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  • 特許-記録方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20240730BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240730BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20240730BHJP
   D06P 5/28 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41J2/01 101
B41J2/01 123
B41M5/00 120
B41M5/00 134
C09D11/30
D06P5/28
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020180424
(22)【出願日】2020-10-28
(65)【公開番号】P2022071451
(43)【公開日】2022-05-16
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】今井 涼太
(72)【発明者】
【氏名】加賀田 尚義
【審査官】高草木 綾音
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/027835(WO,A1)
【文献】特開2017-105148(JP,A)
【文献】特開2016-215568(JP,A)
【文献】国際公開第2007/111302(WO,A1)
【文献】特開2009-172972(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0379918(US,A1)
【文献】特開2014-080539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00- 5/52
B41J 2/01
B41J 2/165-2/215
C09D11/00-13/00
B44C 1/16- 1/175
D06P 1/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット法により、中間転写媒体に着色インク組成物を付着して記録領域Aを形
成する着色インク付着工程と、
前記記録領域Aの少なくとも一部に、クリアインク組成物を付着させるクリアインク付
着工程と、を有し、
前記着色インク組成物は、昇華性染料と、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、
前記中間転写媒体は、基材と、樹脂を含む剥離層を有し、
前記剥離層は加熱により前記基材から剥離する剥離性を有する、
記録方法。
【請求項2】
前記クリアインク付着工程において、前記記録領域Aのうち、前着色インク組成物の
付着量が21mg/inch2未満である記録領域A1に前記クリアインク組成物を付着
させる、
請求項1に記載の記録方法。
【請求項3】
前記クリアインク付着工程において、前記記録領域Aに隣接する非記録領域Bに、前記
クリアインク組成物をさらに付着させる、
請求項1又は2に記載の記録方法。
【請求項4】
前記記録領域Aに付着した前記着色インク組成物と前記クリアインク組成物の合計の付
着量が、6.3~25.2mg/inch2である、
請求項1~3のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項5】
前記剥離層に含まれる前記樹脂が、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアクリル、ポリ
スチレン-アクリル樹脂、ポリ(エチレン-酢酸ビニル)、及びジアリルメチルアンモウ
ムクロリドに基づく重合体からなる群より選ばれる1種以上を含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項6】
前記剥離層に含まれる前記樹脂のガラス転移点が、100℃以上200℃以下である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項7】
前記クリアインク組成物が、水溶性有機溶剤と、水とを含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項8】
前記着色インク組成物の表面張力S1と、前記クリアインク組成物の表面張力S2との差
の絶対値が5.0mN/N以内である、
請求項7に記載の記録方法。
【請求項9】
前記着色インク組成物と前記クリアインク組成物が、同一の水溶性有機溶剤を1種以上
含む、
請求項1~8のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項10】
前記クリアインク付着工程において、インクジェット法により、前記記録領域Aの少な
くとも一部に、クリアインク組成物を付着させる、
請求項1~9のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項11】
前記中間転写媒体の前記記録領域Aが形成された面と、記録媒体の面とを、を対向させ
た状態で加熱し、前記記録領域Aに形成された画像を前記記録媒体の面に転写する転写工
程を、さらに有する。
請求項1~10のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項12】
前記転写工程における加熱温度が、160~190℃である、
請求項11に記載の記録方法。
【請求項13】
前記転写工程は、前記記録領域Aに付着した前記着色インク組成物と前記クリアインク
組成物の合計の付着量が5.0mg/inch2以上である状態で、行う。
請求項11又は12に記載の記録方法。
【請求項14】
前記記録媒体が、綿を含む布帛である
請求項11~13のいずれか一項に記載の記録方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の記録方法を行うインクジェット記録装置であっ
て、
着色インク組成物を吐出するノズルと、
クリアインク組成物を吐出するノズルと、を備え、
着色インク組成物は、昇華性染料と、水溶性有機溶剤と、水とを含み、
クリアインク組成物は、水溶性有機溶剤と、水とを含む、
インクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昇華転写法では、例えば、インクジェット法にて中間記録媒体に付着させた昇華性染料を、ポリエステルなどの布帛に転写することが行われる。近年、昇華転写法を用いて布帛などに記録を施すことで様々な製品を簡便に製造することが行われており、ポリエステル以外の布帛についても昇華転写法を適用することが望まれている。
【0003】
しかしながら、従来の昇華転写法ではポリエステル以外の布帛に対して高品位な画像を形成することが難しいという問題がある。そこで、離型剤層を用いた転写紙を用いる方法が知られている。例えば、特許文献1では、離型剤層とインク受容層を有する転写紙を用い、インク組成物を付着させた転写紙を布帛に対して加圧加熱処理することにより、水溶性染料インクを布帛に転写し、固着処理する乾式転写捺染方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2007/111302号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、低Duty部において良好に転写が進行しないという問題があることが分かってきた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、インクジェット法により、中間転写媒体に着色インク組成物を付着して記録領域Aを形成する着色インク付着工程と、記録領域Aの少なくとも一部に、クリアインク組成物を付着させるクリアインク付着工程と、を有し、着色インク組成物は、昇華性染料と、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、中間転写媒体は、樹脂を含む剥離層を有する記録方法である。
【0007】
また、本発明は、上記記録方法を行うインクジェット記録装置であって、着色インク組成物を吐出するノズルと、クリアインク組成物を吐出するノズルと、を備え、着色インク組成物は、昇華性染料と、水溶性有機溶剤と、水とを含み、クリアインク組成物は、水溶性有機溶剤と、水とを含む、インクジェット記録装置である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態のシリアル方式のインクジェット装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0010】
1.記録方法
本実施形態の記録方法は、インクジェット法により、中間転写媒体に着色インク組成物を付着して記録領域Aを形成する着色インク付着工程と、記録領域Aの少なくとも一部に、クリアインク組成物を付着させるクリアインク付着工程と、を有し、着色インク組成物は、昇華性染料と、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、中間転写媒体は、樹脂を含む剥離層を有する。
【0011】
上記のように、従来の昇華転写方法の一例では、中間転写媒体の層の一部を記録媒体に転写する方法が知られている。しかしながら、中間転写媒体に付着したインク組成物の打ち込み量によっては、記録媒体への粘着力が十分に発揮されないため転写が進行しないという問題があることが分かってきた。
【0012】
これに対して、本実施形態においてはクリアインク組成物により、記録領域Aの少なくとも一部にクリアインク組成物を付着することで、低Duty部における着色インク組成物の打ち込み量を補い、記録領域の全体にわたって良好な転写を可能とし、低Duty部における転写性を向上させる。以下、各工程について詳説する。
【0013】
1.1.着色インク付着工程
着色インク付着工程は、インクジェット法により、中間転写媒体に着色インク組成物を付着して記録領域Aを形成する工程である。インクジェット方式によるインク組成物の吐出は、公知のインクジェット記録装置を用いて行うことができる。吐出方法としては、特に制限されないが、例えば、ピエゾ方式や、インクを加熱して発生した泡(バブル)によりインクを吐出させる方式等を用いることができる。
【0014】
また、着色インク付着工程において、着色インク組成物は中間転写媒体の剥離層に付着し、剥離層上で記録領域Aを形成することが好ましい。
【0015】
1.1.1.着色インク組成物
着色インク組成物は、昇華性染料と、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、必要に応じて、界面活性剤、分散剤等を含んでいてもよい。
【0016】
1.1.1.1.昇華性染料
本実施形態においては「昇華性染料」とは、加熱により昇華する性質を有する染料である。このような昇華性染料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.Disperse Yellow 3、7、8、23、39、51、54、60、71、86;C.I.Disperse Orange 1、1:1、5、20、25:1、33、56、76;C.I.Disperse Brown 2;C.I.Disperse Red 11、50、53、55、55:1、59、60、65、70、75、93、146、158、190、190:1、207、239、240;C.I.Disperse Violet 8、17、23、27、28、29、36、57;C.I.Disperse Blue14、19、26、26:1、35、55、56、58、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、359等が挙げられる。
【0017】
1.1.1.2.水溶性有機溶剤
水溶性有機溶剤としては、特に制限されないが、例えば、グリセリン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールモノエーテル類;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン等の含窒素溶剤;メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、iso-ブタノール、n-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、及びtert-ペンタノール等のアルコール類が挙げられる。なお、水溶性有機溶剤は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0018】
このなかでも、グリセリン、グリコール類、グリコールモノエーテル類が好ましく、グリセリン、プロピレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテルがさらに好ましい。このような水溶性有機溶剤を用いることにより、低Duty部における転写性がより向上する傾向にある。
【0019】
水溶性有機溶剤の含有量は、着色インク組成物の総量に対して、好ましくは7.5~35質量%が好ましく、より好ましくは10~30質量%であり、さらに好ましくは15~25質量%である。水溶性有機溶剤の含有量が上記範囲内であることにより、吐出安定性がより向上し、また、中間転写媒体への濡れ性がより向上し、低Duty部における転写性がより向上する傾向にある。
【0020】
1.1.1.3.水
水の含有量は、着色インク組成物の総量に対して、好ましくは60~90質量%が好ましく、より好ましくは65~85質量%であり、さらに好ましくは70~80質量%である。
【0021】
1.1.1.4.界面活性剤
界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。なお、界面活性剤は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0022】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物から選択される一種以上が好ましい。
【0023】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。
【0024】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。
【0025】
このなかでもシリコーン系界面活性剤がより好ましい。このような界面活性剤を用いることにより、吐出安定性がより向上し、また、中間転写媒体への濡れ性がより向上し、低Duty部における転写性がより向上する傾向にある。
【0026】
界面活性剤の含有量は、着色インク組成物の総量に対して、好ましくは0.1~2.0質量%が好ましく、より好ましくは0.2~1.5質量%であり、さらに好ましくは0.3~1.0質量%である。界面活性剤の含有量が上記範囲内であることにより、吐出安定性がより向上し、また、中間転写媒体への濡れ性がより向上し、低Duty部における転写性がより向上する傾向にある。
【0027】
1.1.1.5.分散剤
着色インク組成物は分散剤を含んでいてもよい。分散剤を含むことにより、昇華性染料の分散安定性がより向上し傾向にあり、保存安定性や吐出安定性等がより向上する傾向にある。分散剤としては、特に限定されないが、例えば、アニオン系分散剤、ノニオン系分散剤、高分子分散剤が挙げられる。なお、分散剤は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0028】
アニオン系分散剤としては、特に限定されないが、例えば、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物、β-ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、及び、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物が挙げられる。
【0029】
上記芳香族スルホン酸としては、特に限定されないが、例えば、クレオソート油スルホン酸、クレゾールスルホン酸、フェノールスルホン酸、β-ナフトールスルホン酸、メチルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸等のアルキルナフタレンスルホン酸、β-ナフタレンスルホン酸とβ-ナフトールスルホン酸との混合物、クレゾールスルホン酸と2-ナフトール-6-スルホン酸との混合物、リグニンスルホン酸等が挙げられる。
【0030】
ノニオン系分散剤としては、特に限定されないが、例えば、フィトステロールのエチレンオキサイド付加物、コレスタノールのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0031】
高分子分散剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリアクリル酸部分アルキルエステル、ポリアルキレンポリアミン、ポリアクリル酸塩、スチレン-アクリル酸共重合物、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合物等が挙げられる。
【0032】
分散剤の含有量は、昇華性染料の総量に対して、好ましくは1~200質量%であり、より好ましくは50~150質量%である。分散剤の含有量が上記範囲であることにより、昇華性染料の分散安定性がより向上し傾向にあり、保存安定性や吐出安定性等がより向上する傾向にある。
【0033】
1.1.1.6.その他の添加剤
着色インク組成物は、さらに必要に応じて、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、酸素吸収剤、pH調整剤(例えば、トリエタノールアミン、アジピン酸、水酸化カリウム)、又は溶解助剤、その他、通常のインクにおいて用いることができる各種添加剤を含んでもよい。なお、各種添加剤は、一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
【0034】
1.1.1.7.表面張力
着色インク組成物の表面張力S1は、25℃において、好ましくは20~30mN/Nであり、より好ましくは21~27mN/Nであり、さらに好ましくは22~25mN/Nである。着色インク組成物の表面張力S1が上記範囲内であることにより、吐出安定性がより向上し、また、中間転写媒体への濡れ性がより向上し、低Duty部における転写性がより向上する傾向にある。
【0035】
なお、本実施形態において表面張力は、表面張力計(協和界面科学(株)製、表面張力計CBVP-Z等)を用いて、ウィルヘルミー法で液温25℃にて測定することができる。
【0036】
1.1.2.中間転写媒体
本実施形態において用いる中間転写媒体は剥離層を有する。このような中間転写媒体を用いることにより、後述する転写工程において中間転写媒体から剥離層を剥離して、記録媒体に剥離層を転写することができる。これにより、剥離層が付着した記録媒体を得ることができる。
【0037】
中間転写媒体は基材の上に形成された剥離層を有し、剥離層は加熱により基材から剥離する剥離性を有し、記録媒体と対向した状態で加熱されることにより記録媒体に付着するように構成されるものである。この観点から、剥離層に含まれる樹脂のガラス転移点は、好ましくは100℃以上200℃以下である。これにより、転写工程の加熱により、剥離層が中間転写媒体から剥離し、記録媒体に付着することができる。
【0038】
また、本実施形態における中間転写媒体は、上記剥離層の他に、必要に応じて他の層を有していてもよい。例えば、他の層としては、剥離層の基材層と反対側の面に形成されたインク受容層が挙げられる。例えば、本実施形態においては、着色インク付着工程においてインク受容層に対して着色インク組成物を付着させ、転写工程において、剥離層を中間転写媒体から剥離し、剥離層とインク受容層が記録媒体に付着するようにしてもよい。この場合、記録媒体上にはインク受容層が付着するようにして、インク受容層と剥離層の2層が記録媒体上に転写される。またこの場合には、上記転写と並行して、転写工程の加熱により、インク受容層に付着した着色インク組成物がインク受容層から剥離層へ昇華拡散するようにしてもよい。
【0039】
また、剥離層は、透明な層であることが好ましく、インク受容層は、不透明な層、特には白色層であることが好ましい。これにより、転写工程の加熱により、インク受容層に付着した着色インク組成物がインク受容層から剥離層へ昇華拡散したとき、白色のインク受容層が記録媒体の色を隠ぺいする層となり、その上に形成された剥離層に昇華性染料が拡散することで、記録媒体の色に関わらず、転写性の良い画像を形成することができる。
【0040】
剥離層に含まれる樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ポリエステル、ポリスチレン、ポリアクリル、ポリスチレン-アクリル樹脂、ポリ(エチレン-酢酸ビニル)、及びジアリルメチルアンモニウムクロリドに基づく重合体からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。このような樹脂を含むことにより、剥離性がより向上し、低Duty部における転写性がより向上するほか、にじみもより抑制される傾向にある。
【0041】
このような中間転写媒体としては、特に制限されないが、例えば、Forever社製の、Subli-Light (No-cut) やSubli-Flex (No-cut)などが挙げられる。
【0042】
1.2.クリアインク付着工程
クリアインク付着工程は、記録領域Aの少なくとも一部にクリアインク組成物を付着する工程である。クリアインク組成物の付着方法はインクジェット方式に限定されず、ローラー塗布、スプレー塗布などを用いてもよい。
【0043】
このなかでも、クリアインク組成物の付着位置や付着量を高精度で制御可能な点でインクジェット方式が好ましい。このような方法を用いることにより、記録領域Aに対するクリアインク組成物の付着位置や付着量を調整することが可能となり、後述する転写工程において、より転写性が高くにじみの少ない記録物を得ることができる。具体的には、インクジェット方式を用いることにより、記録領域Aの着色インク組成物の付着が少ない部分には、相対的に多くのクリアインク組成物を付着することにより転写性を高めることができ、記録領域Aの着色インク組成物の付着が多い部分には、相対的に少ないクリアインク組成物を付着することにより、付着するインク組成物が過剰である場合に生じるにじみを抑制することができる。
【0044】
より具体的には、上記着色インク付着工程において形成した記録領域Aが着色インク組成物の付着量が21mg/inch2未満である記録領域A1を有するときには、記録領域A1に、クリアインク組成物を付着することが好ましい。これにより、記録領域Aに付着した着色インク組成物の付着量に応じてクリアインク組成物を付着することができ、記録領域Aの全体にわたって、転写性がより向上し、にじみを抑制することができる。
【0045】
クリアインク付着工程においては、記録領域Aに付着した着色インク組成物とクリアインク組成物の合計の付着量が所定の範囲となるようにクリアインク組成物を付着させることが好ましい。具体的には、記録領域Aに付着した着色インク組成物とクリアインク組成物の合計の付着量は、好ましくは6.3~25.2mg/inch2であり、より好ましくは7.4~25.2mg/inch2であり、さらに好ましくは8.4~21mg/inch2である。合計付着量が上記範囲内であることにより、転写性がより向上する傾向にある。
【0046】
また、クリアインク付着工程においては、記録領域Aに隣接する非記録領域Bに、クリアインク組成物をさらに付着させることが好ましい。これにより、記録領域Aの境界部や、細線部の品質がより向上する傾向にある。
【0047】
1.2.1.クリアインク組成物
本実施形態において「クリアインク」とは、着色するために用いるインクではなく、その他の目的で用いるインクである。本実施形態においては、記録領域Aの少なくとも一部にクリアインク組成物を付着させることにより、後述する転写工程において、記録領域Aにおける液体量を所定以上にすることができる。これにより、低Duty部の転写性がより向上する傾向にある。また、非記録領域Bにクリアインク組成物をさらに付着させることにより、記録領域Aを超えてその周辺領域においても転写が有効に進行するようにすることで、記録領域Aの境界部や、細線部の品質がより向上する傾向にある。なお、単なる水は、クリアインクには含まれない。
【0048】
クリアインク組成物に含まれる成分としては、昇華性染料以外は上記着色インク組成物で例示したものと同様の成分を例示することができ、クリアインク組成物は、水溶性有機溶剤と、水と、を含み、必要に応じて、界面活性剤等を含んでいてもよい。クリアインク組成物に含まれる成分と着色インク組成物に含まれる成分は、一致していても異なっていてもよい。
【0049】
1.2.1.1.水溶性有機溶剤
水溶性有機溶剤としては、グリセリン、グリコール類、グリコールモノエーテル類が好ましく、グリセリン、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテルがより好ましく、グリセリン、プロピレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテルがさらに好ましい。このような水溶性有機溶剤を用いることにより、低Duty部における転写性がより向上する傾向にある。
【0050】
水溶性有機溶剤の含有量は、着色インク組成物の総量に対して、好ましくは7.5~35質量%が好ましく、より好ましくは10~30質量%であり、さらに好ましくは15~25質量%である。水溶性有機溶剤の含有量が上記範囲内であることにより、中間転写媒体への濡れ性がより向上し、このような水溶性有機溶剤を用いることにより、低Duty部における転写性がより向上する傾向にある。
【0051】
着色インク組成物とクリアインク組成物が、同一の水溶性有機溶剤を1種以上含むことが好ましく、同一の水溶性有機溶剤を2種以上含むことがより好ましい。これにより、後述する転写工程における昇華拡散と剥離層の転写がより好適に進行し、得られる記録物の転写性がより向上し、にじみがより抑制される傾向にある。
【0052】
1.2.1.2.水
水の含有量は、着色インク組成物の総量に対して、好ましくは70~99.5質量%が好ましく、より好ましくは70~95質量%であり、さらに好ましくは75~90質量%である。
【0053】
1.2.1.3.界面活性剤
界面活性剤としては、アセチレングリコール系界面活性やシリコーン系界面活性剤が好ましく、シリコーン系界面活性剤がより好ましい。着色インク組成物とクリアインク組成物が、同一の界面活性剤を1種以上含むことが好ましい。これにより、後述する転写工程における昇華拡散と剥離層の転写がより好適に進行し、得られる記録物の転写性がより向上し、にじみがより抑制される傾向にある。
【0054】
界面活性剤の含有量は、着色インク組成物の総量に対して、好ましくは0.1~2.0質量%が好ましく、より好ましくは0.2~1.5質量%であり、さらに好ましくは0.3~1.0質量%である。界面活性剤の含有量が上記範囲内であることにより、低Duty部における転写性がより向上する傾向にある。
【0055】
1.2.1.4.表面張力
クリアインク組成物の表面張力S2は、25℃において、好ましくは20~40mN/Nであり、より好ましくは21~32mN/Nであり、さらに好ましくは22~28mN/Nである。クリアインク組成物の表面張力S2が上記範囲内であることにより、吐出安定性がより向上し、また、記録媒体へのクリアインク組成物の濡れ性がより向上し、低Duty部における転写性がより向上する傾向にある。
【0056】
また、着色インク組成物の表面張力S1と、クリアインク組成物の表面張力S2との差の絶対値は、好ましくは5.0以内であり、より好ましくは4.0以内であり、さらに好ましくは3.0以内である。表面張力S1と表面張力S2との差が上記範囲内であることにより、後述する転写工程における昇華拡散と剥離層の転写がより好適に進行し、得られる記録物の転写性がより向上し、にじみがより抑制される傾向にある。なお、着色インク組成物として複数のインク組成物を用いる場合には、それぞれの着色インク組成物とクリアインク組成物の表面張力差が上記範囲内であることが好ましい。
【0057】
1.2.2.記録媒体
記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、布帛(疎水性繊維布帛等)、樹脂(プラスチック)フィルム、紙、木材、皮革、ガラス、金属、陶磁器等が挙げられる。また、記録媒体としては、シート状、球状又は直方体形状等の立体的な形状を有する物を用いてもよい。
【0058】
記録媒体が布帛である場合に、布帛を構成する繊維としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維、ポリアミド繊維及びこれらの繊維を2種以上用いた合成繊維もしくは半合成繊維;絹、綿、羊毛、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の天然繊維;レーヨン等の再生繊維が挙げられる。また、これら繊維は2種以上の混紡品として用いてもよい。
【0059】
このなかでも、綿を含む布帛が好ましい。このような記録媒体はファブリック製品としては多用されるものの、従来の昇華転写法では高品位な記録物を得ることが難しいものであり、本発明が特に有用である。
【0060】
また、記録媒体が樹脂(プラスチック)フィルムである場合、用い得る樹脂(プラスチック)フィルムとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエステルフィルム、ポリウレタンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリフェニレンサルファイドフィルム、ポリイミドフィルム、ポリアミドイミドフィルム等が挙げられる。樹脂(プラスチック)フィルムは、複数の層が積層された積層体であってもよいし、材料の組成が傾斜的に変化する傾斜材料で構成されたものであってもよい。
【0061】
1.3.転写工程
本実施形態の記録方法は、中間転写媒体の記録領域Aが形成された面と、記録媒体の面とを、を対向させた状態で加熱し、記録領域Aに形成された画像を記録媒体の面に転写する転写工程をさらに有することが好ましい。この際、画像の転写には、中間転写媒体の剥離層ごと記録領域Aに形成された画像を記録媒体に転写することが含まれる。
【0062】
転写工程における加熱温度は、好ましくは160~220℃であり、より好ましくは160~190℃であり、さらに好ましくは170~190℃である。加熱温度が上記範囲内であることにより、中間転写媒体から剥離層を剥離して記録媒体へ転写しやすくなるほか、得られる記録物の転写性がより向上し、にじみがより抑制される傾向にある。
【0063】
転写工程における加熱時間は、好ましくは15~120秒であり、より好ましくは20~90秒であり、さらに好ましくは20~80である。加熱時間が上記範囲内であることにより、中間転写媒体から剥離層を剥離して記録媒体へ転写しやすくなるほか、得られる記録物の転写性がより向上し、にじみがより抑制される傾向にある。
【0064】
転写工程においては、中間転写媒体の記録領域Aと記録媒体とを密着させた状態で加熱することが好ましく、加圧状態した状態で加熱することがより好ましい。転写工程における圧力は、好ましくは1.0~8.0kN/cm3であり、より好ましくは2.0~6.0kN/cm3である。圧力が上記範囲内であることにより、中間転写媒体から剥離層を剥離して記録媒体へ転写しやすくなるほか、得られる記録物の転写性がより向上し、にじみがより抑制される傾向にある。
【0065】
転写工程は、記録領域Aに付着した着色インク組成物とクリアインク組成物の合計の付着量が所定値以上である状態で行うことが好ましい。より具体的には、転写工程を行う際の記録領域Aに付着した着色インク組成物とクリアインク組成物の合計の付着量は、好ましくは5.0mg/inch2以上であり、より好ましくは5.9~25.2mg/inch2であり、さらに好ましくは6.7~21mg/inch2である。合計付着量が5.0mg/inch2以上であることにより、記録領域Aの全体にわたって、転写性がより向上する傾向にある。また、合計付着量が21mg/inch2以下であることにより、にじみがより抑制される傾向にある。なお、着色インク組成物の付着量が5.0mg/inch2以上である場合には、その部分の記録領域Aには、クリアインク組成物を付着しないようにしてもよい。
【0066】
2.インクジェット記録装置
本実施形態のインクジェット記録装置は、上記記録方法を行うインクジェット記録装置であって、着色インク組成物を吐出するノズルと、クリアインク組成物を吐出するノズルと、を備え、着色インク組成物は、昇華性染料と、水溶性有機溶剤と、水とを含み、クリアインク組成物は、水溶性有機溶剤と、水とを含むものである。
【0067】
インクジェット装置の一例として、図1に、シリアルプリンタの斜視図を示す。図1に示すように、シリアルプリンタ20は、搬送部220と、記録部230とを備えている。搬送部220は、シリアルプリンタに給送された記録媒体Fを記録部230へと搬送し、記録後の記録媒体をシリアルプリンタの外に排出する。具体的には、搬送部220は、各送りローラーを有し、送られた記録媒体Fを副走査方向T1へ搬送する。
【0068】
また、記録部230は、搬送部220から送られた記録媒体Fに対して着色インク組成物を吐出するノズルとクリアインク組成物を吐出するノズルを有するインクジェットヘッド231を搭載するキャリッジ234と、キャリッジ234を記録媒体Fの主走査方向S1、S2に移動させるキャリッジ移動機構235を備える。
【0069】
シリアルプリンタの場合には、インクジェットヘッド231として記録媒体の幅より小さい長さであるヘッドを備え、ヘッドが移動し、複数パス(マルチパス)で記録が行われる。また、シリアルプリンタでは、所定の方向に移動するキャリッジ234にヘッド231が搭載されており、キャリッジの移動に伴ってヘッドが移動することにより記録媒体上に着色インク組成物とクリアインク組成物を吐出する。これにより、2パス以上(マルチパス)で記録が行われる。なお、パスを主走査ともいう。パスとパスの間には記録媒体を搬送する副走査を行う。つまり主走査と副走査を交互に行う。
【0070】
また、本実施形態のインクジェット装置は、上記シリアル方式のプリンタに限定されず、上述したライン方式のプリンタであってもよい。
【実施例
【0071】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0072】
1.インク組成物の調製
下記表1に記載の組成となるように、各成分を混合し、着色インク組成物及びクリアインク組成物を得た。尚、表1には組成を質量%で示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1中で使用した略号や製品の成分は、以下の通りである。
【0075】
<昇華性染料>
DB359:C.I.Disperse Blue 359
DR60 :C.I.Disperse Red 60
DY54 :C.I.Disperse Yellow 54
<水溶性溶剤>
プロピレングリコール
トリエチレングリコール
グリセリン
トリエチレングリコールモノメチルエーテル
トリエチレングリコールモノブチルエーテル
<界面活性剤>
BYK348(シリコーン系界面活性剤、ビックケミージャパン社製)
オルフィンE1010(アセチレングリコール系界面活性剤、日信化学工業社製)
【0076】
1.1.表面張力の測定
各インク組成物の表面張力は、表面張力計(協和界面科学(株)製、表面張力計CBVP-Z等)を用いて、ウィルヘルミー法で液温25℃にて測定した。
【0077】
2.評価方法
2.1.転写性
インクジェットプリンタ(PX-G930、セイコーエプソン社製)を用いて、剥離層を有するSubli-Light(No-cut)(Forever社製)に対して、720dpi×720dpiの解像度において、表2~3に記載のDutyで、上記着色インク組成物1~3を付着させて、それぞれの単色ベタパターンである記録領域Aを形成した。なお、記録領域Aにおいて、着色インク組成物1~3の印刷箇所はそれぞれ隣接させて形成した。
【0078】
また、同じインクジェットプリンタ(PX-G930、セイコーエプソン社製)を用いて、記録媒体の記録領域Aに対して、表2~3に記載のDutyで、クリアインク組成物を付着させた。
【0079】
次いで、形成した記録領域Aと記録媒体(綿布帛)を対向して、密着させて、ヒートプレス機(TP-608M、太陽精機社製)を用いて185℃、30秒、4.2kN/cm2の条件で1度目の加熱を行い、転写させた。1度目の加熱終了後、10秒で中間転写媒体を記録媒体から取り除き、再度同プレス機を用いて、185℃、30秒、4.2kN/cm2の条件で2度目の加熱を行い、転写物を記録媒体に固着させた。なお、これらインク組成物の付着から転写までの時間は30秒とした。また、室内温度は25℃、湿度は30%とした。
【0080】
なお、「duty」とは、下式で算出される値であり、100%dutyとは、すべての画素に対して1滴のインクが付着されることを意味する。
duty(%)=実印字ドット数/(縦解像度×横解像度)×100
(式中、「実印字ドット数」は単位面積当たりの実印字ドット数であり、「縦解像度」及び「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。)
また、本実施例で使用したインクを各dutyで付着させた場合のインク付着量はいずれのインクについても下式で算出され、100%dutyでのインク付着量は21mg/inch2であった。
インク付着量(mg/inch2)=21×duty(%)/100
【0081】
上記のようにして形成された記録媒体上のベタ画像において、転写が進行していない部分が存在するか否かを、目視にて確認し、下記評価基準により転写性を評価した。
(評価基準)
A:ベタ印刷部中央が面積比100%転写された
B:ベタ印刷部中央が面積比99%以上100%未満転写された
C:ベタ印刷部中央が面積比90%以上99%未満転写された
D:ベタ印刷部中央が面積比50%以上90%未満転写された
E:ベタ印刷部中央が面積比50%未満転写された
【0082】
2.2.着色インク組成物1~3のベタパターン領域間のにじみ
上記のようにして形成された着色インク組成物1~3のベタパターンの隣接する境界において、にじみの発生の有無を目視にて確認し、下記評価基準により評価した。
(評価基準)
A:境界部の滲みが認められなかった
B:境界部の滲みが若干認められた
C:境界部の滲みがかなり認められた
【0083】
2.3.湿摩擦堅牢性
上記のようにして画像を形成した記録媒体の記録面を、テスター(産業社製、学振式摩擦堅牢性試験機AB-301S)を用いて荷重200gで150回擦る摩擦堅牢試験を行った。インクの剥がれ具合を確認する日本工業規格(JIS)JIS L0849に準拠して、湿潤状態の水準にて試験を実施し、摩擦堅牢試験後の記録面を確認して、湿摩擦堅牢性を評価した。
(評価基準)
A:湿摩擦堅牢性試験にて、傷、剥離面積が5%未満かつ等級3級以上
B:湿摩擦堅牢性試験にて、傷、剥離面積が10%未満かつ等級2~3級以上
C:湿摩擦堅牢性試験にて、傷、剥離面積が50%未満かつ等級2級以上
D:湿摩擦堅牢性試験にて、傷、剥離面積が50%以上または等級2級未満
【0084】
2.4.境界部の品質
上記2.1.に記載の条件に加え、着色インク組成物1~3それぞれを用いてさらに幅0.2mmの単色のラインパターンを記録領域Aとして形成した。また、ベタパターンとラインパターンの周辺に、クリアインク組成物を用いて、さらに非記録領域Bとして0.1mmまたは0.5mm幅のクリア印刷部を設けた。これ以外は、上記2.1.と同様にして転写工程を行い、記録物を得た。なお、実施例15においては、非記録領域Bを設けない例とした。
【0085】
上記のようにして得られた記録物のベタパターンとその周辺の非記録領域Bに相当する領域との境界部、すなわちカラー部とクリア部の境界において、乱れが生じているかを目視にて確認し、境界部の品質を下記評価基準により評価した。
(評価基準)
A:境界部の乱れが長さ比で5%未満
B:境界部の乱れが長さ比で5%以上10%未満
C:境界部の乱れが長さ比で10%以上
【0086】
2.5.細線部の品質
上記のようにして得られた記録物のラインパターンにおいて、転写が進行していない部分が存在するか否かを、目視にて確認し、下記評価基準により転写性を評価した。
(評価基準)
A:幅0.2mmの細線が長さ比100%で転写可能
B:幅0.2mmの細線が長さ比90%以上100%未満で転写可能
C:幅0.2mmの細線が長さ比50%以上90%未満で転写可能
D:幅0.2mmの細線が長さ比50%未満で転写可能
【0087】
2.6.カラー部とクリア部間のにじみ
上記のようにして得られた記録物のベタパターンとその周辺の非記録領域Bに相当する領域との境界部、すなわちカラー部とクリア部の境界において、にじみが生じているかを目視にて確認し、カラー部とクリア部間のにじみを下記評価基準により評価した。
(評価基準)
A:境界部の滲みが認められなかった
B:境界部の滲みが若干認められた
C:境界部の滲みがかなり認められた
【0088】
【表2】
【0089】
【表3】
【0090】
3.評価結果
表2~3に、各例で用いインクの評価結果を示した。表2から、剥離層を有する中間記録媒体を用いる記録方法において、クリアインク組成物を記録媒体に付着して用いることにより、転写性が向上し、にじみが抑制され、耐湿摩擦堅牢性も向上することが分かった。また、表3から、非記録領域にクリアインク組成物をさらに付着させることで、境界部や細線部の品質がより向上し、カラー部、クリア部間の滲みも抑制されることが分かった。なお、表3に記載の各実施例においては、転写性も良好であった。
【0091】
また、クリアインク組成物に代えて水を用いた場合についても検討したが、水を用いた場合には、転写性も優れないうえに、にじみがひどい結果となった。
【符号の説明】
【0092】
20…シリアルプリンタ、220…搬送部、230…記録部、231…インクジェットヘッド、234…キャリッジ、235…キャリッジ移動機構、F…記録媒体、S1,S2…主走査方向、T1…副走査方向
図1