(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】電極合剤の製造方法、電極合剤、電極及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20240730BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240730BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240730BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2021154788
(22)【出願日】2021-09-22
【審査請求日】2023-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】久保田 勝
(72)【発明者】
【氏名】村石 一生
(72)【発明者】
【氏名】長野 愛子
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-009756(JP,A)
【文献】特開2017-098196(JP,A)
【文献】特開2015-130340(JP,A)
【文献】国際公開第2021/199618(WO,A1)
【文献】特開2022-061017(JP,A)
【文献】特開2023-021849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01M 4/36
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質とコート液とを含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴を得ること、
前記スラリー液滴を加熱気体中で気流乾燥させて、第1前駆体と第2前駆体とを得ること、及び
前記第1前駆体と前記第2前駆体とを焼成して、第1粒子と第2粒子とを得ること、
を含み、
前記第1前駆体が、前記活物質と前記コート液に由来する成分とを含み、
前記第2前駆体が、前記活物質を含まず、前記コート液に由来する成分を含み、
前記第1粒子が、前記活物質と前記活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有し、
前記第2粒子が、前記活物質を含まず、前記被覆層を構成する成分と同じ成分を含む、
電極合剤の製造方法。
【請求項2】
前記加熱気体の温度が、250℃以上である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スラリーを噴霧することによって前記スラリー液滴を得る、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記コート液が、少なくともリチウム源とニオブ源とを含む、
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記コート液が、前記ニオブ源として、ニオブのペルオキソ錯体を含む、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも前記第1粒子と前記第2粒子と固体電解質とを混合することを含む、
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、電極合剤の製造方法、電極合剤、電極及びリチウムイオン電池を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、転動流動コーティング装置を用いて、特定のコート液を活物質の表面に噴霧しつつ乾燥し、その後焼成することを経て、活物質複合体(被覆活物質)を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された方法では、活物質に対してコート液を高速で噴霧した場合、活物質の造粒が生じ易い。造粒した活物質を用いて電極や電池を構成した場合、例えば、電極や電池の抵抗が増加する虞がある。一方で、活物質の造粒を抑制するためにコート液を低速で噴霧した場合、被覆活物質を製造するために必要な時間が長くなる。このように、従来技術においては、活物質の造粒の抑制と製造工程の高速化とを両立することが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は、上記課題を解決するための手段の一つとして、
活物質とコート液とを含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴を得ること、
前記スラリー液滴を加熱気体中で気流乾燥させて、第1前駆体と第2前駆体とを得ること、及び
前記第1前駆体と前記第2前駆体とを焼成して、第1粒子と第2粒子とを得ること、
を含み、
前記第1前駆体が、前記活物質と前記コート液に由来する成分とを含み、
前記第2前駆体が、前記活物質を含まず、前記コート液に由来する成分を含み、
前記第1粒子が、前記活物質と前記活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有し、
前記第2粒子が、前記活物質を含まず、前記被覆層を構成する成分と同じ成分を含む、
電極合剤の製造方法
を開示する。
【0006】
本開示の方法において、前記加熱気体の温度が、250℃以上であってもよい。
【0007】
本開示の方法において、前記スラリーを噴霧することによって前記スラリー液滴を得てもよい。
【0008】
本開示の方法において、前記コート液が、少なくともリチウム源とニオブ源とを含んでいてもよい。
【0009】
本開示の方法において、前記コート液が、前記ニオブ源として、ニオブのペルオキソ錯体を含んでいてもよい。
【0010】
本開示の方法は、少なくとも前記第1粒子と前記第2粒子と固体電解質とを混合することを含んでいてもよい。
【0011】
本願は、上記課題を解決するための手段の一つとして、
電極合剤であって、少なくとも第1粒子と第2粒子とを含み、
前記第1粒子が、活物質と前記活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有し、
前記第2粒子が、前記活物質を含まず、前記被覆層を構成する成分と同じ成分を含む、
電極合剤
を開示する。
【0012】
本開示の電極合剤において、前記第2粒子の断面の真円度が、0.30以上1.00以下であってもよい。
【0013】
本開示の電極合剤において、前記被覆層が、構成元素として少なくともリチウムとニオブとを含んでいてもよい。
【0014】
本開示の電極合剤は、少なくとも前記第1粒子と前記第2粒子と固体電解質とを含んでいてもよい。
【0015】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
本開示の電極合剤からなる層を備える、電極
を開示する。
【0016】
本開示の電極においては、前記層の断面を観察した場合において、前記層に占める前記第2粒子の割合が0.02面積%以上であってもよい。
【0017】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
本開示の電極を備える、リチウムイオン電池
を開示する。
【発明の効果】
【0018】
本開示の方法によれば、活物質の造粒の抑制と製造工程の高速化とが両立され易い。本開示の電極合剤を用いて電極や電池を構成することで、例えば、抵抗の低い電極や電池が得られ易い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】電極合剤の製造方法の流れの一例を示している。
【
図2A】スラリー液滴の一例を概略的に示している。
【
図2B】スラリー液滴の一例を概略的に示している。
【
図2C】スラリー液滴の一例を概略的に示している。
【
図2D】スラリー液滴の一例を概略的に示している。
【
図4A】気流乾燥による効果の一例を概略的に示している。
【
図4B】気流乾燥による効果の一例を概略的に示している。
【
図5】前駆体を焼成して得られる粒子の一例を概略的に示している。
【
図7】リチウムイオン電池の構成の一例を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0020】
1.電極合剤の製造方法
図1~5に示されるように、一実施形態に係る電極合剤の製造方法S10は、
工程S1:活物質10aとコート液10bとを含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴10を得ること
工程S2:前記スラリー液滴10を加熱気体中で気流乾燥させて、第1前駆体21と第2前駆体22とを得ること、及び
工程S3:前記第1前駆体21と前記第2前駆体22とを焼成して、第1粒子31と第2粒子32とを得ること
を含む。ここで、前記第1前駆体21は、前記活物質10aと前記コート液10bに由来する成分10cとを含み、前記第2前駆体22は、前記活物質10aを含まず、前記コート液10bに由来する成分10cを含み、前記第1粒子31は、前記活物質10aと前記活物質10aの表面の少なくとも一部を被覆する被覆層10dとを有し、前記第2粒子32は、前記活物質10aを含まず、前記被覆層10dを構成する成分と同じ成分を含む。
【0021】
1.1 工程S1
図2A~2Dに示されるように、工程S1においては、活物質10aとコート液10bとを含むスラリーを液滴化させて、スラリー液滴10を得る。
【0022】
1.1.1 活物質
活物質は、正極活物質であってもよいし、負極活物質であってもよい。活物質の具体例としては、例えば、LiCoO2、LiNixCo1-xO2(0<x<1)、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2、LiMnO2、異種元素置換Li-Mnスピネル(LiMn1.5Ni0.5O4、LiMn1.5Al0.5O4、LiMn1.5Mg0.5O4、LiMn1.5Co0.5O4、LiMn1.5Fe0.5O4、LiMn1.5Zn0.5O4等)、チタン酸リチウム(例えばLi4Ti5O12)、リン酸金属リチウム(LiFePO4、LiMnPO4、LiCoPO4、LiNiPO4)等のリチウム含有酸化物;リチウム含有酸化物以外の各種酸化物系活物質;Si、Si合金等のSi系活物質;グラファイトやハードカーボン等の炭素系活物質;金属リチウムやリチウム合金等が挙げられる。これらのうち、充放電電位が相対的に貴である物質を正極活物質とし、充放電電位が相対的に卑である物質を負極活物質として用い得る。特に、活物質がリチウム含有酸化物である場合に、本開示の方法による一層高い効果が期待できる。活物質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。活物質は、硫化物固体電池に用いられるものであってもよい。
【0023】
活物質の形状は、スラリーの液滴化が可能である限り、特に限定されるものではない。例えば、活物質は粒子状であってもよい。活物質粒子は、中実の粒子であってもよく、中空の粒子であってもよい。活物質粒子は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。活物質粒子の平均粒子径(D50)は、例えば1nm以上、5nm以上、又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下、又は30μm以下であってもよい。尚、平均粒子径D50は、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(メジアン径)である。
【0024】
1.1.2 コート液
コート液に由来する成分によって活物質の表面に被覆層が形成され得る。また、コート液に由来する成分によって後述の第2前駆体及び第2粒子が構成され得る。被覆層は、例えば、活物質と他の物質との間の界面抵抗の上昇を抑制する機能を有するものであってもよい。コート液の種類は、被覆対象である活物質の種類や目的とする被覆層の機能に合わせて選択することができる。
【0025】
活物質の表面にリチウムとリチウム以外の元素Aとを含む酸化物からなる層を設ける場合、コート液は、リチウム源とA源とを含んでよい。元素Aの具体例としては、B、C、Al、Si、P、S、Ti、Zr、Nb、Mo、Ta、Wからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。例えば、活物質の表面に被覆層としてニオブ酸リチウム層を設ける場合、コート液は、少なくともリチウム源及びニオブ源を含み得る。被覆層の性能を一層高める観点から、コート液は、リチウム源及びニオブ源に加えて、リン源及びホウ素源のうちの少なくとも一方を含んでいてもよい。或いは、ニオブ源に替えて、リン源やホウ素源のうちの少なくとも一方を含んでいてもよい。例えば、ニオブ酸リチウムのNbの一部をPに置換する(或いは、ニオブ酸リチウムにPをドープする)ことで、被覆層の耐電圧性が向上し易い。コート液は、リチウム源として、リチウムイオンを含んでいてもよい。例えば、溶媒にLiOH、LiNO3、Li2SO4等のリチウム化合物を溶解させることで、リチウム源としてリチウムイオンを含むコート液を得てもよい。或いは、コート液は、リチウム源として、リチウムのアルコキシドを含んでいてもよい。また、コート液は、ニオブ源として、ニオブのペルオキソ錯体を含んでいてもよい。或いは、コート液は、ニオブ源として、ニオブのアルコキシドを含んでいてもよい。特に、コート液が、ニオブ源として、ニオブのペルオキソ錯体を含む場合に、高い性能が得られ易い。コート液に含まれるリチウム源とニオブ源とのモル比は、特に限定されないが、例えば、モル比Li/Nbが0.5以上又は0.8以上であってもよく、2.0以下又は1.5以下であってもよい。以下、(i)リチウムイオン及びニオブのペルオキソ錯体を含むコート液、並びに(ii)リチウムのアルコキシド及びニオブのアルコキシドを含むコート液を例示する。
【0026】
(i)リチウムイオン及びニオブのペルオキソ錯体を含むコート液
コート液は、例えば、過酸化水素水、ニオブ酸、及び、アンモニア水等を用いることにより透明溶液を作製した後、当該透明溶液にリチウム化合物を添加することによって得てもよい。尚、ニオブのペルオキソ錯体([Nb(O2)4]3-)の構造式は、例えば、下記のとおりである。
【0027】
【0028】
(ii)リチウムのアルコキシド及びニオブのアルコキシドを含むコート液
コート液は、例えば、エトキシリチウム粉末を溶媒に溶解させた後、ここに所定の量のペンタエトキシニオブを加えることにより得てもよい。この場合、溶媒としては、脱水エタノール、脱水プロパノール、脱水ブタノール等を例示することができる。
【0029】
コート液に由来する成分によって活物質の表面に設けられる被覆層の種類は、リチウムとリチウム以外の元素Aとを含む酸化物からなる層に限定されるものではない。活物質の表面を何らかの物質で修飾したり被覆したりする場合に、本開示の方法を利用することができる。例えば、高出力化・長寿命化等のために、遷移金属酸化物を正負極活物質の表面へ被覆する場合等にも、本開示の方法を利用することができる。ただし、本開示の方法は、活物質の表面に、リチウムとリチウム以外の元素Aとを含む酸化物からなる層を設ける場合に、特に顕著な効果が発揮されるものと考えられる。
【0030】
1.1.3 スラリー
「スラリー」とは、活物質とコート液とを含む懸濁体又は懸濁液であって、液滴化できる程度の流動性を有するものであればよい。本開示の方法において、スラリーは、例えば、スプレーノズルやロータリーアトマイザーを用いて液滴化できる程度の流動性を有するものであってもよい。尚、スラリーは、上記した活物質及びコート液の他に、何らかの固体成分や液体成分を含んでいてもよい。
【0031】
スラリーの固形分濃度は、活物質の種類、コート液の種類、及び液滴化の条件(液滴化に用いる装置の種類)等に応じて決定されればよい。スラリーにおける固形分濃度は、特に限定されず、例えば、1vol%以上、5vol%以上、10vol%以上、20vol%以上、25vol%以上、30vol%以上、35vol%以上、40vol%以上、45vol%以上、50vol%以上であってもよく、70vol%以下、65vol%以下、60vol%以下、55vol%以下、50vol%以下、45vol%以下、40vol%以下、35vol%以下、30vol%以下、25vol%以下又は20vol%以下であってもよい。スラリー液滴をより容易に得る観点から、スラリーの固形分濃度は1vol%以上又は5vol%以上であってもよく、40vol%以下、35vol%以下、30vol%以下、25vol%以下又は20vol%以下であってもよい。
【0032】
1.1.4 スラリーの液滴化
スラリーの「液滴化」とは、活物質及びコート液を含むスラリーを、活物質とコート液とを含む粒(第1液滴)や、活物質を含まずコート液を含む粒(第2液滴)とすることを意味する。
【0033】
活物質及びコート液を含むスラリーを液滴化させる方法は、特に限定されるものではない。例えば、スラリーを噴霧することでスラリー液滴を得てもよい。スラリーを噴霧する場合、スプレーノズルを用いてもよい。スプレーノズルを用いてスラリーを噴霧する方法としては、加圧ノズル法や二流体ノズル法等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
スプレーノズルを用いてスラリーを噴霧する場合、ノズル径は特に限定されるものではない。ノズル径は、例えば、0.1mm以上、0.5mm以上又は1mm以上であってもよいし、10mm以下、5mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0035】
また、スラリーの噴霧速度(スプレーノズルに対するスラリーの供給速度(送液速度))も特に限定されるものではない。スラリーの粘度や固形分濃度、ノズル寸法等に応じて噴霧速度を調整してもよい。噴霧速度は、例えば、0.1g/秒以上、0.5g/秒以上又は1.0g/秒以上であってもよく、5.0g/秒以下、3.5g/秒以下又は2.0g/秒以下であってもよい。本発明者の新たな知見によると、噴霧速度が高速である場合に、後述の第2前駆体及び第2粒子が生じ易い。
【0036】
スラリーを液滴化させる方法としては、上記したようなスプレーノズルを用いてスラリーを噴霧する方法の他、例えば、回転している円板上に活物質及びコート液を含むスラリーを一定速度で供給して遠心力により液滴化させる方法も例示できる。この場合においても、スラリーの供給速度は、例えば、0.1g/秒以上、0.5g/秒以上又は1.0g/秒以上であってもよく、5.0g/秒以下、3.5g/秒以下又は2.0g/秒以下であってもよく、スラリーの粘度や固形分濃度等、ノズル寸法に応じて供給速度を調整してもよい。或いは、活物質及びコート液を含むスラリーの表面に高い電圧を印加して液滴化させる方法等を採用することもできる。
【0037】
本開示の方法においては、例えば、スプレードライヤーを用いて、スラリーの液滴化(工程S1)と気流乾燥(工程S2)とを行ってもよい。スプレードライヤーの方式は特に限定されるものではなく、上記のスプレーノズルを用いる方式や、回転円板を用いる方式等が挙げられる。
【0038】
1.1.5 スラリー液滴
上述の通り、「スラリー液滴」には、活物質とコート液とを含む粒(第1液滴)やコート液からなる粒(第2液滴)が含まれ得る。スラリー液滴の大きさは特に限定されるものではない。第1液滴の径(球相当直径)は、例えば、0.1μm以上、0.5μm以上又は5.0μm以上であってもよいし、5000μm以下、1000μm以下又は500μm以下であってもよい。第2液滴の径(球相当直径)は、例えば、0.1μm以上、0.5μm以上又は5.0μm以上であってもよいし、1000μm以下、500μm以下又は50μm以下であってもよい。スラリー液滴の径は、例えば、スラリー液滴を撮像して得られる2次元画像を用いて測定することができるし、レーザー回折式の粒度分布計を用いて測定することもできる。或いは、スラリー液滴を形成する装置の運転条件等から液滴径を推定することもできる。
【0039】
本開示の方法においては、一滴のスラリー液滴が、例えば、コート液のみからなるものであってもよいし、一つの活物質粒子とそれに付着したコート液とを含むものであってもよいし、複数の活物質粒子(粒子群)とそれらに付着したコート液とを含むものであってもよい。以下、スラリー液滴の形態の一例を示す。
【0040】
図2Aに示されるように、スラリー液滴10は、活物質10aを含まず、コート液10bからなるものであってもよい。
【0041】
図2Bに示されるように、スラリー液滴10は、一つの活物質粒子10aとそれに付着したコート液10bとを含んでいてもよく、コート液10bは、活物質粒子10aの表面全体を被覆していてもよい。
【0042】
図2Cに示されるように、スラリー液滴10は、一つの活物質粒子10aとそれに付着したコート液10bとを含んでいてもよく、コート液10bは、活物質粒子10aの表面の一部を被覆していてもよい。
【0043】
図2Dに示されるように、スラリー液滴10は、複数の活物質粒子10aとそれらに付着したコート液10bとを含んでいてもよい。コート液10bは、複数の活物質粒子10aの全体を被覆していてもよいし、一部を被覆していてもよい。
【0044】
1.2 工程S2
図3に示されるように、工程S2においては、工程S1で得られたスラリー液滴10を加熱気体中で気流乾燥させて、第1前駆体21と第2前駆体22とを得る。「第1前駆体」は後述する第1粒子(被覆活物質)の前駆体であり、「第2前駆体」は後述する第2粒子の前駆体である。
図3に示されるように、第1前駆体21は、活物質10aとコート液に由来する成分10cとを含み、第2前駆体22は、活物質10aを含まず、コート液に由来する成分10cを含む。
【0045】
1.2.1 気流乾燥条件
本開示の方法において「気流乾燥」とは、スラリー液滴を高温の気流中で浮遊させつつ乾燥することを意味する。「気流乾燥」は、乾燥だけではなく、動的な気流を用いることによる付随的な操作を含み得る。気流乾燥によってスラリー液滴又は前駆体に熱風を当て続けることで、スラリー液滴又は前駆体に対して力が印加され続けることとなる。これを利用して、工程S2は、気流乾燥によってスラリー液滴や前駆体を解す(解砕する)ことを含んでいてもよい。
【0046】
具体的には、
図4Aに示されるように、スラリー液滴を気流乾燥させる際に、一つのスラリー液滴10xを活物質粒子毎又は活物質粒子群毎に解砕して、複数のスラリー液滴10yを得てもよいし、
図4Bに示されるように、凝集した一つの第1前駆体21xを活物質粒子毎又は活物質粒子群毎に解砕して、複数の第1前駆体21yを得てもよい。言い換えれば、本開示の方法においては、第2前駆体や第2粒子の存在によって第1前駆体や第1粒子の造粒が抑制され易いことに加えて、仮に第1前駆体や第1粒子の造粒が生じた場合でも、気流乾燥によって造粒体の一部を解砕することができる。この点、本開示の方法においては、固形分濃度の低いスラリーであって造粒や凝集が懸念されるようなものを用いることもでき、被覆活物質(第1粒子)を製造するにあたっての処理速度を増加させ易い。このように、工程S2において、気流乾燥によってスラリー液滴や前駆体を解砕することによって、製造時間を短縮し易くなるとともに、より性能の高い被覆活物質(第1粒子)を製造し易くなる。
【0047】
工程S2においては、上記の乾燥と解砕とが同時に行われてもよいし、別々に行われてもよい。工程S2においては、スラリー液滴の乾燥が優位となる第1の気流乾燥と、前駆体の解砕が優位となる第2の気流乾燥とが行われてもよい。また、工程S2が繰り返し行われてもよい。
【0048】
工程S2において、加熱気体の温度は、スラリー液滴から溶媒を揮発させることが可能な温度であればよい。例えば100℃以上、110℃以上、120℃以上、130℃以上、140℃以上、150℃以上、160℃以上、170℃以上、180℃以上、190℃以上、200℃以上、210℃以上、220℃以上、230℃以上、240℃以上又は250℃以上であってもよい。本発明者の新たな知見によると、加熱気体が高温である場合、例えば250℃以上である場合に、第2前駆体及び第2粒子をより多く生じさせ易く、第1前駆体や第1粒子の凝集や造粒が一層抑制され易い。活物質の表面がコート液によって被覆されるか否かは、コート液の表面エネルギーによって大きく変化するものと考えられるところ、加熱気体の温度を高温とすることで、コート液も高温となり、コート液の表面エネルギーが大きく変化して、活物質の表面に定着できるコート液の量が減少する可能性がある。
【0049】
工程S2において、加熱気体の給気量(流量)は、用いる装置の大きさやスラリー液滴の供給量等を考慮して適宜設定することができる。例えば、加熱気体の流量は、0.10m3/分以上、0.15m3/分以上、0.20m3/分以上、0.25m3/分以上、0.30m3/分以上、0.35m3/分以上、0.40m3/分以上、0.45m3/分以上、又は0.50m3/分以上であってもよく、また5.00m3/分以下、4.00m3/分以下、3.00m3/分以下、2.00m3/分以下、又は1.00m3/分以下であってもよい。
【0050】
工程S2において、加熱気体の給気速度(流速)についても、用いる装置の大きさやスラリー液滴の供給量等を考慮して適宜設定することができる。例えば、加熱気体の流速は、系内の少なくとも一部において、1m/秒以上又は5m/秒以上であってもよく、50m/秒以下又は10m/秒以下であってもよい。
【0051】
工程S2において、加熱気体による処理時間(乾燥時間)についても、用いる装置の大きさやスラリー液滴の供給量等を考慮して適宜設定することができる。例えば、処理時間は、5秒以下、又は1秒以下であってもよい。
【0052】
工程S2においては、活物質やコート液に対して実質的に不活性である加熱気体が用いられてもよい。例えば、空気等の酸素含有ガスや、窒素やアルゴン等の不活性ガス、低露点のドライエアー等を用いることができる。その場合の露点は、-10℃以下、-50℃以下であってもよいし、-70℃以下であってもよい。
【0053】
気流乾燥を行う装置としては、例えば、スプレードライヤーを用いることができるが、これに限定されない。
【0054】
1.2.2 第1前駆体
第1前駆体は、活物質とコート液に由来する成分とを含む。具体的には、第1前駆体においては、活物質の表面の少なくとも一部が、コート液に由来する成分によって被覆されている。活物質の詳細やコート液に含まれる成分の詳細については上述した通りである。活物質に対するコート液に由来する成分の付着量は、特に限定されるものではなく、目的とする被覆層の厚み等に応じて適宜調整されればよい。
【0055】
1.2.3 第2前駆体
第2前駆体は、活物質を含まず、コート液に由来する成分を含む。上述の通り、スラリー液滴を気流乾燥した場合、コート液の一部が「液余り」によって活物質に付着しないまま乾燥・凝縮され易い。すなわち、第2前駆体は、スラリー液滴の気流乾燥時に、コート液が活物質とは独立して凝縮・乾燥されたものといえる。第2前駆体は、活物質を含まないことから、第1前駆体よりも小さくなり易く、また、後述するように球状となり易い。このように、本開示の方法においては、第1前駆体とともに第2前駆体が生じさせることで、第1前駆体の造粒が抑制され易く、最終的に細かな第1粒子(被覆活物質)が得られ易い。
【0056】
1.3 工程S3
図5に示されるように、工程S3においては、工程S2で得られた第1前駆体21と第2前駆体22とを焼成する。これにより、第1粒子31と第2粒子32とが得られる。
図5に示されるように、第1粒子31は、活物質10aと活物質10aの表面の少なくとも一部を被覆する被覆層10dとを有する。すなわち、第1粒子31は、被覆活物質である。上述の通り、第1粒子31の被覆層10dは、コート液10bに由来する成分を含むものといえる。一方、第2粒子32は、活物質10aを含まず、上記の被覆層10dを構成する成分と同じ成分を含む。言い換えれば、第2粒子32も、コート液10bに由来する成分を含むものといえる。
【0057】
1.3.1 焼成条件
前駆体の焼成には、例えばマッフル炉又はホットプレート等が用いられてもよい。或いは、上記の気流乾燥において前駆体の焼成が行われることもあり得る。すなわち、工程S2において、スラリー液滴が気流乾燥されて前駆体となり、さらに前駆体が気流中で加熱保持されることで、工程S3に係る前駆体の焼成が行われてもよい。焼成の条件(焼成温度、焼成時間、焼成雰囲気等)は、特に限定されず、被覆活物質である第1粒子の種類に応じて適宜設定できる。焼成温度は、例えば、100℃以上、150℃以上、180℃以上、200℃以上、又は230℃以上であってもよく、また350℃以下、300℃以下、又は250℃以下であってもよい。工程S3における焼成温度は、工程S2における気流乾燥の温度よりも高くても、低くてもよく、気流乾燥の温度と同じであってもよい。焼成時間は、例えば、1時間以上、2時間以上、3時間以上、4時間以上、5時間以上、又は6時間以上であってもよく、また20時間以下、15時間以下、又は10時間以下であってもよい。焼成雰囲気は、例えば、大気雰囲気、真空雰囲気、乾燥空気雰囲気、窒素ガス雰囲気、又はアルゴンガス雰囲気であってよい。
【0058】
1.3.2 第1粒子(被覆活物質)
第1前駆体を焼成することで第1粒子が得られる。第1粒子を構成する活物質の詳細については上述した通りである。第1粒子は被覆層を有し、当該被覆層はコート液に由来する成分を含む。第1粒子における被覆層の厚さは、特に限定されず、例えば0.1nm以上、0.5nm以上、又は1nm以上であってもよく、また、500nm以下、300nm以下、100nm以下、50nm以下、又は20nm以下であってもよい。また、被覆層は、活物質の表面の70%以上又は90%以上を被覆していてもよい。なお、活物質表面における被覆層の被覆率は、粒子の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像等を観測することにより算出することができるし、X線光電分光法(XPS)にて表面の元素比率を計算することにより算出することもできる。
【0059】
第1粒子の粒子径(D90)は、特に限定されず、例えば1nm以上、10nm以上、100nm以上、1μm以上、2μm以上、3μm以上、4μm以上、5μm以上、6μm以上、7μm以上、8μm以上、又は9μm以上であってもよく、また50μm以下、30μm以下、20μm以下、又は10μm以下であってもよい。尚、粒子径D90は、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値90%での粒子径である。
【0060】
第1粒子においては、被覆層が複数の空孔を備えていてもよい。空孔は、例えば、空洞、気泡(ボイド)又は隙間(ギャップ)等であってもよい。各々の空孔の形状は特に限定されない。例えば、各々の空孔の断面形状は、円形状であってもよいし、楕円形状であってもよい。各々の空孔の大きさは、特に限定されない。例えば、第1粒子の断面を観察した場合において、空孔の円相当直径が10nm以上であってもよく、300nm以下であってもよい。被覆層における空孔の数も特に限定されない。被覆層における空孔の位置も特に限定されず、活物質と被覆層との界面に空孔が存在していてもよいし、被覆層内に空孔が存在していてもよい。被覆層は、その最表面(活物質とは反対側の表面)よりも内側(活物質側)に内包される空孔を複数有するものであってもよい。
【0061】
第1粒子において、被覆層が複数の空孔を備えることで、以下の効果が期待できる。例えば、第1粒子と他の電池材料との接触が有利になって、電子やイオンの移動が促進される可能性がある。また、第1粒子にクッション性が発現し、これにより、電極や電池とした場合の性能が向上する可能性がある。例えば、充放電時に活物質が膨張した場合や、電極のプレス加工等において被覆活物質に対して圧力が印加された場合においても、上記のクッション性によって活物質に加わる応力が低減され、活物質の割れが抑制されるものと考えられる。
【0062】
被覆層に複数の空孔を形成する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。すなわち、上記の本開示の方法において、スプレードライヤーを用いてスラリーの液滴化や気流乾燥を行うことがあり得る。この場合、スプレードライヤーの特徴である急速乾燥によって、スラリー(コート溶液及び活物質)中に含まれる成分の脱離と膜の生成とがほぼ同時に起きる。すなわち、成分の脱離の際に受ける物理的な力の影響を受けて膜の形状が大きく変化し、その影響を残した状態で膜が固まることから、上記のように被覆層中に複数の空孔が形成されるものと考えられる。この現象は、スラリーに含まれるコート液の種類が変わったとしても同様に生じるものと考えられるが、特に水などの低沸点溶媒(乾燥過程で急激な気化を伴う溶媒)を用いた場合に、優位に生じるものと予想される。
【0063】
工程S3の焼成後により得られる第1粒子は、被覆層を有すること等から、工程S1にて用いられる活物質よりも大きくなり易い。一方で、上述したように、本開示の方法においては、第2前駆体や第2粒子の存在によって、第1前駆体や第1粒子の造粒が抑制され易いことから、第1粒子の粒子径が過度に大きくなり難い。例えば、工程S3にて得られる第1粒子及び第2粒子の混合物の粒子径(D90)は、工程S1にて用いられる活物質の粒子径(D90)の1.10倍以上であってもよく、1.50倍以下、1.40倍以下又は1.30倍以下であってもよい。
【0064】
1.3.3 第2粒子
第2前駆体を焼成することで第2粒子が得られる。第2粒子は、第1粒子とは異なり、活物質を含まない。また、第2粒子は、第1粒子の被覆層に含まれる成分と同じ成分を含む。言い換えれば、第2粒子は、コート液に由来する成分を含む。本開示の方法においては、第2前駆体や第2粒子の存在によって、第1前駆体や第1粒子の造粒が抑えられ、最終的に被覆活物質として細かな第1粒子が得られ易い。第1前駆体に対する第2前駆体の量が多いほど、また、第1粒子に対する第2粒子の量が多いほど、第1前駆体や第1粒子の造粒が抑制されるものと考えられる。第1前駆体に対する第2前駆体の量や第1粒子に対する第2粒子の量は、上述したように、工程S2における加熱気体の温度(給気温度)や噴霧速度(送液速度)等を変化させることによって調整することができる。すなわち、加熱気体の温度が高いほど、また、噴霧速度が高速であるほど、第2前駆体や第2粒子が多量に生じ易い。第1粒子と第2粒子との比率は特に限定されるものではない。例えば、第1粒子と第2粒子との合計を基準(100体積%)として、第2粒子が0.1体積%以上又は1体積%以上を占めていても良く、10体積%以下又は5体積%以下を占めていてもよい。尚、第1粒子と第2粒子との比率は、第1粒子と第2粒子とを含む電極合剤についてのSEM像等から計算することができる。
【0065】
第2粒子は、活物質を含まないことから、第1粒子よりも自ずと小さくなり易い。第2粒子の粒子径(D90)は、特に限定されず、例えば1nm以上、10nm以上、100nm以上、又は300nm以上であってもよく、また10μm以下、8μm以下、5μm以下、又は3μm以下であってもよい。
【0066】
第2粒子は、例えば、活物質等の固形分を実質的に含まないスラリー液滴から溶媒が揮発して凝縮して得られた第2前駆体を、さらに焼成して得られたものといえる。すなわち、スラリー液滴の段階で、液滴として安定な形状である球形が維持され、当該球形の液滴がそのまま凝縮する形で第2前駆体及び第2粒子となり得る。この点、第2前駆体や第2粒子の形状は、球状であってもよい。具体的には、例えば、第2粒子の断面の真円度(円形度)が、0.30以上又は0.35以上であってもよく、1.00以下又は0.85以下であってもよい。第2粒子の断面の真円度(円形度)の計算式については後述する。
【0067】
1.4 工程S1~S3の具体例
正極活物質の表面にニオブ酸リチウムを含む被覆層を有する被覆活物質を製造する場合について例示する。例えば、正極活物質としてリチウム含有酸化物の粒子を用い、コート液としてリチウムイオン及びニオブのペルオキソ錯体を含む溶液(例えば水溶液)を用いて、上述の工程S1及びS2を行って第1前駆体及び第2前駆体を得る。第1前駆体においては正極活物質の表面にコート液由来のリチウムやニオブが付着している。また、第2前駆体はコート液由来のリチウムやニオブを含む。第1前駆体及び第2前駆体を焼成することによって、第1粒子としての被覆活物質と第2粒子とが得られる。具体的には、正極活物質としてのリチウム含有酸化物の表面にニオブ酸リチウムを含む被覆層が形成された第1粒子(被覆活物質)とともに、ニオブ酸リチウムを含む第2粒子が得られる。
【0068】
1.5 その他の工程
上記の工程S1~S3を経ることで、少なくとも第1粒子と第2粒子とを含む電極合剤が得られる。電極合剤は、その用途に応じて、第1粒子及び第2粒子に加えて、その他の成分を含むものであってもよい。例えば、固体電池(固体電解質を用いた電池)用の電極合剤を得る場合、本開示の方法は、少なくとも前記第1粒子と前記第2粒子と固体電解質とを混合することを含んでいてもよく、少なくとも前記第1粒子と前記第2粒子と固体電解質と導電助剤とバインダーとを混合することを含んでいてもよい。電極合剤における第1粒子の含有量は、特に限定されず、例えば40質量%以上99質量%以下であってよい。また、電極合剤における第2粒子の含有量も、特に限定されず、例えば1.0質量%以下、0.5質量%以下又は0.1質量%以下であってもよい。第1粒子及び第2粒子とその他の成分とは、乾式で混合されてもよいし、有機溶媒(好ましくは無極性溶媒)を用いて湿式で混合されてもよい。
【0069】
1.5.1 固体電解質
固体電解質は公知のものを用いればよい。例えば、ペロブスカイト型、ナシコン型又はガーネット型のLi含有酸化物である酸化物固体電解質や、構成元素としてLi及びSを含む硫化物固体電解質を用いることができる。特に硫化物固体電解質を用いる場合に、本開示の技術による一層高い効果が期待できる。硫化物固体電解質の具体例としては、LiI-LiBr-Li3PS4、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2O-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、Li2S-P2S5、Li3PS4、Li2S-P2S5-GeS2等が挙げられるが、これらに限定されない。固体電解質は、非晶質であってもよく、結晶であってもよい。固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。
【0070】
1.5.2 導電助剤
導電助剤の具体例としては、気相法炭素繊維(VGCF)、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料、又は電池の使用時の環境に耐えることが可能な金属材料等が挙げられるが、これらに限定されない。導電助剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。
【0071】
1.5.3 バインダー
バインダーの具体例としては、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)系バインダー、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー、ポリイミド(PI)系バインダー等が挙げられるが、これらに限定されない。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が混合されて用いられてもよい。
【0072】
2.電極の製造方法
本開示の方法によって製造された電極合剤は、例えば、各種電池の電極を構成する材料として用いることができる。この点、本開示の技術は、電極の製造方法としての側面も有する。例えば、本開示の電極の製造方法は、
本開示の方法によって電極合剤を得ること、及び
前記電極合剤を成形して、電極合剤からなる層を備える電極を得ること(成形工程)
を含んでいてもよい。
【0073】
成形工程において、電極合剤は乾式にて成形されてもよいし、湿式にて成形されてもよい。また、電極合剤はそれ単独で成形されてもよいし、集電体等とともに成形されてもよい。さらには、電解質層の表面において電極合剤を一体成形してもよい。成形工程の一例としては、電極合剤を含むスラリーを集電体の表面に塗工し、その後、乾燥して任意にプレスする過程を経て、電極を作製する形態や、或いは、粉体状の電極合剤を金型等に投入して、乾式にてプレス成形することで、電極を作製する形態等が挙げられる。電極の構成の一例については後述する。
【0074】
3.リチウムイオン電池の製造方法
本開示の技術はリチウムイオン電池の製造方法としての側面も有する。すなわち、本開示のリチウムイオン電池の製造方法は、
上記本開示の電極の製造方法により電極を得ること、及び
前記電極と電解質層とを含む積層体を得ること、
を含んでいてもよい。
【0075】
リチウムイオン電池として固体電池を製造する場合、電解質層は、例えば、固体電解質とバインダーとを含む層であってよい。固体電解質やバインダーの種類については上述した通りである。或いは、リチウムイオン電池として電解液電池を製造する場合、電解質層は、例えば、セパレータと電解液とを備える層であってよい。セパレータや電解液については公知のものを採用すればよい。電極と電解質層との積層、電極への端子の接続、電池ケースへの収容、電池の拘束等の自明な工程を経て、リチウムイオン電池を製造することができる。リチウムイオン電池の構成の一例については後述する。
【0076】
4.電極合剤
本開示の技術は電極合剤そのものとしての側面も有する。すなわち、本開示の電極合剤は、少なくとも第1粒子と第2粒子とを含み、前記第1粒子が、活物質と前記活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層とを有し、前記第2粒子が、前記活物質を含まず、前記被覆層を構成する成分と同じ成分を含む。電極合剤に含まれる第1粒子、第2粒子及びその他の成分については上述した通りである。例えば、本開示の電極合剤においては、前記第2粒子の断面の真円度が、0.30以上又は0.35以上であってもよく、1.00以下又は0.85以下であってもよい。また、上述したように、本開示の電極合剤においては、前記被覆層が、構成元素として少なくともリチウムとニオブとを含んでいてもよい。さらに、上述したように、本開示の電極合剤は、少なくとも前記第1粒子と前記第2粒子と固体電解質とを含んでいてもよい。
【0077】
5.電極
本開示の技術は電極そのものとしての側面も有する。すなわち、本開示の電極は、上記の電極合剤からなる層(電極合剤層)を備える。
図6に示されるように、一実施形態に係る電極50は、電極合剤層51に加えて、電極合剤層51と接触する集電体52を備えていてもよい。電極は、正極として用いられるものであっても、負極として用いられるものであってもよいが、特に正極(中でも、リチウムイオン電池用正極)として用いられるものである場合に、本開示の技術による一層高い効果が期待できる。
【0078】
5.1 電極合剤層
上述の通り、電極合剤を成形することで、電極合剤層が得られる。電極合剤層の形状は特に限定されるものではなく、電極の形状等に合わせて適宜決定されればよい。例えば、電極合剤層は略平坦なシート状であってもよく、その厚みは、例えば、1μm以上、10μm以上又は30μm以上であってもよく、1mm以下、500μm以下又は100μm以下であってもよい。
【0079】
本開示の電極においては、電極合剤層の断面を観察した場合において、当該電極合剤層に占める前記第2粒子の割合が0.02面積%以上又は0.03面積%以上であってもよい。これにより、第1粒子同士の造粒や凝集が一層抑制され易く、電極の性能が一層向上する可能性がある。電極合剤層に占める第2粒子の割合の上限は特に限定されるものではなく、例えば、3.00面積%以下、2.00面積%以下又は1.00面積%以下であってもよい。
【0080】
尚、電極合剤層に含まれる第2粒子の形状やサイズについては、電極断面のSEM像(例えば、全ピクセル数=1024×700)を取得したのち、画像解析を行うことで定量化が可能である。具体的には、電極断面のSEM像とEDXマッピング像とを照らし合わせて、当該断面に含まれる第2粒子を抽出する。EDXマッピングの対象とする元素は、活物質に含まれる元素や被覆層に含まれる元素に応じて適宜選択されればよい。なお、微細なノイズを除去するため、所定ピクセル以下(例えば、50ピクセル以下)のものは抽出対象から除外してもよい。抽出された第2粒子の粒子数、平均粒子径、第2粒子が占める面積、真円度(円形度)を求める。平均粒子径は各粒子について円形近似を行い、その円の直径(面積円相当直径)を粒子径として平均値を求める。電極合剤層において第2粒子が占める面積は各粒子のピクセル数を求め、以下の式(I)で求める。また、第2粒子の真円度(円形度)は、各粒子について楕円近似を行い、以下の式(II)で求める。
【0081】
(第2粒子が占める面積)=(SEM像中の電極合剤層に含まれる各粒子のピクセル数)/(SEM像中の電極合剤層の全ピクセル数)…(I)
【0082】
(真円度)=[4×(粒子面積)]/[π×(主軸長)2]…(II)
【0083】
5.2 集電体
集電体は、電池の集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。集電体は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。集電体は、金属箔又は金属メッシュであってもよく、或いは、カーボンシートであってもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。集電体は、複数枚の箔やシートからなっていてもよい。集電体を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。集電体は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、集電体は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、集電体が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔の間に何らかの層を有していてもよい。集電体の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0084】
6.リチウムイオン電池
本開示の技術はリチウムイオン電池そのものとしての側面も有する。具体的には、本開示のリチウムイオン電池は、上記の電極を備える。リチウムイオン電池は、上記の電極とともに電池として自明の構成を備え得る。例えば、
図7に示されるように、リチウムイオン電池100は、正極50aと負極50bと上記の電解質層60とを備えるものであってもよい。本開示のリチウムイオン電池においては、正極50a及び負極50bのうち、少なくとも一方が、本開示の電極50であればよい。特に、リチウムイオン電池において、本開示の電極50が正極50aとして備えられる場合に、本開示の技術による一層高い効果が期待できる。電解質層については上述した通りである。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
1.実施例1~8
1.1 Nb含有コート液の調製
濃度30質量%の過酸化水素水870.4gを入れた容器へ、イオン交換水987.4g及びニオブ酸(Nb2O5・3H2O(Nb2O5含水率72%))44.2gを添加した。次に、上記容器へ、濃度28質量%のアンモニア水87.9gを添加した。そして、アンモニア水を添加した後に容器内の内容物を十分に攪拌することにより、透明溶液を得た。さらに、得られた透明溶液に、水酸化リチウム・1水和物(LiOH・H2O)10.1gを加えることにより、コート液として、ニオブのペルオキソ錯体及びリチウムイオンを含有する錯体溶液を得た。
【0087】
1.2 活物質及びコート液を含むスラリーの調製
活物質としてのLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(日亜化学工業株式会社製)20gをミキサー容器に入れ、上記の通り調整したコート液中に所定の固形分濃度となるように加え、マグネティックスターラーで攪拌した。下記表1に、各実施例の活物質のコート液中における固形分濃度を示す。
【0088】
1.3 前駆体の作製
送液ポンプを用いて、上記で調製した各実施例のスラリーを所定の送液速度でスプレードライヤー(ビュッヒ社製、ミニスプレードライヤー B-290)へ供給して、スラリーの液滴化(工程S1)と、スラリー液滴の気流乾燥(工程S2)とを行い、第1前駆体と第2前駆体とを得た。スプレードライヤーの給気温度、給気風量及び送液速度については、表1に記載された通りである。
【0089】
各実施例において、スプレードライヤーにおいてスラリーをノズルまで送液し、液滴化させるのに要した時間(工程S1の液滴化処理時間)及び気流乾燥させた時間(工程S2の気流乾燥処理時間)は、いずれも、1分未満の短時間であった。尚、気流乾燥処理時間とは、スプレーノズルへのスラリーの供給終了後、気流乾燥を終えるまでの時間を意味する。
【0090】
1.4 前駆体の焼成
マッフル炉を用いて第1前駆体及び第2前駆体を200℃で5時間焼成し、第1前駆体においてニオブ酸リチウムを活物質表面で合成することにより、被覆活物質である第1粒子を得た。また、これと同時に、第2前駆体を焼成することで、ニオブ酸リチウムを含む第2粒子を得た。
【0091】
2.実施例9
上記のNb含有コート液に替えて、P含有コート液を用いたこと以外は、実施例8と同様にしてスラリーの調整、前駆体の作製及び前駆体の焼成を行った。
【0092】
P含有コート液は以下のようにして調整した。すなわち、濃度85質量%のリン酸59.8gを入れた容器へ、イオン交換水866.6gを添加し、十分に撹拌することで透明溶液を得た。得られた透明溶液に、水酸化リチウム・1水和物(LiOH・H2O)70.2gを加えることにより、コート液として、リン酸イオン及びリチウムイオンを含有する水溶液を得た。
【0093】
3.比較例1、2
転動流動造粒コーティング装置を利用して、以下に示される条件にて、被覆活物質を得た。
【0094】
3.1 比較例1
図8に示されるように、上記で調製したNb含有コート液2000gを、転動流動造粒コーティング装置「MP-01」(パウレック社製)を用いて、活物質としてのLiNi
1/3Mn
1/3Co
1/3O
2(日亜化学工業株式会社製)1kgに対して噴霧し、乾燥することで、被覆活物質の前駆体を得た(S11)。得られた前駆体に対して、上述した実施例と同じ条件で焼成を行い(S12)、比較例1に係る被覆活物質を得た。
【0095】
なお、転動流動造粒コーティング装置の運転条件は、以下のとおりである。
雰囲気ガス:露点-65℃以下のドライエアー
給気温度:200℃
給気風量:0.45m3/分
ロータ回転数:400rpm
噴霧速度:4.4g/分
【0096】
3.2 比較例2
Nb含有コート液に替えて、P含有コート液を用いたこと以外は、比較例1と同様にして被覆活物質を得た。
【0097】
4.評価条件
4.1 粒子径及び粒度分布測定
各実施例及び比較例において、被覆前の正極活物質に対して、レーザー回折・散乱測定装置(マイクロトラック・ベル社製エアロトラックII)を用い、体積基準の粒度分布における積算値10%、50%、90%及び99%での粒子径(D10、D50、D90及びD99)を測定した。また、各実施例及び比較例において、焼成後に得られる粒子(第1粒子及び第2粒子)に対して、同様に粒子径(D10、D50、D90及びD99)を測定した。粒子径D10、D50、D90及びD99の各々について、被覆前の正極活物質の粒子径に対する焼成後の第1粒子及び第2粒子の粒子径の比(焼成後粒子径/被覆前粒子径)を計算した結果を下記表1に示す。
【0098】
4.2 電極及び電池の評価
4.2.1 正極の作製
各実施例及び比較例の焼成後の粒子と、硫化物固体電解質(10LiI-15LiBr-37.5Li3PS4)とを、6:4の体積比となるように秤量し、これらを、3質量%の導電助剤としての気相法炭素繊維(VGCF)(昭和電工社製)と、0.7質量%のバインダーとしてのブタジエンラバー(JSR社製)と共にヘプタン中に投入した。次いで、これらを混合することにより正極合剤を作製した。作製した正極合剤を超音波ホモジナイザーで十分に分散させた後、アルミニウム箔上に塗工し、100℃にて30分乾燥させた。その後、1cm2の大きさに打ち抜くことによって各実施例及び比較例に係る正極を得た。
【0099】
得られた正極の断面を観察して、正極合剤層に占める第2粒子の面積率を測定した。第2粒子の面積率の測定は、上述したSEM像及びEDXマッピング像を用いた画像解析により行った。結果を下記表1に示す。
【0100】
4.2.2 負極の作製
負極活物質(層状炭素)と、硫化物固体電解質(10LiI-15LiBr-37.5Li3PS4)とを、6:4の体積比となるように用意し、これらを、1.2質量%のバインダーとしてのブタジエンラバー(JSR社製)と共にヘプタン中に投入した。次いで、これらを混合することにより負極合剤を作製した。作製した負極合剤を超音波ホモジナイザーで十分に分散させた後、銅箔上に塗工し、100℃にて30分乾燥させた。その後、1cm2の大きさに打ち抜くことによって負極を得た。
【0101】
4.2.3 固体電解質層の作製
内径断面積1cm2の筒状セラミックスに硫化物固体電解質(10LiI-15LiBr-37.5Li3PS4)64.8mgを入れ、平滑にした後、1tonでプレスし、固体電解質層を形成した。
【0102】
4.2.4 電池の作製
固体電解質層の片方の面に上記作製した正極を、もう片方の面に上記作製した負極を重ね合わせ、4.3tonで1分間プレスした。次いで、両極にステンレス棒を入れ、1tonで拘束して、各実施例及び比較例に係るリチウムイオン電池を得た。
【0103】
4.2.5 抵抗測定
上記の通り得られたリチウムイオン電池についてSOC40%における5s抵抗を測定した。尚、実施例1~8に係る電池の抵抗については、比較例1に係る電池の抵抗を基準(100)として相対化して評価し、また、実施例9に係る電池の抵抗については、比較例2に係る電池の抵抗を基準(100)として相対化して評価した。
【0104】
4.2.6 出力測定
各実施例及び比較例のリチウムイオン電池について、開回路電圧(OCV)を3.66Vに調整した後、定電力放電を実施し、5秒間で放電可能な最大の電力値を電池出力として測定した。なお、カットオフ電圧は2.5Vとした。実施例1~8に係る電池の出力については、比較例1に係る電池の出力を基準(100)として相対化して評価した。また、実施例9に係る電池の出力については、比較例2に係る電池の出力を基準(100)として相対化して評価した。
【0105】
5.評価結果
評価結果を下記表1に示す。尚、表1において、「総処理時間」とは、実施例では、「スラリーの液滴化の処理時間(噴霧時間)」と「気流乾燥の処理時間」との和であり、比較例では、コート液を活物質に対して噴霧しながら乾燥する処理の総時間である。「総処理速度」とは、用いた活物質の量を総処理時間で割ることによって得た値である。
【0106】
【0107】
転動流動コーティングにおいては、コート液の噴霧速度が速いと、液架橋によって造粒体が生じる。また、転動流動コーティングにおいては、乾燥時に粒子を解す作用が弱く、一度造粒体が生じると、これを解砕することは難しい。そのため、転動流動コーティングにおいては、粒子の造粒を避けるため、噴霧速度を遅くせざるを得ない。従来においては、例えば比較例のように、2000gのコート液を4.4g/分で送液しており、送液時間は444分にも達する。これに対し、実施例によれば、比較例に比べて短時間で被覆活物質を製造することができることが分かる。実施例においては、第1前駆体や第1粒子とともに第2前駆体や第2粒子が存在することで、第1前駆体同士や第1粒子同士の凝集及び造粒が抑制され、また、仮に第1前駆体同士の造粒体が生じた場合でも、気流乾燥によって造粒体を解砕することができる。そのため、固形分濃度の低いスラリーを用いることもでき、処理速度を増加させ易い。すなわち、表1に示された条件よりも高速で処理することも可能である。
【0108】
また、実施例で製造された第1粒子及び第2粒子を用いたリチウムイオン電池の抵抗や出力は、比較例で製造された被覆活物質を用いたリチウムイオン電池の抵抗や出力と同程度か、それよりも優位であることも分かる。特に、給気温度(加熱気体の温度)が250℃以上と高温である場合(実施例6~8)、中でも、給気温度が250℃以上と高温で、且つ、送液速度が1.0g/sec以上と高速である場合(実施例7、8)に、第2粒子が多量に生じて第1粒子同士の造粒が抑制され、その結果、リチウムイオン電池の抵抗が顕著に低下するとともに、出力が顕著に向上することが分かる。第1粒子同士の造粒が抑制されることで、活物質によって電池反応をより効率的に生じさせることができ、これにより電極や電池の抵抗が低下したものと考えられる。
【0109】
また、実施例1~9及び比較例1、2の結果から、本開示の技術によれば、コート液の種類によらず所望の効果が発揮されることが分かる。ただし、本発明者が見出した限りでは、P含有コート液を用いた場合は転動流動コーティングの際に活物質同士が過度に造粒し、上述のように噴霧速度を低速としたとしても、活物質の表面を適切にコートすることが難しい。また、P含有コート液によって形成される被覆層は、Nb含有コート液によって形成される被覆層と比べて、そもそもの抵抗が高く、結果として電池の出力が小さくなる。すなわち、本実施例にて確認された範囲では、実施例9よりも実施例1~8のほうが、低い抵抗及び高い出力を備えるものであった。
【0110】
尚、実施例1~3の結果から、スラリーの固形分濃度を変化させたとしても、活物質の造粒抑制効果にさほどの差はみられない。また、実施例1及び4の結果から、スプレードライ時の給気風量を変化させたとしても、活物質の造粒抑制効果にさほどの差はみられない。一方で、実施例1~8全体を比較した場合、給気温度(加熱気体の温度)が高温であるほど、中でも、給気温度が高温、且つ、送液速度が高速であるほど、活物質の造粒抑制効果が高まる傾向にある。活物質の表面がコートされるか否かは、コート液の表面エネルギーによって大きく変化するものと考えられるところ、コート液の表面エネルギーは温度に強く影響されることから、給気温度の感度が大きくなったものと考えられる。
【0111】
また、表1において、粒子径D10についての粒子径比が1.00を下回った(コート前よりも焼成後のほうが小さい)のは、転動流動やスプレードライによって、コート前の活物質同士の凝集が解消されたためと考えられる。すなわち、コート前の活物質同士の凝集は、コート液を介して造粒した場合等よりも、活物質同士の結合力が弱く、容易に解砕できるものと考えられる。尚、実施例における第2粒子の存在はごくわずかであり、粒子径D10に与える影響はほとんどないものと考えられる。一方、粒子径D50~D99については、コート前よりも焼成後の方が大きくなる。これは、コート液による被覆によって活物質粒子が大きくなった影響や、コート液を介して活物質が造粒した影響と考えられる。表1に示されるように、実施例に係る方法によれば、比較例に係る方法よりも製造工程を高速化しつつも、比較例に係る方法と同程度に造粒が抑制できることが分かる。
【符号の説明】
【0112】
10 スラリー液滴
10a 活物質
10b コート液
10c コート液に由来する成分
10d 被覆層
21 第1前駆体
22 第2前駆体
31 第1粒子(被覆活物質)
32 第2粒子
50 電極
50a 正極
50b 負極
51 電極合剤層
52 集電体
60 電解質層
100 リチウムイオン電池