(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】印刷装置、印刷方法及び缶体
(51)【国際特許分類】
B41F 17/22 20060101AFI20240730BHJP
B41M 1/28 20060101ALI20240730BHJP
B65D 25/20 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B41F17/22
B41M1/28
B65D25/20 N
B65D25/20 Q
(21)【出願番号】P 2020144900
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】森川 久彰
(72)【発明者】
【氏名】山田 幸司
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-001235(JP,A)
【文献】特開2019-171659(JP,A)
【文献】特表2018-512301(JP,A)
【文献】国際公開第2010/090315(WO,A1)
【文献】特開2006-110409(JP,A)
【文献】特開2010-058399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 17/22
B41M 1/28
B65D 25/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インキを用いて缶体の外周面に画像を印刷する
印刷手段を備えた印刷装置であって、
前記缶体の外周面に印刷される前記画像には、前記画像の缶体周方向端部同士が互いに重なり合う重複部分が含まれ、
前記重複部分には、機能性材料が含まれた機能性インキ及び無機系インキのうちの少なくとも何れかである特殊インキの印刷層同士が互いに重なり合う、前記特殊インキの印刷層の重複部分が含まれ、
前記印刷手段は、
前記缶体の外周面上に形成する前記特殊インキの印刷層を、互いに重畳する、前記特殊インキの第1印刷層と、前記特殊インキの第2印刷層とにより形成し、
前記特殊インキの印刷層の重複部分を、前記第1印刷層同士を互いに重ね合わせてなる前記第1印刷層の重複部分により形成し、
前記
第1印刷層の重複部分において、一方の前記缶体周方向端部における前記
第1印刷層の厚みが、他方の前記缶体周方向端部における前記
第1印刷層の厚みよりも小さくなるように、前記
第1印刷層の重複部分の印刷を行
う
ことを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
前記第1印刷層の前記特殊インキと、前記第2印刷層の前記特殊インキとは、互いに同一色である
ことを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記印刷手段は、前記缶体の外周面に印刷された前記
第1印刷層の重複部分において、一方の前記缶体周方向端部における前記
第1印刷層の厚みが、前記缶体周方向端部の他方に向けて徐々に小さくなるように印刷を行う
ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記印刷手段は、前記缶体の外周面に印刷された前記
第1印刷層の重複部分において、一方の前記缶体周方向端部における前記
第1印刷層上に、他方の前記缶体周方向端部における前記
第1印刷層が重畳するように印刷を行う
ことを特徴とする請求項1
乃至3の何れか1項に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記インキには、前記特殊インキとは異なる基本インキが含まれ、
前記印刷手段は、前記缶体の外周面における前記缶体の首部が形成される部分には前記特殊インキの印刷層を形成しないように、前記基本インキにより前記缶体の前記首部が形成される部分への印刷を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記機能性インキは、発泡インキ、示温インキ、フォトクロミックインキ、蛍光インキ、及びニス弾きインキのうちの少なくとも何れかである
ことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記無機系インキは、パール顔料インキ、銀インキ、金インキ、及び無機系フィラー含有インキのうちの少なくとも何れかである
ことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の印刷装置。
【請求項8】
インキを用いて缶体の外周面に画像を印刷する
印刷工程を有する印刷方法であって、
前記缶体の外周面に印刷される前記画像には、前記画像の缶体周方向端部同士が互いに重なり合う重複部分が含まれ、
前記重複部分には、機能性材料が含まれた機能性インキ及び無機系インキのうちの少なくとも何れかである特殊インキの印刷層同士が互いに重なり合う、前記特殊インキの印刷層の重複部分が含まれ、
前記印刷工程では、
前記缶体の外周面に形成される前記特殊インキの印刷層を、互いに重畳する、前記特殊インキの第1印刷層と、前記特殊インキの第2印刷層とにより形成し、
前記特殊インキの印刷層の重複部分を、前記第1印刷層同士を互いに重ね合わせてなる前記第1印刷層の重複部分により形成し、
前記
第1印刷層の重複部分において、一方の前記缶体周方向端部における前記
第1印刷層の厚みが、他方の前記缶体周方向端部における前記
第1印刷層の厚みよりも小さくなるように、前記
第1印刷層の重複部分の印刷を行
う
ことを特徴とする印刷方法。
【請求項9】
外周面に画像が印刷された缶体であって、
前記画像は、インキを用いて前記缶体の外周面に印刷されたものであり、
前記缶体の外周面に印刷された前記画像には、前記画像の缶体周方向端部同士が互いに重なり合う重複部分が含まれ、
前記重複部分には、機能性材料が含まれた機能性インキ及び無機系インキのうちの少なくとも何れかである特殊インキの印刷層同士が互いに重なり合う、前記特殊インキの印刷層の重複部分が含まれ、
前記缶体の外周面に形成される前記特殊インキの印刷層が、互いに重畳する、前記特殊インキの第1印刷層と、前記特殊インキの第2印刷層とにより形成され、
前記特殊インキの印刷層の重複部分が、前記第1印刷層同士を互いに重ね合わせてなる前記第1印刷層の重複部分により形成され、
前記
第1印刷層の重複部分において、一方の前記缶体周方向端部における前記
第1印刷層の厚みは、他方の前記缶体周方向端部における前記
第1印刷層の厚みよりも小さい
ことを特徴とする缶体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置、印刷方法及び缶体に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料用缶として用いられる缶体の外周面には、インキを用いて様々な画像が印刷される。缶体への画像の印刷においては、多くの場合、画像の缶体周方向端部同士が互いに重なり合う重複部分(オーバーラップ部分)が形成されるように印刷が行われる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このインキの印刷層同士が重なり合う重複部分においては、印刷層の厚みが増大し、重複部分の色調がその重複部分に隣接する部分に比べて特に濃くなることで、外観上の美観を低下させる虞があった。
【0005】
特に、立体感、光沢感、マット感等の付加価値を付与するために、発泡材料等の機能性材料を含有する機能性インキや無機系インキ等の特殊インキを用いて缶体への画像の印刷を行う場合には、その特殊インキに含まれる材料に起因して、その他のインキ(基本インキ)を用いる場合よりも厚みの大きい印刷層が形成され易い。そのため、特殊インキの印刷層同士が重なり合う重複部分においては、印刷層の厚みが極度に増大する虞があった。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、上述のような問題点を解決することを課題の一例とする。すなわち、本発明の課題の一例は、画像の重複部分(オーバーラップ部分)を有する缶体の外観上の美観の低下を抑制することが可能な印刷装置、印刷方法及び缶体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る印刷装置は、インキを用いて缶体の外周面に画像を印刷する印刷手段を備えた印刷装置であって、前記缶体の外周面に印刷される前記画像には、前記画像の缶体周方向端部同士が互いに重なり合う重複部分が含まれ、前記重複部分には、機能性材料が含まれた機能性インキ及び無機系インキのうちの少なくとも何れかである特殊インキの印刷層同士が互いに重なり合う、前記特殊インキの印刷層の重複部分が含まれ、前記印刷手段は、前記缶体の外周面上に形成する前記特殊インキの印刷層を、互いに重畳する、前記特殊インキの第1印刷層と、前記特殊インキの第2印刷層とにより形成し、前記特殊インキの印刷層の重複部分を、前記第1印刷層同士を互いに重ね合わせてなる前記第1印刷層の重複部分により形成し、前記第1印刷層の重複部分において、一方の前記缶体周方向端部における前記第1印刷層の厚みが、他方の前記缶体周方向端部における前記第1印刷層の厚みよりも小さくなるように、前記第1印刷層の重複部分の印刷を行うことを特徴とする。
【0008】
好適には、前記第1印刷層の前記特殊インキと、前記第2印刷層の前記特殊インキとは、互いに同一色である。
好適には、前記印刷手段は、前記缶体の外周面に印刷された前記第1印刷層の重複部分において、一方の前記缶体周方向端部における前記第1印刷層の厚みが、前記缶体周方向端部の他方に向けて徐々に小さくなるように印刷を行う。
【0009】
好適には、前記印刷手段は、前記缶体の外周面に印刷された前記第1印刷層の重複部分において、一方の前記缶体周方向端部における前記第1印刷層上に、他方の前記缶体周方向端部における前記第1印刷層が重畳するように印刷を行う。
【0012】
好適には、前記インキには、前記特殊インキとは異なる基本インキが含まれ、前記印刷手段は、前記缶体の外周面における前記缶体の首部が形成される部分には前記特殊インキの印刷層を形成しないように、前記基本インキにより前記缶体の前記首部が形成される部分への印刷を行う。
【0013】
好適には、前記機能性インキは、発泡インキ、示温インキ、フォトクロミックインキ、蛍光インキ、及びニス弾きインキのうちの少なくとも何れかである。
【0014】
好適には、前記無機系インキは、パール顔料インキ、銀インキ、金インキ、及び無機系フィラー含有インキのうちの少なくとも何れかである。
【0015】
本発明に係る印刷方法は、インキを用いて缶体の外周面に画像を印刷する印刷工程を有する印刷方法であって、前記缶体の外周面に印刷される前記画像には、前記画像の缶体周方向端部同士が互いに重なり合う重複部分が含まれ、前記重複部分には、機能性材料が含まれた機能性インキ及び無機系インキのうちの少なくとも何れかである特殊インキの印刷層同士が互いに重なり合う、前記特殊インキの印刷層の重複部分が含まれ、前記印刷工程では、前記缶体の外周面に形成される前記特殊インキの印刷層を、互いに重畳する、前記特殊インキの第1印刷層と、前記特殊インキの第2印刷層とにより形成し、前記特殊インキの印刷層の重複部分を、前記第1印刷層同士を互いに重ね合わせてなる前記第1印刷層の重複部分により形成し、前記第1印刷層の重複部分において、一方の前記缶体周方向端部における前記第1印刷層の厚みが、他方の前記缶体周方向端部における前記第1印刷層の厚みよりも小さくなるように、前記第1印刷層の重複部分の印刷を行うことを特徴とする。
【0016】
本発明に係る缶体は、外周面に画像が印刷された缶体であって、前記画像は、インキを用いて前記缶体の外周面に印刷されたものであり、前記缶体の外周面に印刷された前記画像には、前記画像の缶体周方向端部同士が互いに重なり合う重複部分が含まれ、前記重複部分には、機能性材料が含まれた機能性インキ及び無機系インキのうちの少なくとも何れかである特殊インキの印刷層同士が互いに重なり合う、前記特殊インキの印刷層の重複部分が含まれ、前記缶体の外周面に形成される前記特殊インキの印刷層が、互いに重畳する、前記特殊インキの第1印刷層と、前記特殊インキの第2印刷層とにより形成され、前記特殊インキの印刷層の重複部分が、前記第1印刷層同士を互いに重ね合わせてなる前記第1印刷層の重複部分により形成され、前記第1印刷層の重複部分において、一方の前記缶体周方向端部における前記第1印刷層の厚みは、他方の前記缶体周方向端部における前記第1印刷層の厚みよりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、画像の重複部分(オーバーラップ部分)を有する缶体の外観上の美観の低下を抑制することが可能な印刷装置、印刷方法及び缶体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態に係る印刷装置の基本構成を模式的に示す図である。
【
図2】
図1に示す印刷版とブランケットとが接触する領域付近を拡大した図である。
【
図5】樹脂凸版である印刷版の部分断面図であり、(a)は第4印刷版の部分断面図であり、(b)は第5印刷版の部分断面図であり、(c)は第6印刷版の部分断面図である。
【
図6】樹脂凸版である印刷版の部分断面図であり、(a)は第4印刷版における
図5(a)に示す部分とは別部分の部分断面図であり、(b)は第5印刷版における
図5(b)に示す部分とは別部分の部分断面図である。
【
図7】樹脂凸版である印刷版の
図6の変形例を示す部分断面図である。
【
図8】(a)、(b)は、印刷装置によって印刷画像の印刷処理が行われた缶体(印刷缶)の部分断面図である。
【
図9】印刷装置によって印刷画像の印刷処理が行われた缶体(印刷缶)の
図8(a)とは別部分である、印刷層同士の重複部分(オーバーラップ部分)を含む部分の部分断面図である。
【
図10】缶体に対する印刷装置の印刷動作について説明するためのフローチャートである。
【
図11】印刷装置に取り付けられる印刷版を作製する製版システムの機能ブロック図である。
【
図12】製版システムを用いて印刷版を作製する製版動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態(本実施形態)について、図面を参照しながら説明する。
【0020】
[印刷装置の基本構成]
図1は、本実施形態に係る印刷装置の基本構成を模式的に示す図である。
図2は、
図1に示す印刷版とブランケットとが接触する領域付近を拡大した図である。
【0021】
図1に示す印刷装置1は、2ピース缶等の略円筒形状を有する缶体(被印刷物)Pの缶胴における外周面(外面)に対し、インキをブランケットを介して転写することにより印刷を行うオフセット印刷の印刷装置である。
【0022】
図1に示すように、印刷装置1は、インキングユニット10と、ブランケットホイール20と、搬送ユニット30と、マンドレルホイール40と、バーニッシュアプリケータ50と、トランスファユニット60とを備える。
【0023】
インキングユニット10は、印刷版14へインキを供給する装置である。インキングユニット10は、インカーユニットとも称される。インキングユニット10は、インキの色毎に異なる複数のインキングユニット10、すなわち第1インキングユニット10a~第8インキングユニット10hからなる。これらの複数のインキングユニット10は、それぞれブランケットホイール20の外周面に沿って配置される。インキングユニット10は、所定のインキを収容するインキ供給部11と、各インキ供給部11のインキに応じた印刷版14が装着された版胴13とを含む。
【0024】
複数のインキ供給部11は、第1インキ供給部11a~第8インキ供給部11hからなる。複数の印刷版14は、第1インキ供給部11a~第8インキ供給部11hからそれぞれインキが供給されることが可能な第1印刷版14a~第8印刷版14hからなる。そして、版胴13は、第1印刷版14a~第8印刷版14hをそれぞれ装着する第1版胴13a~第8版胴13hからなる。
【0025】
図1に示す印刷装置1の例において、複数のインキ供給部11は、プロセス色であるイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(K)の各色の基本インキと、特別色であるネイビー(N)の基本インキ及びネイビー(N)の特殊インキを収容している。具体的に、第1インキ供給部11aはイエロー(Y)の基本インキを収容し、第2インキ供給部11bはマゼンタ(M)の基本インキを収容し、第3インキ供給部11cはシアン(C)の基本インキを収容している。第7インキ供給部11gはブラック(K)の基本インキを収容している。
【0026】
そして、第4インキ供給部11d及び第5インキ供給部11eは、何れもネイビー(N:紺色)の特殊インキを収容している。また、第6インキ供給部11fはネイビー(N:紺色)の基本インキを収容している。
【0027】
一方、第8インキ供給部11hは、何れのインキも収容していない。そのため、第8インキ供給部11hに対応する第8印刷版14hにはインキは供給されない。
【0028】
ここで、「特殊インキ」とは、後述の機能性材料、無機材料等の材料(これらの材料を「特殊材料」ともいう。)が含まれ、通常の印刷用インキとは異なり、着色するだけでなく、立体感(凹凸感、ザラザラ感)、光沢感、マット感、変色等の見た目や手触り等において付加価値を付与するインキである。また、「基本インキ」とは、このような特殊材料を含有せず、缶体の外面への印刷において、鮮明に画像を再現するために通常用いられるインキであり、立体感、光沢感、マット感等の付加価値を付与させずに着色するのみのインキをいう。
【0029】
複数のインキ供給部11では、このように各インキを収容することによって、明度が低い暗い色のインキをより後に供給するようにしている。
【0030】
ネイビー(N)の基本インキは、後述の背景画像(特定画像)のうちの境界部分である境界画像を印刷するためのインキである。また、ネイビー(N)の特殊インキは、背景画像のうちの境界画像の近傍、具体的には、背景画像の境界部分の内側である内側画像を印刷するためのインキである。
【0031】
図2に示すように、インキ供給部11は、ファウンテンローラ及びフォームローラ等によって構成されるインキローラ群12を含む。インキ供給部11は、インキローラ群12の各ローラが回転することによって、不図示のインキ収容部に収容されたインキを、版胴13に装着された印刷版14へと供給する。インキローラ群12の一部のローラの内部には、温調水が循環されており、インキの温度が適正に保たれる。
【0032】
版胴13は、支軸の周りを回転可能な略円柱形状を有し、その外周面には印刷版14が脱着可能に装着される。版胴13は、ブランケットホイール20に対する距離を変更可能に設けられる。版胴13は、プレートシリンダとも称される。
【0033】
複数の印刷版14(第1印刷版14a~第8印刷版14h)は、後述の製版システム200によって原稿画像データに基づいて製版されるものであり、インキが乗る画線部が感光性樹脂層等にて形成された樹脂凸版からなるものである。なお、印刷版14は、樹脂凸版に限定されず、他の印刷版であってもよい。印刷版14は、例えばシリコーン樹脂等のインキ反撥層により非画線部が形成され、その非画線部の間にインキが乗る画線部が形成される水無し平版であってもよい。
【0034】
缶体Pに印刷される後述の印刷画像104には、網点により構成される画像部分(網点の画像部分)が含まれている。そこで、後述の製版システム200では、原稿画像データを色分解してなる色毎の分版画像データにおいて、必要に応じて部分的に網点化処理を施すようにし、色毎の製版用の画像データとする。そして、製版システム200では、その色毎の製版用の画像データに基づいて複数の印刷版14を製版する。
【0035】
なお、印刷画像104中の網点の画像部分としては、複数の色の網点の少なくとも一部同士が重畳してなる画像部分(掛け合わせ部分)も含んでいてもよい。すなわち、製版システム200により生成される製版用の各色の画像データには、複数の色の網点の少なくとも一部同士が重畳するような掛け合わせ方式で刷り重ねを行うための網点部分が含まれていてもよい。
【0036】
印刷装置1では、第1インキ供給部11aから第1印刷版14a(基本インキ印刷版)へとイエロー(Y)の基本インキを供給し、第2インキ供給部11bから第2印刷版14b(基本インキ印刷版)へとマゼンタ(M)の基本インキを供給し、第3インキ供給部11cから第3印刷版14c(基本インキ印刷版)へとシアン(C)の基本インキを供給し、第7インキ供給部11gから第7印刷版14g(基本インキ印刷版)へとブラック(K)の基本インキを供給する。
【0037】
また、印刷装置1では、第4インキ供給部11dから第4印刷版14d(特殊インキ印刷版)へとネイビー(N)の特殊インキを供給し、第5インキ供給部11eから第5印刷版14e(特殊インキ印刷版)へと同じくネイビー(N)の特殊インキを供給し、第6インキ供給部11fから第6印刷版14f(基本インキ印刷版)へとネイビー(N)の基本インキを供給する。
【0038】
そして、印刷装置1では、第1印刷版14a~第7印刷版14gのそれぞれから、対応するインキを順に連続的に同一のブランケット25に転写する。
【0039】
印刷装置1では、同一の(1つの)ブランケット25に全てのインキが転写(積層)された後、その同一のブランケット25上の全色のインキが同時に缶体Pの外面に転写されると、その缶体Pは、マンドレル41からオーブン等の乾燥装置(図示せず)へと移送される。このような印刷装置1では、多数の缶体Pを高速に印刷することができる。
【0040】
版胴13の近傍には、例えば冷風を吹き出す吹き出し口が取り付けられていてもよく、その場合、版胴13及び印刷版14の温度が適正に保たれる。
【0041】
ブランケットホイール20は、印刷版14及び缶体Pのそれぞれと回転接触して印刷版14に供給されたインキを缶体Pに転写するブランケット25を回転させる装置である。
図1に示すように、ブランケットホイール20は、支軸22の周りを回転可能な略円柱形状を有する。ブランケットホイール20の外周面には、
図2に示すように、ブランケットホイール20の周方向に沿って所定間隔を空けて、複数のセグメント21が設けられる。複数のセグメント21のそれぞれの外表面には、ブランケット25が装着される。
図1に示す印刷装置1では、12個のブランケット25がセグメント21に装着されている。
【0042】
ブランケット25は、印刷版14から缶体Pへのインキの転写を媒介する中間転写体である。ブランケット25は、織布及び発泡体で形成された基材層と、アクリロニトリルブタジエンゴム等で形成されたゴム層とを含む。基材層は、接着材等を介して、セグメント21の外表面に対して脱着可能に装着される。ゴム層は、印刷版14上のインキが転写される層であり、基材層の外表面に配置されてブランケット25の外表面を構成する。
【0043】
印刷装置1では、ブランケットホイール20が
図1に示す矢印の方向(反時計回り)に回転することにより、同一の(1つの)ブランケット25には、第1印刷版14aのイエロー(Y)の基本インキ、第2印刷版14bのマゼンタ(M)の基本インキ、第3印刷版14cのシアン(C)の基本インキ、第4印刷版14dのネイビー(N)の特殊インキ、第5印刷版14eのネイビー(N)の特殊インキ、第6印刷版14fのネイビー(N)の基本インキ、第7印刷版14gのブラック(K)の基本インキがこの順に転写されていく。
【0044】
ここで、ネイビー(N)の特殊インキは、比較的広範囲の画像部分(後述の背景画像104f中の第1内側画像104f-21~第3内側画像104f-23)を印刷するのに使用されることから、第4印刷版14d、及び、第5印刷版14eといった2つの印刷版に供給するようにするのが好ましい。但し、第4印刷版14dは、この画像部分を印刷するのに必ず使用される印刷版であることから、「正版」ともいう。また、第5印刷版14eは、この画像部分においてネイビー(N)の特殊インキの色味をしっかりと出すために(ネイビー(N)の特殊インキの印刷層を厚みの大きい印刷層(厚膜)とするために)、必要に応じて使用される印刷版であることから、「控版」ともいう。
【0045】
なお、印刷装置1における第4印刷版14d(正版)と、第5印刷版14e(控版)との並びは、互いに入れ替わっていてもよい。この場合、印刷装置1は、同一のブランケット25に対し、第5印刷版14e(控版)上のネイビー(N)の特殊インキを転写した後に、第4印刷版14d(正版)上のネイビー(N)の特殊インキを転写する。
【0046】
搬送ユニット30は、印刷前の缶体Pをマンドレルホイール40へ搬送する装置である。搬送ユニット30は、
図1に示すように、マンドレルホイール40の上方に設けられる。搬送ユニット30は、マンドレル41に保持された缶体Pとブランケット25とが接触する領域よりも、マンドレルホイール40の回転方向上流側に設けられる。搬送ユニット30は、缶体Pの重力によって、マンドレルホイール40の上方からマンドレルホイール40の上部へ缶体Pを1つずつ順次搬送する。
【0047】
マンドレルホイール40は、缶体Pを保持するマンドレル41を回転させる装置である。マンドレルホイール40は、ブランケットホイール20の径方向において隣り合って設けられる。マンドレルホイール40は、支軸の周りを回転可能な略円板形状を有する。マンドレルホイール40の外周部には、マンドレルホイール40の周方向に沿って所定間隔を空けて、複数のマンドレル41が設けられている。
【0048】
マンドレル41は、缶体Pである缶体内に挿入可能な略円柱形状を有する。マンドレル41は、マンドレルホイール40と交差する方向に突出するように複数設けられ、マンドレルホイール40の外周部に片持ち支持されている。マンドレル41の数は、ブランケット25の数の整数倍であることが好ましい。
図1に示す印刷装置1では、24個のマンドレル41がマンドレルホイール40に設けられている。
【0049】
マンドレル41は、その先端部が缶体Pである缶体の底部内面をエア吸引等で吸着することによって、缶体Pを保持する。マンドレル41は、その姿勢を変更可能に設けられるとともに、マンドレルホイール40の径方向における位置を変更可能に設けられる。マンドレル41は、缶体Pを保持した状態で、マンドレル41の中心軸の周りを回転可能に設けられている。
【0050】
バーニッシュアプリケータ50は、インキが転写された缶体Pに対して仕上げニス等のオーバーコートを塗装する装置である。バーニッシュアプリケータ50は、マンドレルホイール40の径方向において隣り合って設けられている。バーニッシュアプリケータ50は、マンドレル41に保持された缶体Pとブランケット25とが接触する領域よりも、マンドレルホイール40の回転方向下流側に設けられている。
【0051】
トランスファユニット60は、バーニッシュアプリケータ50を経た缶体Pをマンドレル41から移載し、インキ及びオーバーコート等を缶体Pへ定着させるオーブン等の乾燥装置へ移送する装置である。トランスファユニット60は、マンドレルホイール40の径方向において隣り合って設けられている。トランスファユニット60は、マンドレル41に保持された缶体Pとバーニッシュアプリケータ50とが接触する領域よりも、マンドレルホイール40の回転方向下流側に設けられている。
【0052】
[缶体]
図3は、被印刷物である缶体Pの斜視図である。2ピース缶等の缶体Pは、略円筒形状を有しており、缶体Pの上部に開口部101が形成されている。缶体Pの下部には、底部102が設けられている。缶体Pの外周面103には、例えば後述の
図4に示すようなデザイン性のある印刷画像104が印刷されている。
【0053】
このような缶体Pは、後に、缶体Pの内部に開口部101から内容物の飲料が充填され、開口部101が図示しない蓋部によって塞がれることで、缶入りの飲料商品となる。
【0054】
缶体Pに充填される飲料は、例えばレモンの果汁、果肉等を含むレモン味のサワー飲料(レモンサワー)である。この場合、缶体Pにこのレモンサワーが充填されて開口部101が蓋部によって塞がれることで、缶入りのレモンサワーが飲料商品として提供される。
【0055】
なお、缶体Pに充填される飲料は、特に限定されるものではなく、非アルコール系飲料(例えば、清涼飲料、果実飲料、茶、スープ飲料、アルコール系飲料の風味を有するノンアルコール飲料等)、アルコール系飲料(例えば、ビール、チューハイ、サワー、カクテル、日本酒、ワイン等)の何れの飲料であってもよい。
【0056】
缶体Pは、金属缶であり、例えばアルミニウム板、アルミニウム合金板、ティンフリースチール等の表面処理鋼板、ブリキ板、クロムメッキ鋼板、アルミメッキ鋼板、ニッケルメッキ鋼板、スズニッケルメッキ鋼板、その各種の合金メッキ鋼板等の各種金属板を、絞り加工、絞りしごき加工、再絞り加工等によって成形したシームレス缶、溶接缶等、各種のタイプの金属缶であってよい。この金属缶の表面には、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリプロプレンフィルム等の樹脂フィルムがラミネートされていてもよい。
【0057】
なお、缶体Pの外周面103には、予め白色塗装層(白ベタ印刷層)が形成されていてもよい。
【0058】
[印刷画像]
図4は、缶体Pに印刷される印刷画像104の展開図である。
図4に示すように、缶体Pに印刷される印刷画像104は、商品名画像104aと、酒マーク画像104bと、商品関連画像104cと、アルコール分画像104dと、これらの画像の背景となる背景画像104f(特定画像)と、背景画像104fの上側に位置する上端画像104gと、背景画像104fの下側に位置する下端画像104hとを有している。これにより、印刷画像104は、デザイン性のある画像(デザイン画像)となっている。また、印刷画像104は、情報画像104eを有しており、これにより、消費者に提示すべき飲料商品についての詳細な情報を表示するようになっている。
【0059】
商品名画像104aは、缶体Pにレモンサワーを充填してなる飲料商品の商品名である「すっきりレモン」という比較的大きな文字画像である。本実施形態において、商品名画像104aは、マゼンタ(M)の基本インキによって印刷される画像である。
【0060】
酒マーク画像104bは、消費者に飲料商品がアルコール系飲料であることを認識させるために「お酒(さけ)」という文字を円形の枠内に表示するものである。本実施形態において、酒マーク画像104bは、円形の枠内がイエロー(Y)の基本インキによって印刷され、「お酒(さけ)」という文字画像がブラック(K)の基本インキによって印刷される画像である。
【0061】
商品関連画像104cは、レモンサワーの原材料であるレモンのイラスト画像である。なお、商品関連画像104cは、これに限定されず、例えばレモンサワーのイメージに基づく他の画像(例えば商品専用のマーク、キャラクタ等のイラスト等)であってもよい。本実施形態において、商品関連画像104cは、例えばイエロー(Y)の基本インキとブラック(K)の基本インキによって印刷される画像である。或いは、この商品関連画像104cのレモンのイラスト画像は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色の網点の少なくとも一部同士が、掛け合わせ方式での刷り重ねにより重畳してなる網点画像であってもよい。この商品関連画像104cがこのような各色の網点の重なりにより表現されることで、鮮明で立体感のあるレモンの画像とすることができる。
【0062】
アルコール分画像104dは、レモンサワーのアルコール分(%)を表す「アルコール分3%」という文字を表示するものである。本実施形態において、アルコール分画像104dは、シアン(C)の基本インキによって印刷される画像である。
【0063】
情報画像104eは、飲料商品(缶入りの果実チューハイ)についての詳細な商品情報を示す画像である。このような情報画像104eは、長方形の枠内に、缶体Pに充填される内容物(レモンサワー)の原材料、内容量、賞味期限、製造者の住所等の基本的な情報の文字列を記載した基本情報画像104e-1、バーコード画像104e-2、内容物の栄養成分及び熱量の文字列を記載した栄養情報画像104e-3、空き缶のリサイクルに必要なリサイクルマーク画像104e-4、及び、その他の注意事項(例えば「開缶後はすぐにお飲み下さい」等)の文字列を記載した注意事項画像104e-5を表示するものである。
【0064】
この情報画像104eは、予め白色塗装層(白ベタ印刷層)が形成されている場合には、その白色塗装層で構成される長方形の枠内に、基本情報画像104e-1、バーコード画像104e-2、栄養情報画像104e-3、リサイクルマーク画像104e-4、及び、注意事項画像104e-5がブラック(K)の基本インキによって印刷される画像である。
【0065】
上端画像104g及び下端画像104hは、背景画像104fとは異なる色からなる無地の画像である。このような上端画像104g及び下端画像104hは、印刷画像104の上端及び下端において、イエロー(Y)の基本インキによるアクセントを与えるライン画像となっている。
【0066】
背景画像104f(特定画像)は、缶体Pの外周面103において比較的広範囲に形成されるものである。そのため、この背景画像104fを印刷するインキによって飲料商品としての缶体Pの価値を高めることができるものである。
【0067】
印刷装置1では、背景画像104fを印刷するためのインキとして、機能性材料、無機材料等の特殊材料が含まれた特殊インキを使用する。これにより、印刷装置1は、立体感(凹凸感、ザラザラ感)、光沢感、マット感、変色等の見た目や手触り等における付加価値を缶体Pの外周面103に付与し、缶体Pの商品価値を高めることができる。しかしながら、背景画像104は、特殊インキで印刷される例に限定されず、基本インキで印刷してもよく、その色も特に限定されない。例えば背景画像104は、全体的にネイビー(N)の基本インキで印刷してもよい。
【0068】
特殊インキは、特殊材料として機能性材料が含まれた機能性インキ、特殊材料として無機材料が含まれた無機系インキのうちの少なくとも何れかであってよい。この特殊インキは、例えば、機能性材料、無機材料等の特殊材料がインキから離脱し易いことや、特殊材料の粒子が大きいこと等の理由から、特殊材料が含まれない基本インキよりも転写性が悪くなっている。そのため、第4印刷版14d及び第5印刷版14eに供給された特殊インキは、転写の際にブランケット25に貯まり易いとともに、第4印刷版14d及び第5印刷版14eのインキが乗らない非画線部に貯まり易く、ブランケット25や印刷版14の非画線部が汚れ易くなってしまう。
【0069】
これにより、汚れたブランケット25や、汚れた第4印刷版14d及び第5印刷版14eを用いて印刷を行うことで、缶体Pの外周面103に印刷された印刷画像104において、その印刷版の画線部よりも大きく印刷される、所謂「印刷の太り」が発生し易くなる。
【0070】
印刷装置1は、このような特殊インキによる印刷の太りの量を低減(或いは抑制)するように、次のようにして背景画像104fを印刷する。背景画像104fは、例えば飲料商品のイメージカラーであるネイビー(N)の無地の画像であってよい。
【0071】
印刷装置1は、背景画像104fの画像領域内であって背景画像104fに隣接する画像との境界部分に位置する境界画像(第1境界画像104f-11~第7境界画像104f-17)を、特殊材料を含まないネイビー(N)の基本インキによって印刷する。そして、印刷装置1は、背景画像104fにおける境界画像の内側に、第1内側画像104f-21~第3内側画像104f-23を、特殊材料を含むネイビー(N)の特殊インキで印刷する。
【0072】
第1境界画像104f-11(ネイビー(N)の基本インキ)は、背景画像104fの画像領域内であって上端画像104g(イエロー(Y)の基本インキ)との境界部分に位置している。この第1境界画像104f-11及び上端画像104gは、缶体Pの外周面103において、ネックイン加工により首部が形成される部分に印刷される画像である。印刷装置1では、缶体Pの外周面103における首部には、特殊インキの印刷層が形成されないようにブランケット25に基本インキを転写するようにしている。すなわち、第1境界画像104f-11は、ネイビー(N)の特殊インキではなく、ネイビー(N)の基本インキで印刷され、上端画像104gは、イエロー(Y)の基本インキで印刷されるようになっている。
【0073】
第2境界画像104f-12(ネイビー(N)の基本インキ)は、背景画像104fの画像領域内であって商品名「すっきりレモン」という文字画像である商品名画像104a(マゼンタ(M)の基本インキ)との境界部分に位置している。
【0074】
第3境界画像104f-13(ネイビー(N)の基本インキ)は、背景画像104fの画像領域内であって酒マーク画像104bの円形部分(イエロー(Y)の基本インキ)との境界部分に位置している。
【0075】
第4境界画像104f-14(ネイビー(N)の基本インキ)は、背景画像104fの画像領域内であってレモンのイラスト画像である商品関連画像104c(イエロー(Y)の基本インキ)との境界部分に位置している。
【0076】
第5境界画像104f-15(ネイビー(N)の基本インキ)は、背景画像104fの画像領域内であって「アルコール分3%」という文字画像であるアルコール分画像104d(シアン(C)の基本インキ)との境界部分に位置している。
【0077】
第6境界画像104f-16(ネイビー(N)の基本インキ)は、背景画像104fの画像領域内であって情報画像104eの長方形の枠(白色塗装層(ホワイト(W)の基本インキ))との境界部分に位置している。
【0078】
第7境界画像104f-17(ネイビー(N)の基本インキ)は、背景画像104fの画像領域内であって下端画像104h(イエロー(Y)の基本インキ)との境界部分に位置している。
【0079】
第1内側画像104f-21~第3内側画像104f-23(ネイビー(N)の特殊インキ)は、背景画像104fの画像領域内の第1境界画像104f-11~第7境界画像104f-17の内側に位置している。
【0080】
ブランケット25上に全てのインキが転写されたことにより形成された印刷画像104は、缶体Pに転写された際にその印刷画像104の缶体周方向端部同士が互いに重なり合う重複部分(オーバーラップ部分)を有している。
【0081】
印刷装置1では、缶体P上におけるこの重複部分の厚みが増大することを抑制するために、缶体P上の重複部分において、一方の缶体周方向端部における画像の印刷層の厚みが、他方の缶体周方向端部における画像の印刷層の厚みよりも小さくなるように重複部分の印刷を行う。
【0082】
ここで、印刷装置1は、この重複部分において、一方の缶体周方向端部における画像の印刷層上に、他方の缶体周方向端部における画像の印刷層が重畳するように印刷を行ってよい。
【0083】
印刷画像104において、第2内側画像104f-22と第3内側画像104f-23とは、この重複部分を形成している。この重複部分においては、一方の缶体周方向端部における画像の印刷層である第3内側画像104f-23の印刷層上に、他方の缶体周方向端部における画像の印刷層である第2内側画像104f-22の印刷層が重畳する。
【0084】
また、印刷画像104において、ネイビー(N)の基本インキによる第1境界画像104f-11は、第1内側画像104f-21の上側に位置する第1-1境界画像104f-111と、第2内側画像104f-22の上側に位置する第1-2境界画像104f-112と、第3内側画像104f-23の上側に位置する第1-3境界画像104f-113とを有する。
【0085】
また、イエロー(Y)の基本インキによる上端画像104gは、第1-1境界画像104f-111の上側に位置する第1上端画像104g-1と、第1-2境界画像104f-112の上側に位置する第2上端画像104g-2と、第1-3境界画像104f-113の上側に位置する第3上端画像104g-3とを有する。
【0086】
また、ネイビー(N)の基本インキによる第7境界画像104f-17は、第1内側画像104f-21の下側に位置する第7-1境界画像104f-171と、第2内側画像104f-22の下側に位置する第7-2境界画像104f-172と、第3内側画像104f-23の下側に位置する第7-3境界画像104f-173とを有する。
【0087】
また、イエロー(Y)の基本インキによる下端画像104hは、第7-1境界画像104f-171の下側に位置する第1下端画像104h-1と、第7-2境界画像104f-172の下側に位置する第2下端画像104h-2と、第7-3境界画像104f-173の下側に位置する第3下端画像104h-3とを有する。
【0088】
上述の重複部分(オーバーラップ部分)においては、一方の缶体周方向端部における画像の印刷層である第3上端画像104g-3の印刷層上に他方の缶体周方向端部における画像の印刷層である第2上端画像104g-2の印刷層が重畳する。
【0089】
また、上述の重複部分においては、一方の缶体周方向端部における画像の印刷層である第1-3境界画像104f-113の印刷層上に他方の缶体周方向端部における画像の印刷層である第1-2境界画像104f-112の印刷層が重畳する。
【0090】
また、上述の重複部分においては、一方の缶体周方向端部における画像の印刷層である第7-3境界画像104f-173の印刷層上に他方の缶体周方向端部における画像の印刷層である第7-2境界画像104f-172の印刷層が重畳する。
【0091】
また、上述の重複部分においては、一方の缶体周方向端部における画像の印刷層である第3下端画像104h-3の印刷層上に他方の缶体周方向端部における画像の印刷層である第2下端画像104h-2の印刷層が重畳する。
【0092】
印刷装置1では、重複部分において、例えば、一方の缶体周方向端部における画像の印刷層の厚みが、缶体周方向端部の他方に向けて徐々に(段階的に)小さくなるように、印刷を行ってよい。これにより、重複部分における印刷層の厚みが増大することを抑制することができる。
【0093】
また、印刷装置1では、ネイビー(N)の特殊インキによる印刷部分を、背景画像104fの画像領域内であって背景画像104fに隣接する画像との境界部分を除く内側部分としている。その上で、印刷装置1は、背景画像104fの画像領域内の境界部分を、この特殊インキと同色のネイビー(N)の基本インキで印刷している。これにより、印刷装置1は、特殊インキによる印刷の太りの量を低減(或いは抑制)することができる。そして、背景画像104fは、このような印刷サイズを保持しつつ、特殊インキによる立体感(凹凸感、ザラザラ感)、光沢感、マット感、変色等の付加価値を付与されたものとすることができる。
【0094】
[印刷版]
図5~
図7は、樹脂凸版である印刷版の部分断面図である。
図5(a)は第4印刷版の部分断面図であり、
図5(b)は第5印刷版の部分断面図であり、
図5(c)は第6印刷版の部分断面図である。
図6(a)は第4印刷版における
図5(a)に示す部分とは別部分の部分断面図であり、
図6(b)は第5印刷版における
図5(b)に示す部分とは別部分の部分断面図である。
図7は、樹脂凸版である印刷版の
図6の変形例を示す部分断面図である。
【0095】
図5(a)に示す第4印刷版14dには、ネイビー(N)の特殊インキが付着する画線部14d-11と、何れのインキも乗らない非画線部14d-12及び非画線部14d-13とが形成されている。同様に、
図5(b)に示す第5印刷版14eには、ネイビー(N)の特殊インキが付着する画線部14e-11と、何れのインキも乗らない非画線部14e-12及び非画線部14e-13とが形成されている。
図5(c)に示す第6印刷版14fには、ネイビー(N)の基本インキが付着する画線部14f-11及び画線部14f-12と、何れのインキも乗らない非画線部14f-13~14f-15とが形成されている。この
図5(a)~(c)に示す画線部14d-11、画線部14e-11、画線部14f-11、画線部14f-12は、何れもインキがベタ塗りで施される画像(ベタ画像)を形成するための画線部である。
【0096】
第4印刷版14dの画線部14d-11及び第5印刷版14eの画線部14e-11と、第6印刷版14fの画線部14f-11及び画線部14f-12とによって、背景画像104fを形成するための背景画像形成用領域R1が構成される。
【0097】
背景画像形成用領域R1における内側画像形成用領域R11は、第4印刷版14dの画線部14d-11及び第5印刷版14eの画線部14e-11上のネイビー(N)の特殊インキによって、
図4の第1内側画像104f-21の一部を形成する領域となっている。
【0098】
背景画像形成用領域R1における境界画像形成用領域R12、R13は、第6印刷版14fの画線部14f-11及び画線部14f-12上のネイビー(N)の基本インキよって、境界画像の一部(例えば
図4の第3境界画像104f-13及び第4境界画像104f-14)を形成する領域となっている。
【0099】
印刷装置1では、このような第4印刷版14d~第6印刷版14fを用いて、ネイビー(N)の基本インキによる境界画像の内側にネイビー(N)の特殊インキによる内側画像を印刷することから、特殊インキによる印刷の太りの量を低減(或いは抑制)しつつ、特殊インキによる立体感(凹凸感、ザラザラ感)、光沢感、マット感、変色等の付加価値が付与された背景画像104fを缶体Pに印刷することができる。
【0100】
図6(a)に示す第4印刷版14d(正版)には、ネイビー(N)の特殊インキが付着する複数の網点用の画線部14d-21と何れのインキも乗らない非画線部14d-22とで構成され、網点による画像を形成するための網点形成部14d-2と、何れのインキも乗らない非画線部14d-23と、ネイビー(N)の特殊インキが付着し、ベタ画像を形成するための画線部14d-31、画線部14d-32及び画線部14d-4を含む画線部と、何れのインキも乗らない非画線部14d-5とが形成されている。
【0101】
図6(b)に示す第5印刷版14e(控版)には、ネイビー(N)の特殊インキが付着し、ベタ画像を形成するための画線部14e-31、画線部14e-32及び画線部14e-4を含む画線部と、何れのインキも乗らない非画線部14e-2、非画線部14e-5とが形成されている。
【0102】
第4印刷版14dの複数の画線部14d-21と非画線部14d-22とで構成される網点形成部14d-2によって、背景画像104fのうちの重複部分(オーバーラップ部分)のうちの一方の画像部分である第3内側画像104f-23を形成するための位置S1から位置S2までの背景画像形成用領域R2が構成される。位置S1から位置S2までの背景画像形成用領域R2の長さは、例えば約2mmであってよい。
図6(a)の背景画像形成用領域R2の両側矢印で示す部分の長さは、
図4に示す第3内側画像104f-23のX軸の矢印方向の長さ(幅T)に相当する。
【0103】
第4印刷版14dの画線部14d-31及び画線部14d-32を含む画線部と、第5印刷版14eの画線部14e-31及び画線部14e-32とを含む画線部とによって、背景画像104fのうちの重複部分(オーバーラップ部分)以外の画像部分を形成するための位置S2から位置S3までの背景画像形成用領域R3が形成される。なお、この背景画像形成用領域R3には、先の背景画像形成用領域R1が含まれていてよい。
【0104】
第4印刷版14dの画線部14d-4によって、背景画像104fのうちの重複部分(オーバーラップ部分)のうちの他方の画像部分である第2内側画像104f-22を形成するための位置S3から位置S4までの背景画像形成用領域R4が構成される。
図6(a)の背景画像形成用領域R4の両側矢印で示す部分の長さは、
図4に示す第2内側画像104f-22のX軸の矢印方向の長さに相当する。
【0105】
第5印刷版14eの画線部14e-31及び画線部14e-32を含む画線部は、第4印刷版14dの画線部14d-31及び画線部14d-32を含む画線部の控版として、背景画像形成用領域R3におけるネイビー(N)の特殊インキの色味をしっかりと出すために、ネイビー(N)の特殊インキが付着する位置S2から位置S3までの画線部である。同様に、第5印刷版14eの画線部14e-4は、第4印刷版14dの画線部14d-4の控版として、背景画像形成用領域R4におけるネイビー(N)の特殊インキの色味をしっかりと出すために、ネイビー(N)の特殊インキが付着する位置S3から位置S4までの画線部である。
【0106】
図6(a)に示すように、第4印刷版14dからブランケット25へのネイビー(N)の特殊インキの転写は、位置S1から開始してx軸方向とは反対の矢印Q1の方向に進行し、位置S4まで行われる。この
図6(a)に示すように、第4印刷版14dにより、オーバーラップ部分における一方の缶体周方向端部である網点による第3内側画像104f-23の形成が最初に行われ(刷り始め)、オーバーラップ部分における他方の缶体周方向端部であるベタ画像による第2内側画像104f-22の形成が最後に行われる(刷り終わり)。
【0107】
また、
図6(b)に示すように、第5印刷版14eからブランケット25へのネイビー(N)の特殊インキの転写は、位置S1から一定の長さ(例えば約2mm)離れた位置S2から開始してx軸方向とは反対の矢印Q2の方向に進行し、位置S4まで行われる。
【0108】
このように、第4印刷版14dによるネイビー(N)の特殊インキの転写の終了(刷り終わり)の位置と、第5印刷版14eによるネイビー(N)の特殊インキの転写(刷り終わり)の位置とは、共にS4である。なお、
図6(b)の第5印刷版14eによる刷り終わりの位置(画線部14e-4の左端の位置)は、
図6(a)の第4印刷版14dによる刷り終わりの位置(画線部14d-4の左端の位置)と同じ位置S4である例に限定されず、他の位置であってもよく、例えば、位置S4からx軸方向に僅かに(例えば約0.2mm)離れた位置であってもよい。
【0109】
一方で、第4印刷版14dによるネイビー(N)の特殊インキの転写の開始(刷り始め)の位置S1は、第5印刷版14eによるネイビー(N)の特殊インキの転写の開始(刷り始め)の位置S2よりも、x軸方向に一定の長さ(例えば約2mm)だけ離れた位置にあり、その分だけ、第4印刷版14dによる刷り始めの方が早くなっている。このため、第4印刷版14dによって第3内側画像104f-23の画像の印刷層上に第2内側画像104f-22の画像の印刷層同士が重複する重複部分(オーバーラップ部分)が形成される。そして、第5印刷版14eによっては、画像の印刷層同士が重複する重複部分は形成されないようになっている。
【0110】
そして、このように、重複部分(オーバーラップ部分)における一方の缶体周方向端部である第3内側画像104f-23を形成するための画線部を複数の微細な網点の画線部とすることにより、この第3内側画像10f-23の印刷層の厚みを重複部分における他方の缶体周方向端部である第2内側画像104f-22の印刷層の厚みよりも小さくすることができる。
【0111】
特に、網点画像の中の単位面積当たりに占める網点の面積の割合(%)である「網点面積率」が徐々に小さくなる網点画像を形成するために、
図6(a)に示すように、網点形成部14d-2の複数の画線部14d-21それぞれのx軸方向の長さは、背景画像形成用領域R2をx軸方向に進むに連れて、徐々に小さくなっている(すなわち、背景画像形成用領域R2は、x軸方向に進むに連れて網点面積率が徐々に小さくなる)。これにより、後述するように、重複部分において、一方の缶体周方向端部である第3内側画像104f-23の印刷層の厚みを缶体周方向端部の他方に向けて徐々に小さくすることができる。
【0112】
なお、第4印刷版14dの網点形成部14d-2は、このようにx軸方向の長さが背景画像形成用領域R2をx軸方向に進むに連れて徐々に小さくなる複数の画線部14d-21と、その間の非画線部14d-22とで構成されるものに限定されない。網点形成部14d-2は、例えば
図7に示すように、x軸方向の長さが略同一であり互いに略均一の間隔で形成された複数の画線部14-211と、その間の非画線部14d-212とで構成されていてもよい。これにより、後述するように、重複部分において、一方の缶体周方向端部である第3内側画像104f-23の印刷層全体の厚みを略均一に、他方の缶体周方向端部である第2内側画像104f-22の印刷層の厚みよりも小さくすることができる。
【0113】
なお、基本インキにより形成される重複部分における一方の缶体周方向端部の印刷層(下層)についても、
図6又は
図7の網点形成部14d-2と同様の構成を有する印刷版14を用いて印刷を行うことで、その下層の厚みを他方の缶体周方向端部の印刷層(上層)の厚みよりも小さくすることができる。
【0114】
すなわち、イエロー(Y)の基本インキによる第3上端画像104g-3の印刷層上にイエロー(Y)の基本インキによる第2上端画像104g-2の印刷層が重畳する重複部分については、第3上端画像104g-3の印刷層を網点画像の印刷層とし、第2上端画像104g-2の印刷層をベタ画像の印刷層としてよい。
【0115】
また、ネイビー(N)の基本インキによる第1-3境界画像104f-113の印刷層上にネイビー(N)の基本インキによる第1-2境界画像104f-112の印刷層が重畳する重複部分については、第1-3境界画像104f-113の印刷層を網点画像の印刷層とし、第1-2境界画像104f-112の印刷層をベタ画像の印刷層としてよい。
【0116】
また、ネイビー(N)の基本インキによる第7-3境界画像104f-173の印刷層上にネイビー(N)の基本インキによる第7-2境界画像104f-172の印刷層が重畳する重複部分については、第7-3境界画像104f-173の印刷層を網点画像の印刷層とし、第7-2境界画像104f-172の印刷層をベタ画像の印刷層としてよい。
【0117】
また、イエロー(Y)の基本インキによる第3下端画像104h-3の印刷層上にイエロー(Y)の基本インキによる第2下端画像104h-2の印刷層との重複部分については、第3下端画像104h-3の印刷層を網点画像の印刷層とし、第2下端画像104h-2の印刷層をベタ画像の印刷層としてよい。
【0118】
そして、このように、第1境界画像104f-11及び上端画像104gは、缶体Pにおいて、ネックイン加工により首部が形成される部分に印刷される画像であるが、この第1境界画像104f-11及び上端画像104gの印刷層は、特殊インキでなく、基本インキで形成される。そのため、第1境界画像104f-11同士の重複部分、及び、上端画像104g同士の重複部分は、特殊インキではなく基本インキの印刷層同士が重なり合うものとなっている。これにより、このネックイン加工により首部が形成される部分に形成される重複部分の印刷層の厚みは、特殊インキによる重複部分の厚みよりも更に小さくすることができる。このことから、この重複部分をネックイン加工する際に、「重複部分とそれ以外の部分とで大きな段差が生じ、首部に多くのシワ等が発生することで缶体の美観が著しく低下する」ということを抑制することができる。
【0119】
[特殊インキ]
背景画像104fのうちの第1内側画像104f-21~第3内側画像104f-23を印刷するための特殊インキについて説明する。この特殊インキは、以下に述べるように、機能性材料が含まれた機能性インキ及び無機系インキのうちの少なくとも何れかであってよい。以下に例示する特殊インキは、その特殊インキに含まれる特殊材料に起因して(例えば、特殊材料の粒子が大きい、比較的粒径の大きいマイクロカプセルを含む、発泡する等の理由により)、特殊材料を含まない基本インキよりも厚みの大きい印刷層が形成され易くなる。
【0120】
(1.機能性インキ)
特殊インキのうちの機能性インキとしては、例えば、特殊材料である機能性材料として、各種材料をマイクロカプセル内に包含させてなる機能性マイクロカプセルが含まれるマイクロカプセル系の機能性インキと、その他の機能性インキとがある。また、機能性インキは、更に他の材料(例えば機能性フィラー等)が含まれるものであってもよい。
【0121】
(1-1.マイクロカプセル系の機能性インキ)
マイクロカプセル系の機能性インキとしては、例えば、以下に述べる発泡インキ、示温インキ、フォトクロミックインキ等を挙げることができる。
【0122】
(1-1-1.発泡インキ)
機能性材料として発泡剤(発泡材料)が含まれる発泡インキは、通常の印刷インキ(基本インキ)中に発泡剤が所定量配合され分散されてなるインキである。発泡剤は、例えば、熱膨張性マイクロカプセルからなる。このような熱膨張性マイクロカプセルの発泡剤としては、例えば、イソブタン、ヘキサン、ヘプタン等の揮発性溶剤を熱可塑性樹脂である塩化ビニリデン、アクリルニトリル等の共重合体等の殻壁で被覆したものが挙げられ、その場合の殻壁軟化温度は、例えば100~200℃の範囲にある温度とすることができる。
【0123】
(1-1-2.示温インキ)
示温インキは、特定の温度になると変色をするインキであり、冷却しても元の色に戻らない不可逆性の示温インキと、冷却すると元の色に戻る可逆性の示温インキとがある。このような示温インキは、温度によって変色する成分がマイクロカプセル化されており、そのマイクロカプセルが機能性材料として含まれている。
【0124】
可逆性の示温インキとしては、例えば、Hg、Ag、Cu、Pb等の重金属のヨウ化物あるいはこれらの錯塩である材料を顔料とし、展色剤を加えてインキ化したものが挙げられる。例えば、可逆性の示温インキ顔料組成がAg2HgI4であるものや、Cu2HgI4であるものは、それぞれ50℃、70℃の固有の温度で変色するが、2成分混合系によって、40℃~70℃の間で温度設定をすることができる。また、他の可逆性の示温インキとしては、例えば、常温ではピンク色に、約80℃の高温では青色になる塩化コバルト溶液が材料として含まれるものを挙げることができる。
【0125】
不可逆性示温インキに含まれる材料は、特に限定されないが、例えば、3(NH4)2O・Fe2O3・12MoO3・19H2O、Co(AsO4)2(Pyr)2.10H2O、(NH4)3H6[Fe(MoO4)6].7H2O、CoSiF6、Co(C6H5O7)2、[Cu(Pyr)2](CNS)2、(NH4)3VO3、CoNH4PO4.H2O、Cu(OH)2、[Co(NH3)5Cl]Cl2、3(NH4)2O.Al2O3.12MoO3.19H2O、(NH4)2U2O 7、[Cr(NH3)5Cl]SiF6、[Co(NH3)6]H.P2O 7、CdCO3、NH4MnP2O7等を挙げることができる。
【0126】
(1-1-3.フォトクロミックインキ)
フォトクロミックインキは、不活性状態では無色で、紫外線を照射されると発色するフォトクロミック化合物(顔料)がマイクロカプセル化されており、そのマイクロカプセルが機能性材料として含まれているインキである。このフォトクロミックインキは、紫外線の照射量に応じて、レッド、ブルー、パープル、イエロー等の互いに異なる色を呈する機能を有している。
【0127】
フォトクロミック化合物としては、例えば青色光を適用した際にも高い感度で変色するスピロオキサジン誘導体、スピロピラン誘導体、ナフトピラン誘導体等のフォトクロミック化合物、ジアリールエテン系フォトクロミック化合物等を挙げることができる。
【0128】
(1-2.その他の機能性インキ)
その他の機能性インキとしては、例えば、以下に述べる蛍光インキ、ニス弾きインキ等を挙げることができる。
【0129】
(1-2-1.蛍光インキ)
蛍光インキは、蛍光顔料(粒子)が機能性材料として含まれるインキであってよい。蛍光顔料としては、例えば紫外蛍光顔料等を挙げることができる。紫外蛍光顔料としては、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、アルキッド樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等の樹脂にフルオレッセイン、エオシン、ローダミン6G、ローダミンB、ベーシックイエローHG等の染料を均一に溶解して粉砕したもの等を挙げることができる。
【0130】
(1-2-2.ニス弾きインキ)
ニス弾きインキは、機能性材料として上述の仕上げニス等のオーバーコート層の材料となる樹脂を弾く性質を有する材料を含有するインキである。このような機能性材料としては、例えばニス等の樹脂を弾く程度の表面張力を有する皮膜を形成する材料であってよく、例えばシリコン、フッ素、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。
【0131】
(1-2-3.機能性フィラー含有インキ)
機能性フィラー含有インキは、機能性材料として、機能性フィラーを含むものであればよく、そのような機能性フィラーとしては、例えば、カーボン繊維等の有機繊維、カーボンブラック等を挙げることができる。このような機能性フィラー含有インキは、上述の発泡インキ、示温インキ、フォトクロミックインキ、蛍光インキ、ニス弾きインキ等に更に機能性フィラーが含まれるようなインキであってもよい。
【0132】
(2.無機系インキ)
特殊インキのうちの無機系インキは、特殊材料として、各種の無機材料が含まれてなるインキである。また、無機系インキは、更に他の材料(例えば無機系フィラー等)が含まれるものであってもよい。
【0133】
(2-1.パール顔料インキ)
無機材料としてパール顔料が含まれるパールインキは、見る角度により色が変化するインキである。このようなパールインキとしては、例えば屈折率の低い雲母、シリカ、アルミナ等と、屈折率の高い酸化ケイ素、酸化チタン、酸化スズ、酸化鉄等の金属酸化物とが層状配列された顔料を透明なビヒクル中に分散したものを挙げることができる。パールインキで印刷された印刷層は、入射光が異なる屈折率を有する層の境界で多重反射するとともに反射光が相互に干渉することにより、パール特有の干渉色や高虹彩色と光沢が再現される。
【0134】
(2-2.アルミ顔料インキ(銀インキ))
アルミ顔料インキ(銀インキ)としては、特に限定されないが、例えば、ビヒクルに、無機材料としてアルミニウム粒子を分散させ、そのアルミニウム粒子の光沢感(輝度感)により銀色を示すインキ等を挙げることができる。
【0135】
(2-3.金インキ)
金インキとしては、特に限定されないが、例えば、ビヒクルに、無機材料として、真鍮粒子(銅と亜鉛との合金)を分散させ、金に似た金属光沢を与えるインキや、透明黄顔料に、無機材料としてアルミニウム粒子を分散させ、その透明黄顔料中のアルミニウム粒子の光沢感(輝度感)により金色を示すインキ等を挙げることができる。
【0136】
(2-4.無機系フィラー含有インキ)
無機系フィラー含有インキは、無機材料として、ガラス繊維、無機系シリカ粒子等の無機系フィラーが含まれるものであればよく、上述のパール顔料インキ、アルミ顔料インキ(銀インキ)、金インキ等に更に無機系フィラーが含まれるようなインキであってもよい。
【0137】
[印刷缶]
図8(a)、(b)は、印刷装置1によって印刷画像104の印刷処理が行われた缶体P(印刷缶)の部分断面図である。この
図8の例では、缶体Pの缶胴A1の外周面に、予め白色塗装層(白ベタ印刷層)A2が形成され、その上に印刷画像104の印刷層A3が形成される。しかしながら、この例に限定されず、缶体Pの缶胴A1の外周面には、印刷画像104の印刷層A3が直接形成されてもよい。
【0138】
図8(a)に示すように、缶胴A1に形成された白色塗装層A2上には、第1印刷層A31~第5印刷層A35を有する印刷層A3が形成されている。
【0139】
第1印刷層A31は、
図4の酒マーク画像104bのイエロー(Y)の基本インキの印刷層である。第2印刷層A32は、背景画像104fにおける酒マーク画像104bとの境界部分である第3境界画像104f-13のネイビー(N)の基本インキの印刷層である。
【0140】
第3印刷層A33は、背景画像104fのうちの第1内側画像104f-21のネイビー(N)の特殊インキの印刷層である。この第3印刷層A33は、第5印刷版14e(控版)からブランケット25を介して転写されるネイビー(N)の特殊インキにより形成された第3-1印刷層A331上に、第4印刷版14d(正版)からブランケット25を介して転写されるネイビー(N)の特殊インキにより形成された第3-2印刷層A332が重畳してなる。
【0141】
なお、上述のように、第4印刷版14d(正版)と、第5印刷版14e(控版)との並びが互いに入れ替わっている場合、第3印刷層A33の層構成は、
図8(a)に示すものと異なる。すなわち、この場合、第3印刷層A33は、第4印刷版14d(正版)からブランケット25を介して転写されるネイビー(N)の特殊インキにより形成された第3-2印刷層A332上に、第5印刷版14e(控版)からブランケット25を介して転写されるネイビー(N)の特殊インキにより形成された第3-1印刷層A331が重畳するものとなる。
【0142】
第4印刷層A34は、背景画像104fにおける商品関連画像104cとの境界部分である第4境界画像104f-14のネイビー(N)の基本インキの印刷層である。第5印刷層A35は、商品関連画像104cのイエロー(Y)の基本インキの印刷層である。
【0143】
印刷層A3上には仕上げニス等のオーバーコート層A4が形成されている。このようなオーバーコート層A4を形成した缶体Pに対しては、後のオーブン等の乾燥装置において焼付け処理が行われる。このオーバーコート層A4は、従来公知の透明樹脂からなるニス等で形成されていてよい。この透明樹脂は、潤滑剤を含有した透明熱硬化性樹脂であることが好ましい。潤滑剤を含有した透明熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリアクリル樹脂、エポキシ樹脂等のベース樹脂に、メラミン樹脂等のアミノ樹脂又はフェノール樹脂等の樹脂を硬化剤として添加し、更に、パラフィン、ポリエチレン、シリコン等の潤滑剤を配合させたものが挙げられる。
【0144】
この
図8の例では、第3-1印刷層A331及び第3-2印刷層A332からなる第3印刷層A33のネイビー(N)の特殊インキは、発泡インキである。この発泡インキは、仕上げニス層A4とともにオーブン等で加熱焼付けされる。この加熱により、熱膨張性マイクロカプセルの殻壁内の揮発性溶剤が気化して熱膨張することで、熱膨張性マイクロカプセルが膨張する。これにより、
図8(b)に示すように、第3印刷層A33(第3-1印刷層A331及び第3-2印刷層A332)が発泡する。
【0145】
この加熱焼付け処理では、第3印刷層A33の発泡とともに、オーバーコート層A4中の溶剤が除去されてオーバーコート層A4が乾燥及び硬化する。第3印刷層A33の発泡によって変形したオーバーコート層A4が硬化することで、
図8(b)に示すように、オーバーコート層A4の表面は、ザラザラに荒れた状態となる。このようにして、印刷装置1によって缶体Pに印刷された印刷画像104は、背景画像104fにおける比較的広範囲の画像部分が立体感(凹凸感、ザラザラ感)のある仕上がりとなる。
【0146】
図9は、印刷装置1によって印刷画像104の印刷処理が行われた缶体P(印刷缶)の
図8(a)とは別部分である、印刷層同士の重複部分(オーバーラップ部分)を含む部分の部分断面図である。この
図9の例において、
図9と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0147】
図9に示すように、缶体Pの缶胴A1に形成された白色塗装層A2上に形成されている印刷層A3は、第5印刷版14e(控版)からブランケット25を介して転写されるネイビー(N)の特殊インキにより形成された第6印刷層A36上に、第4印刷版14d(正版)からブランケット25を介して転写されるネイビー(N)の特殊インキにより形成された第7印刷層A37が重畳してなる。
【0148】
図9において、第6印刷層A36は、第6-1印刷層A361と、第6-2印刷層印刷層A362と、第6-3印刷層A363とを有している。また、第7印刷層A37は、第7-1印刷層A371と、第7-2印刷層A372と、第7-3印刷層A373と、第7-4印刷層A374とを有している。
【0149】
この
図9に示すように、缶体Pの缶胴A1は、矢印Wの回転方向(時計回り)に回転するとする。この場合、ブランケット25を介して第5印刷版14e(控版)から供給(転写)されるネイビー(N)の特殊インキによる第6印刷層A36の形成は、白色塗装層A2上において、位置Sbから開始して、缶胴A1の矢印Wの回転方向とは反対の印刷方向Vに進行していく。
【0150】
この第6印刷層A36の形成は、位置Sbから印刷方向Vに進行し(第6-1印刷層A361の形成)、缶胴A1の周囲を1周して元の位置Sbまで行われる(第6-2印刷層A362、第6-3印刷層A363の形成)。なお、第6-3印刷層A363は、第7印刷層A37による重複部分(オーバーラップ部分)の下側に位置する印刷層部分である。
【0151】
また、
図9に示すように、ブランケット25を介して第4印刷版14d(正版)から供給(転写)されるネイビー(N)の特殊インキによる第7印刷層A37の形成は、第6印刷層A36上において、位置Sbよりも矢印Wの方向に約2mm離れた位置Saから開始して、缶胴A1の矢印Wの回転方向とは反対の印刷方向Vに進行していく(第7-1印刷層A371、第7-2印刷層A372の形成)。この第7印刷層A37の形成は、位置Saから印刷方向Vに缶胴A1の周囲を1周した後(第7-3印刷層A373の形成後)、更に元の位置Saから位置Sbまで印刷方向Vに進行する(第7-4印刷層A374の形成)。
【0152】
このため、第7印刷層A37による位置Saから位置Sbの約2mmの部分が、第7-1印刷層A371上に第7-4印刷層A374が重畳する重複部分(オーバーラップ部分)となる。この重複部分における下層である第7-1印刷層A371は、
図6の網点形成部14d-2により形成される網点画像による第3内側画像104f-23の印刷層である。また、この重複部分における上層である第7-4印刷層A374は、
図6の画線部14d-4により形成されるベタ画像による第2内側画像104f-22の印刷層である。
【0153】
これにより、第7-1印刷層A371の厚みは、第7-4印刷層A374の厚みよりも小さく、位置Sbから位置Saにかけて徐々に小さくなっていく。すなわち、この第7-1印刷層A371における網点面積率(%)は、位置Sbから位置Saにかけて徐々に小さくなっていく。
【0154】
この
図9の例において、ネイビー(N)の特殊インキは、発泡インキであることから、オーブン等での加熱により熱膨張性マイクロカプセルが膨張して発泡する。これにより、
図9の印刷層A3上のオーバーコート層A4の表面は、変形してザラザラに荒れた状態となり、立体感(凹凸感、ザラザラ感)のある仕上がりとなる。
【0155】
なお、第7-1印刷層A371が、
図7の網点形成部14d-2により形成される網点画像の印刷層である場合、その厚みは、位置Saから位置Sbにかけて略均一に、第7-4印刷層A374の印刷層の厚みよりも小さくなる。
【0156】
また、上述のように、第4印刷版14d(正版)と、第5印刷版14e(控版)との並びが互いに入れ替わっている場合、印刷層A3の層構成は、
図9に示すものと異なる。すなわち、この場合、印刷層A3は、第4印刷版14d(正版)からブランケット25を介して転写されるネイビー(N)の特殊インキにより形成された第7印刷層A37上に、第5印刷版14e(控版)からブランケット25を介して転写されるネイビー(N)の特殊インキにより形成された第6印刷層A36が重畳したものとなる。この場合の印刷層A3においては、第7印刷層A37による重複部分(オーバーラップ部分)の上側に、第6-3印刷層A363が位置する。
【0157】
このように、印刷装置1は、第4印刷版14d(正版)及び第5印刷版14e(控版)といった2つの印刷版14を用いて、互いに重畳する2層のネイビー(N)の特殊インキの印刷層を形成する。これにより、印刷装置1では、ネイビー(N)の特殊インキの色味がしっかりと表れた画像(比較的厚みの大きい印刷層)を形成することができる。
【0158】
印刷装置1は、このような2つの印刷版14(正版、控版)を用いた印刷によってネイビー(N)の特殊インキによる比較的厚みの大きい印刷層を形成しつつも、その2層の印刷層のうちの、正版を用いた印刷により形成する一方の印刷層のみで、画像の缶体周方向端部同士が重なり合う重複部分(オーバーラップ部分)を形成し、控版を用いた印刷により形成する他方の印刷層では、重複部分を形成しないようにしている。これにより、仮に2層の印刷層の両方で重複部分を形成するのに比して、缶体P上における重複部分が形成された箇所の印刷層の厚みの増大は、抑制される。
【0159】
そして、印刷装置1は、上述の
図6、
図7、
図9の例でも述べたように、この1層の印刷層により形成される重複部分において、一方の缶体周方向端部における画像の印刷層の厚みを他方の缶体周方向端部における画像の印刷層の厚みよりも小さくなるように印刷を行う。これにより、印刷装置1によれば、缶体P上における重複部分が形成された箇所の印刷層の厚みの増大を抑制して、缶体Pの外観上の美観が低下することを抑制することができる。
【0160】
[印刷装置の印刷動作]
図10は、缶体Pに対する印刷装置1の印刷動作について説明するためのフローチャートである。
【0161】
(ステップS101:缶体搬送工程)
ステップS101の缶体搬送工程において、印刷装置1は、搬送ユニット30によって缶体Pをマンドレルホイール40の上部に搬送する。印刷装置1は、マンドレルホイール40の上部に搬送された缶体Pをマンドレル41にて保持する。印刷装置1は、缶体Pがブランケット25と接触する前に、マンドレル41を回転させて缶体Pをプレスピンさせるとともに、マンドレルホイール40を回転させて缶体Pをブランケット25との接触領域へ移動させる。すなわち、缶体Pは、マンドレル41の回転によって自転し、マンドレルホイール40の回転によって公転する。
【0162】
(ステップS102:インキ供給工程)
ステップS101に続くステップS102のインキ供給工程において、印刷装置1は、複数のインキ供給部11のそれぞれにおいて、インキローラ群12を回転させ、インキ供給部11に収容されたインキを版胴13に装着された印刷版14に供給する。
【0163】
このステップS102において、印刷装置1は、第1インキ供給部11aから第1印刷版14aへとイエロー(Y)の基本インキを供給し、第2インキ供給部11bから第2印刷版14bへとマゼンタ(M)の基本インキを供給し、第3インキ供給部11cから第3印刷版14cへとシアン(C)の基本インキを供給する。また、このステップS102において、印刷装置1は、第4インキ供給部11dから第4印刷版14dへとネイビー(N)の特殊インキを供給し、第5インキ供給部11eから第5印刷版14eへと同じくネイビー(N)の特殊インキを供給し、第6インキ供給部11fから第6印刷版14fへとネイビー(N)の基本インキを供給し、第7インキ供給部11gから第7印刷版14gへとブラック(K)の基本インキを供給する。
【0164】
インキが供給された各印刷版14は、それぞれ、版胴13の回転によって、印刷版14とブランケット25との接触領域へ移動する。
【0165】
(ステップS103:ブランケット転写工程)
ステップS102に続くステップS103のブランケット転写工程において、印刷装置1は、ブランケットホイール20を回転させて、インキが供給された印刷版14にブランケット25を接触させ、印刷版14に供給されたインキをブランケット25に転写する。
【0166】
このステップS103において、印刷装置1は、同一のブランケット25に対し、第1印刷版14a上のイエロー(Y)の基本インキ、第2印刷版14b上のマゼンタ(M)の基本インキ、第3印刷版14c上のシアン(C)の基本インキ、第4印刷版14d上のネイビー(N)の特殊インキ、第5印刷版14e上のネイビー(N)の特殊インキ、第6印刷版14f上のネイビー(N)の基本インキ、第7印刷版14g上のブラック(K)の基本インキをこの順に転写する。これにより、印刷版14に形成された画線部のパターンに応じた画像が、ブランケット25に転写される。
【0167】
(ステップS104:缶体転写工程)
ステップS103に続くステップS104の缶体転写工程において、印刷装置1は、インキが転写されたブランケット25を、ブランケットホイール20の回転によって、缶体Pとブランケット25との接触領域へと移動させる。そして、印刷装置1は、マンドレル41に保持された缶体Pを押圧しながら缶体Pと、この接触領域へ移動したブランケット25とを接触させて、ブランケット25に転写されたインキを缶体Pに転写する。これにより、印刷版14に形成された画線部のパターンに応じた画像が、ブランケット25を介して缶体Pの外周面に転写される。
【0168】
(ステップS105:オーバーコート塗装工程)
ステップS104に続くステップS105のオーバーコート塗装工程において、印刷装置1は、インキが転写された缶体Pを、マンドレルホイール40を回転させることによって、バーニッシュアプリケータ50へと移動させ、更にトランスファユニット60へと移動させる。そして、印刷装置1は、バーニッシュアプリケータ50を作動させて、インキが転写された缶体Pに仕上げニス等のオーバーコートを塗装する。
【0169】
(ステップS106:移送工程)
ステップS105に続くステップS106の移送工程において、印刷装置1は、トランスファユニット60を作動させて、バーニッシュアプリケータ50を経た缶体Pをマンドレル41から移載し、オーブン等の乾燥装置(図示せず)へ移送する。
【0170】
なお、印刷装置1は、版胴13、ブランケットホイール20、マンドレル41及びマンドレルホイール40のそれぞれを同期して回転させる。また、印刷装置1は、バーニッシュアプリケータ50及びトランスファユニット60についても、これらの回転に同期して作動させる。このような動作により、印刷装置1は、缶体Pに印刷を行う。
【0171】
[製版システムの構成]
次に、印刷装置1に取り付けられる印刷版14を作製する製版システム200について説明する。製版システム200は、DTP(Desktop Publishing)及びCTP(Computer To Plate)を採用している。製版システム200では、上述の樹脂凸版からなる印刷版14を作製する。なお、印刷版14が、樹脂凸版ではなく、水無し平版である場合においても、この製版システム200により作製することが可能である。但し、製版システム200において、樹脂凸版を作製する場合と、水無し平版を作製する場合とでは、製版用の装置(機械)の具体的な構成は、異なっていてよい。
【0172】
図11は、印刷装置1に取り付けられる印刷版14を作製する製版システム200の機能ブロック図である。
図11に示す製版システム200は、レーザの熱で樹脂を昇華させ、彫刻しながら印刷版を作製するDLE(Direct Laser Engraving)方式、又は、レーザで樹脂版表面を削り現像するLAMS(Laser Ablation Masking System)方式で、印刷版14を作製するシステムであることが好ましい。印刷版14が樹脂凸版である場合には、レーザの熱で樹脂を除去した部分が非画線部となり、それ以外の部分が、インキが乗る画線部となる。また、印刷版14が水無し平版である場合には、レーザの熱で樹脂(シリコーン樹脂等)を除去した部分が、インキが乗る画線部となり、それ以外の樹脂が残る部分が非画線部(インキ反撥層)となる。
【0173】
製版システム200は、原稿画像データに各種画像処理を施して製版用の画像データを作成するデータ処理装置210と、製版用の画像データに応じて印刷版を作製する版作製装置220とを備える。
【0174】
データ処理装置210は、ページ記述言語で表された原稿画像データに対し、レイアウト及び色調の補正等の編集を行う。そして、データ処理装置210は、プロセス色の色分解等を行う分版処理と、網点の画像部分を形成するための網点化処理とを行って製版用の画像データを作成し、版作製装置220へ送信する。データ処理装置210は、プロセッサ及び記憶装置を含むとともに、データ処理装置210の機能を実装したプログラムを含んで構成される。
【0175】
データ処理装置210は、分版処理を行う分版処理部211と、網点化処理の条件を設定する網点化条件設定部212と、網点化処理を行う網点化処理部213と、版作製装置220へのデータの送信処理を行う送信処理部214とを備える。
【0176】
分版処理部211は、編集された原稿画像データを、プロセス色を色分解する。そして、分版処理部211は、この色分解により抽出されるイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各基本インキ用の画像データと、特別色であるネイビー(N)の基本インキ用の画像データと、ネイビー(N)の特殊インキ用の画像データとからなる分版画像データを作成する。
【0177】
網点化条件設定部212は、分版処理部211にて作成された分版画像データの内、網点画像を形成する色の分版画像データに対し、部分的に網点化する際の条件である網点化条件を設定する。網点化条件は、網点化を行う色の分版画像データ毎に設定される。網点化条件には、色毎の網点形状、網点化処理が施されてなる画像部分(網点画像)の指定、網点画像中の単位面積当たりに占める網点の面積の割合(%)である網点面積率、スクリーン線数(単位面積(1インチ)あたりの網点の配列数)、及び、スクリーン角度(網点の配列線の角度)の他、掛け合わせ方式に関する条件等が含まれる。掛け合わせ方式に関する条件としては、例えば、一の色の網点の少なくとも一部が他の色の網点の少なくとも一部上に重畳する重畳部分において、他の色のうちの少なくとも一色が調整又は除去される下色除去処理の条件等が挙げられる。
【0178】
網点化処理部213は、網点化条件設定部212にて設定された網点化条件に応じて、分版処理部211にて作成された各色の分版画像データにおける所定の画像部分(重複部分(オーバーラップ部分)における下層、商品関連画像104cのレモンのイラスト画像等)の画像データを網点化する。
【0179】
送信処理部214は、分版処理部211、更には網点化処理部213で処理が行われた後の分版画像データを、製版用の画像データとして版作製装置220へ送信する処理を行う。
【0180】
版作製装置220は、データ処理装置210の送信処理部214から送信された分版画像データに応じて各インキに対応した印刷版14を作製する。すなわち、版作製装置220は、分版画像データに基づいて、例えば紫外線の光硬化により感光性樹脂層等に画線部を形成した後、現像により未光硬化部を除去してその部分を非画線部とすることで、樹脂凸版の印刷版14を作製するようにしてよい。或いは、版作製装置220は、分版画像データに基づいて、例えばインキ反撥層(シリコーン樹脂等)に対してレーザによる露光を行い、レーザが照射された部分のインキ反撥層を剥離により除去し、インキが乗る画線部とインキを反撥する非画線部とを形成することで、水無し平版の印刷版14を作製するようにしてもよい。版作製装置220によって作製された印刷版14は、印刷装置1に適用される。
【0181】
[製版システムによる製版動作]
図12は、製版システム200を用いて印刷版14を作製する製版動作を説明するためのフローチャートである。
【0182】
図12に示すステップS201~ステップS206は、データ処理装置210に備えられたユーザインターフェースを介して入力されたユーザからの操作指令に基づき、データ処理装置210によって実行される。ステップS207は、版作製装置220によって実行される。
【0183】
(ステップS201:入稿工程)
ステップS201の入稿工程において、製版システム200は、データ処理装置210にて、原稿画像データを入稿する。
【0184】
(ステップS202:編集工程)
ステップS201に続くステップS202の編集工程において、製版システム200は、データ処理装置210にて、入稿した原稿画像データの編集を行う。製版システム200は、被印刷物の印刷領域に合わせてレイアウトを修正したり、色調の補正を行って原稿画像データを編集する。
【0185】
(ステップS203:分版工程)
ステップS202に続くステップS203の分版工程において、製版システム200は、データ処理装置210にて、編集された原稿画像データに対して分版処理を行う。製版システム200は、編集された原稿画像データに対してプロセス色毎の色分解を行い、プロセス色であるイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(K)の各色の基本インキと、特別色であるネイビー(N)の基本インキ及びネイビー(N)の特殊インキそれぞれのインキ毎の分版画像データを作成する。
【0186】
(ステップS204:網点化条件設定工程)
ステップS203に続くステップS204の網点化条件設定工程において、製版システム200は、データ処理装置210にて、分版画像データを部分的に網点化する際の網点化条件を設定する網点化条件設定処理を行う。製版システム200は、色毎の網点形状、網点化処理が施されてなる画像部分(網点画像)の指定、網点画像中の単位面積当たりに占める網点の面積の割合(%)である網点面積率、スクリーン線数(単位面積(1インチ)あたりの網点の配列数)、及び、スクリーン角度(網点の配列線の角度)の他、掛け合わせ方式に関する条件等を設定する。
【0187】
(ステップS205:網点化工程)
ステップS204に続くステップS205の網点化工程において、製版システム200は、データ処理装置210にて、ステップS204で設定された網点化条件に応じて、ステップS203で作成した各色の分版画像データにおける所定の画像部分(重複部分(オーバーラップ部分)における下層、商品関連画像104cのレモンのイラスト画像等)の画像データを網点化する。
【0188】
(ステップS206:送信工程)
ステップS205に続くステップS206の送信工程において、製版システム200は、データ処理装置210にて、作成した分版画像データ(或いはその後に網点化処理が行われた分版画像データ)を製版用の画像データとしてデータ処理装置210から版作製装置220へ送信する送信処理を行う。
【0189】
(ステップS207:版作製工程)
ステップS206に続くステップS207の版作製工程において、製版システム200は、送信処理にてデータ処理装置210から送信された画像データに応じた各印刷版14を版作製装置220にて作製する。この本ステップ5にて
図12に示す製版処理は、終了する。
【0190】
[変形例]
上述の実施形態は、変形例を含めて各実施形態同士で互いの技術を適用することができる。上述の実施形態は、本発明の内容を限定するものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない程度に変更を加えることができる。
【0191】
例えば、上述の実施形態では、プロセス色をイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(K)の4色としたが、更に、レッド(R)、グリーン(G)及びブルー(B)のうちの何れかを加えた5色としてもよい。
【0192】
また、上述の実施形態では、印刷装置1は、印刷画像104中の重複部分(オーバーラップ部分)を構成する第2内側画像104f-22及び第3内側画像104f-23をネイビー(N)の特殊インキの印刷層で形成したが、この例に限定されない。例えば、印刷装置1は、この重複部分を構成する第2内側画像104f-22のみをネイビー(N)の特殊インキの印刷層で形成し、第3内側画像104f-23をネイビー(N)の基本インキの印刷層で形成するように、ブランケット25にネイビー(N)の特殊インキ及びネイビー(N)の基本インキを転写するようにしてもよい。この場合、この重複部分において、一方の缶体周方向端部におけるネイビー(N)の基本インキによる第3内側画像104f-23の印刷層上に、他方の缶体周方向端部におけるネイビー(N)の特殊インキによる第2内側画像104f-22の印刷層が重畳するようにしてよい。
【0193】
また、上述の第3内側画像104f-23の印刷層に代えて、第2内側画像104f-22の印刷層の厚みを上述の例と同様にして小さくするようにしてもよい。この場合、例えば、第4印刷版14dは、一方の缶体周方向端部である第2内側画像104f-22の印刷層の厚みが缶体周方向端部の他方に向けて徐々に小さくなる(網点面積率が徐々に小さくなる)網点画像を形成するための、複数の網点用の画線部を有する印刷版としてよい。
【0194】
これは、換言すると、第4印刷版14dは、
図6(a)の背景画像形成用領域R2をベタ画像形成用の画線部で構成し、
図6(a)の背景画像形成用領域R4を網点画像形成用の複数の画線部とその間の非画線部からなる網点形成部で構成することである。そして、これは、
図9の第7印刷層A37において、第7-1印刷層A371の厚みは位置Saから位置Sbまで略一定であるのに対し、第7-4印刷層A374の厚みは位置Saから位置Sbにかけて徐々に小さくなっていくこと、すなわち第7-4印刷層A374における網点面積率(%)が位置Saから位置Sbにかけて徐々に小さくなっていくことを意味する。
【0195】
また、上述の実施形態の
図4に示す印刷画像104は、背景画像104fのうちの内側画像をネイビー(N)の特殊インキで印刷し、その内側画像に接する境界画像をネイビー(N)の基本インキで印刷する画像であった。しかしながら、缶体Pの外面に印刷される印刷画像は、この
図4の印刷画像104に限定されない。また、特殊インキの色は、上述のネイビー(N)でなく、他の色であってもよい。
【0196】
また、上述の実施形態では、ネイビー(N)の特殊インキを印刷するための印刷版として、第4印刷版14d(正版)及び第5印刷版14e(控版)といった2つの印刷版を用いたが、このような例に限定されない。例えば、特殊インキの印刷層を上述のような厚みの大きい印刷層(厚膜)とする必要が無い場合には、特殊インキを印刷するための印刷版として、第4印刷版14d(正版)のみを使用してもよい。
【0197】
また、被印刷物である缶体への画像の印刷方式としては、上述のような印刷版、ブランケット等を用いる印刷方式(有版印刷)に限定されず、印刷版、ブランケット等を用いずに缶体に対して画像を直接印刷する印刷方式(無版印刷)であってもよい。
【0198】
無版印刷としては、例えばインクジェット方式で印刷を行うものが挙げられる。このインクジェット方式で缶体に印刷画像を直接印刷する印刷装置において、印刷画像の重複部分(オーバーラップ部分)を形成するには、例えば、一方の缶体周方向端部における画像(上述の第3内側画像104f-23)の印刷層を形成するのに要する特殊インキのインキ量を、他方の缶体周方向端部における画像(上述の第2内側画像104f-22)の印刷層を形成するのに要する特殊インキのインキ量よりも少なくなるようにしてよい。
【0199】
この場合、このインクジェット方式の印刷装置は、一方の缶体周方向端部における画像(上述の第3内側画像104f-23)を印刷する際の単位時間あたりの缶体への特殊インキの滴下量を、他方の缶体周方向端部における画像(上述の第2内側画像104f-22)を印刷する際の単位時間あたりの缶体への特殊インキの滴下量よりも少なくなるようにしてよい。
【0200】
これにより、缶体に印刷された印刷画像の重複部分(オーバーラップ部分)において、一方の缶体周方向端部における画像(上述の第3内側画像104f-23)の印刷層の厚みを、他方の缶体周方向端部における画像(上述の第2内側画像104f-22)の印刷層の厚みよりも小さくすることができる。
【符号の説明】
【0201】
1 印刷装置、10 インキングユニット、10a~10h 第1インキングユニット~第8インキングユニット、11 インキ供給部、11a~11h 第1インキ供給部~第8インキ供給部、12 インキローラ群、13 版胴、13a~13h 第1版胴~第8版胴、14 印刷版、14a~14h 第1印刷版~第8印刷版、20 ブランケットホイール、21 セグメント、22 支軸、25 ブランケット、30 搬送ユニット、40 マンドレルホイール、41 マンドレル、50 バーニッシュアプリケータ、60 トランスファユニット、200 製版システム、210 データ処理装置、211 分版処理部、212 網点化条件設定部、213 網点化処理部、214 送信処理部、220 版作製装置