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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】回転機
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/22 20060101AFI20240730BHJP
   H02K 3/38 20060101ALI20240730BHJP
   H02K 3/04 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
H02K5/22
H02K3/38 A
H02K3/04 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021050736
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148885
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】倉澤 拓也
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-114958(JP,U)
【文献】実開昭60-028460(JP,U)
【文献】特開2017-221083(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/22
H02K 3/38
H02K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能なロータと、前記ロータを内包するステータと、口出し線とを備え、
前記ステータが、ステータコアと、前記ステータコアに巻き付けられるコイルとを備え、
前記口出し線が、前記コイルに導通する、回転機であって、
前記口出し線の横断面の外縁形状が楕円形であり、
少なくとも前記口出し線を覆う筐体の内部における、前記筐体と前記口出し線とが最接近する領域にて、前記口出し線が前記楕円形の長径方向を、前記筐体と前記口出し線とを最短距離で結ぶ仮想線分と直交する方向に沿わせる姿勢で配置される、
ことを特徴とする回転機。
【請求項2】
前記仮想線分の長さである空間距離が、前記口出し線の前記楕円形と同じ面積の真円における半径よりも大きい、
ことを特徴とする請求項1に記載の回転機。
【請求項3】
前記口出し線の前記長径方向の長さである幅が、前記半径の1.2倍よりも大きく、且つ前記半径の1.5倍よりも小さい、
ことを特徴とする請求項2に記載の回転機。
【請求項4】
前記空間距離が、前記半径よりも大きく、且つ前記半径の1.3倍よりも小さい、
ことを特徴とする請求項3に記載の回転機。
【請求項5】
前記口出し線が、線長さ方向に延びる複数の丸型導体と、それら丸型導体を被覆する絶縁性の被覆材とを備える、
ことを特徴とする請求項4に記載の回転機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ、発電機(ダイナモ)等の回転機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転可能なロータと、ロータを内包するステータと、ステータのコイルに導通する口出し線とを備える回転機が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の回転機としてのモータユニットは、回転可能なロータと、ロータを内包するステータと、口出し線としての引出線とを備える。ステータは、ステータコアと、ステータコアに巻き付けられるコイルとを備える。口出し線の長さ方向の一端側はステータのコイルに電気接続され、口出し線の他端側には端子が装着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-37063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このモータユニットのように、口出し線を備える回転機においては、運転時にサージ電圧等の一過性の過電圧が発生したとしても、口出し線と、モータハウジング等の筐体との間にコロナ放電を引き起こさないように設計することが望ましい。コロナ放電が発生すると、口出し線の絶縁性被覆の絶縁破壊など、回転機の故障の原因となる現象を発生させてしまうからである。一過性の過電圧によるコロナ放電の発生を有効に抑えるためには、口出し線と、筐体の内面との距離を十分に大きくする必要があるが、回転機の小型化が進められる近年においては、十分な距離をとることが難しくなってきている。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、口出し線と筐体の内面との距離を拡大することなく、口出し線と筐体との間におけるコロナ放電の発生を抑えることができる回転機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、回転可能なロータと、前記ロータを内包するステータと、口出し線とを備え、前記ステータが、ステータコアと、前記ステータコアに巻き付けられるコイルとを備え、前記口出し線が、前記コイルに導通する、回転機であって、前記口出し線の横断面の外縁形状が楕円形であり、少なくとも前記口出し線を覆う筐体の内部における、前記筐体と前記口出し線とが最接近する領域にて、前記口出し線が前記楕円形の長径方向を、前記筐体と前記口出し線とを最短距離で結ぶ仮想線分と直交する方向に沿わせる姿勢で配置される、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、口出し線と筐体の内面との距離を拡大することなく、口出し線と筐体との間におけるコロナ放電の発生を抑えることができるという優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係るモータを示す分解斜視図である。
図2】同モータのステータを示す斜視図である。
図3】同モータのリアカバー、U相用の口出し線、及びステータを部分的に示す模式図である。
図4】同リアカバー及び同口出し線を示す断面図である。
図5】第1比較例に係るモータのリアカバー及びU相用の口出し線を示す断面図である。
図6】本発明者が行った実験によって得られた結果に基づく、電界強度の最大値の比率と、幅W/半径rの関係とを示すグラフである。
図7】実施例に係るモータのリアカバー及び口出し線を示す断面図である。
図8】第2比較例に係るモータのリアカバー及び口出し線を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、各図を用いて、本発明を適用した回転機としてのモータの一実施形態について説明する。
実施形態では説明を分かり易くするため、本発明の主要部以外の構造や要素については、簡略化または省略して説明する。また、各図において、同じ要素には同じ符号を付す。なお、各図に示す各要素の形状、寸法などは模式的に示したもので、実際の形状、寸法などを示すものではない。
【0011】
図1は、実施形態に係るモータ1を示す分解斜視図である。モータ1は、インナーロータ型モータであり、円筒状のハウジング52、フロントカバー53、リアカバー54、シャフト55、ロータ(回転子)2、及びステータ(固定子)3を備える。ロータ2は、埋込磁石形回転子である。モータ1、車両用モータなどといった高出力密度を要求される埋込磁石型同期型モーター(IPMSM:interior permanent magnet synchronous motor)である。
【0012】
軸状のシャフト55は、円柱状のロータ2をロータ2の回転軸線Aに沿って貫通し、回転軸線A上に位置する。シャフト55は、ロータ2とともに回転軸線Aを中心にして回転駆動する。円筒状のハウジング52は、ヨークの役割を果たし、内周面で円筒状のステータ3を保持する。ハウジング52は、回転軸線A方向の両端に開口を有する。ロータ2は、ハウジング52の内周面に保持されているステータ3の中空内に収容される。有底円筒状のフロントカバー53は、底部を軸方向(回転軸線Aと平行な方向)のフロント側に向けた状態で、ハウジング52のフロント側に接続される。この接続により、フロントカバー53は、底部に設けられたシャフト穴53cにシャフト55のフロント側を貫通させ、且つハウジング52のフロント側の開口を塞ぐ。
【0013】
リアカバー54は、ハウジング52のリア側の開口を塞ぐように、ハウジング52のリア側端部に固定される。
【0014】
ロータ2の外周側には、エアギャップを隔ててステータ3が配置される。即ち、中空構造のステータ3は、その中空にロータ2を内包する。モータ1は、コイルの電流制御によってステータ3の磁界を順番に切り替えることで、ロータ2の磁界との吸引力または反発力を生じせしめて、回転軸線Aを中心としてロータ2を回転駆動させる。
【0015】
ロータ2は、ロータコア2aと、磁石たる複数の永久磁石2bとを有する。ロータ2のロータコア2aは、例えば、打ち抜き加工された珪素鋼板を軸方向に積層して形成される円筒状の部材である。ロータコア2aを構成する個々の珪素鋼板の間には絶縁性接着剤が介在しており、個々の珪素鋼板は互いに絶縁状態にある。そして、ロータコア2aの軸心部に形成される中空には、回転軸線Aに沿ってシャフト(図1の55)が嵌入される。モータ1において、シャフト55は不図示の軸受によって回転自在に支持される。
【0016】
図2は、ステータ3を示す斜視図である。ステータ3は、ステータコア3aを備える。円筒状のステータ3の内周側には、それぞれ回転軸線(図1のA)を中心とする径方向(以下、単に径方向と言う)の内側に向けて突出するティース3cが回転軸線を中心とする周方向(以下、単に周方向と言う)に等間隔をおいて複数並んで設けられている。互いに隣り合うティース3cの間の空間は、それぞれスロットを形成する。スロットには、コイル3bが巻き付けられる。
【0017】
複数のコイル3bのうち、三相交流電源のU相電源が供給されるU相用のコイル3bは、U相用の渡り線によって互いに電気接続される。また、V相電源が供給される複数のV相用のコイル3bは、V相用の渡り線によって互いに電気接続される。また、W相電源が供給される複数のW相用のコイル3bは、W相用の渡り線によって互いに電気接続される。
【0018】
モータ1は、U相用の口出し線10U、V相用の口出し線10V、及びW相用の口出し線10Wを備える。U相用の口出し線10Uの長さ方向の一端側には、U相用の渡り線が電気接続される。また、U相用の口出し線10Uの長さ方向の他端側には、U相用の端子20Uがカシメ加工によって装着される。V相用の口出し線10Vの長さ方向の一端側には、V相用の渡り線が電気接続される。また、V相用の口出し線10Vの長さ方向の他端側には、V相用の端子20Vがカシメ加工によって装着される。W相用の口出し線10Wの長さ方向の一端側には、W相用の渡り線が電気接続される。また、W相用の口出し線10Wの長さ方向の他端側には、W相用の端子20Wがカシメ加工によって装着される。
【0019】
図3は、モータ1のリアカバー54、U相用の口出し線10U、及びステータ3を部分的に示す模式図である。モータ1では、筐体を構成するフロントカバー(図1の53)、ハウジング(図1の52)、及びリアカバー54のうち、筐体内においてリアカバー54がU相用の口出し線10Uに対して最も近づく。
【0020】
同図において、Aという符号が付された領域は、筐体内において、筐体の一部たるリアカバー54と、U相用の口出し線10Uとが最接近する領域を示す。また、Lという符号が付された仮想線分は、リアカバー54とU相用の口出し線10Uとを仮想的に最短距離で結ぶ線分である。領域Aにおけるリアカバー54とU相用の口出し線10Uとの空間距離dは、仮想線分Lの長さと等しい。
【0021】
図4は、リアカバー54及びU相用の口出し線10Uを示す断面図である。U相用の口出し線10Uは、銅などの導電性材料からなる導体11Uと、導体11Uを被覆する絶縁性材料からなる被覆材12Uとを備える。U相用の口出し線10Uの横断面の外縁形状は、図示のように楕円形である。同図において、aという符号は前述の楕円形の長半径であり、bという符号は楕円形の短半径である(a>b)。また、Lという符号が付された仮想線分は、楕円形の長半径上を長半径の延在方向に沿って延びる線分(以下、長径方向線分Lと言う)。
【0022】
図5は、本発明の構成を備えない第1比較例に係るモータのリアカバー154及びU相用の口出し線110Uを示す断面図である。U相用の口出し線110Uは、導体111Uと、これを被覆する被覆材112Uとを備える。第1比較例に係るモータにおいては、各相用の口出し線の構造及び配置態様だけが、実施形態に係るモータ1と異なる。以下、第1比較例に係るモータにおけるU相用の口出し線110Uを、第1比較例に係る口出し線110Uと言う。また、実施形態に係るモータ1におけるU相用の口出し線(図4の10U)を、実施形態に係る口出し線10Uと言う。なお、図5において、rは、第1比較例に係る口出し線110Uの半径である。
【0023】
図5に示されるように、第1比較例に係る口出し線110Uの横断面の外縁形状は、円形(真円形)である。また、第1比較例に係る口出し線110Uの横断面の面積は、実施形態に係る口出し線10Uの横断面の面積と同じである。第1比較例に係る口出し線110Uと、実施形態に係る口出し線10Uとは、互いに同じ面積であることから、許容電流が互いに同じである。一般的な口出し線は、第1比較例に係る口出し線110Uのように、横断面の外縁形状が円形である。
【0024】
第1比較例に係るモータと、実施形態に係るモータとにおいて、空間距離dは互いに同じである。よって、実施形態に係るモータ1は、第1比較例に係るモータと比較した場合に、リアカバー54と口出し線10Uとの距離を拡大することによるモータ1の大型化を引き起こしていない。
【0025】
文献「高電圧工学」(著者:日高邦彦、出版社:数理工学社 20099年1月10日初版発行)の44頁の図3.8(b)に記載されるように、空間距離dが半径rよりも小さい場合には、空間距離dを介して相対向する2つの球状電極の間に平等電界が形成される。平等電界においては、位置にかかわらず強度が一定となる。これに対し、不平等電界は、位置によって電界強度が異なる電界である。
【0026】
図4に示される実施形態に係るモータ1、及び図5に示される第1比較例に係るモータの何れにおいても、空間距離dを半径rよりも小さくすると、リアカバー(54、154)と、口出し線(10U、110U)との間に平等電界を形成することができる。しかしながら、かかる構成では、空間距離dが小さすぎることから、リアカバー(54、154)と、口出し線(10U、110U)との間でコロナ放電を容易に発生させてしまう。そこで、実施形態に係るモータ1、及び第1比較例に係るモータの何れにおいても、空間距離dを半径rよりも大きくしている。なお、上述のように、それら2つのモータにおいて、空間距離dは互いに同じである。
【0027】
実施形態に係るモータ1や、第1比較例に係るモータのように、空間距離dを半径rよりも大きくすると、リアカバー(54、154)と口出し線(10U、110U)との間に形成される電界が不平等電界になる。そして、サージ電圧等の一過性の過電圧が発生すると、口出し線(10U、110U)における周方向の全域のうち、リアカバー(54、154)に最も近づいている領域と、リアカバー(54、154)との間で、コロナ放電が発生し易くなる。
【0028】
一般に、相対向する電極間においては、電極のエッジ部分に電気力線が集中することから、エッジ部分でコロナ放電を引き起こし易くなる。一方、口出し線(10U、110U)は、横断面にエッジを有さないが、周方向における全域のうち、リアカバー(54、154)との距離を最も近づける領域の曲がり具合が急になるほど(曲率が大きくなるほど)、コロナ放電を引き起こし易くなる。
【0029】
図4に示されるように、実施形態に係るモータ1では、リアカバー54と口出し線10Uとが最接近する領域(図3のA)において、口出し線10Uが楕円形の長径方向(長径方向線分L)を、リアカバー54と口出し線10Uとを最短距離で結ぶ仮想線分Lと直交する方向に沿わせる姿勢で配置される。このような姿勢では、口出し線10Uの周方向における全域のうち、曲がり具合を最も緩くする領域(曲率が最も小さくなる領域)を、リアカバー54に最も近づける。前述の領域の曲率は、第1比較例に係る口出し線110Uの曲率よりも小さい。
【0030】
よって、実施形態に係るモータ1においては、第1比較例に係るモータに比べて、空間距離dを拡大することなく、口出し線10Uとリアカバー54との間におけるコロナ放電の発生を抑えることができる。
【0031】
なお、本発明において、「口出し線が楕円形の長径方向を筐体の内面と平行な方向に沿わせる姿勢」は、長径方向線分Lが仮想線分Lと直交する方向に延びる態様の他、次の態様を含む。即ち、長径方向線分Lが仮想線分Lと直交する方向から45〔°〕未満の傾斜角度で傾斜する態様である。
【0032】
本発明において、円周率をπ、円の半径をr、楕円の長半径をa、楕円の短半径をbでそれぞれ表すと、円の面積は、πrという式で求められる。また、楕円の面積は、πabという式で求められる。実施形態に係る口出し線10Uの横断面と等しい横断面(真円状の断面)の円の半径r(第1比較例に係る口出し線110Uの半径r)は、πab=πrという関係から、r=√a×√bという式で求められる。長半径a、短半径bのそれぞれの単位は、〔mm〕とする。また、長半径a、短半径bのそれぞれは、小数点以下第3位を四捨五入した小数点以下第2位までの数値とする。また、円の面積、楕円の面積のそれぞれは、小数点以下第3位を四捨五入した小数点以下第2位までの数値とする。また、円周率は、3.14とする。楕円の幅Wは、2×長半径aと同じ値である。
【0033】
楕円の幅Wを大きくしすぎると、楕円における長半径方向の両端部のそれぞれにおいて、線表面の曲がり具合を過剰に急カーブにしてしまう(曲率を過剰に大きくしてしまう)ことから、両端部においてコロナ放電を発生させ易くなってしまう。また、幅Wを小さくしすぎると、口出し線の横断面の外縁形状を楕円形状にすることによるコロナ放電の発生を抑える効果が十分に得られなくなってしまう。
【0034】
図6は、本発明者が行った実験によって得られた結果に基づく、電界強度の最大値の比率と、幅W/半径rの関係とを示すグラフである(幅W=2×長半径a)。電界強度の最大値の比率は、空間距離dを半径rと等しくし、且つ幅Wと半径rとを等しくした(円形にした)場合における電界強度を1とした場合における比率である。図示のように、空間距離dを、半径rよりも大きく且つ半径rの1.3倍よりも小さくするという条件1のもとでは、幅Wを、半径rの1.2倍よりも大きく、且つ半径の1.5倍よりも小さくするという条件2を具備することで、前述の比率を有効な範囲まで低くし得ることがわかる。つまり、条件1のもとで、条件2を満足することで、一過性の過電圧による口出し線10Uとリアカバー54との間のコロナ放電の発生を有効に抑えることができる。
【0035】
そこで、実施形態に係るモータ1においては、前述の条件1及び条件2を何れも満足させている。
【0036】
次に、実施形態に係るモータ1に、より特徴的な構成を付加した実施例について説明する。なお、以下に特筆しない限り、実施例に係るモータ1の構成は、実施形態と同様である。
【0037】
図7は、実施例に係るモータ1のリアカバー54及び口出し線10Uを示す断面図である。実施例に係るモータ1においては、口出し線10Uの被覆材12Uが複数の丸型導体13Uを内包する。図示の例では、被覆材12Uが10本の丸型導体13Uを内包する。丸型導体13Uは、図示のように、横断面の外縁の形状が円形となる導体である。かかる構成では、市販のエナメル線などの丸型導体13Uを複数用いることで、横断面の外縁形状が楕円形となる口出し線10Uを安価に製造することができる。
【0038】
被覆材12Uの内部において、互いに隣り合う丸型導体13Uと丸型導体13Uとの間には、絶縁材(以下、内部絶縁材と言う)が存在している。
【0039】
図8は、第2比較例に係るモータのリアカバー154及び口出し線110Uを示す断面図である。第2比較例に係るモータにおいて、口出し線110Uの断面積は、実施例に係るモータ1における口出し線10Uの断面積と同じである、空間距離dも、実施例と第2比較例とで互いに同じである。また、第2比較例においても、被覆材112Uが、10本の丸型導体113Uを内包し、丸型導体の径は、実施例と第2比較例とで互いに同じである。
【0040】
図7に示される実施例と、図8に示される第2比較例とを比較すると、10本の丸型導体(13U、113U)のうち、リアカバー154に最も近づいた位置にある丸型導体の曲率は、実施例と第2比較例とで互いに同じである。しかしながら、曲率が同じであっても、同じ電位の丸型導体が集まった場合、丸型導体の集合体の全体的な形状が楕円であれば、円形である場合に比べて電界の強度を低減することが可能である。このため、実施例に係るモータ1では、第2比較例に係るモータに比べて、空間距離dを拡大することなく、口出し線10Uとリアカバー54との間におけるコロナ放電の発生を抑えることができる。
【0041】
なお、図6に示される実験結果を得た実験においては、実施例と同様の構成の口出し線10Uを用いている。
【0042】
実施形態、実施例のそれぞれにおいて、U相用の口出し線10Uについて詳しく説明したが、V相用の口出し線10V、及びW相用の口出し線10Wのそれぞれの構成は、U相用の口出し線10Uの構成と同様である。
【0043】
回転機としてのモータ(100)に本発明を適用した例について説明したが、回転機としての発電機(ダイナモ)に本発明を適用してもよい。
【0044】
本発明は上述の実施形態及び実施例に限られず、本発明の構成を適用し得る範囲内で、実施形態とは異なる構成を採用することもできる。本発明は、以下に説明する態様毎に特有の作用効果を奏する。
【0045】
〔第1態様〕
第1態様は、回転可能なロータ(例えばロータ2と、前記ロータを内包するステータ(例えばステータ3)と、口出し線(例えば口出し線10U,10V,10W)とを備え、前記ステータが、ステータコア(例えばステータコア3a)と、前記ステータコアに巻き付けられるコイル(例えばコイル3b)とを備え、前記口出し線が、前記コイルに導通する、回転機(例えばモータ1)であって、前記口出し線の横断面の外縁形状が楕円形であり、少なくとも前記口出し線を覆う筐体(例えばリアカバー54)の内部における、前記筐体と前記口出し線とが最接近する領域(例えば領域A)にて、前記口出し線が前記楕円形の長径方向を、前記筐体と前記口出し線とを最短距離で結ぶ仮想線分(例えば仮想線分L)と直交する方向に沿わせる姿勢で配置される、ことを特徴とするものである。
【0046】
かかる構成の第1態様によれば、筐体と口出し線との距離を拡大することなく、口出し線と筐体との間におけるコロナ放電の発生を抑えることができる。
【0047】
〔第2態様〕
第2態様は、第1態様の構成を備え、且つ、前記仮想線分の長さである空間距離(例えば空間距離d)が、前記口出し線の前記楕円形と同じ面積の真円における半径(例えば半径r)よりも大きい、ことを特徴とする回転機である。
【0048】
かかる構成の第2態様によれば、空間距離が半径以下である場合に生じ易い定常電圧時における口出し線と筐体との間のコロナ放電の発生を抑えることができる。
【0049】
第3態様は、第2態様の構成を備え、前記口出し線の前記長径方向の長さである幅(例えば幅W)が、前記半径の1.2倍よりも大きく、且つ前記半径の1.5倍よりも小さい、ことを特徴とする回転機である。
【0050】
かかる構成の第3態様によれば、一過性の過電圧による口出し線と筐体との間のコロナ放電の発生を有効に抑えることができる。
【0051】
第4態様は、第3態様の構成を備え、且つ、前記空間距離が、前記半径よりも大きく、且つ前記半径の1.3倍よりも小さい、ことを特徴とする回転機である。
【0052】
かかる構成の第4態様によれば、一過性の過電圧による口出し線と筐体との間のコロナ放電の発生を有効に抑えるという効果を確実に得ることができる。
【0053】
〔第5態様〕
第5態様は、第4態様の構成を備え、且つ、前記口出し線が、線長さ方向に延びる複数の丸型導体(例えば丸型導体13U)と、それら丸型導体を被覆する絶縁性の被覆材(例えば被覆材12U)とを備える、ことを特徴とする回転機である。
【0054】
かかる構成の第5態様によれば、市販のエナメル線などの丸型導体を複数用いることで、横断面の外縁形状が楕円形となる口出し線を安価に製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、モータ、ダイナモなどの回転機に適用が可能である。
【符号の説明】
【0056】
2・・・ロータ、 2a・・・ロータコア、 2b・・・永久磁石、 10U・・・U相用の口出し線、 10V・・・V相用の口出し線、 10W・・・W相用の口出し線、 11U,11V,11W・・・被覆材、 12U,12V,12W・・・導体、 13U,13V,13W・・・丸型導体、 a・・・長半径、 b・・・短半径、 r・・・半径、 W・・・幅、 L・・・仮想線分、 d・・・空間距離、 54・・・リアカバー(筐体)

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8