IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ブリヂストンスポーツ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ゴルフボール
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/00 20060101AFI20240730BHJP
   C08L 75/00 20060101ALI20240730BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
A63B37/00 326
A63B37/00 314
A63B37/00 322
A63B37/00 316
A63B37/00 328
A63B37/00 338
C08L75/00
C08L67/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020096539
(22)【出願日】2020-06-03
(65)【公開番号】P2021186411
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】592014104
【氏名又は名称】ブリヂストンスポーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山邊 将大
【審査官】田中 洋行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-010432(JP,A)
【文献】特開2017-012739(JP,A)
【文献】特開2013-048805(JP,A)
【文献】米国特許第08696494(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00-47/04
C08L 75/00
C08L 67/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層のゴム製コアと、該コアを被覆する少なくとも1層のカバーを具備するゴルフボールにおいて、上記カバーの少なくとも1層は、下記(A)及び(B)成分
(A)ポリウレタン又はポリウレア
(B)熱可塑性ポリエステルエラストマー
を含有した樹脂組成物により形成され、上記(B)成分の200℃・剪断速度243(1/sec)における溶融粘度が0.2×10 4 ~1.0×10 4 (dPa・s)であり、上記(B)成分の配合割合が樹脂組成物の全量中45質量%以下であるとともに、上記樹脂組成物は、そのショアD硬度が42以下であり、その樹脂組成物の反発弾性率が、JIS-K 6255:2013規格の測定で60~72%であることを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】
上記樹脂組成物の反発弾性率が、JIS-K 6255:2013規格の測定で62~70%である請求項1記載のゴルフボール。
【請求項3】
上記(A)成分の樹脂材料は、そのショアD硬度が45以下であり、その反発弾性率が、JIS-K 6255:2013規格の測定で55%以上である請求項1又は2記載のゴルフボール。
【請求項4】
上記(B)成分の樹脂材料は、そのショアD硬度が35以下であり、その反発弾性率が、JIS-K 6255:2013規格の測定で65%以上である請求項1~3のいずれか1項記載のゴルフボール。
【請求項5】
上記カバーは、中間層及び最外層からなる2層構造である請求項1~4のいずれか1項記載のゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1層のコアと、少なくとも1層のカバーを有するゴルフボールに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールの要求特性は、主に飛距離の増大であるが、そのほかには、アプローチショット時にはボールが良く止まる性能や耐擦過傷性がある。即ち、今までは、ドライバー打撃時はよく飛び、アプローチショット時にはバックスピンが好適にかかるゴルフボールが多く開発されている。最近では、プロや上級者向きとして、アイオノマー樹脂材料に代わるものとしてウレタン樹脂材料を採用するものが多くなっている。特に、ウレタン樹脂材料として、熱可塑性ウレタンエラストマーを採用することが多くなっており、その諸物性は年々グレードアップされている。この熱可塑性ウレタンエラストマーをベース樹脂としつつ、他の樹脂や添加剤を配合することにより、更なるカバー樹脂組成物の諸物性を改善する技術がいくつか提案されている。
【0003】
しかしながら、熱可塑性ウレタンエラストマーを他の樹脂材料とブレンドする際、その樹脂の種類や配合量を適宜調整することによって、本来の熱可塑性ウレタンエラストマーが持つ耐擦過傷性が低下しないことが望まれている。また、低硬度化を目的として、ウレタン樹脂材料を他の樹脂材料とブレンドする際、反発弾性の変化や成型性の悪化をできるだけ避けることも望まれる。
【0004】
例えば、特許文献1には、低硬度のウレタン樹脂をカバー材として使用することが提案されているが、アプローチ時のスピン量の更なる向上のためには、樹脂材料の軟化が必要となる。この場合、ウレタン樹脂をベースとしたカバー材料そのものを更に軟化させることは、成型性が悪化することになり現時点で製造することは困難である。このため、カバー材料を軟化させるための添加物を配合することも提案されている。
【0005】
そこで、例えば特許文献2のように、ウレタン樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物に可塑剤を配合して樹脂組成物を軟化したゴルフボールが開示されている。しかしながら、この場合、樹脂組成物が単に軟らかくなるだけであり、アプローチ時のスピン量向上には不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-119461号公報
【文献】特開2017-12737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、アプローチショット時のコントロール性に優れると共に、打感及び耐擦過傷性を良好に維持でき、更には成型性の良好なゴルフボールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するため、コアとカバーとを具備するゴルフボールにおいて、上記カバーの材料として、ポリウレタン又はポリウレアを主成分として用いる樹脂材料を更に改良するために、まず、(i)可塑剤の添加および(ii)軟化性の樹脂の添加の両面について比較考量した。その結果、(i)の手法、即ち、可塑剤の添加では樹脂組成物が単に軟らかくなるだけで、成型後のボールについては、アプローチ時のスピン量を増加させることはできなかった。また、上記(i)の実験結果より、本発明の目的を達成するには、添加する材料には一定の反発性が必要であると考え、(ii)の手法、即ち、軟化性のある樹脂の選定を行ったところ、比較的軟らかい特定の熱可塑性ポリエステルエラストマーをポリウレタン又はポリウレア系の樹脂組成物に特定範囲内で配合し、該樹脂組成物の成型物をカバーとするゴルフボールを作製したところ、このゴルフボールは、アプローチショット時のコントロール性に優れると共に、打感及び耐擦過傷性を良好に維持でき、更には成型性が良好であることを知見し、本発明をなすに至った。即ち、本発明は、ポリウレタン又はポリウレアを主成分として用いる樹脂組成物において、添加する樹脂として、上記特定の熱可塑性ポリエステルエラストマーが、ポリウレタン等のベース樹脂との相溶性が良く、樹脂組成物に低硬度を与え、一定以上の反発性を付与し、固化性を有することの知見に基づいて構成されたものであり、ゴルフボールとして上記目的を達成することができるものである。
【0009】
従って、本発明は、下記のゴルフボールを提供する。
1.少なくとも1層のゴム製コアと、該コアを被覆する少なくとも1層のカバーを具備するゴルフボールにおいて、上記カバーの少なくとも1層は、下記(A)及び(B)成分
(A)ポリウレタン又はポリウレア
(B)熱可塑性ポリエステルエラストマー
を含有した樹脂組成物により形成され、上記(B)成分の200℃・剪断速度243(1/sec)における溶融粘度が0.2×10 4 ~1.0×10 4 (dPa・s)であり、上記(B)成分の配合割合が樹脂組成物の全量中45質量%以下であるとともに、上記樹脂組成物は、そのショアD硬度が42以下であり、その樹脂組成物の反発弾性率が、JIS-K 6255:2013規格の測定で60~72%であることを特徴とするゴルフボール。
上記樹脂組成物の反発弾性率が、JIS-K 6255:2013規格の測定で62~70%である上記1記載のゴルフボール。
3.上記(A)成分の樹脂材料は、そのショアD硬度が45以下であり、その反発弾性率が、JIS-K 6255:2013規格の測定で55%以上である上記1又は2記載のゴルフボール。
4.上記(B)成分の樹脂材料は、そのショアD硬度が35以下であり、その反発弾性率が、JIS-K 6255:2013規格の測定で65%以上である上記1~3のいずれかに記載のゴルフボール。
5.上記カバーは、中間層及び最外層からなる2層構造である上記1~4のいずれかに記載のゴルフボール。
【発明の効果】
【0010】
本発明のゴルフボールは、アプローチショット時のコントロール性に優れると共に、打感及び耐擦過傷性を良好に維持でき、成型性も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本発明のゴルフボールは、少なくとも1層からなるコアに、少なくとも1層のカバー、即ち、単層又は複数層のカバーが被覆されるゴルフボールである。
【0012】
上記コアは、公知のゴム材料を基材として形成することができる。基材ゴムとしては、天然ゴム又は合成ゴムの公知の基材ゴムを使用することができ、より具体的には、ポリブタジエン、特にシス構造を少なくとも40%以上有するシス-1,4-ポリブタジエンを主に使用することが推奨される。また、基材ゴム中には、所望により上述したポリブタジエンと共に、天然ゴム,ポリイソプレンゴム,スチレンブタジエンゴムなどを併用することができる。
【0013】
また、ポリブタジエンは、Nd触媒の希土類元素系触媒,コバルト触媒及びニッケル触媒等の金属触媒により合成することができる。
【0014】
上記の基材ゴムには、不飽和カルボン酸及びその金属塩等の共架橋剤,酸化亜鉛,硫酸バリウム,炭酸カルシウム等の無機充填剤,ジクミルパーオキサイドや1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の有機過酸化物等を配合することができる。また、必要により、市販品の老化防止剤等を適宜添加することができる。
【0015】
上記コアは、上記各成分を含有するゴム組成物を加硫硬化させることにより製造することができる。例えば、バンバリーミキサーやロール等の混練機を用いて混練し、コア用金型を用いて圧縮成形又は射出成型し、有機過酸化物や共架橋剤が作用するのに十分な温度として、100~200℃、好ましくは140~180℃、10~40分の条件にて成形体を適宜加熱することにより、該成形体を硬化させて製造することができる。
【0016】
本発明のゴルフボールは、コアに単層又は複数層のカバーが被覆される。このようなゴルフボールの態様としては、例えば、コアに単層のカバーを有するゴルフボールや、コアと、該コアを被覆する中間層と、該中間層を被覆する最外層を有するゴルフボールが挙げられる。
【0017】
本発明では、上記カバーの少なくとも1層の樹脂材料としては、下記(A)及び(B)成分
(A)ポリウレタン又はポリウレア
(B)熱可塑性ポリエステルエラストマー
を含有した樹脂組成物により形成される。
【0018】
(A)ポリウレタンまたはポリウレア
(A)成分であるポリウレタン(I-a)またはポリウレア(I-b)の詳細は以下のとおりである。
【0019】
(A-1)ポリウレタン
ポリウレタンの構造は、長鎖ポリオールである高分子ポリオール(ポリメリックグリコール)からなるソフトセグメントと、ハードセグメントを構成する鎖延長剤及びポリイソシアネートからなる。ここで、原料となる高分子ポリオールとしては、従来からポリウレタン材料に関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではない。例えば、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ひまし油系ポリオール、シリコーン系ポリオール、ビニル重合体系ポリオールなどを挙げることができる。ポリエステル系ポリオールとしては、具体的には、ポリエチレンアジペートグリコール、ポリプロピレンアジペートグリコール、ポリブタジエンアジペートグリコール、ポリヘキサメチレンアジペートグリコール等のアジペート系ポリオールやポリカプロラクトンポリオール等のラクトン系ポリオールを採用することができる。ポリエーテルポリオールとしては、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)及びポリ(テトラメチレングリコール)、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)等が挙げられる。これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
上記高分子ポリオールとしては、ポリエーテル系ポリオールを用いることが好適である。
【0021】
上記の長鎖ポリオールの数平均分子量は、1,000~5,000の範囲内であることが好ましい。かかる数平均分子量を有する長鎖ポリオールを使用することにより、上記した反発性や生産性などの種々の特性に優れたポリウレタン組成物からなるゴルフボールを確実に得ることができる。長鎖ポリオールの数平均分子量は、1,500~4,000の範囲内であることがより好ましく、1,700~3,500の範囲内であることが更に好ましい。
【0022】
なお、上記の数平均分子量とは、JIS-K1557に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である(以下、同様。)。
【0023】
鎖延長剤としては、従来のポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限されるものではない。本発明では、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有し、かつ分子量が2,000以下である低分子化合物を用いることができ、その中でも炭素数2~12の脂肪族ジオールを好適に用いることができる。具体的には、1,4-ブチレングリコール、1,2-エチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等を挙げることができ、その中でも特に1,4-ブチレングリコールを好適に使用することができる。
【0024】
ポリイソシアネートとしては、従来のポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はない。具体的には、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレン1,5-ジイソシアネート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ダイマー酸ジイソシアネートからなる群から選択された1種又は2種以上を用いることができる。ただし、イソシアネート種によっては射出成形中の架橋反応をコントロールすることが困難なものがある。
【0025】
また、上記ポリウレタン形成反応における活性水素原子:イソシアネート基の配合比は適宜好ましい範囲にて調整することができる。具体的には、上記の長鎖ポリオール、ポリイソシアネート化合物及び鎖延長剤を反応させてポリウレタンを製造するに当たり、長鎖ポリオールと鎖延長剤とが有する活性水素原子1モルに対して、ポリイソシアネート化合物に含まれるイソシアネート基が0.95~1.05モルとなる割合で各成分を使用することが好ましい。
【0026】
ポリウレタンの製造方法は特に限定されず、長鎖ポリオール、鎖延長剤及びポリイソシアネート化合物を使用して、公知のウレタン化反応を利用して、プレポリマー法、ワンショット法のいずれで製造してもよい。そのうちでも、実質的に溶剤の不存在下に溶融重合することが好ましく、特に多軸スクリュー型押出機を用いて連続溶融重合により製造することが好ましい。
【0027】
上述したポリウレタンとしては、熱可塑性ポリウレタン材料を用いることが好ましく、特にエーテル系熱可塑性ポリウレタン材料であることが好適である。熱可塑性ポリウレタン材料としては、市販品を好適に用いることができ、例えば、ディーアイシーコベストロポリマー社製の商品名「パンデックス」や、大日精化工業社製の商品名「レザミン」などを挙げることができる。
【0028】
(A-2)ポリウレア
ポリウレアは、(i)イソシアネートと(ii)アミン末端化合物との反応により生成するウレア結合を主体にした樹脂組成物である。この樹脂組成物について以下に詳述する。
【0029】
(i)イソシアネート
イソシアネートは、従来のポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はなく、上記ポリウレタン材料で説明したものと同様のものを用いることができる。
【0030】
(ii)アミン末端化合物
アミン末端化合物は、分子鎖の末端にアミノ基を有する化合物であり、本発明では、以下に示す長鎖ポリアミン及び/又はアミン系硬化剤を用いることができる。
【0031】
長鎖ポリアミンは、イソシアネート基と反応し得るアミノ基を分子中に2個以上有し、かつ数平均分子量が1,000~5,000であるアミン化合物である。本発明では、より好ましい数平均分子量は1,500~4,000であり、更に好ましくは1,900~3,000である。上記長鎖ポリアミンの具体例としては、アミン末端を持つ炭化水素、アミン末端を持つポリエーテル、アミン末端を持つポリエステル、アミン末端を持つポリカーボネート、アミン末端を持つポリカプロラクトン、及びこれらの混合物を挙げることができるが、これらに限定されない。これらの長鎖ポリアミンは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
一方、アミン系硬化剤は、イソシアネート基と反応し得るアミノ基を分子中に2個以上有し、かつ数平均分子量が1,000未満であるアミン化合物である。本発明では、より好ましい数平均分子量は800未満であり、更に好ましくは600未満である。上記アミン系硬化剤の具体例としては、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1-メチル-2,6-シクロヘキシルジアミン、テトラヒドロキシプロピレンエチレンジアミン、2,2,4-及び2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、4,4’-ビス-(sec-ブチルアミノ)-ジシクロヘキシルメタン、1,4-ビス-(sec-ブチルアミノ)-シクロヘキサン、1,2-ビス-(sec-ブチルアミノ)-シクロヘキサン、4,4’-ビス-(sec-ブチルアミノ)-ジシクロヘキシルメタンの誘導体、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-シクロヘキサン-ビス-(メチルアミン)、1,3-シクロヘキサン-ビス-(メチルアミン)、ジエチレングリコールジ-(アミノプロピル)エーテル、2-メチルペンタメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキサン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、プロピレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジプロピレントリアミン、イミド-ビス-プロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、イソホロンジアミン、4,4’-メチレンビス-(2-クロロアニリン)、3,5-ジメチルチオ-2,4-トルエンジアミン、3,5-ジメチルチオ-2,6-トルエンジアミン、3,5-ジエチルチオ-2,4-トルエンジアミン、3,5-ジエチルチオ-2,6-トルエンジアミン、4,4’-ビス-(sec-ブチルアミノ)-ジフェニルメタン及びその誘導体、1,4-ビス-(sec-ブチルアミノ)-ベンゼン、1,2-ビス-(sec-ブチルアミノ)-ベンゼン、N,N’-ジアルキルアミノ-ジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、トリメチレングリコール-ジ-p-アミノベンゾエート、ポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエート、4,4’-メチレンビス-(3-クロロ-2,6-ジエチレンアニリン)、4,4’-メチレンビス-(2,6-ジエチルアニリン)、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、及びこれらの混合物を挙げることができるが、これらに限定されない。これらのアミン系硬化剤は1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
(iii)ポリオール
ポリウレアには、必須成分ではないが、上述した(i)成分及び(ii)成分に加えて更にポリオールを配合することができる。このポリオールとして、従来のポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限はないが、具体例として、以下に示す長鎖ポリオール及び/又はポリオール系硬化剤を例示することができる。
【0034】
長鎖ポリオールとしては、従来からポリウレタンに関する技術において使用されるものはいずれも使用でき、特に制限されるものではないが、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリオレフィン系ポリオール、共役ジエン重合体系ポリオール、ひまし油系ポリオール、シリコーン系ポリオール、ビニル重合体系ポリオールなどを挙げることができる。これらの長鎖ポリオールは1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記長鎖ポリオールの数平均分子量は、1,000~5,000であることが好ましく、より好ましくは1,700~3,500である。この数平均分子量の範囲であれば、反発性及び生産性等がより一層優れるものとなる。
【0036】
ポリオール系硬化剤としては、従来のポリウレタンに関する技術において使用されるものを好適に用いることができ、特に制限されるものではない。本発明では、イソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個以上有し、かつ分子量が1000未満である低分子化合物を用いることができ、その中でも炭素数2~12の脂肪族ジオールを好適に用いることができる。具体的には、1,4-ブチレングリコール、1,2-エチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール等を挙げることができ、その中でも特に1,4-ブチレングリコールを好適に使用することができる。また、上記ポリオール系硬化剤の、好ましい数平均分子量は800未満であり、より好ましくは600未満である。
【0037】
上記ポリウレアの製造方法については、公知の方法を採用し得、プレポリマー法、ワンショット法等の公知の方法を適宜選択すればよい。
【0038】
上記(A)成分の材料硬度については、アプローチスピン量の向上の点から、ショアD硬度で45以下であることが好ましく、より好ましくはショアD硬度で44以下、更に好ましくは43以下である。また、その下限値としては、成型性の点からショアD硬度で35以上が好ましく、より好ましくはショアD硬度で37以上である。
【0039】
上記(A)成分の反発弾性率は、アプローチスピン量の向上の点から、55%以上であることが好ましく、より好ましくは57%以上、更に好ましくは59%以上である。上記の反発弾性率は、JIS-K 6255:2013規格に基づいて測定される。
【0040】
(B)熱可塑性ポリエステルエラストマー
本発明では、本発明の所望の効果を得るために、樹脂組成物に特定の熱可塑性ポリエステルエラストマーを必須成分として配合する。即ち、この特定の熱可塑性ポリエステルエラストマーは、樹脂組成物に一定以上の反発性を付与し、この反発性付与と相まってアプローチ時のスピン量を一定以上に高く維持できるものである。また、樹脂組成物に特定の熱可塑性ポリエステルエラストマーを必須成分として配合することにより、ベース樹脂である上記(A)成分との相溶性が良く、その結果、耐擦過傷性を良好に付与し得る。さらに、樹脂組成物に特定の熱可塑性ポリエステルエラストマーを必須成分として配合することにより、一定以上の溶融粘度を有することで、樹脂組成物の成型後に固化性を付与し、即ち、ベース樹脂である上記(A)成分が軟らかいことにより樹脂組成物全体の粘度が下がることを抑制し、成型性(生産性)低下や、成型後のゴルフボールの外観不良増加の防止、冷却時間の増大による生産コスト高を抑制することができる。このような熱可塑性ポリエステルエラストマーとして以下に説明する。
【0041】
(B)成分の熱可塑性ポリエステル系エラストマーは、
(b-1)ポリエステルブロック共重合体と(b-2)硬質樹脂とからなる樹脂組成物である。更に、上記(b-1)成分は、(b-1-1)高融点結晶性重合体セグメントと、(b-1-2)低融点重合体セグメントとを構成成分とする。
【0042】
上記(b-1)成分のポリエステルブロック共重合体を構成する(b-1-1)高融点結晶性重合体セグメントは、芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体、ジオール又はそのエステル形成性誘導体よりなる群から選択される1種又は2種以上で形成されるポリエステルである。
【0043】
まず、芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸、及び3-スルホイソフタル酸ナトリウム等が挙げられる。本発明においては、芳香族ジカルボン酸を主に用いるが、必要に応じてこの芳香族ジカルボン酸の一部を、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、及び4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、及びダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸に置換してもよい。また、ジカルボン酸のエステル形成性誘導体の具体例としては、上述したジカルボン酸の低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル及び酸ハロゲン化物等を挙げることができる。
【0044】
次に、ジオールとしては、分子量400以下のジオールを好適に用いることができる。具体的には、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、及びデカメチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,1-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ジシクロヘキサンジメタノール、及びトリシクロデカンジメタノール等の脂環族ジオール、キシリレングリコール、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p-ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2’-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシ-p-ターフェニル、及び4,4’-ジヒドロキシ-p-クオーターフェニル等の芳香族ジオールを例示することができる。また、ジオールのエステル形成性誘導体の具体例としては、上述したジオールのアセチル体、アルカリ金属塩等を挙げることができる。
【0045】
上記の芳香族ジカルボン酸、ジオール、並びにこれらの誘導体は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0046】
上記(b-1-1)成分としては、特にテレフタル酸及び/又はジメチルテレフタレートと1,4-ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位からなるものや、イソフタル酸及び/又はジメチルイソフタレートと1,4-ブタンジオールから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位からなるもの、更には、その両者の共重合体を好適に用いることができる。
【0047】
上記(b-1-2)低融点重合体セグメントは、脂肪族ポリエーテル及び/又は脂肪族ポリエステルである。
【0048】
脂肪族ポリエーテルとしては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコール等が挙げられる。また、脂肪族ポリエステルとしては、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリエナントラクトン、ポリカプロラクトン、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート等が挙げられる。本発明では、弾性特性の観点から、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、エチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコール、ポリ(ε-カプロラクトン)、ポリブチレンアジペート、及びポリエチレンアジペート等を好適に使用することができる。更には、これらの中でも特にポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、及びエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体グリコールを使用することが推奨される。また、これらのセグメントの数平均分子量としては、共重合された状態において300~6000程度であることが好ましい。
【0049】
上記(b-1)成分は公知の方法で製造することができる。具体的には、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコール及び低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下でエステル交換反応させ、得られる反応生成物を重縮合する方法や、ジカルボン酸と過剰量のグリコール及び低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下でエステル化反応させ、得られる反応生成物を重縮合する方法等を採用することができる。
【0050】
(b-1)成分において上記(b-1-2)成分が占める割合は30~60質量%である。この場合、好ましい下限値は35質量%以上とすることができ、好ましい上限値は55質量%以下とすることができる。(b-1-2)成分の割合が少なすぎると、(特に低温時における)耐衝撃性や相溶性が不足するおそれがある。一方、(b-1-2)成分の割合が多すぎると、樹脂組成物(及び成形体)の剛性が不足することがある。
【0051】
(b-2)成分の硬質樹脂は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリカーボネート、アクリル系樹脂、ABS樹脂やポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、及び変性ポリフェニレンエーテルよりなる群から選択される1種又は2種以上を用いることができる。本発明では、相溶性の点からポリエステル樹脂を好適に使用することができ、更に好ましくは、ポリブチレンテレフタレート及び/又はポリブチレンナフタレートを使用することが推奨される。
【0052】
上記の(b-1)成分及び(b-2)成分の配合比率((b-1):(b-2))は、特に制限されるものではないが、質量比で50:50~90:10とすることが好ましく、より好ましくは55:45~80:20である。(b-1)成分の割合が少なすぎると、(低温時における)耐衝撃性が不足するおそれがある。一方、(b-1)成分の割合が多すぎると、組成物(及び成形体)の剛性及び成形加工性が不足するおそれがある。
【0053】
このような(B)ポリエステル系エラストマーとしては、市販品を用いることができ、具体例としては、東レ・デュポン社製の“ハイトレル”を挙げることができる。
【0054】
上記(B)成分の材料硬度については、アプローチスピン量の向上の点から、ショアD硬度で35以下であることが好ましく、より好ましくはショアD硬度で33以下、更に好ましくは31以下である。また、その下限値としては、ショアD硬度で27以上が好ましく、より好ましくはショアD硬度で29以上である。
【0055】
(B)成分の反発弾性率は、アプローチスピン量の向上の点から、65%以上であることが好ましく、より好ましくは67%以上、更に好ましくは69%以上である。上記の反発弾性率は、JIS-K 6255:2013規格に基づいて測定される。
【0056】
(B)成分の溶融粘度は、0.2×104~1.0×104(dPa・s)であることが好適である。この溶融粘度を有することにより、樹脂組成物の成型後に固化性を付与し、成型性(生産性)低下を抑制することができる。この溶融粘度は、ISO 11443:1995に準じて、温度条件200℃にてキャピログラフで測定したとき、せん断速度243(1/sec)における溶融粘度を示す。
【0057】
(B)成分の配合割合については、樹脂組成物中45質量%以下であり、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。この値を超えると、成型性や擦過傷性低下のおそれがある。
【0058】
また、上記(A)成分と上記(B)成分との配合比(A)/(B)については、質量比で90/10~60/40であることが好ましい。(B)成分の配合量が上記割合より多くなると、成型性悪化の懸念や擦過傷性低下のおそれがある。一方、(B)成分の配合量が上記割合より少ないと、アプローチスピン量が向上しない場合がある。
【0059】
上記(A)及び(B)成分を含有する樹脂組成物には、上述した樹脂成分以外には、他の樹脂材料を配合してもよい。その目的は、ゴルフボール用樹脂組成物の更なる流動性の向上や反発性、割れ耐久性などの諸物性を高めるなどの点からである。
【0060】
他の樹脂材料としては、具体的には、ポリエステルエラストマー、ポリアミドエラストマー、アイオノマー樹脂、エチレン-エチレン・ブチレン-エチレンブロック共重合体又はその変性物、ポリアセタール、ポリエチレン、ナイロン樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド及びポリアミドイミドから選ばれ、その1種又は2種以上を用いることができる。
【0061】
また、上記樹脂組成物には、更に、活性のあるイソシアネート化合物を含むことができる。この活性イソシアネート化合物は、主成分であるポリウレタン又はポリウレアと反応して、樹脂組成物全体の耐擦過傷性を更に向上させることができるほか、イソシアネートの可塑化効果により流動性を向上させて成型性を向上させることができる。
【0062】
上記のイソシアネート化合物としては、通常のポリウレタンに使用されているイソシアネート化合物であれば特に制限なく用いることができ、例えば芳香族イソシアネート化合物としては、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート又はこれら両者の混合物、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ビフェニルジイソシアネートなどが挙げられ、これら芳香族イソシアネート化合物の水添物、例えばジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどを用いることもできる。また、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、オクタメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、キシレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートなどが挙げられる。更に、末端に2個以上のイソシアネート基を有する化合物のイソシアネート基と活性水素を有する化合物とを反応させたブロックイソシアネート化合物や、イソシアネートの二量化によるウレチジオン体などが挙げられる。
【0063】
上記のイソシアネート化合物の配合量は、(A)成分であるポリウレタンまたはポリウレア樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、また、上限値としては、好ましくは30質量部以下、より好ましくは20質量部以下である。この配合量が少なすぎると、十分な架橋反応が得られず、物性の向上が認められない場合がある。一方、この配合量が多すぎると、経時、熱や紫外線による変色が大きくなり、あるいは、熱可塑性を失ってしまったり、反発の低下等の問題が生じる場合がある。
【0064】
更に、上記樹脂組成物には、任意の添加剤を用途に応じて適宜配合することができる。例えば、本発明のゴルフボール用材料をカバー材として用いる場合、上記成分に、充填剤(無機フィラー)、有機短繊維、補強剤、架橋剤、顔料,分散剤,老化防止剤,紫外線吸収剤,光安定剤などの各種添加剤を加えることができる。これら添加剤を配合する場合、その配合量としては、基材樹脂100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、上限として、好ましくは10質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。
【0065】
上記樹脂組成物の反発弾性率については、アプローチスピン量の向上のために、JIS-K 6255:2013規格の測定で60%以上であることが必要とされ、好ましくは62%以上、さらに好ましくは64%以上であり、上限値は72%以下であり、好ましくは70%以下、より好ましくは68%以下である。
【0066】
また、上記樹脂組成物の材料硬度については、アプローチスピン量の向上の点から、ショアD硬度で42以下であることが必要とされ、好ましくは41以下、より好ましくは40以下である。その下限値としては、成型性の点からショアD硬度で30以上が好ましく、より好ましくは35以上である。
【0067】
上記樹脂組成物の各成分の調製方法については、例えば、混練型(単軸又は)二軸押出機,バンバリー,ニーダー,ラボプラストミル等の各種の混練機を用いて混合することができ、或いは、樹脂組成物の射出成形時にドライブレンドにより各成分を混合しても良い。更に、上記の活性イソシアネート化合物を用いる場合には、各種混練機を用いて樹脂混合時に含有させてもよく、または、予め活性イソシアネート化合物やその他の成分を含有したマスターバッチを別途用意し、樹脂組成物の射出成形時にドライブレンドすることにより、各成分を混合しても良い。
【0068】
例えば、上記樹脂組成物によりカバーを成形する方法としては、例えば、射出成形機に上述の樹脂組成物を供給し、コアの周囲に溶融した樹脂組成物を射出することによりカバーを成形することができる。この場合、成形温度としては、主成分である(A)ポリウレタン又はポリウレア等の種類によって異なるが、通常150~270℃の範囲である。
【0069】
カバーの厚さは、好ましくは0.4mm以上、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは0.6mm以上であり、上限として、好ましくは3.0mm以下、より好ましくは2.0mm以下である。
【0070】
上記コアと上記との間に少なくとも1層の中間層を介在させる場合、中間層の材料としては、ゴルフボールのカバー材で使用される各種の熱可塑性樹脂、特にアイオノマー樹脂を採用することが好適であり、アイオノマー樹脂としては市販品を用いることができる。この場合、中間層の厚さは、上記カバーの厚さと同様の範囲内で設定することができる。
【0071】
本発明のゴルフボールには、空気力学的性能の点から、最外層の表面に多数のディンプルが設けられる。上記最外層表面に形成されるディンプルの個数については、特に制限はないが、空気力学的性能を高め飛距離を増大させる点から、好ましくは250個以上、より好ましくは270個以上、さらに好ましくは290個以上、最も好ましくは300個以上であり、上限値として、好ましくは400個以下、より好ましくは380個以下、さらに好ましくは360個以下である。
【0072】
本発明では、カバー表面には塗膜層が形成される。この塗膜層を形成する塗料としては、2液硬化型ウレタン塗料を採用することが好適である。具体的には、この場合、上記2液硬化型ウレタン塗料は、ポリオール樹脂を主成分とする主剤と、ポリイソシアネートを主成分とする硬化剤とを含むものである。
【0073】
カバー表面に上記の塗料を塗装して塗膜層を形成する方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、エアガン塗装法や静電塗装法等、所望の方法を用いることができる。
【0074】
塗膜層の厚さについては、特に制限はないが、通常、8~22μm、好ましくは10~20μmである。
【0075】
なお、本発明のゴルフボールは、競技用としてゴルフ規則に従うものとすることができ、ボール外径は42.672mm内径のリングを通過しない大きさで42.80mm以下、質量は好ましくは45.0~45.93gに形成することができる。
【実施例
【0076】
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0077】
〔実施例1~6、比較例1~6〕
実施例1,3,5及び比較例1,2,5は、表1に示す配合により、全ての例に共通するコア用のゴム組成物を調製・加硫成形することにより直径38.6mmのコアを作製した。また、実施例2,4,6及び比較例3,4,6については、上記実施例及び比較例と同様に、コアを作製することとする。
【0078】
【表1】
【0079】
上記コア材料の詳細は下記のとおりである。
・「cis-1,4-ポリブタジエン」JSR社製、商品名「BR01」
・「アクリル酸亜鉛」日本触媒社製
・「酸化亜鉛」堺化学工業社製
・「硫酸バリウム」堺化学工業社製
・「老化防止剤」商品名「ノクラックNS6」(大内新興化学工業社製)
・「有機過酸化物(1)」ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」(日油社製)
・「有機過酸化物(2)」1,1-ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサンとシリカの混合物、商品名「パーヘキサC-40」(日油社製)
・「ステアリン酸亜鉛」日油社製
【0080】
次に、実施例1,3,5及び比較例1,2,5は、直径38.6mmのコアの周囲に中間層用の樹脂材料を射出成形し、厚さ1.25mmの中間層を有する中間層被覆球体を作製した。また、実施例2,4,6及び比較例3,4,6については、上記実施例及び比較例と同様に、中間層を有する中間層被覆球体を作製する。この中間層用の樹脂材料は、全ての例に共通する樹脂配合であり、酸含量18質量%のエチレン-不飽和カルボン酸共重合体のナトリウム中和物50質量部と、酸含量15質量%のエチレン-不飽和カルボン酸共重合体の亜鉛中和物50質量部との合計100質量部とするブレンド物である。
【0081】
次に、実施例1,3,5及び比較例1,2,5は、上記の中間層被覆球体の周囲に下記表2に示す最外層のカバー材料を射出成形し、厚さ0.8mmの最外層を有する直径42.7mmのスリーピースゴルフボールを作製した。この際、各実施例、比較例のカバー表面には、特に図示してはいないが、共通するディンプルが形成された。なお、カバーの樹脂組成物については、下記の表2に示す各成分の配合量でドライブレンドにより混合し、成形温度200~250℃で射出成型した。
また、実施例2,4,6及び比較例3,4,6については、上記実施例及び比較例と同様に、スリーピースゴルフボールを作製することとする。
【0082】
下記表2中の組成物中の含有成分の詳細は、以下の通りである。
・「TPU (1)」ディーアイシーコベストロポリマー社製の商品名「パンデックス」、芳香族系及びエーテルタイプの熱可塑性ポリウレタン(ショアD硬度「43」及び反発弾性率「61%」)
・「TPU (2)」ディーアイシーコベストロポリマー社製の商品名「パンデックス」、芳香族系及びエーテルタイプの熱可塑性ポリウレタン(ショアD硬度「47」及び反発弾性率「54%」)
・「TPU (3)」ディーアイシーコベストロポリマー社製の商品名「パンデックス」、芳香族系及びエーテルタイプ熱可塑性ポリウレタン(ショアD硬度「35」及び反発弾性「64%」)
・「ポリエステルエラストマー 1」東レ・デュポン社製の商品名「ハイトレル3001」、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー(ショアD硬度「31」及び反発弾性率「79%」)
・「ポリエステルエラストマー 2」東レ・デュポン社製の商品名「ハイトレル4001」、熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマー(ショアD硬度「37」及び反発弾性率「77%」)
・可塑剤:オレイン酸メチル
【0083】
樹脂組成物の物性
〔1〕反発弾性率
JIS-K 6255:2013規格に基づいて測定した樹脂組成物の反発弾性率を表2に示す。
〔2〕溶融粘度
ISO 11443:1995に準じて、温度条件200℃にてキャピログラフで測定したとき、せん断速度243(1/sec)における溶融粘度を表2に示す。
【0084】
各ゴルフボールのアプローチ時のスピン性能、耐擦過傷性、打感及び成型性を下記の方法で評価する。その結果を表2に示す。
【0085】
アプローチ時のスピン性能
ゴルフ打撃ロボットにサンドウェッジ(SW)を装着し、ヘッドスピード(HS)20m/sで打撃した直後のバックスピン量を初期条件計測装置により測定する。
【0086】
耐擦過傷性の評価
ボールを23℃に保温するとともに、スウィングロボットマシンを用い、クラブはピッチングウェッジ(PW)を使用して、ヘッドスピード33m/sで各ボールを各5球ずつ打撃し、打撃傷を以下の基準で目視にて評価する。
◎ ・・・ やや傷がついているか、ほとんど傷が目立たない。
○ ・・・ 表面がやや毛羽立っているか、ディンプルがやや欠けている。
× ・・・ ディンプルが完全に削り取られている。
【0087】
打感
サンドウェッジ(SW)による30~40ヤードでのアプローチショット時の上級者10名による実打における官能評価を行い、下記の基準で判定する。
〈判定基準〉
○ ・・・ 10人中6人以上が良い打感と評価
△ ・・・ 10人中4人又は5人が良い打感と評価
× ・・・ 10人中3人以下が良い打感と評価
【0088】
成型性(脱型性)の評価
カバー射出成形後の金型からの脱型性を以下の基準で各例のボールを評価する。
○ ・・・ 脱型時ランナー切れやピン付き等の外傷が生じない。
△ ・・・ 脱型時ランナー切れやピン付き等の外傷が生じるが、成型には問題ない。
× ・・・ 脱型時ランナー切れやピン付き等の外傷が生じ、成型できない。
【0089】
【表2】
【0090】
表2の結果に示されるように、比較例1~6のゴルフボールは、本発明品(実施例)に比べて以下の点で劣る。
比較例1は、樹脂組成物の硬度が所定範囲より高くなり、その結果、アプローチ時のスピン量が十分でない。
比較例2は、樹脂組成物の硬度が所定範囲より高くなり、その結果、アプローチ時のスピン量が十分でない。
比較例3は、樹脂組成物に含まれる(B)成分の配合割合が大きくなり、その結果、耐擦過傷性及び成型性が良好ではない。
比較例4は、樹脂組成物の硬度が所定範囲より高くなり、その結果、アプローチ時のスピン量が十分でない。
比較例5は、樹脂組成物の反発弾性率が所定範囲より小さくなり、その結果、アプローチ時のスピン量が十分でない。
比較例6は、樹脂組成物に(B)成分が配合されておらず、その結果、スピン量は十分なものの、固化性が低くなり、成型性が十分でない。