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特許7528403コンクリート凝結硬化制御材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】コンクリート凝結硬化制御材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/30 20060101AFI20240730BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240730BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20240730BHJP
   C04B 103/24 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
C04B24/30 B
C04B28/02
C04B22/08 A
C04B103:24
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021081667
(22)【出願日】2021-05-13
(65)【公開番号】P2022175345
(43)【公開日】2022-11-25
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】直町 聡子
(72)【発明者】
【氏名】松元 淳一
(72)【発明者】
【氏名】堀口 賢一
(72)【発明者】
【氏名】新藤 竹文
(72)【発明者】
【氏名】並木 ▲祥▼恵
(72)【発明者】
【氏名】小林 正範
(72)【発明者】
【氏名】真栄田 篤
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-056781(JP,A)
【文献】特開2001-247343(JP,A)
【文献】特開2004-137091(JP,A)
【文献】特開昭56-037265(JP,A)
【文献】米国特許第04330334(US,A)
【文献】特開2018-012111(JP,A)
【文献】特開2012-017213(JP,A)
【文献】特開平05-317678(JP,A)
【文献】特表平5-500676(JP,A)
【文献】国際公開第2018/230574(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02
C04B 40/00-40/06
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂でコーティングされたセメント粉粒体であることを特徴とするコンクリート凝結硬化制御材。
【請求項2】
セメント粉体:フェノール樹脂の質量比が100:2.5~10:1であることを特徴とする請求項1記載のコンクリート凝結硬化制御材。
【請求項3】
セメント粉粒体は、2mm以下の径であることを特徴とする請求項1又は2記載のコンクリート凝結硬化制御材。
【請求項4】
無水溶媒を用いたフェノール樹脂溶液をセメント粉体に噴霧しながら攪拌してセメント粉体の表面にフェノール樹脂をコーティングすることを特徴とするコンクリート凝結硬化制御材の製造方法。
【請求項5】
フェノール樹脂をセメント粉体に溶融混練しながらセメント粉体の表面にフェノール樹脂をコーティングすることを特徴とするコンクリート凝結硬化制御材の製造方法。
【請求項6】
攪拌が回転を伴う攪拌であって、回転攪拌によって造粒されたセメント粉粒体を製造することを特徴とする請求項4又は5記載のコンクリート凝結硬化制御材の製造方法。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載されたコンクリート凝結硬化制御材をセメントと混合したセメント成分と、骨材、水及び他のコンクリート組成分と混合した凝結硬化を抑制するコンクリート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
コンクリートの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート用の混和材として、減水剤、流動化剤、硬化促進剤、凝結遅延剤、凝結促進剤、収縮低減剤など多種類が開発されている。マスコンなどの発熱対策として用いられる水和熱抑制剤なども開発されている。
【0003】
特許文献1(特開2019-064839号公報)には、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸、ヒドロキシエタンジホスホン酸及びニトリロ三酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸などのキレート剤とオキシカルボン酸系分散剤を用いたセメント用水和熱抑制剤が提案されている。
特許文献2には(特開2004-137091号公報)には、γ-C2S及び水和熱抑制剤(デキストリン)を含有してなる水和発熱量を低減できるセメント混和材が提案されている。
特許文献3(特開平7-187749号公報)には、断熱性能を有するフェノール樹脂セメント混和物を提供する方法として、フェノール樹脂が、(a)レゾルシノール類とアルデヒド類との反応生成物であるレゾルシノールノボラック樹脂を含むレゾルシノール成分、及び(b)ホルムアルデヒドとフェノールとの反応生成物であるフェノールレゾール樹脂、との反応生成物であり、セメントないしモルタルと上記(b)フェノールレゾール樹脂とを混和した後、(a)レゾルシノール成分を混和するレゾルシン変性フェノール樹脂とセメントを含むフェノール樹脂セメント混和物の製造方法が開示されている。この発明は、コンクリート(モルタル)を混練する際に、この混和物を添加するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-064839号公報
【文献】特開2004-137091号公報
【文献】特開平7-187749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、水和反応を制御可能なコンクリート混和材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1.フェノール樹脂でコーティングされたセメント粉粒体であることを特徴とするコンクリート凝結硬化制御材。
2.セメント粉体:フェノール樹脂の質量比が100:2.5~10:1であることを特徴とする1.記載のコンクリート凝結硬化制御材。
3.セメント粉粒体は、2mm以下の径であることを特徴とする1.又は2.記載のコンクリート凝結硬化制御材。
4.無水溶媒を用いたフェノール樹脂溶液をセメント粉体に噴霧しながら攪拌してセメント粉体の表面にフェノール樹脂をコーティングすることを特徴とするコンクリート凝結硬化制御材の製造方法。
5.フェノール樹脂をセメント粉体に溶融混練しながらセメント粉体の表面にフェノール樹脂をコーティングすることを特徴とするコンクリート凝結硬化制御材の製造方法。
6.攪拌が回転を伴う攪拌であって、回転攪拌によって造粒されたセメント粉粒体を製造することを特徴とする4.又は5.記載のコンクリート凝結硬化制御材の製造方法。
7.1.~3.のいずれかに記載されたコンクリート凝結硬化制御材をセメントと混合したセメント成分と、骨材、水及び他のコンクリート組成分と混合した凝結硬化を抑制するコンクリート。
【発明の効果】
【0007】
1.水和硬化反応時間が制御可能な安定した品質のコンクリート混和材を実現することができた。水和硬化反応時間を制御できるので、温度上昇抑制材や強度増進材などに利用できる。特に、初期の発熱を抑制することで温度ひび割れを低減させることができる。
2.本発明のコンクリート凝結硬化制御材は、細骨材より小さな粉粒体であるので、セメント粉体に混合して用いることができ、骨材などのコンクリート組成物と均一に混合できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】候補物質探査用試験組成物を示す図。
図2図1記載の試験物質に対応する凝結反応による発熱を示す図。
図3】フェノール樹脂コーティングセメント粉粒体の製造工程を示す図。
図4】実施例1の発熱量測定結果を示す図。
図5】フェノール樹脂の添加形態によるセメント水和反応に与える影響を確認する試験結果を示す図。
図6】実施例2~5の組成を示す図。
図7】実施例2~5の発熱試験結果を示す図。
図8】発熱抑制のメカニズムを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、コンクリートが凝結して硬化する時間を制御する制御材(以下、「コンクリート凝結硬化制御材」という場合もある。)に関する発明である。
また、本発明は、セメント粉体にフェノール樹脂皮膜を形成したフェノール樹脂コーティングセメント粉粒体(以下「セメント粉粒体」という場合もある)に関する発明である。本発明に係るフェノール樹脂でコーティングされたセメント粉粒体とは、フェノール樹脂がセメント粉体に均一に被覆したセメント粉粒体又はフェノール樹脂がセメント粉体に不均一に被覆したセメント粉粒体のいずれか、あるいはその両方を意味する。フェノール樹脂をセメント粉体にコーティングする手段としては、無水溶媒を用いた噴霧攪拌手段や加熱溶融手段が利用できる。例えば、フェノール樹脂をエタノール溶媒で溶液とし、セメント粉体に噴霧、攪拌して、造粒してフェノール樹脂コーティングセメント粉粒体であるコンクリート凝結硬化制御材が製造される。
本発明の、フェノール樹脂コーティングセメント粉粒体をセメントに加えて、骨材、水等のコンクリート組成物と混合して、打設、硬化させてコンクリート体を成形する。コンクリートは水和反応して、発熱しながら硬化する。本発明のコンクリート凝結硬化制御材は、初期の水和反応を抑制して、反応熱を低く抑えることができる。
本発明のコンクリート凝結硬化制御材による水和反応抑制は、打設後にコンクリート中で、アルカリ性下で水和反応が始まるときに、無処理のセメントは水和反応を始めるが、フェノール樹脂皮膜に覆われたコンクリート凝結硬化制御材はフェノール皮膜によって水と接触しないので反応できないので、全体として水和反応が抑制される。また、アルカリ性下において、フェノール皮膜が徐々に劣化して、露出したセメント粉末も徐々に水和反応することによって、初期の反応熱は抑制し、最終的には通常のコンクリートと同等の反応量となる。
本発明のコンクリート凝結硬化制御材をコンクリートの混和材として用いることにより、水和硬化反応時間が制御可能な安定した品質のコンクリートを実現することができる。また、本発明のコンクリート凝結硬化制御材は、水和硬化反応時間を制御できるので、温度上昇抑制材、強度増進材などに利用できる。
本発明のコンクリート凝結硬化制御材は、粉体としてセメントに混合するので、細骨材よりも小さな大きさが望ましく、砂程度の2mm以下の径とするのが適している。さらに、1mm以下の径、特に、細かな100~600μmの径が適しており、ある態様としては更に細かな100~200μmの径が適している。
小さな粉体ほど、セメント粉体と均一に混合しやすい。一方、径が大きくなると、フェノール樹脂皮膜の崩壊が遅くなる結果、水和反応が遅くなり、発熱も抑えられるが、硬化に伴う強度の発現も遅くなる。また、大きな径では、造粒過程で、被膜された小さなセメント粉体が結合して大きく造粒されることもあるので、被膜が複層化し、表層の被膜崩壊後も、順次内側の被膜の崩壊へと進むので、水和反応が長期化することとなる。なお、径が100μm以下の場合は、フェノールが被覆していないセメント粉体の可能性がある。
フェノール樹脂の溶解に用いるエタノール溶媒の量は、フェノール樹脂を溶解できて、噴霧操作できる程度の量に設定する、例えば、フェノール樹脂とエタノール溶媒の比は1:9(質量比)とする。セメント粉体にコーティングするフェノール樹脂の量は、セメント粉体100に対し、2.5から10程度である。
【0010】
<本発明の基本組成について>
<フェノール樹脂コーティングセメント粉粒体>
本発明のフェノール樹脂をコーティングするセメントの種類は、通常使用されているアルカリ性を呈するセメント一般を用いることができる。
例えば、普通ポルトランドセメントなどのポルトランドセメント、高炉セメントなどの混合セメント、ポルトランドセメントをベースにした特殊セメントなどである。
【0011】
フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類との縮合反応により得られる樹脂状物質を主体とする高分子であって、成形品、積送品、接着剤、塗料、発泡体などに広く使用されている樹脂である。フェノール樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタンジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂などの公知のフェノール樹脂が使用できる。ある態様としては、ノボラック型フェノール樹脂である。ノボラック型フェノール樹脂の具体的としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビフェニレン型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、キシリレン型フェノール樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタンノボラック樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂などが挙げられるが、これらに特に限定されない。ノボラック型フェノール樹脂のある態様としては、キシリレン型フェノール樹脂である。なお、これらは1種又は2種以上組み合わせて使用してもよい。フェノール樹脂は、エタノール、等を溶媒とする溶液状態、あるいは加熱溶融した状態で使用する。
セメント粉体への樹脂のコーティングは、フェノール樹脂とセメント粉体を混合攪拌してセメント粉体の表面にフェノール樹脂の皮膜を形成させる。コーティング方法として、湿式造粒法と乾式造粒法が挙げられる。湿式造粒法の具体例としては、攪拌造粒、流動層造粒、押し出し造粒、乾式造粒法の具体例としては、溶融混練法、圧縮造粒法が挙げられるがこれらに特に限定されない。
セメント粉体をコーティングする際に、噴霧する場合には、噴霧に支障のない粘性に調整して用いられる。セメント粉体:フェノール樹脂の質量比が100:2.5~100:25の範囲の仕様が適している。ある態様としては、100:2.5~100:15であり、別の態様としては100:2.5~10:1であり、更に別の態様としては100:2.5~100:5である。
【0012】
本発明のフェノール樹脂の溶媒としては、混合したときにセメント粉体が水和反応する恐れがない無水かつフェノール樹脂を溶解することができる溶媒である。例えば、メチルエチルケトン、2-エトキシエタノール、ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン等が挙げられる。ある態様としては、エタノールである。溶媒としての使用量は、フェノール樹脂を溶かすことができる量を用いる。例えば、フェノール樹脂濃度を10質量%程度とする。
【0013】
本発明に係るフェノール樹脂でコーティングされたセメント粉粒体とは、フェノール樹脂がセメント粉体に均一に被覆したセメント粉粒体又はフェノール樹脂がセメント粉体に不均一に被覆したセメント粉粒体のいずれか、あるいはその両方を意味する。本発明ではセメント粉体にフェノール樹脂エタノール溶液を添加しながら、転動造粒することで、フェノール樹脂で被覆されたセメント粉粒体を製造する。セメント粉粒体は、砂粒(2mm)以下の粒径とし、1mm以下の径が望ましく、さらに、細かな100~600μmの径が適しており、ある態様としては更に細かな100~200μmの径が適している。100~200μmが適している。フェノール樹脂コーティングセメント粉粒体の大きさは、粒径が大きくなると、コンクリートの水和反応を遅延させて、発熱を遅くすることができので、コンクリートの凝結硬化を制御する要素とすることができる。
【0014】
本発明のコンクリート凝結硬化制御材は、コンクリートの組成であるセメント、骨材、水などと混合して用いられる。フェノール樹脂で被覆されたコンクリート凝結硬化制御材もコンクリートの固化材として機能する。ただし、すべてが固化材の機能を発揮するわけではないので、セメント成分としては調整する必要がある。なお、フェノール樹脂の被覆が長期間かけて崩壊することがあるので、コンクリート体として供されたのちにも強度発現機能を発揮することができる。
コンクリートとして、混合できる成分は、セメント、水、骨材の基本組成の他、各種用いられている混和材を使用できる。
本発明の、コンクリート凝結硬化制御材は、水和反応を抑制して、発熱温度を低く抑えることができるので、マスコンなどの分厚く大量のコンクリートを使用するような用途に適している。
高強度コンクリートを製造する場合,粘性過多のため,高性能AE減水剤を多量に入れなければならないが,施工時は通常のコンクリートのようにAE減水剤配合として、後々、崩壊して,強度が発現させることができる.
【0015】
<候補材の選定試験>
セメント粉末を被覆して、水との接触を阻害することにより、セメントの水和反応をコントロールできると想定して、被覆材の検討を行った。
候補物質を、エチルセルロース(colorcon、Ethocel Standard 20 Premium)、ポリカプロラクトン(Sigma、Mw 14,000)、ポリ乳酸グリコール酸共重合体(Evonik、502H)、フェノール樹脂(明和化成、MEHC-7800 H)とし、図1に示す組成を用いて造粒した。
例えば、フェノール樹脂(E)で被覆された造粒物は以下の方法により造粒した。
エタノール(関東化学、試薬特級)500mLにモレキュラーシーブ(関東化学、3A 1/16)約25gを添加し水分を除去した。エタノール90gをステンレス計量カップに秤量し、フェノール樹脂(明和化成、MEHC-7800 H)10gを撹拌しながら徐々に加えて溶解させ、フェノール樹脂溶液を調製した。普通ポルトランドセメント10gを磁製乳鉢に入れ、フェノール樹脂溶液10gを滴下しながら乳棒で攪拌混合して造粒品を調製した。得られた造粒品をドラフト内で風乾させ、目開き500μmのステンレス製篩にて篩過して粉粒体を得た。得られた粉粒体をドラフト内で風乾して残存しているエタノールを除去した。風乾した粉粒体を目開き106μmステンレス製篩にて篩過し、篩上の粉粒体を回収した。
造粒した粉粒物と普通ポルトランドセメント(図中では、P普通セメントと表記する)を用いてモルタルを製造して、凝結試験を行った。発熱経過を図2に示す。
この試験の結果、フェノール樹脂(E)が、全体として発熱を抑えることができ、特に、初期の発熱抑制が大きいことが確認できた。
ポリ乳酸グリコール酸共重合体(D)は、比較の普通ポルトランドセメント(A)よりも初期発熱が大きく、エチルセルロース(B)、ポリカプロラクトン(C)は、普通ポルトランドセメント(A)よりも、発熱量を抑制できたが、初期発熱がフェノール樹脂(E)よりも大きかった。
【実施例1】
【0016】
フェノール樹脂400gとエタノール3600gを用いて、普通ポルトランドセメント4000gにコーティング、造粒して、コンクリート凝結硬化制御材を製造し、普通ポルトランドセメント4000gと混合して、モルタルを製造して、発熱試験を行った。
(1)工程
フェノール樹脂コーティング普通ポルトランドセメント粉粒体の製造過程を図3に示す。
1)フェノール樹脂として明和化成株式会社製のMEHC-7800Hを採用し、エタノールに溶解させてフェノール樹脂エタノール溶液を作成した。
2)フェノール樹脂エタノール溶液を普通ポルトランドセメント噴霧しながら、回転攪拌した。
3)エタノールが蒸発するまで攪拌を継続して、フェノール樹脂がコーティングされた普通ポルトランドセメント粉粒体を得た。
4)106μm以上600μm以下の粒径をふるいで選別して、モルタル添加用とした。
5)フェノール樹脂コーティング普通ポルトランドセメント粉粒体と同量の普通ポルトランドセメントを用いて、モルタルを製造して、発熱試験に供した。
【0017】
試供体の発熱量の測定結果の経過を図4に示す。普通セメントの試験体は、普通ポルトランドセメント:蒸留水=1:0.5の質量比を使用した。実験例1の試験体は、普通ポルトランドセメント:フェノール樹脂がコーティングされた普通ポルトランドセメント粉粒体=1:1の質量比とし、実験例1の試験体と普通セメントの試験体のセメント量が同一になるようにした。両試験体のセメント量及び水量が同一であって、コンクリートとしてのセメント水比が同一になるように設定した。
図4に示す結果から、実験例1のフェノール樹脂コーティング普通ポルトランドセメント粉粒体が普通ポルトランドセメントと1:1の質量比で含まれる実験例1は、普通ポルトランドセメントのみを使用するよりも発熱量が抑制され、初期の温度抑制効果が得られることを確認できた。
この試験では、特に、72時間までは1/6程度に抑えられており、96時間以降も1/2以下に抑えられていることがわかった。
【0018】
<試験1>
フェノール樹脂をセメントにコーティングした場合と単に添加した場合における発熱量の抑制効果について、試験を行った。
実験は、通常の配合(A)、フェノール樹脂をセメントにコーティングした場合(C)、しない場合(B)、(D)の4例である。次の配合で混練して24時間発熱量を計測した。計測結果を図5に示す。試験A、B及びDは下記カッコ内に記載の材料を混合し、試験Cについては、実施例1の工程に記載の方法でフェノール樹脂がセメントにコーティングされた造粒物を得た後、普通ポルトランドセメント及び水と混合した。
試験A:普通セメント使用(セメント5g+水2.5g)
試験B:フェノール樹脂別添(セメント5g+フェノール樹脂0.015g+水2.5g)
試験C:フェノール樹脂コーティング造粒物(セメント2.5g+造粒物2.5g+水2.5g)
試験D:フェノール樹脂別添(セメント5g+フェノール樹脂0.15g+水2.5g)
*CとDは、造粒物中に含まれるフェノール樹脂の量は同等
【0019】
計測の結果、本発明のフェノール樹脂コーティングセメント造粒物がセメントと1:1で混合された粉粒体(試験C)は、普通セメントのみを使用した試験A、およびフェノール樹脂をコーティングせずにそのままコンクリートに少量添加した試験Bのそれぞれと比較して、発熱量の大幅な抑制効果を示した。また、フェノール樹脂の造粒物中に含まれる量が試験Cの造粒物と同等である試験Dの場合は、発熱量がほとんど確認されなかったことから、フェノール樹脂の添加のみでは発熱量の抑制は基より、セメントの水和反応自体がほとんど進行せずセメントとしての機能を果たさなかった。以上から、フェノール樹脂をセメントにコーティングしてフェノール樹脂皮膜を形成した本発明のセメント粉粒体(試験C)は、セメントの水和反応を調整する材として、有効であることがわかった。
【0020】
<試験2>
コーティングするフェノール樹脂の量を変えて実施例2~5の試験を行った。
図6に示す配合で、実施例1の工程に示した方法でフェノール樹脂をコーティングしたセメント粉粒体を製造し、同量のセメントを用いて、モルタルを調整して、実施例2~5の各試験体を製造した。セメントは、普通ポルトランドセメントを用いた。また、フェノール樹脂をコーティングしたセメント粉粒体を添加しない試験例を比較例1とした。
発熱を24時間測定し、その経過を図7に示す。
試験の結果、フェノール樹脂のコーティング量が多くなるにつれて、発熱量が低くなることから発熱量の抑制がフェノール樹脂のコーティング量に依存していることがわかった。
以上から、コーティング量を調整することにより、発熱の抑制をコントロールすることができ、水和反応も調整できることがわかった。
【0021】
<コンクリート凝結硬化制御について>
図8に本発明のフェノール樹脂をコーティングしたセメント粉粒体がコンクリートの凝結硬化を制御するメカニズムを、簡単に説明する。
(a)で準備したフェノール樹脂でコーティングしたセメント粉粒体を、(b)でさらにセメントと水、骨材を添加して混合して、生コンクリート(モルタル)を製造し、(c)において、コンクリート型枠などに打設して、養生し、セメントが水和反応して、硬化してコンクリートが形成される。
この過程で、セメントが水と接触すると炭酸カルシウム成分などが溶解して、アルカリ溶液となり、フェノール樹脂はアルカリ溶解性があるので、フェノール樹脂が溶解してコーティングされていたセメントが徐々に水和反応に参加することになるので、コンクリートの凝結硬化を制御できることとなる。
実施例2~5(図7参照)に示すように、フェノール樹脂のコーティング量によって、発熱量が抑制されることは、水和反応、即ち、コンクリートの凝結硬化を制御できることを示している。
コンクリートに配合するコンクリート凝結硬化制御材の添加量によっても、コンクリートの凝結硬化を制御できる。
反応・強度発現させる場合は、湿潤養生などによる水分を加えることで調整することが可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8