(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】プリフォームの製造方法、複合材の製造方法及びプリフォーム製造用ミシン
(51)【国際特許分類】
B29C 70/10 20060101AFI20240730BHJP
D05B 17/00 20060101ALI20240730BHJP
B29C 39/10 20060101ALI20240730BHJP
B29C 39/24 20060101ALI20240730BHJP
B29C 70/48 20060101ALI20240730BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20240730BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
B29C70/10
D05B17/00
B29C39/10
B29C39/24
B29C70/48
C08J5/04 CES
C08J5/04 CFC
C08J5/04 CFH
B29K105:08
(21)【出願番号】P 2021027938
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2023-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】平岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】梅村 康太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健人
(72)【発明者】
【氏名】赤池 文敏
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-160587(JP,A)
【文献】特開2003-020542(JP,A)
【文献】特開平11-291240(JP,A)
【文献】特開平09-201829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/10
D05B 17/00
B29C 39/10
B29C 39/24
B29C 70/48
C08J 5/04
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基層と、前記基層に縫着された繊維束と、を有して、複合材のコア材となるプリフォームの製造方法であって、
前記基層へ縫製糸を縫い込むことによって前記繊維束を前記基層へ縫着する縫着工程と、
前記繊維束の縫着ルートの少なくとも一部に接着用樹脂を付与する接着用樹脂付与工程と、
前記基層、前記繊維束及び前記縫製糸のうちの2以上を前記接着用樹脂により接合する接合工程と、
前記基層の不要部を切除するトリミング工程と、を備え、
前記縫製糸の縫い込みを行う際に、前記接着用樹脂の付与を行うことによって、前記縫着工程と、前記接着用樹脂付与工程と、を実質的に同時に行うことを特徴とするプリフォームの製造方法。
【請求項2】
前記縫着が、ミシンを用いた縫製であり、
ミシンヘッドが前記接着用樹脂を付与する付与機構を有する請求項1に記載のプリフォームの製造方法。
【請求項3】
前記ミシンヘッドは、縫い針と、前記縫い針の軸回りに回転可能に設けられて、前記繊維束が巻かれたボビンを有する回転体と、を備え、
前記付与機構は、前記回転体に設けられるロータリージョイントと、前記ロータリージョイントに形成された前記接着用樹脂の供給通路に接続されるノズルと、を備える請求項2に記載のプリフォームの製造方法。
【請求項4】
前記トリミング工程は、打抜型を用いて前記基層の不要部を切除する工程であり、
前記打抜型が、打ち抜きの際に、前記接着用樹脂を機能させることによって、前記トリミング工程と、前記接合工程と、を実質的に同時に行う請求項1乃至3のうちのいずれかに記載のプリフォームの製造方法。
【請求項5】
前記接着用樹脂が、熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂であり、
前記打抜型は、加熱部を有し、
前記加熱部の加熱により、前記熱可塑性樹脂を溶融、及び/又は、前記熱硬化性樹脂を硬化、させて前記接着用樹脂を機能させる請求項4に記載のプリフォームの製造方法。
【請求項6】
前記接着用樹脂が、光硬化性樹脂であり、
前記接合工程は、前記トリミング工程前に、前記光硬化性樹脂に対して光照射を行う工程である請求項1乃至3のうちのいずれかに記載のプリフォームの製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のうちのいずれかに記載のプリフォームの製造方法により得られたプリフォームを、成形型内に配置して賦形する賦形工程と、
前記成形型内に、熱硬化性樹脂を充填して硬化、又は、熱可塑性樹脂を充填して固化、するマトリックス形成工程と、を備えることを特徴とする複合材の製造方法。
【請求項8】
基層と、前記基層に縫着された繊維束と、を有して、複合材のコア材となるプリフォームを製造するための
プリフォーム製造用ミシンであって、
前記基層へ縫製糸の縫い込みを行う際に、接着用樹脂を
実質的に同時に付与する付与機構を
備えるミシンヘッドを有することを特徴とするプリフォーム製造用ミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリフォームの製造方法、複合材の製造方法及びプリフォーム製造用ミシンに関し、更に詳しくは、プリフォームの製造方法、そのプリフォームを用いる複合材の製造方法及びプリフォーム製造用ミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複合材(繊維強化成形体)を製造する方法として、RTM(Resin Transfer Molding)法やVaRTM(Vacuum Assisted Resin Transfer Molding)法等が知られている(例えば、特許文献1等を参照)。これらは、強化繊維を含むプリフォーム(繊維集合体)を成形型のキャビティに配置したうえで、キャビティ内に未硬化樹脂を注入して、プリフォームに未硬化樹脂を含浸させた後、未硬化樹脂を硬化させて複合材を得る方法であり、VaRTM法は、上記のなかでも、未硬化樹脂の含浸を補助するためにキャビティ内を脱気する操作を伴う点でRTM法と異なる。さらに、ミシン(刺繍機)を用いて強化繊維を含む繊維束を基層へ縫着するTFP(Tailored Fiber Placement)技術が知られている(例えば、特許文献2等を参照)。
【0003】
ここで、プリフォームを製造する方法として、例えば、
図17に示すように、ミシンを用いて基層(例えば、ガラスクロス等)へ縫製糸を縫い込むことによって繊維束(例えば、炭素繊維束等)を基層へ縫着し(TFP縫い工程SS1)、次に、その繊維束が縫着された基層の不要部を切除し(トリミング工程SS2)、次いで、その不要部が切断された基層、繊維束及び縫製糸に対して接着用樹脂を付与し(接着用樹脂付与工程SS3)、その付与された接着用樹脂を機能させて基層と繊維束を接合して(接合工程SS4)、プリフォームを得る製法が提案されている。
上記の製法によると、接着用樹脂により基層と繊維束が接合されるため、形状安定性に優れたプリフォームが得られる。そのため、RTM法やVaRTM法等において、プリフォームを成形型に容易に配置することができる。
なお、上記提案の製法で得られたプリフォームを成形型のキャビティに配置して賦形し(賦形工程SS5)、キャビティ内に樹脂を充填して固化又は硬化させる(マトリックス形成工程SS6)ことで、複合材が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-186884号公報
【文献】特表2009-503274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記提案の製法では、TFP縫い工程SS1、トリミング工程SS2、接着用樹脂付与工程SS3及び接合工程SS4の4つの工程をこの順で行ってプリフォームを製造しているため、生産効率が低く、また設備費も高くなる。
さらに、トリミング工程SS2が接着用樹脂付与工程SS3の前に行われるため、高精度のトリミングを行わないと、トリミングの際に縫製糸を切断してしまい繊維束がほつれてしまう恐れがある。
【0006】
なお、特許文献2には、TFP技術において、縫製糸及び/又は基層を水溶性物質で形成する技術が記載されている。そのため、特許文献2の技術では、プリフォームを得るために、上記の4つの工程SS1~SS4に加えて、水溶性物質の洗浄工程及び乾燥工程が必要となる。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、形状安定性に優れたプリフォームを効率良く製造することができるプリフォームの製造方法、そのプリフォームを用いる複合材の製造方法、及びそのプリフォームの製造方法に好適に用いられるプリフォーム製造用ミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題を解決するために、請求項1に記載の発明は、基層と、前記基層に縫着された繊維束と、を有して、複合材のコア材となるプリフォームの製造方法であって、前記基層へ縫製糸を縫い込むことによって前記繊維束を前記基層へ縫着する縫着工程と、前記繊維束の縫着ルートの少なくとも一部に接着用樹脂を付与する接着用樹脂付与工程と、前記基層、前記繊維束及び前記縫製糸のうちの2以上を前記接着用樹脂により接合する接合工程と、前記基層の不要部を切除するトリミング工程と、を備え、前記縫製糸の縫い込みを行う際に、前記接着用樹脂の付与を行うことによって、前記縫着工程と、前記接着用樹脂付与工程と、を実質的に同時に行うことを要旨とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記縫着が、ミシンを用いた縫製であり、ミシンヘッドが前記接着用樹脂を付与する付与機構を有する要旨とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記ミシンヘッドは、縫い針と、前記縫い針の軸回りに回転可能に設けられて、前記繊維束が巻かれたボビンを有する回転体と、を備え、前記付与機構は、前記回転体に設けられるロータリージョイントと、前記ロータリージョイントに形成された前記接着用樹脂の供給通路に接続されるノズルと、を備えることを要旨とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発明において、前記トリミング工程は、打抜型を用いて前記基層の不要部を切除する工程であり、前記打抜型が、打ち抜きの際に、前記接着用樹脂を機能させることによって、前記トリミング工程と、前記接合工程と、を実質的に同時に行うことを要旨とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記接着用樹脂が、熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂であり、前記打抜型は、加熱部を有し、前記加熱部の加熱により、前記熱可塑性樹脂を溶融、及び/又は、前記熱硬化性樹脂を硬化、させて前記接着用樹脂を機能させることを要旨とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の発明において、前記接着用樹脂が、光硬化性樹脂であり、前記接合工程は、前記トリミング工程前に、前記光硬化性樹脂に対して光照射を行う工程であることを要旨とする。
【0014】
上記問題を解決するために、請求項7に記載の発明は、複合材の製造方法であって、請求項1乃至6のうちのいずれかに記載のプリフォームの製造方法により得られたプリフォームを、成形型内に配置して賦形する賦形工程と、前記成形型内に、熱硬化性樹脂を充填して硬化、又は、熱可塑性樹脂を充填して固化、するマトリックス形成工程と、を備えることを要旨とする。
【0015】
上記問題を解決するために、請求項8に記載の発明は、基層と、前記基層に縫着された繊維束と、を有して、複合材のコア材となるプリフォームを製造するためのミシンであって、ミシンヘッドが接着用樹脂を付与する付与機構を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のプリフォームの製造方法によると、基層へ縫製糸を縫い込むことによって繊維束を基層へ縫着する縫着工程と、繊維束の縫着ルートの少なくとも一部に接着用樹脂を付与する接着用樹脂付与工程と、基層、繊維束及び縫製糸のうちの2以上を接着用樹脂により接合する接合工程と、基層の不要部を切除するトリミング工程と、を備える。そして、縫製糸の縫い込みを行う際に、接着用樹脂の付与を行うことによって、縫着工程と、接着用樹脂付与工程と、を実質的に同時に行う。これにより、形状安定性に優れたプリフォームを効率良く製造でき、設備費を低減することができる。さらに、トリミング工程の前に接着用樹脂付与工程が行われるため、トリミングの際に縫製糸が切断されても、接着用樹脂の接合により繊維束がほつれてしまうことが抑制される。そのため、トリミングの精度に余裕ができてトリミングを容易に行うことができる。
【0017】
また、前記縫着が、ミシンを用いた縫製であり、ミシンヘッドが前記接着用樹脂を付与する付与機構を有する場合は、繊維束の縫着ルートに対して接着用樹脂を正確に付与することができる。
【0018】
また、前記ミシンヘッドが、縫い針と、前記縫い針の軸回りに回転可能に設けられて、前記繊維束が巻かれたボビンを有する回転体と、を備え、前記付与機構が、前記回転体に設けられるロータリージョイントと、前記ロータリージョイントに形成された前記接着用樹脂の供給通路に接続されるノズルと、を備える場合は、回転体の回転制御により、ボビンから繰り出される繊維束が縫着ルートに沿って供給されるとともに、接着用樹脂の供給用配管が絡まることなく、ロータリージョイントの供給通路を介して接着用樹脂がノズルに供給されて縫着ルートに付与される。
【0019】
また、前記トリミング工程が、打抜型を用いて前記基層の不要部を切除する工程であり、前記打抜型が、打ち抜きの際に、前記接着用樹脂を機能させることによって、前記トリミング工程と、前記接合工程と、を実質的に同時に行う場合は、プリフォームを更に効率良く製造することができる。
【0020】
また、前記接着用樹脂が、熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂であり、前記打抜型が、加熱部を有し、前記加熱部の加熱により、前記熱可塑性樹脂を溶融、及び/又は、前記熱硬化性樹脂を硬化、させて前記接着用樹脂を機能させる場合は、打抜型の加熱部により接着用樹脂を効果的に機能させることができる。
【0021】
また、前記接着用樹脂が、光硬化性樹脂であり、前記接合工程が、前記トリミング工程前に、前記光硬化性樹脂に対して光照射を行う工程である場合は、トリミング工程の前に、光照射により接着用樹脂を効果的に機能させることができる。
【0022】
本発明の複合材の製造方法によると、上記のプリフォームの製造方法により得られたプリフォームを、成形型内に配置して賦形する賦形工程と、前記成形型内に、熱硬化性樹脂を充填して硬化、又は、熱可塑性樹脂を充填して固化、するマトリックス形成工程と、を備える。これにより、形状安定性に優れたプリフォームを成形型内に容易に配置することができる。よって、複合材を効率良く製造することができる。
【0023】
本発明のプリフォーム製造用ミシンによると、ミシンヘッドが接着用樹脂を付与する付与機構を有する。これにより、縫製糸の縫い込みを行う際に、付与機構により接着用樹脂の付与を行うことができる。よって、形状安定性に優れたプリフォームを効率良く製造でき、設備費を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明について、本発明による典型的な実施形態の非限定的な例を挙げ、言及された複数の図面を参照しつつ以下の詳細な記述にて更に説明するが、同様の参照符号は図面のいくつかの図を通して同様の部品を示す。
【
図1】実施例1に係るプリフォームの製造方法(縫着工程及び接着用樹脂付与工程)を説明するための説明図である。
【
図2】上記縫着工程及び接着用樹脂付与工程を経て得られるプリフォームの前駆体の斜視図である。
【
図3】上記プリフォームの製造方法(接合工程及びトリミング工程)を説明するための説明図であり、(a)は打抜型の打抜き前の状態を示し、(b)は打抜型の打抜き後の状態を示し、(c)は得られたプリフォームの断面図を示す。
【
図4】実施例1に係る複合材の製造方法を説明するための説明図であり、(a)は成形型内にプリフォームを配置した状態を示し、(b)は成形型によりプリフォームを賦形し樹脂充填した状態を示す。
【
図5】上記複合材の製造方法を説明するための説明図である。
【
図6】上記縫着工程を説明するための説明図であり、(a)は基層上に繊維束を引き揃えて配置する形態を示し、(b)は基層上に繊維束を蛇腹状に配置する形態を示し、(c)は基層上に繊維束を螺旋状に配置する形態を示す。
【
図7】上記縫着工程を説明するための説明図であり、(a)は基層上に複層の繊維束を縫着する形態を示し、(b)は基層の表裏の両面に繊維束を縫着する形態を示す。
【
図8】上記接着用樹脂付与工程を説明するための説明図であり、(a)は繊維束の繊維ルートの全部に接着用樹脂を付与する形態を示し、(b)は繊維束の繊維ルートの一部に接着用樹脂を付与する形態を示す。
【
図9】上記接着用樹脂付与工程を説明するための説明図であり、(a)は接着用樹脂をライン状に付与する形態を示し、(b)は接着用樹脂をドット状に付与する形態を示す。
【
図10】上記複合材の要部断面図であり、(a)は単一のプリフォームを備える形態を示し、(b)は複数のプリフォームを備える形態を示す。
【
図11】実施例1に係るプリフォーム製造用ミシンの全体図である。
【
図12】上記ミシンの動作制御を説明するためのブロック図である。
【
図14】上記ミシンの作用説明図であり、(a)は第1の縫い進み方向に沿って繊維束を縫着する状態を示し、(b)は第1の縫い進み方向と交差する第2の縫い進み方向に沿って繊維束を縫着する状態を示す。
【
図15】実施例2に係るプリフォームの製造方法(縫着工程、接着用樹脂付与工程及び接合工程)を説明するための説明図である。
【
図16】実施例2に係る複合材の製造方法を説明するための説明図である。
【
図17】提案されたプリフォームの製造方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
ここで示される事項は例示的なものおよび本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0026】
<プリフォームの製造方法>
本実施形態に係るプリフォームの製造方法は、例えば、
図1~
図3及び
図5に示すように、基層2と、基層2に縫着された繊維束3と、を有して、複合材7のコア材となるプリフォーム1の製造方法であって、基層2へ縫製糸4を縫い込むことによって繊維束3を基層2へ縫着する縫着工程S1と、繊維束3の縫着ルートの少なくとも一部に接着用樹脂5を付与する接着用樹脂付与工程S2と、基層2、繊維束3及び縫製糸4のうちの2以上を接着用樹脂5により接合する接合工程S3と、基層2の不要部2aを切除するトリミング工程S4と、を備える。そして、縫製糸4の縫い込みを行う際に、接着用樹脂5の付与を行うことによって、縫着工程S1と、接着用樹脂付与工程S2と、を実質的に同時に行う。
【0027】
上記「縫着工程S1」の縫着形態は限定されない。この縫着工程S1では、例えば、基層2に対して繊維束3を複列に平面状に並べて配置して縫着することができる。より具体的には、所定面を埋めるように複数本の繊維束3を引き揃えて縫着することができる(
図6(a)参照)。さらに、繊維束3を折りたたんで所定面を埋めるように縫着することができる。例えば、1本の繊維束3を蛇腹状に折り畳んで配置して縫着したり(
図6(b)参照)、螺旋状(円螺旋、多角形螺旋等)に巻回することによって折り畳んで配置して縫着したり(
図6(c)参照)することができる。
【0028】
縫着工程S1では、例えば、基層2に対して1層となるように繊維束3を敷き詰めて縫着してもよいし(
図2参照)、2層以上となるように複層に繊維束3を敷き詰めて縫着してもよい(
図7(a)参照)。さらに、基層2の表裏に繊維束3を各々敷き詰めて縫着してもよい(
図7(b)参照)。また、2層以上に敷き詰めて縫着する場合や、表裏に敷き詰めて縫着する場合には、一層を構成する繊維束3の配列方向と、隣接される他層を構成する繊維束3の配列方向と、は平行に配置してもよいが、配列方向が異なるように、交差させて配置できる。この場合、交差角度は90度以下(0度<θ≦90度)にすることができる。
【0029】
なお、上記の各種の縫着態様は、1種のみを用いてよく2種以上を併用してもよい。また、当然ながら、上記以外の縫着形態を利用できる。特に、複合材7の狙いの強度分布等に応じて、2種以上の縫着態様を併用して、基層2に対して粗密の差をつけて繊維束3を縫着することが好ましい。
また、縫着工程S1では、通常、基層2に繊維束3が縫着された縫着領域R1と繊維束3が縫着されない非縫着領域R2とが形成される(
図8(a)参照)。この非縫着領域R2の少なくとも一部を含む基層2の部分は、後述のトリミング工程S4で不要部2aとして切除される。
【0030】
縫着工程S1では、例えば、ミシン(刺繍機)11を用いて基層2へ縫製糸4を縫い込むことができる。このミシン11としては、例えば、
図11及び
図12に示すように、ミシンヘッド12が、縫い針15と、縫い針15の軸回りに回転可能に設けられて、繊維束3が巻かれたボビン16を有する回転体17と、を備える形態を採用できる。より具体的に、ミシンヘッド12と、ミシンヘッド12の下方で平面方向に移動可能に設けられて基層2を保持する保持枠13と、を備え、保持枠13の移動制御及び回転体17の回転制御によって、繊維束3の縫着ルートに沿ってボビン16から繰り出される繊維束3を縫い針15で基層2に縫着する形態を採用できる。
【0031】
上記「接着用樹脂付与工程S2」の付与形態は限定されない。この付与工程S2では、例えば、繊維束3の縫着ルート(縫着領域R1)の全部に接着用樹脂5を付与してもよいし、繊維束3の縫着ルートの一部に接着用樹脂5を付与してもよい。これらの形態は、プリフォーム1の形状安定性及び強度等の観点から適宜選択される。
より具体的に、
図8(a)に示すように、繊維束3の縫着ルート(図中に45度ハッチングで示す領域R1)の全域に接着用樹脂5を付与してもよいし、
図8(b)に示すように、繊維束3の縫着ルート(図中に45度ハッチングで示す領域R1)の一部(図中に135度ハッチングで示す領域R1’)に接着用樹脂5を付与してもよい。
さらに、繊維束3の縫着ルートの一部に接着用樹脂5を付与する場合には、例えば、その一部は、トリミング工程S4で切除される基層2の不要部2aに隣接する部位を含むことができる。これにより、トリミングの際に縫製糸4が切断されても、接着用樹脂5の接合により繊維束3がほつれてしまうことが抑制される。
【0032】
接着用樹脂付与工程S2では、例えば、繊維束3の縫着ルートに沿って基層2上に配置された縫着後又は縫着前の繊維束3上に接着用樹脂5を付与することができる(
図1参照)。この場合、例えば、繊維束3の側縁からはみ出ないように接着用樹脂5を付与してもよいし、はみ出るように接着用樹脂5を付与してもよい。
【0033】
接着用樹脂付与工程S2では、例えば、
図13に示すように、ミシンヘッド12が接着用樹脂5を付与する付与機構23を有するミシン11を採用できる。この付与機構23は、例えば、回転体17に設けられるロータリージョイント(回転継手)24と、ロータリージョイント24に形成された接着用樹脂5の供給通路27に接続されるノズル25と、を備えることができる。これにより、回転体17の回転時に供給用配管29が絡まることなく、繊維束3の縫着ルートに対して接着用樹脂5を正確に付与することができる。
また、付与機構23としては、例えば、チュービング式、空圧式、容量計量式、ジェット式、プランジャー式のディスペンサなどを採用できる。
【0034】
接着用樹脂5の形態は限定されない。接着用樹脂5としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂(UV硬化性樹脂を含む)などを採用できる。これらのうち、複合材7のマトリックス樹脂9に対する接着用樹脂5(接着層5’)の異物感の低減性等の観点から、接着用樹脂5として複合材7のマトリックス樹脂9と同種の樹脂を採用することが好ましい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体などのポリオレフィンの酸変性物、エチレン・酢酸ビニル共重合体の酸変性物、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・メタクリル酸共重合体、アイオノマーなどを用いることができる。これらは単独で、又は複数種を混合して採用できる。さらに、硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂などを用いることができる。これらは単独で、又は複数種を混合して採用できる。
また、接着用樹脂5の含有割合は、例えば、プリフォーム1をなす全構成繊維100質量%に対して1~5%とすることができる。さらに、接着用樹脂5は、例えば、液状で付与されてもよいし、粉体等の固形で付与されてもよい。さらに、接着用樹脂5は、例えば、繊維束3の縫着ルートに沿ってライン状に付与されてもよいし(
図9(a)参照)、ドット状に付与されてもよい(
図9(b)参照)。さらに、接着用樹脂5の付与形態としては、例えば、ノズル、スプレー、ロールなどによる塗布や散布を採用できる。
【0035】
上記「接合工程S3」の接合形態は限定されない。この接合工程S3では、例えば、加熱により熱可塑性樹脂(接着用樹脂5)を溶融して機能させたり、加熱により熱硬化性樹脂(接着用樹脂5)を硬化させて機能させたり、光照射により光硬化性樹脂(接着用樹脂5)を硬化させて機能させたりすることができる。このように接着用樹脂5を機能させることで、基層2、繊維束3及び縫製糸4のうちの2以上が接合されるため、プリフォーム1の形状安定性(即ち、取扱性)が高められる。
【0036】
接着用樹脂5が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂である場合、接合工程S3は、例えば、トリミング工程S4前に行われてもよいが、生産効率等の観点から、後述するように、トリミング工程S4と実質的に同時に行うことが好ましい。
また、接着用樹脂5が光硬化性樹脂である場合、接合工程S3は、例えば、トリミング工程S4前に、光硬化性樹脂に対して光照射を行って光硬化性樹脂を機能させることができる。特に、生産効率等の観点から、縫着工程S1と接着用樹脂付与工程S2と接合工程S3とを実質的に同時に行うことが好ましい。
【0037】
上記「トリミング工程S4」のトリミング形態は限定されない。このトリミング工程S4では、例えば、ハサミやレーザーにより基層2の不要部2aを切除してもよいが、生産効率等の観点から、打抜型41を用いて基層2の不要部2aを切除することが好ましい。この場合、例えば、
図3に示すように、打抜型41が、打ち抜きの際に、接着用樹脂5を機能させることができる。これにより、トリミング工程S4と、接合工程S3と、を実質的に同時に行うことができる。
より具体的に、接着用樹脂5が、熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂であり、打抜型41は、加熱部43を有し、加熱部43の加熱により、熱可塑性樹脂を溶融、及び/又は、熱硬化性樹脂を硬化、させて接着用樹脂5を機能させることができる。この場合、例えば、加熱部43と熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂とが接触することで(好ましくは、加熱部43が熱可塑性樹脂及び/又は熱硬化性樹脂を押圧することで)、接着用樹脂5を効果的に機能させることができる。
また、加熱部43としては、電熱線を用いる電気ヒータや熱流体を用いる機構などを採用できる。
【0038】
上記「プリフォーム(繊維集合体)1」は、例えば、
図3(c)に示すように、基層2と、基層2に縫着された繊維束3と、を有する。このプリフォームは、例えば、基層2、繊維束3及び縫製糸4のうちの2以上を接合する接着層5’を有することができる。この接着層5’は、上記の接着用樹脂5により形成される層である。
【0039】
基層2として、不織布、織物及び編物等のうちの1種又は2種以上を採用できる。例えば、繊維束3が織物製の基層2に縫着された形態や、繊維束3が不織布製の基層2に縫着された形態が挙げられる。さらに、繊維束3を縫着する縫製糸4はどのような繊維を用いてもよい。即ち、後述する強化繊維と同様の繊維を用いてもよく、強化繊維以外の他の繊維を用いてもよい。さらに、縫製糸4のテンションにより、繊維束3の拘束の程度を自在に制御できる。従って、基層2に対して繊維束3を強固に固定しながら、繊維束3の可動性(基層2に対する可動性、及び/又は、繊維束3同士の間の可動性)を、繊維束3を製織してなる織布等と比較してより多く確保できる。その結果、例えば、プリフォーム1の柔軟性を高く保つことができる。
【0040】
基層2は、織物であることが好ましい。これは、繊維束3を縫着し易いこと、縫着した際の縫製糸4に対する拘束が高いこと、基層2として柔軟性に優れること、更には、マトリックス樹脂(未固化物)を含浸させ易いこと等の利点を有するためである。織物を構成する繊維には、どのような繊維を用いてもよい。即ち、後述する強化繊維と同様の繊維を用いてもよく、強化繊維以外の他の繊維を用いてもよい。
【0041】
繊維束3は、連続繊維を束ねた形態であり、連続繊維の一部又は全部として強化繊維が含まれる。即ち、繊維束3は、強化繊維のみから形成されてもよいし、強化繊維以外の他の繊維を含んでもよい。
【0042】
強化繊維は、通常の繊維に比べて機械的強度に優れる繊維であり、例えば、JIS L1015による引張強さにおいて7cN/dtex以上(通常50cN/dtex)を有する繊維が好ましい。
また、強化繊維は、無機材料からなる繊維であってもよく、有機材料からなる繊維であってもよく、これらを併用した繊維であってもよい。無機材料繊維としては、炭素繊維(PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維)、ガラス繊維、金属繊維などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、有機材料繊維としては、芳香族ポリアミド樹脂繊維(パラ型アラミド:商品名「ケブラー」、商品名「トワロン」、商品名「テクノーラ」等、メタ型アラミド:商品名「ノーメックス」、商品名「コーネックス」等)、ポリベンズアゾール樹脂繊維(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、商品名「ザイロン」等)、芳香族ポリエステル樹脂繊維(商品名「ベクトラン」等)、高強度ポリエチレン樹脂繊維(商品名「ダイニーマ」)などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0043】
強化繊維の繊維形態は限定されず、スパンヤーンであってもよく、フィラメントヤーンであってもよく、これらの併用形態であってもよいが、これらのなかでは、フィラメントヤーンであることが好ましい。更に、強化繊維は、モノフィラメントであってもよく、マルチフィラメントであってもよく、これらを併用してもよい。
【0044】
1本の繊維束3を構成する連続繊維3aの本数は限定されず、例えば、3000本以上とすることができる。繊維束3を構成する連続繊維3aの本数が3000本以上であることにより、柔軟でありながらプリフォーム1として優れた強度を発揮させることができる。この本数は限定されないが、例えば、3000本以上100000本以下とすることができ、更に5000本以上70000本以下とすることができ、更に7000本以上50000本以下とすることができ、更に10000本以上30000本以下とすることができる。
【0045】
また、繊維束3を扱う際の作業性を考慮した場合、1本の繊維束3を構成する連続繊維3aの本数が多い繊維束(太束)3を用いることができる。この場合、1本の繊維束3を構成する連続繊維3aの本数は、例えば、30000本以上とすることができ、更に40000本以上とすることができ、更に60000本以上とすることができる。一方、1本の繊維束3を構成する連続繊維3aの本数は、例えば、1500000本以下、更に1000000本以下とすることができる。
【0046】
プリフォーム1は、構成繊維の全てが強化繊維からなってもよいし、部分的に強化繊維を含んでもよい。強化繊維による構成率は限定されないが、プリフォーム1をなす全構成繊維100質量%に対し、強化繊維の含有割合は50質量%以上(100質量%でもよい)にすることができ、75質量%以上にすることができ、90質量%以上にすることができる。即ち、プリフォーム1が、強化繊維以外の他繊維を含む場合、構成繊維全体を100質量%とした場合に、他繊維は50質量%未満(1質量%以上)にすることができ、25質量%未満にすることができ、10質量%未満にすることができる。
【0047】
強化繊維以外の他繊維の構成材料は限定されず、上述した強化繊維以外の繊維を利用できる。具体的には、各種の樹脂繊維及び植物性繊維等を用いることができ、このうち樹脂繊維を構成する樹脂として、ポリアミド(脂肪族ポリアミド等)、ポリエステル(芳香族ジカルボン酸由来の構成単位を有するポリエステル等)等を利用できる。また、植物繊維としては、綿繊維及び麻繊維等を用いることができる。
また、他繊維の繊維形態も限定されず、スパンヤーンであってもよく、フィラメントヤーンであってもよく、これらの併用形態であってもよい。
【0048】
プリフォーム1は、複合材(繊維強化成形体)7のコア材(芯材)となる。このプリフォーム1を用いる複合材7の製法は限定されず、例えば、RTM(Resin Transfer Molding)法、VaRTM(Vacuum Assisted Resin Transfer Molding)法、オートクレーブ法、熱プレス法等が挙げられる。
RTM法及びVaRTM法は、プリフォーム1を成形型45内に配置して賦形し、成形型45内に熱硬化性樹脂を充填して硬化又は熱可塑性樹脂を充填して固化する方法である。また、VaRTM法は、プリフォーム1内への樹脂含浸を補助するためにキャビティ内を減圧する減圧工程を備える点でRTM法と異なる。また、オートクレーブ法は、熱硬化性樹脂を含浸したプリフォーム1をオートクレーブ内で加熱硬化する方法である。さらに、熱プレス法は、熱硬化性樹脂を含浸したプリフォーム1を熱プレスにより加熱加圧硬化させる方法である。
【0049】
上記「複合材(繊維強化成形体)7」は、コア材8と、コア材8を埋設するマトリックス樹脂9と、を有する(
図10参照)。この複合材7において、マトリックス樹脂9は、コア材8を埋設している樹脂である。より具体的には、コア材8の内部に行きわたるように含浸されて固定(硬化性樹脂である場合には硬化、熱可塑性樹脂である場合には固化)された樹脂である。このマトリックス樹脂9の含浸方法及び固定方法は、従来公知の各種方法を利用できる。
【0050】
コア材8は、基層2と、基層2の一面に縫着された繊維束3とで構成された1層の片面プリフォーム1のみを配置してもよいし(
図10(a)参照)、片面プリフォーム1を基層2同士が対向されるように向かい合わせて配置してもよい(
図10(b)参照)。このように片面プリフォーム1を2層用いる場合には、基層2同士を対面させることにより、複合材7の耐衝撃性を効率的に向上させることができる。
【0051】
マトリックス樹脂9の種類は限定されず、種々の樹脂を利用できる。即ち、硬化性樹脂を用いてもよく、熱可塑性樹脂を用いてもよく、これらを併用してもよい。硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂(硬化性ポリエステル樹脂)、ウレタン樹脂等が挙げられる。一方、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂(熱可塑性ポリエステル樹脂)、ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0052】
複合材7の用途は特に限定されないが、例えば、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の外装材、内装材、構造材(ボディシェル、車体、航空機用胴体)及び衝撃吸収材等として用いることができる。これらのうち自動車用品としては、自動車用外装材、自動車用内装材、自動車用構造材、自動車用衝撃吸収材、エンジンルーム内部品等が挙げられる。
具体的には、バンパー、スポイラー、カウリング、フロントグリル、ガーニッシュ、ボンネット、トランクリッド、カウルルーバー、フェンダーパネル、ロッカーモール、ドアパネル、ルーフパネル、インストルメントパネル、センタークラスター、ドアトリム、クオータートリム、ルーフライニング、ピラーガーニッシュ、デッキトリム、トノボード、パッケージトレイ、ダッシュボード、コンソールボックス、キッキングプレート、スイッチベース、シートバックボード、シートフレーム、アームレスト、サンバイザ、インテークマニホールド、エンジンヘッドカバー、エンジンアンダーカバー、オイルフィルターハウジング、車載用電子部品(ECU、TVモニター等)のハウジング、エアフィルターボックス、ラッシュボックス等のエネルギー吸収体、フロントエンドモジュール等のボディシェル構成部品などが挙げられる。
【0053】
更に、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材等が挙げられる。即ち、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥等)の表装材、構造材、更には、ユニットバス、浄化槽などとすることができる。その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材及びパーティション部材等として用いることもできる。また、家電製品(薄型TV、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、携帯電話、携帯ゲーム機、ノート型パソコン等)の筐体及び構造体などの成形体とすることもできる。
【0054】
<複合材の製造方法>
本実施形態に係る複合材の製造方法は、例えば、
図4及び
図5に示すように、上記の実施形態に係るプリフォームの製造方法により得られたプリフォーム1を、成形型45内に配置して賦形する賦形工程S5と、成形型45内に、熱硬化性樹脂を充填して硬化、又は、熱可塑性樹脂を充填して固化、するマトリックス形成工程S6と、を備える。
なお、本複合材の製造方法は、例えば、硬化又は固化された樹脂の不要部を除去する成形工程等を更に備えることができる。
【0055】
<プリフォーム製造用ミシン>
本実施形態に係るプリフォーム製造用ミシンは、基層2と、基層2に縫着された繊維束3と、を有して、複合材7のコア材となるプリフォーム1を製造するためのミシン11であって、ミシンヘッド12が接着用樹脂23を付与する付与機構を有する。
本ミシン11としては、例えば、上記の実施形態に係るプリフォームの製造方法で説明したミシン11を採用できる。
【実施例】
【0056】
以下、図面を用いて実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本実施例では、プリフォーム製造用ミシン11を用いるプリフォームの製造方法を例示する。
【0057】
<実施例1>
本実施例に係るプリフォーム製造用ミシン11は、
図11及び
図12に示すように、ミシンヘッド12と、ミシンヘッド12の下方で平面方向に移動可能に設けられて基層2を保持する保持枠13と、を備えている。このミシンヘッド12は、縫い針15と、縫い針15の軸回りに回転可能に設けられて、繊維束3が巻かれたボビン16を有する回転体(回転筒)17と、を備えている。この回転体17は、ミシンヘッド12の支持体(固定側)18に回転可能に設けられている。また、回転体17には、支持アーム19を介してボビン16が水平軸回りに回転自在に支持されている。さらに、回転体17には、支持アーム20を介して繊維ガイド14が縫い進み方向の左右に揺動可能に設けられている。
【0058】
ミシンヘッド12は、
図13に示すように、接着用樹脂5を付与(塗布)する付与機構23を有している。この付与機構23は、回転体17に設けられるロータリージョイント24と、ロータリージョイント24に形成された接着用樹脂5の供給通路27に接続されるノズル25と、を備えている。このロータリージョイント24は、回転体27の軸方向の上端側に取り付けられる筒状のシャフト部(回転部)24aと、シャフト部24aの外側に軸受を介して回転可能に支持されるハウジング部(固定部)24bと、を備えている。このハウジング部24bは、ミシンヘッド12の支持体(固定側)18に取り付けられている。また、ノズル25は、縫い針15の先端近傍に接着用樹脂5を付与するように、縫い針15に隣接して配置されている。
【0059】
供給通路27は、ハウジング部24bに形成された通路27aと、通路27aの一端側に連通するようにシャフト部24aの外周側(あるいはハウジング部24bの内周側)に形成された環状の通路27bと、一端側が通路27bに連なり他端側が配管28を介してノズル25に接続される通路27cと、により構成されている。この通路27aは、配管29を介して駆動部31及び接着用樹脂5の貯留部32に接続されている。
なお、本実施例では、付与機構23として、駆動部31によりチューブをしごくことで液状の熱可塑性樹脂(接着用樹脂5)を送り出すチュービング式のディスペンサを例示する。
【0060】
ミシン11は、
図11及び
図12に示すように、各動作を制御する制御部34を備えている。この制御部34は、先端に縫い針15を有する針棒35を上下に往復駆動させる往復駆動機構36、保持枠13を平面方向に移動させる移動機構37、回転体17を回転させる回転機構38、繊維ガイド14を揺動させる揺動機構(図示省略)、及び付与機構23を駆動させる駆動部31に電気的に接続されている。そして、制御部34が、針棒35の往復駆動制御、保持枠13の移動制御、繊維ガイド14の揺動制御(すなわち、千鳥振り制御)、回転体17の回転制御、及び付与機構23の駆動制御を行うことで、ミシン11は、予め決められた繊維束3の縫着ルートに沿って基層2上に配置された繊維束3を縫い針15で縫着するとともに、縫着直後又は縫着直前の繊維束3上に接着用樹脂5を付与する(
図1参照)。
【0061】
より具体的に、ミシン11の作動中には、
図14に示すように、縫い進み方向Pの先頭側にボビン16が位置するように回転体17が回転制御される。この回転体17の回転とともに、回転体17と一体的にノズル25も回転してボビン16から繰り出される繊維束3の直上に位置する。そして、付与機構23の作動によりノズル25から縫着直後又は縫着直前の繊維束3上に接着用樹脂5が付与される。さらに、回転体17と一体的にノズル25が回転しても、ロータリージョイント25により配管29の絡まりが防止される。
【0062】
なお、制御部34による制御処理は、ハードウェア、ソフトウェアのいずれによって実現されてもよく、好適にはCPU、記憶装置(ROM、RAM等)、入出力回路等を備えるマイクロコントローラ(マイクロコンピュータ)を中心に、入出力インターフェース等周辺回路を備えることにより構成できる。
また、
図11中の符号「4」は縫製糸(上糸)を示し、符号「21」は下糸を示し、符号「22」は釜を示す。
【0063】
本実施例に係るプリフォーム1の製造方法は、以下に述べる縫着工程(TFP縫い工程)S1、接着用樹脂付与工程S2、接合工程S3及びトリミング工程S4を備えている(
図5参照)。
【0064】
縫着工程S1は、
図1に示すように、ミシン11により基層2へ縫製糸4を縫い込むことによって繊維束3を基層2へ縫着する工程である。また、接着用樹脂付与工程S2は、ミシンヘッド12の付与機構23により繊維束3の縫着ルートの少なくとも一部に接着用樹脂(バインダ剤)5として液状の熱可塑性樹脂を付与する工程である。このように、ミシン11により縫製糸4の縫い込みを行う際に、ミシンヘッド12の付与機構23により接着用樹脂5が付与されるため、縫着工程S1と接着用樹脂付与工程S2とが実質的に同時に行われる。
なお、本実施例では、基層2として、ガラスクロス等の織物を例示する。さらに、繊維束3として、炭素繊維等の強化繊維を含む連続繊維3aを多数本束ねて構成されたものを例示する。
【0065】
接合工程S3は、
図3に示すように、基層2と繊維束3を接着用樹脂5により接合する工程である。また、トリミング工程S4は、打抜型41を用いて基層2の不要部2aを切除する工程である。
【0066】
打抜型41は、トリミング刃42と、トリミング刃42の内側に配置される電熱線からなる加熱部43と、を備えている。トリミング工程S4では、打抜型41のトリミング刃42が基層2の不要部2aを切除する際に、加熱部43の接触(具体的に押圧)により熱可塑性樹脂(接着用樹脂5)が溶融されて接着用樹脂5を機能させ、基層2、繊維束3及び縫製糸4が接合される。即ち、トリミング工程S4と接合工程S3とが実質的に同時に行われる。
なお、溶融された熱可塑性樹脂(接着用樹脂5)は、打抜型41の打ち抜き状態を解除することで冷却固化される。
【0067】
上記のように、縫着工程S1と接着用樹脂付与工程S2とが実質的に同時に行われ、その後、トリミング工程S4と接合工程S3とが実質的に同時に行われることで、プリフォーム1が得られる(
図3(c)参照)。このプリフォーム1は、接着用樹脂5(即ち、接着層5’)により基層2と繊維束3が接合されているため、プリフォーム1の形状安定性(即ち、取扱性)が高められる。そして、
図4及び
図5に示すように、得られたプリフォーム1を成形型45内に配置して賦形し(賦形工程S5)、成形型45内に、熱硬化性樹脂を充填して硬化する(マトリックス形成工程S6)ことで、複合材7が得られる。この複合材7は、コア材8と、コア材8を埋設するマトリックス樹脂9と、を有している(
図10参照)。
【0068】
以上より、本実施例1のプリフォームの製造方法によると、基層2へ縫製糸4を縫い込むことによって繊維束3を基層2へ縫着する縫着工程S1と、繊維束3の縫着ルートの少なくとも一部に接着用樹脂5を付与する接着用樹脂付与工程S2と、基層2と繊維束3を接着用樹脂5により接合する接合工程S3と、基層2の不要部2aを切除するトリミング工程S4と、を備える。そして、縫製糸4の縫い込みを行う際に、接着用樹脂5の付与を行うことによって、縫着工程S1と、接着用樹脂付与工程S2と、を実質的に同時に行う。これにより、形状安定性に優れたプリフォーム1を効率良く製造でき、設備費を低減することができる。さらに、トリミング工程S4の前に接着用樹脂付与工程S2が行われるため、トリミングの際に縫製糸4が切断されても、接着用樹脂5の接合により繊維束3がほつれてしまうことが抑制される。そのため、トリミングの精度に余裕ができてトリミングを容易に行うことができる。
【0069】
また、本実施例では、縫着は、ミシン11を用いた縫製であり、ミシンヘッド12が接着用樹脂5を付与する付与機構23を有する。これにより、繊維束3の縫着ルートに対して接着用樹脂5を正確に付与することができる。
【0070】
また、本実施例では、ミシンヘッド12は、縫い針15と、縫い針15の軸回りに回転可能に設けられて、繊維束3が巻かれたボビン16を有する回転体17と、を備え、付与機構23は、回転体17に設けられるロータリージョイント24と、ロータリージョイント24に形成された接着用樹脂5の供給通路27に接続されるノズル25と、を備える。これにより、回転体17の回転制御により、ボビン16から繰り出される繊維束3が縫着ルートに沿って供給されるとともに、接着用樹脂5の供給用配管29が絡まることなく、ロータリージョイント24の供給通路27を介して接着用樹脂5がノズル25に供給されて縫着ルートに付与される。
【0071】
また、本実施例では、トリミング工程S4は、打抜型41を用いて基層2の不要部2aを切除する工程であり、打抜型41が、打ち抜きの際に、接着用樹脂5を機能させることによって、トリミング工程S4と、接合工程S3と、を実質的に同時に行う。これにより、プリフォーム1を更に効率良く製造することができる。
【0072】
さらに、本実施例では、接着用樹脂5が、熱可塑性樹脂であり、打抜型41が、加熱部43を有し、加熱部43の加熱により、熱可塑性樹脂を溶融させて接着用樹脂5を機能させる。これにより、打抜型41の加熱部43により接着用樹脂5を効果的に機能させることができる。
【0073】
本実施例の複合材7の製造方法によると、上記のプリフォームの製造方法により得られたプリフォーム1を、成形型45内に配置して賦形する賦形工程S5と、成形型45内に、熱硬化性樹脂を充填して硬化するマトリックス形成工程S6と、を備える。これにより、形状安定性に優れたプリフォーム1を成形型45内に容易に配置することができる。よって、複合材7を効率良く製造することができる。
【0074】
本実施例のプリフォーム製造用ミシン11によると、ミシンヘッド12が接着用樹脂5を付与する付与機構23を有する。これにより、縫製糸4の縫い込みを行う際に、付与機構23により接着用樹脂5の付与を行うことができる。そのため、形状安定性に優れたプリフォーム1を効率良く製造でき、設備費を低減することができる。
【0075】
<実施例2>
次に、実施例2に係るプリフォームの製造方法について説明するが、上記の実施例1に係るプリフォームの製造方法と略同様の構成には同符号を付けて詳説を省略する。
【0076】
本実施例に係るプリフォームの製造方法は、
図15に示すように、プリフォーム製造用ミシン11を用いて行われる。本プリフォームの製造方法は、以下に述べる縫着工程(TFP縫い工程)S1、接着用樹脂付与工程S2、接合工程S3及びトリミング工程S4を備えている(
図16参照)。
【0077】
縫着工程S1は、ミシン11により基層2へ縫製糸4を縫い込むことによって繊維束3を基層2へ縫着する工程である。また、接着用樹脂付与工程S2は、ミシンヘッド12の付与機構23により繊維束3の縫着ルートの少なくとも一部に接着用樹脂(バインダ剤)5として液状のUV硬化性樹脂を付与する工程である。さらに、接合工程S3は、光照射機構47により繊維束3の縫着ルートの全体に対して断続的にUVライトを照射することで、UV硬化性樹脂を硬化させて、基層2、繊維束3及び縫製糸4を接着用樹脂5により接合する工程である。このように、ミシン11により縫製糸4の縫い込みを行う際に、ミシンヘッド12の付与機構23により接着用樹脂5が付与されるとともに、光照射機構47によりUV硬化性樹脂が硬化されるため、縫着工程S1と接着用樹脂付与工程S2と接合工程S3とが実質的に同時に行われる。
【0078】
なお、本実施例では、光照射機構47として、シリンダヘッド12とは独立して保持枠13の上方に配置されるものを例示するが、これに限定されず、例えば、ミシンヘッド12に光照射機構47を備えてもよい。特に、回転体17に光照射機構47を備えてもよい。この場合、回転体17にスリップリングを設けることで、外部電力を光照射機構47に供給することができる。
【0079】
トリミング工程S4は、打抜型(例えば、
図3の打抜型41において加熱部43を除去したもの等)を用いて基層2の不要部2aを切除する工程である。
【0080】
このように、縫着工程S1と接着用樹脂付与工程S2と接合工程S3とが実質的に同時に行われ、その後、トリミング工程S4が行われることで、プリフォーム1が得られる。このプリフォーム1は、接着用樹脂5(即ち、接着層5’)により基層2と繊維束3が接合されているため、プリフォーム1の形状安定性(即ち、取扱性)が高められる。そして、得られたプリフォーム1を成形型45内に配置して賦形し(賦形工程S5)、成形型45内に、熱硬化性樹脂を充填して硬化する(マトリックス形成工程S6)ことで、複合材7が得られる(
図4参照)。この複合材7は、コア材8と、コア材8を埋設するマトリックス樹脂9と、を有している(
図10参照)。
【0081】
以上より、本実施例2のプリフォームの製造方法によると、上記の実施例1のプリフォームの製造方法と略同様の作用効果を奏するとともに、接着用樹脂5が、UV硬化性樹脂であり、接合工程S3が、トリミング工程S4前に、光硬化性樹脂に対して光照射を行う工程であるので、トリミング工程S4の前に、光照射により接着用樹脂を効果的に機能させることができる。
【0082】
さらに、本実施例では、縫着工程S1と接着用樹脂付与工程S2と接合工程S3とが実質的に同時に行われるため、プリフォーム1を更に効率良く製造することができる。
【0083】
さらに、本実施例では、接着用樹脂(UV硬化性樹脂)5として複合材7のマトリックス樹脂9と同種のもの(例えば、エポキシ系樹脂等)を採用することで、複合材7において接着用樹脂5の接合部分の異物感が低減される。
【0084】
尚、本発明においては、上記実施例に限られず、目的、用途に応じて本発明の範囲内で種々変更した実施例とすることができる。すなわち、上記実施例1、2では、1つのミシンヘッド12を備えるミシン11を例示したが、これに限定されず、例えば、複数のミシンヘッド12を備える多頭式ミシンとしてもよい。
【0085】
また、上記実施例1、2では、基層2上に配置された繊維束3上に接着用樹脂5を付与する形態を例示したが、これに限定されず、例えば、繊維束3が配置される直前の基層2上に接着用樹脂5を付与するようにしてもよい。
【0086】
さらに、上記実施例2では、縫着工程S1と接着用樹脂付与工程S2と接合工程S3とを実質的に同時に行う形態を例示したが、これに限定されず、例えば、縫着工程S1と接着用樹脂付与工程S2とを実質的に同時に行った後に、接合工程S3(即ち、光照射機構47によるUV照射)を行うようにしてもよい。
【0087】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述および図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲または精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料および実施例を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【0088】
本発明は上記で詳述した実施形態に限定されず、本発明の請求項に示した範囲で様々な変形または変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、プリフォーム(繊維集合体)ひいては複合材(繊維強化成形体)を製造する技術として広く利用される。特に、TFP(Tailored Fiber Placement)技術を利用してプリフォームを製造する技術として好適に利用される。
【符号の説明】
【0090】
1;プリフォーム、2;基層、2a;不要部、3;繊維束、4;縫製糸、5;接着用樹脂、7;複合材、11;ミシン、12;ミシンヘッド、16;ボビン、17;回転体、23;付与機構、24;ロータリージョイント、25;ノズル、27;供給通路、41;打抜型、43;加熱部、45;成形型、S1;縫着工程、S2;接着用樹脂付与工程、S3;接合工程、S4;トリミング工程、S5;賦形工程、S6;マトリックス形成工程。