(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 40/09 20120101AFI20240730BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20240730BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20240730BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20240730BHJP
B60W 10/04 20060101ALI20240730BHJP
B60W 10/11 20120101ALI20240730BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240730BHJP
H04R 3/00 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B60W40/09
F02D29/00 C
F02D29/02 Z
B60W60/00
B60W10/00 106
B60W10/06
B60W10/11
H04R3/00 320
(21)【出願番号】P 2021033466
(22)【出願日】2021-03-03
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】海田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】平沢 崇彦
(72)【発明者】
【氏名】音窪 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大見謝 宏隆
(72)【発明者】
【氏名】中山 公博
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-218872(JP,A)
【文献】特開2019-133511(JP,A)
【文献】特開2007-223357(JP,A)
【文献】特開平08-332896(JP,A)
【文献】特開平10-169486(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0324697(US,A1)
【文献】特開2006-193002(JP,A)
【文献】特開2020-164104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 40/09
F02D 29/00
F02D 29/02
B60W 60/00
B60W 10/04
B60W 10/06
B60W 10/11
H04R 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のパワートレーンの制御を行う車両制御装置であって、
当該車両制御装置は、前記パワートレーンの制御として、第1制御と、同第1制御による前記パワートレーンの制御中よりも同パワートレーンの動作音を抑える第2制御と、を有しており、
かつ、車室に設置されたマイクロフォンの出力する信号に基づき、前記車両の乗員が、前記動作音についての許容度が高い状態にあるか、同許容度が低い状態にあるか、の乗員のムード判定を行うとともに、
前記ムード判定により前記許容度が高い状態にあると判定された場合には前記第1制御により前記パワートレーンを制御する一方で、同ムード判定により前記許容度が低い状態にあると判定された場合には前記第2制御により前記パワートレーンを制御し、
前記車両は、内燃機関、及び電動機が前記パワートレーンに設けられたハイブリッド車両であり、
前記第1制御及び前記第2制御は、前記電動機の回転数の制御であり、
前記第2制御は、前記内燃機関の回転数が既定の範囲外の値となるように前記電動機の回転数を調整する制御であり、
かつ、前記既定の範囲は、前記パワートレーンの動作音に含まれる周波数成分のうちの、人間の可聴域内の周波数成分が大きくなる前記内燃機関の回転数の範囲である
車両制御装置。
【請求項2】
車両のパワートレーンの制御を行う車両制御装置であって、
当該車両制御装置は、前記パワートレーンの制御として、第1制御と、同第1制御による前記パワートレーンの制御中よりも同パワートレーンの動作音を抑える第2制御と、を有しており、
かつ、車室に設置されたマイクロフォンの出力する信号に基づき、前記車両の乗員が、前記動作音についての許容度が高い状態にあるか、同許容度が低い状態にあるか、の乗員のムード判定を行うとともに、
前記ムード判定により前記許容度が高い状態にあると判定された場合には前記第1制御により前記パワートレーンを制御する一方で、同ムード判定により前記許容度が低い状態にあると判定された場合には前記第2制御により前記パワートレーンを制御し、
前記車両は、内燃機関、及び電動機が前記パワートレーンに設けられたハイブリッド車両であり、
前記第1制御は、前記内燃機関の回転数が既定の範囲内の値となるように前記電動機の回転数を調整する制御であり、
かつ、前記既定の範囲は、前記パワートレーンの動作音に含まれる周波数成分のうちの、人間の可聴域内の周波数成分が大きくなる前記内燃機関の回転数の範囲である
車両制御装置。
【請求項3】
車両のパワートレーンの制御を行う車両制御装置であって、
当該車両制御装置は、前記パワートレーンの制御として、第1制御と、同第1制御による前記パワートレーンの制御中よりも同パワートレーンの動作音を抑える第2制御と、を有しており、
かつ、車室に設置されたマイクロフォンの出力する信号に基づき、前記車両の乗員が、前記動作音についての許容度が高い状態にあるか、同許容度が低い状態にあるか、の乗員のムード判定を行うとともに、
前記ムード判定により前記許容度が高い状態にあると判定された場合には前記第1制御により前記パワートレーンを制御する一方で、同ムード判定により前記許容度が低い状態にあると判定された場合には前記第2制御により前記パワートレーンを制御し、
前記車両は、内燃機関、及び電動機が前記パワートレーンに設けられたハイブリッド車両であり、
前記第1制御及び前記第2制御は、前記内燃機関を稼働した状態で走行するハイブリッド走行と、前記内燃機関を停止した状態で前記電動機の動力で走行するEV走行と、を同車両の走行状態に応じて切替える制御であり、
かつ、前記第2制御において前記EV走行が行われる前記車両の走行状態の範囲は、前記第1制御における同範囲よりも広い範囲とされている
車両制御装置。
【請求項4】
車両のパワートレーンの制御を行う車両制御装置であって、
当該車両制御装置は、前記パワートレーンの制御として、第1制御と、同第1制御による前記パワートレーンの制御中よりも同パワートレーンの動作音を抑える第2制御と、を有しており、
かつ、車室に設置されたマイクロフォンの出力する信号に基づき、前記車両の乗員が、前記動作音についての許容度が高い状態にあるか、同許容度が低い状態にあるか、の乗員のムード判定を行うとともに、
前記ムード判定により前記許容度が高い状態にあると判定された場合には前記第1制御により前記パワートレーンを制御する一方で、同ムード判定により前記許容度が低い状態にあると判定された場合には前記第2制御により前記パワートレーンを制御し、
前記パワートレーンは、自動変速機を備えており、
前記第1制御及び前記第2制御は、予め設定されたシフトスケジュールに従って前記自動変速機のギア段を切替える制御であり、
かつ前記第2制御で用いる前記シフトスケジュールは、前記第1制御で用いる前記シフトスケジュールよりも高車速でギア段が切替えられるように設定されている
車両制御装置。
【請求項5】
車両のパワートレーンの制御を行う車両制御装置であって、
当該車両制御装置は、前記パワートレーンの制御として、第1制御と、同第1制御による前記パワートレーンの制御中よりも同パワートレーンの動作音を抑える第2制御と、を有しており、
かつ、車室に設置されたマイクロフォンの出力する信号に基づき、前記車両の乗員が、前記動作音についての許容度が高い状態にあるか、同許容度が低い状態にあるか、の乗員のムード判定を行うとともに、
前記ムード判定により前記許容度が高い状態にあると判定された場合には前記第1制御により前記パワートレーンを制御する一方で、同ムード判定により前記許容度が低い状態にあると判定された場合には前記第2制御により前記パワートレーンを制御し、
前記車両は、運転者のアクセルペダル操作に応じて車速を制御する手動走行モードと、車速を自動制御する自動走行モードと、の走行モードの切替えが可能であり、
前記第1制御及び前記第2制御は、前記自動走行モード時の目標車速を前記車両の走行環境に応じて設定する制御であり、
かつ、同一の前記走行環境の下で設定する前記目標車速が、前記第2制御では、前記第1制御の場合よりも低い車速となる
車両制御装置。
【請求項6】
車両のパワートレーンの制御を行う車両制御装置であって、
当該車両制御装置は、前記パワートレーンの制御として、第1制御と、同第1制御による前記パワートレーンの制御中よりも同パワートレーンの動作音を抑える第2制御と、を有しており、
かつ、車室に設置されたマイクロフォンの出力する信号に基づき、前記車両の乗員が、前記動作音についての許容度が高い状態にあるか、同許容度が低い状態にあるか、の乗員のムード判定を行うとともに、
前記ムード判定により前記許容度が高い状態にあると判定された場合には前記第1制御により前記パワートレーンを制御する一方で、同ムード判定により前記許容度が低い状態にあると判定された場合には前記第2制御により前記パワートレーンを制御し、
前記車両は、運転者のアクセルペダル操作に応じて車速を制御する手動走行モードと、車速を自動制御する自動走行モードと、の走行モードの切替えが可能であり、
前記第1制御及び前記第2制御は、前記自動走行モード時の目標車速を前記車両の走行環境に応じて設定する制御であり、
かつ、前記目標車速の上限値が、前記第2制御では、前記第1制御の場合よりも低い車速となっている
車両制御装置。
【請求項7】
車両のパワートレーンの制御を行う車両制御装置であって、
当該車両制御装置は、前記パワートレーンの制御として、第1制御と、同第1制御による前記パワートレーンの制御中よりも同パワートレーンの動作音を抑える第2制御と、を有しており、
かつ、車室に設置されたマイクロフォンの出力する信号に基づき、前記車両の乗員が、前記動作音についての許容度が高い状態にあるか、同許容度が低い状態にあるか、の乗員のムード判定を行うとともに、
前記ムード判定により前記許容度が高い状態にあると判定された場合には前記第1制御により前記パワートレーンを制御する一方で、同ムード判定により前記許容度が低い状態にあると判定された場合には前記第2制御により前記パワートレーンを制御し、
前記車両は、内燃機関、及び電動機が前記パワートレーンに設けられ、かつ前記内燃機関を稼働した状態で走行するハイブリッド走行と、前記内燃機関を停止した状態で前記電動機の動力で走行するEV走行と、を行うハイブリッド車両であり、
かつ同車両は、運転者のアクセルペダル操作に応じて車速を制御する手動走行モードと、車速を自動制御する自動走行モードと、の走行モードの切替えが可能であり、
前記第1制御及び前記第2制御は、前記自動走行モード時の目標車速を前記車両の走行状態に応じて設定する制御であり、
かつ、前記第2制御では、前記EV走行が可能な車速の上限値以下の速度を前記目標車速として設定する
車両制御装置。
【請求項8】
車両のパワートレーンの制御を行う車両制御装置であって、
当該車両制御装置は、前記パワートレーンの制御として、第1制御と、同第1制御による前記パワートレーンの制御中よりも同パワートレーンの動作音を抑える第2制御と、を有しており、
かつ、車室に設置されたマイクロフォンの出力する信号に基づき、前記車両の乗員が、前記動作音についての許容度が高い状態にあるか、同許容度が低い状態にあるか、の乗員のムード判定を行うとともに、
前記ムード判定により前記許容度が高い状態にあると判定された場合には前記第1制御により前記パワートレーンを制御する一方で、同ムード判定により前記許容度が低い状態にあると判定された場合には前記第2制御により前記パワートレーンを制御し、
前記第1制御による前記パワートレーンの制御中に、ウィンカ、及びハザードスイッチの少なくとも一方が作動したときには、前記パワートレーンの動作音を抑えるための前記パワートレーンの制御を行う
車両制御装置。
【請求項9】
前記信号に基づく前記ムード判定を、機械学習により学習された判定器により行う請求項1~
請求項8のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【請求項10】
前記ムード判定の判定結果に応じた前記第1制御、及び前記第2制御の切替えを、自動走行モード時にのみ実施する
請求項5~請求項7のいずれか1項に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車等の車両の多くでは、エンジン音などのパワートレーンの動作音が騒音とならないように、車室の遮音性が高められている。一方、車両のユーザの中には、エンジン音を好ましい音と感じる者もいる。そうしたユーザのための車載装置として、特許文献1の装置が提案されている。特許文献1に記載の車載装置は、エンジン音を模した疑似エンジン音を生成して、スピーカから車室に供給する。さらに、同車載装置は、車載音響機器が演奏中の楽曲に応じて、車室に供給する疑似エンジン音の音色を調整することも行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車室には、実際のエンジン音も伝わる。よって、上記従来の車載装置が車室に供給する疑似エンジン音を有効に機能させるには、車室に伝わる実際のエンジン音の音量よりも大きい音量とする必要がある。そのため、上記従来の車載装置が適用可能な車両は、車室の遮音性が高く、かつ大音量のエンジン音を要望するユーザが存在する、高級ランジェリ車のような一部の車両に限られる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する車両制御装置は、車両のパワートレーンの制御を行う。同車両制御装置は、パワートレーンの制御として、第1制御と、同第1制御による前記パワートレーンの制御中よりも同パワートレーンの動作音を抑える第2制御と、を有している。また、同車両制御装置は、車室内で発せられている音に基づき、車両の乗員が、上記動作音についての許容度が高い状態にあるか、同許容度が低い状態にあるか、の乗員のムード判定を行う。そして、同車両制御装置は、ムード判定により上記許容度が高い状態にあると判定された場合には第1制御によりパワートレーンを制御する一方で、ムード判定により上記許容度が低い状態にあると判定された場合には前記第2制御により前記パワートレーンを制御している。
【0006】
車室に伝わるパワートレーンの動作音に対して乗員は、同じ音量、音質であっても、乗員の気分によって、不快な騒音と感じたり、好ましい音と感じたり、することがある。すなわち、パワートレーンの動作音に対する乗員の許容度は、乗員の気分により変化する。例えば、乗員が高揚した気分にあるときには動作音に対する許容度が高くなり、乗員が落ち着いた気分にあるときには動作音に対する許容度は低くなる。一方、乗員の気分の高揚度は、車載音響機器が演奏中の楽曲や乗員の会話といった、車室内で発生されている音から、ある程度に推測できる。
【0007】
上記車両制御装置では、車室内で発せられている音に基づく、乗員のムード判定を行っている。そして、ムード判定により、乗員が動作音に対する許容度が高い状態にあると判定された場合には、第1制御によりパワートレーンの制御を行う。また、ムード判定により、乗員が動作音に対する許容度が低い状態にあると判定された場合には、第2制御によりパワートレーンの制御を行う。第2制御は、第1制御によるパワートレーンの制御時よりも同パワートレーンの動作音を抑える制御となっている。そのため、上記車両制御装置によれば、パワートレーンの動作音を乗員の気分に応じて調整できる。
【0008】
上記車両制御装置における乗員のムード判定に用いる「車室内で発生られている音」としては、例えば、車載音響機器が演奏中の楽曲が該当する。なお、そうした場合のムード判定は、車載音響機器が選曲操作中では無いと判定されているときに行うことが望ましい。また、上記車両制御装置における乗員のムード判定は、車載音響機器の音声出力の信号や、車室に設置されたマイクロフォンの出力する信号に基づき行うようにするとよい。さらに、それら信号に基づくムード判定は、機械学習により学習された判定器により行うことが可能である。
【0009】
上記車両制御装置の制御対象となる車両が、内燃機関及び電動機がパワートレーンに設けられたハイブリッド車両の場合、上記第1制御及び第2制御として、電動機の回転数の制御を行うようにしてもよい。この場合、第1制御又は第2制御での電動機の回転数制御を、下記(イ)~(ハ)の態様で行えば、第2制御が、第1制御によるパワートレーンの制御時よりも同パワートレーンの動作音を抑える制御となる。(イ)第2制御を、第1制御により電動機の回転数を制御する場合よりも内燃機関の回転数が低くなるように電動機の回転数を調整する制御とする。(ロ)第2制御を、内燃機関の回転数が既定の範囲外の値となるように電動機の回転数を調整する制御とする。(ハ)第1制御を、内燃機関の回転数が既定の範囲内の値となるように電動機の回転数を調整する制御とする。なお、(ロ)、(ハ)における「既定の範囲」は、パワートレーンの動作音に含まれる周波数成分のうちの、人間の可聴域内の周波数成分が大きくなる内燃機関の回転数の範囲を示している。
【0010】
また、上記ハイブリッド車両を制御対象とする場合には、車両の走行状態に応じた、ハイブリッド走行とEV走行との切替制御を、上記第1制御及び第2制御として行うことも可能である。なお、ここでのハイブリッド走行は、内燃機関を稼働した状態での走行を、EV走行は、内燃機関を停止した状態での、電動機の動力による走行を、それぞれ示している。そして、第2制御においてEV走行が行われる車両の走行状態の範囲を、第1制御における同範囲よりも広い範囲とする。このようにすれば、第2制御は、第1制御によるパワートレーンの制御時よりも同パワートレーンの動作音を抑える制御となる。
【0011】
自動変速機がパワートレーンに設けられた車両の場合には、予め設定されたシフトスケジュールに従って自動変速機のギア段を切替える制御を、第1制御及び前記第2制御として行うことも可能である。そして、第2制御で用いるシフトスケジュールを、第1制御で用いるシフトスケジュールよりも高車速でギア段が切替えられるように設定する。こうした場合にも、第2制御は、第1制御によるパワートレーンの制御時よりも同パワートレーンの動作音を抑える制御となる。
【0012】
上記車両制御装置の制御対象となる車両が、運転者のアクセルペダル操作に応じて車速を制御する手動走行モードと、車速を自動制御する自動走行モードと、の走行モードの切替えが可能な車両である場合には、第1制御及び第2制御として、自動走行モード時の目標車速を前記車両の走行環境に応じて設定する制御を行うようにしてもよい。そして、同一の走行環境の下で設定する目標車速を、第2制御では、第1制御の場合よりも低い車速とする。こうした場合の第2制御は、第1制御によるパワートレーンの制御時よりも同パワートレーンの動作音が抑えられる制御となる。また、目標車速の上限値を、第2制御では、第1制御の場合よりも低い車速とするようにしてもよい。こうした場合にも、第2制御は、第1制御によるパワートレーンの制御時よりも同パワートレーンの動作音が抑えられる制御となる。さらに、第2制御を、EV走行が可能な車速の上限値以下の速度を目標車速として設定する制御としてもよい。この場合には、第2制御によるパワートレーンの制御では、パワートレーンの動作音が小さくなるEV走行が第1制御の場合よりも実施され易くなる。
【0013】
なお、自動運転モード時には、手動運転モード時に比べ、車両制御装置が制御可能な車速の範囲が広くなる。すなわち、自動運転モード時には、車速の調整により、パワートレーンの動作音の制御が容易となる。一方、手動運転モード時には、車両制御装置が制御可能な車速の範囲が狭いため、自動運転モード時ほど容易にパワートレーンの動作音を制御できない。よって、ムード判定の判定結果に応じた第1制御、及び第2制御の切替えは、自動走行モード時にのみ実施するようにしてもよい。
【0014】
上記車両制御装置において、第1制御から第2制御へのパワートレーンの制御の切替えに際して、パワートレーンの操作量を、第1制御により設定される値から第2制御により設定される値へと徐変する第1徐変処理と、第2制御から第1制御へのパワートレーンの制御の切替えに際して、パワートレーンの操作量を、第2制御により設定される値から第1制御により設定される値へと徐変する第2徐変処理と、を行う。そして、第1徐変処理での操作量の徐変速度を第2徐変処理での操作量の徐変速度よりも高い速度とするとよい。第1制御と第2制御とのパワートレーンの制御の切替えに際して、パワートレーンの操作量が急変されると、ショック等が発生する虞がある。これについては、第1制御と第2制御とのパワートレーンの制御の切替え時に操作量の徐変処理を行うことで対処できる。ショック等の抑制には、操作量の徐変速度を低くすることが望ましい。一方、第1制御から第2制御へのパワートレーンの制御の切替えに際しては、速やかな動作音の低減が求められる。よって、上記のように、第1制御から第2制御へのパワートレーンの制御の切替え時と、第2制御から第1制御へのパワートレーンの制御の切替え時とでは、操作量の徐変速度を変えることが望ましい。
【0015】
第1制御によるパワートレーンの制御中は、パワートレーンの動作音が大きくなる。また、ムード判定において、動作音に対する乗員の許容度が高い状態にあると判定されるのは、車室内が騒がしいときである。そのため、第1制御によるパワートレーンの制御中は、ウィンカやハザードスイッチの作動音が聞こえ難くなる。よって、第1制御によるパワートレーンの制御中は、第2制御によるパワートレーンの制御中よりも、ウィンカ、及びハザードスイッチの作動音を大きくすることが望ましい。また、第1制御によるパワートレーンの制御中に、ウィンカ、及びハザードスイッチの少なくとも一方が作動したときには、パワートレーンの動作音を抑えるためのパワートレーンの制御を行うようにしてもよい。こうした場合にも、第1制御によるパワートレーンの制御中における、ウィンカやハザードスイッチの作動音の可聴性の悪化が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】車両制御装置の一実施形態が搭載されたハイブリッド車両のパワートレーンの構成を模式的に示す図。
【
図2】同実施形態の車両制御装置の構成を模式的に示す図。
【
図4】同実施形態の車両制御装置が実行する目標回転数設定ルーチンのフローチャート。
【
図6】目標回転数設定ルーチンの変形例のフローチャート。
【
図7】
図7(a)はムード判定の結果の推移を、
図7(b)は目標回転数の推移を、それぞれ示すタイムチャート。
【
図8】車両制御装置の実施例1において実行されるEV走行範囲設定ルーチンのフローチャート。
【
図9】車両制御装置の実施例2における第1制御でのシフトスケジュールの設定態様を示す図。
【
図10】同実施例2における第2制御でのシフトスケジュールの設定態様を示す図。
【
図11】車両制御装置の実施例3において実行される目標車速設定ルーチンのフローチャート。
【
図12】車両制御装置の実施例4において実行される最大車速設定ルーチンのフローチャート。
【
図13】車両制御装置の実施例5において実行される作動音量設定ルーチンのフローチャート。
【
図14】車両制御装置の実施例6において実行される動作音調整ルーチンのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、車両制御装置の一実施形態を、
図1~
図4を参照して詳細に説明する。本実施形態の車両制御装置28は、ハイブリッド車両に搭載されている。
<パワートレーンの構成>
図1を参照して、本実施形態の車両制御装置28が搭載されたハイブリッド車両のパワートレーンの構成を説明する。ハイブリッド車両のパワートレーン10には、内燃機関11、第1発電電動機12、及び第2発電電動機13が設けられている。第1発電電動機12、及び第2発電電動機13は、給電に応じて動力を発生する電動機としての機能と、外部から動力を受けて発電する発電機としての機能と、を兼ね備えている。第1発電電動機12、及び第2発電電動機13は、インバータ14を介してバッテリ15に接続されている。インバータ14は、第1発電電動機12、及び第2発電電動機13とバッテリ15との間で授受される電力の量を調整する。
【0018】
パワートレーン10には、動力分割機構16が設けられている。動力分割機構16は、サンギア17、プラネタリキャリア18、及びリングギア19の3つの回転要素を有している。外歯ギアであるサンギア17は、内歯ギアであるリングギア19の内側に配置されている。サンギア17とリングギア19との間には、プラネタリギア20が配置されている。プラネタリギア20は、サンギア17、及びリングギア19の双方に噛み合わされている。プラネタリギア20は、自転、公転可能にプラネタリキャリア18に取り付けられている。こうした動力分割機構16のサンギア17は、第1発電電動機12の回転軸に一体となって回転するように接続されている。また、プラネタリキャリア18は、ダンパ機構21を介して、内燃機関11の出力軸に連結されている。
【0019】
リングギア19には、外歯ギアであるカウンタドライブギア22が一体となって回転するように連結されている。カウンタドライブギア22には、カウンタドリブンギア23が噛み合わされている。カウンタドリブンギア23には、デフドライブギア24が一体となって回転するように連結されている。デフドライブギア24は、差動機構であるディファレンシャルギア25を介して左右の車輪軸26に接続されている。また、カウンタドリブンギア23には、リダクションギア27も噛み合わされている。リダクションギア27は、第2発電電動機13の回転軸に、一体となって回転するように連結されている。
【0020】
<車両制御装置の構成>
続いて、
図2を参照して、本実施形態の車両制御装置28の構成を説明する。車両制御装置28は、車両制御用の電子制御装置である。車両制御装置28は、演算処理装置29と記憶装置30とを備えている。記憶装置30には、パワートレーン10の制御用のプログラムやデータが予め記憶されている。演算処理装置29は、記憶装置30からプログラムを読み込んで実行することで、パワートレーン10の制御に係る各種処理を行っている。
【0021】
車両制御装置28には、内燃機関11から、同内燃機関11の運転状態を示す状態量が入力されている。内燃機関11の運転状態を示す状態量には、内燃機関11の回転数NE、吸入空気量GAが含まれる。また、車両制御装置28には、バッテリ15から、同バッテリ15の状態を示す状態量が入力されている。バッテリ15の状態を示す状態量には、同バッテリ15の充電率SOCが含まれる。さらに、車両制御装置28には、車速V等の車両の走行状態を示す状態量や、アクセルペダル開度ACC等の運転者の操作状態を示す状態量も入力されている。
【0022】
車両制御装置28は、取得した状態量に基づき、内燃機関11、第1発電電動機12、及び第2発電電動機13を制御することで、パワートレーン10の制御を行っている。例えば、内燃機関11の制御に際して車両制御装置28はまず、取得した状態量に基づき、内燃機関11の各操作量を決定する。内燃機関11の操作量には、スロットル開度TA、燃料噴射量QINJ、点火時期SAが含まれる。そして、車両制御装置28は、決定した操作量に応じて内燃機関11を操作することで、同内燃機関11を制御している。また、車両制御装置28は、第1発電電動機12及び第2発電電動機13の制御に際してはまず、取得した状態量に基づき、第1発電電動機12及び第2発電電動機13の力行/回生トルクを決定する。そして、車両制御装置28は、決定した力行/回生トルクに基づきインバータ14を操作することで、第1発電電動機12及び第2発電電動機13を制御している。ここでのインバータ14の操作は、第1発電電動機12及び第2発電電動機13とバッテリ15との間で授受される電力を、パルス幅変調により調整することで行われる。
【0023】
さらに、車両制御装置28には、車室32に設置されたマイクロフォン33の出力信号が入力されている。なお、車室32には、車載音響機器34が設置されている。車載音響機器34は、スピーカ35を備えている。
【0024】
<乗員のムード判定>
車両走行中に車両制御装置28は、車載音響機器34が演奏中の楽曲や乗員の会話などの車室34内で発せられている音を、マイクロフォン33により取得している。そして、車両制御装置28は、その取得した音に基づいて、乗員が高揚した気分にあるか、落ち着いた気分にあるか、の乗員のムード判定を行っている。すなわち、本実施形態の車両制御装置28は、車室32に設置されたマイクロフォン33の出力する信号に基づき、乗員のムード判定を行っている。
【0025】
なお、車両制御装置28は、記憶装置30に記憶された判定器31を用いて乗員のムード判定を行っている。判定器31は、マイクロフォン33の出力信号の時系列データを入力とし、ムード判定の結果を示す判定結果変数を出力とするニューラルネットワークである。判定結果変数の値は、乗員の気分の高揚度を数値の大きさで表したものである。
【0026】
このニューラルネットワークは、次の態様で学習されている。すなわち、ニューラルネットワークの学習に際しては、様々な状況における車室32内の音を収録する。そして、収録した音のそれぞれについて、収録時の乗員のムードについての官能評価を行う。評価者は、収録した車室32内の音を聴いて、その音から推定される乗員の気分の高揚度についての評点を付ける。このときの評価者は、収録した車室32内の音に含まれる乗員の会話の内容や声色、演奏中の楽曲の曲調や音量などから、乗員の気分の高揚度を推定することになる。そして、収録した音毎に、その音の波形信号、及びその音の官能評価の評点に対応する判定結果変数の値を一纏めとしたデータセットを作成する。ニューラルネットワークの学習は、こうして作成された多数のデータセットを教師データとして用いて行われる。記憶装置30には、こうして機械学習されたニューラルネットワークが判定器31として記憶されている。
【0027】
<パワートレーン10の制御>
続いて、車両制御装置28が行うパワートレーン10の制御について説明する。車両走行中のパワートレーン10の制御に際して、車両制御装置28はまず、車速V、アクセルペダル開度ACC等に基づき、パワートレーン10全体で発生する車両の駆動力の要求値である要求駆動力を決定する。また、車両制御装置28は、決定した要求駆動力と、バッテリ15の充電率SOC等と、に基づき、内燃機関11の目標出力を決定する。さらに、車両制御装置28は、目標出力に基づき、内燃機関11の目標回転数、及び目標負荷率を決定する。目標回転数は、内燃機関11の回転数NEの制御目標値であり、目標負荷率は、内燃機関11の負荷率KLの制御目標値である。また、負荷率KLは、内燃機関11の各気筒の吸気の充填効率ηを表している。そして、車両制御装置28は、目標負荷率の値分の負荷率が得られるように、内燃機関11のスロットル開度TAを操作する。また、車両制御装置28は、内燃機関11の回転数NEを目標回転数とすべく、第1発電電動機12の力行/回生トルクのフィードバック制御を行う。そして、車両制御装置28は、要求駆動力分の駆動力が得られるように、第2発電電動機13の力行/回生トルクを制御する。
【0028】
<目標回転数の設定>
なお、車両制御装置28は、上述した乗員のムード判定の結果に応じて、内燃機関11の目標回転数の設定態様を変更している。ここでは、まず、本実施形態の車両制御装置28での目標回転数の設定についての前提となる事項を説明する。
【0029】
図3は、内燃機関11の回転数NEを横軸とし、同内燃機関11の負荷率KLを縦軸とした直交座標系に、最大トルク線L1、等出力線L2~L5、及び燃費最適線L6をプロットしたものである。最大トルク線L1は、内燃機関11の各回転数においてトルクTEが最大となる負荷率KLの値を繋いだ線である。等出力線L2~L5は、内燃機関11の出力が一定の値となる内燃機関11の動作点を繋いだ線である。なお、
図3には、対応する出力の値が異なる4本の等出力線L2~L5が示されている。さらに、燃費最適線L6は、内燃機関11の出力毎の、燃費が最大となる動作点を繋いだ線である。
【0030】
内燃機関11の燃費性能の点では、燃費最適線L6上の動作点で内燃機関11を動作することが望ましい。例えば、目標出力が等出力線L3に対応する値である場合には、等出力線L3と燃費最適線L6との交点となる動作点P1の回転数NE及び負荷率KLの値をそれぞれ目標回転数、及び目標負荷率の値として設定するとよい。以下の説明では、燃費最適線L6上に位置し、かつ目標出力分の出力が得られる動作点の回転数NE、及び負荷率KLをそれぞれ、最適燃費回転数、及び最適燃費負荷率と記載する。
【0031】
一方、上述のように内燃機関11の回転数NEの調整は、第1発電電動機12の力行/回生トルクのフィードバック制御を通じて行われている。また、第1発電電動機12の力行/回生トルクの制御は、インバータ14のパルス幅変調制御により行われている。インバータ14のスイッチングに伴う動作音、及び電力損失は、パルス幅変調制御の搬送波の周波数、すなわちキャリア周波数により変化することが知られている。具体的には、キャリア周波数を低くすると、動作音の音量が大きくなる一方で、電力損失が少なくなる。また、キャリア周波数を高くすると、動作音の音量が小さくなる一方で、電力損失は増大する。これに対して、内燃機関11の回転数NEが高くなると、同内燃機関11の動作音が大きくなり、インバータ14の動作音が目立ち難くなる。そこで、回転数NEが低く、内燃機関11の動作音が小さくなるときには、車両制御装置28は、キャリア周波数を高くして、インバータ14の動作音を抑えている。これに対して、回転数NEが高く、内燃機関11の動作音が大きくなるときには、キャリア周波数を低くして、インバータ14の電力損失を抑えている。以下の説明では、キャリア周波数を高くしてのインバータ14の駆動を高周波数駆動と記載する。また、キャリア周波数を低くしてのインバータ14の駆動を低周波数駆動と記載する。本実施形態では、内燃機関11の回転数NEが既定の切替回転数N0未満の場合にインバータ14の高周波駆動を、回転数NEが切替回転数N0以上の場合にインバータ14の低周波数駆動を、それぞれ行っている。なお、以下の説明では、インバータ14の高周波数駆動が行われる回転数NEの範囲、すなわち切替回転数N0未満の回転数NEの範囲を、高周波駆動域と記載する。また、インバータ14の低周波駆動が行われる回転数NEの範囲、すなわち切替回転数N0以上の回転数NEの範囲を、回転数NEの低周波駆動域と記載する。
【0032】
ちなみに、本実施形態の車両制御装置28が適用されるハイブリッド車両のインバータ14では、低周波数駆動時のキャリア周波数は人間の可聴域内の周波数とされている。一方、高周波駆動時のキャリア周波数は人間の可聴域外の周波数、すなわち可聴域の上限となる周波数よりも高い周波数とされている。インバータ14の動作音の主たる周波数成分は、キャリア周波数と同じ周波数の成分となる。よって、低周波駆動時には同インバータ14の動作音に含まれる周波数成分のうち、人間の可聴域内の周波数成分が大きくなる。
【0033】
図4に、目標回転数の設定に際して車両制御装置28が実行する目標回転数設定ルーチンの処理手順を示す。車両制御装置28は、内燃機関11の目標出力の決定後に、本ルーチンの処理を開始する。なお、車両制御装置28は、ステップS110又はステップS120での目標回転数の設定後に本ルーチンを終了する。
【0034】
車両制御装置28は、本ルーチンの処理を開始すると、まずステップS100において乗員のムード判定を行う。具体的には、車両制御装置28は、ムード判定に際してまず、マイクロフォン33により取得した車室32の音の波形信号の時系列データを、判定器31であるニューラルネットワークに入力する。そして、車両制御装置28は、その入力に対するニューラルネットワークの出力を、すなわち判定結果変数の値を演算する。車両制御装置28は、こうして演算した判定結果変数の値に基づき、乗員が高揚した気分にあるか否かを判定する。例えば、このときの判定は、判定結果変数の演算値が既定の判定値を超えているか否かにより行われる。そして、車両制御装置28は、ムード判定により、乗員が高揚した気分にあると判定されている場合(YES)にはステップS110に、判定されていない場合(NO)にはステップS120に、それぞれ処理を進める。
【0035】
ステップS120に処理が進められた場合には、車両制御装置28はそのステップS120において、目標出力に対する燃費最適回転数を目標回転数の値として設定する。なお、この場合には、目標出力に対する燃費最適負荷率が目標負荷率の値として設定されることになる。
【0036】
一方、ステップS110に処理が進められた場合には、車両制御装置28はそのステップS110において、高周波数駆動域の回転数NEを目標回転数の値として設定する。具体的には、目標出力に対する燃費最適回転数が、低周波数駆動域内の値である場合には、その燃費最適回転数が目標回転数の値として設定される。また、この場合には、目標出力に対する燃費最適負荷率が目標負荷率の値として設定される。一方、目標出力に対する燃費最適回転数が、高周波数駆動域内の値である場合には、低周波数駆動域内の回転数NEを目標回転数の値として設定する。例えば、切替回転数N0か、それよりも若干高い回転数NEを目標回転数の値として設定する。このときには、設定した目標回転数を回転数NEとする動作点であり、かつ目標出力に対応する等出力線上の動作点の負荷率KLが、目標負荷率の値として設定される。
【0037】
図3を参照して、目標回転数設定ルーチンでの目標回転数の設定態様を説明する。
図3の等出力線L3に対応する内燃機関11の出力が目標出力の値として決定されたものとする。
図3に示すように、等出力線L3と燃費最適線L6との交点となる動作点P1は、切替回転数N0よりも低回転数側に位置している。ムード判定において乗員が高揚した気分にあると判定されていない場合には、動作点P1の回転数NE、及び負荷率KLが、すなわち燃費最適回転数、及び燃費最適負荷率が、目標回転数、及び目標負荷率の値としてそれぞれ設定される。一方、ムード判定において乗員が高揚した気分にあると判定されている場合には、切替回転数N0よりも高回転数側、かつ等出力線L3上の動作点P2の回転数NE、及び負荷率KLが、目標回転数、及び目標負荷率の値としてそれぞれ設定される。
【0038】
ムード判定において乗員が高揚した気分にあると判定されている場合には、目標出力に拘わらず、切替回転数N0以上の値が目標回転数の値として設定される。よって、ムード判定において乗員が高揚した気分にあると判定されている間は、インバータ14の低周波数駆動が続けられる。一方、ムード判定において乗員が高揚した気分にあると判定されていない場合には、内燃機関11の目標出力として大きい値が設定されるときには、切替回転数N0以上の値が目標回転数として設定される。また、内燃機関11の目標出力として小さい値が設定されるときには、切替回転数N0未満の値が目標回転数として設定される。この場合には、インバータ14の高周波数駆動と低周波数駆動とが、内燃機関11の出力に応じて切り替わる。
【0039】
<実施形態の作用、効果>
本実施形態の作用及び効果について説明する。
乗員の会話や車載音響機器34の演奏中の楽曲などの車室32で発せられている音からは、乗員の気分の高揚度をある程度に推定できる。例えば、会話が弾んでいるときや、アップテンポの楽曲を聴いているときには、乗員の気分の高揚度は高いと考えられる。また、会話が途切れがちなときや、スローテンポの楽曲を聴いているときには、乗員の気分の高揚度は低いと考えられる。
【0040】
乗員は、気分が高揚しているときには、高揚していないときに比べて、インバータ14の動作音を煩わしいと感じ難い。すなわち、インバータ14の動作音に対する許容度が高い状態にある。さらに、高揚した気分にあるときには、インバータ14の動作音が、乗員の気分を更に高める演出となることもある。
【0041】
これに対して、車両制御装置28は、車室32内で発せられている音に基づき、乗員が高揚した気分にあるか、否かの乗員のムード判定を行っている。以下の説明では、ムード判定での乗員が高揚した気分にあるとの判定を、高高揚度判定と記載する。また、ムード判定での乗員が高揚した気分に無いとの判定を、低高揚度判定と記載する。車両制御装置28は、ムード判定での高高揚度判定時には、インバータ14の低周波駆動が続くように、内燃機関11の目標回転数を設定する。低周波駆動時には、高周波駆動時に比べてインバータ14の動作音が大きくなる。ただし、上述のように、高高揚度判定時には、低高揚度判定時に比べて、インバータ14を含む、パワートレーン10の動作音に対する乗員の許容度は高いと考えられる。そのため、このときには、低周波駆動を続けても、乗員が、インバータ14の動作音による煩わしさを感じ難くなる。なお、このときには、電力損失の小さい低周波駆動が続けられるため、車両のエネルギ効率が高くなる。
【0042】
一方、低高揚度判定時には、内燃機関11の出力が小さく、同内燃機関11の動作音が小さくなるときには、インバータ14の高周波駆動を行っている。高周波駆動時には、インバータ14の動作音が小さくなり、その動作音の周波数は、人間の可聴域外の周波数となる。そのため、インバータ14の動作音に対する乗員の許容度が低い状態にあっても、乗員が、インバータ14の動作音を煩わしいと感じ難くなる。なお、低高揚度判定時にも、内燃機関11の出力が大きくなるときには、インバータ14の低周波駆動が行われる。ただし、このときには、内燃機関11等の動作音も大きくなるため、低周波駆動によりインバータ14の動作音が多少大きくなっても、問題となり難い状況にある。
【0043】
なお、燃費最適回転数が切替回転数N0と同じ値となる出力よりも目標出力が小さい場合には、高揚度判定時よりも低高揚度判定時の方が低い回転数NEが目標回転数として設定される。そうした場合、低高揚度判定に応じて内燃機関11の回転数NEが低下する。一方、クランク軸等の内燃機関11の可動部品やプラネタリキャリア18やプラネタリギア20等のクランク軸に連動して回転する部品が発する音は、内燃機関11の回転数NEが高いほど大きくなる。よって、上記のような低高揚度判定に応じた内燃機関11の回転数NEの低下によっても、インバータ14以外のパワートレーン10の構成要素の動作音が抑えられる。
【0044】
ちなみに、高周波駆動時には、低周波駆動時に比べてインバータ14の動作音が小さくなる。よって、低周波駆動域の回転数NEを目標回転数として設定する場合には、燃費最適回転数を目標回転数として設定する場合よりも、インバータ14の動作音が抑えられる。ここで、
図3のステップS110において低周波駆動域の回転数NEを目標回転数として設定した上で行われるパワートレーン10の制御を第1制御とする。この場合、
図3のステップS120において燃費最適回転数を目標回転数として設定した上で行われるパワートレーン10の制御は、第1制御によるパワートレーン10の制御中よりもパワートレーン10の動作音を抑える第2制御に該当する。
【0045】
また、第1発電電動機12は、内燃機関11の回転数NEを目標回転数とするように制御されている。内燃機関11と第1発電電動機12とが動力分割機構16を介して連結されたパワートレーン10では、内燃機関11の回転数NEと第1発電電動機12の回転数とが連動して変化する。よって、上記第1制御、及び第2制御は、第1発電電動機12の回転数の制御であると言える。そして、上記第2制御は、第1制御により第1発電電動機12の回転数を制御する場合よりも、内燃機関11の回転数NEが低くなるように第1発電電動機12の回転数を調整する制御となる。また、上記第1制御では、インバータ14のキャリア周波数が、すなわち、インバータ14の動作音の周波数が、人間の可聴域内の周波数となるように、目標回転数を設定している。よって、第1制御は、内燃機関11の回転数NEが、下記の範囲内の値となるように、第1発電電動機12の回転数を調整する制御であると言える。すなわち、上記の範囲とは、パワートレーン10の動作音に含まれる周波数成分のうちの、人間の可聴域内の周波数成分が大きくなる内燃機関11の回転数NEの範囲である。
【0046】
以上の本実施形態の車両制御装置28によれば、以下の効果を奏することができる。
(1)本実施形態の車両制御装置28は、パワートレーン10の制御として、第1制御と、同第1制御によるパワートレーン10の制御中よりもパワートレーン10の動作音を抑える第2制御と、を有している。また、車両制御装置28は、車室32内で発せられている音に基づき、車両の乗員が、上記動作音についての許容度が高い状態にあるか、同許容度が低い状態にあるか、の乗員のムード判定を行っている。そして、車両制御装置28は、ムード判定により上記許容度が高い状態にあると判定された場合には第1制御によりパワートレーン10を制御している。その一方で、車両制御装置28は、ムード判定により上記許容度が低い状態にあると判定された場合には第2制御によりパワートレーン10を制御している。そのため、パワートレーン10の動作音を、乗員の気分に応じて適切に制御できる。
【0047】
(2)ムード判定では、人間の心理状態を判定しており、従来型の解析的な判定手法では、その判定ロジックの構築は困難である。その点、本実施形態では、車室32に設置されたマイクロフォン33の出力信号に基づくムード判定を、機械学習により学習された判定器31により行っている。そのため、人間の心理状態の判定であるムード判定の判定ロジックを、比較的容易に構築できる。
【0048】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
<ムード判定について>
上記実施形態では、機械学習により学習された判定器31を用いて乗員のムード判定を行っていたが、それ以外の方法で乗員のムード判定を行うようにしてもよい。例えば、マイクロフォン33により取得した音の周波数分析の結果からは、乗員の会話の頻度や声のトーン、車載音響機器34が車室32内で演奏中の楽曲の曲調等を確認できる。会話の頻度が高い、或いは声のトーンが高い場合には、乗員が高揚した気分と推定できる。また、演奏中の楽曲の曲調からも、乗員が高揚した気分にと判定できる。よって、上記周波数分析の結果から乗員のムード判定を行うことも可能である。
【0049】
また、車載音響機器34が演奏中の楽曲のみに基づいてムード判定を行う場合には、次の態様でムード判定を行うことも可能である。すなわち、
図1に点線で示すように、車両制御装置28が、車載音響機器34の音声出力の信号を直接取得するとともに、その音声出力の信号に基づいてムード判定を行うようにしてもよい。なお、この場合のムード判定は、機械学習により学習した判定器31により行っても、信号の周波数分析の結果に基づく従来型の判定手法により行ってもよい。また、車載音響機器34が再生する楽曲のデータには、音声データと共に、曲名や曲のジャンル、アーティスト名などのメタデータが記録されている場合がある。車両制御装置28が、演奏中の楽曲のメタデータを車載音響機器34から取得して、そのメタデータから乗員のムード判定を行うようにしてもよい。例えば、演奏中の楽曲のジャンルが、クラッシク音楽などの場合には低高揚度判定を行い、ロック音楽などの場合には高高揚度判定を行う、といったように、演奏中の楽曲のジャンルに基づいてムード判定を行うことも可能である。
【0050】
<選曲操作中のムード判定について>
車両の乗員が車載音響機器34の選曲操作を行っている場合には、乗員が聴きたいものとは異なる楽曲が一時的に演奏されることがある。こうした選曲操作中の車室32内の音に基づきムード判定を行うと、乗員の本当の気分とは異なる判定がなされる虞がある。
【0051】
そこで、そのため、車載音響機器34の選曲操作中には、乗員のムード判定を保留することが望ましい。
図5に、選曲操作中の判定を保留してムード判定を行う場合のムード判定の処理手順の一例を示す。
図5に示されるムード判定ルーチンは、ムード判定の実施が要求されたときに車両制御装置28が実行する処理となっている。車両制御装置28は、本ルーチンを開始すると、まずステップS200において、車載音響機器34が選曲操作中であるか否かを判定する。そして、車両制御装置28は、選曲操作中でないと判定した場合(NO)には、ステップS210において乗員のムード判定を実施した後、本ルーチンの処理を終了する。これに対して、車両制御装置28は、選曲操作中であると判定した場合(YES)には、今回はムード判定を実施せずに本ルーチンの処理を終了する。
【0052】
なお、車載音響機器34が選曲操作中であるか否かの判定は、例えば車両制御装置28が車載音響機器34から操作状況を直接取得して行うことができる。また、マイクロフォン33により取得した車室32内の音から曲調の変化を検出して、選曲操作中であるか否かの判定を行うことも可能である。なお、選曲操作は、乗員が聴きたい楽曲が決まるまで複数回続けて行われることがある。そのため、選曲操作が確認されてから、一定の時間が経過するまでの期間は、選曲操作中であると判定することが望ましい。
【0053】
<パワートレーン制御の切替えについて>
上記実施形態では、高高揚度判定時には低周波駆動域の回転数NEを目標回転数として設定する一方で、低高揚度判定時には燃費最適回転数を目標回転数として設定していた。
図6に示すような態様で、目標回転数の設定を行うようにしてもよい。
【0054】
図6に示す目標回転数設定ルーチンでも、車両制御装置28は、同ルーチンの開始後にまずステップS300において乗員のムード判定を行っている。そして、車両制御装置28は、低高揚度判定時(YES)にはステップS310に処理を進めている。そして車両制御装置28は、そのステップS310において、高周波駆動域の回転数NEを目標回転数の値として設定している。これに対して高高揚度判定時(S300:NO)には、車両制御装置28はステップS320に処理を進める。そして車両制御装置28は、そのステップS320において、燃費最適回転数を目標回転数として設定する。
【0055】
図3を参照して、こうした場合の目標回転数の設定態様を説明する。ここでは、
図3の等出力線L4に対応する内燃機関11の出力が目標出力の値として決定されたものとする。
図3に示すように、等出力線L4と燃費最適線L6との交点となる動作点P3は、切替回転数N0よりも高回転数側に位置している。高高揚度判定時には、こうした動作点P3の回転数NE、及び負荷率KLが、すなわち燃費最適回転数、及び燃費最適負荷率が、目標回転数、及び目標負荷率の値としてそれぞれ設定される。一方、低高揚度判定時には、切替回転数N0よりも低回転数側、かつ等出力線L4上の動作点P4の回転数NE、及び負荷率KLが、目標回転数、及び目標負荷率の値としてそれぞれ設定される。こうした場合、低高揚度判定時には、動作音が大きくなるインバータ14の低周波駆動が行われないことになる。この場合には、ステップS320において燃費最適回数を目標回転数として設定した上で行われるパワートレーン10の制御が、第1制御に該当する制御となる。また、ステップS310において高周波駆動域の回転数NEを目標回転数として設定した上で行われるパワートレーン10の制御が、第2制御に該当する制御となる。なお、この場合の第2制御は、内燃機関11の回転数NEが、下記の範囲外の値となるように、第1発電電動機12の回転数を調整する制御である。すなわち、上記の範囲とは、パワートレーン10の動作音に含まれる周波数成分のうちの、人間の可聴域内の周波数成分が大きくなる内燃機関11の回転数NEの範囲である。
【0056】
<目標回転数の切替え時の処理について>
次に、
図7を参照して、ムード判定結果の変化に応じた目標回転数の切替え時に生じる問題について説明する。なお、
図7(b)には、
図7(a)に示すようにムード判定の結果が変化したときの目標回転数の推移が二点鎖線で示されている。すなわち、時刻t1に低高揚度判定から高高揚度判定に切り替わり、その後の時刻t2に高高揚度判定から再び低高揚度判定に切り替わったときの目標回転数の推移である。なお、ここでは、同図に示される期間には、車室32内の音以外の車両の状態には変化が無いものとしている。よって、同図に示される期間には、低高揚度判定時には一定の値N1が、高高揚度判定時には値N1よりも大きい一定の値N2が、それぞれ目標回転数の値として設定されている。
【0057】
図7(b)に示すように、ムード判定の結果が変化すると、目標回転数の値がステップ状に変化する。そして、その結果、内燃機関11の回転数NEが急激に変化して、ショックが発生したり、動力伝達系に設けられたギアの歯打ち音が発生したり、する虞がある。こうした目標回転数の変化によるショック等を抑えるには、
図7(b)に実線で示すように、ムード判定の結果の変化後、変化前の判定結果に応じた値から変化後の判定結果に応じた値へと目標回転数を徐々に変化させるようにするとよい。
【0058】
ここで、車載音響機器34が演奏する楽曲が激しい曲調の楽曲から静かな曲調の楽曲に切り替わったことで、ムード判定の結果が高高揚度判定から低高揚度判定に切り替わった場合を考える。この場合には、静かな曲調の楽曲の演奏が始まって直ぐに、パワートレーン10の動作音が小さくなることが望ましい。一方、静かな曲調の楽曲から激しい楽曲に切り替わった場合には、激しい曲調の楽曲の演奏の開始後もしばらくの間、パワートレーン10の動作音が小さい状態が続いても、あまり不都合は生じない。このように、高高揚判定から低高揚度判定にムード判定の結果が変化したときには、パワートレーン10の動作音の速やかな低減が期待される。これに対して、低高揚判定から高高揚度判定にムード判定の結果が変化したときのパワートレーン10の動作音の増大には、あまり速度は求められない。よって、高高揚判定から低高揚度判定への変化後と、低高揚判定から高高揚度判定への変化後と、では、目標回転数の徐変速度を変えることが望ましい。具体的には、
図7(b)に実線で示すように、高高揚判定から低高揚度判定への変化後の目標回転数の徐変速度は、低高揚判定から高高揚度判定への変化後の目標回転数の徐変速度よりも高い速度とするとよい。
【0059】
なお、こうした制御切替時の徐変処理は、
図6に示す態様で目標回転数を設定する場合にも、同様に実施できる。また、後述のように第1制御及び第2制御として、目標回転数以外のパワートレーン10の操作量を操作する制御を実施することも可能である。そうした場合の第1制御と第2制御との切替え時に、操作量の徐変処理を実施するようにしてもよい。ここで第1制御から第2制御へのパワートレーン10の制御の切替えに際しての徐変処理を第1徐変処理とし、第2制御から第1制御へのパワートレーン10の制御の切替えに際しての徐変処理を第2徐変処理とする。第1徐変処理は、パワートレーン10の操作量を、第1制御により設定される値から第2制御により設定される値へと徐変する処理となる。また、第2徐変処理は、パワートレーン10の操作量を、第2制御により設定される値から第1制御により設定される値へと徐変する処理となる。こうした徐変処理を実施すれば、第1制御と第2制御との切替え時のパワートレーン10の操作量の急変によるショック等の発生を抑制できる。また、そうした場合にも、第1徐変処理での操作量の徐変速度は、第2徐変処理での操作量の徐変速度よりも高い速度とすることが望ましい。
【0060】
<パワートレーン10の第1制御、及び第2制御について>
上記実施形態では、目標回転数の設定態様を変更することで、第1制御と第2制御とのパワートレーン10の制御の切替えを行っていた。それ以外のやり方で、第1制御と第2制御とのパワートレーン10の制御の切替えを行うようにしてもよい。その場合にも、第2制御が、第1制御によりパワートレーン10を制御する場合よりもパワートレーン10の動作音が抑えられる制御であれば、パワートレーン10の動作音を乗員の気分に応じて適切に制御できる。続いて、そうした第1制御及び第2制御の実施態様の例を記載する。
【0061】
(実施例1)
プラグイン方式等のハイブリッド車両では、車両の走行状態により、ハイブリッド走行モードとEV走行モードとの走行モードの切替えを行うものがある。ハイブリッド走行モードでは、内燃機関11を稼働した状態でハイブリッド車両を走行する走行モードである。EV走行モードは、内燃機関11を停止した状態で第2発電電動機13の動力で走行する走行モードである。走行モードの切替えは、バッテリ15の充電率SOC、車速V、アクセルペダル開度ACC等に基づいて行われる。なお、以下の説明では、充電率SOC、車速V、アクセルペダル開度ACC等により規定される車両の走行状態にあって、EV走行モードでの走行を行う走行状態の範囲を、EV走行領域と記載する。
【0062】
EV走行モードでの走行中のパワートレーン10の動作音は、内燃機関11が動作音を発しない分、ハイブリッド走行モードでの走行中よりも小さくなる。よって、EV走行領域を広くすれば、パワートレーン10の動作音が抑えられた状態で走行する機会が増える。よって、EV走行範囲を拡大すれば、パワートレーン10の動作音が抑えられることになる。こうしたムード判定の結果に応じたEV走行範囲の変更は、例えば下記のEV走行範囲設定ルーチンの処理を通じて実現できる。
【0063】
図8に、EV走行範囲設定ルーチンのフローチャートを示す。本ルーチンの処理は、車両制御装置28により、既定の制御周期毎に繰り返し実行される処理である。車両制御装置28は、本ルーチンを開始するとまず、ステップS400において、乗員のムード判定を行う。そして車両制御装置28は、高高揚度判定時(YES)にはステップS410に、低高揚度判定時(NO)にはステップS420に処理を進める。車両制御装置28はステップS410の処理に進んだ場合には、そのステップS410においてEV走行範囲を縮小する。一方、車両制御装置28はステップS420の処理に進んだ場合には、そのステップS420においてEV走行範囲を拡大する。EV走行範囲の拡大、縮小は、EV走行範囲を規定する充電率SOCの下限値、車速Vの上限値、アクセルペダル開度ACCの上限値等を変更することで行われる。
【0064】
なお、こうした実施例1での第1制御、及び第2制御は、ハイブリッド走行とEV走行とを車両の走行状態に応じて切替える制御となる。第2制御は、EV走行が行われる車両の走行状態の範囲を、第1制御における同範囲よりも広い範囲として、ハイブリッド走行とEV走行との切替えを行う制御となる。
【0065】
(実施例2)
内燃機関と自動変速機とがパワートレーンに設けられた従来型の車両でも、パワートレーンの動作音を抑えるようにパワートレーンの制御を変更することが可能である。そして、ムード判定の結果に応じてパワートレーンの制御を、第1制御と、第1制御の実行中よりもパワートレーンの動作音が抑えられる第2制御と、に切替えれば、パワートレーンの動作音を乗員の気分に応じて適切に制御することが可能となる。こうした従来型の車両でのパワートレーンの第1制御、及び第2制御は、例えば下記の態様で行える。
【0066】
上記のような車両では、車速V、アクセルペダル開度ACCにより規定されるシフトスケジュールに従って自動変速機のギア段を切替えている。自動変速機のギア段として低いギア段が設定された状態を高車速まで維持すれば、内燃機関の回転数NEが高くなる。そして、回転数NEが高くなれば、クランク軸等の内燃機関11の可動部品や自動変速機のギア等が発する音が大きくなる。よって、下記の態様で、ムード判定の結果に応じて自動変速機のシフトスケジュールを変更すれば、パワートレーンの動作音を乗員の気分に応じて適切に制御可能となる。
【0067】
図9は高高揚度判定時に使用するシフトスケジュールを、
図10は低高揚度判定時に使用するシフトスケジュールを、それぞれ示している。
図10のシフトスケジュールは、
図9のシフトスケジュールよりも高車速でギア段が切替えられるように設定されている。なお、
図9、
図10には、昇段用の変速線を実線で示すとともに、降段用の変速線を点線で示している。各変速線には、切替前後のギアの段数を示す符号を付している。例えば符号「1→2」は1速から2速へのギア段の切替えを表している。また符号「2→1」は2速から1速へのギア段の切替えを表している。
【0068】
こうした実施例2での第1制御、及び第2制御は、予め設定されたシフトスケジュールに従って前記自動変速機のギア段を切替える制御となる。そして、第2制御では、第1制御で用いるシフトスケジュールよりも高車速でギア段が切替えられるように設定されたシフトスケジュールを使用してギア段の切替えを行う制御となる。
【0069】
(実施例3)
近年、運転者の操作の一部、又はすべてを自動で行う自動走行車の実用化が進められている。そして、自動走行車として、運転者のアクセルペダル操作に応じて車速Vを制御する手動走行モードと、車速Vを自動制御する自動走行モードと、の走行モードの切替えが可能なものがある。そうした自動走行モード時には、周囲の状況等により許容される範囲内で、車両制御装置28が車速Vを設定できる。そして、そうした自動走行モード時の車速Vの設定を通じて、パワートレーンの動作音を制御することが可能である。車両制御装置28の変更例3では、ムード判定の結果に応じて自動走行モード時の目標車速の設定態様を変更することで、パワートレーンの動作音を乗員の気分に応じて制御している。
【0070】
図11には、変更例3の車両制御装置28が、自動走行モード時の目標車速の設定に際して実行する目標車速設定ルーチンのフローチャートを示す。車両制御装置28は、自動走行モード時に、同ルーチンの処理を既定の制御周期毎に繰り返し実行している。
【0071】
車両制御装置28は、本ルーチンの処理を開始すると、まずステップS500においてムード判定を実施する。そして、車両制御装置28は、高高揚度判定時(YES)にはステップS510に、低高揚度判定時(NO)にはステップS520に、それぞれ処理を進める。ステップS510に処理を進めた場合には、車両制御装置28はそのステップS510において、設定可能な目標車速の範囲のうちの最高値を目標車速の値として設定する。一方、ステップS520に処理を進めた場合には、車両制御装置28はそのステップS520において、設定可能な目標車速の範囲のうちの最低値を目標車速の値として設定する。設定可能な目標車速の範囲は、走行中の道路の制限速度、先行車両との車間距離等の車両の走行環境に応じて定められる。
【0072】
こうした場合、低高揚度判定時には、高高揚度判定時よりも低い車速Vで走行が行われる。車速Vが低下すれば、パワートレーンの動作音は小さくなる。よって、上記のように自動走行モード時の目標車速を設定することでも、パワートレーンの動作音を乗員の気分に応じて制御可能となる。
【0073】
なお、こうした実施例3での第1制御、及び第2制御は、自動走行モード時の目標車速を車両の走行環境に応じて設定する制御となる。また、実施例3での第2制御は、同一の走行環境の下で設定する目標車速を、前記第1制御の場合よりも低い車速Vとする制御となる。
【0074】
(実施例4)
上記のような自動走行モードでの目標車速の設定に際して、車両の走行環境に応じて、目標車速の上限値である最大車速をまず設定し、その最大車速以下の車速Vの範囲において、目標車速を設定することがある。車両制御装置28の変更例4では、ムード判定の結果に応じて自動走行モード時の最大車速の設定態様を変更することで、パワートレーンの動作音を乗員の気分に応じて制御している。
【0075】
図12に、こうした実施例4での最大車速の設定に際して車両制御装置28が実行する最大車速設定ルーチンのフローチャートを示す。車両制御装置28は、自動走行モード時に、同ルーチンの処理を既定の制御周期毎に繰り返し実行している。
【0076】
車両制御装置28は、本ルーチンを開始すると、まずステップS600においてムード判定を実施する。そして、車両制御装置28は、高高揚度判定時(YES)にはステップS610に、低高揚度判定時(NO)にはステップS620に、それぞれ処理を進める。ステップS610に処理を進めた場合には、車両制御装置28はそのステップS610において、既定の第1速度V1を最大車速の値として設定する。一方、ステップS620に処理を進めた場合には、車両制御装置28はそのステップS620において、第1速度V1よりも低い既定の速度である第2速度V2を最大車速の値として設定する。
【0077】
なお、実施例4の車両制御装置28は、車両の走行状態に応じてハイブリッド走行とEV走行とを切替えるハイブリッド車両に搭載されている。そして、上記第2速度V2には、EV走行範囲における車速Vの上限値が値として設定されている。
【0078】
こうした実施例4の車両制御装置28では、自動走行モード時に低高揚度判定がなされた場合には、高高揚度判定がなされた場合よりも車速Vが抑えられる。また、自動走行モード時に低高揚度判定がなされた場合には、十分な充電率SOCがあれば、EV走行が行われる。そのため、低高揚度判定時には、高高揚度判定時に比べて、自動走行モード時のパワートレーンの動作音が抑えられる。
【0079】
こうした実施例4での第1制御、及び第2制御は、自動走行モード時の目標車速の上限値を設定する制御となる。また、実施例4での第2制御では、目標車速の上限値を第1制御の場合よりも低い車速Vとしている。さらに、実施例4での第2制御では、EV走行が可能な車速の上限値以下の速度を目標車速の上限値として設定している。
【0080】
なお、手動走行モード時には、運転者が自身のアクセルペダル操作により車速を制御する。こうした手動走行モード時のパワートレーンの動作は、運転者の操作に直結した動作となることが望ましいという設計思想がある。そうした設計思想を重視する場合、手動走行モード時には、運転者の操作と関係無く、車室32内の音で、パワートレーンの制御が変更されることは好ましく無い。よって、そうした場合には、ムード判定の結果に応じたパワートレーンの制御の変更は、自動走行モード時にのみ実施するとよい。
【0081】
<ウィンカ、ハザードスイッチの作動音の制御について>
第1制御によるパワートレーンの制御の実行中には、第2制御による同制御の実行中よりも、パワートレーンの動作音が大きくなる。また、第1制御によるパワートレーンの制御は、車室32内の音から、乗員が高揚した気分にあると判定されるとき、すなわち車室32内が騒がしいときに実行される。そのため、第1制御の実行中には、ウィンカやハザードスイッチの作動音が聞き取り難くなる。こうした第1制御によるパワートレーン制御の実行中の、ウィンカやハザードスイッチの作動音の可聴性の低下は、下記の実施例5や実施例6の制御により抑えられる。
【0082】
(実施例5)
図13は、実施例5の車両制御装置28が実行する作動音量設定ルーチンのフローチャートである。実施例5の車両制御装置28は、上述の実施形態、及び実施例におけるパワートレーンの制御を併せ行っている。そして、実施例5の車両制御装置28は、車両の走行中に同ルーチンの処理を、既定の制御周期毎に繰り返し実行している。
【0083】
車両制御装置28は、本ルーチンを開始すると、まずステップS700において、第1制御によるパワートレーンの制御が実行中であるか否かを判定する。第1制御によるパワートレーンの制御が実行中の場合(YES)には、ステップS710において、ウィンカ、及びハザードスイッチの作動音の音量を大きくする。一方、第1制御によるパワートレーンの制御が実行中でない場合(NO)には、ステップS720において、ウィンカ、及びハザードスイッチの作動音の音量を小さくする。よって、第1制御によるパワートレーン制御の実行中にも、ウィンカやハザードスイッチの作動音が聞き取り易くなる。
【0084】
(実施例6)
図14は、第6実施例の車両制御装置28が実行する動作音調整ルーチンのフローチャートである。実施例6の車両制御装置28は、上述の実施形態、及び実施例におけるパワートレーンの制御を併せ行っている。そして、実施例6の車両制御装置28は、車両の走行中に同ルーチンの処理を、既定の制御周期毎に繰り返し実行している。
【0085】
本ルーチンを開始すると、車両制御装置28はまずステップS800において、第1制御によるパワートレーンの制御が実行中であるか否かを判定する。そして、車両制御装置28は、第1制御によるパワートレーンの制御が実行中でない場合(NO)には、そのまま今回の本ルーチンの処理を終了する。これに対して、第1制御によるパワートレーンの制御が実行中の場合(YES)には、車両制御装置28はステップS810の処理に進む。
【0086】
ステップS810に処理を進めると、車両制御装置28はそのステップS810において、ウィンカ、ハザードスイッチのうちの一方、又は双方が作動中であるか否かを判定する。そして、作動中でない場合(NO)には、車両制御装置28はそのまま今回の本ルーチンの処理を終了する。これに対して、ウィンカやハザードスイッチが作動中である場合(YES)には、車両制御装置28はステップS820に処理を進める。そして、そのステップS820において、パワートレーンの動作音を抑制するための動作音抑制処理を実行する。
【0087】
動作音抑制処理としては、動作音が低減されるようにパワートレーンを制御する処理であれば、任意の制御を採用できる。例えば、パワートレーンの制御を一時的に第1制御から第2制御に切替える処理を、動作音抑制処理として採用してもよい。こうした実施例6の制御によっても、第1制御によるパワートレーン制御の実行中のウィンカやハザードスイッチの作動音の可聴性が改善する。
【0088】
なお、上記実施形態及び実施例の適用対象となるパワートレーンの構成は、それらの実施形態、実施例で実行する制御を適用可能な範囲において適宜に変更してよい。
【符号の説明】
【0089】
10…パワートレーン
11…内燃機関
12…第1発電電動機
13…第2発電電動機
14…インバータ
15…バッテリ
16…動力分割機構
17…サンギア
18…プラネタリキャリア
19…リングギア
20…プラネタリギア
21…ダンパ機構
22…カウンタドライブギア
23…カウンタドリブンギア
24…デフドライブギア
25…ディファレンシャルギア
26…車輪軸
27…リダクションギア
28…車両制御装置
29…演算処理装置
30…記憶装置
31…判定器
32…車室
33…マイクロフォン
34…車載音響機器
35…スピーカ