(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】車両用制動装置
(51)【国際特許分類】
B60T 17/18 20060101AFI20240730BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20240730BHJP
B60T 8/92 20060101ALI20240730BHJP
B60T 8/1761 20060101ALI20240730BHJP
B60T 13/138 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B60T17/18
B60T8/17 Z
B60T8/92
B60T8/1761
B60T13/138 Z
(21)【出願番号】P 2020182390
(22)【出願日】2020-10-30
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和晃
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006299(JP,A)
【文献】特開2020-168966(JP,A)
【文献】特開2009-120082(JP,A)
【文献】特開平07-315208(JP,A)
【文献】米国特許第00554275(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 17/18
B60T 8/17
B60T 8/92
B60T 8/1761
B60T 13/138
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に制動力を付与する第一制動部と、
前記第一制動部とは別に設けられ前記車両に制動力を付与する第二制動部とを備え、
前記第一制動部及び前記第二制動部は、互いに協調して前記車両に付与する制動力を制御する協調制御のうち少なくとも1つの特定制御を、それぞれ所定の物理量に対する第一閾値と第二閾値とに基づいて開始し、
前記第一制動部は、前記第二制動部から前記第二制動部の作動状態が取得可能である場合には、取得された前記第二制動部の作動状態に応じた通常時制御を実行し、前記第二制動部から前記第二制動部の作動状態が取得不能である場合には、前記第一閾値を前記第二閾値よりも前記特定制御が開始されにくい側に変更し、前記第二制動部による前記特定制御の実行結果に応じた異常時制御を実行することを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
前記第一制動部は、前記第二制動部から前記第二制動部の作動状態が取得不能であり、かつ前記第二制動部による前記特定制御の実行結果が前記第二制動部の不作動を示している場合に、前記第一閾値とそれに対応する前記物理量との大小関係にかかわらず、前記異常時制御を開始する請求項1に記載の車両用制動装置。
【請求項3】
前記第一制動部は、前記第二制動部から前記第二制動部の作動状態が取得不能である場合に、前記異常時制御の実行回数が多くなるほど、又は前記異常時制御の実行継続時間が長くなるほど、前記第一閾値を前記特定制御が開始されやすい側に変更する請求項1又は2に記載の車両用制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用制動装置として、2つのアクチュエータを備え、一方のアクチュエータが失陥した場合には、そのアクチュエータによる制御を他方のアクチュエータによりバックアップするものが知られている。例えば特開2019-6299号公報に記載の車両用制動装置は、ESC装置と電動倍力装置を備え、電動倍力装置用の電子制御装置がESC装置用の電子制御装置からABS制御に必要な車輪速を取得するように構成されている。この制動装置では、上記車輪速の取得が不能になった場合に、ESC装置によるABS制御(以下「下流ABS制御」という)を禁止し、電動倍力装置によるABS制御(以下「上流ABS制御」という)を実行する。これにより、下流ABS制御を上流ABS制御でバックアップしようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の如く車輪速が取得不能になった場合に上流ABS制御を実行すると、下流ABS制御が実行可能であるにも拘わらず、上流ABS制御が実行されることが考えられる。ここで、電動倍力装置による上流ABS制御はESCによる下流ABS制御よりも性能が低いと考えられる。したがって、上記車両用制動装置ではABS制御の性能が低下することが懸念される。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、バックアップ用の制御を含む特定制御の性能が高い車両用制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両用制動装置は、車両に制動力を付与する第一制動部と、第一制動部とは別に設けられ車両に制動力を付与する第二制動部とを備え、第一制動部及び第二制動部は、車両に付与する制動力を互いに協調して制御する協調制御のうち少なくとも1つの特定制御を、それぞれ所定の物理量に対する第一閾値と第二閾値とに基づいて開始し、第一制動部は、第二制動部から第二制動部の作動状態が取得可能である場合には、取得された作動状態に応じた正常時制御を実行し、第二制動部から第二制動部の作動状態が取得不能である場合には、第一閾値を第二閾値よりも特定制御が開始されにくい側に変更し、第二制動部による特定制御の実行結果に応じた異常時制御を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第一制動部が第二制動部から第二制動部の作動状態が取得不能であっても、第二制動部による特定制御の実行結果に応じて第一制動部と第二制動部とを好適に協調させることにより、特定制御の性能向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態の車両用制動装置の構成図である。
【
図2】異常時ABS制御の開始閾値を設定する処理のフローチャートである。
【
図3】通常時ABS制御可否情報が取得できず、通常時ABS制御用の機能が正常である場合のABS制御を示すタイミングチャートである。
【
図4】通常時ABS制御可否情報が取得できず、通常時ABS制御用の機能が異常である場合のABS制御を示すタイミングチャートである。
【0009】
以下、本発明の実施形態を
図1から
図4に基づいて説明する。
図1に示す液圧制動装置100は、車両の車輪Wに液圧制動力を付与する装置である。液圧制動装置100は、ブレーキペダル11と、マスタシリンダ12と、ストロークシミュレータ13と、リザーバ14と、倍力部15と、アクチュエータ5と、ECU6、7と、ホイルシリンダWCとを備えている。
ECU6、7は、CPUやメモリ等を有する電子制御装置であり、通信線16により互いに接続されている。ECU6は倍力部15を制御する。ECU7はアクチュエータ5を制御する。マスタシリンダ12、倍力部15及びECU6が「第一制動部」に相当し、アクチュエータ5及びECU7が「第二制動部」に相当する。
【0010】
ブレーキペダル11の近傍には、ブレーキペダル11の操作量(以下「ブレーキ操作量」という)を検出するストロークセンサ11cが設けられている。車輪Wの近傍には、車輪Wの回転速度(以下「車輪速」という)WSを検出する車輪速センサSが設けられている。ストロークセンサ11c及び車輪速センサSはECU6,7に電気的に接続されている。
【0011】
マスタシリンダ12は、ブレーキ操作量に応じて、ブレーキ液をアクチュエータ5に供給する装置である。マスタシリンダ12は、シリンダボディー12a、入力ピストン12b、第一マスタピストン12c及び第二マスタピストン12dを備えている。
【0012】
シリンダボディー12aは有底略円筒状に形成されている。シリンダボディー12aの内周部には、内向きフランジ状に突出する隔壁部12a2が設けられている。隔壁部12a2の中央には、前後方向(軸方向)に貫通する貫通孔12a3が形成されている。シリンダボディー12aの内周部には、隔壁部12a2より前方(図面左方向)に、軸方向に沿って液密かつ移動可能に第一マスタピストン12c及び第二マスタピストン12dが配設されている。
【0013】
シリンダボディー12aの内周部には、隔壁部12a2より後方(図面右方向)に、軸方向に沿って液密かつ移動可能に入力ピストン12bが配設されている。入力ピストン12bは、ブレーキ操作に応じてシリンダボディー12a内を摺動する。
【0014】
詳しくは、入力ピストン12bには、ブレーキペダル11に連動する操作ロッド11aが接続されている。入力ピストン12bは、圧縮スプリング11bによって第一液圧室R3を拡張する後方に付勢されている。ブレーキペダル11が踏み込まれると、操作ロッド11aは、圧縮スプリング11bの付勢力に抗して前進する。操作ロッド11aの前進に伴い、入力ピストン12bも連動して前進する。ブレーキペダル11の踏み込み操作が解除されると、入力ピストン12bは、圧縮スプリング11bの付勢力によって後退し、規制凸部12a4に当接して位置決めされる。
【0015】
第一マスタピストン12cは、前方側から順番に加圧筒部12c1、フランジ部12c2及び突出部12c3が形成されている。加圧筒部12c1は、前方に開口を有し後方に底面を有する有底略円筒状に形成されている。加圧筒部12c1は、シリンダボディー12aの内周面に対して摺動可能に配設されている。加圧筒部12c1と第二マスタピストン12dとの間には、付勢部材であるコイルスプリング12c4が配設されている。第一マスタピストン12cは、コイルスプリング12c4によって後方に付勢されている。第一マスタピストン12cは、規制凸部12a5に当接して位置決めされる。
【0016】
フランジ部12c2は、加圧筒部12c1よりも大径に形成されている。フランジ部12c2は、シリンダボディー12a内の大径部12a6の内周面に対して摺動可能に配設されている。突出部12c3は、加圧筒部12c1よりも小径に形成されている。突出部12c3は、隔壁部12a2の貫通孔12a3に対して摺動可能に配置されている。突出部12c3の後端部は、シリンダボディー12aの内部空間に突出し、シリンダボディー12aの内周面から離間している。突出部12c3の後端面は、入力ピストン12bの底面から離間し、その離間距離は変化し得るように構成されている。
【0017】
第二マスタピストン12dは、シリンダボディー12a内の第一マスタピストン12cの前方側に配置されている。第二マスタピストン12dは、前方に開口を有し後方に底面を有する有底略円筒状に形成されている。第二マスタピストン12dとシリンダボディー12aの内底面との間には、付勢部材であるコイルスプリング12d1が配設されている。コイルスプリング12d1により、第二マスタピストン12dは後方に付勢されている。第二マスタピストン12dは、自身の初期位置に向けてコイルスプリング12d1により付勢されている。
【0018】
マスタシリンダ12内には、第一マスタ室R1、第二マスタ室R2、第一液圧室R3、第二液圧室R4及びサーボ室R5が形成されている。以下、第一マスタ室R1及び第二マスタ室R2を、まとめてマスタ室R1、R2ともいう。
第一マスタ室R1は、シリンダボディー12a、第一マスタピストン12c及び第二マスタピストン12dによって区画されている。第一マスタ室R1は、ポートPT4及び油路21を介してリザーバ14に接続され、ポートPT5及び油路22を介してアクチュエータ5に接続されている。
【0019】
第二マスタ室R2は、シリンダボディー12a及び第二マスタピストン12dによって区画されている。第二マスタ室R2は、ポートPT6及び油路23を介してリザーバ14に接続され、ポートPT7及び油路24を介してアクチュエータ5に接続されている。
【0020】
第一液圧室R3は、シリンダボディー12a、隔壁部12a2、第一マスタピストン12cの突出部12c3及び入力ピストン12bによって区画されている。
第二液圧室R4は、シリンダボディー12aの内周面の大径部12a6、加圧筒部12c1及びフランジ部12c2によって区画されている。第二液圧室R4は、ポートPT3、油路25及びポートPT1を介して第一液圧室R3に接続されている。
【0021】
サーボ室R5は、シリンダボディー12a、隔壁部12a2、第一マスタピストン12cの突出部12c3及び加圧筒部12c1によって区画されている。サーボ室R5は、ポートPT2及び油路26を介して出力室R12に接続されている。
油路26には圧センサ26aが設けられている。圧力センサ26aは、サーボ室R5の液圧(以下「サーボ圧」という)を検出するセンサであり、ECU6に電気的に接続されている。
【0022】
第一液圧室R3及び第二液圧室R4には、油路25及び油路27を介してストロークシミュレータ13が接続されている。ストロークシミュレータ13は、ブレーキ操作に応じた大きさの反力をブレーキペダル11に発生させるための装置である。ストロークシミュレータ13は、シリンダ13a1、ピストン13a2及びスプリング13a4を有している。シリンダ13a1内には液圧室13a3が形成されている。
液圧室13a3は、シリンダ13a1とピストン13a2とによって区画されている。液圧室13a3は、接続された油路27、25を介して第一液圧室R3及び第二液圧室R4に連通している。スプリング13a4は、ピストン13a2を液圧室13a3の容積を減少させる方向に付勢する。
【0023】
油路25には、ノーマルクローズタイプの電磁弁である第一電磁弁25aが設けられている。油路25とリザーバ14とを接続する油路28には、ノーマルオープンタイプの電磁弁である第二電磁弁28aが設けられている。
第一電磁弁25aが閉弁した状態では、第一液圧室R3と第二液圧室R4との接続が遮断され、第一液圧室R3が液密になるため、入力ピストン12bと第一マスタピストン12cとが連動する。第一電磁弁25aが開弁した状態では、第一液圧室R3と第二液圧室R4とが連通し、両液圧室の液圧は静的に同圧になる。
また油路25には、圧力センサ25bが設置されている。圧力センサ25bは、第二液圧室R4及び第一液圧室R3の液圧を検出するセンサである。
【0024】
サーボ室R5には倍力部15が接続されている。倍力部15は、ブレーキ操作に応じたサーボ圧をママスタシリンダ12のサーボ室R5に発生させる装置である。倍力部15は、レギュレータ15a及び圧力供給部15bを有している。
レギュレータ15aは、シリンダボディー15a1と、シリンダボディー15a1内を摺動するスプール15a2とを含んでいる。レギュレータ15aには、パイロット室R11、出力室R12及び第三液圧室R13が形成されている。
【0025】
パイロット室R11は、シリンダボディー15a1及びスプール15a2の第二大径部15a2bによって区画されている。
出力室R12は、シリンダボディー15a1及びスプール15a2の小径部15a2c、によって区画されている。出力室R12は、ポートPT12、油路26及びポートPT2を介してママスタシリンダ12のサーボ室R5に接続されている。出力室R12には、スプール15a2の位置に応じて、ポートPT13及び油路32を介して圧力供給部15bが接続される。
【0026】
第三液圧室R13は、シリンダボディー15a1、及びスプール15a2の第一大径部15a2aの後端面によって区画されている。第三液圧室R13には、スプール15a2の位置に応じて、ポートPT14及び油路33を介してリザーバ15b1に接続される。第三液圧室R13内には、第三液圧室R13を拡張する方向に付勢するスプリング15a3が配設されている。
【0027】
スプール15a2には、第一大径部15a2a、第二大径部15a2b及び小径部15a2cが形成されている。小径部15a2cは、第一大径部15a2aと第二大径部15a2bとの間に配置されており、第一大径部15a2a及び第二大径部15a2bよりも小径である。第一大径部15a2a及び第二大径部15a2bは、シリンダボディー15a1内を摺動可能である。またスプール15a2には、出力室R12と第三液圧室R13とを連通する連通路15a5が形成されている。
【0028】
圧力供給部15bは、低圧力源であるリザーバ15b1と、高圧力源であるアキュムレータ15b2と、リザーバ15b1内のブレーキ液を吸入しアキュムレータ15b2に吐出するポンプ15b3と、ポンプ15b3を駆動する電動モータ15b4とを含んでいる。リザーバ15b1内の液圧は、アキュムレータ15b2内の液圧より低く、大気圧と同レベルである。
アキュムレータ15b2とレギュレータ15aのポートPT13とを接続する油路32には、アキュムレータ15b2の液圧を検出する圧力センサ15b5が設けられている。圧力センサ15b5はECU6に電気的に接続されている。
【0029】
アキュムレータ15b2は、油路35、油路31及びポートPT11を介してとレギュレータ15aのパイロット室R11に接続されている。リザーバ15b1は、油路34、油路31及びポートPT11を介してパイロット室R11に接続されている。油路35には増圧弁15b7が設けられ、油路34には減圧弁15b6が設けられている。減圧弁15b6は、ノーマルオープンタイプのリニア電磁弁であり、その開度がECU6により制御される。増圧弁15b7は、ノーマルクローズタイプのリニア電磁弁であり、その開度がECU6により制御される。
【0030】
減圧弁15b6が開弁すると、リザーバ15b1とパイロット室R11とが連通するため、パイロット室R11内の液圧(以下「パイロット圧」という)は減圧される。増圧弁15b7が開弁すると、アキュムレータ15b2とパイロット室R11とが連通するため、パイロット圧は増圧される。減圧弁15b6及び増圧弁15b7の両方が閉弁すると、パイロット室R11は密閉される。
【0031】
ここで、レギュレータ15aの作動について簡単に説明する。パイロット圧がスプリング15a3の初期荷重に対応する圧力よりも低い場合、スプール15a2は初期位置に位置する。スプール15a2の初期位置は、スプール15a2の前端面が規制凸部15a4に当接して位置決めされる位置であり、例えばスプール15a2の後端面がポートPT14の外縁と一致する位置である。スプール15a2が初期位置に位置する状態では、ポートPT13及びポートPT14がスプール15a2によってそれぞれ閉塞及び開放されるため、出力室R12はリザーバ14に接続される。
【0032】
パイロット圧が増圧されるとスプール15a2は後方に移動する。そして、ポートPT13及びPT14がそれぞれ開放及び閉塞される位置(以下「増圧位置」という)までスプール15a2が移動すると、出力室R12はアキュムレータ15b2と接続されるため、出力室R12の液圧は増圧される。
【0033】
スプール15a2の第二大径部15a2bの前端面に加わるパイロット圧に対応する力と、第二大径部15a2bの後端面に加わる出力室R12の液圧(サーボ圧)に対応する力及びスプリング15a3の付勢力の合力とがつりあう位置(以下「保持位置」という)で、スプール15a2は停止する。この状態では、ポートPT13及びポートPT14がスプール15a2によって閉塞される。
【0034】
パイロット圧が減圧されるとスプール15a2は前方に移動する。そして、ポートPT13及びポートPT14がそれぞれ閉鎖及び開放される位置(以下「減圧位置」という)までスプール15a2が移動すると、出力室R12はリザーバ14に接続されるため、出力室R12の液圧は減圧される。
このようにして倍力部15では、減圧弁15b6及び増圧弁15b7の制御によりパイロット圧が調整され、パイロット圧に応じた液圧が出力室R12に発生する。
【0035】
ママスタシリンダ12のマスタ室R1、R2にはアクチュエータ5が接続されている。アクチュエータ5は、ECU7に制御されて、ホイルシリンダWCの液圧(以下「ホイール圧」という)を調整する装置である。アクチュエータ5は、マスタ室R1、R2の液圧を加減圧して、ホイルシリンダWCに供給することも、マスタ室R1、R2の液圧をそのままホイルシリンダWCに供給することも可能に構成されている。アクチュエータ5は、図示しない加圧源と電磁弁等を備えている。加圧源は、例えば電動ポンプや電動シリンダである。
【0036】
ECU6は、車両の減速度の目標値(以下「目標減速度」という)に基づいてサーボ圧の目標値(以下「目標サーボ圧」という)を設定し、目標サーボ圧に基づいて倍力部15を制御する。ECU6は通信線16を介して目標サーボ圧をECU7に送信する。ECU6による倍力部15の制御について簡単に説明すると、ECU6は、マスタ圧を増圧する増圧制御では、増圧弁15b7及び減圧弁15b6をそれぞれ開弁及び閉弁させ、マスタ圧を減圧する減圧制御では、増圧弁15b7及び減圧弁15b6をそれぞれ閉弁及び開弁させ、マスタ圧を保持する保持制御では、増圧弁15b7及び減圧弁15b6を閉弁させる。
【0037】
ECU7は、目標減速度とECU6から受信した目標サーボ圧と車両の状態とに基づいて各車輪Wに付与する制動力の目標値である目標制動力を設定し、各車輪Wの目標制動力に基づいてアクチュエータ5を制御する。ECU7によるアクチュエータ5の制御については周知技術であるため説明を省略する。
上述の如くECU6、7により通信線16を介して情報を互いに送受信して行う制御が「協調制御」に相当する。
【0038】
以下、特定制御としてのアンチロックブレーキ制御(以下「ABS制御」という)について説明する。
本実施形態のABS制御では、ECU7及びアクチュエータ5による制動力調整(以下「下流ABS制御」という)がECU6及び倍力部15による制動力調整(以下「上流
時ABS制御」という)によりバックアップされる。下流ABS制御をバックアップする上流ABS制御は、下流ABS制御よりも制動力調整の性能が低いものとする。
【0039】
詳しくは、ECU6は、ECU7から通信線16を介して下流ABS制御の実行可否を示す情報(以下「下流制御可否情報」という)を取得し、下流制御可否情報が下流ABS制御の実行可能を示している場合には、ECU7に下流ABS制御を実行させる。ECU7は、車輪速センサSから取得した車輪速に基づいて車輪Wのスリップ率(「物理量」に相当する)を導出し、そのスリップ率が下流ABS制御の開始閾値(以下「下流制御開始閾値(「第二閾値」に相当する)」という)THLよりも高い場合に下流ABS制御を実行する。一方、下流制御可否情報が下流ABS制御の実行不能を示している場合には、ECU6は上流ABS制御を実行する。上述した、ECU6が下流制御可否情報をECU7から取得できる状態(以下「情報取得可能状態」という)におけるECU6による下流ABS制御が、「通常時制御」に相当する。
【0040】
ここで、ECU6が下流制御可否情報をECU7から取得できない状態(以下「情報取得不能状態」という)には、ECU7の異常によってECU7が下流制御可否情報を送信することができない状態(以下「ECU異常状態」という)と、ECU6とECU7との間の通信の異常によって通信線16によってECU7からECU6に下流制御可否情報を送信することができない状態(以下「通信異常状態」という)とが含まれる。
これに対して本実施形態では、情報取得不能状態である場合に、上流ABS制御の開始閾値(以下「上流制御開始閾値(「第一閾値」に相当する)」という)THUを下流制御開始閾値THLよりもABS制御が開始されにくい側に設定するようにしている。
【0041】
図2は、ECU6において上流制御開始閾値を設定する処理(以下「閾値設定処理」という)のフローチャートである。本実施形態では、ECU6は閾値設定処理を制御サイクル毎に実行する。
ECU6は、ステップS10において情報取得不能状態であるか否かを判定し、情報取得不能状態である場合にはステップS11~S13の処理に進み、情報取得不能状態ではない場合にはステップS14~S15の処理に進む。例えばECU6は、下流制御可否情報が所定時間内に受信されたか否かによって、情報取得不能状態であるか否かを判定する。
【0042】
ECU6は、ステップS11において上流ABS制御の実行中であるか否かを判定し、上流ABS制御の実行中である場合にはステップS12の処理を実行したうえでステップS13の処理に進み、上流ABS制御の実行中ではない場合にはステップS13の処理に進む。
ECU6は、ステップS12において、情報取得不能状態における上流ABS制御の継続時間を示すカウンタ値Cをカウントアップする。
【0043】
ECU6は、ステップS13において、情報取得不能状態の上流制御開始閾値THUeを設定し、閾値設定処理を終了する。情報取得不能状態の上流制御開始時閾値THUeは、情報取得可能状態の上流制御開始閾値THLよりもABS制御が開始されにくい大きい値である。ECU6は、上流制御開始閾値THUeを、カウンタ値Cが大きくなるほど下流開始閾値THLに近づくように小さくする。例えばECU6は、上流制御開始閾値THUeを、カウンタ値Cに対して比例的に小さくする。
【0044】
ECU6は、ステップS14においてカウンタ値Cをリセットし、ステップS15において情報取得可能状態の上流制御開始閾値THUnを設定し、閾値設定処理を終了する。情報取得可能状態の上流制御開始閾値THUnは、例えば下流制御開始閾値THLに等しい値である。
【0045】
図3、4は、情報取得不能状態におけるABS制御を示すタイミングチャートである。
図3、4では、下流制御開始閾値THLに対応する車輪速を一点鎖線によって、情報取得不能状態の上流制御開始閾値THUeに対応する車輪速を点線によって示している。
図3は下流ABS制御の機能(ECU7やアクチュエータ5)が正常である場合のABS制御を示し、
図4は下流ABS制御の機能に異常がある場合のABS制御を示している。
【0046】
図3に示すように、下流制御開始閾値THLは情報取得不能状態の上流制御開始閾値THUeよりも低い値に設定されているため、車輪Wのスリップ率が上昇すると、車輪Wのスリップ率が上流制御開始閾値THUe以上になるよりも前に、タイミングt1において車輪Wのスリップ率が下流制御開始閾値THL以上になる。そのため、下流ABS制御の機能が正常である場合では、タイミングt1においてECU7及びアクチュエータ5による下流ABS制御が開始される。
【0047】
これにより、タイミングt2~t3では下流ABS制御の減圧モードによって車輪Wのスリップ率は低下し、続く下流ABS制御の増圧モードによってタイミングt3以降では車輪Wのスリップ率が上昇する。タイミングt4において車輪Wのスリップ率が再び下流制御開始閾値THL以上になるが、下流ABS制御の減圧モードにより車輪Wのスリップ率は再び低下する。
このように、情報取得不能状態であっても下流ABS制御の機能が正常である場合は、車輪Wのスリップ率が情報取得不能状態の下流制御開始閾値THUeよりも高くなることはなく、下流ABS制御が実行される。
【0048】
図4に示すように、下流ABS制御の機能に異常がある場合は、タイミングt1において車輪Wのスリップ率が下流制御開始閾値THL以上になったとしても下流ABS制御が実行されることはなく、タイミングt11において車輪Wのスリップ率が情報取得不能状態の上流制御開始閾値THUe以上になる。そのため、タイミングt11においてECU6及び倍力部15による上流ABS制御が開始される。
これにより、タイミングt12~t13では上流ABS制御の減圧モードによって車輪Wのスリップ率は低下し、上流ABS制御の増圧モードによってタイミングt13以降では車輪Wのスリップ率が上昇する。タイミングt14において車輪Wのスリップ率が再び上流制御開始閾値THLe以上になるが、上流ABS制御の減圧モードによって車輪Wのスリップ率は再び低下する。
【0049】
このように、情報取得不能状態で下流ABS制御の機能に異常がある場合は、上流ABS制御が実行される。
ここで、情報取得不能状態の上流制御開始閾値THUeは、情報取得不能状態における上流ABS制御の継続時間に応じて下流制御開始閾値THLに近づくように小さくなる。そのため、
図4において上流制御開始閾値THUeに対応する車輪速は、タイミングt11以降に、一点鎖線で示す下流制御開始閾値THLに対応する車輪速に近づくように大きくなっている
【0050】
上述したようにタイミングt1~t11では、ECU7及びアクチュエータ5による下流ABS制御は実行されない。そしてタイミングt11以降にECU6及び倍力部15による上流ABS制御が実行される。タイミングt1~t11の車輪Wのスリップ率が「第二制動部による特定制御の実行結果」に相当する。また、上述した情報取得不能状態における上流ABS制御が「異常時制御」に相当する。
【0051】
以上説明したように、本実施形態によれば、情報取得不能状態であっても下流ABS制御の機能が正常である場合には、下流ABS制御が実行される。下流ABS制御は、上流ABS制御よりも性能が高いため、特定制御としてのABS制御の性能を向上させることができる。
本実施形態によれば、情報取得不能状態の上流制御開始閾値THUeが情報取得不能状態における上流ABS制御の継続時間が長くなるほど小さくなるため、上流ABS制御における減圧モードや増圧モードへの移行タイミングが早まる。これにより、ABS制御の性能を向上させることができる。
本実施形態によれば、情報取得可能状態の上流制御開始閾値THUeが下流制御開始閾値THLに等しい値であるため、情報取得可能状態で下流ABS制御の機能に異常がある場合に、上流ABS制御を下流ABS制御と同一タイミングで実行可能である。
【0052】
本実施形態では、情報取得不能状態において、車輪Wのスリップ率が上流制御開始閾値THUe以上になった場合に、上流ABS制御を実行するようにした。しかしながら、情報取得不能状態において、車輪Wのスリップ率が上流制御開始閾値THUeに達する前に、上流ABS制御を実行するようにしてもよい。
この場合ECU6は、下流ABS制御の実行条件が成立している状態で、下流ABS制御が実行されているか否かを判定する。そしてECU6は、アクチュエータ5及びECU7が不作動状態である場合、すなわち、下流ABS制御が実行されていない場合に、上流ABS制御を実行する。下流ABS制御の実行条件が成立しているか否かは、車輪Wのスリップ率が下流制御開始閾値THL以上であるか否かによって判定することができる。下流ABS制御が実行されているか否かは、下流ABS制御の実行によって変化する液圧(例えば、ホイルシリンダ圧)が下流ABS制御の実行に対応する変化をしているか否かよって判定することができる。したがって、車輪Wのスリップ率と上流制御開始閾値THUeとの大小関係に関わらず異常時制御を実行することができる。
【0053】
本実施形態では、情報取得不能状態における上流制御開始閾値THUeを、カウンタ値Cに基づいて設定するようにしたが、上流制御開始閾値THUeを、上流ABS制御における減圧モードや保持モードや増圧モードへの移行回数に基づいて設定するようにしてもよい。各モードへの移行回数は、カウンタ値Cと同様に上流ABS制御の継続時間に相関する。
【0054】
本実施形態では、情報取得不能状態の上流制御開始閾値THUeを、情報取得不能状態における上流ABS制御の継続時間に対して比例的に小さくなるようにした。しかしながら、上流制御開始閾値THUを、上流ABS制御の継続時間に対して比例的ではない態様で小さくしてもよい。
例えば、上流制御開始閾値THUeの減少幅を、上流ABS制御の継続時間が長くなるほど大きくしてもよい。この場合ECU6は、ステップS13において、例えば数式1によって上流制御開始閾値THUeを算出することができる。ここで、THUfは情報取得不能状態の上流制御開始閾値の初期値であり、α1は上流制御開始閾値THUeを調整するための係数である。
(数1)
THUe(n)=THUe(n―1)-(THUf―THL)×C×α1
上流制御開始閾値THUeを速やかに小さくすることにより、上流ABS制御における減圧モードや増圧モードへの移行タイミングを速やかに早めることができる。
【0055】
本実施形態では、情報取得不能状態における上流制御開始閾値THUeを、情報取得不能状態における上流ABS制御の継続時間に基づいて設定するようにした。
しかしながら、上流制御開始閾値THUeを、実行中の上流ABS制御の効果に基づいて、例えば上流ABS制御実行中の最大スリップ率Smと目標スリップ率Stとの偏差に基づいて設定するようにしてもよい。この場合ECU6は、ステップS13において、例えば数式2によって上流制御開始閾値THUeを算出することができる。ここで最大スリップ率Smとは、例えば上流ABS制御の減圧モード開始時点から増圧モード開始時点までの期間におけるスリップ率の最大値である。目標スリップ率Stとは、上流ABS制御におけるスリップ率の目標値である。この場合ECU6は、ステップS13において、例えば数式2によって制御開始閾値THUeを算出することができる。ここで、α2は上流制御開始閾値THUeを調整するための係数である。
(数2)
THUe(n)=THUe(n―1)-(Sm(n-1)-St)×α2
実行中のABS制御の効果が小さい場合に、上流制御開始閾値THUeを小さくすることにより、上流ABS制御における減圧モードや増圧モードへの移行タイミングを早めて、実行中のABS制御の効果を大きくすることができる。
【0056】
また、上流制御開始閾値THUeを、ECU異常状態である蓋然性に基づいて、例えば上流ABS制御の実行回数に基づいて設定してもよい。この場合ECU6は、ステップS15において、上流ABS制御の実行回数を示すカウンタ値をカウントアップし、ステップS13において、そのカウンタ値に基づいて上流制御開始閾値THUeを設定することができる。
ECU異常状態である蓋然性が高い場合に、上流制御開始閾値THUeを小さくすることにより、上流ABS制御の開始タイミングを早めることができる。
【0057】
本実施形態では、上流制御開始閾値THUeを可変設定するようにしたが、上流制御開始閾値THUeは一定値であってもよい。この場合ECU6は、ステップS13において上流制御開始閾値THUeを所定値THU1に設定すればよい。所定値THU1は、下流制御開始閾値THLよりも大きい値である。
【0058】
本実施形態では、マスタ室R1、R2の液圧をアクチュエータ5で加減圧する液圧制動装置100を、すなわち「第一制動部」と「第二制動部」とがホイルシリンダWCに対して直列接続された液圧制動装置100について説明した。しかしながら、「第一制動部」と「第二制動部」とがホイルシリンダWCに対して並列接続されてもよい。「第一制動部」及び「第二制動部」の加圧源は、電動ポンプであっても、シリンダ内を摺動するピストンを電気モータで駆動する電動ピストンであってもよい。
【0059】
(第二実施形態)
第一実施形態では、情報取得不能状態の上流制御開始閾値THUeを下流制御開始閾値THLよりも大きい値に設定するようにしたため、情報取得不能状態における上流ABS制御の開始タイミングや、上流ABS制御における減圧モードや増圧モードへの移行タイミングが、下流ABS制御の開始タイミングや下流ABS制御における減圧モードや増圧モードへの移行タイミングよりも遅れる。
そこで第二実施形態では、情報取得不能状態における上流ABS制御のゲイン(以下「上流制御ゲイン」という)GUeを、下流ABS制御のゲイン(以下「下流制御ゲイン」という)GL又は情報取得可能状態の上流制御ゲインGUnよりも大きい値に設定する。上流制御ゲインGUeを設定するゲイン設定処理を除く第2実施形態のその他の構成は、第1実施形態と実質的に同一であるため、その他の構成に関する説明は省略する。
【0060】
ECU6は、第1実施形態のステップS13において、情報取得不能状態の上流制御ゲインGUeを設定する。ECU6は、上流制御ゲインGUeを、カウンタ値Cが大きくなるほど下流制御ゲインGLに近づくように小さくする。例えばECU6は、上流制御ゲインGUeを、カウンタ値Cに対して比例的に小さくする。
ECU6は、第1実施形態のステップS15において、情報取得可能状態の上流制御ゲインGUnを設定する。情報取得可能状態の上流制御ゲインGUnは、例えば下流制御ゲインGLと等しい値である。
【0061】
このように上記タイミングの遅れを上流制御ゲインGUeの調整によって補償することにより、情報取得不能状態における上流ABS制御の応答性低下を抑制することができる。
車輪Wのロック傾向は上流ABS制御の継続時間が長くなるほど小さくなるため、これに応じて上流制御ゲインGUeを小さくすることにより、上流ABS制御における制動力の過応答を抑制することができる。
【0062】
本実施形態では、情報取得不能状態における上流制御ゲインGUeを、カウンタ値Cに基づいて設定するようにしたが、上流制御ゲインGUeを、上流ABS制御における減圧モードや保持モードや増圧モードへの移行回数に基づいて設定するようにしてもよい。各モードへの移行回数は、カウンタ値Cと同様に上流ABS制御の継続時間に相関する。
【0063】
本実施形態では、情報取得不能状態の上流制御ゲインGUeを、情報取得不能状態における上流ABS制御の継続時間に対して比例的に小さくするようにした。しかしながら、上流制御ゲインGUeを、上流ABS制御の継続時間に対して比例的ではない態様で小さくしてもよい。
例えば、上流制御ゲインGUeの減少幅を、上流ABS制御の継続時間が長くなるほど大きくしてもよい。この場合ECU6は、ステップS13において、例えば数式3によって上流制御ゲインGUeを算出することができる。ここでGUfは、情報取得不能状態の上流制御ゲインGUeの初期値であり、Cは第一実施形態のカウンタ値であり、β1は上流制御ゲインGUeを調整するための係数である。
(数3)
GUe(n)=GUe(n―1)-(GUf―GL)×C×β1
【0064】
本実施形態では、情報取得不能状態の上流制御ゲインGUeを、情報取得不能状態における上流ABS制御の継続時間に基づいて設定するようにした。
しかしながら、上流制御ゲインGUeを、例えば上流ABS制御における減圧モードや保持モードや増圧モードの実行周期(以下「モード実行周期」という)Paに基づいて可変設定するようにしてもよい。この場合ECU6は、第一実施形態のステップS13において、例えば数式4によって上流制御ゲインGUを算出することができる。ここで、Ptはモード実行周期Paの目標値であり、β2は上流制御ゲインGUeを調整するための係数である。
(数4)
GUe(n)=GUe(n―1)-(Pt-Pa)×β2
モード実行周期Paが長いほど上流ABS制御の制動力の応答速度が不足していることが、又モード実行周期Paが短いほど上流ABS制御の制動力の応答速度が過剰であることが考えられる。モード実行周期Paのその目標値Ptに対する相対的な長さやモード実行周期Paの絶対的な長さに応じて上流制御ゲインGUを調整することにより、上流ABS制御における制動力の応答速度の不足や過剰を抑制することができる。
【0065】
また、上流制御ゲインGUeを、情報取得不能状態の上流制御開始閾値THUeに応じて設定してもよい。例えば、上流制御ゲインGUeを、上流制御開始閾値THUeと下流制御開始閾値THLとの差が大きいほど、大きい値に設定してもよい。
上流制御開始閾値THUeを下流制御開始閾値THLよりも大きく設定することによる上流ABS制御の開始タイミングの遅れや、上流ABS制御における減圧モードや増圧モードへの移行タイミングの遅れを、上流制御ゲインGUeの調整によって好適に保証することができる。
【0066】
情報取得不能状態の上流制御ゲインGUeは、情報取得不能状態における上流ABS制御の実行期間の全期間において下流制御ゲインGLよりも大きくしてもよいし、一部期間において下流制御ゲインGLよりも大きく、残期間において情報取得可能状態の上流制御ゲインGU又は下流ゲインGLと等しくしてもよい。
【0067】
本実施形態では、情報取得不能状態の上流制御ゲインGUeを可変設定するようにしたが、上流制御ゲインGUeは一定値であってもよい。この場合ECU6は、ステップS13において上流制御ゲインGUeを所定値GU1に設定すればよい。所定値GU1は下流制御ゲインGLよりも大きい値である。
【0068】
上記した実施形態では、物理量をスリップ率としたが、実行する特定制御に応じて物理量を前後加速度、横加速度、ヨーレートや舵角としても良い。
【符号の説明】
【0069】
5…アクチュエータ(第二制動部)、6…ECU(第一制動部)、7…ECU(第二制動部)、16…通信線、12…マスタシリンダ(第一制動部)、15…倍力部(第一制動部)、100…液圧制動装置。