(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】水系着色剤分散体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20240730BHJP
C09B 67/08 20060101ALI20240730BHJP
C09B 67/20 20060101ALI20240730BHJP
C09B 67/46 20060101ALI20240730BHJP
C09D 11/326 20140101ALI20240730BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C09D17/00
C09B67/08 C
C09B67/20 F
C09B67/46 B
C09D11/326
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2020002325
(22)【出願日】2020-01-09
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】野田 和秀
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-162430(JP,A)
【文献】国際公開第2019/013173(WO,A1)
【文献】特開2017-119797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-13/00,
17/00
B41J 2/01
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤(A)、酸基含有樹脂(B)、水系媒体(C)、架橋剤(D)、および塩基性化合物(E)を含み、酸基含有樹脂(B)が、
α-オレフィン単位を主鎖に含む重合物であり、かつ、以下を満たす、水系着色剤分散体。
酸基含有樹脂(B)の酸価が、34~175mgKOH/gである。
酸基含有樹脂(B)の中和値が、0.5以上0.95以下である。
酸基含有樹脂(B)の架橋値が、0.7以上1.3以下である。
酸基含有樹脂(B)の酸基が、カルボキシ基である。
酸基含有樹脂(B)の数平均分子量(Mn)が、50,000以下である。
ただし、中和値および架橋値は、下記(1)および(2)から算出される。
(1)中和値=塩基性化合物(E)の塩基性官能基のモル当量数/酸基含有樹脂(B)の酸性官能基のモル当量数
(2)架橋値=架橋剤(D)の架橋官能基のモル当量数/酸基含有樹脂(B)の酸性官能基のモル当量数
【請求項2】
酸基含有樹脂(B)が、α-オレフィン単位およびマレイン酸単位を含む重合物であり、マレイン酸単位が、無水マレイン酸単位、およびマレイン酸エステル単位をいずれか1種以上含む、請求項
1に記載の水系着色剤分散体。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の水系着色剤分散体を含む、インクジェット記録用インキ。
【請求項4】
下記工程1~3を有し、酸基含有樹脂(B)が、
α-オレフィン単位を主鎖に含む重合物であり、かつ、以下を満たす、水系着色剤分散体の製造方法。
工程1:着色剤(A)と、酸基含有樹脂(B)を混合する工程
工程2:工程1で得られた混合物に、水系媒体(C)および塩基性化合物(E)を添加し中和する工程
工程3:工程2で得られた混合物に、架橋剤(D)を添加し架橋処理する工程
酸基含有樹脂(B)の酸価が、34~175mgKOH/gである。
酸基含有樹脂(B)の中和値が、0.5以上0.95以下である。
酸基含有樹脂(B)の架橋値が、0.7以上1.3以下である。
酸基含有樹脂(B)の酸基が、カルボキシ基である。
酸基含有樹脂(B)の数平均分子量(Mn)が、50,000以下である。
ただし、中和値および架橋値は、下記(1)および(2)から算出される。
(1)中和値=塩基性化合物(E)の塩基性官能基のモル当量数/酸基含有樹脂(B)の酸性官能基のモル当量数
(2)架橋値=架橋剤(D)の架橋官能基のモル当量数/酸基含有樹脂(B)の酸性官能基のモル当量数
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用インキ等に使用する水系着色剤分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用インキは、水性染料インキに代わり耐水性や耐光性が優れる水性顔料インキにシフトされつつある。
【0003】
特許文献1では、高分子分散剤で被覆した顔料と、水系有機溶剤と、塩基性化合物とを含み、顔料と高分子分散剤との含有比率が40/60~95/5であり、高分子分散剤が、メタクリレート系の疎水性ポリマーブロックと、30~5質量%のメタクリル酸を含む親水性ポリマーブロックとからなるブロックポリマーであり、該ポリマーの分散度PDIおよび該ブロックポリマーを構成する疎水性ポリマーブロックのPDIがいずれも1.5以下であり、ブロックポリマーの平均分子量をMnab、疎水性ブロックの平均分子量をMna、親水性ブロックの平均分子量をMnbとした場合に、Mna≧Mnb、または、Mna<Mnb≦2Mna等の要件を満たすインクジェット用水性顔料分散液が開示されている。
【0004】
また特許文献2では、表面が樹脂により被覆されてなる顔料であって、前記樹脂が、α-オレフィン単位を主鎖に含む樹脂であって、顔料の前記樹脂吸着量が、被覆されていない顔料に対し10質量%以上50質量%以下であることを特徴とする顔料、及び該顔料を用いた顔料水性分散体が開示されている。
【0005】
また特許文献3では、カルボキシ基を有する水不溶性ポリマーと水不溶性多官能エポキシ化合物によって架橋してなるポリマー分散剤、及び顔料からなる水系顔料分散体であって、該水不溶性ポリマーのカルボキシ基の少なくとも一部はアルカリ金属化合物で中和されており、かつ、中和された水不溶性ポリマーの酸価と中和度と架橋度が特定範囲を満たす、水系顔料分散体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-36251号公報
【文献】特開2018-162430号公報
【文献】特開2018-65997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の着色剤分散体は、保管温度が大きく変化すると着色剤の分散状態が変化して、粗大粒子が発生し、ろ過性が悪化する問題があった。また、インクジェット記録用インキを連続印刷すると、プリンターのノズル目詰まりや印刷不良を起こす問題もあった。
【0008】
本発明は、温度変化があっても着色剤の分散安定性が損なわれにくく、連続印刷が可能なインクジェット記録用インキを作製できる水系着色剤分散体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の水系着色剤分散体は、着色剤(A)、酸価が1~300mgKOH/gの酸基含有樹脂(B)、水系媒体(C)、架橋剤(D)、および塩基性化合物(E)を含み、
酸基含有樹脂(B)が、以下定義する(1)中和値、および(1)架橋値を満たす。
酸基含有樹脂(B)の中和値が0.5以上1.0未満、かつその架橋値が0.7以上1.5以下、
(1)中和値=塩基性化合物(E)の塩基性官能基のモル当量数/酸基含有樹脂(B)の酸性官能基のモル当量数
(2)架橋値=架橋剤(D)の架橋官能基のモル当量数/酸基含有樹脂(B)の酸性官能基のモル当量数。
【発明の効果】
【0010】
上記の本発明によれば温度変化があっても着色剤の分散安定性が損なわれにくく、連続印刷が可能なインクジェット記録用インキを作製できる水系着色剤分散体、およびインクジェット記録用インキを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書の用語を定義する。「C.I.」は、カラーインデックス番号を意味する。また、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートである。単量体は、エチレン性不飽和基含有化合物である。エチレン性不飽和基は、ビニル基、アリル基、アクリロイル基、メタクリロイル基である。
【0012】
本発明の水系着色剤分散体は、着色剤(A)、酸価が1~300mgKOH/gの酸基含有樹脂(B)、水系媒体(C)、架橋剤(D)、および塩基性化合物(E)を含み、
酸基含有樹脂(B)が、以下定義する(1)中和値、および(2)架橋値を満たす。
酸基含有樹脂(B)の中和値が0.5以上1.0未満、かつその架橋値が0.7以上1.5以下、
(1)中和値=塩基性化合物(E)の塩基性官能基のモル当量数/酸基含有樹脂(B)の酸性官能基のモル当量数
(2)架橋値=架橋剤(D)の架橋官能基のモル当量数/酸基含有樹脂(B)の酸性官能基のモル当量数。
本発明の水系着色剤分散体は、所定の中和値および架橋値を満たす酸基含有樹脂(B)を含むことで着色剤(A)の分散安定性を大きく向上できる。そのため、水系着色剤分散体を温度変化が大きな環境で保存する場合であっても、粗大粒子が生じにくい。また、前記水系着色剤分散体を使用したインクジェット記録用インキは、連続印刷時に印字の抜けが生じにくい効果が得られる。
【0013】
<着色剤(A)>
本発明の水系着色剤分散体は、着色剤(A)を含む。着色剤(A)は、水性媒体に不溶の顔料、染料である。なお、水溶性染料を併用できる。
顔料は、例えば、C.I.ピグメント レッド 3,5,19,22,31,38,42,43,48:1,48:2,48:3,48:4,48:5,49:1,53:1,57:1,57:2,58:4,63:1,81,81:1,81:2,81:3,81:4,88,104,108,112,122,123,144,146,147,149,150,166,168,169,170,176,177,178,179,184,185,202,208,216,226,242,254,255,257,269,291;
C.I.ピグメント グリーン 7,26,36,50,58,59,62,63;
C.I.ピグメント ブルー 1,15,15:1,15:2,15:3,15:4,15:6,16,17,17:1,22,27,28,29,36,60;
C.I.ピグメント オレンジ 13,16,20,34,36,38,43,62,64,71,73;
C.I.ピグメント イエロー 1,3,12,13,14,17,34,35,37,55,74,81,83,93,94,95,97,108,109,110,120,128,137,138,139,150,153,154,155,157,166,167,168,174,180,185,193,213,234;
C.I.ピグメント バイオレット 3,19,23,29,30,37,50,88;
C.I.ピグメント ブラック 7,28,26;
C.I.ピグメント ホワイト 6,18,21等が挙げられる。
分散染料は、例えば、C.I.ディスパース レッド 11,50,53,54,55,55:1,59,60,65,70,72,73,75,86,88,91,92,93,111,126,127,134,135,143,145,146,152,153,154,158,159,164,167:1,177,181,190,190:1,204,206,207,221,239,240,258,277,278,283,311,323,343,348,356,362;
C.I.バットレッド41;
C.I.ディスパース グリーン 6:1,9;
C.I.ディスパース ブルー 19,26,26:1,35,55,56,58,60,64,64:1,72、72:1,73,81,81:1,87,91,95,108,113,128,131,141,143,145,148,154,158,165,165:1,165:2,176,183,185,197,198,201,214,224,225,257,266,267,287,354,358,359,360,365,368;
C.I.ディスパース オレンジ 1,1:1,5,13,20,25,25:1,29,31:1,33,49,54,55,56,66,73,76,118,119,163;
C.I.ディスパース イエロー 3,5,7,8,23,39,42,51,54,60,64,71,79,82,83,86,93,99,100,119,122,124,126,160,184:1,186,198,199,201,204,224,237;
C.I.ディスパース バイオレット 8,17,23,27,28,29,33,36,57;
C.I.ディスパース ブラウン2;等が挙げられる。
水溶性染料は、直接染料、酸性染料、食用染料、塩基性染料、反応性染料等が挙げられる。例えば、C.I.ダイレクト レッド 2,4,9,23,26,31,39,62,63,72,75,76,79,80,81,83,84,89,92,95,111,173,184,207,211,212,214,218,223,224,225,226,227,232,233,240,241,242,243,247;
C.I.ダイレクト バイオレット 7,9,47,48,51,66,90,93,94,95,98,100,101;
C.I.ダイレクト イエロー 8,9,11,12,27,28,29,33,35,39,41,44,50,53,58,59,68,86,87,93,95,96,98,100,106,108,109,110,130,132,142,144,161,163;
C.I.ダイレクト ブルー 1,10,15,22,25,55,67,68,71,76,77,78,80,84,86,87,90,98,106,108,109,151,156,158,159,160,168,189,192,193,194,199,200,201,202,203,207,211,213,214,218,225,229,236,237,244,248,249,251,252,264,270,280,288,289,291;
C.I.ダイレクト ブラック 9,17,19,22,32,51,56,62,69,77,80,91,94,97,108,112,113,114,117,118,121,122,125,132,146,154,166,168,173,199
C.I.アシッド レッド 35,42,52,57,62,80,82,111,114,118,119,127,128,131,143,151,154,158,249,254,257,261,263,266,289,299,301,305,336,337,361,396,397;
C.I.アシッド バイオレット 5,34,43,47,48,90,103,126;
C.I.アシッド イエロー 17,19,23,25,39,40,42,44,49,50,61,64,76,79,110,127,135,143,151,159,169,174,190,195,196,197,199,218,219,222,227;
C.I.アシッド ブルー 9,25,40,41,62,72,76,78,80,82,92,106,112,113,120,127:1,129,138,143,175,181,205,207,220,221,230,232,247,258,260,264,271,277,278,279,280,288,290,326
C.I.アシッド ブラック 7,24,29,48,52:1,172;
C.I.リアクティブ レッド 3,13,17,19,21,22,23,24,29,35,37,40,41,43,45,49,55;
C.I.リアクティブ バイオレット 1,3,4,5,6,7,8,9,16,17,22,23,24,26,27,33,34;
C.I.リアクティブ イエロー 2,3,13,14,15,17,18,23,24,25,26,27,29,35,37,41,42;
C.I.リアクティブ ブルー 2,3,5,8,10,13,14,15,17,18,19,21,25,26,27,28,29,38;
C.I.リアクティブ ブラック 4,5,8,14,21,23,26,31,32,34;
C.I.ベーシック レッド 12,13,14,15,18,22,23,24,25,27,29,35,36,38,39,45,46;
C.I.ベーシック バイオレット 1,2,3,7,10,15,16,20,21,25,27,28,35,37,39,40,48;
C.I.ベーシック イエロー 1,2,4,11,13,14,15,19,21,23,24,25,28,29,32,36,39,40;
C.I.ベーシック ブルー 1,3,5,7,9,22,26,41,45,46,47,54,57,60,62,65,66,69,71;
C.I.ベーシック ブラック 8;等が挙げられる。
【0014】
着色剤(A)は、単独または2種以上を併用して使用できる。
【0015】
<酸価が1~300mgKOH/gの酸基含有樹脂(B)>
酸価が1~300mgKOH/gの酸基含有樹脂(B)(以下、酸基含有樹脂(B)という)は、酸価が1~300mgKOH/gであればよく、ランダム重合樹脂、ブロック重合樹脂のいずれでもよい。酸基含有樹脂(B)の酸基は、カルボキシ基が好ましく、α-オレフィン単位を含む重合物であることが好ましい。
酸基含有樹脂(B)は、例えば、特開2018-162430号公報に記載のα-オレフィン単位を主鎖に含む樹脂、特開2012-36251号公報に記載のA-Bブロック樹脂、特開2018-65997号公報に記載の水不溶性樹脂等が挙げられる。これらの中でも、α-オレフィン単位を主鎖に含む樹脂が好ましい。水系着色剤分散体は、酸基含有樹脂(B)を含有することで温度変化があっても着色剤の分散安定性が損なわれにくいため、連続印刷が可能なインクジェット記録用インキを作製できる。
【0016】
酸基含有樹脂(B)の酸価は、1~300mgKOH/gである。なお、酸価は30~250mgKOH/gが好ましく、90~200mgKOH/gがより好ましく、90~170mgKOH/gがさらに好ましい。酸価を上記範囲とすることで、着色剤の分散安定性が損なわれにくい上、水系着色剤分散体のろ過性が向上する。
【0017】
本発明における酸価は、モノマー組成から樹脂1g中に含まれる酸基のモル数の理論値を算出し、この酸基のモル数が、中和するために必要な水酸化カリウム(分子量56.1)のモル数と等しいとして、酸価(mgKOH/g)を算出した。なお、樹脂構造中に無水マレイン酸を含む場合、無水マレイン酸は加水分解してマレイン酸として存在しているものとして酸価を算出している。この理由としては、無水マレイン酸は水中で極めて容易に加水分解が進行し、マレイン酸となる事が公知である(25℃,pH7の水中における無水マレイン酸の加水分解半減期は約22秒と言われている)。そのため、本発明の水系着色剤分散体中では、無水マレイン酸としてではなくマレイン酸として存在していると考えられるためである。
【0018】
酸基は、例えば、スルホ基、カルボキシ基、リン酸基等が挙げられる。これらの中でもカルボキシ基が好ましい。
【0019】
酸基含有樹脂(B)の数平均分子量(Mn)は、1,000~100,000が好ましく、1,000~50,000がより好ましく、6,000~30,000がさらに好ましい。数平均分子量をこの範囲とすることで、着色剤(A)の表面を被覆する効率が向上する。
【0020】
[α-オレフィン単位を主鎖に含む樹脂]
α-オレフィン単位を主鎖に含む樹脂は、α-オレフィン単位に加え、カルボキシ基含有単量単位を含有することが好ましい。
【0021】
α-オレフィン単位は、α-オレフィンから形成される。α-オレフィンは、炭素数5~50の単量体が好ましく、炭素数10~30の単量体がより好ましい。
α-オレフィンは、例えば、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン等が挙げられる。
【0022】
α-オレフィンは、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0023】
カルボキシ基含有単量体単位は、例えば(メタ)アクリル酸単位、マレイン酸単位、マレイン酸ハーフエステル単位、フマル酸単位、フマル酸ハーフエステル単位、テトラヒドロフタル酸単位、テトラヒドロフタル酸ハーフエステル単位等が挙げられる。これらの中でも、マレイン酸単位が好ましい。マレイン酸単位は、無水マレイン酸単位、およびマレイン酸エステル単位をいずれか1種以上含むことが好ましい。
前記マレイン酸単位は、無水マレイン酸単位に由来し、その酸無水物を加水分解させてマレイン酸単位を形成できることに加え、その酸無水物にアルコール等を反応させてマレイン酸エステル単位を形成できる等、様々な実施態様に応じて酸基含有樹脂(B)を変性できる。もちろん無水マレイン酸単位を残存させてもよい。また、無水マレイン酸であればα-オレフィンとの高い重合性、水溶液中での親水性保持及びグラフト化の両立を得やすいという特徴がある。さらに、無水マレイン酸はグラフト重合体を使用することが可能である。グラフト重合体を形成する化合物は、後述するヒドロキシ基含有化合物、アミノ基含有化合物が挙げられる。グラフト重合体はあらかじめ無水マレイン酸に目的の化合物をグラフト化し、これをα-オレフィンと重合する方法、無水マレイン酸とα-オレフィンを重合した後に目的の化合物をグラフト化する方法、2つの方法を組み合わせた方法のいずれでも得ることが可能である。
【0024】
カルボキシ基含有単量体は、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ダイマー、イタコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、無水マレイン酸、フマル酸、フマル酸モノエチルエステル、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸モノメチルエステル、クロトン酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタレート、2-(メタ)アクリロイロキシプロピルフタレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタレート、2-(メタ)アクリロイロキシプロピルヘキサヒドロフタレート、エチレンオキサイド変性コハク酸(メタ)アクリレート、β-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、及びω-カルボキシポリカプロラクトン(メタ)アクリレート、ベタイン構造を有する化合物等のカルボキシ基含有単量体等が挙げられる。
【0025】
α-オレフィン単位を主鎖に含む樹脂は、例えば、特開2007-58125号公報に記載された方法で合成できる。また、市販の樹脂では、例えば、ダイヤカルナM30(三菱ケミカル社製)、セラマーシリーズ(ベーカーペトロライト社製)等が挙げられる。
【0026】
α-オレフィン単位を主鎖に含む樹脂は、α-オレフィン単位、カルボキシ基含有単量体単位以外にその他単量体単位を含有できる。
その他単量体単位は、例えば、親水性基含有単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、ビニル単量体単位等が挙げられる。
親水性基含有単量体単位は、水酸基、スルホ酸基、リン酸基、またはアミノ基を含有する単量体から形成される。
水酸基含有単量体は、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2(又は3)-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2(又は3又は4)-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート及びシクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、あるいはヒドロキシ基を有する(メタ)アクリルアミド系単量体、例えば、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシブチル)(メタ)アクリルアミドなどのN-(ヒドロキシアルキル)(メタ)アクリルアミド、あるいは、ヒドロキシ基を有するビニルエーテル系単量体、例えば、2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、2-(又は3-)ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-(又は3-又は4-)ヒドロキシブチルビニルエーテルなどのヒドロキシアルキルビニルエーテル、あるいはヒドロキシ基を有するアリルエーテル系単量体、例えば、2-ヒドロキシエチルアリルエーテル、2-(又は3-)ヒドロキシプロピルアリルエーテル、2-(又は3-又は4-)ヒドロキシブチルアリルエーテルなどのヒドロキシアルキルアリルエーテル、さらに、上記のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、N-(ヒドロキシアルキル)(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシアルキルビニルエーテルあるいはヒドロキシアルキルアリルエーテルにアルキレンオキサイド及び/ 又はラクトンを付加して得られるエチレン性不飽和単量体等のヒドロキシ基含有単量体等が挙げられる。
スルホ酸基含有単量体は、例えば、ビニルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸、p-スチレンスルホン酸ナトリウム塩、3-(アクリロイルオキシ)プロパン-1-スルホン酸、3-(アクリロイルオキシ)プロパン-1-スルホン酸カリウム塩、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、アクリロニトリル-tert-ブチルスルホン酸、ベタイン構造を有するエチレン性不飽和二重結合を有する化合物等のスルホ基含有単量体等が挙げられる。
リン酸含有単量体は、例えば、ビニルホスホン酸、2-アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート等が挙げられる。
アミノ基含有単量体は、例えば、6-ビニル-1,3,5-トリアジン-2,4-ジアミン等の1級アミノ基含有モノマー、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-ドデシル(メタ)アクリルアミド等の2級アミノ基含有モノマー、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、及びN,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の3級アミノ基含有単量体が挙げられる。
【0027】
(メタ)アクリル酸エステル単位は、以下の単量体から形成される。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ターシャリーブチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及びイソステアリル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐アルキル(メタ)アクリレート類;
シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ターシャリブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレート等の環状アルキル(メタ)アクリレート類;
テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、及び3-メチル-3-オキセタニル(メタ)アクリレート等の複素環を有する(メタ)アクリレート類;
ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、パラクミルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、パラクミルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、及びノニルフェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の芳香族環を有する(メタ)アクリレート類;
トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、及びテトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート等のフルオロアルキル(メタ)アクリレート類;
(メタ)アクリロキシ変性ポリジメチルシロキサン(シリコーンマクロマー) 類;
2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、2-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテル(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノラウリルエーテル(メタ)アクリレート、及びポリエチレングリコールモノステアリルエーテル(メタ)アクリレート等の(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル(メタ)アクリレート類;
ビニル単量体単位は、以下の単量体から形成される。例えば、(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、及びアクリロイルモルホリン等のN 置換型(メタ)アクリルアミド類;
(メタ)アクリロニトリル等のニトリル類;
スチレン、及びα-メチルスチレン等のスチレン類;
エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、及びイソブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;
酢酸ビニル、及びプロピオン酸ビニル等の脂肪酸ビニル類;等が挙げられる。
【0028】
[α-オレフィン単位を主鎖に含まない樹脂]
α-オレフィン単位を主鎖に含まない樹脂としては、従来公知のいずれの樹脂も使用できる。例えば、特開2012-36251号公報に記載のA-Bブロックポリマー、特開2018-65997号公報に記載の水不溶性ポリマーなどを使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
酸基含有樹脂(B)は単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0030】
酸基含有樹脂(B)は、融点を有する樹脂であることが好ましい。酸基含有樹脂(B)の融点は100℃未満であることが好ましい。さらに好ましくは90℃以下である。より好ましくは80℃以下である。100℃以上であると水媒体中で分散する際に水の蒸発が激しく分散体を作製することが困難となる場合がある。
【0031】
<塩基性化合物(E)>
塩基性化合物(E)は、酸基含有樹脂(B)を中和できる化合物である。塩基性化合物(E)は、水系媒体(C)に可溶である化合物であればよく限定されない。塩基性化合物(E)は、無機塩基、有機塩基が挙げられる。
無機塩基は、例えば、水酸化リチウム,水酸化ナトリウム,水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、オルソ珪酸ナトリウム,メタ珪酸ナトリウム,セスキ珪酸ナトリウム等の珪酸のアルカリ金属塩、リン酸三ナトリウム等のリン酸のアルカリ金属塩、炭酸二ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,炭酸二カリウム等の炭酸のアルカリ金属塩、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸のアルカリ金属塩、アンモニア;
有機塩基は、例えば、メチルアミン,ジメチルアミン,トリメチルアミン,エチルアミン,ジエチルアミン,トリエチルアミン等のアルキルアミン、アミノエタノール,メチルアミノエタノール,ジメチルアミノエタノール,エチルアミノエタノール,ジエチルアミノエタノール,ジエタノールアミン,トリエタノールアミン等のアルカノールアミン、メトキシポリ(オキシエチレン/ オキシプロピレン)-2-プロピルアミン等のノニオン性基を有するアミン等が挙げられる。
【0032】
塩基性化合物(E)は、単独または2種以上を併用して使用できる。
【0033】
<中和値>
酸基含有樹脂(B)の中和値が0.5以上1.0未満であり、中和値は、下記式(1)から算出できる。中和値を前記範囲内とすることで、着色剤の分散安定性が損なわれにくい上、水系着色剤分散体のろ過性が向上する。なお、中和値は0.6以上0.95以下が好ましく、0.65以上0.9以下がより好ましい。
(1)中和値=塩基性化合物(E)の塩基性官能基のモル当量数/酸基含有樹脂(B)の酸性官能基のモル当量数
【0034】
<架橋剤(D)>
架橋剤(D)は、酸基含有樹脂(B)の酸基と架橋する。これにより着色剤の分散安定性が損なわれにくい上、水系着色剤分散体のろ過性が向上する。架橋剤(D)は、酸基と反応可能な官能基(以下、反応性官能基という)を2以上有する化合物である。
前記反応性官能基は、イソシアネート基、アジリジニル基、カルボジイミド基、オキセタニル基、オキサゾリン基、及びエポキシ基等が挙げられる。架橋剤の重量平均分子量または式量は、100~2,000が好ましく、120~1,500がより好ましく、150~1,000がさらに好ましい。
【0035】
イソシアネート基含有化合物は、例えば、有機ポリイソシアネート又はイソシアネート基末端プレポリマー、有機ポリイソシアネートとしては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;トリレン-2,4-ジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;脂環式ジイソシアネート; 芳香族トリイソシアネート; それらのウレタン変性体等の変性体
なお、イソシアネート基末端プレポリマーは、有機ポリイソシアネート又はその変性体と低分子量ポリオール等とを反応させることにより得ることができる。イソシアネート基含有化合物は、3つのイソシアネート基と有する化合物が好ましい。
【0036】
アジリジニル基含有化合物は、例えば、N,N´-ジフェニルメタン-4,4´-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、N,N´-トルエン-2,4-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、ビスイソフタロイル-1-(2-メチルアジリジン)、トリ-1-アジリジニルホスフィンオキサイド、N,N´-ヘキサメチレン-1,6-ビス(1-アジリジンカルボキサイト)、2,2´-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]、トリメチロールプロパントリ-β-アジリジニルプロピオネート、テトラメチロールメタントリ-β-アジリジニルプロピオネート、トリス-2,4,6-(1-アジリジニル)-1,3,5-トリアジン、4,4´-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等が挙げられる。
【0037】
カルボジイミド基含有化合物は、例えば、カルボジイミド化触媒の存在下でジイソシアネート化合物を脱炭酸縮合反応させることによって生成した高分子量ポリカルボジイミドが挙げられる。高分子量ポリカルボジイミドの市販品は、例えば、日清紡績社製のカルボジライトシリーズ等が挙げられる。
【0038】
オキセタニル基含有化合物は、例えば、4,4´-(3-エチルオキセタン-3-イルメチルオキシメチル)ビフェニル(OXBP)、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン(EHO)、1,4-ビス[{(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ}メチル]ベンゼン(XDO)、ジ[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテル(DOX)、ジ[1-エチル(3-オキセタニル)]メチルエーテル(DOE)、1,6-ビス[(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ]ヘキサン(HDB)、9,9-ビス[2-メチル-4-{2-(3-オキセタニル)}ブトキシフェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-[2-{2-(3-オキセタニル)}ブトキシ]エトキシフェニル]フルオレン等が挙げられる。
【0039】
オキサゾリン基含有化合物は、例えば、脂肪族基又は芳香族基に2個以上、好ましくは2~3個のオキサゾリン基が結合した化合物、2,2-ビス(2-オキサゾリン)、1,3-フェニレンビスオキサゾリン、1,3-ベンゾビスオキサゾリン等のビスオキサゾリン化合物、該化合物と多塩基性カルボン酸とを反応させて得られる末端オキサゾリン基含有化合物等が挙げられる。
【0040】
エポキシ基含有化合物は、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ジグリシジルオルトフタレート、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル等のポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0041】
これらの中でもエポキシ基含有化合物が好ましく、エチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ジグリシジルオルトフタレート、ソルビトールポリグリシジルエーテル、レゾルシノールジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA型ジグリシジルエーテルが好ましく、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルがより好ましい。なお、架橋剤(D)は、架橋効率の面から、適度に水系媒体(C)に溶解することが好ましい。溶解度は、架橋剤を25℃の水100gに溶解させたときに、その溶解量が0.1~50gが好ましく、0.2~40gがさらに好ましく、0.5~30gがより好ましい。
【0042】
<架橋値>
酸基含有樹脂(B)の架橋値は0.7以上1.5以下である。架橋値は、下記式(2)から算出できる。架橋値をこの範囲内とすることで、インクジェット記録用インキとした時の吐出性やベタ埋まりが良好となる。なお、架橋値は0.8以上1.3以下が好ましく、0.9以上1.1以下がより好ましい。
(2)架橋値=架橋剤(D)の架橋官能基のモル当量数/酸基含有樹脂(B)の酸性官能基のモル当量数
【0043】
酸基含有樹脂(B)は中和値と架橋値の範囲をそれぞれ満たすことで、温度変化があっても着色剤(A)の分散安定性が損なわれにくく、連続印刷が可能なインクジェット記録用インキを作製できる。その理由について、発明者は以下のように考察する。
【0044】
まず、中和値について考察する。中和値を1.0以上にすると、ほぼ全てのカルボン酸がカルボン酸塩となり、架橋剤と反応できる。しかし、隣接した非常に近い位置に2個のカルボン酸塩が存在した場合、1つの架橋剤が隣接した2個のカルボン酸塩と反応してしまう場合がある。もしくは、1つの架橋剤が樹脂分子内の近い位置に存在する2個のカルボン酸塩と反応する場合がある。その結果、樹脂分子間の架橋が効率的に進行せず、着色剤の粒子表面への樹脂被覆が不完全な状態となる事で、着色剤の粒子同士の凝集による粒度分布安定性の低下やろ過性の低下、さらにはインクジェット記録用インキとした時の吐出性やベタ埋まり性が悪化するものと考えられる。一方、中和値を1.0未満にすると、隣接もしくは樹脂分子内の近い位置に存在するカルボン酸塩の存在確率を下げ、より遠い位置に存在するカルボン酸塩と架橋反応する確率を相対的に上げることができる。
他方、中和値が0.5未満の場合、架橋剤と反応可能なカルボン酸塩のモル数が、カルボキシ基全体のモル数の半分以下となってしまう。そのため、架橋が十分に進行せず、着色剤の粒子表面への樹脂処理が不完全な状態となる事で、着色剤の粒子同士の凝集による粒度分布安定性の低下やろ過性の低下が発生すると推測している。
つまり、中和値を0.5以上1.0未満とすることで、架橋反応が可能なカルボン酸塩のモル数を確保しつつも、樹脂分子間での架橋を効率的に行うことができ、結果として温度変動保管という過酷な条件下においても、粒度分布安定性やろ過性が良好になる。
【0045】
次に、架橋値について考察する。酸基含有樹脂(B)は、着色剤(A)の粒子表面に存在し易いため着色剤(A)の凝集などを抑制し、温度変動保管時の安定性が向上すると推測している。
一方、水系着色剤分散体をインクジェット記録用インキ等に使用する場合、着色剤(A)や酸基含有樹脂(B)以外に、界面活性剤を始めとする添加剤・溶剤・色素誘導体など、極性がそれぞれ異なる物質を、求める特性に応じて添加する。そのため、酸基含有樹脂(B)は、着色剤(A)の粒子表面に存在できるよう最適化されたモノマー組成と、インクジェット記録用インキを始めとする組成物中で各種物性が良好となるモノマー組成は、必ずしも同一とはならない場合が多い。
ここで、酸基含有樹脂(B)と、架橋剤(D)とを反応させることで、例えば、架橋剤(D)の1官能以上の官能基が酸基含有樹脂(B)と反応し、残りの官能基は加水分解やアルコールなどの求核性を有する溶媒・試薬などの添加により水酸基やアミノ基などの新たな極性を有する官能基を生成する場合がある。この場合、架橋反応を進行させながら、酸基含有樹脂(B)の極性を変化させ、インクジェット記録用インキに含まれる種々の物質との相溶性を向上させることができ、吐出性がベタ埋まり(特に色ムラ)が良好になるため好ましい。
架橋値を0.7以上となるように架橋剤を添加することで、架橋反応が進行するだけでなく、種々の極性を有する置換基を適量生成させることができ、また架橋値を1.5以下とすることで、樹脂分子間の架橋が効率よく進行し、色ムラや吐出性が良好になると考えられる。
【0046】
中和値と架橋値の好ましい関係としては、下記式(3)が0.6以上1.0以下であることが好ましく、0.7以上1.0以下であることがより好ましい。
【0047】
(3)中和値/架橋値
中和値と架橋値が上記関係を満たす時に、酸基含有樹脂(B)分子間の架橋反応が理想的に進行することで着色剤(A)の粒子表面を被覆し、温度変化があっても着色剤の分散安定性が損なわれにくく、連続印刷が可能なインクジェット記録用インキを作製できる水系着色剤分散体を作製できる。
【0048】
<水系媒体(C)>
水系媒体(C)は、水、および水と混和する水溶性有機溶剤が挙げられる。
水溶性有機溶剤は、例えば、多価アルコール類、多価アルコールアルキルエーテル類、多価アルコールアリールエーテル類、含窒素複素環化合物、アミド類、アミン類、含硫黄化合物類、プロピレンカーボネート、炭酸エチレン、その他水溶性溶剤等が挙げられる。
【0049】
[水]
水は、通常の水道水でも良いが、イオン交換水、蒸留水、精製水が好ましい。水が含有する金属イオン量の総量は、10ppm以下が好ましく、1ppm以下がより好ましく、100ppb以下がさらに好ましい。特にカルシウム、マグネシウム等の2価金属イオンは、酸基含有樹脂(B)の酸基と架橋するため、可能な限り抑制することが好ましい。これにより、水系着色剤分散体を使用するインクジェット記録用インキは、ノズル詰まりが発生しにくくなる。
【0050】
[水溶性有機溶剤]
多価アルコール類は、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール、1,2,4-ブタントリオール、1,2,3-ブタントリオール、ペトリオール、2-エチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3,3-ジメチル-1,2-ブタンジオール、 2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、5-ヘキセン-1,2-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0051】
多価アルコールアルキルエーテル類は、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0052】
多価アルコールアリールエーテル類は、例えば、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、テトラエチレングリコールクロロフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル等が挙げられる。
【0053】
含窒素複素環化合物は、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-ヒドロキシエチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチルイミイダゾリジノン、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクトン等が挙げられる。
【0054】
アミド類は、例えば、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0055】
アミン類は、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、等が挙げられる。
【0056】
含硫黄化合物類は、例えば、ジメチルスルホキシド、スルホラン、チオジエタノール、等が挙げられる。
【0057】
その他水溶性溶剤は、糖が好ましい。糖類は、例えば、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類、四糖類を含む)、多糖類等が挙げられる。具体的には、グルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等が挙げられる。なお、多糖類とは広義の糖を意味し、α-シクロデキストリン、セルロースなど自然界に広く存在する物質を含む。また、これらの糖類の誘導体は、糖類の還元糖(例えば、糖アルコール〔一般式:HOCH2(CHOH)nCH2OH(ただし、n=2~5の整数を表す)で表される〕、酸化糖(例えば、アルドン酸、ウロン酸など)、アミノ酸、チオ酸等が挙げられる。これらの中でも、糖アルコールが好ましく、マルチトール、ソルビットがより好ましい。
【0058】
これらの中でもグリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-へプタンジオールが好ましい。
【0059】
水系媒体(C)は、単独または2種以上を併用して使用できる。
【0060】
<水系着色剤分散体の製造方法>
本発明の水系着色剤分散体の製造方法は、下記工程1~3を有し、酸基含有樹脂(B)が、以下定義する(1)中和値、および(2)架橋値を満たす。
工程1:着色剤(A)と、酸価が1~300mgKOH/gの酸基含有樹脂(B)を混合する工程
工程2:工程1で得られた混合物に、水系媒体(C)および塩基性化合物(E)を添加し中和する工程
工程3:工程2で得られた混合物に、架橋剤(D)を添加し架橋処理する工程
酸基含有樹脂(B)の中和値が0.5以上1.0未満、かつその架橋値が0.7以上1.5以下
(1)中和値=塩基性化合物(E)の塩基性官能基のモル当量数/酸基含有樹脂(B)の酸性官能基のモル当量数
(2)架橋値=架橋剤(D)の架橋官能基のモル当量数/酸基含有樹脂(B)の酸性官能基のモル当量数
【0061】
水系着色剤分散体の製造は、例えば、着色剤(A)および酸基含有樹脂(B)に、少なくとも水溶性無機塩(X)、水溶性有機溶剤(Y)を加えて摩砕混練により着色剤(A)に酸基含有樹脂(B)を被覆する方法が好ましい。着色剤(A)が有機顔料の場合、特に有効である。摩砕混練による有機顔料の被覆方法は、特に限定されず任意の方法を適用できるが、いわゆるソルトミリング処理による混練工程が好ましい。なお、染料粒子も適用できる場合がある。
まず、着色剤(A)、酸基含有樹脂(B)、水溶性無機塩(X)及び水溶性有機溶剤(Y)を混練機で混合する工程(ソルトミリング処理)を行い。混合工程の後、水溶性無機塩(X)及び水溶性有機溶剤(Y)を洗浄して除去する工程(洗浄処理)を行うことが好ましい。
【0062】
ソルトミリング処理とは、有機顔料と水溶性無機塩(X)と水溶性有機溶剤(Y)との混合物を、例えばニーダー、2本ロールミル、3本ロールミル、ボールミル、アトライター、サンドミル、または、プラネタリー型ミキサー等のバッチ式又は連続式混練機を用いて、加熱しながら機械的に混練した後、水洗により水溶性無機塩(X)と水溶性有機溶剤(Y)を除去する処理である。水溶性無機塩(X)は、破砕助剤として働くものであり、ソルトミリング時に無機塩の硬度の高さを利用して顔料が破砕される。顔料をソルトミリング処理する際の条件を最適化することにより、一次粒子径が非常に微細であり、また、分布の幅がせまく、シャープな粒度分布をもつ顔料を得ることができる。
【0063】
(水溶性無機塩(X))
水溶性無機塩(X)は、例えば、塩化ナトリウム、塩化バリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。価格の点から塩化ナトリウム(食塩)が好ましい。水溶性無機塩(X)は、処理効率と生産効率の両面から、着色剤(A)100質量部に対し、50~2,000質量部用いることが好ましく、300~1,000質量部用いることがより好ましい。
【0064】
(水溶性有機溶剤(Y))
水溶性有機溶剤(Y)は、水に溶解、混和すればいかなる溶剤でも使用可能である。具体的には、グリセリン、エチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジール、ペンタンジール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ペリエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、モノアセチン)、ジアセチン、トリアセチン、トリプロピオニン、トリブチリン及び2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールが挙げられる。水溶性有機溶剤(Y)は、単独または2種類以上を併用して使用できる。水溶性有機溶剤(Y)の使用量は、着色剤(A)100質量部に対し5~1,000質量部が好ましく、50~500質量部がより好ましい。
【0065】
洗浄処理は、摩砕混練機から着色剤(A)と酸基含有樹脂(B)と水溶性無機塩(X)と水溶性有機溶剤(Y)とを含む混合物を取り出し、イオン交換水を投入して撹拌を行い、懸濁液を得る。加えるイオン交換水の分量は、懸濁液を得るのに充分な量であればよく、特に限定されない。例えば、10~10,000倍の重量のイオン交換水を加えて混合撹拌する。必要に応じて加温してもよい。このときの混合撹拌条件は特に限定されないが、温度25~90℃で行うことが好ましい。ついで、ろ過等の操作によりろ液を除去することで、摩砕混練機で用いた水溶性無機塩(X)及び水溶性有機溶剤(Y)を除去することができる。
【0066】
洗浄処理後、水を除去する工程を行ってもよい。好適な方法は、例えば、乾燥処理を行う方法を挙げることができる。乾燥条件は、例えば、常圧下、80~120℃の範囲で12~48時間程度の乾燥を行う方法、減圧下、25~80℃ の範囲で12~60時間程度の乾燥を行う方法等が挙げられる。乾燥処理は特に限定されないが、スプレードライ装置を利用する方法も挙げられる。乾燥処理と同時もしくは乾燥処理後に粉砕処理を行ってもよい。
【0067】
次いで、洗浄処理後の混合物中の酸基含有樹脂(B)の酸価に対し適量の塩基性化合物(E)および水系媒体(C)を添加し溶解させ、加温しながら撹拌する工程を行い、さらに架橋剤(D)を添加してさらに撹拌し、架橋処理の工程を行う。
これらの工程により、架橋反応が系内で均一に進行し、水系着色剤分散体を作製できる。撹拌方法は、公知の方法を使用できるところ、例えば、ハイスピードミキサー、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、トリミックス、ニーダー、エクストルーダー、横型サンドミル、縦型サンドミル又は/及びアニューラ型ビーズミル、ペイントシェイカー、ボールミル等、超音波発振子を具備する分散機、高圧分散機、2本ロールミル、3本ロールミル等が挙げられる。
【0068】
架橋処理の条件は、温度は40℃~95℃が好ましく、60℃~90℃がより好ましい。処理時間は0.5時間~12時間が好ましく、1時間~6時間がより好ましい。
【0069】
架橋剤(D)の反応終了後に、pHの調整が必要であれば任意の酸または塩基性化合物(E)で目的のpHに調整することができる。酸の具体例としては、リン酸、塩酸、硫酸、硝酸等の無機酸、酢酸、クエン酸等の有機酸が挙げられる。また、遠心分離処理やろ過処理を加えることも可能である。また、不揮発分を調整するため、水系媒体(C)を添加しても良い。
【0070】
pH調整後の水系着色剤分散体のpHは、7~10が好ましく、8~10がより好ましく、8~9.5がさらに好ましい。
【0071】
得られた水系着色剤分散体は、ろ過を行う事が好ましい。ろ過を行う事で粗大粒子を除去する事ができ、インクジェット記録用インキとした時に吐出性が良好となる。ろ過は、従来公知のいずれの方法も採用できる。
【0072】
<その他添加剤>
本発明の水系着色剤分散体は、目的に応じて添加剤を含有できる。添加剤は、例えば、界面活性剤、防腐防黴剤、キレート化剤、防錆剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、酸素吸収剤、光安定化剤、等が挙げられる。
【0073】
[界面活性剤]
界面活性剤は、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤などを単独、又は2つ以上を混合して使用することができる。
【0074】
(アニオン性界面活性剤)
アニオン性界面活性剤は、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルアリールスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルジアリールエーテルジスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩(例えばNH4、Na、Ca等)、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩(例えばNH4、Na、Ca等)、ナフタレンスルホン酸フォルマリン縮合物及びその塩、ジアルキルサクシネートスルホン酸Na塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、グリセロールボレイト脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセロール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステル塩(例えばNH4、Na等)、ラウリル酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート塩、オレイン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルリン酸エステルの塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマー、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの硫酸エステル塩、パーフルオロアルキルエーテル基を側鎖に有するポリオキシアルキレンエーテルポリマーの塩、等が挙げられる。これらフッ素系界面活性剤の塩における対イオンは、例えば、Li、Na、K、NH4、NH3CH2CH2OH、NH2(CH2CH2OH)2、NH(CH2CH2OH)3等が挙げられる。
【0075】
(カチオン性界面活性剤)
カチオン性界面活性剤は、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルイミダゾリウム塩等が挙げられる。
【0076】
(ノニオン性界面活性剤)
ノニオン系界面活性剤は、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、アセチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルアミン、フッ素系、シリコーン系等のノニオン性活性剤が挙げられる。特にアセチレングリコール系界面活性剤は、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、3,6-ジメチル-4-オクチン-3,6-ジオール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール等が挙げられる。アセチレングリコール系界面活性剤の市販品は、例えば、エアープロダクツ社(米国)のサーフィノール104、82、465、485、TG、DF110D等が挙げられる。
【0077】
また、フッ素系界面活性剤も使用できる。例えば、サーフロンS-111、S-112、S-113、S-121、S-131、S-132、S-141、S-145(いずれも旭硝子社製)、フルラードFC-93、FC-95、FC-98、FC-129、FC-135、FC-170C、FC-430、FC-431(いずれも住友スリーエム社製)、メガファックF-470、F1405、F-474(いずれもDIC社製)、ZonylTBS、FSP、FSA、FSN-100、FSN、FSO-100、FSO、FS-300、UR(いずれもDuPont社製)、FT-110、FT-250、FT-251、FT-400S、FT-150、FT-400SW(いずれもネオス社製)、PF-151N(オムノバ社製)等が挙げられる。
【0078】
(両イオン性界面活性剤)
両イオン性界面活性剤は、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイド、ホスファジルコリン等が挙げられる。例えば、ラウリルアミノプロピオン酸塩、ラウリルジメチルベタイン、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン、ラウリルジメチルアミンオキシド、ミリスチルジメチルアミンオキシド、ステアリルジメチルアミンオキシド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキシド、ポリオキシエチレンヤシ油アルキルジメチルアミンオキシド、ジメチルアルキル( ヤシ) ベタイン、ジメチルラウリルベタイン等が挙げられる。
【0079】
[防腐防黴剤]
防腐防黴剤は、例えば、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム、安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、メチルイソチアゾリノン、ベンズイソチアゾリノン等が挙げられる。
【0080】
[キレート化剤]
キレート化剤は、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0081】
[防錆剤]
防錆剤は、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライト、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0082】
[酸化防止剤]
酸化防止剤は、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等が挙げられる。
フェノール系酸化防止剤は、例えば、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、ステアリル-β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、3,9-ビス[1,1-ジメチル-2-[β-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10-テトライキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス[メチレン-3-(3',5'-ジ-tert-ブチル-4'-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等が挙げられる。
アミン系酸化防止剤は、例えば、フェニル-β-ナフチルアミン、α-ナフチルアミン、N,N-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミン、フェノチアジン、N,N-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチル-フェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2,2-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ジヒドロキフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン等が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤は、例えば、ジラウリル3,3-チオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ラウリルステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチル-3,3-チオジプロピオネート、ジステアリル-β,β-チオジプロピオネート、2-メルカプトベンゾイミダゾール、ジラウリルサルファイド等が挙げられる。
リン系酸化防止剤は、トリフェニルフォスファイト、オクタデシルフォスファイト、トリイソデシルフォスファイト、トリラウリルトリチオフォスファイト、トリノニルフェニルフォスファイト等が挙げられる。
【0083】
[紫外線吸収剤]
紫外線吸収剤は、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤等が挙げられる。
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤は、例えば、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-ドデシルオキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2,4,4-テトラヒドロキシベンゾフェノン等が挙げられる。
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、例えば、2-(2'-ヒドロキシ-5'-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-4'-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3'-tert-ブチル-5'-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等が挙げられる。
サリチレート系紫外線吸収剤は、例えば、フェニルサリチレート、p-tert-ブチルフェニルサリチレート、p-オクチルフェニルサリチレート等が挙げられる。
シアノアクリレート系紫外線吸収剤は、例えば、エチル-2-シアノ-3,3'-ジフェニルアクリレート、メチル-2-シアノ-3-メチル-3-(p-メトキシフェニル)アクリレート、ブチル-2-シアノ-3-メチル-3-(p-メトキシフェニル)アクリレート等が挙げられる。
ニッケル錯塩系紫外線吸収剤は、例えば、ニッケルビス(オクチルフェニル) サルファイド、2,2-チオビス(4-tert-オクチルフェレート)-n-ブチルアミンニッケル(II)、2,2-チオビス(4-tert-オクチルフェレート)-2-エチルヘキシルアミンニッケル(II)、2,2-チオビス(4-tert-オクチルフェレート)トリエタノールアミンニッケル(II)等が挙げられる。
【0084】
本発明の水系着色剤分散体は、例えば、インクジェット記録用インキ、静電荷像現像用トナー、塗料、フレキソインキ等の各種用途に使用できる。これらの中でもインクジェット記録用インキが好ましい。
【0085】
<インクジェット記録用インキ>
本発明のインクジェット記録用インキは、水系着色剤分散体を含有する。インクジェット記録用インキは、任意成分として、水と混和する水溶性溶剤を含有できる。水溶性溶剤は、グリコールエーテル類、ジオール類が挙げられる、これらの溶剤は基材への浸透が非常に速く、コート紙、アート紙や塩化ビニルシート、フィルム、布帛といった低吸液性や非吸液性の基材に対しても、浸透が速い。そのため、印刷時の乾燥が速く、正確な印字を実現することができる。また、沸点が高いため、湿潤剤としての働きは十分である。
【0086】
グリコールエーテル類は、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
ジオール類は、例えば、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等が挙げられる。これらの中でもプロピレングリコールと、(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテル、炭素数3~6のアルカンジオールが好ましい。(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルは、例えば、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。これらの中でもジエチレングリコールモノブチルエーテルである。炭素数3~6のアルカンジオールは、例えば、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等が挙げられる。これらの中でも1,2-ヘキサンジオールが好ましい。
【0087】
なお、印刷する基材の種類によっては、その溶解性の向上を目的に、2-ピロリドン、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N-メチルオキサゾリジノン、N-エチルオキサゾリジノンなどの水溶性の含窒素複素環化合物を添加することもできる。
【0088】
水溶性溶剤は、単独または2種類以上を併用して使用できる。
【0089】
水溶性溶剤の含有量は、インクジェット記録用インキ中、3~60質量%が好ましく、3~50質量%がより好ましい。また、水の含有量は、インクジェット記録用インキ中、10~90質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましい。
【0090】
本発明のインクジェット記録用インキは、バインダー樹脂を含有できる。バインダー樹脂は樹脂種でいうと、例えば、アクリル樹脂、オレフィン樹脂、エステル樹脂、エーテル樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。また、またバインダー樹脂は水への溶解性の面からいうと、水溶性樹脂、水不溶性樹脂、等が挙げられる。なお、水不溶性樹脂は、エマルジョンを含む。
【0091】
バインダー樹脂の含有量は、インクジェット記録用インキの不揮発分100質量%中、2~30質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましい。
【0092】
本発明のインクジェット記録用インキは、その他の添加剤として、公知の添加剤を含有できる。
【0093】
インクジェット記録用インキは、ろ過を行うことが好ましい。これによりインクジェットプリンターからの吐出性が良好となる。ろ過は、従来公知のいずれの方法も採用できる。
【0094】
本明細書のインクジェット記録用インキは、各種のインクジェットプリンターに好適に用いることができる。適用可能なインクジェットの方式は特に限定するものではないが、例えば、荷電制御型、スプレー型等の連続噴射型、ピエゾ方式、サーマル方式、静電吸引方式等が挙げられる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されない。なお、特に断りのない限り、「部」は質量部であり、「%」は質量%である。また、NVは、不揮発分(Nonvolatile content)を意味する。尚、以下の例において、実施例1~32、33、38~40、44、56、58、119、125、127、133~135、144、149~151、158、159、164~166、170、182、184、245および251と記載した例は、いずれも参考例である。
【0096】
実施例中の略号や製品名は、以下を意味する。
BzMA:ベンジルメタクリレート
BzA:ベンジルアクリレート
St:スチレン
AS-6:東亞合成社製スチレンマクロマー(数平均分子量6,000)
CHMA:シクロヘキシルメタクリレート
BHMA:ベヘニルメタクリレート
LA:ラウリルアクリレート
AM-90G:新中村化学社製メトキシポリエチレングリコール#400アクリレート
AMP-20GY:新中村化学社製フェノキシポリエチレングリコールアクリレート
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
MMA:メタクリル酸メチル
VSA:ビニルスルホン酸
MR-200:大八化学工業社製2-メタクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート
αMS:α-メチルスチレン
STA:ステアリルアクリレート
NaOH:水酸化名ナトリウム
KOH:水酸化カリウム
LiOH:水酸化リチウム
NH3:アンモニア
M-230G:新中村化学社製メトキシポリエチレングリコール#1000メタクリレート
ブレンマーPP-800:日油社製ポリプロピレングリコールモノメタクリレート
ユニルーブPKA-5013:日油社製ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-アリルエーテル(数平均分子量2,000)
PEG400:東京応化工業社製ポリエチレングリコール(数平均分子量400)
PEG6000:東京応化工業社製ポリエチレングリコール(数平均分子量8,300)
ジェファーミンM-2005:HUNTSMAN社製ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-モノアミン
BDG:ジエチレングリコールモノブチルエーテル
PG:プロピレングリコール
MEK:メチルエチルケトン
デナコールEX-211:脂肪族エポキシ架橋剤、ナガセケムテックス社製、不揮発分100%、エポキシ当量138g/eq、2官能
デナコールEX-252:脂肪族エポキシ架橋剤、ナガセケムテックス社製、不揮発分100%、エポキシ当量213g/eq、2官能
デナコールEX-313:脂肪族エポキシ架橋剤、ナガセケムテックス社製、不揮発分100%、エポキシ当量141g/eq、2~3官能
デナコールEX-321:脂肪族エポキシ架橋剤、ナガセケムテックス社製、不揮発分100%、エポキシ当量140g/eq、2~3官能
デナコールEX-512:脂肪族エポキシ架橋剤、ナガセケムテックス社製、不揮発分100%、エポキシ当量168g/eq、4官能以上
デナコールEX-614B:脂肪族エポキシ架橋剤、ナガセケムテックス社製、不揮発分100%、エポキシ当量173g/eq、4官能以上
デナコールEX-201:芳香族エポキシ架橋剤、ナガセケムテックス社製、不揮発分100%、エポキシ当量117g/eq、2官能
デナコールEX-721:芳香族エポキシ架橋剤、ナガセケムテックス社製、不揮発分100%、エポキシ当量154g/eq、2官能
タケラックW-6110:三井化学社製ポリウレタンエマルジョン(NV32%)
タケラックW-6061:三井化学社製ポリウレタンエマルジョン(NV30%)
タケラックW-5030:三井化学社製ポリウレタンエマルジョン(NV30%)
バイロナールMD-2000:東洋紡社製ポリエステルエマルジョン(NV40%)
Joncryl 780:BASF社製ポリアクリルエマルジョン(NV48%)
Joncryl HPD96:BASF社製アクリル樹脂(NV34%)
ケミパールW400S:三井化学社製オレフィンワックス(NV40%)
サーフィノールDF110D:エボニックインダストリーズ社製アセチレン系界面活性剤
サーフィノール465:エボニックインダストリーズ社製アセチレン系界面活性剤
BYK-348:ビックケミー社製シリコン系界面活性剤
プロキセルGXL:Lonza社製防腐剤
ネオシントールBC-493:住化エンバイロメンタルサイエンス社製防腐剤
【0097】
物性値は、以下の方法に従って求めた。
【0098】
(数平均分子量(Mn))
RI検出器を装備したゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した。装置としてHLC-8220GPC(東ソー社製)を用い、分離カラムを2本直列に繋ぎ、両方の充填剤には「TSK-GEL SUPER HZM-N」を2連でつなげて使用し、オーブン温度40℃、溶離液としてTHF溶液を用い、流速0.35ml/minで測定した。サンプルは1%の上記溶離液からなる溶剤に溶解し、20マイクロリットル注入した。分子量はポリスチレン換算値である。
【0099】
(酸価)
モノマー組成から樹脂1g中に含まれる酸基のモル数を算出した。この酸基のモル数が、中和するために必要な水酸化カリウム(分子量56.1)のモル数と等しいとして、酸価(mgKOH/g)の理論値を算出した。なお、後述する表3中の酸基含有樹脂(B-60)に含まれる無水マレイン酸単位は、水系媒体、特に水中で容易に加水分解が進行し、マレイン酸となる事が公知である。そのため、本発明の顔料分散体中では無水マレイン酸としてではなく、マレイン酸として存在していると考えられる。よって、無水マレイン酸を含有する樹脂の酸価については、無水マレイン酸はマレイン酸に加水分解しているものとして酸価を求めた。
【0100】
(不揮発分)
不揮発分は、測定対象0.5gを精秤し、180℃乾燥機に20分間入れた時の乾燥減量から求めた。
【0101】
<酸基含有樹脂(B)の合成>
[A-Bブロックポリマー]
【0102】
・酸基含有樹脂(B-1)の合成
(Aポリマーブロックの合成)
攪拌機、逆流コンデンサー、温度計および窒素導入管を取り付けた1リッターセパラブルフラスコの反応装置に、ジエチレングリコールジメチルエーテル(以下、ジグライムという)295.68部、ヨウ素3.03部、アゾビス(メトキシジメチルバレロニトリル)(以下、V-70という)7部、ジ-t-ブチルヒドロキシトルエン(以下、BHTという)0.66部、BzMAを35部(20mol%)、AS-6を21部(20mol%)、AMP-20GYを24部(10mol%)添加して、窒素を流しながら40℃に加温し、6.5時間重合し、次いでV-70を2部、添加した。次いでその1時間後、2時間後、3時間後にそれぞれV-70 2部を添加し、さらに反応を2時間反応を継続した。サンプリングで重合転化率が95%以上になることを確認し反応を終了し、Aポリマーブロックを得た。不揮発分から換算した重合転化率は95%であり、数平均分子量(Mn)は4,000であった。
【0103】
(ブロックポリマーの合成)
上記反応溶液にMMAを49部(49mol%)、MAAを1部(1mol%)、V-70を0.45部の混合物を添加し、4.5時間重合させてBブロックを合成した。サンプリングして不揮発分から換算した重合率は97.6%であった。このBポリマーブロックはAポリマーブロックの構成単量体で重合しなかった
【0104】
次に、BDGを147.8部添加し、水酸化ナトリウム1部、およびイオン交換水129.3部の混合液を添加し、50℃で2時間反応させ、ポリマー末端のヨウ素を分解し、酸基含有樹脂(B-1)(数平均分子量(Mn):6,000、酸価4mgKOH/g)を得た。
【0105】
・酸基含有樹脂(B-2)~(B-19)の合成
単量体組成および数平均分子量を表1に示す通りに変更した以外は酸基含有樹脂(B-1)と同様にして、酸基含有樹脂(B-2)~(B-19)を得た。なお、分子量の調整はV-70の添加量を変更し、適宜調整した。また、表1中の構成比はモル比を示す。
【0106】
【0107】
【0108】
[ランダム重合ポリマー]
・酸基含有樹脂(B-20)の合成
MAAを2部(2mol%)、BzMAを44部(25mol%)、AS-6を16部(15mol%)、MMAを48部(48mol%)、AMP-20GYを24部(10mol%)を混合し、単量体混合液を調製した。反応容器内に、MEKを20部及び2-メルカプトエタノール(連鎖移動剤)0.3部、前記単量体混合液の10%を入れて混合し、窒素ガス置換を十分に行った。
一方、滴下ロートに、単量体混合液の残りの90%、前記連鎖移動剤0.27部、MEK60部、及びアゾ系ラジカル重合開始剤(和光純薬工業社製、商品名:V-65、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル))2.2部の混合液を入れ、窒素雰囲気下、反応容器内の前記単量体混合液を攪拌しながら65℃まで昇温し、滴下ロート中の混合液を3時間かけて滴下した。滴下終了から65℃で2時間経過後、前記重合開始剤0.3部をMEK5部に溶解した溶液を加え、更に65℃で2時間、70℃で2時間熟成させ、酸基含有樹脂(B-20)(数平均分子量(Mn):11,700、酸価8mgKOH/g)を得た。
【0109】
・酸基含有樹脂(B-21)~(B-34)の合成
単量体組成を表2に示す通りに変更した以外は酸基含有樹脂(B-20)と同様にして、酸基含有樹脂(B-21)~(B-34)を得た。なお、分子量はV-65の添加量を変更し、適宜調整した。また、表2中の構成比は質量部を示す。
【0110】
【0111】
【0112】
〔α-オレフィン単位を主鎖に含む樹脂〕
・酸基含有樹脂(B-35)の合成
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、モノマー混合物として、無水マレイン酸を49.0部(50mol%)、ユニルーブPKA-5013を500部(25mol%)、α-オレフィンとして1-テトラデセンを49.1部(25mol%)、さらにキシレンを10部、連鎖移動剤としてチオグリコール酸オクチルを0.2部仕込み、窒素置換した後、撹拌しながら110℃に加熱した。そこへラジカル重合開始剤としてt-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート1.0部とキシレン20部との混合物を、2時間かけて滴下した。その後、温度を110℃に保ったまま4時間攪拌し反応させた。温度を85℃に冷却した後、PEG6000を4619部(55mol%)、触媒としてジアザビシクロウンデセンを0.2部添加し、温度を85℃に保ったまま6時間撹拌して反応させ、無水マレイン酸を開環・ハーフエステル化した。得られた生成物の溶剤を減圧濃縮して完全に除去し、酸基含有樹脂(B-35)(数平均分子量(Mn):8,200、酸価6mgKOH/g)を得た。
【0113】
・酸基含有樹脂(B-36)~(B-60)
原料および組成を表3に示す通りに変更した以外は酸基含有樹脂(B-35)と同様にして、酸基含有樹脂(B-36)~(B-60)を得た。
【0114】
【0115】
【0116】
<着色剤組成物の製造>
[製造例1]
・着色剤組成物(1)の製造
着色剤(A)としてC.I.ピグメント レッド122(DIC社製「FASTOGENSuperMagentaRG」)(以下、PR122という)35.0部、酸基含有樹脂(B)として(B-1)を不揮発分として10部、水溶性無機塩(X)として塩化ナトリウム175.0部、水溶性有機溶剤(Y)としてジエチレングリコール30.0部をステンレス製1ガロンニーダー(井上製作所社製)に仕込み、80℃で3時間混練した。
得られた混練物を、pH5.6のイオン交換水2,000部に投入し、撹拌・ろ過・水洗を行い、続いて98%硫酸水溶液を適量加えpH1.0に調整したイオン交換水2,000部に投入し、撹拌・ろ過・水洗を行い、塩化ナトリウムとジエチレングリコールを除去することで、着色剤(A)と酸基含有樹脂(B)と水とを含む着色剤組成物(1)を得た。不揮発分は30%であった。
【0117】
[製造例2~96]
・着色剤組成物(2)~(102)の製造
着色剤(A)および酸基含有樹脂(B)を表4に示す通りに変更した以外は製造例1と同様にして、着色剤組成物(2)~(102)を得た。
【0118】
【0119】
<水系着色剤分散体の製造>
[実施例1]
・水系着色剤分散体(1)の製造
着色剤組成物(1)を不揮発分換算で20部、水系媒体(C)としてイオン交換水40部を混合・撹拌し、塩基性化合物(E)として水酸化カリウムの10%水溶液を、着色剤組成物(1)中に含まれる酸基含有樹脂(B-1)の酸価から中和値が0.8になるように適量添加し、ディスパーを用いて系内が均一になるよう撹拌し、高圧型ホモジナイザー(三丸機械工業社製エコナイザーラボ02)を用いて1時間分散した。
分散後、架橋剤(D)としてデナコールEX321を架橋値が0.9になるように適量添加し、ディスパーを用いて85℃、5時間撹拌し、架橋反応を行った。
撹拌後、防腐剤としてプロキセルGXLを0.03部、さらに不揮発分が25%になるようにイオン交換水を適量添加し、水系着色剤分散体(1)を得た。
【0120】
[実施例2~100、104~125、比較例1~6]
・水系着色剤分散体(2)~(102)、(106)~(127)、(129)~(132)の製造
添加する材料および中和値、架橋値を表5に示す通りに変更した以外は実施例1と同様にして、水系着色剤分散体(2)~(102)、(106)~(127)、(129)~(132)を得た。
【0121】
[実施例101]
・水系着色剤分散体(103)の製造
水系媒体(C)として、イオン交換水32部とジエチレングリコールモノブチルエーテル8部の混合溶媒を用いたこと以外は実施例37と同様にして、水系着色剤分散体(103)を得た。
【0122】
[実施例102]
・水系着色剤分散体(104)の製造
水系媒体(C)として、イオン交換水30部とプロピレングリコール10部の混合溶媒を用いたこと以外は実施例37と同様にして、水系着色剤分散体(104)を得た。
【0123】
[実施例103]
・水系着色剤分散体(105)の製造
水系媒体(C)として、イオン交換水35部とグリセリン5部の混合溶媒を用いたこと以外は実施例37と同様にして、水系着色剤分散体(105)を得た。
【0124】
[実施例125]
・水系着色剤分散体(128)の製造
高圧型ホモジナイザーで分散した後、1Mのリン酸水溶液を添加しpHを8.5に調整すること以外は実施例37と同様にして、水系着色剤分散体(128)を得た。
【0125】
<温度変動保管下での粒度分布安定性評価>
水系着色剤分散体をイオン交換水で希釈し、Nanotrac Wave(マイクロトラック・ベル社製)を使用して体積平均粒子径を測定し、粒度分布としてD10B、D50B、D90Bを求めた。次に、各水系着色剤分散体を密閉容器に入れ、5℃で60日間保管し、続いて25℃で60日間保管し、さらに続いて50℃で60日間保管する温度変動保管試験を180日行った後、密閉容器から水系着色剤分散体を取り出し、同様にして体積平均粒子径を測定し、D10A、D50A、D90Aを求めた。温度変動保管後のD10A、D50A、D90Aおよび温度変動保管前のD10B、D50B、D90Bについて、以下の計算式に従い計算を行い、粒度分布変化率D10C、D50C、D90Cを求めた。評価基準は以下の通りである。
粒度分布変化率D10C = D10A / D10B
粒度分布変化率D50C = D50A / D50B
粒度分布変化率D90C = D90A / D90B
◎:粒度分布変化率D10C、D50C、D90Cのうち、いずれも±5%未満(優良)
○:粒度分布変化率D10C、D50C、D90Cのうち、いずれか1つ以上が±5%以上±10%未満(良)
△:粒度分布変化率D10C、D50C、D90Cのうち、いずれか1つ以上が±10%以上±15%未満(実用上問題なし)
×:粒度分布変化率D10C、D50C、D90Cのうち、いずれか1つ以上が±15%以上(不良)
【0126】
<温度変動保管下でのろ過性評価>
温度変動保管下でのろ過性の評価方法は、上記した温度変動保管下での粒度分布安定性評価において、温度変動保管を行った後のサンプルを用いた。各水系着色剤分散体 50gをトムシック社製1.0μmディスクフィルター TITAN3-PTFEにて、0.05MPa・sの圧力を一定時間かけ、その間にフィルターを通過した液量を評価した。評価基準は以下の通りである。
◎:全量通過 (優良)
○:通過量が45g以上50g未満 (良)
△:通過量が40g以上45g未満 (実用上問題なし)
×:通過量が40g未満(不良)
【0127】
組成、パラメーターおよび評価結果をまとめて表5-1~5-4に示す。なお表中、水はイオン交換水を意味する。また架橋剤の名称は、ナガセケムテックス社製デナコールの製品名である。
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
表中の着色剤(A)の略号は以下の通りである。
PR31…C.I.ピグメント レッド31
PR122…C.I.ピグメント レッド122
PR146…C.I.ピグメント レッド146
PR147…C.I.ピグメント レッド147
PR150…C.I.ピグメント レッド150
PR176…C.I.ピグメント レッド176
PR177…C.I.ピグメント レッド177
PR179…C.I.ピグメント レッド179
PR184…C.I.ピグメント レッド184
PR185…C.I.ピグメント レッド185
PR202…C.I.ピグメント レッド202
PR242…C.I.ピグメント レッド242
PR254…C.I.ピグメント レッド254
PR269…C.I.ピグメント レッド269
PR291…C.I.ピグメント レッド291
PG7…C.I.ピグメント グリーン7
PG36…C.I.ピグメント グリーン36
PG58…C.I.ピグメント グリーン58
PG59…C.I.ピグメント グリーン59
PG62…C.I.ピグメント グリーン62
PG63…C.I.ピグメント グリーン63
PB15:1…C.I.ピグメント ブルー15:1
PB15:3…C.I.ピグメント ブルー15:3
PB15:4…C.I.ピグメント ブルー15:4
PB15:6…C.I.ピグメント ブルー15:6
PV19…C.I.ピグメント バイオレット19
PV23…C.I.ピグメント バイオレット23
PY12…C.I.ピグメント イエロー12
PY13…C.I.ピグメント イエロー13
PY14…C.I.ピグメント イエロー14
PY74…C.I.ピグメント イエロー74
PY138…C.I.ピグメント イエロー138
PY155…C.I.ピグメント イエロー155
PY174…C.I.ピグメント イエロー174
PY185…C.I.ピグメント イエロー185
PY213…C.I.ピグメント イエロー213
PO34…C.I.ピグメント オレンジ34
PO38…C.I.ピグメント オレンジ38
PO43…C.I.ピグメント オレンジ43
PO62…C.I.ピグメント オレンジ62
PO64…C.I.ピグメント オレンジ64
PO71…C.I.ピグメント オレンジ71
PO73…C.I.ピグメント オレンジ73
【0133】
表5-1~表5-4の結果から、本発明の水系着色剤分散体は、温度変動保管下での粒度分布安定性およびろ過性に優れていることが分かる。特に、酸基含有樹脂(B)の構造中にα-オレフィン単位を含み、中和値および架橋値が特定範囲内である水系着色剤組成物は、粗大粒子および温度変動保管下での粒度分布安定性が優良である。
【0134】
<インクジェット記録用インキの製造>
[実施例127]
・インクジェット記録用インキ(1)の製造
水系着色剤分散体(1)を33部、BDGを5部、1,2-プロパンジオールを15部、Joncryl HPD96を8.8部、ケミパールW400Sを1.25部、サーフィノールDF110Dを0.5部、BYK-348を1部、トリエタノールアミンを0.1部、プロキセルGXLを0.15部、イオン交換水35.2部を混合し、0.5μmメンブランフィルターでろ過し、インクジェット記録用インキ(1)を作製した。
【0135】
[実施例128~252、比較例7~12]
・インクジェット記録用インキ(2)~(128)、(134)~(137)の製造
使用する水系着色剤分散体を表6に示す通りに変更した以外は実施例126と同様にして、インクジェット記録用インキ(2)~(128)、(134)~(137)を作製した。
【0136】
[実施例253]
・インクジェット記録用インキ(129)の製造
水系着色剤分散体(39)を33部、1,2-ヘキサンジオールを5部、1,2-ブタンジオールを15部、タケラックW-6110を9.4部、ケミパールW400Sを1.25部、サーフィノールDF110Dを0.5部、BYK-348を1部、トリエタノールアミンを0.1部、ネオシントールBC-493を0.15部、イオン交換水34.6部を混合し、0.5μmメンブランフィルターでろ過し、インクジェット記録用インキ(129)を作製した。
【0137】
[実施例254]
・インクジェット記録用インキ(130)の製造
水系着色剤分散体(39)を33部、BDGを5部、1,2-ブタンジオールを15部、Joncry780を6.25部、サーフィノールDF110Dを0.5部、BYK-348を1部、トリエタノールアミンを0.1部、プロキセルGXLを0.15部、イオン交換水39部を混合し、0.5μmメンブランフィルターでろ過し、インクジェット記録用インキ(130)を作製した。
【0138】
[実施例255]
・インクジェット記録用インキ(131)の製造
水系着色剤分散体(39)を33部、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテルを5部、1,2-ブタンジオールを15部、タケラックW-5030を10部、サーフィノール465を0.5部、BYK-348を1部、トリエタノールアミンを0.1部、プロキセルGXLを0.15部、イオン交換水35.25部を混合し、0.5μmメンブランフィルターでろ過し、インクジェット記録用インキ(131)を作製した。
【0139】
[実施例256]
・インクジェット記録用インキ(132)の製造
水系着色剤分散体(39)を33部、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテルを5部、1,2-プロパンジオールを15部、タケラックW-6061を10部、サーフィノール465を0.5部、BYK-348を1部、トリエタノールアミンを0.1部、ネオシントールBC-493を0.15部、イオン交換水35.25部を混合し、0.5μmメンブランフィルターでろ過し、インクジェット記録用インキ(132)を作製した。
【0140】
[実施例257]
・インクジェット記録用インキ(133)の製造
水系着色剤分散体(39)を33部、1,2-ヘキサンジオールを5部、1,2-プロパンジオールを15部、バイロナールMD-2000を7.5部、ケミパールW400Sを1.25部、サーフィノールDF110Dを0.5部、BYK-348を1部、トリエタノールアミンを0.1部、ネオシントールBC-493を0.15部、イオン交換水37.75部を混合し、0.5μmメンブランフィルターでろ過し、インクジェット記録用インキ(133)を作製した。
【0141】
<粘度安定性>
作製したインクジェット記録用インキの粘度を、東機産業社製コーンプレート型粘度計TV-22を用いて測定し、初期粘度Vbとした。このインクジェット記録用インキを、20mLガラス製サンプル管に入れ、70℃で1週間保管した後、室温まで冷却して初期粘度と同様に測定し、経時粘度Vaとした。経時粘度の値を初期粘度の値で除したVa/Vbの値を算出し、以下の基準で粘度安定性を評価した。
◎:Va/Vbの値が105%未満(優良)
○:Va/Vbの値が105%以上110%未満(良)
△:Va/Vbの値が110%以上115%未満(実用上問題なし)
×:Va/Vbの値が115%以上(不良)
【0142】
<連続吐出性>
25℃の環境下でピエゾ素子を有するインクジェットヘッドを搭載した市販インクジェットプリンターに、各インクジェット記録用インキを充填し、コート紙(王子製紙社製OKトップコートN、坪量104.7g/m2)上に印字率100%のベタ印字を連続で行った後にノズルチェックパターンを印字してノズル抜けの有無を確認し評価を行った。評価基準は下記の通りである。
◎:1時間以上印字を行ってもノズル抜け無し(優良)
○:10分以上1時間未満印字を行ってもノズル抜け無し(良)
△:1分以上10分未満印字を行ってもノズル抜け無し(実用上問題なし)
×:1分未満でノズル抜けが発生(不良)
【0143】
<ベタ埋まり>
コート紙上に得られた評価用印刷物の印字率100%の画像部において、目視で、色ムラ、白スジを目視評価した。評価基準は下記の通りである。
◎:色ムラ、白スジがない。(優良)
○:白スジがないが、若干の色ムラがある。(良)
△:色ムラと白スジが若干ある。(実用上問題なし)
×:スジが多数ある。(不良)
【0144】
結果をまとめて表6に示す。
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
上記表の結果から本発明の水系着色剤分散体を用いたインクジェット記録用インキは、連続吐出性およびベタ埋まりが良好である。特に、酸基含有樹脂(B)の構造中にα-オレフィン単位を含み、中和値および架橋値が特定範囲内である水系着色剤組成物は、連続吐出性およびベタ埋まりが特に良好であった。また、ベタ埋まりについては、コート紙のほかに上質紙、コート紙、OPPフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、布帛について評価したところ、インクジェット記録用インキ(1)~(128)は上質紙、インクジェット記録用インキ(129)はOPPフィルムおよび布帛、インクジェット記録用インキ(130)はポリエチレンテレフタレートフィルム、インクジェット記録用インキ(131)はポリエチレンテレフタレートフィルムおよび布帛、インクジェット記録用インキ(132)は布帛、インクジェット記録用インキ(133)は上質紙およびOPPフィルムに対するベタ埋まりについても良好であった。さらに、各塗工物の鮮明性、着色力を評価したところ、いずれも優良であった。