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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】車両の電動駐車ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20240730BHJP
   B60T 13/74 20060101ALI20240730BHJP
   B60T 17/22 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
B60T13/74 H
B60T17/22 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020079922
(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公開番号】P2021172293
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-04-06
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】小谷 将矢
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 賢太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大介
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-203458(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115019(WO,A1)
【文献】特開2019-189190(JP,A)
【文献】特表2014-504711(JP,A)
【文献】特開2016-032993(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60T 13/00-17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気モータによって駆動され、前進方向に移動されることで駐車ブレーキを効かせ、前記前進方向とは逆方向である後退方向に移動されることで前記駐車ブレーキを解除する直動部材と、
前記電気モータを制御するコントローラと、
を備える電動駐車ブレーキ装置において、
前記コントローラは、
前記駐車ブレーキを解除する際に、
前記電気モータへの通電量が解除量未満である場合において前記電気モータへの通電量が一定になった時点から第1所定時間を経過した時点で前記電気モータへの通電を停止する、電動駐車ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動駐車ブレーキ装置において、
前記コントローラは、
前記駐車ブレーキの解除開始時点から第2所定時間を経過した時点で、前記電気モータへの通電が停止されていない場合には、該通電を停止する、電動駐車ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電動駐車ブレーキ装置において、
前記コントローラは、
前記第2所定時間を経過した時点で、前記電気モータへの通電を初めて停止した場合には、運転者に報知を行う、電動駐車ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電動駐車ブレーキ装置において、
前記コントローラは、
前記電気モータへの通電量が一定になった場合には、前記報知を行わない、電動駐車ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両の電動駐車ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ドラムブレーキ内のパーキングレバーが電動アクチュエータの正駆動により復帰位置から作動位置に駆動されてブレーキシューが復帰位置から作動位置に駆動され、前記パーキングレバーが前記電動アクチュエータの逆駆動により作動位置から復帰位置に駆動されてブレーキシューが作動位置から復帰位置に駆動されるように構成されている電動駐車ブレーキ装置に関し、「パーキングブレーキの解除時において、パーキングレバーの戻し不足や戻し過ぎが生じないようにすること」を目的に、「前記電動アクチュエータが、正逆回転駆動可能で、回転負荷に応じてモータ制御手段によって作動を制御される電気モータと、回転運動を直線運動に変換可能で、前記電気モータが正回転する正駆動時には前記パーキングレバーを復帰位置から作動位置に向けて移動可能であり、且つ、前記電気モータが逆回転する逆駆動時には前記パーキングレバーを作動位置から復帰位置に向けて移動可能である変換機構と、前記電気モータの逆回転により、前記パーキングレバーが作動位置から復帰位置に移動した後に、前記変換機構の構成部材を駆動して、同構成部材の駆動量に応じて増大する回転負荷を前記電気モータに付与する負荷付与機構と、を備えていて、前記モータ制御手段が、前記電気モータの逆回転駆動時に前記負荷付与機構によって前記電気モータに付与される回転負荷が設定値以上か否かを判定するための回転負荷判定値を前記電気モータに供給される電流に基づいて演算する演算手段と、前記電気モータの逆回転駆動開始時から設定時間経過後に前記回転負荷判定値が基準値以上であると判定されたとき前記電気モータの逆回転駆動を停止させる逆回転駆動停止手段を備えている」ことが記載されている。
【0003】
詳細には、特許文献1の装置では、負荷付与機構として機能するストッパ277、及び、皿ばね組立体28が設けられる。パーキングレバー17が作動位置から復帰位置に移動した後に、ストッパ27が、連結機構29の第1連結ピン29aと係合して、ロッド22eの復帰方向への軸方向移動が規制される。そして、電気モータ21の逆回転駆動開始時(T=0)から設定時間経過後(T≧T5)に、回転負荷判定値(電流値A)が基準値(Ao+A3)以上であると判定されたときに、電気モータ21の逆回転駆動が停止される。これにより、電気モータ21の逆回転駆動を的確に停止させることができ、負荷付与機構(ストッパ27と皿ばね組立体28)にて要求される回転負荷を小さく設定することが可能である。
【0004】
特許文献1の電動駐車ブレーキ装置では、駐車ブレーキの解除状態に相当する復帰位置においては、ロッドはストッパ等に当接されて、その移動が規制される。つまり、ねじ機構は、或る程度、締め付けられた状態(「拘束状態」ともいう)にある。このため、パーキングレバーが復帰位置にて待機している状態で、駐車ブレーキ指示が行われた場合、作動位置に向けて移動する際に、上記の締め付けを解放するために、電気モータに所定電力が供給される必要がある。電動駐車ブレーキ装置では、このような電力が低減されることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-43798号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、駐車ブレーキ指示が行われた場合において、電気モータの電力消費が低減され得る電動駐車ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電動駐車ブレーキ装置(EP)は、「電気モータ(MT)によって駆動され、前進方向(Ha)に移動されることで駐車ブレーキを効かせ、前記前進方向(Ha)とは逆方向である後退方向(Hb)に移動されることで前記駐車ブレーキを解除する直動部材(TD)」と、「前記電気モータ(MT)を制御するコントローラ(ECU)」と、を備える。そして、前記コントローラ(ECU)は、前記駐車ブレーキを解除する際に、前記電気モータ(MT)への通電量(Ia)が一定になった時点(t3)から第1所定時間(tx1)を経過した時点(t4)で前記電気モータ(MT)への通電を停止する。
【0008】
上記構成によれば、駐車ブレーキが解除されている状態において、電気モータMT、及び、電気モータMTによって駆動される部材(直動部材TD等)は、非拘束状態(拘束されていない状態であり、フリー状態)にあるため、上述した締め付けを解放するための電力供給が不要である。従って、駐車ブレーキ指示が行われた場合において、電気モータの電力消費が低減され得る。加えて、ストッパ等の構成部材が必要とされないため、装置の小型・軽量化が達成され得る。
【0009】
本発明に係る電動駐車ブレーキ装置(EP)では、前記コントローラ(ECU)は、前記駐車ブレーキの解除開始時点(t0)から第2所定時間(tx2)を経過した時点(u4)で、前記電気モータ(MT)への通電が停止されていない場合には、該通電を停止する。
【0010】
極低温では潤滑剤(グリス等)の粘性が大きくなる。該状況下では、電気モータMTのベアリング、動力変換伝達機構(減速機、ねじ機構等)の効率が低下する。その結果、電気モータMTへの通電量Iaが一定になるのに時間を要するため、直動部材TDの戻し過ぎが懸念される。上記構成によれば、駐車ブレーキの解除開始時点からの時間によって、通電停止の時間的なガードが設けられる。これにより、極低温時の潤滑剤の粘性増大等に起因した、直動部材TDの後退方向Hbへの過剰な移動が抑制され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】制動装置DBを説明するための概略図である。
図2】電動駐車ブレーキ装置EPを説明するための概略図である。
図3】解除制御の第1処理例を説明するためのフロー図である。
図4】第1処理例の動作を説明するための時系列線図である。
図5】解除制御の第2処理例を説明するためのフロー図である。
図6】第2処理例の動作を説明するための時系列線図である。
【0012】
<制動装置DB>
図1の概略図を参照して、車両の車輪(例えば、後輪)に制動力を発生させる制動装置DBについて説明する。制動装置DBは、車輪に制動トルクを付与することによって、車輪に制動力を発生させる。例えば、制動装置DBとして、公知のドラム式ブレーキが採用される。以下の説明において、「MT」等の如く、同一記号を付された構成部材、要素、信号、特性等は同一機能のものである。
【0013】
制動装置DBは、車輪に設けられる。制動装置DBによって、車両を減速する制動力(「減速制動力Fx」という)、及び、車両の停車状態を維持する制動力(「駐車制動力Fp」という)が発生される。減速制動力Fxは、ホイールシリンダ(図示せず)内の制動液の圧力(液圧)を動力源にして発生される。また、駐車制動力Fpは、電動アクチュエータ(単に、「アクチュエータ」ともいう)DNを動力源にして発生される。なお、減速制動力Fxはサービスブレーキに、駐車制動力Fpは駐車ブレーキに、夫々、利用される。
【0014】
《サービスブレーキの作動》
制動装置DBは、減速制動力Fxを発生するよう、ブレーキドラムBD、ブレーキシューBSa、BSb、ホイールシリンダ(図示せず)、及び、バッキングプレートBPにて構成される。
【0015】
制動装置DBでは、ブレーキドラムBDが、車輪の回転軸Jkを中心として、車輪と一体となって回転するよう、車輪に固定される。制動装置DBには、2つのブレーキシューBSa、BSbが備えられる。2つのブレーキシューBSa、BSbは、円筒状のブレーキドラムBDの内周面Mnに沿って円弧状に伸ばされている。ブレーキシューBSa、BSbには、ブレーキライニングBL(摩擦材)が焼き付けられている。制動装置DBには、円盤状のバッキングプレートBPが備えられる。バッキングプレートBPの車幅方向外方には、図示しないホイールシリンダ、ブレーキシューBSa、BSb等が配置されている。
【0016】
ホイールシリンダによって、2つのブレーキシューBSa、BSbが、ブレーキドラムBDの内周面Mnに押圧される。これにより、ブレーキシューBSa、BSbに設けられたブレーキライニングBLと、ブレーキドラムBD(特に、内周面Mn)との摩擦によって、ブレーキドラムBDに制動トルクが付与され、その結果、車輪は制動力Fxを発生する。つまり、ホイールシリンダは、走行中の車両減速に用いられる。
【0017】
具体的には、ブレーキシューBSa、BSbの下端部が、2つの回転位置Ja、Jbを中心にして回転可能に、バッキングプレートBPに支持される。ホイールシリンダは、バッキングプレートBPの上端部に支持されている。ホイールシリンダは、車両前後方向に突出可能な2つの可動部(ピストン)を有し、この可動部は、ホイールシリンダ内の制動液の圧力によって、突出される。可動部の突出によって、ブレーキシューBSa、BSbの上端部が押され、ブレーキライニングBLが、ブレーキドラムBDの内周面Mnに押圧される。ブレーキライニングBLと内周面Mnとの摩擦によって、ブレーキドラムBDに制動トルクが付与され、車輪が制動される。
【0018】
なお、制動装置DBは、図示しない復帰部材(例えば、コイルスプリング)が備えられ、この復帰部材によって、ブレーキシューBSa、BSbの押圧が解除された場合には、ブレーキシューBSa、BSbが、ブレーキドラムBDの内周面Mnから離れるように移動される。
【0019】
《駐車ブレーキの作動》
制動装置DBには、駐車制動力Fpを発生するよう、上記の構成部材(ブレーキドラムBD等)に加え、電動アクチュエータDN、駐車レバーPL、駐車ケーブルCB、及び、シューストラットSTが含まれている。
【0020】
電動アクチュエータDNは、ブレーキシューBSa、BSbを駆動するアクチュエータとして、駐車時の制動に用いられる。具体的には、電気モータMTによって駆動される電動アクチュエータDN(単に、「アクチュエータ」ともいう)によって、駐車制動力Fpを発生させるよう、2つのブレーキシューBSa、BSbが移動される。アクチュエータDNの詳細については後述する。なお、アクチュエータDNは、走行中の制動(即ち、サービスブレーキ)に用いられてもよい。
【0021】
駐車レバーPLが、2つのブレーキシューBSa、BSbのうちの一方(例えば、ブレーキシューBSa)と、バッキングプレートBPとの間で、当該ブレーキシューBSa、及び、バッキングプレートBPに重なるように、設けられている。駐車レバーPLは、ブレーキシューBSaに、回転軸Jpを中心として回転可能に支持されている。駐車レバーPLでは、回転軸Jpから遠い側の下端部Pbに、駐車ケーブルCBが接続される。
【0022】
シューストラットSTが、2つのブレーキシューBSa、BSbとの間に設けられる。駐車ブレーキを効かせる際には、アクチュエータDNによって、駐車ケーブルCBが引っ張られる。これにより、駐車レバーPLは、適用方向Da(駐車制動力Fpが増加する方向)に移動される。このとき、駐車レバーPLは、回転軸Jpを中心に回転しようとするため、シューストラットSTが、2つのブレーキシューBSa、BSbとの間で突っ張る。シューストラットSTの突っ張りによって、一方のブレーキシューBSbが押され、その反力によって、他方のブレーキシューBSaが押される。結果、ブレーキシューBSa、BSbのブレーキライニングBLが、ブレーキドラムBDの内周面Mnに押圧され、駐車制動力Fpが発生される。
【0023】
駐車ブレーキを解除する際には、アクチュエータDNによって、駐車ケーブルCBの張力が減少される。これにより、駐車レバーPLは解除方向Db(駐車制動力Fpが減少する方向)に移動される。ブレーキドラムBDの内周面Mnに対するブレーキライニングBLの押圧力が減少される。そして、ブレーキドラムBDの内周面MnとブレーキライニングBLとは、復帰部材によって、最終的には離間される。
【0024】
以上、制動装置DBについて説明したが、より詳細については、「特開2019-116965号公報」に記載されている。
【0025】
<電動駐車ブレーキ装置EP>
図2の部分断面図を含む概略図を参照して、本発明に係る電動駐車ブレーキ装置EPの実施形態について説明する。電動駐車ブレーキ装置EPが備えられる車両には、駐車ブレーキ用スイッチ(単に、「駐車スイッチ」ともいう)SWが設けられる。駐車スイッチSWは、運転者によって操作されるスイッチであり、オン又はオフの信号Sw(「駐車信号」という)が、電子制御ユニットECU(「コントローラ」ともいう)に対して出力される。即ち、運転者が操作する駐車スイッチSWによって、車両の停止状態を維持する駐車ブレーキの作動(適用作動、又は、解除作動)が指示される。具体的には、駐車信号Swのオン状態(ON)で、駐車ブレーキが効くように、その適用(作動)が指示される。逆に、駐車信号Swのオフ状態(OFF)で、駐車ブレーキが効かないように、その解除(作動)が指示される。
【0026】
車両には、複数のコントローラ(電子制御ユニット)が備えられる。これらのコントローラは、信号(検出値、演算等)が共有されるよう、通信バスBSにて接続されている。例えば、コントローラECUには、通信バスBSから、車体速度Vx、加速操作部材(例えば、アクセルペダル)の操作量Ap等が入力される。車体速度Vx、加速操作量Apは、後述する電動駐車ブレーキ装置EPの自動モードに用いられる。なお、以下の説明では、解除制御を含む駐車ブレーキ制御は、コントローラECUにて演算されるが、他のコントローラにて駐車ブレーキ制御(適用制御、解除制御)の処理が行われ、通信バスBSを介してコントローラECUに指示が行われてもよい。
【0027】
車両には、報知ユニットHCが設けられる。報知ユニットHCは、運転者に対して、電動駐車ブレーキ装置EPの不調状態を報知するものである。報知ユニットHCは、コントローラECUからの報知信号Hcに基づいて、視覚的(例えば、インジケータ点灯)、聴覚的(例えば、報知音)に、運転者に対して報知を行う。
【0028】
電動駐車ブレーキ装置EPは、アクチュエータDN、及び、コントローラECUにて構成される。アクチュエータDNは、電気モータMTによって、駐車制動力Fpを発生する。電動アクチュエータDNの詳細については、制動装置DBと同様に、「特開2019-116965号公報」に記載されている。以下、アクチュエータDNについて簡単に説明する。なお、本発明に係る電動駐車ブレーキ装置EPの特徴部は、コントローラECUにプログラムされた制御アルゴリズムである。
【0029】
《電動アクチュエータDN》
電動アクチュエータDNは、バッキングプレートBPに対してブレーキシューBSa、BSbとは反対側に、バッキングプレートBPの車幅方向の内側面に固定される。アクチュエータDNからは、駐車ケーブルCBが伸ばされる。駐車ケーブルCBは、バッキングプレートBPに設けられた貫通孔を貫通し、駐車レバーPL(特に、下端部Pb)に接続されている。
【0030】
アクチュエータDNは、ハウジングHG、電気モータMT、減速機GS、運動変換機構HN、駐車ケーブルCB、及び、エンド部材ENを備えている。ハウジングHGは、電気モータMT、減速機GS、及び、運動変換機構HNを支持するとともに、これらの構成部材を覆っている。電気モータMTは、駐車制動力Fpを発生すために動力源である。電気モータMTは、コントローラECUによって駆動される。
【0031】
減速機GSは、複数のギヤにて構成される。例えば、減速機GSは、大径ギヤDK、及び、小径ギヤSKを含んでいる。電気モータMTの出力シャフトSFには、小径ギヤSKが固定される。小径ギヤSKには、大径ギヤDKが噛み合わされる。電気モータMTの出力(即ち、出力シャフトSFの回転動力)は、減速機GSを介して、減速される。減速された電気モータMTの回転動力は、動力変換機構HNに入力される。
【0032】
動力変換機構HNは、回転部材KT、直動部材TD、及び、回り止め部材MDにて構成される。回転部材KTには、大径ギヤDKが固定される。従って、回転部材KTは、大径ギヤDKと一体となって回転駆動される。回転部材KTは、円筒形状を有し、その外周部には、雄ねじOjが形成される。回転部材KTは、「ボルト部材」である。
【0033】
回転部材KTの雄ねじOjは、直動部材TDの雌ねじMjに螺合される。具体的には、直動部材TDは、筒形形状を有し、その内周部(貫通孔の内側)には雌ねじMjが形成されている。直動部材TDは、「ナット部材」である。動力変換機構HNでは、回転部材KT(ボルト部材)と直動部材TD(ナット部材)とが噛み合わされて、電気モータMTの回転動力が、直線動力に変換される。ここで、動力変換機構HNとして、セルフロックするもの(逆効率がゼロである機構)が採用される。
【0034】
回り止め部材MDによって、直動部材TDの回転運動が規制される。即ち、回り止め部材MDによって、直動部材TDの回り止めがなされ、直動部材TDの直線移動がガイドされる。例えば、直動部材TDの外周部には、フランジ部Flが設けられ、このフランジ部Flには、少なくとも1つの2面取りが形成されている。回り止め部材MDは筒形状を有し、その内面が、フランジ部Flの2面取りに嵌め合い可能なように加工されている。フランジ部Flの2面取り部分(平面)と、回り止め部材MDの2面取り部分(平面)とが摺動することによって、直動部材TDの回転運動が規制される。これにより、回り止め部材MDは、回転部材KTの回転軸Jnに沿って、直線移動される。回り止め部材MDには、大径ギヤDKが固定された側とは反対側に、端面Mbが形成されている。
【0035】
駐車ケーブルCBは、回転部材KTの内周面(貫通孔)を貫通し、回転軸Jnの方向に延ばされている。駐車ケーブルCBの一端は、ブレーキシューBSa、BSbを作動させるよう、可動部材である駐車レバーPLに結合されている。駐車ケーブルCBの他端には、エンド部材ENが結合される。エンド部材ENは、筒状部とフランジ部とを有している。エンド部材ENの筒状部が外側から加締められることにより、駐車ケーブルCBとエンド部材ENとは接合(固定)される。エンド部材ENのフランジ部(特に、端面Ma)は、直動部材TDの端部Mcよりも、径方向外方に張り出し、端部Mcに当接可能である。また、該フランジ部(特に、端面Ma)は、回り止め部材MDの端面Mbに当接可能である。
【0036】
図2において、回転部材KTの回転軸Jn(一点鎖線)に対して左側に示す状態(a)は、電気モータMTが駆動され、駐車ケーブルCBに張力が加えられた状態を図示する。状態(a)では、ブレーキシューBSa、BSbがブレーキドラムBDに押圧され、電動駐車ブレーキ装置EPによって車輪が拘束されている(即ち、車輪に駐車制動力Fpが加えられる状態である)。該状態(a)が、「適用状態」と称呼され、駐車ブレーキが効いている状態である。
【0037】
図2において、回転部材KTの回転軸Jnに対して右側に示す状態(b)は、駐車ケーブルCBへの張力が解放された状態を図示する。ここで、エンド部材ENと直動部材TDとは、一体化されておらず、軸方向に分離可能に構成されている。状態(b)では、ブレーキシューBSa、BSbはブレーキドラムBDから離れていて、車輪には駐車制動力Fpが作用しない。該状態(b)が、「解放状態」と称呼され、駐車ブレーキが効いていない状態である。
【0038】
《コントローラECU》
コントローラECU(電子制御ユニット)によって、電気モータMTが制御され、アクチュエータDNが駆動される。コントローラECUは、マイクロプロセッサMP等が実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサMPにプログラムされた制御アルゴリズムと、が含まれている。マイクロプロセッサMP内の制御アルゴリズムに基づいて、電気モータMTを制御するための駆動信号Mtが演算される。また、コントローラECUには、電気モータMTを駆動するよう、駆動回路DRが備えられる。駆動回路DRでは、スイッチング素子(MOS-FET、IGBT等のパワー半導体デバイス)によってブリッジ回路が形成される。各スイッチング素子の通電状態が、駆動信号Mtに応じて制御され、電気モータMTの出力が制御される。駆動回路DRには、電気モータMTの実際の通電量Iaを検出する通電量センサIAが備えられる。例えば、通電量センサIAとして、電流センサが採用され、電気モータMTへの供給電流Iaが検出される。
【0039】
駐車ブレーキの適用作動(即ち、駐車ブレーキが効くように、解除状態(b)から適用状態(a)への遷移)について説明する。駐車ブレーキが適用される際のアクチュエータDNの制御が「適用制御」と称呼される。駐車スイッチSWが操作され、駐車信号Swが、オフからオンに切り替えられると、電気モータMTに通電が開始される。電気モータMTは正転方向に回転駆動され、この回転動力は、減速機GSを介して、回転部材KTに伝達される。回転部材KTの回転動力は、直動部材TDの直線動力に変換される。ここで、直動部材TDは、回り止め部材MD(特に、フランジ部Flの2面取り部と内周部Mm)によって、回転軸Jnに沿った動き(前進方向Haへの移動)にガイドされる。直動部材TDの前進方向Haは、電気モータMTの正転方向、及び、駐車レバーPLの適用方向Daに対応している。回転部材KTの端部Mcとエンド部材ENの端面Maとが当接していない状態では、駐車ケーブルCBには張力がかからない。従って、電気モータMTでは、回転部材KT、直動部材TD、回り止め部材MD等の動きに対する摩擦力(摺動摩擦)に応じた出力が発生される。
【0040】
駐車ケーブルCBとエンド部材ENとは固定されているため、回転部材KTの端部Mcとエンド部材ENの端面Maとが当接すると、駐車ケーブルCBに張力が生じる。エンド部材ENが、前進方向Haに移動されることによって、駐車ケーブルCBの張力は増加され、駐車レバーPLの下端部Pbは、適用方向Daに移動される。これにより、ブレーキドラムBDに対するブレーキライニングBLの押圧力が増加され、駐車制動力Fpが増加される。電気モータMTのトルク出力は、通電量Iaと概ね比例するため、通電量Iaが適用量izに到達する時点で、電気モータMTへの通電が停止される。ここで、適用量izは、予め設定された所定値(定数)である。動力変換機構HNはセルフロックするため、電気モータMTに通電が行われなくなっても、駐車ケーブルCBの張力は維持され、駐車ブレーキが効いた状態(即ち、適用状態)が維持される。
【0041】
次に、駐車ブレーキの解除作動(即ち、駐車ブレーキが効かないように、適用状態(a)から解除状態(b)への遷移)について説明する。駐車ブレーキが解除される際のアクチュエータDNの制御が「解除制御」と称呼される。駐車スイッチSWが操作され、駐車信号Swが、オンからオフに切り替えられると、電気モータMTに通電が開始される。電気モータMTは逆転方向に回転駆動される。電気モータMTの回転動力によって、直動部材TDは、後退方向Hbに移動される。これにより、駐車ケーブルCBの張力が減少され、駐車制動力Fpが減少される。そして、エンド部材ENの端面Maが、回り止め部材MDの端部Mbに当接する。ここまでは、エンド部材ENと直動部材TDとは一体となって移動される。なお、直動部材TDの後退方向Hbは、電気モータMTの逆転方向、及び、駐車レバーPLの解除方向Dbに対応している。
【0042】
更に、電気モータMTが逆転方向に駆動されると、エンド部材ENと直動部材TDとが、離間(分離)される。これにより、駐車ケーブルCBの張力は、略ゼロにされる。これ以降、電気モータMTは、時間に基づいて逆転方向に駆動される。そして、直動部材TDの端部Mk(端部Mcとは反対側)と、回転部材KTの部位Mdとが、或る程度の距離(即ち、隙間Lr)を有した状態で、電気モータMTへの通電が停止され、直動部材TDの後退方向Hbの移動が停止される。換言すれば、直動部材TDの移動停止時に、直動部材TDの端部Mkと回転部材KTの部位Mdとの隙間を有していて、ストッパ等が不要な構成にされている。
【0043】
<解除制御の第1処理例>
図3のフロー図を参照して、解除制御の第1処理例について説明する。ここで、「解除制御」は、駐車ブレーキが、効いている適用状態から、効いていない解除状態に遷移させるため(即ち、駐車ブレーキの解除作動するため)の電気モータMTの駆動制御である。解除制御は、駐車信号Swが、オンからオフに切り替えられた時点で開始される。解除制御では、電気モータMTへの通電(例えば、負電圧の印加)が行われ、電気モータMTが逆転方向に駆動される。
【0044】
ステップS110にて、実際の通電量Iaを含む各種信号が読み込まれる。例えば、通電量Ia(実際値)は、駆動回路DRに設けられた通電量センサIAによって検出される。また、通電量センサIAは、電気モータMTに内蔵されていてもよい。
【0045】
ステップS120にて、「電気モータMTへの通電量Iaが一定であるか、否か」が判定される。該判定は、通電量Iaが一定状態であることを判定するものであり、「一定判定」と称呼される。例えば、通電量Iaの一定状態は、通電量Iaが、予め設定された所定の範囲内(判定量ihの範囲内)に収まった状態が、所定の時間th(「判定時間」という)に亘って継続された時点で判定される。また、通電量Iaの一定状態は、通電量Iaにおいて、時間Tについての変化量dIが判定変化量dx以下である状態が、判定時間thに亘って維持された時点で判定されてもよい。ここで、判定量ih、判定時間th、及び、判定変化量dxは予め設定された所定値(定数)である。
【0046】
通電量Iaが一定状態となった状態は、「駐車ケーブルCBの張力が略ゼロになり、ブレーキライニングBL(摩擦材)とブレーキドラムDB(車輪と一体となって回転する車輪部材であり、摩擦材と接触する部材)とが、略接触しなくなった状態」に対応している。従って、一定状態にて供給される通電量Iaは、電気モータMT(ベアリング等)、動力伝達部材(減速機GS、動力変換機構HN等)の摩擦(摺動摩擦)に起因する値に相当する。
【0047】
一定判定のロバスト性が向上されるよう、「通電量Iaが解除量ix未満であること」が許可条件として、一定判定の条件に加えられてもよい。例えば、動力伝達部材(減速機GS、動力変換機構HN等)の伝達効率が低下した場合には、通電量Iaの時間Tに対する減少量(「低下勾配」という)が小さくなり、ブレーキライニングBLがブレーキドラムBDに、未だ接触している状態であっても、通電量Iaの一定状態が判定される場合が生じ得る。従って、「Ia≧ix」の状態では、一定判定の実行が禁止され、「Ia<ix」の状態になった場合に限って、一定判定の実行が許可される。ここで、解除量ixは、予め設定された所定値(定数)である。解除量ixは、通常状態(常温)において電気モータMTが無負荷で駆動される場合(即ち、電気モータMT、減速機GS、回転部材KT、直動部材TD、回り止め部材MD等の摺動摩擦)に相当する通電量よりも、僅かに大きい値に設定される。
【0048】
ステップS120にて、「通電量Iaが一定であること」が否定される場合には、処理は、ステップS110に戻される。一方、「通電量Iaが一定であること」が肯定される場合には、処理は、ステップS130に進められる。
【0049】
ステップS130にて、第1継続時間Tk1が演算される。第1継続時間Tk1は、ステップS120が初めて肯定された時点(該当する演算周期)からの時間である。換言すれば、第1継続時間Tk1は、通電量Iaが一定でない状態から、通電量Iaが一定である状態に切り替わった(遷移した)時点から経過した時間である。
【0050】
ステップS140にて、「第1継続時間Tk1が第1所定時間tx1以上であるか、否か」が判定される。ここで、第1所定時間tx1は、予め設定された所定値(定数)である。「Tk1<tx1」であり、ステップS140が否定される場合には、処理は、ステップS110に戻される。一方、「Tk1≧tx1」であり、ステップS140が肯定される場合には、処理は、ステップS150に進められる。
【0051】
ステップS150にて、電気モータMTへの電圧の印加が停止され、通電が停止される。即ち、ステップS150にて、解除制御が終了される。
【0052】
以上で説明したように、電動駐車ブレーキ装置EPでは、駐車ブレーキが解除される際には、電気モータMTへの通電量Iaが一定になった時点から第1所定時間tx1を経過した時点(対応する演算周期)で電気モータMTへの通電が停止される。これにより、直動部材TDの後退方向Hbへの移動が終了され、直動部材TDは静止する。このとき、直動部材TDの端部Mkと回転部材KTの部位Mdとは、隙間Lrを有し、接触していない。換言すれば、電動駐車ブレーキ装置EPの解除制御は時間Tに応じて行われるため、ストッパ等の移動制限部材に対する当接によって、直動部材TDの後退方向Hbへの移動が規制される必要がない。
【0053】
従って、電動駐車ブレーキ装置EPが解除されている状態において、電気モータMT、及び、電気モータMTによって駆動される部材(直動部材TD、回転部材KT等)は、非拘束状態(フリー状態)にある。具体的には、駐車ブレーキの解除状態(即ち、駐車ブレーキが効いていない状態)において、動力変換機構HNの雄ねじOjと雌ねじMjとが締め付けられることがない。このため、再度、駐車ブレーキ指示が行われ、電動駐車ブレーキ装置EPの適用制御が開始される際に、この締め付けを解除(解放)するための電力供給が不要であり、電気モータMTの電力が低減され得る。このことから、本発明に係る電動駐車ブレーキ装置EPでは、装置の省電力化が図られる。更に、直動部材TDの移動制限部材が省略可能であるため、装置の小型・軽量化が達成され得る。
【0054】
<第1処理例の動作>
図4の時系列線図(時間Tに対する状態量Iaの変化)を参照して、解除制御の第1処理例の動作について説明する。なお、通電量Ia(例えば、電流値)の正符号(+)は、電気モータMTの逆転方向(結果、直動部材TDの後退方向Hb、駐車レバー下端部Pbの解除方向Db)の動きに対応している。線図では、上述した「Ia<ix」の許可条件が設けられているが、該条件は省略することができる。
【0055】
駐車スイッチSWがオン状態からオフ状態にされ、時点t0にて、電気モータMTが逆転するように、負の電圧が電気モータMTに印加される。これにより、電気モータMTへの通電が開始される。少なくとも時点t1までは、エンド部材ENと直動部材TDとは当接していて、駐車ケーブルCBには張力が作用している。電気モータMTの逆転により、駐車ケーブルCBの張力は徐々に減少され、通電量Iaは減少していく。
【0056】
時点t1にて、通電量Iaが解除量ix未満になる。ここで、禁止されていた通電量Iaの一定判定が許可される。時点t2にて、初めて、通電量Iaが一定となったことが判定される(ここで、通電量Iaの一定状態は、未だ継続されてはいない)。通電量Iaが一定になったことは、通電量Iaが所定範囲ih(判定量であって、予め設定された所定の定数)の内側に収まっていることによって判定される。また、通電量Iaの時間変化量(時間微分値)dIが、判定変化量dx(予め設定された所定の定数)以下であることによって判定されてもよい。時点t2にて、制動装置DBにおいては、ブレーキライニングBLと、ブレーキドラムBD(特に、内周面Mn)とが、略、接触しなくなる。
【0057】
時点t2から判定時間th(予め設定された定数)だけ経過した時点t3にて、通電量Iaの一定状態が判定される。即ち、ステップS120が満足される。この時点t3から第1継続時間Tk1の演算(継続時間の積算)が開始される。時点t3から第1所定時間tx1(予め設定された定数)だけ経過した時点t4にて、電気モータMTへの負電圧の印加が中止され、通電が停止される。つまり、解除制御が終了され、電流値Iaがゼロにされる。解除制御の終了に伴い、直動部材TDの移動が停止される。このとき、直動部材TDと回転部材KTとは隙間を有している。
【0058】
引用文献1の装置では、直動部材TDがストッパ等に当接した際の通電量Iaの増加に基づいて解除制御が終了されるが、本発明に係る電動駐車ブレーキ装置EPの解除制御では、通電量Iaが一定になった後の時間Tに基づいて解除制御が終了される。このため、ストッパ等の構成要素が不要であるため、装置構成が簡素化される。加えて、再度、駐車ブレーキ指示が行われた際に、直動部材TDがストッパ等に当接される際の動力変換機構HNにおける締め付け(例えば、ねじOj、Mjの締結力)を解放するための電気モータMTの電力が必要とされない。このため、該締め付けを解放するトルクに相当する分が省電力化され得る。
【0059】
<解除制御の第2処理例>
図5のフロー図を参照して、解除制御の第2処理例について説明する。例えば、極低温時には動力伝達部材(減速機GS、動力変換機構HN、ベアリング、等)に塗布されている潤滑剤(グリス等)の粘度が増加し、動力伝達部材の効率が極端に低下する場合が生じ得る。解除制御の第2処理例は、このような状況において、直動部材TDの戻り過ぎを抑制するものである。具体的には、電動駐車ブレーキ装置EPでは、直動部材TDの後退方向Hbのストッパ等(移動制限のための部材)が省略されているが、第2処理例は、直動部材TDと回転部材KTとの接触を、確実に回避するためのものである。なお、第2処理例において、第1処理例と同じ符号を付与された処理ステップは、第1処理例と同一の演算処理を行うものである。
【0060】
第2の処理例でも、解除制御は、駐車信号Swが、オンからオフに切り替えられた時点で開始される。そして、該時点で、電気モータMTへの通電(例えば、電圧印加)が行われ、電気モータMTが逆転方向に駆動される。
【0061】
ステップS110にて、通電量Iaが読み込まれる。ステップS115にて、第2継続時間Tk2が演算される。第2継続時間Tk2は、駐車ブレーキの解除開始時点(該当する演算周期)からの時間である。ここで、「解除開始時点」は、「駐車ブレーキの解除指示が開始された時点」である。例えば、該時点は、駐車スイッチSWが、オン状態からオフ状態に切り替えらえた時点(つまり、駐車信号Swのオン信号がオフ信号に遷移した時点)である。また、「解除開始時点」は、「電気モータへの通電が開始された時点」であってもよい。この場合、コントローラECUとは別のコントローラにて、駐車ブレーキ制御の処理が行われ、通信バスBSを通して、コントローラECUに対して、電気モータMTの通電開始の指示が行われる。何れにしても、ステップS115では、第2継続時間Tk2が、積算されて、決定される。
【0062】
ステップS120にて、「通電量Iaが一定であるか、否か(一定判定)」が判定される。上述したように、通電量Iaの一定状態は、「通電量Iaが予め設定された所定の範囲内(判定量ihの範囲内)に収まった状態が、判定時間thに亘って継続された時点」、又は、「通電量Iaの時間変化量dIが判定変化量dx以下である状態が、判定時間thに亘って維持された時点」にて判定される。ここで、判定量ih、判定時間th、及び、判定変化量dxは予め設定された所定値(定数)である。同様に、ステップS120では、一定判定のロバスト性が向上されるよう、「通電量Iaが解除量ix未満」の許可条件が採用され得る。解除量ixは、電気モータMTの無負荷駆動に相当する通電量よりも、僅かに大きい値に設定される。ステップS120にて、通電量Iaが一定状態ではない場合には、処理は、ステップS142に進められる。一方、通電量Iaが一定状態である場合には、処理は、ステップS130に進められる。
【0063】
ステップS130にて、第1継続時間Tk1が演算される。第1継続時間Tk1は、ステップS120が初めて肯定された時点(該当する演算周期)からの時間であり、第1継続時間Tk1は、通電量Iaが一定でない状態から、通電量Iaが一定である状態に切り替わった(遷移した)時点を基準に、時間Tが順次積算されて決定される。
【0064】
ステップS140にて、「第1継続時間Tk1が第1所定時間tx1以上であるか、否か」が判定される。ここで、第1所定時間tx1は、予め設定された所定値(定数)である。「Tk1<tx1」であり、ステップS140が否定される場合には、処理は、ステップS142に進められる。一方、「Tk1≧tx1」であり、ステップS140が肯定される場合には、処理は、ステップS150に進められる。
【0065】
ステップS142にて、「第2継続時間Tk2が第2所定時間tx2以上であるか、否か」が判定される。ここで、第2所定時間tx2は、予め設定された所定値(定数)である。「Tk2<tx2」であり、ステップS142が否定される場合には、処理は、ステップS110に戻される。一方、「Tk2≧tx2」であり、ステップS142が肯定される場合には、処理は、ステップS144に進められる。
【0066】
ステップS144にて、「電気モータMTへの通電量Iaが一定であるか、否か(一定判定であって、ステップS120と同じ処理)」が判定される。通電量Iaが一定であり、ステップS144が肯定される場合には、処理は、ステップS150に進められる。一方、通電量Iaが一定ではなく、ステップS144が否定される場合には、処理は、ステップS146に進められる。
【0067】
ステップS146にて、運転者に対しての報知が行われる。該処理が、「報知処理」と称呼される。報知処理によって、電動駐車ブレーキ装置EPが適正には作動していない状態(例えば、動力伝達機構の効率低下)が、運転者に知らされる。該報知は、報知ユニットHCを介して、視覚的、及び/又は、聴覚的に行われる。報知処理が行われた後に、処理は、ステップS150に進められる。
【0068】
ステップS150にて、電気モータMTへの電圧の印加が停止され、通電が停止される。つまり、解除制御が終了され、直動部材TDの後退方向Hbへの移動が停止される。第1処理例と同様に、解除制御終了の時点で、直動部材TDの端部Mkと回転部材KTの部位Mdとは隙間を有している。第2処理例でも、第1処理例と同様の効果(省電力化、及び、軽量・小型化)を奏する。
【0069】
更に、第2処理例では、駐車ブレーキの解除開始時点(解除指示が行われた時点、又は、電気モータへの通電が開始された時点)から第2所定時間tx2を経過した時点で、電気モータMTへの通電が停止されていない場合には、電気モータMTへの通電が停止される。つまり、駐車ブレーキの解除開始時点からの時間(台2継続時間)Tk2によって、通電停止の時間的なガードが設けられる。これにより、極低温時の潤滑剤の粘性増大等に起因した、直動部材TDの戻し過ぎ(例えば、直動部材TDと回転部材KTとの隙間不足)が抑制される。なお、該状況が生じている場合には、報知ユニットHCを通して運転者に該状況が報知される。
【0070】
<報知処理>
報知処理において、ステップS144の処理(即ち、一定判定の処理)が省略され得る。この場合、運転者への報知は、電気モータMTへの通電が、「Tk2≧tx2」であること(「第2継続時間の条件」という)に応じて、初めて停止された場合に行われる。
【0071】
しかしながら、報知処理には、ステップS144の処理が設けられることが望ましい。つまり、運転者への報知は、「第2継続時間の条件が満足された場合」、且つ、「該時点で通電量Iaの一定状態が否定される場合(通電量Iaが一定ではない場合)」に限って行われる。通電量Iaが一定である場合には、伝達効率の低下等は生じているが、ブレーキライニングBLとブレーキドラムBDとの接触が解除されている。該状態では、解除作動後に車両が動いても、ブレーキの引き摺りが生じ難いため、運転者への報知が行われない。ステップS144の一定条件が否定された場合にのみ報知が行われるため、運転者への不必要な報知が回避され得る。
【0072】
更に、ステップS144において、「通電量Iaが報知量iy未満である」ことの条件が付与されてもよい。つまり、報知処理は、「第2継続時間の条件が満足された場合」であって、「通電量Iaが一定ではない場合」、及び、「通電量Iaが報知量iy以上である場合」のうちの少なくとも1つに該当する場合には、運転者への報知が行われる。一方、「第2継続時間の条件が満足された場合」であっても、「通電量Iaが一定」、且つ、「通電量Iaが報知量iy未満」である場合に限っては、運転者への報知が行われない。ここで、報知量iyは、予め設定された所定値(定数)であって、電気モータMTが無負荷で駆動される場合(即ち、電気モータMT、減速機GS、回転部材KT、直動部材TD、回り止め部材MD等の摺動摩擦)に相当する通電量よりも、僅かに大きい値に設定され得る。例えば、報知量iyは、解除量ixと同じ値に設定されてもよい。
【0073】
伝達効率が低下した場合には、通電量Iaの時間Tに対する低下勾配が小さくなり、ブレーキライニングBLがブレーキドラムBDに、未だ接触している状態であっても、通電量Iaの一定状態が判定される場合が生じ得る。該状況では、ブレーキの引き摺りが生じ得るため、報知処理が行われる方が望ましい。従って、報知処理が行われない条件として、「通電量Iaが一定である場合」、且つ、「通電量Iaが報知量iy未満である場合」が採用され得る。結果、報知のロバスト性が向上され、不必要な報知が抑制されつつ、必要な報知は確実に行われる。
【0074】
<第2処理例の動作>
図6の時系列線図(時間Tに対する通電量Iaの変化)を参照して、解除制御の第2処理例の動作について説明する。線図では、極低温時であって、動力伝達部材の効率が極端に低下した場合(「効率低下時」と表記)が想定されている。なお、常温下で、電動駐車ブレーキ装置EPが適正に作動する状況(「通常時」と表記)が一点鎖線で図示されている。ここで、時点t0、t1、t4の夫々は、図4の時系列線図の時点t0、t1、t4の夫々に対応している。図4と同様に、通電量Ia(例えば、電流値)の正符号(+)は、電気モータMTの逆転方向(結果、直動部材TDの後退方向Hb、駐車レバー下端部Pbの解除方向Db)の動きに対応している。線図では、上述した「Ia<ix」の許可条件が設けられているが、該条件は省略することができる。
【0075】
時点t0にて、電気モータMTが逆転するように、電気モータMTに電圧が印加され始める。これにより、電気モータMTへの通電(電力供給)が開始される。ここで、時点t0から、第2継続時間Tk2の演算(積算)が開始される。解除開始時点t0は、駐車ブレーキの解除指示が開始された時点(駐車信号Swがオン状態からオフ状態に切り替わった時点)である。或いは、解除開始時点t0は、電気モータへの通電開始が指示された時点であってもよい。時点t0以降、時間T(演算周期)が順次積算されて、第2継続時間Tk2が演算される。
【0076】
時点t0からは、電気モータMTの逆転により、駐車ケーブルCBの張力は徐々に減少され、通電量Iaが減少される。常温であれば、時点t1にて、「Ia<ix」が満足されるが、動力伝達部材の効率が低下し、上記の低下勾配が減少しているため、「Ia<ix」は、時点t1から遅れて、時点u1にて達成される。そして、時点u1にて、「Ia<ix」となり、禁止されていた通電量Iaの一定判定が許可される。
【0077】
時点u2にて、初めて、通電量Iaが一定となったことが判定される(ここで、通電量Iaの一定状態は、未だ継続されてはいない)。時点u2から判定時間th(予め設定された定数)だけ経過した時点u3にて、通電量Iaの一定状態が判定される。即ち、ステップS120が満足される。この時点u3から第1継続時間Tk1の演算(継続時間の積算)が開始される。
【0078】
時点u4の直前では、第1継続時間Tk1が、未だ、第1所定時間tx1には達していないため、電気モータMTへの通電は継続されている。時点u4にて、第2継続時間Tk2が第2所定時間tx2に達する。これにより、ステップS140の条件が満足され、電気モータMTへの負電圧の印加が中止され、通電が停止される(電流値Iaがゼロにされる)。つまり、解除制御が終了され、直動部材TDの移動が停止される。例えば、第2継続時間Tk2が採用されない場合には、時点t4(時点u3から第1所定時間tx1を経過した時点)にて通電停止が行われるが、第2継続時間Tk2が採用されることにより、時点t4よりも事前(早期)の時点u4にて通電停止が行われる。即ち、第2継続時間Tk2によって、直動部材TDを戻す際の時間的なガードが設けられ、電気モータMTへの通電停止が早めに行われる。なお、想定された状況では、ステップS144にて、通電量Iaが一定であることが判定されるため、時点u4では、報知処理が行われない。
【0079】
動力伝達部材の効率が低下すると、一定判定が時間的に遅れる。第1継続時間Tk1のみに応じて解除制御の判定が行われると、直動部材TDが戻され過ぎる場合が生じ得る。該状況を回避するため、第2継続時間Tk2に係る条件(時間的なガード処理)が採用される。具体的には、「第1継続時間Tk1が第1所定時間tx1以上であること」、及び、「第2継続時間Tk2が第2所定時間tx2以上であること」のうちの少なくとも1つが満足される時点にて、解除制御が終了され、電気モータMTへの通電が停止される。つまり、「Tk1≧tx1」が満足されずに直動部材TDが後退方向Hbに戻されている状況であっても、「Tk2≧tx2」が満足されることによって、電気モータMTへの通電が停止される。第2処理例では、第1処理例の効果(装置の省電力化、小型・軽量化)に加え、直動部材TDの戻し過ぎ(後退方向Hbへの過剰な移動)が抑制され、直動部材TDと回転部材KTとの接触が確実に回避され得る。
【0080】
<他の実施形態>
以下、電動駐車ブレーキ装置EPの他の実施形態について説明する。他の実施形態でも、上記同様の効果を奏する。
【0081】
上記の実施形態では、駐車スイッチSWの操作に応じた電動駐車ブレーキ装置EPの作動(適用作動/解除作動)について説明した。電動駐車ブレーキ装置EPの適用/解除(作動)は、駐車スイッチSWの操作に代えて自動で行われてもよい。電動駐車ブレーキ装置EPの作動が自動的に行われる状況が「自動モード」と称呼される。自動モードでは、例えば、車両が停止した際に、電動駐車ブレーキ装置EPが自動で適用作動(即ち、適用制御が実行)され、駐車制動力Fpが発生(付与)される。また、運転者によって、加速操作部材(アクセルペダル等)が操作され、操作量Apが「0(ゼロ)」から増加した際に、電動駐車ブレーキ装置EPが自動で解除作動(即ち、解除制御が実行)され得る。自動モードは、通信バスBSを介して、コントローラECUにて取得された車体速度Vx、加速操作量Apによって実行される。
【0082】
自動制動装置が備えられる車両では、運転者が操作を行うことなく電動駐車ブレーキ装置EPの自動モードが実行されてもよい。例えば、渋滞時等の運転を支援するよう、先行車を検知して車体速度Vxを自動調節される。そして、先行車が停止した際は車間距離を保ったまま自動で停止し、電動駐車ブレーキ装置EPが自動的に適用作動される。その後、先行車が発進した場合には、自動的に電動駐車ブレーキ装置EPが自動的に解除作動され、先行車に追従するように、自車の車体速度Vxが調整される。
【符号の説明】
【0083】
EP…電動駐車ブレーキ装置、SW…駐車スイッチ、BS…通信バス、HC…報知ユニット、DB…制動装置、BD…ブレーキドラム、BSa、BSb…ブレーキシュー、BL…ブレーキライニング、ST…シューストラット、CB…駐車ケーブル、PL…駐車レバー、BP…バッキングプレート、DN…電動アクチュエータ、MT…電気モータ、GS…減速機、KT…回転部材、TD…直動部材、MD…回り止め部材、EN…エンド部材、ECU…コントローラ、MP…マイクロプロセッサ、DR…駆動回路、IA…通電量センサ(例えば、電流センサ)、Tk1…第1継続時間、Tk2…第2継続時間、Ia…通電量(例えば、電流値)。


図1
図2
図3
図4
図5
図6