(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20240730BHJP
F16H 63/34 20060101ALI20240730BHJP
F16H 63/38 20060101ALI20240730BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20240730BHJP
B60T 8/17 20060101ALI20240730BHJP
B60T 1/06 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
B60L15/20 J
F16H63/34
F16H63/38
B60T17/18
B60T8/17 B
B60T1/06 G
(21)【出願番号】P 2021076448
(22)【出願日】2021-04-28
【審査請求日】2023-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 彰洋
(72)【発明者】
【氏名】中山 誠二
(72)【発明者】
【氏名】神尾 茂
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓司
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/026476(WO,A1)
【文献】特開2019-093975(JP,A)
【文献】特開2019-094998(JP,A)
【文献】特開2019-122168(JP,A)
【文献】特開2019-094941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
F16H 63/34
F16H 63/38
B60T 17/18
B60T 8/17
B60T 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(100)の駆動源である主機モータ(70)と、
車軸(95)に接続されるパーキングギア(35)、および、前記パーキングギアと噛み合い可能であるパーキングレバー(33)を有し、前記パーキングギアと前記パーキングレバーとが噛み合うことで前記車軸の回転をロック可能なパーキングロック機構(30)と、
前記パーキングレバーを駆動可能なアクチュエータ(40)と、
を備える車両駆動システム(90)を制御する車両制御装置であって、
前記アクチュエータの駆動を制御するアクチュエータ駆動制御部(811)と、
前記主機モータの駆動を制御する主機モータ駆動制御部(821)と、
前記アクチュエータの駆動状態に応じて変化する物理量を検出するセンサ部(68)の検出値に基づき、前記アクチュエータの停滞を判定する停滞判定部(822)と、
を備え、
パーキングロックを解除するとき、
前記主機モータ駆動制御部は、前記アクチュエータが停滞していると判定された場合、前記パーキングギアと前記パーキングレバーとの噛み合い面圧を低減するように前記主機モータを駆動する噛み合い面圧低減制御を行い、
前記噛み合い面圧低減制御により前記主機モータを駆動している場合、前記噛み合い面圧低減制御を行っていない場合よりも
前記パーキングロック機構とは別の車両制動装置のブレーキ荷重を大きくする車両制御装置。
【請求項2】
前記センサ部は、前記アクチュエータの回転角度を検出する回転角センサ(68)である請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記停滞判定部は、前記回転角センサの検出値が回転方向側に更新されない状態が判定時間に亘って継続した場合、前記アクチュエータが停滞していると判定する請求項
2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記停滞判定部は、前記アクチュエータの駆動速度が速度判定閾値以下の状態が判定時間に亘って継続した場合、前記アクチュエータが停滞していると判定する請求項
2に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記停滞判定部は、
前記回転角センサの検出値が実施判定閾値に到達するまでの範囲にて停滞判定を行い、前記回転角センサの検出値が前記実施判定閾値を超えた場合、停滞判定を行わない請求項2~4のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記停滞判定部は、前記回転角センサの検出値が判定時間内に到達判定値に到達しなかった場合、前記アクチュエータが停滞していると判定する請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記車両駆動システムは、複数の谷部(211、212)が形成され、前記パーキングレバーと接続されているディテント部材(21)、前記アクチュエータの駆動により前記谷部を移動可能である係合部材(26)、および、前記係合部材を前記谷部に嵌まり合う方向に付勢する付勢部材(25)を有するディテント機構(20)を備え、
前記到達判定値は、前記車軸にかかる荷重による前記噛み合い面圧がピークとなるピーク位置と、Pレンジ以外のレンジであるnotPレンジに対応する前記谷部(212)に前記係合部材を前記付勢部材の付勢力により移動可能な位置との間に設定されている請求項6に記載の車両制御装置。
【請求項8】
前記到達判定値は、前記車軸にかかる荷重による前記噛み合い面圧がピークとなるピーク位置と、Pレンジが解除される位置との間に設定されている請求項6に記載の車両制御装置。
【請求項9】
停滞判定に係る判定時間は、前記アクチュエータの温度に応じて可変である請求項
3~8のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項10】
停滞判定に係る判定時間は、前記アクチュエータへの入力電圧に応じて可変である請求項
3~9のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【請求項11】
前記アクチュエータは、前記噛み合い面圧が生じているとき、パーキングロックを解除不能な使用環境領域が存在している請求項1~
10のいずれか一項に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクチュエータを介してパーキングロック機構の作動を制御して自動変速部のシフトレンジを切り換える電子制御装置が知られている。例えば特許文献1では、アクチュエータの出力トルクによりパーキングロック機構を解除できない場合、駆動源であるモータジェネレータが、パーキングロック機構を解除可能な駆動トルクを出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、シフトレンジセンサが出力する電気信号に基づいてPレンジから解除されたか否かを判定し、解除されてない場合、駆動源である電動機MGを制御することでキャンセルトルクをパーキングロック機構に出力している。しかしながら、特許文献1のように、レンジセンサの判定値に基づいてPレンジ解除可否を判定し、判定結果に基づいて電動機MGによるキャンセルトルクの出力制御を開始する場合、Pレンジ解除が遅れる虞がある。
【0005】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、パーキングロックを適切に解除可能な車両制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の車両制御装置は、車両駆動システム(90)を制御するものである。車両駆動システムは、主機モータ(70)と、パーキングロック機構(30)と、アクチュエータ(40)と、を備える。主機モータは、車両(100)の駆動源である。パーキングロック機構は、車軸(95)に接続されるパーキングギア(35)と噛み合うことで車軸をロック可能なパーキングレバー(33)を有し、パーキングギアとパーキングレバーとが噛み合うことで車軸の回転をロック可能である。アクチュエータは、パーキングレバーを駆動可能である。
【0007】
車両制御装置は、アクチュエータの駆動を制御するアクチュエータ駆動制御部(811)と、主機モータの駆動を制御する主機モータ駆動制御部(821)と、停滞判定部(822)と、を備える。停滞判定部は、アクチュエータの駆動状態に応じて変化する物理量を検出するセンサ部(68)の検出値の基づき、アクチュエータの停滞を判定する。
【0008】
パーキングロックを解除するとき、主機モータ駆動制御部は、アクチュエータが停滞していると判定された場合、パーキングギアとパーキングレバーとの噛み合い面圧を低減するように主機モータを駆動する噛み合い面圧低減制御を行う。噛み合い面圧低減制御により主機モータを駆動している場合、噛み合い面圧低減制御を行っていない場合よりもパーキングロック機構とは別の車両制動装置のブレーキ荷重を大きくする。これにより、パーキングロックを適切に解除可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態による車両駆動システムを示す概略構成図である。
【
図2】第1実施形態によるディテント切替機構およびパーキングロック機構を説明する斜視図である。
【
図3】第1実施形態によるアクチュエータを示す断面図である。
【
図6】車両が傾斜している状態を説明する説明図である。
【
図7】パーキングロック機構における噛み合い面圧を説明する模式図である。
【
図8】P抜きに要するトルクを説明する説明図である。
【
図9】第1実施形態によるアクチュエータの出力トルクを説明する説明図である。
【
図10】第1実施形態によるアクチュエータ制御処理を説明するフローチャートである。
【
図11】第1実施形態によるMG制御処理を説明するフローチャートである。
【
図12】第1実施形態によるP抜き制御処理を説明するタイムチャートである。
【
図13】第2実施形態によるMG制御処理を説明するフローチャートである。
【
図14】第2実施形態による到達判定値の設定を説明する説明図である。
【
図15】第2実施形態によるP抜き制御処理を説明するタイムチャートである。
【
図16】第3実施形態による到達判定時間の設定を説明するマップである。
【
図17】第4実施形態によるMG制御処理を説明するフローチャートである。
【
図18】第5実施形態による第1トルク値および第2トルク値の設定範囲を概念的に説明する説明図である。
【
図19】第5実施形態によるMG制御処理を説明するフローチャートである。
【
図20】第5実施形態によるP抜き制御処理を説明するタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、車両制御装置を図面に基づいて説明する。以下、複数の実施形態において、実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0011】
(第1実施形態)
第1実施形態を
図1~
図12に示す。
図1に示すように、車両駆動システム90は、主機モータ70、インバータ71、パーキングロック機構30、アクチュエータ40、および、車両制御装置80等を備え、車両100(
図6参照)に搭載される。以下適宜、主機モータ70を「MG」と記載する。
【0012】
主機モータ70は、図示しないバッテリからインバータ71を経由して電力が供給されて回転することによりトルクを発生する電動機としての機能、および、車両100の制動時に駆動されて発電する発電機としての機能を有する、所謂モータジェネレータである。主機モータ70により生じる駆動力は、減速ギア96および車軸95を介して車輪98を回転させる。
図1では、車両100の駆動源が主機モータ70である電気自動車の例を示しているが、駆動源として図示しないエンジンを併せ持つハイブリッド車両であってもよい。なお、
図1では、ディテント機構20を省略した。
【0013】
図2に示すように、シフトバイワイヤシステム91は、アクチュエータ40、ディテント機構20、および、パーキングロック機構30等を備える。アクチュエータ40は、回転式であって、モータ50および動力伝達部510から構成される(
図3等参照)。
【0014】
モータ50は、ブラシ付きのDCモータであって、図示しないバッテリからHブリッジ回路等である駆動回路を経由して電力が供給されることで回転し、ディテント機構20の駆動源として機能する。ディテント機構20は、ディテントプレート21、および、ディテントスプリング25等を有し、モータ50から出力された回転駆動力を、パーキングロック機構30へ伝達する。
【0015】
ディテントプレート21は、出力軸15に固定され、モータ50により駆動される。ディテントプレート21のディテントスプリング25側には、2つの谷部211、212、および、谷部211、212を隔てる山部215が設けられる。
【0016】
ディテントスプリング25は、弾性変形可能な板状部材であり、先端にディテントローラ26が設けられる。ディテントスプリング25は、ディテントローラ26をディテントプレート21の回動中心側に付勢する。無負荷状態において、ディテントスプリング25のスプリング力にてディテントローラ26が落とし込まれる位置を、谷部211、212の最底部とする。
【0017】
ディテントプレート21に所定以上の回転力が加わると、ディテントスプリング25が弾性変形し、ディテントローラ26が谷部211、212間を移動する。ディテントローラ26が谷部211、212のいずれかに嵌まり込むことで、ディテントプレート21の揺動が規制され、パーキングロック機構30の状態が決定され、シフトレンジが固定される。
【0018】
パーキングロック機構30は、パーキングロッド31、円錐体32、パーキングレバー33、軸部34、および、パーキングギア35を有する。パーキングロッド31は、略L字形状に形成され、一端311側がディテントプレート21に固定される。パーキングロッド31の他端312側には、円錐体32が設けられる。円錐体32は、他端312側にいくほど縮径するように形成される。ディテントローラ26がPレンジに対応する谷部211に嵌まり込む方向にディテントプレート21が回転すると、円錐体32が矢印Pの方向に移動する。
【0019】
パーキングレバー33は、円錐体32の円錐面と当接し、軸部34を中心に揺動可能に設けられる。パーキングレバー33のパーキングギア35側には、パーキングギア35と噛み合い可能な凸部331が設けられる。ディテントプレート21の回転により、円錐体32が矢印P方向に移動すると、パーキングレバー33が押し上げられ、凸部331とパーキングギア35とが噛み合う。一方、円錐体32が矢印notP方向に移動すると、凸部331とパーキングギア35との噛み合いが解除される。
【0020】
パーキングギア35は、減速ギア96を経由して車軸95と接続しており(
図1参照)、パーキングレバー33の凸部331と噛み合い可能に設けられる。パーキングギア35と凸部331とが噛み合うと、車軸95の回転が規制される。シフトレンジがP以外のレンジであるnotPレンジのとき、パーキングギア35はパーキングレバー33によりロックされず、車軸95の回転は、パーキングロック機構30により妨げられない。また、シフトレンジがPレンジのとき、パーキングギア35はパーキングレバー33によってロックされ、車軸95の回転が規制される。
【0021】
アクチュエータ40を
図3~
図5に示す。
図3は
図5のIII-III線断面図である。
図3において、モータ50の軸方向を紙面上下方向とし、紙面上側を「一方側」、紙面下側を「他方側」とする。
【0022】
ハウジング41は、例えばアルミ等の金属で形成され、モータハウジング部411、および、ギアハウジング部412から構成される。モータハウジング部411は、軸方向の一方側に開口する略有底筒状に形成される。ギアハウジング部412は、モータハウジング部411の径方向外側に突出して形成される。ギアハウジング部412の一方側の端面は、モータハウジング部411の一方側の端面と概ね同一平面上に形成されている。ギアハウジング部412の他方側の端面は、モータハウジング部411の軸方向の中間に位置している。換言すると、モータハウジング部411は、他方側に突出している。また、ギアハウジング部412には、出力軸ギア60を収容する出力軸ギア収容部413がモータハウジング部411とは反対側に突出して形成されている。
【0023】
センサカバー43およびギアカバー45は、ハウジング41を挟んで両側に設けられる。センサカバー43は、モータハウジング部411およびギアハウジング部412の一方側に設けられて、ねじ439にてハウジング41に固定される。センサカバー43には、コネクタ435が設けられており、コネクタ435を経由してアクチュエータ40に電力が供給される。また、コネクタ435を経由して外部と信号の送受信を行う。ギアカバー45は、ギアハウジング部412の他方側に設けられ、ねじ459にてハウジング41に固定される。
【0024】
モータ50は、マグネット501、コア502、コイル504、モータ軸505、コミュテータ508、および、図示しないブラシ等を有する。マグネット501は、モータハウジング部411の内周側に固定される。コア502は、マグネット501の径方向内側に設けられ、巻回されているコイル504に電流が流れると、回転力を発生する。モータ軸505は、軸受506、507に回転可能に支持され、コア502と一体となって回転する。コミュテータ508は、ブラシから供給される電流をコイル504に流す。
【0025】
動力伝達部510は、モータ軸505と出力軸15との間に設けられ、モータ50の駆動力を出力軸15に伝達する。動力伝達部510は、ギア51~54、60を有する。ギア51~54、60は、いずれも平歯ギアである。
【0026】
モータギア51およびギア52、53は、ハウジング41に一方側に開口する第1ギア室415に配置される。ギア54および出力軸ギア60は、ハウジング41の他方側に開口する第2ギア室416に配置される。第1ギア室415と第2ギア室416とは、ギア接続シャフト55が挿通される軸孔417で連通している。本実施形態では、モータギア51、ギア54および出力軸ギア60が金属で形成され、ギア52、53が樹脂で形成されている。
【0027】
モータギア51は、モータ軸505の一方側に固定され、モータ軸505と一体に回転する。ギア52は、大径部521および小径部522を有し、シャフト525と一体に回転する。大径部521の径方向外側には平歯が形成され、モータギア51と噛み合う。小径部522の径方向外側には平歯が形成され、ギア53と噛み合う。シャフト525は、ハウジング41に形成される軸孔414に挿入され、回転可能に支持される。
【0028】
ギア53は、筒部531、および、ギア部532を有する。ギア部532は、筒部531の径方向外側に突出して形成される。ギア部532には、ギア52の小径部522と噛み合う平歯が形成されている。ギア部532は、ポジションセンサ68にて絶対角を検出可能な範囲(例えば180°未満)に形成される。筒部531の径方向内側には、シャフト固定部材535が設けられる。シャフト固定部材535は、例えば金属で形成されている。
【0029】
ギア接続シャフト55は、軸受56、57により、ハウジング41に回転可能に支持されている。本実施形態では、軸受56、57は、ボールベアリングであって、軸孔417に圧入されている。軸受を複数とすることで、ギア接続シャフト55の倒れを抑制することができる。また、ギア接続シャフト55の径方向のがたつきを抑制可能であるので、シャフトのたたき等による摩耗の発生を低減することができる。
【0030】
ギア接続シャフト55の一方側は、ギア53の筒部531の径方向内側に設けられるシャフト固定部材535に圧入され、例えばローリングかしめ等にて固定される。これにより、ギア53がギア接続シャフト55の一方側に固定される。ギア接続シャフト55の他方側には、ボルト549によりギア54が固定される。これにより、ギア53の筒部351とギア54とは、ギア接続シャフト55により同軸に接続され、一体となって回転する。本実施形態では、ギア53およびギア54が連結ギア530を構成する。ギア54は、筒部531と略同径に形成され、径方向外側の全周に出力軸ギア60と噛み合う平歯が形成される。
【0031】
出力軸ギア60は、略筒状に形成される出力軸接続部601、および、ギア部602を有する。出力軸接続部601は、径方向外側に設けられるブッシュ61により、ギアカバー45に回転可能に支持される。出力軸接続部601の径方向内側には、出力軸15(
図1参照)が圧入固定され、一体となって回転する。ブッシュ61は、ギアカバー45の出力軸保持部455に圧入されている。
【0032】
ギア部602は、出力軸接続部601の径方向外側に突出して形成され、ギア54と噛み合う。本実施形態では、モータギア51とギア52の大径部521との噛み合い箇所が1段目減速段であり、ギア52の小径部522とギア53のギア部532との噛み合い箇所が2段目減速段であり、ギア54と出力軸ギア60のギア部602との噛み合い箇所が3段目減速段である。すなわち本実施形態では、減速段数は3であって、3段目減速段が最終減速段である。
【0033】
ギア52、53等がハウジング41の一方側から組み付けられ、ギア54および出力軸ギア60等がハウジング41の他方側から組み付けられる。ギア53とギア54とを接続するギア接続シャフト55の長さを変えることで、アクチュエータ40と出力軸15を介して組み付けられる相手側の部品に応じ、モータハウジング部411の出代を調整することができる。これにより、搭載の自由度を向上させることができる。
【0034】
ギア53の筒部531の径方向内側であって、シャフト固定部材535よりもセンサカバー43側には、センサマグネット65が設けられる。センサマグネット65は、例えば幅狭の板状に形成され、ギア53の回転軸を挟んで反対側に設けられる。換言すると、センサマグネット65は、180°離間して設けられている。センサマグネット65は、円環状に形成されるマグネット保持部材66に保持されている。マグネット保持部材66は、筒部531に圧入等により固定される。
【0035】
ポジションセンサ68は、センサカバー43から突出して形成されるセンサ保持部438に保持される。ポジションセンサ68は、センサマグネット65の回転による磁界の変化を検出するホールICを有し、センサ素子が2つのセンサマグネット65の中心に位置するように設けられる。本実施形態では、最終減速段の減速比が6以下であって、ギア53の回転範囲が180°未満であるので、ポジションセンサ68は、ギア53の回転位置を絶対角として検出可能である。また、ギア比換算により、出力軸15の絶対角を演算可能である。ポジションセンサ68は、リニアセンサ、エンコーダまたはレゾルバ等であってもよく、ギア53以外の回転位置を検出するものであってもよい。
【0036】
センサマグネット65が設けられるギア53は、最終減速段より1段手前の減速段を構成している。そのため、出力軸ギア60と比較して伝達トルクが小さく、ギア歯面形状のばらつきや、振動等により発生する偏芯力が小さいため、出力軸ギア60の角度検出を行う場合と比較し、センサ精度の劣化を抑制することができる。また、
図1に示すように、アクチュエータ40には、モータ50の電流を検出する電流センサ67、および、温度を検出する温度センサ69が設けられる。
【0037】
車両制御装置80は、アクチュエータ制御ユニット(以下、「act-ECU」)81、および、MG制御ユニット(以下、「MG-ECU」)82を有する。act-ECU81およびMG-ECU82は、マイコン等を主体として構成され、内部にはいずれも図示しないCPU、ROM、RAM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を備えている。ECUにおける各処理は、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。
【0038】
車両制御装置80は、レンジセンサ37、ポジションセンサ68、温度センサ69、傾斜角センサ87、および、操舵角センサ88の検出値を取得し、これらの検出値を各種制御に利用可能である。また、コイル504の通電制御に、ディテント機構20と接続される変速機7の油温(以下、「TM油温」という。)等を用いてもよい。変速機7は、トランスアクスル等であってもよい。また、車両制御装置80は、ブレーキECU85と各種情報を送受信可能に設けられている。
【0039】
レンジセンサ37は、アクチュエータ40の外部であって、パーキングレバー33の近傍に設けられており、シフトレンジがPレンジおよびnotPレンジの一方から他方へ切り替わったことを判定するセンサである。なお、ポジションセンサ68は、アクチュエータ40の内部に設けられており、回転体の回転を連続的に検出可能である。
【0040】
act-ECU81は、機能ブロックとして、アクチュエータ駆動制御部811等を有し、ドライバ要求シフトレンジ、ブレーキスイッチからの信号および車速等に基づいてモータ50への通電を制御することで、パーキングレバー33の動作を制御する。
【0041】
MG-ECU82は、機能ブロックとして、MG駆動制御部821、および、停滞判定部822等を有する。MG駆動制御部821は、インバータ71を構成するスイッチング素子のオンオフ作動を制御することで、主機モータ70の駆動を制御する。停滞判定部822は、ポジションセンサ68の検出値θsnsに基づき、アクチュエータ40の停滞を判定する。
【0042】
本実施形態では、act-ECU81とMG-ECU82とが別途に設けられているが、1つのECUとして構成してもよい。また、act-ECU81をアクチュエータ40と一体に設けてもよい。さらにまた、例えば、停滞判定部822をact-ECU81側に設ける、と言った具合に、後述の各種判断処理等は、act-ECU81またはMG-ECU82のいずれで実行してもよい。
【0043】
上述の通り、モータ50の駆動により、パーキングロックを解除する。
図6に示すように、車両100が傾斜した状態にて停止している場合、車両100の前後方向に車重Wおよび傾斜角θiに応じた荷重L(式(1)参照)がかかる。
図7に示すように、車重Wおよび傾斜角θiに応じた荷重Lが、パーキングレバー33とパーキングギア35とが噛み合う面圧発生部位Psにかかる。
【0044】
L=W×sinθi ・・・(1)
【0045】
そのため、パーキングギア35からパーキングレバー33を引き抜くとき、車両100が傾斜状態であると、噛み合い荷重の分、平坦路にある場合よりも大きなトルクを要する。以下適宜、パーキングギア35からパーキングレバー33の凸部331を引き抜くことを「P抜き」とする。
【0046】
図8は、横軸をアクチュエータ40の回転角、縦軸をアクチュエータ40のトルクとする。
図8に示すように、噛み合い面圧がかかっている状態にてP抜きを行う場合、実線で示すディテント機構20のディテントを切り替える分のトルクに加え、破線で示す噛み合い面圧成分のトルクが必要になる。そのため、例えば一点鎖線で示すように、アクチュエータ40の出力可能なトルクが比較的小さい場合、アクチュエータ40の出力トルクTactのみではP抜きができない虞がある。また、噛み合い面圧成分のトルクをアクチュエータ40で賄う場合、アクチュエータ40の体格が大型化する。
【0047】
図9は、横軸をアクチュエータ40の入力電圧V、縦軸をアクチュエータ40の出力トルクTactとする。また、平坦路でのP抜きに要するトルクをTp_f、想定される最大傾斜でのP抜きに要するトルクをTp_maxとする。アクチュエータ40は、温度が高いとき、および、電圧が低いとき、出力トルクTactが低下するため、車両傾斜状態、温度条件および入力電圧Vによっては、モータ50のトルクのみではP抜きできない領域が存在している。
【0048】
そこで本実施形態では、必要に応じてP抜き時に主機モータ70を駆動し、噛み合い面圧成分のトルクをキャンセルするトルクを発生させる。これにより、MGトルクTmgにより、車重による噛み合い面圧成分を低減することが可能であるので、モータ50のみでP抜きを行う場合と比較し、モータ50に求められるトルクを下げることができ、モータ50を小型化可能である。また、モータ50の駆動に係る図示しない駆動回路の通電量や熱負荷を低減することができる。
【0049】
本実施形態では、ポジションセンサ68の検出値θsnsに基づき、モータ50および主機モータ70の駆動を制御する。アクチュエータ制御処理を
図10のフローチャートに基づいて説明する。この処理は、シフトレンジがPレンジであるとき、アクチュエータ駆動制御部811にて所定の周期で実行される。以下、ステップS101等の「ステップ」を省略し、単に記号「S」と記す。
【0050】
S101では、アクチュエータ駆動制御部811は、モータ50が駆動中か否か判断する。モータ50が駆動中であると判断された場合(S101:YES)、S104へ移行する。モータ50が駆動中ではないと判断された場合(S101:NO)、S102へ移行する。
【0051】
S102では、アクチュエータ駆動制御部811は、notP切替指示があるか否か判断する。ここでは、MG-ECU82からの切替指示に基づいて判断するが、シフト信号等に基づいて内部的に判断してもよい。notP切替指示がないと判断された場合(S102:NO)、S103の処理をスキップする。notP切替指示があると判断された場合(S102:YES)、S103へ移行する。
【0052】
S103では、アクチュエータ駆動制御部811は、PレンジからnotPレンジに切替可能な目標値θ*を設定し、ポジションセンサ68の検出値θsnsが目標値θ*となるように、モータ50を駆動する。
【0053】
モータ50が駆動中であると判断された場合(S101:YES)に移行するS104では、アクチュエータ駆動制御部811は、ポジションセンサ68の検出値θsnsが目標値θ*に到達したか否か判断する。検出値θsnsが目標値θ*に到達していないと判断された場合(S104:NO)、モータ50の駆動制御を継続する。検出値θsnsが目標値θ*に到達したと判断された場合(S104:YES)、S105へ移行し、notPレンジへの切り替えが完了したと判定し、モータ50を停止する。また、act-ECU81は、切り替えが完了した旨の情報を、MG-ECU82へ送信する。
【0054】
MG制御処理を
図11のフローチャートに基づいて説明する。この処理は、シフトレンジがPレンジであるとき、MG-ECU82にて所定の周期で実行される。
【0055】
S201では、MG-ECU82は、notP切替要求があるか否か判断する。notP切替要求がないと判断された場合(S201:NO)、S202以降の処理をスキップする。notP切替要求があると判断された場合(S201:YES)、S202へ移行する。
【0056】
S202では、MG-ECU82は、アクチュエータ40が駆動中か否か判断する。アクチュエータ40が駆動中ではないと判断された場合、(S202:NO)、S203へ移行し、notP切替指示をact-ECU81に送信する。アクチュエータ40が駆動中であると判断された場合(S202:YES)、S204へ移行する。
【0057】
S204では、停滞判定部822は、ポジションセンサ68の検出値θsnsが停滞しているか否かを判断する。ここでは、検出値θsnsの最大値が更新されない場合、検出値θsnsが停滞していると判断する。検出値θsnsが停滞していないと判断された場合(S204:NO)、S213へ移行する。検出値θsnsが停滞していると判断された場合(S204:YES)、S205へ移行する。
【0058】
S205では、停滞判定部822は、検出値θsnsが実施判定閾値θth以下か否か判断する。実施判定閾値θthは、例えばレンジセンサ37がPレンジからnotPレンジに切り替わるPレンジ解除位置θyに応じて設定される。Pレンジ解除位置θyは、ディテントローラ26が谷部212の最底部に嵌まり合う切替完了位置よりPレンジ側である。検出値θsnsが実施判定閾値θthより大きいと判断された場合(S205:NO)、S213へ移行する。検出値θsnsが実施判定閾値θthより大きい場合、噛み合い面圧以外の要因(例えばメカロック等)での停滞や正常な停止制御中である蓋然性が高いため、MGトルクによる噛み合い面圧低減処理を行わない。検出値θsnsが実施判定閾値θth以下であると判断された場合(S205:YES)、S206へ移行する。
【0059】
S206では、停滞判定部822は、停滞カウント値C1が停滞判定時間Xth1に対応する停滞判定閾値Cth1以下か否か判断する。停滞カウント値C1が停滞判定閾値Cth1以下であると判断された場合(S206:YES)、S207へ移行し、停滞カウント値C1をカウントアップする。停滞カウント値C1が停滞判定閾値Cth1より大きいと判断された場合(S206:NO)、S208へ移行する。
【0060】
S208では、MG駆動制御部821は、MGトルクTmgが初期トルク値Tsに到達したか否か判断する。初期トルク値Tsは、噛み合い面圧を低減可能な値であって、例えばモータ50が動き出せるようになる値に設定される。また、初期トルク値Tsは、学習値としてもよい。MGトルクTmgが初期トルク値Tsに到達していないと判断された場合(S208:NO)、S209へ移行し、MGトルク指令値Tmg*を初期トルク値Tsとする。MGトルクTmgが初期トルク値Tsに到達していると判断された場合(S208:YES)、S210へ移行する。
【0061】
S210では、MG駆動制御部821は、MGトルクTmgが上限トルク値Tuに到達したか否か判断する。上限トルク値Tuは、噛み合い面圧低減制御における最大トルクであって、アクチュエータ40が確実に作動するように噛み合い面圧を低減可能な値に設定される。MGトルクTmgが上限トルク値Tuに到達していないと判断された場合(S210:NO)、S211へ移行し、MGトルク指令値Tmg*を徐変量ΔT増加させる。MGトルクTmgが上限トルク値Tuに到達していると判断された場合(S210:YES)、S212へ移行し、MGトルク指令値Tmg*を上限トルク値Tuとする。
【0062】
S213では、MG駆動制御部821は、MGトルクTmgが走行用トルクTd以下か否か判断する。設定されている走行用トルクが0であれば、Td=0とする。MGトルクTmgが走行用トルクTdより大きいと判断された場合(S213:NO)、すなわち噛み合い面圧低減トルクが出力されている場合、S214へ移行し、MGトルクTmgを減少させる。MGトルクTmgが走行用トルクTd以下であると判断された場合(S213:YES)、S215へ移行する。なお、走行用トルクTdが0ではなく、MGトルクTmgが走行用トルクTdより小さい場合は、別途の処理によりMGトルクTmgを制御する。
【0063】
S215で、MG-ECU82は、notPレンジへの切り替えが完了したか否か判断する。notPレンジへの切り替えが完了していないと判断された場合(S215:NO)、現在の状態を維持する。notPレンジへの切り替えが完了したと判断された場合(S215:YES)、S216へ移行し、P抜き時の面圧低減制御を完了する。
【0064】
P抜き制御処理を
図12のタイムチャートに基づいて説明する。
図12では、横軸を共通時間軸とし、上段から、シフト指示、MGトルク指令値Tmg
*、MGトルクTmg、ポジションセンサ68の目標値θ
*、ポジションセンサ68の検出値θsnsを示す。ポジションセンサ68の値は、適宜対応するレンジとして記載した。また、P抜き処理中において、走行用トルクTd=0であるものとして説明する。後述の実施形態に係るタイムチャートも同様である。
【0065】
時刻x10にて、シフト指示がPレンジからnotPレンジに切り替わると、モータ50の駆動を開始する。噛み合い面圧が発生していない場合、破線で示すように、モータ50は停滞せず、モータ50のトルクにてP抜きが完了する。
【0066】
モータ50のトルクでのP抜き不能な噛み合い面圧が発生している場合、時刻x11において、実施判定閾値θthよりも検出値θsnsが小さい位置にてポジションセンサ68の検出値θsnsが停滞する。
【0067】
時刻x11から停滞判定時間Xth1が経過した時刻x12において、アクチュエータ40の停滞が発生していると判定し、MGトルク指令値Tmg*を初期トルク値Tsとし、主機モータ70を駆動する。また、MGトルク指令値Tmg*を漸増させていく。MGトルクTmgは、MGトルク指令値Tmg*の変化に遅れて追従するが、追従遅れの詳細については説明を省略する。
【0068】
時刻x13にて、アクチュエータ40の停滞が解消し、ポジションセンサ68の検出値θsnsの最大値が更新されると、MGトルク指令値Tmg*を低下させる。なお、アクチュエータ40の停滞が解消しない場合、一点鎖線で示すように、MGトルク指令値Tmg*を上限トルク値Tuまで増加させる。また、初期トルク値Ts=0とし、主機モータ70が停止している状態からMGトルクTmgを漸増させるようにしてもよい。また、初期トルク値Ts=上限トルク値Tuとし、時刻x12から上限トルク値Tuを出力するようにしてもよい。
【0069】
レンジ切り替えが完了した時刻x14にて、MGトルク指令値Tmg
*を0とする。
図12の例では、レンジ切替完了のタイミングとMGトルク指令値Tmg
*が0になるタイミングとが概ね同時となっているが、レンジ切替完了前にMGトルク指令値Tmg
*が0になっていてもよい。
【0070】
本実施形態では、車両傾斜等により、噛み合い面圧がパーキングロック機構30に発生しているとき、アクチュエータ40側に設けられているポジションセンサ68の検出値θsnsに基づき、主機モータ70による噛み合い面圧低減制御の開始を判定する。これにより、アクチュエータ40の停滞を速やかに判定可能であり、主機モータ70による面圧低減制御開始までの時間を短縮することができ、応答性を向上可能である。また、停滞によるモータ50の発熱や、モータ50の駆動に係る素子等の発熱を抑制することができる。
【0071】
以上説明したように、車両制御装置80は、車両100の駆動源である主機モータ70と、パーキングロック機構30と、アクチュエータ40と、を備える車両駆動システム90を制御する。パーキングロック機構30は、車軸95に接続されるパーキングギア35、および、パーキングギア35と噛み合い可能であるパーキングレバー33を有し、パーキングギア35とパーキングレバー33とが噛み合うことで車軸95をロック可能である。アクチュエータ40は、パーキングレバー33を駆動可能である。本実施形態のアクチュエータ40は、噛み合い面圧が生じているとき、パーキングロックを解除不能な使用環境領域が存在している。
【0072】
車両制御装置80は、アクチュエータ40の駆動を制御するアクチュエータ駆動制御部811と、主機モータ70の駆動を制御するMG駆動制御部821と、停滞判定部822と、を備える。停滞判定部822は、アクチュエータ40の駆動状態に応じて変化する物理量を検出するセンサ部の検出値に基づいて、アクチュエータ40の停滞を判定する。本実施形態のセンサ部は、アクチュエータ40の回転角度を検出するポジションセンサ68である。
【0073】
パーキングロックを解除するとき、MG駆動制御部821は、アクチュエータ40が停滞していると判定された場合、パーキングギア35とパーキングレバー33との噛み合い面圧を低減するように主機モータ70を駆動する噛み合い面圧低減制御を行う。
【0074】
これにより、アクチュエータ40を小型化しつつ、確実にP抜きを行うことができる。また、アクチュエータ40の駆動に応じて変化する信号に基づいて停滞判定を行うことで、アクチュエータ40の駆動開始からMGトルク印加開始までの期間を短縮可能であるので、応答性を向上可能である。また、モータ50およびモータ50の駆動に係るICの発熱を抑制することができる。
【0075】
停滞判定部822は、ポジションセンサ68の検出値が回転方向側に更新されない状態が停滞判定時間Xth1に亘って継続した場合、アクチュエータ40が停滞していると判定する。これにより、アクチュエータ40の停滞を適切に判定することができる。
【0076】
停滞判定部822は、ポジションセンサ68の検出値が、実施判定閾値θthを越えた場合、噛み合い面圧低減制御を行わない。これにより、正常な停止制御やメカロックを、噛み合い面圧による停滞であると誤判定するのを防ぐことができる。
【0077】
(第2実施形態)
第2実施形態を
図13~
図15に示す。第2実施形態~第5実施形態は、主に主機モータ70の処理が異なっているので、この点を中心に説明する。
図13のフローチャートに示すMG制御処理において、S231~S233処理は、
図11中のS201~S203の処理と同様である。
【0078】
S232にて肯定判断された場合に移行するS234では、停滞判定部822は、ポジションセンサ68の検出値θsnsが到達判定値θrに到達したか否か判断する。
図14は、上段にポジションセンサ68の検出値θsns、下段にモータ50の出力トルクTactを示す。出力トルクTactは、噛み合い面圧が発生していない場合を実線、噛み合い面圧が発生している場合を破線で示す。
【0079】
図14の下段に示すように、ディテントローラ26がディテントプレート21の山部215を乗り越えるまでの範囲において、モータ軸505が出力軸15に対して先行するため、モータ50の出力トルクTactは正となる。ディテントローラ26が山部215を乗り越えると、ディテントスプリング25のスプリング力により出力軸15が先行するため、出力トルクTactが負となる。ディテントローラ26が山部215を乗り越えるタイミングのポジションセンサ68の検出値θsnsを吸い込み開始位置θx、噛み合い面圧のピークとなる検出値θsnsをピーク位置θpとすると、到達判定値θrは、ピーク位置θpと吸い込み開始位置θxとの間の範囲R1内に設定される。また、到達判定値θrは、ピーク位置θpとPレンジ解除位置θyとの間の範囲R2内に設定してもよい。Pレンジ解除位置θyは、レンジセンサ37の検出値がPからnotPに切り替わる位置である。
【0080】
図13に戻り、検出値θsnsが到達判定値θrに到達したと判断された場合(S234:YES)、S242へ移行する。到達判定値θrを通過している場合も、肯定判断する。すなわち、モータ50の駆動にて到達判定値θrを通過していれば、噛み合い面圧成分に起因する停滞は発生しないため、主機モータ70を駆動せずにP抜き可能である。検出値θsnsが到達判定値θrに到達していないと判断された場合(S234:NO)、S235へ移行する。
【0081】
S235では、停滞判定部822は、カウント値C2が到達判定時間Xth2に応じて設定される到達判定閾値Cth2以下か否か判断する。本実施形態の到達判定時間Xth2は、噛み合い面圧が発生していないときに、検出値θsnsが到達判定値θrに到達するのに要する時間に応じて設定される。カウント値C2が到達判定閾値Cth2以下であると判断された場合(S235:YES)、S236へ移行し、カウント値C2をカウントアップする。カウント値C2が到達判定閾値Cth2より大きいと判断された場合(S235:NO)、S237へ移行する。S237~S245の処理は、
図11中のS208~S216の処理と同様である。
【0082】
本実施形態のP抜き制御処理を
図15のタイムチャートに基づいて説明する。時刻x20にて、シフト指示がPレンジからnotPレンジに切り替わると、モータ50の駆動を開始し、計時が開始される。時刻x21にて、到達判定値θrより手前にて、ポジションセンサ68の検出値θsnsが停滞している。
【0083】
モータ50の駆動開始から到達判定時間Xth2が経過した時刻x22における検出値θsnsが到達判定値θrより小さいため、アクチュエータ40が停滞していると判定し、主機モータ70の駆動を開始する。時刻x23にて、ポジションセンサ68の検出値θsnsが到達判定値θrに到達すると、MGトルク指令値Tmg*の低減を開始する。主機モータ70の駆動制御の詳細は、上記実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0084】
本実施形態では、停滞判定部822は、ポジションセンサ68の検出値が到達判定時間Xth2内に到達判定値θrに到達しなかった場合、アクチュエータ40が停滞していると判定する。これにより、アクチュエータ40の停滞を適切に判定することができる。
【0085】
車両駆動システム90は、ディテントプレート21、ディテントローラ26およびディテントスプリング25を有するディテント機構20を備える。ディテントプレート21は、複数の谷部211、212が形成され、パーキングレバー33と接続されている。ディテントローラ26は、アクチュエータ40の駆動により、谷部211、212を移動可能である。ディテントスプリング25は、ディテントローラ26を谷部211、212に嵌まり合う方向に付勢する。
【0086】
到達判定値θrは、車軸95にかかる荷重による噛み合い面圧がピークとなるピーク位置θpと、Pレンジ以外のレンジであるnotPレンジに対応する谷部212にディテントローラ26をディテントスプリング25の付勢力により移動可能な位置である吸い込み開始位置θxと、の間に設定されている。
【0087】
また、到達判定値θrは、車軸95にかかる荷重による噛み合い面圧がピークとなるピーク位置θpと、Pレンジが解除されるPレンジ解除位置θyと、の間に設定してもよい。これにより、到達判定値θrを適切に設定し、噛み合い面圧によるアクチュエータ40の停滞を判定することができる。また、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0088】
(第3実施形態)
第3実施形態を
図16に示す。本実施形態では、アクチュエータ40の温度であるアクチュエータ温度tmpおよび入力電圧Vに応じて、到達判定時間Xth2を可変にする。詳細には、アクチュエータ温度tmpが低いほど、応答性が低く、ピーク位置θpに到達するのに要する時間が長くなる。また、入力電圧Vが低い場合も、ピーク位置θpに到達するのに要する時間が長くなる。
【0089】
そこで、
図16に示すように、例えばマップ演算によりアクチュエータ温度tmpおよび入力電圧Vに基づいて到達判定時間Xth2を設定する。具体的には、入力電圧Vが小さいほど、到達判定時間Xth2が長くなるように設定される。また、アクチュエータ温度tmpが低いほど、到達判定時間Xth2が長くなるように設定される。
【0090】
図16では、入力電圧Vに応じた3つのマップを示しているが、マップ数は2または4以上であってもよい。また、マップは非線形であってもよいし、マップ演算に替えて関数等を用いて到達判定時間Xth2を演算するようにしてもよい。また、第1実施形態等の停滞判定時間Xth1をアクチュエータ温度tmpおよび入力電圧Vの少なくとも一方に応じて可変としてもよい。
【0091】
停滞判定に係る判定時間である到達判定時間Xth2は、アクチュエータ40の温度に応じて可変である。本実施形態では、温度センサ69の検出値をアクチュエータ温度tmpとするが、これに替えて、TM油温を用いてもよい。また、到達判定時間Xth2は、アクチュエータ40への入力電圧Vに応じて可変である。これにより、停滞判定に係る判定時間を適切に設定することができる。また、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0092】
(第4実施形態)
第4実施形態を
図17に示す。本実施形態のMG制御処理では、S202にて肯定判断されて移行するS224が第1実施形態と異なっているので、この点について説明する。S224では、ポジションセンサ68の検出値θsnsに基づき、アクチュエータ40の回転速度が速度閾値以下か否か判定する。アクチュエータ40の回転速度が速度閾値以下であると判断された場合(S224:YES)、S205へ移行する。アクチュエータ40の回転速度が速度閾値より大きいと判断された場合(S224:NO)、S213へ移行する。他の処理は
図11と同様である。
【0093】
本実施形態では、停滞判定部822は、アクチュエータ40の駆動速度が速度判定閾値以下の状態は判定時間に亘って継続した場合、アクチュエータ40が停滞していると判定する。これにより、アクチュエータ40の停滞を適切に判定することができる。また、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0094】
(第5実施形態)
第5実施形態を
図18~
図20に示す。
図18は、初期トルク値Tsおよび上限トルク値Tuの設定範囲を概念的に説明する図である。パーキングロック機構30を作動させるとき、パーキングレバー33の凸部331がパーキングギア35に嵌まり合う位置は、バックラッシュの範囲内で成り行きである。凸部331がバックラッシュの範囲内に位置している場合、面圧は発生しない。また、車両100の傾斜等で凸部331とパーキングギア35とが当接すると、車重成分に応じた噛み合い面圧が発生する(
図8参照)。
【0095】
そのため、上記実施形態でも説明した通り、車重要因にて発生する噛み合い面圧を低減するように主機モータ70を駆動する。初期トルク値Tsは、0以上、面圧が0となる範囲に設定される。また、上限トルク値Tuは、車重成分とMGトルクTmgとの差分である残留車重成分が、モータ50でのP抜き可能範囲となる、またはそれ以上となるように設定される。
【0096】
ここで、MGトルクTmgが車重成分より大きくなると、車両100に推進力が発生する。そこで本実施形態では、P抜き制御における主機モータ70の駆動により車両100が意図せず発進しないように、パーキングロック機構30とは別の車両制動装置のブレーキ力を増加させる。
【0097】
本実施形態のMG制御処理を
図19のフローチャートに基づいて説明する。S261~S269の処理は、
図11中のS201~S209の処理と同様である。S269に続いて移行するS270では、車両制御装置80は、ブレーキ荷重を増加させる旨の指令をブレーキECU85に送信する。S271~S277の処理は、
図11中のS210~S216の処理と同様である。ここでは、第1実施形態のMG制御処理にて、ブレーキ荷重を増加させる例を説明したが、第2実施形態または第3実施形態にて、同様にブレーキ荷重を増加させるようにしてもよい。
【0098】
本実施形態のP抜き制御処理を
図20のタイムチャートに基づいて説明する。
図20では、横軸を共通時間軸とし、上段から、シフト指示、MGトルク指令値Tmg
*、MGトルクTmg、ポジションセンサ68の目標値θ
*、ポジションセンサ68の検出値θsns、ブレーキ荷重を示す。本実施形態では、アクチュエータ40が停滞していると判定され、主機モータ70の駆動を開始する時刻x12にて、ブレーキ荷重を増加させる。
図20では、ブレーキ荷重を増加した状態が継続されているが、レンジ切替が完了した時刻x14にて、ブレーキ荷重を増加前の状態に戻してもよい。
【0099】
本実施形態では、車両制御装置80は、噛み合い面圧低減制御により主機モータ70を駆動している場合、噛み合い面圧低減制御を行っていない場合よりもブレーキ荷重を大きくする。これにより、意図しない車両100の発進を防ぐことができる。また、上記実施形態と同様の効果を奏する。
【0100】
実施形態では、ポジションセンサ68が「センサ部」および「回転角センサ」、アクチュエータ40の回転に応じて変化するセンサマグネット65の磁界が「アクチュエータの駆動に応じて変化する物理量」、ディテントプレート21が「ディテント部材」、ディテントスプリング25が「付勢部材」、ディテントローラ26が「係合部材」、MG駆動制御部821が「主機モータ駆動制御部」に対応する。
【0101】
(他の実施形態)
第1実施形態では、ポジションセンサ68の最大値の更新、第2実施形態では到達判定値θrへの到達時間、第4実施形態ではアクチュエータ40の駆動速度に基づいて、アクチュエータの停滞を判定する。他の実施形態では、これらを組み合わせ、複数が成立している場合にアクチュエータが停滞している、と判定してもよい。
【0102】
上記実施形態では、センサ部は、アクチュエータ40の回転を検出するポジションセンサ68である。他の実施形態では、センサ部は、アクチュエータの駆動に応じて変化する値を検出するものであれば、例えば電流センサ等であってもよい。
【0103】
上記実施形態では、アクチュエータの減速段数は3段である。他の実施形態では、減速段数は2段または4段以上であってもよい。また、モータの駆動が出力軸に伝達できればよく、モータから出力軸に動力を伝達する機構の構成は、異なっていてもよい。
【0104】
上記実施形態では、モータは、ブラシ付きDCモータである。他の実施形態では、モータは、ブラシ付きDCモータ以外のものであってもよい。また、上記実施形態では、アクチュエータは、噛み合い面圧が生じているとき、パーキングロックを解除不能な使用領域が存在している。他の実施形態では、アクチュエータにて、パーキングロックを解除不能な使用領域が存在していなくてもよい。このような場合であっても、主機モータによる噛み合い面圧低減制御を行うことで、アクチュエータの負荷を低減可能である。
【0105】
上記実施形態では、ディテント部材であるディテントプレートには2つの谷部が設けられている。他の実施形態では、谷部の数は2つに限らず、3以上であってもよい。また、ディテント機構やパーキングロック機構等の構成は、上記実施形態と異なっていてもよい。上記実施形態では、ディテント機構20により、パーキングロック状態を保持する。他の実施形態では、ディテント機構20に替えて、アクチュエータ40自身のセルフロック機構によりパーキングロック状態を保持するように構成してもよい。
【0106】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0107】
30・・・パーキングロック機構
33・・・パーキングレバー 35・・・パーキングギア
40・・・アクチュエータ
68・・・ポジションセンサ(センサ部、回転角センサ)
70・・・主機モータ 80・・・車両制御装置
81・・・アクチュエータ制御ユニット
811・・・アクチュエータ駆動制御部
82・・・MG制御ユニット
821・・・MG駆動制御部(主機モータ駆動制御部)
822・・・停滞判定部
90・・・車両駆動システム 95・・・車軸