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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】バラスト水処理装置
(51)【国際特許分類】
   B63B 13/00 20060101AFI20240730BHJP
   C02F 1/32 20230101ALI20240730BHJP
【FI】
B63B13/00 Z
C02F1/32
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020191476
(22)【出願日】2020-11-18
(65)【公開番号】P2022080418
(43)【公開日】2022-05-30
【審査請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 敦行
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-094504(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0134861(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 13/00
C02F 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流通するバラスト水を浄化処理するバラスト水処理装置であって、
紫外線を照射することで前記バラスト水に含まれる微生物を殺滅処理する紫外線リアクタと、
少なくとも第1モードと第2モードの2つの運転モードによって前記バラスト水処理装置を制御する制御手段を備え、
前記第1モードと前記第2モードにはそれぞれ、前記バラスト水に照射する目標紫外線照射量と、前記殺滅処理後の前記バラスト水をバラストタンクに保持しておく必要のある時間であるタンク保持時間とが設定されており、
前記第2モードの前記目標紫外線照射量は前記第1モードの前記目標紫外線照射量よりも少なく、前記第2モードの前記タンク保持時間は前記第1モードの前記タンク保持時間よりも長い、バラスト水処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバラスト水処理装置であって、
前記流通するバラスト水の処理流量を調整する流量調整手段と、
前記流通するバラスト水の紫外線透過率を取得する透過率取得手段とを備え、
前記紫外線リアクタは、出力を調整可能とされ、
前記制御手段は、前記紫外線リアクタの出力、前記バラスト水の処理流量、及び前記バラスト水の紫外線透過率によって推定される前記バラスト水への紫外線照射量が、前記目標紫外線照射量以上になるよう、前記紫外線リアクタの出力と前記バラスト水の処理流量を制御する、バラスト水処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載のバラスト水処理装置であって、
前記制御手段は、前記紫外線透過率が前記第1モードによって浄化処理可能な下限透過率以下の場合には、適切な運転モードは前記第2モードであると判定する、バラスト水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線リアクタを備えたバラスト水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タンカー等の船舶は、積み荷の原油等を降ろした後、再度目的地に向けて航行する際、航行中の船舶のバランスを取るため、通常、バラスト水と呼ばれる水をバラストタンク内に貯留する。このような船舶には、バラスト水の注排水による生態系の破壊を防ぐため、バラスト水を浄化処理するバラスト水処理装置が設けられている。
【0003】
バラスト水処理装置の一種として、紫外線リアクタを備え、バラスト水中の微生物を紫外線を照射することによって殺滅するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-227063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このようなバラスト水処理装置は、水質に応じて例えば紫外線リアクタの出力や処理流量等を調節することで、バラスト水への必要な紫外線照射量(目標紫外線照射量)を確保している。しかしながら、水質が悪く、例えば紫外線リアクタの出力を最大にし且つ処理流量を最小限に絞っても必要な紫外線照射量が確保できない場合には、浄化処理を行うことができなかった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、水質が悪い水域であっても、バラスト水の浄化処理を行うことの可能なバラスト水処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、流通するバラスト水を浄化処理するバラスト水処理装置であって、紫外線を照射することで前記バラスト水に含まれる微生物を殺滅処理する紫外線リアクタと、少なくとも第1モードと第2モードの2つの運転モードによって前記バラスト水処理装置を制御する制御手段を備え、前記第1モードと前記第2モードにはそれぞれ、前記バラスト水に照射する目標紫外線照射量と、処理後の前記バラスト水をバラストタンクに保持しておく必要のある時間であるタンク保持時間とが設定されており、前記第2モードの前記目標紫外線照射量は前記第1モードの前記目標紫外線照射量よりも少なく、前記第2モードの前記タンク保持時間は前記第1モードの前記タンク保持時間よりも長い、バラスト水処理装置が提供される。
【0008】
本発明者らは、バラスト水への紫外線照射量が少ないため紫外線リアクタの照射直後には微生物が死滅しない場合であっても、紫外線が照射された微生物はその後徐々に弱っていき、バラスト水がバラストタンクに貯留されている間に死滅していくという知見に基づき、紫外線照射量に対応するタンク保持時間を設定し、当該タンク保持時間を経過するまで貯留したバラスト水をバラストタンクから排出しないようにした。つまり、本発明によれば、紫外線照射量が少ない場合にはタンク保持時間が長くなるよう設定することにより、例えば水質が悪い等の理由で紫外線照射量を十分に確保できない場合であっても、バラスト水の浄化処理を行うことが可能となる。また船舶の運航上、早い出航が必要な場合は、タンク保持時間が短いモードを設定することが好ましいが、このモードであってもバラスト水の浄化処理を行うことができる。
【0009】
以下、本発明の種々の実施形態を例示する。以下に示す実施形態は互いに組み合わせ可能である。
【0010】
好ましくは、前記流通するバラスト水の処理流量を調整する流量調整手段と、前記流通するバラスト水の紫外線透過率を取得する透過率取得手段とを備え、前記紫外線リアクタは、出力を調整可能とされ、前記制御手段は、前記紫外線リアクタの出力、前記バラスト水の処理流量、及び前記バラスト水の紫外線透過率によって推定される前記バラスト水への紫外線照射量が、前記目標紫外線照射量以上になるよう、前記紫外線リアクタの出力と前記バラスト水の処理流量を制御する。
【0011】
好ましくは、前記制御手段は、前記紫外線透過率が第1モードによって浄化処理可能な下限透過率以下の場合には、適切な運転モードは前記第2モードであると判定する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るバラスト水処理装置10及びこれを船舶のバラスト装置1に導入した様子を示す概念図である。
図2図1のバラスト水処理装置10の主要構成を示すブロック図である。
図3】第1モードM1及び第2モードM2のそれぞれにおいて規定される、紫外線透過率と処理流量及び紫外線リアクタ12の出力との関係を示すグラフである。
図4】タンク保持時間と目標紫外線照射量の関係を示すグラフである。
図5】紫外線透過率と目標紫外線照射量の関係を示すグラフである。
図6図1のバラスト水処理装置10が適切な運転モードを判定するアルゴリズムを示すフローチャートである。
図7図1のバラスト装置1のバラスト動作時の流路を示す図である。
図8図1のバラスト装置1のデバラスト動作時の流路を示す図である。
図9図1のバラスト装置1の予備運転時の流路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、各特徴について独立して発明が成立する。
【0014】
1.バラスト装置1の構成
図1は、本発明の実施形態に係る液体処理装置としてのバラスト水処理装置10を、船舶のバラスト装置1に導入した様子を示す概略図である。本願のバラスト装置1は、バラストタンク2及びバラストポンプ3を備え、バラストポンプ3によりバラストタンク2に対してバラスト水の注排水を行うものである。なお、海水等の船外の水をシーチェストSC1から船内に取り込んで複数のバラストタンク2に注水を行う動作をバラスト動作、バラストタンク2に貯留されたバラスト水を船外排出口SC2から排水する動作をデバラスト動作と呼ぶ。また、本明細書における「バラスト水」について、バラストタンク2に導入(流入)される前又はバラストタンク2から排出(流出)された後に拘わらず、船内に取り込まれた水を全て「バラスト水」と表現する。また、船内に取り込むバラスト水には、海水、淡水、汽水等が含まれるものとする。
【0015】
図1に示すように、バラスト装置1は、各構成要素を接続してバラスト水を流通させるラインLa~ラインLeと、これらのライン上に設けられる開閉弁Va~開閉弁Vfとを備える。ここで、「ライン」とは、流路、経路、管路等の流体の流通が可能なラインの総称である。
【0016】
各ラインの接続関係を具体的に説明すると、ラインLaは、シーチェストSC1とバラストポンプ3を接続するラインであり、開閉弁Vaを有する。ラインLb及びラインLcは、バラストポンプ3とバラストタンク2を接続するラインである。バラスト水処理装置10がバラストポンプ3とバラストタンク2の間に配置されるため、バラスト水処理装置10よりも上流側をラインLb、バラスト水処理装置10よりも下流側をラインLcとしている。ラインLbは、開閉弁Vbを有し、ラインLcは、開閉弁Vc及び開閉弁Vdを有する。ラインLa~ラインLcを合わせて、バラストラインとも称する。
【0017】
ラインLdは、一端が開閉弁Vaとバラストポンプ3の間の位置においてラインLaと接続され、他端が開閉弁Vcよりもバラストタンク2側においてラインLcと接続される。ラインLdには、開閉弁Veが設置される。ラインLdは、デバラスト動作時に使用されるラインであり、デバラストラインとも称する。ラインLeは、一端がバラスト水処理装置10と開閉弁Vcの間の位置においてラインLcと接続され、他端は船外排出口SC2と接続される。ラインLeには、開閉弁Vfが設置される。
【0018】
なお、上述したバラスト装置1の構成は、本発明に係るバラスト水処理装置10を導入する対象であるバラスト装置の一例を示したに過ぎず、以下に説明するバラスト水処理装置10は、任意の構成のバラスト装置に適用することが可能である。
【0019】
2.バラスト水処理装置10の構成
次に、バラスト水処理装置10の構成を説明する。バラスト水処理装置10は、船内に取り込むバラスト水及び船内から排出するバラスト水を処理してバラスト水中に含まれる微生物・異物の含有量を低減するために導入されるものである。本実施形態のバラスト水処理装置10は、図1に示すように、バラストポンプ3とバラストタンク2(あるいは船外排出口SC2)の間に設けられる。ここで、バラスト水処理装置10の流路について、ラインLbと接続されるバラストポンプ3側の接続部を上流側接続部P1、ラインLcと接続されるバラストタンク2側の接続部を下流側接続部P2とする。
【0020】
本実施形態のバラスト水処理装置10は、浄化手段として、フィルタによりバラスト水を濾過処理する濾過装置11と、バラスト水に紫外線を照射して微生物を殺菌処理する紫外線リアクタ12とを備える。また、バラスト水処理装置10は、図2に示すように、流量計13と、紫外線センサ14と、入力装置15と、透過率取得手段16と、制御手段17と、判定結果出力手段18とを備える。なお、濾過装置11は既知の任意の構成を適用することができ、また、濾過装置11を省略することもできる。
【0021】
加えて、バラスト水処理装置10は、図1に示すように、各構成要素を接続してバラスト水を流通させる第1ラインL1~第5ラインL5と、これらに設置される開閉弁V1~V4と、流量調整手段としての流量調整弁FCVとを備える。
【0022】
第1ラインL1は、浄化手段(濾過装置11及び紫外線リアクタ12)をバイパスして上流側接続部P1と下流側接続部P2を接続するライン(バイパスライン)であり、開閉弁V1を有する。第2ラインL2は、第1ラインL1と濾過装置11とを接続するラインであり、開閉弁V2を有する。第3ラインL3は、濾過装置11と紫外線リアクタ12とを接続するラインであり、開閉弁V3を有する。また、第4ラインL4は、一端が第1ラインL1の第2ラインL2との接続位置よりも下流側の位置であって開閉弁V1よりは上流側の位置に接続され、他端が第3ラインL3の開閉弁V3よりも下流側の位置に接続される。第4ラインL4は開閉弁V4を有する。第5ラインL5は、一端が紫外線リアクタ12に接続され、他端が第1ラインL1の開閉弁V1よりも下流側の位置に接続される。第5ラインL5には、流量計13と、開度調整の可能な流量調整弁FCVとが設けられる(図2も参照)。
【0023】
紫外線リアクタ12は、図示しない処理槽の内部に複数本の紫外線ランプ12a(図2参照)が配置されて構成される。紫外線リアクタ12は、処理槽内を流通するバラスト水に対し、紫外線ランプ12aにより紫外線を照射して微生物を殺菌処理するものである。本実施形態の紫外線リアクタ12は、各紫外線ランプ12aのオンオフ及び/又は供給する電力を制御することで、バラスト水へ照射する紫外線の強度を調整可能となっている。
【0024】
流量計13は、紫外線リアクタ12を流通するバラスト水の流量を計測するものである。本実施形態において、流量計13は第5ラインL5に設けられているが、紫外線リアクタ12による殺滅処理を行う際のバラスト水の流路上であれば、他の位置に設けられていても良い。流量計13及び上述した流量調整弁FCVの開度調整により、バラスト水処理装置10を流通するバラスト水の流量(以下、処理流量と呼ぶ)を調整することが可能となる。
【0025】
紫外線センサ14は、紫外線リアクタ12に設置され、紫外線ランプ12aからの紫外線の照度を、バラスト水を介して測定するものである。
【0026】
入力装置15は、船員等のユーザから各種入力を受け付ける装置である。入力装置15の例としては、パーソナルコンピュータ等の情報処理装置に接続されたマウス、キーボードあるいはタッチパネルによる入力が可能なディスプレイ、さらには、音声入力装置等が挙げられる。ただし、ユーザから各種入力を受け取ることが可能であれば、任意のデバイスを用いることができる。ここで、ユーザから受け付ける各種入力とは、船舶の現在位置の情報、貯留する必要のあるバラスト水の総量の情報、船舶の航行先(目的地)の情報、船舶が入港してから出港するまでの時間の情報、停泊中の船舶が出港してから航行先に入港するまでの(予想)時間の情報等である。
【0027】
なお、停泊中の船舶が出港してから航行先に入港するまでの時間からは、処理後のバラスト水をバラストタンク2に貯留してから排出するまでの許容排出時間を算出することができる。したがって、本実施形態の入力装置15は、紫外線リアクタ12による処理後のバラスト水をバラストタンク2に貯留してから排出するまでの許容排出時間を取得する許容排出時間取得手段として機能する。なお、許容排出時間は、船舶の次の港までの航行時間が長ければ影響は少ない一方、次の港までの航行時間が短ければ、後述するタンク保持時間との関係で港についてもバラスト水を排出して荷役をすることができないという問題が生じるため重要である。入力装置15は、バラスト装置1の動作を制御するバラストコントローラに設置されることが好適である。
【0028】
透過率取得手段16は、紫外線リアクタ12を流通するバラスト水の紫外線透過率を取得するものである。本実施形態において、透過率取得手段16はバラスト水の紫外線透過率を計測可能な透過率測定センサである。透過率測定センサは、バラスト水処理装置10におけるバラスト水の流路上に設ける必要はなく、船舶における海水の取り込みが容易な任意の位置に設置される。
【0029】
制御手段17は、上述した開閉弁Va~Vf、開閉弁V1~V4及び流量調整弁FCVの開閉を制御することにより、バラスト水処理装置10内を流通するバラスト水の流量(処理流量)を調整する。また、制御手段17は、紫外線リアクタ12の出力(紫外線ランプ12aの出力)を制御する。
【0030】
制御手段17は、具体的には、図2に示すように、情報取得部70と、記憶部71と、判定部72と、動作制御部73とを備える。
【0031】
情報取得部70は、流量計13から流通するバラスト水の流量を取得し、入力装置15に入力された船員からの各種入力を取得し、透過率取得手段16からバラスト水の紫外線透過率を取得する。
【0032】
記憶部71は、各種データを記憶する機能を有する。記憶部71は、後述する第1モードM1と第2モードM2のそれぞれにおいて紫外線透過率ごとに規定される処理流量を記憶する。また、記憶部71は、第1モードM1の目標紫外線照射量D1及び第2モードM2の目標紫外線照射量D2を記憶する。加えて、記憶部71は、後述する第1モードM1のタンク保持時間T1及び第2モードM2のタンク保持時間T2を記憶する。
【0033】
判定部72は、情報取得部70が取得した情報と記憶部71に記憶された情報とから、適切な運転モードを判定する。
【0034】
動作制御部73は、第1モードM1又は第2モードM2により、流量調整弁FCVの開度及び紫外線リアクタ12の紫外線ランプ12aの強度を制御する。
【0035】
なお、上記構成の制御手段17は、具体的には例えば、CPU、メモリ(例えばフラッシュメモリ)、入力部及び出力部を備えた情報処理装置により構成することができる。そして、情報処理装置により構成された制御手段17の上述した各構成要素による処理は、メモリに記憶されたプログラムをCPUが読み出して実行することで行われる。情報処理装置としては、例えば、パーソナルコンピュータ、PLC(プログラマラブルロジックコントローラ)あるいはマイコンが用いられる。ただし、制御手段17の一部の機能を、任意の通信手段により接続されたクラウド上で実行されるよう構成しても良い。
【0036】
そして、上記構成の制御手段17は、バラスト水の処理流量と紫外線リアクタ12の出力を制御することで、流通するバラスト水に対する紫外線照射量を調整するよう構成されている。紫外線照射量は、紫外線リアクタ12の出力と、流量調整弁FCVの制御により調整され流量計13により計測されるバラスト水の処理流量と、透過率取得手段16により取得されるバラスト水の紫外線透過率とに基づいて推定される、単位流量あたりのバラスト水への紫外線の照射量である。
【0037】
具体的には、紫外線リアクタ12の出力が高いと紫外線照射量は多くなり、紫外線リアクタ12の出力が低いと紫外線照射量は少なくなる。また、処理流量が多いと紫外線照射量は少なくなり、処理流量が少ないと紫外線照射量は多くなる。さらに、バラスト水の紫外線透過率が高いと紫外線照射量は多くなり、バラスト水の紫外線透過率が低いと紫外線照射量は少なくなる。まとめると、紫外線照射量は、紫外線リアクタ12の出力及びバラスト水の紫外線透過率に比例し、バラスト水の流量に反比例する。なお、これを定式化すると、紫外線照射量=k×紫外線リアクタの出力×紫外線透過率/処理流量(ただし、kは定数)となる。
【0038】
判定結果出力手段18は、制御手段17の判定部72が判定した適切な運転モードをユーザに提示するためのものである。判定結果出力手段18としては、例えばディスプレイ等の表示装置が用いられる。入力装置15がディスプレイを備える場合は、これを共用することも好適である。
【0039】
3.バラスト水処理装置10の動作
本実施形態のバラスト水処理装置10において、制御手段17は、第1モードM1及び第2モードM2の2つの運転モードを備えている。バラスト水処理装置10は、バラスト動作において実行されるバラスト水の浄化処理の際、まず、制御手段17がモード判定工程によって適切な運転モードを判定した後、判定した運転モードを選択することにより、浄化工程が実行される。
【0040】
本実施形態において、第1モードM1と第2モードM2にはそれぞれ、目標紫外線照射量D1,D2が設定されている。そして、各運転モードには、紫外線照射量が目標紫外線照射量D1,D2以上になるよう、紫外線透過率に応じた(紫外線透過率ごとの)バラスト水の処理流量及び紫外線リアクタ12の出力が設定されている(図3参照)。加えて、第1モードM1と第2モードM2にはそれぞれ、処理後のバラスト水をバラストタンク2に保持しておく必要のある時間であるタンク保持時間T1,T2とが設定されている。
【0041】
目標紫外線照射量D1,D2は、バラスト水中の微生物を紫外線照射によって確実に死滅させるために必要な(最低限の)紫外線照射量である。本実施形態の制御手段17は、各運転モードにおいて、紫外線照射量が目標紫外線照射量D1,D2以上になるよう、紫外線リアクタ12の出力及びバラスト水の処理流量を制御する。具体的には、例えば、図3のグラフに示すように、制御手段17は、各運転モードにおいて、水質が良くバラスト水の紫外線透過率が高い場合には、浄化処理時間を短縮するため処理流量を増加させる。そして、紫外線透過率が高く処理流量を最大にしても目標紫外線照射量D1,D2を超える場合(グラフにおいて紫外線透過率が所定値Ux以上である場合)には、紫外線リアクタ12の出力を抑えることで、消費電力量を低減する。一方、制御手段17は、水質が悪くバラスト水の紫外線透過率が低い場合には、紫外線リアクタ12の出力を増加させる。そして、紫外線透過率が高く紫外線リアクタ12の出力を最大にしても目標紫外線照射量D1,D2を下回る場合(グラフにおいて紫外線透過率が所定値Ux以下である場合)には、処理流量を抑えることで、目標紫外線照射量D1,D2を維持する。
【0042】
なお、図3のグラフは、各運転モードにおける紫外線透過率に応じた処理流量と紫外線リアクタ12の出力の変化を例示するものにすぎず、グラフが示す数値自体に意味があるわけではない。例えば、第1モードM1と第2モードM2とで、紫外線照射量の所定値Ux(グラフが折れ曲がる位置)が異なっていても良い。
【0043】
一方、タンク保持時間T1,T2は、バラストタンク2に貯留された浄化処理後のバラスト水に含まれる生き残った微生物が、バラストタンク2に貯留されている間に徐々に衰弱し、死滅してゆくことに着目して設定された時間である。当該タンク保持時間T1,T2を経過するまで貯留したバラスト水をバラストタンク2から排出しないようにすることで、微生物を殺滅させた状態でバラストタンク2内のバラスト水を排出することが可能となる。
【0044】
そして、本実施形態の各動作モードの目標紫外線照射量D1,D2とタンク保持時間T1,T2は、図4のグラフに示す関係となるよう設定されている。すなわち、本実施形態において、第2モードM2の目標紫外線照射量D2は第1モードM1の目標紫外線照射量D1よりも少なく、且つ、第2モードM2のタンク保持時間T2は第1モードM1のタンク保持時間T1よりも長くなっている(D1>D2、T1<T2)。このような関係は、図4に示すように、(目標)紫外線照射量が多いほど微生物はすぐに死滅するためタンク保持時間が短くて済み、(目標)紫外線照射量が少ないと微生物が死滅するまでに時間がかかるためタンク保持時間を長く取らなければならないという知見に基づくものである。
【0045】
なお、本実施形態では、第1モードM1における紫外線リアクタ12の最大の出力及び最小の処理流量と、第2モードM2における最大の出力及び最小の処理流量は、それぞれ同一である。そして、図5にも示すように、第2モードM2の目標紫外線照射量D2は第1モードM1の目標紫外線照射量D1よりも低く設定されている。したがって、上述したように紫外線照射量はバラスト水の紫外線透過率に比例することから、第1モードM1における浄化処理が可能なバラスト水の下限透過率U1よりも、第2モードM2におけるバラスト水の下限透過率U2のほうが小さくなる。すなわち、第1モードM1と比較した場合には、第2モードM2のほうが、水質がより悪く紫外線透過率が低いバラスト水であっても浄化処理を行うことが可能である。
【0046】
<モード判定工程>
以下、図6を参照して、適切な運転モードを判定するモード判定工程のアルゴリズムの一例を説明する。モード判定工程は、船員等がモード判定を要求したタイミング、あるいは船舶が港に入港したタイミングで開始される。
【0047】
モード判定工程では、まず、ステップS1において、制御手段17の情報取得部70は、透過率取得手段16から取水されたバラスト水の紫外線透過率を取得する。判定部72は、取得した紫外線透過率が第2モードM2の下限透過率U2(図5参照)未満であるかどうかを判定する。判定部72は、紫外線透過率が第2モードM2の下限透過率U2未満であれば、水質が悪すぎていずれの運転モードでも浄化処理ができないと判定し、判定結果出力手段18によりその旨をユーザに報知する。紫外線透過率が第2モードM2の下限透過率U2未満でなければ、次のステップS2に進む。
【0048】
次に、ステップS2において、判定部72は、取得した紫外線透過率が第1モードM1の浄化処理可能な紫外線透過率の下限透過率U1(図5参照)未満であるかどうかを判定する。判定部72は、紫外線透過率が第1モードM1の下限透過率U1未満であれば第1モードM1では運転できないため(図5参照)、適切な運転モードは第2モードM2であると判定して、モード判定工程を終了する。紫外線透過率が第1モードM1の下限透過率U1未満でなければ、次のステップS3に進む。
【0049】
次に、ステップS3において、情報取得部70は、入力装置15に入力された許容排出時間を取得する。また、情報取得部70は、第2モードM2のタンク保持時間T2(第1モードM1のタンク保持時間T1よりも長い)を記憶部71から読み出す。判定部72は、許容排出時間が第2モードM2のタンク保持時間T2未満の場合、つまり、第2モードM2では許容排出時間を超えてバラスト水を保持しなければならない場合は、適切な運転モードはタンク保持時間の短い第1モードM1であると判定して、モード判定工程を終了する。
【0050】
ステップS3において許容排出時間が第2モードM2のタンク保持時間T2よりも長い場合は、いずれの運転モードでも運転が可能であるため、他の条件(例えば、各運転モードの消費電力等)に基づいて適切なモードを判定し、モード判定工程を終了する。なお、ステップS3において許容排出時間が第2モードM2のタンク保持時間T2よりも長い場合に、いずれの運転モードでも運転可能である旨を判定結果出力手段18により報知してモード判定工程を終了するようにしても良い。
【0051】
上述したモード判定工程のステップS1~S3によって適切な運転モードが判定された後は、制御手段17は、判定された適切な運転モードを判定結果出力手段18によって船員等のユーザに提示する。ユーザは、判定結果出力手段18に提示された判定結果を参考にして、実際にいずれの運転モードでバラスト動作を行うかを選択し、入力装置15により実行する動作モードを入力する。制御手段17の動作制御部73は、入力された運転モードによって、以下に示す浄化工程(バラスト動作)を開始する。なお、判定された適切な運転モードを判定結果出力手段18に表示させることなく、自動的に判定された運転モードを選択し、バラスト動作を開始するよう構成しても良い。
【0052】
<浄化工程>
次に、判定した運転モードによる浄化工程について説明する。なお、浄化工程の各動作は制御手段17により制御されるが、一部又は全部の動作を、船員により手動に行うことも可能である。
【0053】
図7は、バラスト装置1によるバラスト動作時のバラスト水の流路を示す図である。太線で示されるラインLa~ラインLcがバラスト水の流れる流路であり、この動作時は、バラスト装置1の開閉弁Va~Vdが開かれ、その他の開閉弁Ve,Vfが閉じられる。このとき、バラスト水処理装置10においては、制御手段17の動作制御部73が、開閉弁V2,V3及び流量調整弁FCVを開くとともに、開閉弁V1,V4を閉じる制御を行う。これにより、バラスト水は第1ラインL1の一部、第2ラインL2、第3ラインL3及び第5ラインL5を流通し、濾過装置11及び紫外線リアクタ12を流通する。この際、動作制御部73は、これら濾過装置11及び紫外線リアクタ12の起動命令も出力する。動作制御部73は、流量調整弁FCVの開度と紫外線ランプ12aの強度を制御することで、バラスト水の処理流量とバラスト水への紫外線照射量とを、モード判定工程において選択された運転モードで規定された数値となるよう調整する。このような制御により、バラスト水は、濾過装置11及び紫外線リアクタ12を流通することで浄化され、バラストタンク2に貯留される。
【0054】
なお、図8は、バラスト装置1のデバラスト動作時の流路を示す図である。太線で示されるラインLaの一部、ラインLb、ラインLcの一部、ラインLd、ラインLeがデバラスト動作時にバラスト水が流れる流路であり、この動作時には、開閉弁Vb,Vd~Vfが開かれ、その他の開閉弁Va,Vcが閉じられる。このとき、バラスト水処理装置10においては、制御手段17の動作制御部73が、開閉弁V4及び流量調整弁FCVを開くとともに、開閉弁V1~V3を閉じる制御を行う。これにより、バラスト水は第1ラインL1の一部、第4ラインL4、第3ラインL3の一部及び第5ラインL5を流通し、濾過装置11をバイパスし、紫外線リアクタ12のみを流通する。また、動作制御部73は、紫外線リアクタ12の起動命令も出力する。バラストタンク2に貯留されていたバラスト水を紫外線リアクタ12に流通させることにより、貯留中に繁殖した微生物・異物を浄化することが可能となる。なお、船外へ排出するバラスト水には濾過装置11による濾過処理を行わないのは、バラストタンク2内のバラスト水は、バラスト動作時に一度濾過処理を行っているためである。
【0055】
4.作用効果
以上のように、本実施形態のバラスト水処理装置10は、制御手段17が第1モードM1及び第2モードM2を備え、各運転モードには目標紫外線照射量D1,D2とタンク保持時間T1,T2が設定されており、第2モードM2の目標紫外線照射量D2が第1モードM1の目標紫外線照射量D1よりも少なく、第2モードM2のタンク保持時間T2が第1モードM1のタンク保持時間T1よりも長く設定されている。このような構成により、水質が悪い等の理由で目標紫外線照射量D1を超える紫外線照射量を確保できず、第1モードM1では浄化処理を行えない場合であっても、目標紫外線照射量D2の低い第2モードM2を用いることにより、浄化処理を行うことが可能である。なお、第2モードM2ではタンク保持時間T2が経過するまでバラストタンク2に貯留したバラスト水を排出することはできなくなるが、例えば航行時間の長い航路等であれば、所定時間バラスト水を排出できないことによる影響は考慮しなくても良いことになる。
【0056】
また、本実施形態のバラスト水処理装置10は、制御手段17がモード判定工程を備えており、透過率取得手段16から取水されたバラスト水の紫外線透過率及び入力装置15に入力された許容排出時間を取得することで、適切な運転モードを判定することが可能となっている。
【0057】
5.変形例
なお、本発明は、以下の態様でも実施可能である。
【0058】
上記実施形態では、バラスト水の透過率を取得する透過率取得手段16として、紫外線リアクタ12とは別の箇所に配置される透過率測定センサが用いられていた。しかしながら、透過率取得手段16として透過率測定センサを設置する代わりに、バラスト水をバラストタンク2に貯留することなく排出する予備運転(図9参照)において制御手段17に紫外線透過率を算出させることも可能である。具体的には、予備運転において紫外線ランプ12aを点灯させるとともに、紫外線ランプ12aの強度を紫外線センサ14により計測する。これにより、紫外線ランプ12aの強度と紫外線センサ14により計測された紫外線の照度とから、制御手段17に紫外線透過率を算出させることが可能となる。
【0059】
上記実施形態では、図6に示すように、モード判定工程は、ステップS1~ステップS3の3つのステップを有していた。しかしながら、モード判定工程は、これらのステップS1~ステップS3のうち、1つ以上のステップを有していなくても良い。上述したモード判定工程は、運転モードの判定を自動で行う場合のアルゴリズムの一例を挙げたにすぎず、適切な運転モードを判定するアルゴリズムとして、他のアルゴリズムを用いることも可能である。また、制御手段17は、モード判定工程を行わない構成であっても良い。すなわち、本発明は、制御手段17が図4に示すタンク保持時間と目標紫外線照射量の関係性(すなわち、目標紫外線照射量の多い運転モードではタンク保持時間が短く、目標紫外線照射量の少ない運転モードではタンク保持時間が長いという関係)を有する複数の運転モードを有していればよく、複数の運転モードから、紫外線透過率に応じて船員等のユーザが手動で適切な運転モードを選択するようにすることも可能である。
【0060】
上記実施形態において、制御手段17は、第1モードM1と第2モードM2の2つの運転モードを備えていた。しかしながら、制御手段17は、3つ以上の運転モードを備えていても良い。ただし、3つ以上の運転モードのうち2つ以上の運転モードでは、目標紫外線照射量及びタンク保持時間が設定され、図4に示すタンク保持時間と目標紫外線照射量の関係性を有しているものとする。上記2つ以上の運転モード以外の運転モードについては、目標紫外線照射量とタンク保持時間の関係を満たしていなくても良い。
【0061】
上記実施形態では、バラスト水を取り込む際の水域については規定していなかったが、各運転モードにおける目標紫外線照射量及びタンク保持時間を、例えば海水、汽水、淡水で異ならせることも好適である。この場合、淡水における微生物は一般的に海水における微生物よりも紫外線耐性があるため、例えば、淡水域においてバラスト水を取り込む場合には、目標紫外線照射量を多くする及び/又はタンク保持時間を長くし、海水域においてバラスト水を取り込む場合には、目標紫外線照射量を少なくする及び/又はタンク保持時間を短くすることが好適である。
【0062】
上記実施形態では、バラスト水に対する紫外線照射量として、紫外線リアクタ12の出力と、流量調整弁FCVの制御により調整され流量計13により計測されるバラスト水の処理流量と、透過率取得手段16により取得されるバラスト水の紫外線透過率とに基づいて推定される値を用いていた。しかしながら、これに変えて、流量計13により計測されるバラスト水の流量と、紫外線センサ14により計測される紫外線の照度とから、単位流量あたりの紫外線の照射量を算出し、これを紫外線照射量としても良い。
【符号の説明】
【0063】
1 :バラスト装置
2 :バラストタンク
3 :バラストポンプ
10 :バラスト水処理装置
11 :濾過装置
12 :紫外線リアクタ
12a :紫外線ランプ
13 :流量計
14 :紫外線センサ
15 :入力装置
16 :透過率取得手段
17 :制御手段
18 :判定結果出力手段
70 :情報取得部
71 :記憶部
72 :判定部
73 :動作制御部
D1,D2 :目標紫外線照射量
FCV :流量調整弁
L1~L5 :ライン
La~Le :ライン
M1 :第1モード
M2 :第2モード
P1 :上流側接続部
P2 :下流側接続部
S1~S3 :ステップ
SC1 :シーチェスト
SC2 :船外排出口
T1,T2 :タンク保持時間
U1,U2 :下限透過率
Ux :所定値
V1~V4 :開閉弁
Va~Vf :開閉弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9