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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】化粧シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20240730BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240730BHJP
   E04F 13/08 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B27/32 E
E04F13/08 A
E04F13/08 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020097171
(22)【出願日】2020-06-03
(65)【公開番号】P2021187122
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】長島 麻美
(72)【発明者】
【氏名】長濱 正光
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昌利
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-097510(JP,A)
【文献】特開2015-187378(JP,A)
【文献】特開2018-095874(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062340(WO,A1)
【文献】特開2016-069798(JP,A)
【文献】特開2016-068344(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057673(WO,A1)
【文献】特開2021-066161(JP,A)
【文献】かなり奥が深い!これだけは知っておきたい表面粗さパラメータの基礎を簡単に紹介,[令和6年1月5日検索],日本,MONO塾,2022年05月23日,[オンライン],インターネット<https://d-monoweb.com/expert_column/surface-roughness-parameter/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
E04F13/00-15/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層上に、少なくとも表面保護層を有する化粧シートであって、
前記表面保護層の表面側に対し、カットオフ値λcを2.5mm、カットオフ値λsを8μm、評価長さを10mmとし、製膜方向に垂直に測定したJIS B0601:2001に準拠した
(1)算術平均粗さ(Ra0.008)が10μm以下であり、
(2)粗さ曲線要素の平均長さRSmと十点平均粗さRzJISとが下記(1)式の条件を満たし、
前記基材層は、無機顔料とポリプロピレン樹脂とを含むコア層と、前記コア層の両面に形成され、ポリプロピレン樹脂を含むスキン層と、を有し、
前記ポリプロピレン樹脂に、単層膜の外膜を具備するベシクルにナノサイズの造核剤が内包された造核剤ベシクルを添加して前記スキン層を形成し、
前記スキン層のマルテンス硬さは、80N/mm 以上120N/mm 以下の範囲内であり、
前記コア層のマルテンス硬さは、50N/mm 以上80N/mm 以下の範囲内であり、
前記基材層の厚さは、40μm以上200μm以下の範囲内であることを特徴とする化粧シート。
5 ≦ RSm/RzJIS ≦ 40 ・・・(1)
【請求項2】
前記スキン層の一方の層厚に対し、前記コア層の層厚は、3倍以上50倍以下の範囲内であることを特徴とする請求項に記載した化粧シート。
【請求項3】
前記造核剤ベシクルの添加量は、前記ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、造核剤ベシクル中の造核剤に換算して0.05質量部以上0.5質量部以下の範囲内であることを特徴とする請求項または請求項に記載した化粧シート。
【請求項4】
前記造核剤ベシクルは、リン脂質からなる外膜を備える造核剤リポソームであることを特徴とする請求項から請求項のいずれか1項に記載した化粧シート。
【請求項5】
前記造核剤ベシクルは、超臨界逆相蒸発法によって単層膜を具備するベシクルに前記造核剤を内包させてベシクル化したものであることを特徴とする請求項から請求項のいずれか1項に記載した化粧シート。
【請求項6】
前記基材層の一方の面に絵柄層が積層されていることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載した化粧シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シートに関する。
【背景技術】
【0002】
化粧シートは、例えば、住宅等の建築物の内外装材や、造作材、建具等の建築資材、家具什器類、住設機器や家電製品等の表面化粧に使用されるものである。化粧シートには、多少とも風雨の影響を受ける軒下用外装材や玄関ドア材等の準外装用途や、マジックペンや生活汚染物等に対する拭き取り性、撥水性、耐汚染性等が要求される子供部屋、台所・食堂、洗面所等の用途に用いられるものもある。
【0003】
上述した各種用途に用いられる化粧材(化粧板、化粧紙、化粧シート等を含む)には、十年単位の長期間に亘る使用に耐える耐久性や耐候性が要求されるとともに、使用中に雨水や土埃等の自然の作用により又は使用者の不注意により表面に汚染物が付着しても容易に拭き取れて美観を維持できるように、汚染物が強固に付着しにくい耐汚染性が要求されることがある。
【0004】
特に、サラダ油や天麩羅油等の油脂類や、醤油やソース等の有色の調味料等、食品系の汚染物がこぼれたりはねたりして付着しやすい台所・食堂や、子供が手足や衣服に付着させて屋外から持ち込む泥やクレヨン、マジックペン等の落書き等が付着し易い子供部屋、屎尿の水洗や手洗い、洗濯等で水や石鹸液等がはね易いトイレや洗面所、洗濯室等においては、通常の居間や寝室等におけるよりも一段と高度な生活汚染物質に対する耐汚染性が要求され、通常の化粧材において用いられる一般的なウレタン塗装等では到底対応できるものではない。
【0005】
化粧材の表面に高度の耐汚染性を付与する方法としては、例えば表面張力の低いシリコーン樹脂又はフッ素系樹脂等を塗布した防汚層を表面に形成する方法(例えば、特許文献1を参照)もあるが、これは表面が極端に滑り易くなり触感や取扱性が悪化することや、表面硬度が不足するために傷付きや摩耗に弱いことなどの問題が生じ得る。
そこで、ウレタン樹脂等による通常の塗装塗膜にシリコーンオイルを添加して防汚層とする方法(例えば、特許文献2を参照)が、従来は比較的広く採用されている。これは、塗膜の主体がウレタン樹脂等の通常の化粧材用塗料であるので十分な耐傷付き性や耐摩耗性、耐候性等の表面物性を有すると共に、塗膜中のシリコーンオイルの一部が塗膜の表面に滲み出して油膜を形成し、この油膜が汚染物の付着を防ぐことにより耐汚染性を発揮するもので、極めて優れた効果がある。
【0006】
しかし、この油膜は汚染物を拭き取る際に一緒に拭き取られて失われ、塗膜中にシリコーンオイルが十分に含まれている間はこれが新たに滲み出して油膜を形成することにより耐汚染性が回復するが、長期間の経過と繰り返しの拭き取りにより塗膜中のシリコーンオイルが失われると、もはや耐汚染性を発現しなくなってしまうので、耐汚染性の耐久性の面で課題があった。また、特に化粧紙や化粧シート、壁紙等、巻取状態で供給される化粧材にあっては、塗膜の表面に滲み出したシリコーンオイルが化粧材の裏面に転移し、基材や下地面に接着する際に接着剤をはじき、接着阻害を起こす場合があった。
【0007】
化粧材の表面塗膜に十分な表面物性を確保しつつ、長期耐久性に優れた耐汚染性を付与する手段として、塗膜の主剤樹脂と耐汚染性付与のためのシリコーン成分とを化学的に結合させる方法も、既に種々検討されている。代表的なのは、アクリル樹脂を主剤とし、シリコーン化合物を硬化剤とした二液架橋反応型樹脂(例えば、特許文献3、4を参照)であり、これは元のアクリル樹脂と比較すれば確かにシリコーン成分の導入による表面張力の低下により耐汚染性の向上が認められるが、シリコーン成分は架橋剤として2本のアクリル骨格に縛られて自由に動けないためか、シリコーンオイルを添加した場合ほどの耐汚染性向上効果は得られないことが多い。
【0008】
また、シリコーン(メタ)アクリレート化合物を配合した(メタ)アクリレート系電離放射線硬化型樹脂を用いる方法の提案もある(例えば、特許文献5を参照)。しかし、これは電子線又は紫外線等の特殊な硬化システムを利用するものなので、高価な設備を必要とし、均一な照射が困難な特殊形状への適用性や、照射による基材の劣化の問題等もあって、適用可能な範囲が限定されることが多い。これに加えて、電離放射線硬化型樹脂は架橋密度が非常に高く、硬化物の極めて硬剛な三次元架橋構造にシリコーン成分の分子運動が妨げられるために、やはり十分な耐汚染性向上効果を得ることが難しい場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平11-58614号公報
【文献】特開平10-58611号公報
【文献】特開平5-222819号公報
【文献】特開平5-246001号公報
【文献】特開平5-86306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来の技術における上記した様な問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、種々の生活汚染物質に対する耐汚染性に優れることは勿論のこと、手触り感や意匠感等の意匠性にも優れた耐汚染化粧材(化粧シート)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の耐汚染化粧材(化粧シート)は、その表面に付与した凹凸形状により耐汚染性および意匠性を向上させたことを特徴する。具体的には、本発明の一態様に係る耐汚染化粧材(化粧シート)は、基材層上に、少なくとも表面保護層を有し、前記表面保護層の表面側に対し、カットオフ値λcを2.5mm、カットオフ値λsを8μm、評価長さを10mmとし、製膜方向に垂直に測定したJIS B0601:2001に準拠した算術平均粗さ(Ra0.008)が10μm以下であり、且つ粗さ曲線要素の平均長さRSmと十点平均粗さRzJISとが下記(1)式の条件を満たすことを特徴とする。
5 ≦ RSm/RzJIS ≦ 40 ・・・(1)
【0012】
またポリプロピレンの結晶化度を向上させる造核剤を、単層膜の外膜を具備するベシクルに内包させてベシクル化して造核剤ベシクルとしてポリプロピレン樹脂に添加し、更に、製造プロセスを種々検討及び実験を重ねて、マルテンス硬さを最適な範囲とすることで耐傷性を向上させた化粧シートを提供できることを見出した。
具体的には、本発明の一態様に係る化粧シートは、無機顔料とポリプロピレン樹脂とを含むコア層と、前記コア層の両面に形成され、ポリプロピレン樹脂を含むスキン層と、を有する基材層を備え、前記ポリプロピレン樹脂に、単層膜の外膜を具備するベシクルにナノサイズの造核剤が内包された造核剤ベシクルを添加して前記スキン層を形成したものであってもよい。
【0013】
ここで、造核剤ベシクルとは、単層膜の外膜を具備するカプセル状のベシクルに造核剤が内包された構成となっており、例えば超臨界逆相蒸発法によって調製することができる。また、造核剤とは結晶性ポリプロピレン樹脂中において結晶化の起点となる物質である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、基材上に付与した表面凹凸形状を制御することで、耐汚染性および意匠性(手触り感や意匠感)に優れた化粧シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係る化粧シートの構成を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る他の化粧シートの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各層の厚さの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状及び構造等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0017】
本実施形態の化粧材は、基材Bと化粧シート10とを少なくとも備えている。以下、本実施形態の基材Bと化粧シート10とについて詳しく説明する。
図1及び図2中、符号Bは、基板を表している。基板Bは、後述する化粧シート10が貼り合わせられる基板である。基板Bとしては、特に限定は無いが、例えば、木質ボード類、無機系ボード類、金属板、複数の材料からなる複合板などが挙げられる。また、化粧シート10と基板Bとの間に、適宜、プライマー層や隠蔽層などを設けてもよい。
【0018】
本実施形態の化粧シート10は、例えば、基材層1、絵柄層2、透明樹脂層3、及びトップコート層4をこの順に備えている。以下、化粧シート10を構成する各層について説明する。
<基材層1>
基材層1は、例えば、コア層1aを中心として、その両面にスキン層1bを設けた3層構成の着色ポリプロピレンフィルムからなる。コア層1aはポリプロピレン樹脂を主原料とし、そのポリプロピレン樹脂に無機顔料が混合されて着色されていてもよい。また、スキン層1bはポリプロピレン樹脂を含んで形成されていてもよい。また、スキン層1bに無機顔料は含まれていなくてもよい。
【0019】
(ポリプロピレン樹脂)
コア層1aに用いるポリプロピレン樹脂は、無機顔料の分散性を考慮し、柔軟性の高い、エチレンコンテンツを有するランダムポリプロピレン樹脂や、公知の非晶性ポリプロピレン樹脂をランダムポリプロピレン樹脂や結晶性の高いホモポリプロピレン樹脂に混合したものが好ましい。
スキン層1bに用いるポリプロピレン樹脂は、無機顔料の分散性を考慮する必要がないので、高結晶性ホモポリプロピレンを用いることが好ましいが、高結晶性ホモポリプロピレンに限定されない。曲げ加工などの加工性をより重視する用途においては、高結晶性ホモポリプロピレンに対し、例えば、所定の範囲内でエチレンコンテンツを有するランダムポリプロピレン樹脂や公知の非晶性ポリプロピレン樹脂を混合することができる。
【0020】
着色ポリプロピレンフィルムからなる基材層1のスキン層1bは、マルテンス硬さを80N/mm以上120N/mm以下の範囲内であることが好ましく、コア層1aはマルテンス硬さが50N/mm以上80N/mm以下の範囲内であることが好ましい。
【0021】
コア層1aのマルテンス硬さが50N/mm未満の場合、実用上必要な耐傷性を確保することが困難となる可能性が高い。一方、コア層1aのマルテンス硬さが80N/mmを超える場合、結晶性が高すぎるため、曲げ加工において白化や割れといった不具合が生じてしまうおそれや、耐衝撃試験において、割れが発生するといった不具合が生じてしまうおそれがある。
またスキン層1bのマルテンス硬さが80N/mm未満の場合、実用上必要な耐傷性を確保することが困難となる可能性が高い。一方、スキン層1bのマルテンス硬さが120N/mmを超える場合、結晶性が高すぎるため、造核剤ベシクルを用いた場合でも、曲げ加工において白化や割れといった不具合が生じてしまうおそれや、耐衝撃試験において、割れが発生するといった不具合が生じてしまうおそれがある。
【0022】
基材層1のコア層1aのマルテンス硬さの好適な範囲は60N/mm以上80N/mm以下の範囲内であり、基材層1のスキン層1bのマルテンス硬さの好適な範囲は80N/mm以上100N/mm以下の範囲内である。この範囲とすることで、耐傷性、耐衝撃性、及び曲げ加工について、それぞれ優れた状態で両立することができる。
ここで、マルテンス硬さとは、物質の硬さ(硬度)を示す指標の一種であり、圧子に荷重を掛けてサンプルの表面に押し込み、その際に形成された窪み(圧痕)の深さ(押込深さ)を測定して、当該荷重から算出される押込力と、当該押込深さから算出される窪みの表面積との商と定義されている。その測定は、ISO14577にて定められている方法で測定する。
【0023】
トップコート層(表面保護層)4の算術平均高さRaや十点平均粗さRzは、トップコート層4に形成された凹凸の高さ方向の情報を示している。
平均長さRSmは基準長さにおける輪郭曲線要素の長さXsの平均値であり、トップコート層4の表面に形成された凹凸のピッチ間隔といった横方向の情報を示している。
RaやRzが小さい場合は、トップコート層4の表面に形成された凹凸が小さいため、汚染物質が付着しにくい形状となり、RSmが大きい場合は、トップコート層4の表面に形成された凹凸間のピッチが広いため、汚染物質が入り込んでもふき取りやすい形状になる。
【0024】
本実施形態では、トップコート層4のRaが10μmより大きく、かつRSm/RzJISが5未満の場合、トップコート層4の表面に形成された凹凸が大きくかつ、凹凸間のピッチが狭い密集した形状になるため、汚染物質が強固に付着した場合、汚染物質を容易にふき取ることができず、耐汚染性に優れるとは言えない。
またRSm/RzJISが40より大きい場合、なだらかな凹凸形状となり、意匠性が損なわれる場合が多い。
またトップコート層4のRaは、1.0μm以上であることが好ましい。つまり、本実施形態のトップコート層4のRaは、1.0μm以上10μm以下の範囲内であることが好ましい。トップコート層4のRaが1.0μm未満であると意匠性に劣り、化粧シート10の商品価値を損なうおそれがある。
【0025】
ここで、Raとは、JIS B0601:2001に準拠した測定方法により、表面粗さ計(ミツトヨ社製・型番SJ-310)を用い、カットオフ値λcを2.5mm、カットオフ値λsを8μm、評価長さを10mmとし、柄がある場合は柄方向に、ない場合は製膜方向に垂直に測定した。なお測定は任意の5点で行い、平均値を測定値とした。また、RSm、RzJISにおいても同様である。
【0026】
トップコート層4の表面粗さを調整する手法として例えば、(1)トップコート層4に無機フィラーを添加する方法、(2)エンボス版によりエンボス形状を賦形する方法等が挙げられる。本実施形態では(2)の方法でトップコート層4の表面粗さの調整を行う。
本実施形態において、着色ポリプロピレンフィルムからなる基材層1の厚さは、40μm以上200μm以下の範囲内であってもよい。
【0027】
基材層1の厚さが40μm未満の場合、スキン層1bのマルテンス硬さを最適な範囲にしてもフィルム強度が不足してしまうため、印刷加工時の不具合や耐傷性の悪化を抑制することが困難であり、ラッピング加工時の表面平滑性を維持することも困難である。一方、基材層1の厚さが200μmを超える場合、曲げ加工において白化や割れといった不具合が生じてしまう可能性が高く、ラッピング加工時においては木質基板の端面や積層部分への追従性が著しく悪くなり、接着力が不十分となることで、経時での剥離といった不具合が生じてしまうことがある。
基材層1の厚さのより好適な範囲は、60μm以上150μm以下の範囲内である。この範囲であれば、印刷加工時の不具合、ラッピング加工時の表面平滑性、耐傷性、曲げ加工を十分な余裕を持って両立することができる。
【0028】
基材層1のスキン層1bとコア層1aの厚さについては、一方のスキン層1bの厚さに対し、コア層1aの厚さが3倍以上50倍以下の範囲内であることが好ましい。コア層1aの厚さが3倍未満の場合、化粧シートとして最低限要求される隠蔽性を満足することが難しい。コア層1aの厚さが50倍を超える場合、スキン層1bの厚さが相対的に小さくなり過ぎるためフィルム強度が不足してしまい、マルテンス硬さを最適な範囲にしても、印刷加工時の不具合や耐傷性の悪化を抑制することが困難である。
コア層1aの厚さのより好適な範囲は、一方のスキン層1bの厚さに対し、コア層1aの厚さが10倍以上40倍以下の範囲内である。この範囲にすることで、隠蔽性、印刷加工時の不具合、ラッピング加工時の表面平滑性、耐傷性、曲げ加工性を十分な余裕を持って両立することができる。
【0029】
本実施形態においては、上述のように、スキン層1bに用いるポリプロピレン樹脂として、結晶性の高いポリプロピレン樹脂を用いることが好適である。特に、アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)が95%以上のプロピレン単重合体である高結晶性ホモポリプロピレン樹脂を全ポリプロピレン樹脂の質量に対して30質量%以上100質量%以下の範囲内で用いることが好ましい。
ポリプロピレン樹脂の結晶化温度は、一般的に100℃~130℃の範囲内とされており、造核剤を添加すると110℃~140℃の範囲内とされる。本実施形態の化粧シート10における着色ポリプロピレンフィルムのスキン層1bにおいては、この範囲内にある結晶化温度から硬化完了温度までの冷却時間を、公知の冷却プロセスによる制御で行うことによって、マルテンス硬さを80N/mm以上120N/mm以下の範囲内に調整している。なお、高結晶性ホモポリプロピレン樹脂の含有量が30質量%未満の場合、結晶性が不足するため、冷却プロセスをコントロールしてもマルテンス硬さが好適な範囲より低くなってしまうことがある。
【0030】
ここで、アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)とは、質量13の炭素C(核種)を用いた13C-NMR測定法(核磁気共鳴測定法)により、樹脂材料を所定の共鳴周波数にて共鳴させて得られる数値(電磁波吸収率)から算出されるものであり、樹脂材料中の原子配置、電子構造、分子の微細構造を規定するものである。そして、結晶性ポリプロピレン樹脂のペンタッド分率とは、13C-NMRにより求めたプロピレン単位が5個並んだ割合のことであって、結晶化度あるいは立体規則性の尺度として用いられる。ペンタッド分率は、主に表面の耐擦傷性を決定付ける重要な要因の一つであり、基本的にはペンタッド分率が高いほど結晶化度が高いことを表す。
【0031】
(無機顔料)
無機顔料は、隠蔽性を付与するための酸化チタンに代表される公知の無機顔料を用いることができる。着色用の無機顔料としては、例えば、鉄-亜鉛、クロム-アンチモン、鉄-アルミなどの複合酸化物、酸化鉄などが挙げられるが、これらは所望の色によって自由に配合を調整されるものである。また、無機顔料として、例えば、アルミフレークやパール顔料といった光輝材も添加することができる。また、例えば、カーボンブラックのような有機顔料を併用しても構わない。
更に、分散性の向上や、押出適性を改善するために脂肪酸金属塩などの添加剤を加えても構わない。
【0032】
(造核剤ベシクル)
また、基材層1のスキン層1bはナノサイズの造核剤を含んでいてもよい。ナノサイズの造核剤は、単層膜の外膜を具備するベシクルに内包された、造核剤ベシクルの形でポリプロピレン樹脂に添加されて使用されてもよい。基材層1のスキン層1bに造核剤を含めた場合にはポリプロピレン樹脂の結晶化度を向上でき、基材層1の耐擦傷性(耐傷性)を向上することができる。なお、本実施形態において、基材層1のスキン層1bを構成する樹脂中の造核剤は、当該造核剤の一部を露出させた状態で、ベシクルに内包されていてもよい。
ナノサイズの造核剤は、平均粒径が可視光の波長領域の1/2以下であることが好ましく、具体的には、可視光の波長領域が400nm以上750nm以下であるので、平均粒径が375nm以下であることが好ましい。
【0033】
ナノサイズの造核剤は、粒径が極めて小さいため、単位体積当たりに存在する造核剤の数と表面積とが粒子直径の三乗に反比例して増加する。その結果、各造核剤粒子間の距離が近くなるため、ポリプロピレン樹脂に添加された一の造核剤粒子の表面から結晶成長が生じた際に、結晶が成長している端部が直ちに、一の造核剤粒子に隣接する他の造核剤粒子の表面から成長している結晶の端部と接触し、互いの結晶の端部が成長を阻害して各結晶の成長が止まる。そのため、結晶性ポリプロピレン樹脂の結晶部における、球晶の平均粒径を小さく、例えば、球晶サイズを小さくして1μm以下とすることができる。この結果、結晶化度の高い高硬度の着色ポリプロピレンフィルムとすることができると共に、曲げ加工時に生じる球晶間の応力集中が効率的に分散されるため、曲げ加工時の割れや白化を抑制した着色ポリプロピレンフィルムを実現することができる。
【0034】
ここで、造核剤を単純添加した場合は、ポリプロピレン樹脂中の造核剤が2次凝集することで粒径が大きくなると共に添加した造核剤量に対して結晶核の数が、造核剤ベシクルとして添加した場合よりも大幅に少なくなってしまうことがある。このため、ポリプロピレン樹脂の結晶部における球晶の平均粒径が大きくなってしまい、曲げ加工時の割れや白化が抑制できないことがある。よって、結晶化度を高めることによる弾性率向上と加工性が両立できないことがある。
【0035】
本実施形態の化粧シート10を構成する、着色ポリプロピレンフィルムからなる基材層1のスキン層1bは、主成分としてのポリプロピレン樹脂100質量部に対して造核剤添加量に換算して0.05質量部以上0.5質量部以下の範囲内で添加されていればよく、0.1質量部以上0.3質量部以下の範囲内で造核剤ベシクルが添加されていることが好ましい。造核剤ベシクルの添加量が0.05質量部未満の場合、結晶化度が十分に向上せず、必要な弾性率(硬度)に達しないおそれがある。また、造核剤ベシクルの添加量が0.5質量部を超える添加量の場合、結晶核が過多のため球晶成長が逆に阻害され、結果的に結晶化度が十分に向上せず、必要な弾性率(硬度)に達しないおそれがある。
【0036】
また、造核剤をナノ化する手法としては、例えば、造核剤に対して主に機械的な粉砕を行ってナノサイズの粒子を得る固相法、造核剤や造核剤を溶解させた溶液中でナノサイズの粒子の合成や結晶化を行う液相法、造核剤や造核剤からなるガス・蒸気からナノサイズの粒子の合成や結晶化を行う気相法等の方法を適宜用いることができる。固相法としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、ハンマーミル、ジェットミル等が挙げられる。また、液相法としては、例えば、晶析法、共沈法、ゾルゲル法、液相還元法、水熱合成法等が挙げられる。更に、気相法としては、例えば、電気炉法、化学炎法、レーザー法、熱プラズマ法等が挙げられる。
【0037】
造核剤をナノ化する手法としては、超臨界逆相蒸発法が好ましい。超臨界逆相蒸発法とは、超臨界状態又は臨界点以上の温度条件下又は圧力条件下の二酸化炭素を用いて対象物質を内包したカプセル(ナノサイズのベシクル)を作製する方法である。超臨界状態の二酸化炭素とは、臨界温度(30.98℃)及び臨界圧力(7.3773±0.0030MPa)以上の超臨界状態にある二酸化炭素を意味し、臨界点以上の温度条件下又は圧力条件下の二酸化炭素とは、温度だけ又は圧力だけが臨界条件を越えた条件下の二酸化炭素を意味する。
【0038】
また、超臨界逆相蒸発法による具体的なナノ化処理としては、まず超臨界二酸化炭素と外膜形成物質としてのリン脂質と内包物質としての造核剤との混合流体中に水相を注入し、攪拌することによって、超臨界二酸化炭素と水相のエマルジョンを生成させる。次に、減圧することで、二酸化炭素が膨張・蒸発して転相が生じ、リン脂質が造核剤粒子の表面を単層膜で覆ったナノカプセル(ナノベシクル)を生成させる。この超臨界逆相蒸発法を用いることにより、造核剤粒子表面で外膜が多重膜となる従来のカプセル化方法とは異なり、容易に単層膜のカプセルを生成することができるので、より小径なカプセルを調製することができる。
なお、造核剤ベシクルは、例えば、Bangham法、エクストルージョン法、水和法、界面活性剤透析法、逆相蒸発法、凍結融解法、超臨界逆相蒸発法などによって調製することができる。その中でも特に超臨界逆相蒸発法が好ましい。
【0039】
造核剤ベシクルを構成する外膜は例えば単層膜から構成される。またその外膜は、例えば、リン脂質等の生体脂質を含む物質から構成される。
本実施形態では、外膜がリン脂質のような生体脂質を含む物質から構成される造核剤ベシクルを、造核剤リポソームと称する。
外膜を構成するリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオピン、黄卵レシチン、水添黄卵レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン等のグリセロリン脂質、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール等のスフィンゴリン脂質が挙げられる。
【0040】
ベシクルの外膜となるその他の物質としては、例えば、ノニオン系界面活性剤や、これとコレステロール類もしくはトリアシルグリセロールの混合物などの分散剤が挙げられる。このうちノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリグリセリンエーテル、ジアルキルグリセリン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンコポリマー、ポリブタジエン-ポリオキシエチレン共重合体、ポリブタジエン-ポリ2-ビニルピリジン、ポリスチレン-ポリアクリル酸共重合体、ポリエチレンオキシド-ポリエチルエチレン共重合体、ポリオキシエチレン-ポリカプロラクタム共重合体等の1種又は2種以上を使用することができる。コレステロール類としては、例えば、コレステロール、α-コレスタノール、β-コレスタノール、コレスタン、デスモステロール(5、24-コレスタジエン-3β-オール)、コール酸ナトリウム又はコレカルシフェロール等を使用することができる。
【0041】
また、リポソームの外膜は、リン脂質と分散剤との混合物から形成するようにしてもよい。本実施形態の化粧シート10においては、造核剤ベシクルを、リン脂質からなる外膜を具備したラジカル捕捉剤リポソームとすることが好ましく、外膜をリン脂質から構成することによって、基材層1の主成分である樹脂材料とベシクルとの相溶性を良好なものとすることができる。
【0042】
造核剤としては、樹脂が結晶化する際に結晶化の起点となる物質であれば特に限定するものではない。造核剤としては、例えば、リン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩、ベンジリデンソルビトール、キナクリドン、シアニンブルー及びタルク等が挙げられる。特に、ナノ化処理の効果を最大限に得るべく、非溶融型で良好な透明性が期待できるリン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩を用いることが好ましいが、ナノ化処理によって材料自体の透明化が可能な場合には、有色のキナクリドン、シアニンブルー、タルクなども用いることができる。また、非溶融型の造核剤に対して、溶融型のベンジリデンソルビトールを適宜混合して用いるようにしてもよい。
【0043】
上述のように、本実施形態の化粧シート10の特徴(発明特定事項)の一つは、「基材層1のスキン層1bが、ベシクルに内包された造核剤を含有する」ことにある。そして、造核剤をベシクルに内包させた状態で樹脂組成物に添加することで、樹脂材料中、すなわち基材層1のスキン層1b中への造核剤の分散性を飛躍的に向上するという効果が奏するが、その特徴を、完成された化粧シート10の状態における物の構造や特性にて直接特定することは、状況により困難な場合も想定され、非実際的であるといえる。その理由は次の通りである。ベシクルの状態で添加された造核剤は、高い分散性を有して分散された状態になっていて、作製した化粧シート10の状態においても、造核剤は基材層1のスキン層1bに高分散されている。しかしながら、基材層1のスキン層1bを構成する樹脂組成物に造核剤をベシクルの状態で添加して基材層1を作製した後の、化粧シート10の作製工程においては、通常、積層体への圧縮処理や硬化処理などの種々の処理が施されるが、このような処理によって、造核剤を内包するベシクルの外膜が破砕や化学反応して、造核剤が外膜で包含(包皮)されていない可能性も高く、その外膜が破砕や化学反応している状態が化粧シート10の処理工程によってばらつくためである。そして、この造核剤が外膜で包含されていないなどの状況は、物性自体を数値範囲で特定することが困難であり、また破砕された外膜の構成材料が、ベシクルの外膜なのか造核剤とは別に添加された材料なのか判定が困難な場合も想定される。このように、本願発明は、従来に比して、基材層1に対し、造核剤が高分散で配合されている点で相違があるものの、造核剤を内包するベシクルの状態で添加されたためなのかどうかが、化粧シート10の状態において、その構造や特性を測定に基づき解析した数値範囲で特定することが非実際的である場合も想定される。
なお、上記構成の造核剤ベシクルは、透明樹脂層3にも含有させていてもよい。
【0044】
<絵柄層2>
着色ポリプロピレンフィルム(基材層1)の表面には、化粧シート10に柄模様を付加するための絵柄層2を設けることができる。柄模様としては、例えば、木目模様、石目模様、砂目模様、タイル貼模様、煉瓦積模様、布目模様、皮絞模様、幾何学図形等を用いることができる。
更に、基材層1と絵柄層2との間には、目的とする意匠の程度に応じて下地ベタインキ層(不図示)を設けるようにしてもよい。下地ベタインキ層は、基材層1の全面を被覆するようにして設けられる。また、下地ベタインキ層は、隠蔽性等、必要に応じて2層以上の多層としてもよい。更に、絵柄層2は、求められる意匠を表現するために必要な分版の数だけ積層して形成してもよい。このように、絵柄層2と下地ベタインキ層とは、求められる意匠、つまり、表現したい意匠に応じて様々な組み合わせとなるが、特に限定されるものではない。
【0045】
下地ベタインキ層及び絵柄層2の構成材料は、特に限定されるものではない。例えば、マトリックスと、染料、顔料等の着色剤とを溶剤中に溶解、分散してなる印刷インキやコーティング剤を用いることができる。マトリックスとしては、例えば、油性の硝化綿樹脂、2液型ウレタン樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニル系樹脂、アルキド樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系樹脂等の各種合成樹脂類、又はこれらの混合物、共重合体等を用いることができる。また、着色剤としては、例えば、カーボンブラック、チタン白、亜鉛華、弁柄、黄鉛、紺青、カドミウムレッド等の無機顔料や、アゾ顔料、レーキ顔料、アントラキノン顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリノン顔料、ジオキサジン顔料等の有機顔料、又はこれらの混合物を用いることができる。また、溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、水等、もしくはこれらの混合物等を用いることができる。
【0046】
また、下地ベタインキ層及び絵柄層2には、各種機能を付与するために、例えば、体質顔料、可塑剤、分散剤、界面活性剤、粘着付与剤、接着助剤、乾燥剤、硬化剤、硬化促進剤及び硬化遅延剤等の機能性添加剤を添加してもよい。
ここで、下地ベタインキ層及び絵柄層2は、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法、スクリーン印刷法、静電印刷法、インクジェット印刷法等の各種印刷方法によって形成することができる。また、下地ベタインキ層は、基材層1の全面を被覆しているため、例えば、ロールコート法、ナイフコート法、マイクログラビアコート法、ダイコート法等の各種コーティング方法によっても形成することができる。これらの印刷方法、コーティング方法は、形成する層によって別々に選択してもよいが、同じ方法を選択して一括加工することが効率的である。
【0047】
<透明樹脂層3>
透明樹脂層3の主成分として用いる樹脂材料は、オレフィン系樹脂からなることが好適であり、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテンなどの他に、αオレフィン(例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4、4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセンなど)を単独重合あるいは2種類以上を共重合させたものや、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・エチルメタクリレート共重合体、エチレン・ブチルメタクリレート共重合体、エチレン・メチルアクリレート共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・ブチルアクリレート共重合体などのように、エチレン又はαオレフィンとそれ以外のモノマーとを共重合させたものが挙げられる。また、化粧シート10の表面強度の向上を図る場合には、基材層1のスキン層1bと同様に高結晶性のポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。
ここで、本実施形態において「主成分」とは、特に特定が無い場合には、対象とする材料の90質量%以上を指す。
【0048】
透明樹脂層3を設ける場合、透明樹脂層3の層厚は50μm以上100μm以下の範囲内が好ましい。透明樹脂層3の層厚が50μm未満の場合、透明樹脂層3表面の耐傷性の向上効果が低く、透明樹脂層3を設ける意義が少なくなってしまうことがある。透明樹脂層3の層厚が100μmを超える場合、曲げ加工時の白化や割れといった不具合が発生してしまうことがある。
もっとも、透明樹脂層3の上にトップコート層4を設ける場合には、透明樹脂層3の層厚は50μm未満としてもよい。
なお、透明樹脂層3を構成する樹脂組成物には、必要に応じて、例えば、熱安定剤、光安定化剤、ブロッキング防止剤、触媒捕捉剤、着色剤、光散乱剤及び艶調整剤などの各種機能性添加剤を含有させてもよい。これらの各種機能性添加剤は、周知のものから適宜選択して用いることができる。
【0049】
<トップコート層4>
更なる耐傷性の向上や艶の調整が必要な場合は、透明樹脂層3の表面にトップコート層(表面保護層)4を設けることができる。
本実施形態においては、トップコート層4の表面側に対し、カットオフ値λcを2.5mm、カットオフ値λsを8μm、評価長さを10mmとし、トップコート層4の製膜方向に垂直に測定したJIS B0601:2001に準拠した算術平均粗さ(Ra0.008)が10μm以下であり、且つ粗さ曲線要素の平均長さRSmと十点平均粗さRzJISとが下記(1)式の条件を満たすようにトップコート層4の表面形状(凹凸形状)が設計されている。
5 ≦ RSm/RzJIS ≦ 40 ・・・(1)
トップコート層4の表面形状が上記条件を満たす場合には、耐汚染性および意匠性を向上させることができる。
【0050】
トップコート層4の主成分の樹脂材料としては、例えば、ポリウレタン系、アクリルシリコン系、フッ素系、エポキシ系、ビニル系、ポリエステル系、メラミン系、アミノアルキッド系、尿素系などの樹脂材料から適宜選択して用いることができる。樹脂材料の形態は、水性、エマルジョン、溶剤系など特に限定されるものではない。硬化法についても1液タイプ、2液タイプ、紫外線硬化法など適宜選択して行うことができる。
【0051】
トップコート層4の主成分として用いる樹脂材料としては、イソシアネートを用いたウレタン系のものが作業性、価格、樹脂自体の凝集力などの観点から好適である。イソシアネートには、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、リジンジイソシアネート(LDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン(HXDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)などの誘導体であるアダクト体、ビュレット体、イソシアヌレート体などの硬化剤より適宜選定して用いることができるが、耐候性を考慮すると、直鎖状の分子構造を有するヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)もしくはイソホロンジイソシアネート(IPDI)をベースとする硬化剤が好適である。この他にも、表面硬度の向上を図る場合には、紫外線や電子線などの活性エネルギー線で硬化する樹脂を用いることが好ましい。なお、これらの樹脂は相互に組み合わせて用いることが可能であり、例えば、熱硬化型と光硬化型とのハイブリッド型とすることにより、表面硬度の向上、硬化収縮の抑制及び密着性の向上を図ることができる。
【0052】
トップコート層4には艶調整のために艶調整剤を添加することができる。艶調整剤は市販されている公知の物を用いればよい。例えば、シリカ、ガラス、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の無機材料からなる微粒子を用いてもよい。又は、アクリル等の有機材料からなる微粒子を用いることもできる。ただし、高い透明性が要求される場合には、透明性の高いシリカ、ガラス、アクリル等の微粒子を用いることが望ましい。特に、シリカやガラス等の微粒子のなかでも、中実の真球状粒子ではなく、微細な1次粒子が2次凝集してなる嵩密度の低い艶調整剤は添加量に対する艶消し効果が高い。それゆえ、このような艶調整剤を用いることで、艶調整剤の添加量を少なくすることができる。
【0053】
また、トップコート層4に各種機能を付与するために、抗菌剤、防カビ剤等の機能性添加剤を添加してもよい。また、必要に応じて紫外線吸収剤、光安定化剤を添加してもよい。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾエート系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、シアノアクリレート系を用いることができる。また、光安定化剤としては、ヒンダードアミン系を用いることができる。
トップコート層4の層厚は3μm以上15μm以下の範囲内が好ましい。トップコート層4の層厚が3μm未満の場合、耐傷性の向上効果が低く、トップコート層4を設ける意義が少なくなってしまうことがある。トップコート層4の層厚が15μmを超える場合、曲げ加工時においてクラックや割れが生じてしまい、意匠上の問題や耐候性が悪化する問題が発生するおそれがある。
【0054】
なお、本実施形態の化粧シート10の引張弾性率、特に基材層1単体の引張弾性率の範囲は、700MPa以上2000MPa以下の範囲内であってもよい。引張弾性率が700MPa未満の場合、印刷加工時の不具合を抑制することができない、もしくはラッピング加工時の表面平滑性を維持できないおそれがある。引張弾性率が2000MPaを超える場合、結晶性が高すぎるため、造核剤ベシクルを用いた場合でも、曲げ加工において白化や割れといった不具合が生じてしまうおそれがある。引張弾性率の好適な範囲は1000MPa以上1800MPa以下の範囲内である。この範囲内とすることで、印刷加工時の不具合、耐傷性、ラッピング加工時の表面平滑性、曲げ加工について、それぞれ優れた状態で両立することができる。
【0055】
「製造方法」
化粧シート10の製造例について説明する。
ベシクルに造核剤を内包させて当該造核剤をベシクル化してなる造核剤ベシクルを作製し、作製した造核剤ベシクルを、ポリプロピレン樹脂に添加してスキン層用の樹脂材料を作製する。また、ポリプロピレン樹脂に無機顔料を添加してコア層用の樹脂材料を作製する。
造核剤ベシクルは、例えば、超臨界逆相蒸発法によって単層膜を具備するベシクルに上記造核剤を内包させてベシクル化することで作製する。
スキン層1bに使用するポリプロピレン樹脂は、その30質量%以上100質量%以下に、アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)が95%以上の高結晶性ホモポリプロピレン樹脂を使用することが好ましい。
【0056】
上記の基材層用の樹脂材料を個別に加熱溶融し、押し出し成形などによって、厚さが40μm以上200μm以下のシート状に成形して基材層1とする。
スキン層1bとコア層1aは別々に成形し、例えばドライラミネートを用いて貼り合わせて基材層1を作製することもできるが、押し出し成形時にTダイもしくはTダイ前のフィードブロックにて溶融樹脂を合流させ、共押し出し成形および賦形にて基材層1を作製するのが簡便であり、生産性が高い。
このとき、結晶化温度から硬化完了温度までの冷却時間を公知の調整方法で調整することで、基材層1のスキン層1bのマルテンス硬さを80N/mm以上120N/mm以下の範囲内に制御する。また、基材層1のコア層1aのマルテンス硬さを50N/mm以上80N/mm以下の範囲内に制御する。
【0057】
更に、必要に応じて、基材層1の上面に絵柄層2を印刷によって形成し、その上に透明樹脂層3及びトップコート層4の少なくとも一方の層を印刷によって形成する。
このとき、透明樹脂層3の厚さを50μm以上100μm以下の範囲内とし、トップコート層4の厚さを3μm以上15μm以下の範囲内とし、化粧シート10の総厚を100μm以上250μm以下の範囲内とすることが好ましい。
また、トップコート層4の表面側に対し、カットオフ値λcを2.5mm、カットオフ値λsを8μm、評価長さを10mmとし、製膜方向に垂直に測定したJIS B0601:2001に準拠した算術平均粗さ(Ra0.008)が10μm以下であり、且つ粗さ曲線要素の平均長さRSmと十点平均粗さRzJISとが下記(1)式の条件を満たすように、エンボス処理を施すことでトップコート層4を形成する。
5 ≦ RSm/RzJIS ≦ 40 ・・・(1)
【0058】
<作用その他>
(1)本実施形態の化粧シート10は、基材層1上にトップコート層4を有している。トップコート層4の表面側に対し、カットオフ値λcを2.5mm、カットオフ値λsを8μm、評価長さを10mmとしトップコート層4の製膜方向に垂直に測定したJIS B0601:2001に準拠した算術平均粗さ(Ra0.008)が10μm以下であり、且つ粗さ曲線要素の平均長さRSmと十点平均粗さRzJISとが下記(1)式の条件を満たしている。
5 ≦ RSm/RzJIS ≦ 40 ・・・(1)
この構成によれば、汚染物質が化粧シート10の表面に形成された凹凸間に入り込んだ場合であっても汚染物質をふき取りやすい。また、適度な凹凸形状が維持されているため、意匠性が損なわれない。
【0059】
(2)本実施形態の化粧シート10は、無機顔料とポリプロピレン樹脂とを含むコア層1aと、コア層1aの両面にポリプロピレン樹脂で形成されたスキン層1bとを有する着色ポリプロピレンフィルムからなる基材層1を有している。基材層1のスキン層1bはナノサイズの造核剤を含有し、その造核剤は、外膜で包含されてベシクル化した造核剤ベシクルの状態で添加されている。スキン層1bは、マルテンス硬さが80N/mm以上120N/mm以下の範囲内であり、コア層1aは、マルテンス硬さが50N/mm以上80N/mm以下の範囲内であり、基材層1の厚さは、40μm以上200μm以下の範囲内である。
この構成によれば、ポリプロピレン樹脂の結晶化度を向上させる造核剤をベシクル化して造核剤ベシクルとして添加し、更にマルテンス硬さ及び膜厚を最適化することで、耐傷性に優れた化粧シート10を提供することができる。
【0060】
(3)本実施形態の化粧シート10は、基材層1のスキン層1bの一方の層厚に対し、コア層1aの層厚が3倍以上50倍以下の範囲内であることが好ましい。
この構成によれば、耐傷性、耐衝撃性、高隠蔽性、及び曲げ加工性を、十分に余裕をもって両立させることができる。
(4)本実施形態の化粧シート10は、基材層1のスキン層1bへの造核剤ベシクルの添加量が、ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、造核剤ベシクル中の造核剤に換算して0.05質量部以上0.5質量部以下の範囲内であることが好ましい。
この構成によれば、基材層1のスキン層1bを構成するポリプロピレン樹脂の結晶化度が十分に向上し、確実に必要な弾性率(硬度)を確保できるようになる。
【0061】
(5)本実施形態の化粧シート10は、造核剤ベシクルが、リン脂質からなる外膜を備える造核剤リポソームであることが好ましい。
この構成によれば、基材層1の主成分である樹脂材料とベシクルとの相溶性を良好なものとすることができる。
(6)本実施形態の化粧シート10は、造核剤ベシクルが、超臨界逆相蒸発法によって単層膜を具備するベシクルに造核剤を内包させてベシクル化したものであることが好ましい。
この構成によれば、基材層1のスキン層1bを構成するポリプロピレン樹脂の結晶化度が確実に向上し、確実に必要な弾性率(硬度)を確保できるようになる。
【0062】
(7)本実施形態の化粧シート10は、基材層1の一方の面に絵柄層2が積層されていることが好ましい。
この構成によれば、化粧シート10の意匠性を向上させることができる。
(8)本実施形態の化粧シート10は、基材層1の一方の面側に、透明樹脂層3及びトップコート層4の少なくとも一方の層が積層し、化粧シート10の総厚が100μm以上250μm以下の範囲内であることが好ましい。
この構成によれば、ラッピング加工時においては木質基板の端面や積層部分への追従性が著しく悪くなり、接着力が不十分となることで、経時での剥離といった不具合を発生させることを抑制できる。
【0063】
[実施例]
以下に、本実施形態の化粧シート10の具体的な実施例について説明する。
着色ポリプロピレンフィルムのコア層1aの原料として、エチレン成分を4%配合したメルトフローレート(MFR)が12g/10min(230℃)のランダムポリプロピレン樹脂60質量部に対し、無機顔料として酸化チタン顔料40質量部を配合したものと、スキン層1bの原料として、ペンタッド分率が97.8%、メルトフローレート(MFR)が15g/10min(230℃)、分子量分布MWD(Mw/Mn)が2.3の高結晶性ホモポリプロピレン樹脂50質量部に対し、エチレン成分を4%配合したメルトフローレート(MFR)が12g/10min(230℃)のランダムポリプロピレン樹脂50質量部、となるように添加して、溶融押出機を用いて共押出成形および賦形をしてコア層厚さ100μm、スキン層厚さ5μmで製膜を行った。
次に、基材層1の両面にコロナ処理を施し、その一方に対して、2液硬化型ウレタンインキ(V180;東洋インキ製造(株)製)にて絵柄印刷を行って絵柄層2を形成した。
更に、絵柄層2の表面に対して、2液硬化型ウレタントップコート(W184;DICグラフィックス社製、塗布量10g/m)を塗布してトップコート層4を形成し化粧シート10を得た。
【0064】
スキン層に造核剤を加える場合について、以下説明する。
(造核剤ベシクルの製造方法)
まず、本実施例において用いた造核剤リポソームの製造方法を説明する。
造核剤リポソームは、前述の超臨界逆相蒸発法を用いて、メタノール100質量部、造核剤としてのリン酸エステル金属塩系造核剤(アデカスタブNA-21;ADEKA社製)70質量部、ベシクルの外膜を構成するリン脂質としてのホスファチジルコリン5質量部を60℃に保たれた高圧ステンレス容器に入れて密閉し、圧力が20MPaになるように当該容器内に二酸化炭素を注入して超臨界状態とした。その後、当該容器内を激しく攪拌するとともに、イオン交換水100質量部を注入した。温度と圧力を超臨界状態に保ちながら更に15分間攪拌混合後、二酸化炭素を容器から排出して大気圧に戻すことでリン脂質からなる単層膜の外膜を具備するベシクルに造核剤を内包する造核剤ベシクルを得た。
【0065】
着色ポリプロピレンフィルムのコア層1aの原料として、エチレン成分を4%配合したメルトフローレート(MFR)が12g/10min(230℃)のランダムポリプロピレン樹脂60質量部に対し、無機顔料として酸化チタン顔料40質量部を配合したものと、スキン層1bの原料として、ペンタッド分率が97.8%、メルトフローレート(MFR)が15g/10min(230℃)、分子量分布MWD(Mw/Mn)が2.3の高結晶性ホモポリプロピレン樹脂50質量部に対し、エチレン成分を4%配合したメルトフローレート(MFR)が12g/10min(230℃)のランダムポリプロピレン樹脂50質量部、上述の造核剤ベシクルを造核剤として0.1質量部となるように添加して、溶融押出機を用いて共押出成形および賦形をしてコア層厚さ100μm、スキン層厚さ5μmで製膜を行った。その後の工程は同様である。
【0066】
(実施例1)
トップコート層4を形成したのち、算術平均粗さRaが3.7、粗さ曲線要素の平均長さRSm/十点平均粗さRzJISが7.7となる化粧シートを作製し、実施例1の化粧シート10とした。
(実施例2)
トップコート層4を形成したのち、算術平均粗さRaが6.1、粗さ曲線要素の平均長さRSm/十点平均粗さRzJISが11.0となる化粧シートを作製し、実施例2の化粧シート10とした。
(実施例3)
トップコート層4を形成したのち、算術平均粗さRaが2.4、粗さ曲線要素の平均長さRSm/十点平均粗さRzJISが14.1となる化粧シートを作製し、実施例3の化粧シート10とした。
(実施例4)
トップコート層4を形成したのち、算術平均粗さRaが3.8、粗さ曲線要素の平均長さRSm/十点平均粗さRzJISが15.0となる化粧シートを作製し、実施例4の化粧シート10とした。
【0067】
(実施例5)
トップコート層4を形成したのち、算術平均粗さRaが5.5、粗さ曲線要素の平均長さRSm/十点平均粗さRzJISが18.6となる化粧シートを作製し、実施例5の化粧シート10とした。
(実施例6)
トップコート層4を形成したのち、算術平均粗さRaが2.9、粗さ曲線要素の平均長さRSm/十点平均粗さRzJISが21.8となる化粧シートを作製し、実施例6の化粧シート10とした。
(実施例7)
トップコート層4を形成したのち、算術平均粗さRaが4.9、粗さ曲線要素の平均長さRSm/十点平均粗さRzJISが22.1となる化粧シートを作製し、実施例7の化粧シート10とした。
【0068】
(実施例8)
トップコート層4を形成したのち、算術平均粗さRaが3.9、粗さ曲線要素の平均長さRSm/十点平均粗さRzJISが25.8となる化粧シートを作製し、実施例8の化粧シート10とした。
(実施例9)
トップコート層4を形成したのち、算術平均粗さRaが3.9、粗さ曲線要素の平均長さRSm/十点平均粗さRzJISが28.9となる化粧シートを作製し、実施例9の化粧シート10とした。
(実施例10)
トップコート層4を形成したのち、算術平均粗さRaが3.9、粗さ曲線要素の平均長さRSm/十点平均粗さRzJISが31.1となる化粧シートを作製し、実施例10の化粧シート10とした。
【0069】
(実施例11)
上述した造核剤を添加した状態のポリプロピレン樹脂を用いてスキン層1bを製膜した。また、トップコート層4を形成したのち、算術平均粗さRaが3.5、粗さ曲線要素の平均長さRSm/十点平均粗さRzJISが7.6となる化粧シートを作製し、実施例11の化粧シート10とした。
(実施例12)
上述した造核剤を添加した状態のポリプロピレン樹脂を用いてスキン層1bを製膜した。また、トップコート層4を形成したのち、算術平均粗さRaが3.8、粗さ曲線要素の平均長さRSm/十点平均粗さRzJISが33.9となる化粧シートを作製し、実施例12の化粧シート10とした。
【0070】
(比較例1)
上述した造核剤を添加した状態のポリプロピレン樹脂を用いてスキン層1bを製膜した。また、トップコート層4を形成したのち、算術平均粗さRaが7.8、粗さ曲線要素の平均長さRSm/十点平均粗さRzJISが2.0となる化粧シートを作製し、比較例1の化粧シート10とした。
(比較例2)
上述した造核剤を添加した状態のポリプロピレン樹脂を用いてスキン層1bを製膜した。また、トップコート層4を形成したのち、算術平均粗さRaが1.9、粗さ曲線要素の平均長さRSm/十点平均粗さRzJISが47.9となる化粧シートを作製し、比較例2の化粧シート10とした。
(比較例3)
トップコート層4を形成したのち、算術平均粗さRaが7.8、粗さ曲線要素の平均長さRSm/十点平均粗さRzJISが2.0となる化粧シートを作製し、比較例3の化粧シート10とした。
【0071】
<表面粗さ>
各実施例及び各比較例の化粧シート10に備わるトップコート層4の表面側の算術平均粗さ(Ra0.008)は、JIS B0601:2001に準拠した測定方法により、表面粗さ計(ミツトヨ社製、型番:SJ-310)を用い、カットオフ値0.008mm、評価長さ10mmの測定条件で測定した。測定は、任意の5点において、製膜方向と直行する方向に沿って測定し、平均値を測定値とした。測定した結果を表1に示す。
【0072】
<耐汚染性>
各実施例及び各比較例の化粧シート10に青インキ(マジック)を塗布し、4時間放置後中性洗剤もしくはアルコールにて拭き取りを行った。または、これと同様にして、クレヨン、中性洗剤、薬品(エタノール)、食品(醤油)を塗布し、6時間放置後拭き取りを行った。
拭き取り後の汚れの状態を目視で観察し、下記評価基準に従って評価した。評価結果を表1に示す。
なお、++以上の評価であれば、実使用において問題がないと評価される。
+++:汚れ残りがない
++:汚れ残りが軽微である
+:汚れ残りがある
-:汚れ残りが多い
【0073】
<意匠・触感性>
20人の被験者が各実施例及び各比較例の化粧シート10の表面を目視で観察後、手で表面を触り、下記評価基準に従って評価した。評価結果を表1に示す。
なお、△以上の評価であれば、実使用において問題がないと評価される。
〇:10人以上が、触感がなめらかで意匠性が良いと感じる
△:5人以上10人未満が、触感に違和感がなく、意匠性が良いと感じる
×:5人未満が、触感また意匠性が良いと感じる
【0074】
<耐傷性>
耐傷性については、鉛筆硬度試験を実施して評価した。鉛筆硬度試験においては、HBの鉛筆を用い、各実施例及び各比較例の化粧シート10に対して鉛筆の角度を45±1°に固定して、当該鉛筆に750kgの荷重を付加した状態でスライドさせて化粧シート10の表面状態を観察した(旧JIS規格 JISK5400に準拠)。試験は5回実施し、鉛筆の傷、跡について、下記評価基準に従って評価した。評価結果を表1に示す。
なお、○以上の評価であれば、実使用において問題がないと評価される。また、△以上の評価であれば、例えば家具や人の触れない高い位置の垂直面などの用途に限定されるものの、問題は発生しない。○以上の評価であることが望ましい。
◎:全く傷や跡の見られない
○:僅かに鉛筆の跡が見える
△:鉛筆の跡が見える
×:鉛筆の傷や着色ポリプロピレンフィルムの破れが見える
【0075】
【表1】
【0076】
表1から分かるように、実施例1~12の化粧シート10では、最適な表面粗さを有するため、耐汚染性および意匠性が問題なく、かつ鉛筆硬度試験でも良好な結果が得られている。特に実施例11、12は造核剤が入った基材層を用いているため、鉛筆硬度試験では非常に良好な結果が得られた。
【0077】
一方、比較例1、2の化粧シート10では、マルテンス硬度は好適であるため耐傷性は良好であるも、表面粗さが範囲外であり、比較例1ではRSm/RzJISが2であり、表面に形成された凹凸が大きくかつ密集した構造のため、強く吸着した汚染物質を容易にふき取ることが出来ず、汚れが残ってしまった。
また、比較例2ではRSm/RzJISが47.9であり、表面に形成された凹凸はあまりなく、かつ緩やかな構造のため、汚染物質はふき取りやすいものの、意匠性や良触感が損なわれてしまったことが判る。
最後に比較例3では、表面粗さだけでなく、マルテンス硬度も好適な範囲を外れたため、耐汚染性や意匠性が損なわれただけでなく、耐傷性も低下したことが判る。
【0078】
以上から、実施例1~12の化粧シート10は、基材層1表面としての不具合を発生させず、耐汚染性、及び意匠性を備えた化粧シート10であることが明らかとなった。
なお、本発明の化粧シートは、上記の実施形態及び実施例に限定されるものではなく、発明の特徴を損なわない範囲において種々の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明に係る化粧シートは、住宅等の建築物の内外装材や、造作材、建具等の建築資材、家具什器類、住設機器や家電製品等の表面化粧に使用可能である。特に、本発明に係る化粧シートは、多少とも風雨の影響を受ける軒下用外装材や玄関ドア材等の準外装用途や、マジックペンや生活汚染物等に対する拭き取り性、撥水性、耐汚染性等が要求される子供部屋、台所・食堂、洗面所等の用途に好適である。
【符号の説明】
【0080】
10 化粧シート
1 基材層
2 絵柄層
3 透明樹脂層
4 トップコート層
B 基板
図1
図2