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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】ゴルフクラブ
(51)【国際特許分類】
   A63B 53/04 20150101AFI20240730BHJP
【FI】
A63B53/04 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020155736
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2021053377
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2019177606
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197398
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100197619
【弁理士】
【氏名又は名称】白鹿 智久
(72)【発明者】
【氏名】山田 理欧
【審査官】井上 香緒梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-125485(JP,A)
【文献】特開2008-220665(JP,A)
【文献】特開平08-196665(JP,A)
【文献】特開2009-148400(JP,A)
【文献】特開2015-029828(JP,A)
【文献】特開2013-094178(JP,A)
【文献】特開2008-136861(JP,A)
【文献】特開2012-085952(JP,A)
【文献】特開2019-080940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B53/00-53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェース部、クラウン部、バック部及びソール部を有するヘッドと、
一端が前記ヘッドに取付けられたシャフトと、
前記シャフトの他端に取付けられたグリップと
を具備するウッド型のゴルフクラブであって、
前記ヘッドの重量が190g以下であり、
ヘッド左右慣性モーメントが5000g・cm以上であり、
前記ヘッドは、前記クラウン部側から見た形状が四角形状であり、
前記四角形状を構成する線のうち前記フェース部のトゥ部から前記バック部のトゥ部を結ぶ線と前記バック部のヒール部から前記フェース部のヒール部を結ぶ線は、それぞれその90%以上の曲率半径が100mm以上であり、
前記四角形状を構成する線のうち前記バック部のトゥ部からヒール部を結ぶ線は30mm以上である
ゴルフクラブ。
【請求項2】
請求項に記載のゴルフクラブであって、
前記クラウン部の中央部と前記ソール部の中央部とを貫通する空洞部を有する
ゴルフクラブ。
【請求項3】
請求項に記載のゴルフクラブであって、
前記クラウン部の中央部に形成された開口に設けられる低比重材をさらに具備する
ゴルフクラブ。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれかに記載のゴルフクラブであって、
クラブ慣性モーメントが2860kg・cm以下である
ゴルフクラブ。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれかに記載のゴルフクラブであって、
クラブ振動数220/min以上である
ゴルフクラブ。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれかに記載のゴルフクラブであって、
クラブ長さが47インチ以上である
ゴルフクラブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウッド型のゴルフクラブに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフクラブにおいて飛距離を増大させるためには、ヘッドスピードを速くすることが重要である。ウッド型のゴルフクラブのヘッドスピードを速くするための手段の一つとして、ヘッド重量を軽くすることが考えられる。
【0003】
例えば下記特許文献1には、ヘッド重量を190g未満としたウッド型ゴルフクラブが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-117031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、安定性を向上させるためには、ヘッド左右慣性モーメントを大きくすることが重要である。しかしながら、上記特許文献1に記載のように単にヘッド重量を軽くするだけでは、ヘッド左右慣性モーメントが小さくなってしまい、安定性が低くなり、結果的に平均飛距離は落ちてしまう。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、飛距離の増大と安定性の向上を両立することが可能なウッド型のゴルフクラブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の一形態に係るゴルフクラブは、フェース部、クラウン部及びソール部を有するヘッドと、一端が上記ヘッドに取付けられたシャフトと、上記シャフトの他端に取付けられたグリップとを有するウッド型のゴルフクラブであって、上記ヘッドの重量が190g以下であり、ヘッド左右慣性モーメントが5000g・cm以上である。
【0008】
これによりゴルフクラブは、ヘッド重量を軽量化しながらも、ヘッド左右慣性モーメントを大きくすることによって、飛距離の増大と安定性の向上を両立することができる。またヘッドの軽量化によってクラブ振動数を増加させることができるため、スイングの再現性が向上し安定性の向上も見込まれる。したがって、上記構成により、最大飛距離、平均飛距離、スイング再現性による安定性、打球安定性の全てを向上させることができる。
【0009】
上記クラウン部側から見た形状が四角形状であり、上記クラウン部側から見たバック側の寸法が30mm以上であってもよい。
【0010】
これにより、ヘッドの重心からより遠い位置に重量を配置できることから、ヘッド重量を大きくしなくてもヘッド左右慣性モーメントを大きくすることができる。
【0011】
上記クラウン部の中央部と上記ソール部の中央部とを貫通する空洞部を有してもよい。
【0012】
これにより、ヘッドを縦に貫通する空洞部を設けることで、ヘッドの重心近くの重量を軽量化し、重心から遠い部分の重量を大きくしてヘッド左右慣性モーメントを大きくすることができる。
【0013】
上記クラウン部の中央部に形成された開口に設けられる低比重材をさらに有してもよい。
【0014】
これにより、クラウン部の中央部分を例えばカーボン素材等の比重の軽い素材に置き換えることで、ヘッドの重心近くの重量を軽量化し、重心から遠い部分の重量を大きくしてヘッド左右慣性モーメントを大きくすることができる。
【0015】
クラブ慣性モーメントが2860kg・cm以下であってもよい。
【0016】
これにより、ヘッドスピードを更に増大させることができる。
【0017】
クラブ振動数220/min以上であってもよい。
【0018】
これにより、安定性をさらに向上させることができる。
【0019】
クラブ長さが47インチ以上であってもよい。
【0020】
これにより、ヘッドスピードを更に増大させることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、飛距離の増大と安定性の向上を両立することが可能なウッド型のゴルフクラブを提供することができる。しかし、この効果は本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るゴルフクラブの外観を示した図である。
図2】上記ゴルフクラブのヘッド部分の平面図である。
図3】上記ゴルフクラブの各パラメータの最適化のためのシミュレーション例を示した図である。
図4】上記ゴルフクラブの各パラメータの最適化のためのシミュレーション例を示した図である。
図5】上記ゴルフクラブの各パラメータの最適化のためのシミュレーション例を示した図である。
図6】上記ゴルフクラブの各パラメータの最適化のためのシミュレーション例を示した図である。
図7】上記ゴルフクラブの各パラメータの最適化のためのシミュレーション例を示した図である。
図8】ヘッドスピード及びボールスピード変動係数の測定に用いたゴルフクラブの仕様を示した図である。
図9】上記ゴルフクラブのヘッドスピードの実測結果を示した図である。
図10】上記ゴルフクラブのボールスピード変動係数の実測結果を示した図である。
図11】上記ゴルフクラブの形状の他の例を示した平面図である。
図12】上記ゴルフクラブの形状の他の例を示した平面図である。
図13】上記ゴルフクラブの形状の他の例を示した平面図である。
図14】上記ゴルフクラブの形状の他の例を示した平面図である。
図15】上記ゴルフクラブの形状の他の例を示した平面図である。
図16】上記ゴルフクラブの形状の他の例を示した平面図である。
図17】従来の一般的なゴルフクラブのヘッドの形状を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0024】
図1は、本実施形態に係るゴルフクラブの外観を示した図である。また図2は、上記ゴルフクラブのゴルフクラブヘッド部分の平面図である。
【0025】
両図に示すように、本実施形態に係るゴルフクラブ100は、ヘッド1と、当該ヘッド1に一端が取り付けられるシャフト2と、シャフト2の他端に取付けられるグリップ3とを有する。
【0026】
シャフト2は、例えばソケット等を介してヘッド1に取り付けられるが、ソケット等を介さずに直接取り付けられてもよい。
【0027】
ヘッド1は、フェース部1a、クラウン部1b及びソール部1cを有し、それらによって内部空間が形成された中空構造を有するウッド型(例えばドライバー)のヘッドである。ヘッド1は、例えば64チタン等の金属によって製造される。
【0028】
本実施形態においてヘッド1は、その重量が190g以下となり、かつ、ヘッド左右慣性モーメント(ヘッドの重心を軸としたヘッドの左右方向への回転のしにくさを示す値。以下、横MOI)が5000g・cm以上となるように設計されている。これにより、ヘッドスピード増大による飛距離の増大と、安定性の向上の双方が達成可能となる。
【0029】
従来、ヘッド重量が190g以下で、横MOIが5000g・cm以上のヘッドは存在しなかった。その理由としては以下のような点が挙げられる。
【0030】
これは、そもそも、ヘッド重量が重い方が横MOIを大きくしやすく、クラブバランスの観点から、基本的に従来のほぼ全てのドライバーのヘッド重量が190g~210g程度の範囲に入っている。
【0031】
また、横MOIにおいて5000g・cmという数値は、ほとんどのヘッドで実現できていない。これは、一般的なヘッド形状(クラウン側から見て半月状)でこの数値を達成することは困難であり、かつ、上記のようなヘッド重量の制約があるため、一般的にほとんどのドライバーの横MOIは4000~5000g・cmの範囲に入っている。
【0032】
この範囲外のクラブも存在するが、例えばヘッド重量が208gで横MOIが5200g・cmといったものや、レディースクラブにおいてヘッド重量が175g、横MOIが3800g・cmといったものであり、ヘッド重量と横MOIのうちどちらかしか上記条件を達成できていない。
【0033】
また、そもそもヘッドを軽量化すると飛距離が増大することについてあまり知られていないという点も理由として挙げられる。各個人のヘッドスピードやスイングタイプによって異なるが、一般的な傾向として、ヘッドを軽量化すると、反発係数を高くでき、ヘッドスピードが向上することが分かっている。
【0034】
ヘッドを軽量化することによりインパクトエネルギーが減ってしまう懸念も有るが、個人差はあるものの一般的にはヘッドを軽量化すると、ヘッドスピードが向上してボールスピードが向上する影響の方が大きいことが分かっている。
【0035】
これらの理由から、ヘッドを軽量化しつつ、横MOIを大きくすることが望ましい。
【0036】
この条件を達成するためには、ヘッド形状を特殊な構造にする必要がある。図2に示すように、本実施形態では、ヘッド1の形状をクラウン部1b側(Z方向)から見てほぼ矩形状に形成している。
【0037】
ヘッド1をこのような矩形状にすることで、同図において黒点で示す重心Gから遠い位置であるトゥ側の両角のC1及びC2の位置に重量を配置することができ、ヘッド1の重量を大きくしなくとも横MOIを大きくすることが可能となる。
【0038】
[各種パラメータに関するシミュレーション例]
本実施形態では、上記ヘッド重量及び横MOI以外にも、クラブ長さL(図1参照)、クラブ慣性モーメント(クラブ全体の回転のしにくさを示す値。以下、クラブMOI)といった各種パラメータを調整して飛距離増大及び安定性向上を図っている。以下、各種パラメータに関する本発明者のシミュレーション例について説明する。なお、以下の各シミュレーション例における想定飛距離は、ヘッド重量等の各種設計パラメータから独自の計算式を使用して算出したものである。ここで、想定平均飛距離を算出するための式および方法の概要を示す。
【0039】
まず、下記7つの関連項目の式を組み合わせて、計算式を作成した。
1.各種打点位置による反発性能変化
2.ヘッド重量変化による反発性能変化、ボールスピード変化
3.クラブMOI変化によるヘッドスピード変化
4.重心高さ変化によるスピン量変化
5.クラブ長さ変化によるヘッドスピード変化
6.反発性能変化によるスピン量変化
7.反発性能変化によるボールスピード変化
以下、それぞれについて説明する。
【0040】
1.各種打点位置による反発性能変化
重心位置でのCORを基準とし、打点を外すとヘッドが回転することにより反発係数が減少する。これを式に表すと、以下のようになる。
【0041】
【数1】
【0042】
ここで、ΔCOR{Pi}は、各種打点Piの反発係数の減少量であり、上記式のように、各種打点の反発係数の平均 ΔCORave.:1/n*Σ(i=1⇒n)[ΔCOR{Pi}] で表すことができる(nは打点数)。
【0043】
そしてΔCOR{Pi}は、上記式1のようになり、ヘッドの特定方向慣性モーメントMOIとフェース面上重心位置Lと実重心を支点とした、フェース面上重心位置、打点位置からなる角度θからなるsinθと係数a,bを用いることによって表すことができる。
【0044】
2.ヘッド重量変化による反発性能変化、ヘッドスピード変化
ヘッド重量によって、実質の反発係数が変化すること、及び、ヘッドスピードが変化することが分かっている。当該反発係数は、以下の式で表すことができる。
ΔCOR=c*Wh+d
ここでWhはヘッド重量、c,dは係数である。
【0045】
またヘッド重量によってヘッドスピードが向上して、ボール初速が向上することが分かっている。当該ボール初速は、以下の式で表すことができる。
ΔBS=e*Wh+f
ここでWhはヘッド重量、e,fは係数である。
【0046】
3.クラブMOI変化によるヘッドスピード変化
クラブMOIが減少すると、ヘッドスピードが向上する。上記2においてヘッド重量については考慮したので、ここではシャフト重量とグリップ重量を考慮する。
【0047】
すなわち、ヘッドスピードは、以下のように表すことができる。
ΔHS=g*{Ws*(h*L+i)+j*Wg}-k
ここで、Wsはシャフト重量、Wgはグリップ重量、Lはクラブ長さ、g,h,I,j,kは係数である。
【0048】
4.重心高さ変化によるスピン量変化
重心高さが変化すると、ギア効果の影響が変わり打ちだし角やスピン量が変化する。重当該スピン量の変化は、以下の式で表すことができる。以下の式において、lは係数、GHは重心高さ、GDは重心深度、MOIはヘッド慣性モーメントである。
【0049】
【数2】
【0050】
5.クラブ長さ変化によるヘッドスピード変化
クラブが長くなるとヘッドスピードが増加する。当該ヘッドスピードの変化は以下の式で表すことができる。以下の式において、HS0は基準ヘッドスピード、Lはクラブ長さ、L0は基準クラブ長さ、m,n,o,pは係数である。
【0051】
【数3】
【0052】
6.反発性能変化によるスピン量変化
反発性能が変化すると、リコイル現象等によりスピン量が変化することが分かっている。当該スピン量の変化は、以下の式で表すことができる。
ΔSR=q*ΔCOR
ここでqは係数である。
【0053】
7.反発性能変化によるボールスピード変化
反発性能は、衝突角度にも依るが、基本的にはボールスピードに比例するため、以下のように表すことができる。
COR∝BS
【0054】
以上説明した項目は、反発性能変化、ヘッドスピード変化、スピン量変化、ボールスピード変化に分けられるが、上記7の項目から、実質反発性能とボールスピードは同義と考える。
【0055】
・ヘッドスピード変化
ヘッドスピード変化は、上記3及び5に示した各式から、
HS=(HS0+ΔHS)*HS5/HS0
と表せる。ここでHS0は基準ヘッドスピード、HS5は上記5におけるHSである。すなわち、ヘッドスピードは以下の式で表すことができる。
【0056】
【数4】
【0057】
・スピン量変化
スピン量変化は、上記4及び6で示した各式により、以下のように表せる。
ΔSR=SR4+SR6
【0058】
ここで、基準重心高さをGH0とすると、スピン量変化は以下の式で表せる。
【0059】
【数5】
【0060】
・ボールスピード変化
上記1,2及び7で示した各式を用いて、上記2で示した式のBSをCORに変換する。基準CORをCOR0、基準BSをBS0とすると、ボールスピード変化は以下のように表せる。
【0061】
【数6】
【0062】
この式と他の1,2,7式を組み合わせると、以下のようになる。
COR=CORh*{(COR0-ΔCORave.)/COR0}*(COR2/COR0)*(COR2'/COR0)
【0063】
ここで、COR2は以下を示す。
【0064】
【数7】
【0065】
また、COR2'は以下を示す。
【0066】
【数8】
【0067】
また、ΔCORave.とΔCOR{Pi}は以下のように表せる。
【0068】
【数9】
【0069】
したがって、反発係数は以下のように表現できる。
【0070】
【数10】
【0071】
これらの項目に飛距離に変換、想定飛距離を算出する式に組み合わせていく。基準スピン量をSR0、ΔSR変化した際の飛距離変化をΔtotalとすると、スピン量から得られる飛距離の近似式より、Δtotalは以下のように表せる。
【0072】
【数11】
【0073】
これまでに示した式を、飛距離に変換して組み合わせる。基準飛距離をtotal0とすると、平均飛距離は以下のように表せる。
【0074】
【数12】
【0075】
ただし、この式におけるHS,COR,Δtotal,ΔSRはそれぞれ以下の通りである。
【0076】
【数13】
【0077】
実際にゴルフボールをゴルフクラブで打つ際には、ばらつきがある。ばらつきには、打点、衝突角度、ヘッドスピードなどがある。これらのばらつきを考慮した計算式を上記の想定飛距離の式に組み込むことで、最終的に想定平均飛距離の計算式が出来る。すなわち、上記式のL、sinθ、ΔCORの部分を打点の分布によって変更する。
【0078】
この想定平均飛距離の計算式に、各種設計パラメータを代入することで、ある設計パラメータを持つゴルフクラブの想定平均飛距離が算出される。
【0079】
なお、ここでは打ち出し角は考慮項目として挙がっていないが、実際には計算式内部にスピン量変化、ボールスピード変化の項目として入っている。
【0080】
以下、当該想定平均飛距離の計算式を用いて各パラメータを変更してシミュレーションした結果を示す。
【0081】
(シミュレーション例1:ヘッド重量及び横MOI)
図3は、クラブ長さ、とクラブ振動数を固定し、ヘッド重量及び横MOIの条件を可変した場合の想定平均飛距離に関するシミュレーション結果を示した図である。
【0082】
同図において、比較例1は一般的なクラブの結果であり、比較例2は、比較例1からヘッド重量のみ、より軽い190gに変更したクラブの結果であり、比較例3は、比較例1から横MOIのみ、より高い5000g・cmに変更したクラブの結果を示す。
【0083】
また実施例1は、上記比較例1からヘッド重量を190gに変更し、横MOIを5000g・cmに変更したクラブの結果を示す。また実施例2は、比較例1からヘッド重量を更に軽い170gに変更し、横MOIを更に高い5800g・cmに変更したクラブの結果を示す。
【0084】
なお、比較例2、3、及び実施例2については、ヘッド重量を変更したことに伴い、クラブMOIも変わっている。
【0085】
同図に示すように、ヘッド重量は軽ければ軽いほど飛距離は増大するが、軽いほど横MOIは小さくなってしまう。そのため、ヘッド重量は横MOIとの兼ね合いで決定され、この兼ね合いのため最小で170gは必要となる。すなわち、本実施形態においてヘッド重量は190g以下、より好ましくは180g以下、さらにうまく兼ね合いが取れれば170g程度まで軽量化するのが好ましい。
【0086】
同図の例でも、ヘッド重量が軽いほど(200gよりも190g、190gよりも170g)、想定飛距離が大きくなっていることが分かる。
【0087】
一方で、横MOIは大きければ大きいほど飛距離及び安定性を増大させるが、ヘッド重量やその他との兼ね合いが必要となる。同図に示すように、ヘッド重量変化が想定平均飛距離に与える影響よりも横MOIの変化が想定平均飛距離に与える影響の方が大きいため、基本的には横MOIを優先する。
【0088】
本実施形態において、横MOIは、5000g・cm以上、より好ましくは、6000g・cm以上に設定されるが、想定飛距離、クラブ振動数、ヘッド重量、クラブMOIとの兼ね合いで決定される。
【0089】
(シミュレーション例2:クラブMOI)
図4は、ヘッド重量、クラブ長さ、横MOI、クラブ振動数を固定し、クラブMOIの条件を可変した場合の想定平均飛距離に関するシミュレーション結果を示した図である。
【0090】
同図において、比較例1は上記図3と同様であり、比較例4は、比較例1からクラブMOIのみ、より小さい2700g・cmに変更したクラブの結果を示し、比較例5は、比較例1からクラブMOIのみ、より小さい2500g・cmに変更したクラブの結果を示す。
【0091】
同図に示すように、クラブMOIが小さいほどヘッドスピードが増大し飛距離が増大する。クラブMOIに影響するヘッド重量は、クラブ振動数と横MOIの兼ね合いから決定されるため、その中でできる限りクラブを軽くすることでクラブMOIを小さくすることができる。そのため、シャフト2とグリップ3はできる限り軽量化されるのが望ましい。
【0092】
ただし、後述するように本実施形態ではクラブ長さは好ましくは47インチ以上、より好ましくは48インチ以上であり、シャフト2とグリップ3の軽量化には限界がある。これらの兼ね合いにおいて、クラブMOIは、2860kg・cm以下とされる。
【0093】
(シミュレーション例3:クラブ振動数)
図5は、ヘッド重量、クラブ長さ、横MOI、クラブMOIを固定し、クラブ振動数の条件を可変した場合の想定平均飛距離に関するシミュレーション結果を示した図である。
【0094】
同図において、比較例1は上記図3と同様であり、比較例6は、比較例1からクラブ振動数のみ、より大きい250/minに変更したクラブの結果を示し、比較例7は、比較例1からクラブ振動数のみ、より大きい270/minに変更したクラブの結果を示す。
【0095】
同図に示すように、クラブ振動数が大きいほど飛距離が増大する。クラブ振動数は、好ましくは220/min以上とされる。
【0096】
クラブ振動数を大きくするには、シャフト2の硬さを硬くすればよいが、後述するクラブ長さとの兼ね合いでも決定される。
【0097】
(シミュレーション例4:クラブ長さ)
図6は、ヘッド重量、横MOI、クラブMOI、ヘッド振動数を固定し、クラブ長さの条件を可変した場合の想定平均飛距離に関するシミュレーション結果を示した図である。
【0098】
同図において、比較例1は上記図3と同様であり、比較例8は、比較例1からクラブ長さのみ、より長い47インチに変更したクラブの結果を示し、比較例9は、比較例1からクラブ長さのみ、より長い48インチに変更したクラブの結果を示す。なお、当該比較例8、9についてはクラブ長さを変更したことに伴い、クラブMOIも変わっている。
【0099】
同図に示すように、クラブ長さが長いほど飛距離が増大する。図3図6の各想定飛距離を比較すると分かるように、クラブ長さは比較的飛距離への影響が大きいパラメータであり、クラブ振動数との兼ね合いもあるが、優先度の高いパラメータである。
【0100】
そこで、クラブ長さは、ルール上限値を鑑みて、出来るだけ長い方がよく、好ましくは47インチ以上、より好ましくは48インチ以上とされる。
【0101】
また上述の通り、クラブ振動数は、好ましくは220/min以上とされる。これにより、クラブ長さを長くしてもシャフト2に比較的固いものを採用することで、安定性を確保することができる。
【0102】
(シミュレーション例5:ヘッド重量、横MOI、クラブMOI、クラブ振動数、クラブ長さ)
図7は、上述したヘッド重量、横MOI、クラブMOI、クラブ振動数、クラブ長さの全ての条件を可変した場合の想定平均飛距離に関するシミュレーション結果を示した図である。
【0103】
同図において、比較例1は上記図3と同様であり、実施例3は、比較例1からヘッド重量及び横MOIを上記実施例1と同様とし、クラブMOIを上記比較例4と同様とし、クラブ振動数を上記比較例6と同様とし、クラブ長さを上記比較例8と同様としたクラブの結果を示す。また実施例4は、上記実施例3の各パラメータを全て向上させたもので、比較例1からヘッド重量及び横MOIを上記実施例2と同様とし、クラブMOIを上記比較例5と同様とし、クラブ振動数を上記比較例7と同様とし、クラブ長さを上記比較例9と同様としたクラブの結果を示す。
【0104】
同図に示すように、ヘッド重量が軽く、横MOIが大きく、クラブMOIが小さく、クラブ振動数が大きく、クラブ長さが長いほど、飛距離が増大する。したがって、上記図3図6に可変した各パラメータを可能な限り組み合わせることで、より飛距離を増大させることができる。
【0105】
すなわち、以上説明した各パラメータのうち、ヘッドの重量(190g以下)と横MOI(5000g・cm以上)に関する条件は必須とされるが、それら以外で飛距離増大に寄与することが分かっているクラブ長さ(47インチ以上)、クラブMOI(2860kg・cm以下)、クラブ振動数(220/min以上)に関する各条件は、ヘッド1の設計に際してそれぞれ自由に組み合わせることができる。
【0106】
[ヘッドスピード及びボールスピード変動係数の実測結果]
本発明者は、上記各パラメータを可変したゴルフクラブについて、ヘッドスピードの測定を行った。図8は、当該ヘッドスピード及びボールスピード変動係数の測定に用いたゴルフクラブの仕様を示した図である。
【0107】
同図に示すように、実施例5は、上記実施例4と同等程度までヘッド重量、横MOI、クラブMOI、クラブ振動数、クラブ長さを設定したものであり、実施例6は、当該実施例5からクラブ長さのみ短くしたものである。また比較例10は、ヘッド重量や横MOIが一般的なゴルフクラブにおいて、クラブ長さのみ上記実施例5と同様に設定したものであり、比較例11は、当該比較例10からクラブ長さのみ短くしたものである。
【0108】
図9は、上記図8の仕様に基づくヘッドスピードの実測結果を示した図である。
【0109】
同図に示すように、各比較例に比べて各実施例の方がヘッドスピードがそれぞれ約0.2m/s大きくなっており、またクラブ長さが長いほどヘッドスピードが大きくなっていることが分かる。
【0110】
図10は、上記図8の仕様に基づくボールスピード変動係数の実測結果を示した図である。同図において、CV(BS)は、ボールスピードBSの変動係数CVを表す。
【0111】
同図に示すように、各比較例に比べて各実施例の方がボールスピード0.7%程度安定している。一方、クラブ長さはボールスピードの安定性にそれほど関係してないことが分かる。
【0112】
[ヘッド形状の検討]
次に、上述した各実施例の数値を実現することが可能なヘッド1の形状についてより詳細に検討する。
【0113】
上述の各数値を実現するため、上記ヘッド1は、クラウン部1b側から見た形状(XY平面形状)が四角形状であることが好ましい。四角形状とするのは、本実施形態の目的でもある軽量でありながら高い横MOIを達成するために、四角形が相対的に見て最も有利な形状、構造であるからである。
【0114】
ここでいう四角形は、フェース部1aのヒール部からトゥ部を結ぶ線を1辺(以下辺1)とし、フェース部1bのトゥ部からバック部のトゥ部を結ぶ線を1辺(以下辺2)とし、バック部のトゥ部からヒール部を結ぶ線を1辺(以下辺3)とし、バック部のヒール部からフェース部1aのヒール部を結ぶ線を1辺(以下辺4)とした際の4辺を結んで出来る四角形をいう。
【0115】
この四角形の各辺は直線以外に、曲線であっても良い。四角形を成すために、各辺は曲線であっても良いが、曲率半径が一定値より大きい必要がある。
【0116】
具体的には、辺1はフェース面からなる1辺であり、曲率半径が200mm以上程度のヘッド1の大きさからすると比較的直線に近いものであるとする。
【0117】
辺2、辺3、辺4は、一般的には複数の曲率半径をもった頂点の無い曲線であることが多い。
【0118】
例えば図17に示すような従来の一般的なヘッドだと、辺2、辺3、辺4の部分は、曲率半径20mm~200mm程度の曲線を用いて一つの弧を描いていることが分かる。具体的には、辺2、辺4は、四角形を成すために辺の90%以上が曲率半径が100mm以上であるとする。
【0119】
辺2、3、4の曲率半径が大きいほど、ヘッド1の体積を減らしつつ、ヘッド1のトゥヒール方向の幅やフェースバック方向の幅を大きくすることができる。
【0120】
辺3の寸法(ヘッド1のクラウン部1b側から見たバック側の寸法)については、短めになる場合も多く、曲率半径が小さくなることもあるが、後に述べる頂点のフィレットの曲率半径より大きくかつ、長さが30mm以上であることが好ましい。
【0121】
フェース面上左右重心位置の兼ね合いなどから、辺3のバックトゥ方向における位置は変更されるが、バック側寸法が30mm以上あることにより、よりバック側に多くの重量を配分することが可能になり、横MOI/ヘッド重量の値を大きくすることができる。
【0122】
四角形を成すためには、4つの各頂点が必要であるが、各頂点は、一定の曲率を持ったフィレットが付いた形状であってもよい。この各頂点のフィレットの曲率半径は、一定値より大きい必要があり、かつ、辺の曲率半径より小さい必要がある。具体的には、頂点の曲率半径20mm以下とする。ただし、フェース部1aのヒール部の頂点に関しては、基本的にネックがその部分にあるため、特に問わないものとする。
【0123】
辺3以外、長さは規定しない。これは、その他の制約条件で一般的に100mm程度と辺3の規定よりかなり大きくなり、四角形を成すために十分な長さを持つためである。四角形は、図2で示したような矩形(正方形、長方形)のほか、台形などの形でもよい。
【0124】
高い横MOIを達成するために、バック部にウエイトを可能な限り配置することが有利となるが、ヘッド1を四角形形状にすることで、ヘッド1内のバック部の領域体積を増やすことができる。
【0125】
[ヘッド形状のバリエーション]
次に、本実施形態におけるヘッド1の形状の、図2に示した形状以外のバリエーションについて説明する。図11図16は、当該ヘッド1の形状のバリエーションを示した平面図である。
【0126】
図11の例は、図2に示したよりもより正方形に近い形状に形成されている。当該形状は、横MOI/ヘッド重量の値を最も大きくすることができる形状であり、上述のシミュレーション例における実施例2、4、5、6に対応する形状である。
【0127】
図12の例は、バックトゥ側付近に辺3(台形の上辺)を有し、かつ、当該辺3の長さが30mmに設定されており、三角形に近い形状に形成されている。
【0128】
当該形状は、バック側中央付近に辺3が形成される場合よりも、ヘッドの重心からの距離が遠い位置に重量を配置しやすくなり、さらに、フェース部1aとネックに重量がある程度使われる関係上、軽量なわりに横MOIを大きくしやすくなり、横MOI/ヘッド重量を大きくすることができる形状である。当該形状は、上述のシミュレーション例における実施例1や3に対応する形状である。
【0129】
図13の例は、図11の例よりも、辺3の長さをやや短くした形状である。また図14の形状は、図12の例よりも、辺3の位置をややバック側中央に移動させた形状である。
【0130】
図15の例は、図13の例よりも、辺3の長さをさらに短く(60mm)した形状である。また図16の例は、図14の例よりも、辺3の位置をさらにバック側中央部に移動させた形状である。
【0131】
このような図11図16に示した形状によっても、ヘッド1の重量が190g以下、ヘッド1の横MOIが5000g・cm以上という条件を実現でき、飛距離増大及び安定性の向上を実現することができる。
【0132】
[まとめ]
以上説明したように本実施形態によれば、ヘッド1の重量を190g以下とし、かつ、ヘッド左右慣性モーメントを5000g・cm以上とすることで、飛距離の増大と安定性の向上を両立することが可能なウッド型のゴルフクラブを提供することができる。またヘッドの軽量化によってクラブ振動数を増加させることができるため、スイングの再現性が向上し安定性の向上も見込まれる。したがって、ヘッド1の重量を190g以下とし、かつ、ヘッド左右慣性モーメントを5000g・cm以上とすることで、最大飛距離、平均飛距離、スイング再現性による安定性、打球安定性の全てを向上させることができる。
【0133】
[変形例]
本発明は上述の実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更され得る。
【0134】
上述の実施形態では、横MOIを大きくするために、ヘッド1のクラウン部1bから見た形状が矩形または四角形となるように形成された。これに代えて、またはこれに加えて、ヘッド1は、上記クラウン部1bの中央部と上記ソール部1cの中央部とを(図2のZ方向)に貫通する例えば円柱状または角柱状の空洞部を有してもよい。
【0135】
これにより、ヘッド1を縦にくり抜いたような空洞部を設けることで、ヘッド1の重心近くの重量を軽量化し、重心から遠い部分の重量を大きくして横MOIを大きくすることができる。
【0136】
上述の実施形態では、横MOIを大きくするために、ヘッド1のクラウン部1bから見た形状が矩形となるように形成された。これに代えて、ヘッド1のクラウン部1bから見た形状は矩形とせず従来のドライバーのヘッドと同様の形状(半月状)とされ、クラウン部1bのほぼ中央部に形成された開口に、ヘッド本体1の素材である金属よりも比重が小さい低比重材が設けられてもよい。低比重材は、例えばカーボンやグラスファイバー等の非金属材料や、チタン、ステンレス、アルミニウム等の金属材料であり得る。
【0137】
また、上述の実施形態のような矩形状のヘッド1において、そのクラウン部1bの中央部の開口に上記のような低比重材が設けられてもよい。これにより、ヘッド1の重心G近傍の重量を軽量化してその分の重量を重心から遠いトゥ側の両隅C1及びC2に配置することで、更にヘッド1の軽量化及び横MOIの増大を達成することができる。
【0138】
また、ヘッド1の形状を上記矩形とする代わりに、ヘッド1のバック部のトゥ-ヒール方向の幅を、ヘッド寸法に関するルール(現行ルールではトゥからヒールまでの幅が5インチ)限界近くに広げるとともに、ヘッドの体積をルール(現行ルールでは460cc)内におさめるように、クラウン部1bの高さを下げる(クラウン部1bとソール部1cの距離を小さくする)ようにしても構わない。
【0139】
これら以外でも、ヘッドの重量が190g以下、横MOI5000g・cm以上となるものであればどのような形状のヘッド1でも採用可能である。
【符号の説明】
【0140】
1…ヘッド
1a…フェース部
1b…クラウン部
1c…ソール部
2…シャフト
3…グリップ
100…ゴルフクラブ
G…重心
L…クラブ長さ
図1
図2
図3
図4
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図10
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図17