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  • 特許-パルプモールド成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】パルプモールド成形体
(51)【国際特許分類】
   D21J 5/00 20060101AFI20240730BHJP
   D21H 11/12 20060101ALI20240730BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20240730BHJP
   B65D 1/34 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
D21J5/00
D21H11/12
B65D1/00 110
B65D1/34
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020142590
(22)【出願日】2020-08-26
(65)【公開番号】P2022038214
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】椎橋 礼子
(72)【発明者】
【氏名】田村 由貴
(72)【発明者】
【氏名】高木 瑞江
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-206103(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0257486(US,A1)
【文献】特開2005-002528(JP,A)
【文献】登録実用新案第3093951(JP,U)
【文献】特開2019-180356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21J1/00-7/00
D21H11/00-27/42
B65D1/00-1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体成形されたヒンジ部を有する、開閉可能なパルプモールド成形体であり、
該パルプモールド成形体のパルプ原料が、非木材パルプと木材パルプとを含有し、
該パルプモールド成形体のパルプ原料が、非木材パルプを50質量%以上含有し、
該パルプモールド成形体のパルプ原料が、アカシア属、ユーカリ属およびブナ属から選ばれる少なくとも1つの広葉樹パルプを5質量%以上50質量%以下含有し、
非木材パルプが、バガスおよび竹よりなる群から選択される少なくとも1つである、
パルプモールド成形体。
【請求項2】
ヒンジ部の幅が、開閉可能なパルプモールド成形体の可動側部材の最大幅の50%以上100%以下である、請求項1に記載のパルプモールド成形体。
【請求項3】
パルプモールド成形体のヒンジ部以外の厚みが、0.4mm以上3mm以下である、請求項1または2に記載のパルプモールド成形体。
【請求項4】
前記ヒンジ部が、上面または下面に溝を設けて形成されるか、上面および下面に溝を設けて形成されるか、罫線を設けて形成されるか、またはこれらとヒンジ部に設けられた貫通孔との併用である、請求項1~のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
【請求項5】
パルプモールド成形体を構成するパルプのカナダ標準ろ水度が100mL以上700mL以下である、請求項1~のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
【請求項6】
パルプモールド成形体を構成するパルプのカナダ標準ろ水度が350mL以上600mL以下である、請求項1~のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
【請求項7】
前記パルプ原料中の木材パルプと非木材パルプとの含有比(木材パルプ/非木材パルプ)が、25/75以上50/50以下である、請求項1~のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
【請求項8】
パルプモールド成形体の密度が0.45g/cm以上1.0g/cm以下である、請求項1~のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
【請求項9】
パルプモールド成形体が1層構成である、請求項1~のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
【請求項10】
請求項1~のいずれかに記載のパルプモールド成形体を表面加工した、二次加工パルプモールド成形体。
【請求項11】
前記表面加工が、直刷法、ラミネート法、転写法、および蒸着法の少なくとも1つの表面加工法による表面加工である、請求項10に記載の二次加工パルプモールド成形体。
【請求項12】
前記表面加工が、真空ラミネート法およびホットスタンプ転写法の少なくとも1つの表面加工法による表面加工である、請求項10または11に記載の二次加工パルプモールド成形体。
【請求項13】
請求項1~のいずれかに記載のパルプモールド成形体の製造方法であり、
パルプ懸濁液を準備するパルプ懸濁液準備工程と、
パルプ懸濁液から抄型を介してパルプを抄き上げる抄き上げ工程と、
前記抄き上げ工程後に得られたモールド中間体を加熱しながら第1のプレス金型と前記第1のプレス金型とは反対方向に位置する第2のプレス金型とによりホットプレスするホットプレス工程とを有する、パルプモールド成形体の製造方法。
【請求項14】
前記ホットプレス工程における圧力が、0.1MPa以上3.0MPa以下である、請求項13に記載のパルプモールド成形体の製造方法。
【請求項15】
前記ホットプレス工程における温度が、130℃以上280℃以下である、請求項13または14に記載のパルプモールド成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプモールド成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物等の増加に関わる環境問題の意識の高まりに鑑み、プラスチック容器や金属容器に代わり、各種の包装材料として、パルプを原料として、そのパルプスラリーを湿式吸引成形方式により成形したパルプモールド成形体が注目されている。パルプモールド成形体は、省資源および省エネルギーに貢献し、かつ、廃棄に際してもリサイクル性に優れ、仮に廃棄する場合であっても焼却処理に適するなど、環境保全に貢献する包装材料である。
【0003】
特許文献1には、パルプモールドを構成するパルプ成分中の50~100%(絶乾)がハンター白色度65~85%の脱墨古紙パルプであり、残余のパルプが晒パルプであることを特徴とするパルプモールド包装用材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-119100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パルプモールド成形体は、用途によっては、蓋部などのヒンジ部(折り曲げ部、屈曲部)を有するパルプモールド成形体とすることが求められるが、繰返しの使用によって、ヒンジ部が破損してしまうという問題があった。
特許文献1に記載されたパルプモールド成形体は、鮮やかな白さや色調を有するパルプモールドを得ることを目的とするものであり、十分な耐屈曲性が得られていなかった。
本発明の目的は、ヒンジ部を有し、繰り返し使用による耐折性に優れるパルプモールド成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意検討の結果、パルプモールド成形体を構成するパルプを特定の混合パルプとすることにより、上記の課題が解決されることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の<1>~<15>に関する。
<1> 一体成形されたヒンジ部を有する、開閉可能なパルプモールド成形体であり、該パルプモールド成形体のパルプ原料が、非木材パルプを50質量%以上含有する、パルプモールド成形体。
<2> 前記非木材パルプが、バガスおよび竹よりなる群から選択される少なくとも1つである、<1>に記載のパルプモールド成形体。
<3> パルプ原料が非木材パルプと木材パルプとを含有し、パルプ原料中の木材パルプと非木材パルプとの含有比(木材パルプ/非木材パルプ)が、5/95以上50/50以下である、<1>または<2>に記載のパルプモールド成形体。
<4> ヒンジ部の幅が、開閉可能なパルプモールド成形体の可動側部材の最大幅の50%以上100%以下である、<1>~<3>のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
<5> パルプモールド成形体のヒンジ部以外の厚みが、0.4mm以上3mm以下である、<1>~<4>のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
<6> 前記ヒンジ部が、上面または下面に溝を設けて形成されるか、上面および下面に溝を設けて形成されるか、罫線を設けて形成されるか、またはこれらとヒンジ部に設けられた貫通孔との併用である、<1>~<5>のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
<7> パルプモールド成形体を構成するパルプのカナダ標準ろ水度が100mL以上700mL以下である、<1>~<6>のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
<8> パルプモールド成形体の密度が0.45g/cm以上1.0g/cm以下である、<1>~<7>のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
<9> パルプモールド成形体が1層構成である、<1>~<8>のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
<10> <1>~<9>のいずれかに記載のパルプモールド成形体を表面加工した、二次加工パルプモールド成形体。
<11> 前記表面加工が、直刷法、ラミネート法、転写法、および蒸着法の少なくとも1つの表面加工法による表面加工である、<10>に記載の二次加工パルプモールド成形体。
<12> 前記表面加工が、真空ラミネート法およびホットスタンプ転写法の少なくとも1つの表面加工法による表面加工である、<10>または<11>に記載の二次加工パルプモールド成形体。
<13> <1>~<9>のいずれかに記載のパルプモールド成形体の製造方法であり、パルプ懸濁液を準備するパルプ懸濁液準備工程と、パルプ懸濁液から抄型を介してパルプを抄き上げる抄き上げ工程と、前記抄き上げ工程後に得られたモールド中間体を加熱しながら第1のプレス金型と前記第1のプレス金型とは反対方向に位置する第2のプレス金型とによりホットプレスするホットプレス工程とを有する、パルプモールド成形体の製造方法。
<14> 前記ホットプレス工程における圧力が、0.1MPa以上3.0MPa以下である、<13>に記載のパルプモールド成形体の製造方法。
<15> 前記ホットプレス工程における温度が、130℃以上280℃以下である、<13>または<14>に記載のパルプモールド成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヒンジ部を有し、繰り返し使用による耐折性に優れるパルプモールド成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、パルプモールド成形体のヒンジ部の断面図である。
図2図2は、パルプモールド成形体の一例の(A)正面斜視図および(B)背面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[パルプモールド成形体]
本発明のパルプモールド成形体は、一体成形されたヒンジ部を有する、開閉可能なパルプモールド成形体であり、該パルプモールド成形体のパルプ原料が、非木材パルプを50質量%以上含有する。
本発明によれば、ヒンジ部を有するパルプモールド成形体において、ヒンジ部を繰り返し開閉した場合であっても、耐折性に優れるパルプモールド成形体が得られる。
上記の効果が得られる詳細な理由は不明であるが、一部は以下のように考えられる。
パルプ原料として使用する非木材パルプは、柔細胞を含有するため、耐折性が向上したと考えられる。なお、木材パルプを含有することにより、平滑性が向上する。したがって、非木材パルプおよび木材パルプをパルプ原料として使用するとともに、非木材パルプを50質量%以上含有することにより、耐折性に優れ、かつ、平滑性にも優れたパルプモールド成形体が得られたと考えられる。
【0010】
<原料パルプ>
本発明において、原料パルプとして、非木材パルプを50質量%以上含有する。
非木材パルプは、植物の皮、茎、葉、葉鞘等から採取した繊維である。具体的には、コットンリンター、木綿、リネン、大麻、ラミー、わら、エスパルト、マニラ麻、ザイザル麻、黄麻、亜麻、ケナフ、竹、バガス、がんぴ、みつまた、こうぞ、桑から得られるパルプが挙げられる。
非木材パルプは、パルプモールド成形体の耐折性をより向上させる観点から、バガスおよび竹から選択される少なくともいずれかを含むことが好ましく、バガスおよび竹から選択される少なくともいずれかであることがより好ましく、バガスであることがさらに好ましい。
原料パルプ中の非木材パルプの含有量は、パルプモールド成形体の耐折性および表面平滑性をより向上させる観点から、50質量%以上、好ましくは55質量%以上であり、そして、100質量%であってもよく、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下、よりさらに好ましくは75質量%以下である。
【0011】
原料パルプは、上述した非木材パルプに加え、表面平滑性の観点から、木材パルプを含有することが好ましい。
木材パルプとしては、一般に製紙用途で使用されている木材パルプが挙げられ、その調製法の違いにより、クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ;セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ;砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)、リファイナーグランドウッドパルプ(RGP)等の機械パルプ;古紙パルプ;等に分類される。
木材パルプとしては、原料により、針葉樹パルプおよび広葉樹パルプが例示される。針葉樹パルプとしては、モミ属、マツ属等から得られるパルプが例示される。また、広葉樹パルプとしては、アカシア属、ユーカリ属、ブナ属、ヤマナラシ属(たとえば、ポプラ)等から得られるパルプが例示される。
これらの中でも、木材パルプとしては、針葉樹クラフトパルプ(NKP)、広葉樹クラフトパルプ(LKP)がより好ましい。
【0012】
本発明において、木材パルプが、広葉樹パルプを含有することが好ましい。広葉樹パルプとしては、少なくともアカシア属、ユーカリ属およびブナ属の少なくともいずれかの木材パルプを含有することがより好ましい。本発明において、原料パルプとして、アカシア属、ユーカリ属およびブナ属の少なくともいずれかに属する木材から得られた木材パルプを含有することが好ましく、たとえば、アカシア属に属する木材から得られた木材パルプと、ユーカリ属に属する木材から得られた木材パルプとを併用してもよいが、前記いずれかの属の木材パルプのみを含有することが好ましい。木材パルプとして、広葉樹パルプを含有することにより、平滑性に優れたパルプモールド成形体が得られる。また、広葉樹パルプが、アカシア属、ユーカリ属およびブナ属の少なくともいずれかの木材パルプを含むことによって、より表面平滑性に優れたパルプモールド成形体が得られる。これらの中でも、広葉樹パルプは、表面平滑性および耐油性の観点から、アカシア属およびユーカリ属から選ばれる少なくとも1つであることがより好ましく、アカシア属の木材パルプであることがさらに好ましい。
【0013】
原料パルプ中の広葉樹パルプ(好ましくはアカシア属、ユーカリ属およびブナ属の少なくともいずれかに属する木材パルプ)の含有量は、パルプモールド成形体の耐折性および表面平滑性の観点から、0質量%であってもよく、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、よりさらに好ましくは25質量%以上であり、そして、50質量%以下である。
【0014】
本発明において、原料パルプとして、針葉樹パルプを含有してもよく、針葉樹パルプとしては、針葉樹クラフトパルプが好ましい。針葉樹パルプを含有することにより、より強度に優れたパルプモールド成形体が得られる。
針葉樹パルプとしては、マツ属の針葉樹パルプが好ましく、ラジアータパインがより好ましい。
原料パルプが針葉樹パルプを含有する場合、その含有量は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下である。
【0015】
原料パルプ中の木材パルプと非木材パルプの含有比(質量比、木材パルプ/非木材パルプ)は、パルプモールド成形体の耐折性および表面平滑性をより向上させる観点から、0/100であってもよく、好ましくは5/95以上、より好ましくは10/90以上、さらに好ましくは15/85以上、よりさらに好ましくは25/75以上であり、そして、50/50以下である。
【0016】
本発明において、上述のように、パルプ原料として、木材パルプと非木材パルプとの混合パルプを使用することが好ましい。ここで、パルプ原料に古紙や段古紙等の古紙を使用してもよいが、古紙の含有量が多いと、古紙の繊維は毛羽立ち、変形しているため、表面平滑性や表面の意匠性に劣るという問題がある。パルプモールド成形体の表面平滑性、および表面の意匠性を向上させる観点から、原料パルプ中の古紙の含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下であり、使用しないことがよりさらに好ましい。
【0017】
本発明において、混合パルプのカナダ標準ろ水度は、パルプ原料の生産性、およびパルプモールド成形体を製造時の抄紙性の観点から、好ましくは100mL以上、より好ましくは200mL以上、さらに好ましくは300mL以上、よりさらに好ましくは350mL以上であり、そして、表面平滑性の観点から、好ましくは700mL以下、より好ましくは600mL以下、さらに好ましくは550mL以下である。
カナダ標準ろ水度が上記範囲内となるように、叩解の程度を調整すればよい。
カナダ標準ろ水度は、JIS P 8121-2:2012に準拠して測定される。
【0018】
<その他の成分>
パルプモールド成形体は、上述したパルプを主原料として形成されている。パルプモールド成形体は、パルプ100%から形成されていてもよいが、パルプに加えて、各種内添助剤等の他の材料を添加することが可能である。
内添剤としては、タルク、カオリン等の無機物、ガラス繊維やカーボン繊維等の無機繊維、ポリオレフィン等の合成樹脂の粉末または繊維、カルボキシメチルセルロース等の多糖類、サイズ剤、湿潤紙力増強剤、耐油剤、歩留剤、濾水向上剤、嵩高剤、硫酸バンド、pH調整剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、顔料等の着色剤等が例示される。これらの中でも、サイズ剤を含有することが好ましい。
【0019】
サイズ剤としては、ロジン系サイズ剤(たとえば、酸性ロジン系サイズ剤、中性ロジン系サイズ剤)、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、スチレン-(メタ)アクリレート共重合体などのスチレン含有ポリマーが挙げられ、アルキルケテンダイマーが好ましい。
【0020】
湿潤紙力増強剤としては、内添用の湿潤紙力増強剤として、ポリアミドポリアミン・エピクロロヒドリン樹脂、ジアルデヒドでんぷん、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミン-ホルムアルデヒド、ポリアクリルアミド、メチロール化ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン等が例示される。
また、撥水剤としては、ワックスエマルジョン、金属石けん(ナトリウム、カリウム、亜鉛、リチウム、マグネシウム等のアルカリ塩)、脂肪酸クロム錯塩(ミリスチン錯塩、ステアリン酸クロミッククロライド錯塩等)、ジルコニウム撥水剤、シリコーンエマルジョン等が例示される。
本発明のパルプモールド成形体は、非木材パルプを含有しており、パルプ原料のみで耐油性および耐水性を向上させることが可能であることから、湿潤紙力増強剤、撥水剤および耐水剤の添加量を減少しても、または添加しなくても、十分な耐油性および耐水性を得ることが可能である。なお、より高い耐油性および耐水性を得ることを目的として、湿潤紙力増強剤または撥水剤または耐油剤を添加する態様を排除するものではない。
【0021】
<ヒンジ部>
本発明のパルプモールド成形体は、ヒンジ部を有する。なお、ヒンジ部とは、開閉は自由であるが、上下左右には動かないようなパルプモールド成形体の部分とパルプモールド成形体の部分とをつなぎとめている部位を意味する。すなわち、パルプモールド成形体を折り曲げることで、開閉可能となるようにしている折り曲げ部をヒンジ部という。ヒンジ部は、線状部位であることが好ましい。なお、本発明において、パルプモールド成形体は一体に成形されていることが好ましく、一体に成形されたパルプモールド成形体の折り曲げ部をヒンジ部ということが好ましい。
【0022】
パルプモールド成形体のヒンジ部は、いずれの方法により設けてもよいが、以下の3つの方法のいずれかであることが好ましい。
(i)ヒンジ部の上面または下面に溝を設ける
(ii)ヒンジ部の上下面に溝を設ける
(iii)ヒンジ部に罫線を設ける
また、これらの(i)~(iii)に加えて、これらとヒンジ部に設けられた貫通孔とを併用してもよい。
以下、図面を参照して、ヒンジ部の態様について詳述する。
図1は、ヒンジ部の断面概略図である。図1(a1)および(a2)は、ヒンジ部の上面または下面に溝を設けた態様である。溝は、パルプモールド成形体を得た後に、溝部を設けてもよく、また、パルプモールド成形体を製造する際に、ヒンジ部の厚みを薄くするようにして、溝部を設けてもよい。なお、溝部は、図1(a1)に示すようなV字に限定されるものではなく、図1(a2)に示すように、ヒンジ部の一部の厚みが薄くなるように、台形状に溝を設けていてもよい。溝部は、パルプモールド成形体を製造後に設けることが好ましい。この際、耐折性と開閉のしやすさのバランスを取るために、溝部の角度、深さ、形状を調整することが行われる。成形体を製造後に溝部を設ける方法としては、成形体をカット(切除)や加圧(加圧された部分は密度が高くなる)することにより、溝部を形成する方法が例示される。
また、図1(b1)および(b2)は、ヒンジ部の上面および下面に溝を設けた態様である。溝は、パルプモールド成形体を得た後に、溝部を設けてもよく、また、パルプモールド成形体を製造する際に、ヒンジ部に溝部を設けてもよい。なお、溝部は、図1(b1)に示すようなV字に限定されるものではなく、図1(b2)に示すように、ヒンジ部の一部の厚みが薄くなるように、台形状に溝を設けていてもよい。溝部は、パルプモールド成形体を製造後に、設けることが好ましい。
上記(i)および(ii)の場合、溝部の最も薄い部分の厚みは、開閉容易性の観点から、その他の部分の厚みに対して、好ましくは90%以下、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下、とくに好ましくは60%以下であり、そして、耐折性の観点から、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上である。
上述した図1(a1)、(a2)、(b1)および(b2)は、溝を設けることで、肉薄部を形成するものである。これに対して、図1(c1)および(c2)では、ヒンジ部において厚みは一定であるものの、ヒンジ部に罫線を(凸部および凹部から選択される少なくとも1つにより形成される折り曲げ線)を設けることで、ヒンジ部が構成されている。図1(c1)に示すように、2つの凸部の中央部を折り曲げ線とする罫線を設けてもよく、図1(c2)に示すように、凹部を設けることで罫線を設けてもよい。
また、これらのヒンジ部は、さらに貫通孔を有していてもよく、貫通孔の合計長さは、耐折性の観点からヒンジ部の長さの好ましくは70%以下、より好ましくは50%以下、さらに好ましくは30%以下である。
【0023】
ヒンジ部の形状と、開閉方向はとくに限定されず、たとえば、図1(a1)および(a2)のようなヒンジ部を有する場合に、上方向に開閉、すなわち、V字の斜面同士が近接する方向に折り曲げてもよく、これとは逆に、V字を広げる方向に折り曲げてもよく、とくに限定されないが、耐折性向上の観点から、V字を広げる方向に折り曲げることが好ましい。
【0024】
ヒンジ部の幅は、耐折性をより向上させる観点から、開閉可能なパルプモールド成形体の可動側部材の最大幅の50%以上であることが好ましく、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。また、開閉容易性を考慮して、ヒンジ部の幅を可動側部材の最大幅よりも狭くすることも好ましく、ヒンジ部の幅は、可動側部材の最大幅の100%以下であり、95%以下であることが好ましく、より好ましくは90%以下、さらに好ましくは80%以下である。
図2において、Wはヒンジ部の幅、Wは可動側部材の最大幅を意味し、WがWの80%となっている。
【0025】
<パルプモールドの特性>
本発明において、パルプモールド成形体の厚みはとくに限定されないが、耐久性、形状安定性、製造容易性等の観点から、ヒンジ部以外の厚みは、好ましくは0.4mm以上、より好ましくは0.6mm以上、さらに好ましくは0.8mm以上であり、そして、好ましくは3mm以下、より好ましくは2mm以下、さらに好ましくは1.5mm以下である。
パルプモールド成形体の厚みは、 JIS P 8118:2014に準じて測定することができる。
【0026】
本発明において、パルプモールド成形体の密度は、表面平滑性および耐折性の観点から、好ましくは0.45g/cm以上、より好ましくは0.50g/cm以上、さらに好ましくは0.55g/cm以上であり、そして、好ましくは1.0g/cm以下、より好ましくは0.90g/cm以下、さらに好ましくは0.80g/cm以下、よりさらに好ましくは0.70g/cm以下である。
パルプモールド成形体の密度は、JIS P 8118:2014に準じて測定することができる。なお、JIS P 8118:2014は紙や板紙に用いる方法であり、本発明においては、サンプルの大きさが規定通りに取れないことがあり、その際にはサンプルサイズを適宜調整して測定に用いる。坪量はJIS P 8124:2011に準じて測定するが、サンプルサイズの調整も前記同様である。測定には成形体の平面部分を用いる。
【0027】
本発明のパルプモールド成形体は、後述する抄き上げ工程を複数回行ったり、ホットプレス工程において、複数のモールド中間体をホットプレスすることにより、複数層の構成としてもよいが、表面平滑性および耐折性により優れる観点から、1層構成とすることが好ましい。
【0028】
<二次加工パルプモールド成形体>
本発明のパルプモールド成形体を表面加工して、二次加工パルプモールド成形体としてもよい。なお、本発明において、二次加工パルプモールド成形体とは、パルプモールド成形体に、表面加工を施したものである。なお、本発明のパルプモールド成形体は、表面平滑性に優れるため、表面加工を容易に施すことができるという利点をも有する。
二次加工の方法としては、パルプモールドの表面加工が可能な方法であればとくに限定されないが、二次加工パルプモールド成形体は、直刷法、ラミネート法、転写法、および蒸着法の少なくとも1つの表面加工法により表面加工されたものであることが好ましく、直刷法、ラミネート法、および転写法の少なくとも1つの表面加工法により表面加工されたものであることがより好ましく、ラミネート法および転写法の少なくとも1つの表面加工法により表面加工されたものであることがさらに好ましい。
なお、これらの方法に限定されず、予め印刷されたシール等を貼付してもよい。
【0029】
(直刷法)
直刷法は、色、柄、模様等の付与や、防水性、防湿性等の付与を目的として、直接パルプモールド成形体の表面にインクや樹脂を付与するものであり、含浸、印刷等により、パルプモールド成形体を表面加工する方法が挙げられる。
印刷としては、ゴム版や樹脂版による凸版印刷、シルクスクリーン印刷、タンポ印刷、静電印刷、熱転写印刷などのいずれの印刷手段であってもよい。印刷により、得られたパルプモールド成形体の表面に、図柄や文字等を設けることができる。
また、パルプモールド成形体への刷毛、スプレーなどによって直刷してもよい。これらの中でも、均一に樹脂等を付与する観点から、スプレー塗布が好ましい。スプレー塗布はエアスプレー、エアレススプレー、静電スプレー等のいずれにより行ってもよい。
パルプモールド成形体の表面に防水・防湿性を付与する場合には、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、オレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂等の樹脂を固形分に含む水系エマルジョン塗料、またはこれらの樹脂の水溶液塗料若しくは有機溶剤系塗料等を塗工すればよい。
【0030】
(ラミネート法)
ラミネート加工は、樹脂フィルムで被覆することにより行われることが好ましく、使用される樹脂フィルムとしては、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル等のポリビニル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル等の熱可塑性樹脂フィルム、変性ポリエチレンテレフタレート、脂肪族ポリエステル等の生分解性樹脂フィルムが挙げられる。製造コスト、成形性等を考慮すると、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、環境に配慮した廃棄性の点からは、生分解性樹脂フィルムが好ましい。ラミネート加工は、これらの樹脂フィルムの2種以上を積層させて形成してもよい。
樹脂フィルムの厚みはとくに限定されないが、10μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0031】
上記の樹脂フィルムをラミネート加工することにより、耐水性、耐油性、ガスバリア性等の機能を向上または付与することができる。
また、ラミネート加工する樹脂フィルムに、予め絵柄を印刷してもよく、着色性のある顔料、微細粒子(パール顔料、ホログラム等)、夜光染料・夜光顔料等を添加しておいてもよい。このような樹脂フィルムを使用することにより、パルプモールド成形体の表面に、光沢性や意匠性を付与することができる。
【0032】
ラミネート加工は、パルプモールド成形体に対して押出ラミネーション、熱ラミネーション、ドライラミネーション、またはウェットラミネーション等の公知の方法で行えばよい。
これらの中でも、熱ラミネーションが好ましく、真空ラミネーション、真空プレスが好ましく、真空ラミネーションがより好ましい。
真空ラミネーションは、基材側(パルプモールド側)からの吸引により、その上部に置かれたシートを変形させてラミネートを行ってもよく、また、予め真空にされた上下チャンバーを樹脂フィルムで2分割しておき、樹脂フィルム加熱装置を備えた上部チャンバーを圧空とすることにより、下部チャンバーに置かれた基材(パルプモールド成形体)にラミネートする方法でもよい。
また、真空プレスは、シリコンラバー等を基材(パルプモールド成形体)側からの真空吸引、場合により上部より圧空力を加えて基材形状に変形させ、シリコンゴム等と基材との間に挟まれた樹脂フィルムがシリコンゴムの圧力により基材にラミネートされる。
また、樹脂フィルムを、パルプモールド成形体の形状に合わせて、金型により予備成形し、パルプモールド成形体とラミネートしてもよい。
【0033】
ラミネート加工は、従来公知の方法で行えばよく、真空ラミネーション装置としては、TOM成形機(布施真空株式会社製)などが例示される。
また、ラミネーションの際の温度、圧力などの条件は、ラミネートする樹脂フィルムの素材および厚み、基材の形状、接着剤の有無等により適宜選択すればよいが、たとえば、ヒーターの加熱温度は80~200℃で、貼合を行う。
【0034】
ラミネートの際に、樹脂フィルムとパルプモールド成形体との間に、接着剤を付与してもよく、また、付与しなくてもよい。接着剤としては、ポリウレタン系接着剤、ポリアクリル系接着剤、ポリエステル系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリ酢酸ビニル系接着剤、セルロース系接着剤、その他のラミネート用接着剤をしようすることができる。接着剤を付与する場合には、接着剤に着色性を有する顔料、パール顔料、微細粒子(ホログラム等)、夜光顔料、夜光染料等を添加してもよい。
【0035】
(転写法)
転写法としては、ホットスタンプ転写法、インモールド転写法、水圧転写法などの種々の転写法が例示され、乾式転写法、湿式転写法のいずれでもよい。またインモールド転写法において、予備成形工程を加えてもよい。
転写法の中では、ホットスタンプ転写法(以下、単に「ホットスタンプ法」ともいう)が好ましい。ホットスタンプ法は、「箔」と呼ばれる金属を蒸着したり、顔料を塗布したフィルムを使用し、箔表面に設けた熱接着層を介して基材に熱転写する方法である。ホットスタンプ法に使用される箔は、離型性を有するベースフィルム(たとえば、二軸延伸ポリエステルフィルム)、剥離層(保護層)、絵柄層・蒸着層、熱接着層の順に積層されており、必要に応じて、ベースフィルムと保護層との間に離形層が設けられる。ホットスタンプ法としては、(i)アップダウン方式、(ii)ロール転写方式が挙げられ、熱圧の存在する部分の絵柄層・蒸着層が、基材(パルプモールド成形体)に転移するという原理は同じである。アップダウン方式では、ヒーターが内蔵された型板を、ベースフィルム側から基材に押し付け、熱接着層を介して、絵柄層・蒸着層を基材に転写する。同様に、ロール転写方式では、加熱したローラをベースフィルム側から押し付けることで、絵柄層・蒸着層を基材に転写する。また、ベースフィルム側に研削加工、艶差処理、凹凸加工等を施すことにより、転写時に、絵柄層、蒸着層に賦形(凹凸を付す)を行うことも可能である。
【0036】
(蒸着)
蒸着は、従来公知の蒸着法を採用すればよく、物理蒸着でも化学蒸着でもよく、とくに限定されないが、パルプモールド成形体に金属光沢を付与する目的で蒸着することが好ましく、物理蒸着である真空蒸着がより好ましい。
蒸着材料は、アルミニウム、クロム、亜鉛、金、銀、プラチナ、ニッケルなどの金属類、SiO、TiO、ZrO、MgFなどの酸化物やフッ化物を使用することが好ましい。
蒸着層の厚みは、とくに限定されないが、0.1μm以上であることが好ましい。
【0037】
[パルプモールド成形体の製造方法]
パルプモールド成形体の製造方法はとくに限定されないが、以下の工程1~工程3をこの順で有する製造方法により製造することが好ましい。
工程1:パルプ懸濁液を準備するパルプ懸濁液準備工程
工程2:パルプ懸濁液から抄型を介してパルプを抄き上げる抄き上げ工程
工程3:前記抄き上げ工程後に得られたモールド中間体を加熱しながら第1のプレス金型と前記第1のプレス金型とは反対方向に位置する第2のプレス金型とによりホットプレスするホットプレス工程
工程1では、パルプ原料、サイズ剤等のその他の添加剤を加えて、パルプ懸濁液(パルプスラリー)を調製する。該懸濁液の濃度(スラリー濃度)は、表面平滑性、寸法安定性、および生産性の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、そして、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0038】
工程2は、パルプ懸濁液から抄型を介してパルプを抄き上げる抄き上げ工程である。
パルプ懸濁液中に真空引き通水性構造の金網張り金型などの成形金型を浸漬し、パルプ懸濁液を成形金型に吸引して水を排出させると同時にパルプ繊維を型に積層吸着させて型に対称な立体的な湿紙を形成し、次いで、成形金型をパルプ懸濁液から引き上げ、含水した立体的な湿紙の吸引脱水または加圧脱水を行う。
この際、成形金型面にパルプを積層吸着した成形金型は、真空吸引を続けながら、パルプ吸着面と対向させて、真空吸引をきかせた取り型(離型装置)を接近させ、パルプモールド中間体を圧縮真空吸引して脱水した後、成形金型の真空圧を常圧に戻して、取り型にパルプモールド中間体を吸着させた状態で取り方を引き戻して離型する。
【0039】
工程3は、前記抄き上げ工程後に得られたモールド中間体を加熱しながら第1のプレス金型と前記第1のプレス金型とは反対方向に位置する第2のプレス金型とによりホットプレスするホットプレス工程である。
工程3は、工程2で得られた脱水後のパルプモールド中間体を、たとえば、多孔質金型からなるホットプレス用の第1のプレス金型に移し変える。前記第1のプレス金型に移し変えられたパルプモールド中間体は、第1のプレス金型と、第1のプレス金型とは反対方向に位置し、第1のプレス金型に係合するホットプレス用の第2のプレス金型とによって加熱、加圧されて、所定のパルプモールド成形体が得られる。
なお、ホットプレス用の第1のプレス金型および第2のプレス金型の少なくとも1つに内部に電熱ヒーターを内蔵させ、それにより前記第1のプレス金型および第2のプレス金型の少なくとも1つを加熱することが好ましい。また、第1のプレス金型および第2のプレス金型を含む金型全体を熱風を導入した炉内に収容することによって、型の内部にも熱風が通過するようにしてもよい。
【0040】
工程3(ホットプレス工程)において、第1のプレス金型および第2のプレス金型によるプレス時の圧力は、表面平滑性に優れるパルプモールド成形体を得る観点から、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.3MPa以上、さらに好ましくは0.4MPa以上、よりさらに好ましくは0.6MPa以上であり、そして、消費電力および装置負荷の観点から、好ましくは3.0MPa以下、より好ましくは2.0MPa以下、さらに好ましくは1.5MPa以下である。
【0041】
工程3(ホットプレス工程)において、ホットプレス時の温度は、表面平滑性に優れるパルプモールド成形体を得る観点から、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは170℃以上であり、そして、消費電力、装置負荷、および変色抑制の観点から、好ましくは280℃以下、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは230℃以下である。
【0042】
上記のようにして得られたパルプモールド成形体は、さらに、不要部分の断裁、必要に応じて穴あけ等の加工を施されてもよい。
本実施形態のパルプモールド成形体は、ファインモールドと呼ばれる平滑性に優れる成形体であり、優れた耐折性および表面平滑性を生かして、食品、医療品、化粧品、電子部品等の包装用材料として好適に用いることができる。また、表面平滑性に優れ、表面に印刷、塗工、ラミネート等の加工を施しやすいことから、上記の用途に限定されず、小物入れ、コップの蓋、置物等にも広く応用可能である。
【実施例
【0043】
以下に実施例と比較例とを挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、実施例および比較例中の「部」および「%」は、とくに断らない限り、それぞれ「質量部」および「質量%」を示す。
【0044】
実施例1
広葉樹パルプであるアカシア晒しバージンパルプ(LBKP)15質量部と、非木材パルプであるバガス晒しバージンパルプ85質量部とを混合し、カナダ標準ろ水度(CSF)が510mLになるように叩解し、2質量%のパルプスラリーを得た。このパルプスラリーのパルプ(固形分)100質量部に対して、固形分換算でサイズ剤としてAKD(アルキルケテンダイマー、星光PMC株式会社製)を、0.8質量部添加し、撹拌後にスラリー濃度を0.7質量%に調整した。凝集物を除去するために、該スラリーをろ過し、ろ過後の該スラリー中に、表面に金属メッシュを貼った抄紙金型を沈め、金型内部から真空吸引し、メッシュ上にパルプスラリーを吸い付け、立体的な湿紙を形成した。湿紙を脱水用金型へ移送し、0.7MPaの圧力で加圧脱水し、続いて180℃に加熱された金型へ湿紙を移送し、さらに1.2MPaの圧力で加圧乾燥し、余分の部分を断裁した後、ヒンジ部の上面(開閉する際の外側)を刃で削って溝(図1(a1))を形成し(最も薄い部分の厚みは削る前の50%)、図2に示すような容器を得た。図2は蓋部が開いた状態のパルプモールド成形体である容器の(A)正面斜視図および(B)背面斜視図である。
ヒンジ部の幅(W)が開閉可能な部分の最大幅(W)の75%、ヒンジ部の溝部以外の容器の厚みは1mm、密度は約0.60g/cmであった。
【0045】
実施例2
アカシア晒しバージンパルプ30質量部、バガス晒しバージンパルプ70質量部に変更した以外は実施例1と同様に容器を得た。
【0046】
実施例3
アカシア晒しバージンパルプ45質量部、バガス晒しバージンパルプ55質量部に変更した以外は実施例1と同様に容器を得た。
【0047】
実施例4
バガス晒しバージンパルプを竹未晒しパルプに変更した以外は実施例2と同様に容器を得た。
【0048】
実施例5
カナダ標準ろ水度(CSF)が400mLになるように叩解した以外は実施例2と同様に容器を得た。
【0049】
実施例6
パルプをバガス晒しバージンパルプのみとし、カナダ標準ろ水度(CSF)が400mLになるように叩解した以外は実施例1と同様に容器を得た。
【0050】
実施例7
ヒンジ部の幅が開閉可能な部分の最大幅の55%に変更した以外は実施例2と同様に容器を得た。
【0051】
実施例8
ヒンジ部の幅が開閉可能な部分の最大幅の95%に変更した以外は実施例2と同様に容器を得た。
【0052】
実施例9
ヒンジ部の溝を形成する直前までは実施例1と同様の方法で容器を得た。得られた容器の開閉する際の内側の表面全面(含むヒンジ部)に対して、真空ラミネーション法を用いて、ポリプロピレンフィルム(東レ株式会社製、フィルム膜厚=50μm)をラミネートし、二次加工パルプモールド成形体を得た。ヒンジ部の下面(ラミネート加工面の反対の面、開閉する際の外側)を刃で削って溝(図1(a1))を形成し(最も薄い部分の厚みはラミネートの部分を除いて、ラミネート加工前の50%)、容器を得た。
ラミネート加工後の容器は表面光沢に優れており、意匠性が向上した。
【0053】
実施例10
ヒンジ部の溝を形成する直前までは実施例1と同様の方法で容器を得た。得られた容器の開閉する際の外側の表面全面(含むヒンジ部)に対して、真空ラミネーション法を用いて、予めポリプロピレンフィルムの内側(容器を開閉する際の外側表面に接する面)に印刷を施したフィルムをラミネートし、二次加工パルプモールド成形体を得た。ヒンジ部の下面(ラミネート加工面、開閉する際の外側)を刃で削って溝(図1(a1))を形成し(最も薄い部分の厚みは、ラミネート加工前の50%)、容器を得た。
印刷柄が鮮明で、装飾性が著しく向上した。また印刷を樹脂フィルムの内側に施したことで、印刷部の耐傷性や耐汚染性の表面性能も向上した。
【0054】
比較例1
アカシア晒しバージンパルプ55質量部、バガス晒しバージンパルプ45質量部に変更した以外は実施例1と同様に容器を得た。
【0055】
比較例2
アカシア晒しバージンパルプ70質量部、バガス晒しバージンパルプ30質量部に変更した以外は実施例1と同様に容器を得た。
【0056】
比較例3
アカシア晒しバージンパルプ85質量部、バガス晒しバージンパルプ15質量部に変更した以外は実施例1と同様に容器を得た。
【0057】
比較例4
カナダ標準ろ水度(CSF)が620mLになるように叩解した以外は比較例3と同様に容器を得た。
【0058】
比較例5
パルプをアカシア晒しバージンパルプのみとし、カナダ標準ろ水度(CSF)が510mLになるように叩解した以外は実施例1と同様に容器を得た。
【0059】
<平滑性(表面平滑性)の評価>
各実施例、比較例で作製した容器を10個ずつ用意し、ISO 187:1990に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±2%)に、24時間静置し、調温および調湿を行った。
上記環境で容器の表を触り、下記のように評価した。評価は、訓練されたパネラー5名で行った。
4:非常に平滑であり、つるつるしている
3:表面にわずかに繊維があるが、平滑である
2:表面に繊維を多く感じるが、平滑感がある
1:表面に繊維が非常に多く感じるレベルか、表面にざらつき感があるレベル。
表中の数値は、1名あたり10個ずつ評価し、5名の合計50個の結果の平均値であり、小数点以下第2位を四捨五入した。
【0060】
<耐折性(開閉破損)>
各実施例、比較例で作製した容器を3個ずつ用意し、ISO 187:1990に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±2%)に、24時間静置し、調温および調湿を行った。
上記環境で容器の開閉(180℃開ける作業と、閉める作業)を500回行い、下記のように評価した。異なる結果となった場合には、3つの平均値(小数点は四捨五入)を耐折性の評価結果とした。
5:ヒンジ部は殆ど破損していない。
4:ヒンジ部に少しだけの破損が見られた。
3:ヒンジ部に破損があるが、実用上問題ないレベル。
2:ヒンジ部に破損があり、実用上に問題あるレベル。
1:ヒンジ部に破損が大きいか、途中でヒンジ部が切れて、容器が二つに分離。
【0061】
<厚みおよび密度>
JIS P 8118:2014に準じて測定を行った。
【0062】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明のパルプモールド成形体は、耐折性に優れ、食品、医療品、化粧品等の包装材料を含めた、種々の用途への応用が期待される。
図1
図2