IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社大林組の特許一覧

<>
  • 特許-基礎杭 図1
  • 特許-基礎杭 図2
  • 特許-基礎杭 図3
  • 特許-基礎杭 図4
  • 特許-基礎杭 図5
  • 特許-基礎杭 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】基礎杭
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/34 20060101AFI20240730BHJP
   E02D 27/12 20060101ALI20240730BHJP
   E04B 1/20 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
E02D27/34 Z
E02D27/12 Z
E04B1/20 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020127401
(22)【出願日】2020-07-28
(65)【公開番号】P2022024680
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】高野 真一郎
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-089455(JP,A)
【文献】特開2004-257120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/34
E02D 27/12
E04B 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物を支持する杭本体と、
該杭本体の外周に設けられ、該杭本体より径の大きい外装筒体と、
該外装筒体と前記杭本体との間に設けられ、両者間で軸線方向の位置ずれが生じた場合には変形し、軸線直交方向の力が作用した場合には該軸線直交方向の力を伝達する水平力伝達部材と、を備え、
前記水平力伝達部材は、径の異なる2つのリング状部材を同心円状に配置し、複数の梁部材で連結したものであり、内周縁が前記杭本体の外周面に固定されているとともに、外周縁は外装筒体の内周面に固定されていることを特徴とする基礎杭。
【請求項2】
請求項1に記載の基礎杭において、
前記杭本体が、複数の分割杭本体を備えるとともに、
前記外装筒体が、複数の分割筒体を備え、
前記水平力伝達部材は、内周縁が前記分割筒体に装着された補強バンドに固定されるとともに、外周縁が前記分割筒体の内周面に固定されることを特徴とする基礎杭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下方向の振動を発生する建物を支持する基礎杭に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物を支持する基礎構造に基礎杭を用いる場合が多い。例えば、特許文献1では、基礎杭として既製杭であるPHC杭(遠心力高強度プレストレストコンクリート杭)を採用し建物を支持している。そして、このPHC杭を用いて建物を支持するにあたっては、建物の床版と一体になるような状態でPHC杭を配置し、床版とPHC杭の側面との間に接合治具を介装して両者を接合している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-226098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、基礎杭として採用した既製杭と床版とを一体に接合すると、既製杭を建物の支持だけでなく、床版を支持する柱としても利用することができるため、建物構築時のコストダウンを図ることができるといった効果を奏する。しかし、この建物が、上下方向の振動を発生するような集客施設として利用される場合には、周辺環境や周辺建物に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
具体的には、建物が例えばライブハウスとして利用されている場合、観客が建物の床上で演奏に合わせてジャンプなどすることにより、いわゆる「縦ノリ振動」を生じる場合がある。「縦ノリ振動」は、低周波数の垂直振動であることが広く知られており、床から建物の基礎を介して軟弱な表層地盤に伝わると、表層地盤中で距離減衰するものの水平方向の振動が増幅する。この水平方向の振動が表層地盤から周辺の建物に入力すると、居住者に悪影響を及ぼしたり、建物に亀裂を生じる等の振動障害を生じかねない。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、建物で発生した「縦ノリ振動」等の上下方向の振動により、周辺建物に悪影響を及ぼす事態を抑制することの可能な基礎杭を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、本発明の基礎杭は、建物を支持する杭本体と、該杭本体の外周に設けられ、該杭本体より径の大きい外装筒体と、該外装筒体と前記杭本体との間に設けられ、両者間で軸線方向の位置ずれが生じた場合には変形し、軸線直交方向の力が作用した場合には該軸線直交方向の力を伝達する水平力伝達部材と、を備え、前記水平力伝達部材は、径の異なる2つのリング状部材を同心円状に配置し、複数の梁部材で連結したものであり、内周縁が前記杭本体の外周面に固定され、外周縁は外装筒体の内周面に固定されていることを特徴とする。また、前記杭本体が、複数の分割杭本体を備えるとともに、前記外装筒体が、複数の分割筒体を備え、前記水平力伝達部材は、内周縁が前記分割筒体に装着された補強バンドに固定されるとともに、外周縁が前記分割筒体の内周面に固定されることを特徴とする。
【0008】
本発明の基礎杭によれば、建物を支持する杭本体とその外周に設けられる外装筒体との間に、杭本体と外装筒体との間で軸線方向の位置ずれが生じた場合に変形する水平力伝達部材が設けられる。これにより、「縦ノリ振動」のような上下方向の振動が生じる建物を支持した際、この振動が建物から杭本体に作用しても、外装筒体への伝達を抑制することができる。
【0009】
したがって、外装筒体を軟弱な表層地盤の高さ範囲に配置すれば、建物で発生した上下方向の振動が、外装筒体を介して軟弱な表層地盤に伝達されたのち、この表層地盤内で水平方向の振動を増幅させ、周辺建物に入力して居住者に悪影響を及ぼしたり、建物に振動障害を引き起こすといった現象を回避することが可能となる。
【0010】
また、水平力伝達部材が、外装筒体と杭本体との間で軸線直交方向の力を伝達するから、地盤中で鉛直状に建て込まれる基礎杭にあたかも拡頭杭のような高い水平抵抗力を確保することができ、耐震性能の向上を図ることも可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、建物を支持する杭本体とその外周に設ける外装筒体との間に、杭本体と外装筒体との間で軸線方向の位置ずれが生じた場合に変形する水平力伝達部材を配置することで、建物で発生した上下方向の振動が建物から杭本体及び外装筒体を介して軟弱地盤に伝達され、周辺建物に悪影響を及ぼすといった事態を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態における基礎杭にて建物を支持する様子を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における基礎杭の詳細を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における水平力伝達部材の挙動を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における基礎杭に鉛直力及び水平力が作用した状態を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における基礎杭の構造を示す図である。
図6】本発明の実施の形態における基礎杭の構築方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、「縦ノリ振動」のような上下方向の振動を発生する建物を支持する基礎杭であって、建物で発生した振動が軟弱な表層地盤に伝達する現象を抑制可能にしたものである。以下に、このような建物を支持する基礎杭の詳細を、図1図6を参照しつつ説明する。
【0014】
なお、本実施の形態では、建物について、ライブハウスとして利用されている場合を事例に挙げるが、コンサートホールやスタジアムのスタンドのような集客施設、もしくは振動を発生する機械設備室等、低周波数の上下方向の振動を発生するいずれの施設に利用される建物であっても対応可能である。また、基礎杭について、プレボーリング工法により構築された場合を事例に挙げるが、その構築方法はいずれによるものであってもよい。
【0015】
≪≪基礎杭の詳細≫≫
図1及び図2(a)で示すように、ライブハウスとして利用される建物200を支持する基礎構造に用いられている複数の基礎杭100はそれぞれ、杭本体110と、外装筒体120と、水平力伝達部材130とを備えている。
【0016】
杭本体110は既製杭よりなり、図1で示すように、地盤中に貫入された状態において、先端部が支持層E3に築造された根固め部140に埋設され、頭部は、フーチング210に貫入されている。また、杭本体110の上部側であって軟弱な表層地盤E1に位置する範囲は、同心状に設けられた外装筒体120により囲繞されている。なお、根固め部140は、地盤状況や施工方法によっては必ずしも設けなくてもよい。
【0017】
外装筒体120は、図2(a)で示すように、杭本体110の外径より大径かつ短小な管状部材よりなり、本実施の形態では鋼管を採用している。そして、図1で示すように、地盤中で軟弱な表層地盤E1を貫通するように配置された状態で、その頭部が杭本体110の頭部より十分低い高さ位置に配置されるとともに、先端部が中間層E2に貫入されている。
【0018】
また、外装筒体120はその外周面が、表層地盤E1に接するようにして配置されるとともに、図2(a)で示すように、外装筒体120と杭本体110との間に空間が形成されている。この空間には、一対の水平力伝達部材130が高さ方向に間隔を有して設けられており、杭本体110と外装筒体120とを連結している。
【0019】
水平力伝達部材130は、図2(a)(b)で示すように、ドーナツ形状の鋼板よりなり、外径が外装筒体120の内径と略同一で、内径が杭本体110の外径と略同一に形成されている。そして、その上下面が杭本体110の軸線と直交する姿勢で、内縁部132を杭本体110の外周面に固定され、外縁部131は、外装筒体120の内周面に固定されている。
【0020】
また、水平力伝達部材130は、杭本体110と外装筒体120との間に配置された状態において、図3(a)で示すように、杭本体110と外装筒体120との間で軸線方向(鉛直方向)の位置ずれが生じた際には、容易に変形する。その一方で、図3(b)で示すように、杭本体110もしくは外装筒体120のいずれかが軸線直交方向(水平方向)に移動した際には、変形することなくこれを相互に伝達する。
【0021】
このような性能は、水平力伝達部材130を構成する鋼板の板厚を調整することによって付与してもよいし、採用する鋼板の材質を選定することで付与してもよい。また、水平力伝達部材130は、必ずしもドーナツ形状の鋼板に限定されるものではない。
【0022】
例えば、図2(c)で示すように、2つのリング状部材133、134を同心円状に配置し、これを複数の梁部材135で連結する等、杭本体110と外装筒体120との間で、軸線直交方向(水平方向)に作用する力を伝達できる構造を有していれば、いずれを採用してもよい。
【0023】
上述する構成により基礎杭100は地盤中に鉛直状に配置された際、図4(a)で示すように、例えば地震の発生等によってフーチング210に埋設されている杭本体110の頭部に水平力が作用されると、この水平力を水平力伝達部材130及び外装筒体120を介して、表層地盤E1や中間層E2等の周辺地盤に伝達できる。
【0024】
このように、杭本体110と外装筒体120及び水平力伝達部材130とが相まって、基礎杭100にあたかも拡頭杭のような高い水平抵抗力を確保することができる。したがって、基礎杭100における耐震性能の向上を図ることが可能となる。
【0025】
その一方で、図4(b)で示すように、建物200から基礎梁220及びフーチング210を介して杭本体110に鉛直力が作用され、杭本体110と外装筒体120との間で位置ずれが生じると、水平力伝達部材130が積極的に変形する。これにより鉛直力は、外装筒体120及び表層地盤E1にはほぼ伝達されず、杭本体110に接する杭周面固定部150及び根固め部140を介して、中間層E2及び支持層E3等、表層地盤E1以深の周辺地盤に伝達される。
【0026】
したがって、ライブハウスとして利用される建物200において、観客が建物200内の床スラブ上で演奏に合わせてジャンプしたり、踵着地や軽い屈伸もしくはつま先立ちの繰り返すことにより、いわゆる「縦ノリ振動」が生じる。このような場合にも、図1で示すように、この振動が表層地盤E1へ伝達することを抑制することができる。
【0027】
これにより、建物200で発生した「縦ノリ振動」が周辺の建物に入力することを防止できるため、居住者に悪影響を及ぼしたり、建物に振動障害を引き起こすといった現象を回避することが可能となる。
【0028】
本実施の形態では、このように機能する水平力伝達部材130を外装筒体120の上端部近傍と下端部近傍の2か所に設けている。しかし、その数量や配置位置はこれに限定されるものではない。杭本体110と外装筒体120との間で、水平力は伝達するものの、鉛直力は伝達することのないよう設けられていれば、いずれの位置にいずれの数量を設けてもよい。
【0029】
≪≪基礎杭の構造の一例≫≫
上述する構成の基礎杭100は、杭頭から杭先端に至るまで連続する1本の杭体として構築してもよいが、図6(c)で示すように、長さ方向に分割して構築時に順次連結可能な構造とするとよい。
【0030】
具体的には、基礎杭100を、軟弱な表層地盤E1の高さ範囲に配置される上部側杭部材101と、上部側杭部材101の下端から支持層E3に至る高さ範囲に配置される下部側杭部材102との組み合わせにより構成する。杭本体110にPHC杭(遠心力高強度プレストレストコンクリート杭)を採用した場合を事例に挙げて、以下に上部側杭部材101と下部側杭部材102の詳細を、図5を参照しつつ説明する。
【0031】
図5で示すように、下部側杭部材102は、杭本体110そのものを分割した分割杭体110aよりなる部材である。したがって、これを長手方向に連結する際には、分割杭体110aの両端部に設けられている端板112どうしを突き合わせて連結すればよい。
【0032】
一方、上部側杭部材101は、分割杭体110aと、一対の水平力伝達部材130と、外装筒体120を分割した形状の分割筒体120aとにより構成されている。これらは、水平力伝達部材130の内縁部132が、分割杭体110aの上端部近傍及び下端部近傍に装着された補強バンド111に、溶接等の固着手段を介して固着されている。また、水平力伝達部材130の外縁部131が、分割筒体120aの上端部近傍及び下端部近傍における内周面に、同じく溶接等の固着手段により固着されている。
【0033】
そして、上部側杭部材101では、分割杭体110aの上端部及び下端部が分割筒体120aの上下各々から露出するよう構成されている。したがって、フーチング210には、上部側杭部材101の分割杭体110aにおける露出した上部のみを埋設することができる。
【0034】
また、表層地盤E1の深度が大きく複数を連結する必要がある場合には、杭本体110の上下に設けられた端板112を利用して、上部側杭部材101を長手方向に連結することができる。このとき、上部側杭部材101どうしを連結すると、高さ方向に隣り合う分割筒体120aの間に隙間が生じる。この隙間は、適宜、鋼板や鋼管もしくは可撓性材料等を利用して継手部材103を製作し、この継手部材103を利用して閉塞するとよい。
【0035】
≪≪基礎杭の構築方法≫≫
上述する上部側杭部材101と下部側杭部材102とを順次連結して、建物200を支持する基礎杭100を構築する手順の一例を、以下に説明する。なお、本実施の形態では、表層地盤E1が浅く、上部側杭部材101を単独で使用できる場合を事例に挙げて、図6を参照しつつ説明する。
【0036】
まず、図6(a)で示すように、基礎杭100の構築予定位置を削孔し、地盤中に杭孔Hを設ける。杭孔Hの孔径は、外装筒体120の外径とほぼ同一もしくは略小径に形成され、孔底には、根固め液L1を所定高さまで充填するとともに、その上方に杭周面固定液L2を供給しておく。
【0037】
次に、図6(b)で示すように、下部側杭部材102を杭孔Hに吊り下ろしつつ順次連結していく。連結した複数の下部側杭部材102の全体長さが、支持層E3から表層地盤E1の下端近傍に至る長さになったところで、図6(c)で示すように、連結した複数の下部側杭部材102の上端に上部側杭部材101を順次連結し、杭孔Hに建て込む。
【0038】
こののち、上部側杭部材101と下部側杭部材102を連結して形成した基礎杭100の位置決めを行い、根固め液L1及び杭周面固定液L2を固化及び養生する。これにより、根固め部140に杭先端が埋設されるとともに、杭の中間部と周辺地盤との間に杭周面固定部150が設けられた基礎杭100が、所定位置に構築されることとなる。
【0039】
上記の方法により地盤中に基礎杭100が構築されたのち、図4(a)(b)で示すように、杭頭(上部側杭部材101の分割杭体110aにおける露出した上部)を埋設するようにフーチング210を打設するとともに基礎梁220を構築することで、建物200の基礎構造が構築される。
【0040】
本発明の基礎杭100は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0041】
例えば、本実施の形態では、杭本体110にPHC杭を採用したが、これに限定されるものではなく、鋼管杭等のような既製杭として用いることの可能な材料であれば、いずれを採用してもよい。
【0042】
また、本実施の形態では、杭本体110に対して外装筒体120を同心状に配置したが、必ずしもこれに限定するものではない。杭本体110の外周側に間隔を設けて外装筒体120を配置するとともに両者の軸線が平行に配置すれば、必ずしも同心状に配置されなくてもよい。
【0043】
さらに、外装筒体120の配置長さは、表層地盤E1だけでなく中間層E2まで貫通するよう配置することが最も好ましいが、地盤状況によっては、上端が杭本体110の上端より低い位置に配置されていれば、軟弱な表層地盤E1を完全に貫通するように配置されていなくてもよい。
【符号の説明】
【0044】
100 基礎杭
101 上部側杭部材
102 下部側杭部材
103 継手部材
110 杭本体
110a 分割杭体
111 補強バンド
112 端板
120 外装筒体
120a 分割筒体
130 水平力伝達部材
131 外縁部
132 内縁部
133 リング状部材
134 リング状部材
135 梁部材
140 根固め部
150 杭周面固定部
200 建物
210 フーチング
220 基礎梁
E1 表層地盤
E2 中間層
E3 支持層
L1 根固め液
L2 杭周面固定液
図1
図2
図3
図4
図5
図6