(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】シリンダブロック
(51)【国際特許分類】
F02F 1/14 20060101AFI20240730BHJP
F01P 3/02 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
F02F1/14 A
F02F1/14 D
F01P3/02 A
(21)【出願番号】P 2020037828
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2023-02-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】吉原 昭
(72)【発明者】
【氏名】竹井 宣夫
(72)【発明者】
【氏名】溝口 裕茂
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-28343(JP,A)
【文献】特開2012-57493(JP,A)
【文献】特開2006-90194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/00- 1/42
F02F 3/00- 3/28
F01P 1/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に形成された複数の気筒と、
前記複数の気筒を取り囲むように形成され、デッキ面に開口するウォータジャケットと、
下端が前記ウォータジャケットと接続し、上端が隣り合う前記気筒の間において前記デッキ面側に開口するように延設される気筒間水路と、
前記ウォータジャケットの内外壁の間に介在し、底部側から上向きに立設される柱部と、
を備え、前記柱部の上端が、前記ウォータジャケットとの接続部における前記気筒間水路の下端よりも前記デッキ面側に位置していることを特徴とするシリンダブロック。
【請求項2】
前記柱部は前記各気筒の前記直列の方向と直交する方向の一方側と他方側にそれぞれ設けられ、一方側の柱部の上端が、他方側の柱部の上端よりも前記デッキ面側に位置している
請求項1に記載のシリンダブロック。
【請求項3】
一方がスラスト側、他方が反スラスト側であり、スラスト側に立設された前記柱部の
上端が、反スラスト側に立設された前記柱部の上端よりも前記デッキ面側に位置している
請求項2に記載のシリンダブロック。
【請求項4】
前記ウォータジャケットへの冷却水の供給口が前記一方側に形成され、前記ウォータジャケットからの冷却水の排出口が前記他方側に形成されている
請求項2又は3に記載のシリンダブロック。
【請求項5】
前記柱部に、一端が前記ウォータジャケット内を流れる冷却水の上流側に開口し、他端が前記ウォータジャケット内を流れる冷却水の下流側に開口して貫通する貫通水路を設け、かつ、一端側の開口よりも他端側の開口の方が前記デッキ面側に位置している
請求項1から4のいずれか1項に記載のシリンダブロック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用エンジンのシリンダブロックに関する。
【背景技術】
【0002】
直列する複数の気筒を取り囲むように上面側に開口するウォータジャケットが形成された、オープンデッキタイプのシリンダブロックを採用したエンジンにおいては、特にディーゼルエンジンのように燃焼圧力が高い(例えば18MPa)ときに、例えばアルミダイカストで製造された気筒が、その上端側が周囲の部材によって支持されていないことに起因して、エンジンの左右方向(複数の気筒の直列方向と直交する方向)に倒れるように振動することがある。この振動によって各気筒に形成されたライナーに引張力が作用すると、このライナーの上部にクラックなどの不具合が生じるなどの問題が生じる。
【0003】
また、隣り合う気筒間のデッキ面近傍は燃焼室が近く、しかも、ウォータジャケットから少し離れており冷却効果が十分に及ばないため、気筒間の温度が高温になりやすいという問題もある。
【0004】
例えば特許文献1には、シリンダブロック10の冷却効率を高めるべく、ウォータジャケット20の中に整流部22を設けた構成が示されている。この整流部22を設けることによって、ウォータジャケット20の深さDを冷却水の流れ方向の上流側から下流側に向かうほど漸次浅くし、シリンダ軸方向の上方に向かう冷却水の流れを形成している(特許文献1の特に段落0020、0025~0034、
図1~2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示す構成は、整流部22によってウォータジャケット20内の冷却水を上方に向かいやすくして、デッキ面近傍を冷却する効果が高まる可能性がある一方で、高温になりやすい隣り合う気筒間まで冷却水が到達しないため、この気筒間を十分冷却することができない虞がある。また、整流部22によってシリンダバレル11の比較的上部側が支持されるため、シリンダバレル11の振動をある程度抑制できる可能性があるものの、#1のシリンダおよび#2~#4のシリンダの冷却水入口16の反対側には整流部22が設けられていない(特許文献1の
図1を参照)ことからも明らかなように、振動抑制の効果も限定的である。
【0007】
そこで、この発明は、オープンデッキタイプのシリンダブロックに形成された気筒の振動を防止しつつ、気筒間の高い冷却効率を確保することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、この発明においては、
直列に形成された複数の気筒と、
前記複数の気筒を取り囲むように形成され、デッキ面に開口するウォータジャケットと、
下端が前記ウォータジャケットと接続し、上端が隣り合う前記気筒の間において前記デッキ面側に開口するように延設される気筒間水路と、
前記ウォータジャケットの内外壁の間に介在し、底部側から上向きに立設され、上端が前記気筒間水路の下端よりも高い位置となる柱部と、
を備えたことを特徴とするシリンダブロックを構成した。
【0009】
前記構成においては、
前記柱部は前記各気筒の前記直列の方向と直交する方向の一方側と他方側にそれぞれ設けられ、一方側の柱部の高さが、他方側の柱部の高さよりも高く、前記気筒間水路の下端よりも高い位置となる構成とするのが好ましい。
【0010】
前記構成においては、
一方がスラスト側、他方が反スラスト側であり、スラスト側に立設された前記柱部の高さが、反スラスト側に立設された前記柱部の高さよりも高い構成とするのが好ましい。
【0011】
前記構成においては、
前記ウォータジャケットへの冷却水の供給口が前記一方側に形成され、前記ウォータジャケットからの冷却水の排出口が前記他方側に形成されている構成とするのが好ましい。
【0012】
前記構成においては、
前記柱部に、一端が前記ウォータジャケット内を流れる冷却水の上流側に開口し、他端が前記ウォータジャケット内を流れる冷却水の下流側に開口し、かつ、一端側の開口よりも他端側の開口の方が上側に位置している構成とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
この発明では、上記のように柱部を設けた構成としたので、この柱部による補強効果によって各気筒の振動を防止するとともに、気筒間水路を流れる冷却水によって気筒間の高い冷却効率を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明に係るシリンダブロックの一実施形態を示す平面図である。
【
図3】エンジン内の冷却水の流路を模式的に示す斜視図である。
【
図4】ウォータジャケット内の冷却水の流れを模式的に示す断面図である。
【
図5】
図4に示す柱部の変形例を示す断面図である。
【
図7】
図1に示すシリンダブロックの変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明に係るシリンダブロック1の一実施形態を図面に基づいて説明する。このシリンダブロック1は、
図1および
図2に示すように、直列に形成された4本の気筒2(以下、必要に応じて、第1気筒2a、第2気筒2b、第3気筒2c、第4気筒2dと称する。)と、この4本の気筒2を取り囲むように形成され、デッキ面3に開口するウォータジャケット4と、下端がウォータジャケット4と接続し、上端が隣り合う気筒2の間においてデッキ面3に開口するよう延設される気筒間水路5と、ウォータジャケット4の内外壁の間に介在し、底部側から上向きに立設され、上端が気筒間水路5の下端よりも高い位置となる柱部6と、を有する。
【0016】
ウォータジャケット4は、ウォータジャケット4への冷却水の入口である冷却水入口7が形成された入口側ウォータジャケット4aと、ウォータジャケット4からの冷却水の出口である冷却水出口8が形成された出口側ウォータジャケット4bの2つの部分から構成されている。
【0017】
気筒間水路5は、ウォータジャケット4に接続された下端からデッキ面3に開口する上端まで斜め方向に形成されている。この気筒間水路5は、入口側ウォータジャケット4aとデッキ面3を接続する入口側気筒間水路5aと、デッキ面3と出口側ウォータジャケット4bを接続する出口側気筒間水路5bから構成されている。
【0018】
柱部6は、入口側ウォータジャケット4aと出口側ウォータジャケット4bのそれぞれの内部に、各気筒2の位置に対応して設けられている。なお、柱部6の高さは、両ウォータジャケット4a、4bの水深よりは低く、両ウォータジャケット4a、4b内の冷却水の流れが柱部6によって堰き止められることがないように構成されている。
【0019】
各気筒2のそれぞれの前記直列の方向と直交する対称位置に柱部6を設けることにより各気筒2が補強されるため、前記直交する方向への気筒2の振動を抑制することができる。このため、この振動に伴う引張応力によって、各気筒2に形成されたライナーの上部にクラックが生じるなどの不具合を確実に防止することができる。
【0020】
冷却水の流路を
図3に模式的に示す。本図は、シリンダブロック1(
図1参照)およびシリンダヘッド(図示せず)の内部に形成されたウォータジャケット4、9の形状(すなわち、シリンダブロック1やシリンダヘッドの内部にウォータジャケット4、9を形成するための中子の形状)を示している。シリンダブロック1とシリンダヘッドの間には、両者間を流れる冷却水およびエンジンオイルの液密、並びに、気筒2の気密を確保するためのシリンダヘッドガスケット10が設けられている。
【0021】
シリンダヘッドガスケット10には、各気筒2の位置に対応して貫通穴11が形成されており、この貫通穴11の周囲には、ウォータジャケット4、9を連通する複数の水穴12a、12b、12c、12dが形成されている。この複数の水穴12a、12b、12c、12dのうち、隣り合う気筒2(貫通穴11)の間に形成された水穴12b、12dは、気筒間水路5(5a、5b)の上端に接続している。なお、
図3においては、図面の視認性を確保するため、水穴12a、12b、12c、12dを通る冷却水の流れの図示(破線で示した矢印)を一部省略している。
【0022】
冷却水入口7を通って入口側ウォータジャケット4aに導入された冷却水は、入口側ウォータジャケット4a内を第1気筒2aから第4気筒2dに向かう水平方向および上向き(
図3の入口側ウォータジャケット4aに付した実線の矢印を参照)に流れる。水平方向に流れる冷却水は、
図4に示すように、入口側ウォータジャケット4a内に形成された柱部6によって上向きの流れに変わる(
図4中の矢印f1を参照)。上向きに流れる冷却水の一部は、入口側気筒間水路5aを通って上向きに流れる(
図4中の矢印f2を参照)。
【0023】
上向きに流れる冷却水は、シリンダヘッドガスケット10に形成された入口側ウォータジャケット4a寄りの水穴12aを通ってシリンダヘッドのウォータジャケット9に至る。また、入口側気筒間水路5aを流れる冷却水は、気筒2間に形成された水穴12bを通って同様にシリンダヘッドのウォータジャケット9に至る。
【0024】
シリンダヘッドのウォータジャケット9に至った冷却水は、シリンダヘッドを冷却した後に流れを下向きに変えて、シリンダヘッドガスケット10に形成された出口側ウォータジャケット4b寄りの水穴12cを通って出口側ウォータジャケット4bに戻る。また、下向きに流れる冷却水の一部は、気筒2間に形成された水穴12dを通り、出口側気筒間水路5bを経由して出口側ウォータジャケット4bに至る。出口側ウォータジャケット4bに戻った冷却水は、冷却水出口8から排出された後にラジエター(図示せず)によって冷却され、冷却水入口7まで循環する。なお、上記において説明した冷却水の流路は一例に過ぎず、エンジンの排気量や形状などに対応して、その流路は適宜決定される。
【0025】
この実施形態においては、各柱部6の上端が、気筒間水路5の下端よりも高い位置となるようにしたので、
図4に示したように、柱部6によって生じた冷却水の上向きの流れを入口側気筒間水路5aにスムーズに導いて、気筒2間の高い冷却効率を確保することができる。また、冷却水をスムーズに上方に導くことにより、気筒2に形成されたライナーの下部の冷却損失が低減され、ライナーの上下の温度差が小さくなるため、フリクションを低減することができる。
【0026】
この実施形態においては、
図5に示すように、柱部6に冷却水の通り抜けを許容する貫通水路13を形成することもできる。この貫通水路13は、その一端が入口側ウォータジャケット4a内を流れる冷却水の上流側(この実施形態では第1気筒2a側)に開口する一方で、他端が入口側ウォータジャケット4a内を流れる冷却水の下流側(この実施形態では第4気筒2d側)に開口し、かつ、一端側の開口よりも他端側の開口の方が上側に位置している構成となっている。
【0027】
このように、柱部6に貫通水路13を形成することにより、冷却水の滞留が生じやすい柱部6の下部における上向きの流れが促進され(
図5中の矢印f3を参照)、気筒2の下部の温度をコントロールすることができる。なお、この貫通水路13は、冷却水をスムーズに上向きの流れに変更する必要がある入口側ウォータジャケット4a内の柱部6のみに設ければ十分である。また、出口側ウォータジャケット4b内の柱部6に冷却水の下向きの流れを促す貫通水路13を形成して、シリンダブロック1およびシリンダヘッドのウォータジャケット4、9全体としての冷却水の流れを促す構成とすることもできる。
【0028】
この実施形態においては、入口側気筒間水路5aと出口側気筒間水路5bを個別に形成したが、
図6に示すように、単独の気筒間水路5の下端を入口側ウォータジャケット4aに接続するとともに、その上端を出口側ウォータジャケット4b寄りのデッキ面3側に開口するように斜め方向に形成することもできる。このようにすると、気筒間水路5が気筒2間を直接横切るため、この気筒2間の冷却効率をさらに高めることができる。
【0029】
この実施形態においては、入口側ウォータジャケット4a内の柱部6と、出口側ウォータジャケット4b内の柱部6の高さを同じとしたが、
図7に示すように、両柱部6の高さを異ならせてもよい。例えば、入口側ウォータジャケット4a内の各柱部6を出口側ウォータジャケット4b内のいずれの柱部6よりも高くすることにより、入口側ウォータジャケット4a内の柱部6によって冷却水の上向きの流れを形成しながら、相対的に低い出口側ウォータジャケット4b内の柱部6によって、気筒2の補強効果を発揮させつつ冷却水を冷却水出口8に向けてスムーズに導くことができる。
【0030】
また、
図7に示すようにクランクシャフト14が時計回りに回転するエンジンにおいては、本図において各気筒2の左側がスラスト側、右側が反スラスト側となる。この場合、スラスト側の柱部を反スラスト側の柱部6よりも高くすることができる。スラスト側では反スラスト側よりもピストン15からより大きな横向きの力が作用するが、スラスト側の柱部6を高くすることによってこの力に対抗して、気筒2の振動を抑制することができる。柱部6の高さを高くする代わりに、または、柱部6の高さを高くするのとともに、柱部6の幅(各気筒が直列する方向の幅)を広くすることによっても、気筒2の振動を抑制することができる。
【0031】
上記の実施形態においては、入口側ウォータジャケット4aをエンジンの排気側に設け、出口側ウォータジャケット4bをエンジンの吸気側に設けた構成とするのが好ましい。排気側は吸気側と比較して高温となりやすいが、入口側ウォータジャケット4aを排気側に設けることにより、高温の排気側を効率的に冷却することができる。
【0032】
上記の各実施形態は、単なる例示に過ぎず、オープンデッキタイプのシリンダブロック1に形成された気筒2の振動を防止しつつ、気筒2間の高い冷却効率を確保する、というこの発明の課題を解決し得る限りにおいて、各構成要素に適宜変更を加えることができる。
【0033】
また、上記の実施形態においては、柱部6をウォータジャケット4の底部側から上向きに立設したが、柱部6を別体にしてウォータジャケットスペーサーとしてウォータジャケット4内に挿入してもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 シリンダブロック
2 気筒
2a 第1気筒
2b 第2気筒
2c 第3気筒
2d 第4気筒
3 デッキ面
4 (シリンダブロックの)ウォータジャケット
4a 入口側ウォータジャケット
4b 出口側ウォータジャケット
5 気筒間水路
5a 入口側気筒間水路
5b 出口側気筒間水路
6 柱部
7 冷却水入口
8 冷却水出口
9 (シリンダヘッドの)ウォータジャケット
10 シリンダヘッドガスケット
11 貫通穴
12a、12b、12c、12d 水穴
13 貫通水路
14 クランクシャフト
15 ピストン