(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】印刷物製造方法
(51)【国際特許分類】
B41M 1/10 20060101AFI20240730BHJP
B41M 1/30 20060101ALI20240730BHJP
B41N 1/06 20060101ALI20240730BHJP
B41C 1/00 20060101ALI20240730BHJP
B41C 1/18 20060101ALI20240730BHJP
B41F 9/10 20060101ALI20240730BHJP
C09D 11/023 20140101ALI20240730BHJP
C09D 11/033 20140101ALI20240730BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B41M1/10
B41M1/30 D
B41N1/06
B41C1/00
B41C1/18
B41F9/10
C09D11/023
C09D11/033
B32B27/20 A
(21)【出願番号】P 2020040759
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】星野 友美
(72)【発明者】
【氏名】猪股 大貴
(72)【発明者】
【氏名】水谷 達哉
(72)【発明者】
【氏名】小藤 通久
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/047268(WO,A1)
【文献】特開2002-086886(JP,A)
【文献】特開2010-234713(JP,A)
【文献】特開2007-253586(JP,A)
【文献】特開2019-116074(JP,A)
【文献】特開2002-326335(JP,A)
【文献】特開2010-222580(JP,A)
【文献】特開2006-224614(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0079952(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102010052075(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 1/10
B41M 1/30
B41N 1/06
B41C 1/00
B41C 1/18
B41F 9/10
C09D 11/023
C09D 11/033
B32B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料および水性バインダー樹脂を含む水性グラビアインキを使用した、グラビア印刷による印刷物製造方法であって、前記顔料は、前記顔料総質量中に無機顔料を50質量%を超えて含有してなり、かつ、下記(1)~(4)を満たす、印刷物製造方法。
(1)グラビア印刷で使用される版は、レーザー方式により形成されたセル深度7~12μmのシャドウ部を有するグラビア版である。
(2)被印刷基材への前記水性グラビアインキ転移量は、1.5~4g/m
2であり、前記被印刷基材への前記水性グラビアインキ転移量中の水の質量は、0.5~
1.8g/m
2であり、かつ、前記被印刷基材への前記水性グラビアインキ転移量中の水含有比率は、16~45質量%である。
(3)印刷時における前記水性グラビアインキの温度は15~30℃である。
(4)前記水性グラビアインキは、印刷時のインキ総質量中に、沸点が100℃以下のアルコール系有機溶剤を8~35質量%で含有する。
【請求項2】
ドクターブレードとグラビア版の接触角度は40~80°である、請求項1に記載の印刷物製造方法。
【請求項3】
水性バインダー樹脂が、ポリウレタン樹脂を含む、請求項1または2に記載の印刷物製造方法。
【請求項4】
水性グラビアインキ転移量の総質量中に、顔料を
0.65~0.9g/m
2含有する、請求項1~3いずれかに記載の印刷物製造方法。
【請求項5】
グラビア印刷による印刷速度は、80m/分以上である、請求項1~4いずれかに記載の印刷物製造方法。
【請求項6】
さらに、印刷物の印刷層上に、接着剤層および第2の基材を順次積層する工程を含む請求項1~5いずれかに記載の印刷物製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性グラビアインキを使用した印刷物の製造方法に関する。より詳細には、高生産効率と発色、低残留溶剤性に優れ、さらにその積層体が良好な物性を発現することができる、印刷物製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、地球環境の保全、包材の安心安全、および法規制の厳格化に対応する手段として、印刷インキの水性化が検討されている。水性インキはインキ中の分散媒体(揮発成分)の主成分が水であるため、以下に挙げるメリットがある。(1)有機溶剤を主な揮発分とする油性インキと比較して、大気へ放出される有機溶剤(VOC)量を大幅に削減することが可能であり、加えて印刷機周辺の作業環境の改善も図れる。(2)印刷物に残留する有機溶剤量を削減でき、内容物の汚染を回避できる。これらから、特に大量生産が可能なグラビア印刷にて、用途・市場の拡大が期待されているものの、その普及には以下に記載の課題が残る(特許文献1)。
【0003】
グラビア印刷の分野における水性インキの最大の課題は、インキの主な揮発分が水であるゆえの乾燥性の悪さである。実際に化学便覧(化学便覧基礎編 改訂3版 日本化学会編 丸善株式会社 1984年)よりデータを比較してみると、水の蒸発熱は2458kJ/kgであり、油性グラビアインキで一般的に使用される酢酸エチル(蒸発熱369kJ/kg)や、イソプロパノール(蒸発熱666kJ/kg)などと比べ、乾燥に必要な熱量が圧倒的に多いことがわかる。水の乾燥が不十分であると、巻き取った印刷物の基材どうしがインキを介して癒着したり(ブロッキング現象)、ラミネート積層体に加工した際に積層基材間で剥離したりといったトラブルが発生し、印刷物やその積層体の生産に支障をきたす可能性がある。前記のようなトラブルを回避するためには、印刷機の乾燥機出力を上げたり、印刷速度を落としたりして、インキ皮膜により多くの熱量を与えて水を完全に乾燥させる必要があるが、大量生産を強みとするグラビア印刷の分野ではこれらの対策は大幅な生産効率低下、採算性悪化につながるため、受け入れられないのが現状である(特許文献2)。
【0004】
前記の生産効率低下の対策として、グラビア版の版深またはスクリーン線数の調整により印刷基材へのインキ転移量を減らして、インキからの揮発成分を減少させることで印刷速度を維持する試みがなされている(特許文献2)。しかしながら、印刷条件のみでの全て対処することは難しく、インキの種類あるいは温度・湿度その他の要因によっては、十分な印刷物の濃度を得られない場合や、印刷適性の劣化や印刷速度を維持できない、などの場合が考えられる。
【0005】
一方では、濃度の低下を防ぐために特殊処理顔料および高沸点有機溶剤を併用した水性グラビアインキを用いて印刷する方法が開示されている(特許文献3)。しかしながら、高沸点溶剤の使用は残留水分・残留溶剤増加の懸念があり、残留溶剤等に起因する皮膜強度の弱さからブロッキング現象を引き起こす可能性や、印刷速度を落とすなどの必要が生ずる可能性があった。
【0006】
以上のことから、水性グラビアインキにおいて油性グラビアインキと遜色ない濃度・発色を維持し、良好な物性を発現するラミネート積層体を、トラブルなく高い生産効率で得ることができる印刷物製造方法は未だ確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-178622号公報
【文献】特開2007-001084号公報
【文献】WO2017/047268号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、水性グラビアインキを用いて、濃度および発色に優れ、生産効率が良好であり、良好なラミネート強度を発現できる、グラビア印刷による印刷物製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討を行い、以下に記載の印刷物製造方法を用いることで当該課題を解決できることを見出し、本願発明を成すに至った。
【0010】
本発明は、顔料および水性バインダー樹脂を含む水性グラビアインキを使用した、グラビア印刷による印刷物製造方法であって、下記(1)~(3)を満たす、印刷物製造方法に関する。
(1)グラビア印刷で使用される版は、レーザー方式により形成されたセル深度7~12μmのシャドウ部を有するグラビア版である。
(2)被印刷基材への前記水性グラビアインキ転移量は、1.5~4g/m2であり、前記転移量総質量中の水の質量は、0.5~2g/m2であり、かつ、前記転移量総質量中の水含有比率は、16~65質量%である。
(3)印刷時における前記水性グラビアインキの温度は15~30℃である。
【0011】
また、本発明は、ドクターブレードとグラビア版の接触角度は40~80°である、上記印刷物製造方法に関する。
【0012】
また、本発明は、水性バインダー樹脂が、ポリウレタン樹脂を含む、上記印刷物製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は、水性グラビアインキ転移量の総質量中に、顔料を0.3~1.0g/m2含有する、上記印刷物製造方法に関する。
【0014】
また、本発明は、水性グラビアインキは、印刷時のインキ総質量中に、沸点が100℃以下の有機溶剤を、0質量%を超え35質量%以下で含有する、上記印刷物製造方法に関する。
【0015】
また、本発明は、水性グラビアインキは、印刷時のインキ総質量中に、沸点が100℃以下のアルコール系有機溶剤を3~35質量%以上で含有する、上記印刷物製造方法に関する。
【0016】
また、本発明は、グラビア印刷による印刷速度は、80m/分以上である、上記印刷物製造方法に関する。
【0017】
また、本発明は、さらに、印刷物の印刷層上に、接着剤層および第2の基材を順次積層する工程を含む上記印刷物製造方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、水性グラビアインキを用いて、濃度および発色に優れ、生産効率が良好であり、良好なラミネート強度を発現できる、グラビア印刷による印刷物製造方法を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、グラビア印刷におけるドクターブレードとグラビア版の位置関係を表す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明について実施形態を詳細に記載する。以下に記載する実施形態または要件の説明は本発明における実施形態の一例であり、本発明はその趣旨を超えない限りこれらの内容に限定されない。
【0021】
本発明は、顔料および水性バインダー樹脂を含む水性グラビアインキを使用した、グラビア印刷による印刷物製造方法であって、下記(1)および(2)を満たす、印刷物製造方法に関する。
(1)グラビア印刷で使用される版は、レーザー方式により形成されたセル深度7~12μmのシャドウ部を有するグラビア版である。
(2)被印刷基材への前記水性グラビアインキ転移量は、1.5~4g/m2であり、前記転移量総質量中の水質量は、0.5~2g/m2であり、かつ、前記転移量総質量中の水含有比率は、16~65質量%である。
(3)印刷時における前記水性グラビアインキの温度は15~30℃である。
上記(1)および(2)の要件は、少なくとも、セル深度7~12μmという浅い版深のグラビア版と、それに対応するインキ転移量のうち含有する水の量を比較的少ない量に規定することで、転移したインキ皮膜の乾燥性と被印刷基材への定着性向上を促して高品質な印刷物を効率的に生産できるものであり、このような転移量調整は印刷時における水性グラビアインキの温度を15~30℃の範囲に調節することの要件(3)で達成することができる。
これら(1)(2)および(3)を同時に満たすグラビア印刷では、従来の水性グラビア印刷に比べて少なくとも生産効率向上、印刷速度向上を達成できる。更にはバインダー樹脂の種類、含有する顔料の量を規定することで高濃度、高発色といった課題を満たすことができる。
なお、「グラビア印刷」とはいわゆるグラビア輪転印刷を表し、印刷距離が、単なる2~3メートル程度のグラビアテストコートでなく、少なくとも100m以上の印刷距離、30m/分以上の印刷速度を有する印刷物の生産実機としてのグラビア印刷のことを意味する。印刷距離500m以上、印刷速度50m/分での使用形態あることがなお好ましい。また、「グラビア版」とは、グラビア印刷機において輪転する版を表し、ドクターブレードに接した使用形態となる。「シャドウ部」とはベタ部などと同義であり、印刷において最も濃度の高い印刷物を作成できる、最も深い版深のセルを有する部位である。「セル」とは印刷版表面に形成された小さな凹型のくぼみを表す。
【0022】
なお本明細書において「水性グラビアインキ」とは、製造流通時の濃縮状態のインキが、水性媒体により、印刷に適した粘度に希釈調整されたインキをいい、印刷直前もしくは、印刷されている時の状態の水性グラビアインキを示す。「水性グラビアインキ」は「インキ」または「印刷インキ」と表記する場合があるが同義である。水性グラビアインキからなる印刷層は、単に「印刷層」「インキ層」または「インキ皮膜」と表記する場合があるが同義である。
【0023】
(水性グラビアインキ)
本発明において使用する水性グラビアインキは、(顔料/バインダー樹脂比に関して)バインダー樹脂に対する顔料の質量比率(顔料/バインダー樹脂)は1~7の範囲であることが好ましい。詳しくは全顔料中に有機顔料を50質量%以上含有する場合、前記質量比率(顔料/バインダー樹脂)は1~5の範囲である必要があり、1~4の範囲であることが好ましく、1.1~3の範囲であることがなお好ましい。全顔料中に無機顔料を50質量%超えて含有する場合、前記比率は1.5~7の範囲である必要があり、2~5の範囲であることが好ましく、2.5~4の範囲であることがなお好ましい。この範囲に収めることで、良好な濃度、印刷適性、ラミネート強度が得られるためである。
【0024】
水性グラビアインキの印刷によるインキ転移量のうちの固形分は、15~50質量%であることが好ましく、15~45質量%であることがなお好ましく、19~40質量%であることが更に好ましい。
全顔料中に有機顔料を50質量%以上含有する場合、当該固形分は15~40質量%で含むことが好ましく、20~30質量%であることがなお好ましい。一方、全顔料中に無機顔料を50質量%超えて含有する場合、当該固形分は33~55質量%以上が好ましく、33~45質量%であることがなお好ましい。なお「固形分」とは組成物やインキ中における不揮発成分の総質量をいう。
【0025】
水性グラビアインキは、印刷時の液温(インキ温度)が15~30℃の範囲である必要がある。これは印刷において均一な転移と濡れ広がりを促して転移量1.5~4g/m2を提供するものであり、本発明の印刷物製造方法に特有のものである。印刷時のグラビアインキの温度は17~27℃であることが好ましく、20~25℃であることが更に好ましい。なお、水性グラビアインキの粘度は15~70mPa・sであることが好ましく、20~60mPa・sであることがなお好ましい。
【0026】
(転移量)
転移量とは、グラビア版のセルから被印刷基材に転移したインキ質量(揮発成分の乾燥前の質量)の単位面積あたりの値をいう。インキの転移量は、実際に印刷された印刷層(インキ皮膜)の質量と、インキの固形分(不揮発分)から算出可能である。したがって、転移量は、被印刷基材上に形成されたインキ皮膜質量(乾燥後、すなわち印刷層)の実測値から、印刷に使用されたインキの不揮発分を基に計算される。詳細には実施例において説明する。
前記転移量は、十分な印刷物濃度とインキ皮膜強度を確保する観点から、1.5~4g/m2の範囲であればよく、2~3.5g/m2の範囲が好ましい。
【0027】
(インキ転移量中の水質量)
転移した水性グラビアインキの乾燥性は、水性グラビアインキに含まれる水の質量と密接に関係する。前記インキの流動性を維持しつつ、乾燥性を確保しブロッキングなどのトラブルを回避するには、前記転移量の総量中の水質量は0.5~2g/m2であることが必要であり、0.8~1.9g/m2であることが好ましく、1~1.8g/m2であることがなお好ましい。
なお、前記転移量中の水質量比率は、転移総質量中16~65質量%であることが好ましく、30~60質量%であることがなお好ましい。全顔料総質量中に有機顔料が50質量%以上含有する場合、前記転移量中の水質量比率は46~65質量%であることが好ましく、48~60質量%であることがなお好ましい。全顔料総質量中に無機顔料が50質量を超えて含有する場合、前記転移量中の水質量比率は16~45質量%であることが好ましく、20~44質量%であることがなお好ましい。
【0028】
前記水性グラビアインキ転移量中の顔料の質量は、印刷物の濃度を確保する観点から、0.3~1.0g/m2であることが好ましい。前記顔料において、有機顔料を主成分(50質量%以上)で含む場合は、転移量総量中に顔料を0.32~0.45g/m2含むことが好ましく、前記顔料において、無機顔料を主成分(50質量%超えて)で含む場合は、転移量総量中に顔料を0.65~0.9g/m2含むことが好ましい。
【0029】
(顔料)
顔料は有機顔料、無機顔料のいずれを使用してもよい。全顔料総質量中に有機顔料を50質量%以上含有する場合、全顔料のうち有機顔料を70質量%以上含有することが好ましく、80質量%以上含有することがなお好ましい。また、全顔料中無機顔料を50質量%超えて含有する場合、全顔料のうち無機顔料を70質量%以上含有することが好ましく、80質量%以上含有することがなお好ましい。
【0030】
(有機顔料)
一方、有機顔料としては、一般のインキ、塗料および記録剤などに使用されている有機顔料や染料を挙げることができる。例えば、アゾ系、フタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、アゾメチンアゾ系、ジクトロピロロピロール系、イソインドリン系などが挙げられる。これらの顔料は単独で、または2種以上を併用することができる。
【0031】
(無機顔料)
無機顔料としては、以下の態様が好ましい。無機顔料は、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化クロム、シリカ、カーボンブラック、アルミニウム、マイカ(雲母)などが好適に挙げられる。着色力、隠ぺい力、耐薬品性、耐候性の点から、白色顔料には酸化チタンが好ましい。アルミニウムは粉末またはペースト状であるが、取り扱い性および安全性の面からペースト状で使用するのが好ましい。
硫酸バリウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウムなどの体質顔料も好適に用いられる。体質顔料の使用形態としては流動性、強度、光学的性質の改善のために増量剤として好適に使用される。
【0032】
(水性バインダー樹脂)
バインダー樹脂とは、インキに含まれる結着樹脂をいう。バインダー樹脂としては水性樹脂が好適に使用でき、水性媒体中において安定に分散・溶解できればよく、水性とは水溶性またはエマルジョン状態であってよい。水性樹脂としては水溶性樹脂およびエマルジョン樹脂から選ばれる少なくとも1種の水性樹脂を好適に挙げることができ、混合したものでもよい。水性樹脂の例としては、水性ポリウレタン樹脂、水性アクリル変性ウレタン樹脂、水性アクリル変性ウレタンウレア樹脂、水性アクリル樹脂、水性スチレン-アクリル酸共重合樹脂、水性スチレン-マレイン酸共重合樹脂、水性エチレン-アクリル酸共重合樹脂、水性ポリエステル樹脂、水性シェラック、水性ロジン変性マレイン酸樹脂、水性塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、水性塩化ビニル-アクリル酸共重合樹脂、水性塩素化ポリプロピレン樹脂、水性ヒドロキシエチルセルロース樹脂、水性ヒドロキシプロピルセルロース樹脂、水性ブチラール樹脂などを好適に挙げることができる。これらの樹脂は、単独で、または2種以上を併用することができる。
中でも水性ポリウレタン樹脂、水性アクリル樹脂、水性スチレン-アクリル酸共重合樹脂、水性スチレン-マレイン酸共重合樹脂より選ばれる少なくとも一種の水性樹脂を含むことが好ましい。水性ポリウレタン樹脂であることがなお好ましい。これらはバインダー樹脂総質量中に50質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがなお好ましく、80質量%以上含むことが更に好ましい。
【0033】
(水性ポリウレタン樹脂)
基材への接着性や顔料分散性の観点から、バインダー樹脂は水性ポリウレタン樹脂含むことが好ましい。当該水性ポリウレタン樹脂は中和される酸価を有し、酸価が20~65mgKOH/gであることが好ましい。また、ガラス転移温度が-30~0℃であることが好ましい。ここでガラス転移温度とは動的粘弾性測定におけるTanδの極大値をいう。水酸基価としては1~15mgKOH/gであることが好ましい。
【0034】
前記水性ポリウレタン樹脂としてはポリオール、ヒドロキシ酸およびポリイソシアネートにより合成されたポリウレタン樹脂である形態や、ポリオール、ヒドロキシ酸およびポリイソシアネートにより合成された末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーとポリアミンにより鎖延長されたポリウレタンウレアを含むポリウレタン樹脂である形態が好ましい。
【0035】
さらに裏刷りインキ(ラミネート用インキ)としての使用形態では、ラミネート強度(ラミネート加工により積層した基材層間の接着強度)の観点から、水溶性のポリウレタン樹脂および/またはポリウレタンウレア樹脂の使用が好ましい。水溶性のポリウレタン樹脂およびポリウレタンウレア樹脂は、ポリオールとポリイソシアネートを反応させる際、樹脂内にカルボキシル基、スルホン酸基等のイオン化可能な基(中和可能である官能基)を導入し、塩基性化合物で中和することにより、水溶化可能となる。耐水性の観点からイオン化可能な基としてはカルボキシル基が好ましい。
【0036】
(ポリオール)
前記ポリオールとしては、後述のヒドロキシ酸は含まれない。当該ポリオールとしては、以下に限定されないが、例えばポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ダイマージオール、水素添加ダイマージオールなどが好適に挙げられる。これらのポリオールは、単独で用いても、2種以上併用してもよい。水性ポリウレタン樹脂はポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールおよびポリカーボネートポリオールより選ばれる少なくとも一種のポリオールからなる構成単位を含有することが好ましい。ポリオールの数平均分子量は500~5000であることが好ましい。
【0037】
(ポリエーテルポリオール)
前記ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールおよびこれらの共重合物を好適に挙げることができる。これらからなる構成単位は水性ポリウレタン樹脂であることが好ましい。水性ポリウレタン樹脂はポリエチレングリコール由来の構成単位を含有することが好ましく、水性ポリウレタン樹脂総質量中に0.1~25質量%含有することが好ましく、2~15質量%含有することがなお好ましく、2~10質量%含有することが更に好ましい。
【0038】
(ポリエステルポリオール)
前記ポリエステルポリオールとしては、二塩基酸と分岐ジオールを含むジオールからなる構成単位を有する形態が好ましい。当該二塩基酸としては、セバシン酸、アジピン酸、コハク酸などが好適に使用でき、分岐ジオールとしてはアルキレングリコールの炭素上に有する水素の少なくとも一つが置換基を有する形態のものをいう。具体的には、プロピレングリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオールより選ばれる少なくとも一種を、ジオール総質量中に50質量%以上含有することが好ましい。なおポリエステルポリオールの実施形態はこれらに限定されない。
【0039】
(ポリカーボネートポリオール)
前記ポリカーボネートポリオールとしては、製造方法やポリカーボネートポリオールを構成するジオール種により限定されるものではないが、アルキレングリコールからなるジオールとカーボネート化合物とのエステル交換反応による重縮合物が好適に挙げられる。なお、ポリカーボネートポリオールは脂環族および/または脂肪族のポリカーボネートジオールであることが好ましい。
【0040】
前記ジオールとしては、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブチンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどが好適であり、これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。3-メチル-1,5-ペンタンジオールその他の分岐構造を有するジオール構造を有するポリカーボネートポリオールであることが好ましい。
当該カーボネート化合物は、特に限定されないが、ジアルキルカーボネート、ジアリールカーボネート、またはアルキレンカーボネートが挙げられる。カーボネート化合物の具体例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどのジアルキルカーボネート、ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネート、エチレンカーボネートなどのアルキレンカーボネートが挙げられる。
【0041】
(ポリイソシアネート)
前記ポリイソシアネートとしては、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートなどが好適に挙げられる。なおこれらは3量体となってイソシアヌレート環構造となっていても良い。
芳香族ジイソシアネートとしては、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルイソシアネート、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等が挙げられる。
脂肪族ジイソシアネートとしては、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。
脂環族ジイソシアネートとしては、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、水素添加された4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、ダイマー酸のカルボキシル基をイソシアネート基に転化したダイマージイソシアネート等が挙げられる。
中でも好ましくはトリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートの3量体から選ばれる少なくとも一種である。これらのポリイソシアネートは単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0042】
(ヒドロキシ酸)
前記ヒドロキシ酸は、以下に限定されないが、カルボキシルを含有するポリオールを利用することができる。例えば2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸等のジメチロールアルカン酸などが好適に挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。ヒドロキシ酸は水性ポリウレタン樹脂の製造工程の中で用いられ、得られたポリウレタン樹脂中にそのカルボキシル基が導入され、酸価を有する。未反応のカルボキシル基は中和されて水性化される。
【0043】
(ポリアミン)
前記ポリアミンとして利用可能な化合物としては、各種公知のアミン類であり、例えば、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’- ジアミン、さらにダイマー酸のカルボキシル基をアミノ基に転化したダイマージアミン等などが好適に挙げられ、これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0044】
(反応停止剤)
前記ポリアミンと併用して反応停止剤を使用することもできる。かかる反応停止剤としては、例えば、ジ-n-ジブチルアミンなどのジアルキルアミン類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、トリ(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール、N-ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、N-ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、N-ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等の水酸基を有するアミン類、さらにグリシン、アラニン、グルタミン酸、タウリン、アスパラギン酸、アミノ酪酸、バリン、アミノカプロン酸、アミノ安息香酸、アミノイソフタル酸、スルファミン酸などのモノアミン型アミノ酸類が挙げられる。
【0045】
(中和剤)
ポリウレタン樹脂の水性化のために、樹脂中のカルボキシル基その他のイオン化可能な基を塩基性化合物で中和することが好ましい。塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モルホリン等が挙げられ、これらは1 種、又は2 種以上の組み合わせで用いられる。印刷物の耐水性、残留臭気等の点からアンモニアが好ましい。
【0046】
(合成法)
ポリウレタン樹脂は、公知の方法により適宜製造される。例えば、イソシアネートに対して不活性でかつ親水性の有機溶剤を用いるアセトン法、溶剤を全く使用しない無溶剤合成法等が挙げられる。例えば特開2013-234214公報に記載の手法を適宜使用可能である。
【0047】
(添加剤)
前記水性グラビアインキは添加剤を含有してもよく、かかる添加剤としては、顔料分散剤、顔料誘導体、中和剤、レベリング剤、消泡剤、ワックス、シランカップリング剤、防錆剤、防腐剤、可塑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、芳香剤、難燃剤などを挙げることができる。
【0048】
(有機溶剤)
本発明の水性グラビアインキは、印刷時(転移直前)に、有機溶剤をインキ総質量中に0質量%を超え35質量%以下で含有することが好ましい。有機溶剤は沸点100℃以下の有機溶剤であることが好ましく、中でも100℃以下のアルコール系有機溶剤を含むことが好ましい。該当する例としては、メタノール(沸点65℃)、エタノール(沸点78℃)、n-プロパノール(以下NPAと記載する)(沸点97℃)、イソプロパノール(以下IPAと記載する)(沸点82℃)、2-ブタノール(沸点99℃)、t-ブタノール(沸点83℃)等が好適に挙げられる。上記アルコール系有機溶剤の沸点は、70℃以上100℃以下であることがなお好ましい。ただし、アルコール系有機溶剤の種類はこれらに限定されない。
【0049】
前記において、沸点100℃以下のアルコール系有機溶剤を含むことでインキ被膜中にこれらの有機溶剤および水の含有量が減少し、インキと基材間の十分な密着性が得られ、ラミネートなどの後加工時においても不具合を生じさせることは少ない。かかるアルコール系有機溶剤の含有量は、印刷時のインキ総質量中に3~35質量%以上で含有することが好ましく、印刷時のインキ総質量中に5~30質量%含有することがなお好ましく、8~25質量%含有することが更に好ましい。該当範囲においてインキの印刷速度、転移性、レベリング性にも効果的である。
【0050】
水性グラビアインキは、印刷時更に、沸点が100℃を超える有機溶剤をインキ総質量中に5質量%以下で含む場合も好適であり、アルコール系有機溶剤、グリコール系有機溶剤、およびグリコールエーテル系有機溶剤が好適に挙げられる。かかる有機溶剤の例としては、n-ブタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノ-n-ヘキシルエーテル、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-n-ヘキシルエーテル、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールn-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールn-プロピルエーテル、トリプロピレングリコールn-プロピルエーテル、プロピレングリコールn-ブチルエーテル、プロピレングリコールイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールn-ブチルエーテル、トリプロピレングリコールn-ブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーエル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等が好適に挙げられる。
【0051】
(水性グラビアインキの製造)
前記インキ用原料を使用して、一般に使用される分散機、例えば、ローラーミル、ボールミル、ペブルミル、アトライター、サンドミルその他のビーズミルなどを用いて水性グラビアインキを製造することができる。
例えば、有機顔料、水性ポリウレタン樹脂溶液および所定量のアルコール系有機溶剤を一定時間混合し、サンドミルにて20分程度分散後、更に水性ポリウレタン樹脂溶液を加えて粘度を調整して希釈前の濃縮インキを得て、そこへ水または水とアルコールの混合液を用いて前記粘度に希釈調整することで印刷に使用する水性グラビアインキを得ることができる。
【0052】
(被印刷基材)
本発明の印刷物製造に使用できる被印刷基材(第1の基材ともいう)は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン基材、ポリエチレンテレフタレート基材、ポリ乳酸などのポリエステル基材、ポリカーボネート基材、ポリスチレン基材、AS樹脂基材、ABS樹脂などのポリスチレン系樹脂基材、ナイロン基材などのポリアミド基材、ポリ塩化ビニル基材、ポリ塩化ビニリデン基材、セロハン基材、紙基材、アルミ基材など、もしくはこれらの複合材料からなるフィルム状の基材、また、シリカ、アルミナあるいはアルミニウムなどの無機化合物をポリエチレンテレフタレート、ナイロンフィルムへ蒸着した蒸着基材などが挙げられる。中でも延伸された基材の使用が好ましい。なお、後述の積層体の製造において使用する第2の基材としては、当該第1の基材と同様のものが挙げられ、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0053】
(水性グラビアインキの印刷)
印刷物は、前記水性グラビアインキをグラビア印刷方式で、被印刷基材に印刷することで製造することができる。前記方法にて製造された水性グラビアインキは、各色相に対応する印刷ユニットにインキを備えて各色の重ね印刷が行われる。本発明の印刷物製造方法は、以下に記載のグラビア版および印刷条件を満たす方法により効果を奏する。
【0054】
(グラビア版)
グラビア印刷においてはグラビア版およびドクターブレードが使用される。本発明において使用されるグラビア版は、レーザー方式によりセル形成された版である。グラビア版は何層かのコーティングにより構成されており、ベースとなる芯の部分(ベースシリンダーという)の材質によってその構成は異なり、ベースシリンダーが鉄芯の場合は、鉄芯にニッケルメッキ、銅メッキ、クロムメッキが順番に施され、その後、レーザー方式で製版(レーザー製版)される。レーザー製版は、薬品によって銅メッキを腐食させる方法であり、銅メッキ表面に感光材をコーティングし、版の凹みになる部分(水性グラビアインキが入る部位)をレーザーで露光・現像して絵柄を形成させる。その後、露出した銅部分を腐食液で腐食させる事によりグラビア版の表面に絵柄が形成される。当該版は、その後クロムメッキされてグラビア版となる。レーザー方式により形成されたセルは彫刻方式で形成されたセルに比べてシャドウ部の印刷再現性が良好であるというメリットがある。
【0055】
(ドクターブレード)
本発明で使用できるドクターブレードは、スチール製、セラミック製いずれでもよく、特段の制限はない。ドクターブレードは上記グラビア版に接する形で余剰のインキを掻きとるために用いられるが、その接触角度により印刷の転移に影響を及ぼす。本発明においては、グラビア版の版深、用いられる水性グラビアインキの性状を加味して、ドクターブレードのグラビア版に対する接触角度は40~80°であることが好ましく、50~65°であることがなお好ましい。ここで、当該接触角度とは、グラビア版とドクターブレードの接触位置において円周の接線とドクターブレードの間の挟角をいい、
図1にて表される角度である。
【0056】
本発明で使用される上記グラビア版はセル深度7~12μmのシャドウ部を有する。これは従来水性グラビア印刷で使用されているセル深度に比べて浅いセル深度の版であるが、本発明の印刷物製造方法によれば、版かぶりや頭かけ(版つまり)なく印刷適性が良好であり、良好な印刷速度が実現可能である。印刷基材へ転写されたインキの乾燥性を確保する観点から、シャドウ部のセル深度としては8~12μmであることが好ましい。なお、インキに使用されるグラビア版のスクリーン線数としては、100~350線/インチであることが好ましく、150~300線/インチであることがなお好ましい。
【0057】
本発明において、モアレの発生を抑制するため、使用されるグラビア版は各色において、版のセルのスクリーン角度(セルの並び方向線と版回転軸線との角度)が異なるように設定することが好ましい。特に限定されないが、版におけるスクリーン角度は15°~75°の間で設定され、各色間の版でスクリーン角度の差が5°~30°である事が好ましく、10°~30°である事がなお好ましい。更に好ましくは各色間でスクリーン角度の差が20°~30°である。
【0058】
(印刷速度)
本発明の印刷物は、印刷速度80m/分以上にて製造することが好ましく、100~250m/分にて製造することがなお好ましく、120~250m/分にて製造することが更に好ましい。
【0059】
(乾燥機風量)
印刷機には乾燥機が備えられており、印刷直後に送風乾燥される。乾燥条件は送風温度が高く、風量が多いことが好ましく、乾燥温度としては、30~100℃の範囲で行われ、40~80℃であることが好ましい。風量は60~250m3/分であることが好ましい。なお、乾燥器内温度と風量は被印刷基材に熱変形などの悪影響ない範囲で調整することが好ましい。
【0060】
(積層体)
本発明の積層体は、本発明の印刷物製造方法による印刷物の印刷層上に、更に接着剤層、第2の基材を積層して得られる。接着剤層とは、ウレタン接着剤層、アンカーコート層、溶融樹脂層などを含み、接着機能を有する層であればこれらに限定されない。溶融樹脂としては低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂等が使用でき、接着剤としてはイミン系、イソシアネート系、ポリブタジエン系、チタネート系等が挙げられる。
積層体製造方法の具体例としてはラミネート加工がある。ラミネート加工法としては、1)印刷層上にアンカーコート剤を塗布後、溶融樹脂を重ねる同時にポリオレフィン等の第2の基材を積層する押し出しラミネート法、2)印刷層上にウレタン接着剤などの接着剤を塗布後、必要に応じて乾燥させて第2の基材と貼り合わせて積層するドライラミネート法等が挙げられる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、
本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。また、本発明における部および
%は、特に注釈のない場合、質量部および質量%を表す。
なお、実施例1~10、14、および16~22は、参考例である。
【0062】
(合成例)
還流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管、撹拌装置、及び温度計を備えた反応器中で窒素ガスを導入しながら、PC(HD)2000(1,6-ヘキサンジオール(HD)由来単位からなる数平均分子量2000のポリカーボネートジオール)235.6部、PEG2000(数平均分子量2000のポリエチレングリコール)10.7部、2,2-ジメチロールプロパン酸(DMPA)30.0部、及びメチルエチルケトン(MEK)250部を混合、撹拌しながらイソホロンジイソシアネート(IPDI)91.5部を1時間かけて滴下し、80℃で4時間反応させて末端イソシアネートプレポリマーとし、その後30℃まで冷却してからイソプロパノール(IPA)100部を加えて、末端イソシアネートプレポリマーの溶剤溶液を得た。得られた末端イソシアネートプレポリマーに対し、2-アミノエチルエタノールアミン(AEA)2.7部及びイソプロパノール150部を混合したものを室温で徐々に添加して40℃で2時間反応させ、溶剤型ポリウレタン樹脂溶液を得た。次に、28%アンモニア水13.6部及びイオン交換水851部を上記溶剤型ポリウレタン樹脂溶液に徐々に添加して中和することにより水溶化し、さらにメチルエチルケトン及びイソプロパノールを減圧留去した後、水を加えて固形分調整を行い、固形分30%の水性ポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0063】
(実施例1)
銅フタロシアニン(トーヨーカラー株式会社製LIONOL BLUE FG-7400-G)13部、水性ポリウレタン樹脂溶液20部、n-プロパノール7部、水20部を撹拌混合し、サンドミル30分間で分散処理した後、水性ポリウレタン樹脂溶液10部、イソプロパノール2部、水8部を撹拌混合し、水性分散体を得た。さらに、溶剤にて希釈し、各成分が表1に記載の組成となるよう調整して水性グラビアインキC1を得た。
更に、上記水性グラビアインキC1をグラビア印刷機の印刷ユニットに充填し、セル深度10μmのシャドウ部を有するスクリーン線数250線のグラビア版を用いて、ポリプロピレン(OPP)基材(東洋紡株式会社製 パイレンP-2161 膜厚20μm)上に、印刷速度120m/分でそれぞれ印刷し、水性グラビアインキC1の印刷物を得た。
なお、印刷時の水性グラビアインキC1の温度は21℃、ドクターブレードとグラビア版の接触角度は55°とした。
【0064】
(実施例2~22)
表1および表2に記載した原料および配合比率を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、水性グラビアインキC2~C7、W1~W3をそれぞれ得た。更に、表1および表2に記載したセル深度の版、印刷速度、インキ温度、およびドクターブレードのグラビア版に対する接触角度などの印刷条件を用いた以外は実施例1と同様の方法でそれぞれのインキを印刷し、水性グラビアインキ実施例2~実施例22に対応する印刷物をそれぞれ得た。
なお、表中における略称は以下を示す。
アクリル樹脂:BASF社製 アクリル樹脂 製品名 ジョンクリル63(固形分30%)
酸化チタン:テイカ株式会社製 酸化チタン チタニックス JR-800
【0065】
(比較例1~4)
表3に記載した原料および配合比率を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、水性グラビアインキC8およびW4をそれぞれ得た。更に、水性グラビアインキC1、C8およびW4を用いて表3に記載したセル深度の版、印刷速度、インキ温度、およびドクターブレードのグラビア版に対する接触角度などの印刷条件を用いた以外は実施例1と同様の方法でそれぞれのインキを印刷し、比較例1~4に対応する印刷物をそれぞれ得た。
【0066】
(評価)
上記において得られた水性グラビアインキC1~C8、W1~W4およびこれらの印刷物を用いて以下の特性評価を行った。
【0067】
(転移量)
前記印刷により得られた実施例1~15、比較例1~4の印刷物を用いて、100%印刷(シャドウ)部における乾燥インキ皮膜質量を測定した。測定手順は以下の通りである。
1)100%印刷部を10cm×10cmに切り出したサンプルを10枚用意した。
2)サンプル10枚分の初期質量g1を測定した。
3)サンプルのそれぞれから、酢酸エチルを用いてインキ皮膜を除去した。
4)サンプルを40℃で1時間温風乾燥したのち、10枚分の除去後質量g2を測定した。
5)以下の式(1)および(2)によりインキ転移量を算出した。
式(1)(乾燥インキ皮膜質量)(g/m2)={g1(g)-g2(g)}/0.1(m2)
乾燥インキ皮膜質量から、以下の転移量を算出した。
式(2)(転移量)(g/m2)=(乾燥インキ皮膜質量)(g/m2)/(不揮発分)(%)
【0068】
(生産効率)
上記において得られた水性グラビアインキC1~C8、W1~W4を用いて生産効率の評価を行った。当該生産効率は、限界速度による評価であり、当該限界速度は、版かぶり現象、版つまり現象、印刷機の反転ロールへのインキ取られといった不具合を生じない上限の印刷速度をいい、一定時間に製造できる印刷物の数量(すなわち生産効率)を表す。評価としては、前記不具合が生じない範囲で、できる限り速い限界速度である方が好ましい。
評価基準は以下の通りである。
5(優):限界速度が120m/分以上
4(良):限界速度が100m/分以上~120m/分未満
3(可):限界速度が80m/分以上~100m/分未満
2(不可):限界速度が60m/分以上~80m/分未満
1(劣):限界速度が60m未満
なお、実施可能な評価は3、4および5である。
【0069】
(版かぶり)
上記印刷において、前記の水性グラビアインキC1~8、W1~4を、グラビア印刷機の印刷ユニットに充填し、表1または2に記載の組み合わせのインキ、セル深度、印刷速度にて60分間、グラビア版を空転させたのち、グラビア版面の着色度合いを観察した。評価は目視で行い、評価基準は以下の通りである。
5(優):版かぶりがみとめられない(着色面積0%)
4(良):版かぶりがわずかにみとめられる(着色面積0%超~10%未満)
3(可):版かぶりがややみとめられる(着色面積10%以上~30%未満)
2(不可):版かぶりがみとめられる(着色面積30%以上~50%未満)
1(劣):版かぶりが広い範囲でみとめられる(着色面積50%以上)
なお、実施可能な評価は3、4および5である。
【0070】
(印刷物濃度)
前記印刷により得られた、実施例1~15、比較例1~4の印刷物を用いて、シャドウ部(100%部)の濃度値およびL*a*b*を測定した。測定にはX-rite eXact(X-rite社製)を使用した。測定パラメータは以下である。
色彩関連値:M0(フィルタなし)
濃度関連値:M0(フィルタなし)
イルミナント/観測者視野:D50/2°
濃度ステータス:ISOステータス E
濃度白色基準:絶対値
評価基準は以下の通りである。
(評価基準・藍(白台紙上)実施例1~10、比較例1~3)
5(優):シアン(C)濃度値が2.0以上
4(良):シアン(C)濃度値が1.8以上~2.0未満
3(可):シアン(C)濃度値が1.6以上~1.8未満
2(不可):シアン(C)濃度値が1.4以上~1.6未満
1(劣):シアン(C)濃度値が1.4未満
(評価基準・白(黒台紙上)実施例11~15、比較例4)
5(優):L*値が70以上
4(良):L*値が68以上~70未満
3(可):L*値が66以上~68未満
2(不可):L*値が64以上~66未満
1(劣):L*値が64未満
なお、実用上使用可能な評価は3、4および5である。
【0071】
(耐ブロッキング性)
上記実施例および比較例でえられた印刷物を4cm×4cmに切り出し、その印刷サンプルと同じ大きさのOPP基材(非処理面)とを接触させて、10kgf/m2の圧力をかけ40℃の保温庫で12時間静置した。サンプルを取り出し、印刷物とOPP基材を剥離した時の、OPP基材へのインキ皮膜の剥離(インキ皮膜とられ)の程度を評価した。
(評価基準)
5(優):印刷物からインキ皮膜の剥離がみられなかった。
4(良):印刷物からインキ皮膜の剥離がわずかに認められ、面積にして5%未満であった。
3(可):印刷物からインキ皮膜の剥離が認められ、面積にして5%以上~10%未満であった。
2(不可):印刷物からインキ皮膜の剥離が認められ、面積にして10%以上50%未満であった。
1(劣):印刷物からインキ皮膜の剥離が認められ、面積にして50%以上であった。
なお、実施可能な評価は3、4および5である。
【0072】
(残留溶剤)
上記実施例および比較例でえられた印刷物を用いて、印刷物に残存する有機溶剤の量を測定した。印刷物を密閉容器につめ30分加温したのち、密閉容器内に充填されている気体に含まれる有機溶剤を、ガスクロマトグラフィー(ジーエルサイエンス株式会社製)にて測定した。評価基準は以下の通りである。
(評価基準)
5(優):残存する有機溶剤量が0.3mg/m2未満
4(良):残存する有機溶剤量が0.3mg/m2以上~0.5mg/m2未満
3(可):残存する有機溶剤量が0.5mg/m2以上~0.7mg/m2未満
2(不可):残存する有機溶剤量が0.7mg/m2以上~0.9mg/m2未満
1(劣):残存する有機溶剤量が0.9mg/m2以上
なお、実用上使用可能な評価は3、4および5である。
【0073】
(ラミネート強度)
上記実施例および比較例でえられた印刷物にイソシアネート系アンカーコート剤(東洋モートン株式会社製 EL557A/B)を塗工後、低密度ポリエチレン「ノバテックLC600A」(日本ポリエチレン株式会社製)を押し出し、同時にポリエチレン基材(三井化学東セロ株式会社製 TUX-FCD 膜厚40μm)を貼り合わせてラミネート加工を行い、実施例および比較例でえられた印刷物を用いた積層体をそれぞれ得た。更に、当該積層体を幅15mmに切出し、印刷された基材とインキ被膜の面で剥がし、引張試験機でラミネート強度の評価を行った。
(評価基準)
5(優):剥離強度が0.9N/15mm以上
4(良):剥離強度が0.7N/15mm以上~0.9N/15mm未満
3(可):剥離強度が0.5N/15mm以上~0.7N/15mm未満
2(不可):剥離強度が0.3N/15mm以上~0.5N/15mm未満
1(劣):剥離強度が0.3N/15mm未満
なお、実用上使用可能な評価は3、4および5である。
【0074】
上記より、実施例に示したセル深度のグラビア版と、実施例に示した組成を有する水性グラビアインキを組み合わせることで、十分な濃度を維持した印刷物をブロッキングなどのトラブルなく高生産効率で得ることができ、かつ良好な物性を発現するラミネート積層体を提供できた。
【0075】
【0076】
【0077】
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、水性グラビアインキを用いた印刷物製造方法としての使用形態として有用である。更には水性グラビアインキの高速印刷方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0079】
1:ドクターブレードのグラビア版に対する接触角度
2:ドクターブレード
3:グラビア版
4:インキ容器