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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】パターン膜及びその形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20240730BHJP
   G03F 7/26 20060101ALI20240730BHJP
   G03F 7/11 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
G03F7/26 521
G03F7/11 502
G03F7/11 503
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020119157
(22)【出願日】2020-07-10
(65)【公開番号】P2022015953
(43)【公開日】2022-01-21
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 喜己
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-115832(JP,A)
【文献】特開2014-072315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
B29C 71/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に第1膜を設けることと、
前記第1膜上に、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体を含む分散粒子と、前記活性エネルギー線の照射により硬化しない第2液体を含む分散媒とを含むエマルジョンからなる第2膜を形成することと、
前記第2膜の少なくとも一部の領域に前記活性エネルギー線を照射することなしに、前記第2膜の他の少なくとも一部の領域に前記活性エネルギー線を照射して、前記活性エネルギー線を照射した領域で前記第1液体を硬化させることと、
前記活性エネルギー線の照射後に、前記第2膜を乾燥させることにより前記第2膜から前記第2液体の少なくとも一部を除去するとともに、前記第1膜の材料の少なくとも一部を、前記第2膜が含んでいる未硬化の前記第1液体に溶解させることと、
前記第1膜の前記材料の少なくとも一部を溶解させた未硬化の前記第1液体を硬化させることと
を含むパターン膜の形成方法。
【請求項2】
前記材料は熱可塑性樹脂を含み、前記第2膜が含んでいる未硬化の前記第1液体には、加熱して流動化させた前記材料の少なくとも一部を溶解させる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
基材上に第1膜を設けることと、
前記第1膜上に、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体を含む分散粒子と、前記活性エネルギー線の照射により硬化しない第2液体を含む分散媒とを含むエマルジョンからなる第2膜を形成することと、
前記第2膜の少なくとも一部の領域に前記活性エネルギー線を照射することなしに、前記第2膜の他の少なくとも一部の領域に前記活性エネルギー線を照射して、前記活性エネルギー線を照射した領域に、前記分散粒子の硬化物からなる粒状層を形成することと、
前記活性エネルギー線の照射後に、前記第2膜を乾燥させることにより前記第2膜から前記第2液体の少なくとも一部を除去して、前記活性エネルギー線を照射していない領域における未硬化の前記第1液体の少なくとも一部を前記粒状層中へと移動させるとともに、前記第1膜の材料の少なくとも一部を、流動化させるか、未硬化の前記第1液体に溶解させるか、又は、流動化させ且つ未硬化の前記第1液体に溶解させて、前記第1膜の材料の少なくとも一部を前記粒状層へと移動させることと、
その後、未硬化の前記第1液体を硬化させることと
を含むパターン膜の形成方法。
【請求項4】
前記材料は熱可塑性樹脂を含み、前記粒状層には、加熱して流動化させた前記材料の少なくとも一部を移動させる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第1膜は前記基材の一部の領域上にのみ設け、前記第2膜は前記第1膜の少なくとも一部の上と前記基材の他の一部の領域上とに形成し、前記活性エネルギー線は、前記第2膜のうち前記第1膜上に位置した領域の少なくとも一部と、前記第2膜のうち前記第1膜上に位置していない領域の少なくとも一部とに照射する請求項1乃至4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記材料は、活性エネルギー線の照射により硬化する樹脂を含み、前記第2膜を形成する前に、この活性エネルギー線を前記第1膜へパターン状に照射して、前記活性エネルギー線を照射した領域で前記樹脂を硬化させることを更に含んだ請求項1又は3に記載の方法。
【請求項7】
前記エマルジョンは水中油型エマルジョンである請求項1乃至6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の方法により形成されるパターン膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターン膜に関する。
【背景技術】
【0002】
パターン膜の形成方法として、紫外線や電子線などの活性エネルギー線の照射を利用する方法やブロック共重合体などの自己組織化材料を用いる方法など様々な方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-260330号公報
【文献】特開2016-197176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、簡便な方法でパターン膜の形成を可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1側面によると、基材上に第1膜を設けることと、前記第1膜上に、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体を含む分散粒子と、前記活性エネルギー線の照射により硬化しない第2液体を含む分散媒とを含むエマルジョンからなる第2膜を形成することと、前記第2膜の少なくとも一部の領域に前記活性エネルギー線を照射することなしに、前記第2膜の他の少なくとも一部の領域に前記活性エネルギー線を照射して、前記活性エネルギー線を照射した領域で前記第1液体を硬化させることと、前記活性エネルギー線の照射後に、前記第2膜を乾燥させることにより前記第2膜から前記第2液体の少なくとも一部を除去するとともに、前記第1膜の材料の少なくとも一部を、前記第2膜が含んでいる未硬化の前記第1液体に溶解させることと、前記第1膜の前記材料の少なくとも一部を溶解させた未硬化の前記第1液体を硬化させることとを含むパターン膜の形成方法が提供される。
【0006】
本発明の第2側面によると、基材上に第1膜を設けることと、前記第1膜上に、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体を含む分散粒子と、前記活性エネルギー線の照射により硬化しない第2液体を含む分散媒とを含むエマルジョンからなる第2膜を形成することと、前記第2膜の少なくとも一部の領域に前記活性エネルギー線を照射することなしに、前記第2膜の他の少なくとも一部の領域に前記活性エネルギー線を照射して、前記活性エネルギー線を照射した領域に、前記分散粒子の硬化物からなる粒状層を形成することと、前記活性エネルギー線の照射後に、前記第2膜を乾燥させることにより前記第2膜から前記第2液体の少なくとも一部を除去して、前記活性エネルギー線を照射していない領域における未硬化の前記第1液体の少なくとも一部を前記粒状層中へと移動させるとともに、前記第1膜の材料の少なくとも一部を、流動化させるか、未硬化の前記第1液体に溶解させるか、又は、流動化させ且つ未硬化の前記第1液体に溶解させて、前記第1膜の材料の少なくとも一部を前記粒状層へと移動させることと、その後、未硬化の前記第1液体を硬化させることとを含むパターン膜の形成方法が提供される。
【0007】
本発明の第3側面によると、第1又は第2側面に係る方法により形成されるパターン膜が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡便な方法でパターン膜の形成を可能にする技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係るパターン膜の形成方法における第1膜の形成工程を概略的に示す断面図。
図2】本発明の第1実施形態に係るパターン膜の形成方法における第2膜の形成工程を概略的に示す断面図。
図3】本発明の第1実施形態に係るパターン膜の形成方法における活性エネルギー線の照射工程を概略的に示す断面図。
図4】本発明の第1実施形態に係るパターン膜の形成方法における第2液体の除去工程を概略的に示す断面図。
図5】本発明の第1実施形態に係るパターン膜の形成方法における第2液体の除去工程後に得られる構造を概略的に示す断面図。
図6】本発明の第1実施形態に係るパターン膜の形成方法における定着工程を概略的に示す断面図。
図7】本発明の第2実施形態に係るパターン膜の形成方法における第1膜の形成工程を概略的に示す断面図。
図8】本発明の第2実施形態に係るパターン膜の形成方法における第2膜の形成工程を概略的に示す断面図。
図9】本発明の第2実施形態に係るパターン膜の形成方法における活性エネルギー線の照射工程を概略的に示す断面図。
図10】本発明の第2実施形態に係るパターン膜の形成方法における第2液体の除去工程を概略的に示す断面図。
図11】本発明の第2実施形態に係るパターン膜の形成方法における第2液体の除去工程後に得られる構造を概略的に示す断面図。
図12】本発明の第2実施形態に係るパターン膜の形成方法における定着工程を概略的に示す断面図。
図13】本発明の第3実施形態に係るパターン膜の形成方法における第1膜の形成工程を概略的に示す断面図。
図14】本発明の第3実施形態に係るパターン膜の形成方法における第1活性エネルギー線の照射工程を概略的に示す断面図。
図15】本発明の第3実施形態に係るパターン膜の形成方法における第2膜の形成工程を概略的に示す断面図。
図16】本発明の第3実施形態に係るパターン膜の形成方法における第2活性エネルギー線の照射工程を概略的に示す断面図。
図17】本発明の第3実施形態に係るパターン膜の形成方法における第2液体の除去工程を概略的に示す断面図。
図18】本発明の第3実施形態に係るパターン膜の形成方法における第2液体の除去工程後に得られる構造を概略的に示す断面図。
図19】本発明の第3実施形態に係るパターン膜の形成方法における定着工程を概略的に示す断面図。
図20】エマルジョンの粒度分布を示すグラフ。
図21】試験1で得られたパターン膜の写真。
図22図21のパターン膜を拡大して示す写真。
図23】試験2のパターン膜形成方法における第1膜形成工程を示す写真。
図24】試験2のパターン膜形成方法における第2膜形成工程を示す写真。
図25】試験2のパターン膜形成方法におけるエネルギー線照射工程を示す写真。
図26】試験2のパターン膜形成方法における乾燥工程開始から5分経過後の膜構造を示す写真。
図27】試験2のパターン膜形成方法における乾燥工程開始から20分経過後の膜構造を示す写真。
図28】試験2のパターン膜形成方法における乾燥工程開始から30分経過後の膜構造を示す写真。
図29】試験2のパターン膜形成方法における乾燥工程開始から35分経過後の膜構造を示す写真。
図30】試験2のパターン膜形成方法における乾燥工程開始から40分経過後の膜構造を示す写真。
図31】試験2のパターン膜形成方法における乾燥工程開始から60分経過後の膜構造を示す写真。
図32】試験2のパターン膜形成方法における定着工程後の膜構造を示す写真。
図33】試験3のパターン膜形成方法における第1エネルギー線照射工程を示す写真。
図34】試験3のパターン膜形成方法において形成した液溜めセルを示す写真。
図35】試験3のパターン膜形成方法における第2エネルギー線照射工程を示す写真。
図36】試験3のパターン膜形成方法における乾燥工程開始直後の膜構造を示す写真。
図37】試験3のパターン膜形成方法における乾燥工程開始から15分経過後の膜構造を示す写真。
図38】試験3のパターン膜形成方法における乾燥工程開始から20分経過後の膜構造を示す写真。
図39】試験3のパターン膜形成方法における乾燥工程開始から25分経過後の膜構造を示す写真。
図40】試験3のパターン膜形成方法における乾燥工程開始から30分経過後の膜構造を示す写真。
図41】試験3のパターン膜形成方法における乾燥工程開始から40分経過後の膜構造を示す写真。
図42】試験3のパターン膜形成方法における乾燥工程開始から60分経過後の膜構造を示す写真。
図43】試験3のパターン膜形成方法における乾燥工程開始から120分経過後の膜構造を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
[第1実施形態]
以下、第1実施形態に係るパターン膜の形成方法について、工程順に説明する。各工程の理解を助けるために、各工程における膜の状態の一例を図1乃至図6に示し、これら図面を以下の説明で参照する。
【0012】
<第1膜の形成>
先ず、基材を準備する。基材としては、任意の基材を使用することができ、例えばフィルムやシートなどを使用することができる。
【0013】
次に、基材上に第1膜を設ける。第1膜は、主に非流動性の膜である。
【0014】
第1膜の材料は、例えば、第2液体の除去工程までは第1液体に溶解しないか、又は、第2液体の除去工程までは流動性を示さない材料である。第1膜の材料は、例えば、第2液体と比較して、第1液体に対してより高い溶解度を示す。一例によれば、第1膜の材料は熱可塑性樹脂である。他の例によれば、第1膜の材料は熱硬化性樹脂である。第1膜の材料は、1以上の低分子化合物であってもよい。
【0015】
第1膜の材料は、上記の樹脂に加え、その中に溶解又は分散した1以上の添加剤を更に含んでいてもよい。そのような添加剤としては、例えば、染料、顔料、金属粒子、及び磁性粒子が挙げられる。
【0016】
第1膜の材料に添加剤を含有させる場合、第1膜の材料に占める添加剤の割合は、0.01乃至80質量%の範囲内にあることが好ましく、0.1乃至70質量%の範囲内にあることがより好ましい。
【0017】
第1膜は、例えば、塗布又は印刷により基材上に形成することができる。或いは、塗布又は印刷により支持体上に第1膜を形成し、支持体から基材上へ第1膜を転写してもよい。なお、塗布又は印刷により形成した膜は、必要に応じて乾燥させる。
【0018】
第1膜の厚みは、一例によれば0.5乃至50μmの範囲内にあり、他の例によれば1.0乃至20μmの範囲内にある。
【0019】
図1は、第1膜が基材上に形成された状態の一例を概略的に示している。図1において、基材1の上には、連続膜としての第1膜2が形成されている。
【0020】
<エマルジョンの調製>
基材上に第1膜を設けた後、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体を含む分散粒子と、活性エネルギー線の照射により硬化しない第2液体を含む分散媒とを含むエマルジョンを調製する。このエマルジョンの調製は、基材上に第1膜を設ける前に行ってもよく、基材上に第1膜を設けるのと並行して行ってもよい。
【0021】
エマルジョンは、水中油型(O/W型)エマルジョンであってもよいし、油中水型(W/O型)エマルジョンであってもよい。
【0022】
分散粒子は、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体を含む。活性エネルギー線としては、例えば、紫外線、電子線、及びX線が挙げられる。第1液体としては、例えば、アクリル系モノマー若しくはオリゴマー、メタクリル系モノマー若しくはオリゴマー、エポキシ系モノマー若しくはオリゴマー、又はそれらの1以上を含んだ混合物を用いることができる。第1液体としては、選択肢が広いことや物性調整の自由度が大きいことなどの利点から、アクリル系モノマー若しくはオリゴマー、又は、メタクリル系モノマー若しくはオリゴマーを用いることが好適である。第1液体としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレートなどを用いることができる。第1液体中にモノマー及びオリゴマーが占める割合は、例えば30乃至100質量%である。
【0023】
なお、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体は、親油性であるもののほうが、親水性であるものよりも種類が多い。従って、O/W型エマルジョンのほうが、W/O型エマルジョンよりも材料選択の自由度が高い。
【0024】
分散媒は、活性エネルギー線の照射により硬化しない第2液体を含む。第1液体が親油性である場合、第2液体は、親水性液体、例えば水、メタノールやエタノールなどの低級アルコール、又はそれらの混合物とすることができる。他方、第1液体が親水性液体である場合、第2液体は、親油性液体、例えばイソパラフィン系溶剤やミネラルスピリットなどとすることができる。
【0025】
形成すべきパターンサイズにも依存するが、第1分散粒子は、0.5μm乃至0.5mmの平均粒径を有することが好ましい。ここで、「平均粒径」は、レーザー回折・散乱法に従った粒度分布測定によって得られる重量平均径である。第1分散粒子が上記サイズを有すると、後の工程で、未硬化の第1液体等を粒子間の隙間へ効率良く浸透させることができる。
【0026】
エマルジョン中に分散粒子が占める割合は、好ましくは25質量%以上である。分散粒子がエマルジョン中で上記割合を占めると、活性エネルギー線を照射した領域の温度を、重合熱を有効に利用して上昇させることによって、第1液体を含む分散粒子の分散状態を不安定化させると同時に凝集層を形成させることができる。エマルジョン中に分散粒子が占める割合の上限は、エマルジョンの転相が生じない範囲であればよく、特に限定するものではない。一例によれば、この割合は70質量%以下である。
【0027】
第1液体は、光重合開始剤を更に含んでいてもよい。光重合開始剤としては、公知の光重合開始剤、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤を用いることができる。アルキルフェノン系光重合開始剤としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンが挙げられる。第1液体は、光重合開始剤を、モノマー及びオリゴマーの合計量100質量部に対して、例えば0.1乃至10質量部の量で含むことができる。
【0028】
エマルジョンが例えばO/W型である場合、分散粒子は、第1液体に加えて、ハイドロホーブを含んでいてもよい。ハイドロホーブとしては、例えば、セチルアルコールなど水への溶解性が低い高級アルコール、ヘキサデカン、炭化水素鎖の分子量が比較的大きいラウリルメタクリレートやステアリルメタクリレートなどの重合性モノマー、疎水性色素、ポリメチルメタクリレートやポリスチレンなどの高分子等が挙げられる。ハイドロホーブは、第1エマルジョンを安定化する役割を果たす。ハイドロホーブは、100質量部の第1液体に対して、例えば0.1乃至10質量部の量で含むことができる。
【0029】
分散媒は、界面活性剤を更に含んでいてもよい。界面活性剤としては、例えば、乳化重合の用途で市販されているものを使用することができる。界面活性剤としては、例えば、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムなどのスルホサクシネート型界面活性剤を使用することができる。エマルジョンは、界面活性剤を、エマルジョンの総質量に対して、例えば0.1乃至5.0質量%の量で含むことができる。
【0030】
エマルジョンがO/W型エマルジョンである場合、エマルジョン化と分散粒子の安定性とを確保するために、分散媒は、界面活性剤を含むことが一般的である。また、このO/W型エマルジョンは、エマルジョンの長期保存安定性を改善するために、分散媒中に水溶性の高分子やセルロースナノファイバ等を含むこともできる。更に必要に応じて、このO/W型エマルジョンは、分散媒中に粘度調整剤や消泡剤を含むこともできる。
【0031】
一方、エマルジョンがW/O型エマルジョンである場合、安定なエマルジョンを調製するために、分散媒は、適した親水親油バランス(HLB)価を有するノニオン系界面活性剤や高分子系の分散安定剤を含むことができる。必要に応じて、このW/O型エマルジョンは、分散媒中にイオン性の界面活性剤を含むこともできる。
【0032】
エマルジョンは、公知の乳化・分散技術、例えば、ペイントシェイカ、超音波ホモジナイザ、コロイドミル、ホモジナイザ、及び膜乳化法などを利用することで調製することができる。
【0033】
<第2膜の形成>
次に、上記エマルジョンからなる第2膜を第1膜上に形成する。以下、「エマルジョンからなる第2膜」を液膜ともいう。具体的には、上記エマルジョンを第1膜上に塗布することにより、液膜を第1膜上に形成することができる。
【0034】
塗布方法は、特に限定されないが、液膜の厚みに応じて適切な塗布方法、例えば、ダイコート、コンマコート、又はカーテンコートを選択することができる。液膜の厚みは、例えば10乃至3000μmとすることができる。また、少量のエマルジョンを塗布して小さい面積の液膜を形成する場合には、必要に応じてディスペンサなどを利用することもできる。
【0035】
図2は、エマルジョンからなる第2膜が第1膜上に形成された状態の一例を概略的に示している。図2において、第1膜2の上には、分散粒子31と分散媒32とから構成されるエマルジョンからなる第2膜3が形成されている。
【0036】
<活性エネルギー線の照射>
次に、第2膜に活性エネルギー線をパターン状に照射する。活性エネルギー線としては、上記の通り、例えば、紫外線、電子線、X線などが挙げられる。パターン照射は、例えば、マスクなどを介して活性エネルギー線を場所選択的に照射することや、レーザー光を位置選択的に照射することにより実施することができる。
【0037】
活性エネルギー線の照射により、第2膜のうち活性エネルギー線が照射された領域(以下、照射領域ともいう)では、分散粒子に含まれる第1液体が重合により硬化する。これにより、分散粒子の硬化物からなる多孔質層を形成することができる。
【0038】
図3は、紫外線のパターン照射により、紫外線を照射した領域に、分散粒子の硬化物からなる粒状層が形成された状態の一例を概略的に示している。図3に示すように、例えば、マスク5を用いて紫外線のパターン露光を行った場合、紫外線が照射された領域では、分散粒子31に含まれる第1液体が重合により硬化して、分散粒子31は硬化物粒子41になる。これら硬化物粒子41は凝集して積層し、結果として、硬化物粒子41からなる粒状層4aが形成される。紫外線が照射された領域において、分散媒32に含まれる第2液体は硬化しないため、分散媒32は粒状層4a内に、具体的には、硬化物粒子41間の隙間に存在する。一方、図3において、紫外線が照射されなかった領域(以下、非照射領域ともいう)において、分散粒子31に含まれる第1液体は未硬化のままである。
【0039】
照射領域における硬化物粒子41の凝集メカニズムについて、本発明者は、この理由を以下のように考えている。
【0040】
活性エネルギー線の照射により、分散粒子31は重合発熱し、これにより照射領域の温度が上昇する。この温度上昇により、分散粒子31表面に吸着して分散粒子31を分散安定化させていた界面活性剤が脱着する。これにより、重合が進行した分散粒子31の表面電位が低下する。その結果、分散粒子31又はその硬化物粒子41の分散が不安定となり、粒子の凝集が促進される。また、粒子が凝集し、粒子同士が接触する過程において、粒子間で重合架橋を生じる可能性もある。
【0041】
また、この凝集は、重合発熱による温度上昇によって脱離した界面活性剤が粒子に再吸着する前に完了する。これにより、凝集した粒子は、再分散されずにその凝集状態を維持する。
【0042】
照射領域における硬化物粒子41の凝集は、予め分散媒中に架橋剤を配合しておくことで促進してもよい。こうすると、活性エネルギー線照射時に、粒子間での架橋形成を生じ易くなり、その結果、粒子の凝集が促進される。
【0043】
<第2液体の除去>
活性エネルギー線の照射後に、第2膜から第2液体の少なくとも一部を除去する。この工程では、第2液体の少なくとも一部を除去すればよいが、第2液体の全てを除去してもよい。第2液体の除去は、例えば、第2膜を乾燥させることにより実施することができる。乾燥は、第2液体が、第2液膜を形成した直後の第2液体の量の30質量%以下の量になるまで行うことが好ましく、5質量%以下の量になるまで行うことがより好ましい。第2液体の除去は、第2膜を室温に放置することにより実施してもよいが、第2膜を加熱乾燥させることにより実施することが好ましい。加熱乾燥は、例えば、第2膜を40乃至100℃の範囲内の温度で0.1乃至1時間に亘って加熱することにより行うことができる。
【0044】
この工程では、第2液体を除去して、未硬化の第1液体を含んだ分散粒子の合一を進行させ。そして、未硬化の第1液体の少なくとも一部を、非照射領域から分散粒子の硬化物からなる粒状層へと移動させる。非照射領域から粒状層への未硬化の第1液体の移動は、その全てが粒状層へと移動するように行ってもよく、その一部のみが粒状層へ移動するように行ってもよい。
【0045】
更に、この工程では、第1膜の材料の少なくとも一部を、流動化させるか、未硬化の第1液体に溶解させるか、又は、流動化させ且つ未硬化の第1液体に溶解させて、粒状層へと移動させる。第1膜の材料の粒状層への移動は、その全てが粒状層へと移動するように行ってもよく、その一部のみが粒状層へ移動するように行ってもよい。
【0046】
例えば、第1膜の材料が熱可塑性樹脂であり、この熱可塑性樹脂の軟化点以上の温度での加熱乾燥によって第2液体を除去する場合、第2液体の除去に伴って、未硬化の第1液体を含んだ分散粒子の合一が進行するのに加え、第1膜の材料が軟化(流動化)する。未硬化の第1液体の少なくとも一部と、軟化した第1膜の材料の少なくとも一部とは、少なくとも部分的に混ざり合うか又は混ざり合うことなしに、粒状層によって吸収される。
【0047】
或いは、第1膜の材料が熱硬化性樹脂であり、この熱硬化性樹脂が硬化しない温度で第2液体の除去を行う場合、第2液体の除去に伴って、未硬化の第1液体を含んだ分散粒子の合一が進行すると、熱硬化性樹脂の少なくとも一部は、未硬化の第1液体の少なくとも一部と混ざり合う。そして、熱硬化性樹脂と混ざり合った未硬化の第1液体の少なくとも一部と、熱硬化性樹脂と混ざり合っていない未硬化の第1液体の少なくとも一部とは、粒状層によって吸収される。
【0048】
なお、この方法では、活性エネルギー線の照射後に、現像工程、即ち、未硬化の第1液体の現像液を用いた除去は行う必要はない。
【0049】
図4及び図5は、第2液体の除去により起こる第1膜及び第2膜の状態変化の一例を概略的に示している。図4は、第2膜からの第2液体の除去を開始することにより、非照射領域において分散粒子の合一が起こった状態の一例を概略的に示している。図5は、分散粒子の合一体を構成している第1液体が、第1膜の材料と混ざり合い、それらの混合物が、分散粒子の硬化物からなる粒状層に浸透した状態の一例を概略的に示している。
【0050】
分散媒32に含まれる第2液体の一部を第2膜3から除去すると、図4に示すように、照射領域では、粒状層4a内の粒子間の隙間を満たしていた第2液体が減少し、非照射領域では、第2液体が減少するとともに、分散粒子31の合一が起こる。第2液体が減少すると、例えば、第1膜2の材料と未硬化の第1液体との接触面積が増加することなどに起因して、第1膜2の材料は、未硬化の第1液体に溶解する。そして、図5に示すように、第1膜2の材料と未硬化の第1液体との混合物4bは、粒状層4a内の隙間へ浸透して、粒状層4a内へ拡散する。この浸透及び拡散は、毛細管力により進行すると考えられる。
【0051】
<パターンの定着>
最後に、第2液体を除去した膜が含んでいる未硬化物を硬化させる。例えば、第1膜の材料が熱可塑性樹脂である場合は、そのガラス転移点よりも低い温度へ冷却するとともに、活性エネルギー線を膜全体に照射する。或いは、第1膜の材料が熱硬化性樹脂である場合は、その硬化温度以上の温度へ加熱するとともに、活性エネルギー線を膜全体に照射する。或いは、活性エネルギー線を膜全体に照射するだけでもよい。また、第1膜の材料が熱硬化性樹脂であり、第1液体が加熱によって硬化する場合は、それらの双方が硬化する温度に膜を加熱する。このようにして、パターン膜が形成される。
【0052】
図6は、第1膜の材料が熱可塑性樹脂である場合に、冷却と紫外線の全面照射との組み合わせ又は紫外線の全面照射のみにより、未硬化物を硬化させた状態の一例を概略的に示している。熱可塑性樹脂は冷却により固化し、未硬化の第1液体は、紫外線を膜全体に照射すると、重合により硬化する。その結果、硬化物相4cが形成される。また、粒状層4aを構成している硬化物粒子41では、紫外線照射により更なる重合が進行する。
【0053】
これにより、粒状層4aと、その隙間を少なくとも部分的に埋め込んだ硬化物である硬化物相4cとを備えたパターン膜が得られる。
【0054】
なお、未硬化物の硬化は、非照射領域に存在している未硬化の第1液体や第1膜の材料の全てが、この領域から粒状層へと移動した後に行うことができる。或いは、未硬化物の硬化は、非照射領域に存在している未硬化の第1液体や第1膜の材料の一部のみが、この領域から粒状層へと移動したときに行うこともできる。例えば、第1膜の材料を硬化させるための冷却及び加熱などの処理と、活性エネルギー線の膜全体への照射とを、膜から第2液体を完全に除去する前(即ち、非照射領域の第1液体及び第1膜の材料が粒状層に浸透し、それらの中で拡散していく途中の段階)に行ってもよい。こうすると、非照射領域に厚さを有し、照射領域が非照射領域よりも厚いパターン膜を得ることができる。また、第1膜が2以上の成分を含んでいる場合、それら成分の全てを粒状層へ移動させてもよく、一部の成分のみを粒状層へ移動させてもよい。
【0055】
<効果>
上記方法は、エマルジョンの膜に対して、活性エネルギー線をパターン照射し、その後、第2液体を除去するだけで、パターンを自発的(自己組織化的)に形成することができる。上記方法は、ガイドパターンを予め基材上に設ける必要はないし、現像工程も必要としない。従って、上記方法は簡便な方法である。
【0056】
また、従来技術により実現できるパターンサイズは、例えば、数nm乃至数百μmの線幅や数nm乃至数百μmの高低差であったところ、上記方法によれば、幅広い範囲のパターンサイズを実現可能である。例えば、上記方法によると、線幅や高低差が大きいパターン膜、例えば、マイクロオーダーからミリオーダーまでの線幅やマイクロオーダーからミリオーダーまでの高低差を有するパターン膜を形成することが可能である。一例によれば、上記方法によると、線幅が10μm乃至5mmの範囲内にあるパターン膜や高低差が10μm乃至2mmの範囲内にあるパターン膜を形成することができる。
【0057】
また、上記方法は、パターンの形やサイズの制御性に優れており、種々の形やサイズのパターン膜を形成することが可能である。
【0058】
更に、上記方法では、第1膜上にエマルジョンからなる第2膜を形成し、第1膜の材料の少なくとも一部は、第2膜の一部から得られる粒状層へ移動させる。それ故、第1膜は、それ自体が単独で自己組織化的にパターンを形成し得るものでなくてもよい。従って、上記方法によると、硬化物粒子41と硬化物相4cとで組成が異なるパターン膜が得られる。
【0059】
[第2実施形態]
以下、第2実施形態に係るパターン膜の形成方法について、工程順に説明する。各工程の理解を助けるために、各工程における膜の状態の一例を図7乃至図12に示し、これら図面を以下の説明で参照する。
【0060】
<第1膜の形成>
先ず、基材を準備する。基材としては、第1実施形態において説明したものを使用することができる。
【0061】
次に、基材上に第1膜を設ける。第1膜は、基材の一部の領域にのみ設ける。第1膜を基材の一部の領域にのみ設けること以外は、第1膜に関する事項は、第1実施形態において説明したのと同様である。
【0062】
図7は、第1膜が基材の一部の領域にのみ形成された状態の一例を概略的に示している。図7において、基材1の上には、連続膜としての第1膜2が形成されている。第1膜2は、基材1の一主面を部分的に被覆している。
【0063】
<第2膜の形成>
次に、エマルジョンからなる第2膜を形成する。第2膜は、第1膜の少なくとも一部の上と、基材の他の一部の領域、即ち、基材のうち第1膜が設けられていない領域の少なくとも1つの上とに形成する。第2膜をこのように形成すること以外は、第2膜に関する事項は、第1実施形態で説明したのと同様である。
【0064】
図8は、エマルジョンからなる第2膜が第1膜上に形成された状態の一例を概略的に示している。図8において、第1膜2の少なくとも一部の上と、基材1のうち第1膜2が設けられていない領域の少なくとも一部の上とには、分散粒子31と分散媒32とから構成されるエマルジョンからなる第2膜3が形成されている。
【0065】
<活性エネルギー線の照射>
次に、第2膜に活性エネルギー線をパターン状に照射する。活性エネルギー線は、第2膜のうち第1膜上に位置した領域の少なくとも一部と、第2膜のうち第1膜上に位置していない領域の少なくとも一部とに照射する。このように活性エネルギー線を照射すること以外は、活性エネルギー線の照射に関する事項は、第1実施形態で説明したのと同様である。
【0066】
図9は、紫外線のパターン照射により、紫外線を照射した領域に、分散粒子の硬化物からなる粒状層が形成された状態の一例を概略的に示している。図9に示すように、例えば、マスク5を用いて紫外線のパターン露光を行った場合、紫外線が照射された領域では、分散粒子31が硬化して硬化物粒子41となり、これら硬化物粒子41からなる粒状層4aが形成される。紫外線は、第2膜3のうち第1膜2上に位置した領域の少なくとも一部と、第2膜3のうち第1膜2上に位置していない領域の少なくとも一部とに照射する。従って、粒状層4aは、第1膜2上に位置した部分(以下、第1部分ともいう)と、第1膜2上に位置していない部分(以下、第2部分ともいう)とを含むことになる。
【0067】
<第2液体の除去>
活性エネルギー線の照射後に、第2膜から第2液体の少なくとも一部を除去する。この除去は、第1実施形態で説明したのと同様の方法により行う。
【0068】
粒状層のうち第1膜上に位置した第1部分には、第1膜の材料及び未硬化の第1液体のうち、第1部分の近傍に位置したものが移動する。他方、粒状層のうち第1膜上に位置していない第2部分には、この部分の近傍に第1膜は存在していないので、例えば、未硬化の第1液体のうち第2部分の近傍に位置したもののみが移動する。或いは、第2部分には、未硬化の第1液体のうち第2部分の近傍に位置したものが移動するのに加え、第1膜の材料が、第1部分と比較して少ない量で移動する。
【0069】
図10及び図11は、第2液体の除去により起こる第1膜及び第2膜の状態変化の一例を概略的に示している。図10は、第2膜からの第2液体の除去を開始することにより、非照射領域において分散粒子の合一が起こった状態の一例を概略的に示している。図11は、分散粒子の合一体を構成している第1液体の一部が、第1膜の材料と混ざり合い、それらの混合物が、分散粒子の硬化物からなる粒状層の一部に浸透し、第1液体の他の一部が、第1膜の材料と混ざり合うことなしに、粒状層の他の一部に浸透した状態の一例を概略的に示している。
【0070】
分散媒32に含まれる第2液体の一部を第2膜3から除去すると、図10に示すように、照射領域では、粒状層4a内の粒子間の隙間を満たしていた第2液体が減少し、非照射領域では、第2液体が減少するとともに、分散粒子31の合一が起こる。
【0071】
第2液体が減少すると、第1膜2の近傍では、分散粒子31の合一が起こるのに加え、例えば、第1膜2の材料と未硬化の第1液体との接触面積が増加することなどに起因して、第1膜2の材料は、未硬化の第1液体に溶解する。そして、図11に示すように、第1膜2の材料と未硬化の第1液体との混合物4bは、粒状層4a内の隙間へ浸透して、粒状層4a内へ拡散する。
【0072】
他方、第1膜2から十分に離れた位置では、第2液体が減少すると、分散粒子31の合一が起こるものの、未硬化の第1液体への第1膜2の材料の溶解は生じない。従って、図11に示すように、未硬化の第1液体4dのみが、粒状層4a内の隙間へ浸透して、粒状層4a内へ拡散する。
【0073】
<パターンの定着>
最後に、第2液体を除去した膜が含んでいる未硬化物を硬化させる。この定着工程は、第1実施形態で説明したのと同様の方法により行う。
【0074】
粒状層の第1部分には、第1液体と第1膜の材料とが存在している。他方、粒状層の第2部分には、第1液体のみが存在しているか、又は、第1液体が存在しているのに加え、第1膜の材料が第1部分よりも少ない量(第1液体に対する相対量)で存在している。従って、このようにして得られるパターン膜では、第1部分に生じる硬化物相は、第2部分に生じる硬化物相と比較して、第1液体の硬化物に対する第1膜の材料の硬化物の相対量が多い。
【0075】
図12は、第1膜の材料が熱可塑性樹脂である場合に、冷却と紫外線の全面照射とにより、未硬化物を硬化させた状態の一例を概略的に示している。
【0076】
第1部分では、熱可塑性樹脂が冷却により固化し、未硬化の第1液体が、紫外線照射によって硬化する。その結果、硬化物相4cが形成される。他方、第2部分では、熱可塑性樹脂は存在しておらず、未硬化の第1液体が、紫外線照射によって硬化する。その結果、硬化物相4eが形成される。そして、粒状層4aを構成している硬化物粒子41では、紫外線照射により更なる重合が進行する。
【0077】
これにより、第1パターン部4Aと第2パターン部4Bとを備え、第1パターン部4Aは、粒状層4aの一部と、その隙間を少なくとも部分的に埋め込んだ硬化物である硬化物相4cとを含み、第2パターン部4Bは、粒状層4aの他の一部と、その隙間を少なくとも部分的に埋め込んだ硬化物である硬化物相4eとを含んだパターン膜が得られる。
【0078】
<効果>
本実施形態でも、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、本実施形態では、第1部分に生じる硬化物相と、第2部分に生じる硬化物相とで、組成を異ならしめることができる。即ち、本実施形態によると、より複雑な構造を形成することが可能である。
【0079】
[第3実施形態]
以下、第3実施形態に係るパターン膜の形成方法について、工程順に説明する。各工程の理解を助けるために、各工程における膜の状態の一例を図13乃至図19に示し、これら図面を以下の説明で参照する。
【0080】
<第1膜の形成>
先ず、基材を準備する。基材としては、第1実施形態において説明したものを使用することができる。
【0081】
次に、基材上に第1膜を設ける。第1膜は、基材の全領域に設けてもよく、基材の一部の領域にのみ設けてもよい。
【0082】
第1膜の材料としては、第1活性エネルギー線の照射により硬化する樹脂を含んだものを使用する。第1活性エネルギー線としては、例えば、紫外線、電子線、及びX線が挙げられる。第1活性エネルギー線の照射により硬化する樹脂としては、例えば、第1実施形態において第1液体について説明したものを使用することができる。第1膜の材料は、有機溶媒などの溶媒を更に含むことができる。第1膜に関する他の事項は、第1及び第2実施形態で説明したのと同様である。
【0083】
図13は、第1膜が基材上に形成された状態の一例を概略的に示している。図13において、基材1の上には、連続膜としての第1膜2が形成されている。
【0084】
<第1活性エネルギー線の照射>
次に、第1膜に第1活性エネルギー線をパターン状に照射する。第1活性エネルギー線は、第1膜の1以上の領域に照射し、第1膜の他の1以上の領域には照射しない。第1活性エネルギー線の照射により、第1活性エネルギー線を照射した領域(以下、第1照射領域ともいう)で、第1膜が含んでいる樹脂を硬化させる。例えば、第1照射領域における樹脂の重合度を、第1膜のうち第1活性エネルギー線を照射していない領域(以下、第1非照射領域ともいう)における樹脂の重合度と比較してより高くする。
【0085】
図14は、第1膜への紫外線のパターン照射により、第1膜に第1照射領域と第1非照射領域とが形成された状態の一例を概略的に示している。図14に示すように、例えば、第1マスク5Aを用いて紫外線のパターン露光を行った場合、紫外線が照射されない第1非照射領域2Aでは、第1膜2が含んでいる樹脂は硬化せず、紫外線が照射された第1照射領域2Bでは、第1膜2が含んでいる樹脂が硬化する。
【0086】
<第2膜の形成>
次に、エマルジョンからなる第2膜を第1膜上に形成する。第2膜に関する事項は、第1実施形態で説明したのと同様である。
【0087】
第2膜は、第1膜の全体を被覆するように形成してもよく、第1膜を部分的に被覆するように形成してもよい。後者の場合、第2膜は、例えば、第1非照射領域の少なくとも一部と第1照射領域の少なくとも一部とを被覆するように形成する。
【0088】
図15は、エマルジョンからなる第2膜が第1膜上に形成された状態の一例を概略的に示している。図15において、第2膜3は、第1非照射領域2Aの少なくとも一部と第1照射領域2Bの少なくとも一部とを被覆するように形成されている。
【0089】
<第2活性エネルギー線の照射>
次に、第2膜に第2活性エネルギー線をパターン状に照射する。第2活性エネルギー線の照射に関する事項は、第1実施形態で活性エネルギー線の照射に関して説明したのと同様である。なお、第2膜のうち第2活性エネルギー線を照射しなかった領域及び第2活性エネルギー線を照射した領域を、それぞれ、第2非照射領域及び第2照射領域という。
【0090】
図16は、紫外線のパターン照射により、紫外線を照射した第2照射領域に、分散粒子の硬化物からなる粒状層が形成された状態の一例を概略的に示している。図16に示すように、例えば、第2マスク5Bを用いて紫外線のパターン露光を行った場合、紫外線が照射された第2照射領域では、分散粒子31が硬化して硬化物粒子41となり、これら硬化物粒子41からなる粒状層4aが形成される。紫外線は、例えば、第2膜3のうち第1非照射領域2A上に位置した領域の一部と、第2膜3のうち第1照射領域2B上に位置した領域の一部とに照射する。従って、粒状層4aは、第1非照射領域2A上に位置した部分(以下、第3部分ともいう)と、第1照射領域2B上に位置した部分(以下、第4部分ともいう)とを含むことになる。
【0091】
<第2液体の除去>
第2活性エネルギー線の照射後に、第2膜から第2液体の少なくとも一部を除去する。この除去は、第1実施形態で説明したのと同様の方法により行う。
【0092】
粒状層のうち第1非照射領域上に位置した第3部分には、第1膜の材料の未硬化物及び未硬化の第1液体のうち、第3部分の近傍に位置したものが移動する。他方、粒状層のうち第1照射領域上に位置した第4部分には、この部分の近傍に第1膜の材料の未硬化物は存在していないので、例えば、未硬化の第1液体のうち第4部分の近傍に位置したもののみが移動する。或いは、第4部分には、未硬化の第1液体のうち第4部分の近傍に位置したものが移動するのに加え、第1膜の材料の未硬化物が、第3部分と比較して少ない量で移動する。
【0093】
図17及び図18は、第2液体の除去により起こる第1膜及び第2膜の状態変化の一例を概略的に示している。図17は、第2膜からの第2液体の除去を開始することにより、第2非照射領域において分散粒子の合一が起こった状態の一例を概略的に示している。図18は、分散粒子の合一体を構成している第1液体の一部が、第1膜の材料の未硬化物と混ざり合い、それらの混合物が、分散粒子の硬化物からなる粒状層の一部に浸透し、第1液体の他の一部が、第1膜の材料の未硬化物と混ざり合うことなしに、粒状層の他の一部に浸透した状態の一例を概略的に示している。
【0094】
分散媒32に含まれる第2液体の一部を第2膜3から除去すると、図17に示すように、第2照射領域では、粒状層4a内の粒子間の隙間を満たしていた第2液体が減少し、第2非照射領域では、第2液体が減少するとともに、分散粒子31の合一が起こる。
【0095】
第2液体が減少すると、第1非照射領域2Aの近傍では、分散粒子31の合一が起こるのに加え、例えば、第1膜2の材料と未硬化の第1液体との接触面積が増加することなどに起因して、第1膜2の材料の未硬化物は、未硬化の第1液体に溶解する。そして、図18に示すように、第1膜2の材料の未硬化物と未硬化の第1液体との混合物4bは、粒状層4a内の隙間へ浸透して、粒状層4a内へ拡散する。
【0096】
他方、第1照射領域2Bの近傍では、第2液体が減少すると、分散粒子31の合一が起こるものの、第1膜2の材料の未硬化物は存在していないため、その第1液体への溶解は生じない。従って、図18に示すように、未硬化の第1液体4dのみが、粒状層4a内の隙間へ浸透して、粒状層4a内へ拡散する。
【0097】
<パターンの定着>
最後に、第2液体を除去した膜が含んでいる未硬化物を硬化させる。この定着工程は、第1実施形態で説明したのと同様の方法により行う。
【0098】
粒状層の第3部分には、第1液体と第1膜の材料の未硬化物とが存在している。他方、粒状層の第4部分には、第1液体のみが存在しているか、又は、第1液体が存在しているのに加え、第1膜の材料の未硬化物が第3部分よりも少ない量(第1液体に対する相対量)で存在している。従って、このようにして得られるパターン膜では、第3部分に生じる硬化物相は、第4部分に生じる硬化物相と比較して、第1液体の硬化物に対する第1膜の材料の硬化物の相対量が多い。
【0099】
図19は、第1膜の材料が紫外線硬化樹脂である場合に、紫外線の全面照射により、未硬化物を硬化させた状態の一例を概略的に示している。
【0100】
第3部分では、未硬化の第1液体と第1膜の材料の未硬化物とが、紫外線照射によって硬化する。その結果、硬化物相4cが形成される。他方、第4部分では、第1膜の材料の未硬化物は存在しておらず、未硬化の第1液体が、紫外線照射によって硬化する。その結果、硬化物相4eが形成される。そして、粒状層4aを構成している硬化物粒子41では、紫外線照射により更なる重合が進行する。
【0101】
これにより、第1パターン部4Aと第2パターン部4Bとを備え、第1パターン部4Aは、粒状層4aの一部と、その隙間を少なくとも部分的に埋め込んだ硬化物である硬化物相4cとを含み、第2パターン部4Bは、粒状層4aの他の一部と、その隙間を少なくとも部分的に埋め込んだ硬化物である硬化物相4eとを含んだパターン膜が得られる。また、これにより、基材1と、上記のパターン膜と、基材1と第2パターン部4Bとの間に介在した硬化物層(第1照射領域2B)とを備えた構造体が得られる。
【0102】
<効果>
本実施形態でも、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、本実施形態では、第3部分に生じる硬化物相と、第4部分に生じる硬化物相とで、組成を異ならしめることができる。更に、本実施形態では、例えば、第1膜のうち、第3部分の近傍に位置した部分を消失させ、第4部分の近傍に位置した部分を残留させることができる。即ち、本実施形態によると、より複雑な構造を形成することが可能である。
【実施例
【0103】
[1]試験1
本試験では、図1乃至図6を参照しながら説明した方法によりパターン膜を形成した。
【0104】
<第1膜形成用塗工液の調製>
下記材料を用いて、第1膜を形成するための塗工液を調製した。
ポリメチルメタクリレート型マクロモノマー:マクロモノマーAA-6(東亞合成株式会社)
青色染料:Kayaset Blue N
溶媒:酢酸n-ブチル
バイアル瓶に、10gの酢酸n-ブチルと1gのマクロモノマーAA-6とを仕込み、70℃の加熱下で振とう処理を行った。これにより、マクロモノマーAA-6を酢酸n-ブチルに溶解させた。次に、この溶液に0.003gのKayaset Blue Nを加え、加熱なしで振とう処理を行った。以上のようにして、第1膜を形成するための塗工液を得た。
【0105】
<エマルジョンの調製>
下記材料を用いて、O/W型エマルジョンを調製した。
トリメチロールプロパントリアクリレート:ライトアクリレートTMP-A(共栄社化学株式会社)
光重合開始剤:Lunacure 200(DKSHジャパン株式会社)
界面活性剤:サンモリンOT-70<86.7%水溶液>(三洋化成株式会社)
第2液体:水(蒸留水)
容量50mLの褐色バイアル瓶に、光重合開始剤(Lunacure200)0.375g、界面活性剤(サンモリンOT-70)0.259g、及びトリメチロールプロパントリアクリレート(ライトアクリレートTMP-A)7.5gをこの順序で仕込み、ボールミルロール上で回転混合処理を行った。次いで、蒸留水9gを加えることにより、エマルジョンの前駆体となる混合液を得た。その後、この混合液に対して、ペイントシェイカを用いた30秒間の乳化分散処理を施した。続いて、バイアル瓶の回転混合を1時間行った。以上のようにして、エマルジョンを得た。
【0106】
このエマルジョンについて、粒度分布測定を行った。ここでは、日機装社製の粒度分布計測装置Microtrac MT3300EXIIに、同じく日機装社製の液循環ポンプMicrotrac USVRを装着した計測システムで重量平均径を測定した。
【0107】
図20は、エマルジョンの粒度分布測定の結果を示すグラフである。この粒度分布測定の結果、エマルジョンにおける分散粒子の平均粒径は87.3μmであった。
【0108】
<第1膜の形成>
顕微鏡用スライドグラスの表面に、スポイトを用いて上記の塗工液を滴下し、これを膜状に展開した。次いで、これを、70℃に設定した対流オーブンで10分間に亘って加熱することにより乾燥させた。以上のようにして、厚みが7.6μmの第1膜を得た。
【0109】
<第2膜の形成>
別途用意した顕微鏡用スライドグラスの表面に対して、その長辺方向に沿って、幅20mm、厚み80μmのスリーエム社製マスキングテープを5層貼り付けた。そして、その中心部を、10mm×20mmの長方形状に切り抜いた。
【0110】
次に、この積層体をスライドグラスから剥離し、上記の第1膜上に貼り付けた。以上のようにして、底部に第1膜が設けられた液溜めを有するセル(以下、液溜めセルという)を作製した。
【0111】
次いで、マイクロピペットによって、75μLのエマルジョンを採取した。これを液溜めセルに展開、充填することで、比重を考慮した計算値としての厚みが約375μmのエマルジョンからなる第2膜を得た。
【0112】
<活性エネルギー線の照射>
次に、第2膜上に、ライン幅及びスペース幅の各々が2mmのラインアンドスペースパターンを有するフォトマスクを、第2膜と接触しないように設置した。次いで、メタルハライドUV光源(住田光学ガラス社製LS-165UV)を使用し、これに接続したファイバーライトガイドから出射する紫外線を両凸石英レンズでほぼ平行光とし、これをマスク上から照射することで、膜に積算光量40mJ/cmの露光を与えた。その後、スライドグラスからフォトマスクを取り除いた。
【0113】
<膜の乾燥及びパターンの定着>
次いで、紫外線露光後の膜を、70℃に設定した対流オーブンで5分間に亘って加熱することにより乾燥させた。
続いて、この膜の全体に、上記の露光機を用いた紫外線照射を行うことで、積算光量250mJ/cmの露光を与えた。
【0114】
このようにして得られた構造の光学写真を、図21及び図22に示す。図21では、スライドグラス上に、第1膜と窓を有する積層体とが順次設けられている。窓内には、ラインアンドスペースパターンが形成されている。図22は、窓内のラインアンドスペースパターンを拡大して示す光学写真である。窓内のパターンのうち着色している部分はライン部である。ライン部は、粒状層と青色染料を含む第1膜成分を溶解した非照射部の合一エマルジョン成分とを含んでいる。
【0115】
[2]試験2
本試験では、図7乃至図12を参照しながら説明したのと同様の方法によりパターン膜を形成した。
【0116】
<第1膜の形成>
顕微鏡用スライドグラスの表面に対して、その長辺方向に沿って、幅20mm、厚み80μmのスリーエム社製マスキングテープを5層貼り付けた。そして、その中心部を、10mm×20mmの長方形状に切り抜くことで、液溜めを有するセル(以下、液溜めセルという)を作製した。次に、このマスキングテープ層を含む液溜めセルの開口面(スライドグラス表面)に、黒色の油性ペンを用いて、互いに平行であり、各々がスライドグラスの長さ方向に伸びた3本の直線を描いた。以上のようにして、インク層からなる第1膜を得た。図23は、このようにして得られた構造の光学写真である。液溜めセルの底部には、インク層からなるラインアンドスペースパターンが設けられている。
【0117】
<第2膜の形成>
マイクロピペットによって、75μLのエマルジョンを採取した。このエマルジョンとしては、試験1で使用したのと同様のものを調製した。これを液溜めセルに展開、充填することで、比重を考慮した計算値としての厚みが約375μmのエマルジョンからなる第2膜を得た。
【0118】
図24は、このようにして得られた構造の光学写真である。液溜めセルにはエマルジョンが充填されているため、液溜めセルの底部に設けられたラインアンドスペースパターンはぼやけて見える。
【0119】
<活性エネルギー線の照射>
次に、第2膜上に、ライン幅及びスペース幅の各々が2mmのラインアンドスペースパターンを有するフォトマスクを、第2膜と接触しないように設置した。フォトマスクは、図25の光学写真に示すように、そのライン部及びスペース部の長さ方向が、液溜めセルの底部に設けられたラインアンドスペースパターンのライン部及びスペース部の長さ方向と直交するように設置した。
【0120】
次いで、UV-LED照射器コントローラ(HOYA CANDEO OPTRONICS社製EXECURE-H-1VCII)に光源ヘッドユニット(HOYA CANDEO OPTRONICS社製H-1VH4-V1)を接続し、これに均一照射レンズユニット(HOYA CANDEO OPTRONICS社製HDL-21)を装着したUV露光システムを使用して、照度10.7mW/cmの紫外線をマスク上から5秒間照射することで、膜に積算光量53.5mJ/cmの露光を与えた。その後、スライドグラスからフォトマスクを取り除いた。
【0121】
<膜の乾燥及びパターンの定着>
次いで、紫外線露光後の膜を、温度23.6℃、相対湿度27%の環境下で自然乾燥させた。
その後、膜の全体に、上記の露光機を用いた紫外線照射を行うことで、積算光量642mJ/cmの露光を与えた。これにより、パターンを定着させた。
【0122】
乾燥過程における膜の構造を、図26乃至図31の光学写真に示す。また、定着後の膜の構造を、図32の光学写真に示す。
【0123】
図26乃至図32に示すように、非照射領域のうち第1膜の近傍では、第1膜の材料の一部は第1液体に溶解した。そして、非照射領域から照射領域の粒状層への第1液体の移動を生じ、この移動に伴い、第1液体に溶解した第1膜の材料も照射領域の粒状層へ移動した。他方、照射領域では、第1膜の材料は、非照射領域ほどは第1液体に溶解しなかった。
【0124】
[3]試験3
本試験では、図13乃至図19を参照しながら説明したのと同様の方法によりパターン膜を形成した。
【0125】
<第1膜形成用塗工液の調製>
下記材料を用いて、第1膜を形成するための塗工液を調製した。
ポリメチルメタクリレート型マクロモノマー:マクロモノマーAA-6(東亞合成株式会社)
トリメチロールプロパントリアクリレート:ライトアクリレートTMP-A(共栄社化学株式会社)
ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンジル)ホスフィンオキシド:Lucirin(登録商標)TPO(BASFジャパン株式会社)
青色染料:Kayaset Blue N
溶媒:酢酸n-ブチル
100gの酢酸n-ブチルと、7gのマクロモノマーAA-6と、3gのライトアクリレートTMP-Aと、0.6gのLucirin TPOと、0.2gのKayaset Blue Nとを、紫外線を遮断する密閉容器に仕込んだ。次に、この容器を室温下で回転させて、これら成分を混合及び溶解させた。以上のようにして、第1膜を形成するための塗工液を得た。
【0126】
<第1膜の形成>
顕微鏡用スライドグラスの表面に対して、その長辺方向に沿って、幅20mm、厚み80μmのスリーエム社製マスキングテープを3層貼り付けた。そして、その中心部を、20mm×20mmの正方形状に切り抜いた。以上のようにして、液溜めを有するセル(以下、第1液溜めセルという)を作製した。
【0127】
次いで、マイクロピペットによって、75μLの上記塗工液を採取した。これを第1液溜めセルに展開、充填し、更に、遮光した室温環境中で24時間に亘って自然乾燥させた。以上のようにして、タックフリーであり、中心部が約7μmの厚みを有する第1膜を得た。
【0128】
<第1活性エネルギー線の照射>
上記のスライドグラスから、第1液溜めセルを形成している積層体を剥離した。次に、第1膜上に、ライン幅及びスペース幅がそれぞれ2mm及び1mmのラインアンドスペースパターンを有するフォトマスクを、第1膜と密着するように設置した。ここでは、図33に示すように、フォトマスクは、そのライン部及びスペース部の長さ方向が、スライドグラスの長さ方向に対して平行になるようにスライドグラス上に設置した。
【0129】
次いで、UV-LED照射器コントローラ(HOYA CANDEO OPTRONICS社製EXECURE-H-1VCII)に光源ヘッドユニット(HOYA CANDEO OPTRONICS社製H-1VH4-V1)を接続し、これに均一照射レンズユニット(HOYA CANDEO OPTRONICS社製HDL-21)を装着したUV露光システムを使用して、照度16.3mW/cmの紫外線をマスク上から60秒間照射することで、第1膜に積算光量978mJ/cmの露光を与えた。以上のようにして、第1膜に潜像を記録した。その後、スライドグラスからフォトマスクを取り除いた。
【0130】
<第2膜の形成>
別途用意した顕微鏡用スライドグラスの表面に対して、その長辺方向に沿って、幅20mm、厚み80μmのスリーエム社製マスキングテープを5層貼り付けた。そして、その中心部を、10mm×20mmの長方形状に切り抜いた。
【0131】
次に、この積層体をスライドグラスから剥離し、上記の第1膜を形成したスライドグラス上に貼り付けた。以上のようにして、底部に第1膜が設けられた液溜めを有するセル(以下、第2液溜めセルという)を作製した。
【0132】
図34は、このようにして得られた構造の光学写真である。ここでは、図34の光学写真に示すように、第2液溜めセルの長さ方向は、スライドグラスの長さ方向に対して平行とした。
【0133】
次いで、マイクロピペットによって、75μLのエマルジョンを採取した。このエマルジョンとしては、試験1で使用したのと同様のものを調製した。これを第2液溜めセルに展開、充填することで、比重を考慮した計算値としての厚みが約375μmのエマルジョンからなる第2膜を得た。
【0134】
<第2活性エネルギー線の照射>
次に、第2膜上に、ライン幅及びスペース幅の各々が2mmのラインアンドスペースパターンを有するフォトマスクを、第2膜と接触しないように設置した。フォトマスクは、図35の光学写真に示すように、そのライン部及びスペース部の長さ方向が、第2液溜めセルの長さ方向と直交するように設置した。
【0135】
次いで、UV-LED照射器コントローラ(HOYA CANDEO OPTRONICS社製EXECURE-H-1VCII)に光源ヘッドユニット(HOYA CANDEO OPTRONICS社製H-1VH4-V1)を接続し、これに均一照射レンズユニット(HOYA CANDEO OPTRONICS社製HDL-21)を装着したUV露光システムを使用して、照度10.7mW/cmの紫外線をマスク上から5秒間照射することで、膜に積算光量53.5mJ/cmの露光を与えた。その後、スライドグラスからフォトマスクを取り除いた。
【0136】
<膜の乾燥及びパターンの定着>
次いで、紫外線露光後の膜を、温度24℃、相対湿度38%の環境下で自然乾燥させた。その後、膜の全体に、上記の露光機を用いた紫外線照射を行うことで、積算光量642mJ/cmの露光を与えた。これにより、パターンを定着させた。
【0137】
乾燥過程における膜の構造を、図36乃至図43の光学写真に示す。図36乃至図43の光学写真に示すように、膜の乾燥に伴い、第1非照射領域が含んでいる未硬化の材料の第1液体への溶解を生じるとともに、第2非照射領域から第2照射領域の粒状層への第1液体の移動を生じた。
以下に、当初の特許請求の範囲に記載していた発明を付記する。
[1]
基材上に第1膜を設けることと、
前記第1膜上に、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体を含む分散粒子と、前記活性エネルギー線の照射により硬化しない第2液体を含む分散媒とを含むエマルジョンからなる第2膜を形成することと、
前記第2膜の少なくとも一部の領域に前記活性エネルギー線を照射することなしに、前記第2膜の他の少なくとも一部の領域に前記活性エネルギー線を照射して、前記活性エネルギー線を照射した領域で前記第1液体を硬化させることと、
前記活性エネルギー線の照射後に、前記第2膜から前記第2液体の少なくとも一部を除去するとともに、前記第1膜の材料の少なくとも一部を、前記第2膜が含んでいる未硬化の前記第1液体に溶解させることと、
前記第1膜の前記材料の少なくとも一部を溶解させた未硬化の前記第1液体を硬化させることと
を含むパターン膜の形成方法。
[2]
前記材料は熱可塑性樹脂を含み、前記第2膜が含んでいる未硬化の前記第1液体には、加熱して流動化させた前記材料の少なくとも一部を溶解させる項1に記載の方法。
[3]
基材上に第1膜を設けることと、
前記第1膜上に、活性エネルギー線の照射により硬化する第1液体を含む分散粒子と、前記活性エネルギー線の照射により硬化しない第2液体を含む分散媒とを含むエマルジョンからなる第2膜を形成することと、
前記第2膜の少なくとも一部の領域に前記活性エネルギー線を照射することなしに、前記第2膜の他の少なくとも一部の領域に前記活性エネルギー線を照射して、前記活性エネルギー線を照射した領域に、前記分散粒子の硬化物からなる粒状層を形成することと、
前記活性エネルギー線の照射後に、前記第2膜から前記第2液体の少なくとも一部を除去して、前記活性エネルギー線を照射していない領域における未硬化の前記第1液体の少なくとも一部を前記粒状層中へと移動させるとともに、前記第1膜の材料の少なくとも一部を前記粒状層へと移動させることと、
その後、未硬化の前記第1液体を硬化させることと
を含むパターン膜の形成方法。
[4]
前記材料は熱可塑性樹脂を含み、前記粒状層には、加熱して流動化させた前記材料の少なくとも一部を移動させる項3に記載の方法。
[5]
前記第1膜は前記基材の一部の領域上にのみ設け、前記第2膜は前記第1膜の少なくとも一部の上と前記基材の他の一部の領域上とに形成し、前記活性エネルギー線は、前記第2膜のうち前記第1膜上に位置した領域の少なくとも一部と、前記第2膜のうち前記第1膜上に位置していない領域の少なくとも一部とに照射する項1乃至4の何れか1項に記載の方法。
[6]
前記材料は、活性エネルギー線の照射により硬化する樹脂を含み、前記第2膜を形成する前に、この活性エネルギー線を前記第1膜へパターン状に照射して、前記活性エネルギー線を照射した領域で前記樹脂を硬化させることを更に含んだ項1又は3に記載の方法。
[7]
前記エマルジョンは水中油型エマルジョンである項1乃至6の何れか1項に記載の方法。
[8]
項1乃至7の何れか1項に記載の方法により形成されるパターン膜。
【符号の説明】
【0138】
1…基材、2…第1膜、2A…第1非照射領域、2B…第1照射領域、3…第2膜、4A…第1パターン部、4B…第2パターン部、4a…粒状層、4b…混合物、4c…硬化物相、4d…第1液体、4e…硬化物相、5…マスク、5A…第1マスク、5B…第2マスク、31…分散粒子、32…分散媒、41…硬化物粒子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
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図22
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図24
図25
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図28
図29
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図32
図33
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図39
図40
図41
図42
図43