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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】電池システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/02 20160101AFI20240730BHJP
   H02J 7/10 20060101ALI20240730BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240730BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
H02J7/02 J
H02J7/10 H
H02J7/00 Y
H01M10/48 P
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020102252
(22)【出願日】2020-06-12
(65)【公開番号】P2021197806
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】川上 真世
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-250622(JP,A)
【文献】特開2012-248414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
H01M 10/42-10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルが直列接続された組電池A、および、複数の電池セルが直列接続された組電池Bが並列接続された電池モジュールと、
前記電池モジュールの状態を監視する監視ユニットと、
前記電池モジュールの少なくとも充電を制御する制御ユニットと、を備える電池システムであって、
前記監視ユニットは、前記組電池Aの総電流Iを測定する第1電流センサ、および、前記組電池Bの総電流Iを測定する第2電流センサを有し、
前記制御ユニットは、
前記総電流Iおよび前記総電流Iに基づいて判定値を算出する算出部と、
前記判定値に基づいて、過充電の発生を判定する判定部と、
を有し、
前記算出部は、前記判定値として、前記総電流I および前記総電流I の電流比を算出し、
前記判定部は、前記電流比の値が閾値以上である状態が、所定時間維持されていることにより、前記過充電の発生を判定する、電池システム。
【請求項2】
複数の電池セルが直列接続された組電池A、および、複数の電池セルが直列接続された組電池Bが並列接続された電池モジュールと、
前記電池モジュールの状態を監視する監視ユニットと、
前記電池モジュールの少なくとも充電を制御する制御ユニットと、を備える電池システムであって、
前記監視ユニットは、前記組電池Aの総電流I を測定する第1電流センサ、および、前記組電池Bの総電流I を測定する第2電流センサを有し、
前記制御ユニットは、
前記総電流I および前記総電流I に基づいて判定値を算出する算出部と、
前記判定値に基づいて、過充電の発生を判定する判定部と、
を有し、
前記算出部は、前記判定値として、前記総電流Iおよび前記総電流Iの電流比の傾きを算出し、
前記判定部は、前記電流比の傾きが閾値以上である状態が、所定時間維持されていることにより、前記過充電の発生を判定する、電池システム。
【請求項3】
前記所定時間が1秒間以上である、請求項1または請求項2に記載の電池システム。
【請求項4】
複数の電池セルが直列接続された組電池A、および、複数の電池セルが直列接続された組電池Bが並列接続された電池モジュールと、
前記電池モジュールの状態を監視する監視ユニットと、
前記電池モジュールの少なくとも充電を制御する制御ユニットと、を備える電池システムであって、
前記監視ユニットは、前記組電池Aの総電流I を測定する第1電流センサ、および、前記組電池Bの総電流I を測定する第2電流センサを有し、
前記制御ユニットは、
前記総電流I および前記総電流I に基づいて判定値を算出する算出部と、
前記判定値に基づいて、過充電の発生を判定する判定部と、
を有し、
前記算出部は、前記判定値として、前記総電流Iの積算値Sと、前記総電流Iの積算値Sとの差の絶対値を算出し、
前記判定部は、前記絶対値が閾値以上であり、かつ、基準時から前記閾値に至るまでに、前記積算値Sおよび前記積算値Sの両者が常に増加していることにより、前記過充電の発生を判定する、電池システム。
【請求項5】
前記組電池Aにおける前記電池セル、および、前記組電池Bにおける前記電池セルは、それぞれ、正極層と、負極層と、正極層および負極層の間に形成された電解質層と、を有する発電単位を備え、
前記電解質層は、無機固体電解質を含有する、請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の電池システム。
【請求項6】
前記監視ユニットは、前記組電池Aにおける前記電池セルの電圧を個別に測定する電圧センサを有さず、前記組電池Bにおける前記電池セルの電圧を個別に測定する電圧センサを有さない、請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
過充電から電池を保護するために、電池の充電状態を推定する方法が知られている。例えば特許文献1には、複数の電池セルから成る電池ブロックの充電状態を推定する組電池充電状態推定装置であって、各電池セルの電圧から電池セルの充電状態を推定し、その推定値の最大値と最小値から電池ブロックの充電状態を推定する組電池充電状態推定装置が開示されている。この技術は、組電池全体の充電状態の推定値を適正に算定することを課題としている。
【0003】
また、充電停止後に生じる循環電流による過充電を防止する技術が知られている。例えば特許文献2には、充放電可能な電池列とバッテリー監視システムとを備える複数の電池パックを有し、複数の電池パックが相互に並列に接続された電源システムの充電停止方法であって、外部から電源システムに対して電力を供給して充電を行う際に、複数の電池パックの間での開回路電圧及びSOCのうちの一方の差に応じて充電の充電停止条件を変化させる、充電停止方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-080560号公報
【文献】特開2018-050400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、複数の電池セルのそれぞれの充電状態を推定するために、電池セルごとに電圧を測定している。この場合、電池セルごとに電圧検知線が必要となり、センサ要素が複雑になりやすい。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、簡易なセンサ要素で過充電を回避可能な電池システムを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示においては、複数の電池セルが直列接続された組電池A、および、複数の電池セルが直列接続された組電池Bが並列接続された電池モジュールと、上記電池モジュールの状態を監視する監視ユニットと、上記電池モジュールの少なくとも充電を制御する制御ユニットと、を備える電池システムであって、上記監視ユニットは、上記組電池Aの総電流Iを測定する第1電流センサ、および、上記組電池Bの総電流Iを測定する第2電流センサを有し、上記制御ユニットは、上記総電流Iおよび上記総電流Iに基づいて判定値を算出する算出部と、上記判定値に基づいて、過充電の発生を判定する判定部と、を有する、電池システムを提供する。
【0008】
本開示によれば、総電流Iおよび総電流Iに基づいて算出される判定値を用いることで、簡易なセンサ要素で過充電を回避可能な電池システムとすることができる。
【0009】
上記開示において、上記算出部は、上記判定値として、上記総電流Iおよび上記総電流Iの電流比を算出し、上記判定部は、上記電流比の値が閾値以上である状態が、所定時間維持されていることにより、上記過充電の発生を判定してもよい。
【0010】
上記開示において、上記算出部は、上記判定値として、上記総電流Iおよび上記総電流Iの電流比の傾きを算出し、上記判定部は、上記電流比の傾きが閾値以上である状態が、所定時間維持されていることにより、上記過充電の発生を判定してもよい。
【0011】
上記開示において、上記所定時間が1秒間以上であってもよい。
【0012】
上記開示において、上記算出部は、上記判定値として、上記総電流Iの積算値Sと、上記総電流Iの積算値Sとの差の絶対値を算出し、上記判定部は、上記絶対値が閾値以上であり、かつ、基準時から上記閾値に至るまでに、上記積算値Sおよび上記積算値Sの両者が常に増加していることにより、上記過充電の発生を判定してもよい。
【0013】
上記開示において、上記組電池Aにおける上記電池セル、および、上記組電池Bにおける上記電池セルは、それぞれ、正極層と、負極層と、正極層および負極層の間に形成された電解質層と、を有する発電単位を備え、上記電解質層は、無機固体電解質を含有していてもよい。
【0014】
上記開示において、上記監視ユニットは、上記組電池Aにおける上記電池セルの電圧を個別に測定する電圧センサを有さず、上記組電池Bにおける上記電池セルの電圧を個別に測定する電圧センサを有さなくてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示における電池システムは、簡易なセンサ要素で過充電を回避できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示における電池セルを例示する概略断面図である。
図2】本開示における電池システムを例示する模式図である。
図3】電流比の経時変化を説明するグラフである。
図4】積算電流値の経時変化を説明するグラフである。
図5】本開示における制御ユニットが実行する処理を例示するフローチャートである。
図6】参考例における電池セルに対する充電試験の結果を示すグラフである。
図7】実施例における組電池Aおよび組電池Bを示す模式図である。
図8】実施例における総電流および総電圧の経時変化を説明するグラフである。
図9】実施例における電流比の経時変化を説明するグラフである。
図10】実施例における積算電流値(SOC基準)の経時変化を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示における電池システムについて、詳細に説明する。
【0018】
A.電池システム
図1は、本開示における電池セルを例示する概略断面図である。図1に示す電池セルCは、正極層1と、負極層2と、正極層1および負極層2に形成された電解質層3と、正極層1の集電を行う正極集電体4と、負極層2の集電を行う負極集電体5と、これらを収納する外装体6と、を備える。また、本開示における組電池は、複数の電池セルが直列接続されている。複数の電池セルは、厚さ方向(図1における方向D)に沿って配置されていることが好ましい。
【0019】
図2は、本開示における電池システムを例示する模式図である。図2に示す電池システム20は、複数の電池セルが直列接続された組電池10A(組電池A)と、複数の電池セルが直列接続された組電池10B(組電池B)とが、並列接続された電池モジュールMを備える。さらに、電池システム20は、組電池10Aおよび組電池10Bの状態を監視する監視ユニット11を備える。監視ユニット11は、組電池Aの総電流Iを測定する第1電流センサ、および、組電池Bの総電流Iを測定する第2電流センサを有する。
【0020】
また、図2に示す電池システム20は、電池モジュールMの充電および放電を制御する制御ユニット12を備える。制御ユニット12は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)121と、PCU(Power Control Unit)122とを有する。ECU121は、外部からの要求X(例えば充電要求、放電要求)と、監視ユニット11から取得される電池状態(組電池Aおよび組電池Bの状態)とに基づいて、PCU122に充放電の指示(例えば、開始指示または停止指示)を行う。PCU122は、充電時には電源13から電力を受給し、放電時には負荷14に対して電力を供給する。制御ユニット12は、総電流Iおよび総電流Iに基づいて判定値を算出し、その判定値に基づいて、過充電の発生を判定し、充電を停止する。
【0021】
本開示によれば、総電流Iおよび総電流Iに基づいて算出される判定値を用いることで、簡易なセンサ要素で過充電を回避可能な電池システムとすることができる。上述したように、特許文献1では、複数の電池セルのそれぞれの充電状態を推定するために、電池セルごとに電圧を測定している。この場合、電池セルごとに電圧検知線が必要となり、センサ要素が複雑になりやすい。これに対して、本開示においては、電池セルごとに電圧検知線を設置する必要がないため、センサ要素を簡易化できる。
【0022】
本開示では、過充電時に急激な電圧上昇が生じることに着目し、その急激な電圧上昇によって生じる総電流Iおよび総電流Iの変化を、判定値として算出することで、センサ要素の簡易化を図っている。具体的に、後述する図6は、固体電解質として無機固体電解質(硫化物固体電解質)を用いた電池セルに対する充電試験の結果であるが、電池セルのSOC(State of Charge)が高くなると、電池セルの電圧が急激に上昇する。なお、図6におけるSOCは、総電流の積算値と、公称容量(定格容量)と、から算出される値である。また、一般的な電解液を用いると、電池セルの電圧が急激に上昇する前に、電解液の酸化分解が生じるため、電圧の急激な上昇は確認されない可能性がある。ただし、酸化分解電位が高い電解液を用いれば、電圧の急激な上昇は確認されると推測される。また、電池セルの電圧が急激に上昇する理由は、過電圧が生じているためであると推測される。
【0023】
また、組電池に含まれる電池セルの中で、過充電が生じやすい電池セルとしては、例えば、充放電による経時的劣化が相対的に早い電池セルが挙げられる。特に、充放電により容量低下が生じた電池セルは、充電時に過充電状態になりやすい。本開示によれば、総電流Iおよび総電流Iに基づいて算出される判定値(過充電時の急激な電圧上昇に伴う電流変化に基づく判定値)を用いることで、簡易なセンサ要素で過充電を回避可能な電池システムとすることができる。
【0024】
1.制御ユニット
本開示における制御ユニットは、電池モジュールの少なくとも充電を制御する。中でも、制御ユニットは、電池モジュールの充電および放電を制御することが好ましい。
【0025】
制御ユニットは、監視ユニットから取得された電池情報に基づいて、充電(好ましくは充電および放電)の開始、継続および停止を判定するECUと、EUCの判定に基づいて、電池モジュールの充電(好ましくは充電および放電)の開始、継続および停止を実行するPCUと、を有することが好ましい。
【0026】
ECUは、監視ユニットから取得された電池情報に基づいて、充電(好ましくは充電および放電)の開始、継続および停止を判定するように構成されている。ECUは、通常、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、各種信号を入出力するための入出力ポートとを含む。メモリは、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、および、書き換え可能な不揮発性メモリを含む。メモリに記憶されているプログラムをCPUが実行することで、各種判定が行われる。
【0027】
ECUは、その機能を実現するための処理ブロックとして、算出部および判定部を少なくとも有する。算出部は、総電流Iおよび総電流Iに基づいて判定値を算出するように設定されている。また、算出部は、第1電流センサから総電流Iを経時的に取得し、第2電流センサから総電流Iを経時的に取得することが好ましい。一方、判定部は、算出部により算出された判定値に基づいて、過充電の発生を判定するように設定されている。
【0028】
(1)電流比
算出部は、判定値として、総電流Iおよび総電流Iの電流比を算出してもよい。この場合、判定部は、電流比の値が閾値以上である状態が、所定時間維持されていることにより、過充電の発生を判定することが好ましい。ここで、組電池Aおよび組電池Bが、異常セル(過充電が生じやすい電池セル)を含まない場合、図3のCase Iに示すように、I/Iは常に1になる。
【0029】
一方、組電池Aが異常セルを含み、組電池Bが異常セルを含まない場合、異常セルにおいて急激な電圧上昇が生じるため、総電流Iが総電流Iよりも小さくなる。そのため、図3のCase IIに示すように、過充電発生時t0において、電流比(I/I)の値が1より大きくなり、その後、電流比(I/I)の値は経時的に増加する。そのため、電流比の値が閾値以上である状態が、所定時間維持されていることにより、過充電の発生を判定することができる。
【0030】
電流比の値の閾値は、特に限定されないが、例えば1.5以上であり、2以上であってもよく、5以上であってもよい。また、所定時間は、特に限定されないが、例えば1秒間以上であり、5秒間以上であってもよく、1分間以上であってもよい。また、図3のCase IIでは、組電池Aが異常セルを含む場合を想定しているが、逆に、組電池Bが異常セルを含む場合を想定すると、過充電発生時t0において、I/I<1となる。そのため、算出部は、電流比I/Iおよび電流比I/Iのうち、大きい値を、判定値として採用することが好ましい。
【0031】
一方、組電池Aが、異常セルとして内部短絡したセルを含む場合、異常セルの電圧が瞬間的に低下する(総電流Iが総電流Iより瞬間的に大きくなる)。具体的に、図3のCase IIIに示すように、内部短絡発生時t0から、電流比I/Iは瞬間的に小さくなり、その後、I/I=1付近に回復する。一方、図3のCase IIIにおける電流比I/Iの逆数である電流比I/Iを想定すると、電流比I/Iは、瞬間的に閾値以上になり得るが、その状態は維持されない。そのため、過充電の発生と、内部短絡の発生とは区別して判定することができる。
【0032】
瞬間的な変化という観点に基づくと、判定部は、電流比の値が閾値以上であり、かつ、基準時(第1基準時)から閾値に至るまで、および、閾値に至ってから所定時間の間に、電流比が常に増加していることにより、過充電の発生を判定することもできる。第1基準時は、特に限定されないが、例えば1<電流比<1.5を満たす任意の時である。また、好ましい所定時間については、上記と同様である。
【0033】
また、内部短絡の発生時に、通常、回り込み電流が発生する。その回り込み電流の値が、充電電流の値より大きい場合、図3のCase IIIに示すように、電流比が負の値をとる。この観点に基づくと、判定部は、電流比の値が閾値以上であり、かつ、基準時(第1基準時)から閾値に至るまで、および、閾値に至ってから所定時間の間に、電流比が常に正の値をとることにより、過充電の発生を判定することもできる。好ましい第1基準時および所定時間については、上記と同様である。なお、上述した判定方法は、組み合わせて用いてもよい。
【0034】
(2)電流比の傾き
算出部は、判定値として、総電流Iおよび総電流Iの電流比の傾きを算出してもよい。この場合、判定部は、電流比の傾きが閾値以上である状態が、所定時間維持されていることにより、過充電の発生を判定することが好ましい。ここで、組電池Aおよび組電池Bが、異常セル(過充電が生じやすい電池セル)を含まない場合、図3のCase Iに示すように、I/Iの傾きは常に0になる。
【0035】
一方、組電池Aが異常セルを含み、組電池Bが異常セルを含まない場合、異常セルにおいて急激な電圧上昇が生じるため、総電流Iが総電流Iよりも小さくなる。そのため、図3のCase IIに示すように、過充電発生時t0において、電流比(I/I)の傾きが0より大きくなる。そのため、電流比の傾きが閾値以上である状態が、所定時間維持されていることにより、過充電の発生を判定することができる。なお、電流比の傾きは、例えば、図3における矢印で表される。
【0036】
電流比の傾きの閾値は、特に限定されないが、時間の単位を「秒」とした場合、例えば0.5以上であり、1以上であってもよく、2以上であってもよい。電流比の傾きは、単位時間(例えば1秒間)における電流比の変化量として求めることができる。また、所定時間は、特に限定されないが、例えば1秒間以上であり、5秒間以上であってもよく、1分間以上であってもよい。また、図3のCase IIでは、組電池Aが異常セルを含む場合を想定しているが、逆に、組電池Bが異常セルを含む場合を想定すると、過充電発生時t0において、I/I<1となる。そのため、算出部は、電流比I/Iおよび電流比I/Iのうち、大きい値の傾きを、判定値として採用することが好ましい。
【0037】
一方、組電池Aが、異常セルとして内部短絡したセルを含む場合、異常セルの電圧が瞬間的に低下する(総電流Iが総電流Iより瞬間的に大きくなる)。具体的に、図3のCase IIIに示すように、内部短絡発生時t0から、電流比I/Iは瞬間的に小さくなり、その後、I/I=1付近に回復する。一方、図3のCase IIIにおける電流比I/Iの逆数である電流比I/Iを想定すると、電流比I/Iの傾きが、瞬間的に閾値以上になり得るが、その状態は維持されない。そのため、過充電の発生と、内部短絡の発生とは区別して判定することができる。
【0038】
瞬間的な変化という観点に基づくと、判定部は、電流比の傾きが閾値以上であり、かつ、基準時(第2基準時)から閾値に至るまで、および、閾値に至ってから所定時間の間に、電流比の傾きが常に増加していることにより、過充電の発生を判定することもできる。第2基準時は、特に限定されないが、例えば0.01≦電流比の傾き<0.5を満たす任意の時であり、0.1≦電流比の傾き<0.5を満たす任意の時であってもよい。また、好ましい所定時間については、上記と同様である。
【0039】
また、内部短絡の発生時に、通常、回り込み電流が発生する。その回り込み電流の値が、充電電流の値より大きい場合、図3のCase IIIに示すように(厳密には、Case IIIの曲線を上下に反転させた場合に)、電流比の傾きが、正の値のみならず、負の値もとる。この観点に基づくと、判定部は、電流比の傾きが閾値以上であり、かつ、基準時(第2基準時)から閾値に至るまで、および、閾値に至ってから所定時間の間に、電流比の傾きが常に正の値をとることにより、過充電の発生を判定することもできる。好ましい第2基準時および所定時間については、上記と同様である。なお、上述した判定方法は、組み合わせて用いてもよい。
【0040】
(3)積算電流値の差
算出部は、判定値として、総電流Iの積算値Sと、総電流Iの積算値Sとの差の絶対値を算出してもよい。この場合、判定部は、絶対値が閾値以上であり、かつ、基準時から閾値に至るまでに、積算値Sおよび積算値Sの両者が常に増加していることにより、過充電の発生を判定することが好ましい。ここで、組電池Aおよび組電池Bが、異常セル(過充電が生じやすい電池セル)を含まない場合、図4のCase Iに示すように、総電流Iの積算値Sと、総電流Iの積算値Sとの差は0になる。
【0041】
一方、組電池Aが異常セルを含み、組電池Bが異常セルを含まない場合、異常セルにおいて急激な電圧上昇が生じるため、総電流Iが総電流Iよりも小さくなる。そのため、図4のCase IIに示すように、過充電発生時t0から、総電流Iの積算値Sは相対的に少なくなり、総電流Iの積算値Sは相対的に多くなる。そのため、積算値の差が閾値以上であることにより、過充電の発生を判定することができる場合がある。積算値の差(絶対値)の閾値は、特に限定されないが、初期電池容量を100%とした場合に、例えば10%以上であり、20%以上であってもよく、50%以上であってもよい。なお、初期電池容量の代わりに、充放電に伴う劣化を考慮した電池容量を100%としてもよい。
【0042】
一方、組電池Aが、異常セルとして内部短絡したセルを含む場合、異常セルの電圧が瞬間的に低下する(総電流Iが総電流Iより瞬間的に大きくなる)。具体的に、図4のCase IIIに示すように、内部短絡発生時t0から、総電流Iの積算値Sは、急激に大きくなる。一方、総電流Iの積算値Sは、回り込み電流により一時的に低下する。そのため、判定部は、積算値の差(絶対値)が閾値以上であり、かつ、基準時(第3基準時)から閾値に至るまでに、積算値Sおよび積算値Sの両者が常に増加していることにより、過充電の発生を判定することができる。第3基準時は、特に限定されないが、初期電池容量を100%とした場合に、例えば3%≦積算値の差(絶対値)<10%を満たす任意の時であり、5%≦積算値の差(絶対値)<10%を満たす任意の時であってもよい。なお、初期電池容量の代わりに、充放電に伴う劣化を考慮した電池容量を100%としてもよい。また、判定部は、さらに、積算値の差(絶対値)が閾値に至ってから所定時間の間に、積算値Sおよび積算値Sの両者が常に増加していることにより、過充電の発生を判定してもよい。
【0043】
(4)その他
PCUは、EUCの判定に基づいて、電池モジュールの充電(好ましくは充電および放電)の開始、継続および停止を実行するように構成されている。PCUについては、一般的な電池システムにおけるPCUと同様のものを用いることができる。また、本開示における電池システムは、過充電が発生した場合に、警告を表示する表示ユニットを有していてもよい。表示ユニットは、例えば液晶ディスプレイである。
【0044】
図5は、本開示における制御ユニットが実行する処理を例示するフローチャートである。図5に示すように、ステップS1では、充電時における電池モジュールの総電圧Vおよび総電流Iが取得される。ステップS2では、組電池Aの総電流Iおよび組電池Bの総電流Iが取得される。ステップS3では、総電流Iおよび総電流Iに基づいて、上述した判定値が算出される。ステップS4では、判定値と、予めメモリに記憶された閾値とを比較して、判定値が閾値以上である状態が、所定時間維持されない場合は、ステップS1に戻る。一方、判定値が閾値以上である状態が、所定時間維持される場合は、過充電と判定され、ステップS5に進み、充電を停止する。ステップS6では、過充電を知らせる警告を表示し、処理を終了する。
【0045】
2.電池モジュール
本開示における電池モジュールは、複数の電池セルが直列接続された組電池Aと、複数の電池セルが直列接続された組電池Bと、を有する。
【0046】
(1)電池セル
電池セルは、正極層と、負極層と、正極層および負極層の間に形成された電解質層と、を有する発電単位を備える。さらに、電池セルは、正極層の集電を行う正極集電体と、負極層の集電を行う負極集電体と、を備える。
【0047】
正極層は、正極活物質を少なくとも含有し、必要に応じて、電解質、導電材およびバインダの少なくとも一種をさらに含有していることが好ましい。正極活物質の種類は特に限定されないが、例えば、酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、LiTi12、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO等のオリビン型活物質が挙げられる。
【0048】
正極層に用いられる電解質については、後述する電解質層に用いられる電解質と同様の材料を用いることができる。導電材としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料が挙げられる。バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のフッ化物系バインダが挙げられる。
【0049】
負極層は、負極活物質を少なくとも含有し、必要に応じて、電解質、導電材およびバインダの少なくとも一種をさらに含有していることが好ましい。負極活物質としては、例えば、グラファイト等のカーボン活物質、Si、Sn、In、Al等の金属活物質が挙げられる。電解質、導電材およびバインダについては、上述した正極層において記載した内容と同様である。
【0050】
電解質層は、電解質を少なくとも含有する。電解質は、無機固体電解質であってもよく、固体高分子電解質であってもよく、液体電解質(電解液)であってもよく、半固体電解質(クレイ型電解質)であってもよい。中でも、無機固体電解質が好ましい。過充電に伴う酸化分解が生じにくいからである。すなわち、本開示における電池セルは、無機固体電解質を含有する固体電解質層を備える全固体電池セルであることが好ましい。電解質の酸化分解電位は、例えば5V(vs Li/Li)以上であり、15V(vs Li/Li)以上であってもよく、30V(vs Li/Li)以上であってもよい。
【0051】
無機固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、窒化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質が挙げられる。硫化物固体電解質としては、例えば、Li元素、X元素(Xは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、および、S元素を含有する固体電解質が挙げられる。また、硫化物固体電解質は、O元素およびハロゲン元素の少なくとも一方をさらに含有していてもよい。ハロゲン元素としては、例えば、F元素、Cl元素、Br元素、I元素が挙げられる。
【0052】
硫化物固体電解質は、ガラス型固体電解質であってもよく、ガラスセラミックス型固体電解質であってもよく、結晶型固体電解質であってもよい。また、硫化物固体電解質は、イオン伝導性が高い結晶相を有していてもよい。上記結晶性としては、例えば、Thio-LISICON型結晶相、LGPS型結晶相、アルジロダイト型結晶相が挙げられる。
【0053】
硫化物固体電解質の組成としては、例えば、xLiS・(1-x)P(0.7≦x≦0.8)、yLiI・zLiBr・(100-y-z)LiPS(0≦y≦30、0≦z≦30)が挙げられる。硫化物固体電解質の組成の他の例としては、Li4-xGe1-x(xは、0<x<1を満たす)が挙げられる。この組成において、GeおよびPの少なくとも一方の代わりに、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V、Nbを用いてもよい。また、Liの一部を、Na、K、Mg、Ca、Znに置換してもよい。さらに、Sの一部をハロゲン(F、Cl、Br、I)に置換してもよい。
【0054】
酸化物固体電解質としては、例えば、Li元素、Y元素(Yは、Nb、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Mo、W、Sの少なくとも一種である)、および、O元素を含有する固体電解質が挙げられる。酸化物固体電解質の具体例としては、LiLaZr12等のガーネット型固体電解質、(Li,La)TiO等のペロブスカイト型固体電解質、Li(Al,Ti)(PO等のナシコン型固体電解質が挙げられる。また、窒化物固体電解質としては、例えばLiNが挙げられ、ハロゲン化物固体電解質としては、例えばLiCl、LiI、LiBrが挙げられる。
【0055】
正極集電体および負極集電体には、一般的な集電体を用いることができる。また、外装体の種類は、特に限定されず、ラミネート型外装体であってもよく、ケース型外装体であってもよい。
【0056】
本開示における電池セルは、正極層、電解質層および負極層の発電単位を1つのみ有していてもよく、2つ以上有していてもよい。後者の場合、複数の発電単位は、厚さ方向に沿って配置されていることが好ましい。また、複数の発電単位により、バイポーラ構造が形成されていてもよい。また、電池セルの種類は特に限定されないが、リチウムイオン電池であることが好ましい。
【0057】
(2)組電池
本開示における電池モジュールは、組電池として、組電池Aおよび組電池Bを有する。組電池は、複数の電池セルが直列接続されている。組電池における電池セルの数は、通常、2以上であり、6以上であってもよく、10以上であってもよく、20以上であってよい。一方、組電池における電池セルの数は、例えば1000以下であり、500以下であってもよい。組電池Aにおける電池セルの数と、組電池Bにおける電池セルの数とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0058】
組電池の総電圧(満充電時)は、例えば5V以上であり、10V以上であってもよく、30V以上であってもよく、100V以上であってもよい。一方、組電池の総電圧(満充電時)は、例えば400V以下である。組電池Aの総電圧(満充電時)と、組電池Bの総電圧(満充電時)とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0059】
本開示における電池モジュールは、組電池Aおよび組電池Bのみが並列接続されていてもよく、組電池Aおよび組電池Bに加えて、1または2以上の他の組電池が並列接続されていてもよい。
【0060】
3.監視ユニット
本開示における電池システムは、組電池Aおよび組電池Bの状態を監視する監視ユニットを備える。具体的に、監視ユニットは、組電池Aの総電流Iを測定する第1電流センサ、および、組電池Bの総電流Iを測定する第2電流センサを有する。なお、電池モジュールが、組電池Aおよび組電池Bに加えて、1または2以上の他の組電池が並列接続されている場合、監視ユニットは、他の組電池の総電流をそれぞれ測定する電流センサを有していてもよい。また、監視ユニットは、電池モジュールの総電圧Vを測定する電圧センサ(総電圧センサ)を有していてもよい。電流センサおよび電圧センサには、それぞれ一般的なセンサを用いることができる。
【0061】
一方、監視ユニットは、組電池Aにおける電池セルの電圧を個別に測定する電圧センサ(個別電圧センサ)を有さないことが好ましい。同様に、監視ユニットは、組電池Bにおける電池セルの電圧を個別に測定する電圧センサ(個別電圧センサ)を有さないことが好ましい。センサ要素の複雑化を防止できるからである。なお、組電池における電池セルの数をN(N≧10)とした場合、監視ユニットは、各組電池に対して個別電圧センサをN/10個以下で有していてもよい。また、監視ユニットは、組電池または電池モジュールの温度を測定する温度センサを有していてもよい。
【0062】
本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例
【0063】
[参考例]
(正極構造体の作製)
正極活物質(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)、硫化物固体電解質(LiS-P)、バインダ(PVDF)および導電材(気相成長炭素繊維)を含有するスラリーを準備した。このスラリーを正極集電体(アルミニウム箔)の表面に塗工し、乾燥させ、正極集電体および正極層を有する正極構造体を得た。
【0064】
(負極構造体の作製)
負極活物質(グラファイト)、硫化物固体電解質(LiS-P)およびバインダ(PVDF)を含有するスラリーを準備した。このスラリーを負極集電体(銅箔)の表面に塗工し、乾燥させ、負極集電体および負極層を有する負極構造体を得た。
【0065】
(固体電解質層の作製)
硫化物固体電解質(LiS-P)およびバインダ(PVDF)を含有するスラリーを準備した。このスラリーを転写箔(アルミニウム箔)の表面に塗工し、乾燥させ、転写箔上に固体電解質層を形成した。
【0066】
(電池セルの作製)
不活性ガス中で、固体電解質層から転写箔を剥がし、固体電解質層の一方の面側に正極構造体を配置し、他方の面側に負極構造体を配置し、プレスすることにより、電池セルを得た。得られた電池セルに対して、電流レート2Cの条件で充電を行った。その結果を図6に示す。なお、閉回路電圧4.41V(開回路電圧4.35V)をSOC(State of Charge)100%として設定した。図6に示すように、高SOC領域において、急激な電圧上昇が生じることが確認された。
【0067】
[実施例]
図7に示すような電池モジュールを作製した。具体的には、10個の電池セル(CA1~CA10)が直列接続された組電池Aと、10個の電池セル(CB1~CB10)が直列接続された組電池Bとを用いて電池モジュールを作製した。この電池モジュールでは、電池セルCA1として、SOCを100%に調整した電池セルを用い、電池セルCA2~CA10として、SOCを0%に調整した電池セルを用い、電池セルCB1~CB10として、SOCを2%に調整した電池セルを用いた。各電池セルは、参考例と同様にして作製した。
【0068】
得られた電池モジュールに対して充電を行い、組電池Aの総電流I、組電池Bの総電流Iおよび電池モジュールの総電圧Vを測定した。その結果を図8図10に示す。図8に示すように、総電流Iの値は、総電流Iの値よりも低くなった。なお、図8では、便宜上、図面下側に向かうほど、電流値が大きいことを示している。また、図9に示すように、充電とともに、電流比I/Iの値が大きくなることが確認された。また、図10に示すように、充電とともに、総電流Iの積算値Sと、総電流Iの積算値Sとの差が大きくなることが確認された。このように、総電流Iおよび総電流Iに基づく判定値(電流比の値、電流比の傾き、積算電流値の差)を用いることで、過充電を回避できることが確認された。
【符号の説明】
【0069】
1 …正極層
2 …負極層
3 …電解質層
4 …正極集電体
5 …負極集電体
6 …外装体
10 …組電池
11 …監視ユニット
12 …制御ユニット
13 …電源
14 …負荷
20 …電池システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10