(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】前処理液、当該前処理液を含むインクジェット記録液セットおよび画像形成方法
(51)【国際特許分類】
B41M 5/00 20060101AFI20240730BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20240730BHJP
C09D 11/54 20140101ALI20240730BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20240730BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240730BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240730BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B41M5/00 132
C09D11/30
C09D11/54
C09D5/00 D
C09D7/63
B41M5/00 100
B41M5/00 120
B41J2/01 123
B41J2/01 501
C09D201/00
(21)【出願番号】P 2020116313
(22)【出願日】2020-07-06
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸枝 孝由
(72)【発明者】
【氏名】森山 晴加
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-059142(JP,A)
【文献】特開2006-123316(JP,A)
【文献】特開2011-207985(JP,A)
【文献】特開2005-297564(JP,A)
【文献】特開2016-204524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-201/10
B41M 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェットインクを用いる画像形成方法において、前記インクジェットインクが付与される前の記録媒体の表面に付与される、少なくとも水不溶性樹脂
と、顔料凝集剤
と、水溶性有機溶媒と、水と、を含む前処理液であって、
前記前処理液は、一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物またはその塩をさらに含む、
前処理液。
【化1】
(式(1)中、Rは炭素数が1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、nは1または2である。)
【請求項2】
前記リン酸エステル化合物またはその塩の含有量は、前記前処理液の全質量に対して、0.1質量%以上5.0質量%以下である、請求項1に記載の前処理液。
【請求項3】
前記顔料凝集剤として、少なくとも有機酸および多価金属塩のいずれか一方を含有する、請求項1または請求項2に記載の前処理液。
【請求項4】
前記Rは、炭素数が1~4の直鎖または分岐鎖のアルキル基である、請求項1~3のいずれか一項に記載の前処理液。
【請求項5】
前記水不溶性樹脂はコア部およびシェル部を有する複合構造を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の前処理液。
【請求項6】
記録媒体の表面に付与されるインクジェットインクと
請求項1~5のいずれか一項に記載の前処理液とを含むインクジェット記録液セットであって、
前記インクジェットインクは、少なくとも顔料、顔料分散剤、水溶性有機溶媒および水を含む、
インクジェット記録液セット。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか一項に記載の前処理液を、記録媒体の表面に付与する工程と、前記付与された前処理液の表面にインクジェットインクを付与して画像を形成する工程と、を有する画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前処理液、当該前処理液を含むインクジェット記録液セットおよび画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、簡便・安価に画像を作成できるため、写真、各種印刷、マーキング、カラーフィルター等の特殊印刷など、様々な印刷分野に応用されている。
【0003】
インクジェット記録方式で用いられるインクジェットインクには、水と有機溶媒とからなる水性インク、有機溶剤を含むが実質的に水を含まない非水系インク、室温では固体のインクを加熱溶融して印字するホットメルトインク、印字後に活性線を照射されることにより硬化する活性線硬化性インク等、複数の種類があり、これらのインクは用途に応じて使い分けられている。
【0004】
中でも、水性インクは一般に臭気が少なく安全性が高い点から、家庭用プリンタだけでなく産業用プリンタなどへの適用も検討されている。
【0005】
たとえば、特許文献1には、オルトリン酸、亜リン酸、次亜リン酸およびこれらの塩などから選択される第1の凝集剤と、有機酸もしくはこれらの塩および多価金属塩から選択される第2の凝集剤とを含む前処理液が記載されている。引用文献1によると、上述の第1および第2の凝集剤を組み合わせて用いることにより、インクの凝集性を高め高品質な画像を得ることができるとされている。
【0006】
また、特許文献2には、フッ素・アクリル系複合樹脂、シリコーン・アクリル系複合樹脂、および塩化ビニル・アクリル系複合樹脂から選ばれる樹脂、水および有機溶剤を含むインクジェット記録用プライマーインクが記載されている。引用文献2によると、上記プライマーインクを用いることにより非吸収性記録媒体にインクジェットインクで記録した画像の密着性を向上させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-161643号公報
【文献】特開2018-076544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らが検討したところ、特許文献1に記載の前処理液を用いて、コート紙などの低吸収性記録媒体に対して画像を形成したところ、良好な定着性を有し、十分な画像品質を有する画像が得られた。一方で、フィルム基材などの非吸収性記録媒体に対しては、所望する定着性および品質を有する画像を得られないことがあった。
【0009】
また、特許文献2に記載のインクジェット記録用プライマーインクを用いて、非吸収性記録媒体に対して画像を形成したところ、所望する密着性および耐水性を有する画像が得られないことがあった。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、低吸収性または非吸収性記録媒体への良好な定着性を有し、画像品質に優れ、かつ、耐水性に優れた画像を形成することができる前処理液を提供することを第1の目的とする。また、本発明は、当該前処理液を含むインクジェット記録液セット、および当該前処理液を用いた画像形成方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の前処理液は、インクジェットインクを用いる画像形成方法において、前記インクジェットインクが付与される前の記録媒体の表面に付与される、少なくとも水不溶性樹脂、顔料凝集剤を含む前処理液であって、前記前処理液は、一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物またはその塩をさらに含む。
【0012】
【化1】
(式(1)中、Rは炭素数が1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、nは1または2である。)
【0013】
本発明のインクジェット記録液セットは、記録媒体の表面に付与されるインクジェットインクと前処理液とを含むインクジェット記録液セットであって、前記インクジェットインクは、少なくとも顔料、顔料分散剤、水溶性有機溶媒および水を含む。
【0014】
本発明の画像形成方法は、上記前処理液を、記録媒体の表面に付与する工程と、前記付与された前処理液の表面にインクジェットインクを付与して画像を形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体への良好な定着性を有し、画像品質に優れ、かつ、耐水性に優れた画像を形成することができる前処理液を提供することができる。また、本発明は、当該前処理液を含むインクジェット記録液セット、および当該前処理液を用いた画像形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る画像形成装置の例示的な構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、インクジェットインクを用いる画像形成方法において、上記インクジェットインクが付与される前の記録媒体の表面に付与される前処理液が、少なくとも水不溶性樹脂、凝集剤を含み、かつ、一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物またはその塩をさらに含むことにより、低吸収性または非吸収性記録媒体への良好な定着性を有し、画像品質に優れ、かつ、耐水性に優れた画像を形成することができることを見出した。
【0018】
従来、極性の低い低吸収または非吸収性記録媒体の表面に、水性インクを付与した場合に、インクの濡れ性とピニング性とを両立させることは困難であり、所望する画像品質を有する画像が得られにくかった。これに対し、本発明においては、一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物またはその塩を含有する前処理液を用いることにより、低吸収または非吸収性記録媒体に良好な画像品質を有する画像を得ることができる。
【0019】
本発明者らの新たな知見によれば、上記リン酸エステル化合物またはその塩は、極性基を有しており、前処理液に含有して上記記録媒体の表面に付与すると、上記極性基は水性インクが付与される面(記録媒体とは反対側の面)を向いて配向する。これにより、水性インクの液滴を適度に濡れ広がらせることができると考えられる。また、上記リン酸エステル化合物またはその塩は、前処理液に含まれる顔料凝集剤と反応して沈降するなどの予期せぬ副反応が生じにくいため、インクの液滴は、前処理液の表面に適度に濡れ広がった状態で顔料凝集剤と反応してピニングされる。これにより、水性インクの液滴の色滲みを抑制することができるので良好な画像品質を有する画像を得ることができると考えられる。
【0020】
さらに、親水性であるリン酸エステル化合物またはその塩は、水性インクおよび水性の前処理液の両方に拡散して、塗膜(画像)中の顔料または顔料分散剤由来などのイオン性部位(カルボキシ基)と、水不溶性樹脂のイオン性部位(親水性基)との架橋反応を促進させることができるため、形成される塗膜(画像)の耐水性を向上させることができる。
【0021】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
1.前処理液
本発明の一実施の形態に係る前処理液は、少なくとも水不溶性樹脂、凝集剤を含む。
【0023】
1-1.水不溶性樹脂
上記水不溶性樹脂とは、本来水不溶性であるが、ミクロな微粒子として樹脂が水系媒体中に分散する形態を有するものであり、乳化剤等を用いて強制乳化させ水中に分散している非水溶性樹脂、または分子内に親水性の官能基を導入して、乳化剤や分散安定剤を使用することなくそれ自身で安定な水分散体を形成する自己乳化できる非水溶性樹脂である。これらの樹脂は通常、水または水/アルコール混合溶媒中に乳化分散させた状態で用いられる。なお、本発明において、「水不溶性樹脂」とは、弱酸性または弱塩基性の範囲の水に対して不溶な樹脂であり、pH4~10(25℃)の水溶液に対する溶解度が0.5%以下の樹脂のことをいう。
【0024】
本発明の一実施の形態に係る水不溶性樹脂は、コア部およびシェル部を有する複合構造を有する樹脂(以下、単に「複合樹脂」ともいう)であることが好ましい。極性の低い低吸収または非吸収性記録媒体に画像を密着させるためには、比較的極性の低い塗膜を形成する必要がある。そのためには、前処理液に極性の低い樹脂を含有させることが好ましい。しかしながら、極性の低い樹脂では、上記記録媒体に対して良好な密着性を付与できるものの、水性インクの液滴の濡れ広がりが不十分なものとなった。これに対し、樹脂として、コア・シェル構造を有する複合樹脂を用いると、塗膜形成時にコア部同士、シェル部同士が融着して海島構造を形成する。特に、コア部に疎水性樹脂を用い、シェル部に親水性樹脂を用いることで上記記録媒体に対して、良好な密着性を付与するとともに、水性インクの液滴を適度に濡れ広がらせることができる。
【0025】
また、上記複合樹脂は、コア部となる樹脂と、シェル部となる樹脂とが同じ種類の樹脂であってもよいし、異なる種類の樹脂であってもよい。
【0026】
上記複合樹脂の例には、コア部がアクリル樹脂セグメントであり、シェル部がウレタン樹脂セグメントである複合樹脂、コア部およびシェル部がアクリル樹脂セグメントである複合樹脂が含まれる。
【0027】
(アクリル樹脂セグメント)
上記アクリル樹脂セグメントは、アクリル酸エステル成分、メタクリル酸エステル成分、またスチレン成分等との共重合体を用いて得ることができる。
【0028】
上記アクリル酸エステル成分、メタクリル酸エステル成分の例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸-4-ヒドロキブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸、ジ(メタ)アクリル酸(ジ)エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸-1,4-ブタンジオ-ル、ジ(メタ)アクリル酸-1,6-ヘキサンジオ-ル、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロ-ルプロパン、ジ(メタ)アクリル酸グリセリン、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、アクリルアミドなどが含まれる。
【0029】
上記スチレン成分の例には、スチレン、4-メチルスチレン、4-ヒドロキシスチレン、4-アセトキシスチレン、4-アセチルスチレンおよびスチレンスルホン酸などが含まれる。
【0030】
これらの成分は、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0031】
また、上記アクリル樹脂セグメントの数平均分子量(Mn)は、1000~50000であることが好ましく、2000~20000であることがより好ましい。上記アクリル樹脂の数平均分子量(Mn)が1000~50000であると、親水性有機溶剤に対する溶解性が良く、乳化分散体の粒子径の微小化を促進することができる。なお、数平均分子量(Mn)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される値であり、例えば、株式会社島津製作所製「RID-6A」(カラム:東ソー株式会社製「TSK-GEL」、溶媒:テトラヒドロフラン(THF)、カラム温度:40℃)を用いて、ポリスチレン標準試料で作成した検量線から求めることができる。
【0032】
コア部としての上記アクリル樹脂セグメントは、公知の方法で製造されたものを用いてもよいし、市販のアクリル樹脂を用いてもよい。
【0033】
上記アクリル樹脂の市販品の例には、SE-841A(大成ファインケミカル株式会社製)、デルペット60N、80N(旭化成株式会社製、「デルペット」は同社の登録商標)、ダイヤナールBR52、BR80、BR83、BR85、BR88(三菱ケミカル株式会社製、「ダイヤナール」は同社の登録商標)、KT75(デンカ株式会社製)、またはビニブラン2680、2682、2684、2685(日信化学工業株式会社製、「ビニブラン」は同社の登録商標)などのアクリル系エマルジョンなどが含まれる。
【0034】
(ウレタン樹脂セグメント)
上記ウレタン樹脂セグメントとしては、親水基を有するものが用いられる。親水基を導入することで、上記アクリル樹脂セグメントに対する乳化剤としての機能を、ウレタン樹脂に付与することができ、上記アクリル樹脂セグメントの乳化分散体である複合樹脂を得ることができる。
【0035】
上記親水基の例には、カルボキシ基(-COOH)およびその塩、スルホン酸基(-SO3H)およびその塩等が含まれる。上記塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、アミン塩等が含まれる。上記親水基の中では、カルボキシ基またはその塩が好ましい。
【0036】
シェル部に使用し得るウレタン樹脂セグメントは、分子内に水溶性官能基を有する自己乳化型ポリウレタンを分散させた水分散体、または界面活性剤を併用して強力な機械剪断力の下で乳化した強制乳化型ポリウレタンの水分散体であることが好ましい。上記水分散体におけるポリウレタン樹脂は、ポリオールと有機ポリイソシアネートおよび親水基含有化合物との反応により得ることができる。
【0037】
上記ポリオールの例には、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオールなどが含まれる。
【0038】
ポリエステルポリオールの例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-および1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-および1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール等の低分子ポリオール、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、テトラヒドロフラン酸、エンドメチンテトラヒドロフラン酸、ヘキサヒドロフタル酸などの多価カルボン酸との縮合物が含まれる。
【0039】
上記ポリエーテルポリオールの例には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンポリテトレメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが含まれる。
【0040】
上記ポリカーボネートポリオールの例には、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネートまたはホスゲン等の炭酸誘導体と、ジオールとの反応により得ることができる。上記ジオールの例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-および1,3-プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-および1,4-ブタンジオール、3-メチルペンタンジオール、ヘキサメチレングリコール、1,8-オクタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノールなどが含まれる。
【0041】
上記有機ポリイソシアネートの例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックMDI、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香族イソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)などの脂肪族イソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI、H12MDI)などの脂環式イソシアネートなどが含まれる。これらは、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0042】
上記親水基含有化合物の例には、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸、グリシンなどのカルボン酸含有化合物、およびそのナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩などの誘導体、タウリン(即ち、アミノエチルスルホン酸)、エトキシポリエチレングリコールスルホン酸などのスルホン酸含有化合物、およびそのナトリウム塩、カリウム塩、アミン塩などの誘導体などが含まれる。
【0043】
上記ウレタン樹脂セグメントは、公知の方法により得ることができる。たとえば、上述したポリオールとポリイソシアネートと、親水基含有化合物とを混合し、30~130℃で30分~50時間反応させることにより、ウレタンプレポリマーを得ることができる。
【0044】
上記ウレタンプレポリマーは、鎖伸長剤により伸長してポリマー化することで、親水基を有するポリウレタン樹脂となる。鎖伸長剤としては、水および/またはアミン化合物であることが好ましい。鎖伸長剤として水やアミン化合物を用いることにより、遊離イソシアネートと短時間で反応して、イソシアネート末端プレポリマーを効率よく伸長させることができる。
【0045】
鎖伸長剤としてのアミン化合物の例には、エチレンジアミン、トリエチレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン、メタキシレンジアミン、トルイレンジアミンなどの芳香族ポリアミン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジド等のポリヒドラジノ化合物等が含まれる。上記アミン化合物には、上記ポリアミンとともに、ポリマー化を大きく阻害しない程度で、ジブチルアミンなどの1価のアミンやメチルエチルケトオキシム等を反応停止剤として含んでいてもよい。
【0046】
なお、上記ウレタンプレポリマーの合成においては、イソシアネートと不活性であり、ウレタンプレポリマーを溶解しうる溶媒を用いてもよい。これらの溶媒の例には、ジオキサン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が含まれる。反応段階で使用されるこれらの親水性有機溶剤は、最終的に除去されるのが好ましい。
【0047】
また、上記ウレタンプレポリマーの合成においては、反応を促進させるために、アミン触媒(例えば、トリエチルアミン、N-エチルモルフォリン、トリエチルジアミン等)、スズ系触媒(例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、オクチル酸スズ等)、チタン系触媒(例えば、テトラブチルチタネート等)などの触媒を添加してもよい。
【0048】
上記コア部がアクリル樹脂セグメントであり、シェル部がウレタン樹脂セグメントである複合樹脂は、アクリル樹脂を、上記親水性を有するウレタンプレポリマーより水に乳化させ、鎖伸長剤としてのアミンまたはその水溶液を添加してウレタンプレポリマーを鎖伸長(高分子量化)する方法により調製してもよいし、または上記親水基を有するウレタンプレポリマーを水に乳化し、さらに鎖伸長剤としてのアミンまたはその水溶液を添加してウレタンプレポリマーを鎖伸長させてウレタン樹脂の水分散体を調製し、アクリル樹脂をウレタン樹脂の水分散体で乳化する方法により調製してもよい。
【0049】
また、上記コア部およびシェル部がアクリル樹脂である複合樹脂は、疎水性基を有するアクリル樹脂を、親水性基を有するアクリル樹脂の水分散体で乳化する方法により調製してもよい。
【0050】
また、上述の複合樹脂は、市販品を用いてもよい。上記市販品の例には、WEM-202U、WEM-202C、WEM-3000、UW-319SX、UW-600などが含まれる(いずれも大成ファインケミカル株式会社製)。
【0051】
本発明の一実施に係る複合樹脂は、記録媒体の表面に付与された前処理液を乾燥または加熱されることで、海島構造を形成し得る。ここで、「海島構造」とは、連続相(海相)中に、連続相と界面をなす不連続な相(島相)が分散して存在している構造のことをいう。
【0052】
本発明において、上記コア部がアクリル樹脂セグメントであり、シェル部がウレタン樹脂セグメントである複合樹脂は、ウレタン樹脂セグメントが海相を形成し、アクリル樹脂セグメントが島状に点在する島相を形成し得る。コア部のアクリル樹脂セグメントは疎水性樹脂であるため、極性の低いポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの非吸収性記録媒体に対して良好な密着性を有する。また、シェル部のウレタン樹脂セグメントは親水性樹脂であることから、極性の低い非吸収性記録媒体の表面が親水性よりになるので、付与された水性インクの液滴を適度に濡れ広がらせることができる。これにより、良好な画像品質を有する画像を形成することができる。このようにして、親水性樹脂および疎水性樹脂を含む複合樹脂を用いることにより、非吸収性記録媒体に対する良好な基材密着性および画像品質の両方を満たす画像を提供することができるようになる。
【0053】
また、本発明において、上記コア部および上記シェル部がともにアクリル樹脂セグメントである複合樹脂においても、例えば、疎水性基を有するアクリル樹脂セグメント、親水性基を有するアクリル樹脂セグメントを用いることにより、上述のような海島構造が形成されて、非吸収性記録媒体に対する良好な定着性および画像品質の両方を満たす画像を提供することができるようになる。
【0054】
上記複合樹脂の含有量は、前処理液の全質量に対して、1.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上20.0質量%以下であることがより好ましい。上記含有量を1.0質量%以上とすることにより、非吸収性記録媒体に対する良好な定着性および良好な画像品質を有する画像を形成することができる。また、30.0質量%以下とすることにより、前処理液の保存安定性が良好となる。
【0055】
また、本発明の一実施の形態に係る前処理液は、水不溶性樹脂として、上述の複合樹脂以外に、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、オレフィン樹脂を用いることができる。
【0056】
上記アクリル樹脂は、上述のアクリル樹脂セグメントを用いることができる。
【0057】
(ウレタン樹脂)
ウレタン樹脂は、分子内に水溶性官能基を有する自己乳化型ポリウレタンを分散させた水分散体、または界面活性剤を併用して強力な機械剪断力の下で乳化した強制乳化型ポリウレタンの水分散体を用いることができる。上記水分散体におけるポリウレタン樹脂は、ポリオールと有機ポリイソシアネートおよび親水基含有化合物との反応により得ることができる。
【0058】
上記ウレタン樹脂の分子量は、分岐構造や内部架橋構造を導入して可能な限り大きくすることが好ましく、分子量50000~10000000であることが好ましい。分子量は、上述の数平均分子量(Mn)の求め方と同様の方法で求めることができる。
【0059】
また、ウレタン樹脂は市販品を用いてもよい。上記ウレタン樹脂の市販品の例には、WBR-016U(大成ファインケミカル株式会社製)、スーパーフレックス620、スーパーフレックス650、スーパーフレックス500M、スーパーフレックスE-2000(いずれも第一工業製薬株式会社製、「スーパーフレックス」は同社の登録商標)、パーマリンUC-20(三洋化成工業株式会社製、「パーマリン」は同社の登録商標)、パラサーフUP-22(大原パラヂウム化学株式会社製)などが含まれる。
【0060】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂は、多価アルコール成分と多価カルボン酸、多価カルボン酸無水物、多価カルボン酸エステル等の多価カルボン酸成分とを用いて、公知の方法により得ることができる。
【0061】
上記ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、1000~50000であることが好ましく、2000~20000であることがより好ましい。なお、数平均分子量(Mn)は、上述の数平均分子量(Mn)の求め方と同様の方法で求めることができる。
【0062】
上記ポリエステル樹脂としては、市販品を用いてもよい。上記ポリエステル樹脂の市販品の例には、エリーテルKA-5034、エリーテルKA-5071S、エリーテルKA-1449、エリーテルKA-0134、エリーテルKA-3556、エリーテルKA-6137、エリーテルKZA-6034、エリーテルKT-8803、エリーテルKT-8701、エリーテルKT-9204、エリーテルKT-8904、エリーテルKT-0507、エリーテルKT-9511などが含まれる。これらは、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。なお、上記市販品はいずれもユニチカ株式会社製であり、「エリーテル」は同社の登録商標である。
【0063】
(オレフィン樹脂)
オレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレンおよび/またはプロピレンと他のコモノマー(例えば、炭素数が2以上である1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、炭素数が2~6のα-オレフィンコモノマー)とのランダム共重合体またはブロック共重合体(例えば、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体など)を用いることができる。また、上記他のコモノマーを2種類以上共重合したもの、および上記ポリマーを2種以上混合したものを用いることもできる。
【0064】
上記オレフィン樹脂は、公知の方法で製造されたものでよく、それぞれの製造方法や変性度合については特に限定されない。
【0065】
上記オレフィン樹脂は、重量平均分子量(Mw)が20000~100000であることが好ましい。なお、重量平均分子量(Mw)は、上述の測定装置で求めることができる。
【0066】
また、上記オレフィン樹脂は市販品を用いてもよい。上記オレフィン樹脂の市販品の例にはアローベースSB-1200(ユニチカ株式会社製、「アローベース」は同社の登録商標)、アウローレン150A、アウローレンAE-301(日本製紙株式会社製、「アウローレン」は同社の登録商標)、スーパークロンE-415(日本製紙株式会社製、「スーパークロン」は同社の登録商標)、ハードレンNa-1001(東洋紡株式会社製、「ハードレン」は同社の登録商標)等が含まれる。
【0067】
上記複合樹脂以外の水不溶性樹脂の中では、画像品質の向上の観点からはウレタン樹脂であることが好ましく、低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体への密着性の観点からは、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。
【0068】
上記複合樹脂以外の水不溶性樹脂の含有量は、前処理液の全質量に対して、1.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以上20.0質量%以下であることがより好ましい。
【0069】
1-2.顔料凝集剤
顔料凝集剤の例には、多価金属塩、有機酸およびカチオンポリマーが含まれる。上記前処理液には、上記顔料凝集剤として少なくとも有機酸および多価金属塩のいずれか一方を含有することが好ましい。
【0070】
(多価金属塩)
多価金属塩の例には、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、および亜鉛塩などの水溶性の塩が含まれる。多価金属塩は、塩析によって上記水系のインクジェットインク中のアニオン性の成分(アニオン性樹脂のエマルジョンなど)を凝集させることができる。
【0071】
(有機酸)
有機酸の例には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、シュウ酸、フマル酸、グルタル酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、安息香酸、2-ピロリドン-5-カルボン酸、乳酸、アクリル酸およびその誘導体、メタクリル酸およびその誘導体、ならびにアクリルアミドおよびその誘導体などを含むカルボキシ基を有する化合物、スルホン酸誘導体、ならびに、リン酸およびその誘導体などが含まれる。有機酸は、インクジェットインク中に含まれる顔料を凝集させることができる。また、有機酸は、pH変動によって水系のインクジェットインク中のアニオン性の成分(アニオン性樹脂のエマルジョンなど)を凝集させることができる。
【0072】
(カチオンポリマー)
カチオンポリマーの例には、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド重合体、ポリアリルアミン重合体、ポリビニルアミン重合体、およびポリエチレンイミン重合体などが含まれる。カチオンポリマーは、インクジェットインク中のアニオン性の成分(アニオン性樹脂のエマルジョンなど)を凝集させることができる。
【0073】
上記前処理液が上記顔料凝集剤を含むことにより、前処理液の表面に付与されたインクジェットインク中の色材成分を凝集させることができるので、形成される画像の滲みを抑制することができる。とくに、上記多価金属塩および有機酸は、低分子量であることから、水性のインクジェットインクに拡散しやすいので、インクジェットインク中の色材成分をより高速に凝集させることができる。そのため、本発明のインクジェットインクは、高速印刷をした場合であっても、インクジェットインクのピニング性を向上させることができるので、良好な画像品質を有する画像を得ることができる。
【0074】
上記顔料凝集剤の含有量は、前処理液の全質量に対して0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましい。上記顔料凝集剤の含有量が、前処理液の全質量に対して、0.5質量%以上であると、前処理液上でインク液滴中の顔料凝集を促進して画像品質を良好にできる。なお、上記顔料凝集剤として有機酸を用いるときは、含有量は前処理液のpHを有機酸の第1解離定数未満(例えば3.5以下)に調整できる量であることが好ましい。
【0075】
顔料凝集剤の含有量は、公知の方法で測定することができる。たとえば、顔料凝集剤が多価金属塩であるときはICP発光分析で測定することができ、顔料凝集剤が有機酸であるときは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定することができ、顔料凝集剤がカチオンポリマーであるときはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定することができる。
【0076】
1-3.リン酸エステル化合物またはその塩
本発明の一実施の形態に係る前処理液は、一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物またはその塩を含む。
【0077】
【0078】
(式(1)中、Rは炭素数が1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、nは1または2である。)
【0079】
上記一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物またはその塩の例には、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、n-プロピルアシッドホスフェート、n-ブチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、n-オクチルアシッドホスフェートおよびそれらの塩が含まれる。
【0080】
上記リン酸エステル化合物またはその塩は、既知の技術を用いて合成してもよいし、市販品を用いてもよい。上記一般式(1)で表されるリン酸エステルおよびその塩の市販品の例には、PhoskexA-1、A-2、A-3、A-4、A-8、Phospair-16、37、41(いずれもSC有機化学株式会社製)などが含まれる。
【0081】
また、上記Rは炭素数が1~4の直鎖または分岐鎖のアルキル基であることがより好ましく、炭素数が1~3の直鎖または分岐鎖のアルキル基であることがさらに好ましい。Rの炭素数が1~4であると、上記リン酸エステル化合物またはその塩の分子量が小さくなるので、インクの付与時にリン酸エステル化合物が瞬時にインク中にも拡散できる。これにより、リン酸エステル化合物が架橋促進剤として作用することによる塗膜の耐水性の向上効果がより高めることができる。また、Rの炭素数が1~4であると、前処理液の保存安定性をより高めることができる。
【0082】
また、上記リン酸エステル化合物またはその塩は、塗膜形成時に塗膜の表面(インクジェットインクと接触する面)に極性基(ヒドロキシ基)を向けて配向するので、その表面に付与される水性のインクジェットインクの液滴の濡れ広がりを向上させる。とくに、上記炭素数が1~4の直鎖または分岐鎖のアルキル基であるリン酸エステル化合物またはその塩は低分子であるため、インクジェットインクの液滴の着弾時に瞬時に上記液滴中に拡散できる。これにより、濡れ性が向上するので、良好な画像品質を有する画像を得ることができる。
【0083】
上記リン酸エステル化合物またはその塩の含有量は、前処理液の全質量に対して、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上4.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上3.0質量%以下であることがさらに好ましい。上記リン酸エステル化合物またはその塩の含有量が、前処理液の全質量に対して、0.1質量%以上5.0質量%以下であると、前処理液中の水不溶性樹脂や凝集剤と反応して沈降するなどの予期せぬ副反応の進行を抑制できる。これにより、前処理液の保存安定性が向上する。
【0084】
1-4.界面活性剤
本発明の一実施の形態に係る前処理液は、界面活性剤を含むことが好ましい。上記界面活性剤の例には、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性、ベタイン界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤などが含まれる。
【0085】
1-5.水溶性有機溶媒
本発明の一実施の形態に係る前処理液は、水溶性有機溶媒を含むことが好ましい。上記水溶性有機溶媒としては、グリコール類およびアルカンジオール類を含むことがより好ましい。
【0086】
(グリコール類)
グリコール類の例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコールグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリブチロールプロパン、ペンタエリスリトール、およびソルビトールを含む多官能グリコールなどが含まれる。
【0087】
(アルカンジオール類)
アルカンジオール類の例には、1,2-ブタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジブチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどが含まれる。
【0088】
また、有機溶剤として、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、オクタノール、イソオクタノール、2-エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert-ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコール、1-メトキシ-1-プロパノール、3-メトキシ-1-ブタノール、シクロヘキシルアルコール、ベンジルアルコール、3-フェニルプロパノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコールグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリブチロールプロパン、ペンタエリスリトール、およびソルビトールを含む多官能グリコールメタノールなどを含むことができる。
【0089】
上記水溶性有機溶媒は、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0090】
上記水溶性有機溶媒の沸点は250℃以下であることが好ましく、230℃以下であることがより好ましい。上記水溶性有機溶媒の沸点が250℃以下であると、乾燥性が早いので高速印刷に対応しやすい。
【0091】
上記水溶性有機溶媒の含有量は、前処理液の全質量に対して、10.0質量%以上40.0質量%以下であることが好ましく、10.0質量%以上30.0質量%以下であることがより好ましい。水溶性有機溶媒の含有量が、前処理液の全質量に対して10.0質量%以上40.0質量%以下であることにより、低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体への前処理液の濡れ性を向上させることができる。
【0092】
1-6.水、その他の成分
本発明の一実施の形態に係る前処理液は、水を含む。上記水は、特に限定されるものではなく、イオン交換水、蒸留水、または純水であってもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、その他、架橋剤、防かび剤、殺菌剤等をさらに含むことができる。
【0093】
2.インクジェットインク
本発明の一実施の形態に係るインクジェットインクは、少なくとも架橋剤、顔料および水を含むことが好ましい。
【0094】
2-1.顔料
上記顔料は、形成すべき画像の色彩などに応じて、たとえば、黄顔料、赤またはマゼンタ顔料、青またはシアン顔料、緑顔料、黒顔料、および白色顔料から選択することができる。
【0095】
本発明に使用できる顔料としては、公知の有機および無機顔料を用いることができる。有機および無機顔料の例には、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリレン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサンジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロニ顔料等の多環式顔料、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキ、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料等の有機顔料、カーボンブラック等の無機顔料が含まれる。
【0096】
また、有機顔料および無機顔料の例には、カラーインデックスに記載される下記の顔料が含まれる。
【0097】
赤またはマゼンタ顔料の例には、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、PigmentViolet 3、19、23、29、30、37、50、および88、ならびにPigmentOrange 13、16、20、および36が含まれる。
【0098】
青またはシアン顔料の例には、Pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17-1、22、27、28、29、36、および60が含まれる。
【0099】
緑顔料の例には、Pigment Green 7、26、36、および50が含まれる。
【0100】
黄顔料の例には、Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94、95、97、108、109、110、137、138、139、153、154、155、157、166、167、168、180、185、および193が含まれる。
【0101】
黒顔料の例には、Pigment Black 7、26、および28が含まれる。
【0102】
白色顔料の例には、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン(ルチル型、アナターゼ型、ブルーカイト型)、酸化亜鉛、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、白色の中空樹脂粒子および高分子粒子が含まれる。
【0103】
また、上記顔料として、水に自己分散可能な顔料(自己分散顔料)を用いることができる。自己分散顔料とは、その表面に官能基として少なくともスルホン酸、スルホン酸塩、カルボン酸、またはカルボン酸塩を有する顔料であり、分散剤が存在しなくても水中で分散可能な顔料のことをいう。
【0104】
自己分散顔料としては、市販品を用いることができる。上記自己分散顔料の市販品の例には、CAB-O-JET200、300、400(キャボット社製、「CAB-O-JET」は同社の登録商標)、BONJETBLACK CW-1、CW-1S、CW-2(オリエント化学工業株式会社製、「BONJET」は同社の登録商標)などが含まれる。
【0105】
上記黄顔料、赤またはマゼンタ顔料、青またはシアン顔料、緑顔料、黒顔料の含有量は、インクジェットインクの全質量に対して0.1質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上10.0質量%未満であることがより好ましく、0.1質量%以上8.0質量%以下であることがさらに好ましい。上記顔料の含有量が、インクジェットインクの全質量に対して0.1質量%以上であると、得られる画像の発色が十分となる。顔料の含有量がインクの全質量に対して15.0質量%以下であると、インクの粘度が高まりすぎず、安定して記録媒体に射出することができる。
【0106】
また、上記白色顔料の含有量は、インクジェットインクの全質量に対して2.0質量%以上30.0質量%以下であることが好ましく、5.0質量%以上20.0質量%未満であることがより好ましく、6.0質量%以上15.0質量%以下であることがさらに好ましい。上記白色顔料を5質量%以上とすることで、十分に白い硬化膜(画像)を得ることができる。一方、上記白色顔料を30質量%以下とすることで、上記インクジェットインクを安定して吐出することができ、十分な隠蔽性を有する画像を形成することができる。
【0107】
2-2.顔料分散剤
本発明の一実施の形態に係るインクジェットインクは、顔料分散剤を含むことが好ましい。顔料分散剤を含むことにより、低吸収性記録媒体および非吸収性記録媒体への密着性が向上する。
【0108】
顔料分散剤の例には、高分子分散剤が含まれる。
【0109】
高分子分散剤の例には、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体から選ばれた2種類以上の単量体からなるブロック共重合体、ランダム共重合体およびこれらの塩、ポリオキシアルキレン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等が含まれる。
【0110】
顔料は、さらに必要に応じて分散助剤によって分散性を高められていてもよい。
【0111】
また顔料は、共重合樹脂を用いて分散してもよい。
【0112】
共重合樹脂の例には、スチレン-アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-マレイン酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-マレイン酸ハーフエステル共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体等のような水溶性樹脂が含まれる。
【0113】
顔料分散剤の含有量は、顔料の全質量に対して10.0質量%以上200.0質量%以下であることが好ましい。分散剤の含有量が顔料の全質量に対して10.0質量%以上であると、顔料の分散安定性が高まり、分散剤の含有量が顔料の全質量に対して200.0質量%以下であると、インクジェットヘッドからのインクの吐出性が安定しやすくなる。
【0114】
また、上記顔料は、上記顔料分散剤およびその他所望する目的に応じて必要な添加物と共に分散機により分散して用いることが好ましい。
【0115】
分散機の例には、従来公知のボールミル、サンドミル、ラインミル、高圧ホモジナイザー等が含まれる。上記分散機の中では、分散により製造されるインクジェットインクの粒度分布をシャープにする観点から、サンドミルによる分散が好ましい。
【0116】
また、サンドミルによる分散に使用するビーズの材質はビーズ破片やイオン成分のコンタミネーションの点から、ビーズ径が0.3~3mmのジルコニアまたはジルコンが好ましい。
【0117】
なお、分散後の顔料の粒子径測定は、動的光散乱法、電気泳動法等を用いた市販の粒径測定器などにより求めることができる。
【0118】
2-3.有機溶剤
本発明の一実施の形態に係るインクジェットインクは、有機溶剤を含むことが好ましい。上記有機溶剤としては、上述の前処理液に用いることができるグリコール類およびアルカンジオール類などを用いることができる。
【0119】
2-4.界面活性剤
本発明の一実施の形態に係るインクジェットインクは、界面活性剤を含むことができる。上記界面活性剤の例には、リン酸エステル化合物以外のアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性、ベタイン界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤などが含まれる。
【0120】
上記界面活性剤は、上記水性インクジェットインクの全質量に対して0.001質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.001質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましい。
【0121】
2-5.その他の成分
インクジェットインクは、pH調整剤、油滴微粒子、紫外線吸収剤、退色防止剤、蛍光増白剤、多糖類、粘度調整剤、比抵抗調整剤、皮膜形成剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防ばい剤、防錆剤などを含有してもよい。これらの成分は、1種類のみを単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。また、インクジェットインクに含まれる水については、特に限定されるものではなく、イオン交換水、蒸留水、または純水であってもよい。
【0122】
また、本発明の一実施の形態に係るインクジェットインクは、添加剤として、上述の前処理液に含まれる一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物またはその塩を含んでもよい。
【0123】
【0124】
(式(1)中、Rは炭素数が1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、nは1または2である。)
【0125】
また、本発明の一実施の形態に係るインクジェットインクは、架橋剤を含んでもよい。上記架橋剤の種類は、水性のインクジェットインクに用いることができれば、特に制限されないが、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキサゾリン化合物およびカルボジイミド化合物からなる群から選択されることが好ましい。なお、上記架橋剤は、既知の技術を用いて合成してもよいし、市販品を用いてもよい。
【0126】
3.記録媒体
本発明の一実施の形態において、使用できる記録媒体の種類は限定されず、吸収性記録媒体、低吸収性記録媒体、および非吸収性記録媒体に使用することができる。本発明では、低吸収性記録媒体および非吸収性記録媒体であることが好ましい。
【0127】
上記吸収性記録媒体の例には、薄紙から厚紙までの普通紙、中質紙、上質紙、再生紙が含まれる。
【0128】
本発明でいう低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体とは、下記に示す記録媒体面の水に対する濡れ性の測定結果に基づき定義する。
【0129】
すなわち、記録媒体の記録面に0.5μLの水滴を滴下し、接触角の低下率(着弾後0.5ミリ秒における接触角と5秒における接触角の比較)を測定することによって記録媒体の吸収性能の特徴付けを行う。より具体的には、記録媒体の性質としての、非吸収性記録媒体とは上記接触角の低下率が1.0%未満の特性を有する記録媒体のことであり、低吸収性記録媒体とは上記接触角の低下率が1.0%以上、5.0%未満の特性を有する記録媒体のことである。また、吸収性とは上記接触角の低下率が5.0%以上である記録媒体と定義する。接触角は、例えば、ポータブル接触角計「PCA-1」(協和界面科学株式会社製)を用いて測定することができる。
【0130】
上記低吸収性記録媒体の例には、アート紙、コート紙、キャストコート紙などの塗工された印刷用紙が含まれる。
【0131】
また、非吸収性記録媒体の例には、フィルムなどが含まれる。
【0132】
上記フィルムには、公知のプラスチックフィルムが含まれる。上記プラスチックフィルムの例には、ポリエステル(PET)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ナイロン(NY)フィルム、ポリスチレン(PS)フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム、ポリアクリル酸(PAA)フィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリアクリロニトリルフィルム、およびポリ乳酸フィルムなどの生分解性フィルムなどが含まれる。
【0133】
ガスバリアー性、防湿性および保香性などを付与するために、フィルムの片面または両面にポリ塩化ビニリデンがコートされていてもよいし、金属酸化物が蒸着されていてもよい。また、フィルムには防曇加工が施されていてもよい。また、フィルムにはコロナ放電およびオゾン処理などが施されていてもよい。
【0134】
また、上記フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよいし、紙などの吸収性の記録媒体の表面にPVAコートなどの層を設けて、記録をすべき領域を非吸収性とした、多層性の記録媒体でもよい。
【0135】
4.画像形成方法
本発明の一実施の形態に係る画像形成方法は、前述のインクジェットインクおよび前述の前処理液を含むインクジェット記録液セットを用いた画像形成方法である。具体的には、上記前処理液を、低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体の表面に付与する工程(以下、単に「前処理液付与工程」ともいう)と、上記付与された前処理液の表面に、インクジェットインクを付与する工程(以下、単に、「インク付与工程」ともいう)とを有する。
【0136】
4-1.前処理液付与工程
前処理液付与工程は、低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体の表面に前処理液を付与する工程である。
【0137】
上記前処理液は、前述した前処理液である。
【0138】
また、上記低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体への前処理液の付与方法は、特に限定されないが、例えば、ローラー塗布法、カーテン塗布法、スプレー塗布法、インクジェット法などがある。中でも、粘度が比較的高い場合であっても効率よく付与できる観点などから、ローラー塗布法が好ましい。なお、ローラー塗布法においては、ローラー塗布機などをインクジェット装置に連結して用いることができる。
【0139】
上記低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体の表面に付与される前処理液の厚みは、0.3μm以上3.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以上2.0μm以下であることがより好ましい。前処理液の厚みが0.3μm以上であると、インクの滲みを抑制しつつ、画像の密着性やラミネート強度を高めやすい。前処理液の厚みが3.0μm以下であると、水分や熱による変形応力を低減できるので、画像の密着性やラミネート強度が損なわれにくい。
【0140】
4-2.インク付与工程
インク付与工程は、前処理液が付与された表面に、インクジェット記録液セットのインクジェットインクを、インクジェット法により付与する工程である。
【0141】
上記インクジェットインクは、前述のインクジェットインクである。
【0142】
上記顔料は、公知の有機および無機顔料を用いることができる。また、水に自己分散可能な顔料(自己分散顔料)を用いることもできる。
【0143】
また、上記インクジェットインクは、上述の一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物またはその塩を含んでもよい。
【0144】
また、上記インクジェットインクは、架橋剤を含んでもよい。上記架橋剤は、水性のインクジェットインクに用いることができれば、特に制限されないが、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキサゾリン化合物およびカルボジイミド化合物からなる群から選択されることが好ましい。
【0145】
上記インクジェット法は、特に制限されず、インクを装填したインクジェットヘッドを備えるプリンタを用いることができる。具体的には、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドのノズルからインクを液滴として吐出させ、これを低吸収性記録媒体または非吸収性記録媒体の表面に付与された前処理液の表面に着弾させて印字を行うことができる。
【0146】
上記インクジェットヘッドは、オンデマンド方式およびコンティニュアス方式のいずれのインクジェットヘッドでもよい。オンデマンド方式のインクジェットヘッドの例には、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型およびシェアードウォール型を含む電気-機械変換方式、ならびにサーマルインクジェット型およびバブルジェット(「バブルジェット」はキヤノン株式会社の登録商標)型を含む電気-熱変換方式等が含まれる。
【0147】
上記インクジェットヘッドの中では、電気-機械変換方式に用いられる電気-機械変換素子として圧電素子を用いたインクジェットヘッド(ピエゾ型インクジェットヘッドともいう)であることが好ましい。
【0148】
また、インクジェットヘッドは、スキャン式およびライン式のいずれのインクジェットヘッドでもよいが、ライン式であることが好ましい。
【0149】
ライン式のインクジェットヘッドとは、印字範囲の幅以上の長さを持つインクジェットヘッドのことをいう。ライン式のインクジェットヘッドとしては、一つのヘッドで印字範囲の幅以上であるものを用いてもよいし、複数のヘッドを組み合わせて印字範囲の幅以上となるように構成してもよい。
【0150】
また、複数のヘッドを、互いのノズルが千鳥配列となるように並設して、これらヘッド全体としての解像度を高くしてもよい。
【0151】
記録媒体の搬送速度は、例えば、1~120m/minで設定することができる。搬送速度が速いほど画像形成速度が速まる。本発明によれば、シングルパスのインクジェット画像形成方法で適用可能な、線速50~120m/minという非常に速い線速でもインクの定着性の高く、良好な画像品質を有する画像を得ることができる。
【0152】
本発明の一実施の形態に係る画像形成方法は、上記インク付与工程の前に、前処理液を乾燥させる工程を有していてもよい。
【0153】
前処理液の乾燥は、前処理液の溶媒成分である水や水溶性有機溶媒などを除去しつつ、前処理液に含まれる樹脂粒子が完全には融着しないような条件で乾燥を行うことが好ましい。前処理液の乾燥温度は、例えば、50℃以上100℃以下としうる。前処理液の乾燥時間は、例えば、3秒以上30秒以下としうる。
【0154】
前処理液の乾燥は、例えば、乾燥炉や熱風送風機などのような非接触加熱型の乾燥装置を用いて行ってもよいし、ホットプレートや熱ローラーなどのような接触加熱型の乾燥装置を用いて行ってもよい。
【0155】
乾燥温度は、(a)乾燥炉や熱風送風機等のような非接触加熱型の乾燥装置を用いる場合には、炉内温度または熱風温度などのような雰囲気温度、(b)ホットプレートや熱ローラーなどのような接触加熱型の乾燥装置を用いる場合には、接触加熱部の温度、あるいは、(c)被乾燥面の表面温度から選ばれるいずれか1つを前処理液の乾燥の全期間において測定することで得ることができ、測定場所としては(c)被乾燥面の表面温度を測定することがより好ましい。
【0156】
本発明の一実施の形態に係る画像形成方法は、また、上記インク付与工程の後に前処理液の表面に付与されたインクを乾燥させる工程を有していてもよい。
【0157】
上記インクの乾燥は、主にインクの溶媒成分である水や有機溶媒などを除去する。インクの乾燥温度は、例えば、50℃以上100℃以下としうる。インクの乾燥時間は、例えば、3秒以上30秒以下としうる。
【0158】
上記インクの乾燥は、前述した前処理液の乾燥と同様の方法で行うことができる。また、インクの乾燥温度も、前述した前処理液の乾燥温度と同様に測定することができる。
【0159】
本発明の一実施の形態に係る画像形成方法は、ロール状に収納されるフィルムに対して行うことができる。
【0160】
なお、本発明の一実施の形態に係る画像形成方法を用いて形成された塗膜(画像)中に残存するカルボン酸およびリン酸エステル化合物は、例えば、X線光電子分光法(XPS)で確認することができる。
【0161】
本発明の一実施の形態に係る画像形成方法において形成される画像は、一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物またはその塩を含む前処理液を用いることによりインクジェットインクに含まれる顔料粒子、顔料分散剤などのイオン性部位と前処理液に含まれる水不溶性樹脂のイオン性部位との架橋反応を促進させるので、良好な耐水性を有する。
【0162】
5.画像形成装置
本発明に係る画像形成装置100は、
図1に示すように、インクジェット記録液セットのインクジェットインクの液滴を吐出して記録媒体110上の領域に着弾させるインクジェットヘッドを有するヘッドキャリッジ120、記録媒体110に前処理液を付与するための前処理液付与部130を有する。画像形成装置100は、記録媒体110の表面に付与された前処理液を乾燥させる乾燥器140および前処理液の表面に付与されたインクジェットインクを乾燥させる乾燥器150をさらに有していてもよい。
【0163】
図1では、記録媒体110の搬送方向(図中矢印方向)に沿って上流側から、前処理液付与部130、ヘッドキャリッジ120がこの順に配置されているが、これらの配置順はこの順番に限定されず、任意に設定できる。
【0164】
ただし、前処理液付与部130、ヘッドキャリッジ120はこの順に配置されることが好ましい。
【0165】
ヘッドキャリッジ120は、例えば、4つのインクジェットヘッド121を搭載しており、それぞれのインクジェットヘッド121が有するノズル122からは、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックのインクを吐出して記録媒体110のインクジェットインクの液滴を着弾させるべき領域に着弾させる。
【0166】
前処理液付与部130は、インクジェットインクの液滴が着弾される記録媒体110上の領域よりも広い領域に、前処理液を付与できる構成であればよい。たとえば、前処理液付与部130は、塗布ローラー131に前処理液を供給するディスペンサー132と、供給された前処理液をフィルム状に塗布する塗布ローラー131と、を含む構成とすることができる。
【0167】
なお、前処理液付与部130の構成はこれに限定されず、インクジェットヘッド121から前処理液をそれぞれ吐出して記録媒体110上に着弾させる構成であってもよい。
【0168】
乾燥器140および150は、熱風を吹き付ける温風ドライヤー、および赤外線または電離放射線を照射する照射器などの公知の乾燥器とすることができる。乾燥器140は、前処理液付与部130の下流かつヘッドキャリッジ120の上流に設けられて、インクジェットインクの液滴の吐出前に前処理液を乾燥させる。また、乾燥器150は、ヘッドキャリッジ120の下流に設けられて、インクジェットインクの液滴の吐出後に当該インクジェットインクを乾燥させる。
【実施例】
【0169】
本発明を以下の試験を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の試験に限定されない。
【0170】
1.インクジェットインクの調製
インクジェットインクの調製を以下のとおりに行った。
【0171】
1-1.顔料分散液の調製
18.0質量部の顔料(ピグメントブルー15:3)に、31.5質量部の顔料分散剤(水酸化ナトリウムで中和されたカルボキシ基を有するアクリル系分散剤(BASF社製「ジョンクリル819」、酸価75mgKOH/g、固形分20質量%)と、20.0質量部のエチレングリコールと、30.5質量部のイオン交換水とを加えた混合液をプレミックスした後、0.5mmのジルコニアビーズを体積率で50%充填したサンドグラインダーを用いて6時間分散して、顔料固形分が18.0%の顔料分散液を得た。
【0172】
1-2.インクジェットインクの調製
29.8質量部の上記顔料分散液を撹拌しながら、下記に示す各添加剤を順次添加してインク組成物を調製した後、0.8μmのフィルターで濾過してインクジェットインクを得た。濾過前後で実質的な組成変化はなかった。
顔料分散液 29.8質量部
エチレングリコール 15.0質量部
プロピレングリコール 10.0質量部
シリコーン系界面活性剤(KF-351A、信越化学工業製) 0.2質量部
イオン交換水 45.0質量部
【0173】
2.前処理液の調製
次に、前処理液の調製を以下のとおりに行った。
【0174】
2-1.前処理液1の調製
下記に示す各成分を撹拌しながら順次添加した後、5.0μmのフィルターにより濾過して前処理液1を得た。なお、濾過前後で、実質的な組成変化はなかった。
【0175】
水不溶性樹脂(A-1) 15.0質量部
プロピレングリコール(B-1) 10.0質量部
1,2-ヘキサンジオール(B-2) 10.0質量部
顔料凝集剤(C-1) 2.0質量部
添加剤(D-1) 0.05質量部
シリコーン系界面活性剤(E) 1.0質量部
イオン交換水 62.0質量部
【0176】
2-2.前処理液2~18の調製
表1および表2に、前処理液1および2~18の各成分の含有量(単位は質量部)を示す。
【0177】
また、表1および表2で示される各略号は次のとおりである。
【0178】
(水不溶性樹脂)
A-1:アクリル樹脂(SE-841A、大成ファインケミカル株式会社製)
A-2:ポリエステル樹脂(エリーテルKT-0507、ユニチカ株式会社製)
A-3:ウレタン樹脂(WBR-016U、大成ファインケミカル株式会社製)
A-4:ポリオレフィン樹脂(アローベース CB-1010、ユニチカ株式会社製、「アローベース」は同社の登録商標)
A-5:複合樹脂(アクリルウレタンエマルジョン、WEM-202C、大成ファインケミカル株式会社製)
A-6:複合樹脂(自己架橋型アクリルエマルジョン、UW-319SX、大成ファインケミカル株式会社製)
【0179】
(水溶性有機溶媒)
B-1:プロピレングリコール
B-2:1,2-ヘキサンジオール
【0180】
(顔料凝集剤)
C-1:カチオンポリマー(PAS-H-1L、ニットーボーメディカル株式会社製)
C-2:有機酸(グルタル酸)
C-3:多価金属塩(塩化カルシウム)
【0181】
(添加剤)
D-1:リン酸エステル化合物1(Phoslex A-8、2つのRの炭素数はいずれも8)
D-2:リン酸エステル化合物2(Phospair A-16、リン酸エステルのオレイルアミン塩、2つのRの炭素数はいずれも8)
D-3:リン酸エステル化合物3(Phospair A-37、リン酸エステルのココナッツアミン塩、2つのRの炭素数はいずれも8)
D-4:リン酸エステル化合物4(Phospair-41、リン酸エステルの牛脂アミン塩、2つのRの炭素数はいずれも8)
D-5:リン酸エステル化合物5(Phoslex A-1、2つのRの炭素数はいずれも1)
D-6:リン酸エステル化合物6(Phoslex A-2、2つのRの炭素数はいずれも2)
D-7:リン酸エステル化合物7(Phoslex A-3、2つのRの炭素数はいずれも3)
D-8:リン酸エステル化合物8(Phoslex A-4、2つのRの炭素数はいずれも4)
D-9:リン酸エステル化合物9(Phoslex A-12、2つのRの炭素数はいずれも12)
D-10:リン酸エステル型アニオン界面活性剤(ポリオキシプロピレンアルキルエーテルホスフェート塩)、ニューコール 1000-FCP、日本乳化剤株式会社製、「ニューコール」は同社の登録商標)
D-11:硫酸エステル化合物(アルスコープ NS-230、東邦化学工業株式会社製、「アルスコープ」は同社の登録商標)
【0182】
(界面活性剤)
E:シリコーン系界面活性剤(BYK-333、ビックケミー社製)
【0183】
なお、上記D-1~D-9のリン酸エステル化合物はいずれもSC有機化学株式会社製である。
【0184】
【0185】
【0186】
2-3.評価用の画像形成
評価用の画像1~18は、以下の方法で形成した。
【0187】
(前処理液の付与方法)
前処理液1~18をバーコーター#10を用いて、記録媒体(OPPフィルム(商品名:FOS、フタムラ株式会社製))上に付与し、その後60℃で5分間乾燥させ、厚さ3.2μmの前処理液を乾燥してなる塗膜を有する記録媒体を作製した。
【0188】
(画像形成方法)
調製した上記インクジェットインクを、ピエゾ型インクジェットノズルを備えたインクジェット記録ヘッドを有するインクジェット記録装置(コニカミノルタ株式会社製、360dpi、吐出量14pL)の独立駆動ヘッド二つをノズルが互い違いになるように配置し、720dpi×720dpiのヘッドモジュールを作成し、ステージ搬送機上に、搬送方向にノズル列が直交するように設置した。ヘッドモジュールのインクジェットに、上記インクジェットインクを充填し、ステージ搬送機によって搬送される基材表面に形成された樹脂層上にシングルパス方式でベタ画像を記録できるようにインクジェット記録装置を構成した。上記ヘッドを用いて、インク付量が11.2cc/m2である720dpi×720dpiのベタ画像が形成されるように、上記インクジェットインクの液滴を吐出した。
【0189】
3.評価
3-1.画像品質評価
(評価方法)
上記方法で作製した画像を目視にて評価を行った。なお、下記評価においては、△以上が実用上好ましいと判断した。
【0190】
(評価基準)
◎:インクの濡れ性が非常に良好で、濃度ムラがなく均一な画像で、インクの抜けが観察されない良好な画像
○:インクの濡れ性が良好で、濃淡が異なる箇所があるが、インクの抜けが観察されない実用上許容可能な画像
△:インクの濡れ性がわずかに足りず、インクの抜け落ちている箇所があり、僅かに白抜けが発生している画像
×:インクの濡れ性が十分でなく、画像中にインクが抜け落ちている箇所が多く存在し、白抜けが目立つ画像
【0191】
3-2.前処理液の保存安定性評価
(評価方法)
60℃で、1週間保存後の前処理液1~18中の樹脂粒子の平均粒径を、粒径測定器:マルバルーン社製「ゼータサイザー1000HS」を用いて測定し、下記式より粒径増加率を求め、下記基準により評価した。なお、数値が100%に近い方が、保存安定性が良好である。
【0192】
(評価基準)
評価は下記基準で行った。なお、下記評価においては、△以上が実用上好ましいと判断した。
◎:平均粒径の増加率が130%未満
○:平均粒径の増加率が130%以上140%未満
△:平均粒径の増加率が140%以上150%未満
×:平均粒径の増加率が150%以上
【0193】
粒径増加率は以下の式で求めた。なお、保存後の平均粒径は60℃で1週間保存後の粒径である。
粒径増加率(%)=(保存後の平均粒径/保存前の平均粒径)×100
【0194】
3-3.基材密着性評価
(評価方法)
上記記録方法で作成したベタ画像に1mm間隔で5×5の碁盤目状にカッターで切れ込みを入れ、クロスカット法によるテープ剥離試験を行った。
【0195】
(評価基準)
評価は下記基準で行った。なお、下記評価においては、△以上が実用上好ましいと判断した。
◎:テープによる剥がれがない
○:碁盤目状の切れ込み1マス以上3マス未満の剥がれはあるが実用上許容できるレベル
△:碁盤目状の切れ込み3マス以上6マス未満の剥がれはあるが良好なレベル
×:碁盤目状の切れ込み6マス以上の剥がれがあり実用上許容できないレベル
【0196】
3-4.耐水性評価
(評価方法)
上記インクジェットインクおよび前処理液1~18を用いて形成した画像1~18を40℃で3日保管したのち、ベタ部分が切断端面となるようにして10cm×1cmの短冊状に切断して試験片とした。試験片を熱水30分処理し、処理後の試験片の様子を目視で確認した。
【0197】
(評価基準)
評価は下記基準で行った。なお、下記評価においては、△以上が実用上好ましいと判断した。
◎:試験片に全く剥がれがない
○:試験片に一部剥がれが生じているが、大きな剥がれはない
△:試験片に大きな剥がれが生じている
×:試験片フィルムから画像部分が全て剥がれ落ちている
【0198】
上記各種評価の結果を表3および表4に示す。
【0199】
【0200】
【0201】
表3および表4に示されるように、前処理液に、リン酸エステル化合物またはその塩を含有することにより良好な画像品質を有する画像を得ることができることがわかった。これは、上記リン酸エステル化合物またはその塩は、極性基を有しており、前処理液に含有して上記記録媒体の表面に付与すると、上記極性基は水性インクの付与される面に対して配向し得る。これにより、水性インクの液滴が適度に濡れ広がるためであると考えられる。また、上記リン酸エステル化合物またはその塩は、前処理液に含まれる顔料凝集剤と反応して沈降するなどの予期せぬ副反応が生じにくいため、インクの液滴は、前処理液の表面に適度に濡れ広がった状態で顔料凝集剤と反応してピニングされる。これにより、水性インクの液滴の色滲みを抑制されるためであると考えられる。
【0202】
また、上記リン酸エステル化合物またはその塩を含む前処理液は、保存安定性に優れていることがわかった。これは、前処理液の顔料凝集剤だけでなく、前処理液に含まれる水不溶性樹脂とも反応しにくいためであると考えられる。
【0203】
また、一般式(1)で表されるリン酸エステル化合物またはその塩を0.1質量%以上5.0質量%以下とすることにより、前処理液の保存安定性が向上することがわかった。これは、リン酸エステル化合物またはその塩の含有量を0.1質量%以上5.0質量%以下とすることにより、前処理液中の水不溶性樹脂や凝集剤と反応して沈降するなどの予期せぬ副反応の進行を抑制できるためであると考えられる。
【0204】
また、水不溶性樹脂として複合樹脂を含むことにより、低吸収性および非吸収性記録媒体の両方の記録媒体に対して高い密着性を有し、良好な画像品質を有する画像を得られることがわかった。これは、コア部として疎水性の樹脂を含み、シェル部として親水性の樹脂を含むことにより、極性の低い非吸収性記録媒体の表面が親水性よりになるので、付与された水性インクの液滴を適度に濡れ広がらせることができ、また、疎水性樹脂が極性の低い非吸収性記録媒体に密着し得るためであると考えられる。
【0205】
また、リン酸エステル化合物またはその塩を含む前処理液は、形成される塗膜(画像)の耐水性を向上させることがわかった。これは、親水性であるリン酸エステル化合物またはその塩は、水性インクおよび水性の前処理液に相溶して、塗膜(画像)中の顔料または顔料分散剤由来のなどのイオン性部位(カルボキシ基)と、水不溶性樹脂のイオン性部位(親水性基)との架橋反応を促進させることができるためであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0206】
本発明のインクジェット記録液セットによれば、インクジェット法による印刷の適用の幅を広げ、同分野の技術の進展および普及に貢献することが期待される。
【符号の説明】
【0207】
100 画像形成装置
110 記録媒体
120 ヘッドキャリッジ
121 インクジェットヘッド
122 ノズル
130 前処理液付与部
131 塗布ローラー
132 ディスペンサー
140、150 乾燥器