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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】活物質、電池およびこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20240730BHJP
   C01B 33/06 20060101ALI20240730BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALN20240730BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
C01B33/06
H01M4/1395
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020098710
(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公開番号】P2021192348
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一裕
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-087886(JP,A)
【文献】特開2020-017513(JP,A)
【文献】特開2020-064716(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050100(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/150725(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/146658(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0280609(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0380724(US,A1)
【文献】特表2017-531276(JP,A)
【文献】特開2012-033867(JP,A)
【文献】特開2007-073640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/134-4/62
C01B 33/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiおよびAlを少なくとも含有する活物質であって
前記活物質は、シリコンクラスレート型の結晶相を有し、
前記Siおよび前記Alの合計に対する前記Alの割合が、0.1atm%以上、1atm%以下であり、
前記活物質が、一次粒子の内部に空隙を有する、活物質。
【請求項2】
前記空隙の空隙率が、2%以上、15%以下である、請求項1に記載の活物質。
【請求項3】
前記活物質が、前記シリコンクラスレート型の結晶相として、シリコンクラスレートII型の結晶相を有する、請求項1または請求項2に記載の活物質。
【請求項4】
正極層と、負極層と、前記正極層および前記負極層の間に形成された電解質層と、を有する電池であって、
前記負極層が、請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載の活物質を含有する、電池。
【請求項5】
Na、SiおよびAlを含有し、少なくともジントル相を有し、前記Siおよび前記Alの合計に対する前記Alの割合が10atm%未満であるジントル化合物を準備する準備工程と、
前記ジントル化合物から、前記Naを除去し、シリコンクラスレート型の結晶相を有する中間体を形成するNa除去工程と、
前記中間体から、前記Alを除去するAl除去工程と、
を有する活物質の製造方法。
【請求項6】
前記準備工程が、Na源、Si源およびAl源を含有する原料混合物に対して熱処理を行い、前記ジントル化合物を準備する工程である、請求項5に記載の活物質の製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の活物質の製造方法により活物質を製造する活物質製造工程と、
前記活物質を用いて負極層を形成する負極層形成工程と、
を有する電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、活物質、電池およびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電池の開発が盛んに行われている。例えば、自動車産業界では、電気自動車またはハイブリッド自動車に用いられる電池の開発が進められている。また、電池に用いられる活物質として、Siが知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、リチウムイオン電池の負極活物質として、計算上、シリコンクラスレートを使用することが可能であることが開示されている。具体的には、シリコンクラスレートとして、Si46およびSi34が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、結晶格子と、その結晶格子に内包されるゲスト物質とを含むクラスレート化合物を含有する電極活物質材料が開示されている。具体的に、ゲスト物質は、Ba、Ca、Liからなる群から選択される少なくとも一種を含み、結晶格子は、Ga、Al、In、Ag、Au、Cu、Ni、Coからなる群から選択される少なくとも一種と、SiおよびSnからなる群から選択される少なくとも一種とを含むことが開示されている。
【0005】
また、非特許文献1には、I型の結晶相を有する、三元系のシリコンクラスレートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許出願公開第2012/0021283号明細書
【文献】国際公開第2014/050100号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Tiago F. T. Cerqueira et al., "Prediction and Synthesis of a Non-Zintl Silicon Clathrate", Chem. Mater. 2016, 28, 3711-3717
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
Siは理論容量が大きく、電池の高エネルギー密度化に有効である。その反面、Siは、充放電による体積変化が大きい。
【0009】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、充放電による体積変化が小さい活物質を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本開示においては、SiおよびAlを少なくとも含有し、シリコンクラスレート型の結晶相を有し、上記Siおよび上記Alの合計に対する上記Alの割合が、0.1atm%以上、1atm%以下である、活物質を提供する。
【0011】
本開示によれば、活物質がシリコンクラスレート型の結晶相を有することから、充放電による体積変化を小さくすることができる。さらに、本開示における活物質は、Siに加えてAlを含有することから、充放電による体積変化を小さくすることができる。
【0012】
上記開示においては、上記活物質が、一次粒子の内部に空隙を有していてもよい。
【0013】
上記開示においては、上記空隙の空隙率が、2%以上、15%以下であってもよい。
【0014】
上記開示においては、上記活物質が、上記シリコンクラスレート型の結晶相として、シリコンクラスレートII型の結晶相を有していてもよい。
【0015】
また、本開示においては、正極層と、負極層と、上記正極層および上記負極層の間に形成された電解質層と、を有する電池であって、上記負極層が、上述した活物質を含有する、電池を提供する。
【0016】
本開示によれば、上述した活物質を用いることで、充放電による体積変化が小さい電池とすることができる。
【0017】
また、本開示においては、Na、SiおよびAlを含有し、少なくともジントル相を有し、上記Siおよび上記Alの合計に対する上記Alの割合が10atm%未満であるジントル化合物を準備する準備工程と、上記ジントル化合物から、上記Naを除去し、シリコンクラスレート型の結晶相を有する中間体を形成するNa除去工程と、上記中間体から、上記Alを除去するAl除去工程と、を有する活物質の製造方法を提供する。
【0018】
本開示によれば、NaおよびSiに加えてAlを含有するジントル化合物を用いることで、充放電による体積変化が小さい活物質を得ることができる。
【0019】
上記開示においては、上記準備工程が、Na源、Si源およびAl源を含有する原料混合物に対して熱処理を行い、上記ジントル化合物を準備する工程であってもよい。
【0020】
また、本開示においては、上述した活物質の製造方法により活物質を製造する活物質製造工程と、上記活物質を用いて負極層を形成する負極層形成工程と、を有する電池の製造方法を提供する。
【0021】
本開示によれば、上述した活物質を用いることで、充放電による体積変化が小さい電池を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本開示においては、充放電による体積変化が小さい活物質を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】Siの結晶相を説明する概略斜視図である。
図2】本開示における電池を例示する概略断面図である。
図3】本開示における活物質の製造方法を例示するフローチャートである。
図4】実施例2で得られた中間体および活物質に対するXRD測定の結果である。
図5】実施例2で得られた活物質に対するSEM観察の結果である。
図6】実施例1~4および比較例3で得られた活物質に対するSEM観察(断面)の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示における活物質、電池およびこれらの製造方法について、詳細に説明する。
【0025】
A.活物質
本開示における活物質は、SiおよびAlを少なくとも含有し、シリコンクラスレート型の結晶相を有し、上記Siおよび上記Alの合計に対する上記Alの割合が、0.1atm%以上、1atm%以下である。
【0026】
本開示における活物質は、シリコンクラスレート型の結晶相を有する。シリコンクラスレート型の結晶相は、骨格原子が、かご型の構造(ケージ)を有しており、その中に、Liイオン等の金属イオンが入ることができる。ケージに金属イオンが入っても、膨張量は小さいため、充放電による体積変化が小さい。シリコンクラスレート型の結晶相としては、例えば、シリコンクラスレートI型およびII型の結晶相が挙げられる。
【0027】
シリコンクラスレートI型およびII型の結晶相では、図1(a)、(b)に示すように、複数のSi元素により、五角形または六角形を含む多面体が形成されている。多面体は、Liイオン等の金属イオンを包摂できる空間を内部に有する。この空間に金属イオンが挿入されることで、充放電による体積変化を抑制できる。また、シリコンクラスレートI型およびII型の結晶相は、金属イオンを包摂できる空間を内部に有するため、充放電を繰り返しても、結晶構造が維持されやすいという利点がある。また、特に全固体電池では、充放電による体積変化を抑制するために、一般的に、高い拘束圧を付与する必要があるが、本開示における活物質を用いることで、拘束圧の低減を図ることができ、結果として、拘束治具の大型化を抑制することができる。一方で、通常のSi粒子は、ダイヤモンド型の結晶相を有する。ダイヤモンド型の結晶相では、図1(c)に示すように、複数のSi元素により、四面体が形成されている。四面体は、Liイオン等の金属イオンを包摂できる空間を内部に有しないため、充放電による体積変化が大きい。
【0028】
このように、本開示によれば、活物質がシリコンクラスレート型の結晶相を有することから、充放電による体積変化を小さくすることができる。さらに、本開示における活物質は、Siに加えてAlを含有することから、充放電による体積変化を小さくすることができる。その理由は、シリコンクラスレート型の結晶相のケージを構成するSiの一部が、異元素であるAlによって置換されることで、ケージが大きくなったためであると推測される。また、ケージが大きくなったことで、金属イオンが伝導する際の抵抗が小さくなる。また、後述するように、本開示における活物質は、一次粒子の内部に空隙を有することが好ましいが、その場合、シリコンクラスレート型の結晶相に加えて、空隙も体積変化の抑制に寄与するため、充放電による体積変化をさらに抑制できる。
【0029】
本開示における活物質は、SiおよびAlを少なくとも含有する。活物質は、金属元素としてSiおよびAlのみを含有していてもよく、他の金属元素を含有していてもよい。他の金属元素としては、例えばNaが挙げられる。また、活物質は、金属元素としてSi、AlおよびNaのみを含有していてもよい。活物質に含まれる全ての金属元素に対する、SiおよびAlの合計の割合は、例えば60atm%以上であり、70atm%以上であってもよく、80atm%以上であってもよい。
【0030】
活物質において、SiおよびAlの合計に対するAlの割合は、通常、0.1atm%以上であり、0.2atm%以上であってもよい。一方、SiおよびAlの合計に対するAlの割合は、通常、1atm%以下である。
【0031】
本開示における活物質の組成は、特に限定されないが、Na(Si,Al)136(0≦x≦20)で表されることが好ましい。xは、0であってもよく、0より大きくてもよい。一方、xは、10以下であってもよく、5以下であってもよい。活物質の組成は、例えば、EDX、XRD、XRF、ICP、原子吸光法により求めることができる。
【0032】
本開示における活物質は、シリコンクラスレート型の結晶相を有する。活物質は、シリコンクラスレート型を主相として有することが好ましい。「シリコンクラスレート型を主相として有する」とは、シリコンクラスレート型の結晶相に属するピークが、X線回折測定で観察されるピークの中で、最も回折強度が大きいピークであることをいう。「主相」に関する定義は、他の結晶相においても同様である。また、シリコンクラスレート型の結晶相は、少なくともSiを有するが、さらにAlを有していてもよい。すなわち、シリコンクラスレート型の結晶相を構成するSiの一部がAlに置換されていてもよい。
【0033】
シリコンクラスレート型の結晶相としては、例えば、シリコンクラスレートI型の結晶相およびシリコンクラスレートII型の結晶相が挙げられる。本開示における活物質は、シリコンクラスレートI型の結晶相を主相として含有していてもよく、シリコンクラスレートII型の結晶相を主相として含有していてもよいが、後者が好ましい。充放電による体積変化をさらに小さくすることができるからである。
【0034】
また、本開示における活物質は、(i)シリコンクラスレートI型の結晶相を有し、シリコンクラスレートII型の結晶相を有していなくてもよく、(ii)シリコンクラスレートI型の結晶相を有さず、シリコンクラスレートII型の結晶相を有していてもよく、(iii)シリコンクラスレートI型の結晶相およびシリコンクラスレートII型の結晶相を有していてもよい。「結晶相を有していないこと」は、X線回折測定において、その結晶相のピークが観察されないことにより、確認できる。「結晶相を有していないこと」に関する定義は、他の結晶相においても同様である。
【0035】
シリコンクラスレートI型の結晶相は、通常、空間群(Pm-3n)に属する。シリコンクラスレートI型の結晶相は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=19.44°、21.32°、30.33°、31.60°、32.82°、36.29°、52.39°、55.49°の位置に典型的なピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.50°の範囲で前後していてもよく、±0.30°の範囲で前後していてもよく、±0.10°の範囲で前後していてもよい。
【0036】
シリコンクラスレートII型の結晶相は、通常、空間群(Fd-3m)に属する。シリコンクラスレートII型の結晶相は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=20.09°、21.00°、26.51°、31.72°、36.26°、53.01°の位置に典型的なピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.50°の範囲で前後していてもよく、±0.30°の範囲で前後していてもよく、±0.10°の範囲で前後していてもよい。
【0037】
シリコンクラスレートII型の結晶相の格子定数は、例えば14.702Å以上であり、14.706Å以上であってもよい。一方、シリコンクラスレートII型の結晶相の格子定数は、例えば14.717Å以下である。格子定数は、活物質に対してXRD測定を行い、得られるXRDチャートに対してリートベルト解析を行うことにより、求めることができる。
【0038】
また、本開示における活物質は、ダイヤモンド型のSi結晶相を有していてもよく、有していなくてもよい。ダイヤモンド型のSi結晶相は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=28.44°、47.31°、56.10°、69.17°、76.37°の位置に典型的なピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.50°の範囲で前後していてもよく、±0.30°の範囲で前後していてもよく、±0.10°の範囲で前後していてもよい。
【0039】
シリコンクラスレートII型の結晶相における2θ=31.72°±0.50°に位置するピークAのピーク強度をIとし、ダイヤモンド型のSi結晶相における2θ=28.44°±0.50°に位置するピークBのピーク強度をIとする。I/Iは、例えば、1未満であり、0.5以下であってもよく、0.3以下であってもよい。
【0040】
また、本開示における活物質は、後述する副生成物に起因するピークを有しないことが好ましい。副生成物の詳細については、後述する「C.活物質の製造方法」に記載する。
【0041】
本開示における活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。活物質は、一次粒子であってもよく、一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。いずれの場合であっても、一次粒子の内部に空隙を有することが好ましい。上記空隙の空隙率は、例えば2%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であってもよい。一方、上記空隙率は、例えば40%以下であり、20%以下であってもよく、15%以下であってもよい。
【0042】
空隙率は例えば以下のような手順で求めることができる。まず、活物質を含む電極層に対して、イオンミリング加工により断面出しを行う。そして断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察して粒子の写真を取得する。得られた写真から画像解析ソフトを用いシリコン部および空隙部を峻別して、2値化する。シリコン部と空隙部の面積を求め、以下の式から空隙率(%)を算出する。
空隙率(%)=100×(空隙部面積)/((シリコン部面積)+(空隙部面積))
【0043】
具体的な画像解析および空隙率の算出は、以下のように行うことができる。画像解析ソフトとしては、例えばFiji ImageJ bundled with Java 1.8.0_172(以下、Fiji)を用いる。同一視野の二次電子像と反射電子像を合成して、RGBカラー画像化する。そして、ピクセルごとのノイズを除去するために、得られたRGB画像をFijiにおける機能「Median(フィルタサイズ=2)」によってぼかす。次に、Fijiにおける機能「Weka Machine Learning」により、上記ノイズが除去された画像における任意の複数の領域を人がシリコン部または空隙部にそれぞれ指定して、シリコン部および空隙部を峻別する教師データを作成する。そして、作成された教師データに基づき、Fiji内で、機械によりシリコン部と空隙部との判別を行い、シリコン部および空隙部の面積比を算出する。
【0044】
RGBカラー画像化について、二次電子像と反射電子像はともにグレースケールで表わされているため、例えば、二次電子像の各ピクセルにおける明るさxをRed値に、反射電子像も同様に明るさyをGreen値に割り付ける。これにより、例えばピクセルごとに、R=x、G=y、B=(x+y)/2としてRGB画像化する。
【0045】
上記「Weka Machine Learning」における詳細な条件を以下に示す。Training features(機械学習において教師データを作成する際に、機械に着目させる画像の数値的特徴)として、Gaussian blur、Hessian、Membrane projections、Mean、Maximum、Anisotropic diffusion、Sobel filter、Difference of gaussians、Variance、Minimum、Medianを選択する。また、その他のパラメータとしては、Membrane thicknessを3、Membrane patch sizeを19、Minimum sigmaを1.0、Maximum sigmaを16.0に設定する。
【0046】
一次粒子の平均粒径は、例えば50nm以上であり、100nm以上であってもよく、150nm以上であってもよい。一方、一次粒子の平均粒径は、例えば3000nm以下であり、1500nm以下であってもよく、1000nm以下であってもよい。また、二次粒子の平均粒径は、例えば1μm以上であり、2μm以上であってもよく、5μm以上であってもよい。一方、二次粒子の平均粒径は、例えば60μm以下であり、40μm以下であってもよい。なお、平均粒径は、例えばSEMによる観察によって求めることができる。サンプル数は、多いことが好ましく、例えば20以上であり、50以上であってもよく、100以上であってもよい。
【0047】
本開示における活物質は、通常、電池に用いられる。本開示における活物質は、負極活物質であってもよく、正極活物質であってもよいが、前者が好ましい。本開示においては、上述した活物質を有する電極層(負極層または正極層)、および、その電極層を有する電池を提供することもできる。活物質の製造方法としては、例えば、後述する「C.活物質の製造方法」に記載する製造方法が挙げられる。
【0048】
B.電池
図2は、本開示における電池を例示する概略断面図である。図2に示す電池10は、正極層1と、負極層2と、正極層1および負極層2の間に形成された電解質層3と、正極層1の集電を行う正極集電体4と、負極層2の集電を行う負極集電体5とを有する。本開示においては、負極層2が、上記「A.活物質」に記載した活物質を含有する。
【0049】
本開示によれば、上述した活物質を用いることで、充放電による体積変化が小さい電池とすることができる。
【0050】
1.負極層
負極層は、少なくとも負極活物質を含有する層である。負極活物質については、上記「A.活物質」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。負極層における負極活物質の割合は、例えば20重量%以上であり、30重量%以上であってもよく、40重量%以上であってもよい。負極活物質の割合が少なすぎると、十分なエネルギー密度が得られない可能性がある。一方、負極活物質の割合は、例えば80重量%以下であり、70重量%以下であってもよく、60重量%以下であってもよい。負極活物質の割合が多すぎると、相対的に、負極層におけるイオン伝導性および電子伝導性が低下する可能性がある。
【0051】
負極層は、必要に応じて、電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。電解質としては、例えば、後述する「C.電池 3.電解質層」に記載する電解質が挙げられる。導電材としては、例えば、炭素材料、金属粒子、導電性ポリマーが挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。また、バインダーとしては、例えば、ゴム系バインダー、フッ化物系バインダーが挙げられる。
【0052】
負極層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。本開示における負極層は、通常、電池に用いられる。
【0053】
2.正極層
正極層は、少なくとも正極活物質を含有する層である。また、正極層は、必要に応じて、電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0054】
正極活物質としては、例えば、酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、LiTi12、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO等のオリビン型活物質が挙げられる。
【0055】
酸化物活物質の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有するコート層が形成されていてもよい。酸化物活物質と、固体電解質(特に硫化物固体電解質)との反応を抑制できるからである。Liイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiNbOが挙げられる。コート層の厚さは、例えば、1nm以上30nm以下である。また、正極活物質として、例えばLiSを用いることもできる。
【0056】
正極活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。正極活物質の平均粒径(D50)は、特に限定されないが、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよい。一方、正極活物質の平均粒径(D50)は、例えば50μm以下であり、20μm以下であってもよい。平均粒径(D50)は、例えば、レーザー回折式粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)による測定から算出できる。
【0057】
正極層に用いられる電解質、導電材およびバインダーについては、上記「1.負極層」に記載した内容と同様であるので、ここでの記載は省略する。正極層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0058】
3.電解質層
電解質層は、正極層および負極層の間に形成される層であり、電解質を少なくとも含有する。電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質(電解液)であってもよい。
【0059】
固体電解質としては、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質等の無機固体電解質、ポリマー電解質等の有機高分子電解質が挙げられる。硫化物固体電解質としては、例えば、Li、X(Xは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、および、Sを含有する固体電解質が挙げられる。また、硫化物固体電解質は、Oおよびハロゲンの少なくとも一方をさらに含有していてもよい。ハロゲンとしては、例えば、F、Cl、Br、Iが挙げられる。硫化物固体電解質は、ガラス(非晶質)であってもよく、ガラスセラミックスであってもよい。硫化物固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiBr-LiS-P、LiS-SiS、LiS-GeS、LiS-P-GeSが挙げられる。
【0060】
電解液は、支持塩および溶媒を含有することが好ましい。リチウムイオン伝導性を有する電解液の支持塩(リチウム塩)としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF等の無機リチウム塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(FSO、LiC(CFSO等の有機リチウム塩が挙げられる。電解液に用いられる溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状エステル(環状カーボネート)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等の鎖状エステル(鎖状カーボネート)が挙げられる。電解液は、2種以上の溶媒を含有することが好ましい。
【0061】
電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0062】
4.その他の構成
本開示における電池は、正極層の集電を行う正極集電体、および、負極層の集電を行う負極集電体を有することが好ましい。正極集電体の材料としては、例えば、SUS、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタンおよびカーボンが挙げられる。一方、負極集電体の材料としては、例えば、SUS、銅、ニッケルおよびカーボンが挙げられる。
【0063】
本開示における電池は、正極層、電解質層および負極層に対して、厚さ方向に沿って拘束圧を付与する拘束治具をさらに有していてもよい。特に、電解質層が固体電解質層である場合、良好なイオン伝導パスおよび電子伝導パスを形成するために、拘束圧を付与することが好ましい。拘束圧は、例えば0.1MPa以上であり、1MPa以上であってもよく、5MPa以上であってもよい。一方、拘束圧は、例えば100MPa以下であり、50MPa以下であってもよく、20MPa以下であってもよい。
【0064】
5.電池
本開示における電池の種類は特に限定されないが、典型的にはリチウムイオン電池である。また、本開示における電池は、電解質層として電解液を含有する液電池であってもよく、電解質層として固体電解質層を有する全固体電池であってもよい。また、本開示における電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、中でも二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば車載用電池として有用だからである。
【0065】
本開示における電池は、単電池であってもよく、積層電池であってもよい。積層電池は、モノポーラ型積層電池(並列接続型の積層電池)であってもよく、バイポーラ型積層電池(直列接続型の積層電池)であってもよい。電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、角型が挙げられる。
【0066】
C.活物質の製造方法
図3は、本開示における活物質の製造方法を例示するフローチャートである。図3に示す製造方法では、まず、Na、SiおよびAlを含有し、少なくともジントル相を有し、SiおよびAlの合計に対するAlの割合が10atm%未満であるジントル化合物を準備する(準備工程)。次に、ジントル化合物から、Naを除去し、シリコンクラスレート型の結晶相を有する中間体を形成する(Na除去工程)。次に、中間体から、Alを除去する(Al除去工程)。これにより、シリコンクラスレート型の結晶相を有し、かつ、一次粒子の内部に空隙を有する活物質が得られる。
【0067】
本開示によれば、NaおよびSiに加えてAlを含有するジントル化合物を用いることで、充放電による体積変化が小さい活物質を得ることができる。
【0068】
1.準備工程
本開示における準備工程は、Na、SiおよびAlを含有し、少なくともジントル相を有し、上記Siおよび上記Alの合計に対する上記Alの割合が10atm%未満であるジントル化合物を準備する工程である。
【0069】
ジントル化合物は、Na、SiおよびAlを少なくとも含有する。ジントル化合物は、金属元素として、Na、SiおよびAlのみを含有していてもよく、他の金属元素を含有していてもよい。ジントル化合物に含まれる全ての金属元素に対する、Na、SiおよびAlの合計の割合は、例えば70atm%以上であり、80atm%以上であってもよく、90atm%以上であってもよい。
【0070】
ジントル化合物において、SiおよびAlの合計に対するAlの割合は、例えば0.1atm%以上であり、0.5atm%以上であってもよく、1atm%以上であってもよい。一方、SiおよびAlの合計に対するAlの割合は、通常、10atm%未満であり、8atm%以下であってもよい。ジントル化合物の組成は、特に限定されないが、Na(Si,Al)136の組成(121≦z≦151)で表されることが好ましい。zは、126以上であってもよく、131以上であってもよい。一方、zは、141以下であってもよい。
【0071】
ジントル化合物は、ジントル(Zintl)相を有する。ジントル相は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=16.10°、16.56°、17.64°、20.16°、27.96°、33.60°、35.68°、40.22°、41.14°の位置に典型的なピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.50°の範囲で前後していてもよく、±0.30°の範囲で前後していてもよい。ジントル化合物は、ジントル(Zintl)相を主相として有することが好ましい。ジントル化合物は、シリコンクラスレートI型の結晶相を有していてもよく、有していなくてもよい。また、ジントル化合物は、シリコンクラスレートII型の結晶相を有していてもよく、有していなくてもよい。
【0072】
中間体は、Na、SiおよびAlを含むジントル相と、少なくともAlを含有する副生成物と、を有していてもよい。ジントル相は、Na、SiおよびAlを含むことが好ましい。典型的なジントル相は、NaおよびSiから構成されるが、そのSiの一部がAlに置換されていると、所望のシリコンクラスレート型の結晶相(Siの一部がAlに置換された、シリコンクラスレート型の結晶相が得られやすくなると推定される。
【0073】
副生成物は、少なくともAlを含有する。副生成物は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=34.8°、36.0°の位置にピークを有することが好ましい。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.3°の範囲で前後していてもよく、±0.1°の範囲で前後していてもよい。副生成物は、Alに加えて、NaおよびOの少なくとも一方を含有していてもよい。
【0074】
ジントル化合物は、Na源、Si源およびAl源を含有する原料混合物に対して熱処理を行うことで得ることができる。Na源としては、例えば、Na単体、Naを主成分とする合金が挙げられる。Si源としては、例えば、Si単体、Siを主成分とする合金が挙げられる。Al源としては、例えば、Al単体、Alを主成分とする合金、Al酸化物が挙げられる。Al酸化物としては、例えば、Alが挙げられる。
【0075】
原料混合物において、Naと、SiおよびAlの合計との割合は、特に限定されないが、SiおよびAlの合計1モル部に対して、Naは、例えば0.8モル部以上であり、1モル部以上であってもよい。一方、SiおよびAlの合計1モル部に対して、Naは、例えば1.5モル部以下であり、1.3モル部以下であってもよい。また、原料混合物において、SiおよびAlの合計に対するAlの割合は、例えば0.1atm%以上であり、0.5atm%以上であってもよく、1atm%以上であってもよい。一方、原料混合物において、SiおよびAlの合計に対するAlの割合は、例えば10atm%未満であり、8atm%以下であってもよい。
【0076】
熱処理温度は、例えば、500℃以上、1000℃以下である。また、熱処理時間は、例えば、1時間以上、50時間以下である。特に、約700℃(例えば650℃以上、750℃以下)および約20時間(例えば15時間以上、25時間以下)の条件で熱処理を行うことが好ましい。
【0077】
2.Na除去工程
本開示におけるNa除去工程は、上記ジントル化合物から、上記Naを除去し、シリコンクラスレート型の結晶相を有する中間体を形成する工程である。
【0078】
ジントル化合物からNaを除去する方法としては、例えば、熱処理が挙げられる。熱処理温度は、例えば280℃以上であり、300℃以上であってもよい。一方、熱処理温度は、例えば500℃以下である。熱処理時間は、例えば、1時間以上、50時間以下である。熱処理は、常圧雰囲気で行ってもよく、減圧雰囲気で行ってもよい。後者の場合、熱処理時の圧力は、例えば10Pa以下であり、1Pa以下であってもよく、0.1Pa以下であってもよい。また、熱処理は、Ar雰囲気等の不活性雰囲気で行ってもよい。
【0079】
中間体は、シリコンクラスレート型の結晶相を有する。中間体は、シリコンクラスレート型の結晶相を主相として有することが好ましい。中間体は、シリコンクラスレートI型の結晶相を主相として含有していてもよく、シリコンクラスレートII型の結晶相を主相として含有していてもよいが、後者が好ましい。充放電による体積変化をさらに小さくすることができるからである。
【0080】
また、中間体は、(i)シリコンクラスレートI型の結晶相を有し、シリコンクラスレートII型の結晶相を有していなくてもよく、(ii)シリコンクラスレートI型の結晶相を有さず、シリコンクラスレートII型の結晶相を有していてもよく、(iii)シリコンクラスレートI型の結晶相およびシリコンクラスレートII型の結晶相を有していてもよい。中間体の組成は、特に限定されないが、Na(Si,Al)136(0≦y≦24)で表されることが好ましい。yは、0であってもよく、0より大きくてもよい。一方、yは、20以下であってもよく、10以下であってもよい。
【0081】
3.Al除去工程
本開示におけるAl除去工程は、上記中間体から、上記Alを除去する工程である。「Alを除去する」には、Alを含有する化合物(例えば、上述した副生成物)を除去する場合も含まれる。Alを除去することで、一次粒子の内部に空隙を有する活物質が得られる。
【0082】
中間体からAlを除去する方法としては、例えば、酸処理が挙げられる。酸処理は、例えば、酸溶液を中間体に接触させる処理である。酸溶液は、例えば、酸および溶媒を有する。酸溶液に用いられる酸としては、例えば、塩酸、硫酸、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、シュウ酸、フッ酸が挙げられる。酸溶液に用いられる溶媒は、水であってもよく、有機溶媒であってもよい。また、酸溶液における酸濃度(規定度)は、特に限定されないが、例えば、0.5N以上3N以下である。なお、酸溶液の代わりに、酸自体を溶媒で希釈せずに用いてもよい。
【0083】
4.活物質
上述した各工程により得られる活物質は、シリコンクラスレート型の結晶相を有する。また、上記活物質は、SiおよびAlを少なくとも含有し、SiおよびAlの合計に対するAlの割合が所定の範囲にあることが好ましい。さらに、上記活物質は、一次粒子の内部に空隙を有することが好ましい。活物質の好ましい態様については、上記「A.活物質」に記載した内容を適宜引用することができる。
【0084】
D.電池の製造方法
本開示においては、上述した活物質の製造方法により活物質を製造する活物質製造工程と、上記活物質を用いて負極層を形成する負極層形成工程と、を有する電池の製造方法を提供する。
【0085】
本開示によれば、上述した活物質を用いることで、充放電による体積変化が小さい電池を得ることができる。なお、活物質製造工程については、上記「C.活物質の製造法」に記載した内容と同様である。
【0086】
負極層形成工程では、上記活物質を用いて負極層を形成する。負極層を形成する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、少なくとも活物質を含有するスラリーを、負極集電体に塗工し、乾燥することにより、負極集電体上に形成された負極層を得ることができる。得られる負極層の好ましい態様については、上記「B.電池 1.負極層」に記載した内容を適宜引用することができる。
【0087】
電池を形成する方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。本開示における電池の製造方法は、活物質製造工程および負極層形成工程の他に、正極層を形成する正極層形成工程と、電解質層を形成する電解質層形成工程と、正極層、電解質層および負極層をこの順に配置する配置工程と、を有していてもよい。得られる電池の好ましい態様については、上記「B.電池」に記載した内容を適宜引用することができる。
【0088】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例
【0089】
[実施例1]
(活物質の合成)
Si単体(純度99%、表面にSi酸化被膜を有する)と、Al単体と、Na単体(純度99.5%)とを、Si単体:Al単体:Na単体=0.995:0.005:1.1のモル比(atm比)となるように混合した。得られた混合物において、SiおよびAlの合計に対するAlの割合は、0.5atm%であった。次に、得られた混合物を、窒化ホウ素製るつぼに投入し、Ar雰囲気下で密閉し、700℃、20時間の条件で加熱し、Na、Si、Alを含有するジントル化合物(塊状)を合成した。得られたジントル化合物を粉砕し、真空下(約0.1Pa)、340℃、20時間の条件で加熱することでNaを除去し、中間体を得た。得られた中間体に、希塩酸(1N)で10分間酸処理することで、Al(Alを含有する副生成物)を除去し、活物質を得た。
【0090】
(負極の作製)
分散媒(酪酸ブチル)、バインダー(ポリフッ化ビニリデンを5重量%溶解した酪酸ブチル溶液)、上述した活物質、固体電解質(LiS-P系ガラスセラミック)、導電材(VGCF(気相法炭素繊維))を、ポリプロピレン製容器に入れ、振とう器(柴田科学株式会社製TTM-1)で3分振とうし、さらに超音波分散装置で30秒間撹拌して負極層用スラリーを作製した。負極層用スラリーを、アプリケーターを用いたブレード法により、負極集電体(銅箔)上に塗工し、その後、100℃に調整したホットプレート上で30分間乾燥した。これにより、負極層および負極集電体を有する負極を得た。
【0091】
(正極の作製)
分散媒(酪酸ブチル)、バインダー(ポリフッ化ビニリデンを5重量%溶解した酪酸ブチル溶液)、正極活物質(ニオブ酸リチウムでコーティングされたLiNi1/3Co1/3Mn1/3)、固体電解質(LiS-P系ガラスセラミック)、導電材(VGCF(気相法炭素繊維))を、ポリプロピレン製容器に入れ、振とう器(柴田科学株式会社製TTM-1)で3分振とうし、さらに超音波分散装置で30秒間撹拌して正極層スラリーを作製した。正極層用スラリーを、アプリケーターを用いたブレード法により、正極集電体(アルミニウム箔)上に塗工し、その後、100℃に調整したホットプレート上で30分間乾燥した。これにより、正極層および正極集電体を有する正極を得た。
【0092】
(固体電解質層の作製)
分散媒(ヘプタン)、バインダー(ブタジエンゴムを5重量%溶解したヘプタン溶液)、固体電解質(ヨウ化リチウムを含有するLiS-P系ガラスセラミック)を、ポリプロピレン製容器に入れ、超音波分散装置で30秒間撹拌した。その後、ポリプロピレン製容器を振とう器で30分間振とうして、固体電解質層用スラリーを作製した。固体電解質層用スラリーを、アプリケーターを使用して、ブレード法にて基板としてのアルミニウム箔に塗工し、その後、100℃に加熱したホットプレート上で30分間乾燥することにより、基板上に固体電解質層を作製した。
【0093】
(評価用電池の作製)
負極、固体電解質層、正極をこの順に積層し、得られた積層体を130℃、200MPa、3分間の条件でプレスし、評価用電池を得た。
【0094】
[実施例2~4]
SiおよびAlの合計に対するAlの割合(Al仕込量)を、1atm%(実施例2)、3atm%(実施例3)、5atm%(実施例4)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、活物質および評価用電池を得た。
【0095】
[比較例1]
Al単体を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、活物質および評価用電池を得た。
【0096】
[比較例2]
酸処理を行わなかったこと以外は、実施例2と同様にして、活物質および評価用電池を得た。
【0097】
[比較例3]
SiおよびAlの合計に対するAlの割合(Al仕込量)を、10atm%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、活物質および評価用電池を得た。
【0098】
[評価]
(XRD測定)
実施例1~4および比較例1~3で得られた活物質に対して、CuKα線を用いたX線回折(XRD)測定を行った。実施例1~4および比較例1~3で得られた活物質は、いずれも、シリコンクラスレートII型の結晶相を主相として有することが確認された。また、シリコンクラスレートII型の結晶相のXRDパターンに対して、リートベルト解析し、格子定数を求めた。さらに、比較例1の格子定数を基準として、実施例1~4および比較例2、3の格子定数の相対値を求めた。その結果を表1に示す。
【0099】
また、代表的な結果として、実施例2で得られた中間体(酸処理前)および活物質(酸処理後)のXRDチャートを図4に示す。図4(a)に示すように、酸処理前の中間体は、シリコンクラスレートII型の結晶相を主相として有しており、さらに、2θ=34.8°、36.0°の位置に、副生成物に由来するピークを有することが確認された。一方、図4(b)に示すように、酸処理後の活物質も、中間体と同様にシリコンクラスレートII型の結晶相を主相として有していることが確認された。一方、酸処理後の活物質は、中間体と異なり、副生成物の由来するピークが消失していた。すなわち、酸処理により、副生成物が除去されたことが確認された。
【0100】
(SEM-EDX測定)
実施例1~4および比較例1~3で得られた活物質に対して、SEM-EDX(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法)測定を行った。代表的な結果として、実施例2で得られた活物質のSEM画像を図5に示す。図5に示すように、実施例2で得られた活物質は、ポーラスであることが確認された。また、EDXの結果から、AlおよびNaが均一に分散していることが確認された。また、Oが、Alより多くNaよりも少ない割合で検出された。また、EDXの結果から、SiおよびAlの合計に対するAlの割合を求めたところ、0.2atm%であった。また、中間体に対して、SEM-EDX測定を行ったところ、副生成物は、Na、AlおよびOを含有することが示唆された。
【0101】
実施例1~4および比較例1~3で得られた活物質に対して、粒子断面のSEM観察を行った。実施例1~4および比較例3の結果(Alを添加し、酸処理を行った結果)を図6に示す。図6に示すように、一次粒子の内部に空隙が形成されていた。また、SEM画像を画像解析し、空隙率を求めた。その結果を表1に示す。
【0102】
(拘束圧増加量の測定)
実施例1~4および比較例1~3で得られた評価用電池に対して充電を行い、拘束圧増加量を測定した。具体的には、ロードセルで拘束圧力を測定できる拘束治具を用いて、評価用電池を5MPaで拘束し、デシケーターに入れ、0.1Cで4.55Vの電圧まで定電流で充電し、4.55Vでの拘束圧を測定し、充電前の状態からの拘束圧増加量を求めた。その結果を表1に示す。なお、表1における拘束圧増加量の結果は、比較例1の結果を1とした場合の相対値である。
【0103】
【表1】
【0104】
表1に示すように、実施例1~4では、比較例1~3に比べて、拘束圧増加量が小さくなることが確認された。また、以下の点が確認された。まず、格子定数に関して、実施例1~4は、比較例1に比べて、格子定数が大きくなることが確認された。格子定数が大きくなった理由は、Siの一部が異元素であるAlによって置換されたためであると推測される。この置換により、シリコンクラスレート型の結晶相のケージが大きくなり(活物質としての密度が低くなり)、その結果、Liが挿入されても、拘束圧の増加を抑制できたと推測される。
【0105】
次に、実施例1~4では、酸処理を行うことで、副生成物が除去され、一次粒子の内部に空隙が形成された。このように、実施例1~4では、一次粒子の内部に空隙が形成されたことで、Liが挿入されても、拘束圧の増加を抑制できたと推測される。一方、比較例1では、Alを添加しなかったため、一次粒子の内部に空隙が形成されなかった。
【0106】
比較例2では、酸処理を行わなかったため、一次粒子の内部に空隙が形成されなかった。比較例2では、酸処理を行わなかったため、副生成物が活物質中に残存し、拘束圧増加を抑制する効果が得られなかったと推測される。また、残存した副生成物が抵抗となることでLiイオンパスを阻害し、抵抗増加が生じていると推測される。
【0107】
また、比較例3では、比較例1よりも拘束圧増加量が大きくなった。その理由は、Al仕込量が多いため、副生成物の発生量も多くなり、酸処理後に、シリコンクラスレート型の結晶相を維持することが困難になったためであると推測される。
【符号の説明】
【0108】
1 …正極層
2 …電解質層
3 …負極層
4 …正極集電体
5 …負極集電体
10 …電池
図1
図2
図3
図4
図5
図6