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特許75284203次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物、3次元プリンター成形用フィラメント、及び樹脂成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物、3次元プリンター成形用フィラメント、及び樹脂成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/314 20170101AFI20240730BHJP
   B29C 64/118 20170101ALI20240730BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240730BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240730BHJP
   C08F 8/42 20060101ALI20240730BHJP
   B29K 23/00 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
B29C64/314
B29C64/118
B33Y10/00
B33Y70/00
C08F8/42
B29K23:00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019151342
(22)【出願日】2019-08-21
(65)【公開番号】P2020037259
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2018161611
(32)【優先日】2018-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】中出 宏
【審査官】小山 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0274355(US,A1)
【文献】特表2021-508624(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103497414(CN,A)
【文献】特開2018-104495(JP,A)
【文献】特開2013-091745(JP,A)
【文献】特開2018-035461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
B29C 48/00-48/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルトリメトキシシランによりポリオレフィンがグラフト変性された変性ポリオレフィンを含む、熱溶解積層法(FDM法)3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物であって、
前記ポリオレフィンに対するグラフト変性により導入されたビニルトリメトキシシランの重量割合が、0.1~5質量%である、熱溶解積層法(FDM法)3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィンが、JIS K7171(2016)に準拠して測定される曲げ弾性率が500MPa以下であり、かつJIS K7210(2014)に準拠して190℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトフローレート(MFR)が0.1~50g/10分であるポリエチレンである、請求項1に記載の熱溶解積層法(FDM法)3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリオレフィンの示差走査熱量測定における加熱速度10℃/分で測定される補外結晶融解終了温度が100~170℃である、請求項2に記載の熱溶解積層法(FDM法)3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物。
【請求項4】
更にシラノール縮合触媒を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の熱溶解積層法(FDM法)3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の熱溶解積層法(FDM法)3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物よりなる3次元プリンター成形用フィラメント。
【請求項6】
ビニルトリメトキシシランによりポリオレフィンがグラフト変性された変性ポリオレフィンを含む樹脂組成物を原料とし、該原料を熱溶解積層法(FDM法)3次元プリンターにより成形し、得られた成形体を水雰囲気中に曝す、樹脂成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物及びそれよりなる3次元プリンター成形用フィラメント並びに樹脂成形体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、種々の付加製造方式(例えば、結合剤噴射式、材料押出式、液槽光重合式等)の
3次元プリンターが販売されている。これらの中でも、材料押出(Material E
xtrusion)式による3次元プリンターシステム(例えば米国のストラタシス イ
ンコーポレイテッド社製のシステム)は、流動性を有する原料を押出ヘッドに備えたノズ
ル部位から押し出してコンピュータ支援設計(CAD)モデルを基にして3次元物体を層
状に構築するために用いられている。
【0003】
その中でも熱溶解積層法(Fused Deposition Modeling、F
DM法)と称されることがある。)においては、まず、原料は熱可塑性樹脂からなるフィ
ラメントとして押出ヘッドへ挿入され、熱溶融しながら押出ヘッドに備えたノズル部位か
らチャンバー内のX-Y平面基盤上に連続的に押し出される。押し出された樹脂は、既に
堆積している樹脂積層体上に堆積すると共に融着し、これが冷却するにつれて一体固化す
る。FDM法はこのような簡単なシステムであるため、広く用いられるようになってきて
いる。
【0004】
FDM法等の3次元プリンターでは、通常、基盤に対するノズル位置がX-Y平面に垂
直方向なZ軸方向に上昇しつつ前記押出工程が繰り返されることによりCADモデルに類
似した3次元物体が構築される(特許文献1)。
【0005】
従来、FDM法の原料としては、一般的にアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系
樹脂(以下、「ABS樹脂」と称することがある)やポリ乳酸(以下、「PLA樹脂」と
称することがある)等のアモルファス熱可塑性樹脂が、加工性や流動性の観点から好適に
用いられてきた(特許文献2、3)。これらの樹脂は、ポリビニルアルコール(PVA)などの水溶性のサポート材(基盤)に対して成形後、サポート材を水で洗い流すことで精度の高い複雑な形状の成形体の作製に多く使用されている。
【0006】
PLA樹脂やABS樹脂からなる3次元プリンター成形用フィラメントは硬いため、単独またはサポート材と共に3次元プリンターによって成形した際、成形時に押し出されたフィラメント同士が融着せずに、結果としてそのフィラメントよりなる樹脂成形体は、高さ(Z軸)方向の強度が弱くなる問題があった。
また、3次元プリンター成形用フィラメントを製造する工程において、溶融紡糸する場合、溶融した樹脂が押出機内の圧力から解放され、大気圧下においてフィラメント径が太くなるダイスウェルの問題もあった。
【0007】
3次元プリンター成形用フィラメントにおいて、フィラメント径が大きい場合や、フィラメントの断面が大きいと、3次元プリンターの機器に供給する際、加工通過性が悪くなる問題や、溶融融着しにくく、Z軸方向の強度が弱くなる問題が起こる。
【0008】
そこで、Z軸方向の強度や3次元プリンター用の機器の加工通過性を改善するために、柔軟な熱可塑性フィラメントやダイスウェルが少ないものが求められてきた。例えば、特許文献4には、オレフィン系樹脂を使用した3次元プリンター成形用のフィラメントが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特表2003-534159号公報
【文献】特表2010-521339号公報
【文献】特開2008-194968号公報
【文献】特開2018-35461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献4に記載のオレフィン系樹脂よりなる3次元プリンター成形用のフィラメントでは、3次元プリンターで成形後、すぐに結晶化してしまうためフィラメント同士の融着性が悪く、Z軸方向の強度が低いという問題が見出された。また、フィラメントとして柔軟性および耐折り曲げ性(キンク)が十分でないため、3次元プリンター成形により得られた樹脂成形体の陥没などの問題があることも見出された。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、フィラメント同士の融着性に優れ、3次元プリンターにより得られる樹脂成形体のZ軸方向の強度を向上させると共に、形状維持性を向上させ、熱変形による外観の劣化を防止できる3次元プリンター成形用フィラメント用の樹脂組成物及び3次元プリンター成形用フィラメント並びに樹脂成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ポリオレフィンに不飽和シラン化合物をグラフトさせることにより得られる変性ポリオレフィンを含む樹脂組成物を用いた3次元プリンター成形用フィラメントは、3次元プリンターによる成形後、シラン官能基の反応によって架橋ポリオレフィン構造が形成されることから、フィラメント同士の熱融着性に優れ、融着後にも融着強度が悪化することがなく、また分子量が増大するため、耐熱性も良好な造形物を製造することが可能となることを見出した。これにより、従来のポリオレフィンよりなる3次元プリンター成形用フィラメントに比べて、流動性を低下させることなく、融着性を損なうことなく耐熱性を向上させた3次元プリンター成形用フィラメントを製造することができることを見出した。加えて、その3次元プリンター成形用フィラメントを用いて成形した樹脂成形体は、Z軸方向の強度が改善されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明の要旨は以下の[1]~[8]の通りである。
【0014】
[1] 不飽和シラン化合物によりポリオレフィンがグラフト変性された変性ポリオレフィンを含む、3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物。
【0015】
[2] 前記グラフト変性により前記変性ポリオレフィンに導入された前記不飽和シラン化合物の量が、0.1~5質量%である、[1]に記載の3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物。
【0016】
[3] 前記不飽和シラン化合物が下記式(1)で表される化合物である、[1]又は[2]に記載の3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物。
RSi(R’) …(1)
(ただし、Rはエチレン性不飽和炭化水素基であり、R’は互いに独立して炭素数1~10の炭化水素基又は炭素数1~10のアルコキシ基であり、R’のうちの少なくとも1つは炭素数1~10のアルコキシ基である。)
【0017】
[4] 前記ポリオレフィンが、JIS K7171(2016)に準拠して測定される曲げ弾性率が500MPa以下であり、かつJIS K7210(2014)に準拠して190℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトフローレート(MFR)が0.1~50g/10分であるポリエチレンである、[1]~[3]のいずれかに記載の3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物。
【0018】
[5] 前記ポリオレフィンの示差走査熱量測定における加熱速度10℃/分で測定される補外結晶融解終了温度が100~170℃である、[4]に記載の3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物。
【0019】
[6] 更にシラノール縮合触媒を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物。
【0020】
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物よりなる3次元プリンター成形用フィラメント。
【0021】
[8] 不飽和シラン化合物によりポリオレフィンがグラフト変性された変性ポリオレフィンを含む樹脂組成物を原料とし、該原料を3次元プリンターにより成形する樹脂成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物によれば、3次元プリンター成形用フィラメント用いて得られる樹脂成形体の高さ(Z軸)方向の強度を向上させることができると共に、その耐熱性の改善で熱変形による外観の劣化をも防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明の実施態様の例(代表例)であり、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。また、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0024】
〔3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物〕
本発明の3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物(以下、「本発明の樹脂組成物」と称す場合がある。)は、不飽和シラン化合物によりポリオレフィンがグラフト変性された変性ポリオレフィン(以下、「本発明の変性ポリオレフィン」と称す場合がある。)を含むことを特徴とする。
【0025】
〔変性ポリオレフィン〕
本発明の変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンに、不飽和シラン化合物がグラフト変性された変性ポリオレフィンである。
【0026】
<ポリオレフィン>
本発明においてポリオレフィンとは、原料モノマーとしてエチレン、α-オレフィンを含むものであれば限定されず、公知のポリオレフィン樹脂が適宜用いられる。
【0027】
ポリオレフィンの具体例としては、例えば、低・中・高密度ポリエチレン等の(分岐状又は直鎖状)エチレン単独重合体;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体等のエチレン・α-オレフィン共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のエチレン系共重合樹脂(本発明においては、これらエチレン単独重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体、エチレン系共重合樹脂を「ポリエチレン」と称す。);プロピレン単独重合体;プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体などのプロピレン系共重合樹脂;およびスチレン系樹脂が挙げられる。
これらのポリオレフィンは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明において、ポリオレフィンとして2種以上を混合して用いる場合、後述のポリオレフィンとして好ましい物性(密度、MFR、曲げ弾性率、融解終了温度)は、混合物としての物性を示す。
【0028】
これらの中でも本発明においては、耐熱性と強度のバランスに優れた低密度エチレン・α-オレフィン共重合体、およびプロピレン・エチレン共重合体が好ましく、エチレン・α-オレフィン共重合体がより好ましく、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体が特に好ましい。
なお、エチレン・α-オレフィン共重合体は、1種又は2種以上のα-オレフィン2~49質量%と、エチレン51~98質量%とを共重合させたものが好ましい。
【0029】
本発明で用いられるポリオレフィンは、密度(JIS K6922-1,2:1997にて測定)が通常0.850~0.940g/cmであり、好ましくは0.855~0.935g/cm、より好ましくは0.860~0.930g/cmである。密度が上記上限値以下であると、3次元プリンターで造形時にフィラメント同士の熱融着性が悪化しにくく、Z軸方向の強度が向上する傾向がある。また、密度が上記下限値以上であると、3次元プリンターのノズル内で融着しにくく吐出しやすい傾向があり、やはりZ軸方向の強度が向上する傾向がある。
【0030】
本発明において用いられるポリオレフィンは、JIS K7210(2014)に準拠して温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定されるメルトフローレート(MFR)が、0.1~50g/10分のポリエチレン等のポリオレフィンが好ましい。MFRがこの上記上限よりも大きいと、フィラメントを吐出して造形する際、フィラメントが密着して吐出が安定せず、吐出されたフィラメント径が細くなる傾向があり均一に吐出できなくなるため、フィラメントとしての性能、品質が低下する傾向がある。また、MFRが上記下限よりも小さいと、流動性に劣るため、フィラメント同士の融着性が十分でなくなり、造形物のZ軸方向の強度に劣る製品となる。これらの観点から、ポリエチレン等のポリオレフィンのMFRは、好ましくは1g/10分以上であり、より好ましくは2g/10分以上であり、一方、好ましくは40g/10分以下であり、より好ましくは35g/10分以下である。
【0031】
本発明において用いられるポリオレフィンは、JIS K7171(2016)に準拠して測定される曲げ弾性率が500MPa以下、例えば50~500MPaであるポリエチレン等のポリオレフィンであることが好ましい。この範囲よりも曲げ弾性率が大きいと、フィラメント同士が融着しにくく、3次元プリンター造形後の成形体は脆弱になる傾向がある。また、曲げ弾性率が上記範囲よりも低いと吐出時に3次元プリンターと密着しやすく、吐出し難い傾向がある。これらの観点から、ポリエチレン等のポリオレフィンの曲げ弾性率は、好ましくは50MPa以上であり、より好ましくは75MPa以上であり、一方、好ましくは500MPa以下であり、より好ましくは300MPa以下である。
【0032】
本発明では、特に不飽和シラン化合物によるグラフト変性に供する原料ポリオレフィンとして、示差走査熱量測定における加熱速度10℃/分で測定される補外結晶融解終了温度(以下、単に「融解終了温度」と称す場合がある。)が100~170℃のポリエチレン等のポリオレフィンを用いることが好ましい。融解終了温度が100℃より低いと残留永久歪が悪化する傾向がある。この観点から、用いるポリオレフィンの融解終了温度は100℃以上であり、より好ましくは105℃以上である。一方、ポリオレフィンの融解終了温度は170℃以下であると、押出機の負荷を抑え、フィラメント同士は融着しやすくなる傾向にあり、製品として性能、品質が向上しやすいために好ましい。この観点から、融解終了温度は170℃以下であることが好ましく、より好ましくは168℃以下である。
【0033】
ポリオレフィンの融解終了温度は示差走査熱量測定器(DSC)における結晶部に由来するピークを測定することで求められる。より詳細な測定方法の具体例は後掲の実施例において示す。
【0034】
本発明において、変性ポリオレフィンの原料に用いるポリオレフィンは市販品として入手することができる。例えば、デュポンダウエラストマー社製エンゲージ(登録商標)、インフューズ(登録商標)シリーズ、三井化学社製タフマー(登録商標)シリーズ、日本ポリエチレン社製カーネル(登録商標)シリーズ、リオンデールバゼル社製キャタロイ(登録商標)、アドフレックス(登録商標)シリーズ、日本ポリプロ社製ウィンテック(登録商標)シリーズ、ウェルネクス(登録商標)シリーズ、三菱ケミカル社製ゼラス(登録商標)シリーズ等から該当品を選択して用いることができる。
【0035】
<不飽和シラン化合物>
本発明に用いる不飽和シラン化合物は限定されないが、下記式(1)で表される不飽和シラン化合物が好適に用いられる。
RSi(R’) …(1)
【0036】
上記式(1)において、Rはエチレン性不飽和炭化水素基であり、R’は互いに独立して炭素数1~10の炭化水素基又は炭素数1~10のアルコキシ基であり、R’のうちの少なくとも1つは炭素数1~10のアルコキシ基である。
【0037】
式(1)において、Rは好ましくは炭素数2~10のエチレン性不飽和炭化水素基であり、より好ましくは炭素数2~6のエチレン性不飽和炭化水素基である。具体的には、ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、シクロヘキセニル基等のアルケニル基が挙げられる。
【0038】
式(1)において、R’は好ましくは炭素数1~6の炭化水素基又は炭素数1~6のアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数1~4の炭化水素基又は炭素数1~4のアルコキシ基である。また、R’のうちの少なくとも1つは、好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基であり、より好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基である。
【0039】
R’の炭素数1~10の炭化水素基は脂肪族基、脂環族基、芳香族基のいずれであってもよいが、脂肪族基であることが望ましい。また、R’の炭素数1~10のアルコキシ基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよいが、直鎖状又は分岐状であることが好ましい。R’が炭化水素基の場合、具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t-ブチル基、n-ブチル基、i-ブチル基、シクロヘキシル基等に代表されるアルキル基、又はフェニル基等に代表されるアリール基等が挙げられる。R’がアルコキシ基の場合、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、β-メトキシエトキシ基が挙げられる。
【0040】
不飽和シラン化合物が前記式(1)で表される場合、3つのR’のうち少なくとも1つはアルコキシ基であるが、2つのR’がアルコキシ基であることが好ましく、全てのR’がアルコキシ基であることがより好ましい。
【0041】
不飽和シラン化合物としては、式(1)で表されるものの中でもビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、プロペニルトリメトキシシラン等に代表されるビニルトリアルコキシシランが望ましい。これはビニル基によってポリエチレンへの変性を可能とし、アルコキシ基によって後述の架橋反応が進行するからである。即ち、不飽和シラン化合物により変性ポリエチレンにグラフト変性されて導入されたアルコキシ基が、シラノール縮合触媒の存在下、水と反応して加水分解してシラノール基を生成させ、シラノール基同士が脱水縮合することにより、変性ポリエチレン同士が結合して架橋反応が起こる。
【0042】
なお、これらの不飽和シラン化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
本発明の変性ポリオレフィンは、不飽和シラン化合物の変性量(グラフト変性により変性ポリオレフィンに導入された不飽和シラン化合物量)が、0.1~5質量%であることが好ましい。変性量が上記下限値未満の場合は、融着性に劣り、3次元プリンターで造形して成形体とした場合にZ軸方向の強度に劣り、また変形しやすいものとなるおそれがある。また、変性量が上記上限値より高い場合は溶融粘度が高くなり、3次元プリンター成形用フィラメントとした時のストランド径が太くなる上に、表面荒れを起こすおそれがある。これらをより良好なものとする観点から、不飽和シラン化合物の変性量は、好ましくは0.2質量%以上であり、より好ましくは0.3質量%以上であり、一方、好ましくは5.0質量%以下であり、より好ましくは3.0質量%以下である。
【0044】
不飽和シラン化合物の変性量は、変性前のオレフィンに対するグラフト変性により導入された不飽和シラン化合物の重量割合であり、サンプルを加熱燃焼させて灰化し、灰分をアルカリ融解して純水に溶解後定量し、高周波プラズマ発光分析装置を用いるICP発光分析法により確認することができる。
【0045】
なお、本発明の変性ポリオレフィンは、本発明の効果を損なわない範囲で不飽和シラン化合物以外の化合物を併用してグラフト変性したものであってもよい。不飽和シラン化合物以外の化合物としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等の不飽和カルボン酸、及び、これらの酸無水物等が例示される。
【0046】
<グラフト変性>
本発明の変性ポリオレフィンは、上記のポリオレフィンに上記の不飽和シラン化合物をグラフト変性することにより製造することができる。グラフト変性の方法には特に制限は無く、公知の手法に従って行うことができ、例えば、溶液変性、溶融変性、電子線や電離放射線の照射による固相変性、超臨界流体中での変性等が好適に用いられる。これらの中でも設備やコスト競争力に優れた溶融変性が好ましく、連続生産性に優れた押出機を用いた溶融混練変性が更に好ましい。溶融混練変性に用いられる装置としては、例えば単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー等が挙げられる。これらの中でも連続生産性に優れた単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機が好ましい。
【0047】
一般に、ポリオレフィンへの不飽和シラン化合物のグラフト変性は、ポリオレフィンの炭素-水素結合を開裂させて炭素ラジカルを発生させ、これへ不飽和官能基が付加する、といったグラフト反応によって行われる。炭素ラジカルの発生源としては、上述した電子線や電離放射線の他、高温度とする方法や、有機、無機過酸化物等のラジカル発生剤を用いることで行うこともできる。コストや操作性の観点で有機過酸化物を用いることが好ましい。
【0048】
変性ポリオレフィンを製造する際に用いるラジカル発生剤には限定は無いが、例えば、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル及びケトンパーオキサイド群に含まれる有機過酸化物、並びにアゾ化合物等が挙げられる。
【0049】
具体的には、例えば、ハイドロパーオキサイド群にはキュメンハイドロパーオキサイド、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド等が含まれ、ジアルキルパーオキサイド群にはジクミルパーオキサイド、ジターシャリーブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジターシャリーブチルパーオキシヘキシン-3等が含まれ、ジアシルパーオキサイド群にはラウリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等が含まれる。パーオキシエステル群にはターシャリーパーオキシアセテート、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエイト、ターシャリーブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等が含まれ、ケトンパーオキサイド群にはシクロヘキサノンパーオキサイド等が含まれる。アゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル、メチルアゾイソブチレート等が挙げられる。
【0050】
これらのラジカル発生剤は1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
一般的に用いられる溶融押出変性の操作としては、上記ポリオレフィン、不飽和シラン化合物、及び有機過酸化物を配合、ブレンドして混練機や押出機に投入し、加熱溶融混練しながら押出しを行い、先端ダイスから出てくる溶融樹脂を水槽等で冷却して変性ポリオレフィンを得るものが挙げられる。
【0052】
ポリオレフィンと不飽和シラン化合物との配合の比率としては特に制限は無いが、好ましい配合の範囲としては、ポリオレフィン100質量部に対し、不飽和シラン化合物が1~10質量部である。ポリオレフィンに対して不飽和シラン化合物が少なすぎると、本発明の効果を奏するために必要な所定の変性量が得られない場合があり、また多すぎると未反応の不飽和シラン化合物が多量に残留し、性能に悪影響を及ぼす可能性を生じる。
【0053】
不飽和シラン化合物と有機過酸化物との配合の比率としては特に制限は無いが、好ましい配合の範囲としては、不飽和シラン化合物100質量部に対し、有機過酸化物が1~10質量部である。不飽和シラン化合物に対して有機過酸化物の量が上記下限値以上であると、十分な量のラジカルが発生して必要な所定の変性量が得られ易く、また、上記上限値以下であるとポリオレフィンの劣化を抑えやすくなる傾向にある。
【0054】
また、溶融押出変性条件としては、例えば単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機においては150~300℃程度の温度で押出すことが好ましい。
【0055】
<配合剤>
本発明の変性ポリオレフィンには、樹脂組成物に常用されている配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。このような配合剤としては、例えば熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、防錆剤、粘度調整剤、及び顔料等を挙げることができる。
【0056】
このうち、酸化防止剤、特にフェノール系、硫黄系、又はリン系の酸化防止剤を含有させるのが好ましい。
酸化防止剤は、変性ポリオレフィン100質量部に対して0.1~1質量部含有させるのが好ましい。
【0057】
また、紫外線吸収剤や粘度調整剤を含有させてもよい。
紫外線吸収剤としては、具体的には、2-ヒドロキシ-4-ノルマル-オクチルオキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-4-カルボキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-N-オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系;2-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアリゾール系;フェニルサルチレート、p-オクチルフェニルサルチレート等のサリチル酸エステル系のものが用いられる。
紫外線吸収剤は、変性ポリオレフィン100質量部に対して1.0~0.01質量部含有させるのが好ましい。
【0058】
粘度調整剤としてはゴム配合油、具体的にはパラフィン系プロセスオイルが好ましい。
粘度調整剤は、変性ポリオレフィン100質量部に対して0.5~5質量部含有させるのが好ましい。
【0059】
<物性>
本発明の変性ポリオレフィンは、JIS K7210(2014)に準拠して190℃、2.16kg荷重にて測定したメルトフローレート(MFR)が、0.1g/10分以上、特に0.2g/10分以上、とりわけ0.3g/10分以上であり、50g/10分以下、特に40g/10分以下、とりわけ30g/10分以下であることが好ましい。MFRが前記下限値以上であると、フィラメント成形時のモーター負荷、樹脂圧力が上昇しにくく、フィラメント表面及び製品外観が荒れにくくなると共に、フィラメント径が増加しにくく製品設計どおりのフィラメントを生産しやすい。MFRが前記上限値以下であると、複数のフィラメントを3次元プリンターで造形する際、フィラメント同士が溶融しやすく、3次元プリンターの造形体としてのZ軸方向の強度が良好となり、成形体としての性能、品質が向上する傾向にある。
【0060】
[シラノール縮合触媒]
本発明の樹脂組成物は、上述の変性ポリオレフィンを必須として含むが、好ましくは更にシラノール縮合触媒を含む。
この場合、本発明の樹脂組成物は、本発明の変性ポリオレフィンにシラノール縮合触媒を含むマスターバッチをドライブレンドしたものであってもよく、また変性ポリオレフィンの外層にシラノール縮合触媒マスターバッチ層を配したものであってもよい。
【0061】
本発明に用いることのできるシラノール縮合触媒としては、金属有機酸塩、チタネート、ホウ酸塩、有機アミン、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、無機酸及び有機酸、並びに無機酸エステルからなる群から選択される1種以上の化合物等が挙げられる。
【0062】
金属有機酸塩としては例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエート、酢酸第一錫、オクタン酸第一錫、ナフテン酸コバルト、オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、オクチル酸亜鉛、カプリル酸亜鉛、2-エチルヘキサン酸鉄、オクチル酸鉄、ステアリン酸鉄等が挙げられる。チタネートとしては例えば、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ビス(アセチルアセトニトリル)ジ-イソプロピルチタネート等が挙げられる。有機アミンとしては例えば、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルソーヤアミン、テトラメチルグアニジン、ピリジン等が挙げられる。アンモニウム塩としては例えば、炭酸アンモニウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等が挙げられる。ホスホニウム塩としては例えば、テトラメチルホスホニウムハイドロオキサイド等が挙げられる。無機酸及び有機酸としては例えば、硫酸、塩酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸、トルエンスルホン酸、アルキルナフチルスルホン酸などのスルホン酸等が挙げられる。無機酸エステルとしては例えば、リン酸エステル等が挙げられる。
【0063】
これらの中で、好ましくは金属有機酸塩、スルホン酸、リン酸エステルが挙げられ、更に好ましくは錫の金属カルボン酸塩、例えばジオクチル錫ジラウレート、アルキルナフチルスルホン酸、エチルヘキシルリン酸エステルが挙げられる。
なお、以上に挙げたシラノール縮合触媒は1種のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
シラノール縮合触媒の配合量としては特に限定されるものではないが、変性ポリオレフィン100質量部に対し、好ましくは0.0001~0.01質量部であり、更に好ましくは0.0001~0.005質量部である。シラノール縮合触媒の配合量が上記下限値以上であると架橋反応が十分に進行し、耐熱性が良好となる傾向にあるために好ましく、上記上限値以下であると押出機内で早期架橋が起こりにくく、フィラメント表面や製品外観の荒れが発生しにくくなる傾向があるために好ましい。
【0065】
シラノール縮合触媒は、ポリオレフィンとシラノール縮合触媒とを配合したマスターバッチとして用いることが好ましい。このマスターバッチに用いることのできるポリオレフィンとしては、各種ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体が挙げられる。
【0066】
ポリエチレンとしては、例えば、低・中・高密度ポリエチレン等の(分岐状又は直鎖状)エチレン単独重合体;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体等のエチレン・α-オレフィン共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体等のエチレン系共重合樹脂等;が挙げられる。
【0067】
ポリプロピレンとしては、ランダム・ブロック・ホモポリプロピレンが挙げられ、この中でもランダムポリプロピレンが好ましい。プロピレン・エチレン共重合体としては、高融点の観点からエチレン5~20質量%とプロピレン95~80質量%とを共重合させたものが好ましい。
【0068】
これらの中でも本発明においては、耐熱性と強度のバランスに優れた高圧法低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン・α-オレフィン共重合体が好ましい。エチレン・α-オレフィン共重合体としては、より好ましくはエチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体等のエチレン・α-オレフィン共重合体であり、このエチレン・α-オレフィン共重合体は、1種又は2種以上のα-オレフィン2~60質量%と、エチレン40~98質量%とを共重合させたものであることがより好ましい。
【0069】
シラノール縮合触媒のマスターバッチには、これらのポリオレフィンの1種のみを用いてもよく、2種以上をブレンドして用いてもよい。
【0070】
シラノール縮合触媒を、ポリオレフィンとシラノール縮合触媒とを配合したマスターバッチとして用いる場合、マスターバッチ中のシラノール縮合触媒の含有量には特に制限は無いが、通常0.1~5.0質量%程度とすることが好ましい。
【0071】
シラノール縮合触媒含有マスターバッチとしては市販品を用いることができ、例えば、三菱化学(株)製「LZ082」を用いることができる。
【0072】
[その他の成分]
本発明の樹脂組成物には、本発明の変性ポリオレフィン、及びシラノール縮合触媒以外に、その他の成分として各種の添加剤、変性ポリエチレン及び触媒マスターバッチ中のポリオレフィン以外のその他の樹脂やゴム、充填材等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させることができる。
【0073】
その他の樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、各種エラストマー等が挙げられる。これらは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。その他の樹脂の配合量は通常、全成分の50質量%以下であり、好ましくは30質量%以下である。
【0074】
添加剤としては、酸化防止剤、酸性化合物及びその誘導体、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、難燃剤、衝撃改良剤、発泡剤、着色剤、有機過酸化物や、後述の摩擦抵抗を大きくするための無機添加剤、展着剤、ブロッキング防止剤等が挙げられる。また、接着性、相溶性を改善するために、粘着付与剤として熱可塑性固形樹脂や固形状ゴム、液状樹脂、軟化剤、可塑剤等を含有させてもよい。例えば、ロジンとその誘導体、テルペン樹脂や石油樹脂とその誘導体、アルキッド樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペンフェノール樹脂、クマロンインデン樹脂、合成テルペン樹脂、アルキレン樹脂、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリブテン、イソブチレンとブタジエンの共重合物、鉱油、プロセスオイル、パイン油、アントラセン油、松根油、可塑剤、動植物油、重合油等を含有させることができる。
更に、前述の変性ポリオレフィンに配合し得る配合剤を含有させることができる。
これらの添加剤は1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの添加剤の配合量は、本発明の樹脂組成物100質量部に対して50質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることが更に好ましく、5質量部以下であることが特に好ましい。
【0075】
充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、ガラスカットファイバー、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラス粉末、炭化ケイ素、窒化ケイ素、石膏、石膏ウィスカー、焼成カオリン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウィスカー、金属粉、セラミックウィスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等の無機充填材;澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等の有機充填材等が挙げられる。これらは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
充填材の配合量は充填材以外の本発明の樹脂組成物100質量部に対して100質量部以下であることが好ましく、80質量部以下であることがより好ましく、60質量部以下であることが更に好ましく、40質量部以下であることが特に好ましく、30質量部以下であることが最も好ましい。
【0076】
〔3次元プリンター成形用フィラメント〕
本発明の3次元プリンター成形用フィラメントは、本発明の樹脂組成物を用いて製造されるものである。本発明の3次元プリンター成形用フィラメントの製造方法は特に制限されないが、本発明の樹脂組成物を通常、押出成形等の公知の製造方法により成形する方法や、本発明の樹脂組成物の製造時にそのままフィラメントとする方法等によって得ることができる。例えば、本発明の3次元プリンター成形用フィラメントを押出成形により得る場合、その押出温度条件は、通常80~300℃、好ましくは100~280℃である。
【0077】
本発明の3次元プリンター成形用フィラメントのフィラメント径は使用するシステムの能力に依存するが、1.0mm以上であることが好ましく、1.5mm以上であることがより好ましく、一方、5.0mm以下であることが好ましく、4.0mm以下であることがより好ましく、2.0mm以下であることが更に好ましい。また、フィラメント径の精度はフィラメントの任意の測定点に対して±5%以内の誤差におさめることが原料としてフィラメントを供給する際の安定性の観点から好ましい。
【0078】
本発明の3次元プリンター成形用フィラメントを用いて3次元プリンターにより樹脂成形体を製造するにあたり、3次元プリンター成形用フィラメントを安定に保存すること、及び、3次元プリンター成形用フィラメントを3次元プリンターに安定供給することが求められる。
【0079】
そのために、本発明の3次元プリンター成形用フィラメントは、ボビンに巻き取った巻回体として密封包装されているか、又は、巻回体がカートリッジに収納されていることが、長期保存、安定した繰り出し、湿気等の環境要因からの保護、捩れ防止等の観点から好ましい。カートリッジとしては、ボビンに巻き取った巻回体の他、内部に防湿材または吸湿剤を使用し、少なくともフィラメントを繰り出すオリフィス部以外が密封されている構造のものが挙げられる。
【0080】
本発明の3次元プリンター成形用フィラメントの水分含有量は3,000ppm以下であることが好ましく、2,500ppm以下であることがより好ましい。また、3次元プリンター成形用フィラメントの製品はフィラメントの水分含有量が、3,000ppm以下となるように密封されていることが好ましく、2,500ppm以下となるように密封されていることがより好ましい。
【0081】
また、3次元プリンター成形用フィラメントを巻回体とする際にフィラメント同士のブロッキング(融着)を防ぐため、フィラメントの表面がシリコーンオイルにより被覆されていることが好ましい。
また、ブロッキングを防止する方法として、本発明の樹脂組成物にブロッキング防止剤を配合してもよい。
ブロッキング防止剤としては、例えば、シリコーンオイル、タルク等の無機フィラー及び脂肪族金属塩、脂肪酸アミド等が挙げられる。これらのブロッキング防止剤は1種のみを用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
なお、通常、後述するようなFDM法の3次元プリンターにおいては、3次元プリンター成形用フィラメントをボビンに巻き取った巻回体、又は、巻回体を容器に収容したカートリッジが、3次元プリンター内部又は周囲に設置され、成形中は常にカートリッジからフィラメントが連続的に3次元プリンターに導入され続ける。
【0083】
なお、本発明の樹脂組成物からなるフィラメントは、必要に応じて、本発明の変性ポリオレフィンよりなる芯材に、鞘材としてシラン架橋マスターバッチを用いた芯鞘フィラメントとしてもよい。逆に、芯材にシラン架橋マスターバッチ、鞘材に本発明の変性ポリオレフィンを用いた芯鞘フィラメントとしてもよい。ここで、シラン架橋マスターバッチとはシラン架橋触媒を含有するポリオレフィン組成物である。
【0084】
〔3次元プリンターによる樹脂成形体の製造〕
本発明の樹脂成形体の製造方法においては、本発明の樹脂組成物を原料とし、該原料を3次元プリンターにより成形することにより樹脂成形体を得る。
【0085】
3次元プリンターによる成形方法としては、例えば、熱溶解積層法(FDM法)、インクジェット方式、光造形方式、石膏パウダー積層方式等が挙げられる。本発明の製造方法はこれらのいずれの方法を用いてもよいが、これらの中でも熱溶解積層法を用いることが特に好ましい。以下、熱溶解積層法の場合を例示して説明する。
【0086】
熱溶解積層法による3次元プリンターは一般に、チャンバーを有しており、該チャンバー内に、加熱可能な基盤、ガントリー構造に設置された押出ヘッド、加熱溶融器、フィラメントのガイド、フィラメントカートリッジ設置部等の原料供給部を備えている。3次元プリンターの中には押出ヘッドと加熱溶融器とが一体化されているものもある。
【0087】
押出ヘッドはガントリー構造に設置されることにより、基盤のX-Y平面上に任意に移動させることができる。基盤は目的の3次元物体や支持材等を構築するプラットフォームであり、加熱保温することで積層物との密着性を得たり、得られる樹脂成形体を所望の3次元物体として寸法安定性を改善したりできる仕様であることが好ましい。押出ヘッドと基盤とは、通常、少なくとも一方がX-Y平面に垂直なZ軸方向に可動となっている。
【0088】
原料は原料供給部から繰り出され、対向する1組のローラー又はギアーにより押出ヘッドへ送り込まれ、押出ヘッドにて加熱溶融され、先端ノズルより押し出される。CADモデルを基にして発信される信号により、押出ヘッドはその位置を移動しながら原料を基盤上に供給して積層堆積させていく。この工程が完了した後、基盤から積層堆積物を取り出し、必要に応じて支持材等を剥離したり、余分な部分を切除したりして所望の3次元物体として樹脂成形体を得ることができる。
【0089】
押出ヘッドへ連続的に原料を供給する手段としては、例えば、フィラメント又はファイバーを繰り出て供給する方法、粉体又は液体をタンク等から定量フィーダを介して供給する方法、ペレット又は顆粒を押出機等で可塑化したものを押し出して供給する方法等が挙げられる。これらの中でも工程の簡便さと供給安定性の観点から、フィラメントを繰り出して供給する方法、即ち、前述の本発明の3次元プリンター成形用フィラメントを繰り出して供給する方法が最も好ましい。
【0090】
フィラメント状の原料を供給する場合、前述のように3次元プリンター成形用フィラメントをボビン状に巻きとった巻回体を含むカートリッジに収納されていることが、安定した繰り出し、湿気等の環境要因からの保護、捩れやキンクの防止等の観点から好ましい。
【0091】
フィラメント状の原料を供給する場合に、ニップロールやギアロール等の駆動ロールにフィラメントを係合させて、引き取りながら押出ヘッドへ供給することが一般的である。ここでフィラメントと駆動ロールとの係合による把持をより強固にすることで原料供給安定化させるために、フィラメントの表面に微小凹凸形状を転写させておいたり、係合部との摩擦抵抗を大きくするための無機添加剤、展着剤、粘着剤、ゴム等を配合したりすることも好ましい。
【0092】
樹脂成形体の製造原料として用いる本発明の樹脂組成物は、押出に適当な流動性を得るための温度が、通常190~240℃程度と、従来、3次元プリンンターによる成形に用いられてきた原料と比べて適用可能な温度領域が広いため、本発明の製造方法においては、加熱押出ヘッドの温度を通常230℃以下、好ましくは200~220℃とし、また、基盤温度を通常80℃以下、好ましくは60~70℃として安定的に樹脂成形体を製造することができる。
【0093】
押出ヘッドから吐出される溶融樹脂の温度は180℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、一方、250℃以下であることが好ましく、240℃以下であることがより好ましく、230℃以下であることが更に好ましい。溶融樹脂の温度が上記下限値以上であると、耐熱性の高い樹脂を押し出す上で好ましく、また、一般に造形物中に糸引きと呼ばれる、溶融樹脂が細く伸ばされた破片が残り、外観を悪化させることを防ぐ観点からも好ましい。一方、溶融樹脂の温度が上記上限値以下であると、樹脂の熱分解や焼け、発煙、臭い、べたつきといった不具合の発生を防ぎやすく、また、高速で吐出することが可能となり、造形効率が向上する傾向にあるために好ましい。
【0094】
押出ヘッドから吐出される溶融樹脂は、好ましくは直径0.01~1mm、より好ましくは直径0.02~0.2mmのストランド状で吐出される。溶融樹脂がこのような形状で吐出されると、CADモデルの再現性が良好となる傾向にあるために好ましい。
【0095】
〔シラン架橋ポリオレフィン成形体〕
本発明の変性ポリオレフィンとシラノール縮合触媒を含む樹脂組成物を押出成形等の各種成形方法によりフィラメントに成形または直接、3次元プリンターで造形した後、得られた造形体を水雰囲気中に曝すことにより、シラノール基間の架橋反応を進行させ、シラン架橋ポリオレフィン樹脂成形体とすることができる。即ち、本発明の樹脂組成物では、ポリオレフィンのグラフト変性に用いた不飽和シラン化合物由来の加水分解可能なアルコキシ基がシラノール縮合触媒の存在下、水と反応して加水分解することによりシラノール基が生成し、更にシラノール基同士が脱水縮合することにより、架橋反応が進行し、変性ポリオレフィン同士が結合してシラン架橋ポリオレフィンを生成する。
【0096】
この場合、水雰囲気中に曝す方法は、各種の条件を採用することができ、水分を含む空気中に放置する方法、水蒸気を含む空気を送風する方法、水浴中に浸漬する方法、温水を霧状に散水させる方法等が挙げられる。
【0097】
架橋反応の進行速度は水雰囲気中に曝す条件によって決まるが、通常20~130℃の温度範囲、かつ10分~1週間の範囲で曝せばよい。特に好ましい条件は、20~130℃の温度範囲、1時間~160時間の範囲である。水分を含む空気を使用する場合、相対湿度は1~100%の範囲から選択される。
【0098】
このようにして得られるシラン架橋ポリオレフィン成形体が長期間に亘って優れた特性を発揮するために、シラン架橋ポリオレフィンのゲル分率(架橋度)は50%以上、特に60%以上であることが好ましい。ゲル分率は、変性ポリオレフィンの不飽和シラン化合物のグラフト率(変性量)、シラノール縮合触媒の種類と配合量、架橋させる際の条件(温度、時間)等を変えることにより、調整することができる。このゲル分率の上限は特に制限されないが通常、90%である。
【0099】
前述の通り、本発明の変性ポリオレフィンとシラノール縮合触媒とを含む本発明の樹脂組成物は、これを押出成形してフィラメントとし、次いでこのフィラメント同士を3次元プリンターで熱融着してから、冷却することにより、三次元造形体とすることができる。例えば特開2018-35461号公報に記載されているような製造装置及び成形方法により、変性ポリオレフィン組成物を3次元プリンター用フィラメントに成形することができる。このようにして得られた3次元プリンター用フィラメントは3次元プリンターで造形後、前述したように水雰囲気に曝し、シラン架橋ポリオレフィン造形体として用いることが好ましい。
【0100】
〔用途〕
本発明の樹脂組成物であれば、3次元プリンター造形時に熱融着と同時にシラン官能基同士を反応させて成形することができるため、フィラメント同士の熱融着性に優れ、Z軸方向の強度に優れる3次元プリンター成形体を効率よく成形することができ、優れた強度および靱性を示す3次元プリンター成形体を提供することができる。
【0101】
本発明の3次元プリンター成形用フィラメントを3次元プリンターで造形して得られる樹脂成形体は、軟質な質感、形状再現性、形状維持性、耐熱性等に優れたものである。このため、照明器具のシェードなどの家具、臓器のフィギュアなどの医療関連器具、文房具;玩具;携帯電話やスマートフォン等のカバー;グリップ等の部品;学校教材、家電製品、OA機器の補修部品、自動車、オートバイ、自転車等の車両、船舶、航空機等の各種パーツ;建装材等の部材や設計関連の試作品などの用途に好適に用いることができる。
ただし、本発明による樹脂成形体の用途は何らこれらの用途に限定されるものではない。
【実施例
【0102】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0103】
〔原料〕
本発明の実施例及び比較例では、以下の原料を用いた。
【0104】
<ポリオレフィン>
・PE-1:インフューズ(登録商標)9900(デュポンダウエラストマー社製、エチレン・1-オクテン共重合体、MFR:30g/10分(190℃、2.16kg荷重)、融解終了温度:125℃、曲げ弾性率:80MPa、密度:0.87g/cm
・PP-1:ウェルネクス(登録商標)RMG02(日本ポリプロ社製、プロピレン・エチレン共重合体、MFR:10g/10分(190℃、2.16kg荷重)、曲げ弾性率:350MPa、融解終了温度:135℃、密度:0.89g/cm
・PP-2:アドフレックス(登録商標)V109F(リオンデールバゼル社製、プロピレン・エチレン共重合体、MFR:6g/10分(190℃、2.16kg荷重)、曲げ弾性率:120MPa、融解終了温度:130℃、密度:0.89g/cm
・PP-3:アドフレックス(登録商標)Q300F(リオンデールバゼル社製、プロピレン・エチレン共重合体、MFR:0.4g/10分(190℃、2.16kg荷重)、曲げ弾性率:330MPa、融解終了温度:160℃、密度:0.88g/cm
・PP-4:インチューン(登録商標)5545(リオンデールバゼル社製、プロピレン・エチレン共重合体、MFR:5.0g/10分(190℃、2.16kg荷重)、曲げ弾性率:600MPa、融解終了温度:130℃、密度:0.90g/cm
【0105】
〔測定・評価方法〕
各種物性、特性の測定・評価方法は以下の通りである。
【0106】
〔ポリオレフィン・変性ポリオレフィンの測定・評価〕
<メルトフローレート(MFR)>
JIS K7210(2014)に準拠して、190℃、2.16kg荷重にて測定した。
【0107】
<変性量>
シラン変性ポリオレフィンを加熱燃焼させ灰化し、灰分をアルカリ融解して純水に溶解後定量し、高周波プラズマ発光分析装置(島津製作所製ICPS7510)を用いてICI発光分析法によりグラフト変性により導入された不飽和シラン化合物量の定量を行った。
【0108】
<融解終了温度>
日立ハイテクサイエンス社製の示差走査熱量計、商品名「DSC6220」を用いて、JIS K7121(2010)に準じて、試料約5mgを加熱速度100℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で3分間保持した後、冷却速度10℃/分で-10℃まで降温し、その後、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温した時に測定されたサーモグラムから補外ピーク終了点(℃)を算出し、融解終了温度とした。
【0109】
<曲げ弾性率>
JIS K7171(2016)A法に準拠して、射出成形した厚さ4mm、長さ80mm、幅15mmの試験片を用いて測定した。
【0110】
<引張破壊強度>
JIS K7171(2016)A法に準拠して、射出成形により作製した厚さ2mmのシートからJIS3号試験片を打ち抜き、引張試験機(AG-X、島津製作所社製)を用いてJIS K7161-2(2014)に準拠して、50mm/分の引張速度で破壊強度を測定した。
【0111】
<耐熱変形性・ストランド接着力>
試験片(押出成形した外径3mmのフィラメント)を設定温度160℃の押出機(アイ・ケー・ジー社製パイプ成形機、PMS-40-28)で押出成形することによりストランド状の試験片を成形した。状態調整のため、環境温度23℃、50%RHに2日間保管したのち、2本のストランド試験片をワニ口状のクリップで圧着し、110℃のオーブンで5分間保管した。その後室温に戻し、クリップを外して、2本のストランドの外観を確認した。
クリップで圧着した部分が圧力で破断したものを耐熱変性性が悪い(×)、破断のないものを耐熱変形性に優れる(○)と評価した。
その後、圧着部位を引張試験機(AG-X、島津製作所社製)を用いて200mm/分の引張速度で離反方向に引っ張る180℃ピール試験を行って接着力を測定し、ストランド接着力とした。
【0112】
[実施例1]
ポリオレフィンとしてPE-1を100質量部用い、不飽和シラン化合物としてビニルトリメトキシシラン(VTMOS)2質量部と、有機過酸化物としてジクミルパーオキサイド(DCP)0.1質量部をブレンダーにて攪拌した。その後、温度220℃に設定された二軸スクリュー押出機(池貝社製、PCM45)に投入し、ノズルより出てきたストランドを水槽にて冷却固化させた後にペレット状にカッティングして3次元プリンター成形用フィラメント用の変性ポリオレフィン-Aを得た。得られた変性ポリオレフィン-Aの変性量を表-1に示す。
【0113】
上記で得られた変性ポリオレフィン-Aを用いて、引張破壊強度を評価した。また、変性ポリオレフィン-Aを用いて押出成形を行い、3次元プリター成形用フィラメント-Aを得た。フィラメント-Aを用いて、ストランド接着性および熱変形性を評価した。結果を表-1に示す。
【0114】
[実施例2]
ポリオレフィンとしてPE-1を90質量部およびPP-1を10質量部用いた以外は、実施例1と同様な操作を行い、3次元プリンター成形用フィラメント用の変性ポリオレフィン-Bを得た。この変性ポリオレフィン-Bを用い実施例1と同様な操作を行い3次元プリター成形用フィラメント-Bを製造した。
変性ポリオレフィン-B及び3次元プリター成形用フィラメント-Bについて、それぞれ評価を行った結果を表-1に示す。
【0115】
[実施例3]
ポリオレフィンとしてPE-1を70質量部、PP-3を20質量部およびPP-4を10質量部用いた以外は、実施例1と同様な操作を行い、3次元プリンター成形用フィラメント用の変性ポリオレフィン-Cを得た。この変性ポリオレフィン-Cを用い実施例1と同様な操作を行い3次元プリター成形用フィラメント-Cを製造した。
変性ポリオレフィン-C及び3次元プリター成形用フィラメント-Cについて、それぞれ評価を行った結果を表-1に示す。
【0116】
[比較例1]
ポリオレフィンとしてPE-1を100質量部用い、不飽和シラン化合物と有機過酸化
物を用いない以外は、実施例1と同様の操作を行い、3次元プリンター成形用フィラメント用の非変性ポリオレフィン-Dを得た。この非変性ポリオレフィン-Dを用い実施例1と同様の操作を行い3次元プリター成形用フィラメント-Dを製造した。
非変性ポリオレフィン-D及び3次元プリター成形用フィラメント-Dについて、それぞれ評価を行った結果を表-1に示す。
【0117】
[比較例2]
ポリオレフィンとしてPP-1を100質量部用い、不飽和シラン化合物と有機過酸化物を用いない以外は、実施例1と同様の操作を行い、3次元プリンター成形用フィラメント用の非変性ポリオレフィン-Eを得た。この非変性ポリオレフィン-Eを用い実施例1と同様の操作を行い3次元プリター用フィラメント-Eを製造した。
非変性ポリエチレン-E及び3次元プリター成形用フィラメント-Eについて評価を行った結果を表-1に示す。
【0118】
[比較例3]
ポリオレフィンとしてPE-1を70質量部、PP-3を20質量部およびPP-4を10質量部用い、不飽和シラン化合物と有機過酸化物を用いない以外は、実施例1と同様の操作を行い、3次元プリンター成形用フィラメント用の非変性ポリオレフィン-Fを得た。この非変性ポリオレフィン-Fを用い実施例1と同様の操作を行い3次元プリター用フィラメント-Fを製造した。
非変性ポリエチレン-F及び3次元プリター成形用フィラメント-Fについて評価を行った結果を表-1に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
上記の結果より次のことが分かる。
実施例1~3に示すように、不飽和シラン化合物で変性した変性ポリオレフィンは変性量に比例してストランドが溶融密着する際に変性部位同士が反応するため、この変性ポリオレフィンを用いた3次元プリンター成形用フィラメントは高いストランド接着性を示した。さらに、実施例1~3では、用いたポリオレフィンの融解終了温度が高い上に、変性部位同士の反応のため耐熱変形性が良好である。このため3次元プリンターで造形後の成形体は100℃以上などの高温での形状保持性などにも優れた耐熱性を期待できる。
一方、比較例1~3のように、不飽和シラン化合物および有機過酸化物を用いずに製造した非変性ポリオレフィンよりなるものは、変性部位の反応がないため、低いストランド接着性を示した。このため、3次元プリンターで造形後の成形体はZ軸方向の強度に劣ることが予想される。
【0121】
以上のことから、シラン官能基で変性されたポリオレフィンは、MFRが大きく流動性に優れ、3次元プリンター用のストランドとして成形後、3次元プリンターで造形時にシラン官能基同士の反応により分子量が増大するため、ストランド同士の接着性に優れると共に耐熱変形性に優れる。このため、シラン官能基で変性されたポリオレフィンを使用することにより、Z軸方向の強度に優れ、また耐熱性にも優れる樹脂成形体を製造することができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の変性ポリオレフィンを含む本発明の樹脂組成物によれば、高さ方向の強度に優れる樹脂成形体を製造することができる。また、本発明の変性ポリオレフィンは融点が高く、シラン変性基同士の反応により分子量が増大するため、3次元プリンター造形後の樹脂成形体の耐熱性を改善できる。このため、本発明の3次元プリンター成形用フィラメント用樹脂組成物及び3次元プリンター成形用フィラメントは、3次元プリンターによる、照明器具のシェードなどの家具、臓器のフィギュアなどの医療関連器具、文房具;玩具;携帯電話やスマートフォン等のカバー;グリップ等の部品;学校教材、家電製品、OA機器の補修部品、自動車、オートバイ、自転車等の車両、船舶、航空機等の各種パーツ;建装材等の部材や設計関連の試作品などの成形材料として好適に用いることができる。