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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】車載システム、車両用ブレーキシステム
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/02 20120101AFI20240730BHJP
   B60W 40/06 20120101ALI20240730BHJP
   B60T 8/00 20060101ALI20240730BHJP
   B60T 8/175 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B60W30/02 300
B60W40/06
B60T8/00 Z
B60T8/175
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021064067
(22)【出願日】2021-04-05
(65)【公開番号】P2022159708
(43)【公開日】2022-10-18
【審査請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000969
【氏名又は名称】弁理士法人中部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正剛
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-334568(JP,A)
【文献】特開平8-26089(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60T 7/12- 8/1769
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪に設けられ、前記車輪の回転を抑制するブレーキと、
前記ブレーキのブレーキ力を制御するブレーキ力制御装置と
を含む車両用ブレーキシステムであって、
前記ブレーキ力制御装置が、前記車両が走行する路面の状態である路面状態を取得する路面状態取得部を含み、前記路面状態取得部によって前記路面状態が複数の状態に取得された場合に、前記複数の状態の各々に基づくブレーキ力の制御の各々とは異なる態様で前記ブレーキ力を制御するものであり、
前記路面状態取得部が、前記路面状態が、第1状態であるか第2状態であるかを取得するものであり、
前記ブレーキ力制御装置が、前記路面状態取得部によって取得された前記路面状態が前記第1状態である場合に、前記路面状態取得部によって取得された前記路面状態が前記第2状態である場合より、前記ブレーキ力を強くする制御を行い、前記路面状態取得部によって取得された前記路面状態が前記第1状態であり、かつ、前記第2状態である場合に、前記ブレーキ力を、前記第1状態である場合のブレーキ力の強さと前記第2状態である場合のブレーキ力の強さとの中間の強さに制御するものである車両用ブレーキシステム。
【請求項2】
前記第1状態が岩場であり、
前記第2状態が砂地または泥濘地である請求項1に記載の車両用ブレーキシステム。
【請求項3】
前記ブレーキ力制御装置が、前記路面状態取得部によって取得された前記路面状態に基づいて制御モードを決定する制御モード決定部を含み、前記制御モード決定部によって決定された前記制御モードに基づいて前記ブレーキ力を制御するものであり、
前記制御モード決定部が、前記路面状態取得部によって取得された前記路面状態が前記第1状態であり、かつ、前記第2状態である場合に、前記第1状態に対応する制御モードである第1制御モードと前記第2状態に対応する制御モードである第2制御モードとは異なる制御モードである第3制御モードに決定するものであり、
前記第3制御モードにおいて制御されるブレーキ力が、前記第1制御モードにおいて制御されるブレーキ力の大きさと前記第2制御モードにおいて制御されるブレーキ力の大きさとの中間の大きさとされる請求項1または2に記載の車両用ブレーキシステム。
【請求項4】
前記ブレーキ力制御装置が、前記路面状態取得部によって取得された前記路面状態に基づいて制御用路面状態を決定する制御用路面状態決定部を含み、前記制御用路面状態決定部によって決定された前記制御用路面状態に基づいて前記ブレーキ力を制御するものであり、
前記制御用路面状態決定部が、前記路面状態取得部によって取得された前記路面状態が前記第1状態であり、かつ、前記第2状態である場合に、前記路面状態を、前記第1状態と前記第2状態との中間の路面状態である第3状態であると決定するものである請求項1ないし3のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【請求項5】
前記ブレーキ力制御装置が、前記ブレーキ力を制御することにより、前記車両の駆動時の前記車輪のスリップを抑制するトラクション制御部を含む請求項1ないし4のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された車載装置を路面の状態に基づいて制御する車載システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、路面状態に基づいてエンジン、ブレーキ機構、サスペンション等を制御する車載システムが記載されている。この車載システムにおいては、エンジン等の制御モードが、路面状態に基づいて草/砂利/雪・制御モード、泥/わだち・制御モード、岩/巨礫・制御モード等のうちの1つに決定される。制御モードは、路面状態を表す複数のパラメータに基づいて決まる確度が高いモードに決定されるのである。
具体的には、特許文献1の段落[0058]-[0070]に記載のように、車速が小さい場合は路面状態が岩場である確度が高いため、岩/巨礫・モードの確度が、車速が小さい場合に0.7とされ、車速が大きい場合に0.2とされる。このように、各制御モードの各々において、複数のパラメータの各々についての確度が決定され、それら確度に基づいて複合的確度値が取得され、最も高い複合的確度値の制御モードが、その時点において路面状態に基づく最適の制御モードとして決定されるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許6034378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、車載システムにおいて、車両の発進性の著しい低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る車載システムにおいて、路面状態取得部によって路面状態が複数取得された場合には、取得された複数の路面状態の各々に基づく制御とは異なる制御が行われる。路面状態取得部によって路面の状態が正確に認識されていない可能性が高いからである。例えば、路面状態が複数取得され、複数の路面状態のうちの1つの路面状態に基づく制御が行われた場合において、実際の路面状態が、複数の路面状態のうちの1つの路面状態より別の路面状態に近い状態である場合には、車両の発進性が著しく低下する場合がある。それに対して、複数の路面状態のいずれとも異なる、例えば、複数の路面状態の中間の路面状態に基づく制御、または、複数の路面状態の各々に基づく制御の中間の制御が行われるようにした場合には、路面状態が複数のいずれの状態に近い状態であっても、車両の発進性の著しい低下を抑制することができる。
【0006】
なお、走破性は、例えば、運転者の意図の通りに走行可能な機能、走行中のスタックを抑制可能な機能であり、発進性は、例えば、良好に発進し得る機能、駆動時のスタックを抑制し得る機能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】車載システムの構造を概念的に示す平面図である。
図2】上記車載システムが搭載された車両が走行する状態を示す図である。(2A)車両が岩場を走行する状態を示す図であり、(2B)車両が砂地を走行する状態を示す図であり、(2C)車両が泥濘地を走行する状態を示す図である。
図3】上記車載システムのブレーキECUに記憶されたブレーキ力制御プログラムを表すフローチャートである。
図4】上記プログラムの一部(S1)を表すフローチャートである。
図5】上記プログラムの一部(S2)を表すフローチャートである。
【発明の実施形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態である車載システムの一例を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0009】
図1には車両Vhに搭載された車載システムの一例を示す。車両Vhは4輪駆動車であり、左右前輪12FL,12FRおよび左右後輪14RL,14RRが駆動輪とされる。車載システムには、駆動・伝達装置8、ブレーキ機構10等が含まれる。駆動・伝達装置8は、エンジンと電動モータとの少なくとも一方を含む駆動装置、変速機、トランスファ等を含むものである。駆動・伝達装置8の出力は、差動装置20、ドライブシャフト22FL,22FRを介して左右前輪12FL,12FRに伝達されるとともに、プロペラシャフト24、差動装置26、ドライブシャフト28RL,28RRを介して左右後輪14RL,14RRに伝達される。
【0010】
差動装置20は,駆動・伝達装置8の出力トルクを、左右駆動輪12FL,12FRに、これらの回転速度差を許容しつつ振り分けるものであり、左右駆動輪12FL,12FRの一方の回転がロックされると、他方の駆動輪に加えられる駆動・伝達装置8の出力トルクが大きくなる。差動装置26も同様であり、プロペラシャフト24の回転トルクを、左右駆動輪14RL,14RRに、これらの回転速度差を許容しつつ振り分けるものである。
【0011】
ブレーキ機構10は、左右前輪12FL,12FRおよび左右後輪14RL,14RRの各々に設けられ、車輪の回転を抑制するブレーキである摩擦ブレーキ32FL,32FR,34RL,34RR、マスタシリンダ38、ブレーキアクチュエータ36等を含む。摩擦ブレーキ32FL,32FR,34RL,34RRは、液圧または電磁力等により、車輪とともに回転可能なブレーキ回転体に摩擦係合部材を押し付けることにより、車輪の回転を抑制するものである。本実施例において、摩擦ブレーキ32FL,32FR,34RL,34RRは、液圧により作動可能なものである。
【0012】
マスタシリンダ38は、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル40の操作に起因して液圧を発生させるものである。また、ブレーキペダル40が操作された状態にあるか否かはブレーキスイッチ42により検出される。
【0013】
ブレーキアクチュエータ36は、マスタシリンダ38と摩擦ブレーキ32,34との間に設けられる。ブレーキアクチュエータ36は、ポンプ装置等の動力式液圧源と、複数の電磁弁とを含むものであり、ポンプ装置の作動により、ブレーキペダル40が操作されていない場合であっても、液圧を発生させ得るものである。また、複数の電磁弁の制御により、摩擦ブレーキ32FL,32FR,34RL,34RRの各々における押付力である液圧をマスタシリンダ38の液圧またはポンプ装置において発生させられた液圧に基づいてそれぞれ個別に制御する。
【0014】
以下、摩擦ブレーキ等について、車輪位置で区別する必要がない場合、総称する場合等には、車輪位置を表す符号FL,FR,RL,RRを省略して記載する。
【0015】
本車載システムには、コンピュータを主体とする制御装置50が含まれる。制御装置50には、ブレーキスイッチ42、車輪速度センサ52FL,52FR,52RL,52RR、加速度センサ(以下、Gセンサと略称する場合がある。図面においても、Gセンサと記載)54、アクセル開度センサ56、オフロードスイッチ58、駆動・伝達状態取得装置60等が接続されるとともに、ブレーキアクチュエータ36等が接続される。
【0016】
車輪速度センサ52は、各車輪12,14の各々に設けられ、それぞれ、車輪12,14の回転速度を個別に検出するものである。制御装置50において、車輪速度センサ52の検出値に基づいて、各車輪12,14の回転加速度、車両Vhの走行速度が取得される。
Gセンサ54は、例えば、ジャイロセンサとすることができ、車両Vhの前後方向の加速度(前後Gと略称する場合がある)および横方向の加速度(横Gと略称する場合がある)を検出する。
アクセル開度センサ56は、図示しないアクセルペダルの操作状態を検出するものである。アクセルペダルの踏込み量が大きい場合は小さい場合より、アクセル開度は大きくなる。
【0017】
オフロードスイッチ58は、運転者によって操作可能なものであり、ON状態において、オフロードを走行中において、路面状態に基づくブレーキ力の制御が許可される。
駆動・伝達状態取得装置60は、駆動・伝達装置8の作動状態を検出するものであり、例えば、エンジンの回転数を検出したり、変速機のシフト位置を検出したりする。制御装置50において、エンジンの回転数や変速機のシフト位置等に基づいて、車両Vhに加えられる駆動力を取得し、前後Gを推定する。制御装置50において推定された前後Gを推定前後Gと称する。
【0018】
以上のように構成された車載システムにおいて、車両Vhがオフロードを走行中に、オフロードスイッチ58がON状態にある場合には、路面状態に基づくブレーキ力の制御が行われる。
制御装置50において、車両Vhの走行状態に基づいて、車両Vhが走行する場所の路面状態が取得される。車両Vhの走行状態は、車輪速度センサ52の検出値、Gセンサ54の検出値、駆動・伝達装置8の作動状態等で表すことができる。そして、取得された路面状態に基づいてブレーキアクチュエータ36等が制御される。以下、オフロードにおいては、道路でない場所を走行する場合があるが、道路でない場所の地面も便宜的に路面と称する。
【0019】
制御装置50において、例えば、図2に示すように、車両Vhが走行する場所の路面状態が、岩場(図面においてRockと記載した)であるか否か、泥濘地(図面においてMudと記載した)であるか否か、砂地(図面においてSandと記載した)であるか否かが判定される。
【0020】
図2Aに示すように、岩場(Rock)とは、例えば、岩、大きな石が存在する場所である。岩場において、車両Vhは大きな走行速度で走行することは困難であり、かつ、車体が傾き易く、横Gが大きくなり易い。そのため、車両Vhの走行速度が設定速度より小さく、かつ、横Gが設定横Gより大きい場合に、路面状態が岩場であると判定される。なお、岩場を走行する場合には、ブレーキペダル40の操作が行われることが多いため、ブレーキスイッチ42がON状態であることを路面状態が岩場であると判定されるための条件に加えることもできる。
【0021】
図2Bに示すように、砂地(Sand)とは、砂利が多い場所である。砂利には、砂や小石が多く含まれる。砂地において、車両Vhはスリップし易く、実際の前後加速度である実前後Gが推定前後Gに対して小さくなり易い。そのため、駆動・伝達状態検出装置60によって検出された駆動・伝達装置8の作動状態等に基づいて推定された車両Vhの前後Gである推定前後GからGセンサ54によって検出された車両Vhの実際の前後方向の加速度である実前後Gを引いた値が設定値以上である場合には、砂地であると判定される。
【0022】
図2Cが示すように、泥濘地(Mud)とは、ぬかるみである。泥濘地において、ぬかるみの程度が均一でないのが普通であるため、車両Vhの車輪12,14の回転加速度の変化の振幅が大きくなり易い。そのため、車輪加速度の変化の振幅が設定値以上である場合には、路面状態が泥濘地であると判定される。
【0023】
なお、砂地に含まれる小石と岩場に含まれる岩や石とを比較すると、岩場に含まれる岩や石の方が大きい。岩場に含まれる岩や石は、車体の傾きが、横Gが設定値以上となる程度の大きさである。
【0024】
一方、例えば、車両Vhが岩場を走行している場合において、車輪12,14が岩に接している場合と、岩から離れている場合とで、車輪の回転加速度が大きく変化する場合があり、路面状態が泥濘地であると判定される場合がある。また、泥濘地が傾斜している場合に、車両Vhの走行速度が小さく、横Gが設定横Gより大きくなる場合があり、路面状態が岩場であると判定される場合がある。これらの場合には、路面状態は、岩場であり、かつ、泥濘地であると判定される。同様に、路面状態が、岩場であり、かつ、砂地であると判定される場合もある。
【0025】
また、車両Vhが泥濘地を走行している場合において、車両がスタックした場合には、推定前後Gに対して実前後Gが小さくなる場合があり、路面状態が砂地であると判定される場合がある。この場合には、路面状態は、泥濘地であり、かつ、砂地であると判定される場合がある。
【0026】
ブレーキ力の制御として、取得された路面状態に基づいてトラクション制御が行われる。運転者によって図示しないアクセルペダルが踏み込まれた(アクセル開度センサ54によって検出されたアクセル開度が設定開度より大きい)状態において、車輪12,14のうちの少なくとも1輪のスリップである駆動スリップが設定状態以上(例えば、駆動スリップ率が設定値以上)になった場合には、トラクション制御が行われる。トラクション制御においては、ブレーキペダル40が踏み込まれていなくても、ブレーキアクチュエータ36により、摩擦ブレーキ32,34が作動させられ、車輪12,14にブレーキ力が付与される。車輪12,14に加えられる駆動力(駆動トルク)が抑制され、駆動スリップが抑制される。
【0027】
トラクション制御において、路面状態が岩場である場合には、駆動スリップが大きい車輪に、大きなブレーキ力が加えられる。例えば、左右駆動輪のうちの一方(例えば、左後輪14RL)が岩面から離れ、空転している場合があるが、その場合に、その空転している車輪(左後輪14RL)の回転を強く抑制することにより、他方の車輪(右後輪14RR)に加えられる駆動トルクを大きくすることができる。それにより、岩場における車両Vhの走破性または発進性を向上させることができる。この制御モードをロックモードと称する。
【0028】
トラクション制御において、路面状態が泥濘地や砂地である場合には、駆動スリップが大きい車輪に加えられるブレーキ力は路面状態が岩場である場合におけるブレーキ力より小さい。泥濘地や砂地においては、車輪12,14の駆動スリップが大きくなり易いが、駆動スリップを抑制するより、車輪12,14に大きな駆動力を付与した方が、走破性または発進性を向上させ得るからである。この制御モードをマッドモードまたはサンドモードと称する。
【0029】
本実施例においては、路面状態が(岩場であり、かつ、泥濘地である)と判定された場合、または、(岩場であり、かつ、砂地である)と判定された場合、(岩場であり、かつ、泥濘地であり、かつ、砂地である)と判定された場合には、トラクション制御において、駆動スリップが大きい車輪の摩擦ブレーキに加えられるブレーキ力が、路面状態が岩場である場合に加えられるブレーキ力と泥濘地または砂地である場合に加えられるブレーキ力との中間の大きさに制御される。岩場であり、かつ、泥濘地と砂地との少なくとも一方であると判定された場合には、路面の状態が正確に取得されていないと考えられるからである。この制御モードをMTSoffモードと称する。
【0030】
MTS(Multi Terrain Select)とは、路面状態が、予め定められた(岩場、泥濘地、砂地)のうちの1つであるか否かが取得されること、または、(岩場、泥濘地、砂地)のうちの取得された1つに基づいて行われる車載装置の制御をいう。それに対して、本実施例においては、路面状態が(岩場であり、かつ、泥濘地である)と判定された場合、または、(岩場であり、かつ、砂地である)と判定された場合、(岩場であり、かつ、泥濘地であり、かつ、砂地である)と判定された場合には、路面状態がMTSoffの状態である、または、(岩場、泥濘地、砂地)のいずれかに基づく制御が適していないため、MTSがOFFにされたと考えることができる。
【0031】
なお、MTSoffモードに対応する制御は、MTSoffの路面状態、すなわち、岩場と泥濘地や砂地との中間の路面状態(または岩場、泥濘地や砂地とのいずれとも異なる状態であると称することができる)に基づいて行われる制御であると考えたり、ロックモードとマッドモードやサンドモードとの中間の制御モード(またはロックモードとマッドモードやサンドモードとのいずれとも異なる制御モード)に対応する制御であると考えたりこと等ができる。また、複数の路面状態が取得された場合には、その路面状態は、いわゆるMTS制御に適していない路面状態である、すなわち、MTSoff状態であると取得され、その取得されたMTSoffの路面状態に基づいて設定された制御モードがMTSоffモードであると考えることができる。
【0032】
一方、従来の車載システムにおいては、路面状態が岩場を含む複数の状態(例えば、岩場であり、かつ、泥濘地と砂地との少なくとも一方)であると取得された場合には、安全性の観点から大きなブレーキ力が付与されるロックモードが設定されるようにされていた。しかし、路面状態が岩場でない場合には、かえって、車両Vhの走破性、発進性が悪くなるという問題があった。それに対して、本実施例においては、路面状態が岩場を含む複数の状態であると取得された場合には、ロックモードと、マッドモードやサンドモードとの中間の制御モードであるMTSoffモードが設定される。それにより、路面状態が岩場でなくても、車両Vhの走破性や発進性の著しい低下を抑制することができる。
【0033】
なお、トラクション制御において、アクセル開度センサ56によって検出されたアクセル開度が設定開度以上であり、かつ、車両の走行速度が設定速度以下である場合には、ブレーキ力の制御が路面状態に適していないと推測される。そのため、その場合には、ロックモード、マッドモード、サンドモードのいずれが設定されていても、MTSoffモードに切り換えられる。
【0034】
本実施例においては、図3のフローチャートで表されるブレーキ力制御プログラムが、予め定められた設定時間毎に実行される。
ステップ1(以下、S1と略称する。他のステップについても同様とする)において、路面状態が取得され、S2において、取得された路面状態に基づいてブレーキ力の制御としてのトラクション制御が行われる。
【0035】
S1の路面状態の取得は、図4のフローチャートに従って行われる。
S11において、Gセンサ52により前後G,横Gが取得され、車輪速度センサ56により各車輪12,14の車輪速度が取得され、駆動・伝達状態取得装置60によって駆動・伝達装置8の作動状態等が取得される。S12において、駆動・伝達装置8の作動状態に基づいて推定前後Gが取得され、各車輪12,14の車輪速度に基づいて走行速度VSが取得されるとともに、各車輪12,14の各々の回転加速度VWGが取得される。S13において、走行速度VSが設定速度VSthより小さく、かつ、横Gが設定横Gより大きいか否かが判定される。S13の判定がYESである場合には、S14において、路面状態が岩場であると判定される。次に、S15において、推定前後Gから実前後Gを引いた値の絶対値が設定値Gthより大きいか否かが判定される。S15における判定がYESである場合には、S16において、路面状態が砂地であると判定される。次に、S17において、4輪のうちの少なくとも1輪の車輪の回転加速度の振幅が設定値より大きいか否かが判定され、判定がYESである場合には、S18において、路面状態が泥濘地であると判定される。
【0036】
このように、本実施例においては、S13,15,17の各々の条件が成立する場合に、それぞれ、路面状態が、岩場、砂地、泥濘地のいずれかに取得されるため、路面状態が、岩場、砂地、泥濘地のうちの2つ以上が重複して取得される場合があるのである。
【0037】
S2のブレーキ力の制御は、図4のフローチャートに従って決定される。
S21において、取得された路面状態が、岩場を含む複数状態(岩場&泥濘地と砂地との少なくとも一方)であるか否か、換言すると、(岩場&泥濘地)または(岩場&砂地)または(岩場&泥濘地&砂地)であるか否かが判定され、S22において、岩場であるか否かが判定され、S23において、泥濘地であるか、または、(泥濘地&砂地)であるか否かが判定され、S24において、砂地であるか否かがそれぞれ判定される。
【0038】
取得された路面状態が岩場である場合には、S22の判定がYESとなり、S25において、制御用路面状態が岩場であると取得され、制御モードがロックモードに決定される。
【0039】
取得された路面状態が泥濘地又は(泥濘地&砂地)である場合にはS23の判定がYESとなり、S26において、制御用路面状態が泥濘地であると取得され、制御モードがマッドモードに決定される。
このように、路面状態が(泥濘地&砂地)である場合には、泥濘地に基づく制御モードであるマッドモードが設定される。泥濘地においてサンドモードに基づく制御が行われる場合と、砂地においてマッドモードに基づく制御が行われる場合とでは、前者の方が後者における場合より、走破性、発進性の低下が大きいからである。
【0040】
取得された路面状態が砂地である場合には、S24の判定がYESとなり、S27において、制御用路面状態が砂地であると取得され、サンドモードに決定される。
【0041】
また、取得された路面状態が岩場を含む複数の状態(岩場&泥濘地と砂地との少なくとも一方)である場合には、S21の判定がYESとなり、S28において、制御用路面状態がMTSoffであると判定され、制御モードがMTSoffモードに決定される。S21~S24のすべての判定がNOである場合にも、S29において、制御用路面状態がMTSoffであると判定され、MSToffモードが決定される。
【0042】
また、S30において、S25~29において決定された制御モードに基づいてトラクション制御が実行される。
制御モードがロックモードである場合には、駆動スリップが大きい車輪に大きなブレーキ力が加えられる。制御モードがマッドモードやサンドモードである場合には、駆動スリップが大きい車輪に加えられるブレーキ力はロックモードが設定された場合より小さい。それに対して、MTSoffモードである場合には、ロックモードとマッドモードやサンドモードとの中間の制御モードでブレーキ力が制御される。駆動スリップが大きい車輪に加えられるブレーキ力が、ロックモードである場合とマッドモードやサンドモードである場合との中間の大きさに制御される。すなわち、駆動スリップが設定状態以上の車輪に摩擦ブレーキにより加えられるブレーキ力は、ロックモードである場合のブレーキ力より小さく、マッドモードやサンドモードである場合のブレーキ力より大きいのである。その結果、路面状態がMTSоffであると取得された場合において、実際の路面状態が、岩場に近い状態であっても、泥濘地や砂地に近い状態であっても、車両の走破性、発進性の著しい低下を抑制することができる。
【0043】
以上のように、本実施例においては、制御装置50の図3のフローチャートで表されるブレーキ力制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等によりブレーキ力制御装置が構成され、ブレーキ力制御装置のうちの、S1を記憶する部分、実行する部分等により路面状態取得部が構成され、S25-29を記憶する部分、実行する部分等により制御用路面決定部、制御モード決定部が構成される。
【0044】
なお、上記実施例においては、路面の状態に基づいてブレーキ機構10の制御が行われる場合について説明したが、駆動・伝達装置8、サスペンション等の車載装置の制御が行われる場合にも適用することができる。
【0045】
また、上記実施例において、路面状態が、Gセンサ54、車輪速度センサ52、駆動・伝達状態取得装置60等の検出値等に基づいて取得されたが、その他、車高センサの検出値、車載カメラ、レーザ等に基づいて取得された画像等に基づいて取得されるようにすることもできる。
【0046】
その他、本発明は、上記実施例の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0047】
8:駆動・伝達装置 10:ブレーキ機構 12:前輪 14:後輪 20,26:差動装置 32,34:摩擦ブレーキ 36:ブレーキアクチュエータ 50:制御装置 52:車輪速度センサ 54:Gセンサ 56:アクセル開度センサ
【特許請求可能な発明】
【0048】
(1)車両の車輪に設けられ、前記車輪の回転を抑制するブレーキと、
前記ブレーキのブレーキ力を制御するブレーキ力制御装置と
を含む車両用ブレーキシステムであって、
前記ブレーキ力制御装置が、前記車両が走行する路面の状態である路面状態を取得する路面状態取得部を含み、前記路面状態取得部によって前記路面状態が複数の状態に取得された場合に、前記複数の状態の各々に基づくブレーキ力の制御の各々とは異なる態様で前記ブレーキ力を制御する車両用ブレーキシステム。
【0049】
例えば、路面状態が複数の状態であると取得された場合に、複数の状態の各々に基づくブレーキ力の制御の強さの平均的な強さで、ブレーキ力が制御されるようにすることができる。
【0050】
路面状態取得部は、車両の走行状態に基づいて路面状態を取得するものであっても、カメラ等により取得された画像データ、レーダ等により取得された情報等に基づいて路面状態を取得するものであってもよい。例えば、車両の走行速度、車輪のスリップ状態等に基づいて路面状態を取得することができる。
【0051】
(2)前記路面状態取得部が、前記路面状態が、第1状態であるか第2状態であるかを取得するものであり、
前記ブレーキ力制御装置が、前記路面状態取得部によって前記路面状態が前記第1状態であり、かつ、前記第2状態であると取得された場合に、前記第1状態に基づくブレーキ力の制御および前記第2状態に基づくブレーキ力の制御と異なる態様で前記ブレーキ力を制御するものである(1)項に記載の車両用ブレーキシステム。
【0052】
(3)前記ブレーキ力制御装置が、前記路面状態取得部によって取得された前記路面状態が前記第1状態である場合に、前記路面状態取得部によって取得された前記路面状態が前記第2状態である場合より、前記ブレーキ力を強くする制御を行い、前記路面状態取得部によって取得された前記路面状態が前記第1状態であり、かつ、前記第2状態である場合に、前記ブレーキ力を、前記第1状態である場合のブレーキ力の強さと前記第2状態である場合のブレーキ力の強さとの中間の強さに制御するものである(2)項に記載の車両用ブレーキシステム。
【0053】
路面状態取得部によって路面状態が第1状態であり、かつ、第2状態であると取得された場合には、ブレーキ力を、第1状態である場合のブレーキ力の強さより弱く、第2状態である場合のブレーキ力の強さより強く制御するようにすることができる。例えば、第1状態である場合のブレーキ力と第2状態である場合のブレーキ力との平均的な大きさで制御されるようにすること等ができる。
【0054】
(4)前記第1状態が岩場であり、
前記第2状態が砂地または泥濘地である(2)項または(3)項に記載の車両用ブレーキシステム。
【0055】
(5)前記ブレーキ力制御装置が、前記路面状態取得部によって取得された前記路面状態に基づいて制御モードを決定する制御モード決定部を含み、前記制御モード決定部によって決定された前記制御モードに基づいて前記ブレーキ力を制御するものである(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【0056】
(6)前記路面状態取得部が、前記路面状態を、第1状態であるか第2状態であるかを取得するものであり、
前記制御モード決定部が、前記路面状態取得部によって取得された前記路面状態が前記第1状態であり、かつ、前記第2状態である場合に、前記第1状態に対応する制御モードである第1制御モードと前記第2状態に対応する制御モードである第2制御モードとは異なる制御モードである第3制御モードに決定するものであり、
前記第3制御モードにおいて制御されるブレーキ力が、前記第1制御モードにおいて制御されるブレーキ力の大きさと前記第2制御モードにおいて制御されるブレーキ力の大きさとの中間の大きさとされる(5)項に記載の車両用ブレーキシステム。
【0057】
第3制御モードは、上記実施例におけるMTSoffモードに対応する。
【0058】
(7)前記ブレーキ力制御装置が、前記ブレーキ力を制御することにより、前記車両の駆動時の前記車輪のスリップを抑制するトラクション制御部を含む(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【0059】
(8)前記ブレーキ力制御装置が、前記路面状態取得部によって取得された前記路面状態に基づいて制御用路面状態を決定する制御用路面状態決定部を含み、前記制御用路面状態決定部によって決定された前記制御用路面状態に基づいて前記ブレーキ力を制御するものであり、
前記制御用路面状態決定部が、前記路面状態取得部によって取得された前記路面状態が複数の状態である場合に、前記複数の状態とは異なる状態であると決定するものである(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載の車両用ブレーキシステム。
【0060】
路面状態取得部を暫定的路面状態取得部と称し、路面状態取得部によって取得された路面状態を暫定的路面状態と称することもできる。暫定的路面状態に基づいて制御用路面状態が取得される。暫定的路面状態が制御用路面状態とされる場合があるが、暫定的路面状態が複数取得された場合には、複数の暫定的路面状態とは異なる状態が制御用路面状態とされる。
【0061】
(9)前記路面状態取得部が、前記路面状態を、第1状態であるか第2状態であるかを取得するものであり、
前記制御用路面状態決定部が、前記路面状態取得部によって取得された前記路面状態が前記第1状態であり、かつ、前記第2状態である場合に、前記路面状態を、前記第1状態と前記第2状態との中間の路面状態である第3状態であると決定するものである(8)項に記載の車両用ブレーキシステム。
【0062】
例えば、第1状態が岩場であり、第2状態が泥濘地である場合に、第3状態は岩場と泥濘地との中間の路面状態(例えば、比較的凹凸が小さい岩場、アスファルト路面に近い泥濘地)であると決定することができる。また、通常の、オフロードの路面状態に基づく制御が適していない路面状態(アスファルト路に近い状態)であると考えることができる。
【0063】
(10)車両に搭載され、前記車両の走行状態を制御可能な車載装置と、
前記車載装置を制御する制御装置と
を含む車載システムであって、
前記制御装置が、前記車両が走行する路面の状態である路面状態を取得する路面状態取得部を備え、前記路面状態取得部によって前記路面状態が複数取得された場合に、前記複数の前記路面状態の各々に基づく前記車載装置の制御の各々と異なる態様で前記車載装置を制御する車載システム。
【0064】
本項に記載の車載システムには、(1)項ないし(9)項のいずれかに記載の技術的特徴を採用することができる。
【0065】
車載装置として車両を駆動する駆動装置等が該当する。トラクション制御において、ブレーキ力の制御に代わって、または、ブレーキ力の制御と並行して、駆動力の制御が行われるようにすることができる。また、車載装置として、サスペンション装置等とすることもできる。
図1
図2
図3
図4
図5