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  • 特許-高圧タンク固定シャフト 図1
  • 特許-高圧タンク固定シャフト 図2
  • 特許-高圧タンク固定シャフト 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】高圧タンク固定シャフト
(51)【国際特許分類】
   F16J 12/00 20060101AFI20240730BHJP
   F17C 13/08 20060101ALN20240730BHJP
【FI】
F16J12/00 E
F16J12/00 A
F17C13/08 301Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021066621
(22)【出願日】2021-04-09
(65)【公開番号】P2022161649
(43)【公開日】2022-10-21
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 広則
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-156090(JP,A)
【文献】特開平11-147262(JP,A)
【文献】特開2018-096459(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 12/00
F17C 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧タンクに固定されて該高圧タンクと一体に回転されるシャフト本体と、
該シャフト本体に設置される偏心重りと、
を有することを特徴とする高圧タンク固定シャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンク固定シャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、軸方向の両端に一対の口金が装着された高圧タンクの一方の口金の開口から高圧タンクの内部に挿入され、先端部が他方の口金にねじ結合されて高圧タンクに固定される高圧タンク固定シャフトの構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-75315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の高圧タンク固定シャフトは、例えば、樹脂を含浸させた繊維束の巻回により形成された高圧タンクの繊維層を熱硬化させる工程の加熱硬化炉で用いることができる。このような高圧タンク固定シャフトは、回転することで高圧タンクを回転させ、繊維層から樹脂を自重により落下させ、余剰樹脂を除去して繊維層の厚みが偏らないようにすることができる。加熱硬化炉においては、硬化中の樹脂の粘度(Pa・s)が低くなり流動性が高まるので余剰樹脂を落下させることができる。しかしながら、余剰樹脂による厚みの偏りは、硬化条件である加熱温度(℃)、高圧タンクの回転速度(rpm)や硬化時間(min)や繊維束の巻付条件などの様々な要因により変動する。硬化条件は、樹脂を硬化させるための条件であり、余分な樹脂を落下させるための条件ではない。また、巻付条件は、樹脂の流動を妨げない高圧タンクのドーム部の繊維の置き方をするための条件であり、樹脂流動阻害要因を無くす条件であるため、高圧タンクの厚みを管理することが難しいという問題がある。
【0005】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、簡単な構成で高圧タンクから余剰樹脂を確実に除去することができる高圧タンク治具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る高圧タンク固定シャフトは、
高圧タンクに固定されて該高圧タンクと一体に回転されるシャフト本体と、
該シャフト本体に設置される偏心重りと、
を有することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る高圧タンク固定シャフトによれば、シャフト本体の回転によって偏心重りが重力方向の上方から下方に向かって回転移動する際に、シャフト本体の回転速度(rpm)が速くなり、高圧タンクから余剰樹脂が確実に除去される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る高圧タンク固定シャフトによれば、簡単な構成で高圧タンクから余剰樹脂を確実に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る高圧タンク固定シャフトによって支持される高圧タンクの断面図。
図2】本発明の実施形態に係る高圧タンク固定シャフトの全体図であり、高圧タンクに固定された状態を示す。
図3】本発明の実施形態に係る高圧タンク固定シャフトの回転を説明する図であり、図3(a)は、図2のAから見た実施形態に係る高圧タンク固定シャフトの回転を示し、図3(b)は、従来の高圧タンク固定シャフトの回転を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る高圧タンク固定シャフトを適用した実施形態に係る高圧タンク固定シャフト10について図面を参照して説明する。まず、高圧タンク固定シャフト10が固定される高圧タンク1の構成について説明する。
【0011】
高圧タンク1は、図1に示すように、ライナ2と、口金3、4と、ライナ2の外周を被覆する繊維層5とにより構成されている。高圧タンク1は、気体を透過させ難い性質、いわゆるガスバリア性を有しており、内部には水素などの高圧のガスが充填される。
【0012】
ライナ2は、筒状の中空容器からなり、ポリアミド樹脂(PA)などの高い機械的強度を有するエンジニアリングプラスチックによって形成されている。なお、ライナ2は、金属材料で形成されていてもよい。ライナ2の軸方向の両端部には、口金3、4を取り付ける図示しない口金取付部が形成されている。
【0013】
口金3は、円柱状の口金本体3aと、口金本体3aから径方向に突出するフランジ3bとを有し、金属材料で一体的に形成されている。口金本体3aおよびフランジ3bには、貫通孔3cが形成されている。
【0014】
口金4は、口金3と同様、円柱状の口金本体4aと、口金本体4aから径方向に突出するフランジ4bとを有し、金属材料で一体的に形成されている。口金4には、口金3の貫通孔3cとは異なり、有底の穴4c、4dが形成されている。
【0015】
繊維層5は、ライナ2の外周を覆う層からなり、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)やガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)などのプラスチックの図示しない繊維束がライナ2の外周に巻回されることにより形成されている。繊維束には、樹脂が含浸されている。含浸樹脂は、例えば、エポキシ樹脂(EP)、ポリエステル樹脂(PE)やポリアミド樹脂(PA)などの熱硬化性樹脂からなる。繊維層5は、形成後に熱硬化工程における加熱硬化炉で加熱され、熱硬化する。
【0016】
高圧タンク固定シャフト10は、図2に示すように、一対のシャフト本体11、12と、重りボックス13を有している。高圧タンク固定シャフト10は、高圧タンク1の繊維層5を熱硬化させる熱硬化工程で加熱硬化炉用治具、いわゆるエクステンションシャフトとして用いられる。高圧タンク固定シャフト10は、加熱硬化炉内で一対のシャフト本体11、12によって高圧タンクを固定した状態で回転することで、高圧タンク1の繊維層5を全周均一に熱硬化させる。
【0017】
一方のシャフト本体11は、固定部11aを有し、金属材料などの高い機械的強度を有する材料で形成されている。一方のシャフト本体11は、固定部11aで高圧タンク1の口金3に固定され、高圧タンク1と共に回転する。
【0018】
他方のシャフト本体12は、固定部12a、12bを有し、金属材料などの高い機械的強度を有する材料で形成されている。他方のシャフト本体12は、固定部12aで、高圧タンク1の口金4に固定され、高圧タンク1と共に回転する。固定部12bは、シャフト本体12の径方向の外周面の一部に形成されており、重りボックス13が固定される。なお、実施形態のシャフト本体11、12は、本発明に係る高圧タンク固定シャフトのシャフト本体に対応する。
【0019】
重りボックス13は、内部に偏心重り13aを収容するとともに、収容した偏心重り13aを交換することが可能な箱体からなり、シャフト本体12の固定部12bに固定される。偏心重り13aは、シャフト本体12の回転中心軸線から径方向に所定距離だけ離れた位置に配置される。重りボックス13は、シャフト本体12と共に回転する。重りボックス13が固定されたシャフト本体12が回転する際に、偏心重り13aによって、図3(a)の矢印aに示すように、重力方向の上から下に向かう範囲で加速され、シャフト本体12の回転速度(rpm)が高まる。
【0020】
シャフト本体12は、重りボックス13が下から上に向かう際、通常回転に戻るので減速される。重りボックス13に収容される偏心重り13aの重量(g)は、高圧タンク1の外径や繊維層5に含浸されている樹脂の粘度(Pa・s)などの設定諸元や実験値などのデータに基づいて適宜選択される。
【0021】
シャフト本体12の回転速度が高まると、高圧タンク1の繊維層5に含浸されている樹脂に作用する遠心力(N)が高まり、遠心力が、繊維層5に含浸されている樹脂の繊維層5への付着力(N)より高くなると、未硬化の余剰樹脂は繊維層5から離脱する。更に、未硬化の余剰樹脂は重りボックス13が下から上に向かう際の減速の衝撃によっても繊維層5から離脱する。
【0022】
実施形態に係る高圧タンク固定シャフト10の効果について説明する。
高圧タンク固定シャフト10は、高圧タンク1の口金3に固定されるシャフト本体11と、口金4に固定されるシャフト本体12と、その固定部12bに固定され、シャフト本体12と共に回転する重りボックス13とを有している。
【0023】
この構成により、シャフト本体12が回転する際に、重力方向の上から下の方向に重りボックス13が回転すると、シャフト本体12は、加速され、回転速度(rpm)が高まるという効果が得られる。シャフト本体12の回転速度が高まると、高圧タンク1の繊維層5に含浸されている樹脂に作用する遠心力(N)が高まり、遠心力が、繊維層5に含浸されている樹脂の繊維層5への付着力(N)より高くなると、未硬化の余剰樹脂は繊維層5から離脱する。そして更に、重りボックス13が下から上に向かう際の減速の衝撃により、未硬化の余剰樹脂は繊維層5から離脱し、繊維層5の余剰樹脂は除去される。
【0024】
実施形態に係る高圧タンク固定シャフト10においては、高圧タンク固定シャフトを回転させるモータの動作を制御する制御回路や制御工程を不要とし、シャフト本体12に重りボックス13を固定するだけの簡単な構成により、強制的に、且つ確実に繊維層5の余剰樹脂を除去することができるという効果が得られる。
【0025】
また、実施形態に係る高圧タンク固定シャフト10は、従来の高圧タンク固定シャフトにおける問題を解消することができるという効果が得られる。即ち、従来の高圧タンク固定シャフトは、図3(b)に示すように、高圧タンク固定シャフトを介して高圧タンクを回転させ、繊維層から樹脂を自重により落下させ、余剰樹脂を除去して繊維層の厚みが偏らないようにしていた。しかしながら、余剰樹脂による厚みの偏りは、繊維束の巻付条件や硬化条件などの様々な要因により変動するものであるため、厚みを管理することが難しいという問題があった。実施形態に係る高圧タンク固定シャフト10においては、このような厚みの管理の問題を解消することができた。
【0026】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0027】
1・・・高圧タンク、2・・・ライナ、3、4・・・口金(軸方向の一端または他端)、3a、4a・・・口金本体、3b、4b・・・フランジ、3c・・・貫通孔、4c、4d・・・有底の穴、5・・・繊維層、10・・・高圧タンク固定シャフト、11、12・・・シャフト本体、11a、12a、12b・・・固定部、13・・・重りボックス(重り)
図1
図2
図3