IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日油株式会社の特許一覧

特許7528601ジアルキルペルオキシド化合物、ゴム組成物、ならびに架橋ゴムおよびその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ジアルキルペルオキシド化合物、ゴム組成物、ならびに架橋ゴムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 409/16 20060101AFI20240730BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20240730BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
C07C409/16 CSP
C08K5/14
C08L21/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020124647
(22)【出願日】2020-07-21
(65)【公開番号】P2022021189
(43)【公開日】2022-02-02
【審査請求日】2023-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】詫摩 佳奈子
(72)【発明者】
【氏名】林 昌樹
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-141736(JP,A)
【文献】特開昭55-56142(JP,A)
【文献】特開2003-105134(JP,A)
【文献】特開2000-273244(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08K
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
で表されることを特徴とするジアルキルペルオキシド化合物。
【請求項2】
請求項1に記載のジアルキルペルオキシド化合物と、ゴムを含むことを特徴とするゴム組成物。
【請求項3】
請求項2に記載のゴム組成物から形成されることを特徴とする架橋ゴム。
【請求項4】
請求項2に記載のゴム組成物を、120~250℃で加熱する工程を含むことを特徴とする架橋ゴムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアルキルペルオキシド化合物、ゴム組成物、ならびに架橋ゴムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機過酸化物は、ゴムや熱可塑性エラストマー、樹脂の架橋剤として広く利用されており、有機過酸化物による架橋は、硫黄加硫と比較して、架橋ゴムの機械的物性や耐熱性などの向上を図ることができる。これは、有機過酸化物による架橋で形成される炭素-炭素結合が、硫黄架橋により形成される炭素-硫黄結合よりも化学的に安定であるためと考えられる。
【0003】
有機過酸化物としては、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン等のペルオキシケタール類や、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド等が使用されている。ただし、ペルオキシケタール類は比較的低温で分解することで架橋反応が起こり、ゴムの混練工程や貯蔵中にスコーチと呼ばれる部分架橋が起こる可能性を有する。このようなスコーチが懸念される場合には、高温で分解するジアルキルペルオキシドが選択される。
【0004】
しかしながら、有機過酸化物を架橋剤として使用した場合、有機過酸化物の分解生成物が架橋ゴム中に残留し、臭気の原因となることが多い。例えば、ジクミルペルオキシドを架橋剤として使用した場合、ジクミルペルオキシドの分解生成物の一部として、アセトフェノンが生成し、アセトフェノンが架橋ゴムに残留することで、その臭気の改善を求められる(特許文献1)。
【0005】
一方、有機過酸化物の種類により、架橋ゴムの臭気が改善されることが既に知られており、ジ-t-ヘキシルペルオキシド等を使用することで架橋ゴムの臭気が低減されることが開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-63280号公報
【文献】特開2000-273244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
昨今の要求品質の高度化に伴い、更なる臭気の改善が要求されている。特に、高温の密閉された空間で使用される自動車内装部品や、顔の近くで使用される防護マスクなどの製品ではその改善の要求が非常に強い。
【0008】
上記の特許文献2で開示されたジ-t-ヘキシルペルオキシド等の有機過酸化物は、揮発性が高いため、当該化合物を含むゴム組成物の製造時や保管時に、当該化合物の含有量(純度保持率)が変化してしまう問題があった。
【0009】
更に、上記の特許文献2で開示されたジ-t-ヘキシルペルオキシド等の有機過酸化物で架橋した架橋ゴムの機械特性は十分ではなく、架橋性能の向上が望まれていた。
【0010】
以上のような事情に鑑み、本発明は、架橋ゴムの臭気を低減させることができ、かつ貯蔵安定性や架橋性能に優れる有機過酸化物(ジアルキルペルオキシド化合物)を提供することを目的とする。
【0011】
さらに、本発明は、上記の有機過酸化物(ジアルキルペルオキシド化合物)を含むゴム組成物、ならびに架橋ゴムおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は、一般式(1):
【化1】
で表されるジアルキルペルオキシド化合物に関する。
【0013】
また、本発明は、前記ジアルキルペルオキシド化合物と、ゴムを含むゴム組成物に関する。
【0014】
また、本発明は、前記ゴム組成物から形成される架橋ゴムに関する。
【0015】
また、本発明は、前記ゴム組成物を、120~250℃で加熱する工程を含む架橋ゴムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のジアルキルペルオキシド化合物における効果の作用メカニズムの詳細は不明な部分があるが、以下のように推定される。ただし、本発明は、この作用メカニズムに限定して解釈されない。
【0017】
有機過酸化物はそれぞれ分解生成物が異なり、本発明のジアルキルペルオキシド化合物は、ゴム組成物を架橋させる際に発生する分解生成物の臭気が低いため、架橋ゴムの臭気を低減させることができる。また、本発明のジアルキルペルオキシド化合物は、特許文献2で開示されたジ-t-ヘキシルペルオキシド等の有機過酸化物と比較して揮発性が低いことから、貯蔵安定性に優れるため、ゴム用の架橋剤として有用である。
【0018】
また、特許文献2で開示されたジ-t-ヘキシルペルオキシド等の有機過酸化物は、熱分解によりt-ヘキシルオキシラジカルが生成した後、速やかにβ開裂することでプロピルラジカル等のアルキルラジカルを生成する。このプロピルラジカル等のアルキルラジカルは、水素引き抜き能力があまり高くないため、架橋性能が十分ではない。一方、本発明のジアルキルペルオキシド化合物は、t-ヘキシルオキシラジカルとともに、2つのフェニルプロピルオキシラジカルを生成する。このフェニルプロピルオキシラジカルのβ開裂反応はあまり速くはないため、フェニルプロピルオキシラジカルとβ開裂反応により生成するメチルラジカルが反応を行うが、これらのラジカルの水素引き抜き能力が高いため、架橋性能に優れる効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<ジアルキルペルオキシド化合物>
本発明のジアルキルペルオキシド化合物は、下記一般式(1)で表すことができる。
【化2】
【0020】
前記一般式(1)中、ジアルキルペルオキシドの置換位置は、特に限定されないが、機械特性に優れる架橋ゴムが得られる点から、m体、またはp体、m体とp体の混合物であることが好ましく、原料の入手性の点からm体であることがさらに好ましい。
【0021】
<ジアルキルペルオキシド化合物の製造方法>
前記一般式(1)で表されるジアルキルペルオキシド化合物の製造方法は、何ら限定されるものではないが、例えば、一般式(2):
【化3】
で表されるヒドロペルオキシド化合物と、一般式(3):
【化4】
で表されるアルコール化合物を反応させる工程(以下、工程(A)とも称す)を含む製造方法が挙げられる。
【0022】
前記工程(A)において、前記一般式(2)で表されるヒドロペルオキシド化合物、前記一般式(3)で表されるアルコール化合物は、市販品を使用してもよい。
【0023】
前記工程(A)において、前記一般式(2)で表されるヒドロペルオキシド化合物は、前記一般式(3)で表されるアルコール化合物1.0モルに対して、目的物の収率性を高める観点から、2.0モル以上反応させることが好ましく、そして、7.5モル以下反応させることが好ましい。
【0024】
前記工程(A)の反応温度は、目的物の収率性を高める観点から、20℃以上であることが好ましく、30℃以上であることがより好ましく、そして、安全性の観点から50℃以下であることが好ましく、45℃以下であることがより好ましい。
【0025】
前記工程(A)の反応時間は、原料や反応温度などによって異なるので一概には決定できないが、通常、目的物の収率性を高める観点から、0.5時間以上であることが好ましく、1時間以上であることがより好ましく、そして、3時間以下であることが好ましい。
【0026】
前記工程(A)は、有機溶媒を用いることが好ましい。前記有機溶媒は特に制限されないが、反応系内で不活性な有機溶媒であることが好ましい。前記有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、トルエンなどの非極性化合物;アセトン、アセトニトリルなどの極性化合物などが挙げられる。前記有機溶媒は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0027】
前記工程(A)において、前記有機溶媒の使用量は特に制限されないが、通常、アルコール化合物100質量部に対して、3~300質量部程度である。
【0028】
前期工程(A)において、酸触媒を用いることが好ましい。前記酸触媒は特に制限されないが、例えば、酢酸、硫酸、過塩素酸などが挙げられる。前記酸触媒は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0029】
前記工程(A)において、前記酸触媒の使用量は特に制限されないが、通常、原料のアルコール化合物1モルに対して0.02モル以上使用することが好ましく、そして5モル以下使用することが好ましい。
【0030】
得られた目的物の同定は、液体クロマトグラフィー(LC)、核磁気共鳴分光法(NMR)、赤外分光法(IR)、質量分析法(MS)などを用いて行うことができる。
【0031】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、前記ジアルキルペルオキシド化合物と、ゴムを含む。前記ゴムは、有機過酸化物による架橋を必要とする公知のものが使用でき、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。前記ゴムとしては、例えば、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(NBR)、水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(H-NBR)、エチレン・α-オレフィン共重合体などが挙げられる。
【0032】
<エチレン・プロピレンゴムおよび/または前記エチレン・プロピレン・ジエンゴム>
前記エチレン・プロピレンゴムおよび/または前記エチレン・プロピレン・ジエンゴム中のプロピレン含有量は、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。また、前記エチレン・プロピレンゴムおよび/または前記エチレン・プロピレン・ジエンゴムは、ムーニー粘度(ML1+4 100℃)が30以上であることが好ましい。前記エチレン・プロピレンゴムおよび/または前記エチレン・プロピレン・ジエンゴムは、ムーニー粘度およびプロピレン含有量の上限はとくに限定されないが、一般的に入手可能なものとしては、ムーニー粘度(ML1+4 100℃)が150以下程度であり、プロピレン含有量が50質量%以下程度である。前記エチレン・プロピレンゴムおよび/または前記エチレン・プロピレン・ジエンゴムは、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。なお、前記エチレン・プロピレンゴムおよび/または前記エチレン・プロピレン・ジエンゴムの重合方法は公知の手法を適用できる。
【0033】
前記エチレン・プロピレン・ジエンゴムにおいて、構成単位のジエンモノマーとしては、特に限定されず、例えば、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-プロピリデン-5-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの環状ジエン類;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,7-オクタジエンなどの鎖状非共役ジエン類などが挙げられる。
【0034】
前記エチレン・プロピレンゴムおよび/またはエチレン・プロピレン・ジエンゴムの市販品としては、可塑剤などを含有する油展グレードと、可塑剤などを含有しない非油展グレードがあり、ゴムに求められる物性によって適宜選択すればよい。前記エチレン・プロピレンゴムおよび/またはエチレン・プロピレン・ジエンゴムの非油展グレードの市販品としては、例えば、商品名:「三井EPT3045」、「三井EPTX―4010M」、「三井EPT4021」、「三井EPT4045」、「三井EPT4045M」、「三井EPT8030M」(以上、三井化学製のEPDM)、商品名:「JSREP33」、「JSRT7241」、「JSREP21」、「JSREP51」、「JSREP22」、「JSREP123」(以上、JSR社製のEPDM)、商品名:「三井EPT0045」(以上、三井化学製のEPM)、商品名:「JSREP11」(以上、JSR製のEPM)などが挙げられる。
【0035】
<アクリロニトリル-ブタジエン共重合体>
前記アクリロニトリル-ブタジエン共重合体中のニトリル含有量は、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。また、前記アクリロニトリル-ブタジエン共重合体は、ムーニー粘度(ML1+4 100℃)が30以上であることが好ましい。前記共重合体は、ムーニー粘度およびニトリル含有量の上限はとくに限定されないが、一般的に入手可能なものとしては、ムーニー粘度(ML1+4 100℃)が90以下程度であり、ニトリル含有量が50質量%以下程度である。前記アクリロニトリル-ブタジエン共重合体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。なお、前記アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の重合方法は公知の手法を適用できる。
【0036】
前記アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の市販品としては、例えば、商品名:「N238H」、「N232S」、「N230SV」(以上、JSR製のNBR)などが挙げられる。
【0037】
<水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体>
前記水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体中のニトリル含有量は、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましい。また、前記水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体は、ムーニー粘度(ML1+4 100℃)が30以上であることが好ましい。前記共重合体は、ムーニー粘度およびニトリル含有量の上限はとくに限定されないが、一般的に入手可能なものとしては、ムーニー粘度(ML1+4 100℃)が90以下程度であり、ニトリル含有量が50質量%以下程度である。前記水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。なお、前記水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の重合方法は公知の手法を適用できる。
【0038】
前記水素化アクリロニトリル-ブタジエン共重合体の市販品としては、例えば、商品名:「Zetpol1010」、「Zetpol2001L」、「Zetpol2020」(以上、日本ゼオン製のH-NBR)などが挙げられる。
【0039】
<エチレン・α-オレフィン共重合体>
前記エチレン・α-オレフィン共重合体の重合方法は公知の手法を適用でき、例えば、エチレンと、炭素数3~20のα-オレフィンとを共重合することによって得られる。α-オレフィンとしては、通常、炭素数3~20のα-オレフィンを1種類単独でまたは2種類以上を組み合わせて用いることができる。炭素数3~20のα-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセンなどの直鎖状または分岐状のα-オレフィンが挙げられる。これらの中でも好ましいのは、炭素数が10以下であるα-オレフィンであり、特に好ましいのは炭素数が3~8のα-オレフィンである。入手の容易さからプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテンおよび1-オクテンが好ましい。なお、エチレン・α-オレフィン共重合体はランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよいが、柔軟性の観点からランダム共重合体が好ましい。
【0040】
さらに、前記エチレン・α-オレフィン共重合体は、エチレンと、炭素数3~20のα-オレフィンと非共役ポリエンとを含む共重合体であってもよい。α-オレフィンは前述と同様であって、非共役ポリエンとしては、例えば、5-エチリデン-2-ノルボルネン(ENB)、5-ビニル-2-ノルボルネン(VNB)、ジシクロペンタジエン(DCPD)などが挙げられる。これら非共役ポリエンを1種単独、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体は、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o,p-ジメチルスチレン、メトキシスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルベンジルアセテート、ヒドロキシスチレン、p-クロロスチレン、ジビニルベンゼン、3-フェニルプロピレン、4-フェニルプロピレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物;シクロペンテン、シクロヘプテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネンなどの炭素数が3~20の環状オレフィン類等を併用してもよい。
【0042】
前記エチレン・α-オレフィン共重合体の市販品としては、例えば、三井化学社製のタフマー(商標登録)、DOW社製のENGAGE(商標登録)、エクソンモービル社製のEXACT(商標登録)、日本ポリエチレン社製のカーネル(商標登録)などが挙げられる。
【0043】
前記ジアルキルペルオキシド化合物は、架橋トルクの観点から、前記ゴム100質量部に対して、0.3質量部以上であることが好ましく、1.0質量部以上であることがより好ましく、そして、ゴムの伸びの観点から、10質量部以下であることが好ましく、6質量部以下であることがより好ましい。
【0044】
また、前記ゴム組成物は、耐摩耗性の観点から、カーボンブラックを含んでいてもよい。
【0045】
前記カーボンブラックとしては、市販のものを用いることができ、一般に補強剤として用いられているファーネスブラックを用いることができる。前記カーボンブラックは、瀝青質微粉末を高充填する際の混練性および成形性といった観点から、好ましくは窒素吸着比表面積が20~60m/gであって、DBP吸油量が40~130ml/100gのもの、例えば、FEFカーボンブラック、SRFカーボンブラックなどが用いられる。
【0046】
前記カーボンブラックの市販品としては、商品名:「シーストSO」、「シーストS」(以上、東海カーボン製)、「旭#55」、「旭#51」、「旭#50」(以上、旭カーボン製)などが挙げられる。
【0047】
前記ゴム組成物に、前記カーボンブラックを含む場合、前記カーボンブラックは、耐摩耗性の観点から、前記ゴム100質量部に対して、5質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、そして、ゴムの伸びの観点から、150質量部以下であることが好ましく、120質量部以下であることがより好ましい。
【0048】
また、前記ゴム組成物は、上記のジアルキルペルオキシド化合物以外の他の有機過酸化物を併用してもよく、併用は2種類以上でもよい。また、前記ゴム組成物は、エラストマーの加工で一般的に使用される架橋助剤、充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、難燃化剤などの添加剤、プロセスオイルなどの可塑剤、ステアリン酸などの滑剤などのその他の成分を任意の割合で配合することができる。前記その他の成分は、単独で用いてもよく2種類以上を併用してもよい。
【0049】
前記ゴム組成物に、前記その他の成分等を含む場合、前記ゴム組成物中、前記ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましく、そして、50質量部以下であることが好ましく、40質量部以下であることがより好ましい。
【0050】
<ゴム組成物の製造方法>
前記ゴム組成物の製造方法は、上記の各成分を混合することにより得ることができる。混練方法は、エラストマーの加工で一般的に用いられている公知の手法を使用することができ、例えば、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機、トランスファーミキサーなどの混練機が使用可能であり、ニーダーが好ましい。
【0051】
<架橋ゴム>
本発明の架橋ゴムは、前記ゴム組成物から形成される。具体的には、前記ゴム組成物を加熱(架橋)することにより得られる。加熱(架橋)方法は、公知の方法で実施でき、使用される有機過酸化物の種類および架橋しようとするゴムの種類、必要とする物性などによって適宜決めればよく、例えば、プレス、押出機などを使用することができる。加熱温度は120℃から250℃であることが好ましく、130℃から200℃であることがより好ましい。加熱時間は3分から60分であることが好ましく、3分から60分であることがより好ましい。
【実施例
【0052】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0053】
<製造例1>
<ジアルキルペルオキシド化合物の合成>
500mL丸底フラスコに、t-ヘキシルヒドロペルオキシド(純度85.0%、171.02g、6.15mol)をヘキサン(3.0g)に溶解・攪拌させ、氷酢酸(30.50g、0.51mol)、ジヒドロキシ-1,3-ジイソプロピルベンゼン(38.86g、6.15mol)を添加・攪拌させた。上記溶液を30℃まで昇温し、過塩素酸(純度70.0%、2.34g、0.08mol)を滴下した。滴下終了後1.5時間攪拌し、得られた溶液を3%NaOH水溶液で洗浄したのちに水で洗浄した。その後、硫酸ナトリウムと硫酸マグネシウムを用いて脱水し、上記の一般式(1)で表されるジアルキルペルオキシド化合物を含む混合物を得た。続いて、シリカゲルクロマトグラフィーを用いて単離し、上記の一般式(1)で表されるジアルキルペルオキシド化合物(67.87g、純度99.9%、収率86%)を得た。
【0054】
なお、上記の一般式(1)で表されるジアルキルペルオキシド化合物の構造は、AVANCEN NMRスペクトルメーター(BRUCKER社製)を用いたH-NMR測定、13C-NMR測定及びTOFMS(JEOL社製)にて同定した。また純度はLC(日本分光製LC-2000Plus series)において単純面積法から算出した。
【0055】
H-NMR(CDCl,内部標準TMS);δ(ppm):
0.88(6H,t,-O-C(CHCHCH )、1.18(12H,s,-O-C(C CHCHCH)、1.26-1.39(4H,m,-O-C(CHCH CH CH)、1.46-1.60(16H,m,-C(C -O-O-C(CHCHCHCH)、7.34(3H,m,arom.H)、7.59(1H,s,arom.H)
分子量:394
【0056】
<実施例1>
<ゴム組成物の製造>
ロール機(東洋精機社製)を50℃に加熱し、EPDM(商品名「EP21」、三井化学(株)製)を混練した。混練しながら、上記のEPDM100gに対して、カーボンブラック(商品名「シーストG-SO」、東海カーボン(株)製)100g、上記で得られた一般式(1)で表されるジアルキルペルオキシド化合物を1.97g(5mmol)混合し、ゴム組成物(ゴムシート、10cm×20cm)を得た。
【0057】
<貯蔵安定性の評価>
上記のゴム組成物を50℃のインキュベータ内で1ヶ月保管し、ゴム組成物中の有機過酸化物の純度をGCにて測定した。GC測定は、ゴム組成物中の有機過酸化物をシクロヘキサンにて抽出し、その抽出液をフィルター濾過したサンプルをGCに打ち込み、50℃から200℃まで昇温することで分析した。この測定結果より、有機過酸化物の純度保持率(%)を下記式にて算出した。結果を表1に示す。
【数1】
【0058】
<臭気の評価>
上記のゴム組成物を160℃で20分間加熱し、架橋ゴムを得た。臭気の評価は、架橋ゴム試験片(2cm×4cm)を、鼻の正面から1cmの位置で水平になるよう構え、臭いを嗅ぐことで評価した。なお、評価は、24~55歳の男女10人を対象として、下記基準により5段階で評価した後、それらを平均して判定した。結果を表1に示す。
評価点;5点:臭気が無い、4点:僅かに臭気が認められる、3点:刺激臭ではないが臭気が認められる、2点:僅かに刺激臭が認められる、1点:刺激臭が認められる。
判定記号;平均点4.0点以上:◎、平均点3.0点以上4.0点未満:○、平均点2.0点以上3.0点未満:△、平均点1.0点以上2.0点未満:×。
【0059】
<架橋性能の評価>
上記のゴム組成物をJSRトレーディング社製キュラストメータにて、160℃で架橋試験を行った。得られた架橋ゴムの物性は、一般的に、MH(最大トルク値)、t10(最大トルク値の10%の値を示した時間)、t90(最大トルク値の90%の値を示した時間)で表される。MHは架橋の程度を示しており、1.4N・m以上であることが好ましい。また、t10は混錬中のスコーチの目安となり、t90は架橋速度の目安となるため、t10が2.0分以上であり、t90/t10が7.0以上7.9以下であることが好ましい。結果を表1に示す。
【0060】
<実施例2>
実施例1の一般式(1)で表されるジアルキルペルオキシド化合物の使用量を、3.95g(10mmol)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作方法にて、ゴム組成物を得た後、上記の評価を行った。
【0061】
<比較例1>
実施例1の一般式(1)で表されるジアルキルペルオキシド化合物を、ジ-(2-t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン(化合物A)1.69g(5mmol)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作方法にて、ゴム組成物を得た後、上記の評価を行った。
【0062】
<比較例2>
実施例1の一般式(1)で表されるジアルキルペルオキシド化合物を、ジクミルペルオキシド(化合物B)2.70g(10mmol)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作方法にて、ゴム組成物を得た後、上記の評価を行った。
【0063】
<比較例3>
実施例1の一般式(1)で表されるジアルキルペルオキシド化合物を、ジ-t-ヘキシルペルオキシド(化合物C)2.02g(10mmol)に変更したこと以外は、実施例1と同様の操作方法にて、ゴム組成物を得た後、上記の評価を行った。
【0064】
【表1】
【0065】
一般式(1)で表されるジアルキルペルオキシド化合物は、化合物AおよびBと比較して、低臭気を示しており、さらに、化合物Cと比較して、貯蔵安定性や架橋性能に優れていることが明らかである。