(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/08 20060101AFI20240730BHJP
H02P 29/028 20160101ALI20240730BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20240730BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240730BHJP
B60L 50/16 20190101ALI20240730BHJP
B60W 10/02 20060101ALI20240730BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240730BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20240730BHJP
B60W 20/40 20160101ALI20240730BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20240730BHJP
【FI】
B60W10/08 900
H02P29/028
B60L9/18 J ZHV
B60L15/20 K
B60L50/16
B60W10/02 900
B60W10/06 900
B60K6/48
B60W20/40
B60W20/00 900
(21)【出願番号】P 2021003077
(22)【出願日】2021-01-12
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 佑樹
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-64343(JP,A)
【文献】特開2018-107898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/08
H02P 29/028
B60L 9/18
B60L 15/20
B60L 50/16
B60W 10/02
B60W 10/06
B60K 6/48
B60W 20/40
B60W 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、スイッチング素子を用いて前記モータに交流電力を供給するインバータと、を備える車両の制御装置であって、
前記モータのトルクが第1のトルク以上であること、かつ前記モータの回転速度が第1の回転速度以下であること、の第1の判定条件が第1の判定時間の間成立したか否かを判定する第1の判定を行ない、前記第1の判定条件が前記第1の判定時間の間成立したと判定した場合に、前記モータのトルクを制限する第1トルク制限制御を行ない、前記モータのトルクが前記第1のトルクより小さい第2のトルク以上であること、かつ前記モータの回転速度が前記第1の回転速度より高い第2の回転速度以下であること、の第2の判定条件が第2の判定時間の間成立したか否かを判定する第2の判定を行ない、前記第2の判定条件が前記第2の判定時間の間成立したと判定した場合に、前記モータのトルクを制限する第2トルク制限制御を行ない、前記第2の判定時間を前記第1の判定時間より長くする制御部を備える車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1トルク制限制御においては、前記第2トルク制限制御よりも前記モータのトルクの制限量を大きくする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1の判定の判定中は、前記第1の判定条件が前記第1の判定時間の間成立したと判定した場合の前記モータのトルクの制限量より少ない制限量で前記モータのトルクを制限する判定前トルク制限制御を行なう請求項1または請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第2トルク制限制御の前記第2の判定時間が経過するまでに、前記第1の判定条件が成立していた時間が長くなるほど、前記第2の判定条件が前記第2の判定時間の間成立したと判定した場合の前記モータのトルクの制限量を大きくする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記車両は、駆動源としてエンジンを備え、
前記制御部は、前記第1トルク制限制御及び前記第2トルク制限制御において前記モータのトルクを制限する場合には、前記エンジンを始動させて前記エンジンを駆動源として前記車両を走行させる請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
【請求項6】
前記車両は、前記エンジンと駆動輪との間の動力伝達を伝達または非伝達に切替可能な動力伝達機構を備え、
前記制御部は、前記第1トルク制限制御及び前記第2トルク制限制御において前記モータのトルクを制限する場合に、前記エンジンの始動が完了するまでは完了前トルク制限量で前記モータのトルクを制限し、前記エンジンの始動完了後は前記完了前トルク制限量よりも大きな完了後トルク制限量で前記モータのトルクを制限し、前記エンジンの始動が完了するまでは前記エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達を非伝達とし、前記エンジンの始動が完了後に前記エンジンと前記駆動輪との間の動力伝達を開始する請求項5に記載の車両の制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第1トルク制限制御においては、前記第1の判定条件が成立しなくなった場合には、前記第1の判定条件が成立している時間の計数を停止し、再び前記第1の判定条件が成立した場合には、前記第1の判定条件が成立している時間の計数を再開し、前記第2トルク制限制御においては、前記第2の判定条件が成立しなくなった場合には、前記第2の判定条件が成立している時間をリセットする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電気自動車が登り坂においてロック状態に陥ったとき、モータのトルクを低減させることで、ロック状態から容易に脱出するとともにスイッチング素子の破損を防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、モータトルクの指令値が高い状態で車両がモータトルクのみで段差を乗り越えるなどして、モータロックを判定するモータ回転速度の閾値付近でモータ回転速度が変動を繰り返してしまうと、断続的なモータロック状態となり、スイッチング素子の温度が上昇してしまうにもかかわらずモータロック状態と判定することができない。
【0005】
このような状況を判定するために、モータ回転速度の閾値を高くすることが考えられるが、その場合モータロックと判定される領域が広くなることで、モータのトルクが制限されやすくなり、通常走行時のドライバビリティが悪化するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は、ドライバビリティが悪化することを防止しつつ、スイッチング素子を断続的なモータロックによる温度上昇から保護することができる車両の制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明は、モータと、スイッチング素子を用いて前記モータに交流電力を供給するインバータと、を備える車両の制御装置であって、前記モータのトルクが第1のトルク以上であること、かつ前記モータの回転速度が第1の回転速度以下であること、の第1の判定条件が第1の判定時間の間成立したか否かを判定する第1の判定を行ない、前記第1の判定条件が前記第1の判定時間の間成立したと判定した場合に、前記モータのトルクを制限する第1トルク制限制御を行ない、前記モータのトルクが前記第1のトルクより小さい第2のトルク以上であること、かつ前記モータの回転速度が前記第1の回転速度より高い第2の回転速度以下であること、の第2の判定条件が第2の判定時間の間成立したか否かを判定する第2の判定を行ない、前記第2の判定条件が前記第2の判定時間の間成立したと判定した場合に、前記モータのトルクを制限する第2トルク制限制御を行ない、前記第2の判定時間を前記第1の判定時間より長くする制御部を備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
このように、本発明によれば、ドライバビリティが悪化することを防止しつつ、スイッチング素子を断続的なモータロックによる温度上昇から保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係る車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置の第1の判定条件と第2の判定条件との関係を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置のトルク制限制御処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置のトルク制限制御処理による第1の判定が成立する場合のモータのトルクと回転速度の変化を示すタイムチャートである。
【
図5】
図5は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置のトルク制限制御処理による第2の判定が成立する場合のモータのトルクと回転速度の変化を示すタイムチャートである。
【
図6】
図6は、本発明の一実施例に係る車両の制御装置のトルク制限制御処理による第2の判定が成立するまでに第1の判定条件が成立する時間がある場合のモータのトルクと回転速度の変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係る車両の制御装置は、モータと、スイッチング素子を用いてモータに交流電力を供給するインバータと、を備える車両の制御装置であって、モータのトルクが第1のトルク以上であること、かつモータの回転速度が第1の回転速度以下であること、の第1の判定条件が第1の判定時間の間成立したか否かを判定する第1の判定を行ない、第1の判定条件が第1の判定時間の間成立したと判定した場合に、モータのトルクを制限する第1トルク制限制御を行ない、モータのトルクが第1のトルクより小さい第2のトルク以上であること、かつモータの回転速度が第1の回転速度より高い第2の回転速度以下であること、の第2の判定条件が第2の判定時間の間成立したか否かを判定する第2の判定を行ない、第2の判定条件が第2の判定時間の間成立したと判定した場合に、モータのトルクを制限する第2トルク制限制御を行ない、第2の判定時間を第1の判定時間より長くする制御部を備えるよう構成されている。
【0011】
これにより、本発明の一実施の形態に係る車両の制御装置は、ドライバビリティが悪化することを防止しつつ、スイッチング素子を断続的なモータロックによる温度上昇から保護することができる。
【実施例】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施例に係る車両の制御装置を搭載した車両について詳細に説明する。
【0013】
図1において、本発明の一実施例に係る車両1は、エンジン2と、トランスミッション3と、モータ4と、インバータ5と、制御部6と、を含んで構成されている。
【0014】
エンジン2には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン2は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行なうように構成されている。
【0015】
トランスミッション3は、エンジン2から出力された回転を変速し、ディファレンシャル7を介して左右の駆動輪8を駆動する。トランスミッション3は、平行軸歯車機構からなる常時噛合式の図示しない変速機構と、図示しないアクチュエータとを備えている。
【0016】
エンジン2とトランスミッション3の間には、乾式単板式のクラッチ31が設けられており、クラッチ31は、エンジン2とトランスミッション3との間の動力伝達を接続または切断する。すなわち、クラッチ31は、エンジン2と駆動輪8との間の動力伝達を伝達または非伝達に切り替える動力伝達機構として機能する。
【0017】
トランスミッション3は、いわゆるAMT(Automated Manual Transmission)として構成されており、図示しないアクチュエータにより変速機構における変速段の切替えとクラッチ31の断接が行なわれる。
【0018】
モータ4は、インバータ5を介して図示しないバッテリから供給される電力によって駆動する電動機としての機能と、ディファレンシャル7から入力される逆駆動力によって回生発電を行なう発電機としての機能とを有する。モータ4の出力軸は、トランスミッション3の出力軸に接続されている。
【0019】
モータ4には、モータ4の回転速度を検出する回転速度検出部としての回転センサ41が設けられている。回転センサ41は、制御部6に接続されている。
【0020】
インバータ5は、制御部6の制御により、バッテリから供給された直流電力を三相の交流電力に変換してモータ4に供給したり、モータ4によって生成された三相の交流電力を直流電力に変換してバッテリを充電したりする。
【0021】
インバータ5は、例えば、6個のスイッチング素子を備え、この6個のスイッチング素子を制御してモータ4に供給する三相の交流電力を制御する。
【0022】
インバータ5には、インバータ5からモータ4に供給される電流を検出する電流センサ51が設けられている。電流センサ51は、制御部6に接続されている。
【0023】
このように、車両1は、エンジン2とモータ4の両方の動力を車両1の駆動に用いることが可能なパラレルハイブリッドシステムを構成しており、エンジン2及びモータ4の少なくとも一方が出力する動力により走行するようになっている。
【0024】
制御部6は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニットによって構成されている。
【0025】
このコンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットを制御部6として機能させるためのプログラムが格納されている。
【0026】
すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、これらのコンピュータユニットは、本実施例における制御部6として機能する。
【0027】
制御部6の入力ポートには、前述の回転センサ41、電流センサ51を含む各種センサ類が接続されている。
【0028】
一方、制御部6の出力ポートには、前述のインバータ5、トランスミッション3のアクチュエータに加え、図示しないインジェクタを含む各種制御対象類が接続されている。
【0029】
本実施例において、制御部6は、モータ4のトルクとモータ4の回転速度とからモータロック状態を判定し、モータロック状態であると判定した場合には、モータ4のトルクを制限するトルク制限制御を行なう。モータ4のトルクを制限するとは、例えば、モータトルクの上限値を引き下げることである。なお、トルク制限制御とは別に、モータ回転数が低い領域ではモータトルクを制限している。
【0030】
制御部6は、モータ4のトルクが第1のトルク以上であること、かつモータ4の回転速度が第1の回転速度以下であること、の第1の判定条件が第1の判定時間の間成立したか否かを判定する第1の判定を行ない、第1の判定条件が第1の判定時間の間成立したと判定した場合に、モータ4のトルクを制限する第1トルク制限制御を行なう。
【0031】
制御部6は、モータ4のトルクが第1のトルクより小さい第2のトルク以上であること、かつモータ4の回転速度が第1の回転速度より高い第2の回転速度以下であること、の第2の判定条件が第2の判定時間の間成立したか否かを判定する第2の判定を行ない、第2の判定条件が第2の判定時間の間成立したと判定した場合に、モータ4のトルクを制限する第2トルク制限制御を行なう。ここで、第2の判定時間は、第1の判定時間より長い。
【0032】
第1の判定条件と第2の判定条件との関係は、
図2に示すようになる。
図2において、「長時間/短時間判定領域」と記載されている領域は、第1の判定条件が成立する領域である。また、「長時間/短時間判定領域」と記載されている領域と、「長時間判定領域」と記載されている領域と、を合わせて、第2の判定条件が成立する領域である。なお、「長時間/短時間判定領域」が従来のモータロックの判定領域である。
【0033】
「長時間/短時間判定領域」において連続的なモータロック及び断続的なモータロックを第1の判定時間で検出する。「長時間判定領域」において、断続的なモータロックを第1の判定時間より長い第2の判定時間で検出する。
【0034】
制御部6は、第1トルク制限制御においては、第2トルク制限制御よりもモータ4のトルクの制限量を大きくする。モータ4のトルクの制限量を大きくするとは、第1トルク制限制御のトルク上限値を、第2トルク制限制御のトルク上限値よりも小さくするということである。
【0035】
制御部6は、第1トルク制限制御の第1の判定条件が第1の判定時間継続しているかを判定している第1の判定の判定中は、第1の判定条件が第1の判定時間の間成立したと判定した場合のモータ4のトルクの制限量より少ない制限量でモータ4のトルクを制限する判定前トルク制限制御を行なう。
【0036】
制御部6は、第2トルク制限制御の第2の判定時間が経過するまでに、第1の判定条件が成立していた時間が長くなるほど、第2の判定条件が第2の判定時間の間成立したと判定した場合のモータ4のトルクの制限量を大きくする。
【0037】
制御部6は、第1トルク制限制御及び第2トルク制限制御においてモータ4のトルクを制限する場合には、エンジン2を始動させてエンジン2を駆動源として車両1を走行させる。
【0038】
制御部6は、第1トルク制限制御及び第2トルク制限制御においてモータ4のトルクを制限する場合に、エンジン2の始動が完了するまでは完了前トルク制限量でモータ4のトルクを制限し、エンジン2の始動完了後は完了前トルク制限量よりも大きな完了後トルク制限量でモータ4のトルクを制限する。
【0039】
制御部6は、第1トルク制限制御及び第2トルク制限制御においてモータ4のトルクを制限する場合に、エンジン2の始動が完了するまではクラッチ31を解放状態としてエンジン2と駆動輪8との間の動力伝達を非伝達とする。
【0040】
制御部6は、第1トルク制限制御及び第2トルク制限制御においてモータ4のトルクを制限する場合に、エンジン2の始動が完了後にクラッチ31を接続状態としてエンジン2と駆動輪8との間の動力伝達を開始する。
【0041】
制御部6は、第1トルク制限制御においては、第1の判定条件が成立しなくなった場合には、第1の判定条件が成立している時間の計数を停止し、再び第1の判定条件が成立した場合には、第1の判定条件が成立している時間の計数を再開する。
【0042】
制御部6は、第2トルク制限制御においては、第2の判定条件が成立しなくなった場合には、第2の判定条件が成立している時間をリセットしてゼロにする。
【0043】
制御部6は、トルク制限制御によりモータ4のトルクを制限した後、所定の復帰条件が成立した場合には、モータ4のトルク制限を解除し、トルク上限値をモータ4の出力可能な最大トルクとする。なお、モータ4のトルクを制限及び解除するときは、いずれも変化率勾配をもって制御する。また、復帰条件は、第1トルク制限制御と第2トルク制限制御とで異なるようにしてもよい。
【0044】
以上のように構成された本実施例に係る車両の制御装置によるトルク制限制御処理について、
図3を参照して説明する。なお、以下に説明するトルク制限制御処理は、制御部6が動作を開始すると開始され、予め設定された時間間隔で実行される。
【0045】
ステップS1において、制御部6は、モータ回転速度とモータ4の目標トルクを取得する。ステップS1の処理を実行した後、制御部6は、ステップS2の処理を実行する。
【0046】
ステップS2において、制御部6は、前述の第2の判定条件が成立しているか否かを判定する。
【0047】
第2の判定条件が成立していると判定した場合には、制御部6は、ステップS3の処理を実行する。第2の判定条件が成立していないと判定した場合には、制御部6は、ステップS1の処理を実行する。
【0048】
ステップS3において、制御部6は、前述の第1の判定条件が成立しているか否かを判定する。
【0049】
第1の判定条件が成立していると判定した場合には、制御部6は、ステップS10の処理を実行する。第1の判定条件が成立していないと判定した場合には、制御部6は、ステップS4の処理を実行する。
【0050】
ステップS4において、制御部6は、モータ回転速度とモータ4の目標トルクを取得する。ステップS4の処理を実行した後、制御部6は、ステップS5の処理を実行する。
【0051】
ステップS5において、制御部6は、第2の判定条件が成立しているか否かを判定する。
【0052】
第2の判定条件が成立していると判定した場合には、制御部6は、ステップS6の処理を実行する。第2の判定条件が成立していないと判定した場合には、制御部6は、トルク制限制御処理を終了する。
【0053】
ステップS6において、制御部6は、第1の判定条件が成立しているか否かを判定する。
【0054】
第1の判定条件が成立していると判定した場合には、制御部6は、ステップS7の処理を実行する。第1の判定条件が成立していないと判定した場合には、制御部6は、ステップS8の処理を実行する。
【0055】
ステップS7において、制御部6は、第1の判定条件成立時間を所定時間だけ加算する。ステップS7の処理を実行した後、制御部6は、ステップS8の処理を実行する。
【0056】
ステップS8において、制御部6は、第2の判定時間が経過したか否かを判定する。
第2の判定時間が経過したと判定した場合には、制御部6は、ステップS9の処理を実行する。第2の判定時間が経過していないと判定した場合には、制御部6は、ステップS4の処理を実行する。
【0057】
ステップS9において、制御部6は、第2の判定が成立したときのモータ4のトルク制限を実施する。ステップS9の処理を実行した後、制御部6は、トルク制限制御処理を終了する。
【0058】
ステップS10において、制御部6は、前述の判定前トルク制限制御を実施する。ステップS10の処理を実行した後、制御部6は、ステップS11の処理を実行する。
【0059】
ステップS11において、制御部6は、モータ回転速度とモータ4の目標トルクを取得する。ステップS11の処理を実行した後、制御部6は、ステップS12の処理を実行する。
【0060】
ステップS12において、制御部6は、第1の判定条件が成立しているか否かを判定する。
【0061】
第1の判定条件が成立していると判定した場合には、制御部6は、ステップS13の処理を実行する。第1の判定条件が成立していないと判定した場合には、制御部6は、ステップS15の処理を実行する。
【0062】
ステップS13において、制御部6は、第1の判定時間が経過したか否かを判定する。
第1の判定時間が経過したと判定した場合には、制御部6は、ステップS14の処理を実行する。第1の判定時間が経過していないと判定した場合には、制御部6は、ステップS11の処理を実行する。
【0063】
ステップS14において、制御部6は、第1の判定が成立したときのモータ4のトルク制限を実施する。ステップS14の処理を実行した後、制御部6は、トルク制限制御処理を終了する。
【0064】
ステップS15において、制御部6は、判定前トルク制限制御を終了する。ステップS15の処理を実行した後、制御部6は、トルク制限制御処理を終了する。
【0065】
このようなトルク制限制御処理による動作について
図4から
図6を参照して説明する。
図4は、第1の判定が成立する場合を示す。
図4に示すように、時刻t1において、モータ4の目標トルクが第1のトルク以上となり第1の判定条件が成立すると、判定前トルク制限制御が実施され、トルク上限が下げられる判定前フェーズT1'に入る。
【0066】
時刻t2において、トルク上限が所定のトルクに下げられると、判定フェーズT1に入る。
【0067】
時刻t3において、第1の判定条件が第1の判定時間だけ継続する第1の判定が成立すると、エンジン2の始動が開始され、トルクの制限量が完了前トルク制限量となるまでトルク上限が下げられる第1制限前フェーズT2'に入る。
【0068】
時刻t4において、トルクの制限量が完了前トルク制限量となるまでトルク上限が下がると、第1制限フェーズT2に入る。
【0069】
時刻t5において、エンジン2の始動が完了すると、クラッチ31が接続状態とされ、トルクの制限量が完了後トルク制限量となるまでトルク上限が下げられる第1制限後フェーズT2''に入る。
【0070】
時刻t6において、トルクの制限量が完了後トルク制限量となるまでトルク上限が下がると、第2制限フェーズT3に入り、モータ4の回転速度が上がっていく。
【0071】
時刻t7において、復帰条件が成立すると、トルク上限を最大トルクに上げる復帰フェーズT4に入る。
【0072】
時刻t8において、トルク上限が最大トルクまで上がると、復帰フェーズT4が終わり、トルク制限制御が終わる。
【0073】
図5は、第2の判定が成立する場合を示す。
図5に示すように、時刻t11において、モータ4の目標トルクが第2のトルク以上となり第2の判定条件が成立すると、判定フェーズT5に入る。
【0074】
時刻t12において、第2の判定条件が第2の判定時間だけ継続する第2の判定が成立すると、エンジン2の始動が開始され、トルクの制限量が完了前トルク制限量となるまでトルク上限が下げられる完了前制限前フェーズT6'に入る。
【0075】
時刻t13において、トルクの制限量が完了前トルク制限量となるまでトルク上限が下がると、完了前制限フェーズT6に入る。
【0076】
時刻t14において、エンジン2の始動が完了すると、クラッチ31が接続状態とされ、トルクの制限量が完了後トルク制限量となるまでトルク上限が下げられる完了前制限後フェーズT6''に入る。
【0077】
時刻t15において、トルクの制限量が完了後トルク制限量となるまでトルク上限が下がると、完了後制限フェーズT7に入り、モータ4の回転速度が上がっていく。
【0078】
時刻t16において、復帰条件が成立すると、トルク上限を最大トルクに上げる復帰フェーズT8に入る。
【0079】
時刻t17において、トルク上限が最大トルクまで上がると、復帰フェーズT8が終わり、トルク制限制御が終わる。
【0080】
図6は、第2の判定が成立するまでに第1の判定条件が成立する時間がある場合を示す。
図6に示すように、時刻t21において、モータ4の目標トルクが第2のトルク以上となり第2の判定条件が成立すると、判定フェーズT9に入る。判定フェーズT9では、T13の間、第1の判定条件が成立している。
【0081】
時刻t22において、第2の判定条件が第2の判定時間だけ継続する第2の判定が成立すると、エンジン2の始動が開始され、トルクの制限量が、完了前トルク制限量に第1の判定条件が成立していたT13の時間分の制限量を加えた制限量となるまでトルク上限が下げられる完了前制限前フェーズT10'に入る。
【0082】
時刻t23において、トルクの制限量が、完了前トルク制限量に第1の判定条件が成立していたT13の時間分の制限量を加えた制限量となるまでトルク上限が下がると、完了前制限フェーズT10に入る。
【0083】
時刻t24において、エンジン2の始動が完了すると、クラッチ31が接続状態とされ、トルクの制限量が完了後トルク制限量となるまでトルク上限が下げられる完了前制限後フェーズT10''に入る。
【0084】
時刻t25において、トルクの制限量が完了後トルク制限量となるまでトルク上限が下がると、完了後制限フェーズT11に入り、モータ4の回転速度が上がっていく。
【0085】
時刻t26において、復帰条件が成立すると、トルク上限を最大トルクに上げる復帰フェーズT12に入る。
【0086】
時刻t27において、トルク上限が最大トルクまで上がると、復帰フェーズT12が終わり、トルク制限制御が終わる。
【0087】
このように、本実施例では、制御部6は、モータ4のトルクが第1のトルク以上であること、かつモータ4の回転速度が第1の回転速度以下であること、の第1の判定条件が第1の判定時間の間成立したか否かを判定する第1の判定を行ない、第1の判定条件が第1の判定時間の間成立したと判定した場合に、モータ4のトルクを制限する第1トルク制限制御を行ない、モータ4のトルクが第1のトルクより小さい第2のトルク以上であること、かつモータ4の回転速度が第1の回転速度より高い第2の回転速度以下であること、の第2の判定条件が第2の判定時間の間成立したか否かを判定する第2の判定を行ない、第2の判定条件が第2の判定時間の間成立したと判定した場合に、モータ4のトルクを制限する第2トルク制限制御を行ない、第2の判定時間は、第1の判定時間より長くする。
【0088】
これにより、モータ4のトルクと回転速度が異なる2つの判定領域を用いることで、モータ4のトルクが第1のトルク付近で変動する、またはモータ4の回転速度が第1の回転速度付近で変動して第1トルク制限制御を行なえない場合であっても、第2の判定条件によってモータロックを判定してモータ4のトルクを制限することができるため、スイッチング素子を断続的なモータロック状態による温度上昇から保護することができる。
【0089】
また、第2の判定時間を第1の判定時間よりも長くすることで、モータ4のトルクが制限されやすくなる状況を抑制してドライバビリティが悪化することを防止することができる。
【0090】
よって、ドライバビリティが悪化することを防止しつつ、スイッチング素子を断続的なモータロックによる温度上昇から保護することができる。
【0091】
また、制御部6は、第1トルク制限制御においては、第2トルク制限制御よりもモータ4のトルクの制限量を大きくする。
【0092】
第1のトルク以上かつ第1の回転速度以下の場合に判定されたモータロックは、第2のトルク以上かつ第2の回転速度以下の場合に判定されたモータロックよりもモータ4のトルクが高く、またモータ4の回転速度が低い状況のため、スイッチング素子の負荷が大きく、スイッチング素子の発熱量が高くなりやすい。
【0093】
そのため、第1トルク制限制御においては、第2トルク制限制御よりもモータ4のトルクの制限量を大きくすることで、よりスイッチング素子をモータロックによる温度上昇から保護することができる。
【0094】
また、制御部6は、第1の判定の判定中は、第1の判定条件が第1の判定時間の間成立したと判定した場合のモータ4のトルクの制限量より少ない制限量でモータ4のトルクを制限する判定前トルク制限制御を行なう。
【0095】
第1の判定の判定中は、第2の判定の判定中よりもスイッチング素子の負荷が大きく、スイッチング素子の発熱量が高くなりやすいため、判定中にスイッチング素子の温度が上昇しすぎて、判定が成立した後でモータ4のトルク制限を実施したとしても、スイッチング素子を保護できない可能性がある。
【0096】
そのため、第1の判定の判定中は、第1の判定条件が第1の判定時間の間成立したと判定した場合のモータ4のトルクの制限量より少ない制限量でモータ4のトルクを制限することで、判定時間を確保しつつ判定中のスイッチング素子の温度上昇を抑制して、スイッチング素子を保護することができる。
【0097】
また、制御部6は、第2トルク制限制御の第2の判定時間が経過するまでに、第1の判定条件が成立していた時間が長くなるほど、第2の判定条件が第2の判定時間の間成立したと判定した場合のモータ4のトルクの制限量を大きくする。
【0098】
第2の判定の判定中であっても、モータ4のトルクが第1のトルク以上かつモータ4の回転速度が第1の回転速度以下の状況、つまり第1の判定条件が成立している領域では、スイッチング素子の負荷が大きくスイッチング素子の発熱量が高くなりやすい。
【0099】
そのため、第2の判定の判定中に負荷が大きい状況(第1の判定条件が成立している状況)にいた時間が長くなるほどモータ4のトルクの制限量を大きくすることで、よりスイッチング素子を温度上昇から保護することができる。
【0100】
制御部6は、第1トルク制限制御及び第2トルク制限制御においてモータ4のトルクを制限する場合には、エンジン2を始動させてエンジン2を駆動源として車両1を走行させる。
【0101】
スイッチング素子の温度上昇を抑制するためにモータ4のトルクを制限すると、車両1の走行を行なうことができず、ドライバビリティが低下する可能性が考えられる。
【0102】
そのため、第1トルク制限制御及び第2トルク制限制御においてモータ4のトルクを制限する場合にエンジン2を始動させることで、モータ4のトルクを制限したとしてもエンジン2により走行を行なうことが可能となるため、ドライバビリティが悪化することを防止しつつ、スイッチング素子を断続的なモータロックによる温度上昇から保護することができる。
【0103】
また、制御部6は、第1トルク制限制御及び第2トルク制限制御においてモータ4のトルクを制限する場合に、エンジン2の始動が完了するまでは完了前トルク制限量でモータ4のトルクを制限し、エンジン2の始動完了後は完了前トルク制限量よりも大きな完了後トルク制限量でモータ4のトルクを制限し、エンジン2の始動が完了するまではクラッチ31を解放状態としてエンジン2と駆動輪8との間の動力伝達を非伝達とし、エンジン2の始動が完了後にクラッチ31を接続状態としてエンジン2と駆動輪8との間の動力伝達を開始する。
【0104】
エンジン2の始動が完了する前にモータ4のトルクの制限量を大きくしてしまうと、車両1のトルクが急に足りなくなり、ドライバビリティが低下する可能性がある。
【0105】
そのため、エンジン2の始動が完了した後にモータ4のトルクの制限量を大きくし、エンジン2と駆動輪8との間の動力伝達を開始することで、ドライバビリティが悪化することを防止しつつ、スイッチング素子を断続的なモータロックによる温度上昇から保護することができる。
【0106】
制御部6は、第1トルク制限制御においては、第1の判定条件が成立しなくなった場合には、第1の判定条件が成立している時間の計数を停止し、再び第1の判定条件が成立した場合には、第1の判定条件が成立している時間の計数を再開し、第2トルク制限制御においては、第2の判定条件が成立しなくなった場合には、第2の判定条件が成立している時間をリセットしてゼロにする。
【0107】
第1の判定の判定中は、モータ4のトルクと回転速度が第1の判定条件が成立する領域外となった場合に、第1の判定条件が成立している時間の計数を停止することで、短時間で第1の判定条件の判定領域を行き来するような場合であっても、累積した時間を用いてモータ4のトルクの制限を行なうため、断続的なモータロックによる温度上昇からスイッチング素子を保護することができる。
【0108】
一方、第2の判定の判定中の第2の判定条件が成立している時間を第1の判定の判定中の第1の判定条件が成立している時間と同様に処理してしまうと、モータ4のトルク制限を行なう頻度が多くなり、通常走行時のドライバビリティが低下してしまう。
【0109】
そのため、第2の判定の判定中は、第2の判定条件が成立しなくなった場合には、第2の判定条件が成立している時間をリセットしてゼロにすることで、通常走行時のドライバビリティを低下させることなくスイッチング素子を保護することができる。
【0110】
本実施例では、各種センサ情報に基づき制御部6が各種の判定や算出を行なう例について説明したが、これに限らず、車両1が外部サーバ等の車外装置と通信可能な通信部を備え、該通信部から送信された各種センサの検出情報に基づき車外装置によって各種の判定や算出が行なわれ、その判定結果や算出結果を通信部で受信して、その受信した判定結果や算出結果を用いて各種制御を行なってもよい。
【0111】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0112】
1 車両
2 エンジン
4 モータ
5 インバータ
6 制御部
8 駆動輪
31 クラッチ(動力伝達機構)
41 回転センサ
51 電流センサ