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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20240730BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240730BHJP
   H02M 3/155 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
H02P27/08
H02M7/48 E
H02M3/155 P
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021008328
(22)【出願日】2021-01-21
(65)【公開番号】P2022112443
(43)【公開日】2022-08-02
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】社本 佳大
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-145795(JP,A)
【文献】特開2019-146281(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0165694(US,A1)
【文献】特開2009-225634(JP,A)
【文献】特開2013-099177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
H02M 7/48
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電装置と、電動機と、前記電動機を駆動するインバータと、前記蓄電装置と前記インバータとの間に取り付けられた昇圧コンバータと、前記インバータのスイッチング素子をスイッチング制御すると共に前記昇圧コンバータを制御する制御装置と、を備える駆動装置であって、
第1矩形波制御モードは、1周期の前半周期または後半周期が矩形波パルスとなる矩形波パルスパターンを用いたモードであり、
第2矩形波制御モードは、前記電動機の回転数が第1共振領域より大きい第1所定回転数以上のときには前記矩形波パルスパターンを用いると共に前記電動機の回転数が前記第1所定回転数未満のときには前記矩形波パルスパターンにおける矩形波パルスが存在している領域に1つ以上のスリットを形成すると共に矩形波パルスが存在していない領域において前記スリットと同一のタイミングに前記スリットと同一幅の短パルスを形成したパターンであって前記第1共振領域におけるLC共振を抑制する第1スイッチングパターンを用いるモードであるとした場合において、
前記制御装置は、前記インバータのスイッチング素子のスイッチング制御については、
前記インバータに作用する電圧が前記蓄電装置からの電流に対して前記昇圧コンバータをフィードバック制御を伴ってデューティ制御により制御したときに前記フィードバック制御による振れ幅によりデューティが100%にはならない電圧として得られる閾値電圧以上となるように前記昇圧コンバータを制御しているときには、変調度に応じてパルス幅変調制御モードと前記第1矩形波制御モードとを切り替え、
前記インバータに作用する電圧が前記閾値電圧未満となるように前記昇圧コンバータを制御しているときには、変調度に応じて前記パルス幅変調制御モードと前記第2矩形波制御モードとを切り替える、
ことを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載の駆動装置であって、
前記制御装置は、
前記インバータに作用する電圧が前記閾値電圧以上となるように前記昇圧コンバータを制御しているときには、変調度に応じて過変調領域を介してパルス幅変調制御モードと前記第1矩形波制御モードとを切り替え、
前記インバータに作用する電圧が前記閾値電圧未満となるように前記昇圧コンバータを制御しているときには、変調度に応じて前記第1スイッチングパターンにおける前記スリット及び前記短パルスの幅を変化させる中間領域を介してパルス幅変調制御モードと前記第2矩形波制御モードとを切り替える、
駆動装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の駆動装置であって、
前記第2矩形波制御モードは、前記電動機の回転数が前記第1所定回転数より小さい第2所定回転数未満のときには、前記第1スイッチングパターンよりスリット数および短パルス数が多いパターンであって前記第2所定回転数より小さい回転数範囲に含まれる第2
共振領域におけるLC共振を抑制する第2スイッチングパターンを用いるモードである、
駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の駆動装置としては、変調率によりパルス幅変調制御と矩形波制御とを切り替えて電動機を駆動するインバータのスイッチング素子をスイッチング制御する場合において、矩形波制御によりスイッチング制御する際には、電動機の回転数が第1共振領域より小さい第1所定回転数以上のときには第1共振領域における共振を抑制するスイッチングパターンの第1スイッチングモードを用いてスイッチング制御を行ない、電動機の回転数が第1所定回転数未満のときには第1所定回転数より小さい第2共振領域における共振を抑制するスイッチングパターンの第2スイッチングモードを用いてスイッチング制御を行なうものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。ここで、第1スイッチングパターンは、1周期の前半周期または後半周期が矩形波パルスとなるパルスパターンを矩形波パルスパターンとしたときに、矩形波パルスが存在している領域に1つ以上のスリットを形成すると共に矩形波パルスが存在していない領域において上述のスリットと同一のタイミングにスリットと同一幅の短パルスを形成したパターンであって第1共振領域におけるLC共振を抑制するパターンである。第2スイッチングパターンは、第1スイッチングパターンよりスリット数および短パルス数が多いパターンであって第2共振領域におけるLC共振を抑制するパターンである。
【0003】
また、第1スイッチングパターンから矩形波パルスパターンに切り替える際に第1スイッチングパターンのスリットや短パルスの幅が小さくなるように徐変するものも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-146281号公報
【文献】特開2020-145795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の駆動装置では、矩形波制御において共振領域におけるLC共振を抑制するスイッチングパターンから矩形波パルスパターンに切り替えるときに、スイッチングパターンのスリットや短パルスの幅が小さくなるように徐変しても、スリットや短パルスの幅をデッドタイム以下にすることができないため、デッドタイム幅分に応じた電圧段差が発生し、トルク変動が生じる場合がある。
【0006】
本発明の電動車両の制御装置は、矩形波制御において共振領域におけるLC共振を抑制するスイッチングパターンから矩形波パルスパターンに切り替えるときに生じ得るトルク変動を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の駆動装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明の駆動装置は、
蓄電装置と、電動機と、前記電動機を駆動するインバータと、前記蓄電装置と前記インバータとの間に取り付けられた昇圧コンバータと、前記インバータのスイッチング素子をスイッチング制御すると共に前記昇圧コンバータを制御する制御装置と、を備える駆動装置であって、
第1矩形波制御モードは、1周期の前半周期または後半周期が矩形波パルスとなる矩形波パルスパターンを用いたモードであり、
第2矩形波制御モードは、前記電動機の回転数が第1共振領域より大きい第1所定回転数以上のときには前記矩形波パルスパターンを用いると共に前記電動機の回転数が前記第1所定回転数未満のときには前記矩形波パルスパターンにおける矩形波パルスが存在している領域に1つ以上のスリットを形成すると共に矩形波パルスが存在していない領域において前記スリットと同一のタイミングに前記スリットと同一幅の短パルスを形成したパターンであって前記第1共振領域におけるLC共振を抑制する第1スイッチングパターンを用いるモードであるとした場合において、
前記制御装置は、前記インバータのスイッチング素子のスイッチング制御については、
前記インバータに作用する電圧が前記蓄電装置からの電流に基づく閾値電圧以上となるように前記昇圧コンバータを制御しているときには、変調度に応じてパルス幅変調制御モードと前記第1矩形波制御モードとを切り替え、
前記インバータに作用する電圧が前記閾値電圧未満となるように前記昇圧コンバータを制御しているときには、変調度に応じて前記パルス幅変調制御モードと前記第2矩形波制御モードとを切り替える、
ことを特徴とする。
【0009】
この本発明の駆動装置では、蓄電装置と、電動機と、電動機を駆動するインバータと、蓄電装置と前記インバータとの間に取り付けられた昇圧コンバータと、インバータのスイッチング素子をスイッチング制御すると共に昇圧コンバータを制御する制御装置と、を備える。制御装置は、インバータのスイッチング素子をスイッチング制御については、インバータに作用する電圧が蓄電装置からの電流に基づく閾値電圧以上となるように昇圧コンバータを制御しているときには、変調度に応じてパルス幅変調制御モードと第1矩形波制御モードとを切り替える。第1矩形波制御モードは、1周期の前半周期または後半周期が矩形波パルスとなる矩形波パルスパターンを用いたモードである。また、制御装置は、インバータに作用する電圧が閾値電圧未満となるように昇圧コンバータを制御しているときには、変調度に応じてパルス幅変調制御モードと第2矩形波制御モードとを切り替える。第2矩形波制御モードは、電動機の回転数が第1共振領域より大きい第1所定回転数以上のときには矩形波パルスパターンを用いると共に電動機の回転数が第1所定回転数未満のときには矩形波パルスパターンにおける矩形波パルスが存在している領域に1つ以上のスリットを形成すると共に矩形波パルスが存在していない領域においてスリットと同一のタイミングにスリットと同一幅の短パルスを形成したパターンであって第1共振領域におけるLC共振を抑制する第1スイッチングパターンを用いるモードである。蓄電装置からの電流は、インバータに流れる電流(負荷電流)に伝達関数を乗じたものとして計算され、伝達関数は回路の伝達関数と昇圧コンバータ制御の伝達関数の積として求めることができる。昇圧コンバータ制御の伝達関数は昇圧コンバータ制御のゲイン(デューティ)を調整することで特性を調整することができるから、昇圧コンバータ制御の伝達関数のカットオフ周波数がLC共振周波数より小さくなるようにゲインを調整すれば、LC共振を回避することができる。したがって、閾値電圧としては、昇圧コンバータ制御の伝達関数のカットオフ周波数がLC共振周波数より小さくなるようにゲインを調整したときにインバータに作用する電圧以上の電圧を用いればよい。このため、インバータに作用する電圧が閾値電圧以上となるように昇圧コンバータを制御しているときに矩形波パルスパターンを用いても第1共振領域においてLC共振を生じるのを回避することができる。また、インバータに作用する電圧が閾値電圧以上となるように昇圧コンバータを制御しているときには第1スイッチングパターンを用いずに矩形波パルスパターンを用いるから、第1スイッチングパターンから矩形波パルスパターンへの切り替えは生じない。この結果、第1スイッチングパターンから矩形波パルスパターンへの切り替えの際に生じ得るトルク変動を回避することができる。なお、インバータに作用する電圧が閾値電圧未満となるように昇圧コンバータを制御しているときには第1スイッチングパターンを用いるから、第1スイッチングパターンから矩形波パルスパターンへの切り替えの際にトルク変動が生じるものの第1共振領域におけるLC共振を抑制することができる。これらの結果、全体として、矩形波制御において共振領域におけるLC共振を抑制する第1スイッチングパターンから矩形波パルスパターンに切り替えるときに生じ得るトルク変動を抑制することができる。特に、第1スイッチングパターンから矩形波パルスパターンへの切り替えは、インバータに作用する電圧が蓄電装置からの電流に基づく閾値電圧未満の場合のみになるため、デッドタイム幅分に応じた電圧段差が小さい場合のみになり、トルク変動を小さくすることができる。なお、閾値電圧は、蓄電装置に入出力される電流、特に放電電流と充電電流により異なるため、蓄電電池からの電流に基づく電圧としている。
【0010】
本発明の駆動装置において、前記閾値電圧は、前記昇圧コンバータをフィードバック制御を伴ってデューティ制御により制御したときに、前記フィードバック制御による振れ幅によりデューティが100%にはならない電圧として前記蓄電装置からの電流に対して予め定められた電圧であるものとすることもできる。デューティが100%のとき、即ち昇圧コンバータにより全く昇圧していない状態のときには、昇圧コンバータ制御の伝達関数は値1となり、伝達関数は回路の伝達関数にのみ依存することになる。したがって、フィードバック制御の振れ幅によりデューティが100%になる頻度が多いと、伝達関数は回路の伝達関数に依存する頻度が多くなり、共振領域でLC共振が生じるようになる。このため、フィードバック制御による振れ幅によりデューティが100%にはならないようにすることにより、伝達関数に昇圧コンバータ制御の伝達関数を反映することができ、共振領域においてLC共振が生じるのを回避することができる。この場合、前記制御装置は、前記フィードバック制御による振れ幅によりデューティが100%にはならないデューティを前記閾値電圧として用いて制御するものとしてもよい。即ち、インバータに作用する電圧に代えてデューティにより制御してもよい。
【0011】
また、本発明の駆動装置において、前記制御装置は、前記インバータに作用する電圧が前記閾値電圧以上となるように前記昇圧コンバータを制御しているときには、変調度に応じて過変調領域を介してパルス幅変調制御モードと前記第1矩形波制御モードとを切り替え、前記インバータに作用する電圧が前記閾値電圧未満となるように前記昇圧コンバータを制御しているときには、変調度に応じて前記第1スイッチングパターンにおける前記スリット及び前記短パルスの幅を変化させる中間領域を介してパルス幅変調制御モードと前記第2矩形波制御モードとを切り替えるものとしてもよい。
【0012】
本発明の駆動装置において、前記第2矩形波制御モードは、前記電動機の回転数が前記第1所定回転数より小さい第2所定回転数未満のときには、前記第1スイッチングパターンよりスリット数および短パルス数が多いパターンであって前記第2所定回転数より小さい回転数範囲に含まれる第2共振領域におけるLC共振を抑制する第2スイッチングパターンを用いるモードであるものとしてもよい。こうすれば、第2共振領域におけるLC共振も抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施例としての駆動装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。
図2】電子制御ユニット50により実行される制御モード設定処理の一例を示すフローチャートである。
図3】閾値電圧設定用マップの一例を示す説明図である。
図4】高電圧系電圧VHに拘わらず第2矩形波制御モードを実行する際のモータ32の回転数NmとトルクTmと制御モードとの関係の一例を示す説明図である。
図5】電子制御ユニット50により実行される矩形波制御モードパルスパターン設定処理の一例を示すフローチャートである。
図6】矩形波パルスパターンと第1スイッチングパターンと第2スイッチングパターンの一例を示す説明図である。
図7】電子制御ユニット50により実行される中間制御モードパルスパターン設定処理の一例を示すフローチャートである。
図8】中間矩形波パルスパターンと中間第1スイッチングパターンと中間第2スイッチングパターンの一例を示す説明図である。
図9】スリット幅設定用マップの一例を示す説明図である。
図10】モータ回転数Nmと第1スイッチングパターンのスリットおよび短パルスの幅pとの関係の一例を示す説明図である。
図11】高電圧系電圧VHとモータ32の回転数NmとトルクTmと制御モードとの関係の一例を示す説明図である。
図12】伝達関数C(s)を変化させたときのボード線図の一例を示す説明図である。
図13】指令値としてのデューティが100%より若干小さいときの実際のデューティの時間変化とその一部を拡大したものの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例
【0015】
図1は、本発明の一実施例としての駆動装置を搭載する電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例の電気自動車20は、図示するように、モータ32と、インバータ34と、電源としてのバッテリ36と、昇圧コンバータ40と、電子制御ユニット50と、を備える。
【0016】
モータ32は、同期発電電動機として構成されており、永久磁石が埋め込まれた回転子と、三相コイルが巻回された固定子と、を備える。このモータ32の回転子は、駆動輪22a,22bにデファレンシャルギヤ24を介して連結された駆動軸26に接続されている。
【0017】
インバータ34は、モータ32の駆動に用いられる。このインバータ34は、高電圧側電力ライン42を介して昇圧コンバータ40に接続されており、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11~T16と、6つのトランジスタT11~T16のそれぞれに並列に接続された6つのダイオードD11~D16と、を有する。トランジスタT11~T16は、それぞれ、高電圧側電力ライン42の正極側ラインと負極側ラインとに対してソース側とシンク側になるように2個ずつペアで配置されている。また、トランジスタT11~T16の対となるトランジスタ同士の接続点の各々には、モータ32の三相コイル(U相,V相,W相のコイル)の各々が接続されている。したがって、インバータ34に電圧が作用しているときに、電子制御ユニット50によって、対となるトランジスタT11~T16のオン時間の割合が調節されることにより、三相コイルに回転磁界が形成され、モータ32が回転駆動される。高電圧側電力ライン42の正極側ラインと負極側ラインとには、平滑用のコンデンサ46が取り付けられている。
【0018】
バッテリ36は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、低電圧側電力ライン44を介して昇圧コンバータ40に接続されている。低電圧側電力ライン44の正極側ラインと負極側ラインとには、平滑用のコンデンサ48が取り付けられている。
【0019】
昇圧コンバータ40は、高電圧側電力ライン42と低電圧側電力ライン44とに接続されており、2つのトランジスタT31,T32と、2つのトランジスタT31,T32のそれぞれに並列に接続された2つのダイオードD31,D32と、リアクトルLと、を有する。トランジスタT31は、高電圧側電力ライン42の正極側ラインに接続されている。トランジスタT32は、トランジスタT31と、高電圧側電力ライン42および低電圧側電力ライン44の負極側ラインと、に接続されている。リアクトルLは、トランジスタT31,T32同士の接続点と、低電圧側電力ライン44の正極側ラインと、に接続されている。昇圧コンバータ40は、電子制御ユニット50によって、トランジスタT31,T32のオン時間の割合が調節されることにより、低電圧側電力ライン44の電力を昇圧して高電圧側電力ライン42に供給したり、高電圧側電力ライン42の電力を降圧して低電圧側電力ライン44に供給したりする。
【0020】
電子制御ユニット50は、CPU52を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU52に加えて、処理プログラムを記憶するROM54や、データを一時的に記憶するRAM56、入出力ポートを備える。電子制御ユニット50には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。電子制御ユニット50に入力される信号としては、例えば、モータ32の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ(例えばレゾルバ)32aからの回転位置θmや、モータ32の各相の相電流を検出する電流センサ32u,32vからの相電流Iu,Ivを挙げることができる。また、バッテリ36の端子間に取り付けられた電圧センサ36aからの電圧(バッテリ電圧)Vbや、バッテリ36の出力端子に取り付けられた電流センサ36bからの電流(バッテリ電流)Ibも挙げることができる。さらに、リアクトルLに直列に取り付けられた電流センサ40aからの電流ILや、コンデンサ46の端子間に取り付けられた電圧センサ46aからのコンデンサ46(高電圧側電力ライン42)の電圧(高電圧系電圧)VH、コンデンサ48の端子間に取り付けられた電圧センサ48aからのコンデンサ48(低電圧側電力ライン44)の電圧(低電圧系電圧)VLも挙げることができる。加えて、イグニッションスイッチ60からのイグニッション信号や、シフトレバー61の操作位置を検出するシフトポジションセンサ62からのシフトポジションSPも挙げることができる。また、アクセルペダル63の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Accや、ブレーキペダル65の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ68からの車速Vも挙げることができる。電子制御ユニット50は、回転位置検出センサ32aからの回転位置θmに基づいてモータ32の回転数Nmを演算したり、電流センサ36bからのバッテリ36の電流Ibの積算値に基づいてバッテリ36の蓄電割合SOCを演算したりしている。ここで、蓄電割合SOCは、バッテリ36の全容量に対するバッテリ36の蓄電量(放電可能な電力量)の割合である。
【0021】
電子制御ユニット50からは、各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。電子制御ユニット50から出力される信号としては、例えば、インバータ34のトランジスタT11~T16へのスイッチング制御信号や、昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32へのスイッチング制御信号を挙げることができる。
【0022】
こうして構成された実施例の電気自動車20では、電子制御ユニット50は、以下の走行制御を行なう。走行制御では、アクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸26に要求される要求トルクTd*を設定し、設定した要求トルクTd*をモータ32のトルク指令Tm*に設定し、モータ32がトルク指令Tm*で駆動されるようにインバータ34のトランジスタT11~T16のスイッチング制御を行なう。また、走行制御では、モータ32をトルク指令Tm*で駆動できるように高電圧側電力ライン42の目標電圧VH*を設定し、高電圧側電力ライン42の電圧VHが目標電圧VH*となるように昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32のスイッチング制御を行なう。
【0023】
次に、実施例の電気自動車20が搭載する制御装置における制御、特にインバータ34のスイッチング素子のスイッチング制御について説明する。図2は、電子制御ユニット50により実行される制御モード設定処理の一例を示すフローチャートである。この処理は所定時間毎に繰り返し実行される。
【0024】
制御モード設定処理が実行されると、電子制御ユニット50は、まず、電圧センサ46aからの高電圧系電圧VHや、電流センサ36bからのバッテリ電流Ib,モータ32の回転数Nm,変調度Mなどを入力する処理を実行する(ステップS100)。モータ32の回転数Nmは、回転位置検出センサ32aからの回転位置θmに基づいて演算したものを入力することができる。変調度Mは、電圧ベクトルにおけるd軸成分Vdとq軸成分Vqの2乗和の平方根を高電圧側電力ライン42の電圧VHで除することにより得ることができる。
【0025】
続いて、入力したモータ32の回転数Nmを閾値Nref1および閾値Nref2と比較する(ステップS110)。閾値Nref1,閾値Nref2については後述する。モータ32の回転数Nmが閾値Nref1未満のときには閾値Mref2に値Mset1を設定し(ステップS120)、モータ32の回転数Nmが閾値Nref1以上で閾値Nref2未満のときには閾値Mref2に値Mset2を設定し(ステップS130)、モータ32の回転数Nmが閾値Nref2以上のときには閾値Mref2に値Mset3を設定する(ステップS140)。閾値Mref2,値Mset1,値Mset2、値Mset3については後述する。
【0026】
次に、変調度Mを閾値Mref1と比較し(ステップS150)、変調度Mが閾値Mref1未満であると判定したときにはPWM制御モードを設定する(ステップS160)。PWM制御モードは、擬似的な三相交流電圧がモータ32に印加(供給)されるようにインバータ34を制御する制御モードである。変調度Mが閾値Mref1以上であると判定したときには、バッテリ電流Ibに基づいて閾値電圧Vrefを設定し(ステップS170)、高電圧系電圧VHが閾値電圧Vref以上であるか否かを判定する(ステップS180)。閾値電圧Vrefは、インバータ34に作用する電圧(高電圧系電圧VH)が昇圧コンバータ40の昇圧制御におけるフィードバック制御量の振れ幅によりデューティが100%(上アーム(トランジスタT31)がオン)にはならない電圧として予め定められたものである。閾値電圧Vrefは、実施例では、バッテリ電流Ibと閾値電圧Vrefとの関係を実験などにより予め求めて閾値電圧設定用マップとして記憶しておき、バッテリ電流Ibが与えられるとマップから対応する閾値電圧Vrefを導出することにより設定するものとした。閾値電圧Vrefの更なる詳細については後述する。
【0027】
ステップS180で高電圧系電圧VHが閾値電圧Vref未満であると判定したときには、変調度Mが閾値Mref2未満であるか否かを判定する(ステップS190)。変調度Mが閾値Mref2未満であると判定したときには中間制御モードを設定し(ステップS200)、変調度Mが閾値Mref2以上であると判定したときには第2矩形波制御モードを設定して(ステップS210)、本処理を終了する。閾値Mref1は、パルス幅変調制御モード(以下、PWM制御モードと称す。)と中間制御モードとを区分けする変調度であり、閾値Mref2は、中間制御モードと第2矩形波制御モードとを区分けする変調度である。第2矩形波制御モードは、基本的には矩形波電圧がモータ32に印加されるようにインバータ34を制御する制御モードである。中間制御モードは、PWM制御モードと第2矩形波制御モードとの切り替えの際に行なう制御であり、詳細は後述するが第2矩形波制御モードにおけるパルスパターンにおいて、相電流が値0を跨ぐゼロクロスするタイミングでスリットまたは短パルスを形成したパルスパターンの電圧がモータ32に印加されるようにインバータ34を制御する制御モードである。高電圧系電圧VHに拘わらずに第2矩形波制御モードを実行する際のモータ32の回転数NmとトルクTmと制御モードとの関係の一例を図4に示す。図中、左下の領域がPWM制御モードであり、ハッチングの領域が中間制御モードであり、右上の領域が第2矩形波制御モードである。
【0028】
PWM制御モードにおける制御は周知のパルス幅変調により形成されるパルスパターンを用いており、本発明の中核をなさないからその詳細な説明は省略する。また、説明の容易のために、まず、第2矩形波制御モードにおけるパルスパターンについて説明し、その後、中間制御モードにおけるパルスパターンについて説明する。
【0029】
実施例の電気自動車20が搭載する制御装置では、第2矩形波制御モードは、第1スイッチングパターン、第2スイッチングパターン、矩形波パルスパターンの3つのパルスパターンによりインバータ34を制御する。図5は、電子制御ユニット50により実行される第2矩形波制御モードパルスパターン設定処理の一例を示すフローチャートである。第2矩形波制御モードパルスパターン設定処理では、まず、モータ32の回転数Nmを入力し(ステップS300)、入力したモータ32の回転数Nmを閾値Nref1、閾値Nref2と比較する(ステップS310)。閾値Nref2は、モータ32の電気6次変動周波数によってLC共振が生じる領域をモータ32の回転数に変換した第1共振領域の上限値より大きな回転数であり、閾値Nref1は、モータ32の電気12次変動周波数によってLC共振が生じる領域をモータ32の回転数に変換した第2共振領域の上限値より大きく第1共振領域の下限値より小さな回転数である。モータ32の回転数Nmが閾値Nref1未満であると判定したときには第2スイッチングパターンを設定し(ステップS320)、モータ32の回転数Nmが閾値Nref1以上で閾値Nref2未満であると判定したときには第1スイッチングパターンを設定し(ステップS330)、モータ32の回転数Nmが閾値Nref2以上であると判定したときには矩形波パルスパターンを設定して(ステップS340)、本処理を終了する。
【0030】
図6は、矩形波パルスパターンと第1スイッチングパターンと第2スイッチングパターンの一例を示す説明図である。矩形波パルスパターンは、図示するように、時間T1~T2の1周期の前半周期全体が1つのパルス(矩形波パルス)となると共に後半周期にはパルスが形成されないパルスパターン(通常の矩形波制御におけるパルスパターン)である。第1スイッチングパターンは、時間T1~T2の1周期の前半周期の矩形波パルスパターンの矩形波パルスが存在する領域に1つのスリットが形成されると共に後半周期のスリットと同じタイミングに1つの短パルスが形成されたパルスパターンであり、電気6次変動周波数成分を高周波化するスイッチングパターンである。電気6次変動周波数成分を高周波化するスイッチングパターンとして、図示するように、1周期に3つのパルスを有するパルスパターンだけでなく、1周期に4つ以上のパルスを有するパルスパターンも有効であるが、第1実施例では、1周期のうち最もパルス数が少ないものを第1スイッチングパターンとして用いた。第2スイッチングパターンは、第1スイッチングパターンに加えて更に1つのスリット(合計2つのスリット)と1つの短パルス(合計2つの短パルス)が形成されたパルスパターンであり、電気6次変動周波数成分に加えて電気12次変動周波数成分を高周波化するスイッチングパターンである。電気6次変動周波数成分に加えて電気12次変動周波数成分を高周波化するスイッチングパターンは、図示するように、1周期に4つのパルスを有するパルスパターンだけでなく、1周期に5つ以上のパルスを有するパルスパターンも有効であるが、第1実施例では、1周期のうち最もパルス数が少ないものを第2スイッチングパターンとして用いた。図4における右上の領域の矩形波制御モードにおいても、閾値Nref1、閾値Nref2により区分される領域により、左から順に第2スイッチングパターン、第1スイッチングパターン、矩形波パルスパターンを示した。
【0031】
以上の説明から、上述の第2矩形波制御モードパルスパターン設定処理では、ステップS310において、モータ32の回転数Nmが閾値Nref1未満であると判定したときには、モータ32の電気12次変動周波数によるLC共振を抑制するために、第2スイッチングパターンを設定し、モータ32の回転数Nmが閾値Nref1以上で閾値Nref2未満であるときには、電気6次変動周波数によるLC共振を抑制するために、第1スイッチングパターンを設定し、モータ32の回転数Nmが閾値Nref2以上であるときには、LC共振は生じないことから、矩形波パルスパターンを設定するものとなる。これにより、電気6次変動周波数や電気12次変動周波数によるLC共振によって生じ得る振動を抑制することができる。
【0032】
ここで、図2のステップS110~S140で閾値Mref2に設定する値Mset1や値Mset2、値Mset3の意義について説明する。値Mset1は、第2矩形波制御モードにおいて第2スイッチングパターンを用いているときの変調度であり、第1実施例では0.75を用いている。値Mset2は、第1スイッチングパターンを用いているときの変調度であり、値Mset1より大きな値、実施例では0.756を用いている。値Mset3は第2矩形波パルスパターンを用いているときの変調度であり、値Mset2より大きな値、実施例では0.78を用いている。図4に示すように、中間制御モードの変調度Mの上限値としての閾値Mref2には第2矩形波制御モードにおける変調度を用いるから、モータ32の回転数Nmが閾値Nref1未満のときには第2スイッチングパターンを用いているときの変調度(値Mset1)となり、回転数Nmが閾値Nref1以上で閾値Nref2未満のときには第1スイッチングパターンを用いているときの変調度(値Mset2)となり、回転数Nmが閾値Nref2以上のときには矩形波パルスパターンを用いているときの変調度(値Mset3)となる。図2の制御モード設定処理におけるステップS110~S140の処理は、この事情を考慮して閾値Mref2を設定している。
【0033】
次に、中間制御モードにおけるパルスパターンについて説明する。図7は、電子制御ユニット50により実行される中間制御モードパルスパターン設定処理の一例を示すフローチャートである。中間制御モードパルスパターン設定処理では、まず、モータ32の回転数Nmを入力し(ステップS400)、入力したモータ32の回転数Nmを閾値Nref1、閾値Nref2と比較する(ステップS410)。モータ32の回転数Nmが閾値Nref1未満であると判定したときには中間第2スイッチングパターンを設定し(ステップS420)、モータ32の回転数Nmが閾値Nref1以上で閾値Nref2未満であると判定したときには中間第1スイッチングパターンを設定し(ステップS430)、モータ32の回転数Nmが閾値Nref2以上であると判定したときには中間矩形波パルスパターンを設定する(ステップS440)。中間矩形波パルスパターンと中間第1スイッチングパターンと中間第2スイッチングパターンの一例を図8に示す。中間矩形波パルスパターンは、矩形波パルスパターン(図6参照)に対して、時間T1~T2の1周期のうち前半周期では相電流が値0を跨ぐゼロクロスのタイミングT1(1)で矩形波パルスにスリットが形成され、後半周期ではゼロクロスのタイミングT1(2)でスリットと同じ幅の短パルスが形成されるパルスパターンである。即ち、中間矩形波パルスパターンは、矩形波パルスパターンに対して、相電流がゼロクロスするタイミングでパルスが存在しているときにはスリットを形成し、パルスが存在していないときにはスリットと同一幅の短パルスを形成したスイッチングパターンとなる。中間第1スイッチングパターンおよび中間第2スイッチングパターンは、中間矩形波パルスパターンと同様に、第1スイッチングパターンや第2スイッチングパターン(図6参照)に対して、前半周期ではゼロクロスのタイミングT1(1)で矩形波パルスにスリットが形成され、後半周期ではゼロクロスのタイミングT1(2)でスリットと同じ幅の短パルスが形成されるパルスパターンである。即ち、中間第1スイッチングパターンおよび中間第2スイッチングパターンは、第1スイッチングパターンや第2スイッチングパターンに対して、相電流がゼロクロスするタイミングでパルスが存在しているときにはスリットを形成し、パルスが存在していないときにはスリットと同一幅の短パルスを形成したスイッチングパターンとなる。図4におけるハッチングの領域の中間制御モードにおいても、閾値Nref1、閾値Nref2により区分される領域により、左から順に中間第2スイッチングパターン、中間第1スイッチングパターン、中間矩形波パルスパターンを示した。
【0034】
そして、変調度Mに基づいてスリット幅pを設定し(ステップS450)、本処理を終了する。上述したように、短パルスはスリットと同じ幅であるから、ステップS450のスリット幅pの設定は短パルス幅pの設定と同意となる。スリット幅pは、実施例では、各パルスパターンにおいて、変調度Mが閾値Mref1から閾値Mref2まで変化するように実験などにより求めたパルス幅pと変調度Mとの関係をスリット幅設定用マップとして予め記憶しておき、変調度Mが与えられるとマップから対応するスリット幅を導出することにより設定するものとした。スリット幅設定用マップの一例を図9に示す。スリット幅pは、図示するように、変調度Mが大きくなるほど小さくなり、変調度Mが閾値Mref2に至ると値0となる。即ち、変調度Mが閾値Mref2に至ると、中間制御モードから矩形波制御モードに切り替えられるため、中間矩形波パルスパターンや中間第1スイッチングパターン、中間第2スイッチングパターンは矩形波パルスパターンや第1スイッチングパターン、第2スイッチングパターンに切り替えられる。このとき、スリット幅pが変調度Mが大きくなるに従って徐々に小さくなって値0となるから、中間制御モードから矩形波制御モードへの切り替えの際にトルク変動は生じない。なお、相電流のゼロクロスのタイミングでスリットや短パルスを形成するのは、相電流の波形への影響を小さくするためであると考えている。
【0035】
次に、第1スイッチングパターンから矩形波パルスパターンに切り替える際の動作、即ち、図4においてモータ回転数Nmが閾値Nref2を超えて大きくなる際の動作について説明する。モータ回転数Nmが閾値Nref2の近傍に至ると、図6に示す第1スイッチングパターンのスリットや短パルスの幅pを徐々に小さくする。モータ回転数Nmと第1スイッチングパターンのスリットおよび短パルスの幅pとの関係の一例を図10に示す。モータ回転数Nmが閾値Nref2に至るとスリットおよび短パルスの幅pは値0となり、第1スイッチングパターンから矩形波パルスパターンに切り替わるが、実際には、デッドタイムが存在するため、スリットおよび短パルスの幅pはリニアに変化せず、デッドタイム幅分だけ急変することになる。このため、第1スイッチングパターンから矩形波パルスパターンへの切り替えの際にはデッドタイム幅分に応じた電圧段差が発生し、若干のトルク変動が生じる。また、第2スイッチングパターンから第1スイッチングパターンに切り替える際にも同様のトルク変動が生じる。第2スイッチングパターンから第1スイッチングパターンへの切り替えは、モータ回転数Nmが閾値Nref2の近傍に至ると、図6に示す第2スイッチングパターンのうち第1スイッチングパターンには存在しないスリットと短パルスの幅を徐々に小さくすることによって行なう。このため、このスリットや短パルスの幅を値0とする際にデッドタイム幅分に応じた電圧段差が生じ、若干のトルク変動が生じる。
【0036】
図2の制御モード設定処理の説明に戻る。ステップS180で高電圧系電圧VHが閾値電圧VH以上であると判定したときには、変調度Mが閾値Mref2未満であるか否かを判定する(ステップS220)。変調度Mが閾値Mref2未満であると判定したときには過変調制御モードを設定し(ステップS230)、変調度Mが閾値Mref2以上であると判定したときには第1矩形波制御モードを設定して(ステップS240)、本処理を終了する。この場合、閾値Mref1は、PWM制御モードと過変調制御モードとを区分けする変調度となり、閾値Mref2は、過変調制御モードと第1矩形波制御モードとを区分けする変調度となる。第1矩形波制御モードは、矩形波パルスパターンを用いる制御モードである。過変調制御モードは、PWM制御領域を超える変調度Mに対してPWM制御と同様に三角波を用いてスイッチング素子のオンオフを設定する制御モードである。図11に高電圧系電圧VHとモータ32の回転数NmとトルクTmと制御モードとの関係の一例を示す。図中、VH=Vrefより上の領域において、左側の領域がPWM制御モードであり、ハッチングの領域が過変調制御モードであり、過変調制御モードの右側の領域が第1矩形波制御モードである。VH=Vrefより下の領域では、上述したようにPWM制御モードと中間制御モードと第2矩形波制御モードとが切り替えられる。図11図4とを比較すると解るように、図11では第2矩形波制御モードは第1スイッチングパターンと矩形波パルスパターンが存在し、第2スイッチングパターンは存在しないが、VH=Vrefの曲線の位置により第2スイッチングパターンも存在するようになる。VH=Vrefの曲線の位置は、回路やデューティ制御におけるフィードバック制御の設計により定まる。
【0037】
第1矩形波制御モードでは、変調度Mが閾値Mref2以上の矩形波の領域のすべてで矩形波パルスパターンを用いるため、第1スイッチングパターンから矩形波パルスパターンへの切り替えや第2スイッチングパターンから第1スイッチングパターンへの切り替えは行なわれない。このため、第1矩形波制御モードでは、第1スイッチングパターンから矩形波パルスパターンへの切り替えや第2スイッチングパターンから第1スイッチングパターンへの切り替えの際のデッドタイム幅分に応じた電圧段差によるトルク変動は生じない。第1スイッチングパターンや第2スイッチングパターンは、第1共振領域や第2共振領域におけるLC共振を抑制するものであるから、第1矩形波制御モードではLC共振が生じる可能性がある。しかし、第1矩形波制御モードでは高電圧系電圧VHが閾値電圧Vref以上の範囲とすることにより、LC共振は生じないものとしている。以下、LC共振が生じない理由について説明する。
【0038】
バッテリ電流Ibとインバータ40に流れる電流Iloadは、インダクタンスやコンデンサによる回路の伝達関数をG(s)とし、昇圧コンバータ40の制御の伝達関数をC(s)とすると、次式(1)により表わされる。伝達関数C(s)は、昇圧コンバータ40の制御ゲインを調整することにより特性を調整することができるから、伝達関数C(s)のカットオフ周波数がLC共振周波数より小さくなるようにゲインを設計すればLC共振を回避することができる。伝達関数C(s)は、昇圧コンバータ40により全く昇圧していないとき、即ち、昇圧コンバータ40のトランジスタT31(上アーム)が常時オン(デューティが100%)のときには値1となり、バッテリ電流Ibは電流Iloadに対して伝達関数G(s)のみに依存することになる。デューティは式(2)により表わされ、昇圧コンバータ40により全く昇圧していないとき(上アームが常時オンとなるとき)が100%となり、デューティが小さくなるにしたがって高電圧系電圧VHが高くなる。なお、式(2)中のVbはバッテリ電圧、Rbはバッテリ36の内部抵抗、Ibはバッテリ電流、VHは高電圧系電圧である。伝達関数C(s)を変化させたときのボード線図の一例を図12に示す。図中、太実線の曲線Aはデューティが100%のとき(伝達関数C(s)が値1のとき)を示し、実線の曲線Bはデューティが100%より若干小さいときを示し、細実線の曲線Cはデューティが曲線Bのときより更に小さいときを示し、一点鎖線の曲線Dはデューティが曲線Cより更に小さいときを示している。曲線AのピークがLC共振周波数(1/{2π(LC)1/2})である。デューティが100%より小さいときでもLC共振が生じるのは、デューティ制御においてフィードバック制御を行なっており、フィードバック制御の振れ幅によりデューティが100%になる頻度が多くなることに基づく。指令値としてのデューティが100%より若干小さいときの実際のデューティの時間変化とその一部を拡大したものを図13に示す。拡大部分に示すように、デューティが100%になっている間はフィードバック制御の効果は奏しないから、上アームが常時オンと同等の状態となる。実施例では、フィードバック制御の振れ幅によりデューティが100%にならないときの高電圧系電圧VHを閾値電圧Vrefとして設定することによって、伝達関数C(s)のカットオフ周波数をLC共振周波数より小さくし、LC共振を回避している。なお、閾値電圧Vrefは、図3に示すように、バッテリ電流Ibが正の値のとき(モータ32を駆動制御しているとき)には一定値となり、バッテリ電流Ibが負の値のとき(モータ32を回生制御してバッテリ36を充電しているとき)には正の値のときに比して高い値となる。
【0039】
Ib=G(s)・C(s)・Iload (1)
デューティ=(Vb-Rb・Ib)/VH (2)
【0040】
以上説明した実施例の電気自動車20が搭載する駆動装置では、高電圧系電圧VHが閾値電圧Vref以上となるように昇圧コンバータ40を制御しているときには、矩形波パルスパターンを用いた第1矩形波制御モードを用いて、変調度に応じてパルス幅変調制御モードと過変調制御モードと第1矩形波制御モードとを切り替える。第1矩形波制御モードでは矩形波パルスパターンだけを用いるから、第2矩形波制御モードのように第1スイッチングパターンと矩形波パルスパターンとを切り替えることはない。このため、第1スイッチングパターンから矩形波パルスパターンへの切り替えの際のデッドタイム幅分に応じた電圧段差によるトルク変動は生じない。しかも、フィードバック制御の振れ幅によりデューティが100%にならないときの高電圧系電圧VHを閾値電圧Vrefとして設定するから、伝達関数C(s)のカットオフ周波数をLC共振周波数より小さくすることができ、LC共振を回避することができる。もとより、高電圧系電圧VHが閾値電圧Vref未満となるように昇圧コンバータ40を制御しているときには、第1スイッチングパターンと第2スイッチングパターンと矩形波パルスパターンとを用いた第2矩形波制御モードを用いて、変調度に応じてパルス幅変調制御モードと中間制御モードと第2矩形波制御モードとを切り替えるから、第1スイッチングパターンから矩形波パルスパターンへの切り替えの際に若干のトルク変動は生じるものの、LC共振を抑制することができる。これらの結果、全体として、矩形波制御において共振領域におけるLC共振を抑制するスイッチングパターンから矩形波パルスパターンに切り替えるときに生じ得るトルク変動を抑制することができる。
【0041】
実施例の電気自動車20が搭載する駆動装置では、高電圧系電圧VHが閾値電圧Vref以上となるように昇圧コンバータ40を制御しているときに第1矩形波制御モードを用い、高電圧系電圧VHが閾値電圧Vref未満となるように昇圧コンバータ40を制御しているときに第2矩形波制御モードを用いるものとした。しかし、昇圧コンバータ40のデューティが閾値デューティ未満のときに第1矩形波制御モードを用い、昇圧コンバータ40のデューティが閾値デューティ以上のときに第2矩形波制御モードを用いるものとしてもよい。この場合、閾値デューティとしては、デューティ制御におけるフィードバック制御の振れ幅によりデューティが100%にならないときのデューティを用いることができる。
【0042】
実施例の電気自動車20が搭載する駆動装置では、中間第1スイッチングパターンや中間第2スイッチングパターンでも相電流がゼロクロスするタイミングでパルスが存在しているときにはスリットを形成し、パルスが存在していないときにはスリットと同一幅の短パルスを形成し、ゼロクロスするタイミングのスリットと短パルスの幅を変調度Mにより変化させるものとした。しかし、第1スイッチングパターンや第2スイッチングパターンにおけるスリットや短パルスの幅を変調度Mにより変化させるものを中間第1スイッチングパターンや中間第2スイッチングパターンとしてもよい。
【0043】
実施例の電気自動車20が搭載する駆動装置では、第2矩形波制御モードでは第1スイッチングパターンと第2スイッチングパターンとを用いるものとしたが、第1スイッチングパターンだけを用いるものや第2スイッチングパターンだけを用いるものとしてもよい。
【0044】
実施例では、電気自動車20が搭載する駆動装置として説明したが、駆動装置は、ハイブリッド自動車に搭載されるものとしたり、自動車以外の移動体に搭載されるものとしてもよい。
【0045】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、バッテリ36が「蓄電装置」に相当し、モータ32が「電動機」に相当し、インバータ34が「インバータ」に相当し、昇圧コンバータ0が「昇圧コンバータ」に相当し、電子制御ユニット50が「制御装置」に相当する。
【0046】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0047】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、駆動装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
20 電気自動車、22a,22b 駆動輪、24 デファレンシャルギヤ、26 駆動軸、32 モータ、32a 回転位置検出センサ、32u,32v 電流センサ、34 インバータ、36 バッテリ、36a 電圧センサ、36b 電流センサ、40 昇圧コンバータ、40a 電流センサ、42 高電圧側電力ライン、44 低電圧側電力ライン、46,48 コンデンサ、46a,48a 電圧センサ、50 電子制御ユニット、52 CPU、54 ROM、56 RAM、60 イグニッションスイッチ、61 シフトレバー、62 シフトポジションセンサ、63 アクセルペダル、64 アクセルペダルポジションセンサ、65 ブレーキペダル、66 ブレーキペダルポジションセンサ、68 車速センサ、D11~D16,D31,D32 ダイオード、L リアクトル、T11~T16,T31,T32 トランジスタ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13