(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】立会要否判断方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/08 20120101AFI20240730BHJP
H02G 1/02 20060101ALI20240730BHJP
G01C 21/26 20060101ALI20240730BHJP
G09B 29/00 20060101ALI20240730BHJP
G09B 29/10 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
G06Q50/08
H02G1/02
G01C21/26 C
G09B29/00 A
G09B29/10 A
(21)【出願番号】P 2020187559
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】三浦 伸之
【審査官】三吉 翔子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-182667(JP,A)
【文献】特開2007-145518(JP,A)
【文献】特開平06-144787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
H02G 1/02
G01C 21/26
G09B 29/00
G09B 29/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺部材を備える重機を用いて、送電鉄塔に保持された送電線の周囲で実施される重機作業に対する立会の要否を判断する立会要否判断方法であって、
前記重機作業が実施される実施位置を、表示画面上に表示された地形図から選択して入力する実施位置入力工程と、
前記長尺部材の最大長を少なくとも含む重機データを、入力する重機データ入力工程と、
前記送電鉄塔における所望の鉛直高さ位置を鉛直方向の原点とした三次元座標において、前記送電線を中心としてその走行方向に沿って設定された干渉空間の範囲を示す既知の干渉空間範囲を取得する干渉空間範囲取得工程と、
取得された前記干渉空間範囲と、前記三次元座標における前記実施位置及び
前記重機の前記長尺部材が到達する範囲を反映する重機実施範囲を比較する比較工程と、
前記重機実施範囲が、
前記干渉空間範囲に含まれる場合に前記立会が必要であり、
前記干渉空間範囲に含まれない場合に前記立会が不要であると判断する判断工程と、
前記判断工程における判断結果が、少なくとも前記表示画面を介して通知される通知工程を備えることを特徴とする立会要否判断方法。
【請求項2】
前記重機は、前記長尺部材がクレーンジブであるクレーンであって、
前記重機データは、前記クレーンジブの前記最大長と、作業半径と、前記クレーンの設置面から前記クレーンジブの下端までの鉛直高さであることを特徴とする請求項1に記載の立会要否判断方法。
【請求項3】
前記表示画面として、前記重機作業に立ち会う立会者が閲覧する第1の画面と、前記重機作業を実施する実施者が閲覧する第2の画面が設置され、
前記第1及び第2の画面は、それぞれ、前記地形図及び前記実施位置に加えて、前記送電線の水平面上における平面位置からなる平面情報が表示され、
前記第1の画面は、前記平面情報に加えて、前記送電線の設置面からの鉛直高さを反映する等高線が表示されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の立会要否判断方法。
【請求項4】
前記第1の画面は、前記平面情報及び前記等高線に加えて、前記三次元座標上の水平面を、前記送電鉄塔の中心軸を中心に、所望の間隔で区画したグリッドが表示され、
前記第2の画面は、前記平面情報に加えて、前記グリッドが表示されることを特徴とする請求項3に記載の立会要否判断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電鉄塔に保持された送電線の周囲で実施される重機作業に対する立会の要否を判断する立会要否判断方法に係り、特に、重機作業の実施位置や重機が備える長尺部材の最大長等の情報に基づき、予め立会の要否を判断可能な立会要否判断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送電線の周囲でクレーンや杭打ち機といった長尺部材を有する重機を用いた重機作業を実施する際は、その実施位置や長尺部材の最大長について重機作業者から予め連絡を受けた後、電力会社の担当者が送電線の走行位置や地上高が記載された地形図を参照し、連絡された情報に基づいて立会の要否を判断していた。具体的には、連絡を受けた実施位置において、例えばクレーンのクレーンジブを最大に伸展させた場合に、その先端が送電線を中心とした安全距離に到達する可能性の有無を判断するものであった。
しかし、上記の方法では、重機作業が不定期に実施されることで地形図上の作業位置を特定することに手間がかかり、迅速な回答ができない場合があった。
また、立会要否の判断は、担当者の経験に左右されるため、複数の担当者間で判断結果にバラツキが生じる可能性もあった。
このような課題を解決するため、実際の重機作業中に、長尺部材と送電線の干渉を防止するための技術が開発されており、それに関して既に発明が開示されている。
【0003】
特許文献1には、「GPS利用無線式接近警報装置」という名称で、重機が送電線に接近すると、自動的に接近警報を発するGPSシステムを利用した警報装置に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示された発明は、クレーン等の重機が電線の所定の距離以内に接近したときに、警報信号を生成して無線送信するGPS測位装置及びその本体部と、本体部からの警報信号を受信して、この警報信号に基づき警報を発する受信警報手段を備えたことを特徴とする。
このような特徴を有する発明においては、作業用重機が送電線に一定の距離まで接近すると、リアルタイムで接近警報を自動的に発することができる。また、GPS測位装置を利用して作業用重機と送電線の距離を測定するため、測定誤差を極めて小さくすることができる。そのため、送電線接触事故の発生を確実に防止可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された発明においては、接近警報信号は、立会者が所有する携帯子機に対して送信されることから、立会者の存在を前提としたものである。そのため、現場での作業を実施した結果、そもそも立会は不要であったと判断される場合も考えられる。この場合、無駄な作業時間が発生することになる。また、GPS測位装置や、その測位データをやり取りする専用回路といった新規の機材が必要となるので、重機の改造のための手間やコストがかかる点で、導入し難い場合がある。
【0006】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたものであり、予め重機作業の立会要否を正確に判断可能にすることで、不要な立会による無駄を省くことができるとともに、パソコンやスマートフォン、タブレットといった通常保有されている機器を利用可能なために、導入コストを抑制可能な立会要否判断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、第1の発明は、長尺部材を備える重機を用いて、送電鉄塔に保持された送電線の周囲で実施される重機作業に対する立会の要否を判断する立会要否判断方法であって、重機作業が実施される実施位置を、表示画面上に表示された地形図から選択して入力する実施位置入力工程と、長尺部材の最大長を少なくとも含む重機データを、入力する重機データ入力工程と、送電鉄塔における所望の鉛直高さ位置を鉛直方向の原点とした三次元座標において、送電線を中心としてその走行方向に沿って設定された干渉空間の範囲を示す既知の干渉空間範囲を取得する干渉空間範囲取得工程と、取得された干渉空間範囲と、三次元座標における実施位置及び重機データを含む重機実施範囲を比較する比較工程と、重機実施範囲が、干渉空間範囲に含まれる場合に立会が必要であり、干渉空間範囲に含まれない場合に立会が不要であると判断する判断工程と、判断工程における判断結果が、少なくとも表示画面を介して通知される通知工程を備えることを特徴とする。
【0008】
このような構成の発明においては、重機として、例えば杭打ち機やクレーンが想定される。よって、重機データは、杭打ち機では、長尺部材の最大長のみであるが、クレーンでは長尺部材の最大長に加えて、その作業半径も含まれる。また、三次元座標における鉛直方向の座標軸に沿った原点の採り方によっては、重機データに、この原点から重機の設置面までの鉛直高さが含まれても良い。
また、三次元座標の3本の座標軸として、互いに直交するX軸、Y軸、Z軸が設定され、例えば、X軸は緯度、Y軸は経度、Z軸は標高に対応させて設定することができる。
【0009】
上記の場合では、予め表示画面におけるX軸、Y軸、Z軸上の離れた2点の間隔と、実際の距離を関連付ける比例定数がそれぞれ設定されていると、緯度1度当たりの距離と、経度1度当たりの距離が既知であるため、表示画面上で入力されるX軸、Y軸の各座標値で示される実施位置を、原点からの経度及び緯度の変位量に変換できる。また、原点における経度及び緯度の各値を予め外部データから得ておくことで、実施位置を緯度、経度に変換することができる。よって、外部データから、変換して得られた緯度、経度における標高を得ることができる。
【0010】
次に、重機データ入力工程において、入力される重機データは、重機が杭打ち機の場合、長尺部材の最大長である。また、重機がクレーンの場合、重機データには、長尺部材の最大長のほか、作業半径が含まれる。
よって、杭打ち機の場合、長尺部材の最大長は、杭打ち機を設置した設置面からの標高の変位量であるから、この変位量に実施位置における設置面の標高を加えることで、長尺部材の上端が到達する標高を得ることができる。
【0011】
また、クレーンの場合、長尺部材の最大長と、前述の緯度1度当たりの距離と、経度1度当たりの距離を用いて、作業半径で囲まれる範囲内の任意の平面座標位置を緯度、経度に変換できる。同時に、鉛直方向において、長尺部材の旋回中心から、長尺部材が到達するまでの距離を、鉛直方向軸に投影された長尺部材の長さに対応する標高の変位量とする。よって、この標高の変位量に、設置面の標高を加えることで、作業半径で囲まれる範囲内において、長尺部材の上端が到達する鉛直高さ位置が標高に変換される。
したがって、実施位置及び重機データと、緯度、経度及び標高を、相互に変換することができる。
【0012】
続いて、干渉空間範囲取得工程において、干渉空間範囲とは、例えば、送電鉄塔の中心軸における、標高がゼロメートルの鉛直高さ位置を鉛直方向の原点とした三次元座標において、送電線を中心としてその走行方向に沿って設定された干渉空間の範囲を示す既知の範囲である。具体的には、干渉空間範囲とは、送電線を中心としてその走行方向に沿った略円筒形状をなす空間である。また、干渉空間範囲の半径は、送電線を中心として設定される安全距離である。
さらに、干渉空間範囲は、三次元座標にプロット可能な数値の組み合わせとして、予め記憶部等によって記憶されている。上記数値の組み合わせとしては、例えば、緯度、経度、標高や、X軸上、Y軸上、Z軸上の各位置が考えられる。
したがって、以降の比較工程において、共通する三次元座標上において、重機実施範囲と干渉空間範囲を比較することができる。
【0013】
次に、判断工程においては、重機実施範囲と干渉空間範囲を比較した結果、これらが互いに重複する領域があると、重機実施範囲が干渉空間範囲に含まれると判断する。すなわち、判断工程においては、上記場合に、立会が必要であると判断し、干渉空間範囲に含まれない場合に立会が不要であると判断する。
そして、判断工程における立会の要否についての上記判断結果は、表示画面を介して文字や図形情報として通知されるほか、通知部が備えるスピーカーを介して警報音として通知される。
【0014】
次に、第2の発明は、第1の発明において、重機は、長尺部材がクレーンジブであるクレーンであって、重機データは、クレーンジブの最大長と、作業半径と、クレーンの設置面からクレーンジブの下端までの鉛直高さであることを特徴とする。
このような構成の発明においては、第1の発明の作用に加えて、上記のクレーンジブの最大長や作業半径等を考慮して、三次元座標上で、クレーンジブの先端が最大限到達する曲面である重機実施範囲を演算できる。すなわち、三次元座標にプロット可能な数値の組み合わせが演算される。
【0015】
さらに、第3の発明は、第1又は第2の発明において、表示画面として、重機作業に立ち会う立会者が閲覧する第1の画面と、重機作業を実施する実施者が閲覧する第2の画面が設置され、第1及び第2の画面は、それぞれ、地形図及び実施位置に加えて、送電線の水平面上における平面位置からなる平面情報が表示され、第1の画面は、平面情報に加えて、送電線の設置面からの鉛直高さを反映する等高線が表示されることを特徴とする。
【0016】
このような構成の発明においては、表示画面上で入力される実施位置及び重機データと、緯度、経度及び標高は、相互に変換することができるから、送電線の水平面上における平面位置を反映する緯度及び経度と、送電線の鉛直高さを反映する標高を等高線として、表示画面上に表示可能である。また、重機作業の実施位置も表示画面上に表示可能である。
上記構成の発明においては、第1又は第2の発明の作用に加えて、重機作業の実施位置と、送電線の平面位置が、第1及び第2の画面上で同時に視認される。
【0017】
そして、第4の発明は、第3の発明において、第1の画面は、平面情報及び等高線に加えて、三次元座標上の水平面を、送電鉄塔の中心軸を中心に、所望の間隔で区画したグリッドが表示され、第2の画面は、平面情報に加えて、グリッドが表示されることを特徴とする。
このような構成の発明においては、第3の発明の作用に加えて、第1及び第2の画面の双方において、三次元座標上の水平面を所望の間隔で区画したグリッドが表示されるため、立会者と重機作業を実施する実施者との間で、例えば、作業位置や送電線の走行位置について、グリッドを目安に意思疎通を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明によれば、比較工程において、送電線を中心として設定される安全距離を反映する干渉空間範囲と、重機作業の実施位置と重機の長尺部材が到達する範囲を反映する重機実施範囲を、数値を用いて比較できるので、判断工程において立会要否を正確に判断することができる。よって、不要な立会による無駄を省くことができる。
また、実施位置入力工程乃至通知工程は、パソコンやスマートフォン、タブレットといった通常保有されている機器を利用して実行することができ、新規な機器を導入する必要がないので、導入コストを抑制可能である。
【0019】
第2の発明によれば、第1の発明の効果に加えて、クレーンジブのドーム状の曲面をなす最大到達範囲を反映した数値が演算されるため、重機がクレーンの場合においても、精度の良好な立会要否判断を行うことができる。
【0020】
第3の発明によれば、第1又は第2の発明の効果に加えて、第1の画面のみに送電線の等高線が表示されるため、立会者は第1の画面を閲覧することで、詳細な情報を得ることができる。また、実施者は第2の画面を閲覧することで、重機作業の実施位置と、送電線の平面位置という最低限必要な情報を得ることができる。
【0021】
第4の発明によれば、第3の発明の効果に加えて、立会者と重機作業を実施する実施者との間で、グリッドを目安に意思疎通を図ることができるので、実施場所を迅速に把握し易くなるとともに、実施場所の入力ミスを発見し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施例に係る立会要否判断方法の実行に用いられる機器の構成図である。
【
図2】本発明の実施例に係る立会要否判断方法の工程図である。
【
図3】本発明の実施例に係る立会要否判断方法が実施される際の配置図であって、鉛直方向に沿った面から見た場合の側面図である。
【
図4】本発明の実施例に係る立会要否判断方法が実施される際の配置図であって、鉛直上方から見た場合の平面図である。
【
図5】本発明の実施例に係る立会要否判断方法のフロー図である。
【
図6】(a)及び(b)は、本発明の実施例に係る立会要否判断方法の判断結果を示す表示画面の一例であって、(a)は第1の画面であり、(b)は第2の画面である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0023】
まず、本発明の実施例に係る立会要否判断方法の実行に用いられる機器の構成について、
図1を用いて説明する。
図1は、本発明の実施例に係る立会要否判断方法の実行に用いられる機器の構成図である。
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る立会要否判断方法に用いられる機器1は、立会者が保有するパソコン2と、重機作業の実施者が保有するスマートフォン3からなる。パソコン2と、スマートフォン3は、ネットワーク4を介して無線通信可能に接続されている。
このうち、パソコン2は、制御部2aと、この制御部2aからの命令を受けて、それぞれ、演算を行う演算部2bと、外部との通信を行う通信部2cと、第1の画面2dと、記憶部2eを備える一般的なコンピュータである。
【0024】
また、スマートフォン3は、第2の画面3aのほか、図示しない制御部、通信部及び記憶部を備える。
よって、本発明の実施例に係る立会要否判断方法10は、
図2に示すステップS1の実施位置入力工程と、ステップS2の重機データ入力工程が、実施者により、スマートフォン3の第2の画面3aを用いて実行される。なお、これらの工程は、立会者により、第1の画面2dを用いて実行されても良い。
また、ステップS3の干渉空間範囲取得工程が制御部2aと記憶部2eによって実施され、ステップS4の比較工程が演算部2bによって実行される。さらに、ステップS5の判断工程が制御部2aによって実行され、ステップS6の通知工程は、パソコン2の第1の画面2dと、スマートフォン3の第2の画面3a上で実行される。なお、本実施例では、重機はクレーンである。
【0025】
次に、本発明の実施例に係る立会要否判断方法の工程について、
図2を用いて説明する。
図2は、本発明の実施例に係る立会要否判断方法の工程図である。
図2に示すように、立会要否判断方法10は、クレーンジブを備えるクレーンを用いて、送電鉄塔に保持された送電線の周囲で実施される重機作業に対する立会の要否を判断する立会要否判断方法であって、ステップS1の実施位置入力工程と、ステップS2の重機データ入力工程と、ステップS2-1の重機データ演算工程と、ステップS3の干渉範囲取得工程と、ステップS4の比較工程と、ステップS5の判断工程と、ステップS6の通知工程を備える。このうち、ステップS1の実施位置入力工程と、ステップS2の重機データ入力工程は、その順序が入れ替わっても良い。また、ステップS3の干渉範囲取得工程は、ステップS2-1の重機データ演算工程以前に実行されても良い。
【0026】
さらに、実施例に係る立会要否判断方法が実施される際の配置図について、
図3及び
図4を用いて説明する。
図3は、本発明の実施例に係る立会要否判断方法が実施される際の配置図であって、鉛直方向に沿った面から見た場合の側面図である。
図4は、本発明の実施例に係る立会要否判断方法が実施される際の配置図であって、鉛直上方から見た場合の平面図である。
図3及び
図4に示すように、三次元座標の3本の座標軸として、例えば、原点Oを通り、かつ互いに直交するX軸、Y軸、Z軸が設定され、このうち、一の水平座標軸(例えばX軸)は経線に沿って設定され、二の水平座標軸(例えばY軸)は緯線に沿って設定され、さらに鉛直座標軸(Z軸)は、標高に沿って設定される。なお、Z軸は、送電鉄塔における鉛直高さ方向に沿った中心軸と一致している。よって、X軸の値は緯度を反映し、Y軸の値は経度を反映し、さらにZ軸の値は標高を反映する。
【0027】
また、
図3に示すように、鉛直方向を示すZ軸における原点Oは、送電鉄塔における所望の鉛直高さ位置に設定される。この所望の鉛直高さ位置として、例えば、標高ゼロメートルが選択される。
さらに、
図4に示すように、X軸及びY軸における原点Oの位置を示す緯度及び経度の値は、公知の地形データから得ることができる。よって、三次元座標の原点Oでは、緯度、経度の各値がゼロではないが、標高の値はゼロである。
したがって、三次元座標における原点Oは、地形データから得られた緯度及び経度と、標高ゼロメートルの組み合わせとしてパソコン2の制御部2aによって認識され、この制御部2aからの命令を受けて記憶部2eやネットワーク4を介したサーバーによって記憶される。
【0028】
なお、
図3及び
図4において、符号Eは、送電鉄塔の設置面の標高であり、送電鉄塔の中心軸上の標高である。また、符号Hは、送電鉄塔の設置面から送電線52までの標高である。
さらに、符号Lは送電線52を中心に設定された安全距離であり、符号S
pは安全距離Lの一端が描く略円筒状の曲面である。
そして、点Pはクレーン50の実施位置であり、点Qは下端51aと、上端51bを備えるクレーンジブ51が、旋回軸T
Cを中心に作業半径rで旋回する旋回中心である。
また、符号E
cは、クレーン50が設置される設置面の標高である。また、符号h
gは、クレーン50の設置面から旋回中心Qまでの距離である。さらに、符号hはクレーンジブ51の最大長であり、符号S
cはクレーンジブ51が旋回する際に、その上端51bが到達するドーム状の曲面である。
【0029】
次に、立会要否判断方法10における演算方法について、
図5を用いて説明する。
図5は、本発明の実施例に係る立会要否判断方法のフロー図である。
図5に示すように、ステップS1の実施位置入力工程においては、重機作業が実施される実施位置P(a,b)(aはX軸上の座標値、bはY軸上の座標値)を、第2の画面3a上に表示された地形図(図示せず)から選択して入力する。
なお、制御部2aにより、予め、第1の画面2dと、第2の画面3aにおけるX軸、Y軸、Z軸上の離れた2点の間隔、すなわち各座標値の変位量を、それぞれ実際の距離と関連付ける比例定数が設定されている。また、緯度1度当たりの距離L
1と、経度1度当たりの距離L
2がそれぞれ既知である。よって、演算部2bにおいて、実施位置Pの座標値(a,b)を、原点OからのX軸方向の距離の変位量及びY軸方向の距離の変位量に変換し、さらに、原点Oからの緯度の変位量及び経度の変位量にそれぞれ変換できる。
【0030】
また、原点Oは、制御部2aによって、地形データから得られた緯度及び経度と、標高ゼロメートルの組み合わせとして認識されているから、演算部2bにおいて、実施位置P(a,b)(aはX軸上の座標値、bはY軸上の座標値)を、実施位置P(La,Lo)(Laは緯度、Loは経度)に変換することができる。
よって、制御部2aは、実施位置P(La,Lo)におけるクレーン50の設置面の標高Ecを、ネットワーク4を介し、例えば国土地理院が作成した外部データから得て、記憶部2eに記憶させることができる。
【0031】
続いて、ステップS2の重機データ入力工程において、重機作業の実施者が、クレーン50が備えるクレーンジブ51の最大長hと、作業半径rと、クレーン50の設置面からクレーンジブ51の下端51aまでの鉛直高さhgからなる重機データを、第2の画面3aを介して入力する。
また、前述のとおり、ステップS2の重機データ入力工程の直後には、ステップS2-1の重機データ演算工程が、演算部2bによって実行される。
このステップS2-1の重機データ演算工程においては、演算部2bは、実施位置Pと、最大長hと、作業半径rと、鉛直高さhgを用いて、旋回中心Qを中心として旋回するクレーンジブ51の上端51bが移動する曲面Scを演算する。
【0032】
この曲面Scは、重機作業範囲であって、曲面Scを示す緯度、経度及び標高からなる1組の数値群が複数組含まれてなる。詳細には、重機作業範囲(xn,yn,zn)は、X-Y面上における所望の大きさの微小面積要素毎に演算された緯度、経度の組み合わせ(xn,yn)(nは、X-Y面上に投影された曲面Scの面積を所望の微小面積要素の面積で除した自然数)と、この緯度、経度の組み合わせ(xn,yn)に対する曲面Sc上の標高(zn)からなる数値群である。
よって、ステップS2-1の重機データ演算工程においては、送電鉄塔の中心軸上で、標高がゼロメートルの鉛直高さ位置を鉛直方向の原点とした三次元座標における実施位置及び重機データが演算される。
【0033】
詳細には、演算部2bは、最大長hと、緯度1度当たりの距離L1と、経度1度当たりの距離L2を用いて、作業半径rで囲まれる範囲内、すなわち曲面Scに含まれるX軸、Y軸、Z軸の各座標値のうち、X軸、Y軸の座標値をそれぞれ緯度、経度に変換する。なお、距離L1、L2は,いずれも予め記憶部2eに記憶されている。
同時に、演算部2bは、旋回中心Qから、曲面Sc上のX軸、Y軸の座標値に対応するZ軸の座標値までの距離を、Z軸に投影されたクレーンジブ51の長さに対応する標高の変位量とする。よって、この標高の変位量に、クレーン50の設置面の標高Ecと、クレーン50の設置面から旋回中心Qまでの標高hgを加えることで、作業半径rで囲まれる範囲内において、クレーンジブ51の上端51bが到達するZ軸における鉛直高さ位置が標高に変換される。
したがって、演算部2bにおいて、曲面Scを示す重機実施範囲(xn,yn,zn)が演算され、記憶部2eにおいて記憶される。
【0034】
次に、ステップS3の干渉空間範囲取得工程においては、予め、記憶部2eまたはネットワーク4上のサーバー(図示せず)によって記憶されている既知の干渉空間範囲が、制御部2aによって取得され、演算部2bに読み込まれる。
この干渉空間範囲とは、送電鉄塔の中心軸における、標高がゼロメートルの鉛直高さ位置を鉛直方向の原点とした三次元座標において、送電線52を中心としてその走行方向に沿って設定された干渉空間の範囲を示す既知の範囲であり、予め三次元座標上で送電線52の走行方向を演算または実測して得られたものである。
具体的には、干渉空間範囲とは、送電線52と、この送電線52を中心としてその走行方向に沿って設定された半径L(Lは安全距離)の干渉空間の曲面Spであって、曲面Spを示す緯度、経度及び標高からなる1組の数値群が複数組含まれてなる。詳細には、干渉空間範囲は、X-Y面上における所望の大きさの微小面積要素毎に演算された緯度、経度の組み合わせ(Xm,Ym)(mは、X-Y面上に投影された曲面Spの面積を所望の微小面積要素の面積で除した自然数)と、この緯度、経度の組み合わせ(Xm,Ym)に対する曲面Sp上の標高(Zm)からなる数値群である。
したがって、制御部2aによって、重機実施範囲が認識され、かつ干渉空間範囲が認識されると、以降のステップS4の比較工程において、共通する三次元座標上で重機実施範囲と干渉空間範囲を比較することができる。
【0035】
ステップS4の比較工程においては、三次元座標における干渉空間範囲(X
m,Y
m,Z
m)と、三次元座標における実施位置P及び重機データを含む重機実施範囲(x
n,y
n,z
n)を比較する。具体的には、例えば、以下の(1)、(2)についての比較を行う。
(1)
図4に示すように、干渉空間範囲の送電線52の走行方向に沿った数値群のうち、X軸上の最大値|X
max|と、Y=0で表される点A
1と、X=0と、Y軸上の最大値|Y
max|で表される点A
2を通る直線L
P1に対してクレーンジブ51の旋回中心Qから下した垂線の最短距離D
minと、作業半径rとの比較を行う。なお、最短距離D
minを演算する方法は、演算部2bにより、例えば、公知の方法を用いて演算される。
(2)
図3に示すように、干渉空間範囲のZ軸方向の最小値Z
minと、重機実施範囲のZ軸方向の最大値z
maxの比較を行う。
【0036】
次に、ステップS5の判断工程において、制御部2aは、(1)において垂線の最短距離D
min≦作業半径rであり、かつ(2)において干渉空間範囲の最小値Z
min≦重機実施範囲の最大値z
maxの場合に限り、重機実施範囲と、干渉空間範囲の重複部分S(
図4の斜線部)が存在するから、重機実施範囲が干渉空間範囲に含まれると判断する。すなわち、ステップS5の判断工程においては、上記場合に、立会が必要であると判断し、干渉空間範囲に含まれない場合に立会が不要であると判断する。
そして、ステップS5の判断工程における立会の要否についての上記判断結果は、ステップS6の通知工程において、第1の画面2dと第2の画面3aを介して文字や図形情報として通知されるほか、パソコン2やスマートフォン3がそれぞれ備えるスピーカーを介して警報音として通知される。
【0037】
続いて、立会要否判断方法の判断結果について、
図6を用いて説明する。
図6(a)及び
図6(b)は、本発明の実施例に係る立会要否判断方法の判断結果を示す表示画面の一例であって、
図6(a)は第1の画面であり、
図6(b)は第2の画面である。なお、
図1乃至
図5で示した構成要素については、
図6においても同一の符号を付して、その説明を省略する。
図6(a)に示すように、第1の画面2dは、立会の有無を示す判断結果と、地形図と、丸印で示す実施位置Pに加えて、送電線52の水平面上における平面位置からなる平面情報と、三次元座標上の水平面、すなわちX-Y面を、内部にバツ印を備える正方形の印で表示された送電鉄塔の中心軸を中心に、所望の間隔で区画したグリッドGが表示される。
【0038】
このうち、平面情報とは、記憶部2eに記憶された送電線52の走行位置(X
L,Y
L,Z
L)に関する情報と一点鎖線で示す干渉空間範囲(X
m,Y
m,Z
m)の境界に関する情報である。この境界は、
図4で示す点A
1と点A
2を通る直線L
p1と、X軸上の最小値|X
min|とY=0で表される点A
3と、X=0とY軸上の最小値|Y
min|で表される点A
4とを直線L
P2である。なお、直線L
p1と、直線L
P2は、X-Y平面において、互いに平行である。
また、第1の画面2dは、上記の平面情報に加えて、送電線52の設置面からの鉛直高さを反映する等高線(破線)が表示される。詳細には、ステップS6の通知工程において、所望の送電線52の設置面からの鉛直高さH(例えば、31m、34m、39m)を第1の画面2dを介して入力すると、制御部2aが、記憶部2eに記憶された送電線52の走行位置(X
L,Y
L,Z
L)のうちから、鉛直高さHに送電鉄塔の設置面の標高Eを加えた標高値Z
L´を抽出する。そして、制御部2aは、抽出した標高値Z
L´に対応する経度Y
Lを有するY軸上の1点を選び、これをX軸に対して平行に連続表示させて、等高線とする。
【0039】
さらに、グリッドGは、合計35個の格子状に区画され、各格子は行方向に沿った符号1~5と、列方向に沿った符号A~Gが付されている。この場合、グリッドの間隔は、第1の画面2d上で、例えば、20メートルといった具体的な数値を入力すると、演算部2bにおいて、X軸とY軸の座標値の変位量をそれぞれ実際の距離と関連付ける比例定数によって、距離を示す数値がX軸とY軸の座標値の変位量に変換される。そのため、制御部2aは、原点Oを中心として、変換された変位量毎にX軸とY軸にそれぞれ平行な複数本の直線を表示する。
また、
図6(b)に示すように、第2の画面3aにおいては、送電線52の等高線が表示されない以外、第1の画面2dと同様のものが表示される。
【0040】
以上説明したように、立会要否判断方法10によれば、干渉空間範囲が緯度、経度及び標高で表示されるとともに、ステップS2-1の重機データ演算工程において、重機実施範囲を緯度、経度及び標高で表示することができるので、送電鉄塔の設置面の標高と、クレーン50の設置面の標高が異なる場合でも、干渉空間範囲と、重機実施範囲を共通の三次元座標上にプロットすることができる。
よって、ステップS4の比較工程において、干渉空間範囲と重機実施範囲を、緯度、経度及び標高を用いて比較できるため、ステップS5の判断工程において立会要否を正確に判断することができる。よって、不要な立会による無駄を省くことができる。
また、ステップS1の実施位置入力工程乃至ステップS6の通知工程は、パソコンやスマートフォン、タブレットといった通常保有されている機器を利用して実行することができ、新規な機器を導入する必要がないので、導入コストを抑制可能である。
【0041】
さらに、立会要否判断方法10によれば、クレーンジブ51の曲面Scをなす上端51bの最大到達範囲を反映した標高が演算されるため、重機がクレーン50の場合であっても、精度の良好な立会要否判断を行うことができる。加えて、上端51bの最大到達範囲を反映した標高は、クレーン50の設置面の標高Ecと、クレーン50の設置面から旋回中心Qまでの標高hgを含んでいることから、一層正確な立会要否判断を行うことができる。
加えて、ステップS6の通知工程によれば、第1の画面2dのみに送電線52の等高線が表示されるため、立会者は第1の画面2dを閲覧することで、詳細な情報を得ることができる。また、実施者は第2の画面3aを閲覧することで、実施位置Pと、送電線52の平面位置という最低限必要な情報を得ることができる。
また、ステップS6の通知工程によれば、立会者と重機作業を実施する実施者との間で、グリッドGを目安に意思疎通を図ることができる。そのため、双方の利便性を向上させることができる。よって、立会者と実施者が、実施位置Pを迅速に把握し易くなるとともに、実施位置Pの入力ミスを発見し易くなる。したがって、クレーン50と送電線52との接触事故を未然に防止できる。
【0042】
本発明に係る立会要否判断方法は、実施例に示すものに限定されない。例えば、送電鉄塔の設置面の標高と、クレーン50の設置面の標高が等しい場合は、三次元座標のZ軸の原点は、送電鉄塔の設置面に設定し、かつ座標値は、緯度、経度、標高に変換されることなく、それぞれ距離に変換されて演算されても良い。
また、重機が杭打ち機の場合は、クレーンジブ51の上端51bが移動可能な曲面Scを演算する必要がないことから、ステップS2-1の重機データ演算工程は省略される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、長尺部材を備えるクレーンや杭打ち機を用いて、送電鉄塔に保持された送電線の周囲で実施される重機作業に対する立会の要否を判断する立会要否判断方法として利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…機器 2…パソコン 2a…制御部 2b…演算部 2c…通信部 2d…第1の画面 2e…記憶部 3…スマートフォン 3a…第2の画面 4…ネットワーク 10…立会要否判断方法 S1…実施位置入力工程 S2…重機データ入力工程 S2-1…重機データ演算工程 S3…干渉空間範囲取得工程 S4…比較工程 S5…判断工程 S6…通知工程 50…クレーン 51…クレーンジブ 51a…下端 51b…上端 52…送電線 G…グリッド L…安全距離 P…実施位置 Q…旋回中心