IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】パンクシーリング剤
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/10 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
C09K3/10 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020191819
(22)【出願日】2020-11-18
(65)【公開番号】P2022080634
(43)【公開日】2022-05-30
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】眞木 貴史
(72)【発明者】
【氏名】中川 真人
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/021239(WO,A1)
【文献】特開2016-098355(JP,A)
【文献】特表2009-531520(JP,A)
【文献】特開2011-026533(JP,A)
【文献】特開平10-217344(JP,A)
【文献】特開2001-198986(JP,A)
【文献】特開2020-029550(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/10-3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムラテックスと、酸化防止剤と、凍結防止剤と、プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種とを含むパンクシーリング剤。
【請求項2】
更に界面活性剤を含む請求項1記載のパンクシーリング剤。
【請求項3】
前記プロテアーゼ阻害剤は、金属プロテアーゼ阻害剤である請求項1又は2記載のパンクシーリング剤。
【請求項4】
前記酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1~3のいずれかに記載のパンクシーリング剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤパンク時に、タイヤホイールの空気バルブからパンクシーリング剤と高圧空気とを順次タイヤ内に注入する方式のパンク処置システムにおいて、使用するパンクシーリング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パンクしたタイヤを応急的に補修する処置システムとして、例えば、パンクシーリング剤を収容した耐圧容器とコンプレッサーなどの高圧空気源とを用い、空気バルブを経てタイヤ内にシーリング剤を注入した後、引き続いて連続的に高圧空気を注入し、走行可能な圧力までタイヤをポンプアップするもの(以下に一体型タイプという場合がある)が知られている(特開2001-198986号公報の図1など参照)。
【0003】
パンクシーリング剤は、一般的には車内又はトランクルーム等に備えられ、パンク発生時にのみ使用されるものであり、使用時まで劣化が抑制される必要があるが、合成ゴムを主体としたパンクシーリング剤は、長期間の保管により合成ゴムがゲル化し、パンク修理性能が劣化することが知られており、モノフェノール系などの酸化防止剤を添加することで、合成ゴムのゲル化を抑制している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2008/142967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、合成ゴムを主体としたパンクシーリング剤に関する記載のみなされ、天然ゴムを主体としたパンクシーリング剤については一切検討されていない。そこで、天然ゴムラテックスを主体としたパンクシーリング剤の劣化について検討したところ、パンクシーリング剤を樹脂製ボトル中で長期保管すると、樹脂製ボトルが酸素を透過することに起因して、天然ゴムが劣化して分子量が低下し、パンク修理時に固化ができず充分な修理が難しくなり、パンクシール耐久性能(長期保管後のパンク修理後におけるタイヤ空気圧の低下抑制性)が低下してしまうという合成ゴムとは異なる問題が生じることが判明した。
【0006】
通常、天然ゴムのタンパク質はアレルゲンになるなど、好ましい成分とは考えられないので、当業者は、タンパク質分解酵素を添加するなど、タンパク質を破壊する方向に行くのが一般的である。しかしながら、本発明者は、天然ゴムラテックスを主体としたパンクシーリング剤では、タンパク質が分散の保護や粘着強度の向上に働く点に着目して発想を転換し、あえてタンパク質を保護することで性能を上げられるのではないかと着想した。そして、パンクシーリング剤にプロテアーゼ阻害剤やホスファターゼ阻害剤を添加してタンパク質を保護することにより、パンクシーリング剤の経年劣化を抑制し、パンクシール耐久性能の低下を防止できるという知見を見出し、本発明の完成に至ったものである。
【0007】
本発明は、前記課題を解決し、パンクシール耐久性能に優れたタイヤのパンクシーリング剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、天然ゴムラテックスと、酸化防止剤と、凍結防止剤と、プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種とを含むパンクシーリング剤に関する。
【0009】
更に界面活性剤を含むことが好ましい。
【0010】
前記プロテアーゼ阻害剤は、金属プロテアーゼ阻害剤であることが好ましい。
【0011】
前記酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、天然ゴムラテックスと、酸化防止剤と、凍結防止剤と、プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種とを含むパンクシーリング剤であるので、パンクシール耐久性能に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のパンクシーリング剤は、天然ゴムラテックスと、酸化防止剤と、凍結防止剤と、プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種とを含む。前記パンクシーリング剤は、長期保管しても劣化が抑制されるため、保管後のパンク修理でも良好なパンク修理が可能である。従って、長期保管でもパンク修理後におけるタイヤ空気圧の低下を防止でき、優れたパンクシール耐久性能が得られる。
【0014】
本発明では、スムーズにシーリング剤をタイヤ内に注入できること、走行により速やかにパンク穴にシーリング剤が入り込み、タイヤの変形による機械的刺激を受けて固まってパンク穴を塞ぐこと(初期シール性能)、ある程度の走行距離までシール性が保持されること(シール保持性能)等の性能の観点から、天然ゴムラテックスを主成分とするパンクシーリング剤が使用される。
【0015】
また、必要に応じて天然ゴムラテックスに、更にブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、エチレン-酢酸ビニルゴム、クロロプレンゴム、ビニルピリジンゴム、ブチルゴムなどの合成ゴムラテックス等をブレンドしてもよい。
【0016】
なお、ゴムラテックスは、乳化剤である界面活性剤を少量含む水性媒体中に、ゴム固形分を微粒子状に乳化分散させたものであり、通常、ゴム固形分の占める割合を60質量%程度としたゴムラテックスが使用される。
【0017】
初期シール性能、シール保持性能の点から、パンクシーリング剤の全質量100質量%中、天然ゴムラテックス(ゴム固形分)の配合量を15~45質量%の範囲とすることが好ましい。配合量の下限は20質量%以上がより好ましく、22質量%以上が更に好ましい。上限は40質量%以下がより好ましく、35質量%以下が更に好ましい。配合量を下限以上にすることで、良好なパンクシール性能及びシール保持性能が得られる傾向がある。逆に各配合量を上限以下にすることで、保管中のゴム粒子の凝集の抑制等、良好な保管性能が得られると共に、粘度上昇を抑制し、パンクシーリング剤の空気バルブからの注入性が確保される傾向がある。
【0018】
パンクシーリング剤は、酸化防止剤を含む。これにより、長期保管後のパンク修理時における良好なシーリング効果が得られる傾向がある。
【0019】
酸化防止剤としては特に限定されず、架橋ゴムの劣化を防止するために使用される酸化防止剤が挙げられる。例えば、フェノール系酸化防止剤(モノフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリフェノール系酸化防止剤など)、アミン系酸化防止剤などを好適に使用できる。なかでも、フェノール系酸化防止剤が好ましく、ポリフェノール系酸化防止剤がより好ましい。これらの酸化防止剤は単独で使用しても、併用してもよい。
【0020】
モノフェノール系酸化防止剤としては、スチレン化フェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2-tert-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-n-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-イソブチルフェノール、2,6-ジシクロペンチル-4-メチルフェノール、2-(α-メチルシクロへキシル)-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジオクタデシル-4-メチルフェノール、2,4,6-トリシクロヘキシルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メトキシメチルフェノール、分岐したノニルフェノール(例えば、2,6-ジ-ノニル-4-メチルフェノール)、2,4-ジメチル-6-(1’-メチルウンデシ-1’-イル)フェノール、2,4-ジメチル-6-(1’-メチルヘプタデシ-1’-イル)フェノール、2,4-ジメチル-6-(1’-メチルトリデシ-1’-イル)フェノールなどが挙げられる。
【0021】
ビスフェノール系酸化防止剤としては、2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(6-tert-ブチル-4-エチルフェノール)、2,2’-メチレンビス[4-メチル-6-(α-メチルシクロへキシル)フェノール]、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-シクロへキシルフェノール)、2,2’-メチレンビス(6-ノニル-4-メチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-エチリデンビス(6-tert-ブチル-4-イソブチルフェノール)、2,2’-メテレンビス[6-(α-メチルベンジル)-4-ノニルフェノール]、2,2’-メチレンビス[6-(α,α-ジメチルベンジル)-4-ノニルフェノール]、4,4’-メチレンビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-メチレンビス(6-tert-ブチル-2-メチルフェノール)、1,1-ビス(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)ブタン、2,6-ビス(3-tert-ブチル-5-メチル-2-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェノール、1,1,3-トリス(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)ブタン、1,1-ビス(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)-3-n-ドデシルメルカプトブタン、エチレングリコールビス[3,3-ビス(3’-tert-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)ブチレート]、ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ジシクロペンタジエン、ビス[2-(3’-tert-ブチル-2’-ヒドロキシ-5’-メチルベンジル)-6-tert-ブチル-4-メチルフェニル]テレフタレート、1,1-ビス(3,5-ジメチル-2-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)-4-n-ドデシルメルカプトブタン、及び1,1,5,5-テトラキス(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)ペンタンなどが挙げられる。
【0022】
ポリフェノール系酸化防止剤としては、2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、テトラキス-[メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、フラボノイド類(例えば、カテキン、アントシアニン、フラボン配糖体、イソフラボン配糖体、フラバン配糖体、フラバノン、ルチン配糖体などが挙げられる。
【0023】
アミン系酸化防止剤としては、β-(3’5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオン酸のアミド類として、例えば、N,N’-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオニル)ヘキサメチレンジアミン、N,N’-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオニル)トリメチレンジアミン、N,N’-ビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオニル)ヒドラジン、N,N’-ビス[2-(3-[3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル]プロピオニルオキシ)エチル]オキサミドなどが挙げられる。
【0024】
酸化防止剤の配合量は、特に限定されないが、天然ゴムラテックス中の固形分100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましい。配合量の下限は0.1質量部以上がより好ましく、0.3質量部以上が更に好ましい。上限は3質量部以下がより好ましく、1質量部以下が更に好ましい。下限以上にすることで、天然ゴムの分子量の低下を抑制し、良好なパンクシール性能の維持性能が得られる傾向があり、上限以下にすることで、経済的に有利な傾向がある。
【0025】
パンクシーリング剤の全質量100質量%中、酸化防止剤の配合量は、0.01~3質量%が好ましい。配合量の下限は0.05質量%がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましい。上限は1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。下限以上にすることで、天然ゴムの分子量の低下を抑制し、良好なパンクシール性能の維持性能が得られる傾向があり、上限以下にすることで、経済的に有利な傾向がある。
【0026】
酸化防止剤は、天然ゴムラテックス中に分散されていることが好ましい。酸化防止剤を分散させる方法は特に限定されず、界面活性剤を用いて水中に分散させた後に天然ゴムラテックス中に分散させることができる。
【0027】
本発明において使用する凍結防止剤としては特に制限はなく、エチレングリコール、プロピレングリコール(1,2-プロパンジオール)、1,3-プロパンジオール等を使用できる。これらは単独で使用しても、併用してもよい。
【0028】
エチレングリコールを使用すると、ゴム粒子の安定性が悪化し、凝集することがあるが、プロピレングリコールや1,3-プロパンジオールを使用すると、長期間保管した場合でも、ゴム粒子や粘着剤の粒子が表面付近で凝集してクリーム状物質に変質することを抑制でき、優れた保管性能(貯蔵安定性)が発揮される。更にプロピレングリコールを使用すると、低温で粘度が上昇することがあるが、1,3-プロパンジオールを使用すると、低温での粘度上昇を抑制でき、低温注入性を改善できる。1,3-プロパンジオールを使用すると、シーリング剤の使用温度範囲を低温側へ拡大でき、一体型タイプのパンク処置システムにおいて、低温でもバルブコアからシーリング剤、エアーを注入する場合に、バルブコアでの詰まりを防止できる。
【0029】
パンクシーリング剤の全質量100質量%中、凍結防止剤の配合量は、20~64質量%が好ましい。下限以上にすることで、低温での粘度上昇を抑制し、逆に上限以下にすることで、良好なパンクシーリング性が得られる傾向がある。配合量の下限は25質量%以上がより好ましく、上限は40質量%以下がより好ましい。
【0030】
パンクシーリング剤の液体成分100質量%中の凍結防止剤の配合量は、48~80質量%が好ましい。下限以上にすることで、低温での粘度上昇が抑制され、逆に上限以下にすることで、良好な注入性が得られる傾向がある。配合量の下限は50質量%以上がより好ましく、上限は70質量%以下がより好ましい。ここで、液体成分とは、水及び凍結防止剤をいう。よって、配合量は、凍結防止剤の質量/水及び凍結防止剤の合計質量×100(質量%)を意味する。
【0031】
パンクシーリング剤は、プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む。これにより、天然ゴムのタンパク質の劣化を抑制でき、長期保管後のパンク修理時においても良好なシーリング効果を付与できる。
【0032】
プロテアーゼ阻害剤は、プロテアーゼ阻害作用を持つものであれば特に限定されることなく使用可能であり、例えば、セリンプロテアーゼ阻害剤、システインプロテアーゼ阻害剤、金属プロテアーゼ阻害剤などが挙げられる。これらのプロテアーゼ阻害剤は単独で用いてもよいし、複数の阻害剤を混合して用いてもよい。なかでも、金属プロテアーゼ阻害剤が好ましい。
【0033】
セリンプロテアーゼ阻害剤は、セリンプロテアーゼ阻害作用を持つものであれば特に限定されるものではない。例えば、4-(2-アミノエチル)ベンゼンスルホニルフルオリド(AEBSF)、ベンズアミジン、アプロチニン、ベスタチン、E-64(Cayman Chemical社製)、ロイペプチン、ペプスタチンA、及びこれらを混合したインヒビターカクテル(Thermo Shientific社製)、トリプシンインヒビター(大豆由来)、フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)、トシルリジンクロロメチルケトン(TLCK)などが挙げられる。
【0034】
システインプロテアーゼ阻害剤は、システインプロテアーゼ阻害作用を持つものであれば特に限定されるものではない。例えば、ヨードアセトアミド、ヨード酢酸、E-64などのシステインプロテアーゼ阻害剤などが挙げられる。また、TPCK(N-トシル-L-フェニルアラニルクロロメチルケトン)、アスパラギン酸及びその塩等のシステインプロテアーゼ阻害剤も使用できる。
【0035】
金属プロテアーゼ阻害剤は、金属プロテアーゼ阻害作用を持つもの(金属イオンを封鎖して、金属プロテアーゼの活性を抑制する阻害剤)であれば特に限定されるものではない。例えば、キレート剤、1,10-フェナントロリンなどが挙げられる。キレート剤は特に限定されず、公知のものを使用でき、例えば、蓚酸、アジピン酸、コハク酸等の二塩基酸、クエン酸等の三塩基酸;カテキン、エピガロカテキン、タンニン酸等のポリフェノール類;フィチン酸やエチレンジアミン4酢酸及び/又は塩;などが例示される。なかでも、二塩基酸、三塩基酸、エチレンジアミン4酢酸及び/又は塩、1,10-フェナントロリンが好ましく、エチレンジアミン4酢酸及び/又は塩、1,10-フェナントロリンがより好ましい。ここで、エチレンジアミン4酢酸及び/又は塩は、エデト酸若しくは、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)と呼ばれ、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、エデト酸四ナトリウム二水塩、エデト酸四ナトリウム四水塩等が例示される。
【0036】
ホスファターゼ阻害剤は、ホスファターゼ阻害作用を持つものであれば特に限定されることなく使用可能である。例えば、オルトバナジン酸ナトリウム、フッ化ナトリウムなどのホスファターゼ阻害剤が挙げられる。また、セリン又はスレオニンホスファターゼ(PPPファミリ又はPPMファミリ等)の阻害剤、チロシンホスファターゼ(PTPファミリ)の阻害剤も含まれる。なかでも、オルトバナジン酸ナトリウムが好ましい。
【0037】
プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤の総配合量は、特に限定されないが、天然ゴムラテックス中の固形分100質量部に対して、0.001~2質量部が好ましい。総配合量の下限は0.02質量部以上がより好ましく、0.03質量部以上が更に好ましい。上限は0.5質量部以下がより好ましく、0.2質量部以下が更に好ましい。下限以上にすることで、天然ゴムの分子量の低下を抑制し、良好なパンクシール性能の維持性能が得られる傾向があり、上限以下にすることで、経済的に有利な傾向がある。なお、プロテアーゼ阻害剤の配合量、ホスファターゼ阻害剤の配合量も同様の範囲が好適である。
【0038】
パンクシーリング剤の全質量100質量%中、プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤の総配合量は、0.001~0.5質量%が好ましい。配合量の下限は0.01質量%がより好ましく、0.02質量%以上が更に好ましい。上限は0.3質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましい。下限以上にすることで、天然ゴムの分子量の低下を抑制し、良好なパンクシール性能の維持性能が得られる傾向があり、上限以下にすることで、経済的に有利な傾向がある。なお、プロテアーゼ阻害剤の配合量、ホスファターゼ阻害剤の配合量も同様の範囲が好適である。
【0039】
パンクシーリング剤は、粘着付与剤を含むことが好ましい。粘着付与剤は、ゴムラテックスとタイヤとの接着性を高め、パンクシール性能を向上させるために用いられるものであり、例えば、乳化剤を少量含む水性媒体中に、粘着付与樹脂を微粒子状に乳化分散させた粘着付与樹脂エマルジョン(水中油滴型エマルジョン)を使用できる。粘着付与樹脂エマルジョンの固形分である粘着付与樹脂としては、前記ゴムラテックスを凝固させないもの、例えば、テルペン系樹脂、フェノール系樹脂、ロジン系樹脂が好ましく使用できる。他に好ましい樹脂としては、ポリビニルエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリジンも挙げられる。
【0040】
粘着付与樹脂(粘着付与剤の固形分)の配合量は、パンクシーリング剤の全質量100質量%中、2~10質量%が好ましい。下限以上にすることで、良好なパンクシール性能及びシール保持性能が得られる傾向がある。配合量の下限は4質量%以上がより好ましく、上限は7質量%以下がより好ましい。上限以下にすることで、保管中のゴム粒子の凝集の抑制等、良好な保管性能が得られると共に、粘度上昇を抑制し、パンクシーリング剤の空気バルブからの注入性が確保される傾向がある。
【0041】
天然ゴムラテックス(ゴム固形分)及び粘着付与樹脂(粘着付与剤の固形分)の配合量の和(固形分)は、パンクシーリング剤の全質量100質量%中、15~60質量%の範囲にすることが好ましい。下限は17質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましく、上限は55質量%以下がより好ましく、50質量%以下が更に好ましい。
【0042】
パンクシーリング剤は、界面活性剤を含むことが好ましい。
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤などが挙げられる。なかでも、ノニオン性界面活性剤が好ましい。
【0043】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及び/又はポリオキシアルキレンアルケニルエーテルが好ましい。
【0044】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル等のノニオン性界面活性剤は、エチレンオキサイド構造及び/又はプロピレンオキサイド構造を有することが好ましく、エチレンオキサイド構造を有するものがより好ましい。また、エチレンオキサイド構造及び/又はプロピレンオキサイド構造を有するノニオン性界面活性剤では、エチレンオキサイド(EO)及びプロピレンオキサイド(PO)の平均付加モル数(EO及びPOの平均付加モル数の合計)が10以上であることが好ましく、13以上であることがより好ましい。また、該平均付加モル数は、好ましくは80以下、より好ましくは60以下、更に好ましくは40以下である。
【0045】
また、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルにおけるアルキル基の炭素数、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルにおけるアルケニル基の炭素数は、10以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。また、該炭素数は、好ましくは20以下、より好ましくは18以下である。
【0046】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルとしては、下記式(1)で表される化合物が挙げられる。
-O-(AO)-H (1)
(式(1)において、Rは炭素数4~24のアルキル基又は炭素数4~24のアルケニル基を表す。平均付加モル数nは1~80を表す。AOは同一又は異なって炭素数2~4のオキシアルキレン基を表す。)
【0047】
の炭素数は、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは12以上である。またRの炭素数は、好ましくは22以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは18以下である。
【0048】
nは、好ましくは10以上、より好ましくは13以上である。またnは、好ましくは60以下、より好ましくは50以下、更に好ましくは40以下である。
【0049】
AOは、好ましくは炭素数2~3のオキシアルキレン基(オキシエチレン基(EO)、オキシプロピレン基(PO))である。(AO)が2種以上のオキシアルキレン基を含む場合、オキシアルキレン基の配列はブロックでもランダムでもよい。R、nが上記範囲である場合やAOがEO、POである場合、本発明の効果が良好に発揮される。
【0050】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルとしては、下記式(2)で表される化合物が好適に使用される。
-O-(EO)(PO)-H (2)
(式(2)において、Rは炭素数8~22のアルキル基又は炭素数8~22のアルケニル基を表す。EOはオキシエチレン基、POはオキシプロピレン基を表す。平均付加モル数xは1~60、平均付加モル数yは0~20である。)
【0051】
の炭素数の好ましい数値範囲は、上記Rと同様である。Rは直鎖状又は分岐状のいずれであってもよいが、直鎖状のアルキル基又はアルケニル基が好ましい。xは、好ましくは10以上、より好ましくは13以上である。またxは、好ましくは50以下、より好ましくは40以下である。yは、好ましくは10以下、より好ましくは4.5以下、更に好ましくは2.0以下である。また、yは0であってもよい。R、x、yが上記範囲である場合、本発明の効果が良好に発揮される。
【0052】
EOとPOの配列はブロックでもランダムでもよい。EOとPOの配列がブロックである場合、EOのブロックの数、POのブロックの数は、各平均付加モル数が上記範囲内である限り、それぞれ1個でも2個以上でもよい。また、EOからなるブロックの数が2個以上である場合、各ブロックにおけるEOの繰り返し数は、同一でも異なってもよい。POのブロックの数が2個以上である場合も、各ブロックにおけるPOの繰り返し数は、同一でも異なってもよい。EOとPOの配列がランダムである場合は、各平均付加モル数が上記範囲内である限り、EOとPOとが交互に配列されても無秩序に配置されてもよい。
【0053】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル(例えば、式(2)のy=0の化合物)が好適に使用される。この場合、好ましいEOの平均付加モル数、アルキル基、アルケニル基は、上記と同様である。
【0054】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルとしては、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル等が挙げられる。なかでも、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルが好ましい。
【0055】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル等のノニオン性界面活性剤のHLB値(グリフィン法で算出)は、好ましくは12以上、より好ましくは13以上である。また、該HLB値は、好ましくは19以下、より好ましくは17以下である。
【0056】
ノニオン性界面活性剤の市販品としては、エマルゲン320P(式(2):R=ステアリル基、x=13、y=0)、エマルゲン420(式(2):R=オレイル基、x=20、y=0)、エマルゲン430(式(2):R=オレイル基、x=30、y=0)、エマルゲン150(式(2):R=ラウリル基、x=40、y=0)、エマルゲン109P(式(2):R=ラウリル基、x=9、y=0)、エマルゲン120(式(2):R=ラウリル基、x=12、y=0)、エマルゲン220(式(2):R=セチル基、x=12、y=0)等が挙げられる(いずれも花王(株)製)。
【0057】
天然ゴムラテックスに含まれるゴム固形分100質量%に対する界面活性剤の配合量は、低温での注入性、耐熱性の観点から、0.1~10質量%が好ましく、0.3~5質量%がより好ましく、0.5~3質量%が更に好ましい。
【0058】
パンクシーリング剤の全質量100質量%に対する界面活性剤の配合量は、0.01~1.0質量%が好ましい。下限以上にすることで、良好な注入性が得られ、上限以下にすることで、良好なシール性が得られる傾向がある。該配合量は、0.05~0.5質量%がより好ましく、0.1~0.3質量%が更に好ましい。
【0059】
本発明のパンクシーリング剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の成分を更に配合してもよい。本発明のパンクシーリング剤は、一般的な方法で製造される。すなわち、前記各成分等を公知の方法により混合すること等により製造できる。
【実施例
【0060】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0061】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
天然ゴムラテックス:HAラテックス(Unimac Rubber社製、固形分61質量%)
粘着付与剤:ナノレット(ヤスハラケミカル社製、テルペン樹脂、固形分50質量%、水分散体)
凍結防止剤1:プロピレングリコール(ダウケミカル社製)
凍結防止剤2:1,3-プロパンジオール(デュポン社製)
プロテアーゼ阻害剤1:EDTA 2Na(アグゾノーベル社製)
プロテアーゼ阻害剤2:1,10-フェナントロリン一水和物(東京化成工業社製)
ホスファターゼ阻害剤:オルトバナジン酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬社製)
酸化防止剤1:ノクラックCD(アミン系酸化防止剤、大内新興化学工業社製)
酸化防止剤2:ノクラック200(モノフェノール系酸化防止剤、大内新興化学工業社製)
酸化防止剤3:ノクラックNS-6(ビスフェノール系酸化防止剤、大内新興化学工業社製)
酸化防止剤4:ノクラックNS-7(ポリフェノール系酸化防止剤、大内新興化学工業社製)
【0062】
<実施例及び比較例>
各酸化防止剤と、水及び凍結防止剤とを混合し、各酸化防止剤分散体を作製した。作製された各酸化防止剤分散体を用い、表1の配合に従うように他の材料を混合し、パンクシーリング剤を作製した。
【0063】
低密度ポリエチレン製のボトルに作製されたパンクシーリング剤を充填した後、雰囲気温度70℃にて70日間保管した。保管後のパンクシーリング剤を用いて、以下に示すパンクシール耐久性能を評価した。結果を表1に示した。
【0064】
<パンクシール耐久性能>
タイヤサイズ195/65R15のタイヤのトレッド部に、直径6mmの釘で穴を開け、釘を抜いてパンクさせた後、300mLのパンクシーリング剤を注入し、タイヤ空気圧を250kPaまで昇圧した。その後、荷重(3.5kN)にて、30~50km/hで10分間走行した。その後、25℃の環境下で2時間、修理後のタイヤを保管し、タイヤ空気圧を250kPaに調整した。更に24時間経過後にタイヤの空気圧を計測し、以下の基準によりパンクシール耐久性能を評価した。
○:タイヤ空気圧が230kPa以上
×:タイヤ空気圧が230kPa未満
【0065】
【表1】
【0066】
表1のとおり、天然ゴムラテックスと凍結防止剤とを含むパンクシーリング剤に、酸化防止剤と、プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤からなる群より選択される少なくとも1種との両成分を配合した実施例のパンクシーリング剤は、これらの両成分又は一方の成分を含まない比較例に比べ、長期保管でもパンク修理後におけるタイヤ空気圧の低下が防止され、優れたパンクシール耐久性能が得られた。