IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 王子ホールディングス株式会社の特許一覧

特許7528761パルプモールド成形体およびその製造方法
<>
  • 特許-パルプモールド成形体およびその製造方法 図1
  • 特許-パルプモールド成形体およびその製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】パルプモールド成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21J 3/00 20060101AFI20240730BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240730BHJP
   B65D 65/42 20060101ALI20240730BHJP
   D21H 11/12 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
D21J3/00
B65D65/40 D
B65D65/42 A
D21H11/12
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020205717
(22)【出願日】2020-12-11
(65)【公開番号】P2021191911
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2019227538
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020098546
(32)【優先日】2020-06-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 由貴
(72)【発明者】
【氏名】高木 瑞江
(72)【発明者】
【氏名】椎橋 礼子
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-129921(JP,A)
【文献】特開2004-204397(JP,A)
【文献】特開2007-126757(JP,A)
【文献】特開2002-120876(JP,A)
【文献】特開2002-363900(JP,A)
【文献】特開2015-086478(JP,A)
【文献】特開2002-54110(JP,A)
【文献】特開2002-105897(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105568777(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21J 7/00
B65D 65/40
B65D 65/42
D21H 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記要件2を満たし、
パルプモールド成形体のパルプ原料が、木材パルプおよび非木材パルプの混合パルプであり、かつ、パルプ原料中の木材パルプの含有量が20質量%以上80質量%以下であり、
非木材パルプが、バガスおよび竹から選択される少なくともいずれかである、
パルプモールド成形体。
要件2:パルプモールド成形体の外面および内面の少なくともいずれか一面の表面凹凸差Sp+Sv絶対値(ISO 25178)が30μm以下である。
【請求項2】
下記要件1をさらに満たす、請求項1に記載のパルプモールド成形体。
要件1:パルプモールド成形体の外面および内面の少なくともいずれか一面の表面凸の高さSp(ISO 25178)が80μm以下である。
【請求項3】
要件1において、パルプモールド成形体の外面および内面の少なくともいずれか一面の表面凸の高さSp(ISO 25178)が20μm以下である、請求項2に記載のパルプモールド成形体。
【請求項4】
パルプモールド成形体のパルプ原料が、バージンパルプを80質量%以上含有する、請求項1~3のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
【請求項5】
パルプモールド成形体を構成するパルプのカナダ標準ろ水度が100mL以上600mL以下である、請求項1~4のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
【請求項6】
パルプモールド成形体の密度が0.45g/cm以上1.0g/cm以下である、請求項1~5のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
【請求項7】
パルプモールド成形体が1層構成である、請求項1~6のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のパルプモールド成形体を表面加工した、二次加工パルプモールド成形体。
【請求項9】
前記表面加工が、直刷法、ラミネート法、転写法、および蒸着法の少なくとも1つの表面加工法による表面加工である、請求項8に記載の二次加工パルプモールド成形体。
【請求項10】
前記表面加工が、真空ラミネート法およびホットスタンプ転写法の少なくとも1つの表面加工法による表面加工である、請求項8または9に記載の二次加工パルプモールド成形体。
【請求項11】
請求項1~7のいずれかに記載のパルプモールド成形体の製造方法であり、
パルプ懸濁液を準備するパルプ懸濁液準備工程と、
パルプ懸濁液から抄型を介してパルプを抄き上げる抄き上げ工程と、
前記抄き上げ工程後に得られたモールド中間体を加熱しながら第1のプレス金型と前記第1のプレス金型とは反対方向に位置する第2のプレス金型とによりホットプレスするホットプレス工程とを有する、パルプモールド成形体の製造方法。
【請求項12】
前記ホットプレス工程における圧力が、0.1MPa以上3.0MPa以下である、請求項11に記載のパルプモールド成形体の製造方法。
【請求項13】
前記ホットプレス工程における温度が、130℃以上280℃以下である、請求項11または12に記載のパルプモールド成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプモールド成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物等の増加に関わる環境問題の意識の高まりに鑑み、プラスチック容器や金属容器に代わり、各種の包装材料として、パルプを原料として、そのパルプスラリーを湿式吸引成形方式により成形したパルプモールド成形体が注目されている。パルプモールド成形体は、省資源および省エネルギーに貢献し、かつ、廃棄に際してもリサイクル性に優れ、仮に廃棄する場合であっても焼却処理に適するなど、環境保全に貢献する包装材料である。
【0003】
特許文献1には、パルプモールドを構成するパルプ成分中の50~100%(絶乾)がハンター白色度65~85%の脱墨古紙パルプであり、残余のパルプが晒パルプであることを特徴とするパルプモールド包装用材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-119100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
パルプモールド成形体は、耐油性に劣るという問題がある。また、パルプモールド成形体は、表面平滑性に劣り、その結果として、手触り感や口触り感に劣る場合があった。
特許文献1に記載されたパルプモールド成形体は、鮮やかな白さや色調を有するパルプモールドを得ることを目的とするものであり、十分な耐油性や表面平滑性を得られていなかった。
本発明の目的は、耐油性および表面平滑性に優れるパルプモールド成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意検討の結果、表面の凹凸が特定の範囲であるパルプモールド成形体とすることにより、上記の課題が解決されることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の<1>~<13>に関する。
<1> 下記要件1および要件2の少なくともいずれかを満たす、パルプモールド成形体。
要件1:パルプモールド成形体の外面および内面の少なくともいずれか一面の表面凸の高さSp(ISO 25178)が80μm以下である。
要件2:パルプモールド成形体の外面および内面の少なくともいずれか一面の表面凹凸差Sp+Sv絶対値(ISO 25178)が100μm以下である。
<2> 上記要件1および要件2を共に満たす、<1>に記載のパルプモールド成形体。
<3> パルプモールド成形体のパルプ原料が、バージンパルプを80質量%以上含有する、<1>または<2>に記載のパルプモールド成形体。
<4> パルプモールド成形体のパルプ原料が、木材パルプおよび非木材パルプの混合パルプである、<1>~<3>のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
<5> パルプモールド成形体を構成するパルプのカナダ標準ろ水度が100mL以上600mL以下である、<1>~<4>のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
<6> パルプモールド成形体の密度が0.45g/cm以上1.0g/cm以下である、<1>~<5>のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
<7> パルプモールド成形体が1層構成である、<1>~<6>のいずれかに記載のパルプモールド成形体。
<8> <1>~<7>のいずれかに記載のパルプモールド成形体を表面加工した、二次加工パルプモールド成形体。
<9> 前記表面加工が、直刷法、ラミネート法、転写法、および蒸着法の少なくとも1つの表面加工法による表面加工である、<8>に記載の二次加工パルプモールド成形体。
<10> 前記表面加工が、真空ラミネート法およびホットスタンプ転写法の少なくとも1つの表面加工法による表面加工である、<8>または<9>に記載の二次加工パルプモールド成形体。
<11> <1>~<7>のいずれかに記載のパルプモールド成形体の製造方法であり、パルプ懸濁液を準備するパルプ懸濁液準備工程と、パルプ懸濁液から抄型を介してパルプを抄き上げる抄き上げ工程と、前記抄き上げ工程後に得られたモールド中間体を加熱しながら第1のプレス金型と前記第1のプレス金型とは反対方向に位置する第2のプレス金型とによりホットプレスするホットプレス工程とを有する、パルプモールド成形体の製造方法。
<12> 前記ホットプレス工程における圧力が、0.1MPa以上3.0MPa以下である、<11>に記載のパルプモールド成形体の製造方法。
<13> 前記ホットプレス工程における温度が、130℃以上280℃以下である、<11>または<12>に記載のパルプモールド成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耐油性および表面平滑性に優れるパルプモールド成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例で作製したパルプモールド蓋の斜視図である。
図2図2は、実施例で作製した包装用ボックスの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[パルプモールド成形体]
本発明のパルプモールド成形体は、下記要件1および要件2の少なくともいずれかを満たす。
要件1:パルプモールド成形体の外面および内面の少なくともいずれか一面の表面凸の高さSp(ISO 25178)が80μm以下である。
要件2:パルプモールド成形体の外面および内面の少なくともいずれか一面の表面凹凸差Sp+Sv絶対値(ISO 25178)が100μm以下である。
本発明において、パルプモールド成形体が上記の要件1および要件2のいずれかを満たすことにより、耐油性および表面平滑性に優れたパルプモールド成形体が得られる。
上述の効果が得られる詳細な理由は不明であるが、一部は以下のように考えられる。要件1および要件2の少なくともいずれかを満たすことにより、パルプモールド成形体の表面の平均面からの凸の高さまたは凹凸差が小さくなり、これにより、表面の毛羽立ち等が抑制され、表面平滑性に優れたパルプモールド成形体が得られる。また、上述のような表面特性を有するパルプモールド成形体は、耐油性にも優れるものであった。これは、上記のようなSpまたはSp+Sv(絶対値)を得るためには、パルプモールド成形体の製造時のプレス圧力を高く設定する必要があり、また、パルプ原料として、特定のパルプ原料を適用することが好ましいことから、結果として、耐油性にも優れるパルプモールド成形体が得られたものと考えられる。
以下、本発明について説明する。
【0010】
なお、以下の説明において、表面凸の高さSpを単にSpともいい、表面凹の深さSvを単にSvともいう。また、表面凹凸差Sp+Sv(絶対値)を、単にSp+|Sv|ともいう。
ここで、表面凸の高さSp、表面凹の深さSvは、ISO 25178に準拠して測定される。
Spは、表面の平均面からの高さの最大値を意味し、本発明において、測定箇所(10箇所、1箇所当たりの測定面積=10mm×10mm)をランダムに選択して、それぞれの測定箇所で得られたSpを、Sp1、Sp2、Sp3・・・・Sp10としたとき、以下の式(1)により求められる。
表面凸の高さSp=(Sp1+Sp2+Sp3+・・・+Sp10)/10 (1)
また、同様にして測定箇所(10箇所、1箇所当たりの測定面積=10mm×10mm)をランダムに選択して、それぞれの測定箇所で得られたSvをSv1、Sv2、Sv3、・・・・Sv10としたとき、Svは以下の式(2)により求められる。
表面凹の深さSv=(Sv1+Sv2+Sv3+・・・+Sv10)/10 (2)
ここで、Svは、表面の平均面からの深さの最大値であることから、一般に負の値で表す。
したがって、表面凹凸差Sp+Sv(絶対値)は、Sp+|Sv|で表される。
なお、測定対象が1000mm以下の面積の場合は、測定箇所を減らし、それぞれの測定箇所における測定面積は、100mmとする。また、幅が10mm未満の場合は測定面積が100mmとなるように、長方形で測定を行ってもよい。
【0011】
<要件1>
要件1は、ISO 25178に準拠して測定される、パルプモールド成形体の外面および内面の少なくともいずれか一面の表面凸の高さSpが80μm以下であるとの要件である。
Spは、表面平滑性の観点から、好ましくは75μm以下、より好ましくは65μm以下、さらに好ましくは50μm以下、よりさらに好ましくは30μm以下、よりさらに好ましくは20μm以下、よりさらに好ましくは10μm以下、よりさらに好ましくは5μm以下である。下限はとくに限定されないが、製造容易性の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上である。
Spは、実施例に記載の方法により、ISO 25178に準拠して測定される。
【0012】
<要件2>
要件2は、ISO 25178に準拠して測定される、パルプモールド成形体の外面および内面の少なくともいずれか一面の表面凹凸差Sp+Sv(絶対値)が100μm以下であるとの要件である。
Sp+Sv(絶対値)は、表面平滑性の観点から、100μm以下、好ましくは95μm以下、より好ましくは90μm以下、さらに好ましくは80μm以下、よりさらに好ましくは60μm以下、よりさらに好ましくは40μm以下、よりさらに好ましくは30μm以下、よりさらに好ましくは20μm以下、よりさらに好ましくは10μm以下である。下限はとくに限定されないが、製造容易性の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。
【0013】
本発明においてパルプモールド成形体は、要件1および要件2の少なくともいずれかを満たせばよいが、少なくとも要件2を満たすことが好ましく、要件1および2を共に満たすことがより好ましい。要件1および要件2を共に満たすことにより、より表面平滑性に優れるパルプモールド成形体が得られる。
なお、パルプモールド成形体の外面とは、後述する第1のプレス金型(雌型)に接する面であり、内面とは、後述する第2のプレス金型(雄型)に接触する面である。
本発明において、パルプモールド成形体の外面および内面のいずれか一面において、Spが80μm以下、およびSp+Sv(絶対値)が100μm以下のいずれかを満たせばよい。これらの中でも、本発明のパルプモールド成形体は、手触りや口触り等の触感に優れることから、手や口が触れる面が、上記の要件を満たすことがより好ましい。また、外面および内面が、要件1および要件2を満たすことが好ましい。
【0014】
<パルプ原料>
本発明のパルプモールド成形体のパルプ原料としては、木材パルプ、非木材パルプ、古紙が例示され、木材パルプ、非木材パルプが好ましく、木材パルプおよび非木材パルプの混合パルプであることがより好ましい。ここで、パルプ原料は、パルプモールド成形体を構成するパルプである。
木材パルプとしては、一般に製紙用途で使用されている木材パルプが挙げられ、その調製法の違いにより、クラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)、ソーダパルプ(AP)等の化学パルプ;セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグランドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ;砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)、リファイナーグランドウッドパルプ(RGP)等の機械パルプ;等に分類される。
木材パルプとしては、原料により、針葉樹パルプおよび広葉樹パルプが例示される。針葉樹パルプとしては、モミ属、マツ属等から得られるパルプが例示される。また、広葉樹パルプとしては、アカシア属、ユーカリ属、ヤマナラシ属(たとえば、ポプラ)等から得られるパルプが例示される。
これらの中でも、木材パルプとしては、針葉樹クラフトパルプ(NKP)、広葉樹クラフトパルプ(LKP)がより好ましい。
【0015】
本発明において、広葉樹パルプとしては、得られるパルプモールド成形体の平滑性の観点から、アカシア属およびユーカリ属の木材パルプが好ましい。広葉樹パルプは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明において、針葉樹パルプとしては、マツ属の針葉樹パルプが好ましく、ラジアータパインがより好ましい。パルプ原料として、針葉樹パルプを含有することにより、より強度に優れたパルプモールド成形体が得られる。針葉樹パルプは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0016】
パルプ原料が木材パルプと非木材パルプとの混合パルプである場合、パルプ原料中の木材パルプの含有量は、パルプモール成形体の表面平滑性および耐油性をより向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15質量%以上、よりさらに好ましくは20質量%以上、よりさらに好ましくは45質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは80質量%以下、よりさらに好ましくは55質量%以下である。
【0017】
非木材パルプは、植物の皮、茎、葉、葉鞘から採取した繊維である。具体的には、コットンリンター、木綿、リネン、大麻、ラミー、わら、エスパルト、マニラ麻、ザイザル麻、黄麻、亜麻、ケナフ、竹、バガス、がんぴ、みつまた、こうぞ、桑から得られるパルプが挙げられる。
非木材パルプは、パルプモールド成形体の耐油性を向上させる観点から、バガスおよび竹から選択される少なくともいずれかを含むことが好ましく、バガスおよび竹から選択される少なくともいずれかであることがより好ましく、バガスであることがさらに好ましい。
パルプ原料が木材パルプと非木材パルプとの混合パルプである場合、パルプ原料中の非木材パルプの含有量は、パルプモールド成形体の表面平滑性および耐油性をより向上させる観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、よりさらに好ましくは45質量%以上であり、そして、好ましくは95質量%以下、より好ましくは90質量%以下、さらに好ましくは85質量%以下、よりさらに好ましくは80質量%以下、よりさらに好ましくは55質量%以下である。
【0018】
本発明において、パルプ原料はバージンパルプを80質量%以上含有することが好ましい。バージンパルプの含有量を80質量%以上とすることにより、より表面平滑性に優れるパルプモールド成形体が得られる。パルプ原料中のバージンパルプの含有量は、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、よりさらに好ましくは95質量%以上であり、そして、100質量%以下であり、よりさらに好ましくは100質量%である。
バージンパルプとしては、特に限定されないが、たとえば、晒しパルプ、半晒しパルプが好ましい。
なお、未晒しパルプは、リグニンの残留量が多く、白色度が低く、装飾性に劣る傾向にある。したがって、パルプ原料中の未晒しパルプの含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、よりさらに好ましくは含有しないこと(0質量%)である。
一方、強度、汚れの目立ちにくさ、自然な風合いなどが求められる用途においては、未晒しパルプを使用することが好ましい。この際、パルプ原料中の未晒しパルプの含有量は、好ましくは20質量%超、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である(上限100質量%)。この場合において、晒しパルプおよび半晒しパルプの少なくとも一方を未晒しパルプと併用してもよい。
また、パルプ原料として、マーセルパルプ、架橋パルプを含有すると、パルプモールド成形体の強度が低下したり、密度が低下する傾向がある。したがって、パルプ原料中のマーセルパルプおよび架橋パルプの含有量は、それぞれ、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、よりさらに好ましくは含有しないこと(0質量%)である。
古紙パルプは、インキの残留量が多く、分散性に劣る傾向がある。また、古紙の繊維は毛羽立ち、変形している傾向にある。また、古紙パルプは白色度が低く、インキがパルプ繊維上に残留したまま細長く黒く見える未脱墨繊維が存在し、黒ひげが発生する傾向にある。また、灰色に見えるビニール等や、黒色斑点スポットが残留しているためにチリが見られる。その結果として、得られるパルプモールド成形体の外観や、表面平滑性が低下する傾向にあることから、パルプ原料中の古紙パルプの含有量は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、よりさらに好ましくは含有しないこと(0質量%)である。
【0019】
本発明において、パルプ原料のカナダ標準ろ水度は、パルプ原料の生産性、およびパルプモールド成形体を製造時の抄紙性の観点から、好ましくは100mL以上、より好ましくは150mL以上、さらに好ましくは200mL以上であり、そして、表面平滑性の観点から、好ましくは600mL以下、より好ましくは520mL以下、さらに好ましくは450mL以下、よりさらに好ましくは400mL以下、よりさらに好ましくは300mL以下である。
カナダ標準ろ水度が上記範囲内となるように、叩解の程度を調整すればよい。
カナダ標準ろ水度は、JIS P 8121-2:2012に準拠して測定される。
【0020】
<その他の成分>
パルプモールド成形体は、上述したパルプを主原料として形成されている。パルプモールド成形体は、パルプ100%から形成されていてもよいが、パルプに加えて、各種内添助剤等の他の材料を添加することが可能である。
他の成分としては、タルク、カオリン等の無機物、ガラス繊維やカーボン繊維等の無機繊維、ポリオレフィン等の合成樹脂の粉末または繊維、カルボキシメチルセルロース等の多糖類、サイズ剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤、耐油剤、歩留剤、濾水向上剤、嵩高剤、硫酸バンド、pH調整剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤、顔料等の着色剤等が例示される。他の成分として、サイズ剤を含有することが好ましい。
【0021】
サイズ剤としては、ロジン系サイズ剤(たとえば、酸性ロジン系サイズ剤、中性ロジン系サイズ剤)、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、スチレン-(メタ)アクリレート共重合体などのスチレン含有ポリマーが挙げられ、アルキルケテンダイマーが好ましい。
【0022】
湿潤紙力増強剤としては、内添用の湿潤紙力増強剤として、ポリアミドアミン・エピクロロヒドリン樹脂、エポキシ化ポリアミドポリアミン、ジアルデヒドでんぷん、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミン-ホルムアルデヒド、ポリアクリルアミド、メチロール化ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン等が例示される。
また、撥水剤としては、ワックスエマルジョン、金属石けん(ナトリウム、カリウム、亜鉛、リチウム、マグネシウム等のアルカリ塩)、脂肪酸クロム錯塩(ミリスチン錯塩、ステアリン酸クロミッククロライド錯塩等)、ジルコニウム撥水剤、シリコーンエマルジョン等が例示される。
本発明のパルプモールド成形体は、非木材パルプを含有する場合、パルプ原料のみで耐油性を向上させることが可能であることから、湿潤紙力増強剤および撥水剤の添加量を減少しても、または添加しなくても、十分な耐油性を得ることが可能である。なお、より高い耐油性および耐水性を得ることを目的として、湿潤紙力増強剤または撥水剤を添加する態様を排除するものではない。
【0023】
<密度>
本発明のパルプモールド成形体の密度は、表面平滑性および耐油性をより向上させる観点から、密度が好ましくは0.45g/cm以上、より好ましくは0.50g/cm以上、さらに好ましくは0.60g/cm以上であり、そして、好ましくは1.0g/cm以下、より好ましくは0.95g/cm以下である。
パルプモールド成形体の密度は、JIS P 8118:2014に準じて測定することができる。なお、JIS P 8118:2014は紙や板紙に用いる方法であり、本発明においては、サンプルの大きさが規定通りに取れないことがあり、その際にはサンプルサイズを適宜調整して測定に用いる。坪量はJIS P 8124:2011に準じて測定するが、サンプルサイズの調整も前記同様である。測定には成形体の平面部分を用いる。
【0024】
本発明のパルプモールド成形体は、後述する抄き上げ工程を複数回行ったり、ホットプレス工程において、複数のモールド中間体をホットプレスすることにより、複数層の構成としてもよいが、表面平滑性および耐油性により優れる観点から、1層構成とすることが好ましい。
【0025】
<二次加工パルプモールド成形体>
本発明のパルプモールド成形体を表面加工して、二次加工パルプモールド成形体としてもよい。なお、本発明において、二次加工パルプモールド成形体とは、パルプモールド成形体に、表面加工を施したものである。なお、本発明のパルプモールド成形体は、表面平滑性に優れるため、表面加工を容易に施すことができるという利点をも有する。
二次加工の方法としてはとくに限定されず、パルプモールドの表面加工が可能な方法であればとくに限定されないが、二次加工パルプモールド成形体は、直刷法、ラミネート法、転写法、および蒸着法の少なくとも1つの表面加工法により表面加工されたものであることが好ましく、直刷法、ラミネート法、および転写法の少なくとも1つの表面加工法により表面加工されたものであることがより好ましく、ラミネート法および転写法の少なくとも1つの表面加工法により表面加工されたものであることがさらに好ましい。
なお、これらの方法に限定されず、予め印刷されたシール等を貼付してもよい。
【0026】
(直刷法)
直刷法は、色、柄、模様等の付与や、防水性、防湿性等の付与を目的として、直接パルプモールド成形体の表面にインクや樹脂を付与するものであり、含浸、印刷等により、パルプモールド成形体を表面加工する方法が挙げられる。
印刷としては、ゴム版や樹脂版による凸版印刷、シルクスクリーン印刷、タンポ印刷、静電印刷、熱転写印刷などのいずれの印刷手段であってもよい。印刷により、得られたパルプモールド成形体の表面に、図柄や文字等を設けることができる。
また、パルプモールド成形体への刷毛、スプレーなどによって直刷してもよい。これらの中でも、均一に樹脂等を付与する観点から、スプレー塗布が好ましい。スプレー塗布はエアスプレー、エアレススプレー、静電スプレー等のいずれにより行ってもよい。
パルプモールド成形体の表面に防水・防湿性を付与する場合には、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、オレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂等の樹脂を固形分に含む水系エマルジョン塗料、またはこれらの樹脂の水溶液塗料若しくは有機溶剤系塗料等を塗工すればよい。
【0027】
(ラミネート法)
ラミネート加工は、樹脂フィルムで被覆することにより行われることが好ましく、使用される樹脂フィルムとしては、ポリエチレンやポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル等のポリビニル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル等の熱可塑性樹脂フィルム、変性ポリエチレンテレフタレート、脂肪族ポリエステル等の生分解性樹脂フィルムが挙げられる。製造コスト、成形性等を考慮すると、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、環境に配慮した廃棄性の点からは、生分解性樹脂フィルムが好ましい。ラミネート加工は、これらの樹脂フィルムの2種以上を積層させて形成してもよい。
樹脂フィルムの厚みはとくに限定されないが、10μm以上300μm以下であることが好ましい。
【0028】
上記の樹脂フィルムをラミネート加工することにより、耐水性、耐油性、ガスバリア性等の機能を向上または付与することができる。
また、ラミネート加工する樹脂フィルムに、予め絵柄を印刷してもよく、着色性のある顔料、微細粒子(パール顔料、ホログラム等)、夜光染料・夜光顔料等を添加しておいてもよい。このような樹脂フィルムを使用することにより、パルプモールド成形体の表面に、光沢性や意匠性を付与することができる。
【0029】
ラミネート加工は、パルプモールド成形体に対して押出ラミネーション、熱ラミネーション、ドライラミネーション、またはウェットラミネーション等の公知の方法で行えばよい。
これらの中でも、熱ラミネーションが好ましく、真空ラミネーション、真空プレスが好ましく、真空ラミネーションがより好ましい。
真空ラミネーションは、基材側(パルプモールド側)からの吸引により、その上部に置かれたシートを変形させてラミネートを行ってもよく、また、予め真空にされた上下チャンバーを樹脂フィルムで2分割しておき、樹脂フィルム加熱装置を備えた上部チャンバーを圧空とすることにより、下部チャンバーに置かれた基材(パルプモールド成形体)にラミネートする方法でもよい。
また、真空プレスは、シリコンラバー等を基材(パルプモールド成形体)側からの真空吸引、場合により上部より圧空力を加えて基材形状に変形させ、シリコンゴム等と基材との間に挟まれた樹脂フィルムがシリコンゴムの圧力により基材にラミネートされる。
また、樹脂フィルムを、パルプモールド成形体の形状に合わせて、金型により予備成形し、パルプモールド成形体とラミネートしてもよい。
【0030】
ラミネート加工は、従来公知の方法で行えばよく、真空ラミネーション装置としては、TOM成形機(布施真空株式会社製)などが例示される。
また、ラミネーションの際の温度、圧力などの条件は、ラミネートする樹脂フィルムの素材および厚み、基材の形状、接着剤の有無等により適宜選択すればよいが、たとえば、ヒーターの加熱温度は80~200℃で、貼合を行う。
【0031】
ラミネートの際に、樹脂フィルムとパルプモールド成形体との間に、接着剤を付与してもよく、また、付与しなくてもよい。接着剤としては、ポリウレタン系接着剤、ポリアクリル系接着剤、ポリエステル系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリ酢酸ビニル系接着剤、セルロース系接着剤、その他のラミネート用接着剤をしようすることができる。接着剤を付与する場合には、接着剤に着色性を有する顔料、パール顔料、微細粒子(ホログラム等)、夜光顔料、夜光染料等を添加してもよい。
【0032】
(転写法)
転写法としては、ホットスタンプ転写法、インモールド転写法、水圧転写法などの種々の転写法が例示され、乾式転写法、湿式転写法のいずれでもよい。またインモールド転写法において、予備成形工程を加えてもよい。
転写法の中では、ホットスタンプ転写法(以下、単に「ホットスタンプ法」ともいう)が好ましい。ホットスタンプ法は、「箔」と呼ばれる金属を蒸着したり、顔料を塗布したフィルムを使用し、箔表面に設けた熱接着層を介して基材に熱転写する方法である。ホットスタンプ法に使用される箔は、離型性を有するベースフィルム(たとえば、二軸延伸ポリエステルフィルム)、剥離層(保護層)、絵柄層・蒸着層、熱接着層の順に積層されており、必要に応じて、ベースフィルムと保護層との間に離形層が設けられる。ホットスタンプ法としては、(i)アップダウン方式、(ii)ロール転写方式が挙げられ、熱圧の存在する部分の絵柄層・蒸着層が、基材(パルプモールド成形体)に転移するという原理は同じである。アップダウン方式では、ヒーターが内蔵された型板を、ベースフィルム側から基材に押し付け、熱接着層を介して、絵柄層・蒸着層を基材に転写する。同様に、ロール転写方式では、加熱したローラをベースフィルム側から押し付けることで、絵柄層・蒸着層を基材に転写する。また、ベースフィルム側に研削加工、艶差処理、凹凸加工等を施すことにより、転写時に、絵柄層、蒸着層に賦形(凹凸を付す)を行うことも可能である。
【0033】
(蒸着)
蒸着は、従来公知の蒸着法を採用すればよく、物理蒸着でも化学蒸着でもよく、とくに限定されないが、パルプモールド成形体に金属光沢を付与する目的で蒸着することが好ましく、物理蒸着である真空蒸着がより好ましい。
蒸着材料は、アルミニウム、クロム、亜鉛、金、銀、プラチナ、ニッケルなどの金属類、SiO、TiO、ZrO、MgFなどの酸化物やフッ化物を使用することが好ましい。
蒸着層の厚みは、とくに限定されないが、0.1μm以上であることが好ましい。
【0034】
[パルプモールド成形体の製造方法]
パルプモールド成形体の製造方法はとくに限定されないが、以下の工程1~工程3をこの順で有する製造方法により製造することが好ましい。
工程1:パルプ懸濁液を準備するパルプ懸濁液準備工程
工程2:パルプ懸濁液から抄型を介してパルプを抄き上げる抄き上げ工程
工程3:前記抄き上げ工程後に得られたモールド中間体を加熱しながら第1のプレス金型と前記第1のプレス金型とは反対方向に位置する第2のプレス金型とによりホットプレスするホットプレス工程
工程1では、パルプ原料、サイズ剤等のその他の添加剤を加えて、パルプ懸濁液(パルプスラリー)を調製する。該懸濁液の濃度(スラリー濃度)は、表面平滑性、寸法安定性、および生産性の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、そして、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0035】
工程2は、パルプ懸濁液から抄型を介してパルプを抄き上げる抄き上げ工程である。
パルプ懸濁液中に真空引き通水性構造の金網張り金型などの成形金型を浸漬し、パルプ懸濁液を成形金型に吸引して水を排出させると同時にパルプ繊維を型に積層吸着させて型に対称な立体的な湿紙を形成し、次いで、成形金型をパルプ懸濁液から引き上げ、含水した立体的な湿紙の吸引脱水または加圧脱水を行う。
この際、成形金型面にパルプを積層吸着した成形金型は、真空吸引を続けながら、パルプ吸着面と対向させて、真空吸引をきかせた取り型(離型装置)を接近させ、パルプモールド中間体を圧縮真空吸引して脱水した後、成形金型の真空圧をゼロにして、取り型にパルプモールド中間体を吸着させた状態で取り方を引き戻して離型する。
【0036】
工程3は、前記抄き上げ工程後に得られたモールド中間体を加熱しながら第1のプレス金型と前記第1のプレス金型とは反対方向に位置する第2のプレス金型とによりホットプレスするホットプレス工程である。
工程3は、工程2で得られた脱水後のパルプモールド中間体を、たとえば、多孔質金型からなるホットプレス用の第1のプレス金型に移し変える。前記第1のプレス金型に移し変えられたパルプモールド中間体は、第1のプレス金型と、第1のプレス金型とは反対方向に位置し、第1のプレス金型に係合するホットプレス用の第2のプレス金型とによって加熱、加圧されて、所定のパルプモールド成形体が得られる。
なお、ホットプレス用の第1のプレス金型および第2のプレス金型の少なくとも1つに内部に電熱ヒーターを内蔵させ、それにより前記第1のプレス金型および第2のプレス金型の少なくとも1つを加熱することが好ましい。また、第1のプレス金型および第2のプレス金型を含む金型全体を熱風を導入した炉内に収容することによって、型の内部にも熱風が通過するようにしてもよい。
【0037】
工程3(ホットプレス工程)において、第1のプレス金型および第2のプレス金型によるプレス時の圧力は、表面平滑性に優れるパルプモールド成形体を得る観点から、好ましくは0.1MPa・s以上、より好ましくは0.3MPa以上、さらに好ましくは0.4MPa・s以上、よりさらに好ましくは0.6MPa以上であり、そして、消費電力および装置負荷の観点から、好ましくは3.0MPa・s以下、より好ましくは2.0MPa以下、さらに好ましくは1.5MPa・s以下である。
【0038】
工程3(ホットプレス工程)において、ホットプレス時の温度は、表面平滑性に優れるパルプモールド成形体を得る観点から、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは170℃以上であり、そして、消費電力、装置負荷、および変色抑制の観点から、好ましくは280℃以下、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは230℃以下である。
【0039】
上記のようにして得られたパルプモールド成形体は、さらに、不要部分の断裁、必要に応じて穴あけ等の加工を施されてもよい。
本実施形態のパルプモールド成形体は、ファインモールドと呼ばれる平滑性に優れる成形体であり、優れた耐油性および表面平滑性を生かして、食品、医療品、電子部品等の包装用材料として好適に用いることができる。また、表面平滑性に優れ、表面に印刷、塗工、ラミネート等の加工を施しやすいことから、上記の用途に限定されず、小物入れ、コップの蓋、置物等にも広く応用可能である。
【実施例
【0040】
以下に実施例と比較例とを挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0041】
実施例1
広葉樹パルプであるユーカリ晒しバージンパルプ(LBKP、カナダ標準ろ水度(CSF):500mL)をパルプスラリーにし、該パルプスラリー100質量%に対して、固形分換算でサイズ剤としてAKD(アルキルケテンダイマー、星光PMC株式会社製)を、0.8質量%を添加し、撹拌後にスラリー濃度を0.7質量%に調整した。凝集物を除去するために、該スラリーをろ過し、ろ過後の該スラリー中に、表面に金属メッシュを貼った抄紙金型を沈め、金型内部から真空吸引し、メッシュ上にパルプスラリーを吸い付け、立体的な湿紙を形成した。湿紙を脱水用金型へ移送し、0.7MPaの圧力で加圧脱水し、続いて180℃に加熱された金型へ湿紙を移送し、さらに1.2MPaの圧力で加圧乾燥し、余分の部分を断裁した後、パンチングにより図1に示すパルプモールド蓋を得た。
パルプモールド蓋のサイズ(直径)は、約75mm、厚みは約0.7mm、密度は約0.65g/cmであった。また、実施例2~16、および比較例1~3についても同様であった。
【0042】
実施例2
広葉樹パルプであるユーカリ晒しバージンパルプ(LBKP、カナダ標準ろ水度(CSF):500mL)50質量部と、非木材パルプであるバガス晒しバージンパルプ(カナダ標準ろ水度(CSF):380mL)50質量部とを混合し、パルプスラリーを得た。このパルプスラリー100質量%に対して、固形分換算でサイズ剤としてAKD(アルキルケテンダイマー、星光PMC株式会社製)を、0.8質量%を添加し、撹拌後にスラリー濃度を0.7質量%に調整した。該スラリーを用いて、実施例1と同様に、図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。
【0043】
実施例3
ユーカリ晒しバージンパルプをアカシア晒しバージンパルプに変更した以外は実施例1と同様に図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。
【0044】
実施例4
ユーカリ晒しバージンパルプをアカシア晒しバージンパルプに変更した以外は実施例2と同様に図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。
【0045】
実施例5
ユーカリ晒しバージンパルプのカナダ標準ろ水度(CSF)を350mLに変更した以外は実施例1と同様に図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。
【0046】
実施例6
ユーカリ晒しバージンパルプのカナダ標準ろ水度(CSF)を250mLに変更した以外は実施例1と同様に図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。
【0047】
実施例7
ユーカリ晒しバージンパルプ(LBKP、カナダ標準ろ水度(CSF):500mL)をバガスバージンパルプ(カナダ標準ろ水度(CSF):250mL)に変更した以外は実施例1と同様の方法で図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。
【0048】
実施例8
ユーカリ晒しバージンパルプのカナダ標準ろ水度(CSF)を250mLに、バガス晒しバージンパルプのカナダ標準ろ水度(CSF)を250mLに変更した以外は実施例2と同様に図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。
【0049】
実施例9
広葉樹パルプであるユーカリ晒しバージンパルプ(LBKP、カナダ標準ろ水度(CSF):500mL)45質量部と、古紙パルプ(カナダ標準ろ水度(CSF):500mL)5質量部と、バガス晒しバージンパルプ(カナダ標準ろ水度(CSF):380mL)50質量部とを混合し、パルプスラリーを得た。このパルプスラリー100質量%に対して、固形分換算でサイズ剤としてAKD(アルキルケテンダイマー、星光PMC株式会社製)を、0.8質量%を添加し、撹拌後にスラリー濃度を0.7質量%に調整した。該スラリーを用いて、実施例1と同様に、図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。外見上、古紙由来と思われる黒点がわずかに確認できた。
【0050】
実施例10
ユーカリ晒しバージンパルプ(LBKP、カナダ標準ろ水度(CSF):500mL)をラジアータパイン晒しバージンパルプ(NBKP、カナダ標準ろ水度(CSF):380mL)に変更した以外は実施例1と同様に図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。
【0051】
実施例11
針葉樹パルプであるラジアータパイン晒しバージンパルプ(NBKP、カナダ標準ろ水度(CSF):380mL)50質量部と、バガス晒しバージンパルプ(カナダ標準ろ水度(CSF):250mL)50質量部とを混合し、パルプスラリーを得た。このパルプスラリー100質量%に対して、固形分換算でサイズ剤としてAKD(アルキルケテンダイマー、星光PMC株式会社製)を、0.8質量%を添加し、撹拌後にスラリー濃度を0.7質量%に調整した。該スラリーを用いて、実施例1と同様に、図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。
【0052】
実施例12
広葉樹パルプであるユーカリ晒しバージンパルプ(LBKP、カナダ標準ろ水度(CSF):500mL)をパルプスラリーにし、このパルプスラリー100質量%に対して、固形分換算でサイズ剤としてAKD(アルキルケテンダイマー、星光PMC株式会社製)を、0.8質量%を添加し、撹拌後にスラリー濃度を5.0質量%に調整した。該スラリーを用いて、実施例1と同様に、図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。
【0053】
実施例13
広葉樹パルプであるユーカリ晒しバージンパルプ(LBKP、カナダ標準ろ水度(CSF):500mL)をパルプスラリーにし、このパルプスラリー100質量%に対して、固形分換算でサイズ剤としてAKD(アルキルケテンダイマー、星光PMC株式会社製)を、0.8質量%を添加し、撹拌後にスラリー濃度を2.5質量%に調整した。該スラリーを用いて、実施例1と同様に、図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。
【0054】
実施例14
広葉樹パルプであるユーカリ晒しバージンパルプ(LBKP、カナダ標準ろ水度(CSF):500mL)をパルプスラリーにし、このパルプスラリー100質量%に対して、固形分換算でサイズ剤としてAKD(アルキルケテンダイマー、星光PMC株式会社製)を、0.8質量%を添加し、撹拌後にスラリー濃度を0.5質量%に調整した。該スラリーを用いて、実施例1と同様に、図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。
【0055】
実施例15
広葉樹パルプであるユーカリ晒しバージンパルプ(LBKP、カナダ標準ろ水度(CSF):500mL)をパルプスラリーにし、このパルプスラリー100質量%に対して、固形分換算でサイズ剤としてAKD(アルキルケテンダイマー、星光PMC株式会社製)を、0.8質量%を添加し、撹拌後にスラリー濃度を0.3質量%に調整した。該スラリーを用いて、実施例1と同様に、図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。
【0056】
実施例16
ユーカリ晒しバージンパルプ(LBKP、カナダ標準ろ水度(CSF):500mL)を竹晒しバージンパルプ(カナダ標準ろ水度(CSF):500mL)に変更した以外は実施例1と同様に図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。
【0057】
実施例17
金型を変えて、実施例1と同様の方法で図2に示す包装用ボックスを作製した。
なお、包装用ボックスの箱の内側は、12.7cm×12.7cmであり、箱の外側は16.0cm×16.0cmであり、箱の外側の高さは5.0cm、箱の内側の深さは4.3cmであった。密度は約0.65g/cmであった。
【0058】
実施例18
原料パルプをユーカリ晒しバージンパルプ(カナダ標準ろ水度(CSF)を250mL)に変更した以外は、実施例17と同様の方法で図2に示す包装用ボックスを作製した。
【0059】
実施例19
原料パルプを竹晒しバージンパルプ(カナダ標準ろ水度(CSF):500mL)に変更した以外は、実施例17と同様の方法で図2に示す包装用ボックスを作製した。
【0060】
比較例1
古紙パルプ(カナダ標準ろ水度(CSF):500mL)をパルプスラリーにし、このパルプスラリー100質量%に対して、固形分換算でサイズ剤としてAKD(アルキルケテンダイマー、星光PMC株式会社製)を、0.8質量%を添加し、撹拌後にスラリー濃度を5.0質量%に調整した。該スラリーを表面に金属メッシュを貼った抄紙金型を沈め、金型内部から真空吸引し、メッシュ上にパルプスラリーを吸い付け、立体的な湿紙を形成した。湿紙を脱水用金型へ移送し、0.7MPaの圧力で加圧脱水し、続いて180℃に加熱された金型へ湿紙を移送し、さらに1.2MPaの圧力で加圧乾燥し、余分の部分を断裁した後、図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。外見上、古紙由来と思われる黒点が非常に多い。
【0061】
比較例2
古紙パルプ(カナダ標準ろ水度(CSF):500mL)をパルプスラリーにし、このパルプスラリー100質量%に対して、固形分換算でサイズ剤としてAKD(アルキルケテンダイマー、星光PMC株式会社製)を、0.8質量%を添加し、撹拌後にスラリー濃度を0.7質量%に調整した。該スラリーを用いて、比較例1と同様に、図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。外見上、古紙由来と思われる黒点が非常に多い。
【0062】
比較例3
古紙パルプ(カナダ標準ろ水度(CSF):500mL)50質量部と、非木材パルプであるバガス晒しバージンパルプ(カナダ標準ろ水度(CSF):450mL)50質量部とを混合し、パルプスラリーを得た。このパルプスラリー100質量%に対して、固形分換算でサイズ剤としてAKD(アルキルケテンダイマー、星光PMC株式会社製)を、0.8質量%を添加し、撹拌後にスラリー濃度を0.7質量%に調整した。該スラリーを用いて、比較例1と同様に、図1に示す形状のパルプモールド蓋を得た。外見上、古紙由来と思われる黒点が多い。
【0063】
得られたパルプモールド成形体について、以下の評価を行った。
(表面凸の高さSp、表面凹凸の差Sp+Sv絶対値)
3D形状測定機 VR-3000(KEYENCE)、対応ヘッドVR-3200を用いて、ISO 25178に準じて測定した。
各実施例、比較例で作製したパルプモールド蓋を用意し、ISO 187:1990に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±2%)に、24時間静置し、調温および調湿を行った。各蓋の測定箇所(10mm×10mm:10箇所)をランダムに選び、上記環境で倍率40×で測定を行った。なお、蓋は、図1で見えている面が外面であり、測定は外面について行った。
観察と解析は下記ソフトを用いて行った。
観察アプリケーション(VR-H2V)(KEYENCE)
解析アプリケーション(VR-H2A)(KEYENCE)
各測定箇所において、得られた外面の表面凸の高さSp1、Sp2、Sp3・・・Sp10、と外面の凹部の高さSv1、Sv2、Sv3・・・Sv10を用いて、下記の式にて計算した。
表面凸の高さSp=(Sp1+Sp2+Sp3+・・・+Sp10)/10 (1)
表面凹部の高さSv=(Sv1+Sv2+Sv3+・・・+Sv10)/10 (2)
【0064】
(平滑感)
各実施例、比較例で作製したパルプモールド蓋および包装用ボックスを10個ずつ用意し、ISO 187:1990に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±2%)に、24時間静置し、調温および調湿を行った。
上記環境でパルプモールド蓋および包装用ボックスの表と裏を手で触り、下記のように評価した。
5:非常に平滑で、つるつるしている。
4:表面にわずかに繊維が感じられるが、平滑である。
3:平滑感はあるが、表面に繊維が多く感じられるレベル。
2:平滑感はあるが、表面に繊維が非常に多く感じられるレベル。
1:平滑感がなく、ざらざらしている。
0:1のレベル以下。
表中の数字は10個の平均値(小数点は四捨五入)である。
【0065】
(耐油性)
ヒマシ油/トルエン/ヘプタン=50/25/25の比率で試験液200mL(JAPAN TAPPI No.41:2000のキットナンバー6の配合相当)を作製し、実験に用いた。
各実施例、比較例で作製したパルプモールド蓋を5個ずつ用意し、ISO 187:1990に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±2%)に、24時間静置し、調温および調湿を行った。上記環境でパルプモールド蓋の裏(内面)に、上記試験液を25mmの高さから試薬瓶のスポイド(JAPAN TAPPI No.41:2000と同様の試薬瓶)を用いて、蓋の水平部分に1滴を落とし、15秒後に、パルプモールド蓋の表(外面)から観察した。
4:蓋の表に液の浸透が全く見られなかった
3:蓋の表に液の浸透がわずかに確認されたが、その面積は、裏の液の広がりの15%以下であった
2:蓋の表に液の浸透が見られ、その面積は、裏の液の広がりの15%を超え、50%以下であった
1:蓋の表に液の浸透が見られ、その面積は、裏の液の広がりの50%を超えるものであった
表中の数字は5個の平均値(小数点は四捨五入)である。
【0066】
(口触り)
各実施例、比較例で作製したパルプモールド蓋を5個ずつ用意し、ISO 187:1990に準拠した環境(温度23±1℃、相対湿度50±2%)に、24時間静置し、調温および調湿を行った。蓋を紙コップにかぶせ、上記環境で開孔部から水を飲むような形で口にあて、口に当たった際の感触を評価した。
5:繊維が口に当たる感触がなく、全く違和感がない。
4:わずかではあるが、繊維が口に当たる感じがあるが、違和感はない。
3:繊維が口に当たるが、違和感を感じるほどではない。
2:繊維が口に当たり、少し違和感がある。
1:繊維が口に当たり、違和感がある。
表中の数字は5個の平均値(小数点は四捨五入)である。
【0067】
(厚みおよび密度)
JIS P 8118 :2014に準じて測定を行った。
【0068】
【表1】
【0069】
実施例および比較例の結果から、パルプモールド成形体のSpが80μm以下またはSp+|Sv|が100μm以下のいずれかを満たす実施例では、耐油性および表面平滑性に優れるパルプモールド成形体が得られた。
一方、Spが80μmを超え、かつSp+|Sv|が100μmを超える比較例1~3では、十分な表面平滑性が得られず、口触りも違和感があった。また、耐油性にも劣るものであった。
【0070】
実施例2-1
実施例17で得られた包装用ボックスに対して、真空ラミネーション法を用いて、PETフィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム、東レ株式会社製、フィルム膜厚=70μm)をラミネートし、二次加工パルプモールド成形体を得た。
その結果、表面に艶が出て、意匠性が良好であると共に、耐水性、強度が向上した。
【0071】
実施例2-2
実施例17で得られた包装用ボックスの平坦部に対して、アップダウン式のホットスタンプ法を用いて、アルミ蒸着層を転写し、二次加工モールド成形体を得た。アルミ蒸着層の膜厚は5μmであった。
その結果、意匠性が向上した。
【0072】
実施例2-3
実施例17で得られた包装用ボックスに対して、真空ラミネーション法を用いて、樹脂フィルムの内側に印刷を施したPPフィルム(ポリプロピレン、東レ株式会社製、フィルム膜厚=100μm)をラミネートし、二次加工パルプモールド成形体を得た。
その結果、印刷柄が鮮明で、光沢を持ち、装飾性が向上した。また印刷を樹脂フィルムの内側に施したことで、耐傷性や耐汚染性の表面性能が向上した。
【0073】
実施例2-4
実施例17で得られた包装用ボックスに対して、真空ラミネーション法を用いて、樹脂の外側に印刷を施したPPフィルム(ポリプロピレン、東レ株式会社製、フィルム膜厚=100μm)をラミネートし、二次加工パルプモールド成形体を得た。
その結果、意匠性が向上した。
【0074】
実施例2-5
実施例18で得られた包装用ボックスに対して、真空ラミネーション法を用いて、樹脂の内側に印刷を施したPPフィルム(ポリプロピレン、東レ株式会社製、フィルム膜厚=100μm)をラミネートし、二次加工パルプモールド成形体を得た。
その結果、印刷柄が鮮明で、光沢を持ち、装飾性が向上した。また印刷を樹脂フィルムの内側に施したことで、耐傷性や耐汚染性の表面性能が向上した。
【0075】
実施例2-6
実施例19で得られた包装用ボックスに対して、真空ラミネーション法を用いて、樹脂の内側に印刷を施したPPフィルム(ポリプロピレン、東レ株式会社製、フィルム膜厚=100μm)をラミネートし、二次加工パルプモールド成形体を得た。
その結果、印刷柄が鮮明で、光沢を持ち、装飾性が向上した。また印刷を樹脂フィルムの内側に施したことで、耐傷性や耐汚染性の表面性能が向上し、かつ実施例2-4よりも画像の光沢が優れていた。ただし、パルプモールド成形体と樹脂フィルムとの接着性は、実施例2-3および2-5よりは劣り、印刷された画像に歪みが生じた。これは、パルプモールドの表面平滑性がやや劣るため、パルプモールド成形体と樹脂フィルムとの密着性が低下し、印刷部分と成形体の間にわずかな空間が生まれたためと推察される。また、これにより、ラミネート後のフィルム表面の平滑性も低下した。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のパルプモールド成形体は、表面平滑性、口触りや手触りなどの触感、および耐油性に優れ、食品等の包装材料を含めた、種々の用途への応用が期待される。
図1
図2