(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】蓄電デバイス用外装材
(51)【国際特許分類】
H01M 50/126 20210101AFI20240730BHJP
H01G 11/78 20130101ALI20240730BHJP
【FI】
H01M50/126
H01G11/78
(21)【出願番号】P 2019239385
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智彦
(72)【発明者】
【氏名】村田 光司
【審査官】井上 能宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-124877(JP,A)
【文献】特開2008-103292(JP,A)
【文献】国際公開第2019/124511(WO,A1)
【文献】特開2017-001187(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065953(WO,A1)
【文献】特開2018-197308(JP,A)
【文献】特開2010-100757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M、H01G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイス用外装材であって、
基材層と、
第一接着層と、
バリア層と、
第二接着層と、
シーラント層と、
をこの順で有する積層構造を備え、
前記第一接着層及び前記第二接着層のうち少なくとも一方が、アミン系樹脂とポリイソシアネート化合物との反応物であるウレア系化合物を含み、
前記アミン系樹脂が、ポリアクリルアミンを含み、
前記第一接着層及び前記第二接着層のうち前記ウレア系化合物を含む層において、1680~1720cm
-1の赤外線吸収スペクトルピーク強度をA、1590~1640cm
-1の赤外線吸収スペクトルピーク強度をBとしたとき、下記式(1)で定義されるXが10~99である、外装材。
X={B/(A+B)}×100 …(1)
【請求項2】
前記ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基が、ブロック剤と結合してなる、請求項1に記載の外装材。
【請求項3】
前記ブロック剤が、前記ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基から60~120℃で脱離する、請求項2に記載の外装材。
【請求項4】
少なくとも前記第二接着層と前記バリア層との間に腐食防止処理層を更に有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の外装材。
【請求項5】
前記第一接着層及び前記第二接着層のうち前記第二接着層のみが前記ウレア系化合物を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の外装材。
【請求項6】
前記シーラント層が、ポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂のうち少なくとも一方を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の外装材。
【請求項7】
前記第一接着層及び前記第二接着層のうち少なくとも一方が硫化水素吸着物質を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の外装材。
【請求項8】
全固体電池用である、請求項1~7のいずれか一項に記載の外装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用外装材に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電デバイスとして、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、及び鉛蓄電池等の二次電池、並びに電気二重層キャパシタ等の電気化学キャパシタが知られている。携帯機器の小型化又は設置スペースの制限等により蓄電デバイスの更なる小型化が求められており、エネルギー密度が高いリチウムイオン電池が注目されている。リチウムイオン電池に用いられる外装材として、軽量で、放熱性が高く、低コストで作製できる多層フィルムが用いられるようになっている。
【0003】
上記多層フィルムを外装材に用いるリチウムイオン電池は、ラミネート型リチウムイオン電池と称される。外装材が電池内容物(正極、セパレータ、負極、電解液等)を覆っており、内部への水分の浸入を防止する。ラミネート型のリチウムイオン電池は、例えば、外装材の一部に冷間成型によって凹部を形成し、該凹部内に電池内容物を収容し、外装材の残りの部分を折り返して縁部分をヒートシールで封止することで製造される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、リチウムイオン電池の次世代電池として、全固体電池と称される蓄電デバイスの研究開発がなされている。全固体電池は、電解物質として有機電解液を使用せず、固体電解質を使用するという特徴を有する。リチウムイオン電池は、電解液の沸点温度(80℃程度)よりも高い温度条件で使用することができないのに対し、全固体電池は100℃を超える温度条件で使用することが可能であると共に、高い温度条件下(例えば100~150℃)で作動させることによってリチウムイオンの伝導度を高めることができる。
【0006】
しかし、外装材として上記のような積層体を使用し、ラミネート型の全固体電池を製造する場合、外装材の耐熱性が不十分であることに起因して、外装材の層間(特に、基材層又はシーラント層と、バリア層との間)においてデラミネーションが発生し、全固体電池のパッケージの密封性が不十分になるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、耐熱性に優れる外装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、基材層と、第一接着層と、バリア層と、第二接着層と、シーラント層と、をこの順で有する積層構造を備え、第一接着層及び第二接着層のうち少なくとも一方が、アミン系樹脂とポリイソシアネート化合物との反応物であるウレア系化合物を含み、第一接着層及び第二接着層のうちウレア系化合物を含む層において、1680~1720cm-1の赤外線吸収スペクトルピーク強度をA、1590~1640cm-1の赤外線吸収スペクトルピーク強度をBとしたとき、下記式(1)で定義されるXが10~99である、蓄電デバイス用外装材を提供する。
X={B/(A+B)}×100 …(1)
【0009】
上記蓄電デバイス用外装材は、耐熱性に優れる。このような効果が奏される理由について本発明者らは以下のように考えている。すなわち、ウレア系化合物は、ウレア基が非常に高い凝集力を有する。また、ウレア基は分子内に活性水素を有するため、接着対象の界面と、該活性水素とが水素結合を発生させ、それにより界面の密着力が向上する。更に、該接着層において、ウレタン基に由来する1680~1720cm-1の赤外線吸収スペクトルピーク強度と、ウレア基に由来する1590~1640cm-1の赤外線吸収スペクトルピーク強度とを用いて求められるXが10以上であることで、ウレア系化合物のウレア基が高い凝集力を発揮し、また、Xが99以下であることにより、接着層の過度な硬化が抑制され、接着層は高い密着性を有するものとなる。その結果、上記蓄電デバイス用外装材は、耐熱性に優れる。
【0010】
本発明において、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基は、ブロック剤と結合していてもよい。更に、ブロック剤は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基から60~120℃で脱離してよい。それにより、得られる外装材は成型カール耐性に優れる。
【0011】
本発明は、少なくとも第二接着層とバリア層との間に腐食防止処理層を更に有することができる。これにより、耐熱性が一層向上する。
【0012】
本発明において、第一接着層及び第二接着層のうち第二接着層のみがウレア系化合物を含んでいてよい。それにより、得られる外装材は耐熱性に優れ、且つ、第一接着層の剛性が緩和され易くなり、深絞り成型性に優れたものとなる。また、第二接着層のみがウレア系化合物を含むことで、外装材内部の電池内容物から発生した硫化水素によるバリア層の腐食を抑制できる。
【0013】
本発明において、シーラント層はポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂のうち少なくとも一方を含んでいてよい。シーラント層が融点の高いポリオレフィン系樹脂及びポリエステル系樹脂のうち少なくとも一方を含むことで、耐熱性が一層向上する。
【0014】
本発明において、第一接着層及び第二接着層のうち少なくとも一方が硫化水素吸着物質を含んでいてよい。それにより、得られる外装材は、蓄電デバイスから硫化水素が発生した場合、又は外装材の外部に硫化水素が存在する場合であっても、バリア層と、基材層及びシーラント層とのデラミネーションが発生しにくい、耐硫化水素性に優れたものとなる。
【0015】
本発明は、全固体電池用であってよい。本発明の外装材は耐熱性に優れるため、高温環境下での使用が想定される全固体電池用途に適している。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐熱性に優れる外装材蓄電デバイス用外装材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態に係る蓄電デバイス用外装材の概略断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る蓄電デバイス用外装材を用いて得られるエンボスタイプ外装材を示す図であり、(a)は、その斜視図であり、(b)は、(a)に示すエンボスタイプ外装材のb-b線に沿った縦断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る蓄電デバイス用外装材を用いて二次電池を製造する工程を示す斜視図であり、(a)は、蓄電デバイス用外装材を準備した状態を示し、(b)は、エンボスタイプに加工された蓄電デバイス用外装材と電池要素を準備した状態を示し、(c)は、蓄電デバイス用外装材の一部を折り返して端部を溶融した状態を示し、(d)は、折り返された部分の両側を上方に折り返した状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
[蓄電デバイス用外装材]
図1は、本発明の蓄電デバイス用外装材の一実施形態を模式的に表す断面図である。
図1に示すように、本実施形態の外装材(蓄電デバイス用外装材)10は、基材層11と、該基材層11の一方の面側に設けられた第一接着層12と、該第一接着層12の基材層11とは反対側に設けられた、両面に腐食防止処理層14a,14bを有するバリア層13と、該バリア層13の第一接着層12とは反対側に設けられた第二接着層15と、該第二接着層15のバリア層13とは反対側に設けられたシーラント層16と、が積層された積層体である。ここで、腐食防止処理層14aはバリア層13の第一接着層12側の面に、腐食防止処理層14bはバリア層13の第二接着層15側の面に、それぞれ設けられている。外装材10において、基材層11が最外層、シーラント層16が最内層である。すなわち、外装材10は、基材層11を蓄電デバイスの外部側、シーラント層16を蓄電デバイスの内部側に向けて使用される。以下、各層について説明する。
【0020】
<基材層11>
基材層11は、蓄電デバイスを製造する際のシール工程における耐熱性を付与し、成型加工や流通の際に起こりうるピンホールの発生を抑制する役割を果たす。特に大型用途の蓄電デバイスの外装材の場合等は、耐擦傷性、耐薬品性、絶縁性等も付与できる。
【0021】
基材層11は、シーラント層16の融解ピーク温度よりも高い融解ピーク温度を有することが好ましい。基材層11がシーラント層16の融解ピーク温度よりも高い融解ピーク温度を有することで、ヒートシール時に基材層11(外側の層)が融解することに起因して外観が悪くなることを抑制できる。シーラント層16が多層構造である場合、シーラント層16の融解ピーク温度は最も融解ピーク温度が高い層の融解ピーク温度を意味する。基材層11の融解ピーク温度は好ましくは290℃以上であり、より好ましくは290~350℃である。基材層11として使用でき且つ上記範囲の融解ピーク温度を有する樹脂フィルムとしては、ナイロンフィルム、PETフィルム、ポリアミドフィルム、ポリフェニレンスルファイドフィルム(PPSフィルム)、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム等が挙げられる。融解ピーク温度は、JIS K7121-1987に記載の方法に準拠して求められる値を意味する。
【0022】
基材層11として、市販のフィルムを使用してもよいし、コーティング(塗工液の塗布及び乾燥)によって基材層11を形成してもよい。なお、基材層11は単層構造であっても多層構造であってもよく、熱硬化性樹脂を塗工することによって形成してもよい。また、基材層11は、例えば、各種添加剤(例えば、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等)を含んでもよい。
【0023】
基材層11の融解ピーク温度T11とシーラント層16の融解ピーク温度T16の差(T11-T16は、好ましくは20℃以上である。この温度差が20℃以上であることで、ヒートシールに起因する外装材20の外観の悪化をより一層十分に抑制できる。基材層11の厚さは好ましくは5~50μmであり、より好ましくは12~30μmである。
【0024】
<第一接着層12及び第二接着層15>
以下、第一接着層12と、第二接着層15それぞれについて詳述する。
【0025】
(第一接着層12)
第一接着層12は、腐食防止処理層14aが設けられたバリア層13と基材層11とを接着する層である。第一接着層12は、基材層11とバリア層13とを強固に接着するために必要な接着力を有すると共に、冷間成型する際において、基材層11によってバリア層13が破断されることを抑制するための追随性も有する。なお、追随性とは、部材が伸縮等により変形したとしても、第一接着層12が剥離することなく部材上に留まる性質である。
【0026】
第一接着層12を形成する接着成分としては、ウレア系化合物及びウレタン系化合物等が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。ウレア系化合物は、アミン系樹脂を主剤、ポリイソシアネート化合物を硬化剤としてこれらを反応させることで得られる。ウレタン系化合物は、ポリオールを主剤、ポリイソシアネート化合物を硬化剤としてこれらを反応させることで得られる。
【0027】
アミン系樹脂としては、例えば、ポリアクリルアミン等が挙げられる。
【0028】
ポリオールとしては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール及びアクリルポリオール等が挙げられる。
【0029】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、ジカルボン酸の一種以上とジオールとを反応させることで得られるポリエステルポリオールが挙げられる。
【0030】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、プロピレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等に、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイドを付加重合させて製造されるものが挙げられる。
【0031】
アクリルポリオールとしては、例えば、少なくとも水酸基含有アクリルモノマーと(メタ)アクリル酸とを共重合して得られる共重合体が挙げられる。この場合、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を主成分として含んでいることが好ましい。水酸基含有アクリルモノマーとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
ポリイソシアネート化合物は、複数のイソシアネート基を含み、上記アミン系樹脂又はポリオールを架橋する働きを担う。ポリイソシアネート化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート化合物、脂環式ポリイソシアネート化合物及び芳香族ポリイソシアネート化合物が挙げられる。
【0033】
脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)等が挙げられる。脂環式ポリイソシアネート化合物としては、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等が挙げられる。芳香族ポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)等が挙げられる。ポリイソシアネート化合物は、これらの化合物の多量体(例えば、三量体)も用いることができ、具体的には、アダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体等を用いることができる。
【0034】
ポリイソシアネート化合物は、ポットライフが向上するため、そのイソシアネート基がブロック剤と結合していることが好ましい。ブロック剤としては、例えば、メチルエチルケトオキシム(MEKO)等が挙げられる。ブロック剤がポリイソシアネート化合物のイソシアネート基から脱離する温度は、50℃以上であってよく、ポットライフが一層向上することから、60℃以上であることが好ましい。ブロック剤がポリイソシアネート化合物のイソシアネート基から脱離する温度は、140℃以下であってよく、外装材の成型カール耐性が向上することから、120℃以下であることが好ましい。
【0035】
ブロック剤の解離温度を低下させるため、解離温度を低下させる触媒を用いてもよい。そのような解離温度を低下させる触媒としては、例えば、トリエチレンジアミン及びN-メチルモルホリン等の三級アミン、並びに、ジブチル錫ジラウレート等の金属有機酸塩などが挙げられる。
【0036】
ウレア系化合物において、アミン系樹脂のアミノ基に対するポリイソシアネート化合物のイソシアネート基のモル比は、1~10が好ましく、2~5がより好ましい。ウレタン系化合物において、ポリオールの水酸基に対するポリイソシアネート化合物のイソシアネート基のモル比は、1~50が好ましく、10~30がより好ましい。
【0037】
第一接着層12は、外装材の外部に存在する硫化水素によるバリア層13の腐食を抑制できるため、硫化水素吸着物質を含むことが好ましい。このような硫化水素吸着物質としては、例えば、酸化亜鉛、過マンガン酸カリウム等が挙げられる。第一接着層12が硫化水素吸着物質を含む場合、外装材の外部に存在する硫化水素によるバリア層13の腐食を抑制できることから、その含有量は、第一接着層12の全量に対して1~50質量%であることが好ましい。
【0038】
第一接着層12の厚さは、所望の接着強度、追随性、及び加工性等を得る観点から、1~10μmが好ましく、2~6μmがより好ましい。
【0039】
第一接着層12は、例えば、上述した接着成分の主剤及び硬化剤を含む組成物を塗工することで得られる。塗工方法は、公知の手法を用いることができるが、例えば、グラビアダイレクト、グラビアリバース(ダイレクト、キス)及びマイクログラビア等が挙げられる。
【0040】
第一接着層12がウレア系化合物を含む場合、アミン系樹脂及びポリイソシアネート化合物を含む組成物におけるアミン系樹脂の含有割合は、アミン系樹脂及びポリイソシアネート化合物の全量に対して、1~10質量%であることが好ましい。
【0041】
第一接着層12がウレタン系化合物を含む場合、ポリオール及びポリイソシアネート化合物を含む組成物におけるポリオールの含有割合は、ポリオール及びポリイソシアネート化合物の全量に対して、50~80質量%であることが好ましい。
【0042】
(第二接着層15)
第二接着層15は、腐食防止処理層14bが設けられたバリア層13とシーラント層16とを接着する層である。
【0043】
第二接着層15を形成する接着成分としては、例えば、第一接着層12で挙げたものと同様の接着成分が挙げられる。
【0044】
第二接着層15は、外装材内部の電池内容物から発生した硫化水素によるバリア層13の腐食を抑制できるため、硫化水素吸着物質を含むことが好ましい。このような硫化水素吸着物質としては、第一接着層12で挙げたものと同様の硫化水素吸着物質が挙げられる。また、その含有量は、第二接着層15の全量に対して0.1~50質量%であることが好ましい。
【0045】
第二接着層15は、第一接着層12と同様の方法で得られる。第二接着層15がウレア系化合物を含む場合、アミン系樹脂及びポリイソシアネート化合物を含む組成物におけるアミン系樹脂の含有割合は、第一接着層12と同様であってよい。第二接着層15がウレタン系化合物を含む場合、ポリオール及びポリイソシアネート化合物を含む組成物におけるポリオールの含有割合は、第一接着層12と同様であってよい。
【0046】
第二接着層15の厚さは、1~5μmであることが好ましい。第二接着層15の厚さが1μm以上であることにより、バリア層13とシーラント層16との十分な接着強度が得られ易く、5μm以下であることにより、第二接着層15の割れの発生を抑制することができる。
【0047】
第一接着層12及び第二接着層15のうち少なくとも一方は、アミン系樹脂とポリイソシアネート化合物との反応物であるウレア系化合物を含み、第一接着層12及び第二接着層15のうちウレア系化合物を含む層において、1680~1720cm-1の赤外線吸収スペクトルピーク強度をA、1590~1640cm-1の赤外線吸収スペクトルピーク強度をBとしたとき、下記式(1)で定義されるXが10~99であり、20~80であることが好ましい。
X={B/(A+B)}×100 …(1)
【0048】
第一接着層12及び第二接着層15のうちウレア系化合物を含む層における、1680~1720cm-1の赤外線吸収スペクトルピーク強度及び1590~1640cm-1の赤外線吸収スペクトルピーク強度は、FT-IR(ATR法(全反射吸収赤外分光法))により測定することができる。
【0049】
第一接着層12及び第二接着層15は、両方がウレア系化合物を含んでいてもよく、第一接着層12及び第二接着層15のうち第一接着層12のみがウレア系化合物を含んでいてもよく、第一接着層12及び第二接着層15のうち第二接着層15のみがウレア系化合物を含んでいてもよい。得られる外装材は耐熱性に優れ、且つ、第一接着層の剛性が緩和され易くなり、深絞り成型性に優れたものとなることから、第一接着層12はウレア系化合物を含まず、第二接着層15のみがウレア系化合物を含むことが好ましい。第一接着層12がウレア系化合物を含む場合、ウレア系化合物のウレア基が凝集力を発揮し、外装材の外部に存在する硫化水素が第一接着層12を通過しにくくなり、硫化水素によるバリア層13の腐食を抑制できる。第二接着層15がウレア系化合物を含む場合、ウレア系化合物のウレア基が凝集力を発揮し、外装材内部の電池内容物から発生した硫化水素が第二接着層15を通過しにくくなり、硫化水素によるバリア層13の腐食を抑制できることから、第二接着層15は、ウレア系化合物を含むことが好ましい。
【0050】
<バリア層13>
バリア層13は、水分が蓄電装置の内部に浸入することを防止する水蒸気バリア性を有する。また、バリア層13は、深絞り成型をするために延展性を有する。バリア層13としては、例えばアルミニウム、ステンレス鋼、銅等の各種金属箔、あるいは、金属蒸着膜、無機酸化物蒸着膜、炭素含有無機酸化物蒸着膜、これらの蒸着膜を設けたフィルムなどを用いることができる。蒸着膜を設けたフィルムとしては、例えば、アルミニウ蒸着フィルム、無機酸化物蒸着フィルムを使用することができる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。バリア層13としては、質量(比重)、防湿性、加工性及びコストの面から、金属箔が好ましく、アルミニウム箔がより好ましい。
【0051】
アルミニウム箔としては、所望の成型時の延展性を付与できる点から、特に焼鈍処理を施した軟質アルミニウム箔を好ましく用いることができるが、更なる耐ピンホール性、及び成型時の延展性を付与させる目的で、鉄を含むアルミニウム箔を用いるのがより好ましい。アルミニウム箔中の鉄の含有量は、アルミニウム箔100質量%中、0.1~9.0質量%が好ましく、0.5~2.0質量%がより好ましい(例えば、JIS規格でいう8021材、8079材よりなるアルミニウム箔)。鉄の含有量が0.1質量%以上であることにより、より優れた耐ピンホール性及び延展性を有する外装材10を得ることができる。鉄の含有量が9.0質量%以下であることにより、より柔軟性に優れた外装材10を得ることができる。
【0052】
バリア層13に使用する金属箔は、所望の耐電解液性を得るために、例えば、脱脂処理が施されていることが好ましい。また、製造工程を簡便にするためには、上記金属箔としては、表面がエッチングされていないものが好ましい。中でも、バリア層13に使用する金属箔は、耐電解液性を付与する点で脱脂処理を施したアルミニウム箔を用いるのが好ましい。アルミニウム箔に脱脂処理する場合は、アルミニウム箔の片面のみに脱脂処理を施してもよく、両面に脱脂処理を施してもよい。上記脱脂処理としては、例えば、ウェットタイプの脱脂処理、又はドライタイプの脱脂処理を用いることができるが、製造工程を簡便にする観点から、ドライタイプの脱脂処理が好ましい。
【0053】
上記ドライタイプの脱脂処理としては、例えば、金属箔を焼鈍処理する工程において、処理時間を長くすることで脱脂処理を行う方法が挙げられる。金属箔を軟質化するために施される焼鈍処理の際に、同時に行われる脱脂処理程度でも充分な耐電解液性が得られる。
【0054】
また、上記ドライタイプの脱脂処理としては、上記焼鈍処理以外の処理であるフレーム処理及びコロナ処理等の処理を用いてもよい。さらに、上記ドライタイプの脱脂処理としては、例えば、金属箔に特定波長の紫外線を照射した際に発生する活性酸素により、汚染物質を酸化分解及び除去する脱脂処理を用いてもよい。
【0055】
上記ウェットタイプの脱脂処理としては、例えば、酸脱脂処理、アルカリ脱脂処理等の処理を用いることができる。上記酸脱脂処理に使用する酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸等の無機酸を用いることができる。これらの酸は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、アルカリ脱脂処理に使用するアルカリとしては、例えば、エッチング効果が高い水酸化ナトリウムを用いることができる。また、弱アルカリ系の材料及び界面活性剤等が配合された材料を用いて、アルカリ脱脂処理を行ってもよい。上記説明したウェットタイプの脱脂処理は、例えば、浸漬法、スプレー法により行うことができる。
【0056】
バリア層13の厚さは、バリア性、耐ピンホール性及び加工性の点から、9~200μmであることが好ましく、15~150μmであることがより好ましく、15~100μmであることが更に好ましい。バリア層13の厚さが9μm以上であることにより、成型加工により応力がかかっても破断しにくくなる。バリア層13の厚さが200μm以下であることにより、外装材の質量増加を低減でき、蓄電デバイスの重量エネルギー密度低下を抑制することができる。
【0057】
<腐食防止処理層14a,14b>
腐食防止処理層14a,14bは、バリア層13を構成する金属薄層等の腐食を防止するためにその表面に設けられる層である。また、腐食防止処理層14aは、バリア層13と第一接着層12との密着力を高める役割を果たす。また、腐食防止処理層14bは、バリア層13と第二接着層15との密着力を高める役割を果たす。腐食防止処理層14a及び腐食防止処理層14bは、同一の構成の層であってもよく、異なる構成の層であってもよい。本実施形態においては、バリア層13と第一接着層12との間、及びバリア層13と第二接着層15との間に腐食防止処理層が設けられているが、バリア層13と第二接着層15との間にのみ腐食防止処理層が設けられていてもよい。
【0058】
腐食防止処理層14a,14bは、例えば、腐食防止処理層14a,14bの母材となる層に対して、脱脂処理、熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理、腐食防止能を有するコーティング剤を塗工するコーティングタイプの腐食防止処理あるいはこれらの処理を組み合わせた腐食防止処理を実施することで形成することができる。
【0059】
上述した処理のうち脱脂処理、熱水変成処理、陽極酸化処理、特に熱水変性処理及び陽極酸化処理は、処理剤によって金属箔(アルミニウム箔)表面を溶解させ、耐腐食性に優れる金属化合物(アルミニウム化合物(ベーマイト、アルマイト))を形成させる処理である。このため、このような処理は、バリア層13から腐食防止処理層14a,14bまで共連続構造を形成している構造を得るために、化成処理の定義に包含されるケースもある。
【0060】
脱脂処理としては、酸脱脂、アルカリ脱脂が挙げられる。酸脱脂としては上述した硫酸、硝酸、塩酸、フッ酸等の無機酸を単独あるいはこれらを混合して得られた酸脱脂を用いる方法などが挙げられる。また酸脱脂として、一ナトリウム二フッ化アンモニウム等のフッ素含有化合物を上記無機酸で溶解させた酸脱脂剤を用いることで、バリア層13の脱脂効果だけでなく不動態である金属のフッ化物を形成させることが可能であり、耐フッ酸性という点で有効である。アルカリ脱脂としては、水酸化ナトリウム等を用いる方法が挙げられる。
【0061】
上記熱水変成処理としては、例えば、トリエタノールアミンを添加した沸騰水中にバリア層13を浸漬処理することで得られるベーマイト処理を用いることができる。上記陽極酸化処理としては、例えば、アルマイト処理を用いることができる。また、上記化成処理としては、例えば、クロメート処理、ジルコニウム処理、チタニウム処理、バナジウム処理、モリブデン処理、リン酸カルシウム処理、水酸化ストロンチウム処理、セリウム処理、ルテニウム処理、或いはこれらを2種以上組み合わせた処理を用いることができる。これらの熱水変成処理、陽極酸化処理、化成処理は、上述した脱脂処理を事前に施すことが好ましい。
【0062】
なお、上記化成処理としては、湿式法に限らず、例えば、これらの処理に使用する処理剤を樹脂成分と混合し、塗布する方法を用いてもよい。また、上記腐食防止処理としては、その効果を最大限にすると共に、廃液処理の観点から、塗布型クロメート処理が好ましい。
【0063】
コーティングタイプの腐食防止処理に用いられるコーティング剤としては、希土類元素酸化物ゾル、アニオン性ポリマー、カチオン性ポリマーからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するコーティング剤が挙げられる。特に、希土類元素酸化物ゾルを含有するコーティング剤を用いる方法が好ましい。
【0064】
腐食防止処理層14a,14bの単位面積あたりの質量は0.005~0.200g/m2の範囲内が好ましく、0.010~0.100g/m2の範囲内がより好ましい。0.005g/m2以上であれば、バリア層13に腐食防止機能を付与し易い。また、上記単位面積当たりの質量が0.200g/m2を超えても、腐食防止機能は飽和しこれ以上の効果が見込めない。なお、上記内容では単位面積あたりの質量で記載しているが、比重がわかればそこから厚さを換算することも可能である。
【0065】
腐食防止処理層14a,14bの厚さは、腐食防止機能、及びアンカーとしての機能の点から、例えば10nm~5μmであることが好ましく、20~500nmであることがより好ましい。
【0066】
<シーラント層16>
シーラント層16は、外装材10に対し、ヒートシールによる封止性を付与する層であり、蓄電デバイスの組み立て時に内側に配置されてヒートシール(熱融着)される層である。
【0067】
シーラント層16としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、又はポリエステル系樹脂からなるフィルムが挙げられる。シーラント層16は、融点が高く、得られる外装材の耐熱性が一層向上することから、ポリオレフィン系樹脂、又はポリエステル系樹脂からなるフィルムが好ましく、ポリエステル系樹脂からなるフィルムがより好ましい。
【0068】
アクリル系樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)等が挙げられる。これらアクリル系樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0069】
ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度、中密度及び高密度のポリエチレン;エチレン-αオレフィン共重合体;ポリプロピレン;並びに、プロピレン-αオレフィン共重合体等が挙げられる。共重合体である場合のポリオレフィン樹脂は、ブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。
【0070】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリブチレンテレフタレート(PBT)等が挙げられる。これらポリエステル系樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
シーラント層16は、単層フィルムであってもよく、多層フィルムであってもよく、必要とされる機能に応じて選択すればよい。シーラント層16が多層構成である場合は、各層同士を共押出により積層してもよく、ドライラミネートにより積層してもよい。
【0072】
シーラント層16は、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤及び粘着付与剤等の各種添加材を含んでいてもよい。
【0073】
シーラント層16の厚さは、10~100μmであることが好ましく、20~60μmであることがより好ましい。シーラント層16の厚さが10μm以上であることにより、十分なヒートシール強度を得ることができ、100μm以下であることにより、外装材端部からの水蒸気の浸入量を低減することができる。
【0074】
シーラント層16の融解ピーク温度は、耐熱性が向上することから、200~280℃であることが好ましい。
【0075】
[外装材の製造方法]
次に、外装材10の製造方法について説明する。なお、外装材10の製造方法は以下の方法に限定されない。
【0076】
外装材10の製造方法として、例えば、下記の工程S11~S13をこの順に実施する方法が挙げられる。
工程S11:バリア層13の一方の面上に腐食防止処理層14aを形成し、バリア層13の他方の面上に腐食防止処理層14bを形成する工程。
工程S12:腐食防止処理層14aのバリア層13とは反対側の面と、基材層11とを、第一接着層12を介して貼り合わせる工程。
工程S13:腐食防止処理層14bのバリア層13とは反対側の面上に、第二接着層15を介してシーラント層16を形成する工程。
【0077】
<工程S11>
工程S11では、バリア層13の一方の面上に腐食防止処理層14aを形成し、バリア層13の他方の面上に腐食防止処理層14bを形成する。腐食防止処理層14a及び14bは、それぞれ別々に形成されてもよく、両方が一度に形成されてもよい。具体的には、例えば、バリア層13の両方の面に腐食防止処理剤(腐食防止処理層の母材)を塗布し、その後、乾燥、硬化、焼付けを順次行うことで、腐食防止処理層14a及び14bを一度に形成する。また、バリア層13の一方の面に腐食防止処理剤を塗布し、乾燥、硬化、焼き付けを順次行って腐食防止処理層14aを形成した後、バリア層13の他方の面に同様にして腐食防止処理層14bを形成してもよい。腐食防止処理層14a及び14bの形成順序は特に制限されない。また、腐食防止処理剤は、腐食防止処理層14aと腐食防止処理層14bとで異なるものを用いてもよく、同じのものを用いてもよい。腐食防止処理剤の塗布方法は、特に限定されないが、例えば、グラビアコート法、グラビアリバースコート法、ロールコート法、リバースロールコート法、ダイコート法、バーコート法、キスコート法、コンマコート法、小径グラビアコート法等の方法を用いることができる。
【0078】
<工程S12>
工程S12では、腐食防止処理層14aのバリア層13とは反対側の面と、基材層11とが、第一接着層12を形成する接着剤を用いてドライラミネーション等の手法で貼り合わせられる。工程S12では、第一接着層12の接着性の促進のため、加熱処理を行ってもよい。加熱処理時の温度は、外装材が成型カール耐性に優れることから、140℃以下であることが好ましく、ブロック剤のポットライフが向上することから、60℃以上であることが好ましい。
【0079】
<工程S13>
工程S12後、基材層11、第一接着層12、腐食防止処理層14a、バリア層13及び腐食防止処理層14bがこの順に積層された積層体の腐食防止処理層14bのバリア層13とは反対側の面と、シーラント層16とが、第二接着層15を形成する接着剤を用いてドライラミネーション等の手法で貼り合わせられる。工程S13では、第二接着層15の接着性の促進のため、加熱処理を行ってもよい。加熱処理時の温度は、外装材が成型カール耐性に優れることから、140℃以下であることが好ましく、120℃以下であることがより好ましく、ブロック剤のポットライフが向上することから、60℃以上であることが好ましい。
【0080】
以上説明した工程S11~S13により、外装材10が得られる。なお、外装材10の製造方法の工程順序は、上記工程S11~S13を順次実施する方法に限定されない。例えば、工程S12を行ってから工程S11を行う等、実施する工程の順序を適宜変更してもよい。
【0081】
[蓄電デバイス]
次に、外装材10を容器として備える蓄電デバイスについて説明する。蓄電デバイスは、電極を含む電池要素1と、上記電極から延在するリード2と、電池要素1を収容する容器とを備え、上記容器は蓄電デバイス用外装材10から、シーラント層16が内側となるように形成される。上記容器は、2つの外装材をシーラント層16同士を対向させて重ね合わせ、重ねられた外装材10の周縁部をヒートシールして得られてもよく、また、1つの外装材を折り返して重ね合わせ、同様に外装材10の周縁部をヒートシールして得られてもよい。リード2は、シーラント層16を内側として容器を形成する外装材10によって挟持され、密封されている。リード2は、タブシーラントを介して、外装材10によって挟持されていてもよい。
【0082】
本実施形態の外装材は、様々な蓄電デバイスにおいて使用可能である。そのような蓄電デバイスとしては、例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、鉛蓄電池及び全固体電池等の二次電池、並びに電気二重層キャパシタ等の電気化学キャパシタが挙げられる。本実施形態の外装材10はヒートシール後の高温環境下での使用に際しても優れたヒートシール性を維持することができるため、そのような環境での使用が想定される全固体電池用途に適している。
【0083】
[蓄電デバイスの製造方法]
次に、上述した外装材10を用いて蓄電デバイスを製造する方法について説明する。なお、ここでは、エンボスタイプ外装材30を用いて二次電池40を製造する場合を例に挙げて説明する。
図2は上記エンボスタイプ外装材30を示す図である。
図3の(a)~(d)は、外装材10を用いた片側成型加工電池の製造工程を示す斜視図である。二次電池40としては、エンボスタイプ外装材30のような外装材を2つ準備し、それらをアライメントの調整をしつつ貼り合わせて製造される、両側成型加工電池であってもよい。
【0084】
片側成型加工電池である二次電池40は、例えば、以下の工程S21~S26により製造することができる。
工程S21:外装材10、電極を含む電池要素1、並びに上記電極から延在するリード2を準備する工程。
工程S22:外装材10の片面に電池要素1を配置するための凹部32を形成し、エンボスタイプ外装材30を得る工程(
図3(a)及び
図3(b)参照)。
工程S23:エンボスタイプ外装材30の成型加工エリア(凹部32)に電池要素1を配置し、凹部32を蓋部34が覆うようにエンボスタイプ外装材30を折り返し重ねて、電池要素1から延在するリード2を挟持するようにエンボスタイプ外装材30の一辺をヒートシールする工程(
図3(b)及び
図3(c)参照)。
工程S24:リード2を挟持する辺以外の一辺を残し、他の辺をヒートシールし、その後、残った一辺から電解液を注入し、真空状態で残った一辺をヒートシールする工程(
図3(c)参照)。
工程S25:電流値や電圧値、環境温度等を所定の条件にして充放電を行い、化学変化を起こさせる(化成)工程。
工程S26:リード2を挟持する辺以外のヒートシールされた辺の端部をカットし、成型加工エリア(凹部32)側に折り曲げる工程(
図3(d)参照)。
【0085】
<工程S21>
工程S21では、外装材10、電極を含む電池要素1、並びに上記電極から延在するリード2を準備する。外装材10は、上述した実施形態に基づき準備する。電池要素1及びリード2としては特に制限はなく、公知の電池要素1及びリード2を用いることができる。
【0086】
<工程S22>
工程S22では、外装材10のシーラント層16側に電池要素1を配置するための凹部32が形成される。凹部32の平面形状は、電池要素1の形状に合致する形状、例えば平面視矩形状とされる。凹部32は、例えば矩形状の圧力面を有する押圧部材を、外装材10の一部に対してその厚さ方向に押圧することで形成される。また、押圧する位置、すなわち凹部32は、長方形に切り出した外装材10の中央より、外装材10の長手方向の一方の端部に偏った位置に形成する。これにより、成型加工後に凹部32を形成していないもう片方の端部側を折り返し、蓋(蓋部34)とすることができる。
【0087】
凹部32を形成する方法としてより具体的には、金型を用いた成型加工(深絞り成型)が挙げられる。成型方法としては、外装材10の厚さ以上のギャップを有するように配置された雌型と雄型の金型を用い、雄型の金型を外装材10と共に雌型の金型に押し込む方法が挙げられる。雄型の金型の押込み量を調整することで、凹部32の深さ(深絞り量)を所望の量に調整できる。外装材10に凹部32が形成されることにより、エンボスタイプ外装材30が得られる。このエンボスタイプ外装材30は、例えば
図2に示すような形状を有している。ここで、
図2(a)は、エンボスタイプ外装材30の斜視図であり、
図2(b)は、
図2(a)に示すエンボスタイプ外装材30のb-b線に沿った縦断面図である。
【0088】
<工程S23>
工程S23では、エンボスタイプ外装材30の成型加工エリア(凹部32)内に、正極、セパレータ及び負極等から構成される電池要素1が配置され。また、電池要素1から延在し、正極と負極にそれぞれ接合されたリード2が成型加工エリア(凹部32)から外に引き出される。その後、エンボスタイプ外装材30は、長手方向の略中央で折り返され、シーラント層16同士が内側となるように重ねられ、エンボスタイプ外装材30のリード2を挟持する一辺がヒートシールされる。ヒートシールは、温度、圧力及び時間の3条件で制御され、適宜設定される。ヒートシールの温度は、シーラント層16を融解する温度以上であることが好ましく、具体的には180℃以上とすることができる。
【0089】
ヒートシール後、さらにシーラント層16全体を加熱するキュア工程を行う。これにより、ヒートシール部分以外の結晶化を進行させ、外装材10全体の耐熱性を確保する。キュア工程は80~150℃で実施することができる。
【0090】
なお、シーラント層16のヒートシール前の厚さは、リード2の厚さに対し40%以上80%以下であることが好ましい。シーラント層16の厚さが上記下限値以上であることにより、シーラント層16を構成する樹脂がリード2端部を十分充填できる傾向があり、上記上限値以下であることにより、二次電池40の外装材10端部の厚さを適度に抑えることができ、外装材10端部からの水分の浸入量を低減することができる。
【0091】
<工程S24>
工程S24では、リード2を挟持する辺以外の一辺を残し、他の辺のヒートシールが行われる。その後、残った一辺から電解液を注入し、残った一辺が真空状態でヒートシールされる。ヒートシールの条件は工程S23と同様である。
【0092】
<工程S25>
工程S25では、工程S23までに得られた二次電池40に対して充放電を行い、化学変化を起こさせる(化成:40℃環境にて3日間)。そして、化成によって発生したガスの除去や電解液の補充のため、二次電池40を一度開封し、その後最終シールを行う。なお、この工程S25は省略することができる。
【0093】
<工程S26>
リード2を挟持する辺以外のヒートシール辺の端部がカットされ、端部からははみだしたシーラント層16が除去される。その後、ヒートシール部を成型加工エリア32側に折り返し、折り返し部42を形成することで、二次電池40が得られる。
【0094】
以上、本発明の蓄電デバイス用外装材の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は当該形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例】
【0095】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0096】
[使用材料]
実施例及び比較例で使用した材料を以下に示す。
【0097】
<基材層(厚さ25μm)>
一方の面をコロナ処理したポリエチレンテレフタレートフィルムを用いた。
【0098】
<第一接着層(厚さ4μm)及び第二接着層(厚さ3μm)>
表1に記載の主剤、硬化剤及び硫化水素吸着物質を表2に示す割合で配合した接着剤を用いた。表1及び表2に示す主剤及び硬化剤の詳細は、以下のとおりである。また、硫化水素吸着物質は以下の化合物を用いた。
{主剤}
・アミン系樹脂(株式会社日本触媒製、商品名:ポリメントMK-380)
・エポキシ系樹脂(荒川化学工業株式会社製、商品名:アラキード9201N)
・ポリエステルポリオール系樹脂(ユニチカ株式会社製、商品名:エリーテルUE-3600)
{硬化剤}
・HDI-B(ヘキサメチレンジイソシアネート-ビウレット体、旭化成株式会社製、商品名:デュラネート24A-100)
・HDI-N1(ヘキサメチレンジイソシアネート-イソシアヌレート体、旭化成株式会社製、商品名:デュラネートTPA-100)
・HDI-N2(ヘキサメチレンジイソシアネート-イソシアヌレート体のイソシアネート基がブロック剤と結合している化合物、旭化成株式会社製、商品名:デュラネートMF-K60B)
・HDI-N3(ヘキサメチレンジイソシアネート-イソシアヌレート体のイソシアネート基がブロック剤と結合している化合物、旭化成株式会社製、商品名:デュラネートMF-B60B)
・HDI-A(ヘキサメチレンジイソシアネート-アダクト体、東洋インキ株式会社製、商品名:CAT-10L)
・ビスフェノールA(三菱化学株式会社製、商品名:ビスフェノールA)
{硫化水素吸着物質}
・酸化亜鉛(石原産業株式会社製、商品名:FZO-50)
【0099】
<腐食防止処理層>
溶媒として蒸留水を用い、固形分濃度10質量%に調整した「ポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾル」を用いた。なお、ポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾルは、酸化セリウム100質量部に対して、リン酸のNa塩を10質量部配合して得た。
【0100】
<バリア層(厚さ35μm)>
焼鈍脱脂処理した軟質アルミニウム箔(東洋アルミニウム社製、「8079材」)を用いた。
【0101】
<シーラント層(厚さ40μm)>
シーラント層として、表1に記載のフィルムを準備した。
【0102】
[外装材の製造]
<実施例1~3、9~12、比較例1、2>
ドライラミネート手法により接着剤(第一接着層)を用いてバリア層を基材層に貼り付けた。次いで、バリア層の第一接着層が接着している面とは反対の面にドライラミネート手法により接着剤(第二接着層)を用いてシーラント層を貼り付けた。
【0103】
このようにして得られた積層体を、表2に示す条件で加熱処理し、外装材(基材層/第一接着層/バリア層/第二接着層/シーラント層)を製造した。
【0104】
<実施例4~8>
まず、バリア層に、バリア層の両方の面にポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾルを、グラビアコートにより塗布した。次いで、塗布されたポリリン酸ナトリウム安定化酸化セリウムゾルを乾燥させた後、焼付け処理を順次行うことで、バリア層の両方の面に腐食防止処理層を形成した。このとき、焼き付け条件としては、温度を150℃、処理時間を30秒とした。
【0105】
次に、腐食防止処理層が形成されたバリア層の一方の面に、ドライラミネート手法により、接着剤(第一接着層)を用いて基材層に貼りつけた。次いで、腐食防止処理層が形成されたバリア層のもう一方の面に、ドライラミネート手法により、(第二接着層)を用いてシーラント層を貼り付けた。
【0106】
このようにして得られた積層体を、表2に示す条件で加熱処理し、外装材(基材層/第一接着層/腐食防止処理層/バリア層/腐食防止処理層/第二接着層/シーラント層)を製造した。
【0107】
[ウレア存在比の測定]
<第一接着層>
第一接着層と密着しているバリア層及び基材層を剥離し、第一接着層を露出させた。露出させた第一接着層を赤外分光法(IR)により赤外線吸収スペクトルピーク強度を測定した。1680~1720cm-1の赤外線吸収スペクトルピーク強度をA、1590~1640cm-1の赤外線吸収スペクトルピーク強度をBとしたとき下記式(2)によりウレア存在比(X)を算出した。結果を表1に示した。
ウレア存在比(X)={B/(A+B)}×100 …(2)
【0108】
<第二接着層>
第二接着層と密着しているバリア層及びシーラント層を剥離し、第二接着層を露出させた。露出させた第二接着層について第一接着層と同様にしてウレア存在比を算出した。結果を表1に示した。
【0109】
[シーラント層側耐熱ラミネート強度の評価]
<測定方法>
外装材を15mm幅にカットし、外装材のバリア層と、シーラント層との間のラミネート強度を以下の条件1~3のいずれかの条件で測定した。剥離は、90°剥離とし、剥離速度は50mm/分とした。
条件1:外装材を80℃で5分間加熱後、80℃に加熱しながらラミネート強度を測定した。
条件2:外装材を150℃で5分間加熱後、150℃に加熱しながらラミネート強度を測定した。
条件3:外装材を100℃で加熱しながら、濃度が20ppmの硫化水素に1週間暴露した後、上記条件2と同一の方法でラミネート強度を測定した。
【0110】
<評価基準>
ラミネート強度は、以下の評価基準に基づき評価し、△以上を合格とした。結果を表3に示した。
◎:ラミネート強度が2.5N/15mm以上
○:ラミネート強度が2.0N/15mm以上2.5N/15mm未満
△:ラミネート強度が1.5N/15mm以上2.0N/15mm未満
×:ラミネート強度が1.5N/15mm未満
【0111】
[深絞り成型性]
<測定方法>
各例で得られた外装材について、深絞り成型が可能な成型深度を以下の方法で評価した。成型装置の成型深さを0.25mmごとに1.0~5.0mmに設定し、深絞りしたサンプルについて破断及びピンホールの有無を、外装材にライトを照射しながら目視にて確認し、破断及びピンホールのいずれも生じることなく深絞り成型できた成型深度の最大値を求めた。また、成型深度について以下の基準に従って評価した。結果を表3に示した。
<評価基準>
◎:成型深度の最大値が4.00mm以上
○:成型深度の最大値が3.50mm以上4.00mm未満
△:成型深度の最大値が3.00mm以上3.50mm未満
×:成型深度の最大値が3.00mm未満
【0112】
[深絞り成型後の耐熱性]
上記[深絞り成型性]の評価で得られた成型深度2.00mmの外装材(各5検体ずつ)を、80℃、又は150℃に加熱しながら1週間保管した。その後、成型凸部近傍にライトを照射しながら、基材層、バリア層間のデラミネーション発生具合を目視にて確認した。本試験については以下の基準に従って評価した。結果を表3に示した。
<評価基準>
○:5検体中0~1検体でデラミネーションが発生
△:5検体中2~4検体でデラミネーションが発生
×:5検体中5検体でデラミネーションが発生
【0113】
[ポットライフ]
接着剤の塗液の所定時間ごとのゲル分率からポットライフを評価した。ゲル分率は、以下の方法で測定した。ゲル分率は以下の基準に基づき評価した。結果を表3に示した。
<ゲル分率測定>
工程A)接着剤塗液作製後、4時間経過した塗液を一部回収し、その塗液の溶剤を乾燥させた。
工程B)試料を乗せるメッシュの重量を測定し(w1とする)、このメッシュに工程Aの乾燥塗膜を乗せた際の合計重量を測定した(w2とする)。
工程C)工程Aの乾燥塗膜をキシレンに浸漬し、室温で1週間保管した。
工程D)工程Cのキシレン溶液を工程Bで用いたメッシュでろ過し、残渣を多量のキシレンで洗浄した。
工程E)工程Dの残渣を乾燥させ、重量を測定した(w3とする)。
工程F)上記で得られた重量データから、下記式によりゲル分率を計算した。
ゲル分率=(w3-w1)/(w2-w1)
<評価基準>
◎:ゲル分率が40%未満
○:ゲル分率が40%以上50%未満
△:ゲル分率が50%以上60%未満
×:ゲル分率が60%以上
【0114】
[成型カール耐性]
上記[深絞り成型性]の評価で得られた成型深度2.00mmの外装材を平面に静置した。このとき、外装材の凹部が形成された面と、平面とが接するように外装材を静置した。静置した外装材について外装材の4角における平面からのカール高さを測定し、その合計値を算出した。合計値を下記の評価基準に基づき評価した。結果を表3に示した。
<評価基準>
○:4角のカール高さの合計値が40mm未満
△:4角のカール高さの合計値が40mm以上、100mm未満
×:4角のカール高さの合計値が100mm以上
【0115】
[耐熱シール強度]
外装材を、120mm×60mmサイズに切り出し、シーラント層が内側になるように半分に折りたたみ、折りたたんだ部分とは反対側の端部を190℃/0.5MPa/3秒で10mm幅にヒートシールし、6時間室温で保管した。その後、ヒートシール部の長手方向中央部を幅15mm×長さ300mmで切り出し、ヒートシール強度測定用サンプルを製作した。このサンプルを150℃の試験環境に5分間放置した後、サンプルのヒートシール部に対し、引張速度50mm/分の条件にて、引張試験機(株式会社島津製作所社製)を用いてT字剥離試験を行った。そして、ヒートシール強度を下記の評価基準に基づき評価した。結果を表3に示した。
<評価基準>
◎:ヒートシール強度が15N/15mm以上
○:ヒートシール強度が10N/15mm以上、15N/15mm未満
△:ヒートシール強度が5N/15mm以上、10N/15mm未満
×:ヒートシール強度が5N/15mm未満
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
80℃加熱時及び150℃加熱時のシーラント層側の耐熱ラミネート強度の測定結果から、ウレア存在比(X)が10~99である場合(実施例1~12)に、ウレア存在比(X)が10未満又は99を超える場合(比較例1~3)と比較して、耐熱性に優れることがわかる。更に、深絞り成型後の耐熱性の評価からも、ウレア存在比(X)が10~99である場合(実施例1~12)に、ウレア存在比(X)が10未満又は99を超える場合(比較例1~3)と比較して、耐熱性に優れることがわかる。
【符号の説明】
【0120】
1…電池要素、2…リード、10…外装材(蓄電デバイス用外装材)、11…基材層、12…第一接着層、13…バリア層、14a,14b…腐食防止処理層、15…第二接着層、16…シーラント層、30…エンボスタイプ外装材、32…成型加工エリア(凹部)、34…蓋部、40…二次電池