(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-29
(45)【発行日】2024-08-06
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/214 20110101AFI20240730BHJP
【FI】
B60R21/214
(21)【出願番号】P 2021159077
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】北村 将央
(72)【発明者】
【氏名】飯田 崇
【審査官】松永 謙一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-105285(JP,A)
【文献】特開2017-128235(JP,A)
【文献】特開2013-071704(JP,A)
【文献】特開2020-147113(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0381968(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートに着座した乗員の頭部を含めた上半身を保護可能に膨張するエアバッグを備えて構成される乗員保護装置であって、
前記エアバッグが、
着座した乗員の頭部の上方付近に配設された収納部位から下方側へ突出する構成として、膨張完了形状を、
乗員の頭部から胸部の前方側を覆って、前方移動する乗員を受止可能な拘束面を、後面に設けた前側膨張部と、
該前側膨張部の左右両側から後上方に延び、前記収納部位に連結されて支持される側面膨張部と、
を備える形状とするとともに、
左右の前記側面膨張部が、
前記シートの背もたれ部における乗員の左右の肩部後方の上面側に当接する支持面
と、
前記支持面の前部から下方に延び、乗員の肩部を受止可能な肩拘束部と、
を配設させて構成されていることを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
前記エアバッグの左右の前記側面膨張部が、相互の対向面に、左右方向へ移動する乗員の頭部を受止可能な頭拘束面を配設させて構成されていることを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記エアバッグの前記収納部位が、前記シートの背もたれ部の上端近傍の後上方に、配設されていることを特徴する請求項1若しくは請求項2に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記エアバッグが、膨張完了時の前記前側膨張部の上縁側を、着座状態の乗員の頭部の上下方向の中央付近の前方側に、配置させるように、配設されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに着座した乗員の頭部を含めた上半身を保護可能に膨張するエアバッグを備えて構成される乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗員保護装置としては、着座した乗員の前上方に、折り畳まれたエアバッグが収納され、作動時、膨張するエアバッグが、収納部位から下方に突出して、乗員の前方側に配置され、前方移動する乗員を受け止めるように構成されていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の乗員保護装置では、作動時、乗員の頭部を含めた上半身の前方側に、膨張するエアバッグが配置されて、前方移動する乗員の上半身をエアバッグが受け止めて保護できるものの、膨張完了時のエアバッグは、その前面側を乗員の前方のインストルメントパネルの後面に支持させる構成であることから、インストルメントパネルとの干渉を回避できるように、前後方向の厚さ寸法が必要となって、エアバッグの容積が大きくなり、エアバッグをコンパクトに構成できなかった。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、膨張完了時のエアバッグが、前方移動する乗員を好適に受け止めて保護できるとともに、エアバッグをコンパクトに構成できる乗員保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る乗員保護装置は、シートに着座した乗員の頭部を含めた上半身を保護可能に膨張するエアバッグを備えて構成される乗員保護装置であって、
前記エアバッグが、
着座した乗員の頭部の上方付近に配設された収納部位から下方側へ突出する構成として、膨張完了形状を、
乗員の頭部から胸部の前方側を覆って、前方移動する乗員を受止可能な拘束面を、後面に設けた前側膨張部と、
該前側膨張部の左右両側から後上方に延び、前記収納部位に連結されて支持される側面膨張部と、
を備える形状とするとともに、
左右の前記側面膨張部が、下面に、前記シートの背もたれ部における乗員の左右の肩部後方の上面側に当接する支持面、を配設させて構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る乗員保護装置では、作動時、エアバッグが膨張を完了させれば、前側膨張部が、着座している乗員の頭部から胸部の前方側に配置されることから、前方移動する乗員は、前傾しつつ前側膨張部の後面側の拘束面に受止められる。その際、前側膨張部を保持する左右の側面膨張部は、上方側を収納部位側に連結支持された状態として、下面側の支持面を、シートの背もたれ部の上面に当接させて、支持されることから、安定して前側膨張部を保持できる。そのため、左右の側面膨張部に保持された前側膨張部は、前下方向に移動せず、安定して、前傾しつつ前方移動する乗員の上半身を受け止めて保護できる。そして、膨張を完了させたエアバッグは、上方から見て、前方側の前側膨張部の左右両側から側面膨張部を後方へ延ばした略U字状として、中央に空間部位を設けた構成であり、容量を少なくできて、コンパクトに構成することができる。
【0008】
したがって、本発明に係る乗員保護装置では、膨張完了時のエアバッグが、前方移動する乗員を好適に受け止めて保護できるとともに、エアバッグをコンパクトに構成することができる。
【0009】
そして、本発明に係る乗員保護装置では、前記エアバッグの左右の前記側面膨張部が、相互の対向面に、左右方向へ移動する乗員の頭部を受止可能な頭拘束面を配設させて構成されていることが望ましい。
【0010】
このような構成では、乗員が左右に移動しても、膨張完了時のエアバッグの左右の側面膨張部が、頭拘束面により、クッション性良く、頭部を受け止めて保護することができる。
【0011】
また、本発明に係る乗員保護装置では、前記エアバッグの前記収納部位が、前記シートの背もたれ部の上端近傍の後上方に、配設されていることが望ましい。
【0012】
このような構成では、エアバッグの収納部位を、シートに着座した乗員の頭部の後方で、接近した位置に、配置させることができることから、膨張完了時のエアバッグにおける左右の側面膨張部が、その前後方向の長さ寸法を短くできて、前方側への伸びも少なくできる。そのため、車両衝突時に前方側や斜め前方側に移動する乗員を受け止める際の前側膨張部は、その移動量を少なくして、的確に、乗員を受け止めて保護できる。
【0013】
さらに、本発明に係る乗員保護装置では、前記エアバッグが、膨張完了時の前記前側膨張部の上縁側を、着座状態の乗員の頭部の上下方向の中央付近の前方側に、配置させるように、配設されていることが望ましい。
【0014】
このような構成では、乗員の頭部の上端を越えるように、前側膨張部を構成せずに済み、前側膨張部の上下方向の幅寸法を抑制できて、一層、エアバッグをコンパクトかつ軽量に構成できる。なお、前側膨張部は、上下方向の幅寸法が短くとも、乗員が前方移動する際には、頭部が前傾する状態となることから、前側膨張部の後面側で、頭部の前面側の略全域を受け止めて保護することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態の乗員保護装置における車両搭載状態を示す側面図である。
【
図2】実施形態の乗員保護装置における車両搭載状態の正面図である。
【
図3】実施形態の乗員保護装置におけるエアバッグの膨張状態を示す概略斜視図である。
【
図4】実施形態の乗員保護装置におけるエアバッグの膨張状態を示す概略平面図である。
【
図5】実施形態の乗員保護装置におけるエアバッグの膨張状態を示す概略側面図である。
【
図6】実施形態の乗員保護装置に使用するエアバッグの構成材料を示す平面図である。
【
図7】実施形態の乗員保護装置の車両搭載状態での作動時を示す概略側面図である。
【
図8】実施形態の乗員保護装置の車両搭載状態での作動時を示す概略正面図である。
【
図9】実施形態の乗員保護装置の作動時におけるエアバッグの挙動を説明する図である。
【
図10】実施形態の乗員保護装置の車両搭載状態での作動時を示す概略横断面図であり、
図8のX-X部位に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明すると、実施形態の乗員保護装置20は、
図1,2に示すように、シート1に着座する乗員(図例の場合は運転者)MPの頭部MHの後上方に配設されている。詳しくは、実施形態の乗員保護装置20は、シート1における背もたれ部2の上端2aの後上方として、上端2aの近傍における車両Vの天井Rの室内側に、搭載されている。
【0017】
なお、シート1は、背もたれ部2と座部7とを備えて構成され、背もたれ部2は、本体3と、本体3の上端4から上方に延びるヘッドレスト5と、を備えて構成されている。乗員保護装置20は、実施形態の場合、ヘッドレスト5の後上方に配設されている。
【0018】
また、シート1付近には、乗員MPの装着するシートベルト11が配設されている。このシートベルト11は、三点式として、乗員MPへの装着時、シートベルト11に組み付けられたタング14をバックル15に締結させることにより、タング14から上方に延びるショルダーベルト部12が、乗員MPの胸部MBを拘束可能とし、タング14からシートベルト11の固定端11b側に延びるラップベルト部13が、乗員MPの腰部MWを拘束可能とするように、使用される。さらに、シートベルト11のショルダーベルト部12から上方側に延びる部位は、ガイド17を経て下方側に反転し、その先端を、繰出後のシートベルト11を巻き取り可能なリトラクタ16に接続されている。リトラクタ16は、急激なシートベルト11の繰出を停止可能とし、さらに、実施形態の場合には、車両Vの衝突時、シートベルト11を所定の引張力で巻き取って、乗員MPの衝突時の移動を抑制するプリテンショナー18を配設させて構成されている。なお、このプリテンショナー18は、車両Vの制御装置ECUに作動を制御される。さらに付言すると、この車両Vの制御装置ECUは、乗員保護装置20の後述するインフレーター24(L,R)の作動も制御し、そして、車両Vの衝突時、インフレーター24(L,R)を作動させた後に、例えば、5ms後に、プリテンショナー18を作動させるように、設定されている。
【0019】
乗員保護装置20は、エアバッグ30と、エアバッグ30に膨張用ガスGを供給するインフレーター24(L,R)と、を備えて構成されている。乗員保護装置20は、折り畳んだエアバッグ30とインフレーター24(L,R)との収納部位22を、シート1の上端2a近傍の後上方における車両Vの天井Rの室内側として、天井材RLに覆われて、配設されている。収納部位22は、シート1の左右方向の幅寸法と略同等の略直方体のスペースとしており、二つのインフレーター24L,24Rを左右両側に配設させている。各インフレーター24(L,R)は、収納部位22に配置された天井Rの図示しないフレーム材に取付固定され、また、折り畳まれたエアバッグ30は、インフレーター24(L,R)の前方側で、インフレーター24(L,R)に接続された状態で、収納部位22内に収納されている。なお、エアバッグ30の膨張時には、収納部位22の下方の天井材RLの部位に配設されているエアバッグカバー23を押し開いて、収納部位22から前下方向に向かって、膨張しつつ突出することとなる。
【0020】
エアバッグ30は、
図3~5,7,8に示すように、膨張完了形状として、前端側に配置されて左右方向に板状に延びる前側膨張部32と、前側膨張部32の左右両端32e,32fから後方に延びて、収納部位22内の各インフレーター24(L,R)に接続される板状の側面膨張部40(L,R)と、を備えた形状としている。すなわち、エアバッグ30の膨張完了形状は、上方から見て、左右方向に延びた横棒部30a(前側膨張部32の部位)と横棒部30aの左右両端32e,32fから後方に延びた2本の縦棒部30b,30b(左右の側面膨張部40(L,R)の部位)とを有した略U字状としている。
【0021】
そして、膨張完了時の前側膨張部32は、乗員MPの頭部MHの少なくとも下部から胸部MBの前方側を覆って、前方移動する乗員MPの左右の肩部MS(L,R)を受け止め可能な肩拘束面34(L,R)を、後面32bの左右両側に配設させている。さらに、実施形態では、エアバッグ30の膨張完了時、前側膨張部32は、前面32a側を、ハンドルWから後方に離れた位置に配置させるとともに、後面32b側を、乗員MPの頭部MHの前方側に離れた位置とし、かつ、上縁32c側を、乗員MPの頭部MHの上下方向の中央付近に配置される鼻MNの前方付近に配置させるように、構成されている。なお、後面32bの左右方向の中央付近は、前方移動する乗員MPの左右の肩部MS(L,R)が肩拘束面34(L,R)により受止められて、運動エネルギーを低下された後の乗員MPの前方移動する頭部MHや胸部MBの上部側を受け止める中央拘束面(頭胸部拘束面)33としている。
【0022】
また、側面膨張部40(L,R)は、前側膨張部32の左右両端32e,32fから後上方に延び、乗員MPの頭部MHの左右を経て、前側膨張部32を保持可能に収納部位22のインフレーター24(L,R)に連結され、かつ、支持される形状としている。左右の側面膨張部40L,40Rは、それぞれ、後部側に、膨張用ガスGを流入させるガス流入部42を配設させるとともに、前部側に、頭部受止部46を配設させて構成されている。膨張完了時のエアバッグ30は、側面膨張部40(L,R)の後部側が収納部位22に取付固定されたインフレーター24(L,R)に連結されることから、後端側をインフレーター24(L,R)、換言すれば、収納部位22側、に連結固定される構造となって、収納部位22側から離れる前方移動が、規制されることとなる。
【0023】
ガス流入部42は、略長方形板状の本体部43と、本体部43の後上端部から後方に略円筒状に延びる接続口部44と、を配設させて構成されている。そして、本体部43の下面43aが、シート1の背もたれ部2における乗員MPの左右の肩部MS(L,R)の後方の上面4a側に当接する支持面(シート支持面)43aとしている。膨張完了時のエアバッグ30は、支持面43aを、シート1の背もたれ部2におけるヘッドレスト5からずれた本体3の上面4aに、当接させれば、背もたれ部2に下方移動を規制されることとなる(
図7参照)。
【0024】
頭部受止部46は、ガス流入部42の前方に配置される上部46aと、前側膨張部32の後方の下部46bと、を備えて構成されている。上部46aは、左右の側面膨張部40(L,R)の相互の対向面を、左右に移動する際の乗員MPの頭部MHを受止可能な頭拘束面47としている。下部46bは、左右の側面膨張部40(L,R)の相互の対向面を、乗員MPの左右の肩部MS(L,R)の側面MSsを受止可能な肩拘束面48としている(
図10参照)。
【0025】
実施形態では、膨張完了時のエアバッグ30が、前側膨張部32の左右両端32e,32fの後面に、前方移動する乗員MPの肩部MS(L,R)の前面MSfを受け止める肩拘束面34(L,R)を備え、左右の側面膨張部40(L,R)の前端側の下部46bの相互の対向面に、乗員MPの肩部MS(L,R)の側面MSsを受け止める肩拘束面48を備えて構成されている(
図3~5,10参照)。そのため、実施形態のエアバッグ30では、膨張完了時の左右の側面膨張部40L,40Rと前側膨張部32との交差部36が、乗員MPの左右の肩部MS(L,R)の前面MSfと側面MSsとに当接可能な肩拘束部38、を構成している。すなわち、肩拘束部38の内周側の後面38aが、前側膨張部32の肩拘束面34(L,R)を構成し、かつ、肩拘束部38の内周側の側面38bが、側面膨張部40(L,R)の肩拘束面48を構成している。そして、実施形態の場合、エアバッグ30の膨張完了時、乗員MPの左右の肩部MSの前面MSfと側面MSsとを挟持するように、肩拘束部38(L,R)が膨張することとなる。
【0026】
エアバッグ30は、
図6に示す二枚のエアバッグ用基布50,50の外周縁51相互を縫合して、形成されている。エアバッグ用基布50,50は、ポリエステル等の糸を織って形成した織布から形成され、相互に同じ形状としている。各エアバッグ用基布50は、中央に、前側膨張部用部位54を配設させ、前側膨張部用部位54の両側に、交差部用部位55を介在させて、側面膨張部用部位56を配設させて構成されている。側面膨張部用部位56は、先端側に、ガス流入部用部位57を配設し、元部側に、頭部受止部用部位58を配設させている。そして、これらのエアバッグ用基布50、50は、相互に重ねて、ガス流入部用部位57の先端を除いて、外周縁51相互を縫合すれば、エアバッグ30を形成できる。但し、エアバッグ30の交差部36付近では、エアバッグ用基布50の外周縁51の上縁51a側に、下縁51b側と相違して、下方に進入するように、基布50,50相互を縫合する閉じ部52を設けて、交差部36の上端側の膨張厚さを抑制するように、構成されている。すなわち、交差部36に配設される肩拘束部38(L,R)が、内周側の膨らみを抑えて、後面38aや側面38bを肩部MSの前面MSfや側面MSsに密着させ易くするためである。
【0027】
エアバッグ30は、前側膨張部32の上下方向の幅寸法を狭めるように折り畳むとともに、左右の側面膨張部40(L,R)の接続口部44側に接近させるように、折り畳んで、折り崩れしないように、図示しない破断可能な折り崩れ防止テープ材で包み、そして、左右の接続口部44を、クランプ26を使用して、インフレーター24(L,R)に接続させ、インフレーター24(L,R)を収納部位22に取付固定しつつ、収納部位22に収納すれば、乗員保護装置20を車両Vに搭載することができる。なお、車両搭載時には、インフレーター24(L,R)に、制御装置ECUから延びる作動用の図示しない信号線を結線させておく。
【0028】
乗員保護装置20の車両Vへの搭載後、車両Vが衝突すれば、制御装置ECUがインフレーター24(L,R)を作動させることから、エアバッグ30が、インフレーター24(L,R)からの膨張用ガスGを、側面膨張部40(L,R)の接続口部44から流入させて、膨張し、エアバッグカバー23を押し開いて、収納部位22から突出して、
図7,8に示すように、膨張を完了させる。なお、エアバッグ30は、収納部位22から突出しつつ膨張し、乗員MPの頭部MHの上方から前側に被せるように前側膨張部32を配置させるとともに、乗員の左右の肩部MSL,MSRの上方から前側に被せるように、側面膨張部40L,40Rを配置させることとなる。
【0029】
そして、実施形態の乗員保護装置20では、エアバッグ30が膨張を完了させれば、前側膨張部32が、着座している乗員MPの頭部MHから胸部MBの前方側に配置されることから、前方移動する乗員MPは、前傾しつつ前側膨張部32の後面32b側の拘束面34,33に受け止められる。その際、前側膨張部32を保持する左右の側面膨張部40(L,R)は、上方側を収納部位22側に連結支持された状態として、下面側の支持面43aを、シート1の背もたれ部2の上面4aに当接させて、支持されることから、安定して前側膨張部32を保持できる。そのため、左右の側面膨張部40(L,R)に保持された前側膨張部32は、前下方向に移動せず、安定して、前傾しつつ前方移動する乗員MPの上半身MUを受け止めて保護できる。そして、膨張を完了させたエアバッグ30は、上方から見て、前方側の前側膨張部32の左右両側から側面膨張部40(L,R)を後方へ延ばした略U字状として、中央に空間部位Hを設けた構成であり、容量を少なくできて、コンパクトに構成することができる。
【0030】
したがって、実施形態の乗員保護装置20では、膨張完了時のエアバッグ30が、前方移動する乗員MPを好適に受け止めて保護できるとともに、エアバッグ30をコンパクトに構成することができる。
【0031】
そして、実施形態の乗員保護装置20では、エアバッグ30の左右の側面膨張部40(L,R)が、相互の対向面に、左右方向へ移動する乗員MPの頭部MHを受止可能な頭拘束面47を配設させて構成されている(
図8参照)。
【0032】
そのため、実施形態では、乗員MPが左右に移動しても、膨張完了時のエアバッグ30の左右の側面膨張部40(L,R)が、頭拘束面47により、クッション性良く、頭部MHを受け止めて保護することができる。
【0033】
また、実施形態の乗員保護装置20では、エアバッグ30の収納部位22が、シート1の背もたれ部2の上端2a近傍の後上方に、配設されている。
【0034】
そのため、実施形態では、エアバッグ30の収納部位22を、シート1に着座した乗員MPの頭部MHの後方で、接近した位置に、配置させることができることから、膨張完了時のエアバッグ30における左右の側面膨張部40(L,R)が、その前後方向の長さ寸法を短くできて、前方側への伸びも少なくできる。そのため、車両衝突時に前方側や斜め前方側に移動する乗員MPを受け止める際の前側膨張部32は、その移動量を少なくして、的確に、乗員MPを受け止めて保護できる。
【0035】
さらに、実施形態の乗員保護装置20では、エアバッグ30が、膨張完了時の前側膨張部32の上縁32c側を、着座状態の乗員MPの頭部MHの上下方向の中央付近である鼻MN付近の前方側に、配置させるように、配設されている。
【0036】
そのため、実施形態では、乗員MPの頭部MHの上端を越えるように、前側膨張部32を構成せずに済み、前側膨張部32の上下方向の幅寸法を抑制できて、一層、エアバッグ30をコンパクトかつ軽量に構成できる。なお、前側膨張部32は、上下方向の幅寸法が短くとも、乗員MPが前方移動する際には、頭部MHが前下方向に前傾する状態となることから、前側膨張部32の後面32b側で、頭部MHの前面側の略全域を受け止めて保護することが可能となる。
【0037】
そしてまた、エアバッグ30の膨張完了時、左右の側面膨張部40(L,R)は、それぞれ、左右方向に延びる前側膨張部32を間にして、それぞれ、後方の収納部位22(詳しくは、収納部位22に取付固定されるインフレーター24(L,R))に連結支持されることから、頭部受止側の側面膨張部40L若しくは側面膨張部40Rが、外方に移動しようとしても、前側膨張部32を間にした逆側の側面膨張部40R若しくは側面膨張部40Lが、その変形を抑制するように抵抗することから、反力を確保して、好適に、左右方向に移動する乗員MPの頭部MH付近を受け止めて保護することができる(
図9参照)。換言すると、膨張を完了させたエアバッグ30は、上方から見て、乗員MPの頭部MHの前方側で、左右方向に延びた横棒部30a(前側膨張部32の部位)と横棒部30aの左右両端から後方に延びた2本の縦棒部30b、30b(左右の側面膨張部40L,40Rの部位)とを有した略U字状としており、前方移動や側方移動する乗員MPの頭部MH等を受け止める部位は、収納部位22から前方側に延びた前端側の前側膨張部32やその近傍の頭部受止部46であって、それらの部位は、後端側を収納部位22側に連結固定され、そしてさらに、側面膨張部40(L,R)の後部側のガス流入部42の下面における支持面43aがシート1の上面4aに支持されて、下方移動を規制される状態としていることから、前方移動や下方移動を規制されている。そのため、前側膨張部32やその近傍の頭部受止部46が、安定して、収納部位22側やシート1側に保持されることとなり、的確に、乗員MPを拘束できる。
【0038】
そしてさらに、実施形態の乗員保護装置20では、膨張完了時のエアバッグ30の左右の側面膨張部40L,40Rと前側膨張部32との交差部36が、乗員MPの左右の肩部MSL,MSRの前面MSfと側面MSsとに当接可能な肩拘束部38L.38R、を構成している。
【0039】
そのため、実施形態では、エアバッグ30が膨張を完了させれば、左右の肩拘束部38L,38Rにより、乗員MPの肩部MSL,MSRの前面MSf側と側面MSs側とが位置規制されて、乗員MPの前方移動と左右方向への移動を、エアバッグ30が迅速に規制できることから(
図10参照)、その後の、乗員MPの頭部MHが、胸部MBを含めて、前方側や左右方向側に移動しようとしても、前側膨張部32や頭部受止部46が、的確に受け止めて保護できる。特に、膨張完了時のエアバッグ30が、側面膨張部40L,40Rの後端側の支持面43aをシート1の背もたれ部2の上面4aに支持させることから、側面膨張部40L,40Rの前端40a側が押し下げられようとしても、支持面43aのシート1からの反力によって、対抗できて、好適に、乗員MPの頭部MHを含めた上半身MUを受け止めて保護できる。
【0040】
また、実施形態の乗員保護装置20では、インフレーター24の作動を制御する制御装置ECUにより、シートベルト11のプリテンショナー18の作動より先に(例えば、5ms程度)、作動される。そのため、乗員MPがシートベルト11を装着してシート1に着座した状態の車両Vが衝突する場合、プリテンショナー18の作動より先に、エアバッグ30が膨張することから、乗員MPは、膨張を完了させたエアバッグ30の前側膨張部32や側面膨張部40L,40Rにより、頭部MHや肩部MSL、MSRの移動を抑制されるように受け止められ、その後、乗員MPは、プリテンショナー18の作動により、シートベルト11に引張力が作用されて、シート1から飛び出すことなく、シート1に拘束される。その結果、車両Vの衝突が激しくとも、乗員MPは、好適に、乗員保護装置20とシートベルト11とにより、保護される。
【0041】
なお、実施形態では、エアバッグ30の後端を取付固定する収納部位22を、シート1に着座した乗員MPの頭部MHの上方付近として、シート1の背もたれ部2の上端2a近傍の後上方に、配設させた場合を示したが、膨張したエアバッグ30は、前後方向に沿った断面からみれば、収納部位22とシート1の上面4aとの2点で保持される状態となることから、前側膨張部32が、前方移動する乗員MPの頭部MHや胸部MBを受止可能であれば、着座した乗員MPの頭部MHの直上に、あるいは、その僅かに前側付近や後側付近に、収納部位22を配設させてもよい。
【符号の説明】
【0042】
1…シート、4a…上面、20…乗員保護装置、22…収納部位、30…エアバッグ、32…前側膨張部、33…中央拘束面,頭胸部拘束面、34(L,R)…肩拘束面、40(L,R)…側面膨張部、43a…(下面)シート支持面、47…頭拘束面、
MP…乗員、MU…上半身、MH…頭部、MB…胸部。