における散気管の構成を示す平面図である。
図4】炉底板上に流動媒体が残存した状態の流動床炉の断面図である。
図5】有価金属含有量推定装置の構成を示す図である。
図6】有価金属含有量推定方法の工程図である。
図7】小型家電の分類と第一係数の一例を示す図である。
図8】推定式の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明に係る有価金属含有量推定方法及び有価金属回収方法の実施形態について、図面に基づいて説明する。ただし、以下の実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0025】
〔流動床炉設備の構成〕
流動床炉設備1の構成を、図1図4を参照して説明する。図1に示すように、流動床炉設備1は、流動床式ガス化炉10(流動床炉の一例、以下、「流動床炉10」と略称する。)と、旋回流溶融炉20と、ダクト30と、を主に備えている。以下、これらの構成要素についてそれぞれ説明する。
【0026】
流動床炉10は、焼却対象として、例えば都市ごみ、下水汚泥、自動車破砕残渣(ASR:Automobile ShredderResidue)、又は廃家電製品等の各種廃棄物や、有価金属を含む家電等の被燃焼物を、可燃性ガス(一酸化炭素、水素、炭化水素等)、未燃物(チャー)及び灰に熱分解するための設備である。家電等にはパソコンや携帯電話、デジタルカメラ等といった小型家電が含まれてもよい。焼却対象は家電等に由来する金、銀、銅、レアメタルといった有価金属を含んでいる。
【0027】
流動床炉10は焼却対象を焼却処理又はガス化する。図1に示すように、流動床炉10は、流動媒体13を収容する炉本体12を備えている。炉本体12(流動床炉10)は、流動媒体13を支持する炉底板16と、炉底板16に隣接して設けられて流動媒体13を排出可能な排出口16aと、を有する。本実施形態では、炉底板16の中央部位に円形の開口が形成されており、排出口16aは当該開口によって構成されている。また、炉底板16の排出口16aには炉底板16の下方に延出される排出管15が接続されている。さらに、流動床炉10は、炉本体12の炉底板16よりも下部から流動媒体13に向かって流動化ガスを吹き付ける散気機構Aを備えている。本実施形態では、散気機構Aは、炉底板16よりも下部から流動化ガスを吹き付けるように構成されている。図示しないが、散気機構Aは、炉底板16の上方であって炉本体12の側面側から流動化ガスを吹き付ける構成でもよい。
【0028】
炉本体12は、例えば上下方向に延びる円筒形状を有している。炉本体12には、供給口14と、流出口11と、導入口17と、がそれぞれ設けられている。焼却対象は供給口14から炉本体12内に供給される。炉本体12内で発生した可燃性ガスは流出口11から炉外へ流出される。散気機構Aとして、炉本体12内における炉底板16よりも下側の空間に風箱18が設けられ、流動媒体13を流動させるための流動化ガス(例えば、空気)が導入口17から風箱18に導入される。図1に示すように、供給口14は、炉本体12の側部のうち炉底板16よりも上側の部位に設けられている。流出口11は、炉本体12の頂部に設けられている。導入口17は、炉本体12の側部のうち炉底板16よりも下側の部位に設けられている。
【0029】
炉底板16は炉本体12の底部側に配置されている。流動媒体13の排出口16aは炉底板16の内周側に形成されている。炉底板16には多数の散気管19が貫通している。図1に示すように、炉底板16は、内周側の排出口16aに向かって下向きに傾斜しており、その傾斜角は、流動媒体13の安息角よりも小さい角度となっている。具体的には、流動媒体13の安息角が好ましくは30度~40度であるのに対し、炉底板16の傾斜角は10度~30度となっている。なお、図4では、炉底板16の傾斜角(角度θ)が、水平方向(図4中の一点鎖線Y)と炉底板16の表面16cとの間の角として示されている。本実施形態では、炉底板16は、全体が流動媒体13の安息角よりも小さい角度で傾斜しているが、炉底板16はその一部が流動媒体13の安息角よりも小さい角度で傾斜する構成でもよい。
【0030】
流動媒体13は、例えば珪砂やオリビン砂等の流動砂であり、炉底板16上に充填されている。これにより、図1に示すように、所定の厚さを有する流動層(砂層)が、炉底板16上に形成されている。流動床炉10は、流動媒体13が流動した状態で有価金属(例えば、金、銀、銅、鉛又は亜鉛)を含む焼却対象を処理する。
【0031】
排出管15は、流動媒体13を不燃物と共に炉本体12の外へ抜き出すためのものである。図1に示すように、排出管15は、炉底板16の排出口16aに接続された上端部と、炉本体12の外側に位置する下端部と、を有し、炉本体12の底壁部を貫通して上端部から下端部まで上下に延びている。
【0032】
散気機構Aは、導入口17、風箱18、及び、複数の散気管19によって構成されている。図2図3に示すように、各散気管19は、炉底板16を厚さ方向に貫通する直管部19aと、直管部19aの上端に接続されたU字管部19bと、を有している。図1に示すように、散気機構Aは、流動媒体13を流動させるために、導入口17から風箱18に導入された流動化ガスを散気管19に流通させて、炉本体12の炉底板16よりも下部から流動媒体13に向かって流動化ガスを吹き付ける。導入口17から風箱18に導入された流動化ガスは、直管部19a内を上昇した後、U字管部19bの開口から流動媒体13に向けて送り出される(図3中矢印)。
【0033】
図2図4に示すように、炉底板16は、散気機構Aを停止させて排出口16aから流動媒体13を抜き出した状態において流動媒体13を堆積させて堆積層13aを形成する堆積機構Bを、散気機構Aとは異なる位置に有している。堆積機構Bは、炉底板16に設けられた堰止め部材16bで構成されている。本実施形態では、堰止め部材16bは、炉底板16の排出口16a側の端部である開口周縁に設けられており、炉底板16に残存する流動媒体13が重力により排出口16aに流入するのを防止する。
【0034】
図1に示すように、旋回流溶融炉20は、流動床炉10で発生した可燃性ガスの旋回流100を形成しつつ可燃性ガス及び未燃物を完全燃焼させると共に、可燃性ガスに同伴された灰を溶融させる炉である。旋回流溶融炉20は溶融炉本体23を有する。溶融炉本体23には、可燃性ガスの流入口21及び溶融スラグを炉外へ排出する出滓口22がそれぞれ設けられている。溶融スラグは、流入口21から溶融炉本体23に流入した可燃性ガスの灰が溶融することにより形成される。
【0035】
流入口21は、溶融炉本体23の側部のうち頂部近傍の部位に設けられている。流入口21は、ダクト30により流動床炉10の流出口11に接続されている。出滓口22は、溶融炉本体23の底部に設けられている。旋回流溶融炉20において可燃性ガスが燃焼することにより発生した排ガスは、旋回流溶融炉20の後段に配置された各種設備(ボイラ、減温塔、バグフィルタ、触媒反応塔等)を通過した後、煙突(図示しない)から大気中に放出される。
【0036】
流動床炉10は、循環路40を有している。循環路40は、炉本体12の外へ抜き出された流動媒体13を、不燃物から分離した後に炉本体12へ戻すものである。循環路40は、抜出スクリュ41と、分級装置42と、循環エレベータ43と、貯留槽44と、第1搬送経路45と、第2搬送経路46と、第3搬送経路47と、を有している。
【0037】
抜出スクリュ41は、回転駆動によって炉本体12の底部から流動媒体13を不燃物と共に抜き出すためのものであり、排出管15の下端部に設けられている。分級装置42は、抜出スクリュ41の下流端に設けられており、篩によって流動媒体13と不燃物とを分離する。なお、流動媒体13から分離された不燃物は、粉砕された後に旋回流溶融炉20においてスラグ化され、又は系外へ搬出される。
【0038】
循環エレベータ43は、分級装置42により不燃物が除去された流動媒体13を、所定の高さまで搬送するものである。図1に示すように、循環エレベータ43の下部には流動媒体13の入口43Aが設けられており、この入口43Aは第1搬送経路45により分級装置42の出口42A(流動媒体13の出口)と接続されている。また循環エレベータ43の上部には、流動媒体13の出口43Bが設けられている。
【0039】
貯留槽44は、循環エレベータ43により上方に搬送された流動媒体13を貯留する。第2搬送経路46は、循環エレベータ43の出口43Bから入口43Aに向けて設けられており、途中に貯留槽44が配置されている。これにより、循環エレベータ43によって上方に搬送された流動媒体13を、第2搬送経路46を介して貯留槽44へ落下させて貯留槽44に貯留することができる。
【0040】
第3搬送経路47は、一端が第2搬送経路46における貯留槽44よりも上側の部位に接続され、他端が炉本体12の側部に接続されている。これにより、循環エレベータ43の出口43Bから出た流動媒体13を、第3搬送経路47を介して炉本体12に戻すことができる。なお、図示は省略するが、循環路40は、循環エレベータ43の出口43Bから出た流動媒体13を、貯留槽44へ導くか又は炉本体12へ導くかを切り替える切替部(バルブ等)をさらに有していてもよい。
【0041】
〔有価金属含有量推定方法〕
続いて、流動媒体13に含まれる有価金属の量を推定する有価金属含有量推定方法について図5及び図6を用いて説明する。本実施形態では、焼却対象の焼却のための前処理情報に基づいて有価金属含有量が推定される。以下では、小型家電を含む焼却対象を流動床炉10にて処理した場合における有価金属含有量推定方法について説明する。有価金属含有量の推定は、例えば、有価金属含有量推定装置50によって行われる。
【0042】
有価金属含有量推定装置50は、焼却対象の前処理情報を取得し前処理情報に基づいて有価金属含有量の推定を行う。有価金属含有量推定装置50は、図5に示すように、前処理情報を取得する取得部51と、有価金属含有量の推定式(相関式の一例)を作成する推定式作成部52と、有価金属含有量の推定を行う推定部53と、を有する。取得部51、推定式作成部52、及び推定部53は制御部54によって動作する。制御部54はプロセッサを有しており、ASIC,FGPA,CPU又は不図示の記憶部に記憶されたアプリケーション等を実行するための他のハードウェアを含んでいる。本実施形態に係る有価金属含有量推定方法は、図6に示すように、前処理情報及び分別情報の取得(S1)、第一係数の決定(S2)、小型家電投入ポイントの算定(S3)、推定式の作成(S4)、有価金属含有量の推定(S5)の各工程を有している。
【0043】
前処理情報は、焼却対象の流動床炉10への投入可否についての情報であり、例えば、焼却対象の分別情報が含まれる。分別情報は、例えば、焼却対象である小型家電が、可燃ごみや不燃ごみ、粗大ごみ等の何れのごみ種別に該当するかについての情報である。自治体によってごみの分類方法は異なるため、分別情報には、各自治体における小型家電毎の分類に関する情報が含まれているとよい。すなわち、分別情報には、リサイクル品、可燃ごみ、不燃ごみ、又は粗大ごみとして処理される小型家電の種類や点数、又は重量等が含まれているとよい。
【0044】
また、分別情報には、各自治体における焼却対象の選別の有無や選別の種類が含まれるとよい。選別は、例えば磁選等の機械選別や手選別である。分別情報には、焼却対象の選別時間や、選別により回収された有価金属の量が含まれていてもよい。取得部51は、例えば、不図示のネットワーク等を通じて各自治体における流動床炉10に投入される焼却対象の前処理情報や、流動媒体13の回収による有価金属回収量の実績値を取得する(図6のS1)。有価金属回収量の実績値は、回収実績が複数ある場合にはその平均値であってもよい。なお、当該前処理情報は、有価金属含有量推定装置50に直接入力されてもよい。
【0045】
推定式作成部52は、取得部51により取得された前処理情報に基づいて有価金属含有量の推定式を作成する。まず、推定式作成部52は、各自治体における流動床炉10毎に、小型家電の流動床炉10への投入容易性を示す小型家電投入ポイントを算定する。小型家電投入ポイントは、例えば、各ごみ種別における小型家電の該当数に流動床炉10への投入容易性を示す第一係数を乗じることにより算定される。
【0046】
推定式作成部52は、前処理情報に基づいて第一係数を設定する(図6のS2)。例えば、ごみ種別がリサイクル品である小型家電は流動床炉10に投入されないため、推定式作成部52は、リサイクル品に該当する小型家電の第一係数を0とする。同様に、ごみ種別が可燃ごみであるものは流動床炉10に投入されるため、可燃ごみに該当する小型家電の第一係数を1とする。また、推定式作成部52は、機械選別や手選別等の選別の有無や選別の種類を含む分別情報に基づいて第一係数を算定してもよい。不燃ごみや粗大ごみ等は、破砕されて選別された後に流動床炉10に投入されるが、その選別の程度は自治体によって差異があるためである。例えば、不燃ごみや粗大ごみにおける手選別の時間が長く、小型家電に含まれる有価金属のほとんどが回収される場合には第一係数を0とすることができ、コンベア上での手選別など作業時間が短く、有価金属の一部が回収されずに流動床炉10に投入される場合には第一係数を0.3と設定することができる。また、機械選別は、手選別ほど有価金属の回収率が高くないと考えられるため、手選別を行わず機械選別のみが行われている場合には、第一係数を0.6と設定することができる。なお、第一係数は、小型家電の選別時間や選別による有価金属の回収量に応じて設定されてもよい。
【0047】
推定式作成部52は、例えば、ごみ種別がリサイクル品に該当する小型家電が30点ある場合には、これにリサイクル品に係る第一係数0を乗じて小型家電投入ポイントを0とし、ごみ種別が可燃ごみに該当する小型家電が5点ある場合には、これに可燃ごみに係る第一係数1を乗じて小型家電投入ポイントを5とする。同様に、ごみ種別が不燃ごみに該当する小型家電が20点ある場合であって、機械選別のみが行われている自治体であれば、これに不燃ごみに係る第一係数0.6を乗じて小型家電投入ポイントを12とし、ごみ種別が粗大ごみに該当する小型家電が10点ある場合であって、手選別が行われている自治体であれば、これに粗大ごみに係る第一係数0.3を乗じて小型家電投入ポイントを3とする。そして、推定式作成部52は、各ごみ種別に係る小型家電投入ポイントを足し合わせて、流動床炉10の設置されている自治体の小型家電投入ポイントを算出する(図6のS3)。
【0048】
推定式作成部52は、小型家電投入ポイントを算定した後に、各自治体における小型家電投入ポイントと、流動媒体13の回収による有価金属回収量の実績値とに基づいて、有価金属含有量の推定式を作成する(図6のS4)。推定式の作成は単回帰により行われてもよいし、重回帰により行われてもよい。これにより、小型家電投入ポイントとの相関に基づいて、流動媒体13における有価金属含有量の推定を行うことが可能となる。
【0049】
図7及び図8は、推定式作成部52によって算定された小型家電投入ポイントと、推定式の一例を示した図である。図7には、流動床炉10を有する自治体a~dにおいて、各ごみ種別に該当する小型家電の該当数と、自治体毎に決定された第一係数と、当該第一係数とによって計算された小型家電投入ポイントが示されている。推定式作成部52は、各自治体における前処理情報に基づいて第一係数を決定している。図8は、小型家電投入ポイントと流動媒体13に含まれる金の含有量との相関を示したグラフであり、小型家電投入ポイントが大きいほど、流動床炉10に小型家電が投入されやすいことから、有価金属含有量が大きいことが分かる。
【0050】
なお、小型家電投入ポイントは、各ごみ種別における小型家電の重量に第一係数を乗じることにより算定されてもよいし、各小型家電の重量に第一係数と当該小型家電の有価金属量を示す第二係数とを乗じることにより算定されてもよい。
【0051】
推定式作成部52によって推定式が作成された後、推定部53は、有価金属含有量を推定したい流動床炉10における有価金属含有量の推定を行う(図6のS5)。まず、推定部53は、取得部51により取得された有価金属含有量の推定に係る流動床炉10における小型家電の分類情報から、当該流動床炉10における小型家電投入ポイントを算定する。そして、当該小型家電投入ポイントと推定式作成部52によって作成された推定式とから、当該流動床炉10における有価金属含有量を推定する。推定部53により推定された推定値は、有価金属含有量推定装置50の有する表示部(不図示のディスプレイ)等に表示されてもよい。なお、有価金属含有量推定装置50により推定された推定量と、実際に流動媒体13に含まれている有価金属の実績量とを用いた機械学習を行うことにより、流動媒体13の有価金属含有量を推定する学習済みモデルを生成してもよい。これにより、流動媒体13の有価金属含有量の推定精度を高めることが可能となる。
【0052】
〔流動床炉における流動媒体回収方法〕
次に、本実施形態に係る流動床炉10における流動媒体13の回収方法を説明する。本回収方法は、例えば流動床炉10のメンテナンス時等、流動床炉10を停止した時に炉本体12内から流動媒体13を回収する方法である。流動媒体回収方法は、流動床炉10(散気機構A)を停止して流動媒体13を回収する方法であって、炉底板16に支持された流動媒体13を排出口16aに流入させて抜き出す抜出工程と、抜出工程の後に炉底板16に残存した流動媒体13を回収する回収工程と、を含んでいる。また、抜出工程では、堆積機構B(堰止め部材16b)によって炉底板16に流動媒体13を堆積させる。本実施形態では、この抜出工程において、堆積機構B(堰止め部材16b)によって炉底板16に残存した流動媒体13を堆積させて堆積層13aを形成する。また、堆積層13aは、その厚みが炉本体12の中心Xを基準として中心Xから炉本体12の内面12aに亘る径方向のうち中央部分Cよりも排出口16aの側が大きくなるように、流動媒体13が堆積されている(図4参照)。
【0053】
図1に示すように、流動床炉10のメンテナンス前、すなわち流動床炉10の定常運転においては、散気管19により送り込まれる流動化ガス(例えば、空気)により流動媒体13が流動した状態で、焼却対象が供給口14から炉本体12内に供給される。この焼却対象は、炉本体12内で流動媒体13によって加熱されることにより可燃性ガス、未燃物及び灰に熱分解される。ここで、焼却対象中には、貴金属(金、銀、銅等)や重金属(鉛、亜鉛等)等の有価金属が相当量含まれている。
【0054】
流動床炉10で発生した可燃性ガスは、未燃物及び灰と共にダクト30を通じて旋回流溶融炉20内に流入する。そして、この旋回流溶融炉20において、可燃性ガス及び未燃物が完全燃焼すると共に灰が溶融する。この定常運転の間、循環路40を作動させることにより、炉本体12内に充填された流動媒体13を不燃物と共に炉外へ抜き出すと共に、不燃物が除去された流動媒体13を炉本体12に戻すことができる。
【0055】
次に、流動床炉10のメンテナンス時期が到来すると、まず、炉本体12への焼却対象の供給を停止する。続いて風箱18への流動化ガスの供給を停止する。すなわち、散気機構Aを停止する。その後、炉本体12内に充填された流動媒体13を、炉本体12の外へ抜き出す抜出工程が行われる。
【0056】
抜出工程では、炉本体12内に充填された流動媒体13を、排出口16aに流入させて炉本体12の外へ抜き出す。具体的には、抜出スクリュ41を回転駆動させることにより、炉本体12内に充填された流動媒体13を、排出口16aと排出口16aに連通する排出管15とを介して炉本体12の外へ抜き出す。
【0057】
炉外へ抜き出された流動媒体13は、分級装置42で不燃物と分離され、循環エレベータ43により上方に搬送された後に貯留槽44に貯留される。つまり、抜出工程では、炉本体12から抜き出された流動媒体13が、炉本体12に戻されず、全て貯留槽44に貯留される。上述の通り、炉底板16は、流動媒体13の安息角よりも小さい角度θで排出口16aに向かって下向きに傾斜している。このため、抜出工程で炉本体12内の流動媒体13が全て炉外へ抜き出されることはなく、抜出工程の後に炉底板16上において一部の流動媒体13が堆積されて堆積層13aを形成して残存する。
【0058】
本実施形態では、さらに、炉底板16が、流動媒体13の堆積機構Bとして炉底板16のうち排出口16a側の端部である開口周縁に設けられた堰止め部材16bを有する(図2図4参照)。したがって、抜出工程において、流動媒体13は排出口16aへの流入が堰止め部材16bによって阻止されるので、炉底板16には堆積層13aとして多くの流動媒体13が残存する。また、本実施形態では、この抜出工程において、堆積機構B(堰止め部材16b)によって炉底板16に残存した流動媒体13による堆積層13aの厚みが、炉本体12の平面視において炉底板16が配置された領域における中心Xを基準として中心Xから炉本体12の内面12aに亘る径方向のうち中央部分Cよりも排出口16aの側が大きくなるように、流動媒体13が堆積されている(図2及び図4参照)。具体的には、図2に示すように、堆積層13aの厚みは、中心Xから炉本体12の内面12aに亘る径方向のうち中央部分Cの厚みT2,T3よりも排出口16aの側の厚みT1の方が大きくなる。また、排出口16a側の堆積層13aが、炉底板16の表面16cに沿って排出口16aの側に移動する流動媒体13の抵抗となって、流動媒体13が排出口16aに向けて流れ難くなる。これにより、炉底板16は、排出口16aの近くの部位に多量の流動媒体13を残存させることができる。その結果、炉底板16に残存する流動媒体13(堆積層13a)から有価金属を効率よく回収することができる。
【0059】
本実施形態における堰止め部材16bは、複数の散気管19で構成される同心円状に配置された散気管群のうち、最も内周側に位置する散気管群よりも排出口16a側の端部(開口端縁)に、平面視円形状に形成されている。図2に示すように、この堰止め部材16bは、炉底板16の表面16cを基準とした高さが、散気管19の高さよりも小さい。特に、散気管19のU字管部19bよりも低い位置に堰止め部材16bがあるため、稼働時における散気機構Aの散気処理を阻害すること無く、堆積機構Bにより効率的に堆積層13aを形成することができる。なお、堰止め部材16bは、炉底板16の表面16cから突出する状態と炉底板16の表面16cから突出しない状態とに出退移動自在に構成してもよい。
【0060】
このように、炉本体12に収容された流動媒体13のうち、大半(例えば90%以上)が抜出工程で貯留槽44に送られ、残りが炉本体12の内部に残存する。ここで、流動床炉10において、抜出工程後に炉本体12に残存する流動媒体13に焼却対象由来の有価金属(金、銀、銅、鉛、亜鉛等)が高濃度の状態で含まれていることが知られている。
【0061】
このため、抜出工程に続く回収工程において、抜出工程で炉本体12内から抜き出した流動媒体13(貯留槽44に貯留された流動媒体13)と分離した状態で、炉本体12に残存した流動媒体13を別途回収する。具体的には、抜出工程が完了した後に作業者が炉本体12の内部に立ち入り、炉底板16に残存した流動媒体13を採取することによって流動媒体13を炉本体12の内部から直接回収する。
【0062】
その後、作業者は、炉本体12の内部の清掃や点検等のメンテナンス作業を行う。なお、炉底媒体の回収前に炉内の清掃、点検等が行われてもよいし、炉底板16に残存した流動媒体13の回収と炉本体12の内部のメンテナンス作業とが併行して行われてもよい。つまり、散気機構Aを停止させてから回収工程を実施すればよい。
【0063】
このように、本実施形態に係る回収方法では、流動床炉10のメンテナンスのタイミングを利用して、焼却対象由来の有価金属を高濃度に含んだ流動媒体13を回収する。
【0064】
最後に、回収工程で回収した流動媒体13から有価金属を分離する。具体的には、熱処理、化学処理又は物理選別等の方法により、流動媒体13に含まれる有価金属を流動媒体13から分離する。熱処理としては、例えば、溶融処理(製錬)、焼成処理又は塩化揮発等が挙げられる。化学処理としては、例えば、酸等の溶媒抽出がある。また物理選別としては、例えば、風力選別、磁力選別、振動選別、渦電流選別、静電選別又は比重選別等が挙げられる。
【0065】
上述した有価金属の回収は、有価金属含有量推定方法により推定された推定値に応じて頻度や方法が変更されてもよい。例えば、有価金属含有量の推定値が低ければ、有価金属の回収頻度を低減して次回の休炉タイミングで行うことにより、効率的に有価金属を回収することができる。また、有価金属含有量の推定値に応じて堆積機構Bとしての堰止め部材16bの高さを変更してもよいし、炉底板16の表面16cに複数の段差や突起を設けてもよい。これにより、流動媒体13を排出口16aの近くの部位に残存させることができるので、有価金属の回収量を増加可能である。
【0066】
〔その他の実施形態〕
(a)上記実施形態では、小型家電を含む焼却対象の前処理情報に基づいて流動媒体13の有価金属含有量を推定したが、小型家電に限られず、例えば都市ごみや自動車破砕残渣等の前処理情報に基づいて流動媒体13の有価金属含有量の推定を行ってもよい。
【0067】
(b)推定式作成部52は、前処理情報や分別情報を取得する度に推定式の更新を行ってもよいし、同じ自治体であれば同じ推定式を使用してもよい。これにより、推定式の精度を高めることが可能となる。
【0068】
(c)推定式作成部52は、流動床炉10に投入される小型家電の種類毎や回収される有価金属毎に推定式を作成してもよい。これにより、推定式の精度を高めることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、炉底板に残存した流動媒体に含まれる有価金属の量を、焼却対象の焼却のための前処理情報に基づいて推定する有価金属含有量推定方法及び有価金属の回収方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0070】
10 :流動床炉
12 :炉本体
13 :流動媒体
16 :炉底板
16a :排出口
A :散気機構

【要約】
【課題】有価金属を効率的に回収することのできる有価金属含有量推定方法及び有価金属の回収方法を提供する。
【解決手段】流動媒体13を収容する炉本体12と、流動媒体13を流動させるための流動化ガスを吹き付ける散気機構Aと、を備え、炉本体12は流動媒体13を支持する炉底板16と、炉底板16に隣接して設けられて流動媒体13を排出可能な排出口16aとを有し、焼却対象を焼却処理又はガス化する流動床炉10において、散気機構Aを停止させて排出口16aから流動媒体13の少なくとも一部を抜き出した状態で、炉底板16に残存した流動媒体13に含まれる有価金属の量を、焼却対象の焼却のための前処理情報に基づいて推定する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8