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特許7528824トラッキング装置、トラッキング方法、トラッキングプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】トラッキング装置、トラッキング方法、トラッキングプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/66 20060101AFI20240730BHJP
【FI】
G01S13/66
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021039563
(22)【出願日】2021-03-11
(65)【公開番号】P2022139267
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】山野 千晴
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】生駒 哲一
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/097731(WO,A1)
【文献】特開2015-121473(JP,A)
【文献】特許第2673311(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第109031279(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - G01S 7/64
G01S 13/00 - G01S 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物標(2)からの反射波を観測するセンシングデバイス(3)の観測情報として、前記センシングデバイスに対する前記物標の相対速度を含む観測空間の次元情報に基づき、前記物標をトラッキングするトラッキング装置(1)であって、
特定時刻(k)における前記物標の状態を予測することにより、予測状態を取得する予測部(100)と、
前記特定時刻において観測された観測点を与える前記反射波の反射源を、前記予測状態に対して仮定する仮定部(110)と、
前記予測状態の尤もらしさである状態尤度を取得する尤度部(120)と、
前記予測状態において前記観測空間に射影した前記反射源の次元情報と、前記観測情報との、差分を含んで表される前記状態尤度に基づき、前記予測状態を更新する更新部(130)とを、備え
前記予測部は、前記特定時刻に対する過去時刻(k-1)において更新された前記予測状態に基づくガウス混合モデルにより、前記特定時刻の前記予測状態に関する事前分布を取得し、
前記更新部は、前記状態尤度と前記事前分布とを含んでガウス混合モデルにより表される、前記特定時刻の前記予測状態に関する事後分布を、拡張カルマンフィルタにより更新するトラッキング装置。
【請求項2】
物標(2)からの反射波を観測するセンシングデバイス(3)の観測情報に基づき、前記物標をトラッキングするトラッキング装置(1)であって、
特定時刻(k)における前記物標の状態を予測することにより、予測状態を取得する予測部(100)と、
前記特定時刻において観測された観測点を与える前記反射波の反射源を、前記予測状態に対して複数仮定する仮定部(110)と、
前記予測状態における前記反射源毎の生起率と、前記予測状態における前記反射源毎の尤らしさである仮定尤度とに基づき、前記予測状態の尤もらしさである状態尤度を取得する尤度部(120)と、
前記状態尤度に基づき、前記予測状態を更新する更新部(130)とを、備え
前記予測部は、前記特定時刻に対する過去時刻(k-1)において更新された前記予測状態に基づくガウス混合モデルにより、前記特定時刻の前記予測状態に関する事前分布を取得し、
前記更新部は、前記状態尤度と前記事前分布とを含んでガウス混合モデルにより表される、前記特定時刻の前記予測状態に関する事後分布を、拡張カルマンフィルタにより更新するトラッキング装置。
【請求項3】
前記仮定部は、クラッタによる前記反射源と想定されるクラッタ反射源を、仮定し、
前記尤度部は、前記観測点における前記反射波の反射強度が高いほど、前記クラッタ反射源の前記生起率を低く設定する請求項2に記載のトラッキング装置。
【請求項4】
前記仮定部は、前記予測状態の外周縁上において最近接位置の前記反射源と想定される最近接反射源を、仮定し、
前記尤度部は、前記観測点における前記反射波の反射強度が高いほど、前記最近接反射源の前記生起率を高く設定する請求項2又は3に記載のトラッキング装置。
【請求項5】
前記尤度部は、前記外周縁のうち前記センシングデバイス側に想定される場合における前記最近接反射源の前記生起率を、前記外周縁のうち前記センシングデバイスとは反対側に想定される場合における前記最近接反射源の前記生起率よりも、高く設定する請求項4に記載のトラッキング装置。
【請求項6】
前記仮定部は、前記外周縁上において前記最近接位置とは対称位置の前記反射源と想定される対称反射源を、仮定し、
前記尤度部は、前記観測点における前記反射波の反射強度が高いほど、前記対称反射源の前記生起率を高く設定する請求項4又は5に記載のトラッキング装置。
【請求項7】
前記尤度部は、前記外周縁のうち前記センシングデバイス側に想定される場合における前記対称反射源の前記生起率を、前記外周縁のうち前記センシングデバイス側とは反対側に想定される場合における前記対称反射源の前記生起率よりも、高く設定する請求項6に記載のトラッキング装置。
【請求項8】
前記仮定部は、前記観測点が前記予測状態の外周縁内において存在する場合に、前記外周縁内における前記反射源と想定される内部反射源を、仮定する請求項2~7のいずれか一項に記載のトラッキング装置。
【請求項9】
前記尤度部は、前記事後分布のガウス混合モデルを構成するガウス分布数を、前記反射源の仮定数以下にマージする請求項1~8のいずれか一項に記載のトラッキング装置。
【請求項10】
前記センシングデバイスは、前記反射波をミリ波とするレーダである請求項1~のいずれか一項に記載のトラッキング装置。
【請求項11】
プロセッサ(12)により実行され、物標(2)からの反射波を観測するセンシングデバイス(3)の観測情報として、前記センシングデバイスに対する前記物標の相対速度を含む観測空間の次元情報に基づき、前記物標をトラッキングする方法であって、
特定時刻(k)における前記物標の状態を予測することにより、予測状態を取得する予測工程(S100)と、
前記特定時刻において観測された観測点を与える前記反射波の反射源を、前記予測状態に対して仮定する仮定工程(S110)と、
前記予測状態の尤もらしさである状態尤度を取得する尤度工程(S120)と、
前記予測状態において前記観測空間に射影した前記反射源の次元情報と、前記観測情報との、差分を含んで表される前記状態尤度に基づき、前記予測状態を更新する更新工程(S130)とを、含み、
前記予測工程は、前記特定時刻に対する過去時刻(k-1)において更新された前記予測状態に基づくガウス混合モデルにより、前記特定時刻の前記予測状態に関する事前分布を取得することを、含み、
前記更新工程は、前記状態尤度と前記事前分布とを含んでガウス混合モデルにより表される、前記特定時刻の前記予測状態に関する事後分布を、拡張カルマンフィルタにより更新することを、含むトラッキング方法。
【請求項12】
プロセッサ(12)により実行され、物標(2)からの反射波を観測するセンシングデバイス(3)の観測情報に基づき、前記物標をトラッキングする方法であって、
特定時刻(k)における前記物標の状態を予測することにより、予測状態を取得する予測工程(S100)と、
前記特定時刻において観測された観測点を与える前記反射波の反射源を、前記予測状態に対して複数仮定する仮定工程(S110)と、
前記予測状態における前記反射源毎の生起率と、前記予測状態における前記反射源毎の尤らしさである仮定尤度とに基づき、前記予測状態の尤もらしさである状態尤度を取得する尤度工程(S120)と、
前記状態尤度に基づき、前記予測状態を更新する更新工程(S130)とを、含み、
前記予測工程は、前記特定時刻に対する過去時刻(k-1)において更新された前記予測状態に基づくガウス混合モデルにより、前記特定時刻の前記予測状態に関する事前分布を取得することを、含み、
前記更新工程は、前記状態尤度と前記事前分布とを含んでガウス混合モデルにより表される、前記特定時刻の前記予測状態に関する事後分布を、拡張カルマンフィルタにより更新することを、含むトラッキング方法。
【請求項13】
記憶媒体(10)に記憶され、物標(2)からの反射波を観測するセンシングデバイス(3)の観測情報として、前記センシングデバイスに対する前記物標の相対速度を含む観測空間における情報に基づき、前記物標をトラッキングするように、プロセッサ(12)に実行させる命令を含むトラッキングプログラムであって、
前記命令は、
特定時刻(k)における前記物標の状態を予測させることにより、予測状態を取得させる予測工程(S100)と、
前記特定時刻において観測された観測点を与える前記反射波の反射源を、前記予測状態に対して仮定させる仮定工程(S110)と、
前記予測状態の尤もらしさである状態尤度を取得させる尤度工程(S120)と、
前記予測状態において前記観測空間に射影した前記反射源の次元情報と、前記観測情報との、差分を含んで表される前記状態尤度に基づき、前記予測状態を更新させる更新工程(S130)とを、含み、
前記予測工程は、前記特定時刻に対する過去時刻(k-1)において更新された前記予測状態に基づくガウス混合モデルにより、前記特定時刻の前記予測状態に関する事前分布を取得させることを、含み、
前記更新工程は、前記状態尤度と前記事前分布とを含んでガウス混合モデルにより表される、前記特定時刻の前記予測状態に関する事後分布を、拡張カルマンフィルタにより更新させることを、含むトラッキングプログラム。
【請求項14】
記憶媒体(10)に記憶され、物標(2)からの反射波を観測するセンシングデバイス(3)の観測情報に基づき、前記物標をトラッキングするように、プロセッサ(12)に実行させる命令を含むトラッキングプログラムであって、
前記命令は、
特定時刻(k)における前記物標の状態を予測させることにより、予測状態を取得させる予測工程(S100)と、
前記特定時刻において観測された観測点を与える前記反射波の反射源を、前記予測状態に対して複数仮定させる仮定工程(S110)と、
前記予測状態における前記反射源毎の生起率と、前記予測状態における前記反射源毎の尤らしさである仮定尤度とに基づき、前記予測状態の尤もらしさである状態尤度を取得させる尤度工程(S120)と、
前記状態尤度に基づき、前記予測状態を更新させる更新工程(S130)とを、含み、
前記予測工程は、前記特定時刻に対する過去時刻(k-1)において更新された前記予測状態に基づくガウス混合モデルにより、前記特定時刻の前記予測状態に関する事前分布を取得させることを、含み、
前記更新工程は、前記状態尤度と前記事前分布とを含んでガウス混合モデルにより表される、前記特定時刻の前記予測状態に関する事後分布を、拡張カルマンフィルタにより更新させることを、含むトラッキングプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物標をトラッキングするトラッキング技術に、関する。
【背景技術】
【0002】
物標からの反射波を観測するセンシングデバイスの観測情報に基づくことで、物標をトラッキングするトラッキング技術は、広く知られている。トラッキング技術の一種として、物標を観測した複数の観測点から、例えば位置、速度、及び形状等といった物標状態を時系列的に推定する、いわゆる拡張オブジェクトトラッキング(EOT:Extended Object Tracking)は、非特許文献1等に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】K. Granstr¨om, M. Baum, and S. Reuter, “Extended object tracking: Intro-duction, overview, and applications,” Journal of Advances in Information Fusion, vol. 12, no. 2, 2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
EOTの一手法は、観測点を与える反射波の反射源を特定してから、当該特定結果に基づき物標状態の尤もらしさを求める。しかし、この手法では、観測点の観測情報が二次元の位置情報に制限される。そのため、例えばレーダ等のセンシングデバイスに対する物標の相対速度を観測情報が含む場合に、この手法を適用してトラッキング精度を確保するには、計算負荷(計算コスト)が増大するため、改善が必要であった。
【0005】
また、EOTの一手法は、観測点を与える反射波の反射源を一つに特定してから、当該特定結果に基づき物標状態の尤もらしさを求める。しかし、この手法では、単一の反射源に絞り込むことが難しいことから、当該絞り込みの精度がトラッキングの精度に影響する。そこで、EOTの別手法は、観測点を与える反射源を特定しないまま、物標状態を時系列フィルタにより推定する。しかし、この手法では、物標状態を時系列に推定する処理での計算負荷が、増大する。
【0006】
本開示の課題は、トラッキング精度の確保と計算負荷の低減とを両立させるトラッキング装置を、提供することにある。本開示の別の課題は、トラッキング精度の確保と計算負荷の低減とを両立させるトラッキング方法を、提供することにある。本開示のさらに別の課題は、トラッキング精度の確保と計算負荷の低減とを両立させるトラッキングプログラムを、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、課題を解決するための本開示の技術的手段について、説明する。尚、特許請求の範囲及び本欄に記載された括弧内の符号は、後に詳述する実施形態に記載された具体的手段との対応関係を示すものであり、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【0008】
本開示の第一態様は、
物標(2)からの反射波を観測するセンシングデバイス(3)の観測情報として、センシングデバイスに対する物標の相対速度を含む観測空間の次元情報に基づき、物標をトラッキングするトラッキング装置(1)であって、
特定時刻(k)における物標の状態を予測することにより、予測状態を取得する予測部(100)と、
特定時刻において観測された観測点を与える反射波の反射源を、予測状態に対して仮定する仮定部(110)と、
予測状態の尤もらしさである状態尤度を取得する尤度部(120)と、
予測状態において観測空間に射影した反射源の次元情報と、観測情報との、差分を含んで表される状態尤度に基づき、予測状態を更新する更新部(130)とを、備え
予測部は、特定時刻に対する過去時刻(k-1)において更新された予測状態に基づくガウス混合モデルにより、特定時刻の予測状態に関する事前分布を取得し、
更新部は、状態尤度と事前分布とを含んでガウス混合モデルにより表される、特定時刻の予測状態に関する事後分布を、拡張カルマンフィルタにより更新する
【0009】
本開示の第二態様は、
プロセッサ(12)により実行され、物標(2)からの反射波を観測するセンシングデバイス(3)の観測情報として、センシングデバイスに対する物標の相対速度を含む観測空間の次元情報に基づき、物標をトラッキングする方法であって、
特定時刻(k)における物標の状態を予測することにより、予測状態を取得する予測工程(S100)と、
特定時刻において観測された観測点を与える反射波の反射源を、予測状態に対して仮定する仮定工程(S110)と、
予測状態の尤もらしさである状態尤度を取得する尤度工程(S120)と、
予測状態において観測空間に射影した反射源の次元情報と、観測情報との、差分を含んで表される状態尤度に基づき、予測状態を更新する更新工程(S130)とを、含み、
予測工程は、特定時刻に対する過去時刻(k-1)において更新された予測状態に基づくガウス混合モデルにより、特定時刻の予測状態に関する事前分布を取得することを、含み、
更新工程は、状態尤度と事前分布とを含んでガウス混合モデルにより表される、特定時刻の予測状態に関する事後分布を、拡張カルマンフィルタにより更新することを、含む
【0010】
本開示の第三態様は、
記憶媒体(10)に記憶され、物標(2)からの反射波を観測するセンシングデバイス(3)の観測情報として、センシングデバイスに対する物標の相対速度を含む観測空間における情報に基づき、物標をトラッキングするように、プロセッサ(12)に実行させる命令を含むトラッキングプログラムであって、
命令は、
特定時刻(k)における物標の状態を予測させることにより、予測状態を取得させる予測工程(S100)と、
特定時刻において観測された観測点を与える反射波の反射源を、予測状態に対して仮定させる仮定工程(S110)と、
予測状態の尤もらしさである状態尤度を取得させる尤度工程(S120)と、
予測状態において観測空間に射影した反射源の次元情報と、観測情報との、差分を含んで表される状態尤度に基づき、予測状態を更新させる更新工程(S130)とを、含み、
予測工程は、特定時刻に対する過去時刻(k-1)において更新された予測状態に基づくガウス混合モデルにより、特定時刻の予測状態に関する事前分布を取得させることを、含み、
更新工程は、状態尤度と事前分布とを含んでガウス混合モデルにより表される、特定時刻の予測状態に関する事後分布を、拡張カルマンフィルタにより更新させることを、含む
【0011】
これら第一~第三態様によると、特定時刻において観測された観測点を与える反射波の反射源は、特定時刻における物標の予測状態に対して仮定される。そこで、予測状態の尤もらしさである状態尤度として、予測状態において観測空間に射影した反射源の次元情報と、観測空間での観測情報との、差分を含んで表される状態尤度に基づくことで、予測状態が更新されることになる。
【0012】
このような第一~第三態様では、観測空間において物標の相対速度を含む反射源の次元情報が同次元の観測情報と差分対比されることで、当該差分対比の結果を反映した正確な状態尤度を用いて予測状態が更新されることになる。故に、トラッキング精度を確保することと、計算負荷を低減することとを、両立して達成することが可能となる。
【0013】
本開示の第四態様は、
物標(2)からの反射波を観測するセンシングデバイス(3)の観測情報に基づき、物標をトラッキングするトラッキング装置(1)であって、
特定時刻(k)における物標の状態を予測することにより、予測状態を取得する予測部(100)と、
特定時刻において観測された観測点を与える反射波の反射源を、予測状態に対して複数仮定する仮定部(110)と、
予測状態における反射源毎の生起率と、予測状態における反射源毎の尤らしさである仮定尤度とに基づき、予測状態の尤もらしさである状態尤度を取得する尤度部(120)と、
状態尤度に基づき、予測状態を更新する更新部(130)とを、備え
予測部は、特定時刻に対する過去時刻(k-1)において更新された予測状態に基づくガウス混合モデルにより、特定時刻の予測状態に関する事前分布を取得し、
更新部は、状態尤度と事前分布とを含んでガウス混合モデルにより表される、特定時刻の予測状態に関する事後分布を、拡張カルマンフィルタにより更新する
【0014】
本開示の第五態様は、
プロセッサ(12)により実行され、物標(2)からの反射波を観測するセンシングデバイス(3)の観測情報として、センシングデバイスに対する物標の相対速度を含む観測空間の次元情報に基づき、物標をトラッキングする方法であって、
特定時刻(k)における物標の状態を予測することにより、予測状態を取得する予測工程(S100)と、
特定時刻において観測された観測点を与える反射波の反射源を、予測状態に対して複数仮定する仮定工程(S110)と、
予測状態における反射源毎の生起率と、予測状態における反射源毎の尤らしさである仮定尤度とに基づき、予測状態の尤もらしさである状態尤度を取得する尤度工程(S120)と、
状態尤度に基づき、予測状態を更新する更新工程(S130)とを、含み、
予測工程は、特定時刻に対する過去時刻(k-1)において更新された予測状態に基づくガウス混合モデルにより、特定時刻の予測状態に関する事前分布を取得することを、含み、
更新工程は、状態尤度と事前分布とを含んでガウス混合モデルにより表される、特定時刻の予測状態に関する事後分布を、拡張カルマンフィルタにより更新することを、含む
【0015】
本開示の第六態様は、
プロセッサ(12)により実行され、物標(2)からの反射波を観測するセンシングデバイス(3)の観測情報に基づき、物標をトラッキングする方法であって、
特定時刻(k)における物標の状態を予測することにより、予測状態を取得させる予測工程(S100)と、
特定時刻において観測された観測点を与える反射波の反射源を、予測状態に対して複数仮定させる仮定工程(S110)と、
予測状態における反射源毎の生起率と、予測状態における反射源毎の尤らしさである仮定尤度とに基づき、予測状態の尤もらしさである状態尤度を取得させる尤度工程(S120)と、
状態尤度に基づき、予測状態を更新させる更新工程(S130)とを、含み、
予測工程は、特定時刻に対する過去時刻(k-1)において更新された予測状態に基づくガウス混合モデルにより、特定時刻の予測状態に関する事前分布を取得させることを、含み、
更新工程は、状態尤度と事前分布とを含んでガウス混合モデルにより表される、特定時刻の予測状態に関する事後分布を、拡張カルマンフィルタにより更新させることを、含む
【0016】
これら第四~第六態様によると、特定時刻において観測された観測点を与える反射波の反射源は、特定時刻における物標の予測状態に対して複数仮定される。そこで、予測状態の尤もらしさである状態尤度は、予測状態における反射源毎の生起率と、予測状態における反射源毎の尤もらしさである仮定尤度とに基づき取得され、特定時刻における予測状態の更新に供されることとなる。
【0017】
このように第四~第六態様では、複数仮定された反射源毎の生起率及び仮定尤度が反映されることで、状態尤度を正確に取得できる。故に、正確な状態尤度を用いて予測状態が更新されることによれば、トラッキング精度の確保が可能となる。しかも反射源仮定、尤度取得及び状態更新のいずれについても、特定時刻に関する処理となるため、そうしたトラッキング精度の確保と両立した計算負荷の低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】一実施形態によるトラッキング装置の全体構成を示すブロック図である。
図2】一実施形態によるトラッキング装置の詳細構成を示すブロック図である。
図3】一実施形態によるトラッキング方法を示すフローチャートである。
図4】一実施形態による予測ブロックを説明するための模式図である。
図5】一実施形態による予測ブロックを説明するための模式図である。
図6】一実施形態による仮定ブロックを説明するための模式図である。
図7】一実施形態による仮定ブロックを説明するための模式図である。
図8】一実施形態による尤度ブロックを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1に示すように一実施形態によるトラッキング装置1は、物標2を観測した少なくとも一つの観測点から、広がりのある物標2を認識して追従処理するEOTを、実現する。そのためにトラッキング装置1は、センシングデバイス3と共に、車両4に搭載される。センシングデバイス3は、物標2のセンシングにより反射源群を観測可能な、例えば反射をミリ波とするミリ波レーダ、又はLIDAR(Light Detection and Ranging / Laser Imaging Detection and Ranging)等である。ここで特にセンシングデバイス3としては、ミリ波レーダが好ましい。センシングデバイス3は、物標2のセンシング及び反射源群の観測を、所定の時間間隔で繰り返す。そこでトラッキング装置1では、特定時刻kにおいてセンシングデバイス3により観測された反射源群が、物標2に対する同時刻kでの少なくとも一つの観測点として認識される。
【0021】
トラッキング装置1は、例えばLAN(Local Area Network)、ワイヤハーネス及び内部バス等のうち、少なくとも一種類を介して、センシングデバイス3に接続されている。トラッキング装置1は、メモリ10及びプロセッサ12を、少なくとも一つずつ含んで構成される専用のコンピュータである。メモリ10は、コンピュータにより読み取り可能なプログラム及びデータ等を非一時的に格納又は記憶する、例えば半導体メモリ、磁気媒体及び光学媒体等のうち、少なくとも一種類の非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。プロセッサ12は、例えばCPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、及びRISC(Reduced Instruction Set Computer)-CPU等のうち、少なくとも一種類をコアとして含む。
【0022】
プロセッサ12は、メモリ10に格納されたトラッキングプログラムに含まれる複数の命令を、実行する。これによりトラッキング装置1は、物標2をトラッキングするための機能ブロックを、複数構築する。このようにトラッキング装置1では、物標2をトラッキングするためにメモリ10に格納されたトラッキングプログラムが複数の命令をプロセッサ12に実行させることで、複数の機能ブロックが構築される。図2に示すように、トラッキング装置1により構築される複数の機能ブロックには、予測ブロック100、仮定ブロック110、尤度ブロック120、及び更新ブロック130が含まれる。
【0023】
機能ブロック100,120,140の共同により、トラッキング装置1が物標2をトラッキングするトラッキング方法のフローを、図3に従って以下に説明する。本フローは、前回の過去時刻k-1から今回の特定時刻kまでのトラッキング周期が繰り返される毎に、実行される。尚、本フローにおいて「S」とは、トラッキングプログラムに含まれた複数命令により実行される、本フローの複数ステップをそれぞれ意味する。
【0024】
トラッキング方法のS100において予測ブロック100は、特定時刻kにおける物標2の状態ξを予測する。この予測の前提として、物標2が車両4周囲の他車両(図1参照)であるとすると、特定時刻kにおいて物標2に予測される状態ξは、図4,5に示すように物標2を楕円形に模式化する円運動(Constant Turn Rate and Velocity)モデルに基づき、数1により定義される。数1においてx,yは、それぞれ直交座標における物標2での後輪中心の横位置及び縦位置である。式1においてv,φ,ωは、それぞれ物標2の速度、方位角、及びヨーレートである。式1においてl,b,dは、円運動モデルにおいて物標2を模式化した楕円形の長軸長、短軸長、及び物標2における前端から後輪中心までの距離の、長軸長に対する比率である。
【数1】
【0025】
一方、特定時刻kにおいて物標2の独立した各観測点を識別するインデックス番号をmとすると、それら観測点の総数となる観測点数Mを用いて、数2に示すように当該インデックス番号mは定義される。この定義の下、特定時刻kにおける物標2の観測点群{z}での各観測情報zは、数2,3により定義される。数3においてrは、センシングデバイス3から観測点までの距離である。数4においてdrは、センシングデバイス3に対する観測点の相対速度であって、ドップラ速度であるともいえる。数3においてuは、センシングデバイス3に対する観測点の方位であって、数4により与えられる。このように観測情報zは、距離r、相対速度dr、及び方位uを含む、観測空間の三次元情報として与えられる。尚、以下では、観測点群{z}を構成してそれぞれ観測情報zにより特定される各観測点についても、説明の便宜上、観測点z(mは説明の必要に応じたインデックス番号の数字の場合を含む)と表記する。
【数2】
【数3】
【数4】
【0026】
数1~4を前提として予測ブロック100は、特定時刻kにおける物標2の状態ξを予測する。具体的に予測ブロック100は、特定時刻kに対する過去時刻k-1に更新された物標2の状態ξk-1に基づいたガウス混合モデルに従う数5~8により、特定時刻kでの物標2の予測状態ξを取得する。数6,7においてTは、状態ξの更新周期となるトラッキング周期である。数8においてσ及びσωは、一定の速度及びヨーレートに対してそれぞれ雑音として混入する、加速度及び角加速度の標準偏差である。尚、以下では、特定時刻kでの予測状態ξを、説明の便宜上、単に予測状態ξと表記する。
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】
【0027】
予測ブロック100はさらに、予測した特定時刻kの予測状態ξに基づくことで、特定時刻kにおける物標2の事前分布p(ξ)を、取得する。具体的には、拡張カルマンフィルタ(EKF:Extended Kalman Filter)でのサンプリング点を識別するインデックス番号をiとすると、サンプリング点の総数となるパーティクル数Iを用いた数9により、当該インデックス番号iが定義される。この定義の下において予測ブロック100は、特定時刻kに予測される物標2全体での事前分布p(ξ)を、数10~13により演算する。数10においてNは、ガウス分布を表す分布関数である。数10,11においてλは、サンプリング点全体での総和により1の値をとる、重み関数である。数12においてfは、数6によって定義される遷移関数である。数13においてGは、数7によって与えられる、雑音のモデル行列である。数13においてσ及びσωは、それぞれ数8と同様に雑音として混入する、加速度及び角加速度の標準偏差である。
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【数13】
【0028】
図3に示すように、トラッキング方法のS110において仮定ブロック110は、特定時刻kにおいて観測された観測点zを与える反射波の反射源を、特定時刻kでの予測状態ξに対して仮定する。具体的に仮定ブロック110は、図6に示すように観測点zに対応する複数の反射源としてクラッタ反射源τ、最近接反射源τ、対称反射源τ、及び内部反射源τを、仮定する。具体的にクラッタ反射源τは、クラッタによる反射源と想定される。
【0029】
図7に示すように最近接反射源τは、予測状態ξの外周縁上において最近接位置の反射源と想定される。ここで最近接反射源τとは、円運動モデルにおいて物標2を模式化した楕円形の楕円中心eと観測点zとを結ぶ直線Lが、予測状態ξの外周縁となる当該楕円形の楕円周上において交差する、交点の二次元座標に定義される。そこで最近接反射源τは、数14~19により代数的に与えられる。数15においてrφは、観測点zの距離rに対して方位角φ[rad]の回転を与える二次元回転行列である。数17においてuは、数4によって与えられる、観測点zの方位である。
【数14】
【数15】
【数16】
【数17】
【数18】
【数19】
【0030】
図7に示すように対称反射源τは、予測状態ξの外周縁上において最近接反射源τの最近接位置とは対称位置の反射源と想定される。ここで対称反射源τとは、円運動モデルにおいて物標2を模式化した楕円形の楕円長軸Lを対称軸として、予測状態ξの外周縁となる当該楕円形の楕円周上での、最近接反射源τの最近接位置に対する対称点の二次元座標に定義される。そこで対称反射源τは、数20,21及び数15,17~19により代数的に与えられる。
【数20】
【数21】
【0031】
図7に示すように内部反射源τは、予測状態ξの外周縁内において観測点zが存在する場合に、当該外周縁内における反射源と想定される。ここで内部反射源τとは、円運動モデルにおいて物標2を模式化した楕円形の楕円長軸Lに対して、観測点zが垂直に射影された射影点の二次元座標に定義される。そこで内部反射源τは、数22,23及び数17~19により代数的に与えられる。
【数22】
【数23】
【0032】
図3に示すように、トラッキング方法のS120において尤度ブロック120は、特定時刻kでの予測状態ξの尤もらしさである状態尤度p({z}|ξ)を、取得する。具体的に尤度ブロック120は、特定時刻kでの状態尤度p({z}|ξ)を、数24~27により取得する。即ち尤度ブロック120による状態尤度p({z}|ξ)の取得は、予測状態ξにおける反射源毎の生起率p(τ|ξ)と、予測状態ξにおける反射源毎の尤らしさである仮定尤度p(z|ξ,τ)と、に基づく。数25~27においてJは、反射源を識別する数字、即ちクラッタ反射源τ、最近接反射源τ、対称反射源τ、及び内部反射源τに付された各符号のインデックス番号(即ち、0,1,2,3)である。尚、以下では、クラッタ反射源τ、最近接反射源τ、対称反射源τ、及び内部反射源τを総称して、反射源τと表記する。また、クラッタ反射源τ以外の反射源(即ち、最近接反射源τ、対称反射源τ、及び内部反射源τを識別するインデックス番号(即ち、1,2,3)をjとした場合に、クラッタ反射源τ以外の反射源を総称して、反射源τと表記する。
【数24】
【数25】
【数26】
【数27】
【0033】
尤度ブロック120は、S110の仮定ブロック110により想定されたクラッタ反射源τの生起率p(τ|ξ)を、数28により設定する。数28において1未満の確率変数αは、クラッタ反射源τの対応する観測点zにおいて反射波の反射強度が高いほど、小さい数値に設定される。即ち尤度ブロック120は、観測点zにおける反射波の反射強度が高いほど、クラッタ反射源τの生起率p(τ|ξ)を低く設定する。
【数28】
【0034】
尤度ブロック120は、S110の仮定ブロック110により想定された最近接反射源τの生起率p(τ|ξ)を、数29~31により設定する。数29,30において1未満の確率変数αは、最近接反射源τの対応する観測点zにおいて反射波の反射強度が高いほど、高い数値に設定される。即ち尤度ブロック120は、観測点zにおける反射波の反射強度が高いほど、最近接反射源τの生起率p(τ|ξ)を高く設定する。
【数29】
【数30】
【数31】
【0035】
尤度ブロック120では、図8に示される予測状態ξの外周縁のうち、センシングデバイス3の原点O側(図8に太実線で示される楕円弧部分)となる表側に、最近接反射源τをS110の仮定ブロック110が想定した場合、数29により生起率p(τ|ξ)が設定される。一方で尤度ブロック120では、予測状態ξの外周縁のうち、センシングデバイス3の原点Oとは反対側(図8に細破線で示される楕円弧部分)となる裏側に、最近接反射源τをS110の仮定ブロック110が想定した場合、数30により生起率p(τ|ξ)が設定される。ここで、表側での生起率p(τ|ξ)を設定する場合での確率変数P11は、裏側での生起率p(τ|ξ)を設定する場合の確率変数P12よりも大きい数値、且つ双方の場合の総和が1となるように設定される。即ち尤度ブロック120は、表側に想定される場合における生起率p(τ|ξ)を、裏側に想定される場合における生起率p(τ|ξ)よりも、高く設定する。
【0036】
尤度ブロック120は、S110の仮定ブロック110により想定された対称反射源τの生起率p(τ|ξ)を、数32,33及び数31により設定する。数32,33において確率変数αは、対称反射源τの対応する観測点zにおいて反射波の反射強度が高いほど、高い数値に設定される。即ち尤度ブロック120は、観測点zにおける反射波の反射強度が高いほど、対称反射源τの生起率p(τ|ξ)を高く設定する。
【数32】
【数33】
【0037】
尤度ブロック120では、最近接反射源τの場合と同様に予測状態ξの外周縁のうち、センシングデバイス3の原点O側となる裏側に、対称反射源τをS110の仮定ブロック110が想定した場合、数32により生起率p(τ|ξ)が設定される。一方で尤度ブロック120では、最近接反射源τの場合と同様に予測状態ξの外周縁のうち、センシングデバイス3の原点Oとは反対側となる裏側に、対称反射源τをS110の仮定ブロック110が想定した場合、数33により生起率p(τ|ξ)が設定される。ここで、表側での生起率p(τ|ξ)を設定する場合の確率変数P21は、裏側での生起率p(τ|ξ)を設定する場合の確率変数P22よりも大きい数値、且つ双方の場合の総和が1となるように設定される。即ち尤度ブロック120は、表側に想定される場合における生起率p(τ|ξ)を、裏側に想定される場合における生起率p(τ|ξ)よりも、高く設定する。
【0038】
尤度ブロック120は、予測状態ξの外周縁内に観測点zが存在するのに応じて、S110の仮定ブロック110が内部反射源τを想定した場合に、当該内部反射源τの生起率p(τ|ξ)を、数34,35により設定する。数35において確率変数αは、最近接反射源τ及び対称反射源τの設定に用いられた数値に、設定される。
【数34】
【数35】
【0039】
尤度ブロック120は、S110の仮定ブロック110により想定されたクラッタ反射源τの仮定尤度p(z|ξ,τ)を、一様分布を表す数36により、設定する。数36においてVは、評価領域(Validation Region)のボリュームである。
【数36】
【0040】
尤度ブロック120は、S110の仮定ブロック110により想定されたクラッタ反射源τ以外の反射源τ(即ち、最近接反射源τ、対称反射源τ、及び内部反射源τの仮定尤度p(z|ξ,τ)を、ガウス分布を表す数37により、設定する。数37においてRは、ガウス分布に従って既知の観測ノイズの分散を代数的に表現した、分散共分散行列である。数37においてhは、予測状態ξでの反射源τの二次元座標を観測点zの観測空間に射影することで、当該反射源τの三次元情報を与えるための関数であって、数38により表される観測方程式である。ここで反射源τの三次元情報とは、観測空間において観測情報zと同次元となる、距離r、相対速度dr、及び方位uである。数38においてrπは、観測点zの距離rに対してπ[rad]の回転を与える二次元回転行列である。数38においてrφは、観測点zの距離rに対して方位角φ[rad]の回転を与える二次元回転行列である。数38においてrπ/2は、観測点zの距離rに対してπ/2[rad]の回転を与える二次元回転行列である。数38においてuは、数19により与えられる。数38において、τ は、反射源τの二次元座標のうち、縦方向成分である。
【数37】
【数38】
【0041】
図3に示すように、トラッキング方法のS130において更新ブロック130は、特定時刻kにおける予測状態ξを更新する。具体的に更新ブロック130は、特定時刻kの予測状態ξに関する事前分布p(ξ)に対して更新処理を実行することで、事後分布p(ξ|{z})を取得する。ここで事後分布p(ξ|{z})は、S100の予測ブロック100により取得された特定時刻kでの事前分布p(ξ)と、S120の尤度ブロック120により取得された特定時刻kでの状態尤度p({z}|ξ)とに基づいた、数39によって表される。そこで、観測点zがz,z,zの三つの場合を例示した数40のように、更新が観測点z毎に実行されることで、全観測点zに対しての事後分布p(ξ|{z})が演算される。
【数39】
【数40】
【0042】
観測点z毎の更新は、観測点zがzの場合を例示した数41のように、順次実行される。ここで数41では、特定時刻kの予測状態ξに関する事後分布p(ξ|{z})が、順次更新の対象となる観測点z(数41の場合はz)の分布成分に関して、抽出されている。数41の二~四行目が、数28~38により表される反射源τ毎の生起率p(τ|ξ)及び仮定尤度p(z|ξ,τ)に基づいた状態尤度p({z}|ξ)と、特定時刻kの予測状態ξに関する事前分布p(ξ)とを、含んでガウス混合モデルにより表されている。数41の五行目では、そうした予測状態ξに関する事後分布p(ξ|{z})が、EKFを用いたフィルタ処理により、更新されている。EKFを用いてのフィルタ処理に当たっては、数42~48が導入される。
【数41】
【数42】
【数43】
【数44】
【数45】
【数46】
【数47】
【数48】
【0043】
ここで特に数42は、特定時刻kでの予測状態ξにおいて観測空間に射影した反射源τの三次元情報と、当該観測空間における観測情報zとの、差分演算を表す。これらのことから、予測状態ξに関する事後分布p(ξ|{z})の更新は、観測空間での反射源τの三次元情報と観測情報zとの差分δi,jを含んで表される状態尤度p({z}|ξ)に、基づくといえる。尚、数41~48においても、サンプリング点を識別するために数9で定義されるインデックスiが、用いられている。また、数41の五行目及び数42,44では、それぞれw,τが数12によるξの平均に依存するという知見から、それらw,τがw ,τ と表記し直されている。
【0044】
観測点z毎の更新においてS130の更新ブロック130は、事後分布p(ξ|{z})のガウス混合モデルを構成するガウス分布数を、反射源τの仮定数J以下にマージする。ここでマージは、例えば類似するガウス分布同士がいずれか一方等に、纏められる。以上により観測点z毎の更新は、観測点zがzの場合を例示した数49のように、完了する。
【数49】
【0045】
このように本実施形態では、予測ブロック100が「予測部」に相当し、仮定ブロック110が「仮定部」に相当し、尤度ブロック120が「尤度部」に相当し、更新ブロック130が「更新部」に相当する。また本実施形態では、S100が「予測工程」に相当し、S110が「仮定工程」に相当し、S120が「尤度工程」に相当し、S130が「更新工程」に相当する。
【0046】
(作用効果)
以上説明した本実施形態の作用効果を、以下に説明する。
【0047】
これら本実施形態によると、特定時刻kにおいて観測された観測点zを与える反射波の反射源τは、特定時刻kにおける物標2の予測状態ξに対して複数仮定される。そこで、予測状態ξの尤もらしさである状態尤度p({z}|ξ)として、予測状態ξにおいて観測空間に射影した反射源τの次元情報と、観測空間での観測情報zとの、差分δi,jを含んで表される状態尤度p({z}|ξ)に基づくことで、予測状態ξが更新されることになる。
【0048】
このような本実施形態では、観測空間において物標2の相対速度drを含む反射源τの次元情報が同次元の観測情報zと差分対比されることで、当該差分対比の結果を反映した正確な状態尤度p({z}|ξ)を用いて予測状態ξが更新されることになる。故に、トラッキング精度を確保することと、計算負荷を低減することとを、両立して達成することが可能となる。
【0049】
本実施形態によると、特定時刻kにおいて観測された観測点zを与える反射波の反射源τは、特定時刻kにおける物標2の予測状態ξに対して複数仮定される。そこで、予測状態ξの尤もらしさである状態尤度p({z}|ξ)は、予測状態ξにおける反射源τ毎の生起率p(τ|ξ)と、予測状態ξにおける反射源τ毎の尤もらしさである仮定尤度p(z|ξ,τ)とに基づき取得され、特定時刻kにおける予測状態ξの更新に供されることとなる。
【0050】
このように本実施形態では、複数仮定された反射源τ毎の生起率p(τ|ξ)及び仮定尤度p(z|ξ,τ)が反映されることで、状態尤度p({z}|ξ)を正確に取得できる。故に、正確な状態尤度p({z}|ξ)を用いて予測状態ξが更新されることによれば、トラッキング精度の確保が可能となる。しかも反射源仮定、尤度取得及び状態更新のいずれについても、特定時刻kに関する処理となるため、そうしたトラッキング精度の確保と両立した計算負荷の低減が可能となる。
【0051】
本実施形態によると、クラッタによる反射源τと想定されるクラッタ反射源τの生起率p(τ|ξ)は、観測点zにおける反射波の反射強度が高いほど、低く設定される、これによれば、状態尤度p({z}|ξ)の取得においてクラッタ反射源τの反映度ともいえる生起率p(τ|ξ)が、反射強度に合わせて適正に設定され得るので、状態尤度p({z}|ξ)に基づく予測状態ξの更新によりトラッキング精度を高めることが可能となる。
【0052】
本実施形態によると、予測状態ξの外周縁上において最近接位置の反射源τと想定される最近接反射源τの生起率p(τ|ξ)は、観測点zにおける反射波の反射強度が高いほど、高く設定される。これによれば、状態尤度p({z}|ξ)の取得において最近接反射源τの反映度ともいえる生起率p(τ|ξ)が、反射強度に合わせて適正に設定され得るので、状態尤度p({z}|ξ)に基づく予測状態ξの更新により高いトラッキング精度の担保が可能となる。
【0053】
本実施形態によると、予測状態ξの外周縁のうちセンシングデバイス3側に想定される場合における最近接反射源τの生起率p(τ|ξ)は、当該外周縁のうちセンシングデバイス3とは反対側に想定される場合における最近接反射源τの生起率p(τ|ξ)よりも、高く設定される。これによれば、状態尤度p({z}|ξ)の取得において最近接反射源τの反映度ともいえる生起率p(τ|ξ)が、物標2における最近接反射源τとセンシングデバイス3との位置関係にも応じて設定され得るので、状態尤度p({z}|ξ)に基づく予測状態ξの更新により高いトラッキング精度の担保が可能となる。
【0054】
本実施形態によると、予測状態ξの外周縁上において最近接反射源τの最近接位置とは対称位置に想定される対称反射源τが、複数反射源τの一つとして仮定されることとなる。これよれば、複数反射源τを考慮した状態尤度p({z}|ξ)に基づき更新される予測状態ξが、誤って最近接位置に張り付く事態を抑制できる。しかも本実施形態によると、観測点zにおける反射波の反射強度が高いほど、対称反射源τの生起率p(τ|ξ)が高く設定される。これによれば、状態尤度p({z}|ξ)の取得において対称反射源τの反映度ともいえる生起率p(τ|ξ)が、反射強度に合わせて適正に設定され得るので、最近接位置への張り付き抑制とも相俟って、状態尤度p({z}|ξ)に基づく予測状態ξの更新によりトラッキング精度を高めることが可能となる。
【0055】
本実施形態によると、予測状態ξの外周縁のうちセンシングデバイス3側に想定される場合における対称反射源τの生起率p(τ|ξ)は、当該外周縁のうちセンシングデバイス3とは反対側に想定される場合における対称反射源τの生起率p(τ|ξ)よりも、高く設定される。これによれば、状態尤度p({z}|ξ)の取得において対称反射源τの反映度ともいえる生起率p(τ|ξ)が、物標2における対称反射源τとセンシングデバイス3との位置関係にも応じて設定され得るので、状態尤度p({z}|ξ)に基づく予測状態ξの更新により高いトラッキング精度の担保が可能となる。
【0056】
本実施形態によると、観測点zが予測状態ξの外周縁内において存在する場合には、当該外周縁内に想定される内部反射源τが、複数反射源τの一つとして仮定される。これよれば、複数反射源τを考慮した状態尤度p({z}|ξ)に基づく予測状態ξの更新は、物標2内部の反射までを仮定に入れた精緻な更新となり得る。故に、トラッキング精度を高めることが可能となる。
【0057】
本実施形態によると、特定時刻kに対する過去時刻k-1において更新された予測状態ξに基づくガウス混合モデルにより、特定時刻kの予測状態ξに関する事前分布p(ξ)が取得されるので、当該取得処理での計算負荷の低減を可能にする。さらに本実施形態によると、状態尤度p({z}|ξ)と事前分布p(ξ)とを含んでガウス混合モデルにより表される、特定時刻kの予測状態ξに関する事後分布p(ξ|{z})が拡張カルマンフィルタにより更新されるので、当該更新処理での計算負荷の低減も可能となる。
【0058】
本実施形態によると、事後分布p(ξ|{z})のガウス混合モデルを構成する仮定尤度p(z|ξ,τ)の分布数は、反射源τの仮定数J以下にマージされるので、状態尤度p({z}|ξ)の取得処理及び状態尤度p({z}|ξ)に基づく予測状態ξの更新処理において、計算負荷の低減が可能となる。
【0059】
本実施形態においてセンシングデバイス3は、反射波をミリ波とするレーダである。故に本実施形態は、そうしたミリ波レーダを搭載した、例えば自動運転車両4又は高度運転支援車両4等での周囲観測に特に有効となる。
【0060】
(他の実施形態)
以上、一実施形態について説明したが、本開示は、当該実施形態に限定して解釈されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態に適用することができる。
【0061】
変形例によるトラッキング装置は、デジタル回路及びアナログ回路のうち少なくとも一方をプロセッサとして含んで構成される、専用のコンピュータであってもよい。ここで特にデジタル回路とは、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、SOC(System on a Chip)、PGA(Programmable Gate Array)、及びCPLD(Complex Programmable Logic Device)等のうち、少なくとも一種類である。またこうしたデジタル回路は、プログラムを格納したメモリを、備えていてもよい。
【0062】
変形例によるトラッキング装置、トラッキング方法、及びトラッキングプログラムは、車両以外へ適用されてもよい。この場合、特に車両以外へ適用されるトラッキング装置は、センシングデバイス3と同一対象に搭載又は設置されていなくてもよい。変形例では、尤度ブロック120によるS120と更新ブロック130によるS130とが、同一ブロックでの同一ステップにより実行されてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 トラッキング装置、2 物標、10 メモリ、12 プロセッサ、100 予測ブロック、110 仮定ブロック、120 尤度ブロック、130 更新ブロック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8