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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】自動運転制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/18 20120101AFI20240730BHJP
   B60W 40/109 20120101ALI20240730BHJP
   G01C 21/34 20060101ALI20240730BHJP
   G08G 1/0968 20060101ALI20240730BHJP
   G08G 1/16 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
B60W30/18
B60W40/109
G01C21/34
G08G1/0968
G08G1/16 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020209065
(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公開番号】P2022096137
(43)【公開日】2022-06-29
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英輝
(72)【発明者】
【氏名】菅野 崇
(72)【発明者】
【氏名】山下 拓也
(72)【発明者】
【氏名】西澤 昌宏
【審査官】稲本 遥
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-096166(JP,A)
【文献】特開2018-047828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
G01C 21/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の自動運転制御装置であって、
前記車両の走行経路を設定する経路設定部と、
前記経路設定部により設定された走行経路を前記車両が追従するように、該車両の車速を含む走行パラメータを制御する車両運動制御部と、
前記経路設定部により設定された走行経路を、前記車両運動制御部が制御する走行パラメータにより前記車両が追従したときの、該車両に作用する前後加速度のスカラー量である前後加速度量、横加速度のスカラー量である横加速度量、及び該前後加速度と該横加速度とを合成した加速度のスカラー量である合成加速度量を推定する加速度推定部と、を備え、
前記車両運動制御部は、前記走行経路に前記車両をコーナリングさせるコーナリング区間が存在するときには、前記コーナリング区間における前記合成加速度量の変化が、単一の極大値を持ち、かつ該極大値の前の区間において前記合成加速度量が単調増加し、かつ該極大値の後の区間において前記合成加速度量が単調減少する変化である理想変化となるとともに、前記前後加速度量の最大値に対する前記横加速度量の最大値の比率が1:1.4~3になるように、前記車両の車速を制御することを特徴とする自動運転制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動運転制御装置において、
前記車両運動制御部は、前記前後加速度量の最大値に対する前記横加速度量の最大値の比率が1:2になるように、前記車両の車速を制御することを特徴とする自動運転制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自動運転制御装置において、
前記経路設定部は、道路形状が記憶された地図情報に基づいて前記走行経路を設定するよう構成され、
前記車両運動制御部は、前記走行経路において車速を増加、減少、又は維持させる運動パターンを複数生成し、
前記加速度推定部は、前記複数の運動パターンのそれぞれにおける合成加速度量の変化を推定し、
前記車両運動制御部はまた、前記複数の運動パターンから、前記加速度推定部が推定する合成加速度量の変化が前記理想変化となる運動パターンを選択して、該運動パターンで前記車両を制御することを特徴とする自動運転制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の自動運転制御装置において、
前記車両運動制御部は、前記複数の運動パターンに、前記加速度推定部が推定する合成加速度量の変化が前記理想変化となる運動パターンがないときには、前記経路設定部に、別の経路を設定するよう電気信号を送信することを特徴とする自動運転制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、自動運転制御装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年では、自動車におけるADAS(先進運転支援システム)や自動運転技術の発展がめざましい。これらの運転システムでは、車両がカーブを曲がるときに、横方向の加速度と前後方向の加速度とに基づく制御を行うことが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
例えば、特許文献1の走行制御装置では、カーブの車線形状と自車速度と現在位置と進行方向とから車線中央を走行するための目標軌道を算出する目標軌道算出部と、カーブの曲率が単調増加もしくは単調減少する区間においGVC制御(Gベクタリングコントロール制御)により横方向の加速度と前後方向の加速度の関係であるG-Gダイアグラムが弧状に遷移するような操舵による推定軌道を自車速度に基づき算出する推定軌道算出部と、推定軌道が、カーブ内に収まるように、該カーブ手前に操舵開始点を決定する操舵開始点決定部とを備え、操舵開始点決定部は、推定軌道と目標軌道との横方向のずれ量に基づいて操舵開始点の位置を決定する、という構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6752875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、運転者は、視覚情報以外に、前後加速度及び横加速度の変化、よく詳しくは、前後加速度と横加速度との合成加速度に基づいて走行状態を把握する。例えば、合成加速度があまりかからない状況では、運転者は車両が定速走行の状態であると理解でき、合成加速度が横にかかるときには、運転者は車両がカーブを曲がっている状態であると理解できる。
【0006】
車両の自動運転時には、運転者は運転とは別の作業を行うことがある。この場合には、運転者が走行状態を把握する際の要素として、自身にかかる加速度の割合が大きくなる。このため、自動運転においては、特許文献1のようにコーナリングを円滑にすることだけでなく、運転者が走行状態を予測しやすいような加速度制御が求められる。
【0007】
従来は、特許文献1のようにG-Gダイアグラムが弧を描くように、特に、G-Gダイアグラムが真円の円弧となるように、前後加速度の最大値と横加速度の最大値との比率が1:1になるように、車両の運動を制御することが理想とされてきた。しかしながら、本願発明者らが鋭意研究したところ、G-Gダイアグラムが真円の円弧となるように車両の運動を制御した場合、合成加速度の変化が、運転者が通常予想するような加速度の変化からずれることがわかった。このため、運転者が走行状態を出来る限り予測しやすいように、車両の運動を制御するという観点からは改良の余地がある。
【0008】
ここに開示された技術は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、自動運転時であっても運転者が走行状態を出来る限り予測しやすくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術では、車両の自動運転制御装置を対象として、前記車両の走行経路を設定する経路設定部と、前記経路設定部により設定された走行経路を前記車両が追従するように、該車両の車速を含む走行パラメータを制御する車両運動制御部と、前記経路設定部により設定された走行経路を、前記車両運動制御部が制御する走行パラメータにより前記車両が追従したときの、該車両に作用する前後加速度のスカラー量である前後加速度量、横加速度のスカラー量である横加速度量、及び該前後加速度と該横加速度とを合成した加速度のスカラー量である合成加速度量を推定する加速度推定部と、を備え、前記車両運動制御部は、前記走行経路に前記車両をコーナリングさせるコーナリング区間が存在するときには、前記コーナリング区間における前記合成加速度量の変化が、単一の極大値を持ち、かつ該極大値の前の区間において前記合成加速度量が単調増加し、かつ該極大値の後の区間において前記合成加速度量が単調減少する変化である理想変化となるとともに、前記前後加速度量の最大値に対する前記横加速度量の最大値の比率が1:1.4~3になるように、前記車両の車速を制御する、という構成とした。
【0010】
すなわち、車両がカーブを曲がるとき(コーナリングするとき)には、運転者は、一般的な感覚として、カーブに入るに連れて、運転者に加速度(いわゆるG)がかかり、カーブの中央付近で加速度が最大となった後、徐々に加速度が低くなるような変化があることを予測する。このため、カーブの途中で加速度が弱くなるような変化があると、予想した加速度の変化と実際の加速度の変化との間に差が生じて、運転者は走行状態を予想しにくくなる。このため、コーナリング時の合成加速度量が前述のような理想変化となるように車両の速度を制御すれば、運転者が予想した加速度の変化と実際の加速度の変化とが近くなるため、運転者は車両がカーブを曲がってることを予想しやすくなる。したがって、自動運転時であっても運転者が走行状態を予測しやすくすることができる。
【0011】
本願発明者らが鋭意研究したところ、コーナリング時において、前後加速度量の最大値に対する横加速度量の最大値の比率が1:1.4~3であれば、合成加速度量の変化が前記理想変化となり、運転者が走行状態を予測しやすくなることが分かった。例えば、横加速度量の最大値が前後加速度量の最大値に対して1.4倍未満であると、合成加速度量は2つの極大値を有して、単調増加した後、一度減少し、その後、再度増加する変化する。この場合、実際には単一のカーブを曲がっているにもかかわらず、運転者はカーブを2度曲がったような感覚を得る。このため、運転者は走行状態を予想しにくくなる。一方で、横加速度量の最大値が前後加速度量の最大値に対して3倍よりも大きいと、カーブの手前で車両がほとんど減速していないことになり、運転者は、車両がカーブに入る際の前後加速度を体感しにくくなって、走行状態を予想しにくくなる。したがって、前後加速度量の最大値に対する横加速度量の最大値の比率が1:1.4~3であれば、合成加速度量の変化が前述の理想変化になって、運転者は走行状態を予想しやすくなる。
【0012】
尚、「合成加速度量」は合成加速度のスカラー量であって、前後加速度量の2乗と横加速度量の2乗との和の平方根で表される値である。
【0013】
前記一実施形態において、前記車両運動制御部は、前記前後加速度量の最大値に対する前記横加速度量の最大値の比率が1:2になるように、前記車両の車速を制御する、という構成でもよい。
【0014】
本願発明者らは、コーナリング時において、前後加速度量の最大値に対する横加速度量の最大値の比率が1:2であれば、合成加速度量の変化が、運転者が特に走行状態を予測しやすい理想変化となるとともに、運転者が前後加速度及び横加速度を適切に体感できることが分かった。よって、運転者は走行状態をより適切に予想することができるようになる。
【0015】
前記自動運転制御装置において、前記経路設定部は、道路形状が記憶された地図情報に基づいて前記走行経路を設定するよう構成され、前記車両運動制御部は、前記走行経路において車速を増加、減少、又は維持させる運動パターンを複数生成し、前記加速度推定部は、前記複数の運動パターンのそれぞれにおける合成加速度量の変化を推定し、前記車両運動制御部はまた、前記複数の運動パターンから、前記加速度推定部が推定する合成加速度量の変化が前記理想変化となる運動パターンを選択して、該運動パターンで前記車両を制御する、という構成でもよい。
【0016】
この構成によると、合成加速度量の変化が理想変化になる車両運動を適切に実現することができる。これにより、自動運転時であっても運転者が走行状態を予測しやすくすることができる。
【0017】
複数の運動パターンから運動パターンを選択する自動運転制御装置において、前記車両運動制御部は、前記複数の運動パターンに、前記加速度推定部が推定する合成加速度量の変化が前記理想変化となる運動パターンがないときには、前記経路設定部に、別の経路を設定するよう電気信号を送信する、という構成でもよい。
【0018】
この構成によると、合成加速度量の変化が理想変化になる車両運動をより効果的に実現させることができ、自動運転時であっても運転者が走行状態をより予測しやすくすることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、自動運転時であっても、運転者が走行状態を予測しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、例示的な実施形態に係る自動運転制御装置により制御される車両の構成を概略的に示す図である。
図2図2は、車両の自動運転に関する制御系を示すブロック図である。
図3図3は、走行経路の概略図である。
図4図4は、コーナリング区間を走行する際に車両に入力される合成加速度を示す模式図である。
図5図5は、図3のコーナリング区間において、車両に入力される加速度を示すグラフであって、前後加速度の最大値に対する横加速度の最大値の比が1:1である場合を示す。
図6図6は、前後加速度の最大値に対する横加速度の最大値の比が1:1.2である場合の図5相当図である。
図7図7は、前後加速度の最大値に対する横加速度の最大値の比が1:1.4である場合の図5相当図である。
図8図8は、前後加速度の最大値に対する横加速度の最大値の比が1:2である場合の図5相当図である。
図9図9は、前後加速度の最大値に対する横加速度の最大値の比が1:3である場合の図5相当図である。
図10図10は、運転者の胸鎖乳突筋の筋活動量を示すグラフであって、(a)は、前後加速度の最大値に対する横加速度の最大値の比が1:1であるときであって、(b)は、前後加速度の最大値に対する横加速度の最大値の比が1:2であるときである。
図11図11は、コントローラによるコーナリング制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
(車両構成)
図1は、本実施形態に係る運転制御装置により制御される車両1の構成を概略的に示す。車両1は、運転者の操作をアシストして走行するアシスト運転と、運転者の操作なしに走行する自動運転とが可能な自動車である。
【0023】
車両1は、複数(本実施形態では4つ)の気筒11を有する駆動源としてのエンジン10と、エンジン10に連結されたトランスミッション20と、駆動輪としての前輪50の回転を制動するブレーキ装置30と、操舵輪としての前輪50の操舵するステアリング装置40とを有する。
【0024】
エンジン10は、例えば、ガソリンエンジンである。エンジン10の各気筒11には、気筒11内に燃料を供給するインジェクタと、燃料と気筒11内に供給された吸気との混合気を着火させるための点火プラグとがそれぞれ設けられている。また、エンジン10は、気筒11毎に、吸気弁及び排気弁の開閉動作を調整する動弁機構が設けられている。また、エンジン10には、気筒11内を往復動するピストンと、該ピストンとコネクティングロッドを介して連結されたクランクシャフトとが設けられている。尚、エンジン10は、ディーゼルエンジンであってもよい。また、駆動源は、エンジンではなく電動モータであってもよい。
【0025】
トランスミッション20は、例えば、有段式の自動変速機である。トランスミッション20は、エンジン10の気筒列方向における一側に配置されている。トランスミッション20は、エンジン10のクランクシャフトの動力を変速して、車軸51を介して前輪50に伝達する。
【0026】
エンジン10及びトランスミッション20は、ECU(Electric Control Unit)100により作動制御される。例えば、車両1がアシスト運転であるときには、ECU100は、運転者のアクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW7等の検出値に基づいて、インジェクタによる燃料噴射量や燃料噴射タイミング、点火プラグによる点火タイミング、及び動弁機構による吸気弁及び排気弁の開弁タイミング及び開弁期間等を制御する。ECU100は、車両1がアシスト運転や自動運転であるときには、基本的には、後述する車両運動制御部102が設定した目標駆動力を達成するように、各走行用デバイス(ここでは、インジェクタ等)の制御量を算出して、各走行用デバイスに制御信号を出力する。
【0027】
ブレーキ装置30は、ブレーキペダル31と、ブレーキアクチュエータ33と、ブレーキアクチュエータ33と接続されたブースタ34と、ブースタ34と接続されたマスタシリンダ35と、制動力を調整するためのDSC(Dynamic Stability Control)装置36と、実際に前輪50の回転を制動するブレーキパッド37とを有する。前輪50の車軸51には、ディスクロータ52が設けられている。ブレーキ装置30は、電動ブレーキであって、電力によりブレーキアクチュエータ33を作動させて、ブースタ34及びマスタシリンダ35を介してブレーキパッド37を作動させる。ブレーキ装置30は、ブレーキパッド37によりディスクロータ38を挟んで、ブレーキパッド37とディスクロータ52との間に生じる摩擦力により、前輪50の回転を制動する。ブレーキアクチュエータ33及びDSC装置36は、ブレーキ関連デバイスの一例である。
【0028】
ブレーキ装置30は、ECU100により作動制御される。例えば、車両1がアシスト運転であるときには、ECU100は、運転者のブレーキペダル31の操作量を検出するブレーキセンサSW8等の検出値に基づいて、ブレーキアクチュエータ33の操作量を制御する。また、車両1がアシスト運転や自動運転であるときには、ECU100は、基本的には、後述する車両運動制御部102により算出される目標制動力を達成するように、各走行用デバイス(ここでは、ブレーキアクチュエータ33)の制御量を算出して、各走行用デバイスに制御信号を出力する。
【0029】
ステアリング装置40は、運転者により操作されるステアリングホイール41と、運転者によるステアリング操作をアシストするEPAS(Electronic Power Asist Steering)装置42と、EPAS装置42に連結されたピニオンシャフト43とを有する。EPAS装置42は、電動モータ42aと、電動モータ42aの駆動力を減速してピニオンシャフト43に伝達する減速装置42bとを有する。ステアリング装置40は、ステアバイワイヤ方式のステアリング装置であって、操舵角センサSW6が検知したステアリングホイール41の操作量に応じてEPAS装置42を作動させて、ピニオンシャフト43を回転させて前輪50を操作する。ピニオンシャフト43と前輪50とは不図示のラックバーにより連結されており、ピニオンシャフト43の回転は、該ラックバーを介して前輪に伝達される。EPAS装置42は、ステアリング関連デバイスの一例である。
【0030】
ステアリング装置40は、ECU100により作動制御される。例えば、車両1がマニュアル運転であるときには、ECU100は、操舵角センサSW6等の検出値に基づいて、電動モータ42aの操作量を制御する。また、車両1がアシスト運転や自動運転であるときには、ECU100は、基本的には、後述する車両運動制御部102により算出される目標操舵量を達成するように、各走行用デバイス(ここでは、EPAS装置42)の制御量を算出して、各走行用デバイスに制御信号を出力する。
【0031】
尚、図1において、ECU100は3つ記載しているが、いずれも同じ1つのECU100である。ECU100は、エンジン10、ブレーキ装置30、及びステアリング装置40毎に設けられていてもよい。この場合、各ECUを統括制御する制御装置が必要となる。
【0032】
図2に示すように、ECU100は、アシスト運転及び自動運転を可能にするために、車両1が走行すべき経路を算出するとともに、該経路を追従するための車両1の運動を設定する。ECU100は、1つ又は複数のチップで構成されたマイクロプロセッサであって、CPUやメモリ等を有している。尚、図2においては、本実施形態に係る機能(後述するコーナリング制御)を発揮するための構成を示しており、ECU100が有する全ての機能を示しているわけではない。
【0033】
ECU100には、図1に示すように、各種のセンサSW1~SW10が接続されている。センサSW1~SW10は、信号をECU100に出力する。センサには、以下のセンサが含まれる。
カメラSW1:車両1のボディ等に設けられかつ車外環境を示す光学画像を撮像して画像データを生成する。車両1の周囲を水平方向に360°撮影できるようにそれぞれ配置されている。
レーダSW2:検出範囲が車両1の周囲を水平方向に360°広がるようにそれぞれ配置されかつカメラSW1と同様に車外環境の情報を取得する。種類は特に限定されず、例えば、ミリ波レーダや赤外線レーダが採用される。
車速センサSW3:前輪50の回転数から車両1の車速を計測する。
加速度センサSW4:車両1にかかる前後方向の加速度(以下、前後加速度という)を計測する。
ヨーレートセンサSW5:車両1にかかる、前後加速度に直交する横方向の加速度(以下、横加速度という)を計測する。
操舵角センサSW6:ステアリング装置40のステアリングシャフトに取り付けられ、ステアリングによる操舵角を計測する。ステアリングホイール41の回転角も計測する。
アクセルセンサSW7:アクセルペダル機構に取り付けられかつ、アクセル開度を計測する。アクセルペダルの踏み込み量も計測する。
ブレーキセンサSW8:ブレーキ装置30に設けられ、ブレーキの大きさを計測する。ブレーキペダル31の踏み込み量も計測する。
測位システムSW9:全地球測位システム(Global Positioning System:GPS)を利用して、車両1の位置(車両位置情報)を検出する。
ナビシステムSW10:車両1の周囲の地図情報を取得する。ECU100に地図情報を送信する他、車室内に設けられたディスプレイに取得した地図を表示する。
【0034】
ECU100は、車両1の走行経路を設定して、車両1が該走行経路を追従するように、車両1の目標運動を設定する。ECU100は、車両1の走行経路を設定する経路設定部101と、経路設定部101が設定した経路を追従するための走行パラメータを制御する車両運動制御部102と、を有する。
【0035】
経路設定部101は、カメラSW1、レーダSW2、及び測位システムSW9の出力、並びにナビシステムSW10から送信される情報等を基にして、車両1が走行可能な走行経路を生成する。
【0036】
経路設定部101は、ナビシステムSW10から道路形状が記憶された地図情報を取得する。地図情報に記憶された道路形状に関する情報には、道路の形状(直線、カーブ、カーブ曲率)、走行路幅、車線数、各車線幅等が含まれる。
【0037】
経路設定部101は、前記地図情報に基づいて走行経路を設定する。経路設定部101は、例えばステートラティス法を用いて、現在値から目標到達位置に到達する複数の候補経路を計算し、これらの中からそれぞれの候補経路の経路コストに基づいて、1つまたは複数の候補経路を選択する。ただし、他の手法を用いて経路の算出を行ってもよい。
【0038】
経路設定部101は、ステートラティス法では、地図情報に基づいて道路上に仮想のグリッド領域を設定する。このグリッド領域は、複数のグリッド点を有する。各グリッド点により、道路上の位置が特定される。経路設定部101は、所定のグリッド点を目標到達位置に設定する。そして、グリッド領域内の複数のグリッド点を用いた経路探索により複数の候補経路を演算する。ステートラティス法では、あるグリッド点から車両の進行方向前方の任意のグリッド点へ経路が枝分かれしていく。したがって、各候補経路は、複数のグリッド点を順次に通過するように設定される。
【0039】
経路設定部101は、カメラSW1及びレーダSW2によって取得された車両前方の車外情報から走行経路上に存在する障害物を認定する。経路設定部101は、候補経路の生成において、障害物を回避する走行経路を生成する。車外情報には、車両に対する障害物の相対位置及び相対速度、障害物の属性(種類、移動方向)等が含まれる。障害物は、他車両、歩行者、樹木、標識等がある。
【0040】
経路設定部101は、生成した複数の候補経路から、経路コストに基づいて1つの走行経路を選択する。ここでの経路コストは、例えば、レーンセンタリングの程度、ステアリング角度、衝突の可能性等がある。尚、詳しくは後述するが、本実施形態では、経路設定部101は、特に、車両1に入力される合成加速度量の変化に基づいて、最終的な走行経路を選択する。
【0041】
車両運動制御部102は、経路設定部101が設定した走行経路に対して、設定した走行経路を追従するような運動パターンを設定する。運動パターンとは、設定した走行経路を追従するような操舵角、車速の増加、減少、又は維持等の走行パラメータの組み合わせのことをいう。具体的に、車両運動制御部102は、エンジン10が生成すべき目標駆動力、ブレーキ装置30が生成すべき目標制動力、及びステアリング装置40が生成すべき目標操舵角を設定する。本実施形態では、車両運動制御部102は、複数の運動パターンを設定する。車両運動制御部102は、後述の加速度推定部103の推定結果に基づいて、複数の運動パターンから最終的な運動パターンを選択する。
【0042】
ECU100は、車両運動制御部102が設定した運動パターンにより、経路設定部101により設定された経路を車両1が追従したときの、車両1に作用する加速度を推定する加速度推定部103を有する。加速度推定部103は、具体的には、車両1に作用する前後加速度のスカラー量である前後加速度量と、車両1に作用する横加速度のスカラー量である横加速度量と、前後加速度と横加速度とを合成した加速度のスカラー量である合成加速度量を推定する。前後加速度の方向と横加速度の方向とは直交するため、合成加速度量は、前後加速度量の2乗と横加速度量の2乗との和の平方根で表される。加速度推定部103は、車両運動制御部102が複数の運動パターンを設定したときには、各運動パターンに対して前後加速度量、横加速度量、及び合成加速度量をそれぞれ推定する。
【0043】
ECU100は、経路設定部101、車両運動制御部102、及び加速度推定部103の演算結果に基づいて、エンジン10、ブレーキ装置30、及びステアリング装置40に制御信号を出力する。エンジン10、ブレーキ装置30、及びステアリング装置40は、特に自動運転時には、この制御信号に基づいて作動する。
【0044】
(カーブ時の車両運動の設定)
ここで、車両1の自動運転時には、運転者は車外を見ずに運転とは別の作業を行うことがある。このときには、運転者は、車両1を通して自身にかかる加速度に基づいて、走行状態を把握する。このため、自動運転においては、運転者が走行状態を予測しやすいような運転制御が求められる。特に、車両1のコーナリング時には、加速度の変化が大きいため、適切に加速度を調整して、運転者が走行状態を適切に認識できるようにする必要がある。
【0045】
そこで、本実施形態では、特に、車両1のコーナリング制御を工夫して、自動運転時であっても運転者が走行状態を予想しやすいようにした。以下、車両のコーナリング制御について詳細に説明する。
【0046】
図3は、経路設定部101により設定された走行経路の一例である。この走行経路には、カーブが含まれている。経路設定部101は、カーブに対して、車両1をコーナリングさせるコーナリング区間が全て含まれるように、走行経路を設定する。具体的には、経路設定部101は、コーナリング区間よりも手前の直線区間内を始点とし、コーナリング区間よりも後の直線区間内を終点として走行経路を設定する。コーナリング区間は、走行経路における、これら直線区間を除く区間である。尚、コーナリング区間として、横加速度が発生する区間と定義してもよい。
【0047】
車両運動制御部102は、コーナリング区間を含む走行経路に対して、複数の運動パターンを設定する。そして、車両運動制御部102は、各運動パターンに対して、加速度推定部103により推定された、前後加速度量、横加速度量、及び合成加速度量の変化に基づいて、最終的な運動パターンを設定する。具体的には、車両運動制御部102は、加速度推定部103が推定するコーナリング区間における合成加速度量の変化が、単一の極大値を持ち、かつ該極大値の前の区間において合成加速度量が単調増加し、かつ該極大値の後の区間において合成加速度が単調減少する変化である理想変化となるとともに、前後加速度量の最大値に対する横加速度量の最大値の比率(以下、単に、前後加速度量と横加速度量との比率という)が1:1.4~3になる運動パターンを選択して、最終的な運動パターンに設定する。
【0048】
すなわち、運転者が手動で車両1を操舵してコーナリングするときには、車両運動は、減速、旋回、加速の順になることが一般的である。このときの加速度の変化は、図4に矢印で示すようになる。具体的には、コーナリング区間の序盤では、減速による前後加速度が相対的に大きいため、後向きかつ横向きに合成加速度(いわゆるG)がかかる。このときには、横加速度が小さいため合成加速度量は比較的小さい。コーナリング区間の中盤では、横加速度が支配的になるため、合成加速度は横向きになる。このときには、横加速度が大きくなるため合成加速度は比較的大きくなる。そして、コーナリング区間の終盤では、再び車両を加速させるため、前向きかつ横向きに合成加速度がかかる。このときには、横加速度が小さくなるため合成加速度は再び小さくなる。このように、車両がコーナリングするときには、合成加速度は、カーブの中央に近づくにつれて大きくなって、カーブの中央付近で最大となった後、徐々に低くなるように変化する。このため、運転者が、車両1がコーナリング中であることを予想できる条件は、合成加速度量の変化が前記理想変化であることと、運転者が、コーナリングの序盤及び終盤において前後加速度を、コーナリングの中盤において横加速度を体感できることである。
【0049】
図4図8は、本願発明者らが、コーナリング区間において、車両1にかかる前後加速度の変化と横加速度と変化に基づいて合成加速度量の変化を検討したものである。図4図8において、縦軸は各加速度のスカラー量であり、横軸は時間である。ここでは、横加速度を固定したまま、前後加速度を変化させて合成加速度量の変化を算出している。横加速度は一般にカーブの曲率に依存するため、車両1の操舵角の調整で多少は変化するものの、カーブの形状が決まればほぼ一定であるとみなすことができる。そのため、実際の走行においても、基本的には前後加速度を調整することで合成加速度量を調整することになる。そこで、本願発明者らは、横加速度を固定したまま、前後加速度を変化させて合成加速度量の変化を検討している。
【0050】
図4図8に示すように、コーナリング区間の序盤では、車両1を減速させるため、横加速度よりも前後加速度が大きくなる。コーナリング区間の中間では、減速が完了して車両1を大きく旋回させるため、横加速度が前後加速度よりも大きくなる。コーナリング区間の終盤では、道路が直線に近づくため横加速度が低下するとともに、車両1を加速させるため、前後加速度が大きくなる。そして、コーナリング区間が終了すると、直線状の道路を定速走行させるため前後加速度及び横加速度が共に0になる。
【0051】
このように、前後加速度及び横加速度の全体的な変化は、図4図8で共通しているが、合成加速度量の変化は、それぞれ異なる。
【0052】
図4は、前後加速度量と横加速度量との比率が1:1の場合を示す。このとき、合成加速度量は、2つの極大値を有する変化をする。具体的には、合成加速度量は、コーナリング区間の序盤で上昇して、コーナリング区間の中間において一旦低下した後、コーナリング区間の終盤において再度上昇する。合成加速度量がこのような変化をすると、運転者は、手動運転時と感覚がずれてしまい、車両1の走行状態を適切に予想することができなくなる。
【0053】
図5は、前後加速度量と横加速度量との比率が1:1.2の場合を示す。この場合でも、合成加速度量は、2つの極大値を有する変化する。したがって、前後加速度の最大値に対する横加速度の最大値が1:1.2でも、運転者は、車両1の走行状態を適切に予想することができない。
【0054】
図6は、前後加速度量と横加速度量との比率が1:1.4の場合を示す。この場合には、合成加速度量の変化が、単一の極大値を持ち、かつ該極大値の前の区間において合成加速度量が単調増加し、かつ該極大値の後の区間において合成加速度が単調減少する変化である理想変化となる。この場合には、車両1の走行状態を適切に予想することができるようになる。
【0055】
図7は、前後加速度量と横加速度量との比率が1:2の場合を示し、図8は、前後加速度量と横加速度量との比率が1:3の場合を示す。これらの場合でも、合成加速度の変化は前記理想変化となって、運転者が車両1の走行状態を適切に予想できるようになる。
【0056】
前後加速度量と横加速度量との比率が1:3よりも大きい場合には、図示は省略しているが、横加速度の寄与がかなり大きくなるので、合成加速度量そのものは前記理想変化になる。しなしながら、この場合には、コーナリング区間の序盤において、車両1が十分に減速しないことを表しており、運転者は減速に伴う前後加速度を十分に体感することができない。このため、前後加速度量と横加速度量との比率が1:3よりも大きい運動パターンでは、運転者が車両1の走行状態を適切に予想できなくなる。
【0057】
これらのことから、本実施形態では、車両運動制御部102は、複数の運動パターンから、加速度推定部103の予想した加速度が、合成加速度量の変化が前記理想変化になるとともに、前後加速度量と横加速度量との比率が1:1.4~3になる運動パターンを選択して、該運動パターンにより車両1の車速を制御する。特に、前後加速度量と横加速度量との比率が1:2になると、比率が1:1.4のときと比較して合成加速度がフラットな時間が短くなるとともに、比率が1:3のときと比較して前後加速度量が大きくなって、運転者が前後加速度を体感しやすくなる。このため、本実施形態では、車両運動制御部102は、複数の運動パターンに、前後加速度量と横加速度量との比率が1:2になる運動パターンがあれば、該運動パターンを選択し、前後加速度量と横加速度量との比率が1:2になる運動パターンがなければ、前後加速度量と横加速度量との比率が出来る限り1:2に近い運動パターンを選択するよう構成されている。
【0058】
図10は、車両1を自動運転させてコーナリングしたときの、運転者の胸鎖乳突筋(首周辺の筋肉)の筋活動量を示す。(a)は、前後加速度量と横加速度量との比率が1:1の場合を示し、(b)は、前後加速度量と横加速度量との比率が1:2の場合を示す。図(a)、(b)のグラフにおいて、縦軸は胸鎖乳突筋の前後方向の筋活動量をそれぞれ示し、横軸は胸鎖乳突筋の左右方向の筋活動量をそれぞれ示す。縦軸は、中央の太線よりも上側が前方向の筋活動量を示し、下側が後方向の筋活動量を示す。横軸は、中央の太線よりも左側が左方向の筋活動量を示し、右側が右方向の筋活動量を示す。
【0059】
図10(a)のグラフと図10(b)のグラフとを比較すると、前後加速度量と横加速度量との比率が1:2のときの方が、前後加速度量と横加速度量との比率が1:1のときと比較して、左右方向の筋活動量が抑制されていることが分かる。これは、前後加速度量と横加速度量との比率が1:2のときの方が、前後加速度量と横加速度量との比率が1:1のときよりも、運転者が走行状態を予想しやすいためである。すなわち、運転者が走行状態を予想できれば、コーナリングに備えて姿勢を整えることができ、コーナリング時に左右に首が振られにくくなる。逆に、運転者が走行状態を予想しにくいときには、運転者が姿勢を整える間もなく加速度が変化するため、首が左右に振られやすくなる。したがって、実際の運転者の状態からも、前後加速度量と横加速度量との比率を調整することで、運転者が走行状態を予測しやすくすることが分かる。
【0060】
(フローチャート)
次に、ECU100よるコーナリング制御の処理動作を図11のフローチャートに基づいて説明する。
【0061】
先ず、ステップS101において、ECU100は、地図情報に基づいて走行経路の終点となる目標値を設定する。
【0062】
次に、ステップS102において、ECU100は、車両1の現在値を検出する。
【0063】
次いで、ステップS103において、ECU100は、車両1の現在値から目標値に到達するまでの走行経路を設定する。
【0064】
続いて、ステップS104において、ECU100は、前記ステップS103において設定した走行経路にコーナリング区間が含まれているか否かを判定する。ECU100は、走行経路にコーナリング区間が含まれるYESのときには、ステップS105に進む。一方で、EUC100は、走行経路にコーナリング区間が含まれていないNOのときには、コーナリング制御を終了する。
【0065】
前記ステップS105において、ECU100は、車両1が走行経路を追従するための運動パターンを算出する。ECU100は、運動パターンを複数算出する。
【0066】
次に、ステップS106において、ECU100は、前記ステップS105で算出した運動パターンのそれぞれに対して、前後加速度、横加速度、及び合成加速度の各加速度量の変化を推定する。
【0067】
次いで、ステップS107において、ECU100は、前記ステップS106において合成加速度量を推定した運動パターンに、コーナリング区間における合成加速度量の変化が、単一の極大値を持ち、かつ該極大値の前の区間において合成加速度量が単調増加し、かつ該極大値の後の区間において合成加速度が単調減少する変化である運動パターンがあるか否か、すなわち、合成加速度量の変化が前記理想変化となる運動パターンがあるか否かについて判定する。ECU100は、合成加速度量の変化が前記理想変化となる運動パターンがあるYESのときには、ステップS108に進む。一方で、ECU100は、合成加速度量の変化が前記理想変化となる運動パターンがないNOのときには、ステップS109に進む。
【0068】
前記ステップS108では、ECU100は、前記ステップS106において前後加速度量及び横加速度量を推定した運動パターンに、前後加速度量と横加速度量との比率が1:1.4~3となる運動パターンがあるか否かについて判定する。ECU100は、前後加速度量と横加速度量との比率が1:1.4~3となる運動パターンがあるYESのときには、ステップS110に進む。一方で、ECU100は、前後加速度量と横加速度量との比率が1:1.4~3となる運動パターンがないNOのときには、ステップS109に進む。尚、前後加速度量と横加速度量との比率が1:1.4~3となる場合には、合成加速度量の変化は前記理想変化となるため、このステップS108の条件を満たす運動パターンは、前記ステップS107の条件を満たす運動パターンである。
【0069】
前記ステップS107及びステップS108の判定がNOであるときに進むステップS109では、ECU100は、前記ステップS103で算出した走行経路で他の運動パターンを算出可能であるか否かを判定する。ECU100は、他の運動パターンを算出可能なYESのときにはステップS105に進んで、再度運動パターンを算出する。一方で、ECU100は、他の運動パターンを算出できないNOのときには、ステップS103に進んで、別の走行経路を算出する。
【0070】
前記ステップS110では、ECU100は、運動パターンを決定する。ECU100は、前記ステップS107の条件及び前記ステップS108の条件を両方とも満たす運動パターンが複数あるときには、複数の運動パターンに、前後加速度量と横加速度量との比率が1:2になる運動パターンがあれば該運動パターンを選択し、前後加速度量と横加速度量との比率が1:2になる運動パターンがなければ、前後加速度量と横加速度量との比率が出来る限り1:2に近い運動パターンを選択する。
【0071】
そして、ステップS111において、ECU100は、前記ステップS110で決定した運動パターンに応じて、車両1の車速等を制御する。ステップS111の後は、コーナリング制御を終了する。
【0072】
したがって、本実施形態では、車両1の走行経路を設定する経路設定部101と、経路設定部101により設定された走行経路を車両1が追従するように、該車両1の車速を含む走行パラメータを制御する車両運動制御部102と、経路設定部101により設定された走行経路を、車両運動制御部102が制御する走行パラメータにより車両1が追従したときの、該車両1に作用する前後加速度のスカラー量である前後加速度量、横加速度のスカラー量である横加速度量、及び該前後加速度と該横加速度とを合成した加速度のスカラー量である合成加速度量を推定する加速度推定部103と、を備え、車両運動制御部102は、走行経路に車両1をコーナリングさせるコーナリング区間が存在するときには、コーナリング区間における合成加速度量の変化が、単一の極大値を持ち、かつ該極大値の前の区間において合成加速度が単調増加し、かつ該極大値の後の区間において合成加速度量が単調減少する変化である理想変化となるとともに、前後加速度量の最大値に対する横加速度量の最大値の比率が1:1.4~3になるように、車両1の車速を制御する。これにより、車両1、ひいては運転者にかかる加速度は、カーブに入るに連れて徐々に大きくなり、カーブの中央付近で最大となった後、徐々に低くなるような変化をする。また、運転者は、コーナリングに伴う減速、旋回、加速のそれぞれの加速度をこの順で体感することができる。したがって、コーナリングの際に運転者にかかる加速度が、運転者が一般的に予想する加速度の変化と一致するようになり、自動運転時であっても運転者が車両の走行状態を予想しやくすることができる。
【0073】
また、本実施形態では、経路設定部101は、道路形状が記憶された地図情報に基づいて走行経路を設定するよう構成され、車両運動制御部102は、走行経路において車速を増加、減少、又は維持させる運動パターンを複数生成し、加速度推定部103は、複数の運動パターンのそれぞれにおける合成加速度量の変化を推定し、車両運動制御部102はまた、複数の運動パターンから、加速度推定部103が推定する合成加速度量の変化が理想変化となる運動パターンを選択して、該運動パターンで車両1を制御する。これにより、合成加速度量の変化が前記理想変化になる車両運動を適切に実現することができる。
【0074】
特に、本実施形態では、加速度推定部103により推定される合成加速度量の変化が前記理想変化となる運動パターンが複数あるときには、複数の運動パターンに、前後加速度量と横加速度量との比率が1:2になる運動パターンがあれば該運動パターンを選択し、前後加速度量と横加速度量との比率が1:2になる運動パターンがなければ、前後加速度量と横加速度量との比率が出来る限り1:2に近い運動パターンを選択する。これにより、合成加速度量の変化が、運転者が特に走行状態を予測しやすい前記理想変化となるとともに、運転者が前後加速度及び横加速度を適切に体感できる。よって、運転者は走行状態をより適切に予想することができるようになる。
【0075】
また、本実施形態では、車両運動制御部102は、複数の運動パターンに、加速度推定部103が推定する合成加速度量の変化が前記理想変化となる運動パターンがないときには、経路設定部101に、別の経路を設定するよう電気信号を送信する。これにより、合成加速度量の変化が理想変化になる車両運動をより効果的に実現させることができ、自動運転時であっても運転者が走行状態をより予測しやすくすることができる。
【0076】
(その他の実施形態)
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0077】
例えば、前述の実施形態では、車両運動制御部102は、経路設定部101が設定した走行経路を追従する複数の運動パターンを算出するように構成されていた。これに限らず、車両運動制御部102は、1つの運動パターンを算出してもよい。この場合、加速度推定部103は、該運動パターンにより走行経路を追従したときの前後加速度量、横加速度量、及び合成加速度量を推定する。そして、車両運動制御部102は、推定された合成加速度量の変化が前記理想変化でありかつ前後加速度量と横加速度量との比率が1:1.4~3であれば、算出した運動パターンで車両1を制御する。一方で、車両運動制御部102は、推定された合成加速度量の変化が前記理想変化でないか又は前後加速度量と横加速度量との比率が1:1.4~3でないときには、運動パターンを算出し直す。この構成では、車両運動制御部102及び加速度推定部103の演算量を出来る限り抑えることができるという利点がある。
【0078】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0079】
ここに開示された技術は、車両の自動運転制御装置として有用である。
【符号の説明】
【0080】
1 車両
100 ECU
101 経路設定部
102 車両運動制御部
103 加速度推定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11