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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】光学フィルタ
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/28 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
G02B5/28
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020205756
(22)【出願日】2020-12-11
(65)【公開番号】P2022092825
(43)【公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐原 啓一
(72)【発明者】
【氏名】伊村 正明
(72)【発明者】
【氏名】東條 誉子
【審査官】辻本 寛司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109932773(CN,A)
【文献】米国特許第05398133(US,A)
【文献】特開2009-035780(JP,A)
【文献】特開平10-217377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化シリコン含有膜を有する、光学フィルタであって、
透明基板と、
前記透明基板の一方側主面上に設けられており、前記水素化シリコン含有膜を含むフィルタ部と、
前記透明基板の他方側主面上に設けられており、相対的に屈折率が高い高屈折率膜と、
相対的に屈折率が低い低屈折率膜とを有する反射防止膜と、
を備え、
前記高屈折率膜の材料として、水素化シリコンが用いられており、
前記高屈折率膜における水素化シリコン、及び前記水素化シリコン含有膜における水素化シリコンのスピン密度が1.0×1018個/cm以下である、光学フィルタ。
【請求項2】
前記透明基板と、
前記透明基板の一方側主面上に設けられており、かつ相対的に屈折率が高い高屈折率膜及び相対的に屈折率が低い低屈折率膜を有する多層膜からなる前記フィルタ部と、
を備え、
前記フィルタ部における前記高屈折率膜が、前記水素化シリコン含有膜である、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記フィルタ部における前記低屈折率膜が、酸化ケイ素含有膜である、請求項2に記載の光学フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の波長域の光を選択的に透過させることのできる光学フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特定の波長域の光を選択的に透過させることのできる光学フィルタが、赤外線センサなどの用途で広く用いられている。このような光学フィルタとしては、例えば、多層膜を用いたバンドパスフィルタが知られている。多層膜としては、相対的に屈折率が高い高屈折率膜と、相対的に屈折率が低い低屈折率膜とを交互に繰り返し積層されたものが用いられている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、高屈折率膜の材料として、水素化シリコンが記載されている。また、低屈折率膜の材料として、窒化シリコンが記載されている。水素化シリコン膜が、シランガスを用いて、プラズマCVD(PECVD)で蒸着することにより形成されていることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第5398133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、自動車等の自動運転化を進めることに伴い、自動車等には、レーザーレーダー、特にレーザー光により物体を検知するLiDAR(Light Detection and Ranging)と呼ばれるセンサ等の数多くのセンサの搭載が検討されている。このようなセンサには、例えば、特許文献1に記載のような、近赤外線用の光学フィルタが用いられている。
【0005】
しかしながら、高屈折率膜として特許文献1に記載の水素化シリコンを用いた場合には、光学フィルタの透過率を十分に高めることが困難である。
【0006】
本発明の目的は、透過率を効果的に高めることができる、光学フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る光学フィルタは、水素化シリコン含有膜を有する、光学フィルタであって、水素化シリコンのスピン密度が1.0×1018個/cm以下であることを特徴としている。
【0008】
透明基板と、透明基板の一方側主面上に設けられており、かつ相対的に屈折率が高い高屈折率膜及び相対的に屈折率が低い低屈折率膜を有する多層膜からなるフィルタ部とを備え、高屈折率膜が、水素化シリコン含有膜であることが好ましい。この場合、低屈折率膜が、酸化ケイ素含有膜であることがより好ましい。
【0009】
透明基板の他方側主面上に設けられており、かつ水素化シリコンを含む反射防止膜をさらに備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、透過率を効果的に高めることができる、光学フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態に係る光学フィルタを示す模式的断面図である。
図2】(a)~(c)は、Si原子とH原子との結合状態の例を示す模式図であり、(d)は、Siダングリングボンドを示す模式図である。
図3】水素化シリコンのスピン密度と、吸光度kとの関係を示す図である。
図4】水素化シリコンのスピン密度と、透過率との関係を示す図である。
図5】本発明の第2の実施形態に係る光学フィルタを示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0013】
[光学フィルタ]
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る光学フィルタを示す模式的断面図である。図1に示すように、光学フィルタ1は、透明基板2と、フィルタ部3とを備える。光学フィルタ1は、特に限定されないが、例えば、LiDARなどのセンサに用いられる。
【0014】
透明基板2の形状は、特に限定されないが、本実施形態では矩形板状である。透明基板2の厚みは、例えば、30μm以上、2mm以下とすることができる。
【0015】
透明基板2は、光学フィルタ1の使用波長域で透明な基板であることが好ましい。透明基板2の材料としては、特に限定されず、例えば、ガラス、樹脂等が挙げられる。また、使用波長域が赤外域であれば、SiやGe等であってもよい。ガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、結晶化ガラス、石英ガラス等が挙げられる。また、透明基板2に用いられるガラスは、強化ガラスとして用いられるアルミノシリケートガラスであってもよい。
【0016】
透明基板2は、一方側主面としての第1の主面2a及び他方側主面としての第2の主面2bを有する。第1の主面2a及び第2の主面2bは対向し合っている。透明基板2の第1の主面2a上には、フィルタ部3が設けられている。
【0017】
フィルタ部3は、相対的に屈折率が高い高屈折率膜4と相対的に屈折率が低い低屈折率膜5とを有する、多層膜である。本実施形態では、透明基板2の第1の主面2a上に、低屈折率膜5及び高屈折率膜4がこの順に交互に設けられることにより、多層膜が構成されている。
【0018】
本実施形態において、高屈折率膜4は、水素化シリコン(hydrogenated silicon)含有膜である。なお、高屈折率膜4は水素化シリコン膜であることが好ましい。もっとも、高屈折率膜4の材料は水素化シリコンを含有しておれば上記に限定されず、元素としてAl、Ti、Nb、Ta、Zr、N、C等を含有してもよい。他方、低屈折率膜5は、酸化ケイ素により構成されている。なお、低屈折率膜5の材料は上記に限定されず、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化スズ、窒化シリコン等であってもよい。もっとも、低屈折率膜5は酸化ケイ素含有膜であることが好ましい。
【0019】
高屈折率膜4の1層当たりの厚みとしては、10nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましい。一方で、高屈折率膜4の1層当たりの厚みとしては、1000nm以下であることが好ましく、750nm以下であることがより好ましい。
【0020】
低屈折率膜5の1層当たりの厚みとしては、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましい。一方で、低屈折率膜5の1層当たりの厚みとしては、500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましい。
【0021】
フィルタ部3における多層膜を構成する膜の層数は、16層以上であることが好ましく、20層以上であることがより好ましい。一方で、フィルタ部3における多層膜を構成する膜の層数は、50層以下であることが好ましく、40層以下であることがより好ましい。
【0022】
本実施形態の光学フィルタ1は、このような多層膜からなるフィルタ部3を備えることにより、光の干渉で特定の波長域の光を選択的に透過させるように設計されたバンドパスフィルタである。本実施形態では、通過帯域(透過帯域)の中心波長が800nm~1000nmとなるように設計されている。もっとも、透過帯域の中心波長は、800nm~1000nmの範囲外にあってもよい。
【0023】
本実施形態の特徴は、水素化シリコン含有膜である高屈折率膜4において、水素化シリコンのスピン密度が1.0×1018個/cm以下であるという点にある。すなわち、本願発明者らは、水素化シリコン含有膜中のSiダングリングボンドが少ないと、水素化シリコン含有膜における光の吸収を効果的に抑制でき、水素化シリコン含有膜を用いた場合においても、光学フィルタ1の透過率を効果的に高くすることができることを見出した。詳細を以下において説明する。
【0024】
図2(a)~図2(c)は、Si原子とH原子との結合状態の例を示す模式図である。図2(d)は、Siダングリングボンドを示す模式図である。なお、図2(a)~図2(d)において省略している部分では、Si原子は他のSi原子と結合している。図2(d)においては、電子を示す部分は、電子軌道として模式的に示す。
【0025】
水素化シリコン含有膜においては、図2(a)~図2(d)に示す結合の状態の部分が含まれる。図2(a)に示す場合には、Si原子に1個のH原子が結合している。図2(b)に示す場合には、Si原子に2個のH原子が結合している。図2(c)に示す場合には、Si原子に3個のH原子が結合している。図2(a)~図2(c)に示す場合には、Si原子はH原子または他のSi原子と結合しており、Si原子の全ての価電子は結合に用いられている。なお、水素化シリコン含有膜には、Si原子の価電子が全て他のSi原子との結合に用いられている状態の部分も含まれる。
【0026】
他方、図2(d)に示す場合には、Si原子にH原子が結合しておらず、不対電子eが存在している。このような、結合に用いられていない部分がSiダングリングボンドである。水素化シリコンのスピン密度は、Siダングリングボンドを定量的に示す値である。水素化シリコンのスピン密度が小さいほど、Siダングリングボンドが少ない。
【0027】
水素化シリコンのスピン密度は、電子スピン共鳴法(ESR)により測定することができる。ここで、Siダングリングボンドのg値は2.0049である。よって、水素化シリコンのスピン密度の定量に際し、g値=2.0049におけるピークの信号強度を用いればよい。
【0028】
水素化シリコンのスピン密度は、例えば、水素化シリコン含有膜1層毎に測定すればよい。あるいは、光学フィルタにおける水素化シリコン含有膜以外の膜等が、水素化シリコンのスピン密度の測定に影響を与えない場合には、フィルタ部等において、まとめてESRによる測定を行ってもよい。この場合には、光学フィルタにおける全ての水素化シリコン含有膜における水素化シリコンのスピン密度を一度に求めることができる。
【0029】
[製造方法]
以下、光学フィルタ1の製造方法の一例について詳細に説明する。
【0030】
まず、透明基板2を用意する。次に、透明基板2の第1の主面2a上に多層膜としてのフィルタ部3を形成する。フィルタ部3は、透明基板2の第1の主面2a上に、低屈折率膜5及び高屈折率膜4をこの順に交互に積層することにより形成することができる。高屈折率膜4及び低屈折率膜5は、それぞれ、スパッタリング法により形成することができる。
【0031】
例えば、高屈折率膜4である水素化シリコン含有膜は、アルゴンガスと水素ガスによる反応性スパッタリングや、シリコン膜を成膜した後に、成膜したシリコン膜を水素化することにより形成してもよい。具体的には、スパッタリング法によりシリコン膜を成膜した後に、RFプラズマを用いてシリコン膜を水素化することにより、水素化シリコン含有膜を形成してもよい。
【0032】
上記シリコン膜の成膜は、例えば、シリコンターゲットを用い、スパッタリングガスとしてのアルゴンガスなどの不活性ガスの流量を100sccm~500sccmとし、ターゲット印加電力を2kW~10kWとして行うことができる。また、上記シリコン膜の水素化は、スパッタリングガスとしてのアルゴンガスなどの不活性ガスの流量を100sccm~500sccmとし、水素ガスの流量を5sccm~200sccmとし、RF電力を1kW~5kWとして行うことができる。
【0033】
アルゴン(Ar)ガスの水素(H)ガスに対する流量比(Ar/H)は、0.83以上であることが好ましく、0.96以上であることがより好ましく、1.4以上であることがさらに好ましく、2.4以上であることがさらにより好ましい。それによって、得られる水素化シリコン含有膜における、水素化シリコンのスピン密度をより一層低くすることができる。なお、流量比(Ar/H)の上限値は、特に限定されないが、例えば、10とすることができる。
【0034】
高屈折率膜4を成膜するときの透明基板2の温度は、例えば、15℃以上、300℃以下とすることができる。
【0035】
上記のように、水素化シリコンのスピン密度を1.0×1018個/cm以下とすることにより、光学フィルタの透過率を高めることができる。これを、実施例及び比較例を比較することにより示す。
【0036】
[実施例]
(実施例1)
まず、透明基板としてガラス基板を用意した。次に、透明基板の第1の主面上にフィルタ部を形成した。フィルタ部は、透明基板の第1の主面上に、低屈折率膜及び高屈折率膜をこの順に交互に積層することにより形成した。高屈折率膜及び低屈折率膜は、それぞれ、スパッタリング法により形成した。
【0037】
なお、高屈折率膜である水素化シリコン膜は、スパッタリング法によりシリコン膜を成膜した後に、RFプラズマを用いてシリコン膜を水素化することにより形成した。水素化シリコン膜の形成に際し、シリコン膜の成膜においては、シリコンターゲットを用い、スパッタリングガスしてのアルゴンガスの流量を300sccmとし、ターゲット印加電力を10kWとした。上記シリコン膜の水素化においては、スパッタリングガスとしてのアルゴンガスの流量を170sccmとし、水素ガスの流量を30sccmとし、RFプラズマ電力を2.5kWとした。
【0038】
他方、低屈折率膜として、酸化ケイ素膜(SiO膜)を形成した。スパッタリングガスとしてアルゴンガス及び酸素ガスを用い、シリコンターゲットをスパッタリングし、SiO膜を成膜した。なお、この際、アルゴンガスの流量を300sccmとし、酸素ガスの流量を120sccmとした。ターゲット印加電力を10kWとした。SiO膜及び水素化シリコン膜の成膜に際し、透明基板の温度は25℃とした。
【0039】
これらの操作を繰り返すことにより、透明基板上に、SiO膜と水素化シリコン膜とを交互に積層した。これにより、合計29層の膜を有するフィルタ部を形成した。以上により、実施例1の光学フィルタを得た。
【0040】
(実施例2)
水素化シリコン膜の形成におけるスパッタリングガスの流量以外においては、実施例1と同様にして光学フィルタを作製した。具体的には、水素化シリコン膜の形成に際し、シリコン膜の成膜においては、スパッタリングガスしてのアルゴンガスの流量を290sccmとした。上記シリコン膜の水素化においては、スパッタリングガスとしてのアルゴンガスの流量を120sccmとし、水素ガスの流量を10sccmとした。
【0041】
(実施例3)
水素化シリコン膜の形成におけるスパッタリングガスの流量以外においては、実施例1と同様にして光学フィルタを作製した。具体的には、水素化シリコン膜の形成に際し、シリコン膜の成膜においては、スパッタリングガスしてのアルゴンガスの流量を330sccmとした。上記シリコン膜の水素化においては、スパッタリングガスとしてのアルゴンガスの流量を84sccmとし、水素ガスの流量を6sccmとした。
【0042】
(実施例4)
水素化シリコン膜の形成におけるスパッタリングガスの流量以外においては、実施例1と同様にして光学フィルタを作製した。具体的には、水素化シリコン膜の形成に際し、シリコン膜の成膜においては、スパッタリングガスしてのアルゴンガスの流量を360sccmとした。上記シリコン膜の水素化においては、スパッタリングガスとしてのアルゴンガスの流量を56sccmとし、水素ガスの流量を4sccmとした。
【0043】
(比較例1)
水素化シリコン膜の形成におけるスパッタリングガスの流量以外においては、実施例1と同様にして光学フィルタを作製した。具体的には、水素化シリコン膜の形成に際し、シリコン膜の成膜においては、スパッタリングガスしてのアルゴンガスの流量を370sccmとした。上記シリコン膜の水素化においては、スパッタリングガスとしてのアルゴンガスの流量を47sccmとし、水素ガスの流量を3sccmとした。
【0044】
(比較例2)
水素化シリコン膜の形成におけるスパッタリングガスの流量以外においては、実施例1と同様にして光学フィルタを作製した。具体的には、水素化シリコン膜の形成に際し、シリコン膜の成膜においては、スパッタリングガスしてのアルゴンガスの流量を380sccmとした。上記シリコン膜の水素化においては、スパッタリングガスとしてのアルゴンガスの流量を38sccmとし、水素ガスの流量を2sccmとした。
【0045】
各実施例及び各比較例におけるフィルタ部の層構成を、表1に示す。なお、表1において、SiOはSiO膜からなる低屈折率膜を示し、Si:Hは水素化シリコン膜からなる高屈折率膜を示し、glassは透明基板を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
(評価)
各実施例及び各比較例の光学フィルタにおける水素化シリコンのスピン密度をESRにより測定した。さらに、各光学フィルタの、波長940nmにおける屈折率n、吸光度k及び透過率を測定した。これらの結果を表2に示す。さらに、水素化シリコンのスピン密度と、吸光度k及び透過率との関係を、図3及び図4に示す。図3及び図4の各プロットは、各実施例及び各比較例の結果を示す。
【0048】
【表2】
【0049】
図3は、水素化シリコンのスピン密度と、吸光度kとの関係を示す図である。図4は、水素化シリコンのスピン密度と、透過率との関係を示す図である。
【0050】
図3に示すように、水素化シリコンのスピン密度が低いほど、吸光度kが低くなっていることがわかる。さらに、図4に示すように、水素化シリコンのスピン密度が低いほど、透過率が高くなっていることがわかる。特に、水素化シリコンのスピン密度が1.0×1018個/cm以下である場合には、透過率が90%を超えて高くなっていることがわかる。
【0051】
図3及び図4に示す結果から、水素化シリコンのスピン密度が低いほど、水素化シリコン膜に光が吸収され難くなり、光が透過し易くなることがわかる。これは、Siダングリングボンドが光の吸収に寄与していたためと考えられる。水素の導入によりSiダングリングボンドが減少することによって、吸光度kが低下し、透過率が高くなったものと考えられる。
【0052】
なお、実施例1~4の結果から、シリコン膜の水素化における流量比(Ar/H)が、0.96以上、1.44以上、2.43以上である場合に、水素化シリコンのスピン密度がより一層低くなり、透過率がより一層高くなっていることがわかる。
【0053】
(第2の実施形態)
図5は、本発明の第2の実施形態に係る光学フィルタを示す模式的断面図である。光学フィルタ21では、透明基板2の第2の主面2b上に反射防止膜6が設けられている。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
【0054】
反射防止膜6は、相対的に屈折率が高い高屈折率膜7と相対的に屈折率が低い低屈折率膜8とを有する、多層膜である。本実施形態では、透明基板2の第2の主面2b上に、低屈折率膜8及び高屈折率膜7がこの順に交互に設けられることにより、多層膜が構成されている。本実施形態において、高屈折率膜7は、水素化シリコンにより構成されている。もっとも、高屈折率膜7の材料はこれに限定されるものではない。また、低屈折率膜8は、酸化ケイ素により構成されている。なお、低屈折率膜8の材料としては、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化ハフニウム、窒化シリコン、酸化ジルコニウム、酸化スズを用いてもよい。
【0055】
反射防止膜6の多層膜を構成する膜の層数は、10層以上であることが好ましい。一方で、反射防止膜6の多層膜を構成する膜の層数は、40層以下であることが好ましい。
【0056】
第2の実施形態の光学フィルタ21においても、フィルタ部3の高屈折率膜4においては、水素化シリコンのスピン密度が1.0×1018個/cm以下である。よって、第1の実施形態と同様に、光学フィルタ21における透過率を高くすることができる。
【0057】
反射防止膜6の高屈折率膜7としての水素化シリコン含有膜においても、水素化シリコンのスピン密度が1.0×1018個/cm以下であることが好ましい。この場合には、光学フィルタ21における透過率をより確実に、効果的に高くすることができる。
【符号の説明】
【0058】
1…光学フィルタ
1a…主面
2…透明基板
2a…第1の主面
2b…第2の主面
3…フィルタ部
4…高屈折率膜
5…低屈折率膜
6…反射防止膜
7…高屈折率膜
8…低屈折率膜
21…光学フィルタ
図1
図2
図3
図4
図5