(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】コラム、ベッドおよび構造体
(51)【国際特許分類】
B23Q 1/01 20060101AFI20240730BHJP
B23Q 11/14 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B23Q1/01 H
B23Q1/01 G
B23Q11/14
(21)【出願番号】P 2020127825
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】流郷 謙一
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 利幸
(72)【発明者】
【氏名】中井 基生
(72)【発明者】
【氏名】安藤 善昭
【審査官】亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】実開平01-097840(JP,U)
【文献】特開2002-178234(JP,A)
【文献】特開平08-034678(JP,A)
【文献】国際公開第2014/132652(WO,A1)
【文献】特開平08-192333(JP,A)
【文献】特開2002-127012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 1/01
B23Q 11/00 - 11/14
B24B 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械に備えられ、主軸ヘッドを支持する鋳鉄製のコラムであって、
内部空間を囲うように配置された複数の壁部を備え、
前記複数の壁部のうちの少なくとも一部の壁部には開口部が設けられ、
前記開口部が、前記内部空間と外部空間とを遮る断熱性部材で閉塞され
、
前記断熱性部材は、透明あるいは半透明なエアロゲルを含み、
前記断熱性部材は、前記エアロゲルを介して前記外部空間から前記内部空間の状態が視認可能に構成されている、コラム。
【請求項2】
請求項
1に記載のコラムであって、
前記断熱性部材は、補強部を有しており、
前記断熱性部材が、前記補強部において前記壁部に接合された、コラム。
【請求項3】
請求項
2に記載のコラムであって、
前記補強部は、エアロゲルと不織布とを含有する、コラム。
【請求項4】
請求項
2または
3に記載のコラムであって、
前記補強部は、ボルトが挿通される通し孔を有し、
前記断熱性部材が、前記通し孔に挿通される前記ボルトによって前記壁部に締結された、コラム。
【請求項5】
請求項1から
4までのいずれか一項に記載のコラムであって、
前記複数の壁部は、前記主軸ヘッドが上下方向に移動可能な長孔部を有する壁部を含み、
前記長孔部に、前記主軸ヘッドの移動に伴い上下方向に沿って変位するカバーが配置された、コラム。
【請求項6】
工作機械に備えられる鋳鉄製のベッドであって、
内部空間を囲うように配置された複数の壁部を備え、
前記複数の壁部のうちの少なくとも一部の壁部には開口部が設けられ、
前記開口部が、前記内部空間と外部空間とを遮る断熱性部材で閉塞され
、
前記断熱性部材は、透明あるいは半透明なエアロゲルを含み、
前記断熱性部材は、前記エアロゲルを介して前記外部空間から前記内部空間の状態が視認可能に構成されている、ベッド。
【請求項7】
内部空間を囲うように配置された複数の壁部を備え、
前記複数の壁部のうちの少なくとも一部の壁部には開口部が設けられ、
前記開口部が、前記内部空間と外部空間とを遮る断熱性部材で閉塞され、
前記断熱性部材は、補強部を有するエアロゲルであり、
前記補強部は、ボルトが挿通される通し孔を有し、
前記断熱性部材が、前記通し孔に挿通された前記ボルトによって前記壁部に締結され
、
前記エアロゲルは、透明あるいは半透明であり、
前記断熱性部材は、前記エアロゲルを介して前記外部空間から前記内部空間の状態が視認可能に構成されている、構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コラム、ベッドおよび構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械に備えられたコラムやベッドは、鋳造によって製造される。そのため、コラムやベッドには、砂型に用いられる砂を内部から排出するための開口部が形成される。開口部が形成されることにより、コラムやベッドを軽量化することもできる。しかし、工作機械の使用時において、この開口部を通じて外部の大気が内部に入ると、その大気の温度に応じて装置が熱変位し、加工精度に影響を及ぼす可能性がある。特許文献1に記載された技術では、コラム内に冷却液が流れる配管を埋設し、その配管に冷却液を循環させることにより、コラム全体の熱変形を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術では、配管に冷却液を循環させる必要があるため、装置の構成が複雑になる。そのため、より簡易な構成で装置の熱変位を抑制可能な技術が求められている。このような課題は、工作機械に備えられたコラムやベッドに限らず、開口部を有する種々の構造体に共通の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
本開示の一形態は、工作機械に備えられ、主軸ヘッドを支持する鋳鉄製のコラムであって、内部空間を囲うように配置された複数の壁部を備え、前記複数の壁部のうちの少なくとも一部の壁部には開口部が設けられ、前記開口部が、前記内部空間と外部空間とを遮る断熱性部材で閉塞され、前記断熱性部材は、透明あるいは半透明なエアロゲルを含み、前記断熱性部材は、前記エアロゲルを介して前記外部空間から前記内部空間の状態が視認可能に構成されている、コラムである。
本開示の他の形態は、工作機械に備えられる鋳鉄製のベッドであって、内部空間を囲うように配置された複数の壁部を備え、前記複数の壁部のうちの少なくとも一部の壁部には開口部が設けられ、前記開口部が、前記内部空間と外部空間とを遮る断熱性部材で閉塞され、前記断熱性部材は、透明あるいは半透明なエアロゲルを含み、前記断熱性部材は、前記エアロゲルを介して前記外部空間から前記内部空間の状態が視認可能に構成されている、ベッドである。
本開示の更に他の形態は、内部空間を囲うように配置された複数の壁部を備え、前記複数の壁部のうちの少なくとも一部の壁部には開口部が設けられ、前記開口部が、前記内部空間と外部空間とを遮る断熱性部材で閉塞され、前記断熱性部材は、補強部を有するエアロゲルであり、前記補強部は、ボルトが挿通される通し孔を有し、前記断熱性部材が、前記通し孔に挿通された前記ボルトによって前記壁部に締結され、前記エアロゲルは、透明あるいは半透明であり、前記断熱性部材は、前記エアロゲルを介して前記外部空間から前記内部空間の状態が視認可能に構成されている、構造体である。また、本開示は以下の形態を含む。
【0006】
(1)本開示の第1の形態によれば、工作機械に備えられ、主軸ヘッドを支持する鋳鉄製のコラムが提供される。このコラムは、内部空間を囲うように配置された複数の壁部を備え、前記複数の壁部のうちの少なくとも一部の壁部には開口部が設けられ、前記開口部が、前記内部空間と外部空間とを遮る断熱性部材で閉塞されたことを特徴とする。
このような形態であれば、コラムの鋳造工程における砂抜きや軽量化のために設けられる開口部が断熱性部材で閉塞されるので、外部空間における大気の温度の影響がコラムの内部に及ぶことを抑制できる。従って、簡易な構造で装置の熱変位を抑制できる。
(2)上記形態において、前記断熱性部材は、エアロゲルを含んでもよい。エアロゲルは透明あるいは半透明な部材であるため、このような形態であれば、開口部を閉塞した状態であってもコラム内部の状態を外部から確認できる。また、エアロゲルは軽量であるため、装置の重量が増加することを抑制できる。
(3)上記形態において、前記断熱性部材は、補強部を有しており、前記断熱性部材が、前記補強部において前記壁部に接合されてもよい。このような形態であれば、エアロゲルを容易に壁部に接合できる。
(4)上記形態において、前記補強部は、エアロゲルと不織布とを含有してもよい。このような形態であれば、断熱性部材を、モノリスタイプのエアロゲルとブランケットタイプのエアロゲルとのハイブリッド構造とすることができるので、壁部に対するエアロゲルの取り付け容易性を高めることができる。
(5)上記形態において、前記補強部は、ボルトが挿通される通し孔を有し、前記断熱性部材が、前記通し孔に挿通される前記ボルトによって前記壁部に締結されてもよい。このような形態であれば、エアロゲルを含む断熱性部材を容易に壁部に接合できる。
(6)上記形態において、前記複数の壁部は、前記主軸ヘッドが上下方向に移動可能な長孔部を有する壁部を含み、前記長孔部に、前記主軸ヘッドの移動に伴い上下方向に沿って変位するカバーが配置されてもよい。このような形態であれば、主軸ヘッドが移動するための長孔部を通じて外部空間における大気の温度の影響がコラムの内部に及ぶことを抑制できる。
(7)本開示の第2の形態によれば、工作機械に備えられる鋳鉄製のベッドが提供される。このベッドは、内部空間を囲うように配置された複数の壁部を備え、前記複数の壁部のうちの少なくとも一部の壁部には開口部が設けられ、前記開口部が、前記内部空間と外部空間とを遮る断熱性部材で閉塞されたことを特徴とする。このような形態であれば、ベッドの鋳造工程における砂抜きや軽量化のために設けられる開口部が断熱性部材で閉塞されるので、外部空間における大気の温度の影響がベッドの内部に及ぶことを抑制できる。従って、簡易な構造で装置の熱変位を抑制できる。
(8)本開示の第3の形態によれば、構造体が提供される。この構造体は、内部空間を囲うように配置された複数の壁部を備え、前記複数の壁部のうちの少なくとも一部の壁部には開口部が設けられ、前記開口部が、前記内部空間と外部空間とを遮る断熱性部材で閉塞され、前記断熱性部材は、補強部を有するエアロゲルであり、前記補強部は、ボルトが挿通される通し孔を有し、前記断熱性部材が、前記通し孔に挿通された前記ボルトによって前記壁部に締結されたことを特徴とする。このような形態であれば、構造体に設けられた開口部が断熱性部材で閉塞されるので、外部空間における大気の温度の影響が構造体の内部に及ぶことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】ベッドおよびコラムの開口部を断熱性部材で塞ぐ手順を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、本開示の第1実施形態としての工作機械100の斜視図である。第1実施形態における工作機械100は、相互に直交する3つの直進軸と、2つの回転軸とを駆動軸として有するマシニングセンタである。3つの直進軸は、X軸、Y軸およびZ軸からなり、2つの回転軸は、A軸およびC軸からなる。X軸およびZ軸は、水平方向に沿った軸であり、Y軸は、鉛直方向に沿った軸である。A軸は、X軸に沿った回転軸である。C軸は、A軸に直交する回転軸である。工作機械100は、ベッド10とコラム20と工作物保持装置30とを有している。
【0009】
ベッド10は、床上に配置される。本実施形態におけるベッド10は、内部空間を囲うように配置された複数の壁部を備えている。本実施形態のベッド10は、複数の壁部として、第1前壁部11、第1後壁部12、第1右壁部13、第1左壁部14、第1上壁部15、第1下壁部16を備える。第1前壁部11および第1後壁部12は、それぞれZ軸に垂直な壁部であり、互いに対向している。第1右壁部13および第1左壁部14は、それぞれX軸に垂直な壁部であり、互いに対向している。第1上壁部15および第1下壁部16は、それぞれY軸に垂直な壁部であり、互いに対向している。本実施形態におけるベッド10は、これらの壁部によって、略直方体の形状を有している。ベッド10の内部空間には、後述する工作物保持装置30に接続される各種のケーブルが配置される。
【0010】
ベッド10の第1上壁部15の上面には、X軸に沿って延びる一対のX軸ガイドレール17と、Z軸に沿って延びる一対のZ軸ガイドレール18とが設けられる。
【0011】
コラム20は、主軸ヘッド50を支持する。コラム20は、ベッド10に設けられた一対のX軸ガイドレール17上に配置される。コラム20は、X軸ガイドレール17に案内されながら、図示していないX軸駆動装置によって駆動されることで、X軸に沿って移動可能である。X軸駆動装置としては、例えば、ボールねじ送り装置やリニアモータが用いられる。
【0012】
コラム20は、内部空間を囲うように配置された複数の壁部を備えている。本実施形態のコラム20は、複数の壁部として、第2前壁部21、第2後壁部22、第2右壁部23、第2左壁部24、第2上壁部25、第2下壁部26を備える。第2前壁部21および第2後壁部22は、それぞれZ軸に垂直な壁部であり、互いに対向している。第2右側部および第2左壁部24は、それぞれX軸に垂直な壁部であり、互いに対向している。第2上壁部25および第2下壁部26は、それぞれY軸に垂直な壁部であり、互いに対向している。第2下壁部26は、コラム20がベッド10に設置される設置面を形成する。本実施形態におけるコラム20は、これらの壁部によって、略直方体の形状を有している。
【0013】
コラム20の第2前壁部21には、Y軸に沿って延びる一対のY軸ガイドレール27が設けられている。主軸ヘッド50は、Y軸ガイドレール27に案内されながら、図示していないY軸駆動装置によって駆動されることで、Y軸に沿って移動可能である。Y軸駆動装置としては、例えば、ボールねじ送り装置が用いられる。コラム20の内部空間には、主軸ヘッド50に接続される各種のケーブルが配置される。
【0014】
主軸ヘッド50には、工作物Wの加工に用いる工具60が着脱可能に装着される主軸51が設けられている。主軸51は、主軸ヘッド50において、Z軸に平行なO軸周りに回転可能に保持される。主軸51は、コラム20の移動に伴ってX軸方向へ移動し、主軸ヘッド50の移動に伴ってY軸方向へ移動する。主軸ヘッド50の内部には、主軸51を回転させるための駆動力を付与するモータが収容される。工作機械100は、工具60を自動的に交換するための工具交換装置と複数の工具が収容される工具マガジンとを備えているが、これらの説明は省略する。
【0015】
本実施形態の主軸ヘッド50の一部は、コラム20の内部空間に配置されている。そのコラム20の第2前壁部21には、主軸ヘッド50が上下に移動可能な長孔部28が形成されている。そして、長孔部28の縁部と主軸ヘッド50との間には、主軸ヘッド50の移動に伴い上下方向に沿って変位するカバー55が配置されている。このようなカバー55としては、例えば、シャッター状のカバーや、ジャバラカバー、テレスコピックカバーを用いることができる。
【0016】
工作物保持装置30は、送り台31と、チルト装置33と、回転装置34とを備える。送り台31は、ベッド10に対し、一対のZ軸ガイドレール18に案内されながらZ軸に沿って移動可能に設けられる。送り台31は、図示していないZ軸駆動装置が駆動されることによって移動する。Z軸駆動装置としては、例えば、ボールねじ送り装置やリニアモータが用いられる。
【0017】
チルト装置33は、一対のテーブル支持部35と、チルトテーブル36と、を主に備える。一対のテーブル支持部35は、送り台31の上面に設置され、チルトテーブル36は、一対のテーブル支持部35に対し、X軸に平行なA軸まわりに揺動可能に支持される。テーブル支持部35には、チルトテーブル36をA軸まわりに揺動させるための駆動力を付与するモータが収容される。
【0018】
回転装置34は、回転テーブル38を備える。回転テーブル38は、チルトテーブル36の底面に対し、A軸に直交するC軸まわりに回転可能に設置される。回転テーブル38には、工作物Wを固定する保持部39が設けられる。チルトテーブル36の下面には、回転テーブル38を回転させるための駆動力を付与するモータが設けられる。
【0019】
本実施形態におけるベッド10は、鋳鉄製である。そのため、ベッド10を構成する複数の壁部のうちの少なくとも一部の壁部には、鋳造において用いられた砂型の砂を抜くためのベッド開口部71が設けられている。本実施形態では、ベッド10を構成する複数の壁部のうち、第1前壁部11、第1後壁部12、第1右壁部13および第1左壁部14にベッド開口部71が設けられている。なお、ベッド10は、水平方向において四方を囲う外側の壁部(第1前壁部11、第1後壁部12、第1右壁部13、第1左壁部14)に加え、第1上壁部15の下方に、第1上壁部15を支えるように上下方向に延びる形で配置され、外側の壁部に接続するように縦横に延びる内側の壁部を有する。内側の壁部を平面視した場合、縦に延びる内側の壁部は、横に延びる内側の壁部に接続する。これら内側の壁部にも、ベッド開口部71が設けられている。
【0020】
また、本実施形態におけるコラム20も、ベッド10と同様に鋳鉄製である。そのため、コラム20を構成する複数の壁部のうちの少なくとも一部の壁部には、鋳造において用いられた砂型の砂を抜くための複数のコラム開口部72が設けられている。本実施形態では、コラム20を構成する複数の壁部のうち、第2右壁部23および第2左壁部24にコラム開口部72が設けられている。なお、以下では、ベッド開口部71とコラム開口部72とを、まとめて、開口部70という。開口部70は、砂抜きの用途だけではなく、軽量化のためにもベッド10およびコラム20に設けられている。本実施形態における開口部70の形状は、いずれも、矩形状である。ただし、各開口部70の形状は、矩形状に限らず、楕円状でもよいし、矩形以外の多角形状であってもよい。
【0021】
ベッド10の外側の壁部およびコラム20に設けられたそれぞれの開口部70は、ベッド10あるいはコラム20の内部空間と外部空間とを遮る断熱性部材80によって閉塞されている。本実施形態における断熱性部材80は、エアロゲルによって形成されている。エアロゲルは、主にシリカを原料とする低密度の固体であり、高い断熱性を有し、透明あるいは半透明の外見を有する。断熱性部材80の大きさは、開口部70の大きさよりも大きい。断熱性部材80の外縁には、エアロゲルと不織布とを含有する補強部81が備えられている。断熱性部材80は、補強部81においてベッド10あるいはコラム20の壁部に接合される。
【0022】
図2は、ベッド10およびコラム20に設けられた開口部70を断熱性部材80で塞ぐ手順を示す図である。まず、鋳造されたベッド10およびコラム20の開口部70の周囲に、ボルト85が螺合されるボルト穴73を形成する。
図2には、開口部70の四隅付近にボルト穴73が形成された例を示している。そして、そのボルト穴73に対応する位置にボルト85が挿通される通し孔82が形成された断熱性部材80を、ボルト85によってベッド10あるいはコラム20に締結する。本実施形態において、断熱性部材80に形成される通し孔82は、断熱性部材80のうちの補強部81に設けられている。
【0023】
図3は、断熱性部材80の製造方法を示す工程図である。本実施形態における断熱性部材80の製造方法では、まず、ステップS10において、シリカを含むゾル状の原料を準備する。そして、ステップS20において、ゾル状の原料に、枠状に形状が整えられた不織布を浸漬し、不織布に原料を含浸させる。ステップS30において、ゾル状の原料を、超臨界乾燥あるいは常圧乾燥など、原料の組成に応じた方法により乾燥させる。最後に、ステップS40において、不織布が配置された部分に、ボルト85を挿通させるための通し孔82を形成する。このように製造された断熱性部材80は、中央部にモノリスタイプのエアロゲルが形成され、その周囲にブランケットタイプのエアロゲルが形成された、ハイブリッド構造となる。ブランケットタイプの部分が、断熱性部材80の補強部81となる。
【0024】
以上で説明した本実施形態の工作機械100によれば、ベッド10あるいはコラム20の鋳造工程における砂抜きおよび軽量化のために必然的に形成される開口部70が、断熱性部材80で閉塞される。そのため、工作機械100の使用時において、外部空間における大気の温度の影響がベッド10あるいはコラム20の内部に及ぶことを抑制できる。また、ベッド10の内部に大気の温度の影響が及ぶことを抑制できるので、ベッド10の内側の壁部の温度を一定に保つことができる。従って、簡易な構造で装置の熱変位を抑制できる。この結果、工作機械100の加工精度を高めることができる。
【0025】
また、本実施形態では、断熱性部材80としてエアロゲルを用いている。エアロゲルは透明あるいは半透明な部材であるため、開口部70が断熱性部材80によって閉塞された状態であっても、ベッド10やコラム20内部のケーブルの状態を外部から確認できる。従って、開口部70を断熱性部材80によって塞ぐことによって工作機械100のメンテナンス性が低下することを抑制できる。また、エアロゲルは軽量であるため、工作機械100の重量が増加することを抑制できる。
【0026】
また、本実施形態では、断熱性部材80が、枠状の補強部81を有しており、その補強部81において断熱性部材80がベッド10あるいはコラム20の壁部に接合される。従って、機械的強度が比較的低いエアロゲルを用いて形成された断熱性部材80を容易に壁部に接合できる。
【0027】
また、本実施形態では、断熱性部材80の補強部81が、不織布にエアロゲルを含浸させることにより形成されている。このような形態であれば、断熱性部材80を、モノリスタイプのエアロゲルとブランケットタイプのエアロゲルとのハイブリッド構造とすることができるので、壁部に対するエアロゲルの取り付け容易性を高めることができる。
【0028】
また、本実施形態では、断熱性部材80の補強部81が、ボルト85が挿通される通し孔82を有しており、断熱性部材80が、その通し孔82に挿通されるボルト85によって壁部に締結される。そのため、機械的強度が比較的低いエアロゲルを用いて形成された断熱性部材80を、ボルト85を用いて容易に壁部に締結できる。
【0029】
また、本実施形態では、主軸ヘッド50が上下に移動するためにコラム20に設けられた長孔部28に、主軸ヘッド50の移動に伴って上下方向に変位するカバー55が配置されている。そのため、主軸ヘッド50が移動するための長孔部28を通じて外部空間における大気の温度の影響がコラム20の内部に及ぶことを抑制できる。
【0030】
B.他の実施形態:
(B-1)
図4は、断熱性部材の他の形態を示す図である。上述した第1実施形態では、
図2,3に示したように、断熱性部材80は、枠状の補強部81を備えている。これに対して、
図4に示すように、断熱性部材90は、ボルトが挿通される通し孔92の周囲の領域、つまり、ボルトが接触する領域のみに補強部91を備えてもよい。
図4には、通し孔92の周囲に円環状の補強部91が設けられた例を示している。なお、補強部91の外縁の形状は、円状に限らず、矩形状であってもよい。
【0031】
(B-2)上記実施形態では、ベッド10とコラム20の両方の開口部70に対して、断熱性部材80が設けられている。これに対して、断熱性部材80は、ベッド10とコラム20のいずれか一方の開口部70のみに設けられていてもよい。
【0032】
(B-3)上記実施形態では、断熱性部材80がボルト85によってベッド10あるいはコラム20に締結されている。これに対して、断熱性部材80は、接着剤によってベッド10あるいはコラム20に接合されてもよい。この場合、断熱性部材80には、補強部81は設けられていなくてもよい。つまり、モノリスタイプのエアロゲルを、接着剤によって直接的にベッド10あるいはコラム20に接合してもよい。
【0033】
(B-4)上記実施形態では、不織布にエアロゲルを含浸させることにより断熱性部材80の補強部81を形成している。これに対して、例えば、セラミック製や金属製の枠体の中にエアロゲルの原料を流し込んで乾燥させることによって、セラミックや金属製の補強部81を備える断熱性部材80を形成してもよい。
【0034】
(B-5)上記実施形態では、断熱性部材80がエアロゲルによって構成されている。これに対して、断熱性部材80は、外部空間の大気を通過させない素材であれば、エアロゲルに限らず、ガラスや樹脂によって形成してもよい。
【0035】
(B-6)上記実施形態では、コラム20に設けられた長孔部28には、カバー55が設けられている。これに対して、主軸ヘッド50がコラム20内に入り込まない構造であれば、コラム20には長孔部28が設けられていなくてもよく、カバー55も設けられていなくてもよい。
【0036】
(B-7)上記実施形態では、工作機械100はマシニングセンタであるものとしている。これに対して、工作機械100は、コラム20やベッド10のように開口部を有する構造体を備えるものであれば、例えば、研削盤やフライス盤、ボール盤、中ぐり盤、歯切盤など各種の装置であってもよい。
【0037】
(B-8)上記実施形態では、工作機械100に備えられた主軸51は、Z軸に平行な回転軸周りに回転する。これに対して、主軸51は、Y軸に平行な回転軸周りに回転するものであってもよい。
【0038】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0039】
10…ベッド、11…第1前壁部、12…第1後壁部、13…第1右壁部、14…第1左壁部、15…第1上壁部、16…第1下壁部、17…X軸ガイドレール、18…Z軸ガイドレール、20…コラム、21…第2前壁部、22…第2後壁部、23…第2右壁部、24…第2左壁部、25…第2上壁部、26…第2下壁部、27…Y軸ガイドレール、28…長孔部、30…工作物保持装置、31…送り台、33…チルト装置、34…回転装置、35…テーブル支持部、36…チルトテーブル、38…回転テーブル、39…保持部、50…主軸ヘッド、51…主軸、55…カバー、60…工具、70…開口部、71…ベッド開口部、72…コラム開口部、73…ボルト穴、80,90…断熱性部材、81,91…補強部、82,92…通し孔、85…ボルト、100…工作機械