(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】フェノキシ樹脂およびその用途
(51)【国際特許分類】
C08G 65/40 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
C08G65/40
(21)【出願番号】P 2020100118
(22)【出願日】2020-06-09
【審査請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2019111703
(32)【優先日】2019-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019234588
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】樫野 智將
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-227654(JP,A)
【文献】特開2004-002573(JP,A)
【文献】特開2010-184993(JP,A)
【文献】特開2010-248398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00- 59/72
65/00- 67/04
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含み、
下記一般式(3)で表される、フェノキシ樹脂。
【化1】
(一般式(1)中、R
1~R
4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、またはアリル基を示す。Q
1~Q
4はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基を示す。*は結合手を示す。)
【化2】
(一般式(3)中、R
1~R
4およびQ
1~Q
4は一般式(1)と同義である。複数存在するR
1~R
4は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、複数存在するQ
1~Q
4は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
nは平均値で15以上50以下の数である。)
【請求項2】
さらに重量平均分子量Mwが1,000以下の低分子量成分を含み、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで得られる前記フェノキシ樹脂の分子量分布において、前記低分子量成分のピーク面積が、全ピーク面積100%に対して、10%以下である、請求項1に記載のフェノキシ樹脂。
【請求項3】
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む、フェノキシ樹脂であって、
さらに重量平均分子量Mwが1,000以下の低分子量成分を含み、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで得られる前記フェノキシ樹脂の分子量分布において、前記低分子量成分のピーク面積が、全ピーク面積100%に対して、10%以下である、フェノキシ樹脂。
【化3】
(一般式(1)中、R
1~R
4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、またはアリル基を示す。Q
1~Q
4はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基を示す。*は結合手を示す。)
【請求項4】
末端に下記一般式(2)で表される構造を備える、請求項3に記載のフェノキシ樹脂。
【化4】
(一般式(2)中、R
1~R
4は、一般式(1)と同義である。*は結合手を示す。)
【請求項5】
重量平均分子量が2,000以上30,000以下である、請求項1~
4のいずれかに記載のフェノキシ樹脂。
【請求項6】
エポキシ当量が300g/eq以上6,000g/eq以下である、請求項1~
5のいずれかに記載のフェノキシ樹脂。
【請求項7】
イオン性不純物の濃度が1,500ppm以下である、請求項1~
6のいずれかに記載のフェノキシ樹脂。
【請求項8】
前記イオン性不純物が加水分解性クロルを含む、請求項
7に記載のフェノキシ樹脂。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれかに記載のフェノキシ樹脂を含む、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項10】
請求項
9に記載の熱硬化性樹脂組成物からなる熱伝導性樹脂組成物。
【請求項11】
請求項
10に記載の熱伝導性樹脂組成物からなる熱伝導性樹脂シート。
【請求項12】
下記一般式(a):
【化5】
(一般式(a)中、R
1~R
4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、またはアリル基を示す。)
で表される2官能エポキシ化合物(a)と、一般式(b):
【化6】
(一般式(b)中、Q
1~Q
4はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基を示す。)
で表される2官能フェノール化合物(b)と、を反応させる、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含み、下記一般式(3)で表される、フェノキシ樹脂の製造方法。
【化7】
(一般式(1)中、R
1~R
4は一般式(a)と同義であり、Q
1~Q
4は一般式(b)と同義である。*は結合手を示す。)
【化8】
(一般式(3)中、R
1~R
4およびQ
1~Q
4は一般式(1)と同義である。複数存在するR
1~R
4は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、複数存在するQ
1~Q
4は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
nは平均値で15以上50以下の数である。)
【請求項13】
下記一般式(a):
【化9】
(一般式(a)中、R
1~R
4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、またはアリル基を示す。)
で表される2官能エポキシ化合物(a)と、一般式(b):
【化10】
(一般式(b)中、Q
1~Q
4はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基を示す。)
で表される2官能フェノール化合物(b)と、を反応させる、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含むフェノキシ樹脂の製造方法であって、
前記フェノキシ樹脂は、さらに重量平均分子量Mwが1,000以下の低分子量成分を含み、
ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで得られる前記フェノキシ樹脂の分子量分布において、前記低分子量成分のピーク面積が、全ピーク面積100%に対して、10%以下である、フェノキシ樹脂の製造方法。
【化11】
(一般式(1)中、R
1~R
4は一般式(a)と同義であり、Q
1~Q
4は一般式(b)と同義である。*は結合手を示す。)
【請求項14】
前記フェノキシ樹脂は、末端に下記一般式(2)で表される構造を備える、請求項
13に記載のフェノキシ樹脂の製造方法。
【化12】
(一般式(2)中、R
1~R
4は、一般式(1)と同義である。*は結合手を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフェノキシ樹脂およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで放熱絶縁材料において様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、電気・電子機器等を構成する放熱・絶縁材料として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノール系硬化剤、熱伝導性フィラーとして窒化ホウ素粒子を使用した熱硬化性樹脂組成物が記載されている(特許文献1の表1)。
【0003】
また、特許文献2には、所定の一般式で表されるビフェニル型エポキシ樹脂を含む封止用樹脂組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-193504号公報
【文献】特開2019-151691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のビスフェノールA型エポキシ樹脂において、熱伝導性の点で改善の余地があった。なお、特許文献2には熱伝導性について記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は検討したところ、特定の構造を備える新規なフェノキシ樹脂を用いることで高熱伝導性を実現できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、
下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む、フェノキシ樹脂が提供される。
【化1】
(一般式(1)中、R
1~R
4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、またはアリル基を示す。Q
1~Q
4はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基を示す。*は結合手を示す。)
【0007】
本発明によれば、前記フェノキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂組成物が提供される。
本発明によれば、前記熱硬化性樹脂組成物からなる熱伝導性樹脂組成物が提供される。
本発明によれば、前記熱伝導性樹脂組成物からなる熱伝導性樹脂シートが提供される。
【0008】
また、本発明によれば、
下記一般式(a):
【化2】
(一般式(a)中、R
1~R
4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、またはアリル基を示し、複数存在するR
1~R
4は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
で表される2官能エポキシ化合物(a)と、一般式(b):
【化3】
(一般式(b)中、Q
1~Q
4はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基を示し、複数存在するQ
1~Q
4は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)
で表される2官能フェノール化合物(b)と、を反応させる、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含むフェノキシ樹脂の製造方法が提供される。
【化4】
(一般式(1)中、R
1~R
4は一般式(a)と同義であり、Q
1~Q
4は一般式(b)と同義である。*は結合手を示す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱伝導性に優れたフェノキシ樹脂およびそれを用いた樹脂材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る金属ベース基板の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、「~」は特に断りがなければ「以上」から「以下」を表す。
【0012】
[フェノキシ樹脂(A)]
本実施形態のフェノキシ樹脂(A)は、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を含む。当該フェノキシ樹脂(A)は2つのベンゼン環の間にエステル結合を備える新規な構造(メソゲン構造)を備えており、熱伝導性に優れる。
【0013】
【0014】
一般式(1)中、R1~R4はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、またはアリル基を示す。
【0015】
R1~R4は、本発明の効果の観点から、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、またはアリル基であることが好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることが特に好ましい。
【0016】
Q1~Q4はそれぞれ独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、または炭素数1~6のアルコキシ基を示す。
【0017】
Q1~Q4は、本発明の効果の観点から、水素原子または炭素数1~6のアルキル基が好ましく、水素原子または炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、水素原子が特に好ましい。
*は結合手を示す。
【0018】
本実施形態のフェノキシ樹脂(A)は、末端に下記一般式(2)で表される構造を備えることが好ましく、両末端の少なくとも一方に当該構造を備えることが好ましい。
【化6】
【0019】
一般式(2)中、R1~R4は、一般式(1)と同義である。*は結合手を示す。一般式(2)で表される構造中のビフェニル骨格は、一般式(1)中のビフェニル骨格であってもよい。
【0020】
本実施形態のフェノキシ樹脂(A)は、一般式(1)で表される繰り返し単位を含み、好ましくは両末端の少なくとも一方に下記一般式(2)で表される構造をさらに備えていれば特に限定されないが、具体的には、下記一般式(3)で表されるフェノキシ樹脂を挙げることができる。
【0021】
【0022】
一般式(3)中、R1~R4およびQ1~Q4は一般式(1)と同義である。複数存在するR1~R4は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、複数存在するQ1~Q4は、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
nは平均値で1以上50以下の数であり、好ましくは2以上30以下の数である。
【0023】
フェノキシ樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、2,000以上30,000以下、好ましくは2,000以上20,000以下、より好ましくは2,000~10,000である。Mwはゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した値を示す。
Mwを上記範囲とすることで、フェノキシ樹脂の熱伝導性および流動性をより向上させることができる。
【0024】
本実施形態において、GPC(Gel Permeation Chromatography)を用いて、上記フェノキシ樹脂についての分子量分布曲線を得る。
フェノキシ樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および分散度(PDI:Mw/Mn)は、GPC測定により得られる標準ポリスチレン(PS)の検量線から求めたポリスチレン換算値を用いて、算出する。
【0025】
GPCの測定条件は、たとえば以下の通りである。
東ソー(株)社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC-8320GPC
カラム:東ソー(株)社製TSK-GEL GMH、G2000H、SuperHM-M
検出器:液体クロマトグラム用RI検出器
測定温度:40℃
溶媒:THF
試料濃度:2.0mg/ミリリットル
【0026】
フェノキシ樹脂(A)における、重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および分散度(PDI:Mw/Mn)は、GPC測定により得られる標準ポリスチレン(PS)の検量線から求めたポリスチレン換算値を用いて、算出する。
【0027】
フェノキシ樹脂(A)の分散度(Mw/Mn)は、例えば、1.00~5.00であり、好ましくは1.20~4.00であり、より好ましくは1.30~3.50である。分散度を上記範囲とすることで、フェノキシ樹脂(A)の熱伝導性および流動性をより向上させることができる。
【0028】
フェノキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、本発明の効果の観点から、300g/eq以上6,000g/eq以下、好ましくは350g/eq以上5,000g/eq以下、より好ましくは400g/eq以上4,500g/eq以下である。
【0029】
フェノキシ樹脂(A)の180℃の溶融粘度は、50mPa・s以下、好ましくは30mPa・s以下である。これにより、成形性に優れ、樹脂シートや樹脂フィルムの製造安定性に優れる。
【0030】
[フェノキシ樹脂(A)の製造方法]
本実施形態の一般式(1)で表される繰り返し単位を含むフェノキシ樹脂(A)は、以下の反応式に示すように、一般式(a)で表される2官能エポキシ化合物(a)と、一般式(b)で表される2官能フェノール化合物(b)とを反応させることで合成することができる。
【0031】
【0032】
一般式(a)中、R1~R4は一般式(1)と同義であり、一般式(b)中、Q1~Q4は一般式(1)と同義である。
上記の反応は、無溶媒下または反応溶媒の存在下に、反応触媒を用いて行うことができる。
【0033】
前記反応溶媒としては、非プロトン性有機溶媒、例えば、メチルエチルケトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトフェノン、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルアセトアミド、スルホラン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノンなどを好適に用いることができる。
反応溶媒を用いることで初期の粘度を低減させることができ、モノマーの反応性が向上する。
【0034】
前記反応触媒としては、従来公知の重合触媒を用いることができ、アルカリ金属水酸化物、第三アミン化合物、第四アンモニウム化合物、第三ホスフィン化合物、及び第四ホスホニウム化合物、イミダゾール化合物が好適に使用される。
【0035】
具体的には、2官能エポキシ化合物(a)と、2官能フェノール化合物(b)と、反応触媒と、必要に応じて反応溶媒とを添加し、攪拌下に溶融混合する。溶融混合する際の加熱温度は90~120℃程度、混合時間は30分間~2時間程度、反応圧力は常圧で行われる。
【0036】
溶融混合後、混合溶液を昇温し、所定の反応温度において減圧または常圧下で重合反応を行う。反応温度は140~180℃程度、反応時間は2時間~10時間程度、反応圧力は1~760Torr程度で行われる。
【0037】
反応終了後に溶媒置換などを行なうことで好適な溶媒に溶解した樹脂として得ることが可能である。また、溶媒反応で得られたフェノキシ樹脂(A)は、蒸発器等を用いた脱溶媒処理をすることにより、溶媒を含まない固形状の樹脂として得ることもできる。
以上の合成方法により本実施形態の一般式(1)のフェノキシ樹脂(A)を得ることができる。
【0038】
本実施形態のフェノキシ樹脂(A)は、イオン性不純物や、低分子量成分等の不純物を含む混合物として得ることができる。フェノキシ樹脂がこれらの成分を含む場合、フェノキシ樹脂組成物と称呼することもできる。
【0039】
合成後に得られる、不純物を含む粗フェノキシ樹脂(フェノキシ樹脂組成物)を精製することで、フェノキシ樹脂(A)を得ることができるが、以下のように不純物の許容値を設定することで所望のフェノキシ樹脂組成物を得ることができるとともに精製負荷を低減することができ、また、不純物を所定の量で含むことにより所定の効果を得ることもできる。
本明細書中、フェノキシ樹脂(A)は、イオン性不純物や、低分子量成分等の不純物を含み、溶剤は含まないものと定義することができる。
【0040】
本実施形態のフェノキシ樹脂(A)は、絶縁性の観点から、イオン性不純物を1,500ppm以下、好ましくは1,300ppm以下、より好ましくは1,200ppm以下の量で含むことができる。
【0041】
前記イオン性不純物としては、F-、Cl-、NO2
-、Br―、NO3
―、PO4
3-、SO4
2-、(COO)2
2-、CH3COO-、HCOO-等を挙げることができる。
イオン性不純物濃度は、例えば、以下のように測定することができる。まず、フェノキシ樹脂(A)を容器に秤量し、超純水を加えて密栓する。次いで、恒温槽を用いて、温度125℃で20時間熱処理することによって、熱水抽出を行う。次いで、熱水抽出して得られた溶液から、遠心分離、濾過などによってフェノキシ樹脂(A)等を除去して検液を作製する。次いで、検液について、イオンクロマト分析装置を用いて、標準液を用いた検量線法により、検液中のイオン性不純物含有量を測定する。前記検液の作製に用いたフェノキシ樹脂(A)に対する、イオン性不純物含有量をイオン性不純物濃度とした。
【0042】
前記イオン性不純物としては、加水分解性クロルを含むことができる。
本実施形態のフェノキシ樹脂(A)は、絶縁性の観点から、加水分解性クロルを含むイオン性不純物を上記の量で含むことができる。
加水分解性クロル濃度は、例えば、以下のように測定することができる。
まず、フェノキシ樹脂(A)と、アセトン・メタノール混合溶液と、CH3ONaのメタノール溶液とを混合し、指示薬としてBTB溶液を加え、次に、この溶液が黄色になるまで硝酸を加え、さらに上記指示薬を加える。この溶液について、自動滴定装置(銀電極使用)を用いた硝酸銀水溶液による電位差滴定を行い、加水分解性クロル量を求める。フェノキシ樹脂(A)に対する、加水分解性クロル量を加水分解性クロル濃度とした。
【0043】
本実施形態のフェノキシ樹脂(A)に含まれる低分子量成分は、重量平均分子量Mwが1,000以下の成分である。
低分子量成分は、フェノキシ樹脂(A)に含まれるモノマー成分(C)(2官能エポキシ化合物(a)、2官能フェノール化合物(b))を少なくとも1種と、モノマー成分(C)を含まないMwが1k以下の低分子量成分(B)とを含んでもよい。低分子量成分(B)はモノマー成分(C)の1種または2種以上の重合物で構成されてもよい。
【0044】
フェノキシ樹脂(A)中に含まれる低分子量成分を低減することで、その熱伝導性をより高めることができ、さらに、フェノキシ樹脂(A)の流動性を改善することができる。
【0045】
フェノキシ樹脂(A)中におけるMwが1k以下の低分子量成分(B+C)に対応するピーク面積は、たとえばGPC測定により得られた分子量に関するデータに基づき、分子量分布全体の全面積100%に占める、重量平均分子量Mwが1,000以下に該当する成分の面積総和の割合から算出される。
【0046】
このMwが1k以下の低分子量成分(B+C)には、モノマー成分(C)と、モノマー成分(C)を含まないMwが1,000以下の低分子量成分(B)とが含まれる。
【0047】
全ピーク面積100%とは、フェノキシ樹脂(A)、モノマー成分(C)、モノマー成分(C)を含まないMwが1,000以下の低分子量成分(B)のピーク面積の合計値とする。
【0048】
上記低分子量成分(B+C)のピーク面積は10%以下、好ましくは7%以下とすることができる。これにより、フェノキシ樹脂(A)の熱伝導性をより向上させることができる。
【0049】
また、GPC測定で得られるフェノキシ樹脂(A)の分子量分布において、全ピーク面積100%に対する、Mwが1,000以下の低分子量成分(B)のピーク面積は7%以下、好ましくは5%以下とすることができる。これにより、フェノキシ樹脂(A)の熱伝導性をより向上させることができる。
【0050】
Mwが1,000以下の低分子量成分(B)は、モノマー成分(C)を含まない。このMwが1,000以下の低分子量成分(B)のピーク面積比は、低分子量成分に含まれる低核体成分(低分子量の重合体成分)の含有量割合を表す。
【0051】
また、GPC測定で得られるフェノキシ樹脂(A)の分子量分布において、全ピーク面積100%に対する、モノマー成分(C)のピーク面積は3%以下、好ましくは2%以下とすることができる。これにより、フェノキシ樹脂(A)の熱伝導性をより向上させることができる。
さらに、フェノキシ樹脂(A)の融点や溶融粘度は、フェノキシ樹脂(A)の分子量および低分子量成分の量により調整することができる。
【0052】
本実施形態では、たとえばフェノキシ樹脂(A)中に含まれる各成分の種類や配合量、フェノキシ樹脂(A)の調製方法等を適切に選択することにより、フェノキシ樹脂(A)中の低分子量成分(B+C)のピーク面積、低分子量成分(B)のピーク面積、フェノキシ樹脂(A)のMwおよびMw/Mnを制御することが可能である。これらの中でも、たとえば、反応温度、反応時間、モノマーの除去などのフェノキシ樹脂(A)の合成条件を適切に選択すること等が、フェノキシ樹脂(A)中の低分子量成分(B+C)のピーク面積、低分子量成分(B)のピーク面積、フェノキシ樹脂(A)のMwおよびMw/Mnを所望の数値範囲とするための要素として挙げられる。
【0053】
以下、本実施形態のフェノキシ樹脂(A)を用いた樹脂材料について説明する。
本実施形態の樹脂材料は、フェノキシ樹脂(A)またはフェノキシ樹脂組成物を含む。各種の用途や他の配合成分を踏まえ、その含有量を適切に調整できる。例えば、放熱絶縁材料に用いる熱硬化性樹脂組成物中の上記フェノキシ樹脂(A)の含有量は、フィラーを含まない熱硬化性樹脂組成物の不揮発成分(100質量%)に対して、例えば、1質量%~70質量%、好ましくは2質量%~50質量%、より好ましくは3質量%~45質量%である。
【0054】
ここで「フィラー」とは、後述の熱伝導性フィラー、無機フィラーまたは有機フィラー等の通常のフィラーを含む。すなわち、フィラーを含まない熱硬化性樹脂組成物は、フィラー以外の樹脂成分で構成されるものであって、樹脂成分として、例えば、熱硬化性樹脂、およびフェノキシ樹脂を含む。
また、熱硬化性樹脂組成物中における不揮発分(100質量%)を指し、水や溶媒等の溶剤を除いた残部を指す。
上記熱硬化性樹脂組成物は、フェノキシ樹脂(A)以外の熱硬化性樹脂を含んでもよい。
【0055】
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミド樹脂、アクリル樹脂、フェノール誘導体またはこれらの誘導体等が挙げられる。これらの熱硬化性樹脂は、1分子内に反応性官能基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量や分子構造は特に限定されない。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0056】
上記熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、硬化剤を含んでもよい。
上記硬化剤としては、熱硬化性樹脂の種類に応じて選択され、これと反応するものであれば特に限定されない。
【0057】
上記硬化剤としては、フェノール樹脂系硬化剤、アミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、メルカプタン系硬化剤等を挙げることができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
(硬化促進剤)
上記熱硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、硬化促進剤を含むことができる。
上記硬化促進剤の種類や配合量は特に限定されないが、反応速度や反応温度、保管性などの観点から、適切なものを選択することができる。
【0059】
上記硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール類、有機リン化合物、3級アミン類、フェノール化合物、有機酸等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中でも、耐熱性を高める観点から、イミダゾール類などの窒素原子含有化合物を用いることが好ましい。
【0060】
上記熱硬化性樹脂組成物は、熱伝導性フィラーを含んでもよい。
上記熱伝導性フィラーは、たとえば、20W/m・K以上の熱伝導率を有する高熱伝導性無機粒子を含むことができる。高熱伝導性無機粒子としては、例えば、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素及び酸化マグネシウムから選択される少なくとも1種以上を含むことができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
上記熱伝導性フィラーは、窒化ホウ素は、鱗片状窒化ホウ素の、単分散粒子、凝集粒子またはこれらの混合物を含むことができる。鱗片状窒化ホウ素は顆粒状に造粒されていてもよい。鱗片状窒化ホウ素の凝集粒子を用いることによって、一層に熱伝導性を高められる。凝集粒子は、焼結粒子であっても、非焼結粒子であってもよい。
【0062】
上記熱硬化性樹脂組成物は、シランカップリング剤を含んでもよい。
これにより、熱硬化性樹脂組成物中における熱伝導性フィラーの相溶性を向上させることができる。カップリング剤は、熱硬化性樹脂組成物に添加してもよいし、熱伝導性フィラー表面に処理して使用してもよい。
【0063】
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物は、上述した成分以外の他の成分を含むことができる。この他の成分としては、例えば、酸化防止剤、レベリング剤が挙げられる。
本実施形態の熱硬化性樹脂組成物の製造方法として、例えば、次のような方法がある。
【0064】
上記の各成分を、溶剤中に溶解、混合、撹拌することにより樹脂ワニス(ワニス状の熱硬化性樹脂組成物)を調製することができる。この混合は、超音波分散方式、高圧衝突式分散方式、高速回転分散方式、ビーズミル方式、高速せん断分散方式、および自転公転式分散方式などの各種混合機を用いることができる。
【0065】
上記溶剤としては特に限定されないが、アセトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、酢酸エチル、シクロヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサノン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、セルソルブ系、カルビトール系、アニソール、およびN-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0066】
(熱伝導性樹脂シート)
本実施形態の熱伝導性樹脂シートは、キャリア基材と、キャリア基材上に設けられた、本実施形態の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層と、を備えるものである。
【0067】
上記樹脂シートは、たとえばワニス状の熱硬化性樹脂組成物をキャリア基材上に塗布して得られた塗布膜(樹脂層)に対して、溶剤除去処理を行うことにより得ることができる。上記樹脂シート中の溶剤含有率が、熱硬化性樹脂組成物全体に対して10重量%以下とすることができる。たとえば80℃~200℃、1分間~30分間の条件で溶剤除去処理を行うことができる。
【0068】
また、本実施形態において、上記キャリア基材としては、例えば、高分子フィルムや金属箔などを用いることができる。当該高分子フィルムとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、シリコーンシート等の離型紙、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂などの耐熱性を有した熱可塑性樹脂シート等が挙げられる。当該金属箔としては、特に限定されないが、例えば、銅および/または銅系合金、アルミおよび/またはアルミ系合金、鉄および/または鉄系合金、銀および/または銀系合金、金および金系合金、亜鉛および亜鉛系合金、ニッケルおよびニッケル系合金、錫および錫系合金などが挙げられる。
【0069】
(樹脂基板)
本実施形態の樹脂基板は、上記熱硬化性樹脂組成物の硬化物で構成された絶縁層を備えるものである。この樹脂基板は、例えば、LED、パワーモジュールなどの電子部品を搭載するためのプリント基板の材料として用いることができる。
【0070】
(金属ベース基板)
本実施形態の一例として、金属ベース基板100について
図1に基づいて説明する。
図1は、金属ベース基板100の構成の一例を示す断面図である。
【0071】
上記金属ベース基板100は、
図1に示すように、金属基板101と、金属基板101上に設けられた絶縁層102と、絶縁層102上に設けられた金属層103と、を備えることができる。この絶縁層102は、上記の熱硬化性樹脂組成物からなる樹脂層、熱硬化性樹脂組成物の硬化物および積層板からなる群から選択される一種で構成することが可能である。これらの樹脂層、積層板のそれぞれは、金属層103の回路加工の前では、Bステージ状態の熱硬化性樹脂組成物で構成されていてもよく、回路加工の後では、それを硬化処理されてなる硬化体であってもよい。
【0072】
金属層103は絶縁層102上に設けられ、回路加工されるものである。この金属層103を構成する金属としては、例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、鉄、錫等から選択される一種または二種以上が挙げられる。これらの中でも、金属層103は、好ましくは銅層またはアルミニウム層であり、特に好ましくは銅層である。銅またはアルミニウムを用いることで、金属層103の回路加工性を良好なものとすることができる。金属層103は、板状で入手できる金属箔を用いてもよいし、ロール状で入手できる金属箔を用いてもよい。
【0073】
金属層103の厚みの下限は、例えば、0.01mm以上であり、好ましくは0.035mm以上であれば、高電流を要する用途に適用できる。
また、金属層103の厚みの上限は、例えば、10.0mm以下であり、好ましくは5mm以下である。このような数値以下であれば、回路加工性を向上させることができ、また、基板全体としての薄型化を図ることができる。
【0074】
金属基板101は、金属ベース基板100に蓄積された熱を放熱する役割を有する。金属基板101は、放熱性の金属基板であれば特に限定されないが、例えば、銅基板、銅合金基板、アルミニウム基板、アルミニウム合金基板であり、銅基板またはアルミニウム基板が好ましく、銅基板がより好ましい。銅基板またはアルミニウム基板を用いることで、金属基板101の放熱性を良好なものとすることができる。
【0075】
金属基板101の厚さは、本発明の目的が損なわれない限り、適宜設定できる。
金属基板101の厚さの上限は、例えば、20.0mm以下であり、好ましくは5.0mm以下である。この数値以下の金属基板101を用いることで、金属ベース基板100の外形加工や切り出し加工等における加工性を向上させることができる。
【0076】
また、金属基板101の厚さの下限は、例えば、0.01mm以上であり、好ましくは0.6mm以上である。この数値以上の金属基板101を用いることで、金属ベース基板100全体としての放熱性を向上させることができる。
【0077】
本実施形態において、金属ベース基板100は、各種の基板用途に用いることが可能であるが、熱伝導性及び耐熱性に優れることから、LEDやパワーモジュールを用いるプリント基板として用いることが可能である。
【0078】
金属ベース基板100は、パターンにエッチング等することによって回路加工された金属層103を有することができる。この金属ベース基板100において、最外層に不図示のソルダーレジストを形成し、露光・現像により電子部品が実装できるよう接続用電極部が露出されていてもよい。
【0079】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例】
【0080】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例で用いた原料は以下の通り。
(エポキシ化合物)
・エポキシ化合物a:下記化学式で表されるテトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂(2官能エポキシ化合物、メソゲン構造あり、三菱ケミカル社製、YX4000)
【0081】
【0082】
・エポキシ化合物b:下記化学式(i)で表されるビフェニル型エポキシと、下記化学式(ii)で表されるテトラメチルビフェニル型エポキシの50/50混合物(2官能エポキシ化合物、メソゲン構造あり、三菱ケミカル社製、YL6121)
【0083】
【0084】
(フェノール化合物)
・フェノール化合物a:下記化学式で表されるエステル基含有ビスフェノール(2官能フェノール化合物、メソゲン構造あり、上野製薬社製、HQHBA)
【0085】
【0086】
<フェノキシ樹脂の合成>
(実施例1)
エポキシ化合物a 59重量部、フェノール化合物a 35重量部、トリフェニルホスフィン(TPP)0.05重量部、及び溶剤(シクロヘキサノン)6重量部を反応器に投下し、100℃~110℃で1時間溶融混合した。そして、混合液を150℃に昇温し、当該温度で減圧下にて溶剤を除去しながら反応させ、GPCで目的の分子量となることを確認し、反応を停止させ、下記化学式で表されるフェノキシ樹脂1を得た。反応は16時間行った。反応後、シクロヘキサノンを樹脂に対して100重量部添加して樹脂を溶解し室温まで冷却した。冷却後、メタノールを用いた再沈殿法により精製してフェノキシ樹脂1(化学式中の繰り返し単位数nの平均値は15)を113重量部得た。
【0087】
【0088】
(実施例2)
エポキシ樹脂aをエポキシ樹脂bに変更した以外は、実施例1と同様な合成方法により、下記一般式で表されるフェノキシ樹脂2(化学式中の繰り返し単位数nの平均値は19)を112重量部得た。
【0089】
【0090】
上記一般式中、Rは水素原子またはメチル基であり、各々のビフェニル骨格に結合するRは同一である。
【0091】
(比較例1)
フェノキシ樹脂として、下記の化学式で表されるビスフェノールA型フェノキシ樹脂(メソゲン構造なし、三菱ケミカル社製、YP-55)を使用した。
【0092】
【0093】
実施例および比較例のフェノキシ樹脂の物性値を以下の方法で測定した。
(分子量、分散度、およびピーク面積)
GPCの測定条件は、以下の通りである。
・東ソー(株)社製ゲルパーミエーションクロマトグラフィー装置HLC-8320GPC
・カラム:東ソー(株)社製TSK-GEL GMH、G2000H、SuperHM-M
・検出器:液体クロマトグラム用RI検出器
・測定温度:40℃
・溶媒:THF
・試料濃度:2.0mg/ミリリットル
【0094】
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、および分散度(PDI:Mw/Mn)は、GPC測定により得られる標準ポリスチレン(PS)の検量線から求めたポリスチレン換算値を用いて、算出した。
【0095】
上記GPC測定により得られた分子量に関するデータに基づき、分子量分布について、各ピークを、Mwが1k超のフェノキシ樹脂(A)、モノマーを含まないMwが1k以下の低分子量成分(B)、モノマー(C)に分類した。(B)および(C)の合計を、Mwが1k以下の低分子量成分とする。
【0096】
上記GPC測定により得られた分子量分布の全面積を100%としたとき、測定対象のフェノキシ樹脂に含まれるMwが1k以下の低分子量成分(上記の(B)+(C))に対応するピークについて、そのピーク面積の面積割合(%)を算出した。
【0097】
実施例および比較例のフェノキシ樹脂について、以下の方法で溶融粘度および熱伝導率を測定して評価した。
(溶融粘度)
東亜工業株式会社製コーンプレート粘度計CV-1Sを用いて、約0.1gの粉砕したフェノキシ樹脂を量り取り、あらかじめ所定の温度(150℃、165℃、180℃)で予熱されたステージ上に乗せ、コーン回転数が94rpm~750rpmのときのトルク値を測定した。測定されたトルク値を用いて、フェノキシ樹脂の溶融粘度(mPa・s)を算出した。
【0098】
(熱伝導率)
・樹脂成形体の作製
フェノキシ樹脂100重量部に触媒(2-メチルイミダゾール)2重量部を混合した混合物を、離型剤を塗布した金型にセットし、コンプレッション成形を180℃、30min行い、直径10mm×厚み1mmの樹脂成形物を得た。その後、オーブンにて180℃、180minの硬化を行い、樹脂成形体(熱伝導率測定用サンプル)を得た。
・樹脂成形体の密度
密度測定は、JIS K 6911(熱硬化性プラスチック一般試験方法)に準拠して行った。試験片は、上記の樹脂成形体から、縦2cm×横2cm×厚み2mmに切り出したものを用いた。密度(SP)の単位をg/cm3とする。
【0099】
・樹脂成形体の比熱
得られた上記の樹脂成形体について、DSC法により比熱(Cp)を測定した。
【0100】
・樹脂成形体の熱伝導率の測定
得られた樹脂成形体から、厚み方向測定用として、直径10mm×厚み1mmに加工したものを試験片とした。次に、ULVAC社製のXeフラッシュアナライザーTD-1RTVを用いて、レーザーフラッシュ法により板状の試験片の厚み方向の熱拡散係数(α)の測定を行った。測定は、大気雰囲気下、25℃の条件下で行った。
樹脂成形体について、得られた熱拡散係数(α)、比熱(Cp)、密度(SP)の測定値から、下記式に基づいて熱伝導率を算出した。
熱伝導率[W/m・K]=α[m2/s]×Cp[J/kg・K]×Sp[g/cm3]
【0101】
【0102】
実施例のフェノキシ樹脂は、比較例のものと比較して熱伝導性に優れる結果が示された。このような新規なフェノキシ樹脂は、樹脂材料に用いることができ、さらに、放熱絶縁基板やシートなどの放熱絶縁材料に好適に用いることができる。