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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】回路装置及び発振器
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
H03B5/32 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020165275
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057163
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】羽田 秀生
(72)【発明者】
【氏名】鳥海 裕一
(72)【発明者】
【氏名】樋口 哲平
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-236517(JP,A)
【文献】特開平05-347512(JP,A)
【文献】特開2016-111522(JP,A)
【文献】特開2001-068996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子を用いて発振信号を生成する発振回路と、
周波数調整データに基づいて前記発振回路の発振周波数を調整する周波数調整回路と、
温度データを出力する温度センサー回路と、
前記温度データが入力され、前記温度データを変換温度データに変換する変換処理を行
う演算回路と、
前記変換温度データと前記周波数調整データの対応を表すルックアップテーブルを記憶
する記憶回路と、
を含み、
前記演算回路は、前記変換温度データを前記ルックアップテーブルのアドレス範囲内に
設定するオフセット加算処理と、前記温度データに対する前記変換温度データの傾きを係
数の乗算により設定する乗算処理と、を前記変換処理として行い、
作温度範囲に対応する前記温度データの範囲が、前記ルックアップテーブルのアドレ
ス範囲よりも小さいとき、前記係数は、1より大きいことを特徴とする回路装置。
【請求項2】
振動子を用いて発振信号を生成する発振回路と、
周波数調整データに基づいて前記発振回路の発振周波数を調整する周波数調整回路と、
温度データを出力する温度センサー回路と、
前記温度データが入力され、前記温度データを変換温度データに変換する変換処理を行
う演算回路と、
前記変換温度データと前記周波数調整データの対応を表すルックアップテーブルを記憶
する記憶回路と、
を含み、
前記演算回路は、前記変換温度データを前記ルックアップテーブルのアドレス範囲内に
設定するオフセット加算処理と、前記温度データに対する前記変換温度データの傾きを係
数の乗算により設定する乗算処理と、を前記変換処理として行い、
前記演算回路は、ビットシフトにより前記乗算処理を行うことを特徴とする回路装置。
【請求項3】
請求項2に記載の回路装置において、
前記演算回路は、
前記温度データに対して第1ビットシフトを行う第1ビットシフト回路と、
前記温度データに対して第2ビットシフトを行う第2ビットシフト回路と、
前記第1ビットシフト回路の出力データと、前記第2ビットシフト回路の出力データ
と、前記オフセット加算処理のオフセット値とを加算する加算回路と、
を含むことを特徴とする回路装置。
【請求項4】
請求項3に記載の回路装置において、
前記第1ビットシフトのビットシフト値と前記第2ビットシフトのビットシフト値とを
記憶するビットシフト値レジスターを含むことを特徴とする回路装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の回路装置において、
前記オフセット加算処理のオフセット値を記憶するオフセット値レジスターを含むこと
を特徴とする回路装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の回路装置において、
前記回路装置の動作温度範囲に対応する前記温度データの範囲に2kが含まれ、kが2
以上の整数であるとき、
前記演算回路は、前記温度データを0~2k-1の範囲内の前記変換温度データに変換
することを特徴とする回路装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の回路装置において、
前記演算回路は、第1温度範囲における前記温度データに対する前記変換温度データの
傾きと、第2温度範囲における前記温度データに対する前記変換温度データの傾きとが異
なる前記変換処理を行うことを特徴とする回路装置。
【請求項8】
請求項7に記載の回路装置において、
前記演算回路は、前記第1温度範囲に対応する前記変換温度データによって前記ルック
アップテーブルから出力される前記周波数調整データの単位温度あたりのデータ数と、前
記第2温度範囲に対応する前記変換温度データによって前記ルックアップテーブルから出
力される前記周波数調整データの単位温度あたりのデータ数とが異なるように、前記変換
温度データを出力することを特徴とする回路装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の回路装置において、
前記温度センサー回路は、
リングオシレーターと、
前記リングオシレーターの発振信号に基づいてカウント動作を行い、カウント値に基
づく前記温度データを出力するカウンターと、
を含むことを特徴とする回路装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の回路装置と、
前記振動子と、
を含むことを特徴とする発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路装置及び発振器等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、温度の計測結果をディジタル信号で出力する温度計測部と、ディジタル信号の上位ビットをアドレス値として出力するカウンターと、アドレス値に対応した補正値を出力する記憶部と、補正値に対応した容量値に設定されることで発振周波数を調整する容量アレイと、を含む温度補償発振回路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-67675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、ディジタル信号の上位ビットをアドレス値として用いているため、温度補償発振回路の動作温度範囲が、あるアドレス値の範囲に対応することになる。この動作温度範囲に対応したあるアドレス値の範囲と、記憶部のアドレス値の範囲とが必ずしも一致しない場合があるため、不使用アドレスが生じ、メモリーの使用効率が低下するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、振動子を用いて発振信号を生成する発振回路と、周波数調整データに基づいて前記発振回路の発振周波数を調整する周波数調整回路と、温度データを出力する温度センサー回路と、前記温度データが入力され、前記温度データを変換温度データに変換する変換処理を行う演算回路と、前記変換温度データと前記周波数調整データの対応を表すルックアップテーブルを記憶する記憶回路と、を含み、前記演算回路は、前記変換温度データを前記ルックアップテーブルのアドレス範囲内に設定するオフセット加算処理を、前記変換処理として行う回路装置に関係する。
【0006】
また本開示の他の態様は、上記に記載の回路装置と、前記振動子と、を含む発振器に関係する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】温度センサーが出力する温度データをそのままルックアップテーブルのアドレスとして用いたときに、温度データのオフセットが与える影響について説明する第1説明図。
図2】温度センサーが出力する温度データをそのままルックアップテーブルのアドレスとして用いたときに、温度データのオフセットが与える影響について説明する第2説明図。
図3】発振器及び回路装置の構成例。
図4】演算回路とレジスターの第1構成例。
図5】第1構成例の演算回路の動作を説明する図。
図6】演算回路とレジスターの第2構成例。
図7】第2構成例の演算回路の動作を説明する図。
図8】温度センサーが出力する温度データをそのままルックアップテーブルのアドレスとして用いたときの、発振周波数の温度特性とアドレス割り当ての関係。
図9】演算回路の第3構成例における温度データから変換温度データへの変換例。
図10】演算回路の第3構成例。
図11】開始点設定回路と乗算回路の詳細構成例。
図12】温度センサー回路の詳細構成例。
図13】調整回路の詳細構成例と、振動子、発振回路及び調整回路の接続構成例。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが必須構成要件であるとは限らない。
【0009】
1.回路装置及び発振器
図1は、温度センサーが出力する温度データをそのままルックアップテーブルのアドレスとして用いたときに、温度データのオフセットが与える影響について説明する第1説明図である。以下では、温度が高いほど温度データの値が大きくなる例を示すが、温度が高いほど温度データの値が小さくなってもよい。
【0010】
図1に示すように、各デバイスに温度センサー回路が内蔵された発振器のデバイスA~Dを考える。温度に対する温度データの傾きは、デバイスA~Dでほぼ同じであるが、オフセットがばらついている。例えば、図12で後述するリングオシレーターを用いた温度センサー回路では、アナログ温度センサーとA/D変換器を用いた温度センサー回路に比べて、オフセットばらつきが大きくなる傾向にある。
【0011】
発振器の動作温度範囲の下限をT1とし、上限をT2とする。また、デバイスA~DのうちデバイスAのオフセットが最大であり、デバイスDのオフセットが最小であるとする。このとき、デバイスA~Dの温度センサーが出力する温度データの最小値は、温度T1においてデバイスDの温度センサーが出力する温度データTDD1であり、最大値は、温度T2においてデバイスAの温度センサーが出力する温度データTDA2である。温度データをルックアップテーブルのアドレスとして用いるので、TDD1~TDA2に対応したアドレスの確保範囲を確保しておく必要がある。ここでは、2のべき乗のアドレス空間を用いるものとし、確保範囲に対して、それよりも少し広い0~1023のアドレスを準備したものとする。
【0012】
一方、デバイスA~Dの個々のデバイスに着目したとき、上記の確保範囲のうち一部のアドレス範囲しか使用しないので、不使用のアドレス範囲が大きくなる。例えば、デバイスAに着目すると、温度データの範囲はTDA1~TDA2である。アドレスの確保範囲はTDD1~TDA2に対応するので、デバイスAが使用するアドレスの範囲は、確保範囲よりも狭くなる。同様に、デバイスDに着目すると、温度データの範囲はTDD1~TDD2である。アドレスの確保範囲はTDD1~TDA2に対応するので、デバイスDが使用するアドレスの範囲は、確保範囲よりも狭くなる。このように、デバイスA~Dのオフセットばらつきを考慮してアドレス空間を確保すると、個々のデバイスにおいては、その一部のアドレス範囲しか使用しないことになり、メモリーの利用効率が低下してしまう。
【0013】
図2は、温度センサーが出力する温度データをそのままルックアップテーブルのアドレスとして用いたときに、温度データのオフセットが与える影響について説明する第2説明図である。
【0014】
メモリーにおいて、通常、2のべき乗のアドレス数をもつアドレス空間が用いられる。図2に示すように、デバイスA~Dの温度データの範囲に対応したアドレスの確保範囲が1024を含むとする。この場合、2のべき乗のアドレス数を考慮すると、0~2047のアドレス範囲を準備することになる。確保範囲の幅が1024以下であっても、アドレス範囲としては0~2047が必要となり、不使用のアドレス範囲が大きくなる。また、個々のデバイスが使用するアドレス範囲を考えると、更に不使用のアドレス範囲は広くなり、メモリーの利用効率が低下してしまう。
【0015】
以上のように、温度データをアドレスとしてルックアップテーブルを参照するときに、温度データのオフセットにより、ルックアップテーブルを記憶するメモリーの利用効率が低下するという課題がある。
【0016】
図3に、本実施形態における発振器200及び回路装置100の構成例を示す。発振器200は、振動子10と回路装置100とを含む。
【0017】
振動子10は、電気的な信号により機械的な振動を発生する素子である。振動子10は、水晶振動片等の振動片により実現できる。例えば振動子10は、音叉型水晶振動片である。或いは振動子10は、カット角がATカット又はSCカット等の厚みすべり振動する水晶振動片などにより実現できる。なお本実施形態の振動子10は、音叉型又は厚みすべり振動型以外の振動片、又は水晶以外の材料で形成された圧電振動片等の種々の振動片により実現できる。例えば振動子10として、SAW共振子、又はシリコン基板を用いて形成されたシリコン製振動子としてのMEMS振動子を採用してもよい。SAWはSurface Acoustic Waveの略であり、MEMSはMicro Electro Mechanical Systemsの略である。
【0018】
回路装置100は、振動子10と電気的に接続され、振動子10を駆動することで振動子10を発振させる。なお、本実施形態における接続は電気的な接続である。電気的な接続とは、電気信号が伝達可能に接続されていることであり、電気信号による情報の伝達が可能となる接続である。電気的な接続は受動素子又は能動素子等を介した接続であってもよい。また回路装置100は、発振器200の発振周波数を温度に関わらず一定にする温度補償処理を行う。回路装置100は、ICと呼ばれる集積回路装置である。回路装置100は、半導体プロセスにより製造されるICであり、半導体基板上に回路素子が形成された半導体チップである。
【0019】
回路装置100は、温度センサー回路110と演算回路120と記憶回路130と周波数調整回路150と発振回路160とレジスター170とを含む。なお、本実施形態は図3の構成に限定されず、その構成要素の一部を省略したり、他の構成要素を追加したりする等の種々の変形実施が可能である。
【0020】
温度センサー回路110は、振動子10の環境温度を測定し、その結果を温度データTDとして出力する。温度データTDは、回路装置100の動作温度範囲において、温度に対して単調増加又は単調減少するデータである。温度センサー回路110は、後述するように、リングオシレーターの発振周波数が温度依存性をもつことを利用した温度センサーである。この場合、温度センサー回路110はリングオシレーターとカウンターとを含む。カウンターは、発振回路160が出力するクロック信号CLKにより規定されるイネーブル期間において、リングオシレーターの発振信号をカウントし、そのカウント値を温度データTDとして出力する。但し、温度センサー回路110はこれに限定されず、例えばPN接合の順方向電圧が温度依存性をもつことを利用して温度検出電圧を出力するアナログ温度センサーと、温度検出電圧をA/D変換して温度データTDを出力するA/D変換器と、を含んでもよい。
【0021】
演算回路120は、温度センサー回路110が出力した温度データTDを変換温度データETDに変換するロジック回路である。変換温度データETDは、温度データTDと同様に温度に対して単調増加又は単調減少するデータであるが、変換温度データETDの傾きは、温度範囲に応じて温度データTDの傾きから変換されている。なお、以下ではnが1以上の整数であり、変換温度データETDがn+1ビットのデータETD[n:0]であるとする。
【0022】
レジスター170は、演算回路120が行う変換のパラメーターを記憶する。演算回路120には、レジスター170に記憶されたパラメーターが入力され、演算回路120は、そのパラメーターに基づいて温度データTDを変換温度データETD[n:0]に変換する。
【0023】
記憶回路130は、変換温度データETD[n:0]と周波数調整データの対応を表すルックアップテーブル131を記憶している。具体的には、記憶回路130には、変換温度データETD[n:0]の上位ビットETD[n:i+1]がルックアップテーブル131のアドレスとして入力される。iは1以上n以下の整数である。ルックアップテーブル131は、各アドレスに周波数調整データを記憶しており、記憶回路130は、上位ビットETD[n:i+1]により指定されるアドレスの周波数調整データCLaと、その隣のアドレスの周波数調整データCLbとを出力する。記憶回路130は、例えば不揮発性メモリー又はRAM等の半導体メモリーであり、或いはラッチ回路等で構成されるレジスターである。不揮発性メモリーは、例えばFAMOSメモリー等のOTPメモリーであるが、これに限らず、MONOSメモリー等のEEPROM又はヒューズ型ROM等であってもよい。FAMOSは、Floating gate Avalanche injection Metal Oxide Semiconductorの略である。MONOSは、Metal-Oxide-Nitride-Oxide-Siliconの略である。
【0024】
周波数調整回路150は、変換温度データETD[n:0]の下位ビットETD[i:0]と周波数調整データCLa、CLbとに基づいて、発振回路160の発振周波数を調整する。具体的には、周波数調整回路150は、補間回路152と調整回路154とを含む。
【0025】
補間回路152は、変換温度データETD[n:0]の下位ビットETD[i:0]に基づいて周波数調整データCLaと周波数調整データCLbの間を補間することで、調整データQCLを出力する。調整回路154は発振回路160に接続されており、発振回路の発振周波数を、調整データQCLに対応した発振周波数に調整する。ルックアップテーブル131に記憶される周波数調整データは、発振回路160と振動子10が有する発振周波数の温度依存性を低減するデータとなっており、周波数調整データを用いて発振周波数が調整されることで、温度に関わらず発振周波数が一定となる。調整回路154は、後述するように、振動子10の一端又は他端に接続されたキャパシターアレイ回路である。或いは、調整回路154は、調整データQCLをD/A変換するD/A変換器と、振動子10の一端又は他端に接続された可変容量キャパシターとを含んでもよい。可変容量キャパシターの容量値は、D/A変換器の出力電圧に応じて制御される。
【0026】
なお、周波数調整回路150は図3の構成に限定されず、例えば補間回路152が省略されてもよい。この場合、記憶回路130は、変換温度データETD[n:0]に対応した周波数調整データCLaを出力し、調整回路154は、発振回路の発振周波数を、周波数調整データCLaに対応した発振周波数に調整する。
【0027】
発振回路160は、振動子10を用いて発振信号を生成する。具体的には、発振回路160は、振動子10を駆動することで振動子10を発振させ、その発振により発振信号を生成する。発振回路160の一例は、後述するコルピッツ型発振回路であるが、これに限らず、周波数調整回路150によって発振周波数を調整可能なものであれば様々な形式の発振回路が用いられてよい。なお、クロック信号CLKは、発振信号に基づいて出力される。例えば、発振回路160が発振信号をクロック信号CLKとして出力してもよいし、或いは、回路装置100が、発振信号をバッファリング又は分周することでクロック信号CLKを出力する出力回路を含んでもよい。
【0028】
図4に、演算回路120とレジスター170の第1構成例を示す。演算回路120は、加算回路125を含む。レジスター170は、オフセット値レジスター171を含む。
【0029】
オフセット値レジスター171は、オフセット値EQOFを記憶する。オフセット値EQOFは、例えば、不図示のインターフェースを介して回路装置100の外部からオフセット値レジスター171に書き込まれる。或いは、不図示の不揮発性メモリーに予め記憶されたオフセット値EQOFがオフセット値レジスター171にロードされてもよい。
【0030】
加算回路125は、温度データTDとオフセット値EQOFを加算し、その結果を変換温度データETDとして出力する。
【0031】
図5は、第1構成例の演算回路120の動作を説明する図である。発振器のデバイスA~Dにおいて温度センサー回路110が出力する温度データTDはオフセットを有し、そのオフセットはデバイス毎にばらついている。オフセット値レジスター171は、このオフセットばらつきを低減するオフセット値EQOFを記憶している。演算回路120が温度データTDとオフセット値EQOFを加算することで、変換温度データETDの範囲をルックアップテーブル131のアドレス範囲内にできる。例えば、アドレス範囲が0~1023の場合、変換温度データETDの下限が0以上、上限が1023以下となるように、オフセット値EQOFを決めればよい。
【0032】
以上の本実施形態では、回路装置100は、振動子10を用いて発振信号を生成する発振回路160と、周波数調整データCLa、CLbに基づいて発振回路160の発振周波数を調整する周波数調整回路150と、温度データTDを出力する温度センサー回路110と、演算回路120と、記憶回路130と、を含む。演算回路120は、温度データTDが入力され、温度データTDを変換温度データETDに変換する変換処理を行う。記憶回路130は、変換温度データETDと周波数調整データCLa、CLbの対応を表すルックアップテーブル131を記憶する。演算回路120は、変換温度データETDをルックアップテーブル131のアドレス範囲内に設定するオフセット加算処理を、変換処理として行う。
【0033】
図3で説明したように、変換温度データETD[n:0]の上位ビットETD[n:i+1]がアドレスとしてルックアップテーブル131に入力される。この場合、「変換温度データETDをアドレス範囲内に設定する」とは、上位ビットETD[n:i+1]がアドレス範囲内となるように、変換温度データETDを設定するという意味である。但し、変換温度データETD[n:0]とアドレスの対応付けは任意であり、その対応付けにおいて、アドレス範囲内となるように変換温度データETD[n:0]が設定されていればよい。
【0034】
図5において、オフセット加算処理は、加算回路125が温度データTDとオフセット値EQOFを加算する処理である。但し、後述するように演算回路120は更に乗算処理を行ってもよい。このとき、演算回路120は、温度データTDにオフセット値を加算するオフセット加算処理を行った後に、乗算処理を行ってもよいし、或いは、温度データTDに乗算処理を行った後に、その乗算値にオフセット値を加算するオフセット加算処理を行ってもよい。このように、温度データTDを変換温度データETDに変換する変換処理において、その過程のどこかにオフセット加算処理が含まれていればよい。
【0035】
本実施形態によれば、温度データのオフセットに起因したルックアップテーブルの不使用アドレスを削減できるので、メモリーを効率的に利用できる。具体的には、図1で説明したように、オフセットばらつきを考慮したアドレスの確保範囲が、個々のデバイスが使用するアドレス範囲より広いため、不使用アドレスが多くなってしまう。本実施形態によれば、オフセット加算処理後の変換温度データETDにおいてオフセットばらつきが低減されているので、アドレスの確保範囲と、個々のデバイスが使用するアドレス範囲とをほぼ同じにでき、不使用アドレスを低減できる。また、図2で説明したように、温度データの範囲が、2のべき乗である1024を含む場合に、0~2047のアドレス範囲を準備する必要があり、不使用アドレスが非常に多くなってしまう。図5に示すように、本実施形態によれば、オフセット加算処理により変換温度データETDを0~1023の範囲内にできるので、準備すべきアドレス範囲が0~1023となり、不使用アドレスを低減できる。
【0036】
また本実施形態では、回路装置100は、オフセット加算処理のオフセット値EQOFを記憶するオフセット値レジスター171を含む。
【0037】
本実施形態によれば、オフセット値レジスター171が、各デバイスの温度データTDのオフセットに応じたオフセット値EQOFを記憶できる。これにより、複数のデバイスにおける温度データTDのオフセットばらつきを、オフセット加算処理により低減できる。
【0038】
また本実施形態では、回路装置100の動作温度範囲に対応する温度データTDの範囲に2が含まれ、kが2以上の整数であるとき、演算回路120は、温度データTDを0~2-1の範囲内の変換温度データETDに変換する。
【0039】
温度データTDの範囲に2が含まれるとき、温度データTDをアドレスに用いると0~2k+1-1のアドレス範囲を準備する必要がある。図2の例では、k=10であり、温度データTDの範囲に1024が含まれ、0~2047のアドレス範囲が準備されている。本実施形態によれば、演算回路120は、温度データTDを0~2-1の範囲内の変換温度データETDに変換することで、アドレス範囲を0~2-1にでき、不使用アドレスを低減できる。図7の例では、温度データTDの範囲に1024が含まれ、0~1023の範囲内の変換温度データETDに変換され、アドレス範囲は0~1023となっている。
【0040】
2.第2構成例
図6に、演算回路120とレジスター170の第2構成例を示す。演算回路120は、第1ビットシフト回路121と第2ビットシフト回路122と加算回路125とを含む。レジスター170は、オフセット値レジスター171を含む。
【0041】
第1ビットシフト回路121は、温度データTDをビットシフトすることで、温度データTDにゲインを乗算する。このビットシフトを第1ビットシフトと呼ぶ。第2ビットシフト回路122は、温度データTDをビットシフトすることで、温度データTDにゲインを乗算する。このビットシフトを第2ビットシフトと呼ぶ。
【0042】
ビットシフト値レジスター172は、第1ビットシフトのビットシフト値BS1と、第2ビットシフトのビットシフト値BS2と、を記憶する。ビットシフト値BS1は、第1ビットシフトのシフト方向とシフト量を指定する。ビットシフト値BS2は、第2ビットシフトのシフト方向とシフト量を指定する。シフト方向は、LSB方向又はMSB方向であり、シフト量は、シフトさせるビット数である。ビットシフトのゲインは、MSB方向において2、4、8、・・・であり、LSB方向において0.5、0.25、0.125、・・・である。またシフト量ゼロのとき、ビットシフトのゲインは1である。
【0043】
加算回路125は、第1ビットシフト回路121の出力データBSQ1と、第2ビットシフト回路122の出力データBSQ2と、オフセット値EQOFとを加算し、その結果を変換温度データETDとして出力する。第1ビットシフトのゲインをgain1とし、第2ビットシフトのゲインをgain2としたとき、ETD=(gain1+gain2)×TD+EQOFとなる。即ち、第1ビットシフトのゲインgain1と、第2ビットシフトのゲインgain2とを加算した係数(gain1+gain2)が、温度データTDに乗算される。
【0044】
図7は、第2構成例の演算回路120の動作を説明する図である。デバイスA~Dにおける温度データのばらつきをオフセット加算処理により低減することは、図4図5で説明した第1構成例と同様である。
【0045】
第2構成例では、演算回路120が乗算処理を行うことで、ルックアップテーブルのアドレス範囲と、変換温度データETDの範囲とをほぼ同じにして不使用アドレスを低減できる。図7の例では、ルックアップテーブルのアドレス範囲は0~1023である。オフセットばらつきを低減した後の温度データ範囲の幅が1024より小さい場合には、演算回路120は、1より大きい係数を温度データに乗算することで、変換温度データの範囲の幅を1024に近づける。一方、オフセットばらつきを低減した後の温度データの範囲の幅が1024より大きい場合には、演算回路120は、1より小さい係数を温度データに乗算することで、変換温度データの範囲の幅を1024より小さくする。このようにして、変換温度データETDの範囲に対応したアドレス確保範囲が、アドレス範囲0~1023とほぼ同じになり、不使用アドレスが低減され、メモリーを効率良く使用できる。
【0046】
また、動作温度範囲におけるアドレス数、即ち、発振周波数の温度特性を調整するための周波数調整データの数が多くなるので、より細かい温度刻みで周波数調整を行うことが可能となり、温度補償の精度を向上できる。即ち、同じアドレス範囲0~1023でありながら、そのアドレス範囲0~1023を効率良く使用したことによって、高精度な温度補償を実現できる。
【0047】
以上の本実施形態では、演算回路120は、乗算処理とオフセット加算処理とを変換処理として行う。乗算処理は、温度データTDに対する変換温度データETDの傾きを、係数の乗算により設定する。
【0048】
図6の例では、第1ビットシフトのゲインをgain1とし、第2ビットシフトのゲインをgain2としたとき、ETD=(gain1+gain2)×TD+EQOFとなる。即ち、(gain1+gain2)が係数に対応し、温度データTDに対する変換温度データETDの傾きとなる。なお、図6では、温度データTDに係数を乗算した後、その結果にオフセット値を加算する例を説明したが、温度データTDにオフセット値を加算した後に、その結果に係数を乗算してもよい。
【0049】
本実施形態によれば、乗算処理によって、温度データTDに対する変換温度データETDの傾きが設定されるので、ルックアップテーブルのアドレス範囲と、変換温度データETDの範囲とをほぼ同じにできる。これにより、不使用アドレスが低減される。
【0050】
また本実施形態では、回路装置100の動作温度範囲に対応する温度データTDの範囲が、ルックアップテーブル131のアドレス範囲よりも小さい。このとき、係数は、1より大きい。
【0051】
本実施形態によれば、乗算処理で用いられる係数が1より大きいことで、変換温度データETDの傾きが1より大きくなるので、動作温度範囲における温度データTDの範囲よりも変換温度データETDの範囲の方が大きくなる。これにより、温度データTDの範囲が、ルックアップテーブル131のアドレス範囲よりも小さいとき、変換温度データETDの範囲が、ルックアップテーブル131のアドレス範囲に近づき、不使用アドレスが低減される。
【0052】
また本実施形態では、演算回路120は、ビットシフトにより乗算処理を行う。
【0053】
本実施形態によれば、乗算にビットシフトが用いられることで、乗算の演算負荷が低減される。例えばリアルタイムクロック装置等の低消費電力が要求される発振器において、消費電力の増加を抑えながらメモリーの使用効率を向上できる。
【0054】
また本実施形態では、演算回路120は、温度データTDに対して第1ビットシフトを行う第1ビットシフト回路121と、温度データTDに対して第2ビットシフトを行う第2ビットシフト回路122と、加算回路125とを含む。加算回路125は、第1ビットシフト回路121の出力データBSQ1と、第2ビットシフト回路122の出力データBSQ2と、オフセット加算処理のオフセット値EQOFとを加算する。
【0055】
本実施形態によれば、第1ビットシフト回路121の出力データBSQ1と、第2ビットシフト回路122の出力データBSQ2と、が加算されることで、第1ビットシフトのゲインと第2ビットシフトのゲインとが加算された係数が、温度データTDに乗算される。また、オフセット値EQOFが加算されることで、変換温度データETDをルックアップテーブル131のアドレス範囲内に設定するオフセット加算処理が、実現される。
【0056】
また本実施形態では、回路装置100は、第1ビットシフトのビットシフト値BS1と第2ビットシフトのビットシフト値BS2とを記憶するビットシフト値レジスター172を含む。
【0057】
本実施形態によれば、ビットシフト値BS1により第1ビットシフトのゲインが設定され、ビットシフト値BS2により第2ビットシフトのゲインが設定される。そして、それらのゲインによって、乗算処理の係数が設定される。
【0058】
3.第3構成例
第2構成例では、動作温度範囲において乗算処理の係数が同じ例を説明したが、温度範囲に応じて係数が異なってもよい。以下、温度範囲に応じて係数が異なる第3構成例を説明する。
【0059】
まず、図8を用いて、温度センサーが出力する温度データをそのままルックアップテーブルのアドレスとして用いたときの、発振周波数の温度特性とアドレス割り当ての関係について、説明する。ここでは、温度データが温度に対して線形な例を示すが、温度データは温度に対しておおよそ線形であればよい。また、発振周波数の温度特性が温度に対して2次である例を示すが、温度に応じて発振周波数の温度感度が変わるような温度特性であればよい。
【0060】
図8に示す温度特性は、室温付近を頂点とする上に凸の2次の特性である。UT1~UT3は単位温度幅の温度範囲である。温度範囲UT1は室温付近であり、単位温度あたりの周波数変化量FW1が小さい。温度範囲UT2は室温から少し離れており、単位温度あたりの周波数変化量FW2は中程度である。温度範囲UT3は、温度範囲UT2よりも更に室温から離れており、単位温度あたりの周波数変化量FW3は大きい。単位温度あたりの周波数変化量は、発振周波数の温度感度に相当しており、室温から離れるほど温度感度が大きくなることを意味する。
【0061】
単位温度幅の温度範囲UT1~UT3は、ルックアップテーブルのアドレス範囲AW1~AW3に相当しており、このアドレス範囲AW1~AW3に、単位温度あたりの周波数変化量FW1~FW3が割り当てられている。温度データが線形であることから、アドレス範囲AW1~AW3の各々に含まれるアドレス数は同数なので、1アドレスあたりの周波数変化量は温度範囲UT1で小さく、温度範囲UT3で大きくなる。
【0062】
有限な容量のメモリーを効率的に利用しつつ高精度な温度補償を実現するためには、1アドレス当たりの周波数変化量は均一であることが望ましいが、上記のように温度範囲UT1ではアドレスの割り当て過多であり、温度範囲UT3ではアドレスの割り当て不足となっている。例えば、単位温度あたりのアドレス数を少なくすれば、温度範囲UT1の割り当てを適正化できるが、温度範囲UT3では1アドレスあたりの周波数変化が大きくなるため、温度補償の精度が低下する。一方、単位温度あたりのアドレス数を多くすれば、温度範囲UT3における温度補償の精度を向上できるが、温度範囲UT1では周波数変化が小さいにも関わらず、アドレスの割り当てが多くなるため、メモリーの利用効率が低下してしまう。このように、温度センサーが出力する温度データをそのままルックアップテーブルのアドレスとして用いた場合、有限な容量のメモリーを効率的に利用しつつ高精度な温度補償を実現することが困難という課題がある。
【0063】
図9は、演算回路120の第3構成例における温度データTDから変換温度データETDへの変換例である。実線は、本実施形態における変換温度データETDを示し、点線は、温度データTDをそのまま変換温度データETDとして用いたときの変換温度データETDを示す。図9において、温度データTDと変換温度データETDを10進数で表す。また、変換温度データETDの上位ビットETD[n:i+1]を整数として示し、1つの整数値が1つのアドレスに対応する。
【0064】
図9において、温度データTDの値が大きいほど、高い温度に対応しており、温度データTDの0~72の範囲が、回路装置100の動作温度範囲に対応している。第3構成例では、動作温度範囲が、温度データTDの0~24の範囲に対応した温度範囲RTCと、温度データTDの24~32の範囲に対応した温度範囲RTEと、温度データTDの32~72の範囲に対応した温度範囲RTAとに分割されている。温度範囲RTEは室温付近であり、発振周波数の温度特性において、温度感度が小さい温度範囲である。温度範囲RTC、RTAは、発振周波数の温度特性において、室温よりも温度感度が大きい温度範囲である。
【0065】
演算回路120は、室温付近の温度範囲RTEに対応した温度データTDの傾きを変えないと共に、温度データTDにオフセット加算処理を行うことで、変換温度データETDを出力する。また演算回路120は、温度感度が大きい温度範囲RTC、RTAに対応した温度データTDの傾きを1.5倍すると共にオフセット加算処理を行うことで、変換温度データETDを出力する。オフセット値は、動作温度範囲における変換温度データETDの下限がマイナスとならないように、設定される。図9では変換温度データETDの下限がゼロとなるようにオフセット値が設定されているが、変換温度データETDの下限がゼロより大きくなるようにオフセット値が設定されていればよい。
【0066】
以上の本実施形態では、演算回路120は、第1温度範囲における温度データTDに対する変換温度データETDの傾きと、第2温度範囲における温度データTDに対する変換温度データETDの傾きとが異なる変換処理を行う。
【0067】
図9の例において、温度範囲RTA又はRTCが第1温度範囲に対応し、温度範囲RTEが第2温度範囲に対応する。温度範囲RTAとRTCにおいて変換温度データETDの傾きは1.5であり、温度範囲RTEにおいて変換温度データETDの傾きは1である。即ち、第1温度範囲における傾きと第2温度範囲における傾きとが異なっている。
【0068】
本実施形態によれば、温度範囲に応じて変換温度データETDの傾きが異なるように、温度データTDが変換温度データETDに変換される。これにより、発振周波数の温度特性における温度感度に応じて、変換温度データETDの傾きを調整することが可能となる。具体的には、温度感度が大きい温度範囲では変換温度データETDの傾きを大きくし、温度感度が小さい温度範囲では変換温度データETDの傾きを小さくできる。変換温度データETDによりルックアップテーブル131のアドレスが指定されるので、変換温度データETDの傾きが大きいほど、単位温度あたりのアドレス数が大きくなる。これにより、温度感度が大きい温度範囲では、単位温度あたりのアドレス割り当てを大きくし、温度感度が小さい温度範囲では、単位温度あたりのアドレス割り当てを小さくできるので、有限な容量のメモリーを効率的に利用しつつ高精度な温度補償を実現できる。
【0069】
また本実施形態では、演算回路120は、第1温度範囲に対応する変換温度データETDによってルックアップテーブル131から出力される周波数調整データの単位温度あたりのデータ数と、第2温度範囲に対応する変換温度データETDによってルックアップテーブル131から出力される周波数調整データの単位温度あたりのデータ数とが異なるように、変換温度データETDを出力する。
【0070】
上述したように、変換温度データETDの傾きが大きいほど、単位温度あたりのアドレス数が大きくなるので、変換温度データETDによってルックアップテーブル131から出力される周波数調整データの単位温度あたりのデータ数が大きくなる。単位温度あたりのデータ数が大きいほど、小さい温度刻みで周波数調整データがルックアップテーブル131に記憶されるため、温度感度が大きい温度範囲においても高精度な温度補償が可能となる。一方、単位温度あたりのデータ数が小さいほど、大きい温度刻みで周波数調整データがルックアップテーブル131に記憶されるため、温度感度が小さい温度範囲においてメモリーの利用効率が向上する。
【0071】
図10に、図9の変換を行う演算回路120の第3構成例を示す。演算回路120は、開始点設定回路KSA、KSCと乗算回路MLA、MLCと加算回路126とを含む。
【0072】
開始点設定回路KSAは、図3の温度範囲RTAの開始温度Taを設定する。開始温度Taは、隣り合う温度範囲RTEとRTAの境界であり、温度範囲RTAの下限である。具体的には、開始温度Taは、開始温度Taに対応した温度データTD=32により設定される。開始点設定回路KSAは、温度データTDが32以上であるとき、温度データTDから32を減算した差分温度データKSAQ=TD-32を出力し、温度データTDが32より小さいとき、差分温度データKSAQ=0を出力する。乗算回路MLAは、差分温度データKSAQにゲイン0.5を乗算した出力データMLAQ=KSAQ×0.5=(TD-32)×0.5を出力する。TD<32においてMLAQ=0である。
【0073】
開始点設定回路KSCは、図9の温度範囲RTCの開始温度Tcを設定する。開始温度Tcは、隣り合う温度範囲RTEとRTCの境界であり、温度範囲RTCの上限である。具体的には、開始温度Tcは、開始温度Tcに対応した温度データTD=24により設定される。開始点設定回路KSCは、温度データTDが24以下であるとき、温度データTDから24を減算すると共に符号を反転した差分温度データKSCQ=-(TD-24)を出力し、温度データTDが24より大きいとき、差分温度データKSCQ=0を出力する。乗算回路MLCは、差分温度データKSCQにゲイン0.5を乗算すると共に符号を反転した出力データMLCQ=-(KSCQ×0.5)=(TD-24)×0.5を出力する。TD>24においてMLCQ=0である。
【0074】
加算回路126は、温度データTDと出力データMLAQと出力データMLCQとオフセット値EQOFとを加算し、その結果を変換温度データETDとして出力する。温度範囲RTEではETD=TD+EQOFとなり、変換温度データETDの傾きは1である。温度範囲RTAではETD=TD+(TD-32)×0.5+EQOF=1.5×TD-16+EQOFとなり、温度範囲RTCではETD=TD+(TD-24)×0.5+EQOF=1.5×TD-12+EQOFとなる。温度データTDの係数は、ゲイン0.5に1を足した1.5となるので、変換温度データETDの傾きは1.5となる。
【0075】
以上の本実施形態では、演算回路120は、第1温度範囲の温度データTDに対して第1係数を乗算し、第2温度範囲の温度データTDに対して係数を乗算しない。
【0076】
図9の例において、温度範囲RTA又はRTCが第1温度範囲に対応し、温度範囲RTEが第2温度範囲に対応する。図9図10で説明したように、演算回路120は、温度範囲RTAとRTCの温度データTDに対して係数1.5を乗算し、温度範囲RTEの温度データTDに対して係数を乗算しない。この例では、係数1.5が第1係数に対応する。
【0077】
本実施形態によれば、第1温度範囲において変換温度データETDの傾きが第1係数により設定され、第2温度範囲において変換温度データETDの傾きが1となる。これにより、演算回路120が、第1温度範囲における変換温度データETDの傾きと、第2温度範囲における変換温度データETDの傾きとが異なる変換処理を、実行できる。
【0078】
また本実施形態では、第1温度範囲における振動子10の周波数温度特性の傾きは、第2温度範囲における周波数温度特性の傾きより大きい。このとき、第1係数は、1より大きい。なお、周波数温度特性は、発振周波数の温度特性のことである。また周波数温度特性の傾きは、周波数温度特性の温度感度に相当する。
【0079】
図9の例において、第2温度範囲に対応した温度範囲RTEは、図8において周波数温度特性の傾きが小さい室温付近に対応している。また、第1温度範囲に対応した温度範囲RTA又はRTCは、図8において周波数温度特性の傾きが室温付近よりも大きい温度範囲に対応している。
【0080】
本実施形態によれば、周波数温度特性の傾きが大きい第1温度範囲の温度データTDに対して、1より大きい第1係数が乗算されるので、第1温度範囲の変換温度データETDの傾きが1より大きくなる。これにより、周波数温度特性の傾きが大きい温度範囲において、ルックアップテーブル131のアドレス割り当てを大きくできる。
【0081】
また本実施形態では、第1温度範囲は、第2温度範囲に隣り合い、第2温度範囲よりも高い温度範囲である。演算回路120は、第1温度範囲の第1開始温度を設定する第1開始点設定回路と、第1開始温度より高い温度に対応する温度データTDに第1ゲインを乗算する第1乗算回路と、温度データTDと第1乗算回路の出力とを加算する加算回路126と、を含む。
【0082】
図9の例において、温度範囲RTAが第1温度範囲に対応し、温度範囲RTEが第2温度範囲に対応し、開始温度Taが第1開始温度に対応する。図10において、開始点設定回路KSAが第1開始点設定回路に対応し、乗算回路MLAが第1乗算回路に対応し、ゲイン0.5が第1ゲインに対応する。
【0083】
本実施形態によれば、第1開始温度より高い温度に対応する温度データTDに第1ゲインが乗算され、乗算後のデータに温度データTDが加算されることで、第1温度範囲の温度データTDに第1係数が乗算されたことと等価になる。即ち、第1係数は、第1ゲインに1を加算した値である。また、第2温度範囲の温度データTDは加算回路126から変換温度データETDとして出力されるだけなので、第2温度範囲の温度データTDには係数が乗算されない。
【0084】
図11に、開始点設定回路KSA、KSCと乗算回路MLA、MLCの詳細構成例を示す。
【0085】
開始点設定回路KSAは、加算回路ADaと符号反転回路SRa1とセレクターSLa1とReLU回路RLaとを含む。ReLUは、Rectified Linear Unitの略である。
【0086】
加算回路ADaは、温度データTDにオフセットOFFaを加算する。符号反転回路SRa1は、加算回路ADaの出力データの符号を反転する。セレクターSLa1は、符号選択信号ISGaが0のとき、加算回路ADaの出力データを選択し、符号選択信号ISGaが1のとき、符号反転回路SRa1の出力データを選択する。ReLU回路RLaは、セレクターSLa1の出力データが0より小さいとき、0を出力し、セレクターSLa1の出力データが0以上のとき、そのデータをそのまま出力する。なお、オフセットOFFaと符号選択信号ISGaは、レジスター170に記憶されている。
【0087】
図9の例では、オフセットOFFa=-32、符号選択信号ISGa=0に設定される。このとき、加算回路ADaの出力データはTD-32であり、セレクターSLa1はTD-32を選択し、ReLU回路RLaは、TD≧32のときKSAQ=TD-32を出力し、TD<32のときKSAQ=0を出力する。温度範囲RTAの開始温度Taは、オフセットOFFa=-32によって指定されており、オフセットOFFaの絶対値32が、開始温度Taに対応する温度データとなっている。以上のようにして、図10で説明した開始点設定回路KSAの動作が実現される。
【0088】
乗算回路MLAは、ビットシフト回路BSaと符号反転回路SRa2とセレクターSLa2とを含む。
【0089】
ビットシフト回路BSaは、開始点設定回路KSAからの差分温度データKSAQをビットシフトすることで、差分温度データKSAQにゲインを乗算する。ビットシフトのシフト方向とシフト量は、ビットシフト値GAaにより指定される。シフト方向は、LSB方向又はMSB方向であり、シフト量は、シフトさせるビット数である。ビットシフトのゲインは、MSB方向において2、4、8、・・・であり、LSB方向において0.5、0.25、0.125、・・・である。またシフト量ゼロのとき、ビットシフトのゲインは1である。符号反転回路SRa2は、ビットシフト回路BSaの出力データの符号を反転する。セレクターSLa2は、符号選択信号QSGaが0のとき、ビットシフト回路BSaの出力データを選択し、符号選択信号QSGaが1のとき、符号反転回路SRa2の出力データを選択する。なお、ビットシフト値GAaと符号選択信号QSGaは、レジスター170に記憶されている。
【0090】
図9の例では、ビットシフト値GAaのシフト方向はLSB方向に設定され、シフト量は1ビットに設定される。即ち、ビットシフトのゲインは0.5である。また、符号選択信号QSGa=0に設定される。このとき、ビットシフト回路BSaの出力データは(TD-32)×0.5であり、セレクターSLa2は(TD-32)×0.5を選択する。これにより、TD≧32のときMSAQ=(TD-32)×0.5が出力され、TD<32のときMSAQ=0が出力される。以上のようにして、図10で説明した乗算回路MLAの動作が実現される。
【0091】
開始点設定回路KSCは、加算回路ADcと符号反転回路SRc1とセレクターSLc1とReLU回路RLcとを含む。乗算回路MLCは、ビットシフト回路BScと符号反転回路SRc2とセレクターSLc2とを含む。開始点設定回路KSCと乗算回路MLCの動作は、開始点設定回路KSAと乗算回路MLAの動作と同様なので説明を省略し、図9の例に適用した場合のみ説明する。
【0092】
図9の例では、オフセットOFFc=-24、符号選択信号ISGc=1に設定される。このとき、加算回路ADcの出力データはTD-24であり、セレクターSLc1は-(TD-24)を選択し、ReLU回路RLcは、TD≦24のときKSCQ=-(TD-24)を出力し、TD>24のときKSCQ=0を出力する。温度範囲RTCの開始温度Tcは、オフセットOFFc=-24によって指定されており、オフセットOFFcの絶対値24が、開始温度Tcに対応する温度データとなっている。以上のようにして、図10で説明した開始点設定回路KSCの動作が実現される。
【0093】
ビットシフト値GAcのシフト方向はLSB方向に設定され、シフト量は1ビットに設定される。即ち、ビットシフトのゲインは0.5である。また、符号選択信号QSGc=1に設定される。このとき、ビットシフト回路BScの出力データは-(TD-24)×0.5であり、セレクターSLc2は(TD-24)×0.5を選択する。これにより、TD≦24のときMSCQ=(TD-24)×0.5が出力され、TD>24のときMSCQ=0が出力される。以上のようにして、図10で説明した乗算回路MLCの動作が実現される。
【0094】
4.温度センサー回路
図12は、温度センサー回路110の詳細構成例である。温度センサー回路110は、イネーブルカウンター111とリングオシレーター112とカウンター113とを含む。
【0095】
イネーブルカウンター111は、発振回路160が出力するクロック信号CLKに基づいて、イネーブル期間においてアクティブになるイネーブル信号ENRを出力する。具体的には、イネーブルカウンター111は、カウント開始と共にイネーブル信号ENRを非アクティブからアクティブにし、クロック信号CLKのクロック数をカウントし、カウント値が設定値CTSETになったときイネーブル信号ENRをアクティブから非アクティブにする。設定値CTSETは、例えば図3のレジスター170に記憶されており、設定値CTSETを変えることで温度センサー回路110の検出分解能を変えることが可能である。
【0096】
リングオシレーター112は、イネーブル期間において発振し、発振信号RNGQを出力する。リングオシレーター112は、例えば、NAND回路と、NAND回路の出力と第1入力の間に直列接続される偶数個のインバーターと、を含む。NAND回路の第2入力にはイネーブル信号ENRが入力される。この場合、ハイレベルがアクティブに対応し、イネーブル信号ENRがハイレベルのときリングオシレーター112が発振し、イネーブル信号ENRがローレベルのときリングオシレーター112の発振が停止する。なお、上記構成は一例であって、リングオシレーター112の構成は上記に限定されない。
【0097】
カウンター113は、リングオシレーター112の発振信号RNGQに基づいてカウント動作を行い、カウント値に基づく温度データTDを出力する。具体的には、カウンター113は、上記イネーブル期間において出力される発振信号RNGQのパルス数をカウントし、そのカウント値を温度データTDとして出力する。なお、カウンター113は、発振信号RNGQに基づいてカウント動作すればよく、例えば発振信号RNGQを分周した信号のパルス数をカウントしてもよい。また、カウンター113は、カウント値に基づく温度データTDを出力すればよく、例えばカウント値を平滑化処理することで温度データTDを出力してもよい。
【0098】
温度センサー回路110は、間欠動作により間欠的に温度を測定する。具体的には、イネーブル期間とディセーブル期間が交互に設定され、温度センサー回路110は、各イネーブル期間において測定した温度データTDを出力する。ディセーブル期間は、イネーブル信号ENRが非アクティブとなっている期間である。ディセーブル期間の長さは、例えばイネーブル期間よりも十分に長い。なお、温度センサー回路110は、連続的に温度を測定してもよい。例えば、リングオシレーター112は連続的に発振し、カウンター113は、クロック信号CLKにより規定される一定期間毎にリセットされ、各一定期間におけるカウント値を温度データとして出力してもよい。
【0099】
以上のようにリングオシレーター112を用いて温度センサー回路110を構成することで、上述したアナログ温度センサーとA/D変換器を用いた温度センサー回路に比べて、消費電力とレイアウト面積を低減できる。
【0100】
また、アナログ温度センサーとA/D変換器を用いた温度センサー回路では、検出分解能を上げるためにアナログ温度センサーのノイズ低減又はA/D変換器の高分解能化が必要である。この点、本実施形態によれば、イネーブル期間を長くするだけで検出分解能を上げることが可能である。
【0101】
また、温度センサー回路110が間欠動作を行うことで、温度センサー回路110を更に低消費電力化できる。
【0102】
5.発振回路、周波数調整回路
図13に、周波数調整回路150に含まれる調整回路154の詳細構成例と、振動子10、発振回路160及び調整回路154の接続構成例と、を示す。調整回路154は、キャパシターアレイ回路CAC1、CAC2を含む。
【0103】
振動子10の一端は端子TX1に接続され、振動子10の他端は端子TX2に接続される。端子TX1、TX2は、回路装置100の端子であり、例えば半導体基板に設けられたパッドである。端子TX1にはキャパシターCX1の一端が接続され、キャパシターCX1の他端はグランドノードに接続される。端子TX2にはキャパシターCX2の一端が接続され、キャパシターCX2の他端はグランドノードに接続される。キャパシターCX1、CX2は、例えば、回路装置100の外付け部品として設けられる。
【0104】
発振回路160は、振動子10の他端から端子TX2を介して入力される信号SINを反転増幅することで駆動信号SDRを生成し、その駆動信号SDRを、端子TX1を介して振動子10の一端に出力する。発振回路160は、例えばインバーターであり、インバーターの入力ノードが端子TX2に接続され、出力ノードが端子TX1に接続される。但し、発振回路160はこれに限定されず、バイポーラートランジスターを用いた増幅回路等の様々な増幅回路であってよい。発振信号は、例えば駆動信号SDRであるが、これに限らず、発振信号は、発振回路160と振動子10により構成される発振ループ内の信号であればよい。また、駆動信号SDRが図3のクロック信号CLKとして出力されてもよいし、回路装置100は、駆動信号SDRをバッファリング又は分周することでクロック信号CLKを出力する出力回路を含んでもよい。
【0105】
キャパシターアレイ回路CAC1は、端子TX1に接続され、キャパシターアレイ回路CAC2は、端子TX2に接続される。以下、キャパシターアレイ回路CAC1を例に構成を説明するが、キャパシターアレイ回路CAC2も同様の構成である。
【0106】
キャパシターアレイ回路CAC1は、第1~第mキャパシターと、第1~第mスイッチとを含む。mは2以上の整数である。第jキャパシターと第jスイッチは、端子TX1とグランドノードの間に直列接続される。j=1、2、・・・、mである。第1~第mスイッチの各スイッチは、補間回路152からの調整データQCLによりオン又はオフに制御される。これにより、調整データQCLに応じてキャパシターアレイ回路CAC1の容量値が制御され、発振周波数が調整される。
【0107】
以上に説明した本実施形態の回路装置は、振動子を用いて発振信号を生成する発振回路と、周波数調整データに基づいて発振回路の発振周波数を調整する周波数調整回路と、温度データを出力する温度センサー回路と、演算回路と、記憶回路と、を含む。演算回路は、温度データが入力され、温度データを変換温度データに変換する変換処理を行う。記憶回路は、変換温度データと周波数調整データの対応を表すルックアップテーブルを記憶する。演算回路は、変換温度データをルックアップテーブルのアドレス範囲内に設定するオフセット加算処理を、変換処理として行う。
【0108】
本実施形態によれば、変換温度データをルックアップテーブルのアドレス範囲内に設定するオフセット加算処理が行われるので、動作温度範囲に対応したあるアドレス値の範囲を、ルックアップテーブルのアドレスの範囲内にできる。これにより、不使用アドレスが低減され、メモリーの使用効率を向上できる。
【0109】
また本実施形態では、演算回路は、温度データに対する変換温度データの傾きを、係数の乗算により設定する乗算処理と、オフセット加算処理とを、変換処理として行ってもよい。
【0110】
本実施形態によれば、乗算処理によって、温度データに対する変換温度データの傾きが設定されるので、ルックアップテーブルのアドレス範囲と、変換温度データの範囲とをほぼ同じにできる。これにより、不使用アドレスが低減される。
【0111】
また本実施形態では、回路装置の動作温度範囲に対応する温度データの範囲が、ルックアップテーブルのアドレス範囲よりも小さいとき、係数は、1より大きくてもよい。
【0112】
本実施形態によれば、乗算処理で用いられる係数が1より大きいことで、変換温度データの傾きが1より大きくなるので、動作温度範囲における温度データの範囲よりも変換温度データの範囲の方が大きくなる。これにより、温度データの範囲が、ルックアップテーブルのアドレス範囲よりも小さいとき、変換温度データの範囲が、ルックアップテーブルのアドレス範囲に近づき、不使用アドレスが低減される。
【0113】
また本実施形態では、演算回路は、ビットシフトにより乗算処理を行ってもよい。
【0114】
本実施形態によれば、乗算にビットシフトが用いられることで、乗算の演算負荷が低減される。例えばリアルタイムクロック装置等の低消費電力が要求される発振器において、消費電力の増加を抑えながらメモリーの使用効率を向上できる。
【0115】
また本実施形態では、演算回路は、温度データに対して第1ビットシフトを行う第1ビットシフト回路と、温度データに対して第2ビットシフトを行う第2ビットシフト回路と、加算回路と、を含んでもよい。加算回路は、第1ビットシフト回路の出力データと、第2ビットシフト回路の出力データと、オフセット加算処理のオフセット値とを加算してもよい。
【0116】
本実施形態によれば、第1ビットシフト回路の出力データと、第2ビットシフト回路の出力データと、が加算されることで、第1ビットシフトのゲインと第2ビットシフトのゲインとが加算された係数が、温度データに乗算される。また、オフセット値が加算されることで、変換温度データをルックアップテーブルのアドレス範囲内に設定するオフセット加算処理が、実現される。
【0117】
また本実施形態では、回路装置は、第1ビットシフトのビットシフト値と第2ビットシフトのビットシフト値とを記憶するビットシフト値レジスターを含んでもよい
【0118】
本実施形態によれば、ビットシフト値により第1ビットシフトのゲインが設定され、ビットシフト値により第2ビットシフトのゲインが設定される。そして、それらのゲインによって、乗算処理の係数が設定される。
【0119】
また本実施形態では、回路装置は、オフセット加算処理のオフセット値を記憶するオフセット値レジスターを含んでもよい。
【0120】
本実施形態によれば、オフセット値レジスターが、各デバイスの温度データのオフセットに応じたオフセット値を記憶できる。これにより、複数のデバイスにおける温度データのオフセットばらつきを、オフセット加算処理により低減できる。
【0121】
また本実施形態では、回路装置の動作温度範囲に対応する温度データの範囲に2が含まれ、kが2以上の整数であるとき、演算回路は、温度データを0~2-1の範囲内の変換温度データに変換してもよい。
【0122】
温度データTDの範囲に2が含まれるとき、温度データをアドレスに用いると0~2k+1-1のアドレス範囲を準備する必要がある。本実施形態によれば、演算回路は、温度データを0~2-1の範囲内の変換温度データに変換することで、アドレス範囲を0~2-1にでき、不使用アドレスを低減できる。
【0123】
また本実施形態では、演算回路は、第1温度範囲における温度データに対する変換温度データの傾きと、第2温度範囲における温度データに対する変換温度データの傾きとが異なる変換処理を行ってもよい。
【0124】
本実施形態によれば、温度範囲に応じて変換温度データの傾きが異なるように、温度データが変換温度データに変換される。これにより、発振周波数の温度特性における温度感度に応じて、変換温度データの傾きを調整することが可能となる。変換温度データによりルックアップテーブルのアドレスが指定されるので、変換温度データの傾きが大きいほど、単位温度あたりのアドレス数が大きくなる。これにより、有限な容量のメモリーを効率的に利用しつつ高精度な温度補償を実現できる。
【0125】
また本実施形態では、演算回路は、第1温度範囲に対応する変換温度データによってルックアップテーブルから出力される周波数調整データの単位温度あたりのデータ数と、第2温度範囲に対応する変換温度データによってルックアップテーブルから出力される周波数調整データの単位温度あたりのデータ数とが異なるように、変換温度データを出力してもよい。
【0126】
単位温度あたりのデータ数が大きいほど、小さい温度刻みで周波数調整データがルックアップテーブルに記憶されるため、温度感度が大きい温度範囲においても高精度な温度補償が可能となる。一方、単位温度あたりのデータ数が小さいほど、大きい温度刻みで周波数調整データがルックアップテーブルに記憶されるため、温度感度が小さい温度範囲においてメモリーの利用効率が向上する。
【0127】
また本実施形態では、温度センサー回路は、リングオシレーターと、カウンターと、を含んでもよい。カウンターは、リングオシレーターの発振信号に基づいてカウント動作を行い、カウント値に基づく温度データを出力してもよい。
【0128】
本実施形態によれば、アナログ温度センサーとA/D変換器を用いた温度センサー回路に比べて、消費電力とレイアウト面積を低減できる。また、イネーブル期間を長くするだけで検出分解能を上げることが可能であるため、アナログ温度センサーとA/D変換器を用いた温度センサー回路に比べて、簡素な手法で検出分解能を向上できる。
【0129】
また本実施形態の発振器は、上記のいずれかに記載の回路装置と、振動子と、を含む。
【0130】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また本実施形態及び変形例の全ての組み合わせも、本開示の範囲に含まれる。また回路装置、振動子及び発振器の構成及び動作等も、本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0131】
10…振動子、100…回路装置、110…温度センサー回路、111…イネーブルカウンター、112…リングオシレーター、113…カウンター、120…演算回路、121…第1ビットシフト回路、122…第2ビットシフト回路、125,126…加算回路、130…記憶回路、131…ルックアップテーブル、150…周波数調整回路、152…補間回路、154…調整回路、160…発振回路、170…レジスター、171…オフセット値レジスター、172…ビットシフト値レジスター、200…発振器、BS1,BS2…ビットシフト値、CLa,CLb…周波数調整データ、EQOF…オフセット値、ETD…変換温度データ、KSA,KSC…開始点設定回路、MLA,MLC…乗算回路、RTA,RTC,RTE…温度範囲、TD…温度データ、Ta,Tc…開始温度
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