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特許7528599ボンド磁石用樹脂組成物およびボンド磁石用樹脂組成物の製造方法
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  • 特許-ボンド磁石用樹脂組成物およびボンド磁石用樹脂組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ボンド磁石用樹脂組成物およびボンド磁石用樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/08 20060101AFI20240730BHJP
   H01F 1/059 20060101ALI20240730BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240730BHJP
   B22F 3/00 20210101ALI20240730BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
H01F1/08 130
H01F1/059 160
H01F41/02 G
B22F3/00 C
C22C38/00 303D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020124164
(22)【出願日】2020-07-21
(65)【公開番号】P2022020910
(43)【公開日】2022-02-02
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】望月 俊佑
(72)【発明者】
【氏名】藤井 俊介
(72)【発明者】
【氏名】瀧花 吉広
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 佑典
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-027030(JP,A)
【文献】特開平07-138456(JP,A)
【文献】特開2005-179383(JP,A)
【文献】特開2001-181519(JP,A)
【文献】特開2007-256664(JP,A)
【文献】特開2002-229256(JP,A)
【文献】特開平07-148758(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/08
H01F 1/059
H01F 41/02
B22F 3/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sm-Fe-N系磁性粉末と、
フェノール樹脂(ただし、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂を除く)と、
アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂またはポリビニルブチラール樹脂の少なくともいずれか一方と、
を含む、ボンド磁石用樹脂組成物であって、
前記ボンド磁石用樹脂組成物全体に対する、前記Sm-Fe-N系磁性粉末の含有率が88質量%以上、98質量%以下であり、
前記ボンド磁石用樹脂組成物全体に対する、前記フェノール樹脂の含有率が1質量%以上20質量%以下であり、
前記ボンド磁石用樹脂組成物全体に対する、前記アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂の含有率が0.5質量%以上10質量%以下、または前記ボンド磁石用樹脂組成物全体に対する、前記ポリビニルブチラール樹脂の含有率が0.1質量%以上8質量%以下、の少なくともいずれかであるボンド磁石用樹脂組成物。
【請求項2】
前記Sm-Fe-N系磁性粉末のレーザー回折式粒度分布測定装置を用いた粒度測定における累積頻度が50%となる粒子径が、0.5μm以上、10μm以下である請求項1に記載のボンド磁石用樹脂組成物。
【請求項3】
前記フェノール樹脂(ただし、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂を除く)がノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、およびアリールアルキレン型フェノール樹脂の中から選ばれる1または2以上である請求項1または2に記載のボンド磁石用樹脂組成物。
【請求項4】
Sm-Fe-N系磁性粉末とフェノール樹脂(ただし、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂を除く)と、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂またはポリビニルブチラール樹脂の少なくともいずれか一方と、を含むボンド磁石用樹脂組成物の製造方法であって、
前記ボンド磁石用樹脂組成物は、
前記ボンド磁石用樹脂組成物全体に対する、前記Sm-Fe-N系磁性粉末の含有率が88質量%以上、98質量%以下であり、
前記ボンド磁石用樹脂組成物全体に対する、前記フェノール樹脂の含有率が1質量%以上20質量%以下であり、
前記ボンド磁石用樹脂組成物全体に対する、前記アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂の含有率が0.5質量%以上10質量%以下、または前記ボンド磁石用樹脂組成物全体に対する、前記ポリビニルブチラール樹脂の含有率が0.1質量%以上8質量%以下、の少なくともいずれかであって、
表面に溝が設けられた一対のロールを用いて前記Sm-Fe-N系磁性粉末と前記フェノール樹脂とを混練する混練工程を備えるボンド磁石用樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記ロールから落下した前記Sm-Fe-N系磁性粉末と前記フェノール樹脂を一対のロールによる混練に戻しながら、前記混練工程を行う請求項4に記載のボンド磁石用樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンド磁石用樹脂組成物およびボンド磁石用樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ボンド磁石は、希土類磁石合金からなる磁性粉末と樹脂との混合物であるボンド磁石用樹脂組成物を圧縮成形等により加圧成形することにより得られる。ボンド磁石は、形状に対する自由度が大きく、加工も容易であるため、自動車用のモータや電子機器用モータなどの分野で幅広く使用されている。
【0003】
特許文献1には、希土類ボンド磁石用粉末、エポキシ樹脂、フェノール樹脂硬化剤および硬化促進剤を含むボンド磁石用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-153778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
希土類磁石合金のなかで、Sm-Fe-N系希土類磁石合金は、Nd-Fe-B系希土類磁石合金、Nd-Fe-N系希土類磁石合金などのネオジム系の磁石に比べて耐熱性が高く、磁力が低下しにくいという特徴を有する。しかし、ボンド磁石用樹脂組成物を構成する樹脂として、たとえば、ポリフェニレンスルフィド樹脂を用いると、その成形温度域(約300℃)においてSm-Fe-N系希土類磁石合金が酸化により磁力が低下してしまう。このため、より低温で成形できる樹脂として、上述した特許文献1に記載されたエポキシ樹脂が挙げられる。
【0006】
本発明者らは、Sm-Fe-N系希土類磁石合金からなる磁性粉末とエポキシ樹脂とを含むボンド磁石用樹脂組成物について、さらなる耐久性の向上について検討を行ったところ、特定の樹脂と組み合わせることが有効であるという知見を得た。
【0007】
本発明は、ボンド磁石の耐久性を向上させることができるボンド磁石用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、Sm-Fe-N系磁性粉末と、フェノール樹脂(ただし、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂を除く)と、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂またはポリビニルブチラール樹脂の少なくともいずれか一方と、
を含む、ボンド磁石用樹脂組成物であって、
前記ボンド磁石用樹脂組成物全体に対する、前記Sm-Fe-N系磁性粉末の含有率が88質量%以上であるボンド磁石用樹脂組成物が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、Sm-Fe-N系磁性粉末とフェノール樹脂とを含むボンド磁石用樹脂組成物の製造方法であって、表面に溝が設けられた一対のロールを用いて前記Sm-Fe-N系磁性粉末と前記フェノール樹脂とを混練する混練工程を備えるボンド磁石用樹脂組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ボンド磁石の耐久性を向上させることができるボンド磁石用樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(a)は、ローラ装置の概略を示す側面図である。図1(b)は、ローラ装置で使用されるロールの表面形状を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本明細書中、数値範囲の説明における「a~b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下であることを表す。
【0013】
(ボンド磁石用樹脂組成物)
実施形態に係るボンド磁石用樹脂組成物は、Sm-Fe-N系磁性粉末(成分A)と、フェノール樹脂(ただし、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂を除く)(成分B)と、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂またはポリビニルブチラール樹脂の少なくともいずれか一方(成分C)とを含む。以下、ボンド磁石用樹脂組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。
【0014】
(成分A:Sm-Fe-N系磁性粉末)
本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物に含まれる磁性粉末は、SmFeN系であり、一般的にSmFe17で表されるものである。
【0015】
Sm-Fe-N系磁性粉末の平均粒径の下限は、0.5μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましく、1.5μm以上がさらに好ましい。Sm-Fe-N系磁性粉末の平均粒径の上限は、10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。
Sm-Fe-N系磁性粉末の平均粒径を上記範囲内とすることにより、粉砕コストの増大を避けつつ、後述するフェノール樹脂と混練したときの分散性を向上させ、当該ボンド磁石用樹脂組成物から得られるボンド磁石の強度を向上させることができる。
なお、平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて粒度測定を行い、累積頻度が50%となる粒子径の値を平均粒径とする。
【0016】
本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物全体に対するSm-Fe-N系磁性粉末の含有率の下限は、88質量%以上であり、89質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。また、本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物全体に対するSm-Fe-N系磁性粉末の含有率の上限は、98質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましく、96質量%以下がさらに好ましく、92質量%以下がことさらに好ましい。
【0017】
Sm-Fe-N系磁性粉末の含有率を88質量%以上とすることにより、ボンド磁石用樹脂組成物から得られるボンド磁石の磁束密度を高めることができる。なお、Sm-Fe-N系磁性粉末の含有率を88質量%以上とすると、例えば、ポリフェニレンスルフィド樹脂を用いたボンド磁石用樹脂組成物では、流動性の低下により成形性を悪化させる要因となるところ、フェノール樹脂(ただし、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂を除く)と、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂またはポリビニルブチラール樹脂の少なくともいずれか一方を用いた本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物では、良好な成形性を維持することができる。本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物では、また、Sm-Fe-N系磁性粉末の含有率を98質量%以下とすることにより、後述するフェノール樹脂による結着性やフェノール樹脂とのなじみ性を高めることができる。
【0018】
(成分B:フェノール樹脂)
本実施形態のフェノール樹脂としては、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂を含まないものであって、従来公知のものを使用することができる。当該フェノール樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、およびアリールアルキレン型フェノール樹脂などが挙げられる。フェノール樹脂として、これらの中の1種類を単独で用いてよいし、異なる重量平均分子量を有する2種類以上を併用してもよく、1種類または2種類以上と、それらのプレポリマーとを併用してもよい。この中でも、耐熱性の観点から、ノボラック型フェノール樹脂が好ましく用いられる。
【0019】
ノボラック型フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とを、無触媒または酸性触媒の存在下で反応させて得られる樹脂であれば、用途に合わせて適宜選択することができる。たとえば、ランダムノボラック型やハイオルソノボラック型のフェノール樹脂も用いることができる。
なお、このノボラック型フェノール樹脂は、通常、フェノール類に対するアルデヒド類のモル比(アルデヒド類/フェノール類)を0.5~1.0に制御した上で、反応させて得ることができる。
【0020】
このノボラック型フェノール樹脂を調製する際に用いられるフェノール類の具体例としては、たとえば、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、キシレノール、アルキルフェノール類、カテコール、レゾルシン等が挙げられる。なお、これらのフェノール類は単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0021】
また、ノボラック型フェノール樹脂を調製する際に用いられるアルデヒド類としては、たとえば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド化合物、およびこれらのアルデヒド化合物の発生源となる物質、あるいはこれらのアルデヒド化合物の溶液等を用いることができる。なお、これらのアルデヒド類は単独、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。
【0022】
フェノール樹脂の分子量の下限は、例えば、重量平均分子量(Mw)として300以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、2000以上であることがさらに好ましく、3000以上であることが殊更好ましい。一方で、フェノール樹脂の分子量の上限は、例えば、重量平均分子量(Mw)として20000以下であることが好ましく、18000以下であることがより好ましく、15000以下であることがさらに好ましい。
【0023】
フェノール樹脂の重量平均分子量(Mw)を、上記の範囲に設定することにより、ボンド磁石用樹脂組成物を製造する際の作業性が向上し、また、このボンド磁石用樹脂組成物からボンド磁石を得る際の成形性を向上させることができる。また、得られたボンド磁石の機械的強度や耐熱性の向上も図ることができる。
なお、上述した重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)測定により、ポリスチレン標準物質を用いて作成した検量線をもとに算出することができる。
【0024】
本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物全体に対するフェノール樹脂の含有率の下限は、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。また、本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物全体に対するフェノール樹脂の含有率の上限は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましい。
【0025】
フェノール樹脂の含有率を1質量%以上とすることにより、フェノール樹脂による結着性を高めることができる。また、フェノール樹脂の含有率を10質量%以下とすることにより、非磁性成分の量の抑制し、磁束密度を十分高い状態に維持することができる。
【0026】
(成分C)
本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物は、さらに、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂またはポリビニルブチラール樹脂の少なくともいずれか一方を含むものであり、両者を併用してもよい。
本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物全体に対するアラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂の含有率の下限は、0.5質量%以上が好ましく、1.5質量%以上がより好ましく、2.5質量%以上がさらに好ましい。また、本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物全体に対するアラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂の含有率の上限は、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、6質量%以下がさらに好ましい。
アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂の含有率を上記下限値以上とすることにより、フェノール樹脂による結着性を高めることができる。また、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂の含有率を上記上限値以下とすることにより、非磁性成分の量の抑制し、磁束密度を十分高い状態に維持することができる。
なお、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量(Mw)は、上記のフェノール樹脂と同様のものとすることができる。
【0027】
ポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコールとブチルアルデヒドを酸性条件化で反応させるものであり、ポリビニルアセタールの一種である。
本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物全体に対するポリビニルブチラール樹脂の含有率の下限は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましい。また、本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物全体に対するポリビニルブチラール樹脂の含有率の上限は、8質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。
ポリビニルブチラール樹脂の含有率を上記下限値以上とすることにより、フェノール樹脂による結着性を高めることができる。また、ポリビニルブチラール樹脂の含有率を上記上限値以下とすることにより、非磁性成分の量の抑制し、磁束密度を十分高い状態に維持することができる。
【0028】
(その他成分)
本実施形態の樹脂組成物および感光性樹脂組成物は、上述した成分以外にも、用途にあわせて、各種成分を配合することができる。
たとえば、必要に応じて硬化剤、シランカップリング剤、フィラー、離型剤、有機溶剤等の添加物を添加してもよい。
硬化剤としては、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミン、イソシアネート樹脂などが挙げられる。ボンド磁石用樹脂組成物全体に対する硬化剤の含有率の下限は0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましい。また、ボンド磁石用樹脂組成物全体に対する硬化剤の含有率の上限は1質量%以下が好ましく、0.9質量%以下がより好ましく、0.8質量%以下がさらに好ましい。硬化剤の含有率を上記範囲とすることにより、耐久性を向上しつつ、硬化促進効果を十分に発揮させることができる。
シランカップリング剤としては、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシラン及びビニルシラン等が挙げられる。
フィラーとしては、シリカ、炭酸カルシウム、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、マイカ等が挙げられる。
有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
【0029】
(引張強度変化率)
本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物は、下記条件の処理を行ったときに、処理前の初期の引張強度をX1とし、処理後の引張強度をX2としたときに、引張強度変化率Δ=(X2-X1)/X1×100が-15%以上であり、-10%以上が好ましく、-5%以上がより好ましい。
(処理の詳細)
当該ボンド磁石用樹脂組成物を用いて、175℃、3分、500MPaの圧縮成形条件で4mm角、長さ60mmの四角柱の試験片を成形する。この試験片に対して150℃、4時間の焼成を行った後、さらに180℃、4時間の焼成を行う。焼成後の試験片に対して、85℃、85RH%、500時間の処理を行う。処理前および処理後の試験片について、引張試験を行う。引張試験は、チャック間距離を20mmとし、試験速度を5mm/分とする。
【0030】
本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物は、上述の引張強度変化率Δを-15%以上とすることにより、当該ボンド磁石用樹脂組成物から得られるボンド磁石の耐久性を向上させることができる。なお、引張強度変化率Δの上限は特に制限がないが40%以下が好ましく35%以下がより好ましく、30%以下がさらに好ましい。引張強度変化率Δの上限を40%以下とすることにより、当該ボンド磁石用樹脂組成物から得られるボンド磁石にクラックが発生することを抑制することができる。
【0031】
以上説明したボンド磁石用樹脂組成物は、Sm-Fe-N系磁性粉末を含むことにより、耐熱性が向上でき、磁力を低下しにくくさせるという特徴に加えて、フェノール樹脂を含むことにより、成形時の温度を低くできるため、Sm-Fe-N系磁性粉末が酸化しにくくなるという特徴を有しつつ、さらに、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂またはポリビニルブチラール樹脂の少なくともいずれか一方を組み合わせる相乗効果により、当該ボンド磁石用樹脂組成物から得られるボンド磁石の耐久性を向上させることができる。
【0032】
(ボンド磁石用樹脂組成物の製造方法)
実施形態に係るボンド磁石用樹脂組成物は、上述したSm-Fe-N系磁性粉末、フェノール樹脂、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂またはポリビニルブチラール樹脂の少なくともいずれか一方および任意の添加剤を混練することにより得られる。混練方法は特に限定されないが、公知の2本のロールを用いるオープンロール方式や、以下に示す特殊なロール装置を用いたロール方式を採用することができる。
公知のオープンロール方式の場合、一対のロール(前ロールおよび後ロール)の温度は特に限定されないが、たとえば、前ロールの温度を70℃~130℃の範囲で設定し、後ロールの温度を20℃~50℃の範囲で設定してよい。前ロールの回転速度は後ロールの回転速度と同じでもよいが、前ロールの回転速度と後ロールの回転速度との間に差をつけてもよく、たとえば、前後ロールの回転比(前ロールの回転速度:後ロールの回転速度)を2:1~1:0.9の範囲に設定してもよい。
【0033】
次に、特殊なロール装置を用いたロール方式について説明する。
図1(a)は、ロール装置10の概略を示す側面図である。図1(b)は、ロール装置10で使用されるロールの表面形状を示す概略図である。
図1(a)に示すように、ロール装置10は、一対のロール(前ロール20、後ロール30)および材料戻し機構40を備える。また、図1(b)に示すように、前ロール20の表面には、複数の溝22が所定の間隔で周方向に延在するように形成されている。また、後ロール30の表面にも、上記溝22と同様に、複数の溝(図示せず)が所定の間隔で周方向に延在するように形成されている。
【0034】
材料戻し機構40は、図1(a)に示すように、ロール装置10を側面視したときに、前ロール20と後ロール30との隙間の下方から前ロール20の上方にかけて、前ロール20の表面から所定の距離をあけて円弧を描くように設置されたベルトコンベア機構である。ロール20とロール30との間およびロール20から落下した材料は、材料戻し機構40によってロール20の上方に搬送され、ロール20の上部に戻される。
【0035】
前ロール20および後ロール30の温度や、前ロール20と後ロール30の回転比は、上述した公知のオープンロール方式の場合と同様な範囲とすることができる。
【0036】
上述したロール装置10のように、表面に溝が前ロール20および後ロール30を用い、材料戻し機構40によりこぼれた材料を前ロール20および後ロール30による混練に戻すことにより、Sm-Fe-N系磁性粉末とフェノール樹脂とアラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂またはポリビニルブチラール樹脂の少なくともいずれか一方とのなじみ性が向上し、初期強度の向上や、耐久性の向上を図ることができる。
【0037】
なお、本実施形態においては、ボンド磁石用樹脂組成物に含まれる各成分の種類や配合割合、およびボンド磁石用樹脂組成物の製造方法を適切に調整することにより、上述の引張強度変化率に関するパラメータを満たすボンド磁石用樹脂組成物を得ることができる。
より具体的には、たとえば、Sm-Fe-N系磁性粉末の含有率や平均粒径を適切に選択することで、本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物を得ることができる。また、フェノール樹脂の種類、含有率、重量平均分子量(Mw)を適切に選択することで、本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物を得ることができる。さらに、図1に示したような特殊なロール装置を用いてSm-Fe-N系磁性粉末とフェノール樹脂とを混練することにより、本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物を得ることができる。これらを総合的に調整することで、本実施形態のボンド磁石用樹脂組成物を得ることができる。
【0038】
(ボンド磁石)
実施形態に係るボンド磁石用樹脂組成物を、フェノール樹脂の融点以上、たとえば130~230℃の範囲の温度で加熱溶融した後、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法などを用いて、成形体のボンド磁石を得ることができる。たとえば、圧縮成形機を用いて、130~230℃、1~5分、200~600MPaの条件でボンド磁石用樹脂組成物を圧縮成形加工することによりボンド磁石を得ることができる。
なお、成形中のボンド磁石用樹脂組成物または得られたボンド磁石に対して用途に応じた磁場強度にて着磁を行ってもよい。
【0039】
実施形態に係るボンド磁石用樹脂組成物を用いて成形されたボンド磁石は、磁気特性に優れ、かつ、剛性などの機械的強度に優れる。当該ボンド磁石は、自動車用モータや電子機器用モータなどに好適に使用されうる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
以下、参考形態の例を付記する。
1. Sm-Fe-N系磁性粉末と、
フェノール樹脂(ただし、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂を除く)と、
アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂またはポリビニルブチラール樹脂の少なくともいずれか一方と、
を含む、ボンド磁石用樹脂組成物であって、
前記ボンド磁石用樹脂組成物全体に対する、前記Sm-Fe-N系磁性粉末の含有率が88質量%以上であるボンド磁石用樹脂組成物。
2. 前記ボンド磁石用樹脂組成物全体に対する、前記Sm-Fe-N系磁性粉末の含有率が98質量%以下である1.に記載のボンド磁石用樹脂組成物。
3. 前記ボンド磁石用樹脂組成物全体に対する、前記フェノール樹脂の含有率が1質量%以上20質量%以下である1.または2.に記載のボンド磁石用樹脂組成物。
4. Sm-Fe-N系磁性粉末とフェノール樹脂(ただし、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂を除く)と、アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂またはポリビニルブチラール樹脂の少なくともいずれか一方と、を含むボンド磁石用樹脂組成物の製造方法であって、
表面に溝が設けられた一対のロールを用いて前記Sm-Fe-N系磁性粉末と前記フェノール樹脂とを混練する混練工程を備えるボンド磁石用樹脂組成物の製造方法。
5. 前記ロールから落下した前記Sm-Fe-N系磁性粉末と前記フェノール樹脂を一対のロールによる混練に戻しながら、前記混練工程を行う4.に記載のボンド磁石用樹脂組成物の製造方法。
【実施例
【0041】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
実施例1~4および比較例1~4の各ボンド磁石用樹脂組成物を表1に示す成分および含有率になるように調製した。表1に示す成分の詳細は以下のとおりである。
Sm-Fe-N系磁性粉末:住友金属鉱山製、SFN-C
ノボラック型フェノール樹脂:住友ベークライト株式会社製、PR-HF-3
アラルキル変性ノボラック型フェノール樹脂:三井化学株式会社製、XLC-4L
ポリビニルブチラール樹脂:積水化学工業株式会社製、BX-5
トリスフェニルメタン型エポキシ樹脂:三菱ケミカル株式会社製、1032H60
硬化剤:ヘキサメチレンテトラミン
2級アミノシランカップリング剤:信越化学工業株式会社製、KBM-573
離型剤1:Ca-St(ステアリン酸カルシウム)
離型剤2:カルナバワックス
リン系硬化触媒:北興化学工業株式会社製、TPP
【0043】
<混練方法>
一般的な2本のロールを用いたオープンロール方式(以下、「通常ロール」と記載)と、図1に示したような溝付きロールと材料戻し機構を備えたオープンロール方式(以下、「特殊ロール」と記載)の2方式のいずれかの方法で、表1に示す成分および配合の混合物に対して混練を行った。混練条件を以下に記載する。
・通常ロールの条件
前ロール温度:110℃
後ロール温度:25℃
前後ロール回転比:0.7
・特殊ロールの条件
前ロール温度:110℃
後ロール温度:25℃
前後ロール回転比:0.7
【0044】
(耐久性)
ボンド磁石用樹脂組成物を用いて、下記成形条件にて4mm角、長さ60mmの四角柱の試験片を成形した。
温度:175℃
時間:3分
圧力:500MPa
成形機:37tの圧縮成形機
得られた試験片について150℃、4時間の焼成後、さらに180℃、4時間の焼成を実施した。この試験片について、引張強度試験を実施した。なお、試験片の引張強度に磁気特性は影響を与えないと考えられるため、着磁については省略した。
焼成後の試験片に対して、85℃、85RH%、500時間の処理を行った。処理後の試験片について、引張強度試験を実施した。
処理前および処理後の引張強度試験はテンシロン万能試験機(株式会社島津製作所社製)を用いて実施した。試験条件は、チャック間距離を20mmとし、試験速度を5mm/分とした。
処理前の初期の引張強度をX1とし、処理後の引張強度をX2とし、以下の式1から、引張強度変化率Δを算出した。結果を表1に示す。
引張強度変化率Δ=(X2-X1)/X1×100 (式1)
【0045】
(密度の評価方法)
ボンド磁石用樹脂組成物を用いて、下記成形条件にてφ16mm、高さ5mmの円柱状の試験片を成形した。
温度:175℃
時間:3分
圧力:500MPa
成形機:37tの圧縮成形機
この試験片の比重を水中置換法で測定した。得られた値をY1とし、樹脂の比重をY2(フェノール樹脂の比重1.25、エポキシ樹脂の比重1.30)とし、Sm-Fe-N系磁性粉末の比重をY3(7.47)とし、以下の式2から、密度(体積%)を算出した。密度について得られた結果を表1に示す。
密度(体積%)=(Y1-Y2)/(Y3-Y2)×100 (式2)
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示すように、実施例1~4の各ボンド磁石用樹脂組成物は、引張強度変化率Δがいずれも-15%以上に抑えられており、各実施例のボンド磁石用樹脂組成物から得られるボンド磁石の耐久性の向上を図ることができた。一方、比較例1~4の各ボンド磁石用樹脂組成物での引張強度変化率Δは、いずれも-15%より落ち込み、各比較例のボンド磁石用樹脂組成物から得られるボンド磁石は耐久性が不十分であることが確認された。
【符号の説明】
【0048】
10 ロール装置
20 前ロール
30 後ロール
40 材料戻し機構
図1