(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/20 20060101AFI20240730BHJP
H01T 13/36 20060101ALI20240730BHJP
H01T 13/08 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
H01T13/20 B
H01T13/36
H01T13/08
(21)【出願番号】P 2020199809
(22)【出願日】2020-12-01
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】高田 健一朗
【審査官】関 信之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-086528(JP,A)
【文献】特開2015-207472(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/20
H01T 13/36
H01T 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁碍子(12)の外周に組み付けられる筒状のハウジング(11)と、
前記ハウジングの外周に装着される補強部材(60)と、を備え、
前記ハウジングの外周面には、
前記ハウジングの基端部に設けられ、加締め加工された加締め部(25)と、
前記加締め部に対して前記ハウジングの先端部側に設けられ、工具が係合可能な工具係合部(24)と、
前記ハウジングの先端部に設けられ、雄ねじが形成されるねじ部(20)と、
前記ねじ部に対して前記ハウジングの基端部側に設けられ、前記ねじ部の外径よりも大きい外径を有する胴部(22)と、
前記工具係合部と前記胴部との間に設けられる座屈溝部(26)の底壁部を座屈変形させることにより形成される座屈部(23)と、が設けられ、
前記補強部材は、前記座屈溝部に挿入されるとともに、前記胴部及び前記工具係合部に接合されている
スパークプラグ。
【請求項2】
前記補強部材は、前記座屈溝部に挿入される環状の部材からなる
請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記補強部材は、
周方向で分割された複数の補強片(61,62)により構成されている
請求項2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
前記補強部材は、切り欠きを有する円環状の単一部品により構成されている
請求項2に記載のスパークプラグ。
【請求項5】
前記工具係合部の外周面は、前記ハウジングの中心軸を中心に多角形状に形成されており、
前記工具係合部における複数の頂点の間に設けられる部分を側壁とするとき、
前記補強部材は、前記工具係合部の側壁及び前記座屈溝部に跨がって延びるように形成される複数の補強片(64)により構成されており、
前記補強片は、前記工具係合部の側壁、前記座屈溝部、及び前記胴部に接合されており、
複数の前記補強片は、前記ハウジングの周方向に間隔をおいて配置されている
請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項6】
前記補強片は、前記工具係合部から前記加締め部に更に延びるように形成されており、前記加締め部に接合されている
請求項5に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンにおいて混合気を着火するために用いられるスパークプラグは、中心電極や抵抗体、端子金具等を内部に収容する円筒状の絶縁碍子と、絶縁碍子の外周に組み付けられる円筒状のハウジングとを備えている。絶縁碍子は、その内部に収容される中心電極等とハウジングとの間を絶縁することにより、高電圧が電極以外に印加されることを防止している。ハウジングは、絶縁碍子を支持するとともに、スパークプラグをエンジンに取り付ける部分として機能する。ハウジングは絶縁碍子の先端部から中間部に亘って配置されている。
【0003】
このようなスパークプラグでは、一般的に、絶縁碍子に対してハウジングを強固に固定するために、例えばハウジングの中間部に設けられる薄肉の部分を座屈変形させることにより座屈部を形成するという方法が用いられることがある。座屈部を形成することで、その部分の強度が加工硬化により高まるため、より強固にハウジングを絶縁碍子に固定することが可能となる。また、ハウジングの下端部の外周面には、エンジンヘッドブロックにスパークプラグを取り付けるための雄ねじ部が形成されている。ハウジングの外周面における雄ねじ部と座屈部との間には、雄ねじ部から座屈部に向かって、ねじ盗み部と胴部とが順に形成されている。胴部は、雄ねじ部よりも大きい外径を有する部分である。ねじ盗み部の外周にはガスケットが装着される。
【0004】
以上のようなスパークプラグは、座屈部を座屈させる前の時点で「座屈部の強度<ねじ盗み部の強度」の関係を満足するように、また座屈部を座屈させた後の時点で「座屈部の強度>ねじ盗み部の強度」の関係を満たすように設計される。前者の関係は、座屈部を座屈させる際に、ねじ盗み部が座屈部よりも先に座屈することを回避するために必要である。後者の関係は、エンジンヘッドブロックの雌ねじ穴にスパークプラグの雄ねじ部をねじ込む際に過大なねじ込み力が加わった場合に座屈部よりも先にねじ盗み部を破断させるためである。これにより、ねじ盗み部よりも上方の部分、すなわちエンジンヘッドブロックに密着しているハウジングの胴部及びガスケットをエンジンヘッドブロックから切り離すことができるため、破断後にエンジンヘッドブロックに残るスパークプラグの残部を容易に取り外すことが可能となる。
【0005】
しかしながら、座屈部を座屈させる前後で座屈部及びねじ盗み部の強度を上述の関係を満たすようにスパークプラグを設計する場合、特にスパークプラグを小型化する際に座屈部の強度を確保できないおそれがある。具体的には、スパークプラグを小型化する場合、座屈部を座屈させる前の時点で「座屈部の強度<ねじ盗み部の強度」の関係を満足させようとすると、座屈部を極端に薄肉化させる必要があるため、座屈部の強度を確保できない。そのため、座屈部が経年劣化等により破損する可能性が高まる。仮に座屈部が破損すると、ハウジングの内部に収容される絶縁碍子の一部が外部に飛散するおそれがある。このような不具合を抑制することが可能なスパークプラグとしては、例えば下記の特許文献1に記載のスパークプラグがある。
【0006】
特許文献1に記載のスパークプラグは、ハウジングの外周に締結される固定スリーブを更に備えている。このような構成によれば、仮にハウジングの座屈部が破損した場合であっても、絶縁碍子の外部への飛散が固定スリーブにより抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エンジンヘッドブロックへのスパークプラグの装着は、例えばハウジングの外周に六角棒スパナ等の工具を組み付けた後、その工具を用いてスパークプラグにトルクを付与して、スパークプラグの雄ねじ部をエンジンヘッドブロックの雌ねじ穴にねじ込むことにより行われる。したがって、特許文献1に記載のスパークプラグのようにハウジングの外周に固定スリーブが組み付けられている場合、固定スリーブの外周面に六角棒スパナ等の工具を組み付ける必要がある。そのため、固定スリーブの外径を、工具を係合可能な所定の寸法に設定する必要がある。結果的に、特許文献1に記載のスパークプラグでは、固定スリーブを有していないスパークプラグと比較すると、固定スリーブが設けられる分だけハウジングの肉厚を、より薄くせざるを得ない。これにより、ハウジングの強度が著しく低下すると、ハウジングを絶縁碍子に組み付ける際に、強度的に最も弱い座屈部が破損する可能性が高くなる。
【0009】
本開示は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハウジングの強度を確保しつつ小型化の可能なスパークプラグを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するスパークプラグは、絶縁碍子(12)の外周に組み付けられる筒状のハウジング(11)と、ハウジングの外周に装着される補強部材(60)と、を備える。ハウジングの外周面には、ハウジングの基端部に設けられ、加締め加工された加締め部(25)と、加締め部に対してハウジングの先端部側に設けられ、工具が係合可能な工具係合部(24)と、ハウジングの先端部に設けられ、雄ねじが形成されるねじ部(20)と、ねじ部に対してハウジングの基端部側に設けられ、ねじ部の外径よりも大きい外径を有する胴部(22)と、工具係合部と胴部との間に設けられる座屈溝部(26)の底壁部を座屈変形させることにより形成される座屈部(23)と、が設けられる。補強部材は、座屈溝部に挿入されるとともに、胴部及び工具係合部に接合されている。
【0011】
この構成によれば、座屈溝部に挿入される補強部材により座屈部の強度を補うことができる。結果的にハウジングの強度を確保することができる。また、座屈溝部に補強部材を挿入すれば、ハウジングの外周面から補強部材が大きく突出することがないため、スパークプラグを小型化することができる。
【0012】
なお、上記手段、特許請求の範囲に記載の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明の効果】
【0013】
本開示のスパークプラグによれば、ハウジングの強度を確保しつつ小型化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、第1実施形態のスパークプラグの破断断面構造を示す断面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態のハウジングの正面構造を示す正面図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態のスパークプラグにおけるハウジング周辺の破断断面構造を示す断面図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態の補強部材の斜視構造を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態のスパークプラグにおけるハウジング周辺の正面構造を示す正面図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態の第1変形例の補強部材の斜視構造を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態の第1変形例のスパークプラグにおける補強部材の組み付け例を示す正面図である。
【
図8】
図8は、第1実施形態の第1変形例のスパークプラグにおけるハウジング周辺の正面構造を示す正面図である。
【
図9】
図9は、第1実施形態の第2変形例のスパークプラグにおけるハウジング周辺の正面構造を示す正面図である。
【
図10】
図10は、第2実施形態のスパークプラグにおけるハウジング周辺の正面構造を示す正面図である。
【
図11】
図11は、第2実施形態のスパークプラグにおけるハウジング周辺の断面構造を示す断面図である。
【
図13】
図13は、第2実施形態の変形例のスパークプラグにおけるハウジング周辺の正面構造を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、スパークプラグの一実施形態について図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
<第1実施形態>
はじめに、スパークプラグの第1実施形態について説明する。
図1に示される本実施形態のスパークプラグ10は、車両のエンジンヘッドに取り付けられて、電圧の印加に基づき火花放電を形成することによりエンジンの気筒内の混合気を着火するために用いられる。スパークプラグ10は、ハウジング11と、絶縁碍子12と、中心電極13と、接地電極14とを備えている。
【0016】
ハウジング11は、炭素鋼等の金属材料により、スパークプラグ10の中心軸m10を中心に円筒状に形成されている。ハウジング11の内部には、絶縁碍子12の下端部が同軸上に挿入されている。
絶縁碍子12は、アルミナ等の絶縁材料により中心軸m10を中心に円筒状に形成されている。絶縁碍子12の外周部分にはハウジング11が一体的に組み付けられている。絶縁碍子12の内部に形成される貫通孔121には、中心電極13、ガラスシール15、抵抗体16、及び端子金具17が挿入されて保持されている。
【0017】
中心電極13は電極母材131と電極チップ132とを有している。電極母材131は、耐熱性に優れるニッケル(Ni)合金等により、中心軸m10を中心に円柱状に形成されている。具体的には、電極母材131の内材は銅により形成され、その外材はニッケル合金により形成されている。電極母材131の先端部は絶縁碍子12の下端から露出している。電極チップ132は電極母材131の先端部に接合されている。電極チップ132は、中心軸m10を中心に円柱状に形成されている。電極チップ132は、高融点で耐消耗性に優れたイリジウム(Ir)を主材料として、イリジウムの高温揮発性を抑制するためにロジウム(Rh)を含むイリジウム合金等により形成されている。
【0018】
抵抗体16は、カーボン又はセラミック粉末等の抵抗材及びガラス粉末を含む抵抗体組成物を加熱封着することにより形成する、あるいはカードリッジ型抵抗体を挿入することにより構成することができる。ガラスシール15は、ガラスに銅粉を混入させてなる銅ガラスからなる。抵抗体16の基端側にはガラスシール15を介して端子金具17が配置されている。端子金具17は例えば鉄合金からなる。端子金具17は、スパークプラグ10を点火コイルに電気的に接続するための端子である。
【0019】
接地電極14は電極母材141と貴金属チップ142とを有している。電極母材141はニッケル合金等により形成されている。電極母材141はハウジング11の下端面に一体的に取り付けられている。電極母材141はハウジング11の下端面から湾曲して延びるように形成されている。電極母材141の先端部は中心電極13の電極チップ132に対向するように位置している。貴金属チップ142は電極母材141の先端部に接合されている。貴金属チップ142は、イリジウム合金や白金合金等の貴金属合金、例えばPt-20Ir材等により形成されている。貴金属チップ142は、所定の隙間を有して中心電極13の電極チップ132に対向して配置されている。
【0020】
このスパークプラグ10では、高電圧を印加する外部回路が端子金具17に接続される。外部回路により端子金具17に高電圧が印加されると、中心電極13の電極チップ132と接地電極14の貴金属チップ142との間に火花放電が形成される。このスパークプラグ10が形成する火花放電によりエンジンの気筒内の混合気が着火することにより混合気が燃焼する。
【0021】
次に、ハウジング11の構造について詳しく説明する。なお、以下では、便宜上、中心軸m10に沿った方向におけるハウジング11の両端部のうち、接地電極14に近い側に配置される端部を先端部111と称し、その反対側の端部を基端部112と称する。また、ハウジング11の先端部111から基端部112に向かう方向を上方と称し、その逆の方向を下方とも称する。
【0022】
図2に示されるように、ハウジング11の外周面には、その先端部111から基端部112に向かって順に、ねじ部20と、ねじ盗み部21と、胴部22と、座屈部23と、工具係合部24と、加締め部25とが設けられている。
ねじ部20は、ハウジング11の先端部111から中間部までの部位の外周面に形成された雄ねじ部である。ねじ部20を、エンジンヘッドブロックに形成される雌ねじ部にねじ込むことで、スパークプラグ10をエンジンヘッドブロックに固定することができる。
【0023】
ねじ盗み部21は、ねじ部20に対してハウジング11の基端部112の側に隣接して設けられている。ねじ盗み部21は、ねじ部20の外径よりも小さい外径を有する部分である。ねじ盗み部21は、ハウジング11の外周面に切削工具を用いてねじ部20を形成する際に、その切削工具を逃がすための部分である。
図3に示されるように、ねじ盗み部21には円環状のガスケット30が挿入される。
【0024】
図2に示されるように、胴部22は、ねじ盗み部21に対してハウジング11の基端部112の側に隣接して設けられている。胴部22は、ねじ部20の外径よりも大きい外径を有している。胴部22は、スパークプラグ10がエンジンヘッドブロックに装着された際に、ガスケット30を介してエンジンヘッドブロックに押し付けられる部分である。
【0025】
図3に示されるように、ハウジング11の基端部112の内周面と絶縁碍子12の外周面との間には隙間が形成されている。この隙間には、Oリング等からなるリング部材40,41と、粉末状のタルク50とが収容されている。詳細には、ハウジング11の中心軸m10に沿った方向におけるタルク50の両端にリング部材40,41がそれぞれ配置されている。リング部材40,41及びタルク50は、ハウジング11の基端部112と絶縁碍子12の外周面との間に形成される隙間をシールしている。
【0026】
加締め部25は、ハウジング11の基端部112を所定の治具を用いて加締め加工することにより形成される部分である。加締め部25により、ハウジング11の基端部112の内周面と絶縁碍子12の外周面との間に形成される隙間にリング部材40,41及びタルク50が封入されて固定されている。
【0027】
図2に示されるように、工具係合部24は、加締め部25に対してハウジング11の先端部111の側に隣接して設けられている。工具係合部24は、スパークプラグ10をエンジンヘッドブロックに締結する際に所定の工具が係合される部分である。本実施形態の工具係合部24の外周面は、六角棒スパナ等の工具を係合させることができるように正六角形状に形成されている。
【0028】
座屈部23は胴部22と工具係合部24との間に設けられている。
図3に示されるように、座屈部23の板厚はハウジング11の他の部位の板厚と比較して薄くなっている。座屈部23は、胴部22と工具係合部24との間に設けられる座屈溝部26の底壁部を座屈変形させることにより形成される部分であって、外側に向かって湾曲した形状を有している。座屈部23を形成することにより、その部分におけるハウジング11の強度が加工硬化により高まるため、より強固にハウジング11を絶縁碍子12に固定することができる。
【0029】
本実施形態のスパークプラグ10では、絶縁碍子12に対してハウジング11が以下のように装着される。まず、ハウジング11の内部に絶縁碍子12を挿入した後、
図3に示されるようにハウジング11の基端部112の内周面と絶縁碍子12の外周面との間に形成される隙間にリング部材40,41及びタルク50を配置する。その後、所定の治具を用いてハウジング11の基端部112に矢印F11で示される方向の押圧力を付与することにより、ハウジング11の基端部112に加締め部25を形成する。
【0030】
一方、ハウジング11の座屈部23が座屈変形させられる前の時点では、座屈部23は円筒状の形状を有している。このとき、ねじ盗み部21及び座屈部23のそれぞれの強度は「座屈部23の強度<ねじ盗み部21の強度」なる関係を満たしている。そのため、所定の治具を用いてハウジング11の基端部112に矢印F11で示される方向の押圧力を更に付与すると、ねじ盗み部21が座屈変形するよりも前に座屈部23が
図3に示されるように座屈変形する。これにより、加工硬化により座屈部23の強度が高められるため、ねじ盗み部21及び座屈部23のそれぞれの強度は「座屈部23の強度>ねじ盗み部21の強度」なる関係を満たすようになる。
【0031】
このようにしてスパークプラグ10の製造が完了した後、スパークプラグ10をエンジンヘッドブロックに組み付ける際には、まず、ハウジング11のねじ部20をエンジンヘッドブロックの雌ねじ穴に挿入する。その後、ハウジング11の工具係合部24に六角棒スパナ等の工具を係合させて、その工具を用いてハウジング11のねじ部20をエンジンヘッドブロックの雌ねじ穴にねじ込む。これにより、スパークプラグ10がエンジンヘッドブロックに締結されて固定される。スパークプラグ10がエンジンヘッドブロックに締結される際に、ハウジング11のねじ盗み部21の外周に配置されるガスケット30が胴部22の底面220とエンジンヘッダブロックとの間に押しつぶされるようにして変形する。これにより、ハウジング11の胴部22の底面220とエンジンヘッダブロックとの間に形成される隙間がガスケット30によりシールされる。
【0032】
ところで、このようなスパークプラグ10では、その小型化を図ろうとすると、座屈部23を薄肉化せざるを得ない。そのため、座屈部23の強度が著しく低下してしまい、座屈部23を座屈変形させる際に、意図しない変形が座屈部23に発生する可能性がある。これは座屈部23の強度を低下させる要因となる。座屈部23の強度が低下すると、座屈部23が破断し易くなるため、ハウジング11の内部に収容される絶縁碍子12が外部に飛び出す等の不具合が発生するおそれがある。
【0033】
そこで、本実施形態のスパークプラグ10では、
図3に示されるように、ハウジング11の座屈溝部26に補強部材60を装着することにより、座屈部23を補強するようにしている。以下、補強部材60について詳しく説明する。
図3に示されるように、補強部材60は、工具係合部24の外形と略同一の外形を有しており、中心軸m10を中心として六角環状に形成されている。補強部材60は、ハウジング11と同一の材料、例えば炭素鋼により形成されている。なお、補強部材60は、ハウジング11とは異なる材料により形成されていてもよい。
【0034】
図4に示されるように、補強部材60は2つの補強片61,62により構成されている。各補強片61,62は、補強部材60の半分の形状、すなわち六角環状の半分の形状を有している。各補強片61,62の内周面には溝610,620がそれぞれ形成されている。中心軸m10を中心とする周方向Cに直交する溝610,620の断面形状はハウジング11の座屈部23の外形に対応するように円弧状に形成されている。
【0035】
図3に示されるように、各補強片61,62は座屈溝部26に挿入されている。
図5に示されるように、各補強片61,62の当接部分B11、各補強片61,62と工具係合部24との当接部分B21,B22、及び各補強片61,62と胴部22との当接部分B31,B32はレーザ溶接により互いに接合されている。この接合構造により補強部材60は、座屈溝部26に挿入された状態でハウジング11に固定されている。
【0036】
以上説明した本実施形態のスパークプラグ10によれば、以下の(1)~(3)に示される作用及び効果を得ることができる。
(1)座屈溝部26に挿入される補強部材60によりハウジング11の座屈部23の強度を補うことができる。結果的に、ハウジング11の強度を確保することができる。また、座屈溝部26に補強部材60を挿入すれば、ハウジング11の外周面から補強部材60が大きく突出することがないため、スパークプラグ10を小型化することができる。
【0037】
(2)補強部材60は、座屈溝部26に挿入される六角環状の部材からなる。この構成によれば、座屈部23を補強部材60により囲繞することができるため、より的確に座屈部23の強度を補うことができる。
(3)補強部材60は、分割された複数の補強片61,62により構成されている。この構成によれば、座屈溝部26に補強部材60を容易に装着することができる。
【0038】
(第1変形例)
次に、第1実施形態のスパークプラグ10の第1変形例について説明する。
本変形例のスパークプラグ10では、
図6に示される補強部材60が用いられている。
図6に示されるように、補強部材60は、中心軸m10を中心に円環状に形成されるとともに、その一部に切り欠き63を有している。よって、補強部材60は略C字状の形状を有している。
【0039】
本変形例のスパークプラグ10では、補強部材60の切り欠き63からその内部にハウジング11の座屈部23が挿入されることにより、
図7に示されるように座屈部23の外周に補強部材60が装着される。その後、
図8に示されるように、補強部材60の外周面に矢印F12で示される方向の押圧力を付与して補強部材60を座屈溝部26に加締める。さらに、補強部材60と工具係合部24との当接部分、及び補強部材60と胴部22との当接部分をレーザ溶接により互いに接合させる。
図8に示される符号B40は、レーザ溶接により形成される接合部を示している。このような加締め構造及び接合構造により、補強部材60は、座屈溝部26に挿入された状態でハウジング11に固定されている。
【0040】
本変形例のような構造を有する補強部材60を用いた場合であっても、上記の(1)に示される作用及び効果を得ることができる。また、補強部材60が単一部品からなるため、第1実施形態の補強部材60を用いる場合と比較すると、部品点数を削減することが可能である。
【0041】
(第2変形例)
次に、第1実施形態のスパークプラグ10の第2変形例について説明する。
図9に示されるように、本変形例の工具係合部24の外周面はバイヘックス(bi-hex)の形状に形成されている。補強部材60は、工具係合部24の複数の頂点241に対して一つ置きに配置された複数の補強片65により構成されている。各補強片65と胴部22の上面221との当接部分B70、各補強片65と座屈溝部26との当接部分B71,B72、及び座屈溝部26と工具係合部24との当接部分B73はレーザ溶接により接合されている。この接合構造により各補強片65はハウジング11に固定されている。
【0042】
本変形例のような構造を有する補強部材60を用いた場合であっても、上記の(1)及び(3)に示される作用及び効果を得ることができる。
<第2実施形態>
次に、スパークプラグ10の第2実施形態について説明する。以下、第1実施形態のスパークプラグ10との相違点を中心に説明する。
【0043】
本実施形態のスパークプラグ10では、補強部材60が、
図10に示される複数の補強片64により構成されている。各補強片64は、座屈溝部26から加締め部25まで中心軸m10に平行な方向に延びるように形成されている。具体的には、ハウジング11の工具係合部24における複数の頂点241の間に設けられる部分を側壁242とするとき、各補強片64は、座屈溝部26、工具係合部24の側壁242、及び加締め部25に跨がって延びるように形成されている。
【0044】
図11に示されるように、各補強片64は、座屈溝部26において胴部22の上面221に当接している。また、各補強片64は、工具係合部24の側壁242、及び加締め部25にも当接している。各補強片64と胴部22の上面221との当接部分、各補強片64と工具係合部24の側壁242の中央部との当接部分、及び各補強片64と加締め部25との当接部分のそれぞれがレーザ溶接により接合されている。
図10及び
図11に示される符号B50~B52は、レーザ溶接により形成される接合部を示している。この接合構造により各補強片64はハウジング11に固定されている。
【0045】
図10に示されるように、複数の補強片64は、工具係合部24の複数の側壁242のそれぞれの中央部に対応する位置に設けられている。よって、複数の補強片64はハウジング11の周方向Cに所定の間隔をおいて配置されている。
図12は、
図10に示されるXII-XII線に沿った断面構造を示したものである。
図12に示されるように、中心軸m10に直交する補強片64は略五角形状に形成されている。
図12に示される二点鎖線は、中心軸m10に直交する工具係合部24の断面構造の外形を示したものである。中心軸m10から各補強片64の頂点640までの長さL11は、中心軸m10から工具係合部24の各頂点241までの長さL12と略等しくなっている。したがって、各補強片64、換言すれば補強部材60は、工具係合部24の最大外径、具体的には工具係合部24の各頂点640を通る円よりも外側に突出していない。中心軸m10に平行な方向からスパークプラグ10を見たときに、工具係合部24及び補強部材60は略バイヘックスの形状をなしている。
【0046】
以上説明した本実施形態のスパークプラグ10によれば、上記の(1)の作用及び効果に加え、以下の(4)に示される作用及び効果を更に得ることができる。
(4)各補強片64が座屈溝部26だけでなく工具係合部24の側壁242及び加締め部25に係合されているため、座屈部23だけでなく、工具係合部24及び加締め部25の強度を補うことができる。結果的に、ハウジング11の強度を更に高めることができる。
【0047】
(第3変形例)
次に、第2実施形態のスパークプラグ10の変形例について説明する。
図13に示されるように、本変形例の補強部材60は、第1実施形態の補強片61,62の構造と、第2実施形態の補強片64の構造とを組み合わせた形状を有している。
【0048】
具体的には、本変形例の補強部材60は、
図4に示される2つの補強片61,62に分割されて構成されている。各補強片61,62は座屈溝部26に挿入されている。各補強片61,62には、その外周面から工具係合部24の側壁242の中央部及び加締め部25に跨がって延びる延伸部611,621がそれぞれ形成されている。各延伸部611,621は、胴部22の上面221、工具係合部24の側壁242の中央部、及び加締め部25のそれぞれに当接している部分でレーザ溶接により接合されている。
図13に示される符号B60~B62は、レーザ溶接により形成される接合部を示している。なお、接合部B60~B62のそれぞれの形状は、
図11に示される接合部B50~B52のそれぞれの形状と略同一である。
【0049】
このような補強部材60を用いれば、
図10に示されるような補強部材60を用いる場合と比較すると、ハウジング11の座屈部23を更に補強することができるため、ハウジング11の強度を一層高めることが可能となる。
<他の実施形態>
なお、上記実施形態は、以下の形態にて実施することもできる。
【0050】
・第1実施形態の補強部材60は2分割された構造に限らず、3分割以上に分割された構造を有するものであってもよい。
・第2実施形態の各補強片64は、座屈溝部26及び工具係合部24の側壁242にのみ跨がるように形成されていてもよい。
【0051】
・ハウジング11の工具係合部24は、六角形状に限らず、多角形状等、所定の工具を係合可能な形状に形成されていればよい。
・本開示は上記の具体例に限定されるものではない。上記の具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素、及びその配置、条件、形状等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0052】
10:スパークプラグ
11:ハウジング
12:絶縁碍子
20:ねじ部
22:胴部
23:座屈部
24:工具係合部
25:加締め部
26:座屈溝部
60:補強部材
61,62,64:補強片